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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】タイヤ成形用金型及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20240904BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20240904BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20240904BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20240904BHJP
【FI】
B29C33/02
B60C11/12 B
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020114380
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022022692
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大地
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-034933(JP,A)
【文献】特開2007-044946(JP,A)
【文献】特開2011-245903(JP,A)
【文献】特開2009-255734(JP,A)
【文献】特開2005-193858(JP,A)
【文献】特開2002-316328(JP,A)
【文献】特開2016-153218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に分割される複数のセクターと、
前記セクターにおけるトレッド成形面に配置される複数のサイプブレードと、
を備え、
タイヤ周方向における前記セクターの前記トレッド成形面の長さをセクター周長Lとし、
前記セクター同士の分割位置からタイヤ周方向において前記セクター周長L×0.15の範囲を分割位置近傍領域とし、
タイヤ周方向における前記トレッド成形面の中央部を中心とする、タイヤ周方向における前記セクター周長L×0.30の範囲をセクター中央領域とする場合に、
タイヤ周方向に隣り合う前記サイプブレード同士の前記トレッド成形面での間隔は、前記セクター中央領域での間隔よりも、前記分割位置近傍領域での間隔の方が広くなっていることを特徴とするタイヤ成形用金型。
【請求項2】
前記分割位置からタイヤ周方向において前記セクター周長L×0.05の範囲には前記サイプブレードを配置しない請求項1に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項3】
タイヤ周方向に隣り合う前記サイプブレード同士の前記トレッド成形面での間隔は、前記セクター中央領域において最も広い間隔Pcmaxと、前記分割位置近傍領域において最も狭い間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax≧1.05を満たす請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項4】
前記サイプブレードは、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードの高さDeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードの高さDcとの関係が、0.5≦De/Dc≦0.8の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項5】
前記サイプブレードは、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードの高さDeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードの高さDcとの関係が、De>Dcを満たし、且つ、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードのタイヤ径方向に対する角度θeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードのタイヤ径方向に対する角度θcとの関係が、θe>θcを満たす請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項6】
タイヤ周方向に分割される複数のセクターを有するタイヤ成形用金型を用いて加硫成形が行われ、トレッド部に複数のサイプが配置されるタイヤであって、
前記トレッド部の表面であるトレッド接地面には、前記セクターの分割位置の跡である分割位置跡が形成され、
タイヤ周方向に隣り合う前記分割位置跡同士のタイヤ周方向における距離を分割位置跡間距離Ltとし、
前記分割位置跡からタイヤ周方向において前記分割位置跡間距離Lt×0.15の範囲を分割位置跡近傍領域とし、
タイヤ周方向に隣り合う前記分割位置跡同士のタイヤ周方向における中央部を中心とする、タイヤ周方向における前記分割位置跡間距離Lt×0.30の範囲を分割位置跡間中央領域とする場合に、
タイヤ周方向に隣り合う前記サイプ同士の前記トレッド接地面での間隔は、前記分割位置跡間中央領域での間隔よりも、前記分割位置跡近傍領域での間隔の方が広くなっていることを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成形用金型及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のタイヤの中には、雪道や凍った路面での走行性能である氷雪性能や、濡れた路面での走行性能であるウェット性能の向上等を目的として、トレッド部に形成する切り込みである、いわゆるサイプが形成されているものがある。例えば、氷雪路面での走行性能が求められるスタッドレスタイヤでは、トレッド部の踏面の多くのサイプが配置されている。また、タイヤの製造は、タイヤ周方向に複数のセクターに分割されたタイヤ成形用金型を用いて加硫成形が行われるが、セクターの分割位置では加硫成形時に様々な不具合が発生し易いため、従来のタイヤ成形用金型の中には、このような不具合の解消を図っているものがある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたタイヤ成形金型では、セクターの端部位置におけるサイプ成形ブレードのサイプ体積を、セクターの中央部位置におけるサイプ成形ブレードのサイプ体積よりも大きくすることにより、セクター分割位置付近における陸部の偏摩耗を効果的に抑制している。また、特許文献2に記載されたタイヤ成形用金型では、セグメントの周方向端部に位置する突条を、先端ほどセグメントの周方向中央部から離間するようにセグメントの中心に向かう方向に対して外向きに傾斜した姿勢で突設することにより、タイヤ成形時における突条による生タイヤのゴム寄せ量を低減し、隣接するセグメント同士の間でのゴムの噛み込みを抑制している。
【0004】
また、特許文献3に記載されたタイヤ成形用金型では、金型ブロックの分割面近傍の端部のタイヤ溝形成用金具の離型角度を所定の角度より小さくすることにより、離型時にタイヤ溝形成用金具に作用する曲げ応力を通常よりも小さくすることができ、タイヤ溝形成用金具の寿命を延長することを可能としている。また、特許文献4に記載されたタイヤ金型では、サイプ成形刃の高さが同一で、セクターの分割位置近傍領域に配置したサイプ成形刃のセクター幅方向長さを他の領域に配置したサイプ成形刃より短くすることにより、分割位置近傍領域に配置したサイプ成形刃を離型する際に抜け易くし、陸部のエッジ部の欠けや、サイプのエッジ部分からのクラックの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5115299号公報
【文献】特許第5010385号公報
【文献】特許第3746011号公報
【文献】特許第4411975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、サイプ用のブレードが、分割された各セクターに配置されるタイヤ成形用金型では、タイヤの加硫成形を行った後にタイヤをモールドから取り出す工程において、タイヤからブレードを引き抜く際に、セクターの分割位置付近のブレードは、タイヤから引き抜き難くなっている。つまり、通常サイプは、深さ方向がタイヤ径方向に沿った方向となって形成されるため、サイプ用のブレードは、沿う向きでタイヤ成形用金型から突出して配置されている。一方で、タイヤ成形用金型は、タイヤ周方向に7~13に分割される複数のセクターを有しており、サイプ用のブレードをタイヤから引く抜く際には、各セクターをタイヤ径方向外側に移動させることにより引き抜く。
【0007】
このため、セクターに配置されるサイプ用の複数のブレードのうち、タイヤ周方向におけるセクターの中央付近に位置するブレードは、ブレードが突出する方向とブレードの引き抜き方向が、比較的近い方向になっている。これに対し、セクターに配置されるサイプ用の複数のブレードのうち、タイヤ周方向におけるセクターの分割位置付近に位置するブレードは、ブレードが突出する方向が、ブレードの引き抜き方向に対して異なっている。
【0008】
これにより、タイヤの加硫成形を行った後にタイヤからブレードを引き抜く場合、セクターの分割位置付近のブレードはタイヤから引き抜き難くなっており、分割位置付近のブレードの近傍に位置するタイヤのトレッドゴムに対して大きな応力が作用することにより、もげや欠け等の故障が発生する虞がある。このように、複数のセクターを有し、サイプ用のブレードが配置される従来のタイヤ成形用金型では、ブレードを引く抜く際に、セクターの分割位置付近のトレッドゴムに大きな応力が発生することにより、トレッドゴムにもげや欠け等が発生する虞があり、この点で改良の余地があった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、トレッドゴムのもげや欠けを抑制することのできるタイヤ成形用金型及びタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤ成形用金型は、 タイヤ周方向に分割される複数のセクターと、前記セクターにおけるトレッド成形面に配置される複数のサイプブレードと、を備え、タイヤ周方向における前記セクターの前記トレッド成形面の長さをセクター周長Lとし、前記セクター同士の分割位置からタイヤ周方向において前記セクター周長L×0.15の範囲を分割位置近傍領域とし、タイヤ周方向における前記トレッド成形面の中央部を中心とする、タイヤ周方向における前記セクター周長L×0.30の範囲をセクター中央領域とする場合に、タイヤ周方向に隣り合う前記サイプブレード同士の間隔は、前記セクター中央領域での間隔よりも、前記分割位置近傍領域での間隔の方が広くなっていることを特徴とする。
