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特許7549200連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法
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  • 特許-連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240904BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240904BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B22D11/108 F
B22D11/00 A
C21C7/076 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020161919
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054733
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼平 信幸
(72)【発明者】
【氏名】小端 洋平
(72)【発明者】
【氏名】敷田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】角野 祐貴
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-223599(JP,A)
【文献】特開2000-158105(JP,A)
【文献】国際公開第2017/078178(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第118106468(CN,A)
【文献】特開2006-312200(JP,A)
【文献】特開2008-272786(JP,A)
【文献】特開2010-005657(JP,A)
【文献】特開2015-186813(JP,A)
【文献】特開2017-018978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
B22D 11/00
C21C 7/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する際に鋳型内に供給される連続鋳造用モールドパウダーであって、
凝固点が1000℃以上1200℃以下の範囲内であり、CaOとSiOを主成分とし、
質量比で、骨材としてのCを除いた成分を100%とした場合において、
CaOとSiO の合計含有量が50.0%以上、
MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満、
Alの含有量が3.0%未満、
NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、
Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、
とされるとともに、
質量比で、Fの含有量を〔F〕、LiOの含有量を〔LiO〕、NaOの含有量を〔NaO〕、KOの含有量を〔KO〕、トータルCaO量を〔T.CaO〕、SiOの含有量〔SiO〕とした場合に、以下の(1)~(3)式によって、実質CaO量〔CaO〕を定義した場合において、
実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満とされ、
〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満とされていることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー。
(1)式:〔F〕=〔F〕-〔LiO〕×(38/30)-〔NaO〕×(38/62)-〔KO〕×(38/94),ただし、〔F〕<〔LiO〕×(38/30)+〔NaO〕×(38/62)+〔KO〕×(38/94)の場合は、〔F〕=0
(2)式:〔CaF〕=〔F〕×(78/38)
(3)式:〔CaO〕=〔T.CaO〕-〔CaF〕×(56/78)
【請求項2】
質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、
請求項1に記載の連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する際に、鋳型内に供給される連続鋳造用モールドパウダー、および、この連続鋳造用モールドパウダーを用いた鋼の連続鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造を行う際には、鋳型内の溶鋼湯面上に連続鋳造用モールドパウダー(以下、「モールドパウダー」と記載する場合がある)が添加される。このモールドパウダーは、鋳型内の溶鋼表面において溶融して鋳型壁と凝固殻との間に流入する。そして、モールドパウダーは、鋳型壁と凝固殻との間で一部は冷却されてパウダーフィルムを形成し、また、残りは融体のまま鋳型壁と凝固殻の間で潤滑作用を奏する。
【0003】
ここで、連続鋳造時に、鋳片中にモールドパウダーが巻き込まれた場合には、その後の圧延工程等において表面疵等の欠陥の原因となる。このため、モールドパウダーの巻き込みを抑制する必要がある。
また、モールドパウダーの鋳型と凝固殻間への流入が阻害され、潤滑作用が損なわれた場合には、鋳型と凝固殻が焼き付き、鋳造後に鋳片表面の手入れが必要となる品質不良や最悪の場合にはブレークアウトの発生を招くおそれがあった。このため、モールドパウダーを鋳型壁と凝固殻の間に確実に流入させて、鋳型内において鋳片の凝固均一性を高めて、鋳型内での抜熱を安定的に制御することは非常に重要である。
