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特許7549189高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法及びそれを利用する高炉操業方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法及びそれを利用する高炉操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240904BHJP
   C21B 7/24 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C21B5/00 310
C21B7/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020070973
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167447
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-12-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100120499
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 淳
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
(72)【発明者】
【氏名】中内 利樹
(72)【発明者】
【氏名】松崎 眞六
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 篤
(72)【発明者】
【氏名】相本 道宏
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-094283(JP,A)
【文献】特開平11-323412(JP,A)
【文献】特開平03-264612(JP,A)
【文献】特開2004-346414(JP,A)
【文献】特開2018-123426(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110521(WO,A1)
【文献】特開2008-260990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法であって、
高炉原料を貯留する原料槽と、前記原料槽から高炉まで前記高炉原料を搬送する一または複数のコンベヤと、を備える高炉原料供給設備において、前記原料槽の後かつ前記高炉の前で前記高炉原料の粒径をオンラインでレーザー光切断3Dカメラを用いて前記高炉に装入される前記高炉原料の分量に応じた所定時間内に連続的に測定するとともに、前記高炉原料の成分をオンラインで中性子線成分分析装置を用いて前記高炉に装入される前記高炉原料の分量に応じた前記所定時間内に連続的に測定する測定工程、
前記測定工程で得られる測定結果である原料性状、及び/又は、前記測定結果を演算して得られる演算結果である原料性状を取得する取得工程、並びに
前記原料性状を前記高炉数学モデルに入力する入力工程を含む、シミュレーション方法。
【請求項2】
前記高炉原料の成分が、複数の鉱石原料の平均組成、及び/又は、複数の銘柄のコークスの平均組成である、請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記高炉原料の粒径が、複数の鉱石原料の粒度分布より得られる平均径、及び/又は、複数の銘柄のコークスの粒度分布より得られる平均径である、請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記高炉原料供給設備が、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記高炉まで高炉原料を搬送する装入コンベヤを備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記高炉原料供給設備が、前記原料槽と前記高炉との間に中継槽をさらに備え、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記中継槽までコークスを搬送するコークス用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで焼結鉱を搬送する焼結鉱用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで焼結鉱以外の鉱石原料及び副原料を搬送する鉱石原料用コンベヤ、並びに、前記中継槽から前記高炉までそれら高炉原料を搬送する装入コンベヤ、を備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記高炉原料供給設備が、前記原料槽と前記高炉との間に中継槽をさらに備え、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記中継槽までコークスを搬送するコークス用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで鉱石原料及び副原料を搬送する焼結鉱用コンベヤ、並びに、前記中継槽から前記高炉までそれら高炉原料を搬送する装入コンベヤ、を備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記測定工程において、前記高炉原料のバッチごとに前記高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