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特許7549130積層体、印刷物、水系分散液及び積層体の製造方法
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  • 特許-積層体、印刷物、水系分散液及び積層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】積層体、印刷物、水系分散液及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/06 20190101AFI20240903BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240903BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B32B7/06
B05D5/00 A
B05D7/24 301E
B05D7/24 302G
B05D7/24 301S
B05D7/24 303E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023510782
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2022010431
(87)【国際公開番号】W WO2022209684
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2021061176
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 凌
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-261746(JP,A)
【文献】特開2003-84670(JP,A)
【文献】特開2018-52609(JP,A)
【文献】特開2003-335058(JP,A)
【文献】特開昭60-156056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/06
B32B 27/32
B05D 5/00
B05D 7/24
C08L 23/26
C08L 101/00
C09D 5/20
C09D 123/26
C09D 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に脱離層を備えた積層体であって、
前記脱離層は、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂と、酸基を有さない熱可塑性樹脂を含む結着部とを含み、
前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径が0.5~20μmであり、前記結着部の厚みが0.25~20μmであり、かつ、前記脱離層の実質酸価数が100KOHmg/m以上である積層体。
【請求項2】
前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価が、400KOHmg/g以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記脱離層中の前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の割合が5~75質量%である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径に対する前記結着部の厚みが0.1倍以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材がポリオレフィン樹脂を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーである、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
フィルム状である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体の脱離層上に印刷層を有する印刷物。
【請求項9】
基材、脱離層及び印刷層を有する印刷物における前記脱離層を形成するための水系分散液であって、
粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂及び酸基を有さない熱可塑性樹脂を含有し、
前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径が0.5~20μmであり、かつ、
形成された脱離層における実質酸価数が100KOHmg/m以上となる水系分散液。
【請求項10】
前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価が、400KOHmg/g以上である、請求項9に記載の水系分散液。
【請求項11】
基材上に脱離層を備えた積層体の製造方法であって、
前記基材上に、請求項9又は10に記載の水系分散液を塗工し、乾燥させることにより前記脱離層を形成する工程を含む積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、印刷物、水系分散液及び積層体の製造方法に関し、更に詳しくは、表面に脱離層を備えた積層体、該積層体の脱離層側表面に印刷層を備えた印刷物、前記脱離層を形成するための水系分散液、及び前記積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、容器、包装袋等と極めて多岐にわたる用途で使用されており、プラスチック製品の多くは、一般消費者に向けた情報伝達や製品の物流管理等のために、その表面に印刷が施される。
【0003】
プラスチックは自然界で分解しにくいこと、省資源、経済性等より一部は分別され回収されており、再生加工されて二次製品として利用されている。しかし、再生に際して印刷等が施されたプラスチック製品が混入すると再生製品全体が着色されたり、あるいは部分的に着色されたりすることから、再生製品の利用が制限され、リサイクル性が低下する。
【0004】
そこで、印刷が施されたプラスチック製品から印刷インクを除去(脱墨)する方法が従来から検討されている。例えば、プラスチックの表面にアルカリ処理により脱離可能な脱離層を設け、その脱離層の表面に印刷層を形成し、製品の再生時にはアルカリ水溶液で処理することにより脱離層ごと印刷層を除去することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、熱可塑性重合体フィルムの少なくとも片面に、アルカリ性温湯中でインキを除去させる中間層がインキ層と基材層との間に存在するラベルが記載されている。
特許文献2には、中和処理によって水膨潤性乃至水溶解性となる材料で形成されている脱離性表面層を有する物品が記載されており、アルカリ性水溶液で処理することが記載されている。