【0004】
また、Alを含む鋼を連続鋳造する場合には、溶鋼中のAlによってモールドパウダーの主成分であるSiOが還元され、モールドパウダー中のAlの比率が増加するとともにSiOの比率が減少し、鋳造中にモールドパウダーの粘度等の特性が変化してしまい、安定して鋳造を行うことができないといった問題があった。また、モールドパウダー中のAlの比率が増加するとともにSiOの比率が減少することにより、溶融したモールドパウダーが鋳型と凝固殻間へ流入してパウダーフィルムを形成した際に、パウダーフィルムの結晶層に高融点のゲーレナイト相(CaAlSiO)が生成し、モールドパウダーの鋳型と凝固殻間への流入および潤滑性が阻害され、抜熱が不安定となり、鋳片の割れが発生するおそれがあった。
そこで、例えば特許文献1-4に示すように、Al含有鋼を対象とした各種モールドパウダーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-042697号公報
【文献】特開2009-039745号公報
【文献】特開2017-018978号公報
【文献】特開2017-170494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、生産性向上の観点から、鋳造速度の高速化、および、鋳造時間の長時間化が図られており、モールドパウダーの流入性を確保し、凝固殻と鋳型との潤滑性を維持することが求められている。
ここで、上述の特許文献1-4に開示されたモールドパウダーを用いた場合には、長時間鋳造した際に、鋳型にモールドパウダーの凝固物が付着してスラグリムが肥大化したり、鋳片に深い表面割れが発生したりして、鋳造を長時間安定して行うことができないおそれがあった。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を長時間鋳造する場合であっても、モールドパウダーの流入性や潤滑性が阻害されず安定して高品質な鋳片を得ることが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、溶融したモールドパウダー中においては、Caの一部がCaFとして存在しており、このCaFとして存在するCaを考慮して実質CaO量を規定し、この実質CaOとSiOとの重量比を設定することで、Al含有鋼を連続鋳造して、モールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、凝固時に高融点のゲーレナイト相が生成することを抑制でき、モールドパウダーの流入性や潤滑性が安定して向上するとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る連続鋳造用モールドパウダーは、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する際に鋳型内に供給される連続鋳造用モールドパウダーであって、凝固点が1000℃以上1200℃以下の範囲内であり、CaOとSiOを主成分とし、質量比で、骨材としてのCを除いた成分を100%とした場合において、CaOとSiO の合計含有量が50.0%以上、MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満、Alの含有量が3.0%未満、NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、とされるとともに、質量比で、Fの含有量を〔F〕、LiOの含有量を〔LiO〕、NaOの含有量を〔NaO〕、KOの含有量を〔KO〕、トータルCaO量を〔T.CaO〕、SiOの含有量〔SiO〕とした場合に、以下の(1)~(3)式によって、実質CaO量〔CaO〕を定義した場合において、実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満とされ、
〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満とされていることを特徴とする連続鋳造用モールドパウダー。
(1)式:〔F〕=〔F〕-〔LiO〕×(38/30)-〔NaO〕×(38/62)-〔KO〕×(38/94),ただし、〔F〕<〔LiO〕×(38/30)+〔NaO〕×(38/62)+〔KO〕×(38/94)の場合は、〔F〕=0
(2)式:〔CaF〕=〔F〕×(78/38)
(3)式:〔CaO〕=〔T.CaO〕-〔CaF〕×(56/78)
【0010】
本発明の連続鋳造用モールドパウダーにおける実質CaO量〔CaO〕は、上述の(1)~(3)式で定義されている。
この(1)~(3)式においては、モールドパウダー中のFは、まず、LiF、NaF、KFとなるものとし、残部のFがCaFを形成し、このCaFを形成するCa相当のCaOをトータルCaOから除去したものとされている。
そして、本発明の連続鋳造用モールドパウダーにおいては、上述の実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満とされているので、Al含有鋼を連続鋳造した際にモールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、凝固時に高融点のゲーレナイト相が生成することを抑制でき、流入性や潤滑性を安定して向上させることが可能となる。
【0011】
また、本発明の連続鋳造用モールドパウダーにおいては、トータルCaO量〔T.CaO〕とSiO量〔SiO〕の質量比〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満とされ、Alの含有量が3.0%未満とされているので、SiO量が十分に確保されており、モールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、高融点の結晶相が生成することを抑制することができる。