を測定する、請求項1~6のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記取得工程において、前記測定工程で得られた測定結果を、チャージごと又は所定時間ごとの平均値に演算して前記原料性状を取得する、請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記測定工程において、前記高炉原料の成分を、中性子線成分分析装置を用いて測定する、請求項1~8のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法で得られるシミュレーション結果を利用する高炉操業方法であって、現在時刻の炉内状態を、現在時刻の直前の時刻に取得された前記原料性状が入力された前記高炉数学モデルのシミュレーション結果を用いて把握する、高炉操業方法。
【請求項11】
前記シミュレーション結果を用いて得られる前記現在時刻の炉内状態を示す値と、前記高炉に設けられた1つ又は複数のセンサの実測値とが一致するように、一定の周期で前記高炉数学モデルのパラメータをチューニングすることを含む、請求項10に記載の高炉操業方法。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法で得られるシミュレーション結果を利用する高炉操業方法であって、現在時刻より後の将来時刻の炉内状態を、
現在時刻の直前の時刻に取得された前記原料性状が繰り返し入力された前記高炉数学モデルのシミュレーション結果を用いて予測する、高炉操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法及びそれを利用する高炉操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉操業は、高炉に設置された各種センサ類で測定される「測定データ(センサデータ)」、及び/又は、それらの測定データから演算される「操業管理指標(演算データ)」に基づいてオペレーターが炉況を判断し、炉況異常に陥ると予測される(あるいは炉況異常に陥ったと判断された)場合に操業操作因子を適切に調整する操業アクションを行うことによって実施される。ここで、測定データとは、例えば、高炉原料(鉱石原料、コークス、副原料など)の粒径等の物理性状又は組成等の化学性状などであり、操業操作因子とは、例えば、羽口からの送風条件、炉頂からの高炉原料の装入条件、及び高炉に装入される原料性状などである。
【0003】
所望の出銑量や熱レベルで安定的な高炉操業を行うために、一般的に、測定データやそれを演算して得られる操業管理指標が、予め設定してあるそれらの基準値(「管理値」又は「閾値」ともいう)に達した場合に取るべき操業アクションが定められている。これにより、オペレーターの操業習熟度などに関わらず、所定の状態になった場合に所定の操業アクションが取られることが期待される。
【0004】
しかし、実際の高炉操業では、測定データや操業管理指標が上記基準値に達しないように、複数のデータの時系列推移に基づいて、オペレーターが自身の経験や勘に基づいて炉況を判断して、炉況異常を回避する操業アクションが早期に取られる場合がある。また、測定データや操業管理指標が基準値に達していない正常な炉況の場合であっても、高炉の出銑量及び熱レベル(溶銑温度、ソリューションロスカーボン量など)を一定にするために同様に操業アクションが取られる場合がある。
【0005】
よって、実際の高炉操業において、現在の炉況を判断さらには将来の炉況を予測し、どのような操業アクションをどのようなタイミングで行うかを判断することは、属人的に行われることがあり、この判断はオペレーターの操業習熟度に依存するところが大きい。したがって、オペレーターにより判断が分かれ、必ずしも十分に安定的な高炉操業を行えない場合がある。それだけではなく、上記操業アクションを行う判断に際し、データの見逃しや判断ミスなどの人為的ミスによって正常な炉況が悪化したり、場合によっては重大な高炉操業のトラブルに繋がったりするおそれすらある。
【0006】
これらの問題に対処するために、測定データを使用して、高炉数学モデル(高炉の物理モデル)を用いて現在の炉況を把握し、将来の炉況を予測して操業アクションを実施する高炉操業方法が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭56-51507号公報
【文献】特開平11-335710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の高炉操業方法では、高炉に装入される高炉原料、例えば、コークス炉から得られるコークスや焼結機から得られる焼結鉱は、通常、当該高炉原料を貯留する原料槽よりも手前でサンプリングすることによりその性状が測定されていた。このような測定は、測定頻度が低く(一般的に3~6回/日)、代表性の課題があるだけでなく、サンプリングから分析結果が出るまでのタイムラグ及びサンプリング位置から高炉装入までのタイムラグも存在する。そうすると、サンプリング試料により得られた原料性状と、実際に高炉に装入される高炉原料の原料性状とが必ずしも十分に一致せず、その結果、サンプリング試料により得られた原料性状に基づいてシミュレーションを行う高炉数学モデルが、実際の炉況を十分に反映できなくなる。そのため、高炉数学モデルによるシミュレーションに従って高炉操業を想定どおりに行えないことがある。また、コークス炉及び焼結機での高炉原料の製造から高炉に至る高炉原料の搬送をトラッキングすることについては、精度上の課題が未だに残っている。したがって、従来の高炉操業方法では、高炉数学モデルを用いるシミュレーションによる炉況の再現の精度は必ずしも十分なものではなかった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑み、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を、高炉装入までのタイムラグが極めて少ない原料槽の後で測定することで、より高い精度で実際の炉況を再現することが可能な、高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法、及び当該シミュレーション結果を利用した高炉操業方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主旨は以下のとおりである。
