(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】細胞内の腫瘍誘発タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と癌細胞透過性ペプチドの融合タンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240903BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240903BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240903BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240903BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240903BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240903BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240903BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20240903BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240903BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240903BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240903BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240903BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240903BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/85 Z
C07K19/00
C07K16/18
C07K7/08
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K47/64
A61K47/65
A61K39/395 E
A61K39/395 T
(21)【出願番号】P 2023533207
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 KR2021010749
(87)【国際公開番号】W WO2022035262
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0101760
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523044378
【氏名又は名称】ナイベック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NIBEC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】チョン ジョンピョン
(72)【発明者】
【氏名】パク ユンジョン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム ドクイル
(72)【発明者】
【氏名】チョン エギュン
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/126240(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0026121(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0048676(US,A1)
【文献】特開2016-164156(JP,A)
【文献】Ki Jung Lim,A Cancer Specific Cell-Penetrating Peptide, BR2, for the Efficient Delivery of an scFv into Cancer Cells,PLoS ONE,2013年,e66084.,pp.1-11
【文献】The Prostate,2011年,Vol.71,pp.241-253
【文献】Ziqing Duan,"Cell-penetrating peptide conjugates to enhance the antitumor effect of paclitaxel on drug-resistant lung cancer,Drug Deliv.,2017年,pp.752-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 5/00-28
C07K
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と、(ii)癌細胞透過機能性ペプチドとが連結されている融合タンパク質
であって、
前記抗体又はその単一鎖可変断片は、配列番号1乃至配列番号3で構成された群から選ばれ、
前記癌細胞透過機能性ペプチドは、配列番号86乃至配列番号89で構成された群から選ばれ、
前記癌細胞透過機能性ペプチドは、前記抗体又はその単一鎖可変断片のC-末端にリンカーを介して連結されたことを特徴とする、融合タンパク質。
【請求項2】
前記細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質は、KRAS又はアンドロゲン受容体である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記リンカーは、GGGGS又はGGGGSGGGGSGGGGSであることを特徴とする、請求項
1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、配列番号1乃至配列番号3で構成された群から選ばれるいずれか一つの単一鎖可変断片のリシン又はシステイン残基に、配列番号86乃至配列番号89で構成された群から選ばれるいずれか一つの癌細胞透過機能性ペプチドがリンカーを介して連結されたことを特徴とする、請求項
1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記リンカーは、CGGGGG又はCGGGGGSSGGGGGであることを特徴とする、請求項
4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、配列番号
20乃至配列番号
23、配列番号28乃至配列番号31、配列番号68乃至配列番号
69、配列番号80乃至配列番号83、及び配列番号90乃至配列番号93のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示されることを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項8】
請求項
7に記載の核酸が導入されている組換えベクター。
【請求項9】
請求項
8に記載の組換えベクターが導入されている組換え細胞。
【請求項10】
前記組換え細胞は、大腸菌又は哺乳動物細胞であることを特徴とする、請求項
9に記載の組換え細胞。
【請求項11】
次の段階を含む請求項1に記載の融合タンパク質を製造する方法:
(a)請求項
9に記載の組換え細胞を培養し、請求項1に記載の融合タンパク質を発現させる段階;及び
(b)前記発現された融合タンパク質を回収する段階。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物。
【請求項13】
前記腫瘍は、非小細胞肺癌、大腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、甲状腺癌、乳癌、結腸癌、肝癌、脳腫瘍、皮膚癌、黒色腫、大腸癌、前立腺癌及び血液癌で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項
12に記載の腫瘍治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の腫瘍誘発タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と癌細胞透過性ペプチドの融合タンパク質及びその用途に関し、より詳細には、細胞内の腫瘍誘発タンパク質であるKRASの突然変異をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片に癌細胞透過性ペプチドが遺伝子発現法又は化学的結合法によって連結されている融合タンパク質及びその腫瘍治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は、腫瘍誘発経路が活性化されたり、腫瘍抑制経路が抑制されることによって、正常細胞の遺伝子が変形して発生する(1)。多様な腫瘍誘発因子のうちRAS突然変異タンパク質は、最も広く知られている腫瘍誘発因子であって、全体の癌患者の約30%で表れる。RAS突然変異(mutation)タンパク質は、GTPと結合し、活性化された状態で維持されながら腫瘍細胞の増殖と成長を誘発する。RASは、HRAS、NRAS、KRASの三つの分類に分けることができ、KRAS突然変異は、非小細胞肺癌(non-small-cell-lung carcinoma)、大腸癌(colorectal carcinoma)、膵臓癌(pancreatic carcinoma)に主に表れ、HRAS突然変異は、膀胱癌(bladder carcinoma)、腎臓癌(kidney carcinoma)、甲状腺癌(thyroid carcinoma)で表れ、NRAS突然変異は、黒色腫(melanoma)、肝細胞性癌(hepatocellular carcinoma)、血液癌(haematologic malignancies)で主に表れる(2)。KRAS遺伝子突然変異は、RAS突然変異によって誘発された癌のうち86%を占めており、膵臓癌の98%以上、直腸癌の53%以上、肺腺癌の30%以上で発生するものとして知られている(3)。
【0003】
KRAS突然変異は、EGFR(epithelial growth factor receptor)をターゲットとするイレッサ(Gefitinib)、タルセバ(Erlotinib)、セツキシマブ(Cetuximab)などの抗EGFR治療剤の耐性メカニズムに深く関与するものとして知られている。EGFR抑制抗癌剤を使用したときにも、EGFRの下位概念であるKRASが突然変異によって継続的に活性化された状態では全く効果を見ることができない。実際に、大腸癌で抗EGFR単一クローン(monoclonal)治療抗体を投与するためには、KRAS突然変異のない患者であるか否かを判別した後で投与が可能である。
【0004】
抗癌治療の一つの手段として抗体薬物が多く研究されており、その例として、トラスツズマブ(Trastuzumab)は、Her2タンパク質に対するモノクローナル抗体(monoclonal antibody)であって、乳癌治療剤として使用されており、(4)リツキシマブ(Rituximab)は、CD20に対するモノクローナル抗体であって、B細胞悪性リンパ腫(B cell malignant lymphoma)治療剤として使用されている(5)。抗体は、ターゲットに対する阻害効果には優れるが、大きい分子量によって細胞膜を通過できないので、細胞の内部に抗体のターゲットがある場合には抗体による阻害効果を得ることが困難である。
