(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】正極材料、その製造方法及び使用、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240903BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240903BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2023547895
(86)(22)【出願日】2022-12-26
(86)【国際出願番号】 CN2022142015
(87)【国際公開番号】W WO2023125439
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】202111611309.0
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517232741
【氏名又は名称】ベイジン イースプリング マテリアル テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】リー,ウェンフゥイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジンジン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジンポン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ヤーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イェンビン
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-073800(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187953(WO,A1)
【文献】特開2021-141066(JP,A)
【文献】国際公開第2021/066576(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/013674(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097137(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子を凝集してなる二次粒子であり、
前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d
10、d
50及びd
90が、10nm≦d
50≦40nm、1≦k
90≦8という関係を満たし、ただし、k
90=(d
90-d
10)/d
50であ
り、
前記二次粒子の平均寸法の細孔径の面積S
II
と前記一次粒子の平均面積S
I
との比γが、0.01%≦γ≦0.2%という関係を満たし、
正極材料の組成が式Iに示されることを特徴とする正極材料。
Li
e
(Ni
1-x-y-z-m
Co
x
M
y
G
z
H
m
)O
2
式I
(式I中、0.9≦e≦1.3、x≦(1-x-y-z-m)、y≦(1-x-y-z-m)、0.5≦1-x-y-z-m<1、0≦y<0.2、0≦z<0.05、0≦m<0.05であり、yとzは同時に0ではなく、
MはAl及び/又はMnから選択され、Gは第2~5周期の第2族~第13族から選択される少なくとも1種の元素あり、HはB、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zr、W、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である。)
【請求項2】
前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d
10、d
50及びd
90が、12nm≦d
50≦35nm、2≦k
90≦6という関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記二次粒子の平均寸法の細孔径の面積S
IIと前記一次粒子の平均面積S
Iとの比γが
、0.05%≦γ≦0.20%という関係を満
たす請求項
1に記載の正極材料。
【請求項4】
前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I
003
と(104)結晶面のピーク強度I
104
が、1≦I
003
/I
104
≦1.8という関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d
003
と(104)結晶面の層間隔d
104
が、d
003
/d
104
≧1という関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項6】
前記正極材料の粒径D
5
、D
50
及びD
95
は、5μm≦D
50
≦20μm、0.5≦K
95
≦2、ただし、K
95
=(D
95
-D
5
)/D
50
という関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項7】
前記正極材料の粒子強度MCTは60MPa≦MCT≦200MPaという関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項8】
前記正極材料のBETは、0.25m
2
/g≦BET≦0.95m
2
/gという関係を満たす請求項1に記載の正極材料。
【請求項9】
式I中、0.95≦e≦1.1、0.53≦1-x-y-z-m<0.99、0<y<0.15、0<z<0.03、0<m<0.03であり、
MはMnであり、GはAl、Mg、Ca、Sr、Zr、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、HはB、Zr、Nb、Al及びYから選択される少なくとも1種の元素である