【0011】
また、上記タイヤ成形用金型において、前記分割位置からタイヤ周方向において前記セクター周長L×0.05の範囲には前記サイプブレードを配置しないことが好ましい。
【0012】
また、上記タイヤ成形用金型において、タイヤ周方向に隣り合う前記サイプブレード同士の間隔は、前記セクター中央領域において最も広い間隔Pcmaxと、前記分割位置近傍領域において最も狭い間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax≧1.05を満たすことが好ましい。
【0013】
また、上記タイヤ成形用金型において、前記サイプブレードは、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードの高さDeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードの高さDcとの関係が、0.5≦De/Dc≦0.8の範囲内であることが好ましい。
【0014】
また、上記タイヤ成形用金型において、前記サイプブレードは、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードの高さDeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードの高さDcとの関係が、De>Dcを満たし、且つ、前記分割位置近傍領域に位置する前記サイプブレードのタイヤ径方向に対する角度θeと、前記セクター中央領域に位置する前記サイプブレードのタイヤ径方向に対する角度θcとの関係が、θe>θcを満たすことが好ましい。
【0015】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るタイヤは、タイヤ周方向に分割される複数のセクターを有するタイヤ成形用金型を用いて加硫成形が行われ、トレッド部に複数のサイプが配置されるタイヤであって、前記トレッド部の表面には、前記セクターの分割位置の跡である分割位置跡が形成され、タイヤ周方向に隣り合う前記分割位置跡同士のタイヤ周方向における距離を分割位置跡間距離Ltとし、前記分割位置跡からタイヤ周方向において前記分割位置跡間距離Lt×0.15の範囲を分割位置跡近傍領域とし、タイヤ周方向に隣り合う前記分割位置跡同士のタイヤ周方向における中央部を中心とする、タイヤ周方向における前記分割位置跡間距離Lt×0.30の範囲を分割位置跡間中央領域とする場合に、タイヤ周方向に隣り合う前記サイプ同士の間隔は、前記分割位置跡間中央領域での間隔よりも、前記分割位置跡近傍領域での間隔の方が広くなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るタイヤ成形用金型及びタイヤは、トレッドゴムのもげや欠けを抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る空気入りタイヤの要部を示すタイヤ子午断面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、実施形態に係る空気入りタイヤを製造するタイヤ成形用金型の説明図である。
図4図4は、図3に示すセクターに配置されるサイプブレードの配置形態についての詳細図である。
図5図5は、図3に示すタイヤ成形用金型を用いたタイヤ製造方法を示す説明図である。
図6図6は、加硫成形後の空気入りタイヤからタイヤ成形用金型を取り外す前の状態を示す説明図である。
図7図7は、加硫成形後の空気入りタイヤからタイヤ成形用金型を取り外す状態を示す説明図である。
図8図8は、空気入りタイヤからタイヤ成形用金型を取り外す際における1つのセクターの説明図である。
図9図9は、実施形態に係るタイヤ成形用金型の変形例であり、領域によってサイプブレードの高さを異ならせる場合の説明図である。
図10図10は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、領域によってサイプの深さを異ならせる場合の説明図である。
図11図11は、実施形態に係るタイヤ成形用金型の変形例であり、領域によってサイプブレードの高さと角度を異ならせる場合の説明図である。
図12図12は、実施形態に係る空気入りタイヤの変形例であり、領域によってサイプの深さと角度を異ならせる場合の説明図である。
図13A図13Aは、タイヤ成形用金型の性能評価試験の結果を示す図表である。
図13B図13Bは、タイヤ成形用金型の性能評価試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るタイヤ成形用金型及びタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0019】
[実施形態]
以下の説明では、本発明に係るタイヤの一例として、空気入りタイヤ1を用いて説明する。タイヤの一例である空気入りタイヤ1は、空気、窒素等の不活性ガス及びその他の気体を充填することができる。
【0020】
また、以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。また、以下の説明では、タイヤ子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
【0021】
[空気入りタイヤ]
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示すタイヤ子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ子午断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にトレッド部2が配設されており、トレッド部2は、ゴム組成物から成るトレッドゴム4を有している。また、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、トレッド接地面3として形成され、トレッド接地面3は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成している。トレッド部2には、トレッド接地面3にタイヤ周方向に延びる主溝30が複数形成されており、この複数の主溝30により、トレッド部2の表面には複数の陸部20が区画されている。
【0022】
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両外側端にはショルダー部5が位置しており、ショルダー部5のタイヤ径方向内側には、サイドウォール部8が配設されている。即ち、サイドウォール部8は、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に配設されている。換言すると、サイドウォール部8は、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されており、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出した部分を形成している。
【0023】
タイヤ幅方向における両側に位置するそれぞれのサイドウォール部8のタイヤ径方向内側には、ビード部10が位置している。ビード部10は、サイドウォール部8と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されており、即ち、ビード部10は、一対がタイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配設されている。各ビード部10にはビードコア11が設けられており、ビードコア11のタイヤ径方向外側にはビードフィラー12が設けられている。ビードコア11は、スチールワイヤであるビードワイヤを束ねて円環状に形成される環状部材になっており、ビードフィラー12は、ビードコア11のタイヤ径方向外側に配置されるゴム部材になっている。
【0024】
また、トレッド部2にはベルト層14が配設されている。ベルト層14は、複数のベルト141、142と、ベルトカバー143とが積層される多層構造によって構成されており、本実施形態では、2層のベルト141、142が積層されている。ベルト層14を構成するベルト141、142は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、20°以上55°以下)になっている。また、2層のベルト141、142は、ベルト角度が互いに異なっている。このため、ベルト層14は、2層のベルト141、142が、ベルトコードの傾斜方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成されている。つまり、2層のベルト141、142は、それぞれのベルト141、142が有するベルトコードが互いに交差する向きで配設される、いわゆる交差ベルトとして設けられている。
【0025】
また、ベルトカバー143は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトカバーコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、0°以上10°以下)になっている。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を2層のベルト141、142のタイヤ径方向外側から、タイヤ回転軸を中心とする螺旋状に巻き付けることにより構成される。
【0026】
ベルト層14のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部8のタイヤ赤道面CL側には、ラジアルプライのコードを内包するカーカス層13が連続して設けられている。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、いわゆるラジアルタイヤとして構成されている。カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設される一対のビード部10間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