特許文献3には、基材上にアルカリ脱離層が形成され、該アルカリ脱離層の上に印刷層が、もしくはアルミニウム蒸着層を介して印刷層が施されたラベルであって、前記アルカリ脱離層に用いる樹脂組成が、モノマー単位としてアクリル酸等の重合性不飽和基を有するカルボン酸の低級アルキルエステル単位を20~90重量%とアクリル酸等の酸成分単位を0.5~35重量%と被架橋性成分単位を0.5~30重量%含有するランダム、ブロック及び/又はグラフト共重合体と該共重合体100部に対し0.05~15部の架橋剤成分からなるものであるアルカリ脱離性ラベルが記載されている。
そして、特許文献4には、ポリエステル基材、脱離用プライマー層、印刷層の順でなる印刷物の脱離用プライマー層を形成するための水系プライマー組成物であって、(1)カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂(A)を含有し、(2)ポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基の少なくとも一部がアミン化合物(a-1)で中和されており、(3)ポリウレタン樹脂(A)の中和前の酸価が25~45mgKOH/gである水系プライマー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平11-333952号公報
【文献】日本国特開2001-131484号公報
【文献】日本国特開2002-11819号公報
【文献】日本国特開2017-114930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたラベルは、90℃以上の熱アルカリ水溶液で処理してインキ層を除去するものであり、再生時における作業効率が低い。特許文献2に記載された脱離性表面層を有する物品についても処理液を70~80℃に加熱する必要があるため再生時の作業効率は低く、また、脱離層を形成するための塗工液には酢酸エチルを用いており、印刷層の除去後に回収される廃水を廃棄するための処理が必要である。特許文献3に記載のアルカリ脱離性ラベルにおいても、アルカリ脱離層を形成するための塗工液には有機溶剤を用いており、環境問題への対応は考慮されていない。
そして、特許文献4の技術は、脱離層の塗工液として水系の塗工液を用いるものであり、塗工液に含まれるポリウレタン樹脂(A)のカルボキシル基の少なくとも一部を中和することにより水への溶解性を向上させ、水溶液として使用するものであるが、得られた脱離用プライマー層は耐水性が不十分であった。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、水系の塗工液により形成でき、アルカリ処理の際には速やかに基材から脱離し、かつ耐水性に優れる脱離層を備えた積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、脱離層を形成するための水性の塗工液について鋭意検討し、粒状のアルカリ可溶性樹脂を水系媒体に分散させて得られる水系分散液により形成された脱離層が、基材からの脱離性の改善と耐水性の向上を両立できるという知見を得、さらにその最適な形態を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は、下記(1)~(11)に関するものである。
(1)基材上に脱離層を備えた積層体であって、前記脱離層は、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂と、酸基を有さない熱可塑性樹脂を含む結着部とを含み、前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径が0.5~20μmであり、前記結着部の厚みが0.25~20μmであり、かつ、前記脱離層の実質酸価数が100KOHmg/m以上である積層体。
(2)前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価が、400KOHmg/g以上である、前記(1)に記載の積層体。
(3)前記脱離層中の前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の割合が、5~75質量%である、前記(1)又は(2)に記載の積層体。
(4)前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径に対する前記結着部の厚みが、0.1倍以上である、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の積層体。
(5)前記基材がポリオレフィン樹脂を含む、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の積層体。
(6)前記熱可塑性樹脂が水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーである、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の積層体。
(7)フィルム状である、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の積層体。
(8)前記(1)~(7)のいずれか一つに記載の積層体の脱離層上に印刷層を有する印刷物。
(9)基材、脱離層及び印刷層を有する印刷物における前記脱離層を形成するための水系分散液であって、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂及び酸基を有さない熱可塑性樹脂を含有し、前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径が0.5~20μmであり、かつ、形成された脱離層における実質酸価数が100KOHmg/m以上となる水系分散液。
(10)前記無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価が、400KOHmg/g以上である、前記(9)に記載の水系分散液。
(11)基材上に脱離層を備えた積層体の製造方法であって、前記基材上に、前記(9)又は(10)に記載の水系分散液を塗工し、乾燥させることにより前記脱離層を形成する工程を含む積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ処理の際には速やかに基材から脱離し、かつ耐水性に優れる脱離層を備えた積層体を提供できる。また、塗工液が水系分散液であるため、環境保全性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の積層体の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明するが、以下の説明における例示によって本発明は限定されない。
尚、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0014】