請求項1に記載の正極材料。
【請求項10】
ニッケル塩、コバルト塩及びM塩を用いてNi:Co:M=(1-x-y-z-m):x:yのモル比で混合塩溶液を製造し、ドーピング元素を用いてドーピング元素G溶液を製造するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤、錯化剤及
びドーピング元素G溶液を反応釜に加え、共沈殿反応を行った後、濾過、洗浄、乾燥をして、正極材料前駆体を得るステップ(2)と、
前記正極材料前駆体、Li源
、ドーピング元素Gを混合して焼結し、第1焼結材を得るステップ(3)と、
被覆元素Hを用いて前記第1焼結材を被覆した後、熱処理を行い、前記正極材料を得るステップ(4)と、を含み、
前記共沈殿反応の総時間をtとして、前記共沈殿反応の各段階のpH値が制御され、
共沈殿反応が0~t/3段階まで行われる
間、pH値がQ1に制御され、共沈殿反応がt/3~2/3t段階まで行われる
間、pH値がQ2に制御され、共沈殿反応が2/3t~t段階まで行われる
間、pH値がQ3に制御され、
13>Q1>Q2>Q3>10であり、
共沈殿反応が0~t/3まで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスと酸素ガスの存在下で行われ、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~5vol%であり、共沈殿反応がt/3~2/3tまで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスと酸素ガスの存在下で行われ、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~3vol%であり、共沈殿反応が2/3t~tまで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスの存在下で行われ、
焼結温度は650~900℃であり、
ただし、ドーピング元素Gはステップ(2)及びステップ(3)の少なくともいずれか一方のステップで導入される、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の正極材料の製造方法。
【請求項11】
10h≦t≦120hである請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記共沈殿反応の温度は30~100℃である請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記Q1、Q2及びQ3は等差数列的に逓減する請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
ステップ(3)では、前記Li源の添加量により、0.9≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(M)]≦1.3であるように
する請求項
10に記載の製造方法。
【請求項15】
前記正極材料前駆体の全重量を基準にして、前記ドーピング元素Gの使用量が5000ppm以下である請求項10に記載の製造方法。
【請求項16】
前記焼結温度は700~890℃、焼結時間は6~30hである請求項10に記載の製造方法。
【請求項17】
ステップ(4)では、前記第1焼結材の全重量を基準にして、前記被覆元素Hの使用量は5000ppm以下である請求項10に記載の製造方法。
【請求項18】
ステップ(4)では、前記熱処理の条件として、熱処理温度は200~500℃、熱処理時間は5~18hである請求項10に記載の製造方法。
【請求項19】
前記ニッケル塩は硫酸ニッケル、硝酸ニッケル及び塩化ニッケルから選択される少なくとも1種であり、
前記コバルト塩は硫酸コバルト、硝酸コバルト及び塩化コバルトから選択される少なくとも1種であり、
前記M塩はAl塩及び/又はMn塩から選択される請求項10に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項1
~9のいずれか1項に記載の正極材料のリチウムイオン電池における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2021年12月27日に提出された中国特許出願202111611309.0の利益を主張しており、当該出願の内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明はリチウムイオン電池の正極材料の分野に関し、具体的には、正極材料、その製造方法及び使用、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
現在の世界の新エネルギーに対する切実な要求に伴い、ますます多くのクリーンエネルギーが電力・動力設備に応用されている。20世紀90年代、ソニー社がリチウムイオン電池を最初に発売して以来、リチウムイオン電池はその高い比エネルギー、リサイクル可能性などの利点で、多くのエネルギー貯蔵設備企業と科学研究界から注目されている。リチウムイオン電池の正極材料はLiCoO2、Li2MnO4、LiFePO4などの発展を経て、現在は主に三元材料に集中している。
【0004】
電気自動車の航続距離と安全性に対する国の要求が高まるにつれ、科学研究界は三元材料のうち高ニッケル材料の研究を深めてきた。また、正極材料の表面と内部の細孔径が材料の性能に直接影響することもますます明らかになってきている。細孔径が大きく細孔の数が多いほど、材料の表面と内部の緻密度が直観的に反映され、充放電中に、電解液の浸漬とリチウムイオンの吸蔵/放出に十分な界面を提供して、電池に使用されたときの正極材料の実際容量と単回の航続時間を効果的に増加する。しかし、細孔径が大きく細孔の数が多いほど、リチウムイオンの吸蔵/放出時に表面の結晶構造が崩れやすくなり、電池の使用寿命が低下する。そのため、正極材料の製造過程において、如何に粒子中の最適な細孔分布、特に細孔径のサイズと細孔数を効果的に制御するかは非常に重要である。
