(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/427 20060101AFI20240904BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60N2/427
B60R21/207
(21)【出願番号】P 2020077744
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】石塚 喬
(72)【発明者】
【氏名】田辺 仁一
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-052535(JP,A)
【文献】特開2008-062792(JP,A)
【文献】特開2007-276601(JP,A)
【文献】特開2008-114648(JP,A)
【文献】特開2012-106617(JP,A)
【文献】特開2010-047223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションを備えた乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションフレームと、
前記シートクッションフレームの上に載置されたシートクッションパッドと、
前記シートクッションパッドの下方に設けられた衝撃吸収部材と、
前記衝撃吸収部材に形成された収納凹部に収容されたエアバッグと、を有し、
前記衝撃吸収部材は下方から支持部材によって支持されており、
前記衝撃吸収部材は、前記支持部材よりも変形し易く構成され
、
前記衝撃吸収部材は、着座者の沈み込みを抑制する沈み込み抑制部材に隣接して設けられ、
前記沈み込み抑制部材の下端は、前記衝撃吸収部材の下端よりも下方に設けられていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
シートクッションを備えた乗物用シートであって、
前記シートクッションは、シートクッションフレームと、
前記シートクッションフレームの上に載置されたシートクッションパッドと、
前記シートクッションパッドの下方に設けられた衝撃吸収部材と、
前記衝撃吸収部材に形成された収納凹部に収容されたエアバッグと、を有し、
前記衝撃吸収部材は下方から支持部材によって支持されており、
前記衝撃吸収部材は、前記支持部材よりも変形し易く構成され、
前記衝撃吸収部材は、着座者の沈み込みを抑制する沈み込み抑制部材に隣接して設けられ、
前記エアバッグのインフレータは、側面視で前記沈み込み抑制部材と重ならない位置に設けられていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項3】
前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの上下方向及び幅方向に延在する前壁を備え、
前記前壁は、前記エアバッグの展開方向を規制することを特徴とする請求項
1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの上下方向及び幅方向に延在する後壁を備え、
前記後壁は、前記エアバッグの展開方向を規制することを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの幅方向に側壁を備え、
前記側壁は、前記エアバッグの展開方向を規制することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項6】
前記衝撃吸収部材は、前記エアバッグの展開荷重以上の荷重入力時に塑性変形することを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項7】
前記シートクッションパッドは、表皮部材に覆われており、
前記衝撃吸収部材は、前記表皮部材を固定するための表皮固定部を備えていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項8】
前記表皮部材の端部には、前記表皮固定部に取付けられる表皮取付部が設けられており、
前記表皮取付部は、前記エアバッグが展開する際に、前記表皮固定部から外れることを特徴とする請求項
7に記載の乗物用シート。
【請求項9】
前記シートクッションパッドは、下面にパッド凹部が形成されており、
前記衝撃吸収部材は、上面の一部が、前記パッド凹部に収納されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【請求項10】
