(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法および測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 33/12 20060101AFI20240904BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20240904BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
G01R33/12 M
H01F7/02 Z
H01F41/00 E
(21)【出願番号】P 2021011505
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】星名 実
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 淳
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215226(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157637(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053921(WO,A1)
【文献】特開2013-024742(JP,A)
【文献】特表2021-515213(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114415(WO,A1)
【文献】米国特許第06201386(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/12
H01F 7/02
H01F 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない
前記永久磁石の試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決める
拡散係数を含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、
閉磁路方式で測定される前記分割領域ごとの磁化曲線を示す閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの閉磁路曲線データから、前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを合成することにより、前記永久磁石の磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記永久磁石の磁束密度曲線データから、閉磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記推定閉磁路曲線データと、前記永久磁石を含む空間のメッシュデータとに基づいて、前記磁気特性分布を有する前記永久磁石の試料内部の場所ごとの開磁路曲線データを算出し、前記永久磁石全体の前記開磁路曲線データの平均値として、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記
拡散係数の値を変更し、
変更後の前記
拡散係数の値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
制御部を有することを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記磁化差分が閾値以下となるまで、変更後の前記
拡散係数の値を含む前記関数を用いた前記分割領域の磁気特性値の算出、
前記分割領域ごとの閉磁路曲線データの算出、前記分割領域ごとの磁束密度曲線データの算出、前記永久磁石の磁束密度曲線データの算出、前記推定閉磁路曲線データの算出、前記推定開磁路曲線データの算出、および、前記
拡散係数の値の変更を繰り返し行い、
前記磁化差分が閾値以下となった場合に、変更後の前記
拡散係数の値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記実測閉磁路曲線データの磁気特性値が、算出した前記分割領域の磁気特性値となるように、磁界軸方向に前記実測閉磁路曲線データを並進することにより、前記分割領域の閉磁路曲線データを算出する、ことを特徴とする請求項
1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記磁気特性は、前記永久磁石の保磁力または残留磁化によって表される、ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の測定装置。
【請求項5】
磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない
前記永久磁石の試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決める
拡散係数を含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、
閉磁路方式で測定される前記分割領域ごとの磁化曲線を示す閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの閉磁路曲線データから、前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを合成することにより、前記永久磁石の磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記永久磁石の磁束密度曲線データから、閉磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記推定閉磁路曲線データと、前記永久磁石を含む空間のメッシュデータとに基づいて、前記磁気特性分布を有する前記永久磁石の試料内部の場所ごとの開磁路曲線データを算出し、前記永久磁石全体の前記開磁路曲線データの平均値として、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記
拡散係数の値を変更し、
変更後の前記
拡散係数の値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする測定方法。
【請求項6】
磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない
前記永久磁石の試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する
前記永久磁石の試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決める