【0005】
CN108123119Aは、二次粒子の外部の空隙率が6~20%の範囲にあり、内部の空隙率が5%であるリチウム二次電池用ニッケル系活物質を開示した。この従来技術は、外部空隙率が内部空隙率を超える正極材料を含む。実際に使ってみると、短期間内に電解液は材料の表面に浸漬して、外部の多孔質構造は初期容量を高めることができる反面、充放電を繰り返すと、表面が崩れやすく、不可逆的な「無効リチウム」が発生し、一方、内部構造が緻密であり、充放電後期に容量は大きく減少し、これは好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リチウムイオン電池では充放電中に短期間性能と長期間性能のバランスが取られないという従来技術の課題を解決するために、正極材料、その製造方法及び使用を提供することであり、この正極材料は特定の細孔径、細孔径分布、細孔面積及び微結晶構造等を有し、該正極材料で製造されるリチウムイオン電池では、充放電中に、短期間性能例えば初回充放電容量と長期間性能例えば容量維持率が全て向上する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様は、
一次粒子を凝集してなる二次粒子であり、
前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d10、d50及びd90が、10nm≦d50≦40nm、1≦k90≦8という関係を満たし、ただし、k90=(d90-d10)/d50であることを特徴とする正極材料を提供する。
【0008】
本発明の第2態様は、
ニッケル塩、コバルト塩及びM塩を用いてNi:Co:M=(1-x-y-z-m):x:yのモル比で混合塩溶液を製造し、ドーピング元素を用いてドーピング元素G溶液を製造するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤、錯化剤及び任意のドーピング元素G溶液を反応釜に加え、共沈殿反応を行った後、濾過、洗浄、乾燥をして、正極材料前駆体を得るステップ(2)と、
前記正極材料前駆体、Li源、任意のドーピング元素Gを混合して焼結し、第1焼結材を得るステップ(3)と、
被覆元素Hを用いて前記第1焼結材を被覆した後、熱処理を行い、前記正極材料を得るステップ(4)と、を含み、
前記共沈殿反応の総時間をtとし、前記共沈殿反応の各段階のpH値が制御され、
共沈殿反応が0~t/3まで行われると、pH値がQ1であり、
共沈殿反応がt/3~2/3tまで行われると、pH値がQ2であり、
共沈殿反応が2/3t~tまで行われると、pH値がQ3であり、
13>Q1>Q2>Q3>10であることを特徴とする正極材料の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の第3態様は上記製造方法によって製造される正極材料を提供する。
【0010】
本発明の第4態様は上記正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【発明の効果】
【0011】
上記技術案によれば、本発明による正極材料、その製造方法及び使用では、以下の有益な効果が得られる。
【0012】
本発明による正極材料が特定の細孔径分布を有することにより、該正極材料で製造されるリチウムイオン電池では、充放電中に、短期間性能例えば初回充放電容量と長期間性能例えば容量維持率が全て向上する。具体的には、本発明による正極材料は特定の細孔径分布を有することにより、リチウムイオン電池の充放電の過程において、短期間内で、表面と電解液が副反応を起こす難度を制御し、また、リチウムイオンの充放電中の表面インピーダンスを制御することができる。さらに、本発明による正極材料は特殊な微結晶構造、細孔面積及び細孔径を有することにより、正極材料の表面の結晶構造が崩れていた場合、表面における「無効リチウム」の増加による表面容量の低下を効果的に補い、材料の老化の度合いを緩和し、電池の使用寿命を延ばすことができる。
【0013】
さらに、本発明による正極材料の製造方法では、共沈殿反応の各段階のpH値を制御することにより、適切な前駆体を得ることができ、また、後期のドーピングや焼結プロセスに対する制御、及び被覆と後処理のプロセスに対する制御によって、電池材料に適切な細孔径分布を持たせ、短期間性能と長期間性能の両方を良好なものとする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で製造される正極材料の細孔径分布及び細孔径累積割合の曲線図である。
【
図2】実施例1で製造される正極材料の断面のSEM像である。
【
図3】比較例1で製造される正極材料の断面のSEM像である。
【
図4】比較例2で製造される正極材料の断面のSEM像である。
【
図5】実施例1、比較例1~2の正極材料で製造されるリチウムイオン電池のサイクル曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で開示された範囲の端点及び任意の値はの正確な範囲や値に限定されるものではなく、これらの範囲や値はこれらの範囲や値に近い値を含むものとして理解すべきである。数値の範囲の場合、各範囲の端点値同士、各範囲の端点値と個別の点値との間、及び個別の点値同士は互いに組み合わせられて1つ又は複数の新しい数値の範囲としてもよく、これらの数値の範囲は本明細書で具体的に開示されるものとしてみなすべきである。
【0016】
本発明の第1態様は、
一次粒子を凝集してなる二次粒子であり、
前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d10、d50及びd90が、10nm≦d50≦40nm、1≦k90≦8という関係を満たし、ただし、k90=(d90-d10)/d50であることを特徴とする正極材料を提供する。
【0017】