(1)
高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法であって、
高炉原料を貯留する原料槽と、前記原料槽から高炉まで前記高炉原料を搬送する一または複数のコンベヤと、を備える高炉原料供給設備において、前記原料槽の後かつ前記高炉の前で前記高炉原料の粒径をオンラインでレーザー光切断3Dカメラを用いて前記高炉に装入される前記高炉原料の分量に応じた所定時間内に連続的に測定するとともに、前記高炉原料の成分をオンラインで中性子線成分分析装置を用いて前記高炉に装入される前記高炉原料の分量に応じた前記所定時間内に連続的に測定する測定工程、
前記測定工程で得られる測定結果である原料性状、及び/又は、前記測定結果を演算して得られる演算結果である原料性状を取得する取得工程、並びに
前記原料性状を前記高炉数学モデルに入力する入力工程を含む、シミュレーション方法。
(2)
前記高炉原料の成分が、複数の鉱石原料の平均組成、及び/又は、複数の銘柄のコークスの平均組成である、(1)に記載のシミュレーション方法。
(3)
前記高炉原料の粒径が、複数の鉱石原料の粒度分布より得られる平均径、及び/又は、複数の銘柄のコークスの粒度分布より得られる平均径である、(1)又は(2)に記載のシミュレーション方法。
(4)
前記高炉原料供給設備が、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記高炉まで高炉原料を搬送する装入コンベヤを備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、(1)~(3)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法。
(5)
前記高炉原料供給設備が、前記原料槽と前記高炉との間に中継槽をさらに備え、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記中継槽までコークスを搬送するコークス用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで焼結鉱を搬送する焼結鉱用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで焼結鉱以外の鉱石原料及び副原料を搬送する鉱石原料用コンベヤ、並びに、前記中継槽から前記高炉までそれら高炉原料を搬送する装入コンベヤ、を備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、(1)~(3)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法。
(6)
前記高炉原料供給設備が、前記原料槽と前記高炉との間に中継槽をさらに備え、前記コンベヤとして、前記原料槽から前記中継槽までコークスを搬送するコークス用コンベヤ、前記原料槽から前記中継槽まで鉱石原料及び副原料を搬送する焼結鉱用コンベヤ、並びに、前記中継槽から前記高炉までそれら高炉原料を搬送する装入コンベヤ、を備え、
前記測定工程が、前記装入コンベヤで実施される、(1)~(3)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法。
(7)
前記測定工程において、前記高炉原料のバッチごとに前記高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を測定する、(1)~(6)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法。
(8)
前記取得工程において、前記測定工程で得られた測定結果を、チャージごと又は所定時間ごとの平均値に演算して前記原料性状を取得する、(7)に記載のシミュレーション方法。
(9)
前記測定工程において、前記高炉原料の成分を、中性子線成分分析装置を用いて測定する、(1)~(8)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法。
(10)
(1)~(9)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法で得られるシミュレーション結果を利用する高炉操業方法であって、現在時刻の炉内状態を、現在時刻の直前の時刻に取得された前記原料性状が入力された前記高炉数学モデルのシミュレーション結果を用いて把握する、高炉操業方法。
(11)
前記シミュレーション結果を用いて得られる前記現在時刻の炉内状態を示す値と、前記高炉に設けられた1つ又は複数のセンサの実測値とが一致するように、一定の周期で前記高炉数学モデルのパラメータをチューニングすることを含む、(10)に記載の高炉操業方法。
(12)
(1)~(9)のいずれか1つに記載のシミュレーション方法で得られるシミュレーション結果を利用する高炉操業方法であって、現在時刻より後の将来時刻の炉内状態を、
