(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】力センサの診断装置及び車両並びにコンピュータプログラムを記録した記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01L 25/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
G01L25/00 A
(21)【出願番号】P 2023550826
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2021035776
(87)【国際公開番号】W WO2023053247
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 翼
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 慧
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋之
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-104139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0217419(US,A1)
【文献】特開2003-004563(JP,A)
【文献】特開平06-001133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 25/00
G01L 1/00 ~ 1/26
G01L 5/00 ~ 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を含み、
前記プロセッサは、
前記力センサのセンサ信号に基づいて前記車輪に加えられた外力の前記車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得し、
前記車輪のサスペンション装置の一部に設けられて前記車輪が路面から受ける外力による前記サスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値を算出し、
前記力センサにより検出された前記車高方向分力検出値及び前記変位センサのセンサ信号に基づいて推定された前記車高方向分力推定値を比較した差分の値と、前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの微分値と、を用いて前記力センサの故障判定を行う、力センサの診断装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記車輪に加えられた外力が前記力センサにより検出されてから、前記外力が前記変位センサにより検出される前記状態量に現れるまでの遅延時間を求め、
前記遅延時間に基づいて同一の前記外力に起因する前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値を特定し、
前記車高方向分力検出値が増大する時刻の前後の差分と前記車高方向分力推定値が増大する時刻の前後の差分とのずれが所定の計測閾値以上の場合に前記力センサが故障していると判定する、請求項1に記載の力センサの診断装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの前記微分値のピークの最大値を求め、
それぞれの前記最大値が検出された時刻を特定し、
前記時刻の差を前記遅延時間とする、請求項3に記載の力センサの診断装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの前記微分値をあらかじめ設定された所定の微分閾値と比較し、
前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの前記微分値が前記所定の微分閾値以上の場合に、前記力センサの故障判定を実行する、請求項1に記載の診断装置。
【請求項6】
車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置において、
前記力センサのセンサ信号に基づいて前記車輪に加えられた外力の前記車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得する車高方向分力検出部と、
前記車輪のサスペンション装置の一部に設けられて前記車輪が路面から受ける外力による前記サスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値を算出する車高方向分力推定部と、
前記力センサにより検出された前記車高方向分力検出値及び前記変位センサのセンサ信号に基づいて推定された前記車高方向分力推定値を比較した差分の値と、前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの微分値と、を用いて前記力センサの故障判定を行う診断部と、
を備えた、力センサの診断装置。
【請求項7】
車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサを備えた車両であって、
前記車両は前記力センサの故障を診断する処理を行う診断装置を備え、
前記診断装置は、一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を含み、
前記プロセッサは、
前記車輪のサスペンション装置の一部に設けられて前記車輪が路面から受ける外力による前記サスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号を取得し、
前記力センサのセンサ信号に基づいて前記車輪に加えられた外力の前記車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得し、
前記変位センサのセンサ信号に基づいて推定された車高方向分力推定値及び前記力センサにより検出された前記車高方向分力検出値を比較した差分の値と、前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの微分値と、を用いて前記力センサの故障判定を行う、車両。
【請求項8】
車輪に対して少なくとも車高方向に加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置に適用されるコンピュータプログラムを記録した記録媒体において、
一つ又は複数のプロセッサに、
前記車輪のサスペンション装置の一部に設けられて前記車輪が路面から受ける外力による前記サスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号を取得することと、