本発明では、d10とは、BJHによって得られる正極材料の平均細孔径dを昇順で並べ替える場合粒子累積分布が10%である細孔径を指し、d50とは、BJHによって得られる正極材料の平均細孔径dを昇順で並べ替える場合、粒子累積分布が50%である細孔径を指し、d90とは、BJHによって得られる正極材料の平均細孔径dを昇順で並べ替える場合、粒子累積分布が90%である細孔径を指す。
【0018】
本発明では、上記特定の細孔径及び細孔径分布を有する正極材料によれば、該正極材料で製造されるリチウムイオン電池では、充放電中に、短期間性能例えば初回充放電容量と長期間性能例えば容量維持率が全て向上する。
【0019】
本発明では、上記細孔径d50を有する正極材料は優れた初回充放電容量とサイクル特性を兼ね備え、具体的には、d50が10nm未満である場合、内部の細孔径が小さく、内部のLiイオンの往復が大きく遮断され、材料全体の容量の発揮に悪影響を与え、d50が40nmよりも大きい場合、内部の細孔径が大きく、材料の粒子強度が低下し、電池正極の極板をロールプレスするときに、粒子の破砕や粉末化が生じやすい。
【0020】
本発明では、上記細孔径分布k90を有する正極材料は優れた初回充放電容量とサイクル特性を兼ね備え、具体的には、k90が1未満である場合、細孔径分布が一致する傾向にあり、実際の生産においてはこれは難しいことであり、k90が8よりも大きい場合、材料の内部細孔径のサイズが不均一であり、電解液の濡れ度合いが異なり、その結果、放電の深さが異なり、サイクルの劣化を招く。
【0021】
さらに、前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d10、d50及びd90が、12nm≦d50≦35nm、2≦k90≦6という関係を満たす。
【0022】
本発明によれば、前記二次粒子の平均寸法の細孔径の面積SIIと前記一次粒子の平均面積SIとの比γが、0.01%≦γ≦0.2%という関係を満たす。
【0023】
本発明では、前記二次粒子の平均寸法の細孔径の面積とは、細孔径の平均値を基準として算出した面積である。
【0024】
本発明では、平均寸法の細孔径の面積SIIは式:SII=π(d50/2)2により計算され、一次粒子の平均面積SIは式:SI=a×bにより計算され、ここで、aは一次粒子の長軸長さ、bは一次粒子の短軸長さであり、aとbは一次粒子のSEM電気顕微鏡像から得られ、具体的には、正極材料の断面において少なくとも10個の一次粒子を選択し、一次粒子の長軸長さと短軸長さを取得し、少なくとも10個の一次粒子の面積の平均値を算出し、SIとする。
【0025】
本発明では、二次粒子の平均寸法の細孔径の面積SIIと一次粒子の平均面積SIとの比γが上記関係を満たす場合、空隙の作用が容量の発揮に影響を与えずに最大限に発揮され、これにより、該正極材料で製造される電池は高い初回充放電容量と優れたサイクル特性を兼ね備える。
【0026】
さらに、前記二次粒子の平均寸法の細孔径の面積SIIと前記一次粒子の平均面積SIとの比γが、0.05%≦γ≦0.20%という関係を満たす。
【0027】
本発明によれば、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I003と(104)結晶面のピーク強度I104が1≦I003/I104≦1.8という関係を満たす。
【0028】
本発明では、正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I003と(104)結晶面のピーク強度I104がXRD回折装置によりステップ走査を行い、小角度でテストする方法により得られる。
【0029】
本発明では、正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I003と(104)結晶面のピーク強度I104が上記関係を満たす場合、正極材料の微結晶構造における層状構造が良好であることを示し、これにより、正極材料の充放電サイクル中にリチウムイオンの吸蔵/放出がより容易に行われ、該正極材料で製造されるリチウムイオン電池の性能が改善される。
【0030】
さらに、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I003と(104)結晶面のピーク強度I104が、1.1≦I003/I104≦1.7という関係を満たす。
【0031】
本発明によれば、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d003と(104)結晶面の層間隔d104がd003/d104≧1という関係を満たす。
【0032】
本発明では、正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d003と(104)結晶面の層間隔d104がシェラーの式:d=kλ/(βcosθ)により計算される。
【0033】
本発明では、正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d003と(104)結晶面の層間隔d104が上記関係を満たす場合、電解液と接触するときの接触面積や角度が適切であり、これにより、最終的な材料の容量やサイクルなどの性能が全て効果的に向上する。
【0034】
さらに、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d003と(104)結晶面の層間隔d104が1.2≦d003/d104≦3という関係を満たす。
【0035】
本発明によれば、前記正極材料の粒径D5、D50及びD95が、
5μm≦D50≦20μm、0.5≦K95≦2という関係を満たし、ただし、K95=(D95-D5)/D50である。
【0036】
本発明では、前記正極材料の粒径D50は上記範囲を満たさなければならず、正極材料のD50が5μm未満である場合、粒子の流動性が悪く、材料や電池の製造において環境の湿度や温度が厳しく要求される。正極材料のD50が20μmよりも大きい場合、この正極材料を用いて電池を製造すると、電池の容量が十分に発揮できず、しかも、電池のロールプレスにおいて、正極材料の粒子が崩れやすい。
【0037】
本発明では、前記正極材料の粒径D5、D50及びD95はレーザ粒度計により測定される。