【0005】
前立腺癌は、全世界で3番目によく見られる男性癌であって、米国の場合、発生率が最も高い男性癌として、肺癌に次いで2番目に高い癌特異死亡率を示す(7)。局所前立腺癌の場合は、手術又は放射線治療で完治を期待できるが、進行性、転移性前立腺癌の場合は、標準的な治療法として化学的去勢法が主に施行されている。前立腺癌が男性ホルモン依存性癌であることが証明されて以来、人為的な去勢法は、進行性或いは転移性前立腺癌の1次治療として確立され、多様な形態の前立腺癌に対する去勢治療が臨床で使用されている(8)。転移性前立腺癌において、去勢法は、疾患の進行及びこれに伴う症状の緩和などの効果を示すが、去勢法を18ヶ月以上施行する場合、75%の患者のみが持続的に治療に反応を示すと知られている。去勢法は、初期には比較的良い反応を示すが、時間の経過と共に、各前立腺癌細胞が男性ホルモンの遮断によって枯死(apoptosis)されず、これ以上ホルモン治療に反応しない去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer、CRPC)に転換される(9)。
【0006】
CRPCとは、血中テストステロンが去勢レベルに減少している状態で、アンドロゲン受容体を通じて作用を示す全ての薬剤を中断した後にも、前立腺特異抗原(prostate specific antigen、PSA)の減少を示しておらず、意味のあるPSAの上昇又は放射線学的進行を示す場合と定義される。CRPCを治療なしで放置した場合は、平均生存期間が12ヶ月未満で、各種治療による転移性前立腺癌患者の平均生存期間が3年以内であって、局所浸潤性疾患の場合は、平均生存期間が4.5年に過ぎない(10)。
【0007】
CRPCでのアンドロゲン受容体(androgen receptor、AR)は、AR過剰発現、突然変異、過敏感性、腫瘍内でのアンドロゲン合成などの多様なメカニズムによって再活性化されるものとして知られている(11)。
【0008】
FDAで承認したCRPC治療剤としてのアビラテロン(Abiraterone)はアンドロゲン合成阻害剤であって、2世代アンドロゲン受容体拮抗剤であるエンザルタミド(enzalutamide)(MDV3100)は、アンドロゲン受容体がアンドロゲンと結合することを完全に阻害し、アンドロゲン受容体が核内に移動しながらターゲット遺伝子と結合することを抑制する。アビラテロン又はエンザルタミドの治療後に再発するほとんどの各前立腺癌は、PSAが陽性であり、アンドロゲン受容体が再活性化されるので、アビラテロン又はエンザルタミドに抵抗性のあるCRPC患者には、新しいアンドロゲン受容体阻害治療法が必要である(12)。ステロイド受容体スーパーファミリの一つであるアンドロゲン受容体は、リガンド依存的転写因子(transcription factor)であって、アンドロゲンによって影響を受ける遺伝子の発現を調節する。転写因子がターゲット遺伝子に接近するために、転写因子が核内に入り込むことが必ず必要であるので、転写因子を細胞質内にのみ維持できるなら転写機能を防止することができる。よって、アンドロゲン受容体の核内への移動を調節することが最も重要な段階である。アンドロゲンに敏感な細胞は、アンドロゲンがないと細胞質にあるが、アンドロゲンがあると核内に移動しながらターゲット遺伝子を活性化させる。しかし、CRPC細胞は、アンドロゲンがなくても、アンドロゲン受容体が核内に継続して留まっているので、ターゲット遺伝子を継続して活性化させるようになる(13)。したがって、アンドロゲン受容体の核内への移動を抑制できるものであれば、CRPC腫瘍で効果的な治療として使用され得る。
【0009】
KRASやアンドロゲン受容体などの腫瘍誘発タンパク質は、ヒトの癌発生に重要な役割をするものとして知られているが、これらをターゲットとする抗体治療剤は、未だに臨床的に使用されていない。その理由は、細胞内に分布するRAS、アンドロゲン受容体に対する抗体が、大きい分子量によって細胞膜を通過できないためである。抗体より小さい単一鎖可変断片(scFv)は、抗体に比べて分子量が小さく、免疫拒否反応を誘発するFc部分がないので、一般的な抗体に対する代案になり得るものとして知られている。しかし、scFv自体も、分子量が25kDa以上になり、低分子薬物のように細胞膜を自由に通過しにくいので、期待した通りの大きな阻害効果を得ることは困難である。
【0010】
そこで、本発明者等は、前記従来技術の問題を解決するために鋭意努力した結果、細胞内の腫瘍誘発タンパク質に対する抗体又はその単一鎖可変断片を、癌組織透過が可能になるように癌細胞透過機能性ペプチドと融合させようとした。融合方法として遺伝子発現法又は化学的結合法を使用し、このように製作された細胞透過性の融合タンパク質が、細胞内で腫瘍誘発タンパク質が多く発現される癌細胞の増殖と成長を効果的に抑制できることを試験管内及び動物実験を通じて確認することによって本発明を完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】Zhang J,Chen YH,Lu Q.Pro-oncogenic and anti-oncogenic pathways:opportunities and challenges of cancer therapy.Future Oncol.2010 Apr;6(4):587-603.
【0012】
【文献】Cox AD,Fesik SW,Kimmelman AC,Luo J,Der CJ.Drugging the undruggable RAS:mission possible? Nat Rev Drug Discov 2014;13:828-51.
【0013】
【文献】RAS oncogenes:weaving a tumorigenic web.Pylayeva-Gupta Y,Grabocka E,Bar-Sagi D.Nat Rev Cancer.2011 Oct 13;11(11):761-74.
【0014】
【文献】Trastuzumab(herceptin) for the medical treatment of breast cancer.Bayoudh L,Afrit M,Daldoul O,Zarrad M,Boussen H.Tunis Med.2012 Jan;90(1):6-12.
【0015】
【文献】Evolution of anti-CD20 monoclonal antibody therapeutics in oncology.Oflazoglu E,Audoly LP.MAbs.2010 Jan-Feb;2(1):14-9.
【0016】
【文献】Demarest SJ,Glaser SM.Antibody therapeutics,antibody engineering,and the merits of protein stability.Curr Opin Drug Discov Devel.2008;11(5):675-687.
【0017】
【文献】Jemal A,Clegg LX,Ward E,Ries LA,Wu X,Jamison PM,et al.Annual report to the nation on the status of cancer,1975-2001,with a special feature regarding survival.Cancer 2004;101:3-27.
【0018】
【文献】Yagoda A,Petrylak D.Cytotoxic chemotherapy for advanced hormone-resistantprostatecancer.Cancer 1993;71:1098.
【0019】
【文献】Rini BI,Small EJ.Hormone-refractory prostate cancer.Curr Treat Opt Oncol 2002;3:437-46.
【0020】
【文献】Sella A,Yarom N,Zisman A,Kovel S.Paclitaxel,stramustine and carboplatin combination chemotherapy after initial docetaxel-based chemotherapyincastration resistant prostate cancer.Oncology 2009;76:442.
【0021】
【文献】Chen CD,Welsbie DS,Tran C,Baek SH,Chen R,Vessella R,et al.Molecular determinants of resistance to antiandrogen therapy.Nat Med 2004;10:33-9.
【0022】
【文献】Boudadi K,Antonarakis ES.Resistance to novel antiandrogen therapies in metastatic castration-resistant prostate cancer.Clin Med Insights Oncol 2016;10:1-9.
【0023】
【文献】Zhang L,Johnson M,Le KH,Sato M、Ilagan R,Iyer M,et al.Interrogating androgen receptor function in recurrent prostate cancer.Cancer Res 2003;63:4552-60.
【0024】
【文献】Lars Kober,Christoph Zehe,Juergen Bode,Biotechnology and Bioengineering,Vol.110,No.4,April,2013,Optimized signal peptides for the development of high expressing CHO cell lines
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、腫瘍治療効果が著しく改善された融合タンパク質を提供することにある。
【0026】
本発明の他の目的は、前記融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0027】
本発明の更に他の目的は、前記融合タンパク質を投与する段階を含む腫瘍の予防又は治療方法を提供することにある。
【0028】
本発明の更に他の目的は、腫瘍の予防又は治療のための前記融合タンパク質の用途を提供することにある。
【0029】
本発明の更に他の目的は、腫瘍の治療のための薬剤の製造において前記融合タンパク質の使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
前記目的を達成するために、本発明は、(i)細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と、(ii)癌細胞透過機能性ペプチドとが連結されている融合タンパク質を提供する。
【0031】
また、本発明は、前記融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0032】