前記力センサのセンサ信号に基づいて前記車輪に加えられた外力の前記車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得することと、
前記変位センサのセンサ信号に基づいて推定された車高方向分力推定値及び前記力センサにより検出された前記車高方向分力検出値を比較した差分の値と、前記車高方向分力検出値及び前記車高方向分力推定値それぞれの微分値と、を用いて前記力センサの故障判定を行うことと、
を含む処理を実行させるコンピュータプログラムを記録した記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、力センサを備えた車両に備えられる力センサの診断装置及び車両並びにコンピュータプログラムを記録した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来車両に装着されたタイヤに作用するタイヤ力を検出するタイヤ力センサが知られている。例えば特許文献1には、タイヤに配設されたセンサによって計測されたタイヤの物理量を取得し、取得したタイヤの物理量を演算モデルに入力してタイヤ力を算出するタイヤ力推定システム及びタイヤ力推定方法が開示されている。特許文献1には、タイヤ力センサが、タイヤ力のうちのタイヤの前後方向の前後力、横方向の横力、及び鉛直方向の荷重の3軸方向成分のいずれか1成分又は任意の組み合わせの2成分あるいは3軸方向成分のすべてを検出可能であることが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、車輪が路面から受ける外力について、直交する3軸方向(x:車両の走行する方向(車長方向)、y:ラックシャフトの軸方向(車幅方向)、z:車両の鉛直方向(車高方向))の分力、及びその3軸周りの3つのモーメントの6つの分力を測定するタイヤ力センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-122753号公報
【文献】特開2018-83505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなタイヤ力センサを車両に搭載した場合、当該タイヤ力センサの故障検知機能が備えられていればタイヤ力センサのセンサ値の信頼性は向上する。しかしながら、同じ分力を検出可能なもう一つのセンサを追加してシステムの二重化を図り、センサ値を比較して故障検知を行うことは、コスト面やセンサの搭載性に鑑みて現実的ではない。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、タイヤ力センサを二重化することなく車両に搭載されるタイヤ力センサの故障検知機能を実現する力センサの診断装置及び車両並びにコンピュータプログラムを記録した記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置であって、一つ又は複数のプロセッサと、一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を含み、プロセッサは、力センサのセンサ信号に基づいて車輪に加えられた外力の車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得し、車輪のサスペンション装置の一部に設けられて車輪が路面から受ける外力によるサスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値を算出し、力センサにより検出された車高方向分力検出値及び変位センサのセンサ信号に基づいて推定された車高方向分力推定値を比較して力センサの故障判定を行う力センサの診断装置が提供される。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置であって、力センサのセンサ信号に基づいて車輪に加えられた外力の車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得する車高方向分力検出部と、車輪のサスペンション装置の一部に設けられて車輪が路面から受ける外力によるサスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値を算出する車高方向分力推定部と、力センサにより検出された車高方向分力検出値及び変位センサのセンサ信号に基づいて推定された車高方向分力推定値を比較して力センサの故障判定を行う診断部と、を備えた力センサの診断装置が提供される。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本開示のさらに別の観点によれば、車両の車輪に対して加えられる外力を検出可能な力センサを備えた車両であって、車両は力センサの故障を診断する処理を行う診断装置を備え、診断装置は、一つ又は複数のプロセッサと、一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を含み、プロセッサは、車輪のサスペンション装置の一部に設けられて車輪が路面から受ける外力によるサスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号を取得し、力センサのセンサ信号に基づいて車輪に加えられた外力の車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得し、変位センサにより検出された状態量及び力センサにより検出された車高方向分力検出値に基づいて力センサの故障判定を行う車両が提供される。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本開示のさらに別の観点によれば、車輪に対して少なくとも車高方向に加えられる外力を検出可能な力センサの故障を診断する処理を行う診断装置に適用されるコンピュータプログラムを記録した記録媒体であって、一つ又は複数のプロセッサに、車輪のサスペンション装置の一部に設けられて車輪が路面から受ける外力によるサスペンション装置のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサのセンサ信号を取得することと、力センサのセンサ信号に基づいて車輪に加えられた外力の車両の高さ方向の分力である車高方向分力検出値を取得することと、変位センサにより検出された状態量及び力センサにより検出された車高方向分力検出値に基づいて力センサの故障判定を行うことと、を含む処理を実行させるコンピュータプログラムを記録した記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本開示によれば、タイヤ力センサを二重化することなく車両に搭載されるタイヤ力センサの故障検知機能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る力センサの診断装置を備えた車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る力センサの診断装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る診断装置により実行される診断処理を示すフローチャートである。