【0038】
さらに、8μm≦D50≦15μm、0.6≦K95≦1.8である。
【0039】
本発明によれば、前記正極材料の粒子強度MCTは60MPa≦MCT≦200MPaという関係を満たす。
【0040】
本発明では、前記正極材料の粒子強度MCTが上記範囲を満たす場合、材料は適切な強度を持つ。粒子強度MCTが60MPa未満である場合、電池の極板を製造するときに、粒子が崩れやすく、粒子強度MCTが200MPaよりも大きい場合、リチウムイオンの吸蔵/放出が阻止され、前記正極材料の粒子強度が上記範囲を満たす場合にのみ、材料の総合的な性能の向上が得られる。
【0041】
本発明では、前記正極材料の粒子強度MCTはマイクロ圧縮試験機により測定される。
【0042】
さらに、80MPa≦MCT≦180MPaである。
【0043】
本発明によれば、前記正極材料のBETが0.25m2/g≦BET≦0.95m2/gという関係を満たす。
【0044】
本発明では、前記正極材料の比表面積BETが上記範囲を満たす場合、材料が電解液と接触するときに、正極材料の表面の空隙が接触面積を効果的に増大し、材料の初回容量の発揮を効果的に促進するが、正極材料のBETが高すぎ、表面の空隙が多すぎると、長期間の充放電サイクルにより、表面の結晶構造が崩れやすくなり、その結果として、可逆容量が急速に低下する。このため、材料の総合的な性能を向上させるには、適切なBETが必要である。
【0045】
さらに、0.3m2/g≦BET≦0.85m2/gである。
【0046】
本発明によれば、前記正極材料の組成は式Iに示される。
Lie(Ni1-x-y-z-mCoxMyGzHm)O2 式I
(式I中、0.9≦e≦1.3、x≦(1-x-y-z-m)、y≦(1-x-y-z-m)、0.5≦1-x-y-z-m<1、0≦y<0.2、0≦z<0.05、0≦m<0.05であり、yとzは同時に0ではなく、
MはAl及び/又はMnから選択され、Gは第2~5周期の第2族~第13族から選択される少なくとも1種の元素であり、HはB、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zr、W、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である。)
【0047】
本発明では、前記正極材料はドーピング元素Gと被覆元素Hを含み、特定のドーピング元素Gと被覆元素Hが使用されることにより、正極材料において遷移金属と各ドーピング被覆元素とが異なる結合を形成し、特に、適切なプロセス条件で処理された後に、該正極材料で製造される電池は高い初回充放電容量と優れたサイクル特性を持つ。
【0048】
さらに、0.95≦e≦1.1、0.53≦1-x-y-z-m<0.99、0<y<0.15、0<z<0.03、0<m<0.03である。
【0049】
さらに、MはMnであり、GはAl、Mg、Ca、Sr、Zr、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素であり、HはB、Zr、Nb、Al及びYから選択される少なくとも1種の元素である。
【0050】
本発明における正極材料の製造方法は、前駆体の製造においてpHを絶えずに変化させるような設計を含み、具体的には、pH値は10~13の範囲内で変化する。
【0051】
本発明における正極材料の製造方法は、焼結時の焼結温度と焼結時間の設計も含み、ここでは、焼結温度は650~900℃、焼結時間は6~30hである。
【0052】
本発明の正極材料の製造方法は、表面熱処理における処理温度と処理時間の設計も含み、ここでは、熱処理温度は200~500℃、熱処理時間は5~18hである。
【0053】
本発明の第2態様は、
ニッケル塩、コバルト塩及びM塩を用いてNi:Co:M=(1-x-y-z-m):x:yのモル比で混合塩溶液を製造し、ドーピング元素を用いてドーピング元素G溶液を製造するステップ(1)と、
前記混合塩溶液、沈殿剤、錯化剤及び任意のドーピング元素G溶液と任意のドーピング元素N溶液を反応釜に加え、共沈殿反応を行った後、濾過、洗浄、乾燥をして、正極材料前駆体を得るステップ(2)と、
前記正極材料前駆体、Li源、任意のドーピング元素Gを混合して焼結し、第1焼結材を得るステップ(3)と、
被覆元素Hを用いて前記第1焼結材を被覆した後、熱処理を行い、前記正極材料を得るステップ(4)と、を含み、
前記共沈殿反応の総時間をtとし、前記共沈殿反応の各段階のpH値が制御され、
共沈殿反応が0~t/3まで行われると、pH値がQ1であり、共沈殿反応がt/3~2/3tまで行われると、pH値がQ2であり、共沈殿反応が2/3t~tまで行われると、pH値がQ3であり、
13>Q1>Q2>Q3>10であることを特徴とする正極材料の製造方法を提供する。
【0054】
本発明における正極材料の製造方法は、前駆体の製造においてpHを絶えずに変化させる設計を含み、具体的には、pH値は10~13の範囲内で変化する。共沈殿反応の各段階のpH値が制御されることにより、適切な前駆体が得られ、また、後期のドーピングと焼結プロセスに対する制御、及び被覆と後処理プロセスに対する制御によって、電池材料に適切な細孔径分布を持たせ、短期間性能と長期間性能の両方を良好なものとする。
【0055】
本発明によれば、前記ニッケル塩は硫酸ニッケル、硝酸ニッケル及び塩化ニッケルから選択される少なくとも1種であり、前記コバルト塩は硫酸コバルト、硝酸コバルト及び塩化コバルトから選択される少なくとも1種であり、前記M塩はAl塩及び/又はMn塩から選択され、より好ましくは、前記Al塩は硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム及び塩化アルミニウムから選択される少なくとも1種であり、前記Mn塩は硫酸マンガン、硝酸マンガン及び塩化マンガンから選択される少なくとも1種である。前記沈殿剤はアルカリ溶液、例えば水酸化ナトリウム溶液であり、前記錯化剤はアンモニア水である。
【0056】
本発明によれば、10h≦t≦120h、好ましくは15h≦t≦100hである。
