(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20240904BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240904BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240904BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20240904BHJP
C08L 23/28 20060101ALI20240904BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20240904BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60C19/12 Z
B60C11/00 F
B60C1/00 Z
C08L23/22
C08L23/28
C08K3/06
C08K5/14
(21)【出願番号】P 2020171224
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中崎 敬介
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181415(WO,A1)
【文献】特開2020-023152(JP,A)
【文献】特開2020-093776(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179576(WO,A1)
【文献】特表2018-525484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0194898(US,A1)
【文献】特開昭52-137803(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181414(WO,A1)
【文献】特表2020-515654(JP,A)
【文献】特開2018-069978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0156419(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0281322(US,A1)
【文献】特開2021-130348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
B29C 73/10-73/22
C08K 3/06
C08K 5/14
C08L 23/22
C08L 23/28
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層を含む少なくとも1層のベルト層とを有し、少なくとも前記トレッド部の内表面に粘着性シーラント材からなるシーラント層が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記シーラント層の幅SWと、前記内側ベルト層の幅BW1と、実接地幅CWとが、CW≦SW≦BW1の関係を満た
し、且つ、タイヤ赤道位置におけるトレッド表面と実接地領域の端部におけるトレッド表面とのタイヤ径方向に沿った垂直距離Lが10.0mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層を含む少なくとも1層のベルト層とを有し、少なくとも前記トレッド部の内表面に粘着性シーラント材からなるシーラント層が設けられた空気入りタイヤにおいて、
前記シーラント層の幅SWと、前記内側ベルト層の幅BW1と、実接地幅CWとが、CW≦SW≦BW1の関係を満たし、タイヤ赤道位置における前記トレッド部の厚さT1および前記シーラント層の厚さS1が0.15<S1/T1<0.35の関係を満たし、且つ、前記シーラント層の端部位置における前記トレッド部の厚さT2および前記シーラント層の厚さS2が0.20<S2/T2<0.40の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層が、前記内側ベルト層の他に、前記内側ベルト層の外周側に隣接して配置された外側ベルト層を含み、前記シーラント層の幅SWと、前記外側ベルト層の幅BW2とが、BW2≦SWの関係を満たすことを特徴とする請求項1
または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記粘着性シーラント材の60℃におけるtanδが1.0以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記粘着性シーラント材を構成するシーラント材組成物において、下記(1)式で表される前記シーラント材組成物中に占めるトルエン不溶分の割合Aが30質量%~60質量%であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
A=(W2/W1)×100 (1)
(式中、W2は前記シーラント材組成物をトルエンに浸漬させて1週間放置した後に残存したトルエン不溶分の質量〔単位:g〕であり、W1は前記シーラント材組成物をトルエンに浸漬する前の初期質量〔単位:g〕である。)
【請求項6】
前記粘着性シーラント材を構成するシーラント材組成物は、ゴム成分100質量部に対して、架橋剤が0.1質量部~40質量部配合されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記架橋剤が硫黄成分を含むことを特徴とする請求項
6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ゴム成分がブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記ブチルゴムの配合量が10質量%以上であることを特徴とする請求項