また、本発明は、前記核酸が導入されている組換えベクターを提供する。
【0033】
また、本発明は、前記組換えベクターが導入されている組換え細胞を提供する。
【0034】
また、本発明は、次の段階を含む前記融合タンパク質の製造方法を提供する:
【0035】
(a)前記組換え細胞を培養し、第1項の融合タンパク質を発現させる段階;及び
【0036】
(b)前記発現された融合タンパク質を回収する段階。
【0037】
また、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物を提供する。
【0038】
また、本発明は、前記融合タンパク質を投与する段階を含む腫瘍の予防又は治療方法を提供する。
【0039】
また、本発明は、腫瘍の予防又は治療のための前記融合タンパク質の用途を提供する。
【0040】
また、本発明は、腫瘍の治療のための薬剤の製造において前記融合タンパク質の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【0042】
【
図2】癌細胞透過能を有するKRAS突然変異抗体及びscFvの発現ベクターを示す図である。
【0043】
【
図3】発現及び精製された癌細胞透過能を有するKRAS突然変異抗体及びscFvのSDS-PAGE、ウェスタンブロット結果を示す図である。
【0044】
【
図4】化学的結合法で製作した癌細胞透過能を有するKRAS突然変異抗体及びscFvのSDS-PAGE、ウェスタンブロット結果を示す図である。
【0045】
【
図5】癌細胞透過能を有するKRAS突然変異抗体及びscFvによる癌細胞特異的死滅効果を確認した結果を示す図である。
【0046】
【
図6】GGGGSリンカーで連結された配列番号20-23による活性型(Active)KRAS(突然変異(mutant)KRAS)のウェスタンブロット結果を示す図である。
【0047】
【
図7】GGGGSGGGGSGGGGSリンカーで連結された配列番号90-93による活性型KRAS(突然変異KRAS)のウェスタンブロット結果を示す図である。
【0048】
【
図8】配列番号20-23の癌細胞透過能を確認した結果を示す図である。
【0049】
【
図9】腫瘍異種移植片(Tumor xenograft)動物モデルにおける癌組織で分布を評価した結果を示す図である。
【0050】
【
図10】腫瘍異種移植片動物モデルにおける癌組織での蛍光強度を示す図である。
【0051】
【
図11】配列番号2及び配列番号23の腫瘍抑制効果を示す図である。
【0052】
【
図12】H358によって形成された腫瘍のボリューム変化と犠牲時の癌組織写真を示す図である。
【0053】
【
図13】化学的結合によって製造された配列番号80-83による活性型KRAS(突然変異KRAS)のウェスタンブロット結果を示す図である。
【0054】
【
図14】化学的結合によって製造された配列番号80-83による癌細胞特異的死滅効果を確認した結果を示す図である。
【0055】
【
図15】化学的結合法によって製造された配列番号80-83の癌細胞透過能を確認した結果を示す図である。
【0056】
【
図16】腫瘍異種移植片動物モデルにおける癌組織で分布を評価した結果を示す図である。
【0057】
【
図17】腫瘍異種移植片動物モデルにおける癌組織での蛍光強度を示す図である。
【0058】
【
図18】配列番号3及び配列番号83の腫瘍抑制効果を示す図である。
【0059】
【
図19】H358によって形成された腫瘍のボリューム変化と犠牲時の癌組織写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
他の方式で定義されない限り、本明細書で使用された全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術分野で熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同一の意味を有する。一般に、本明細書で使用された命名法及び以下で記述する実験方法は、本技術分野でよく知られており、通常的に使用されるものである。
【0061】
本発明では、腫瘍治療効果のある細胞内の腫瘍誘発タンパク質又はこれらの突然変異をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片が癌細胞に到逹したときにも、これらが腫瘍細胞に十分に作用できないという点に着眼し、癌細胞透過機能性ペプチドと連結されている融合タンパク質を製作した。融合タンパク質を製作するために、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片のN-末端又はC-末端にリンカーを導入し、これに癌細胞透過機能性ペプチドを連結したが、このような融合タンパク質は、遺伝子発現法又は化学的結合法の二つの相違する方法で製作した。このように製作した融合タンパク質を用いて癌細胞死滅実験で癌細胞透過機能性ペプチドが導入された融合タンパク質は、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片を単独で処理した場合に比べて、癌細胞特異的に著しく優れた効果を発揮することを確認した。
【0062】
したがって、本発明は、一観点において、(i)細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と、(ii)癌細胞透過機能性ペプチドとが連結されている融合タンパク質に関する。
【0063】
本発明において、前記細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質は、KRAS又はアンドロゲン受容体であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0064】
本発明において、前記抗体又はその単一鎖可変断片は、配列番号1乃至配列番号3で構成された群から選ばれることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0065】
一様態として、前記単一鎖断片は、KRAS突然変異scFvであって、下記の配列番号1で表示され得る。
【0066】
配列番号1:
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0067】
ここで、MAWVWTLLFLMAAAQSIQAはシグナルペプチドで、その次のアミノ酸配列は VH(Variable heavy chain)領域で、GGGGSGKGGSGGGGSGGGGSはリンカーで、その次のアミノ酸配列はVL(Variable light chain)領域である。シグナルペプチドは、MTRLTVLALLAGLLASSRA、MKWVTFISLLFLFSSAYSのように公知となった配列に取り替えて使用することができる。
【0068】
他の様態として、前記単一鎖断片は、KRAS突然変異scFvであって、下記の配列番号2で表示され得る。
【0069】
配列番号2:
MAQVKLQESGPELVRPGTSVKVSCKASGYAFTNYLIEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKLEIKRLEHHHHHH
【0070】
ここで、MAQVKLQESGPELVRPGTSVKVSCKASGYAFTNYLIはシグナルペプチドで、その次のアミノ酸配列はVH(Variable heavy chain)領域で、GGGGSGGGGSGGGGSはリンカーで、その次のアミノ酸配列はVL(Variable light chain)領域である。
【0071】
他の様態として、前記単一鎖断片は、KRAS突然変異scFvであって、配列番号3で表示され得る。
【0072】
配列番号3:
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0073】
配列番号3は配列番号1と同一であり、VLの後にシステイン(Cysteine)を導入した。
【0074】
本発明において、前記癌細胞透過機能性ペプチドは、CCPP1(H4K)、CCPP2(H4P)、CCPP3(LMWP)及びCCPP4(hBD3-3)で構成された群から選ばれることを特徴とすることができるが、これに限定されない。前記癌細胞透過機能性ペプチドは、配列番号86乃至配列番号89で構成された群から選ばれることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0075】
本発明において、前記癌細胞透過機能性ペプチドは、前記抗体又はその単一鎖可変断片のN-末端又はC-末端にリンカーを介して連結されたことを特徴とすることができる。
【0076】
本発明において、前記リンカーは、前記癌細胞透過機能性ペプチドと、前記抗体又はその単一鎖可変断片とが連結されるとき、それぞれが機能的構造を形成できるように空間を付与するためのものであって、アミノ酸GとSの適切な組み合わせによるペプチドリンカーが好ましく、Gは3個から20個まで含み、Sは1個から5個まで含むことがさらに好ましいが、これに限定されなく、前記リンカーは、GGGGS又はGGGGSGGGGSGGGGSであることが最も好ましい。
【0077】
本発明において、前記リンカーと癌細胞透過機能性ペプチドとが連結されている場合、これは、配列番号4から配列番号11のアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。この場合、配列番号4乃至7のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示される融合ペプチドは、単一鎖可変断片のC末端に連結されることが好ましく、配列番号8乃至11のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示される融合ペプチドは、単一鎖可変断片のN末端に連結されることが好ましい。他の様態として、前記配列番号4乃至11のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示される融合ペプチドは、抗体の単一鎖断片の重鎖と軽鎖とを連結するリンカーにさらに結合され得る。一方、配列番号4乃至11のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示される融合ペプチドが抗体に連結される場合、これは、Fc領域に存在する糖構造に連結されることが好ましい。
【0078】
本発明において、前記抗体又はその単一鎖可変断片と癌細胞透過機能性ペプチドは、化学的結合法で連結されることを特徴とすることができる。この場合、前記融合タンパク質は、配列番号68乃至配列番号83のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0079】
本発明において、前記融合タンパク質は、配列番号1乃至配列番号3で構成された群から選ばれるいずれか一つの単一鎖可変断片のリシン又はシステイン残基に配列番号86乃至配列番号89で構成された群から選ばれるいずれか一つの癌細胞透過機能性ペプチドがリンカーを介して連結されたことを特徴とすることができる。
【0080】
本発明において、前記リンカーは、CGGGGG又はCGGGGGSSGGGGGであることを特徴とすることができる。
【0081】