前記衝撃吸収部材には、前記シートクッションフレームに取付けるためのフレーム取付部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に衝突などの衝撃発生時に着座者に加わる衝撃を吸収することが可能な乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の車両が前突した際には、シートに着座した着座者(乗員)の体が、シートベルトに拘束された状態でシートの表面上を前下方に滑り落ちるサブマリン現象が発生することがある。サブマリン現象を抑制するための対策としては、例えば特許文献1に記載されているように、シートクッションと、ベースプレートとの間にエアバッグを設け、エアバッグとシートクッションとの間に衝撃吸収部材が介在された乗員保護装置を備えた車両用シートが知られている。
【0003】
特許文献1の車両用シートでは、車両衝突時に、エアバッグが膨張してシートクッションを押し上げ、シートクッションを圧縮硬化させ、乗員のサブマリン現象を抑制するとともに、乗員がシートクッションの前部に強く押し付けられても、衝撃吸収材が塑性変形して衝撃が吸収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の車両用シートでは、エアバッグと衝撃吸収部材が上下方向に重なって配置されているため、シートクッションの上下方向におけるサイズが大きくなっていた。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、衝突などの衝撃発生時に着座者に生じる衝撃を適切に吸収しつつ、シートクッションの大型化が抑制された乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、シートクッションを備えた乗物用シートであって、前記シートクッションは、シートクッションフレームと、前記シートクッションフレームの上に載置されたシートクッションパッドと、前記シートクッションパッドの下方に設けられた衝撃吸収部材と、前記衝撃吸収部材に形成された収納凹部に収容されたエアバッグと、を有し、前記衝撃吸収部材は下方から支持部材によって支持されており、前記衝撃吸収部材は、前記支持部材よりも変形し易く構成され、前記衝撃吸収部材は、着座者の沈み込みを抑制する沈み込み抑制部材に隣接して設けられ、前記沈み込み抑制部材の下端は、前記衝撃吸収部材の下端よりも下方に設けられていることにより解決される。
【0008】
上記のように構成された本発明の乗物用シートでは、エアバッグが衝撃吸収部材の収納凹部に収納されていることで、シートクッションの上下方向におけるサイズが大きくなってしまうことが抑制される。また、衝撃吸収部材が、支持部材よりも変形し易いため、衝撃吸収効果が安定して発揮される。さらに、エアバッグが収納凹部に収容されることで保護され、衝撃吸収部材に対する組付性も向上する。また、衝撃吸収部材が、沈み込み抑制部材に隣接して設けられるため、衝撃吸収部材の位置決めが容易となり組付性が向上する。
また、前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、シートクッションを備えた乗物用シートであって、前記シートクッションは、シートクッションフレームと、前記シートクッションフレームの上に載置されたシートクッションパッドと、前記シートクッションパッドの下方に設けられた衝撃吸収部材と、前記衝撃吸収部材に形成された収納凹部に収容されたエアバッグと、を有し、前記衝撃吸収部材は下方から支持部材によって支持されており、前記衝撃吸収部材は、前記支持部材よりも変形し易く構成され、前記衝撃吸収部材は、着座者の沈み込みを抑制する沈み込み抑制部材に隣接して設けられ、前記エアバッグのインフレータは、側面視で前記沈み込み抑制部材と重ならない位置に設けられていることにより解決される。
【0009】
また、上記の構成において、前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの上下方向及び幅方向に延在する前壁を備え、前記前壁は、前記エアバッグの展開方向を規制するとよい。
上記の構成では、前壁によりエアバッグの前方への展開を簡易に制御することが可能となる。
【0010】
また、上記の構成において、前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの上下方向及び幅方向に延在する後壁を備え、前記後壁は、前記エアバッグの展開方向を規制するとよい。
上記の構成では、後壁によりエアバッグの後方への展開を簡易に制御することが可能となる。
【0011】
