(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】永久磁石同期モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20240904BHJP
【FI】
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2020140070
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 和人
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109194078(CN,A)
【文献】特開2010-004671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0284960(US,A1)
【文献】国際公開第2012/014260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の回転子の外周側に設けられ、電機子巻線を備える固定子と、
前記回転子の各極に設けられ、隣接する隣極との間に、磁気障壁となる空隙が設けられた回転子鉄心と、
前記回転子の各極の前記回転子鉄心に埋め込まれ、前記円筒形状の径方向に並ぶように設けられ、
各列
に磁化電流による磁束により磁力を変化させる可変磁力磁石
及び磁力を変化させない固定磁力磁石を含む2列の磁石と
を備えることを特徴とする永久磁石同期モータ。
【請求項2】
前記2列の磁石は、一方の列を構成するそれぞれの磁石ともう一方の列を構成するそれぞれの磁石が、前記可変磁力磁石と前記固定磁力磁石で対向するように設けられたこと
を特徴とする請求項
1に記載の永久磁石同期モータ。
【請求項3】
前記空隙は、前記2列の磁石の間の前記円筒形状の周方向に設けられたこと
を特徴とする請求項1
または請求項2に記載の永久磁石同期モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、永久磁石同期モータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁束を変化させる永久磁石を用いたモータの高速回転時等において、永久磁石を減磁する弱め磁束制御を行うことが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、弱め磁束制御を行うには、減磁と、元の磁力に戻す増磁をするために、通常の制御よりも大きな電流となる磁化電流を流す必要があるため、磁化電流による損失及び高調波による磁気的な損失により、モータの運転効率が低下する。
【0005】
本発明の実施形態の目的は、減磁と増磁をするための磁化電流を抑制した永久磁石同期モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の観点に従った永久磁石同期モータは、円筒形状の回転子の外周側に設けられ、電機子巻線を備える固定子と、前記回転子の各極に設けられ、隣接する隣極との間に、磁気障壁となる空隙が設けられた回転子鉄心と、前記回転子の各極の前記回転子鉄心に埋め込まれ、前記円筒形状の径方向に並ぶように設けられ、各列に磁化電流による磁束により磁力を変化させる可変磁力磁石及び磁力を変化させない固定磁力磁石を含む2列の磁石とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、減磁と増磁をするための磁化電流を抑制した永久磁石同期モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る永久磁石同期モータの1極分の構成を示す上面図。
【
図2】第1実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を減磁する磁界を示す簡略図。
【
図3】第1実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を増磁する磁界を示す簡略図。
【
図4】第1実施形態に係る1極分の回転子の変形例を示す簡略図。
【
図5】第1実施形態に係るモータドライブシステムの構成を示す構成図。
【
図6】第1実施形態に係る永久磁石同期モータの磁化によるモータ電圧の変化を示す波形図。
【
図7】第1実施形態に係る永久磁石同期モータの磁石11,12の間の隙間の幅とモータ電圧との相関関係を示す図。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を減磁する磁界を示す簡略図。
【
図9】第2実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を増磁する磁界を示す簡略図。
【
図10】本発明の第3実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を減磁する磁界を示す簡略図。