拡散係数を含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、
閉磁路方式で測定される前記分割領域ごとの磁化曲線を示す閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの閉磁路曲線データから、前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを合成することにより、前記永久磁石の磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記永久磁石の磁束密度曲線データから、閉磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記推定閉磁路曲線データと、前記永久磁石を含む空間のメッシュデータとに基づいて、前記磁気特性分布を有する前記永久磁石の試料内部の場所ごとの開磁路曲線データを算出し、前記永久磁石全体の前記開磁路曲線データの平均値として、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記
拡散係数の値を変更し、
変更後の前記
拡散係数の値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、測定方法および測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、永久磁石は、モータ、風力タービン、デバイスなど様々な工業製品に使用されている。永久磁石は、磁化という物理量を持ち、外部磁界を加えると磁化が変化する。永久磁石の磁気特性は、製造工程での重レアアースの粒界拡散や表面加工により不均一になることが知られている。
【0003】
先行技術としては、永久磁石の開磁路環境での第1磁化の測定結果に基づいて、外部磁界に応じた値を有するパラメータを含む、閉磁路環境での外部磁界に応じた第2磁化を示す関数を生成し、永久磁石のメッシュモデルの複数のメッシュそれぞれについて、外部磁界に反磁界の影響を加えた場合における開磁路環境での第3磁化を算出し、複数のメッシュそれぞれの第3磁化の平均と、測定結果に示される第1磁化とに基づいて、外部磁界に応じたパラメータの値を修正するものがある。
【0004】
また、磁石の形状情報およびDy導入面情報から磁石内のDy導入量の分布を算出し、Dy導入量の分布から磁石内でのΔHcJ(保磁力増加量)の分布を算出し、保磁力が均質でなく分布を有する磁石について、算出したΔHcJの分布を用いてJ-Hカーブを算出し、温度係数を用いて所定の温度での減磁率を算出する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-215226号公報
【文献】国際公開第2012/157637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、磁気特性が不均一な永久磁石について、永久磁石を破壊、粉砕せずに、磁石内部の磁気特性分布を測定することができないという問題がある。
【0007】
一つの側面では、本発明は、永久磁石内部の磁気特性分布を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施態様では、磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値とを取得し、前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決めるパラメータを含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記パラメータの値を変更し、変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、制御部を有する測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、永久磁石内部の磁気特性分布を測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる測定方法の一実施例を示す説明図である。
【
図2】
図2は、永久磁石の磁気特性を示す説明図である。
【
図3】
図3は、情報処理システム300のシステム構成例を示す説明図である。
【
図4】
図4は、情報処理装置301のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、入力データの具体例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、閉磁路曲線データJ1(H)の具体例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、開磁路曲線データJ2(H)の具体例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、情報処理装置301の機能的構成例を示すブロック図である。
【
図9A】
図9Aは、xの算出例を示す説明図(その1)である。
【
図9B】
図9Bは、xの算出例を示す説明図(その2)である。
【
図10】
図10は、分割領域管理テーブル1000の記憶内容の一例を示す説明図である。
【
図11】
図11は、分割領域#iの閉磁路曲線データを算出する処理内容の一例を示す説明図である。
【
図12A】
図12Aは、直列配置の場合の磁束密度曲線の合成例を示す説明図である。
【
図12B】
図12Bは、並列配置の場合の磁束密度曲線の合成例を示す説明図である。
【
図13】
図13は、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する処理内容の一例を示す説明図である。
【
図14】
図14は、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)の具体例を示す説明図である。
【
図15】
図15は、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)の具体例を示す説明図である。
【
図17】
図17は、情報処理装置301の磁気特性分布推定処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して、本発明にかかる測定装置、測定方法および測定プログラムの実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる測定方法の一実施例を示す説明図である。
図1において、測定装置101は、永久磁石の磁気特性を測定するコンピュータである。永久磁石は、外部磁界等の供給を受けることなく、磁石としての性質を比較的長期にわたって保持し続ける物体である。永久磁石は、外部磁界(磁場)を加えると磁化が変化する。