【0012】
さらに、NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満とされているので、凝固点および粘性を適切に調整することができ、モールドパウダーの流入性を確保することができる。
【0013】
本発明に係る鋼の連続鋳造方法は、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、上述の連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給することを特徴としている。
この構成の鋼の連続鋳造方法においては、上述の連続鋳造用モールドパウダーを鋳型内に供給しているので、長時間鋳造してモールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、ゲーレナイトが生成することを抑制でき、モールドパウダーの流入性や潤滑性が阻害されず、長時間安定して鋳造を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、本発明によれば、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を長時間鋳造する場合であっても、モールドパウダーの流入性や潤滑性が阻害されず安定して高品質な鋳片を得ることが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】CaO-SiO-Alの3元状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態である連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーは、CaOとSiOを主成分としており、質量比で、骨材としてのCを除いた成分を100%とした場合において、MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満、Alの含有量が3.0%未満、NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、とされている。
なお、本実施形態においては、CaOとSiOの合計含有量が、質量比で、骨材としてのCを除いた成分を100%とした場合において、50.0%以上とされている。
また、不可避不純物としてSやFeO等を含むことがある。これら不可避不純物は質量比で1.5%以下に制限することが好ましい。
【0018】
そして、質量比で、Fの含有量を〔F〕、LiOの含有量を〔LiO〕、NaOの含有量を〔NaO〕、KOの含有量を〔KO〕、トータルCaO量を〔T.CaO〕、SiOの含有量〔SiO〕とした場合に、以下の(1)~(3)式によって、実質CaO量〔CaO〕を定義した場合において、実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満とされている。
(1)式:〔F〕=〔F〕-〔LiO〕×(38/30)-〔NaO〕×(38/62)-〔KO〕×(38/94),ただし、〔F〕<〔LiO〕×(38/30)+〔NaO〕×(38/62)+〔KO〕×(38/94)の場合は、〔F〕=0
(2)式:〔CaF〕=〔F〕×(78/38)
(3)式:〔CaO〕=〔T.CaO〕-〔CaF〕×(56/78)
また、トータルCaO量〔T.CaO〕とSiO量〔SiO〕の質量比〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満とされている。
【0019】
なお、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、凝固点が1000℃以上1200℃以下とされていることが好ましい。
また、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、1300℃における粘度が0.5poise以上5.0poise以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0020】
以下に、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーの組成等について、上述のように規定した理由について説明する。
【0021】
<実質CaO量〔CaO〕>
まず、実質CaO量〔CaO〕について説明する。この実質CaO量〔CaO〕は、溶融したモールドパウダー中においてCaFとして存在するCaを考慮したCaO量である。
モールドパウダー中に含まれるFは、まず、LiF、NaF、KFを生成する。そこで、上述の(1)式においては、LiF、NaF、KFを形成するために消費されたFを除いた残部のF量〔F〕を算出している。
次に、残部のF量〔F〕がCaと反応することによりCaFが生成する。そこで、上述の(2)式においては、残部のF量〔F〕によって生成するCaF量〔CaF〕を算出している。
そして、上述の(3)式においては、トータルCaOからCaF量〔CaF〕に相当するCaOを除去して、実質CaO量〔CaO〕を算出している。
【0022】
<〔CaO〕/〔SiO〕>
本実施形態においては、上述のようにして算出された実質CaO量〔CaO〕を用いて、実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕を0.50未満に設定している。
ここで、図1に示す三元状態図において、CaOとして上述の実質CaO量〔CaO〕を適用し、〔CaO〕/〔SiO〕を0.50未満とすることで、SiO量が減少してAl量が増加した場合であっても、高融点のゲーレナイト相(図1においてCAS)が生成することを抑制することが可能となる。
なお、〔CaO〕/〔SiO〕の上限は、0.44以下とすることが好ましい。また、〔CaO〕/〔SiO〕の下限に特に制限はないが、0.15以上とすることが好ましい。