現在時刻の直前の時刻に取得された前記原料性状が繰り返し入力された前記高炉数学モデルのシミュレーション結果を用いて予測する、高炉操業方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より高炉に近い位置で、すなわちタイムラグが極めて少ない位置で測定した高炉原料の特性に基づいて原料性状を取得することができるため、高炉数学モデルに入力する当該原料性状を、実際に高炉に装入される原料性状に近づけることが可能となる。それにより、高炉数学モデルの入力値としてより高精度の原料性状を使用でき、その結果、より高い精度で実際の炉況を再現することが可能となり、より高い精度で炉内状態を把握又は予測することが可能な、高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法、及び当該シミュレーション結果を利用した高炉操業方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るシミュレーション方法を行う例示的な高炉原料供給設備の概略的なフロー図を示す。
図2】本発明に係るシミュレーション方法を行う別の例示的な高炉原料供給設備の概略的なフロー図を示す。
図3】実施例において取得した、高炉原料の原料性状の変動推移を示すグラフである。
図4】実施例において計算した、高炉数学モデルのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る幾つかの実施形態について図を参照しながら説明する。しかしながら、これらの説明は、本発明の好ましい実施形態の単なる例示を意図するものであって、本発明をこのような特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【0014】
<シミュレーション方法>
本発明に係るシミュレーション方法は、高炉数学モデルの入力値として用いる原料性状を、原料槽の後かつ高炉の前で測定される高炉原料(鉱石原料、コークス、副原料など)の成分や粒径と関連付けることを特徴とする。より具体的には、本発明において、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方は、図1に示される実施形態では原料槽と高炉の間の装入コンベヤで測定することができ、図2に示される実施形態では原料槽と中継槽の間のコークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤ、又は、中継槽と高炉の間の装入コンベヤで測定することができる。
【0015】
高炉原料とは、高炉に装入される鉱石原料、コークス、副原料のほか、スクラップや、いわゆる非焼成含炭塊成鉱やフェロコークスなども含む。鉱石原料には、例えば焼結鉱、塊鉱石、ペレットといった種類がある。コークスには、自製の直送コークスとヤードコークスといった銘柄があり、ヤードコークスには自製コークスと外部購入コークスといった銘柄がある。副原料には、例えば石灰石、珪石、製鋼スラグがある。
従来は、高炉数学モデルへの入力値として用いるコークス(自製コークス)及び焼結鉱の原料性状は、一般的に、コークス炉と原料槽の間及び焼結機と原料槽の間で、すなわち原料槽よりも手前でコークス及び焼結鉱をサンプリングして、その性状をオフラインで分析することから求められていた。この高炉原料のサンプリングによる分析は、通常は1日に数回しか行われず、そのデータには代表性の課題が残るうえ、サンプリングしてからオフラインでの分析が完了するまで幾らかのタイムラグが発生する。さらに、高炉原料は原料槽に数時間単位で貯留され、所定の高炉原料の装入条件に従って、原料槽から高炉へコンベヤを介して搬送される。したがって、上記のサンプリング位置から実際に高炉に装入されるまでのタイムラグも大きい。これらのタイムラグにより、高炉数学モデルに入力する原料性状が、実際に高炉に装入される高炉原料の原料性状を十分に反映できないことがあり、その結果、高炉数学モデルによるシミュレーションを用いて得られる炉内状態を示す値と、高炉に設けられたセンサの実測値とが十分に一致しないことがあった。
さらに、塊鉱石、ペレット及び副原料は、コークス及び焼結鉱よりもさらに分析頻度が低く、それぞれ入荷時の分析値のみが従来得られていた。
【0016】
一方、高炉数学モデルに入力する入力値として、原料槽より後の位置で測定した高炉原料の特性から求めた原料性状を使用することは、今まで検討されてこなかった。これは、測定装置の処理能力や精度が不十分であったことや、高炉数学モデル用の計算機の処理能力が不十分であったことも原因ではあるが、上記特性の測定頻度及び測定位置が高炉数学モデルによるシミュレーションの結果に及ぼす影響がそれほど大きくないと考えられていたことが主な原因である。よって、従来は、高炉数学モデルに用いる原料性状は、原料槽よりも手前でサンプリングした高炉原料のオフライン分析により得られる特性に基づいて算出すれば十分と考えられていた。
【0017】