6または7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、前記ゴム成分100質量%に対する前記塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることを特徴とする請求項
8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記ゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されたことを特徴とする請求項
6~9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内表面にシーラント層を備えたセルフシールタイプの空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラント層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような空気入りタイヤでは、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層を構成するシーラント材が流入することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することが可能になる。
【0003】
上述したセルフシールタイプの空気入りタイヤにおいて、シーラント材の粘度が低いと、シーラント材が貫通孔内に流入し易くなるという点でシール性の向上が見込めるが、走行中に加わる熱や遠心力の影響によりシーラント材がタイヤセンター側に向かって流動し、その結果、貫通孔がタイヤセンター領域から外れると、シーラント材が不足して、シール性が充分に得られない虞がある。一方、シーラント材の粘度が高いと、前述のシーラント材の流動は防止することができるが、シーラント材が貫通孔内に流入しにくくなり、シール性が低下する虞がある。そのため、シーラント層(シーラント材)においては、走行に伴うシーラント材の流動の抑制と、良好なシール性の確保とをバランスよく両立することが求められている。
【0004】
更に、シーラント層を設けることで、結果的に、タイヤ本体と別にシーラント層の分の荷重が追加されてタイヤ全体としての重量が重くなる傾向がある。そのため、セルフシールタイプの空気入りタイヤは、転がり抵抗を良好に維持することが難しい傾向がある。従って、上述のシーラント層としての性能を確保する一方で、タイヤ重量の増加や転がり抵抗の悪化を抑制する対策も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、良好なシール性を確保しながら、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制し、これら性能をバランスよく両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層を含む少なくとも1層のベルト層とを有し、少なくとも前記トレッド部の内表面に粘着性シーラント材からなるシーラント層が設けられた空気入りタイヤにおいて、前記シーラント層の幅SWと、前記内側ベルト層の幅BW1と、実接地幅CWとが、CW≦SW≦BW1の関係を満たし、且つ、タイヤ赤道位置におけるトレッド表面と実接地領域の端部におけるトレッド表面とのタイヤ径方向に沿った垂直距離Lが10.0mm以下であるか、或いはタイヤ赤道位置における前記トレッド部の厚さT1および前記シーラント層の厚さS1が0.15<S1/T1<0.35の関係を満たし、且つ、前記シーラント層の端部位置における前記トレッド部の厚さT2および前記シーラント層の厚さS2が0.20<S2/T2<0.40の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部の内表面にシーラント層を設けるにあたって、シーラント層の幅SWと、内側ベルト層の幅BW1と、実接地幅CWとが、CW≦SW≦BW1の関係を満たすようにしているので、十分なシール性を確保しながら、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制することができる。即ち、シーラント層を設ける範囲(シーラント層の幅SW)が実接地幅CW以上であることで、貫通孔が形成される可能性がある領域を十分に覆うことができ、良好なシール性を確保することができる。一方で、シーラント層を設ける範囲(シーラント層の幅SW)を内側ベルト層の幅BW1以下にしているので、タイヤに追加されるシーラント層(粘着性シーラント材)の量を抑制することができ、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制することができる。
【0009】
本発明においては、ベルト層が、内側ベルト層の他に、内側ベルト層の外周側に隣接して配置された外側ベルト層を含み、シーラント層の幅SWと、外側ベルト層の幅BW2とが、BW2≦SWの関係を満たすことが好ましい。これにより、シーラント層の幅が更に適正化されるので、十分なシール性を確保しながら、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制するには有利になる。
【0010】
本発明においては、上記のように、タイヤ赤道位置におけるトレッド表面と実接地領域の端部におけるトレッド表面とのタイヤ径方向に沿った垂直距離Lが10.0mm以下である。これにより、トレッド部のプロファイルがフラットになるため、走行中の接地変形に起因するシーラント層の変形を抑制することが可能になる。
【0011】