また、上記の構成において、前記衝撃吸収部材の前記収納凹部は、前記乗物用シートの幅方向に側壁を備え、前記側壁は、前記エアバッグの展開方向を規制するとよい。
上記の構成では、側壁によりエアバッグの側方への展開を簡易に制御することが可能となる。
【0012】
また、上記の構成において、前記衝撃吸収部材は、前記エアバッグの展開荷重以上の荷重入力時に塑性変形するとよい。
上記の構成では、エアバッグが展開することへの影響を抑制しつつ、衝撃吸収性が向上する。
【0013】
また、上記の構成において、前記シートクッションパッドは、表皮部材に覆われており、前記衝撃吸収部材は、前記表皮部材を固定するための表皮固定部を備えているとよい。
上記の構成では、衝撃吸収部材の表皮固定部に、表皮部材が固定されるため、設定自由度が向上し組付性が向上する。
【0014】
また、上記の構成において、前記表皮部材の端部には、前記表皮固定部に取付けられる表皮取付部が設けられており、前記表皮取付部は、前記エアバッグが展開する際に、前記表皮固定部から外れるとよい。
上記の構成では、エアバッグの展開時に表皮取付部が衝撃吸収部材の表皮固定部から外れるため、エアバッグが展開することへの影響が抑制され、エアバッグの展開における設定自由度が向上する。
【0016】
また、前記シートクッションパッドは、下面にパッド凹部が形成されており、前記衝撃吸収部材は、上面の一部が、前記パッド凹部に収納される。
上記の構成では、シートクッションパッドの凹部に衝撃吸収部材が収納されるため、シートクッションパッドに圧縮荷重がかかることが抑制され、シートクッションパッドに対する衝撃吸収部材の組付性が向上する。
【0017】
また、上記の構成において、前記衝撃吸収部材には、前記シートクッションフレームに取付けるためのフレーム取付部が設けられているとよい。
上記の構成では、衝撃吸収部材が、シートクッションフレームに固定されるため、衝撃吸収部材の位置決めが容易となり組付性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の乗物用シートによれば、エアバッグが衝撃吸収部材の収納凹部に収納されていることで、シートクッションの上下方向におけるサイズが大きくなってしまうことが抑制される。また、衝撃吸収部材が、支持部材よりも変形し易いため、衝撃吸収効果が安定して発揮される。さらに、エアバッグが収納凹部に収容されることで保護され、衝撃吸収部材に対する組付性も向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、前壁によりエアバッグの前方への展開を簡易に制御することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、後壁によりエアバッグの後方への展開を簡易に制御することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、側壁によりエアバッグの側方への展開を簡易に制御することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、上記の構成では、エアバッグが展開することへの影響を抑制しつつ、衝撃吸収性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、衝撃吸収部材の表皮固定部に、表皮部材が固定されるため、設定自由度が向上し組付性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、エアバッグの展開時に表皮取付部が衝撃吸収部材の表皮固定部から外れるため、エアバッグが展開することへの影響が抑制され、エアバッグの展開における設定自由度が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、衝撃吸収部材が、沈み込み抑制部材に隣接して設けられるため、衝撃吸収部材の位置決めが容易となり組付性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、シートクッションパッドの凹部に衝撃吸収部材が収納されるため、シートクッションパッドに圧縮荷重がかかることが抑制され、シートクッションパッドに対する衝撃吸収部材の組付性が向上する。
また、本発明の乗物用シートによれば、衝撃吸収部材が、シートクッションフレームに固定されるため、衝撃吸収部材の位置決めが容易となり組付性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る車両用シートの外観図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る車両用シートが備えるシートフレームの外観図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材及びエアバッグモジュールの外観図である。