しかし、本発明者らは、高炉原料の特性の測定頻度及び測定位置に起因する原料性状の変化と、高炉数学モデルによるシミュレーション結果との関係について詳細に検討した結果、当該原料性状の変化はシミュレーション結果に無視できない影響を与えることを発見した。したがって、実際に高炉に装入される高炉原料の原料性状をより高頻度かつより正確に測定することで、高炉数学モデルによるシミュレーションから求めた炉況が、実際の炉況と高い精度で一致することを見出した。特に、原料性状のうち粒径は、原料槽への貯留の間や搬送中に変化(例えば、割れたり又は欠けたり)しやすく、原料槽の前のものと実際に高炉に装入されるものとで大きな差異があることが多い。よって、原料槽の前で粒径を測定できても、このような粒径の変化を予想するのは決して容易ではない。しかも、原料槽の経由により高炉原料のトラッキングもそう容易でない。そこで、本発明者らは、原料槽の後で高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を測定することで、高炉により近い位置でタイムラグのない高炉原料の特性を測定でき、そして、当該特性に基づく原料性状を高炉数学モデルの入力値として使用することで、実際に高炉に装入される高炉原料の原料性状を反映でき、高炉数学モデルによるシミュレーション結果をより高精度にできることを見出した。以下により、本発明に係るシミュレーション方法について、詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るシミュレーション方法は、高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法である。高炉数学モデルとは、高炉内に小領域を規定し、小領域内での挙動を塊状帯や融着帯での物質移動、反応、及び伝熱などの計算結果に基づいてシミュレーションするものであり、高炉操業条件や原料性状から炉況を把握又は予測するために用いることができる。例えば三次元高炉数学モデルであれば、高炉の内部領域を高さ方向、径方向、周方向に分割することで複数のメッシュ(小領域)を規定し、各メッシュ内での挙動をシミュレーションする。高炉数学モデルについては種々の論文等が出されているが、例えばKoji TAKATANIらの「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」,ISIJ International,Vol.39(1999),No.1,p.15-22に記載の高炉数学モデルを好適に用いることができ、以下では「高炉数学モデル」は、特に断りがない限り当該論文に記載の高炉数学モデルをいう。
【0019】
本発明に係るシミュレーション方法は、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を測定する測定工程、その測定結果に基づいて原料性状を取得する取得工程、並びに当該原料性状を高炉数学モデルに入力する入力工程を含む。以下において、各工程について詳細に説明する。
【0020】
[測定工程]
本発明における測定工程は、高炉原料(例えば、鉱石原料、コークス、及び副原料など)を高炉に供給するための高炉原料供給設備において行われる。高炉原料供給設備(以下、単に「設備」ともいう)は、コークス及び鉱石原料や副原料等の高炉原料を一時的に貯留する原料槽と、原料槽から切り出される高炉原料を高炉まで搬送するコンベヤとを少なくとも備える。当該設備は、例えば図1及び図2に示されるように、石炭を乾留してコークスを作り出すコークス炉と、粉鉱石を一定の大きさに焼き固めて鉱石の塊成物等の鉱石原料を作り出す焼結機と、をさらに備えていてもよい。原料槽から切り出される高炉原料を高炉まで搬送するコンベヤは、原料槽から高炉まで直列に接続された一のコンベヤや、並列に接続された複数のコンベヤであってもよく、コンベヤとコンベヤとの間に貯留槽などの設備が設けられていてもよい。
例えば、当該設備において、図1に示されるように、高炉に高炉原料を装入するための装入コンベヤが原料槽の直後に配置され、原料槽から交互に切り出されたコークス、鉱石原料及び塊鉱石・ペレット・副原料を高炉に搬送することができる。また例えば、当該設備は、図2に示されるように、原料槽と装入コンベヤとの間に、コークス炉から得られるコークスを搬送するコークス用コンベヤ、焼結機から得られる焼結鉱を搬送する焼結鉱用コンベヤ、及び、塊鉱石・ペレット・副原料を搬送する(焼結鉱以外の)鉱石原料用コンベヤ、並びに、コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤから搬送されるコークス、鉱石原料及び塊鉱石・ペレット・副原料を貯留する中継槽とをさらに備えてもよい。中継槽を用いることで、複数種の鉱石原料、及び複数銘柄のコークスを混合することができる。なお、一般的に、原料槽では、高炉原料は数時間単位(例えば3~8時間程度)で貯留されるが、中継槽では、高炉原料は数分~数十分単位(例えば10~20分)で貯留されることが多い。図2において焼結鉱用コンベヤと(焼結鉱以外の)鉱石原料用コンベヤとは別途設けられているが、それらは共通する(焼結鉱を含む)鉱石原料用コンベヤとして設けられていてもよい。
なお、図1及び図2では図示を省略したが、高炉には炉頂装入装置(ベルレス式、ベル式)が設けられており、装入コンベヤは当該炉頂装入装置まで高炉原料を搬送するためのコンベヤである。
【0021】
測定工程において、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方が測定され、好ましくは高炉原料の粒径及び成分の両方が測定される。なお、高炉原料の一種のみ(例えばコークスのみや焼結鉱のみ)について測定が行われてもよいが、好ましくは複数種、より好ましくは全種の高炉原料について測定が行われ、または複数種の高炉原料が混合された状態で測定が行われる。
本発明においては、この測定は、原料槽の後かつ高炉の前で行われる。より具体的には、例えば図1に示されるような態様では、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方は装入コンベヤで測定され、例えば図2に示されるような態様では、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方は、コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤで測定されるか、又は装入コンベヤで測定される。これらの高炉原料の特性は、測定頻度を上げてより高精度なシミュレーションを行う観点から、オンラインで連続的(例えば、1時間ごと、30分ごと、10分ごと、5分ごと、又は1分ごと)に測定するのが好ましい。オンライン測定とは、コンベヤから試料をサンプリングすることなくコンベヤ上で(オンベルト)で測定することを意図するが、コンベヤにバイパス経路を設けて当該バイパス経路上で測定するなどしてもよい。