【
図11】第3実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を増磁する磁界を示す簡略図。
【
図12】本発明の第4実施形態に係る永久磁石同期モータの1極分の構成を示す上面図。
【
図13】第4実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を減磁する磁界を示す簡略図。
【
図14】第4実施形態に係る1極分の回転子の構成における可変磁力磁石を増磁する磁界を示す簡略図。
【
図15】第4実施形態に係る1極分の回転子の変形例を示す簡略図。
【
図16】第4実施形態に係る永久磁石同期モータの磁化によるモータ電圧の変化を示す波形図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る永久磁石同期モータ10の1極分の構成を示す上面図である。図面において、同一部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
図1に示す永久磁石同期モータ10は、8極のモータの1極分を示すが、2極以上であれば、いくつの極数のモータに適用してもよい。以降の図も同様に、4極又は8極のモータの1極分を示すが、いくつの極数のモータに適用してもよい。
【0010】
永久磁石同期モータ10は、回転子1、及び、固定子2を備える。永久磁石同期モータ10は、円筒形状であり、円筒形状の回転子1の外周側に、円筒形状の固定子2が設けられる。回転子1は、固定子2に対して相対的に回転するように、固定子2と接続される。なお、永久磁石同期モータ10には、インバータ制御をするための電流センサ又は電圧センサ等が設けられてもよいし、回転角を検出するためのレゾルバ等のセンサが設けられてもよい。永久磁石同期モータ10の各極の構成は、同様であるため、以降では、1極分の構成について主に説明する。
【0011】
回転子1は、2つの可変磁力磁石11、2つの固定磁力磁石12、及び、回転子鉄心13を備える。
【0012】
磁石11,12は、円筒形状の回転子鉄心13を回転軸方向に貫通するように埋め込まれた永久磁石である。磁石11,12は、直方体形状(厚い板形状)であり、回転子1側(内周側)から外周側に磁束が発生するように設けられる。
【0013】
可変磁力磁石11は、固定磁力磁石12よりも固定子2側に一定の間隔をあけて設けられる。2つの可変磁力磁石11は、1極分の回転子1の径方向の中心線(d軸)に対して、長方形状の表面の長い方の辺が垂直になる向きで、周方向(又は、径方向に垂直方向)に隙間をあけて1列になるように並べて設けられる。
【0014】
可変磁力磁石11は、低保磁力の磁石である。また、可変磁力磁石11は、磁化電流(d軸電流)による磁束を流すことにより、磁力を変化させ、再度、強い磁束を流さない限り、変化後の磁力を保ち続ける。即ち、可変磁力磁石11は、磁力を不可逆的に変化させることのできる磁石である。
【0015】
2つの固定磁力磁石12は、2つの可変磁力磁石11と平行になるように、2つの可変磁力磁石11と同様に、隙間をあけて1列になるように並べて設けられる。これにより、可変磁力磁石11の列と固定磁力磁石12の列が径方向に並ぶように配置される。固定磁力磁石12は、可変磁力磁石11よりも磁力の大きい高保磁力の磁石であり、磁力を変化させない磁石である。具体的には、可変磁力磁石11の磁力を変化させるための磁化電流による磁束を受けても、固定磁力磁石12の磁力は変わらない。
【0016】
回転子鉄心13には、磁気障壁用空隙31及び磁石用空隙32が設けられる。磁気障壁用空隙31は、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12の間の周方向で、自極と隣接する隣極との間に設けられた切欠き状の空隙である。磁気障壁用空隙31は、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12との間の磁束の流れを変えるための磁気障壁として設けられる。具体的には、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12の間に回転子鉄心13が存在するので、この回転子鉄心13が磁路として固定磁力磁石12と隣極の固定磁力磁石12を磁気的に結合させて固定磁力磁石12間で磁気的に短絡する。そこで、磁気障壁用空隙31はこの磁気的な短絡を防止することで、固定磁力磁石12の磁界が可変磁力磁石11に効果的に作用できる。磁石用空隙32は、各磁石11,12の両端に設けられ、円弧状に膨らむように設けられた空隙である。磁石用空隙32は、磁石11,12及び回転子鉄心13の強度を高めるために設けられるが、磁気障壁用空隙31と同様に、磁気障壁としての機能を有してもよい。なお、磁石用空隙32は、設けなくてもよい。
【0017】
固定子2は、固定子鉄心21、及び、電機子巻線22を備える。電機子巻線22は、円筒形状の固定子鉄心21を回転軸方向に貫通するように設けられる。