図1に示すように、本発明の積層体1は、基材3上に脱離層5を備え、脱離層5は、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂11と、酸基を有さない熱可塑性樹脂を含む結着部12とを含んでいる。本発明において、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂11の平均粒子径Tは0.5~20μmであり、結着部12の厚みTは0.25~20μmであり、かつ、脱離層5の実質酸価数が100KOHmg/m以上である。
【0015】
なお、本発明の積層体の脱離層の構成は、脱離層を含む積層体の断面を走査型電子顕微鏡により観察することにより確認可能である。
【0016】
(基材)
脱離層5が形成される基材3は、物品を構成する部材であり、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂成形物、熱硬化性樹脂成形物、不織布等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂形成物はリサイクルの需要が高いため好適に用いることができる。
【0017】
熱可塑性樹脂形成物を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、脱離層との密着性の観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0018】
基材の形状は特に限定されず、例えば、フィルム状、板状等の平面を主体とする形状や、平面や曲面を組み合わせた立体的な任意の形状が挙げられる。中でも、取り扱い性の観点から、フィルム状の基材を用いるのが好ましい。
なお、フィルム状の基材は、ロール状であっても枚葉状であってもよい。
【0019】
また、基材のサイズも特に限定されない。
例えば、基材がフィルム状である場合、その厚みは、良好なフィルム強度を得る観点から、50μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。また、良好な柔軟性を得る観点から、基材の厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。
【0020】
(脱離層)
脱離層5は、上記したように粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂11と、酸基を有さない熱可塑性樹脂を含む結着部12とを含む。
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂はアルカリに可溶であるため、脱離層に無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が複数含まれることで、積層体が耐水性を備えるとともに積層体をアルカリ処理した際にアルカリ脱離性を発現できる。そして、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が粒子の状態で脱離層に含有されることで、脱離層を形成するための塗工液を水ベースにできる。そして、脱離層に酸基を有さない熱可塑性樹脂を含む結着部を含むことにより、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂を基材上に保持できるとともに、脱離層上に印刷層を設けたときの密着性が向上し、また脱離層表面に印刷性が付与される。
【0021】
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂とは、官能基として酸無水物基を有する化合物である。本発明で用いる無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の無水カルボン酸は、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸の酸無水物からなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物であることが好ましく、特にマレイン酸無水物であることが好ましい。本発明で用いる無水カルボン酸変性オレフィン樹脂は、これらの酸無水物と、エチレン、プロピレン、ブテン及びスチレンからなる群から選ばれる1種または2種以上の混合物との共重合体であることが好ましく、中でもイソブテン(イソブチレン)またはスチレンとの共重合体が特に好ましい。
【0022】
本発明において、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価は、400KOHmg/g以上であることが好ましい。前記酸価が400KOHmg/g以上であると、積層体をアルカリ処理した際に脱離層が速やかに基材から脱離する。
前記酸価は、500KOHmg/g以上であるのがより好ましく、600KOHmg/g以上がさらに好ましく、また、酸価が高くなり過ぎるとアルカリ処理の際に必要なアルカリの量が増えるため、800KOHmg/g以下であるのが好ましい。
【0023】
粒状である無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の形状としては、例えば、球状(真球状、略真球状、楕円球状等)、多面体状、棒状(円柱状、角柱状等)、平板状、不定形状等が挙げられる。中でも、脱離層からの粒子脱落の防止やインク定着性の観点から、球状、平板状が好ましい。
【0024】
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径Tは0.5~20μmであり、原料の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の大きさに依存する。平均粒子径Tが0.5μm以上であると、十分なアルカリ脱離性を発現するとともに脱離層の形成において塗工液の粘度上昇を抑制できるので作業性が良好である。また、平均粒子径Tが20μm以下であると脱離層における無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の比表面積を大きくできるのでアルカリ脱離性が向上する。
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径Tは、1μm以上であるのが好ましく、2μm以上がより好ましく、また15μm以下であるのが好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0025】
脱離層中の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の割合は、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価に応じ、実質酸価数が本発明の範囲内となるように適宜調整すればよいが、5~75質量%であるのが好ましい。無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の割合が5質量%以上であると、アルカリ脱離性を発現しやすく、75質量%以下であると、脱離層と基材との密着性を保ちやすい。