本発明においては、粘着性シーラント材の60℃におけるtanδが1.0以下であることが好ましい。これにより、粘着性シーラント材の物性が良好になり、転がり抵抗の増加を抑制するには有利になる。尚、「60℃におけるtanδ」は、JIS K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度60℃、伸長変形歪率10%±2%、振動数20Hzの条件で測定した値である。
【0012】
本発明においては、上記のように、タイヤ赤道位置におけるトレッド部の厚さT1およびシーラント層の厚さS1が0.15<S1/T1<0.35の関係を満たし、且つ、シーラント層の端部位置におけるトレッド部の厚さT2およびシーラント層の厚さS2が0.20<S2/T2<0.40の関係を満たす。このようにタイヤ幅方向の各部(タイヤ赤道位置およびシーラント層の端部位置)においてシーラント層の厚さをトレッド部の厚さに対して適度な範囲に設定することで、シール性を損ねることなく、走行中のシーラントの流動を抑制することが可能になる。即ち、トレッド部の厚さはタイヤの変形しやすさに影響を及ぼし、タイヤが変形しやすいほど走行中にシーラントの流動が生じやすくなるので、トレッド部の厚さとシーラント層の厚さの比率を適度な範囲に設定することで、走行中の流動を抑制することが可能になる。
【0013】
本発明においては、粘着性シーラント材を構成するシーラント材組成物(以下、「本発明のシーラント材組成物」という)において、下記(1)式で表されるシーラント材組成物中に占めるトルエン不溶分の割合Aが30質量%~60質量%であることが好ましい。これにより、適度な架橋密度が達成でき、シーラント材として好適な物性(低い流動性と優れたシール性)を確保することができる。
A=(W2/W1)×100 (1)
(式中、W2はシーラント材組成物をトルエンに浸漬させて1週間放置した後に残存したトルエン不溶分の質量〔単位:g〕であり、W1はシーラント材組成物をトルエンに浸漬する前の初期質量〔単位:g〕である。)
【0014】
本発明のシーラント材組成物は、ゴム成分100質量部に対して、架橋剤が0.1質量部~40質量部配合されていることが好ましい。このように適度な量の架橋剤によって架橋を行うことで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0015】
本発明のシーラント材組成物では、架橋剤が硫黄成分を含むことが好ましい。これにより、ゴム成分(例えばブチル系ゴム)と架橋剤との反応性が高まり、シーラント材組成物の加工性を向上することができる。
【0016】
本発明のシーラント材組成物では、ゴム成分がブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対するブチルゴムの配合量が10質量%以上であることが好ましい。更に、ブチルゴムが塩素化ブチルゴムを含み、ゴム成分100質量%に対する塩素化ブチルゴムの配合量が5質量%以上であることが好ましい。このような配合にすることで、タイヤ内面に対する接着性を向上することができる。
【0017】
本発明のシーラント材組成物では、ゴム成分100質量部に対して、有機過酸化物1質量部~40質量部、架橋助剤0質量部超1質量部未満が配合されていることが好ましい。このように有機過酸化物や架橋助剤を併用して架橋を行うことで、良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しながら、走行中あるいは保管中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0018】
尚、本発明において、「シーラント層の幅SW」は、タイヤ周上の任意の8箇所で測定した幅の平均値であり、任意の8箇所における幅は、各箇所においてシーラント層の厚さが2mm以上である領域のタイヤ幅方向に沿った距離である。「実接地幅CW」は、タイヤを後述の正規リムにリム組みして、空気圧230kPaを充填した状態で、平面上に垂直に置いて後述の正規荷重の70%に相当する荷重を加えたときに測定されるタイヤ軸方向の接地幅である。「内側ベルト層の幅BW1」および「外側ベルト層の幅BW2」はそれぞれ、タイヤ周上の任意の8箇所におけるカット断面で測定した幅の平均値である。
【0019】
また、「垂直距離L」は、タイヤを後述の正規リムにリム組みして、後述の正規内圧を充填した無負荷状態のタイヤ形状に基づいて特定される。「厚さT1」、「厚さS1」、「厚さT2」、「厚さS2」も同様に、タイヤを後述の正規リムにリム組みして、後述の正規内圧を充填した無負荷状態のタイヤ形状に基づいて特定される。尚、「厚さT1」、「厚さS1」、「厚さT2」、「厚さS2」はいずれも、カーカスライン(子午線断面におけるカーカス層の外周側の表面の輪郭線)の法線に沿って測定した値である。具体的には、「厚さT1」および「厚さS1」はそれぞれ、カーカスラインとタイヤ赤道の交点を通るカーカスラインの法線(基本的にタイヤ赤道と一致)に沿って測定されるトレッド部およびシーラント層の厚さである。「厚さT2」および「厚さS2」はそれぞれ、シーラント層の端部(シーラント層の幅SWを測定する際の端点)を通るカーカスラインの法線に沿って測定されるトレッド部およびシーラント層の厚さである。
【0020】
本発明において、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
本発明の空気入りタイヤ(セルフシールタイプの空気入りタイヤ)は、例えば
図1,2に示すように、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1,2において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1,2は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。また、子午線断面図における他のタイヤ構成部材についても、特に断りがない限り、タイヤ周方向に延在して環状を成している。