また、測定工程において、測定頻度を上げる観点から、高炉原料の粒径及び成分の少なくとも一方を高炉原料のバッチごとに測定するのが好ましい。本明細書では、鉱石原料又はコークスの1回の高炉への装入分を1バッチという。高炉原料の特性をバッチごとに測定することで、高炉原料の特性の変化を細かい単位で測定することができ、実際に高炉に装入される高炉原料の原料性状がより高精度で反映され、高炉数学モデルによるシミュレーション結果の精度を向上させることができる。
【0022】
中継槽を有しない図1の設備においては、装入コンベヤ上において高炉原料は、単独または混合された状態で、進行方向に離間した状態(直列状態)か、相互に積層された状態(積層状態)で搬送される。
高炉原料の粒径及び/又は成分を装入コンベヤ上で測定することで、鉱石原料については、塊鉱石及びペレットと副原料が混合した状態、または、焼結鉱、塊鉱石及びペレットと副原料が混合した状態の特性を把握することが可能となる。また、コークスについては、直送コークス(自製)、ヤードコークス(自製又は外部購入)の複数銘柄が混合した状態の特性を把握することが可能となる。具体的には、混合状態であれば直接測定が可能であるし、また、直列状態では各高炉原料の特性を測定し、積層状態ではそれぞれ表面に露出する各高炉原料の特性を測定し、そしてそれらを加重平均などの処理をすることにより、混合状態での特性を把握することができる。
高炉数学モデルの入力値としては、簡易的に混合状態の特性を入力することが一般的であるところ、従来では、原料槽の前で高炉原料の特性を測定していたため、焼結鉱単味や自製コークス単味の特性しか測定できず、高炉数学モデルに入力する際に、副原料等の入荷時の分析値を適宜補った上で単味原料から混合原料に換算する必要が生じていた。本発明では、混合した状態を把握可能であるため上記換算が容易になるだけでなく、高炉に実際に装入される高炉原料の特性をより高精度に測定できるという利点を有する。特に、原料トラッキングや変化の予測が難しい高炉原料の粒径を精度よく把握可能となる。
【0023】
中継槽を備える図2の設備においては、上述したように、高炉原料の特性は、コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤ、又は、装入コンベヤで測定することができる。コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤで測定する場合、図1の設備と同じく、直列状態・積層状態のいずれの状態であってもそれらを混合した後の特性を把握することができる。より好ましくは、図2に示される態様において、高炉原料の特性を装入コンベヤで測定するのがよい。この場合、中継槽で混合された状態の混合原料の特性を測定することができ上記換算が不要であるとともに、コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤで測定するよりさらにタイムラグを低減でき、高炉に対してより直前で測定可能なためである。
【0024】
(高炉原料の粒径)
測定工程で測定することができる高炉原料の粒径は、特に限定されないが、例えば、複数の鉱石原料の粒度分布より得られる平均径、及び/又は、複数の銘柄のコークスの粒度分布より得られる平均径であってもよい。「平均径」は、調和平均径を用いることができるが、シミュレーションの目的や実測値の再現度などに応じて他の平均径を用いてもよい。高炉原料の粒径は、自動篩機などの従来の測定装置を除外するものではないが、オンラインで粒径を測定できる任意の測定装置で好適に測定することができ、例えば、レーザー光切断3Dカメラによる撮像と表層粒子を認識する処理とを行うことで測定してもよい。なお、高炉原料の粒径を装入コンベヤで測定する場合は、測定装置を1台にすることも可能であるが、鉱石原料用及びコークス用に1台ずつ合計2台を設置してもよい。1台使用する場合は測定装置の設置スペースを低減できて装置コストも低減でき、一方、2台使用する場合は高炉原料の種類に応じた個別チューニング(切り替え)が不要になる。高炉原料の粒径をコークス用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤで測定する場合は、それぞれに対して計2台の測定装置を用いればよく、コークス用コンベヤ、焼結鉱用コンベヤ及び鉱石原料用コンベヤで測定する場合は、それぞれに対して計3台の測定装置を用いればよい。後述する高炉原料の成分の測定についても同様である。
なお、測定工程で測定する高炉原料の粒径は、単独または混合状態の高炉原料の粒度分布であってもよい。これらの粒度分布情報を公知の装入物分布モデルに入力して炉頂境界条件を作成して、高炉数学モデルに入力してもよい。
【0025】
(高炉原料の成分)
測定工程で測定することができる高炉原料の成分は、特に限定されないが、例えば、複数の鉱石原料の平均組成、及び/又は、複数の銘柄のコークスの平均組成であってもよい。鉱石原料としては、焼結鉱、塊鉱石、ペレットなどがあり、その組成としては、例えば、CaO、SiO、MgO、Al、FeO、水分などが挙げられる。コークスの組成としては、例えば、C、SiO、Al、水分などが挙げられる。高炉原料の成分は、従来の化学分析装置を除外するものではないが、オンラインで組成を測定できる任意の測定装置で好適に測定することができ、例えば、バルク分析が可能な中性子線成分分析装置を用いて測定するのが最も好ましい。透過力の高い中性子線を用いることにより、混合状態での成分測定が容易になる。