【0057】
本発明によれば、前記共沈殿反応の温度は30~100℃、好ましくは40~70℃である。
【0058】
さらに、特定の細孔径分布、細孔径のサイズ及び適切な粒径、粒子強度などの特徴を正極材料にさらに付与するために、Q1、Q2及びQ3は等差数列的に逓減する。
【0059】
本発明によれば、前記共沈殿反応は窒素ガス及び/又は酸素ガスの存在下で行われる。
【0060】
さらに、共沈殿反応が0~t/3まで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスと酸素ガスの存在下で行われ、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~5vol%であり、共沈殿反応がt/3~2/3tまで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスと酸素ガスの存在下で行われ、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~3vol%であり、共沈殿反応が2/3t~tまで行われる間、前記共沈殿反応は窒素ガスの存在下で行われる。
【0061】
本発明では、共沈殿反応の0~t/3段階とt/3~2/3tが酸素ガスの存在下で行われ、酸素ガスの体積百分率がそれぞれ上記範囲を満たすように制御されると、特定の構造及び細孔径を有する前駆体が得られる。
【0062】
さらに、共沈殿反応の0~t/3段階では、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~3vol%であり、共沈殿反応のt/3~2/3t段階では、窒素ガスと酸素ガスの総体積を基準にして、前記酸素ガスの体積百分率が0~2vol%である。
【0063】
本発明では、前記正極材料前駆体は式IIに示す組成を有する。
(Ni1-x-yCoxMy)(OH)2 式II
(式II中、x≦(1-x-y)、y≦(1-x-y)、0.5≦1-x-y<1、0≦y<0.2である。)
【0064】
本発明によれば、前記Li源の添加量により、0.9≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(M)]≦1.3であるようにする。
【0065】
さらに、前記Li源の添加量により、0.95≦[n(Li)]/[n(Ni)+n(Co)+n(M)]≦1.2であるようにする。
【0066】
本発明では、ドーピング元素Gはステップ(2)の前記共沈殿反応中に導入されてもよいし、ステップ(3)の前記焼結中に導入されてもよく、ステップ(2)におけるドーピング元素G溶液の添加量及び/又はステップ(3)におけるドーピング元素Gの添加量は特に制限されず、前記正極材料前駆体の全重量を基準にして、前記ドーピング元素Gの使用量が5000ppm以下であるようにすればよい。本発明では、使用される製造方法は、焼結中に元素をドーピングすること、焼結における焼結温度と焼結時間の設計を含み、焼結温度は650~900℃、焼結時間は6~30hである。
【0067】
前記焼結の条件として、焼結温度は650~900℃、焼結時間は6~30hである。
【0068】
本発明によれば、ドーピング元素Gは第2~5周期の第2族~第13族から選択される少なくとも1種の元素である。
【0069】
本発明では、ドーピング元素Gの種類及び焼結条件、特に焼結温度を制御することにより、一次粒子の成長をさらに制御し、一次粒子の平均面積を制御し、製造された正極材料の平均細孔面積と一次粒子面積が本願の要件を満たすようにし、容量の発揮に影響を与えずに空隙の作用を最大限に発揮することができる。具体的には、上記特定の種類のドーピング元素Gを用いることにより、反応過程で結晶粒子材料を増大し、成長方向及び結晶面を制御し、晶粒の長径と短径との比を制御し、結晶粒同士の界面の接触や空隙を制御することができる。一方、ドーピング元素Gの含有量及び焼結温度が上記範囲を満たすように制御することによって、正極材料の表面の空隙率を下げ、正極材料の表面の残留アルカリを制御することができる。
【0070】
さらに、前記ドーピング元素G溶液と前記ドーピング元素Gの添加量により、前記正極材料前駆体の全重量を基準にして、前記ドーピング元素Gの使用量は0~3000ppmである。
【0071】
さらに、前記焼結条件として、焼結温度は700~890℃であり、焼結時間は8~25hである。
【0072】
さらに、ドーピング元素GはAl、Mg、Ca、Sr、Zr、Nb及びMoから選択される少なくとも1種の元素である。
【0073】
本発明に使用される製造方法は、表面熱処理における元素被覆と熱処理における処理温度と処理時間の設計を含み、熱処理温度は200~500℃であり、熱処理時間は5~18hである。前記第1焼結材の全重量を基準にして、前記被覆元素Hの使用量は5000ppm以下である。
【0074】
本発明では、被覆元素Hの使用量が上記範囲を満たす場合、遷移金属と表面のドーピング元素が互いに結合され、結晶構造が安定的になり、また、添加量を適切にすることにより材料の表面でのリチウムイオンの出入りを阻止することが回避され、材料の初回容量の発揮が確保される。
【0075】
さらに、前記第1焼結材の全重量を基準にして、前記被覆元素Hの使用量は0~3000ppmである。
【0076】
本発明によれば、前記被覆元素HはB、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zr、W、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である。
【0077】
本発明では、上記特定種類の元素を被覆元素Hとして用いることによって、被覆元素と表面の残留アルカリがさらに反応し、リチウム金属酸化物が生成され、材料の表面に被覆層を形成し、これにより、材料の表面構造が安定化し、サイクル特性が向上する。
【0078】
さらに、前記被覆元素HはB、Al、Zr、Nb及びYから選択される少なくとも1種の元素である。
【0079】