図1では、電機子巻線22を断面で示す。電機子巻線22に流れる電機子電流により、永久磁石同期モータ10が駆動する。電機子電流は、磁化電流(d軸電流)及びトルク電流(q軸電流)を含む。磁化電流とトルク電流は、回転座標系において、電気角90度の差がある。磁化電流は、磁束を変化させることで、可変磁力磁石11の磁化を変化させるための電流成分である。トルク電流は、トルクを制御するための電流成分である。
【0018】
図2は、1極分の回転子1の構成における可変磁力磁石11を減磁する磁界を示す簡略図である。
図3は、1極分の回転子1の構成における可変磁力磁石11を元の磁力に戻すための増磁する磁界を示す簡略図である。
図2及び
図3は、
図1と同様の方向から見た上面を簡略した図であり、4極のモータの構成を示している。
【0019】
図2を参照して、減磁の場合の磁束Fi1,Fcの流れについて説明する。
1極分の回転子1の扇状の表面の左右両側の径方向の辺を含む直線は、dq軸の回転座標系のq軸となる。1極分の回転子1の扇状の表面を半分にする径方向の中心線は、d軸となる。
【0020】
可変磁力磁石11の減磁は、永久磁石同期モータ10の弱め磁束制御を行うために行われる。減磁をするための磁化電流による磁束Fi1は、内周の方向に流れる。具体的には、磁束Fi1は、d軸方向で、外周側(固定子2側)から内周側(回転軸側)に流れる。固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、内周の方向とは反対の外周の方向に流れる。これにより、これらの磁束Fi1,Fcは、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12との間で互いに反発する。互いに反発した磁束Fi1,Fcは、回転子鉄心13を介して隣極のそれぞれの永久磁石11,12間で形成されたそれぞれの磁束のループ回路によりもとに戻る。具体的には、固定子鉄心21で発生した磁化電流による磁束は、可変磁力磁石11と回転子鉄心13を通り、磁気障壁用空隙31を介して隣極の回転子鉄心13から隣極の可変磁力磁石11、そして固定子鉄心21に戻るような磁化電流の巻線22を有する固定子鉄心21と可変磁力磁石11間で閉じたループが形成される。一方、固定磁力磁石12はこの磁化電流による磁束によって回転子鉄心13内で反発されて、回転子鉄心13から磁気障壁用空隙31を介して隣極の回転子鉄心13を通って隣極の固定磁力磁石12と最内周側回転子鉄心13、そして固定磁力磁石12に戻るような固定磁力磁石12間で閉じたループができる。
【0021】
これらにより、減磁電流を流す減磁動作においては、可変磁力磁石11は、固定磁力磁石12から発生した磁束Fcによる影響を低減し、磁化電流による磁束Fi1により効果的に減磁される。
【0022】
図3を参照して、元の磁力に戻すための増磁の場合の磁束Fi2,Fcの流れについて説明する。
可変磁力磁石11の増磁は、永久磁石同期モータ10の弱め磁束制御から通常の制御に移行するために行われる。したがって、可変磁力磁石11の増磁は、通常、可変磁力磁石11を減磁した後に、可変磁力磁石11を減磁前のもとの磁力に戻すために行われる。
【0023】
増磁をするための磁化電流による磁束Fi2は、外周の方向に流れる。固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、外周の方向に流れる。これにより、これらの磁束Fi2,Fcは、同一方向に流れる。また、磁気障壁用空隙31により、固定磁力磁石12の磁束は隣極への漏れを抑制されて可変磁力磁石11の増磁方向に効果的に加わる。
【0024】
これらにより、磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストが加わり、可変磁力磁石11が増磁される。
【0025】
なお、
図4に示す回転子1aのように、2つの可変磁力磁石11の間の隙間、及び、2つの固定磁力磁石12の間の隙間は、無くてもよい。また、可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12は、それぞれ1つでもよいし、3つ以上設けられてもよい。さらに、3つ以上の可変磁力磁石11又は3つ以上の固定磁力磁石12が設けられる場合において、互いに隣接する可変磁力磁石11又は固定磁力磁石12の間に、隙間は、設けられてもよいし、無くてもよい。
【0026】
図5は、本実施形態に係るモータドライブシステム40の構成を示す構成図である。なお、モータドライブシステム40は、レゾルバ等により検出した回転角により制御するシステムでもよいし、回転角を推定して制御するセンサレス制御を採用したシステムでもよい。さらに、モータドライブシステム40は、ここで説明する構成に限らず、どのように構成してもよい。
【0027】