【0024】
図1,2の例において、左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。カーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5およびビードフィラー6の廻りに車両内側から外側に折り返されている。ビードフィラー6はビードコア5の外周側に配置され、カーカス層の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0025】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、少なくとも1層のベルト層7が埋設されている。ベルト層7は、カーカス層の外周側に隣接して配置された内側ベルト層7aを必ず含み、任意で図示の例のように、内側ベルト層7aの外周側に隣接して配置された外側ベルト層7bを設けることができる。各ベルト層7(内側ベルト層7a、外側ベルト層7b)は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。トレッド部1におけるベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。図示の例では、ベルト層7の全幅を覆うフルカバー層とフルカバー層の更に外周側に配置されてベルト層7の端部のみを覆うエッジカバー層の2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含み、この有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0026】
タイヤ内面にはカーカス層4に沿ってインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防ぐための層である。インナーライナー層9は、例えば、空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物で構成される。或いは、熱可塑性樹脂をマトリクスとする樹脂層で構成することもできる。樹脂層の場合、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマー成分を分散させたものであってもよい。
【0027】
図1に示すように、トレッド部1におけるインナーライナー層9のタイヤ径方向内側には、シーラント層10が設けられている。シーラント層10は、上述の基本構造を有する空気入りタイヤの内表面に貼付されるものであり、例えば釘等の異物がトレッド部1に突き刺さった際に、その貫通孔にシーラント層10を構成する粘着性シーラント材が流入し、貫通孔を封止することにより、空気圧の減少を抑制し、走行を維持することを可能にするものである。
【0028】
シーラント層10は、例えば2.0mm~5.0mmの厚さを有する。この程度の厚さを有することで、シール性を良好に確保しながら、走行時のシーラントの流動を抑制することができる。また、シーラント層10をタイヤ内面に貼付する際の加工性も良好になる。シーラント層10の厚さが2.0mm未満であると充分なシール性を確保することが難しくなる。シーラント層10の厚さが5.0mmを超えるとタイヤ重量が増加して転がり抵抗が悪化する。尚、ここで言う「シーラント層10の厚さ」とは平均厚さである。
【0029】
シーラント層10は、加硫済みの空気入りタイヤの内面に後から貼り付けることで形成することができる。例えば、後述のシーラント材組成物からなりシート状に成型された粘着性シーラント材をタイヤ内表面の全周に亘って貼付したり、後述のシーラント材組成物からなり紐状または帯状に成型された粘着性シーラント材をタイヤ内表面に螺旋状に貼付することでシーラント層10を形成することができる。その際、粘着性シーラント材は架橋されているものを用いることが好ましい。即ち、予め架橋された粘着性シーラント材は変形が生じにくいので、シーラント層10としてタイヤ内面に設置した後であっても、走行に伴う変形や流動が発生しにくくなる。
【0030】
このようにシーラント層10を設けるにあたって、本発明では、シーラント層10の幅SWと、内側ベルト層7aの幅BW1と、実接地幅CWとが、CW≦SW≦BW1の関係を満たすようにシーラント層10を配置している。これにより、シーラント層10を設ける範囲(シーラント層10の幅SW)が実接地幅CW以上の広さを有するため、貫通孔が形成される可能性がある領域を十分に覆うことができ、良好なシール性を確保することができる。一方で、シーラント層10を設ける範囲(シーラント層10の幅SW)を内側ベルト層7aの幅BW1以下にしているので、タイヤに追加されるシーラント層10(粘着性シーラント材)の量を抑制することができ、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制することができる。
【0031】
図示の例のように、ベルト層7が、内側ベルト層7aおよび外側ベルト層7bを含む場合、更に、シーラント層10の幅SWと、外側ベルト層7bの幅BW2とが、BW2≦SWの関係を満たすことが好ましい。これにより、シーラント層10の幅が更に適正化されるので、十分なシール性を確保しながら、タイヤ重量および転がり抵抗の増加を抑制するには有利になる。より好ましくは、シーラント層10の幅SWと、内側ベルト層7aの幅BW1と、外側ベルト層7bの幅BW2と、実接地幅CWとが、CW≦BW2<SW<BW1の関係を満たしているとよい。また、前述のように、シーラント層10の幅SWは、シーラント層10の厚さが2mm以上である領域に基づいて特定されるので、シーラント層10の端部にシーラント層10の厚さが2mm未満の部分が存在する可能性があるが、シーラント層10の端部にシーラント層10の厚さが2mm未満の部分が存在する場合であっても、シーラント層10の厚さが2mm未満の部分を含むシーラント層10の全体が内側ベルト層7aの端部よりもタイヤ幅方向内側に存在していることが好ましい。