【0027】
詳しくは、カーカス層13は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部10のうち、一方のビード部10から他方のビード部10にかけて配設されており、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにビード部10でビードコア11に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。ビードフィラー12は、このようにカーカス層13がビード部10で折り返されることにより、ビードコア11のタイヤ径方向外側に形成される空間に配置されるゴム材になっている。また、ベルト層14は、このように一対のビード部10間に架け渡されるカーカス層13における、トレッド部2に位置する部分のタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードを、コートゴムで被覆して圧延加工することによって構成されている。カーカスプライを構成するカーカスコードは、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつ、タイヤ周方向にある角度を持って複数並設されている。
【0028】
ビード部10における、ビードコア11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側やタイヤ幅方向外側には、リムフランジに対するビード部10の接触面を構成するリムクッションゴム17が配設されている。また、カーカス層13の内側、或いは、当該カーカス層13の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナ16がカーカス層13に沿って形成されている。インナーライナ16は、空気入りタイヤ1の内側の表面であるタイヤ内面18を形成している。
【0029】
図2は、図1のA-A断面図である。トレッド部2には、複数のサイプ40が配置されている。ここでいうサイプ40は、トレッド部2の表面であるトレッド接地面3に細溝状に形成されるものであり、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、正規内圧の内圧条件で、無負荷時には細溝を構成する壁面同士が接触しないが、平板上で垂直方向に負荷させたときの平板上に形成される接地面の部分に細溝が位置する際、または細溝が形成される陸部20の倒れ込み時には、当該細溝を構成する壁面同士、或いは壁面に設けられる部位の少なくとも一部が、陸部20の変形によって互いに接触するものをいう。正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0030】
サイプ40は、トレッド接地面3からのタイヤ径方向における深さが所定の深さで形成されると共に、タイヤ幅方向に延びて形成されており、主溝30によって区画される各陸部20に配置されている。本実施形態では、サイプ40は、溝幅が1mm以下になっており、トレッド接地面3からの最大深さが1mm以上15mm以下の範囲内になっている。
【0031】
なお、サイプ40は、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に傾斜していたり、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲して形成されていたりしてもよい。また、サイプ40は、タイヤ幅方向における両端が主溝30に開口する形態、タイヤ幅方向における一端が主溝30に開口し、他端が陸部20内で終端する形態、タイヤ幅方向における両端が陸部20内で終端する形態のいずれの形態であってもよい。トレッド部2に形成される複数のサイプ40は、サイプ40によって形態が異なっていてもよい。
【0032】
また、トレッド部2には、トレッド接地面3にタイヤ幅方向に延びるラグ溝(図示省略)が形成されていてもよい。トレッド部2には、これらのサイプ40やラグ溝、主溝30等により、トレッドパターンが形成されている。
【0033】
また、トレッド部2の表面には、空気入りタイヤ1の製造時において空気入りタイヤ1の成形に用いるタイヤ成形用金型100(図3参照)が有するセクター101(図3参照)の分割位置101a(図3参照)の跡である分割位置跡50が複数形成されている。分割位置跡50は、後述するタイヤ加硫成形工程にて、トレッド部2を形成するトレッドゴム4がタイヤ成形用金型100のセクター101の分割位置101aに沿って成形されることにより形成される。
【0034】
分割位置跡50は、例えば、幅が0.01mm以上2mm以下の範囲内で、高さが0.01mm以上5mm以下の範囲内で、トレッド部2の表面であるトレッド接地面3から僅かに突出する線状の跡として現れ、タイヤ幅方向に延びて形成される。また、分割位置跡50は、タイヤ成形用金型100が有するセクター101の数と同じ数でトレッド接地面3に複数形成されており、複数の分割位置跡50は、空気入りタイヤ1を成形する際のタイヤ周方向におけるセクター101の分割位置101aに対応する位置に、それぞれ形成されている。即ち、複数の分割位置跡50は、トレッド接地面3に、タイヤ周方向に所定の間隔をあけて形成されている。
【0035】
サイプ40は、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の間に、複数がタイヤ周方向に並んで配置されている。分割位置跡50同士の間に配置される複数のサイプ40は、分割位置跡50からのタイヤ周方向における距離に応じて、タイヤ周方向に隣り合うサイプ40同士の間隔が異なっており、分割位置跡50から離れた位置に配置されるサイプ40よりも、分割位置跡50近傍に位置するサイプ40の方が、サイプ40同士の間隔が広くなっている。つまり、タイヤ周方向に隣り合うサイプ40同士の間隔は、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の中央付近の領域である分割位置跡間中央領域Actでの間隔よりも、分割位置跡50の近傍の領域である分割位置跡近傍領域Aetでの間隔の方が広くなっている。
【0036】
この場合における分割位置跡近傍領域Aetは、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士のタイヤ周方向における距離を分割位置跡間距離Ltとする際における、分割位置跡50からタイヤ周方向において分割位置跡間距離Lt×0.15の範囲になっている。このように規定される分割位置跡近傍領域Aetは、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の間におけるタイヤ周方向の両端側、即ち、それぞれの分割位置跡50の近傍に定められる領域になっている。
【0037】
また、分割位置跡間中央領域Actは、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士のタイヤ周方向における中央部である分割位置跡間中央部55を中心とする、タイヤ周方向における分割位置跡間距離Lt×0.30の範囲になっている。つまり、分割位置跡間中央領域Actは、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の間において、分割位置跡間中央部55からタイヤ周方向における両側に分割位置跡間距離Lt×0.15ずつとなる範囲になっている。
【0038】
具体的には、タイヤ周方向に隣り合うサイプ40同士の間隔は、分割位置跡間中央領域Actにおいて最も広い間隔Pscmaxと、分割位置跡近傍領域Aetにおいて最も狭い間隔Pseminとの関係が、Psemin/Pscmax≧1.05を満たしている。このため、分割位置跡近傍領域Aetにおいてタイヤ周方向に隣り合うサイプ40同士の間隔は、分割位置跡間中央領域Actにおいてタイヤ周方向に隣り合ういずれのサイプ40同士の間隔よりも広くなっている。
【0039】
また、分割位置跡近傍領域Aetでは、分割位置跡50からタイヤ周方向において分割位置跡間距離Lt×0.05の範囲には、サイプ40が配置されていない。即ち、サイプ40は、分割位置跡50の直近には配置されておらず、分割位置跡50からタイヤ周方向において分割位置跡間距離Lt×0.05以上、離間して配置されている。
【0040】
[タイヤ成形用金型]
次に、実施形態に係るタイヤ成形用金型100について説明する。なお、以下の説明では、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向を、タイヤ成形用金型100においてもタイヤ径方向として説明し、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向を、タイヤ成形用金型100においてもタイヤ幅方向として説明し、空気入りタイヤ1のタイヤ周方向を、タイヤ成形用金型100においてもタイヤ周方向として説明する。
【0041】
図3は、実施形態に係る空気入りタイヤ1を製造するタイヤ成形用金型100の説明図である。タイヤ成形用金型100は、図3に示すように、分割型のタイヤ成形用金型100である、いわゆるセクターモールドとして構成されており、タイヤ周方向に分割される複数のセクター101を相互に連結して成る環状構造を有している。なお、図3では、タイヤ成形用金型100が8つのセクター101から成る8分割構造の形態を図示しているが、タイヤ成形用金型100の分割数は、これに限定されない。
【0042】
1つのセクター101は、製品となる空気入りタイヤ1のトレッド部2の成形を行う複数のピース103と、これらのピース103を相互に隣接させて装着するバックブロック104とを備える。1つのピース103は、一定のピッチまたは任意のピッチで分割されたトレッドパターンの一部分に対応し、トレッドパターンの一部分を形成するためのトレッド成形面102を有している。1つのセクター101は、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に、それぞれ複数のピース103を有しており(図示省略)、複数のピース103が集合することにより、1つのセクター101のトレッド成形面102が構成される。換言すると、1つのセクター101が有するピース103は、複数のピース103に分割されている。
【0043】
バックブロック104は、複数のピース103を所定の配列で装着して保持する。これにより、1つのセクター101が構成される。
【0044】