【0023】
<〔T.CaO〕/〔SiO〕>
本実施形態の連続鋳造用モールドパウダーにおいては、トータルCaO量〔T.CaO〕とSiO量〔SiO〕の質量比〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度を1.00未満に設定している。
ここで、本実施形態においては、塩基度:〔T.CaO〕/〔SiO〕を1.00未満とし、SiO量を確保している。これにより、モールドパウダー中のAlの比率が増加するとともにSiOの比率が減少した場合であっても、高融点の結晶が生成することを抑制できる。
なお、〔T.CaO〕/〔SiO〕の上限は、0.94以下とすることが好ましい。また、〔T.CaO〕/〔SiO〕の下限に特に制限はないが、0.40以上とすることが好ましい。
【0024】
<MgOとSrOとBaOの合計含有量>
MgOとSrOとBaOの含有量が多くなると、凝固時にメリライトが生成しやすくなる。メリライトは、ゲーレナイトとアケルマナイトとの全率固溶体であることから、組成によっては高融点のゲーレナイトが生成してしまい、モールドパウダーの流入性および潤滑性が低下するおそれがある。
そこで、本実施形態では、モールドパウダー中のMgOとSrOとBaOの合計含有量の上限を、質量比で5.0%未満としている。
なお、MgOとSrOとBaOの合計含有量の上限は、3.0%以下とすることが好ましい。
【0025】
<Alの含有量>
Al含有鋼を鋳造する場合、モールドパウダー中のAlの含有量が増加することになる。
そこで、本実施形態では、鋳造時に供給するモールドパウダー中のAlの含有量を、質量比で3.0%以下とすることにより、鋳造時におけるモールドパウダー内のAlの含有量が必要以上に上昇することを抑制している。
なお、Alの含有量の上限は、2.5%以下とすることが好ましい。
【0026】
<NaOとLiOとKOの合計含有量>
モールドパウダーに含有されるNaOとLiOとKOが少ない場合には、モールドパウダーの粘度が上昇してしまい、流入性および潤滑性が低下してしまうおそれがある。一方、NaOとLiOとKOは、蒸発しやすい物質であるため、鋳造中に、モールドパウダーの組成が変化したり、蒸発時に伴って白煙が上がったりして、鋳造を安定して行うことができないおそれがある。
そこで、本実施形態では、モールドパウダー中のNaOとLiOとKOの合計含有量を、質量比で6.0%以上20.0%以下としている。
なお、NaOとLiOとKOの合計含有量の上限は、15.0%以下とすることが好ましい。また、NaOとLiOとKOの合計含有量の下限は、7.0%以上とすることが好ましい。
【0027】
<Fの含有量>
モールドパウダーに含まれるF量によって粘度を調整することが可能となる。また、低融点のCaFが生成することで、凝固点が低くなりすぎることを抑制できる。
そこで、本実施形態では、モールドパウダー中のFの含有量を10.0%以上25.0%以下としている。
なお、Fの含有量の上限は、24.0%以下とすることが好ましい。また、Fの含有量の下限は、12.0%以上とすることが好ましい。
【0028】
<凝固点>
本実施形態の連続鋳造用モールドパウダーにおいて、凝固点が1000℃以上1200℃以下である場合には、鋳造時においてモールドパウダーが凝固することを抑制でき、スラグリムの発生やモールドパウダーの結晶化を抑制でき、モールドパウダーの流入性を確保することが可能となる。
【0029】
<粘度>
本実施形態の連続鋳造用モールドパウダーにおいて、1300℃における粘度が0.5poise以上の場合には、溶鋼湯面とモールドパウダーの溶融層との界面でのモールドパウダーの巻き込みを抑制することが可能となる。一方、1300℃における粘度が5.0poise以下の場合には、モールドパウダーの流入性や潤滑性を十分に確保することができる。
このため、本実施形態においては、1300℃における粘度を0.5poise以上5.0poise以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
そして、本実施形態である鋼の連続鋳造方法においては、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有するAl含有鋼を対象とし、上述した本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーを用いる。
このとき、鋳型内の溶鋼の上に形成されるモールドパウダーの溶融層厚さが5mm以上20mm以下の範囲内となるように、モールドパウダーを添加する。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーによれば、上述の(1)~(3)式で算出される実質CaO量〔CaO〕とSiOの含有量〔SiO〕の比〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満とされているので、Al含有鋼を連続鋳造した際にモールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、凝固時に高融点のゲーレナイト相が生成することを抑制でき、流入性や潤滑性を安定して向上させることが可能となる。
【0032】
また、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、トータルCaO量〔T.CaO〕とSiO量〔SiO〕の質量比〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満とされ、Alの含有量が3.0%未満とされているので、SiO量が十分に確保されており、モールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、高融点の結晶相が生成することを抑制することができる。