【0032】
シーラント層10は、上述のようにタイヤ内面に設けられるので、走行中のタイヤの変形の影響を受けやすい傾向がある。そのため、タイヤ赤道CLの位置におけるトレッド表面と実接地領域の端部(実接地幅CWを測定する際の端点の位置)におけるトレッド表面とのタイヤ径方向に沿った垂直距離Lを好ましくは10.0mm以下に設定するとよい。これにより、トレッド部1のプロファイルがフラットになるため、無負荷状態と走行時(接地時)とのタイヤ形状の変化が抑制されて、走行中の接地変形に起因するシーラント層10の変形を抑制することが可能になる。このとき、垂直距離Lが10.0mmを超えると、シーラント層10の変形を十分に抑制することができず、シール性に影響を及ぼす虞がある。尚、垂直距離Lはタイヤサイズによって変動するものであるため、その下限値は特に限定されないが、例えば3.0mmに設定することができる。
【0033】
図示のように、タイヤ赤道CLの位置におけるトレッド部1の厚さをT1、タイヤ赤道CLの位置におけるシーラント層10の厚さをS1、シーラント層10の端部位置におけるトレッド部1の厚さをT2、シーラント層10の端部位置におけるシーラント層10の厚さをS2とすると、本発明では、厚さT1,S1が0.15<S1/T1<0.35の関係を満たし、且つ、厚さT2,S2が0.20<S2/T2<0.40の関係を満たすことが好ましい。このように各部(タイヤ赤道CLの位置およびシーラント層10の端部位置)においてシーラント層10の厚さをトレッド部1の厚さに対して適度な範囲に設定することで、シール性を損ねることなく、走行中のシーラントの流動を抑制することが可能になる。即ち、トレッド部1の厚さはタイヤの変形しやすさに影響を及ぼし、タイヤが変形しやすいほど走行中にシーラント層10の変形や流動が生じやすくなるので、トレッド部1の厚さとシーラント層10の厚さの比率を適度な範囲に設定することで、走行中のシーラント層10の変形や流動を抑制するには有利になる。
【0034】
このとき、比S1/T1が0.15以下であると、シーラント層10が薄すぎるため、シール性を十分に確保することが難しくなる。比S1/T1が0.35以上であると、シーラント層10が厚すぎるため、シーラント層10の重量(シーラント材の使用量)が増加して、転がり抵抗が増加したり、ユニフォミティが低下することが懸念される。比S2/T2が0.20以下であると、シーラント層10が薄すぎるため、シール性を十分に確保することが難しくなる。比S2/T2が0.40以上であると、シーラント層10が厚すぎるため、シーラント層10の重量(シーラント材の使用量)が増加して、転がり抵抗が低下したり、ユニフォミティが低下することが懸念される。
【0035】
一般的な空気入りタイヤでは、タイヤ赤道CLからタイヤ幅方向外側に向かって、トレッド部1の厚さが漸減する傾向がある。即ち、厚さT1および厚さT2は、T1>T2という関係を有することが多い。そこで、このトレッド部1の幅方向の厚さの変化を考慮して、上述の比S1/T1,比S2/T2の関係を設定するにあたって、シーラント層10の厚さはタイヤ幅方向全域にわたって均一にしながら、上述の範囲を満たすようにすることが好ましい。このようにシーラント層10の厚さを均一にすることで、タイヤ幅方向の全域において、優れたシール性を発揮することが可能になる。その一方で、シーラント層10の厚さが均一であっても、上述の比S1/T1,比S2/T2の関係を満たすことができるので、シーラントの変形や流動も効果的に抑制することができる。
【0036】
シーラント層10は、上述のように、粘着性シーラント材によって構成されるが、転がり抵抗を抑制する観点から、粘着性シーラント材の60℃におけるtanδは、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.2~0.7であるとよい。このようにtanδを設定することで、粘着性シーラント材の物性が良好になり、シーラント層10としてタイヤ内面に設けるにあたって、転がり抵抗の増加を抑制するには有利になる。このとき、粘着性シーラント材の60℃におけるtanδが1.0を超えると、転がり抵抗を低く抑える効果が十分に見込めなくなる。
【0037】
粘着性シーラント材を構成するシーラント材組成物(以下、「本発明のシーラント材組成物」という)は、下記(1)式で表されるトルエン不溶分の割合Aが好ましくは30質量%~60質量%、より好ましくは35質量%~50質量%という特性を有する。
A=(W2/W1)×100 (1)
(式中、W2はシーラント材組成物をトルエンに浸漬させて1週間放置した後に残存したトルエン不溶分の質量〔単位:g〕であり、W1はシーラント材組成物をトルエンに浸漬する前の初期質量〔単位:g〕である。)
【0038】
このような特性を有するシーラント材組成物は、走行中のシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を確保し、これら性能をバランスよく両立することができる。具体的には、トルエン不溶分の割合Aが30質量%~60質量%であることで、適度な架橋密度が達成でき、シーラント材として好適な物性(低い流動性と優れたシール性)を確保することができる。トルエン不溶分の割合Aが30質量%未満であると、架橋密度が低くなり、流動を抑制する効果が十分に得られない。トルエン不溶分の割合Aが60質量%を超えると、架橋密度が高くなりすぎて、シール性が低下する虞がある。
【0039】
本発明のシーラント材組成物は、上述の特性を有していれば、その具体的な配合は特に限定されない。但し、上述の特性を確実に得るために、例えば後述の配合を採用することが好ましい。
【0040】