【
図4】力センサにより検出されるz方向の分力及びストロークセンサにより検出されるストローク量を、それぞれ車高方向分力検出値及び車高方向分力推定値に換算して示す説明図である。
【
図5】同実施形態に係る診断装置により実行される遅延時間算出処理を示すフローチャートを示す。
【
図6】同実施形態に係る診断装置による微分閾値の設定の一例を示す説明図である。
【
図7】同実施形態に係る診断装置により実行される力センサの故障判定処理の一例のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.車両の構成>
まず、本開示の実施の形態に係る力センサの診断装置を適用可能な車両の構成の一例を説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る力センサの診断装置50を備えた車両1の構成例を示す模式図である。
図1に示した車両1は、四つの車輪3を備えた四輪自動車である。車両1は、四輪自動車に限られるものではなく、二輪自動車やバス、トラック等の商用車をはじめとする他の車両であってもよい。
【0016】
なお、
図1では、4つの車輪3やそれぞれの車輪3に対して配置されたサスペンション装置10等については、符号の末尾に添字LF(左前)、RF(右前)、LR(左後)及びRR(右後)が付されている。また、以下の説明において、特に区別を要する場合以外には、適宜添字LF,RF,LR及びRRを省略する。
【0017】
サスペンション装置10は、一端が車体9に連結され、他端側で車輪3を懸架している。サスペンション装置10は、サスペンションアーム13、スプリング15及びダンパ装置17を備えている。車輪3は、車軸5に連結され、車体9に対して回転可能に支持されている。また、車輪3は、サスペンションアーム13により車体9に対して上下方向に変位可能に車体9に支持されている。
【0018】
ダンパ装置17は、上端が車体9に連結され、下端が車軸5を支持する支持部又はサスペンションアーム13に連結されている。スプリング15は、ダンパ装置17のロッドとシリンダとの間に設けられる。スプリング15は、路面の凹凸及び車輪3が路面から受けた衝撃が車体9に伝達されることを抑制する。ダンパ装置17は、車体9と車輪3とが上下に相対変位することによる振動を減衰させる。
【0019】
また、サスペンション装置10は、車体9と車輪3との相対変位量を検出するストロークセンサ19が設けられる。ストロークセンサ19は、サスペンション装置10の一部に設けられて、車輪3が路面から受ける外力によるサスペンション装置10のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサの一態様である。サスペンション装置10のストローク変位量は、車体9と車輪3との相対変位量に相当する。ストロークセンサ19は、例えばダンパ装置17のロッドとシリンダとの相対変位量(ストローク量)を検出するセンサであってよいが、車体9と車輪3との間の相対変位量を検出できるセンサであればストロークセンサ19を設ける位置は特に限定されない。ストロークセンサ19から出力されるセンサ信号は、診断装置50に入力される。
【0020】
車輪3には、車輪3に対して加えられる外力(タイヤ力)を検出する力センサ11が設けられている。力センサ11は、少なくとも車高方向(z方向)の分力を検出可能に構成されている。例えば力センサ11は、車輪3を支持する車軸5に作用する車長方向(x方向)、車幅方向(y方向)及び車高方向(z方向)の分力、並びに、x方向、y方向及びz方向それぞれの軸回りのモーメントを検出するセンサであってよいが、力センサ11の種類は限定されない。力センサ11から出力されるセンサ信号は、診断装置50に入力される。
【0021】
診断装置50は、ストロークセンサ19のセンサ信号及び力センサ11のセンサ信号を取得し、力センサ11の故障判定処理を実行する。以下、診断装置50について詳しく説明する。
【0022】
<2.力センサの診断装置>
(2-1.診断装置の構成)
図2は、診断装置50の構成の一例を示すブロック図である。診断装置50は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の一つ又は複数のプロセッサと、当該プロセッサと通信可能に接続されたRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の一つ又は複数のメモリを備えて構成される。診断装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、プロセッサからの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0023】
診断装置50は、一つ又は複数のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで力センサ11の故障を診断する装置として機能する。当該コンピュータプログラムは、診断装置50が実行すべき後述する動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、診断装置50に備えられた記憶部(メモリ)53として機能する記録媒体に記録されていてもよく、診断装置50に内蔵された記録媒体又は診断装置50に外付け可能な任意の記録媒体に記録されていてもよい。
【0024】
コンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、ROM及びRAM等の記憶素子、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等のフラッシュメモリ、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0025】
診断装置50には、各車輪3に設けられた力センサ11及びストロークセンサ19が接続されている。診断装置50と力センサ11及びストロークセンサ19とは、専用線又はCAN(Controller Area Network)等の通信バスを介して接続される。
【0026】
診断装置50は、処理部51及び記憶部53を備える。処理部51は、車高方向分力検出部61、車高方向分力推定部63及び診断部65を備えている。処理部51は、CPU等の一つ又は複数のプロセッサであり、車高方向分力検出部61、車高方向分力推定部63及び診断部65の各部は、プロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。ただし、車高方向分力検出部61、車高方向分力推定部63及び診断部65の一部が、アナログ回路により構成されていてもよい。
【0027】