【0033】
さらに、本実施形態である連続鋳造用モールドパウダーにおいては、NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満とされているので、凝固点および粘性を適切に調整することができ、モールドパウダーの流入性を確保することができる。
【0034】
そして、本実施形態である鋼の連続鋳造方法においては、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を連続鋳造する際に、上述の連続鋳造用モールドパウダーを用いているので、モールドパウダー中のSiO量が減少し、Al量が増加した場合であっても、凝固時に高融点のゲーレナイト相が生成することを抑制でき、流入性や潤滑性を安定して向上させることが可能となる。
【0035】
以上、本発明の実施形態である連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例
【0036】
(実施例)
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
連続鋳造設備を用いて、表1に示す組成の鋼の連続鋳造を行った。なお、鋳造条件としては、鋳片厚さ250mm、鋳片幅1200mm、定常鋳造速度を1.2m/minとした。
このとき、鋳型内に添加する連続鋳造用モールドパウダーとして、表2に記載されたモールドパウダーを用いた。なお、本実施例では、表2に示す組成のモールドパウダー100%に対して、溶解速度調整用の骨材カーボンを質量比で3.0%添加した。
【0037】
鋳造を最長4時間実施し、鋳片の表面欠陥(割れ)の有無を目視で確認した。評価結果を表2に示す。なお、表2においては、割れが確認されなかったものを「無し」、割れが確認されたがスカーフで除去可能な場合を「微小」、割れが確認されたがスカーフで除去できない場合を「有り」と表記した。
【0038】
なお、各種連続鋳造用モールドパウダーの凝固点、および、1300℃での粘度は、以下のように測定した。
連続鋳造用モールドパウダーの1300℃での粘度は、回転円筒法を用いて測定した。測定対象の連続鋳造用モールドパウダーを坩堝に挿入し1400℃にて10~15分間予備溶解した後に、縦型管状炉(発熱体はSiC)に入れ、E型粘度計のローターを溶融パウダー中に浸漬し、1300℃で30分間安定させた後、ローターを回転させ粘性抵抗によるトルクを測定し粘度を求める。なおE型粘度計は事前に標準粘度液にて校正しておくことが重要である。
また、連続鋳造用モールドパウダー凝固点は、回転粘度計にてパウダーを溶融した後の冷却過程で、5℃おきに粘度を測定し、粘度が大きく上昇した温度とした。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
比較例1においては、〔T.CaO〕/〔SiO〕が1.05、〔CaO〕/〔SiO〕が0.55と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、鋳造中にスラグリムが肥大化したため、鋳造を中断した。
比較例2においては、〔T.CaO〕/〔SiO〕が1.05、〔CaO〕/〔SiO〕が1.05、Alの含有量が3.2%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、鋳造中にスラグリムが肥大化したため、鋳造を中断した。
【0042】
比較例3においては、〔T.CaO〕/〔SiO〕が1.91、〔CaO〕/〔SiO〕が1.91、Alの含有量が3.9%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
比較例4においては、〔CaO〕/〔SiO〕が0.82、Alの含有量が4.5%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
【0043】
比較例5においては、〔CaO〕/〔SiO〕が0.62、Alの含有量が5.0%、NaOとLiOとKOの合計含有量が25.7%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
比較例6においては、〔T.CaO〕/〔SiO〕が1.35、〔CaO〕/〔SiO〕が1.11、Alの含有量が3.2%、MgOとSrOとBaOの合計含有量が6.0%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
【0044】
比較例7においては、Alの含有量が5.0%、MgOとSrOとBaOの合計含有量が8.0%、Fの含有量が7.5%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
比較例8においては、Alの含有量が3.2%、NaOとLiOとKOの合計含有量が5.0%と、いずれも本発明の範囲を外れたモールドパウダーを使用したが、スカーフで除去できない割れが発生した。
【0045】
これに対して、〔T.CaO〕/〔SiO〕である塩基度が1.00未満、〔CaO〕/〔SiO〕が0.50未満、MgOとSrOとBaOの合計含有量が5.0%未満、Alの含有量が3.0%未満、NaOとLiOとKOの合計含有量が6.0%以上20.0%以下、Fの含有量が10.0%以上25.0%以下、とされた本発明例1-9においては、割れの発生が抑制されており、安定して鋳造を行うことができた。特に、本発明例1-5においては、割れの発生を防止することができた。
【0046】
以上のことから、本発明例によれば、質量比で、Siを2.0%未満、Alを0.2%以上含有する鋼を長時間鋳造する場合であっても、モールドパウダーの流入性や潤滑性が阻害されず安定して高品質な鋳片を得ることが可能な連続鋳造用モールドパウダー、および、鋼の連続鋳造方法を提供可能であることが確認された。
図1