【
図4】
図1のA-A断面図であって、本発明の第一実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材の周囲の構造を示す説明図である。
【
図5】
図1のB-B断面図であって、本発明の第一実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材の周囲の構造を示す説明図である。
【
図6】
図1のB-B断面図に対応する模式図であって、エアバッグの展開時における衝撃吸収部材の変形を説明する図である。
【
図7】
図1のA-A断面図であって、本発明の第一実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材の周囲の構造を示す説明図である。
【
図8】本発明の第二実施形態に係る車両用シートの外観図である。
【
図9】本発明の第二実施形態に係る車両用シートにおけるシートクッションフレームの及び衝撃吸収部材を示す模式図である。
【
図10】本発明の第二実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材の外観図である。
【
図11】本発明の第二実施形態に係る車両用シートが備える衝撃吸収部材の外観図である。
【
図12】変形例に係る衝撃吸収部材の模式的断面図である。
【
図13】変形例に係る衝撃吸収部材とシートクッションパッドの位置関係を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1乃至
図13を参照しながら、本発明の第一及び第二の実施形態(以下、本実施形態)に係る乗物用シートについて説明する。本実施形態に係る乗物用シートとして、車両に搭載される車両用シートを例に挙げて説明することとするが、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用シートに限定されるものではなく、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0021】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、以下に説明する部材の形状、寸法、配置等については、本発明の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0022】
本明細書における方向を示す用語に関し、
図1のように各方向を定義する。具体的には、以下の説明中、「前後方向」とは、車両用シートの着座者から見たときの前後方向を意味し、車両の走行方向と一致する方向である。「シート幅方向」とは、車両用シートの横幅方向を意味し、車両用シートの着座者から見たときの左右方向と一致する。また、「上下方向」とは、車両用シートの高さ方向を意味し、車両用シートを正面から見たときの上下方向と一致している。
【0023】
[1.車両用シートSの構成]
本実施形態に係る車両用シートSは、
図1に図示した外観を有している。なお、
図1中、車両用シートSの一部(具体的には、シートクッションS1の前端角部)については、図示の都合上、トリムカバーS12を外した構成にて図示している。
【0024】
車両用シートSは、着座者の臀部を支える着座部分となるシートクッションS1、着座者の背部を支える背もたれ部分となるシートバックS2、及び、シートバックS2の上部に配され、着座者の頭部を支えるヘッドレストS3を主な構成要素として有する。
図2に示されるように、車両用シートSは、シートクッションフレームF1及びシートバックフレームF2を主構成要素とするシートフレームFを骨格として有している。
【0025】
シートクッションS1は、骨格となるシートクッションフレームF1に、シートクッションパッドS11を載置し、更にシートクッションパッドS11をトリムカバーS12で覆うことで構成されている。シートバックS2はシートバックフレームF2に不図示のクッションパッドを載置して、トリムカバーS12で覆うことで構成されている。ヘッドレストS3は、不図示の芯材に不図示のパッド材を配して、トリムカバーS12で被覆して形成されている。シートクッションS1のシートクッションパッドS11やシートバックS2のシートバックパッドはウレタン発泡材を用いて、発泡成型により成型されたウレタン基材である。
【0026】
(シートクッションフレームF1)