記憶部53は、RAM又はROM等の一つ又は複数の記憶素子、あるいは、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記録装置を含んで構成される。記憶部53は、処理部51により実行されるプログラムやプログラムの実行に用いられる種々のパラメータの他、取得されたデータ、演算結果のデータ等を記憶する。
【0028】
以下、処理部51の各部の機能を簡単に説明した後で、処理部51の具体的処理動作を説明する。
【0029】
(2-1-1.車高方向分力検出部)
車高方向分力検出部61は、力センサ11のセンサ信号に基づいて車輪3に加えられた外力の車両1の高さ方向の分力である車高方向分力検出値Fz_detを取得する。例えば力センサ11が、x方向、y方向及びz方向の分力及び各方向の軸回りのモーメントの6分力を検出可能なセンサである場合、車高方向分力検出部61は、少なくともz方向の分力の出力を車高方向分力検出値Fz_detとして取得する。
【0030】
(2-1-2.車高方向分力推定部)
車高方向分力推定部63は、ストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値Fz_estを算出する。具体的に、車高方向分力推定部63は、ストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて検出されるストローク量Sと、あらかじめ記憶部53に記録されている車両データとに基づいて、車高方向分力推定値Fz_estを演算により求める。ストローク量は、スプリング15及びダンパ装置17の変位量に依存する。スプリング15及びダンパ装置17の変位量は、ストロークセンサ19の取り付け位置及びサスペンション装置10の構造によって異なる。このため、車高方向分力推定部63は、ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sを、車両データを用いてz方向の分力に変換する。
【0031】
記憶部53に記録されている車両データは、車両1それぞれの仕様に合わせて、ストロークセンサ19の設置位置に応じてストローク量Sをスプリング15の変位量Daに換算する第1のマップと、ストロークセンサ19の設置位置に応じてストローク量Sをダンパ装置17の変位量Dbに換算する第2のマップとを含む。ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sと、スプリング15の変位量Da及びダンパ装置17の変位量Dbとの関係は、それぞれサスペンション装置10の構造からあらかじめ求めることができる。
【0032】
ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sと、スプリング15の変位量Da及びダンパ装置17の変位量Dbとの関係が線形を示す場合、第1のマップ及び第2のマップに代えて、下記式(1)~(2)に示す換算式が記録されていてもよい。
Da=α×S …(1)
Db=β×S …(2)
式(1)~(2)に示すα,βは、それぞれストローク量Sを、スプリング15の変位量Da又はダンパ装置17の変位量Dbに変換するための換算係数である。
【0033】
また、車両データは、スプリング15のバネ定数ks及びダンパ装置17の減衰係数Cのデータを含む。これらのスプリング15のバネ定数ks及びダンパ装置17の減衰係数Cのデータは、用いるスプリング15及びダンパ装置17の仕様により特定される。車両1がスタビライザを備えている場合には、車両データは、スタビライザの取り付け位置におけるバネ定数kpのデータを含む。スタビライザの取り付け位置におけるバネ定数kpは、サスペンション装置10の構造からあらかじめ求めることができる。また、車両データは、車両1の走行中に図示しない舵角センサにより検出される、車両1の向き(車長方向)に対する車輪3(操舵輪3LF,3RF)の舵角のデータを含む。車高方向分力推定部63は、これらの車両データを用いて、ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sから車高方向分力推定値Fz_estを算出する。
【0034】
なお、車両1が、車体9と車輪3との変位量を調節するエアサスペンション装置を備えている場合、車高方向分力推定部63は、車輪3が路面から受ける外力によらない、エアサスペンション装置の機能によるストローク変位量を減算した値を用いて車高方向分力推定値Fz_estを算出する。
【0035】
(2-1-3.診断部)
診断部65は、力センサ11により検出された車高方向分力検出値Fz_det及びストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて推定された車高方向分力推定値Fz_estを比較して力センサ11の故障判定処理を行う。本実施形態では、診断部65は、車輪3が路面から受けた外力が力センサ11により検出されてから、当該外力がストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに現れるまでの遅延時間を求める。また、診断部65は、ある時刻に車輪3が受けた同一の外力が反映されたセンサ信号に基づいて得られた車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを比較して力センサ11の故障判定を行う。
【0036】
(1-2-3.動作)
続いて、本実施形態に係る力センサ11の診断装置50の具体的な動作例をフローチャートに沿って説明する。
図3は、診断装置50により実行される診断処理を示すフローチャートである。なお、以下に説明する診断処理は、車載システムの起動中に常時実行されてもよく、所定の走行距離ごとあるいは所定の走行時間ごと等、適宜のタイミングで実行されるように設定されていてもよい。
【0037】
まず、診断装置50の処理部51は、力センサ11のセンサ信号及びストロークセンサ19のセンサ信号をそれぞれ取得する(ステップS11)。具体的に、処理部51は、所定の処理サイクルごとに力センサ11のセンサ信号及びストロークセンサ19のセンサ信号を取得する。処理部51は、取得したそれぞれのセンサ信号を、時系列のデータとして時刻のデータとともに記憶部53に記録する。
【0038】
次いで、処理部51の車高方向分力検出部61は、力センサ11のセンサ信号に基づいて車高方向分力検出値Fz_detを検出する(ステップS13)。例えば力センサ11が上述した6分力を検出するセンサである場合、車高方向分力検出部61は、センサ信号に含まれる6分力を示すセンサ値のうちのz方向の分力を示すセンサ値(例えば電圧値)を求める。また、車高方向分力検出部61は、所定の処理サイクルごとに取得される力センサ11のセンサ値が示すz方向の分力を車高方向分力検出値Fz_detとして、センサ値及び時刻のデータに関連付けて記憶部53に記憶する。このとき、車高方向分力検出部61は、検出されるセンサ値又は車高方向分力検出値Fz_detに対してフィルタリング処理を施してもよい。フィルタリング処理は、例えば移動平均フィルタ又はローパスフィルタを用いて行われてもよく、その他適宜のフィルタを用いて行われてもよい。