モータドライブシステム40は、永久磁石同期モータ10、インバータ41、制御装置42、及び、電流センサ43を備える。制御装置42は、電流指令演算部421、電流制御部422、及び、インバータ制御回路423を備える。
【0028】
インバータ41は、永久磁石同期モータ10に三相交流電力を供給して、永久磁石同期モータ10を駆動する。制御装置42は、インバータ41を介して、永久磁石同期モータ10の駆動を制御する。電流センサ43は、インバータ41から永久磁石同期モータ10に供給される三相交流電流を検出して、検出した三相交流電流値I3を制御装置42に出力する。
【0029】
電流指令演算部421には、トルク指令値Tr及び磁束指令値φrが入力される。例えば、モータドライブシステム40が車両に設けられた場合。車両の運転状態に応じて、トルク指令値Tr及び磁束指令値φrが決定される。
【0030】
電流指令演算部421は、トルク指令値Trに基づいて、トルク電流指令値Iqrを生成し、磁束指令値φrに基づいて、磁束電流指令値Idrを生成する。電流指令演算部421は、磁束指令値φrに基づいて、可変磁力磁石11を磁化(減磁又は増磁)するか否かを決定する。可変磁力磁石11を磁化する場合、電流指令演算部421は、可変磁力磁石11に磁化電流が流れるように、磁束電流指令値Idrを生成する。電流指令演算部421は、生成したトルク電流指令値Iqr及び磁束電流指令値Idrを電流制御部422に出力する。
【0031】
電流制御部422は、電流センサ43により検出された三相交流電流値I3に基づいて、トルク電流指令値Iqr及び磁束電流指令値Idrに対応する三相交流電流がインバータ41から出力されるように、三相交流電圧指令値V3rを生成する。電流制御部422は、生成した三相交流電圧指令値V3rをインバータ制御回路423に出力する。
【0032】
インバータ制御回路423は、三相交流電圧指令値V3rに基づいて、インバータ41から出力される三相交流電圧を制御するように、インバータ41に制御信号Gtを出力する。例えば、インバータ制御回路423は、インバータ41をPWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)制御をするためのゲート信号を出力する。これにより、永久磁石同期モータ10は、トルク指令値Tr及び磁束指令値φrに従って制御される。
【0033】
図6は、本実施形態に係る永久磁石同期モータ10の磁化によるモータ電圧の変化を示す波形図である。
図7は、本実施形態に係る永久磁石同期モータ10の各磁極のある2つの可変磁力磁石11の間の隙間の幅とモータ電圧との相関関係を示す図である。
図6及び
図7において、磁化電流は、定格電流の1.5倍である。
【0034】
図6では、可変磁力磁石11の初期状態(完全磁化状態)、減磁状態、及び、増磁状態(減磁状態から増磁した状態)のそれぞれのモータ電圧(三相交流電圧)の各相電圧の波形を示している。
【0035】
図7では、互いに隣接する可変磁力磁石11同士又は固定磁力磁石12同士の間の隙間の幅と、初期状態、減磁状態、及び、増磁状態のそれぞれのモータ電圧との相関関係を示している。
図7に示すように、可変磁力磁石11又は固定磁力磁石12の間の隙間の幅を調整することで、各状態のモータ電圧を調整することができる。例えば、隙間の幅を3mmにすることで、減磁状態と増磁状態の電圧(磁束)の変化幅を、初期状態に対して約46%から約91%にすることができる。
【0036】
本実施形態によれば、回転子1の1極分の構成において、可変磁力磁石11を流れた後の減磁をするための磁化電流による磁束Fi1と固定磁力磁石12の磁束Fcが回転子鉄心13中で反発し合うように構成されることにより、磁化電流による磁束は回転子鉄心13と隣極の可変磁力磁石11に主に作用し、同時に固定磁力磁石12の磁束Fcによる可変磁力磁石11への影響を抑制して効果的に可変磁力磁石11を減磁できる。
【0037】
また、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁化電流の磁束と同方向の磁場によるアシストがされるように構成されることにより、増磁をする場合の磁化電流を抑制することができる。
【0038】
さらに、磁気障壁用空隙31が設けられることにより、可変磁力磁石11を増磁する場合は、固定磁力磁石12の隣極の固定磁力磁石12への漏れ磁束を抑制して固定磁力磁石12の磁場により可変磁力磁石11への増磁作用をさらにアシストすることができる。
【0039】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態に係る1極分の回転子1Aの構成における可変磁力磁石11を減磁する磁界を示す簡略図である。
図9は、第2実施形態に係る1極分の回転子1Aの構成における可変磁力磁石11を増磁する磁界を示す簡略図である。
図8及び
図9では、4極のモータの構成を示している。
【0040】
図8及び
図9に示す回転子1Aは、
図2及び