図2に示すように、シートクッションフレームF1は、左右に離間して配置された一対のサイドフレーム11と、一対のサイドフレーム11の前端部同士を連結するパンフレーム12と、一対のサイドフレーム11の後端部同士を連結する連結パイプ13とを有し、これらが溶接などによって一体に結合された枠状に形成されている。サイドフレーム11およびパンフレーム12は、金属板をプレス加工するなどして形成され、連結パイプ13は、金属パイプから形成されている。
【0027】
図2に示すように、本実施形態のシートクッションフレームF1には、車両が前突した際に、車両用シートSに着座した着座者の体が前下方に滑り落ちるサブマリン現象を抑制するためのサブマリンパイプ14が設けられている。サブマリンパイプ14は、左右のサイドフレーム11の間に設けられている。
【0028】
また、シートクッションフレームF1の連結パイプ13とサブマリンパイプ14の間には、受圧部材としての複数のシートスプリング15が架設されている。具体的には、3本のシートスプリング15がシート幅方向に並んで配置されており、各シートスプリング15の前端がサブマリンパイプ14に掛止され、後端が連結パイプ13に掛止されることで、シート前後方向(換言するとシート幅方向と直交する方向)に架設されている。
【0029】
[2.第一実施形態のシートクッション]
図2乃至
図7を参照しながら、本発明の第一実施形態に係る車両用シートSのシートクッションS1の構成について詳細に説明する。本実施形態に係るシートクッションS1は、シートクッションフレームF1と、シートクッションフレームF1の上に載置されたシートクッションパッドS11と、シートクッションパッドS11の下方に設けられた衝撃吸収部材20と、エアバッグモジュール30と、を有している。
【0030】
(衝撃吸収部材20)
図3乃至
図5に示されるように、衝撃吸収部材20は、シートクッションパッドS11の下方に設けられている。衝撃吸収部材20には、上面から下方に向かって窪んだ収納凹部21及び支持凹部22が設けられている。収納凹部21及び支持凹部22には、後述するエアバッグモジュール30のインフレータ31及びエアバッグ32が収納される。
【0031】
収納凹部21は、上下方向及びシート幅方向に延在する前壁21a及び後壁21bを備えている。また、収納凹部21は、前後方向及びシート幅方向に延在する底壁21cを備えている。さらに、収納凹部21は、シート幅方向に離間した一対の側壁21dを備え、側壁21dは、前後方向及び上下方向に延在している。
【0032】
衝撃吸収部材20は、前方の前端部23に上方に向かって窪んだ係合凹部23aが形成されており、該係合凹部23aには、トリムカバーS12のトリム前端部S12aに取り付けられた掛止め部材Fが係合する(
図4)。また、衝撃吸収部材20は、側面を形成する側端部24に上方に向かって窪んだ側端凹部24aが形成されており、該側端凹部24aには、トリムカバーS12のトリム側端部S12bに取り付けられた掛止め部材Fが係合する(
図5)。
【0033】
(エアバッグモジュール30)
図3乃至
図5に示されるように、衝撃吸収部材20の収納凹部21及び支持凹部22には、エアバッグ装置としてのエアバッグモジュール30が配置されている。エアバッグモジュール30は、モジュールケースを有しないケースレスエアバッグモジュールからなる。エアバッグモジュール30は、インフレータ31と、エアバッグ32と、を備えている。
【0034】
インフレータ31は円筒形であり、インフレータ31の外周部から下方に向かって延在するボルト31a及びボルト31aに対応するナット31bにより、衝撃吸収部材20及びシートクッションフレームF1に対して固定されている。
【0035】
より詳細には、ボルト31aが、衝撃吸収部材20に形成された収納凹部21の底壁21c及びシートクッションフレームF1の一部であるパンフレーム12を貫通して、その先端にナット31bが取り付けられて固定される(
図4及び
図5)。なお、インフレータ31は、ボルト以外のインフレータ取付部材により衝撃吸収部材20及びシートクッションフレームF1に対して固定されてもよい。
【0036】
インフレータ31は、車両の衝突を感知するセンサ(不図示)から作動信号の入力を受けた場合にガスを発生させる装置であり、発生したガスをエアバッグ32に注入してエアバッグ32を展開するように膨出させる。なお、本実施形態では、エアバッグモジュール30を、ケースレスのものから構成しているが、これに限定されるものでなく、モジュールケースを備えたものとして構成してもよい。
【0037】