本発明において、前記抗体又はその単一鎖可変断片と癌細胞透過機能性ペプチドは、遺伝子発現法で連結されて発現されることを特徴とすることができる。この場合、前記融合タンパク質は大腸菌で発現可能であり、配列番号12乃至配列番号27のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。また、前記融合タンパク質は、哺乳動物細胞で発現可能であり、配列番号28乃至配列番号59及び配列番号90乃至配列番号93のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0082】
例えば、前記KRAS突然変異をターゲットとする単一鎖可変断片(配列番号1乃至配列番号3のうちいずれか一つ)のN末端に癌細胞透過能を有するペプチドとリンカーとを連結したり、C末端に癌細胞透過能を有するペプチドとリンカーとを連結して使用することができる。これによる多様な様態は、実施例の表2乃至表5に具体的に記載されている。
【0083】
本発明において、前記融合タンパク質は、配列番号12乃至配列番号59、配列番号68乃至配列番号83、及び配列番号90乃至配列番号93のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示されることを特徴とすることができる。
【0084】
本発明において、前記融合タンパク質は、遺伝子発現法又は化学的結合法で製造できるが、その製造方法がこれに限定されることはない。
【0085】
遺伝子発現法で融合タンパク質を製造する場合、(i)細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片と、(ii)癌細胞透過機能性ペプチドとが共に発現されるベクターを用いることができる。この場合、前記抗体又はその単一鎖可変断片と前記癌細胞透過機能性ペプチドとの間にリンカー配列をさらに含んで発現させることができる。pETベクター、pcDNA3.4、pcDNA3.1、pcDNA3.1-TOPO、pcDNA3.4-TOPO、pSecTagベクターなどを用いることができるが、これに限定されない。本発明では、大腸菌での発現のためにpETベクターを使用し、哺乳動物細胞での発現のためにpcDNA3.1-TOPO、pcDNA3.4-TOPOベクターを使用した。
【0086】
したがって、本発明は、更に他の観点において、前記融合タンパク質をコードする核酸に関する。
【0087】
また、本発明は、前記核酸が導入されている組換えベクターに関する。
【0088】
また、本発明は、前記組換えベクターが導入されている組換え細胞に関する。
【0089】
本発明において、前記組換え細胞は、大腸菌又は哺乳動物細胞であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0090】
本発明で使用可能な好ましい哺乳動物細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO:Chinese hamsterovarian cell)、ヒト胎児腎細胞株(HEK293:human embryonic kidney cells)などを含むことができるが、これに限定されない。
【0091】
また、本発明は、前記融合タンパク質を製造する方法に関するものであって、前記方法は、(a)前記組換え細胞を培養し、第1項の融合タンパク質を発現させる段階;及び(b)前記発現された融合タンパク質を回収する段階;を含む。
【0092】
一方、本発明では、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片を遺伝子で発現させて精製した後、これに化学的結合法で癌細胞透過機能性ペプチドを導入することもできる。
【0093】
癌細胞透過機能性ペプチドは、リンカーとクロスリンカー(crosslinker)によって前記抗体又は単一鎖可変断片に連結され得る。リンカーは、機能的構造を形成できるように空間を付与できるものであればいずれも使用可能である。例えば、前記リンカーは、天然及び/又は合成起源のペプチド性リンカーであり得る。天然及び/又は合成起源のペプチド性リンカーは、1個乃至50個のアミノ酸からなるアミノ酸鎖で構成可能であり、ヒンジ機能を有するポリペプチドのように、天然発生ポリペプチドの反復的なアミノ酸配列を含むことができる。更に他の様態として、前記ペプチド性リンカーアミノ酸配列は、グリシン、グルタミン、及び/又はセリン残基が豊富になるように指定された合成リンカーアミノ酸配列であり得る。これらの残基は、例えば、5個以下のアミノ酸の小さい反復単位で配列されてもよく、前記小さい反復単位は、マルチマー単位を形成するように繰り返されて配列されてもよい。マルチマー単位のアミノ-及び/又はカルボキシ-末端で、6個以下の追加的な任意の天然発生アミノ酸が添加され得る。その他の合成ペプチド性リンカーは、10回乃至20回繰り返される単一アミノ酸構成であってもよく、アミノ-及び/又はカルボキシ-末端に6個以下の追加的な任意の天然発生アミノ酸が添加された構成であってもよい。一方、前記リンカーは、アミノ酸が化学的に変形した形態であってもよく、例えば、ブロッキンググループ(Blocking group)としてFmoc-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)が結合されたFmoc-6-アミノヘキサン酸の形態で使用され得るが、これに限定されない。
【0094】
本発明に係る一部の様態として、癌細胞透過機能性ペプチドとリンカーとが結合された融合ペプチドは、配列番号60乃至配列番号67のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示され得る。この場合、癌細胞透過機能性ペプチドのN末端に位置したシステインのスルフヒドリル基は、配列番号1のリンカー部分にあるリシンのアミン基又は立体構造で露出した部分にあるリシンのアミン基に連結され得る。
【0095】
この場合、使用可能なクロスリンカーは、1,4-ビス-マレイミドブタン(1,4-bis-maleimidobutane、BMB)、1,11-ビス-マレイミドテトラエチレングリコール(1,11-bis-maleimidotetraethyleneglycol、BM[PEO]4)、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(1-ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide hydrochloride,EDC)、スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミドカプロエート]](succinimidyl-4-[N-maleimidomethylcyclohexane-1-carboxy-[6-amidocaproate]]、SMCC)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMCC)、スクシンイミジル6-[3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサノエート](succimidyl 6-[3-(2-pyridyldithio)-propionamido]hexanoate、SPDP)及びそのスルホン化塩(sulfo-SPDP)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester、MBS)及びそのスルホン化塩(sulfo-MBS)、スクシンイミジル[4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート](succimidyl[4-(p-maleimidophenyl)butyrate]、SMPB)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMPB)などがあるが、これに限定されない。
【0096】
一方、配列番号3のC末端のシステインのスルフヒドリル基を還元させた後、配列番号60乃至配列番号67のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示される融合ペプチドのN末端に位置したシステインのスルフヒドリルと連結できるクロスリンカーは、トリス2-カルボキシエチルホスフィン(tris(2-carboxyethyl)phosphine、TCEP)、5,50ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(5,50-dithiobis-(2-nitrobenzoic acid、DTNB)などがあるが、これに限定されない。
【0097】
本発明において、前記化学的結合法を用いて融合タンパク質を製造する方法は、下記の段階を含む:
【0098】
(a)細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片のリンカー部位又は露出した部分に存在するリシンのアミン基をクロスリンカーで活性化する段階;
【0099】
(b)癌細胞透過機能性ペプチドを、クロスリンカーで活性化された前記抗体又は単一鎖可変断片に連結する段階;及び
【0100】
(c)前記抗体又は単一鎖可変断片と癌細胞透過機能性ペプチドとが連結されている融合タンパク質を精製する段階。
【0101】
代案的に、前記方法において、(a)段階は、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片のシステイン残基のスルフヒドリル基を還元させる段階であり得る。
【0102】
前記化学的結合法によって生成される融合タンパク質は、配列番号68乃至配列番号83のうちいずれか一つのアミノ酸配列で表示され得るが、これに限定されない。
【0103】
本発明に係る様態として、前記融合タンパク質は、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片のリシン又はシステイン残基と癌細胞透過機能性ペプチドとがクロスリンカーによって連結されることを特徴とすることができる。
【0104】
好ましくは、前記融合タンパク質は、配列番号1乃至配列番号3で構成された群から選ばれるいずれか一つの単一鎖可変断片のリシン又はシステイン残基と、配列番号60乃至配列番号67で構成された群から選ばれるいずれか一つの融合ペプチドとがクロスリンカーによって化学的に結合することを特徴とすることができる。
【0105】