脱離層中、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂は20質量%以上含まれるのがより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、また70質量%以下含まれるのがより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。
【0026】
結着部は、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂を基材に保持するとともに、積層体の表面に印刷されるインクやトナーを捕まえる役割を担う。結着部には、少なくともバインダー樹脂として酸基を有さない熱可塑性樹脂を含有する。
【0027】
酸基を有さない熱可塑性樹脂は、酸基を有さないものであれば特に制限なく使用できるが、水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーが好ましい。水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーはカチオン性であることが好ましい。それらの中でもカチオン性の水分散性ポリマーがより好ましい。なお、本書では、カチオン性の水溶性ポリマー又はカチオン性の水分散性ポリマーのことを、カチオン性の水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーと表現することがある。
カチオン性の水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーが有する極性基により、結着部はインク又はトナーと化学的な接着(具体的には、イオン結合による接着。)及び分散接着(具体的には、ファンデルワールス力による接着。)することができ、脱離層に対するインク又はトナーの転移性及び密着性が向上すると推定される。
【0028】
なお、カチオン性水溶性ポリマーの水溶性としては、脱離層を形成する塗工液を調製する際に、カチオン性水溶性ポリマーを含有する水性媒体が溶液状態になる程度の溶解度があればよい。
【0029】
使用できるカチオン性の水溶性ポリマー又は水分散性ポリマーとしては、例えば、アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、エチレンイミン系重合体、ホスホニウム塩構造を有する水溶性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を変性によりカチオン化したビニル系ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
なかでも、ウレタン系ポリマーが、積層体をアルカリ処理した際の脱離層の脱離性の観点から、好ましい。そして、アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマー又はエチレンイミン系重合体が、脱離層に対するインク又はトナーの転移性及び密着性の観点から、好ましい。
【0030】
ウレタン系ポリマーとしては、例えば、カチオン変性ウレタン樹脂、カチオン性エーテル系ウレタン樹脂、カチオン性カーボネート系ウレタン樹脂、カチオン性エステル系ウレタン樹脂、またはその他のカチオン性ウレタン樹脂等が挙げられ、脱離層の脱離性に優れるという観点からは、カチオン性エステル系ウレタン樹脂が好ましい。
【0031】
ウレタン系ポリマーとしては、市販品を使用することもできる。
ウレタン系ポリマーの市販品としては、第一工業製薬株式会社の「スーパーフレックス」シリーズ、大成ファインケミカル株式会社の「WBR」シリーズ、「WEM」シリーズ等が挙げられる。
【0032】
ウレタン系ポリマーは、アルカリ処理の際の脱離性を向上するという観点から、ガラス転移温度(Tg)は、-30℃以上であることが好ましく、-10℃以上であることがより好ましい。一方で、基材との密着性の観点から、ガラス転移温度(Tg)は60℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましい。
【0033】
アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマー又はエチレンイミン系重合体は、安全性の観点からは、第1級~第3級のアミノ基又はアンモニウム塩構造を有することが好ましく、第2級~第3級のアミノ基又はアンモニウム塩構造を有することがより好ましく、第3級のアミノ基又はアンモニウム塩構造を有することがさらに好ましい。
【0034】
なかでも、エチレンイミン系重合体は、各種印刷方式で使用されるインク又はトナー、
特にフレキソ印刷方式で使用される紫外線硬化型インクとの親和性が高いことから、脱離層とインクとの密着性が向上し、好ましい。
エチレンイミン系重合体としては、ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン-尿素)、ポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、これらのアルキル変性体、シクロアルキル変性体、アリール変性体、アリル変性体、アラルキル変性体、ベンジル変性体、シクロペンチル変性体、環状脂肪族炭化水素変性体、グリシドール変性体、これらの水酸化物等が挙げられる。変性体を得るための変性剤としては、例えば塩化メチル、臭化メチル、塩化n-ブチル、塩化ラウリル、ヨウ化ステアリル、塩化オレイル、塩化シクロヘキシル、塩化ベンジル、塩化アリル、塩化シクロペンチル等が挙げられる。
【0035】
なかでも、下記一般式(I)で表されるエチレンイミン系重合体が、印刷に用いるインク又はトナー、特に紫外線硬化型インクの転移性及び密着性の向上の観点から好ましい。
【0036】
【化1】
【0037】
〔上記式(I)中、RとRはそれぞれ独立して水素原子;炭素数1~12の直鎖又は分岐状のアルキル基;炭素数6~12の脂環式構造を有するアルキル基又はアリール基を表す。Rは水素原子;ヒドロキシ基を含んでいてもよい炭素数1~18の範囲のアルキル基又はアリル基;ヒドロキシ基を含んでいてもよい炭素数6~12の脂環式構造を有するアルキル基又はアリール基を表す。mは2~6の整数を表し、nは20~3000の整数を表す。〕
【0038】
アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマー又はエチレンイミン系重合体としては、市販品を使用することもできる。
アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマーの市販品としては、株式会社日本触媒製の「ポリメント」等が挙げられる。
また、エチレンイミン系重合体の市販品としては、株式会社日本触媒製の「エポミン」、BASF社製の「ポリミンSK」等が挙げられる。
【0039】