本発明のシーラント材組成物において、ゴム成分はブチル系ゴムを含むとよい。ゴム成分中に占めるブチル系ゴムの割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%~90質量%であるとよい。このようにブチル系ゴムを含むことで、タイヤ内面に対する良好な接着性を確保することができる。ブチル系ゴムの割合が10質量%未満であると、タイヤ内面に対する接着性を十分に確保することができない。
【0041】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムを例示することができ、特に塩素化ブチルゴムを好適に用いることができる。塩素化ブチルゴムを用いる場合、ゴム成分100質量%に占める塩素化ブチルゴムの割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%~85質量%である。ハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)を含むことで、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が高まり、シール性の確保とシーラントの流動の抑制とを両立するには有利になる。また、シーラント材組成物の加工性を向上することもできる。塩素化ブチルゴムの割合が5質量%未満であると、ゴム成分と後述の架橋剤や有機過酸化物との反応性が充分に向上せず、所望の効果が充分に得られない。
【0042】
本発明のシーラント材組成物において、ブチル系ゴムの全量がハロゲン化ブチルゴム(塩素化ブチルゴム)である必要はなく、非ハロゲン化ブチルゴムを併用することもできる。非ハロゲン化ブチルゴムとしては、シーラント材組成物に通常用いられる未変性のブチルゴム、例えば、JSR社製BUTYL‐065、LANXESS社製BUTYL‐301などが挙げられる。ハロゲン化ブチルゴムと非ハロゲン化ブチルゴムとを併用する場合、非ハロゲン化ブチルゴムの配合量はゴム成分100質量%中に、好ましくは20質量%未満、より好ましくは10質量%未満にするとよい。
【0043】
本発明のシーラント材組成物においては、ブチル系ゴムとして2種以上のゴムを併用することが好ましい。即ち、塩素化ブチルゴムに対して、他のハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム)または非ハロゲン化ブチルゴムを組み合わせて用いることが好ましい。塩素化ブチルゴム、他のハロゲン化ブチルゴム(臭素化ブチルゴム)、非ハロゲン化ブチルゴムの3種は、加硫速度が互いに異なるため、少なくとも2種類を組み合わせて用いると、加硫速度の違いに起因して、加硫後のシーラント材組成物の物性(粘度や弾性等)は均質にならない。即ち、シーラント材組成物内での加硫速度の異なるゴムの分布(濃度のばらつき)によって、加硫後のシーラント層において相対的に硬い部分と相対的に柔らかい部分とが混在することになる。その結果、相対的に硬い部分では流動性が抑制され、相対的に柔らかい部分ではシール性が発揮されて、これら性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0044】
本発明のシーラント材組成物においては、ゴム成分としてブチル系ゴム以外の他のジエン系ゴムを配合することもできる。他のジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のシーラント材組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0045】
本発明のシーラント材組成物においては、架橋剤を配合することが好ましい。尚、本発明における「架橋剤」とは、有機過酸化物を除いた架橋剤であり、例えば硫黄、亜鉛華、環状スルフィド、樹脂(樹脂加硫)、アミン(アミン加硫)等を例示することができる。架橋剤としては、特に硫黄成分を含むもの(例えば、硫黄)を用いることが好ましい。このように架橋剤を配合することで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するための適度な架橋を実現できる。架橋剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~40質量部、より好ましくは0.5質量部~20質量部である。架橋剤の配合量が0.1質量部未満であると、実質的に架橋剤が含まれないのと同等になり、適切な架橋を行うことができない。架橋剤の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。
【0046】
本発明のシーラント材組成物においては、上述の架橋剤を単独で用いるのではなく、有機過酸化物と併用することが好ましい。このように架橋剤および有機過酸化物を併用して配合することで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するための適度な架橋を実現できる。有機過酸化物の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部~40質量部、より好ましくは1.0質量部~20質量部である。有機過酸化物の配合量が1質量部未満であると、有機過酸化物が過少であり架橋が十分に行うことができず、所望の物性を得ることができない。有機過酸化物の配合量が40質量部を超えると、シーラント材組成物の架橋が進みすぎてシール性が低下する。
【0047】
このように架橋剤と有機過酸化物とを併用するにあたって、架橋剤の配合量Aと有機過酸化物の配合量Bとの質量比A/Bを、好ましくは5/1~1/200、より好ましくは1/10~1/20にするとよい。このような配合割合とすることで、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを、よりバランスよく両立することが可能になる。