衝撃吸収部材20は、下方からシートクッションフレームF1により支持されている。より詳細には、衝撃吸収部材20は、シートクッションパッドS11の下方において、パンフレーム12によって下方から支持されている。衝撃吸収部材20は、支持部材であるパンフレーム12よりも変形し易く構成されている。
【0038】
衝撃吸収部材20は、一定の荷重値を超えると潰れて衝撃吸収を行うように構成されていればよく、例えば、内部に空洞部を有する樹脂製のブロー成形品とすればよい。なお、衝撃吸収部材20は、ブロー成形品に限定されるものではなく、ウレタンパッドであるシートクッションパッドS11よりも硬度が高く、一定の荷重値を超えると潰れて衝撃吸収を行うように空洞部を備えるウレタン成形品としてもよい。
【0039】
図4に示されるように、シート前後方向において、衝撃吸収部材20の前方に形成された受容凹部23bに、パンフレーム12のフレーム前端部12aが受容されて配置されている。また、
図5に示されるように、シート幅方向において、衝撃吸収部材20の側端部24に形成された側端凹部24aに、パンフレーム12のフレーム側端部12bが受容されて配置されている。
【0040】
エアバッグモジュール30のインフレータ31及びエアバッグ32は、衝撃吸収部材20に形成された凹部としての収納凹部21及び支持凹部22に収容されている。インフレータ31は、収納凹部21に収納されており、エアバッグ32のインフレータ31よりも後方に配置された部分は、支持凹部22の上に載置されている(
図4)。
【0041】
図4に示されるように、上下方向において、エアバッグモジュール30は、下方に設けられた衝撃吸収部材20の凹部(収納凹部21及び支持凹部22)と上方に設けられたシートクッションパッドS11の下面S11aの間に配置されることになる。
【0042】
車両が前突した際に、インフレータ31からの噴出ガスにより膨張したエアバッグ32がシートクッションパッドS11をその前端側から中央寄りの所定領域にわたって押し上げ、シートクッションS1に着座した乗員が前方へ移動することを抑制する。このとき、乗員の臀部又は大腿部が、エアバッグ32の膨張によって押し上げられたシートクッションパッドS11に対し強く押し付けられ、シートクッションパッドS11及びエアバッグ32の下方に配置された衝撃吸収部材20に所定値以上の圧力が加わると、衝撃吸収部材20が圧潰するように塑性変形して衝撃が吸収される。このようにして前突時に乗員に加わる負荷が軽減される。
【0043】
本実施形態の車両用シートSでは、衝撃吸収部材20に形成された収納凹部21及び支持凹部22にエアバッグモジュール30が収納されており、衝撃吸収部材20は、支持部材としてのパンフレーム12よりも変形し易く構成されている。このように構成された車両用シートSでは、エアバッグモジュール30が衝撃吸収部材20の凹部に収納されていることで、シートクッションS1の上下方向におけるサイズが大きくなってしまうことが抑制される。また、衝撃吸収部材20が、支持部材としてのパンフレーム12よりも変形し易いため、衝撃吸収効果が安定して発揮される。さらに、エアバッグモジュール30が凹部に収容されることで保護され、衝撃吸収部材20に対するエアバッグモジュール30の組付性も向上する。
【0044】
収納凹部21は、前壁21aを備え、前壁21aがエアバッグ32の展開方向を規制することで、エアバッグ32の前方への展開を簡易に制御することが可能となっている。また、収納凹部21は、後壁21bがエアバッグ32の展開方向を規制することで、エアバッグ32の後方への展開を簡易に制御することが可能となっている。さらに、収納凹部21は、側壁21dを備え、側壁21dがエアバッグ32の展開方向を規制することで、エアバッグ32の側方への展開を簡易に制御することが可能となっている。
【0045】
図6に示されるように、衝撃吸収部材20は、エアバッグ32の展開荷重以上の荷重入力時に塑性変形するように構成されているため、エアバッグ32が展開することへの影響を抑制しつつ、衝撃吸収性が向上する。
【0046】
シートクッションパッドS11は、トリムカバーS12に覆われており、衝撃吸収部材20は、トリムカバーS12の端部(トリム前端部S12aやトリム側端部S12b)を固定するための係合凹部23aや側端凹部24a(表皮固定部)を備えている。このような構成では、衝撃吸収部材20の表皮固定部に、トリムカバーS12の端部が固定されるため、設定自由度が向上し組付性が向上する。
【0047】
また、トリムカバーS12のトリム前端部S12aには、係合凹部23aに取付けられる掛止め部材F(表皮取付部)が設けられており、トリムカバーS12のトリム側端部S12bには、側端凹部24aに取付けられる掛止め部材F(表皮取付部)が設けられている。掛止め部材Fは、エアバッグ32が展開する際に、係合凹部23aや側端凹部24aから外れるようになっている(