【0039】
次いで、処理部51の車高方向分力推定部63は、ストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値Fz_estを算出する(ステップS15)。例えば車高方向分力推定部63は、ストロークセンサ19のセンサ信号が示すSに基づいて、下記式(3)を用いて車高方向分力推定値Fz_estを算出する。
【0040】
Fz_est=ks×Da+C×(dDb/dt)+kp×Dp …(3)
Fz_est:車高方向分力推定値
ks:スプリング15のバネ定数
kp:スタビライザの取り付け位置におけるバネ定数
C:ダンパ装置17の減衰定数
Da:スプリング15の変位量
Db:ダンパ装置17の変位量
Dp:スタビライザのねじれによる変位量(スタビライザの伸縮量)
t:時刻
【0041】
スプリング15の変位量Da及びダンパ装置17の変位量Dbは、あらかじめ記憶部53に記録された第1のマップ及び第2のマップ又は上記式(1)及び(2)を用いて、ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに基づいて算出することができる。また、スタビライザのねじれによる変位量Dpは、サスペンション装置10の構造に合わせてあらかじめ記憶された、上記第1のマップ及び第2のマップ又は上記式(1)及び(2)と同様のマップ又は換算式を用いて、ストローク量Sに基づいて算出することができる。なお、車両1がスタビライザを備えていない場合、上記式(3)の「kp×Dp」の項はゼロに設定されるか又は省略される。
【0042】
ダンパ装置17の変位量Dbの微分値dDbを求める際の単位時間dtは、ストロークセンサ19のセンサ信号を取得する処理サイクルの時間間隔である。車高方向分力推定部63は、所定の処理サイクルごとに取得されるストロークセンサ19のセンサ値に基づいて推定される車高方向分力推定値Fz_estを、センサ値及び時刻のデータに関連付けて記憶部53に記憶する。このとき、車高方向分力推定部63は、検出されるセンサ値又は車高方向分力推定値Fz_estに対してフィルタリング処理を施してもよい。フィルタリング処理は、例えば移動平均フィルタ又はローパスフィルタを用いて行われてもよく、その他適宜のフィルタを用いて行われてもよい。
【0043】
次いで、診断部65は、遅延時間算出処理を実行する(ステップS17)。遅延時間算出処理は、同じ時刻に車輪3が受けた同一の外力が反映されたセンサ信号に基づいて得られた車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを比較して力センサ11の故障判定を行えるようにするための処理である。診断部65は、同じ時刻に車輪が3が受けた外力が力センサ11により検出されてから、同一の外力がストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに現れるまでの遅延時間を算出する。
【0044】
図4~
図6は、遅延時間を算出する処理を示す説明図である。
図4は、力センサ11により検出されるz方向の分力及びストロークセンサ19により検出されるストローク量Sを、それぞれ車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estに換算して示している。
図4において、ピーク値が現れる二つの領域で、それぞれのピーク値が検出される時刻tを比較すると、力センサ11のセンサ値にピーク値が現れてからストロークセンサ19のセンサ値にピーク値が現れるまでに遅延時間Δtが生じている。したがって、力センサ11のセンサ値が適正なデータであるかを判定するためには、当該遅延時間分のセンサ値のずれを解消する必要がある。
【0045】
図5は、遅延時間を算出する処理を示すフローチャートを示す。
まず、診断部65は、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtを算出する(ステップS31)。診断部65は、例えば所定の処理サイクルで算出されて記憶部53に記憶されたそれぞれの車高方向分力検出値Fz_detから、一回前の処理サイクルで算出された車高方向分力検出値Fz_detを引くことにより車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtを算出する。それぞれの車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtは、センサ値、車高方向分力検出値Fz_det及び時刻のデータに関連付けて記憶部53に記録される。
【0046】
次いで、診断部65は、車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtを算出する(ステップS33)。ステップS21と同様に、診断部65は、例えば所定の処理サイクルで算出されて記憶部53に記憶されたそれぞれの車高方向分力推定値Fz_estから、一回前の処理サイクルで算出された車高方向分力推定値Fz_estを引くことにより車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtを算出する。それぞれの車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtは、センサ値、車高方向分力推定値Fz_est及び時刻のデータに関連付けて記憶部53に記録される。
【0047】
次いで、診断部65は、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt及び車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtがそれぞれあらかじめ設定された微分閾値dF_th以上であるか否かを判定する(ステップS35)。ここでは、単位時間dt当たりの車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estの増加率が所定の閾値以上である場合にのみ遅延時間Δtが得られるように、各値の微分値dFz_e/dt,dFz_d/dtに微分閾値dF_thが設けられる。微分閾値dF_thは、任意の値に設定されてよいが、例えば車両1の急減速時に検出されるセンサ値あるいはz方向の分力が到達する値を考慮して設定される。
【0048】
図6は、微分閾値dF_thの設定の一例を示す説明図である。
図6は、車輪3のホイールシリンダに付加されるブレーキ圧P_b、車速V、車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtの時間変化を示す。