アミノ基又はアンモニウム塩構造を有する(メタ)アクリル系ポリマー又はエチレンイミン系重合体は、基材との密着性及びインク等との密着性の向上の観点から、重量平均分子量の下限は、10,000であることが好ましく、20,000であることがより好ましい。一方で、重量平均分子量の上限は、1,000,000であることが好ましく、500,000であることがより好ましい。
【0040】
酸基を有さない熱可塑性樹脂がバインダーとして働くためには、適度な粘着性を有する必要がある。酸基を有さない熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が低すぎると積層体表面がべとつき、重なった積層体どうしがくっつくブロッキングという現象が多発しやすくなるため、ガラス転移温度(Tg)は-30℃以上であるのが好ましい。また、酸基を有さない熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が高すぎると酸基を有さない熱可塑性樹脂が硬くなり過ぎて基材や無水カルボン酸変性オレフィン樹脂、インク等との密着性が低下することがあるので、ガラス転移温度(Tg)は80℃以下であるのが好ましい。
酸基を有さない熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、バインダーとして良好に機能するために、-10℃以上であるのがより好ましく、また上限は、60℃以下であるのがより好ましく、45℃以下がさらに好ましい。
【0041】
結着部中、酸基を有さない熱可塑性樹脂は、60質量%以上の割合で含むことが好ましい。結着部における酸基を有さない熱可塑性樹脂の含有量が60質量%以上であると、インクやトナーの脱離層への密着性が向上する。結着部における酸基を有さない熱可塑性樹脂の含有量は、65質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、また、上限は特に限定されず、100質量%でもよいが、90質量%以下であるのが好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
結着部には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸基を有さない熱可塑性樹脂以外の成分が含まれていてもよい。
そのほかの成分としては、例えば、シランカップリング剤、帯電防止剤、架橋促進剤、アンチブロッキング剤、pH調整剤、消泡剤、分散剤、湿潤剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、たれ防止剤、レベリング剤、乾燥材、可塑剤、防錆剤、抗菌剤、殺虫剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤、導電性付与剤等が挙げられる。
【0043】
脱離層中、結着部の割合は、25~95質量%であるのが好ましい。結着部の割合が25質量%以上であると、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂を基材から脱落させることなく保持でき、95質量%以下であると、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂によるアルカリ脱離性を妨げることがない。
脱離層中、結着部は30質量%以上含まれるのがより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、また80質量%以下含まれるのがより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明の積層体において、結着部の厚みTは、0.25~20μmである。結着部の厚みTが0.25μm以上であると、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が脱離層から脱落するのを防ぎやすく、20μm以下であると、生産性を向上するとともにコストの上昇を抑制できる。
結着部の厚みTは、0.5μm以上であるのがより好ましく、1μm以上がさらに好ましく、また15μm以下であるのがより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0045】
なお、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径Tに対する結着部の厚みT(T/T)は、0.1倍以上であるのが好ましい。結着部の厚みTが無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径Tの0.1倍以上であると、基材上の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の保持性が高まる。
粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径Tに対する結着部の厚みT(T/T)は、0.2倍以上であるのがより好ましく、0.5倍以上がさらに好ましく、また、脱離層のアルカリ可溶性の観点から、3倍以下であるのが好ましく、2倍以下がより好ましく、また無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の粒子が結着部の表面付近に存在すると、脱離層のアルカリ可溶性が一層良好になるため、1.2倍以下がさらに好ましい。
【0046】
本発明の積層体は、脱離層の実質酸価数が100KOHmg/m以上であるのが好ましい。
「実質酸価数」とは、脱離層中に含まれる無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の実際の量とその無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が持つ酸価から算出される、脱離層の単位面積あたりの酸価数をいう。
脱離層の坪量をX(g/m)、脱離層中の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量をY(質量%)、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価をZ(KOHmg/g)としたとき、脱離層の実質酸価数は下記式で表される。
実質酸価数(KOHmg/m)=X×0.01Y×Z
【0047】
なお、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価は、JIS K 0070-1992 「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、ヨウ素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の中和滴定法により測定できる。
【0048】