【0026】
[取得工程]
本発明における取得工程において、上述した測定工程で得られる測定結果である原料性状、及び/又は、当該測定結果を演算して得られる演算結果である原料性状が取得される。「測定結果である原料性状」とは、測定工程で測定される高炉原料の成分及び粒径の少なくとも一方を意味する。具体的には、例えば、質量%に基づく鉱石原料における全鉄量(T.Fe)、並びにCaO、SiO、MgO、及びAlの量、鉱石原料の粒径、質量%に基づくコークスにおけるC、SiO及びAlの量、コークスの粒径などである。また、「測定結果を演算して得られる演算結果である原料性状」とは、測定工程で測定される高炉原料の上記のような特性値に基づいて所定の演算を行って得られる数値であり、例えば、鉱石原料の被還元性(RI)及び耐還元粉化性(RDI)など、及び/又はコークスのドラム強度(DI)及びCOに対する反応指数(CRI)などであり、典型的にはRI及びRDIである。高炉数学モデルの精度を高める観点から、測定結果である原料性状及び測定結果を演算して得られる演算結果の両方が取得されることが好ましい。
【0027】
取得工程において、好ましくは、測定工程で得られた測定結果を、チャージごと又は所定時間ごとの平均値に演算して原料性状を取得するとよい。本明細書では、高炉に装入される1層分の鉱石原料とコークスとをあわせて1チャージといい、すなわち1チャージは、1バッチ若しくは複数バッチの鉱石原料及び1バッチ若しくは複数バッチのコークスの1サイクルの装入分である。例えば、鉱石原料とコークス原料とを1バッチずつ装入する場合は1チャージ=2バッチであり、鉱石原料とコークス原料とを2バッチずつ装入する場合は1チャージ=4バッチである。チャージごとの平均値に演算して原料性状を取得すると、高炉に装入される1層分の鉱石原料とコークスの性状をより効率よく把握することができる。一方、所定の時間(例えば、1チャージに要する時間の半分の時間)ごとの平均値に演算して原料性状を取得すると、当該所定の時間の間に装入された鉱石原料又はコークスの性状をより正確に把握することができる。なお、所定時間を長く取ることにより、測定工程やシミュレーションに要する処理能力を低減することが可能である。RI及びRDIは、オフラインで実測することも可能であるが、鉱石原料の組成等に基づき演算して求めることで、時間的なロスなく、その演算結果をシミュレーションの入力値に使用し、タイムラグなく高炉数学モデルによるシミュレーションを行うことが可能となる。演算方法の一例としては、事前に、通常の操業で変化し得る組成範囲において、上で示した鉱石原料の各成分の質量%とRI及びRDIとの関係式(より簡易的には一次関数)を求めておき、上記各成分の質量%に応じてRI及びRDIを求めるようにしておけばよい。高炉数学モデルのシミュレーションにおいて、RI及びRDIは例えば炉内での粒径変化の計算に用いられる。
【0028】
[入力工程]
本発明における入力工程において、上記取得工程で取得した原料性状が前記高炉数学モデルの入力値として前記高炉数学モデルに入力される。当該原料性状は、原料槽の後、すなわち高炉装入の直前で測定した高炉原料の特性に基づくものであるため、本工程における入力値は、実際の高炉に装入される高炉原料の原料性状を良好に再現している。原料性状が高炉数学モデルに入力されると、高炉数学モデルにより定められた反応及び伝熱などに基づく計算がなされ、所望の出力がなされる。出力される結果としては、例えば、出銑量(トン/日)、コークス比(kg/t)、微粉炭比(kg/t)、還元材比(kg/t)、溶銑温度(℃)、炉頂温度(℃)、ガス利用率(%)、送風圧(hPa)及び炉頂圧(hPa)などが挙げられる。
なお、この入力工程を複数回行うことにより、高炉数学モデル内において、炉高方向に原料性状が互いに異なる複数の鉱石層が存在したり、原料性状が互いに異なる複数のコークス層が存在したりするようになる。取得工程において原料性状を平均する時間間隔を短くすることにより、原料性状が異なる層の数が増え、より実際の炉況を反映しやすくなる。すなわち、高炉数学モデルの非定常計算において、高炉原料の経時変化が考慮され、任意の時刻において、高炉数学モデルで構築される高炉内には性状の異なる鉱石層及びコークス層が存在している。
【0029】
<高炉操業方法>
本発明に係る高炉操業方法は、上述した任意の態様の本発明に係るシミュレーション方法で得られるシミュレーション結果を利用する高炉操業方法である。当該シミュレーション方法は、上述したように、原料槽の後かつ高炉の前で測定する高炉原料の特性を用いることで、実際に高炉に装入される原料性状と略同一の原料性状を取得することができ、シミュレーションの入力値として用いる原料性状をより高精度で算出することが可能となる。よって、高炉数学モデルによるシミュレーションの予測精度が向上し、実際の炉況をより高精度で再現することが可能となる。
よって、本発明に係る高炉操業方法によれば、現在時刻の炉内状態を、当該現在時刻の直前の時刻に取得された原料性状が入力された高炉数学モデルのシミュレーション結果を用いて把握することができる。シミュレーション結果とは、種々の高炉諸元であり、代表的には、出銑量(トン/日)、還元材比(kg/t)及び溶銑温度(℃)などである。
さらに、現在時刻の直前に取得された原料性状が将来の所定期間も継続して取得されると仮定して高炉数学モデルに入力することにより、現在時刻より後の将来時刻の炉内状態を、当該高炉モデルのシミュレーション結果を用いて予測することもできる。この場合であっても、現在時刻よりも前の入力値については高炉原料の経時変化が反映されていることから、十分な予測精度が期待できる。このような将来時刻の炉内状況の予測により、将来の炉内状態が悪化すると予想された場合に、操業管理指標が基準値に早く収束する適切なアクション(例えば、羽口からの送風条件、炉頂からの高炉原料の装入条件、及び高炉に装入される原料性状の変更)を決定することができる。