本発明によれば、前記熱処理条件として、熱処理温度は300~500℃、熱処理時間は5~18hである。
【0080】
本発明では、前記熱処理が上記の特定条件で行われることによって、材料が表面の残留アルカリだけと反応し、格子内部に侵入することがなく、リチウムイオンの往復を阻止する内部結晶構造を形成することがなく、材料の表面に薄い被覆層を形成するだけであり、これにより、材料の容量を低下させることなくサイクル特性を効果的に向上させる。
【0081】
さらに、前記熱処理条件として、熱処理温度は300~480℃、熱処理時間は5~12hである。
【0082】
本発明の第3態様は、上記製造方法によって製造される正極材料を提供する。
【0083】
本発明によれば、正極前記正極材料は一次粒子を凝集してなる二次粒子であり、
前記二次粒子は、BJHによって得られる細孔径d10、d50及びd90が10nm≦d50≦40nm、1≦k90≦8という関係を満たし、ただし、k90=(d90-d10)/d50である。
【0084】
本発明によれば、前記二次粒子の平均細孔径の面積SIIと前記一次粒子の平均面積SIとの比γが、0.01%≦γ≦0.2%という関係を満たす。
【0085】
本発明によれば、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の強度I003と(104)結晶面のピーク強度I104が1≦I003/I104≦1.8という関係を満たす。
【0086】
本発明によれば、前記正極材料は、XRDによって得られる(003)結晶面の層間隔d003と(104)結晶面の層間隔d104がd003/d104≧1という関係を満たす。
【0087】
本発明によれば、前記正極材料の粒径D5、D50及びD95は、
5μm≦D50≦20μm、0.5≦K95≦2という関係を満たし、ただし、K95=(D95-D5)/D50である。
【0088】
本発明によれば、前記正極材料の粒子強度MCTは、60MPa≦MCT≦200MPaという関係を満たす。
【0089】
本発明によれば、前記正極材料のBETは、0.25m2/g≦BET≦0.95m2/gという関係を満たす。
【0090】
本発明によれば、前記正極材料の組成は式Iに示される。
Lie(Ni1-x-y-z-mCoxMyGzHm)O2 式I
(式I中、0.9≦e≦1.3、x≦(1-x-y-z-m)、y≦(1-x-y-z-m)、0.5≦1-x-y-z-m<1、0≦y<0.2、0≦z<0.05、0≦m<0.05であり、yとzは同時に0ではなく、
MはAl及び/又はMnから選択され、Gは第2~5周期の第2族~第13族から選択される少なくとも1種の元素であり、HはB、Mg、Ca、Sr、Y、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zr、W、Nb及びAlから選択される少なくとも1種の元素である。)
【0091】
本発明の第4態様は上記正極材料のリチウムイオン電池における使用を提供する。
【実施例】
【0092】
以下、実施例によって本発明について詳細に説明する。
【0093】
1)X線回折テスト
XRD回折装置(SmartLab 9KV)を用いてサンプルを測定し、CuKa線源を用いてステップ走査により小角度テストを行い、ピーク003とピーク104を含む回折パターンを測定した。まず、ガラスサンプルラックに過剰な材料を入れて、LEDランプの下で少し押して平らにして、パラメータを設定し、テストカテゴリを選択し、BB光路調整を行う。ドアを開け、サンプルステージにサンプルを置き、「Execute」ボタンをクリックしテストを開始し、データを保存し、テストを完了する。
【0094】
(2)BETと細孔径分布のテスト
Tri-star 3020比表面計を用いてテストを行い、3gのサンプルを計量し、サンプル管を脱気ステーションの開口部の真空ジョイントに取り付けた。加熱温度300℃、脱気時間120minを設定し、脱気終了後、サンプル管を冷却した。テスターのソフトウェアインタフェースに空サンプル管の質量と脱気後のサンプル及びサンプル管の質量を入力し、ソフトウェア計算後に出力された比表面積データ(BET法及びBJH細孔径テスト法)を記録し、正極材料サンプルの比表面積及び細孔径分布のテストを完了する。
【0095】
(3)粒度テスト
テストにはMastersizer2000レーザー粒度計を使用する。ソフトウェアの「測定」のテスト回数項目の「サンプルテスト時間」と「バックグラウンドテスト時間」を6s、測定サイクル項目のサイクル数を3回、遅延時間を5sとして、クリックして測定から平均結果レコードを作成する。次に、「スタート」をクリックしてバックグラウンドを自動的に測定する。自動測定が完了すると、まず、ピロリン酸ナトリウム40ミリリットルを加え、次に薬品スプーンで少量のサンプルを加え、遮光度が目視の10~20%領域の1/2に達すると、「スタート」をクリックし、最終的に3回の結果と平均値を記録する。
【0096】
(4)MCTテスト
MCT-210マイクロ圧縮試験機を用いて測定する。まず、MCT-210テストソフトを開いて、サンプルステージをプレスシートの中間位置に挟み、スライドしないようにし、サンプルステージの高さが少なくとも対物レンズの下3cmであるようにし、メインフレームでLEDランプのスイッチを開いて、メインフレームの右下の位置にあるハンドルを回して、CCD画像表示窓の中のサンプル粒子の画像がはっきりするまでサンプルステージの高さを調整し、start testingをクリックして、粒径を測定し、圧縮前の画像を保存し、ハンドルを回して、粒子の頂点をレンズの焦点に移動し、サンプルステージを右押ししてプラテンの下にし、圧縮試験を開始する。圧縮終了後にサンプルステージを左押しして対物レンズ下に移動し、圧縮後の画像がはっきりするまで回し、画像を保存する。
【0097】
(5)正極材料の形態
正極材料の形態はSEM電子顕微鏡を用いてテストし、すなわち、まず、正極材料を包埋等の処理を施した後、イオンミリング装置に入れて薄肉化し、イオンミリングされた粒子断面サンプルを得る。最後に、断面サンプルを走査電子顕微鏡サンプルステージに固定して走査電子顕微鏡分析を行う。