ここで、前記残基がリシンである場合、前記クロスリンカーは、1,4-ビス-マレイミドブタン(1,4-bis-maleimidobutane、BMB)、1,11-ビス-マレイミドテトラエチレングリコール(1,11-bis-maleimidotetraethyleneglycol、BM[PEO]4)、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド(1-ethyl-3-[3-dimethyl aminopropyl]carbodiimide hydrochloride、EDC)、スクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチルシクロヘキサン-1-カルボキシ-[6-アミドカプロエート]](succinimidyl-4-[N-maleimidomethylcyclohexane-1-carboxy-[6-amidocaproate]]、SMCC)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMCC)、スクシンイミジル6-[3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサノエート](succimidyl 6-[3-(2-pyridyldithio)-propionamido]hexanoate、SPDP)及びそのスルホン化塩(sulfo-SPDP)、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester、MBS)及びそのスルホン化塩(sulfo-MBS)、スクシンイミジル[4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート](succimidyl[4-(p-maleimidophenyl)butyrate]、SMPB)及びそのスルホン化塩(sulfo-SMPB)で構成された群から選ばれることを特徴とすることができる。
【0106】
一方、前記残基がシステインである場合、前記クロスリンカーは、トリス2-カルボキシエチルホスフィン(tris(2-carboxyethyl)phosphine、TCEP)、5,50ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(5,50-dithiobis-(2-nitrobenzoic acid、DTNB)であることを特徴とすることができる。
【0107】
本発明に係るKRAS突然変異タンパク質は、癌細胞の成長を加速化し、腫瘍発生の重要な因子として知られているが、細胞膜の内側に存在するので、KRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片による阻害効果が大きくない。しかし、癌細胞透過能ペプチドを導入した後、KRAS突然変異に対する抗体又は単一鎖可変断片による腫瘍増殖抑制効果を確認したとき、試験管内の実験及び動物実験結果のいずれにおいても、該当の癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片は、腫瘍細胞の増殖を著しく抑制する効果を有することを確認した。
【0108】
したがって、本発明は、他の観点において、前記融合タンパク質を有効成分として含む腫瘍治療用薬学的組成物に関する。
【0109】
本発明において、前記腫瘍は、非小細胞肺癌、大腸癌、膵臓癌、膀胱癌、腎臓癌、甲状腺癌、乳癌、結腸癌、肝癌、脳腫瘍、皮膚癌、黒色腫、大腸癌、前立腺癌及び血液癌で構成された群から選ばれる1種以上であることを特徴とすることができるが、これに限定されない。
【0110】
本発明において、前記薬学的組成物は、注射剤、経口投与用製剤、水溶液、懸濁液、乳濁液などの液剤(例えば、注射用)、カプセル、顆粒、錠剤及び粘膜投与製剤で構成された群から選ばれるいずれか一つの剤形に製剤化されることを特徴とすることができるが、これに限定されない。これらの製剤は、当分野で製剤化に使用される通常の方法又はRemington’s Pharmaceutical Science(最新版)、Mack Publishing Company、Easton PAに開示されている方法で製造可能であり、各疾患又は成分によって多様な製剤に製剤化され得る。
【0111】
一方、本発明の薬学的組成物は、前記癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片以外に、薬剤学的に許容可能な担体を1種以上さらに含むことができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができる。
【0112】
本発明の薬学的組成物は、必要によって薬剤学的に許容可能な補助剤をさらに含有することを特徴とすることができる。前記補助剤は、賦形剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、抗菌性保存剤、静菌剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤、酸化防止剤、増粘剤及び粘度改質剤で構成された群から選ばれる一つ以上であり得るが、これに限定されない。
【0113】
本発明に係る薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内又は局所に適用)することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによって、その範囲が専門家の所見によって多様に変更されて使用され得る。
【0114】
本発明の一実施様態として、前記ペプチドの1回投与量は、1μg/kg乃至100mg/kg、好ましくは5μg/kg乃至50mg/kgで、1日1回又は週に1回~3回投与することを特徴とすることができるが、投与量と投与間隔はこれに限定されない。
【0115】
本発明は、更に他の観点において、前記融合タンパク質を投与する段階を含む腫瘍の予防又は治療方法に関する。
【0116】
本発明は、更に他の観点において、腫瘍の予防又は治療のための前記融合タンパク質の用途に関する。
【0117】
本発明は、更に他の観点において、腫瘍の治療のための薬剤の製造において前記融合タンパク質の使用に関する。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎなく、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0119】
実施例1:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとするscFvのタンパク質発現法による製作
【0120】
実施例1-1:大腸菌で癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとするscFvの発現
【0121】
KRAS突然変異scFv、癌細胞透過能ペプチドが導入されたKRAS突然変異scFv発現ベクターをそれぞれ特異的なプライマーを用いてPCR方法で製作した。本発明で使用されたKRAS突然変異scFvは、配列番号1乃至配列番号3のうちいずれか一つである。
【0122】
KRAS突然変異scFv(配列番号1):
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0123】
KRAS突然変異scFv(配列番号2):
MAQVKLQESGPELVRPGTSVKVSCKASGYAFTNYLIEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKLEIKRLEHHHHHH
【0124】
KRAS突然変異scFv(配列番号3):
MAWVWTLLFLMAAAQSIQAEWIKQRPGQGLEWIGVIHPGNGGTNYNENFKGKATLTADKSSSTAYMQLSSLTSDDSAVYFCASGNDGSYWGQGTTVTVSSGGGGSGKGGSGGGGSGGGGSDIELTQSPSSLTVTAGEKVTMSCKSSQSLLNSGDQKIYLTWYQQKPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFTGSVSGTDFTLTISSVQAEDLAVYYCQNDYNYPYTFGGGTKCLEIKRGSENLYFQGGSGKPIPNPLLGLDSTGGSGGSHHHHHH
【0125】
pET 21a(+)DNAは、Nde IとXho Iで切断し、pMX DNAもNde IとXho Iで切断し、767 bpのKras scFv遺伝子断片をアガロース電気溶出(agarose electro elution)方法で回収した。これをpET 21a(+)ベクターに挿入するために、PCRを通じて遺伝子を増幅させた。PCRプライマーとしては、正方向プライマー(5'-AAGGAGATATACATATGATGGCATGGGTTTGGAC-3')及び逆方向プライマー(5'-AGCCCGAAGGGAATTCATTTGCAGATACAAAGTGTTTTTAGAGTTG-3')を用いた。それぞれの切断されたベクターとインサートを0.5μgと1.0μgの比率で混合し、トリス-HCl 500mM、MgCl2 100mM、DTT 200mM、ATP 10mM組成のライゲーション緩衝溶液でT4 DNAリガーゼを使用し、4℃で16時間~18時間にわたって反応させた。
【0126】
組み換えられDNA溶液を大腸菌DH5aに形質転換させ、LB+Amp固体培地に塗抹し、形質転換体を選別した。
【0127】
それぞれのプラスミドで形質転換された大腸菌RosettaTM2(DE3)SinglesTM(Novagen)菌株の単一コロニーを10μg/mlの濃度のアンピシリン(ampicillin)抗生剤が含まれている20mlのLBに接種し、37℃で一晩培養した。培養液の1mlを、同じ濃度の抗生剤が入っている新しい200mlのLBに希釈させた。KRAS scFvの発現は、OD600での細胞の密度0.8値でIPTGの最終濃度が1mMになるように入れ、一晩培養させることによって誘導された。各細胞は、遠心分離法を通じて収穫し、10mlの溶解バッファー(lysis buffer)(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、pH8.0)に混ぜて解いた。細胞の超音波粉砕(sonication)後、4℃の条件で10分間の遠心分離を通じてタンパク質をtotal(全体)、soluble(水溶性)、insoluble(不水溶性)部分に分け、SDS-PAGEを通じて分析した(S.I.Choi et al.,Protein solubility and folding enhancement by interaction with RNA,PLoS ONE 3(2008)e2677)。
【0128】
分離されたKRAS scFvは、ニッケルクロマトグラフィー(HisTrapTM excel Kit,GE Healthcare)によって分離及び精製された。次に、[50mM NaH2PO4(pH8.0)、300mM NaCl]条件のバッファーでニッケルカラムを予め濡らして均等にした後、同じバッファー条件のタンパク質水溶液を適用させた。20mMのイミダゾール(imidazole)が含まれている上記のバッファーを用いて洗浄を行った後、イミダゾールを50mMから500mMまで漸進的に増加させたバッファーを用いてタンパク質を分離した。分離されたタンパク質を集め、脱塩カラム(desalting column)(PD-10 Columns、GE Healthcare)を用いて透析した。
【0129】
本発明で使用したリンカーと癌細胞透過機能性ペプチド配列は、次の表1に示す通りである。
【0130】
【0131】
大腸菌で発現される癌細胞透過機能性ペプチドとKRAS突然変異scFvとが連結された融合タンパク質のアミノ酸配列は、次の表2に示す通りである。
【0132】
【0133】
図3(A)は、精製された配列番号1、2、3のKRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片のSDS-PAGEとウェスタンブロット結果を示す。
【0134】