図6に示した例では、時刻t0にブレーキ操作が行われることでブレーキ圧P_bが急激に増大し、車両1が減速を開始する。これに伴って、力センサ11により検出される車高方向分力検出値Fz_detも急激に増大して、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtが5000を超えている。この場合、微分閾値dF_thは例えば5000に設定される。
【0049】
図6に示すような明らかなピークが現れるときの車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを用いて遅延時間Δtが得られるようにすることで、遅延時間Δtの演算回数が多くなりすぎてプロセッサの負荷が大きくなりすぎることを防ぐことができる。また、記憶部53に記録される車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのうち、比較対象となる車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estの整合の精度が低下することによる遅延時間Δtの算出結果の精度、ひいては、力センサ11の故障検出結果の精度が低下することを防ぐことができる。
【0050】
なお、診断部65は、あらかじめ想定される遅延時間の最大値以下の時間差内の時刻にある車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt及び車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtの組み合わせにおいて、それぞれあらかじめ設定された微分閾値dF_th以上になっている組み合わせがあるか否かを判定してもよい。これにより、異なる時刻において車輪3に対して加えられた外力が反映されたセンサ値が比較対象となることを防ぐことができる。
【0051】
車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt又は車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtの少なくとも一方が微分閾値dF_th以上でない場合(S35/No)、診断部65は、遅延時間Δtを算出する処理を終了し(ステップS37)、
図3のステップS11に戻る。一方、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt及び車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtがともに微分閾値dF_th以上である場合(S35/No)、診断部65は、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt及び車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtがそれぞれ微分閾値dF_th以上になったときのピーク時の時刻t1,t2を算出する(ステップS39)。
【0052】
具体的に、診断部65は、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dtが微分閾値dF_th以上になったときの車高方向分力検出値Fz_detの最大値を特定し、当該最大値に関連付けられている時刻t1を求める。同様に、診断部65は、車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtが微分閾値dF_th以上になったときの車高方向分力推定値Fz_estの最大値を特定し、当該最大値に関連付けられている時刻t2を求める。
【0053】
次いで、診断部65は、算出した二つの時刻t1,t2の時間差を演算し遅延時間Δtを求める(ステップS41)。これにより、同じ時刻に車輪3に加えられた外力が力センサ11に検出されてから、ストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに現れるまでの遅延時間Δtが算出される。
【0054】
図3に戻り、診断部65は、記憶されている車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのいずれかの時刻を、遅延時間算出処理により求められた遅延時間Δtだけずらし、車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのデータの時刻合わせを行う(ステップS19)。これにより、同じ時刻に車輪3に加えられた同じ外力が反映された力センサ11のセンサ値及びストロークセンサ19のセンサ値を用いて力センサ11の故障検知を実行可能な状態となる。
【0055】
次いで、診断部65は、時刻合わせ後の同じ時刻の車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estに基づいて力センサ11の故障判定を実行する(ステップS21)。本実施形態では、診断部65は、車高方向分力検出値Fz_detが急激に増大して微分値dFz_d/dtの正のピークが現れる時刻t1より前の車高方向分力検出値Fz_det_1と、当該時刻t1より後に現れる車高方向分力検出値Fz_detの最大値Fz_det_2との差分(第1の差分)ΔFz_detを算出する。また、診断部65は、車高方向分力推定値Fz_estが急激に増大して微分値dFz_e/dtの正のピークが現れる時刻t2より前の車高方向分力推定値Fz_est_1と、当該時刻t2より後に現れる車高方向分力推定値Fz_estの最大値Fz_est_2との差分(第2の差分)ΔFz_estを算出する。
【0056】
また、診断部65は、力センサ11の検出精度Ea及びストロークセンサ19の検出精度Ebを考慮して、上記の第1の差分ΔFz_det及び第2の差分ΔFz_estのずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上の場合に力センサ11が故障しているおそれがあると判定する。また、本実施形態では、診断部65は、上記ずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上と判定されたときに故障カウンタQをカウントアップ(プラス1)する一方、上記ずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上と判定されなかったときに故障カウンタQをリセットする。そして、診断部65は、故障カウンタQがあらかじめ設定されたカウンタ閾値Q_thに到達したときに、力センサ11が故障していると判定する。
【0057】
図7は、力センサ11の故障判定処理の一例のフローチャートを示す。
まず、診断部65は、時刻t1より前の車高方向分力検出値Fz_det_1と、時刻t1より後の車高方向分力検出値の最大値Fz_det_2との差分(第1の差分)ΔFz_detを算出する(ステップS51)。ステップS51では、車輪3に対して外力が加えられたときに力センサ11により検出される車高方向分力検出値Fz_detの増大幅が算出される。