【0048】
有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ブチルヒドロパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキサイド等が挙げられる。特に、1分間半減期温度が100℃~200℃である有機過酸化物が好ましく、前述の具体例の中では、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイドが特に好ましい。尚、本発明において、「1分間半減期温度」は、一般に、日本油脂社の「有機過酸化物カタログ第10版」に記載された値を採用し、記載のない場合は、カタログに記載された方法と同様に、有機溶媒中における熱分解から求めた値を採用する。
【0049】
本発明のシーラント材組成物には、架橋助剤を配合することが好ましい。架橋助剤とは、硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することで架橋反応触媒として作用する化合物である。架橋剤および架橋助剤を配合することで、加硫速度を早めることができ、シーラント材組成物の生産性を高めることができる。架橋助剤の配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して好ましくは0質量部超1質量部未満、より好ましく0.1質量部~0.9質量部である。このように架橋助剤の配合量を抑えることで、触媒として架橋反応を促進させつつシーラント材組成物の劣化(熱劣化)を抑制することができる。架橋助剤の配合量が1質量部以上であると熱劣化を抑制する効果が十分に得られない。尚、架橋助剤は、上記のように硫黄成分を含む架橋剤と共に配合することにより架橋反応触媒として作用するものであるので、硫黄成分の代わりに有機過酸化物と共存させても架橋反応触媒としての作用は得られず、架橋助剤を多く使用しなければならず、熱劣化を促進してしまう。
【0050】
架橋剤の配合量は、上述の架橋助剤の配合量の好ましく50質量%~400質量%、より好ましくは100質量%~200質量%であるとよい。このように架橋剤と架橋助剤をバランスよく配合することで、架橋助剤の触媒としての機能を良好に発揮することができ、シール性の確保とシーラントの流動の防止とを両立するには有利になる。架橋剤の配合量が架橋助剤の配合量の50質量%未満であると流動性が低下する。架橋剤の配合量が架橋助剤の配合量の400質量%を超えると耐劣化性が低下する。
【0051】
架橋助剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオ尿素系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系、アルデヒド‐アミン系、アルデヒド‐アンモニア系、イミダゾリン系、キサントゲン酸系の化合物(加硫促進剤)を例示することができる。これらの中でも、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤を好適に用いることができる。チアゾール系の加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等を挙げることができる。チウラム系の加硫促進剤としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等を挙げることができる。グアニジン系の加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン等を挙げることができる。ジチオカルバミン酸塩系の加硫促進剤としては、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム等を挙げることができる。特に、本発明においては、チアゾール系またはチウラム系の加硫促進剤を用いることが好ましく、得られるシーラント材組成物の性能のばらつきを抑えることができる。
【0052】
尚、例えばキノンジオキシムのような実際は架橋剤として機能する化合物を便宜的に架橋助剤と呼称する場合があるが、本発明における架橋助剤は、上述のように架橋剤による架橋反応の触媒として機能する化合物であるので、キノンジオキシムは本発明における架橋助剤には該当しない。
【0053】
本発明のシーラント材組成物は、液状ポリマーを配合することが好ましい。このように液状ポリマーを配合することで、シーラント材組成物の粘性を高めてシール性を向上することができる。液状ポリマーの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部~400質量部、より好ましくは70質量部~200質量部である。液状ポリマーの配合量が50質量部未満であると、シーラント材組成物の粘性を高める効果が充分に得られないことがある。液状ポリマーの配合量が400質量部を超えると、シーラントの流動を充分に防止することができない。
【0054】
液状ポリマーとしては、シーラント材組成物中のゴム成分(ブチルゴム)と共架橋可能であることが好ましく、例えば、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、ポリイソブテンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。シーラント材組成物の物性の温度依存性を低く抑えて、低温環境下におけるシール性を良好に確保する観点から、これらの中でも、パラフィンオイル、ポリブテンオイル、ポリイソプレンオイル、ポリブタジエンオイル、アロマオイル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にパラフィンオイルを用いることが好ましい。パラフィンオイルを用いることで、上述の温度ごとの粘度をそれぞれ適切な範囲に設定するには有利になる。また、液状ポリマーの分子量は好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは1200以上3000以下であるとよい。このように分子量の大きいものを用いることで、タイヤ内面に設けたシーラント層からタイヤ本体にオイル分が移行してタイヤに影響を及ぼすことを防止することができる。