実施例1-2:動物細胞(mammalian cell)で癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとするscFvの発現
【0135】
動物細胞で使用するKRAS突然変異scFv、癌細胞透過能ペプチドが導入されたKRAS突然変異scFv発現ベクターを、それぞれ特異的なプライマーを用いてPCR方法で製作した。
【0136】
動物細胞の発現のためにpcDNA3.4-TOPOベクターにクローニングされた癌細胞透過機能性ペプチドとKRAS突然変異scFvとが連結された融合タンパク質のアミノ酸配列は、次の表3に示す通りである。
【0137】
【0138】
動物細胞の発現のために、pcDNA3.1-TOPOベクターにクローニングされた癌細胞透過機能性ペプチドとKRAS突然変異scFvとが連結された融合タンパク質のアミノ酸配列は、次の表4に示す通りである。
【0139】
【0140】
動物細胞の発現のために、pcDNA3.4-TOPOベクターにクローニングされた癌細胞透過機能性ペプチドとKRAS突然変異scFvとが連結された融合タンパク質のアミノ酸配列は、次の表5に示す通りである。
【0141】
【0142】
pcDNA3.1-TOPO又はpcDNA3.4-TOPOをEcoR IとBamH Iで切断し、900bp~960bpのKRAS突然変異scFv遺伝子断片をアガロース電気溶出(agarose electro elution)方法で回収した。これをpcDNA3.1-TOPO及びpcDNA3.4-TOPOベクターに挿入するために、PCRを通じて遺伝子を増幅させると同時に、BamH IとEcoR I制限酵素サイトを合成した。それぞれの切断されたベクターとインサートを4μlと4μlの比率で混合し、トリス-HCl 500mM、MgCl2 100mM、DTT 200mM、ATP 10mM組成のライゲーション緩衝溶液でT4 DNAリガーゼを使用し、4℃で16時間~18時間にわたって反応させた。
【0143】
本発明者等は、製造されたベクターをチャイニーズハムスター卵巣細胞株Expi-CHO-Sとヒト胎児腎細胞株Expi-293Fに形質転換させた。チャイニーズハムスター卵巣細胞株ExpiCHO-Sは、Thermo Fisher Scientific(USA)から提供を受け、ExpiCHO発現培地(Expression medium)(GIBCO、USA)で培養した。
【0144】
その後、ExpiCHO-S細胞株(3×108cells)を250mLのディスポーザブル三角フラスコ(disposable Erlenmeyer flask)に50mLの培養液に添加した。50μgのプラスミドが入っている2mLのOpti-MEMに、1.84mLのOpti-MEMに希釈したExpiFectamine CHO試薬(Reagent)(Gibco、Cat# A20130)160μLを混合し、常温で5分間停止反応させた後、準備されたチャイニーズハムスター卵巣細胞に均一に点滴し、18時間にわたって37℃、8%のCO2恒温器で培養した後、ExpiCHOエンハンサー(enhancer)300μLとExpiCHOフィード(Feed)12mLを追加して5日間培養した。
【0145】
ヒト胎児腎細胞株Expi-293Fは、Thermo Fisher Scientific(USA)から提供を受け、Expi293発現培地(GIBCO、USA)で培養した。その後、Expi-293F細胞株(1.50×107cells)を、250mLのディスポーザブル三角フラスコに50mLの培養液に添加した。50μgのプラスミドが入っている3mLのOpti-MEMに、2.8mLのOpti-MEMに希釈したExpiFectamine 293試薬(Gibco、Cat# A14525)160μLを混合し、常温で20分間停止反応させた後、準備されたヒト胎児腎細胞に均一に点滴し、18時間にわたって37℃、8%のCO2恒温器で培養した。その後、ExpiFectamine 293形質導入エンハンサー(transfection enhancer)1300μLとExpiFectamine293形質導入エンハンサー23mLを追加して3日間培養した。
【0146】
形質導入(transfection)してから6日後に培養培地を収集し、除菌後にFPLCを使用して精製した。カラムは、ニッケルクロマトグラフィー(HisTrapTM excel、GE healthcare)を使用して分離・精製され、次の[20mMのリン酸ナトリウム(sodium phosphate)、0.5M NaCl、pH7.4]条件のバッファーでニッケルカラムを予め濡らして均等にした後、培地を適用させた。25mMのイミダゾールが含まれている上記のバッファーを用いて洗浄を行った後、イミダゾールを125mMに増加させ、タンパク質を分離した。分離されたタンパク質を集め、脱塩(desalting)を通じてイミダゾールを除去して保管した。
【0147】
図3(B)は、pcDNA3.4-TOPO、
図3Cは、pcDNA3.1-TOPOで発現されて精製された癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片のSDS-PAGEとウェスタンブロット結果を示す。
【0148】
実施例2:癌細胞透過能ペプチドと抗KRAS突然変異単一鎖可変断片(scFv)の化学的結合による製作
【0149】
実施例2-1:細胞透過性ペプチドの合成
【0150】
化学的結合法に使用される癌細胞透過機能性ペプチドとリンカーのアミノ酸配列は、表6に示す通りである。
【0151】
【0152】
アミノ酸及び合成に必要な試薬は、GL biochemとSigma-Aldirichから購入した。ペプチドは、反応容器を用いてC末端からF-moc固体相化学合成方法で合成した。すなわち、ブロッキンググループとしてFmoc-(9-フルオレニルメトキシカルボニル)が結合されたリンクアミドMBHAレジン(0.678mmol/g、100メッシュ~200メッシュ)を使用して合成し、反応容器に1gのリンクアミドMBHAレジンを入れた後、DMFでレジンをスウェリング(swelling)させた後、Fmoc-グループの除去のために20%のピぺリジン/DMF溶液を使用した。C末端から配列通りに0.5Mのアミノ酸溶液(溶媒:ジメチルホルムアミド、DMF)、1.0M DIPEA(溶媒:ジメチルホルムアミド&n-メチルピロリドン、DMF&NMP)、0.5M HBTU(溶媒:ジメチルホルムアミド、DMF)をそれぞれ5、10、5当量ずつ入れ、窒素気流化で1時間~2時間にわたって反応させた。前記脱保護(deprotection)とカップリング段階が終了する度に、DMFとメタノールで3回洗浄する過程を経た。最後のアミノ酸をカップリングさせた後にも脱保護を行い、Fmoc-グループを除去した。
【0153】
合成の確認には、ニンヒドリンテスト(ninhydrin test)方法を用い、テストを経て合成が完了したレジンは、真空乾燥させた後、トリフルオロ酢酸(TFA)クリーベイジカクテル(cleavage cocktail)をレジン1g当たり10mlの比率で入れて3時間振った後、フィルタリングを通じてレジンとペプチドが溶けているカクテルを分離した。フィルターでろ過された溶液をコールドエーテル(cold ether)に入れたり、ペプチドが溶けているTFAカクテル溶液に過量のコールドエーテルを直接入れ、ペプチドを固体相に結晶化させ、これを遠心分離した。このとき、エーテルで多数回の洗浄と遠心分離過程を経てTFAカクテルを完全に除去した。このようにして得られたペプチドを真空乾燥した。
【0154】
合成されたペプチドは、高性能液体クロマトグラフィー(Shimadzu、Japan)によって分離・精製した。直径4.6mmのC18カラムを用いて流速1ml/minで0.1%のTFA/H2Oと0.1%のTFA/アセトニトリルを5%から45%に変化させながら40分間流す方法で分析し、このとき、紫外線検出器の波長は220nmにした。精製は、直径50mmのカラムを用いて流速50ml/minで同じ溶媒と検出波長の条件で実施した。精製されたペプチドの分子量を質量分析法(Mass spectrometry)を通じて確認した。
【0155】
実施例2-2:KRAS突然変異をターゲットとするscFvのリンカー部分に癌細胞透過能を有するペプチドの化学結合及び精製
【0156】
配列番号1の1.02mg KRAS scFvを1mL PBSバッファー(pH8.3)に溶解した。2.12mg SPDP(succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)propionate、ThermoFisher、21857)を120μL DMSO(Dimethyl sulfoxide)に溶解した。KRAS scFv溶液に40μL SPDP溶液を添加し、1時間にわたって遮光させて反応することを3回繰り返した。又は、2mg sulfo-SMCC(succinimidyl 4-[N-maleimidomethyl]cyclohexane-1-carboxylate、ThermoFisher、22322)をPBSに溶解した。KRAS scFv溶液に40μL sulfo-SMCC溶液を添加し、1時間にわたって遮光させて反応することを3回繰り返した。
【0157】
反応が終決すると、PD-10脱塩カラム(GE healthcare)を使用して脱塩を行い、3.5mLのピリジルジチオール活性(activated)KRAS scFvを収得した。その後、3次精製水300μLに2.5mg Cys-G5-H4K(配列番号60)、Cys-G5-H4P(配列番号61)、Cys-G5-LMWP(配列番号62)、Cys-G5-hBD3-3(配列番号63)、Cys-G5S2G5-H4K(配列番号64)、Cys-G5S2G5-H4P(配列番号65)、Cys-G5S2G5-LMWP(配列番号66)、Cys-G5S2G5-hBD3-3(配列番号67)溶液をそれぞれ混合し、1Mのトリスバッファー(pH=9)を使用してpH8.3に調整した。遮光後、4℃で混合しながら一晩反応させた。FPLC(Akta Pure、GE healthcare)でヘパリンカラム(heparin column)(HiTrap、GE Healthcare)を使用し、癌細胞透過能を有するペプチドが結合されたKRAS突然変異scFvを精製した。
【0158】
配列番号1の1.02mg scFvを1mL PBSバッファー(pH7.4)に溶解した。2.98mg Sulfo-SMCC(sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate、ThermoFisher、catalog 22322)を300μLの3次精製水に溶解した。scFv溶液に100μLのSulfo-SMCC溶液を添加し、30分間遮光させて反応することを3回繰り返した。反応が終決すると、PD-10脱塩カラム(GE healthcare、17-0851-01)を使用して脱塩を行い、3.5mLのマレイミド活性(activated)scFvを収得した。その後、PBSバッファー(pH8.3)300μLに2.5mg Cys-G5-H4K(配列番号60)、Cys-G5-H4P(配列番号61)、Cys-G5-LMWP(配列番号62)、Cys-G5-hBD3-3(配列番号63)、Cys-G5S2G5-H4K(配列番号64)、Cys-G5S2G5-H4P(配列番号65)、Cys-G5S2G5-LMWP(配列番号66)、Cys-G5S2G5-hBD3-3(配列番号67)溶液をそれぞれ混合し、これをpH7.0~7.5に調整した。遮光後、4℃で混合しながら一晩反応させた。FPLC(Akta Pure、GE healthcare)でヘパリンカラム(HiTrap、GE Healthcare)を使用し、癌細胞透過能を有するペプチドが結合されたscFvを精製した。