【0058】
具体的に、
図6に示す例において、診断部65は、微分値dFz_d/dtが微分閾値dF_th以上になる時刻t1より前の車高方向分力検出値Fz_det_1と、時刻t1より前の車高方向分力検出値Fz_detの最大値Fz_det_2との差分ΔFz_detを算出する。車高方向分力検出値Fz_det_1は、車高方向分力検出値Fz_detが上昇する直前の時刻t0付近の車高方向分力検出値Fz_detが用いられる。また、車高方向分力検出値Fz_detの最大値Fz_det_2は、車高方向分力検出値Fz_detが急激に増大して微分値dFz_d/dtの正のピークが現れる時刻t1から、車高方向分力検出値Fz_detが急激に減少して微分値dFz_d/dtの負のピークが現れる時刻t4までの期間において、時刻t3で検出された車高方向分力検出値Fz_detの最大値Fz_det_2が用いられる。
【0059】
次いで、診断部65は、時刻合わせ後の時刻t2より前の車高方向分力推定値Fz_est_1と、時刻t2より後の車高方向分力推定値の最大値Fz_est_2との差分(第2の差分)ΔFz_estを算出する(ステップS53)。ステップS53では、車輪3に対して外力が加えられたときにストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに基づき推定される車高方向分力推定値Fz_estの増大幅が算出される。ステップS53においても同様に、診断部65は、微分値dFz_e/dtが微分閾値dF_th以上になる時刻t2より前の車高方向分力推定値Fz_est_1と、時刻t2より前の車高方向分力推定値Fz_estの最大値Fz_est_2との差分ΔFz_estを算出する。
【0060】
次いで、診断部65は、第1の差分ΔFz_detと第2の差分ΔFz_estとのずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上であるか否かを判定する(ステップS55)。計測閾値ΔFz_thは、力センサ11の検出精度Ea及びストロークセンサ19の検出精度Ebを考慮して、例えば下記式(4)を用いて設定される。
ΔFz_th=kq×(Ea+Eb) …(4)
力センサ11の検出精度Ea及びストロークセンサ19の検出精度Ebは、例えばそれぞれのセンサの診断処理により求められるセンサ値のオフセット量等の補正量に基づいて設定されてよいが、設定方法はこの例に限定されない。また、係数kqは、許容誤差等を考慮して任意に設定されてよい。
【0061】
つまり、算出されたずれΔFzが、力センサ11の検出精度Ea及びストロークセンサ19の検出精度Ebにより想定されるずれ(Ea+Eb)に対して所定以上となっている場合に、診断部65は、力センサ11が故障しているおそれがあると判定する。
【0062】
第1の差分ΔFz_detと第2の差分ΔFz_estとのずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th未満の場合(S55/No)、診断部65は、故障カウンタQをリセットし(ステップS57)、
図3のステップS13に戻る。一方、第1の差分ΔFz_detと第2の差分ΔFz_estとのずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上である場合(S55/Yes)、診断部65は、故障カウンタQをカウントアップ(プラス1)し、更新する(ステップS59)。
【0063】
次いで、診断部65は、故障カウンタQがあらかじめ設定されたカウンタ閾値Q_thに到達したか否かを判定する(ステップS61)。当該カウンタ閾値Q_thについても、上述した計測閾値ΔFz_thと合わせて、診断システムの誤判定を保証するために用いられる。例えば計測閾値ΔFz_thを用いた故障判定処理が、5回の計測中1回程度誤判定をする可能性がある場合、カウンタ閾値Q_thが「5」に設定される。これにより、力センサ11のセンサ値に基づく第1の差分ΔFz_detとストロークセンサ19のセンサ値に基づく第2の差分ΔFz_estとのずれΔFzが5回連続で計測閾値ΔFz_th以上となった場合に、故障が発生していると確定される。
【0064】
故障カウンタQがカウンタ閾値Q_th未満の場合(S61/No)、診断部65は、故障の発生を確定せずに
図3のステップS13に戻る。一方、故障カウンタQがカウンタ閾値Q_thに到達している場合(S61/Yes)、診断部65は、故障フラグをセットし(ステップS63)、故障判定処理を終了する。
【0065】
なお、上記の故障判定処理において故障が発生していると判定された場合、ストロークセンサ19の信頼性が高い場合には、診断部65による故障が発生しているとの判定結果は、力センサ11に故障が発生していることを示す結果と判断することができる。
【0066】
一方、ストロークセンサ19の信頼性が高いと言えない場合には、診断部65による故障が発生しているとの判定結果は、力センサ11又はストロークセンサ19のいずれか一方又は両方に故障が発生していることを示す結果と判断することができる。この場合、例えば以下の方法により、力センサ11又はストロークセンサ19のどちらに故障が発生しているかを推定することができる。
【0067】
四輪自動車において、減速動作及び加速動作が行われた場合に、
図4に示すような力センサ11及びストロークセンサ19の出力が得られる。四輪自動車の場合、ステアリングホイールの舵角がゼロの状態、つまり、車両1が直進している状態において減速動作及び加速動作が行われた場合、左前輪3LFと右前輪3RF、及び、左後輪3LRと右後輪3RRにおいて得られるセンサ出力は対称性のある出力となり得る。
【0068】
このため、診断部65は、上記の故障判定処理において故障フラグをセットした後、左前輪3LFと右前輪3RFにおいて得られる、力センサ11LF,11RFのセンサ値同士及びストロークセンサ19LF,19RFのセンサ値同士を比較する処理を実行する。同様に、診断部65は、左後輪3LRと右後輪3RRにおいて得られる、力センサ11LR,11RRのセンサ値同士及びストロークセンサ19LR,19RRのセンサ値同士を比較する処理を実行する。
【0069】
そして、診断部65は、比較したセンサ値同士の対称性があるか否かを判定し、対称性がないと判定した左右の力センサ11又はストロークセンサ19のうち、上記の故障判定処理において故障が発生していると判定した車輪3に設けられた力センサ11又はストロークセンサ19に故障が発生していると判定する。これにより、ストロークセンサ19の信頼性が高いと言えない場合であっても、力センサ11の故障の発生を推定することができる。
【0070】