【0030】
例えば、原料槽の前で原料性状を測定するような従来の方法では、8時間に1点程度の原料性状の情報しか得られず、高炉数学モデルで十分な精度で炉況を再現するのが容易ではなかったが、本発明に係る高炉操業方法では、例えば1チャージごとに炉況をシミュレーションにより再現し、より実際の炉況に近い高炉数学モデルを構築することができる。よって、高炉原料の粒径及び成分の変動に起因する出銑量や熱レベルの変動に対するアクションを取ることができれば、高炉の操業変動が抑制でき、高炉操業の安定化、さらに還元材比の低下が可能となる。
【0031】
好ましくは、高炉数学モデルのパラメータがより実際の炉況を反映するために、シミュレーション結果を用いて得られる現在時刻の炉内状態を示す値と、高炉に設けられた1つ又は複数のセンサの実測値とが一致するように、一定の周期で前記高炉数学モデルのパラメータをチューニングするとよい。高炉数学モデルのパラメータとは、例えば空隙率、熱伝達係数、還元反応速度定数などであり、それぞれ公知の方法でチューニングできる。このようなチューニングを行うことで、高炉数学モデルを実際の炉況に適宜修正することができ、長期にわたり高炉数学モデルによって実際の炉況を再現することが容易になる。
【実施例
【0032】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
炉容積4500mの高炉を対象として、本発明に係る高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法の有効性について検証を行った。本実施例におけるシミュレーションには、Koji TAKATANIらの「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」,ISIJ International,Vol.39(1999),No.1,p.15-22に記載の高炉数学モデルを用いた。
【0034】
高炉数学モデルを用いたシミュレーションの計算で使用した基準操業条件及び高炉原料の原料性状をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
上記表の基準操業条件及び高炉原料の原料性状に基づき、高炉の操業での実績と高炉数学モデルによるシミュレーション結果とがほぼ一致するように、高炉数学モデルにおいて2次元定常計算を行い、シミュレーションで構築した高炉モデル内の高炉原料の反応速度、通気、熱交換パラメータを調整した。
【0038】
次に、原料性状の変化が高炉操業、具体的には出銑量及び溶銑温度にどの程度影響するかを確認するために、以下のように検証を行った。まず、対象とする高炉の実際の操業において、図2に示す装置における装入コンベヤ上で、高炉原料の原料性状の測定を行い、(1)その測定値を4時間ごとに平均化した値、及び(2)その測定値を基に演算して得られる値を取得した。より具体的には、(1)としては、鉱石原料のT.Fe、CaO、SiO、MgO、Alの質量%、鉱石原料の平均粒径、並びにコークスのC及びSiOの質量%、コークスの平均粒径を取得し、(2)としては、鉱石原料のRDIを取得した。取得した高炉原料の原料性状の変動推移を図3に示す。図3の推移からわかるように、原料性状は高炉操業において常に一定ではなく、経時的に変動することが見て取れる。なお、本実施例では、上述のように、測定値の4時間ごとの平均値を用いたが、より連続的(例えば、1時間ごと、30分ごと、10分ごと、5分ごと、又は1分ごと)に測定した値を高炉数学モデルの入力値として用いることで、より高精度な炉内状態の把握及び予測が可能となり、その結果、最適な操業アクションの選択を実施でき、高炉をより安定的に操業できる。
【0039】
次に、高炉原料の原料性状の変動による高炉操業への影響を確認するために、高炉数学モデルで用いるパラメータ、高炉原料の装入条件、及び送風条件を表1の基準操業条件で一定として、図3に示す原料性状の変動に対して出銑量(トン/日)、コークス比CR(kg/t)、微粉炭比PCR(kg/t)、送風圧(hPa)、炉頂圧(hPa)、炉頂温度(℃)、ガス利用率ηCO(%)、及び溶銑温度(℃)がどのように変動するかを、高炉数学モデルのシミュレーションにより計算した。その結果を図4に示す。図4の推移からわかるように、高炉原料の原料性状の変動により、例えば出銑量は±500トン/日程度、溶銑温度は±25℃程度の変動が起こっており、高炉原料の原料性状の変動による高炉操業への影響は無視できるものではないと言える。よって、本発明に係るシミュレーション方法に従って、より高炉に近い位置で、すなわちタイムラグが極めて少ない位置で測定した高炉原料の特性に基づいて原料性状を取得することにより、高炉数学モデルに入力する当該原料性状を、実際に高炉に装入される原料性状に近づけることで、高炉数学モデルの入力値としてより高精度の原料性状を使用できる。その結果、シミュレーションでより高い精度で実際の炉況を再現することが可能となり、より高い精度で炉内状態を把握又は予測することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、製鉄用高炉などの高温炉に関連する高炉数学モデルを用いるシミュレーション方法に使用することができ、本発明に係るシミュレーション方法により、現在時刻の炉内状態を把握、さらには将来時刻の炉内状態を予測でき、高炉の安定操業が可能となる。
図1
図2
図3
図4