【0159】
図4は、化学的結合方法で製造された癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体又は単一鎖可変断片のSDS-PAGEとウェスタンブロットを示す。
【0160】
配列番号1のKRAS突然変異scFvの分子量が約30kDa、癌細胞透過能ペプチドが結合されたKRAS突然変異scFvの分子量が約32kDaと測定された。また、ウェスタンブロットでKRAS抗体と結合されたバンドの分子量も、配列番号1のscFvの場合は30kDa、癌細胞透過能ペプチドが結合された場合は約32kDaと測定され、scFvにペプチドが結合されていることを確認した。
【0161】
実施例2-3:KRAS突然変異scFvのC末端部分への癌細胞透過能ペプチドの化学結合及び精製
【0162】
配列番号3のKRAS突然変異scFvと、20モル当量(molar equivalents)のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)とを常温で3時間にわたって反応させ、遊離チオール(Free thiol)基を形成した。KRAS突然変異scFv溶液に100モル当量の5,50-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)を加えながら常温で1時間にわたって反応させ、遊離チオール基に結合した。KRAS突然変異scFvと結合していない過量のDTNBは、FPLC(Akta Pure、GE healthcare)でヘパリンカラム(HiTrap、GE Healthcare)を使用して除去した。その後、KRAS突然変異scFv-DTNB結合体(conjugates)は、10モル当量の癌細胞透過能ペプチド(配列番号60~67)と常温で1時間にわたって反応させた。FPLC(Akta Pure、GE healthcare)でヘパリンカラム(HiTrap、GE Healthcare)を使用し、癌細胞透過能ペプチドが結合されたKRAS突然変異scFvを精製した。
【0163】
化学的結合法によって生成された癌細胞透過機能性ペプチドとKRAS突然変異scFvとが連結された融合タンパク質のアミノ酸配列は、表7に示す通りである。
【0164】
【0165】
実施例3:KRAS突然変異の発現程度が異なる癌細胞に対する抑制能確認
【0166】
本発明に係る癌細胞透過能のKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの癌細胞特異的増殖抑制程度を確認するために、96-ウェルにH358(cancer cell expressing KRAS mutant)、ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblast)(正常細胞)を5×103cell/wellで分注した後、RPMI培地1640(Gibco)で24時間培養した。各scFv(配列番号1、28-35)は、5μMの濃度で処理した。細胞毒性は、CCK-8(Cell Counting Kit-8、CK04、Dojindo Lab.)を用いて測定した。それぞれの融合体を処理してから48時間後に培地を除去し、新しいRPMI培地1640にCCK-8溶液を100μlずつ分注した。1時間30分後、450nmで吸光度を測定した。
【0167】
その結果、
図5に示すように、配列番号28~31、68、69は、H358細胞で100~500nMのIC50(細胞の50%が死滅する濃度)を示しており、配列番号1は、5μMの濃度でもIC50を算出できなかった。これは、配列番号1の場合は、癌細胞を透過できないので癌細胞死滅の効果を示さなかったが、配列番号28~31、68、69の場合は、癌細胞透過機能性を有するので細胞毒性を示したと見なされる。正常細胞であるヒト皮膚線維芽細胞では、全ての濃度で80%以上の細胞生存率を示した。これは、癌細胞透過機能性KRAS突然変異をターゲットとするscFv融合体が癌細胞特異的に細胞毒性を有することを意味する。
【0168】
実施例4:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvによる活性型KRAS(突然変異KRAS)の発現阻害能評価
【0169】
H358細胞(ATCC、CRL-5807)1.0×106個をシーディングし、24時間にわたってRPMI培地1640(1X)(Gibco、22400-089)で培養した後、再び16時間にわたって飢餓(starvation)させた。EGF(epithelial growth factor、R&D Systems.236-EG)50ng/mLを10分間処理し、各変異体(variant)を1μMずつ処理した。その後、これを37度で24時間培養した。24時間経過後、培地を除去し、DPBSで洗浄した後、細胞を収得し、1500rpmで3分間遠心分離した。1x溶解バッファー(1X Lysis/Binding/Wach buffer、11524S)を150μL加えて混合した後、氷で5分間反応した。16,000rpm及び4度で15分間遠心分離し、上澄み液を分離した。BCAアッセイでタンパク質の濃度を測定(Thermo scientific、23227)した。1x溶解バッファー400μLで洗浄し、遠心分離を6000xgで15秒間2回行った。
【0170】
突然変異KRASを分離するために、活性型GTPaseキット(Cell signaling、11860S)を使用し、GST-Raf1-RBDを80μg入れ、500μgのタンパク質をスピンカップに分注した。4度で1時間反応し、6000xgで15秒間遠心分離した後、新しいチューブにカラムを移し、1x溶解バッファー400μLを加えた。6000xgで15秒間遠心分離した後、新しいチューブにカラムを移し、2xSDSバッファー(5X SDS Sample loading dye 200μl、水300μl混合)50μLを分注した後で2分間反応した。6000xgで2分間遠心分離した後、100度で7分間加熱した。11%のSDS-PAGEでタンパク質(タンパク質の積載容量(loading volume)20μl/lane)を電気泳動で分離し、これをニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)に移した。KRASの下位信号であるERK1/2を測定するために、タンパク質は、30μgずつ11%のSDS-PAGEで電気泳動し、ニトロセルロース膜に移した。T-TBSに溶かした5%のスキムミルク(skim milk)で1時間ブロッキングし、1次抗体をT-TBSに1:1000で希釈し、4℃で反転(inverting)させながら一晩反応させた。T-TBSで10分間3回ずつ洗浄し、2次抗体をT-TBSに1:3000で希釈し、常温で反転させながら1時間にわたって反応させた。T-TBSで10分間3回ずつ洗浄した後、ECL基板(substrate)(Thermo、34580)で化学発光を行い、アマシャムイメージャー(Amersham Imager)680(GE)で確認した。使用された抗体の情報は、下記の表8に示す通りである。
【0171】
【0172】
配列番号20~23の場合は、KRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvと細胞透過機能性ペプチドとの間のリンカーがGGGGSで、配列番号90~93の場合は、リンカーがGGGGSGGGGSGGGGSである。
【0173】
その結果、
図6に示すように、配列番号20~23のいずれにおいても、EGFのみを処理したときに比べて活性型KRASが減少した。また、KRASの下位信号であるpERK1/2も、配列番号20~23によって減少したことが分かった。
【0174】
図7に示すように、配列番号90~93のいずれにおいても、EGFのみを処理したときに比べて活性型KRASが減少した。また、KRASの下位信号であるpERK1/2は、配列番号91、92によって減少したことが分かった。
【0175】
実施例5:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの細胞透過能評価
【0176】
癌細胞透過能を試験するために、H358細胞を1×105で分注し、48時間後、配列番号20~23をそれぞれ500nMで加えて30分間培養した。4%のパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)で固定し、0.1%のトリトン(Triton)-X100で10分間透過化(permeabilization)した後、2%のBSAでブロッキングした。細胞内にあるKRASは、抗RAS抗体(anti-RAS antibody)(Origene、cst53270)で1:1000の比率で反応させ、抗ウサギ(anti-Rabbit)Alexa Fluor 488(Invitrogen、A27034)で1:2000で2次反応した。配列番号20~23は、V5-タグ抗体(Tag antibody)(Origene、cst 13202)で1:1000の比率で反応させ、抗マウス(anti-mouse)Alexa Fluor 555(Invitrogene、A28180)で1:1000の比率で反応させた。細胞核は、0.1μg/mL DAPI(Thermofisher、R37606)で染色した。細胞内に透過された配列番号20~23を共焦点示差走査顕微鏡で測定した。
【0177】
その結果、
図8に示すように、配列番号2を除いては、配列番号20-23は、いずれも細胞内に透過されたことが分かった。また、癌細胞内に存在するKRASと共局在(co-localization)していることが分かった。よって、配列番号20~23は、細胞内に透過され、細胞内に存在するKRASに結合できることが分かった。
【0178】
実施例6:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの腫瘍異種移植片動物モデルにおける癌組織で分布評価
【0179】
5~6週齢の雌Balb/cヌードマウス(nude mouse)(5~6 weeks old;Japan SLC Inc,Hamamatsu,Japan)の大腿部に、H358細胞1×106とマトリゲル(Matrigel)(BD Bioscience,San Diego,CA,USA)100μLとを混合したものを移植し、100mm3サイズの腫瘍が形成されるようにした。Cy5.5で標識した配列番号2と配列番号23、Cy5.5をマウス当たり20μgの用量でそれぞれ腹腔に注射し、24時間後に各主要臓器と癌組織に分布する蛍光を観察した。
【0180】
その結果、
図9に示すように、配列番号23は、注射してから24時間後に癌組織に主に分布し、一部は腎臓で排泄されることが分かった。
【0181】
また、
図10に示すように、蛍光強度を測定したとき、配列番号23の場合は、癌組織で蛍光強度が最も高いことが分かった。
【0182】