【0098】
(6)電池性能テスト
ボタン式電池を作った後に2h放置し、開放電圧が安定した後、正極の電流密度0.1Cでカットオフ電圧4.3Vまで充電し、次に30min定電圧充電し、その後、同じ電流密度でカットオフ電圧3Vまで放電し、これをもう1回繰り返し、このときの電池を活性化電池とする。
サイクル性能テスト:活性化電池を用い、1C(200mA/g)の電流密度を用いて3~4.3Vの電圧区間、45℃の温度で50回サイクルし、容量維持率を測定する。
【0099】
実施例及び比較例に使用される原料は全て市販品である。
【0100】
実施例1
(1)硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを硫酸ニッケル:硫酸コバルト:硫酸マンガン=85:9:6のモル比で水に同時に加え、混合塩溶液を調製した。
(2)合成釜に水酸化ナトリウム水溶液を沈殿剤として加え、アンモニア水を錯化剤とし、合成釜の温度を45℃に制御し、共沈殿反応の総時間tを90hとした。第1段階では、合成釜中のpHを12.5、反応滞留時間を30h(共沈殿反応がt/3まで行われる)に制御し、過程全体にわたって97vol%含有量の窒素ガスと3vol%の酸素ガスを導入し、第2段階では、反応釜のpHを11.9、反応滞留時間を30h(共沈殿反応が2t/3まで行われる)に制御し、過程全体にわたって98vol%含有量の窒素ガスと2vol%の酸素ガスを導入し、第3段階では、pHを11.3、反応滞留時間を30h(共沈殿反応がtまで行われる)に制御し、過程全体にわたって窒素ガスを導入した。反応完了後、加圧ろ過機で加圧ろ過して分離し、水酸化ナトリウム溶液で洗浄し、200℃で8時間乾燥させ、正極材料前駆体Ni0.85Co0.09Mn0.06(OH)2を得た。
(3)正極材料前駆体:LiOHを1:1.03のモル比で乾式プレミックスし、プレミックス完了後、Nb2O5をドーパントとし、Nb質量換算で、正極材料前駆体の全重量を基準にして、Nbの添加量を3000ppmとし、共同で乾式ミックスを行った。混合材料を酸素ガス雰囲気下、765℃で20h焼結し、第1焼結材を得た。
(4)第1焼結材に表面被覆と表面熱処理をさらに行い、被覆元素をH3BO3とY2O3とし、BとYの質量換算で、第1焼結材の全重量を基準にして、Bの使用量は2000ppm、Yの使用量は1000ppmであり、上記材料を乾式混合した。熱処理温度は350℃、熱処理時間は12hとした。熱処理完了後、材料を冷却して篩分けし、正極材料A1を得た。
【0101】
実施例2~10
実施例1の方法によって正極材料を製造し、原料の配合比及び具体的なプロセス条件を表1に示す。正極材料A2~A10を得た。
【0102】
比較例1~4
実施例1の方法によって正極材料を製造し、原料の配合比及び具体的なプロセス条件を表1に示す。正極材料D1~D4を得た。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
テスト例
実施例及び比較例で製造された正極材料の組成を表2に示し、正極材料の構造及び性能についてテストを行い、テストの結果を表3に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
使用例
実施例及び比較例の正極材料を用いてリチウムイオン電池を製造し、製造方法は具体的には以下のとおりである。非水系電解質二次電池用ニッケルコバルトマンガン複合多元正極活物質、アセチレンブラック及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95:3:2の質量比で混合し、アルミニウム箔に塗布してベークし、100MPaの圧力で直径12mm、厚さ120μmの正極極板に打ち抜き成形し、次に、正極極板を真空オーブンに入れて、120℃で12hベークした。
【0112】
負極として直径17mm、厚さ1mmのLi金属片、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン多孔質フィルム、電解液として1mol/LのLiPF6、炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジエチル(DEC)を等量で混合した混合液を用いた。
【0113】
リチウムイオン電池の性能をテストし、その結果を表4に示す。
【0114】
【0115】
図1は実施例1で製造される正極材料A1の細孔径分布及び細孔径累積割合の曲線図であり、
図1から分かるように、細孔径割合の傾向を示す図は対数形式に近い。
図2は実施例1で製造される正極材料A2の断面のSEM像であり、
図3は比較例1で製造される正極材料D1の断面のSEM像であり、
図4は比較例2で製造される正極材料D3の断面のSEM像であり、
図2~4から分かるように、正極材料の断面は異なる細孔径のサイズ及び細孔径分布を有する。
図5は正極材料A1、正極材料D1及び正極材料D2を用いて製造されるリチウムイオン電池のサイクル曲線図であり、
図5から分かるように、本発明の前記特定の細孔径及び細孔径分布を有する正極材料で製造されるリチウムイオン電池は、電気化学的性能がより優れていた。
【0116】
表2、表3及び表4から分かるように、本発明の特定細孔径及び細孔径分布を有する正極材料で製造されるリチウムイオン電池は、高い初回充放電容量に加えて、高い容量維持率を持つ。
【0117】
さらに、正極材料が特定の微細構造、粒子強度等を有する場合、リチウムイオン電池の初回充放電容量及び容量維持率がさらに向上し、電池の総合的な性能がさらに向上する。
【0118】
以上は本発明の好ましい実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されない。本発明の技術的構想を逸脱することなく、本発明の技術案について、各技術的特徴を他の任意の適切な方式で組み合わせることを含む各種の簡単な変形を加えることができ、これらの簡単な変形や組み合わせも本発明の開示内容とみなすべきであり、本発明の特許範囲に属する。