タイヤ成形用金型100は、これらのように構成されるセクター101が複数用いられ、複数のセクター101が環状に連結されることにより構成される。タイヤ成形用金型100は、このように複数のセクター101が環状に連結されることにより、各セクター101のトレッド成形面102が集合し、トレッドパターン全体のトレッド成形面102が構成される。
【0045】
図4は、図3に示すセクター101に配置されるサイプブレード120の配置形態についての詳細図である。セクター101には、空気入りタイヤ1のトレッド部2に配置されるサイプ40を成形するための部材であるサイプブレード120が配置されており、サイプブレード120は、各セクター101のトレッド成形面102に、それぞれ複数が配置されている。また、セクター101のトレッド成形面102には、サイプブレード120の他に、空気入りタイヤ1の主溝30やラグ溝を成形するための部材(図示省略)も配置されている。
【0046】
このうち、サイプブレード120は、金属材料からなる板状の部材として形成されており、トレッド成形面102からタイヤ径方向内側に向かって立設されている。サイプブレード120を形成する金属材料としては、例えば、ステンレスが用いられる。また、サイプブレード120は、トレッド部2に形成されるサイプ40と同じ数でトレッド成形面102に配置されており、各サイプブレード120は、トレッド成形面102における、トレッド部2においてサイプ40が配置される位置に対応する位置に配置されている。即ち、サイプブレード120は、1つのセクター101のトレッド成形面102に、複数がタイヤ周方向に並んで配置されている。
【0047】
サイプブレード120は、セクター101の分割位置101aからのタイヤ周方向における距離に応じて、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔が異なっており、分割位置101aから離れた位置に配置されるサイプブレード120よりも、セクター101同士の分割位置101a近傍に位置するサイプブレード120の方が、サイプブレード120同士の間隔が広くなっている。つまり、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔は、各セクター101のトレッド成形面102のタイヤ周方向における中央付近の領域であるセクター中央領域Acでの間隔よりも、セクター101同士の分割位置101aの近傍の領域である分割位置近傍領域Aeでの間隔の方が広くなっている。
【0048】
なお、この場合におけるセクター101同士の分割位置101aは、セクター101のタイヤ周方向における端部であり、タイヤ周方向に隣り合うセクター101同士が連結される位置になっている。
【0049】
また、分割位置近傍領域Aeは、各セクター101において、タイヤ周方向におけるセクター101のトレッド成形面102の長さをセクター周長Lとする場合における、セクター101同士の分割位置101aからタイヤ周方向においてセクター周長L×0.15の範囲になっている。このように規定される分割位置近傍領域Aeは、各セクター101のトレッド成形面102におけるタイヤ周方向の両端側、即ち、各セクター101のタイヤ周方向における両端に位置する分割位置101aの、それぞれの近傍に定められる領域になっている。
【0050】
また、セクター中央領域Acは、各セクター101のタイヤ周方向におけるトレッド成形面102の中央部102cを中心とする、タイヤ周方向におけるセクター周長L×0.30の範囲になっている。つまり、セクター中央領域Acは、各セクター101のトレッド成形面102のタイヤ周方向における中央部102cから、タイヤ周方向における両側にセクター周長L×0.15ずつとなる範囲になっている。
【0051】
具体的には、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔は、セクター中央領域Acにおいて最も広い間隔Pcmaxと、分割位置近傍領域Aeにおいて最も狭い間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax≧1.05を満たしている。このため、分割位置近傍領域Aeにおいてタイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔は、セクター中央領域Acにおいてタイヤ周方向に隣り合ういずれのサイプブレード120同士の間隔よりも広くなっている。
【0052】
また、分割位置近傍領域Aeでは、分割位置101aからタイヤ周方向においてセクター周長L×0.05の範囲には、サイプブレード120が配置されていない。即ち、サイプブレード120は、分割位置101aの直近には配置されておらず、分割位置101aからタイヤ周方向においてセクター周長L×0.05以上、離間してトレッド成形面102に配置されている。
【0053】
[タイヤ製造方法]
次に、実施形態に係るタイヤ成形用金型100を用いた空気入りタイヤ1の製造方法について説明する。図5は、図3に示すタイヤ成形用金型100を用いたタイヤ製造方法を示す説明図である。図5は、図3に示すタイヤ成形用金型100を備える金型支持装置105の軸方向断面図を示している。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、以下の製造工程により製造される。
【0054】
まず、空気入りタイヤ1を構成する各種ゴム部材(図示省略)や、カーカスプライ(図示省略)やベルトプライ(図示省略)等の各部材が成形機にかけられて、グリーンタイヤGが成形される。次に、このグリーンタイヤGが、金型支持装置105に装着される(図5参照)。
【0055】
図5において、金型支持装置105は、支持プレート106と、外部リング107と、セグメント109と、上部プレート110及びベースプレート112と、上型サイドモールド111及び下型サイドモールド113と、タイヤ成形用金型100とを備える。支持プレート106は、円盤形状を有し、平面を水平にして配置される。外部リング107は、径方向内側のテーパ面108を有する環状構造体であり、支持プレート106の外周縁下部に吊り下げられて設置される。セグメント109は、タイヤ成形用金型100の各セクター101に対応する分割可能な環状構造体であり、外部リング107に挿入されて外部リング107のテーパ面108に対して軸方向に摺動可能に配置される。上部プレート110は、外部リング107の内側で、且つ、セグメント109と支持プレート106との間にて、軸方向に昇降可能に設置される。ベースプレート112は、支持プレート106の下方で、且つ、軸方向における支持プレート106の反対側の位置に配置される。
【0056】
上型サイドモールド111及び下型サイドモールド113は、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における両側面の形状であるサイドプロファイルの成形面を有する。また、上型サイドモールド111と下型サイドモールド113とは、上型サイドモールド111が上部プレート110の下面側に取り付けられ、下型サイドモールド113がベースプレート112の上面側に取り付けられると共に、それぞれの成形面を相互に対向させて配置される。タイヤ成形用金型100は、上記のように、トレッドプロファイルを成形可能なトレッド成形面102をもつ分割可能な環状構造(図3参照)を有する。また、タイヤ成形用金型100は、各セクター101が、対応するセグメント109の内周面に取り付けられ、トレッド成形面102を、上型サイドモールド111や下型サイドモールド113の成形面が位置する側に向けて配置される。
【0057】
次に、グリーンタイヤGが、タイヤ成形用金型100の成形面と上型サイドモールド111及び下型サイドモールド113の成形面との間に装着される。このとき、支持プレート106が軸方向下方に移動することにより、外部リング107が支持プレート106と共に軸方向下方に移動し、外部リング107のテーパ面108がセグメント109を径方向内側に押し出す。すると、タイヤ成形用金型100が縮径して、タイヤ成形用金型100の各セクター101の成形面が環状に接続し、また、タイヤ成形用金型100の成形面全体と下型サイドモールド113の成形面とが接続する。また、上部プレート110が軸方向下方に移動することにより、上型サイドモールド111が下降して、上型サイドモールド111と下型サイドモールド113との間隔が狭まる。すると、タイヤ成形用金型100の成形面全体と上型サイドモールド111の成形面とが接続する。これにより、グリーンタイヤGが、タイヤ成形用金型100の成形面、上型サイドモールド111の成形面及び下型サイドモールド113の成形面に囲まれて保持される。
【0058】
次に、加硫前のタイヤであるグリーンタイヤGが加硫成形される。具体的には、タイヤ成形用金型100が加熱され、加圧装置(図示省略)によりグリーンタイヤGが径方向外方に拡張されてタイヤ成形用金型100のトレッド成形面102に押圧される。そして、グリーンタイヤGが加熱されることにより、トレッド部2のゴム分子と硫黄分子とが結合して加硫が行われる。すると、タイヤ成形用金型100のトレッド成形面102がグリーンタイヤGに転写されて、トレッド部2にトレッドパターンが成形される。これにより、トレッド部2には、トレッド成形面102に配置されるサイプブレード120によって、サイプ40(図2参照)が成形される。
【0059】
なお、タイヤ成形用金型100によってグリーンタイヤGが加硫成形される際には、トレッド接地面3には、タイヤ成形用金型100が有するセクター101の分割位置101aの跡である分割位置跡50(図2参照)が形成される。即ち、タイヤ成形用金型100が有する複数のセクター101は、タイヤ周方向に隣り合うセクター101同士が、互いの分割位置101aで連結するため、複数のセクター101のトレッド成形面102は、分割位置101aで不連続になる。このため、トレッド接地面3には、分割位置101aに対向する位置に、分割位置101aの跡である分割位置跡50が形成される。
【0060】
その後に、加硫成形後のタイヤが、製品となる空気入りタイヤ1である製品タイヤとして取得される。このとき、支持プレート106及び上部プレート110が軸方向上方に移動することにより、タイヤ成形用金型100、上型サイドモールド111及び下型サイドモールド113が離間して、金型支持装置105が開く。金型支持装置105が開いたら、加硫成形後のタイヤと共にタイヤ成形用金型100をタイヤが金型支持装置105から取り出す。
【0061】