脱離層の実質酸価数が大きくなるほどアルカリ脱離性は向上するが、酸価が100KOHmg/m未満の場合は本発明の所望の効果が得られ難くなるため、100KOHmg/m以上であるのが好ましい。実質酸価数は、400KOHmg/m以上であるのがより好ましい。また、上限は特に限定されないが、実質酸価数が多過ぎるとアルカリ脱離処理の際に必要なアルカリの量が増えるため、実質酸価数は3000KOHmg/m以下であるのが好ましく、2000KOHmg/m以下がより好ましく、1500KOHmg/m以下がさらに好ましい。
【0049】
本発明の積層体の形状は基材の形状に準じるものであり、特に限定はされず、例えば、フィルム状、板状等の平面を主体とする形状や、平面や曲面を組み合わせた立体的な任意の形状が挙げられる。
中でも、取り扱いの容易性や成形性の観点から、フィルム状であるのが好ましい。
【0050】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体は、基材上に、脱離層を形成するための水系分散液を塗工し、乾燥させることにより脱離層を形成する工程を含む。
【0051】
積層体の製造に用いる水系分散液は、粒状の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂及び酸基を有さない熱可塑性樹脂を含有し、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂及び酸基を有さない熱可塑性樹脂、並びに必要により任意の成分を水性溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。
【0052】
水性溶媒は、水であってもよいし、水を主成分としてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエン、キシレン等の水溶性有機溶媒を含有してもよい。水を主成分とするとは、全体の50質量%以上が水であることをいう。水性溶媒を用いることにより、工程管理が容易になり、安全上の観点からも好ましい。
【0053】
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂、酸基を有さない熱可塑性樹脂及び任意の他の成分は、上記したとおりであり、好ましいものも同様である。
【0054】
水系分散液の固形分中、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量は、5~75質量%であるのが好ましい。無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量が前記範囲であると、アルカリ脱離性と密着性を両立できる。
水系分散液の固形分中、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂は20質量%以上含まれるのがより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、また70質量%以下含まれるのがより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。
【0055】
また、水系分散液の固形分中、酸基を有さない熱可塑性樹脂の含有量は、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量が上述の範囲となるよう配合すればよい。
【0056】
なお、本発明の水系分散液は、脱離層を形成したとき、脱離層における実質酸価数が100KOHmg/m以上となるようにする。
実質酸価数が前記範囲になるようにするには、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量を調整する、無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が加水分解により開環した際の酸価を調整する等が挙げられる。
【0057】
水系分散液は、固形分濃度が20質量%のとき、20℃における粘度が5~200mPa・sであるのが好ましい。粘度が低すぎると水系分散液中の分散体が沈殿しやすく、凝集物が発生しやすくなり、脱離層の塗工時に均一に塗布できない場合がある。また、粘度が高くなり過ぎると、低塗工量を安定して塗工できない場合がある。
水系分散液の粘度は、15mPa・s以上であるのがより好ましく、20mPa・s以上がさらに好ましく、また150mPa・s以下であるのがより好ましく、120mPa・s以下がさらに好ましい。
なお、粘度は、B型粘度計による回転数60rpmで、測定したものである。
【0058】
水系分散液の塗布及び塗布膜の乾燥は、基材の成形に合わせてインラインで実施してもよく、オフラインで実施してもよい。
水系分散液の塗布は、ダイコーター、バーコーター、ロールコーター、リップコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等の塗布装置を用いることができる。
【0059】
水系分散液の塗布量は、乾燥後の脱離層の厚さや含有成分の濃度等を考慮して適宜調整することができる。
【0060】
塗布膜の乾燥は、熱風送風機、赤外線乾燥機等の乾燥装置を用いることができる。乾燥は、室温で行ってもよいし、加熱してもよい。加熱する場合は、40~200℃で行うのが好ましく、60~150℃がより好ましい。
【0061】
塗布膜を乾燥させることにより、酸基を有しない熱可塑性樹脂が溶融し、造膜することで、基材上に無水カルボン酸変性オレフィン樹脂が保持された脱離層が形成される。
【0062】
(印刷物)
本発明の印刷物は、本発明の積層体の脱離層上に印刷層を備えるものであり、脱離層上に印刷層を形成することにより得られる。
【0063】
印刷層とは印刷インクまたはトナーにて形成された文字や画像等からなる層である。
印刷層は本発明の積層体の脱離層側の表面に位置し、脱離層表面の少なくとも一部の領域を覆っていればよく、すべての領域を覆っていてもよい。
【0064】
印刷方式としては、オフセット印刷、インクジェット方式、電子写真(レーザー)方式、感熱記録方式、熱転写方式等の各種印刷方式を用いることができ、上記したようなダイコーター、バーコーター等の各種塗布装置を用いることができる。
【0065】
(印刷層の脱離方法)
印刷物から脱離層及び印刷層を脱離(除去)するには、印刷物をアルカリ水溶液と接触させる。
【0066】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水、水酸化バリウム、水酸化カルシウムが挙げられる。
【0067】
アルカリ水溶液の濃度としては、印刷物の印刷形態や処理時間等に応じて適宜調整すればよいが、0.5~15質量%の範囲で用いるのが好ましく、1~5質量%がより好ましい。
アルカリ水溶液の濃度が上記範囲内にあることで、アルカリ水溶液は脱離に充分なアルカリ性を保持することができ、印刷物およびラミネート積層体断面から浸透して脱離層と相溶するのにも適しているため、より短時間でインクを脱離することができる。
なおかつ環境対応やリサイクル工程における廃液取扱いの観点からもアルカリ水溶液の濃度が5%以下であるのがより好ましい。
【0068】