図3に示す第1実施形態に係る回転子1において、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12の位置を入れ替えたものである。その他の点については、本実施形態は、第1実施形態と同様である。
【0041】
図8を参照して、減磁の場合の磁束Fi1,Fcの流れについて説明する。
可変磁力磁石11を流れた後の減磁をするための磁化電流による磁束Fi1は、固定磁力磁石12の磁束Fcとは反対方向に流れる。したがって、磁化電流による磁束は固定磁力磁石12の磁束よりも大きくする必要がある。
【0042】
図9を参照して、増磁の場合の磁束Fi2,Fcの流れについて説明する。
第1実施形態と同様に、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2と固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、同一方向に流れる。
【0043】
これにより、第1実施形態と同様に、磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストが加わり、可変磁力磁石11が増磁される。
【0044】
なお、本実施形態についても、第1実施形態と同様に、可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12は、いくつ設けられてもよいし、互いに隣接する磁石11,12の間の隙間は、無くてもよい。
【0045】
本実施形態によれば、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストがされるように構成されることにより、増磁をする場合の磁化電流を抑制することができる。
【0046】
さらに、磁気障壁用空隙31が設けられることにより、可変磁力磁石11を増磁する場合は、固定磁力磁石12が回転子鉄心13を介して隣極の固定磁力磁石12に漏れることを抑制して固定磁力磁石12の磁場により増磁作用をさらにアシストすることができる。
【0047】
(第3実施形態)
図10は、本発明の第3実施形態に係る1極分の回転子1Bの構成における可変磁力磁石11を減磁する磁界を示す簡略図である。
図11は、第3実施形態に係る1極分の回転子1Bの構成における可変磁力磁石11を増磁する磁界を示す簡略図である。
図10及び
図11では、4極のモータの構成を示している。
【0048】
図10及び
図11に示す回転子1Bは、
図2及び
図3に示す第1実施形態に係る回転子1において、2つの可変磁力磁石11うちの1つと2つの固定磁力磁石12のうちの1つの位置を入れ替えたものである。その他の点については、本実施形態は、第1実施形態と同様である。なお、
図10及び
図11に示す回転子1Bの2つの可変磁力磁石11と2つの固定磁力磁石12の位置を入れ替えても、本実施形態と同様の構成となる。
【0049】
図10を参照して、減磁の場合の磁束Fi1,Fcの流れについて説明する。
減磁をするための磁化電流による磁束Fi1は、可変磁力磁石11と回転子鉄心13を通って磁気障壁空隙31を介して隣極の回転子鉄心13と可変磁力磁石11を通り固定子鉄心13に戻るループと、外周側に設けられた可変磁力磁石11を流れた後に回転子鉄心13から内周側に設けられた可変磁力磁石11へと流れる2つの主なループを形成する。固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、磁化電流による磁束Fi1を避けるように回転子鉄心13を通って固定磁力磁石12間で閉じたループを形成する。このように、磁化電流による磁束が効果的に可変磁力磁石11を主に通り、同時に固定磁力磁石12の磁束Fcによる悪影響を低減できる。
【0050】
これにより、可変磁力磁石11は、磁化電流による磁束が固定磁力磁石12を介さずに流れることで効果的に減磁され、同時に固定磁力磁石12から発生した磁束Fcによる影響を低減して減磁できる。
【0051】
図11を参照して、増磁の場合の磁束Fi2,Fcの流れについて説明する。
第1実施形態と同様に、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2と固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、同一方向に流れる。
【0052】
これにより、第1実施形態と同様に、磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストが加わり、可変磁力磁石11が増磁される。
さらにもう一つの磁化電流による磁束の流れは、外周側可変磁力磁石11aと回転子鉄心13と内周側可変磁力磁石11bを通るループが形成される。
【0053】
これらの2つの主な磁束の流れと固定磁力磁石12のアシストによって少ない磁化電流で可変磁力磁石11を増磁できる。
【0054】