図6)。より詳細には、エアバッグ32が展開する際に、衝撃吸収部材20が撓み、潰れることで、トリムカバーS12が外れる方向(具体的には、シート幅方向において外側、かつ、シート上下方向において上方)に回転する。このような構成では、エアバッグ32が展開することへの影響が抑制され、エアバッグ32の展開における設定自由度が向上する。
【0048】
衝撃吸収部材20には、シートクッションフレームF1を構成するパンフレーム12に取付けるためのフレーム取付部として、前端に受容凹部23bが設けられ、側端に側端凹部24aが設けられている。このような構成では、衝撃吸収部材20が、シートクッションフレームF1に対して所定の位置関係となるように固定されるため、シートクッションS1における衝撃吸収部材20の位置決めが容易となり組付性が向上する。
【0049】
衝撃吸収部材20の形状や位置関係は限定されるものではなく、例えば
図7に示されるように、支持凹部22が後方に向かって傾斜し、シートクッションパッドS11の下面S11aに形成されたパッド凹部S11bに衝撃吸収部材20の上面の一部が収納されていてもよい。このような構成では、パッド凹部S11bに衝撃吸収部材20が収納されるため、シートクッションパッドS11に圧縮荷重がかかることが抑制され、シートクッションパッドS11に対する衝撃吸収部材20の組付性が向上する。さらに、エアバッグ32を衝撃吸収部材20の傾斜面に配置することで、前突時に乗員の前方への移動を抑制することが可能となる。
【0050】
また、衝撃吸収部材20は、着座者の沈み込みを抑制する沈み込み抑制部材としてのサブマリンパイプ14に隣接して設けられており(
図7)、衝撃吸収部材20の位置決めが容易となり組付性が向上する。このとき、衝撃吸収部材20が、シート幅方向に延在するサブマリンパイプ14の直上に配置されているため、衝撃吸収時の荷重が衝撃吸収部材20からサブマリンパイプ14に適切に伝達される。
【0051】
[3.第二実施形態の車両用シート]
図8乃至
図11を参照しながら、本発明の第二実施形態に係る車両用シートSの構成について説明する。以下の説明においては、第一実施形態と共通する点は説明を省略し、異なる点を中心に説明する。第二実施形態に係る乗物用シートとして、車両に搭載される車両用のリアシートを例に挙げて説明することとするが、自動車・鉄道など車輪を有する地上走行用乗物に搭載される車両用のリアシートに限定されるものではなく、車両用のフロントシートや3列シートの2列目のシート、地上以外を移動する航空機や船舶などに搭載されるシートであってもよい。
【0052】
図8及び
図9に示されるように、衝撃吸収部材20は、シート幅方向において一対のサイドフレーム11の間であって、トリムカバーS12の各吊りこみ部T1~T3を避けた位置に配置されている。具体的には、シートクッションS1の上面視において、衝撃吸収部材20は、シート幅方向において第一の吊りこみ部T1(右側吊りこみ部)と第二の吊りこみ部T2(左側吊りこみ部)に間に配置され、シート前後方向において、第三の吊りこみ部T3(後側吊りこみ部)よりも前方に配置されている。このような構成によれば、衝撃吸収時の荷重が衝撃吸収部材20に伝達される際に、各吊り込み部T1~T3の影響が抑制される。
【0053】
衝撃吸収部材120の下面122は、下方からシートクッションフレームF1や車体フロア(支持部材)から面で支持されている。衝撃吸収部材120を支持する支持部材としては、特に限定されるものではなく、パンフレーム12などのフレーム部材や、シートスプリング15などの受圧部材などが例示される。
【0054】
図10に示されるように、衝撃吸収部材120には、上面121と下面122の間に収納凹部として第1凹部123が設けられている。衝撃吸収部材120の上面121には、後方に向かうにつれて下方へと傾斜した傾斜面121aが形成されている。傾斜面121aには、下方に向かって窪む第2凹部124が形成されている。
図10に示す例では、第2凹部124は、シート幅方向に離間した2つの円筒形状の凹部として設けられている。
【0055】
第1凹部123は、上面121から下方に向かって窪んでおり、上下方向及びシート幅方向に延在する前壁123a及び後壁123bと、前後方向及びシート幅方向に延在する底壁123cと、シート幅方向に離間した一対の側壁123dを備えている。側壁123dは、前後方向及び上下方向に延在している。
【0056】
第2凹部124の数や形状は、
図10に示される例に限定さるものではない。例えば、
図11に示されるように、第2凹部124がシート幅方向に延在する底面が長円形状の凹部として設けられていても良い。