実施例7:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの腫瘍異種移植片動物モデルにおける腫瘍抑制評価
【0183】
5~6週齢の雌Balb/cヌードマウス(5~6 weeks old;Japan SLC Inc,Hamamatsu,Japan)の大腿部に、H358細胞1×106とマトリゲル(BD Bioscience,San Diego,CA,USA)100μLとを混合したものを移植し、100mm3サイズの腫瘍が形成されるようにした。配列番号2及び配列番号23は、1mg/kgの用量でそれぞれ腹腔に1週間に2回ずつ30日間注射した。3~4日間隔で腫瘍のサイズをバーニアキャリパーで測定し、30日目にマウスを犠牲させ、腫瘍を摘出した後、摘出された腫瘍を写真で観察した。
【0184】
その結果、
図11及び
図12に示すように、配列番号2は腫瘍抑制効果を示さなかったが、配列番号23は腫瘍抑制効果に優れていた。これは、癌組織に透過された配列番号23が、腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することを証明する。
【0185】
実施例8:化学的結合法によって製造された配列番号80~83の融合タンパク質の効果
【0186】
実施例8-1:癌細胞透過能のKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvによる活性型KRAS(突然変異KRAS)の発現阻害能評価
【0187】
H358細胞(ATCC、CRL-5807)1.0×106個をシーディングし、24時間にわたってRPMI培地1640(1X)(Gibco、22400-089)で培養した後、再び16時間にわたって飢餓(starvation)させた。EGF(epithelial growth factor,R&D Systems.236-EG)50ng/mLを10分間処理し、各変異体を1μMずつ処理した。これを37度で24時間培養した。24時間経過後に培地を除去し、DPBSで洗浄した後、細胞を収得し、1500rpmで3分間遠心分離した。1x溶解バッファー(1X Lysis/Binding/Wash buffer、11524S)を150μL加えて混合した後、氷で5分間反応した。16,000rpm、4度で15分間遠心分離し、上澄み液を分離した。BCAアッセイでタンパク質の濃度を測定(Thermo scientific、23227)した。1x溶解バッファー400μLで洗浄し、遠心分離を6000xgで15秒間2回行った。
【0188】
突然変異KRASを分離するために、活性型GTPaseキット(Cell signaling、11860S)を使用してGST-Raf1-RBD 80μgを入れ、500μgのタンパク質をスピンカップに分注した。4度で1時間反応し、6000xgで15秒間遠心分離した後、新しいチューブにカラムを移し、1x溶解バッファー400μLを加えた。6000xgで15秒間遠心分離した後、新しいチューブにカラムを移し、2x SDSバッファー(5X SDS Sample loading dye 200μlと水300μlの混合)50μLを分注した後で2分間反応した。6000xgで2分間遠心分離した後、100度で7分間加熱した。11%のSDS-PAGEでタンパク質(タンパク質の積載容量(loading volume)20μl/lane)を電気泳動で分離し、ニトロセルロース膜に移した。KRASの下位信号であるERK1/2を測定するために、タンパク質は、30μgずつ11%のSDS-PAGEで電気泳動し、ニトロセルロース膜に移した。T-TBSに溶かした5%のスキムミルクで1時間ブロッキングし、1次抗体をT-TBSに1:1000で希釈し、4℃で反転させながら一晩反応させた。T-TBSで10分間3回ずつ洗浄し、2次抗体をT-TBSに1:3000で希釈し、常温で反転させながら1時間にわたって反応させた。T-TBSで10分間3回ずつ洗浄した後、ECL基板(Thermo、34580)で化学発光を行い、アマシャムイメージャー680(GE)で確認した。使用された抗体の情報は、下記の表に示す通りである。
【0189】
【0190】
配列番号80~83は、KRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvに細胞透過機能のペプチドを化学的結合で連結したものである。その結果、
図13に示すように、配列番号80~83のいずれにおいても、EGFのみを処理したときに比べて活性型KRASが減少した。また、KRASの下位信号であるpERK1/2も、配列番号80~83によって減少したことが分かった。
【0191】
実施例8-2:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvのKRAS突然変異の発現程度が異なる癌細胞に対する抑制能確認
【0192】
本発明に係る癌細胞透過能のKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの癌細胞特異的増殖抑制程度を確認するために、96-ウェルにH358(cancer cell expressing KRAS mutant)、ヒト皮膚線維芽細胞(正常細胞)を5×103cell/wellで分注した後、RPMI培地1640(Gibco)で24時間培養した。各scFv(配列番号3、80-83)は、0から5μMの濃度で処理した。細胞毒性は、CCK-8(Cell Counting Kit-8,CK04,Dojindo Lab.)を用いて測定した。それぞれの融合体を処理した後、48時間後に培地を除去し、新しいRPMI培地1640にCCK-8溶液を100μlずつ分注した。1時間30分後、450nmで吸光度を測定した。
【0193】
その結果、
図14に示すように、配列番号80~83は、H358細胞で313~1250nMのIC50(細胞の50%が死滅する濃度)を示しており、配列番号3は、5μMの濃度でもIC50を算出できなかった。これは、配列番号3の場合は、癌細胞を透過できないので癌細胞死滅の効果を示さなかったが、配列番号80-83の場合は、癌細胞透過機能性を有するので細胞毒性を示したことが分かる。正常細胞であるヒト皮膚線維芽細胞では、全ての濃度で80%以上の細胞生存率を示した。これは、癌細胞透過機能性KRAS突然変異をターゲットとするscFv融合体が癌細胞特異的に細胞毒性を有することを意味する。
【0194】
実施例8-3:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの細胞透過能評価
【0195】
癌細胞透過能を試験するために、H358細胞を1×105で分注し、48時間後に配列番号80~83をそれぞれ500nMで加え、30分間培養した。4%のパラホルムアルデヒドで固定し、0.1%のトリトン-X100で10分間透過化(permeabilization)した後、2%のBSAでブロッキングした。細胞内にあるKRASは、抗RAS抗体(Origene、cst53270)で1:1000の比率で反応させ、抗ウサギAlexa Fluor 488(Invitrogen、A27034)で1:2000で2次反応させた。配列番号80-83は、V5-タグ抗体(Origene、cst 13202)で1:1000の比率で反応させ、抗マウスAlexa Fluor 555(Invitrogene、A28180)で1:1000の比率で反応させた。細胞核は、0.1μg/mL DAPI(Thermofisher、R37606)で染色した。細胞内に透過された配列番号80~83を共焦点示差走査顕微鏡で測定した。
【0196】
その結果、
図15に示すように、配列番号3を除いて、配列番号80~83は、いずれも細胞内に透過されたことが分かった。また、癌細胞内に存在するKRASと共局在(co-localization)していることが分かった。よって、配列番号80~83は、細胞内に透過され、細胞内に存在するKRASに結合できることが分かった。
【0197】
実施例8-4:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの腫瘍異種移植片動物モデルにおける癌組織で分布評価
【0198】
5~6週齢の雌Balb/cヌードマウス(5~6 weeks old;Japan SLC Inc,Hamamatsu,Japan)の大腿部に、H358細胞1×106とマトリゲル(BD Bioscience,San Diego,CA,USA)100μLとを混合したものを移植し、100mm3サイズの腫瘍が形成されるようにした。Cy5.5で標識した配列番号3と配列番号83、Cy5.5をマウス当たり20μgの用量でそれぞれ腹腔に注射し、24時間後に各主要臓器と癌組織に分布する蛍光を観察した。
【0199】
その結果、
図16に示すように、配列番号83は、注射してから24時間後に癌組織に主に分布し、一部は腎臓で排泄されることが分かった。
【0200】
また、
図17に示すように、蛍光強度を測定したとき、配列番号83の場合は、癌組織で蛍光強度が最も高いことが分かった。
【0201】
実施例8-5:癌細胞透過能を有するKRAS突然変異をターゲットとする抗体及びscFvの腫瘍異種移植片動物モデルにおける腫瘍抑制評価
【0202】
5~6週齢の雌Balb/cヌードマウス(5~6 weeks old;Japan SLC Inc,Hamamatsu,Japan)の大腿部に、H358細胞1×106とマトリゲル(BD Bioscience,San Diego,CA,USA)100μLとを混合したものを移植し、100mm3サイズの腫瘍が形成されるようにした。配列番号3及び配列番号83を1mg/kgの用量でそれぞれ腹腔に1週間に2回ずつ30日間注射した。3~4日間隔で腫瘍のサイズをバーニアキャリパーで測定し、30日目にマウスを犠牲させ、腫瘍を摘出した後、摘出された腫瘍を写真で観察した。
【0203】
その結果、
図18及び
図19に示すように、配列番号3は腫瘍抑制効果を示さなかったが、配列番号83は腫瘍抑制効果に優れていた。これは、癌組織に透過された配列番号83が、腫瘍細胞の増殖を効果的に抑制することを証明する。
【0204】
以上では、本発明の内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界で通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は好ましい実施様態に過ぎなく、これによって本発明の範囲が制限されないことは明白であろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の各請求項とそれらの等価物によって定義されると言えるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0205】
本発明では、腫瘍の発病に重要な要因として作用する細胞内の腫瘍誘発タンパク質又はこれらの突然変異に結合し、その機能を阻害する細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片を活用し、その癌細胞接近性を強化させるために癌細胞透過機能性ペプチドを連結した。このように製作された融合タンパク質は、効果的に腫瘍細胞に浸透し、細胞内の腫瘍誘発タンパク質又は腫瘍誘発突然変異タンパク質をターゲットとする抗体又はその単一鎖可変断片の抗腫瘍又は抗癌効果を極大化できるという長所を有する。
【配列表フリーテキスト】
【0206】
【配列表】