図6は、加硫成形後の空気入りタイヤ1からタイヤ成形用金型100を取り外す前の状態を示す説明図である。タイヤ成形用金型100を用いて行う空気入りタイヤ1の加硫成形時には、タイヤ成形用金型100によってトレッド部2の成形を行うため、加硫成形が行われた直後は、空気入りタイヤ1のトレッド部2にタイヤ成形用金型100が取り付けられた状態になっている(図6参照)。即ち、タイヤ成形用金型100は、複数のセクター101が環状に連結された状態で、加硫成形が行われた直後は空気入りタイヤ1のトレッド部2に取り付けられている。空気入りタイヤ1の加硫成形が完了し、タイヤ成形用金型100をタイヤが金型支持装置105から取り出したら、環状に連結されて空気入りタイヤ1のトレッド部2に取り付けられている複数のセクター101を、それぞれ空気入りタイヤ1から取り外す。これにより、タイヤ成形用金型100を空気入りタイヤ1から取り外す。
【0062】
図7は、加硫成形後の空気入りタイヤ1からタイヤ成形用金型100を取り外す状態を示す説明図である。図8は、空気入りタイヤ1からタイヤ成形用金型100を取り外す際における1つのセクター101の説明図である。複数のセクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際には、各セクター101をそれぞれタイヤ径方向外側に移動させ、空気入りタイヤ1のトレッド部2から離間させる。これにより、タイヤ成形用金型100を空気入りタイヤ1から取り外す。ここで、空気入りタイヤ1の加硫成形時には、タイヤ成形用金型100のセクター101のトレッド成形面102に複数配置されるサイプブレード120によって、トレッド部2のトレッド接地面3に複数のサイプ40が形成される。タイヤ成形用金型100のセクター101をタイヤ径方向外側に移動させることにより、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際には、セクター101に複数配置されるサイプブレード120が、空気入りタイヤ1のトレッド部2に形成されたサイプ40から抜き取られる。
【0063】
ここで、セクター101のトレッド成形面102に配置されるサイプブレード120は、トレッド成形面102からタイヤ径方向内側に向かって立設されており、即ち、トレッド成形面102から概ねタイヤ径方向内側に向かって延びている。一方、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際には、タイヤ径方向外側に向かって移動させる。このため、1つのセクター101に配置される複数のサイプブレード120のうち、タイヤ周方向におけるセクター101の中央付近の位置に配置されるサイプブレード120は、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向が、セクター101を移動させる方向に近い方向になる。
【0064】
これに対し、1つのセクター101に配置される複数のサイプブレード120のうち、セクター101の分割位置101aの近傍に配置されるサイプブレード120は、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向が、セクター101を移動させる方向に対して傾斜する状態になる。つまり、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際には、1つのセクター101を一体で移動させるため、セクター101を移動させる方向は、セクター101の分割位置101aの近傍においても、タイヤ周方向におけるセクター101の中央付近の位置をタイヤ径方向外側に移動させる方向になる。このため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるセクター101の分割位置101aの移動方向は、タイヤ径方向とは異なる方向になるため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、セクター101の分割位置101aの近傍に配置されるサイプブレード120が移動する方向と、当該サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向とは、異なる方向になる。
【0065】
セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるサイプブレード120の移動方向と、当該サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向とが異なる方向である場合、サイプブレード120の移動方向は、当該サイプブレード120によって形成したサイプ40の深さ方向とは異なる方向になる。この場合、サイプブレード120には、セクター101を移動させる際における力が、サイプ40の深さ方向とは異なる方向に作用することになるため、トレッドゴム4におけるサイプ40を形成する部分では、移動するサイプブレード120に対して大きな抵抗力が発生することになる。このため、サイプ40が形成されるトレッドゴム4における、サイプ40の深さ方向とサイプブレード120の移動方向とが異なるサイプ40を形成する部分には、大きな応力が発生することになり、これに起因して、トレッドゴム4のもげや欠け等の故障が発生し易くなる。
【0066】
特に、セクター101の分割位置101aの近傍に配置されるサイプブレード120は、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるサイプブレード120の移動方向と、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向とが大きく異なっている。これにより、セクター101の分割位置101aの近傍では、サイプブレード120の移動方向とサイプ40の深さ方向とが大きく異なっているため、サイプブレード120がサイプ40から引き抜かれる際における、サイプブレード120に対するトレッドゴム4の抵抗力が大きくなり易くなっている。このため、セクター101の分割位置101aの近傍では、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、サイプブレード120がサイプ40から引き抜かれる際におけるトレッドゴム4の応力が大きくなり易くなっており、これに起因して、トレッドゴム4のもげや欠けが発生し易くなっている。
【0067】
セクター101の分割位置101aの近傍では、このようにトレッドゴム4のもげや欠けが発生し易くなるが、本実施形態に係るタイヤ成形用金型100では、セクター101のトレッド成形面102に複数配置されるサイプブレード120同士の間隔が、セクター中央領域Acでの間隔よりも、分割位置近傍領域Aeでの間隔の方が広くなっている。このため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、セクター101の分割位置101aの近傍に配置されるサイプブレード120の移動に対してトレッドゴム4から作用する抵抗力を低減することができ、トレッドゴム4に発生する応力を緩和することができる。
【0068】
つまり、セクター101の分割位置近傍領域Aeでは、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔が広くなっているため、空気入りタイヤ1の加硫成形時には、サイプブレード120に対するトレッドゴム4の割合が、セクター中央領域Acにおけるサイプブレード120に対するトレッドゴム4の割合よりも大きくなる。このため、サイプブレード120の移動方向とサイプ40の深さ方向とが大きく異なる分割位置近傍領域Aeでは、サイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、多くのトレッドゴム4が弾性変形することによって低下させることができる。これにより、サイプ40からサイプブレード120を引き抜く際にトレッドゴム4に発生する応力を緩和することができ、トレッドゴム4に大きな応力が発生することを抑制することができる。従って、トレッドゴム4の応力が大きくなることに起因してトレッドゴム4に故障が発生することを抑制することができる。この結果、トレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0069】
換言すると、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に隣り合うサイプ40同士の間隔が、分割位置跡間中央領域Actでの間隔よりも、分割位置跡近傍領域Aetでの間隔の方が広くなっているため、分割位置跡近傍領域Aetにおけるサイプ40に対するトレッドゴム4の割合を、分割位置跡間中央領域Actにおけるサイプ40に対するトレッドゴム4の割合よりも大きくすることができる。これにより、空気入りタイヤ1の加硫成形時にタイヤ成形用金型100のセクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、分割位置跡近傍領域Aetのサイプ40を成形するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、分割位置跡近傍領域Aetに位置する多くのトレッドゴム4が弾性変形することによって低下させることができる。このため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、サイプブレード120の移動方向とサイプ40の深さ方向とが大きく異なることによりトレッドゴム4にもげや欠けが発生し易い分割位置跡近傍領域Aetに位置するトレッドゴム4に、大きな応力が発生することを抑制することができる。従って、トレッドゴム4の応力が大きくなることに起因してトレッドゴム4に故障が発生することを抑制することができる。この結果、トレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0070】