【0057】
第1凹部123には、インフレータ31がシート幅方向に延在するようにして、エアバッグモジュール30が収納される。そして、衝撃吸収部材120の上面121の一部は、シートクッションパッドS11の下面S11aに形成されたパッド凹部S11bに収納される。このとき、エアバッグ32を衝撃吸収部材120の傾斜面121aの上に配置すると、前突時に乗員の前方への移動を抑制することが可能となるため好適である。
【0058】
[4.変形例]
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。以下においては、本実施形態に係る衝撃吸収部材及びシートクッションの変形例について
図12及び
図13を参照して説明する。なお、以下の説明においては、上記の実施形態と共通する点は説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0059】
図12は、変形例に係る衝撃吸収部材220の模式的断面図であり、
図13は、衝撃吸収部材220とシートクッションパッドS11及びシートクッションフレームF1の位置関係を示す模式的断面図である。
【0060】
衝撃吸収部材220は、樹脂製のブロー成形品であり、その外形形状、凹部(空洞部)の数や配置を適宜設定することで、潰れて衝撃吸収が行われる際の荷重値を調整することが可能である。
【0061】
図12に示されるように、衝撃吸収部材220は、上面221が開口となるように設けられた第1凹部223a及び第2凹部223bと、下面222が開口となるように設けられた第3凹部224a及び第4凹部224bを備えている。ここで、第1凹部223a、第2凹部223b、第3凹部224a及び第4凹部224bは、角に丸みを持つ形状となっている。
【0062】
衝撃吸収部材220は、
図10の衝撃吸収部材120と同様に、シート幅方向において一対のサイドフレーム11の間に配置されている。つまり、第1凹部223a及び第3凹部224aは、乗員の着座部の前方位置に設けられていることになる。
【0063】
図13に示されるように、衝撃吸収部材220の下面222は、下方からシートクッションフレームF1や車体フロア(支持部材)から面で支持されている。第1凹部223aや第3凹部224aには、インフレータ31がシート幅方向に延在するようにして、エアバッグモジュール30が収納される。そして、衝撃吸収部材220の上面221の一部は、シートクッションパッドS11の下面S11aに形成されたパッド凹部S11bに収納される。
【0064】
以上、本実施形態に係る乗物用シートについて、車両用シートを例として説明した。本実施形態に係るシートクッションは、着座者に衝撃が発生しうるシートのシートクッション、特に、衝撃発生時に着座者の腰部に対して沈み込みが発生し得るシートのシートクッションであれば、特に用途についての制限はない。例えば、本発明のシートクッションは、車両以外の乗物内で使用される乗物用シートのシートクッションとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
S 車両用シート(乗物用シート)
S1 シートクッション
S11 シートクッションパッド
S11a 下面
S11b パッド凹部
S12 トリムカバー(表皮部材)
S12a トリム前端部
S12b トリム側端部
F 掛止め部材(表皮取付部)
T1 第一の吊りこみ部(右側吊りこみ部)
T2 第二の吊りこみ部(左側吊りこみ部)
T3 第三の吊りこみ部(後側吊りこみ部)
S2 シートバック
S3 ヘッドレスト
F シートフレーム
F1 シートクッションフレーム
F2 シートバックフレーム
11 サイドフレーム
12 パンフレーム(支持部材)
12a フレーム前端部
12b フレーム側端部
13 連結パイプ
14 サブマリンパイプ(沈み込み抑制部材)
15 シートスプリング(受圧部材,ワイヤ部材)
20 衝撃吸収部材
21 収納凹部
21a 前壁
21b 後壁
21c 底面
21d 側壁
22 支持凹部
23 前端部
23a 係合凹部(表皮固定部)
23b 受容凹部(フレーム取付部)
24 側端部
24a 側端凹部(表皮固定部、フレーム取付部)
30 エアバッグモジュール
31 インフレータ
31a ボルト
31b ナット
32 エアバッグ
120 衝撃吸収部材
121 上面
121a 傾斜面
122 下面
123 第1凹部
123a 前面
123b 後面
123c 底面
123d 側面
124 第2凹部
220 衝撃吸収部材
221 上面
222 下面
223a 第1凹部
223b 第2凹部
224a 第3凹部
224b 第4凹部