【0055】
上述の配合からなるシーラント材組成物は、少なくともブチル系ゴムを含有していることでゴム成分に適度に高い粘性を付与しながら、適度な量の架橋剤(好ましくは有機過酸化物を併用)によって架橋を行うことで良好なシール性を得るのに充分な粘性を確保しつつ走行中に流動しない適度な弾性を得て、これら性能をバランスよく両立することができる。そのため、セルフシールタイプの空気入りタイヤのシーラント層10(シーラント材)に好適に用いることができ、走行中のシーラントの流動を抑制しながら、良好なシール性を確保し、これら性能をバランスよく両立することができる。
【0056】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
タイヤサイズが235/55R18であり、
図1,2に示す基本構造を有し、トレッド部におけるインナーライナー層のタイヤ径方向内側にシーラントからなるシーラント層を有する空気入りタイヤにおいて、実接地幅CWとシーラント層の幅SWとの大小関係、シーラント層の幅SWと内側ベルト層の幅BW1との大小関係、シーラント層の幅SWと外側ベルト層の幅BW2との大小関係、タイヤ赤道位置におけるトレッド表面と実接地領域の端部におけるトレッド表面とのタイヤ径方向に沿った垂直距離L、粘着性シーラント材の60℃におけるtanδ、タイヤ赤道位置におけるトレッド部の厚さT1とシーラント層の厚さS1との比S1/T1、シーラント層の端部位置におけるトレッド部の厚さT2とシーラント層の厚さS2との比S2/T2、シーラント材組成物中に占めるトルエン不溶分の割合Aを表1に記載のように設定した従来例1、比較例1~2 、実施例1~11の空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製作した
(尚、垂直距離Lが10.0mm以下、または0.15<S1/T1<0.35且つ0.20<S2/T2<0.40の関係を満たさない、実施例1,5,9,10は参考例である)。
【0058】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、タイヤ質量、転がり抵抗、シール性、走行時の流動性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0059】
タイヤ質量
各試験タイヤの質量について4本の質量を測定し、その平均値を求めた。得られた結果は、測定値の逆数を使用し、従来例1の値を100とする指数として、表1の「タイヤ質量」の欄に示した。この指数値が大きいほどタイヤ質量が小さいことを意味する。
【0060】
転がり抵抗
各試験タイヤを、リムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付け、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧230kPa、荷重4.82kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を使用し、従来例1の値を100とする指数として、表1の「転がり抵抗」の欄に示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低いことを意味する。
【0061】
シール性
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、初期空気圧230kPa、荷重8.5kN、温度23℃(室温)の条件で、直径5.0mmの釘をトレッド部に打ち込んだ後に、その釘を抜いた状態で1時間タイヤを静置した後の空気圧を測定した。評価結果は、以下の4段階で示した。尚、評価結果が「○」或いは「◎」であれば十分なシール性を発揮しており、「◎」の場合に特に優れたシール性を発揮したことを意味する。
◎:静置後の空気圧が240kPa以上かつ250kPa以下
○:静置後の空気圧が230kPa以上かつ240kPa未満
△:静置後の空気圧が200kPa以上かつ230kPa未満
×:静置後の空気圧が200kPa未満
【0062】
シーラントの流動性
試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧230kPa、荷重8.5kN、走行速度80km/hの条件で1時間走行し、走行後のシーラントの流動状態を調べた。評価結果は、走行前にシーラント層の表面に5mm方眼罫20×40マスの線を引き、走行後に形状が歪んだマスの個数を数えて、シーラントの流動が全く認められない場合(歪んだマスの個数が0個)を「○」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4未満である場合を「△」で示し、歪んだマスの個数が全体の1/4以上である場合を「×」で示した。
【0063】
【0064】
【0065】
表1~2から明らかなように、実施例1~11の空気入りタイヤは、従来例1と比較してタイヤ質量および転がり抵抗を低減しながら、優れたシール性を発揮し、且つ、走行時のシーラントの流動を抑制した。一方、比較例1,2は、シーラント層の幅SWが実接地幅CWよりも小さいため、十分なシール性を発揮することができなかった。
【符号の説明】
【0066】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
7a 内側ベルト層
7b 外側ベルト層
8 ベルト補強層
9 インナーライナー層
10 シーラント層
CL タイヤ赤道