また、セクター101同士の分割位置101aからセクター周長L×0.05の範囲にはサイプブレード120を配置しないため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際における、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動方向と、当該サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向との差が大きくなり過ぎることを抑制できる。つまり、トレッド成形面102は、複数のセクター101を連結した際におけるタイヤ回転軸を中心とする円弧状に形成されているため、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるセクター101の移動方向と、トレッド成形面102の形状である円弧の径方向との乖離は、分割位置101a近傍が最も大きくなる。このため、トレッド成形面102の形状である円弧の径方向に沿ってトレッド成形面102から延びるサイプブレード120は、配置位置が分割位置101aに近付くに従って、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるセクター101の移動方向と、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向との差が大きくなる。
【0071】
従って、セクター101同士の分割位置101aからセクター周長L×0.05の範囲にサイプブレード120を配置しないことにより、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるセクター101の移動方向と、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向との差が大きくなり過ぎることを抑制することができる。これにより、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、サイプブレード120がトレッド成形面102から延びる方向と、サイプブレード120の移動方向との差が大きくなり過ぎることに起因して、サイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力が大きくなり過ぎることを抑制でき、トレッドゴム4の応力が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。この結果、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0072】
また、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔は、セクター中央領域Acにおいて最も広い間隔Pcmaxと、分割位置近傍領域Aeにおいて最も狭い間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax≧1.05を満たすため、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120同士の間隔をより確実に広くすることができ、トレッドゴム4のもげや欠けをより確実に抑制することができる。つまり、セクター中央領域Acにおいて最も広いサイプブレード120同士の間隔Pcmaxと、分割位置近傍領域Aeにおいて最も狭いサイプブレード120同士の間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax<1.05である場合は、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120同士の間隔が、適切に確保され難くなる虞がある。この場合、空気入りタイヤ1の加硫成形時に、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120に対するトレッドゴム4の割合を確保し難くなる虞がある。このため、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、多くのトレッドゴム4の弾性変形によって低下させるのが困難になり、トレッドゴム4に大きな応力が発生するのを抑制し難くなる虞がある。
【0073】
これに対し、セクター中央領域Acにおいて最も広いサイプブレード120同士の間隔Pcmaxと、分割位置近傍領域Aeにおいて最も狭いサイプブレード120同士の間隔Peminとの関係が、Pemin/Pcmax≧1.05である場合は、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120同士の間隔を、適切に確保することができる。これにより、空気入りタイヤ1の加硫成形時に、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120に対するトレッドゴム4の割合をより確実に大きくすることができ、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、多くのトレッドゴム4の弾性変形によってより確実に低下させることができる。従って、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、分割位置近傍領域Aeに位置するトレッドゴム4に大きな応力が発生することをより確実に抑制することができ、トレッドゴム4の応力が大きくなることに起因するトレッドゴム4の故障を抑制することができる。この結果、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0074】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、タイヤ成形用金型100の分割位置近傍領域Aeとセクター中央領域Acとでサイプブレード120同士の間隔を異ならせているが、さらに、分割位置近傍領域Aeとセクター中央領域Acとでサイプブレード120の形態を異ならせてもよい。
【0075】
図9は、実施形態に係るタイヤ成形用金型100の変形例であり、領域によってサイプブレード120の高さを異ならせる場合の説明図である。図10は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、領域によってサイプ40の深さを異ならせる場合の説明図である。サイプブレード120は、トレッド成形面102のタイヤ周方向における領域に応じて、トレッド成形面102からの高さが異なっていてもよい。トレッド成形面102からのサイプブレード120の高さは、例えば、図9に示すように、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeが、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcより低くなっていてもよい。つまり、空気入りタイヤ1のトレッド部2に形成されるサイプ40の深さは、図10に示すように、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの深さDseが、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cの深さDscより浅くなっていてもよい。
【0076】
分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeを、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcより低くすることにより、分割位置近傍領域Aeでは、トレッドゴム4に対するサイプブレード120の接触面積を低減することができる。即ち、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの深さDseを、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cの深さDscより浅くすることにより、分割位置跡近傍領域Aetにおけるサイプ40とサイプブレード120との接触面積を、分割位置跡間中央領域Actにおけるサイプ40とサイプブレード120との接触面積よりも小さくすることができる。
【0077】
これにより、空気入りタイヤ1の加硫性成形時にセクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際における、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を低減することができる。従って、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、空気入りタイヤ1のトレッドゴム4のうち、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120によりサイプ40が成形される部分の応力が大きくなることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0078】
なお、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeを、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcより低くする場合は、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、0.5≦De/Dc≦0.8の範囲内であるのが好ましい。分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、0.5≦De/Dc≦0.8の範囲内であることにより、サイプブレード120で成形するサイプ40によってより確実に走行性能の向上を図りつつ、加硫成形時におけるトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0079】
つまり、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、De/Dc<0.5である場合は、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeが低過ぎるため、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eで成形したサイプ40eの深さが浅くなり過ぎる虞がある。この場合、空気入りタイヤ1のトレッド部2のサイプ40を形成することによる走行性能を、効果的に向上させ難くなる虞がある。即ち、トレッド部2のサイプ40を形成した場合には、濡れた路面や凍った路面の走行時に、路面上の水をサイプ40によって吸水することにより、トレッド接地面3を路面に接地させ易くすることができ、路面に対するトレッド接地面3の摩擦力を確保することにより、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を向上させることができる。しかし、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eで成形したサイプ40eの深さが浅い場合は、サイプ40eでの吸水性を確保し難くなるため、トレッド部2にサイプ40を形成しても、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を、効果的に向上させ難くなる虞がある。