なお、本実施形態についても、第1実施形態と同様に、可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12は、いくつ設けられてもよいし、互いに隣接する磁石11,12の間の隙間は、無くてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、回転子1Bの1極分の構成において、減磁をするための磁化電流による磁束Fi1が外周側と内周側にずらして設けられた2つの可変磁力磁石11のみを通り抜ける経路を形成するように構成されることにより、固定磁力磁石12の磁束Fcによる影響を抑制して磁化電流を流すことができる。
【0056】
また、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストがされるように構成されることにより、増磁をする場合の磁化電流を抑制することができる。さらに、外周側と内周側にずらして設けられた2つの可変磁力磁石11のみを通り抜ける経路を形成するように構成されることにより、効果的に可変磁力磁石11のみを増磁できる。
【0057】
さらに、磁気障壁用空隙31が設けられることにより、可変磁力磁石11を減磁する場合は、固定磁力磁石12の磁場による影響をさらに低減し、可変磁力磁石11を増磁する場合は、固定磁力磁石12の磁場により増磁作用をさらにアシストすることができる。
【0058】
(第4実施形態)
図12は、本発明の第4実施形態に係る永久磁石同期モータ10Cの1極分の構成を示す上面図である。
図12に示す永久磁石同期モータ10Cは、8極のモータの1極分を示す。
【0059】
永久磁石同期モータ10Cは、
図1に示す第1実施形態に係る永久磁石同期モータ10において、回転子1を回転子1Cに代えたものである。回転子1Cは、第1実施形態に係る回転子1において、可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12の数及び配置を変えたものである。その他の点については、本実施形態は、第1実施形態と同様である。
【0060】
可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12は、第1実施形態と同様に、径方向に2つの列を構成するように設けられる。各列は、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12が交互に周方向に延びるように設けられる。外周側の磁石11,12の列は、列の両端に可変磁力磁石11が設けられ、2つの可変磁力磁石11の間に固定磁力磁石12が設けられる。内周側の磁石11,12の列は、列の両端に固定磁力磁石12が設けられ、2つの固定磁力磁石12の間に可変磁力磁石11が設けられる。これにより、2つの列のそれぞれの磁石11,12は、可変磁力磁石11と固定磁力磁石12で対向するように設けられる。
【0061】
なお、
図12では、磁石11,12の2つの列は、中央に位置する磁石11,12が内周側に寄り、両端に位置する磁石11,12が外周側に寄り、全体として、内周側に膨らむ弧を描くように、磁石11,12が並べられている。磁石11,12の2つの列の並べ方は、これに限らず、どのように並べてもよい。
【0062】
また、
図12では、第1実施形態と同様に設けられた磁気障壁用空隙31の他に、外周側の磁石11,12の列の両端よりも少し外周側で、自極と隣極との間に切欠き状の磁気障壁用空隙31Cが設けられているが、この磁気障壁用空隙31Cは、自極と隣極との間の何処に設けられてもよいし、設けなくてもよい。
【0063】
図13は、1極分の回転子1Cの構成における可変磁力磁石11を減磁する磁界を示す簡略図である。
図14は、1極分の回転子1Cの構成における可変磁力磁石11を増磁する磁界を示す簡略図である。
図13及び
図14では、4極のモータの構成を示している。
【0064】
図13を参照して、減磁の場合の磁束Fi1,Fcの流れについて説明する。
磁化電流による減磁時の磁束の流れは主に2つあり、一つ目の磁化電流による磁束に関して説明する。外周側の列の可変磁力磁石11の両端側を流れる磁化電流による磁束Fi1と、内周側の列の固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、第1実施形態と同様に、磁石11,12の2つの列の間で互いに反発する。互いに反発した磁束Fi1,Fcは、回転子鉄心13を介して形成されたそれぞれの磁束のループ回路によりもとに戻る。もう一つの外周側の列の可変磁力磁石11の中央側を流れる磁化電流による磁束Fi1は、その後、内周側の列の可変磁力磁石11を流れる。磁化電流による磁束Fi1が外周と内周の可変磁力磁石11のみを通るので内周部の可変磁力磁石11を含めて効果的に減磁できる。
【0065】
これにより、可変磁力磁石11は、固定磁力磁石12から発生した磁束Fcによる影響を低減し、磁化電流による磁束Fi1により減磁される。
【0066】