図3に戻り、故障判定処理において力センサ11に故障が発生していると判定された場合、診断部65は、故障検出時処理を実行する(ステップS23)。例えば診断部65は、車載システムにおいて力センサ11のセンサ値が車両運動の制御ロジックに用いられている場合、当該制御ロジックによる演算処理結果の信頼度を下げる処理を実行する。これにより、車両1が危険な走行状態になるおそれを低減することができる。
【0071】
また、診断部65は、車載システムにおいて力センサ11により検出される車高方向分力検出値Fz_detのみを用いる制御ロジックに対しては、上述した左右の車輪3で検出されるセンサ値の対称性を判定する処理において、故障がないと判定されたセンサのセンサ値を故障が発生していると判定したセンサのセンサ値に代用させてもよい。この場合、診断部65は、代用するセンサ値の信頼度を下げる処理を実行する。
【0072】
また、診断部65は、ユーザに対して、ディーラーや修理工場等への入庫を促す通知処理を実行してもよい。さらに、車両1が車外との通信手段を備えている場合、診断部65は、力センサ11のセンサ値を用いた演算処理に制限をかけた場合、当該演算処理結果に対応する情報を車外から取得できるように設定を変更してもよい。なお、上記の故障検出時処理は一例であって、例示した処理に限定されるものではなく、適宜の処理を実行可能に構成されていてよい。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る力センサの診断装置50は、車輪3のサスペンション装置10の一部に設けられて車輪3が路面から受ける外力によるサスペンション装置10のストローク量Sを検出するストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて車高方向分力推定値Fz_estを算出する。また、診断装置50は、力センサ11により検出された車高方向分力検出値Fz_detとストロークセンサ19のセンサ信号に基づいて算出された車高方向分力推定値Fz_estとを比較して力センサ11の故障判定を行う。これにより、同じ力センサを二重化するのではなく、車載された既存の他のセンサを用いて力センサ11の故障を検出することができる。したがって、コストの大幅な増加を伴わずに力センサ11の故障検知機能が実現される。
【0074】
また、本実施形態に係る力センサの診断装置50は、車輪3に加えられた外力が力センサ11により検出されてから、当該外力がストロークセンサ19により検出されるストローク量Sに現れるまでの遅延時間Δtを求め、同一の外力に起因する車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを比較して力センサ11の故障を判定する。このため、異なる外力に起因する車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを比較するおそれが低減され、力センサ11の故障の誤判定の可能性を低減することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る力センサの診断装置50は、車高方向分力検出値Fz_detの微分値dFz_d/dt及び車高方向分力推定値Fz_estの微分値dFz_e/dtがそれぞれあらかじめ設定された微分閾値dF_th以上である場合に遅延時間Δtを算出する。これにより、遅延時間Δtの演算回数が多くなりすぎてプロセッサの負荷が大きくなりすぎることを防ぐことができる。また、記憶部53に記録される車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのうち、比較対象となる車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estの整合の精度が低下することによる遅延時間Δtの算出結果の精度、ひいては、力センサ11の故障検出結果の精度が低下することを防ぐことができる。
【0076】
また、本実施形態に係る力センサの診断装置50は、車高方向分力検出値Fz_detが増大する時刻t1の前後の差分ΔFz_detと、車高方向分力推定値Fz_estが増大する時刻t2の前後の差分ΔFz_estとのずれΔFzが所定の計測閾値ΔFz_th以上の場合に、力センサ11が故障していると判定する。これにより、車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estの増大幅が大きくずれていないかを見ることにより、力センサ11の故障を判定することができ、遅延時間Δtの演算結果の精度にばらつきが生じた場合であっても、力センサ11の故障の判定結果の信頼性を高めることができる。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0078】
例えば上記の実施の形態では、診断部65が、車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのいずれかの時刻を、遅延時間算出処理により求められた遅延時間Δtだけずらし、車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estのデータの時刻合わせを行う例を説明したが、本開示の技術はこの例に限定されない。例えば車輪に加えられた同一の外力による車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを特定可能な同期信号が力センサ11のセンサ信号及びストロークセンサ19のセンサ信号に含まれる場合、対応する車高方向分力検出値Fz_det及び車高方向分力推定値Fz_estを特定して力センサ11の故障検知を実行することができる。
【0079】
また、上記の実施の形態では、サスペンション装置10のストローク変位量に応じた状態量を検出する変位センサとして、ダンパ装置17のロッドとシリンダとの相対変位量を検出するストロークセンサ19が用いられていたが、本開示の技術はこの例に限定されない。車体9と車輪3との間の相対変位量を検出できるセンサであればストロークセンサ19を設ける位置は特に限定されない。また、例えば変位センサは、スプリング15の弾性変形量を検出する変位センサであってもよい。上記の実施の形態で用いたストロークセンサ19と異なる変位センサを用いる場合、変位センサのセンサ値から得られる変位量をスプリング15及びダンパ装置17、あるいはスタビライザの変位量に換算するマップ又は換算式があらかじめ記憶部53に記録される。これにより、変位センサのセンサ値を用いて力センサ11の故障を検出することができ、上記の実施の形態による効果と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0080】
1:車両、3:車輪、3LF:左前輪、3RF:右前輪、3LR:左後輪、3RR:右後輪、5:車軸、9:車体、10:サスペンション装置、11:力センサ、13:サスペンションアーム、15:スプリング、17:ダンパ装置、19:ストロークセンサ、50:診断装置、51:処理部、53:記憶部、61:車高方向分力検出部、63:車高方向分力推定部、65:診断部