【0080】
また、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、De/Dc>0.8である場合は、分割位置近傍領域Aeとセクター中央領域Acとでサイプブレード120の高さの差が小さ過ぎる虞がある。この場合、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeを低くしても、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、効果的に低減するのが困難になる虞がある。
【0081】
これに対し、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、0.5≦De/Dc≦0.8の範囲内である場合は、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eによって成形するサイプ40eの深さが浅くなり過ぎることを抑制しつつ、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeを、効果的に低くすることができる。これにより、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を、サイプ40によって効果的に向上させつつ、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際における、サイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、効果的に低減することができる。この結果、サイプブレード120で成形するサイプ40によって走行性能の向上を図りつつ、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0082】
換言すると、空気入りタイヤ1は、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの深さDseと、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cの深さDscとの関係が、0.5≦Dse/Dsc≦0.8の範囲内であるのが好ましい。これにより、サイプ40によってより確実に走行性能の向上を図りつつ、加硫成形時におけるトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0083】
また、トレッド成形面102のタイヤ周方向における領域に応じて、サイプブレード120の高さを異ならせる場合には、上記変形例とは反対に、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeを、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcより高くしてもよい。
【0084】
図11は、実施形態に係るタイヤ成形用金型100の変形例であり、領域によってサイプブレード120の高さと角度を異ならせる場合の説明図である。図12は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、領域によってサイプ40の深さと角度を異ならせる場合の説明図である。サイプブレード120は、例えば、図11に示すように、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの高さDcとの関係が、De>Dcを満たして形成されてもよい。この場合、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eのタイヤ径方向に対する角度θeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cのタイヤ径方向に対する角度θcとの関係が、θe>θcを満たして形成される。
【0085】
つまり、この場合、サイプブレード120は、サイプブレード120におけるトレッド成形面102への接続部分を通る、トレッド成形面102の形状である円弧のタイヤ径方向における仮想線である径方向線RLに対する角度が、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cよりも、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの方が大きくなって形成される。この場合における、径方向線RLに対するサイプブレード120の角度は、サイプブレード120の先端側が、サイプブレード120の付け根側に対して、タイヤ周方向において当該サイプブレード120に近い側の分割位置101aに近付く方向にサイプブレード120が径方向線RLに対して傾斜する際の角度を正とし、サイプブレード120の先端側が分割位置101aから離れる方向にサイプブレード120が径方向線RLに対して傾斜する際の角度を負とする。
【0086】
サイプブレード120は、これらのように定義される径方向線RLに対する角度が、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120cの角度θcよりも、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120eの角度θeの方が大きくなっている。なお、図11では、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120のタイヤ径方向に対する角度θcは0°であるため、角度θcの図示は省略している。
【0087】
換言すると、空気入りタイヤ1は、図12に示すように、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの深さDseと、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cの深さDscとの関係が、Dse>Dscを満たし、且つ、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eのタイヤ径方向に対する角度θseと、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cのタイヤ径方向に対する角度θscとの関係が、θse>θscを満たしていてもよい。
【0088】
つまり、この場合、サイプ40は、サイプ40におけるトレッド接地面3への開口部分を通る、タイヤ径方向の仮想線である径方向線RLtに対する角度が、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cよりも、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの方が大きくなって形成される。この場合における、径方向線RLtに対するサイプ40の角度は、サイプ40の溝底側が、トレッド接地面3へのサイプ40の開口部に対して、タイヤ周方向において当該サイプ40に最も近い分割位置跡50に近付く方向にサイプ40が径方向線RLtに対して傾斜する際の角度を正とし、サイプ40の溝底側が分割位置跡50から離れる方向にサイプ40が径方向線RLtに対して傾斜する際の角度を負とする。
【0089】
タイヤ成形用金型100は、これらのように、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120の高さDcとの関係が、De>Dcを満たし、且つ、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120のタイヤ径方向に対する角度θeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120のタイヤ径方向に対する角度θcとの関係が、θe>θcを満たすことにより、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を、サイプ40によって効果的に向上させつつ、トレッドゴム4に大きな応力が発生することを抑制することができる。
【0090】
つまり、タイヤ周方向に隣り合うサイプブレード120同士の間隔は、セクター中央領域Acでの間隔よりも、分割位置近傍領域Aeでの間隔の方が広くなっているが、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120の高さDcとの関係が、De>Dcを満たすことにより、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120によって成形するサイプ40の容積を確保することができる。
【0091】
即ち、分割位置近傍領域Aeでは、サイプブレード120同士の間隔が広くなることによりサイプブレード120の密度が小さくなり、サイプブレード120によって成形するサイプ40全体の容積が小さくなるため、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を確保し難くなる虞がある。
【0092】
これに対し、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の高さDeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120の高さDcとの関係が、De>Dcを満たす場合には、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の体積を大きくすることができる。これにより、サイプブレード120によって成形するサイプ40全体の容積を確保することができ、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を確保することができる。
【0093】
一方で、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の高さDeを高くした場合は、空気入りタイヤ1の加硫成形時に、サイプブレード120とトレッドゴム4との接触面積が大きくなり易くなる。この場合、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に、分割位置101aの近傍に位置するサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力が大きくなり易くなるため、分割位置近傍領域Aeでのサイプブレード120同士の間隔を広くしても、トレッドゴム4に大きな応力が発生することを効果的に抑制し難くなる虞がある。