図14を参照して、増磁の場合の磁束Fi2,Fcの流れについて説明する。
磁化電流による増磁時の磁束の流れは主に2つあり、一つ目の磁化電流による磁束に関して説明する。第1実施形態と同様に、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2と固定磁力磁石12から発生した磁束Fcは、同一方向に流れる。
【0067】
これにより、第1実施形態と同様に、磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストが加わり、可変磁力磁石11が増磁される。
さらにもう一つの外周側の列の可変磁力磁石11の中央側を流れる磁化電流による磁束Fi2は、その後、内周側の列の可変磁力磁石11を流れる。磁化電流による磁束Fi2が外周と内周の可変磁力磁石11のみを通るので内周部の可変磁力磁石11を含めて効果的に増磁できる。
【0068】
なお、本実施形態についても、第1実施形態と同様に、可変磁力磁石11及び固定磁力磁石12は、いくつ設けられてもよいし、互いに隣接する磁石11,12の間の隙間は、無くてもよい。また、
図15に示す回転子1Caのように、
図13,14に示す回転子1Cにおいて、全ての可変磁力磁石11と全ての固定磁力磁石12を入れ替えた構成にしてもよい。
【0069】
図16では、第1実施形態の
図6と同様に、本実施形態に係る可変磁力磁石11の初期状態、減磁状態、及び、増磁状態のそれぞれのモータ電圧の各相電圧の波形を示している。
図16から分かるように、本実施形態の構成では、特に、減磁状態において、モータ電圧が限りなくゼロに近づく。
【0070】
本実施形態によれば、回転子1Cの1極分の構成において、次のように構成される。減磁の場合、一方の経路を流れる磁化電流による磁束Fi1は、第1実施形態と同様に、固定磁力磁石12の磁束Fcと反発し合うように構成する。また、もう一方の経路を流れる磁化電流による磁束Fi1は、第3の実施形態と同様に、可変磁力磁石11のみを通り抜ける経路を形成するように構成する。これにより、可変磁力磁石11の磁束Fcによる影響を抑制して、減磁するための磁化電流を流すことができる。
【0071】
また、他の実施形態と同様に、増磁をするための磁化電流による磁束Fi2の増磁作用に、固定磁力磁石12の磁場によるアシストが加わるように構成されることにより、増磁をする場合の磁化電流を抑制することができる。
【0072】
さらに、磁気障壁用空隙31,31Cが設けられることにより、可変磁力磁石11を減磁する場合は、固定磁力磁石12の磁場による影響をさらに低減し、可変磁力磁石11を増磁する場合は、固定磁力磁石12の磁場により増磁作用をさらにアシストすることができる。
【0073】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、構成要素を削除、付加又は変更等をしてもよい。また、複数の実施形態について構成要素を組合せ又は交換等をすることで、新たな実施形態としてもよい。このような実施形態が上述した実施形態と直接的に異なるものであっても、本発明と同様の趣旨のものは、本発明の実施形態として説明したものとして、その説明を省略している。
以下に、本願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
円筒形状の回転子の外周側に設けられ、電機子巻線を備える固定子と、
前記回転子の各極に設けられ、隣接する隣極との間に、磁気障壁となる空隙が設けられた回転子鉄心と、
前記回転子の各極の前記回転子鉄心に埋め込まれ、前記円筒形状の径方向に並ぶように設けられ、一方の列に、磁化電流による磁束により磁力を変化させる可変磁力磁石を含み、もう一方の列に、磁力を変化させない固定磁力磁石を含む2列の磁石と
を備えることを特徴とする永久磁石同期モータ。
[2]
前記空隙は、前記2列の磁石の間の前記円筒形状の周方向に設けられたこと
を特徴とする[1]に記載の永久磁石同期モータ。
[3]
前記2列の磁石は、前記固定子側の列に前記可変磁力磁石を含み、前記回転子の列に前記固定磁力磁石を含むこと
を特徴とする[1]に記載の永久磁石同期モータ。
[4]
前記2列の磁石は、前記固定子側の列に前記固定磁力磁石を含み、前記回転子の列に前記可変磁力磁石を含むこと
を特徴とする[1]に記載の永久磁石同期モータ。
[5]
前記2列の磁石は、各列に前記可変磁力磁石及び前記固定磁力磁石を含むこと
を特徴とする[1]に記載の永久磁石同期モータ。
[6]
前記2列の磁石は、一方の列を構成するそれぞれの磁石ともう一方の列を構成するそれぞれの磁石が、前記可変磁力磁石と前記固定磁力磁石で対向するように設けられたこと
を特徴とする[5]に記載の永久磁石同期モータ。
【符号の説明】
【0074】
1…回転子、2…固定子、10…永久磁石同期モータ、11,11a,11b…可変磁力磁石、12…固定磁力磁石、13…回転子鉄心、21…固定子鉄心、22…電機子巻線、31…磁気障壁用空隙、32…磁石用空隙。