アルカリ水溶液の使用量は、印刷物または積層体の質量に対して、100~100万倍量であるのが好ましい。アルカリ水溶液の使用量が印刷物または積層体の質量に対して100倍量以上であると、脱離層のアルカリ脱離効果が十分に得られ、また、アルカリ水溶液の使用量が多過ぎても脱離効果が変わらなくなるため、100万倍量以下であるのが好ましい。
アルカリ水溶液の使用量は、印刷物または積層体の質量に対して、200倍量以上であるのがより好ましく、300倍量以上がさらに好ましく、また1万倍量以下であるのがより好ましく、5000倍量以下がさらに好ましい。
【0069】
処理する際のアルカリ水溶液の温度は、室温~90℃であるのが好ましく、具体的には、20℃以上であるのが好ましく、30以上がより好ましく、また、処理効率の観点から、70℃以下であるのがより好ましく、65℃以下がさらに好ましく、60℃以下が特に好ましい。
【0070】
アルカリ水溶液と印刷物又は積層体との接触方法としては、特に限定されないが、アルカリ脱離処理の効率の観点から、アルカリ水溶液に浸漬するのが好ましい。アルカリ水溶液に浸漬することで印刷物又は積層体全体がアルカリ水溶液に接触するので、効率よく処理できる。
【0071】
浸漬時間としては、印刷物の印刷形態に応じて適宜調整すればよいが、1分~24時間であるのが好ましく、更に好ましくは1分~12時間である。
【0072】
具体的に、印刷物が表刷り印刷形態の場合は、アルカリ水溶液の濃度としては0.5~15質量%であることが好ましく、浸漬温度は30~70℃が好ましく、浸漬時間としては1~12時間であることが好ましい。
【0073】
印刷物が裏刷り(ラミネート形態)である場合は、アルカリ水溶液の濃度としては1~15質量%であることが好ましく、浸漬温度は30~70℃が好ましく、浸漬時間としては1~12時間であることが好ましい。
【0074】
アルカリ処理の後は、水洗し、乾燥することにより、印刷物が除去(脱墨)された物品が得られる。
本発明において、印刷層の除去率は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上である。
【0075】
なお、印刷物から印刷層を除去する際には、効率向上のために、循環式の洗い流し、印刷物または積層体の粉砕、撹拌を行ってもよい。
【0076】
本発明の積層体を用いることにより、積層体の表面(脱離層側表面)に印刷層を備えた印刷物は、アルカリ水溶液中で印刷層を除去し、水洗・乾燥して再生基材を得ることができる。また、再生基材は熱可塑性樹脂である場合は、押出機によりペレットに再生して利用することができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に説明のない限り、「部」、「%」はそれぞれ、「質量部」、「質量%」を表す。
【0078】
<評価方法>
以下の実施例及び比較例で得られた積層体について行った評価を下記に示す。
【0079】
1.脱離層の実質酸価数の算出
JIS K 0070-1992 「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、ヨウ素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」の中和滴定法により脱離層中の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の酸価を測定し、以下の計算式に基づいて実質酸価数(脱離層中の単位面積当たりの酸価数)を算出した。
実質酸価数(KOHmg/m)=X×0.01Y×Z
(上記式中、Xは脱離層の坪量(g/m)、Yは脱離層中の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の含有量(質量%)、Zは無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の酸価(KOHmg/g)である。)
【0080】
2.結着部の膜厚
走査型電子顕微鏡を用いて積層体の断面を5000倍で観察し、得られた画像から結着部の膜厚を測定した。
【0081】
3.表面粗さSRa
東京精密社製の接触式表面粗さ測定器SURFCOM 1500DX2を用い、積層体の中心面平均粗さ(SRa)をJIS B0601-1982に準拠して求めた。なお、カットオフ0.8mm、測定長:5mm、走査ピッチ20μm、走査本数30本とした。
【0082】
4.脱墨性(アルカリ剥離性)
各実施例及び比較例にて得られた積層体をA2版(420mm×594mm)に断裁し、脱離層表面に意匠等を含む図柄をオフセット印刷した。印刷には、オフセット印刷機(商品名:SM102、ハイデルベルグ社製)と酸化重合型枚葉プロセスインキ(商品名:フュージョンG(墨、藍、紅、黄)、DIC社製)を用いた。図柄は墨、藍、紅及び黄の4色により印刷され、各色の濃度は100%であった。具体的には、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、8000枚/時間の速度で1000枚連続して印刷を行い、オフセット印刷物を得た。
得られた印刷物を使用し、以下の評価を行った。
縦5mm×横5mmの大きさに切断した印刷物50枚を、濃度2%のアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム)100gに浸漬し、水温を20℃又は40℃に設定した。
新東科学株式会社製BLW1200を用いて、撹拌速度1000rpmで撹拌を開始し、20分間撹拌を行った。
撹拌後、水洗し、乾燥させ、ハイロックス社製のデジタルマイクロスコープHRX-01にて、表面を観察し、印刷層の除去された部分の面積を測定して除去率を算出し、以下の評価基準により評価した。
〔評価基準〕
A(良):除去率95%以上
B(可):除去率70%以上95%未満
C(不可):除去率70%未満
【0083】
5.耐水性
上記「4.脱墨性(アルカリ剥離性)」の項にて得られた印刷物を、23℃の水中に24時間漬け込んだ後取り出し、印刷面の水分をかるくウエスにて拭き取り、10分後に長さ5cmに切り取ったニチバン社製セロハンテープを印刷面に貼った後、2.5cmを低速(2.5cm/s)で、残りの2.5cmを高速(25cm/s)で手で剥がした。
剥がした後の、印刷部分の剥離の程度を目視で確認し、以下の評価基準によりウェット状態でのインク密着性を評価した。なお、3以上が合格であり、2以下が不合格である。
〔評価基準〕
5:低速、高速で共に剥離なし。
4:低速で剥離なし、高速で部分的(高速剥離面全体の50%未満)に剥離した。
3:低速で剥離なし、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した。
2:低速で部分的(低速剥離面全体の50%未満)に剥離、高速で全面的(高速剥離面全体の50%以上)に剥離した。
1:低速、高速で共に全面的に剥離した。
【0084】
<使用原料>
実施例及び比較例で使用した原料は以下のとおりである。
(無水カルボン酸変性オレフィン樹脂)