【0094】
これに対し、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120のタイヤ径方向に対する角度θeと、セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120のタイヤ径方向に対する角度θcとの関係が、θe>θcを満たす場合には、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120がトレッド成形面102から立設する方向を、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際に近付けることができる。即ち、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120がトレッド成形面102から立設する方向を、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際のサイプブレード120の移動方向に近付けることができ、トレッドゴム4からの抵抗力を低減することができる。
【0095】
これにより、サイプブレード120によって成形するサイプ40全体の容積を確保しつつ、セクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際におけるサイプブレード120の移動に対するトレッドゴム4からの抵抗力を、より確実に低減することができる。従って、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を、サイプ40によって効果的に向上させつつ、トレッドゴム4に大きな応力が発生することを抑制することができる。この結果、サイプブレード120で成形するサイプ40によって走行性能の向上を図りつつ、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0096】
換言すると、空気入りタイヤ1の分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eの深さDseと、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cの深さDscとの関係が、Dse>Dscを満たすことにより、分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40の間隔を広くした場合でも、サイプ40全体の容積を確保することができ、濡れた路面や凍った路面の走行時における走行性能を確保することができる。さらに、空気入りタイヤ1の分割位置跡近傍領域Aetに位置するサイプ40eのタイヤ径方向に対する角度θseと、分割位置跡間中央領域Actに位置するサイプ40cのタイヤ径方向に対する角度θscとの関係が、θse>θscを満たすことにより、空気入りタイヤ1の加硫成形時にタイヤ成形用金型100のセクター101を空気入りタイヤ1から取り外す際における、トレッドゴム4の応力を抑制することができる。この結果、サイプ40によって走行性能の向上を図りつつ、より確実にトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0097】
また、上述した実施形態に係るタイヤ成形用金型100では、1つの分割位置近傍領域Aeに複数のサイプブレード120が配置され、分割位置近傍領域Aeにおけるサイプブレード120同士の間隔は、分割位置近傍領域Aeに配置されるサイプブレード120同士の間隔になっているが、分割位置近傍領域Aeには、サイプブレード120が複数配置されていなくてもよい。即ち、1つの分割位置近傍領域Aeに配置されるサイプブレード120は、1つであってもよく、または、分割位置近傍領域Aeには、サイプブレード120が配置されていなくてもよい。分割位置近傍領域Aeに配置されるサイプブレード120が1つである場合は、分割位置近傍領域Aeに配置されるサイプブレード120と、分割位置近傍領域Aeに最も近いサイプブレード120との間隔を、分割位置近傍領域Aeでのサイプブレード120の間隔とし、この分割位置近傍領域Aeでのサイプブレード120の間隔が、セクター中央領域Acに配置されるサイプブレード120同士の間隔より広くなっていればよい。
【0098】
また、上述した実施形態に係るタイヤ成形用金型100では、1つのセクター101が有する2箇所の分割位置近傍領域Aeで、配置されるサイプブレード120の数が互いに同じ数となって図示されているが、2箇所の分割位置近傍領域Aeに配置されるサイプブレード120の数は、互いに異なっていてもよい。また、セクター101のトレッド成形面102に配置されるサイプブレード120の配置形態は、セクター101同士の間で互いに異なっていてもよい。即ち、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向に隣り合う分割位置跡近傍領域Aet同士の間に配置されるサイプ40の配置形態は、異なる分割位置跡近傍領域Aet同士間で互いに異なっていてもよい。
【0099】
また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の間には、タイヤ幅方向に延びるラグ溝は配置されていないが、タイヤ周方向に隣り合う分割位置跡50同士の間に、ラグ溝が配置されていてもよい。また、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、主溝30は4本が図示されているが、主溝30の数は4本以外であってもよい。主溝30やラグ溝、サイプ40等によるトレッド部2のトレッドパターンは問わない。
【0100】
また、上述した実施形態や変形例は、1つの空気入りタイヤ1やタイヤ成形用金型100において適宜組み合わせてもよい。トレッド部2のトレッドパターンに関わらず、タイヤ成形用金型100のサイプブレード120、即ち、空気入りタイヤ1のサイプ40が、上述した形態で配置されることにより、タイヤ成形用金型100によって空気入りタイヤ1の加硫成形を行った際におけるトレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【0101】
また、上述した実施形態では、本発明に係るタイヤの一例として空気入りタイヤ1を用いて説明したが、本発明に係るタイヤは、空気入りタイヤ1以外であってもよい。本発明に係るタイヤは、例えば、気体を充填することなく使用することができる、いわゆるエアレスタイヤであってもよい。
【0102】
[実施例]
図13A図13Bは、タイヤ成形用金型の性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記のタイヤ成形用金型100について、従来例のタイヤ成形用金型と、本発明に係るタイヤ成形用金型100とについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、タイヤ成形用金型によって空気入りタイヤの加硫成形を行った際におけるスクラップ発生率についての試験を行った。
【0103】
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが225/65R17 102Hサイズで、「M+S(マット&スノー)」マークが刻印され、トレッド部に複数のサイプが形成される空気入りタイヤの加硫成形を行うタイヤ成形用金型を用いて行った。
【0104】
空気入りタイヤの加硫成形を行った際におけるスクラップ発生率は、試験対象となるタイヤ成形用金型で空気入りタイヤの加硫成形を行った後、トレッドゴムのもげや欠けの発生を検証し、もげや欠けが発生した空気入りタイヤをスクラップとする場合における、スクラップの発生率を算出することにより行った。スクラップ発生率は、算出したスクラップ発生率を、後述する従来例を100とする指数で表すことにより評価し、指数が小さいほどスクラップとなる空気入りタイヤが少なく、加硫成形時にトレッドゴムのもげや欠けが発生し難いことを示している。
【0105】
性能評価試験は、従来のタイヤ成形用金型の一例である従来例のタイヤ成形用金型と、本発明に係るタイヤ成形用金型100である実施例1~13との14種類のタイヤ成形用金型について行った。このうち、従来例は、セクターの分割位置近傍領域Aeでのサイプブレード同士の間隔と、セクター中央領域Acでのサイプブレード同士の間隔とが、同じ大きさになっている。
【0106】
これに対し、本発明に係るタイヤ成形用金型100の一例である実施例1~13は、全てセクター101の分割位置近傍領域Aeでのサイプブレード120同士の間隔が、セクター中央領域Acでのサイプブレード120同士の間隔より広くなっている。さらに、実施例1~13に係るタイヤ成形用金型100は、セクター101の分割位置101aからセクター周長L×0.05の範囲でのサイプブレード120の有無や、分割位置近傍領域Aeにおいて最も狭いサイプブレード120同士の間隔Pemin/セクター中央領域Acにおいて最も広いサイプブレード120同士の間隔Pcmax、分割位置近傍領域Aeに位置するサイプブレード120の高さDe/セクター中央領域Acに位置するサイプブレード120の高さDcが、それぞれ異なっている。
【0107】
これらのタイヤ成形用金型100を用いて性能評価試験を行った結果、図13A図13Bに示すように、実施例1~13に係るタイヤ成形用金型100は、従来例に対して、加硫成形を行った空気入りタイヤ1のスクラップ発生率を低下させることができることが分かった。つまり、実施例1~13に係るタイヤ成形用金型100は、トレッドゴム4のもげや欠けを抑制することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 トレッド接地面
4 トレッドゴム
5 ショルダー部
8 サイドウォール部
10 ビード部
13 カーカス層
14 ベルト層
16 インナーライナ
17 リムクッションゴム
18 タイヤ内面
20 陸部
30 主溝
40 サイプ
50 分割位置跡
55 分割位置跡間中央部
100 タイヤ成形用金型
101 セクター
101a 分割位置
102 トレッド成形面
102c 中央部
103 ピース
105 金型支持装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B