・イソブチレン無水マレイン酸共重合体(株式会社クラレ製「イソバン-04」(商品名)、分子量55,000~65,000、酸価数728KOHmg/g)
・スチレン無水マレイン酸共重合体(Polyscope社「XIRAN 1000P」(商品名)、分子量5000、スチレン:無水マレイン酸共重合比=1:1、酸価数475KOHmg/g)
(熱可塑性樹脂)
・カチオン変性ウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社「スーパーフレックス620」(商品名)、無黄変型イソシアネートエステル系)
【0085】
<製造例1:基材の製造>
(I)プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP FY6Q、日本ポリプロ社製)55質量%、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP MA3Q、日本ポリプロ社製)12質量%、高密度ポリエチレン樹脂(商品名:ノバテックHD HJ580N、日本ポリエチレン社製)10質量%、重質炭酸カルシウム粒子(商品名:ソフトン1800、備北粉化工業社製)23質量%を混合して、樹脂組成物aを調製した。
(II)次いで、樹脂組成物aを270℃に設定した押出機で溶融混練し、ダイよりシート状に押出した。このシートを冷却ロールにより冷却して、無延伸シートを得た。この無延伸シートを150℃まで再度加熱した後、ロール間の速度差を利用してシート流れ方向(MD)に4.8倍の延伸を行って縦一軸延伸樹脂フィルムを得た。
(III)これとは別に、プロピレン単独重合体(商品名:ノバテックPP MA3Q、日本ポリプロ社製)47質量%、軽質炭酸カルシウム粒子(商品名:カルファインYM23、丸尾カルシウム)53質量%を混合して、樹脂組成物bを調製した。
【0086】
これを250℃に設定した押出機で溶融混練し、上記縦一軸延伸フィルムの片面にダイよりフィルム状に押し出し、積層して、第1表面層/コア層の積層体(b/a)を得た。
さらに、別の押出機を用い、上記樹脂組成物bを250℃に設定した押出機で溶融混練し、ダイよりフィルム状に押し出し、上記積層体(b/a)のコア層(a)側の面に積層した。これにより、第1表面層/コア層/第2表面層の3層構造の積層体(b/a/b)を得た。
この3層構造の積層体をテンターオーブンに導き、150℃に加熱した後、テンターを用いて横方向に8倍延伸した。次いで165℃で熱セット(アニーリング)して、さらに60℃まで冷却し、耳部をスリットして厚さ110μmの熱可塑性樹脂フィルムを基材(1)として得た。
【0087】
<試験例>
(実施例1)
イソブチレン無水マレイン酸共重合体として株式会社クラレ製「イソバン-04」(商品名)を使用し、これをビーズミルで粉砕して、平均粒子径(D50)が3.6μmの平板状粒子を得た。
粉砕したイソブチレン無水マレイン酸共重合体の粒子100部に対して、カチオン変性ウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社「スーパーフレックス620」(商品名)20部を混合し、固形分濃度が20質量%になる様に水を加え、20℃、500rpmで10分間撹拌して分散液を作製した。
次に、製造例1にて得られた基材(1)の表面に、バーコーターを用いて乾燥後の塗工量が2.0g/m、結着部の厚みが2.0μmとなるように分散液を塗工した。
その後、70℃で2分間乾燥し、脱離層を備えた積層体を得た。
【0088】
(実施例2)
カチオン変性ウレタン樹脂150部を用いた以外は実施例1と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0089】
(実施例3)
カチオン変性ウレタン樹脂900部を用いた以外は実施例1と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0090】
(実施例4)
イソブチレン無水マレイン酸共重合体である株式会社クラレ製「イソバン-04」(商品名)の粉砕条件を変更し、平均粒子径(D50)が13.8μmの平板状粒子とした以外は実施例1と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0091】
(実施例5)
カチオン変性ウレタン樹脂150部を用いた以外は実施例4と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0092】
(実施例6)
カチオン変性ウレタン樹脂900部を用いた以外は実施例4と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0093】
(実施例7)
イソブチレン無水マレイン酸共重合体に代えてスチレン無水マレイン酸共重合体(Polyscope社「XIRAN 1000P」(商品名))を使用した以外は実施例1と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0094】
(実施例8)
カチオン変性ウレタン樹脂150部を用いた以外は実施例7と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0095】
(比較例1)
カチオン変性ウレタン樹脂900部を用いた以外は実施例7と同様にして分散液を作製し、得られた分散液を用いて積層体を作製した。
【0096】
(比較例2)
カチオン変性ウレタン樹脂を使用せず、イソブチレン無水マレイン酸共重合体をアンモニアで中和したものを水に溶解させて使用した以外は、実施例1と同様に積層体を作製した。
【0097】
実施例1~8、比較例1~2の積層体について、脱離層中の無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の割合、実質酸価数、結着部の膜厚、表面粗さSRaを測定し、脱墨性を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1の結果より、実施例1~8は、40℃で20分アルカリ処理したとき、いずれも95%以上の印刷層除去率を有しており、20℃で20分アルカリ処理したときにおいても70%以上の除去率であって、脱離性に優れることがわかった。これに対し、比較例1は40℃で20分アルカリ処理したときは70%以上除去できたが、20℃で20分アルカリ処理したときは、除去が不十分な結果となった。
また、比較例2はアルカリ処理による脱離性は良好だったものの、脱離層の耐水性が不十分であったが、実施例1~8はいずれも耐水性を向上できることがわかった。
【0100】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2021年3月31日出願の日本特許出願(特願2021-061176)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0101】
1 積層体
3 基材
5 脱離層
11 無水カルボン酸変性オレフィン樹脂
12 結着部
無水カルボン酸変性オレフィン樹脂の平均粒子径
結着部の厚み
図1