【0013】
磁化は、永久磁石の特性をあらわす物理量の一つである。磁化は、物体(磁性体)に外部磁界を加えたときに、その物体が磁気的に分極して磁石となる現象のことであり、また、物体の磁化の程度をあらわす。永久磁石の材料としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、サマリウム、ネオジムなどが挙げられる。
【0014】
永久磁石は、例えば、残留磁化や保磁力などの磁気特性によって評価される。残留磁化は、外部磁界がゼロでの磁化であり、磁性体に外部磁界を加えたのち、外部磁界をゼロにしたときに残留する磁化を示す。保磁力は、磁化がゼロでの外部磁界であり、磁化された磁性体を磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さを示す。
【0015】
ここで、
図2を用いて、永久磁石の磁気特性について説明する。
【0016】
図2は、永久磁石の磁気特性を示す説明図である。
図2において、磁化曲線データ210は、永久磁石200に加える磁界(外部磁界H)と永久磁石200の磁化Jとの関係を示す。点211は、磁化Jがゼロでの外部磁界Hであり、永久磁石200の保磁力を示す。点212は、外部磁界Hがゼロでの磁化Jであり、永久磁石200の残留磁化を示す。永久磁石200の磁気特性は、保磁力(点211)または残留磁化(点212)によって表される。
【0017】
ここで、永久磁石の製造工程において、粒界拡散合金法による重レアアースの粒界拡散や表面加工により磁気特性が不均一になる。例えば、磁石の外側からレアアースの添加物を浸透させていくと、磁石の表面と内部で磁化曲線の値が変わって、磁気特性が不均一になる。工業的には、このような永久磁石の磁気特性分布を把握することが重要である。
【0018】
永久磁石の磁気特性分布は、例えば、コンター図を用いて表現される。コンター図は、ある物理量の空間分布を、領域ごとに色分けすることで表した図である。一方で、永久磁石の磁気特性は、試料全体の平均化した特性として計測される。このため、従来は、永久磁石を破壊、粉砕して磁石片に分解し、磁石片ひとつひとつについて磁気特性を計測することで、永久磁石の磁気特性分布を推定する手法が取られている。
【0019】
しかしながら、永久磁石の磁気特性分布を測定するにあたり、永久磁石(試料)を破壊、粉砕して分解する場合、測定作業に非常に手間や時間がかかる。また、磁石片を細かく分解しすぎると、表面劣化の影響が大きくなり、磁石片が大きすぎると、コンター図を表示する際の解像度が低くなるという問題がある。
【0020】
そこで、本実施の形態では、磁気特性が不均一な永久磁石について、永久磁石を破壊、粉砕せずに、磁石内部の磁気特性分布を測定する測定方法について説明する。以下、測定装置101の処理例について説明する。
【0021】
(1)測定装置101は、磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない試料の実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の実測開磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値とを取得する。永久磁石の磁気特性は、例えば、残留磁化または保磁力によって表される。
【0022】
磁気特性分布を有さない試料は、磁石の製造工程で磁気特性が非均一になる前の磁気特性が一様な永久磁石である。実測閉磁路曲線データは、閉磁路方式で測定された、磁気特性分布を有さない試料の磁化曲線を示す。磁化曲線は、外部磁界と磁化との関係を示す。閉磁路方式は、磁路(磁気回路)が閉じた測定系で磁化を測定する測定方式である。閉磁路方式の測定としては、例えば、BHトレーサーがある。
【0023】
また、実測開磁路曲線データは、開磁路方式で測定された、磁気特性分布を有する試料の磁化曲線を示す。開磁路方式は、磁路(磁気回路)が閉じていない測定系で磁化を測定する測定方式である。開磁路方式の測定としては、例えば、VSM(Vibrating Sample Magnetometer)やPFM(Pulsed Field Magnetometer)などがある。
【0024】
表面磁気特性値は、磁気特性分布を有する試料表面の磁気特性の値である。表面磁気特性値は、例えば、磁石メーカのカタログから入手可能である。磁石は、自身の磁化が作り出す磁界(反磁界)の影響を受ける。反磁界は、磁石形状や測定環境によって値が変わり、磁石固有の特性ではないため、磁化曲線の測定では排除することが望ましい。
【0025】
閉磁路は、開磁路に比べて反磁界を排除することができる測定系である。しかし、磁気特性分布を有する試料は、保磁力が大きいため、閉磁路方式では、測定原理の限界から磁気特性を正しく測定することが難しい。例えば、ネオジム磁石などは、閉磁路測定装置の測定能力を上回るため、開磁路方式で測定される。
【0026】
このため、磁気特性分布を有さない試料については、閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データが取得され、磁気特性分布を有する試料については、開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データが取得される。
【0027】
以下の説明では、磁気特性分布を有さない試料の実測閉磁路曲線データを「閉磁路曲線データJ1(H)」と表記する場合がある。また、磁気特性分布を有する試料の実測開磁路曲線データを「開磁路曲線データJ2(H)」と表記し、その表面磁気特性値を「表面磁気特性値Hc0」と表記する場合がある。
【0028】
図1の例では、磁気特性の測定対象となる永久磁石を「永久磁石110」とし、永久磁石110について、閉磁路曲線データJ1(H)、開磁路曲線データJ2(H)および表面磁気特性値Hc0が取得された場合を想定する。
【0029】
(2)測定装置101は、永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、パラメータκを含む関数を用いて、閉磁路曲線データJ1(H)から抽出される内部磁気特性値と、表面磁気特性値Hc0とに基づいて、分割領域の磁気特性値を算出する。パラメータκは、永久磁石の磁気特性の分布を決める変数である。
【0030】
パラメータκを含む関数は、永久磁石の磁気特性分布を模擬するための関数であり、例えば、パラメータκと、永久磁石の内部磁気特性と、永久磁石の表面磁気特性とを用いて、各分割領域の磁気特性を導出する関数である。例えば、パラメータκは、拡散係数である。また、パラメータκを含む関数は、分布関数や拡散方程式である。
【0031】
また、閉磁路曲線データJ1(H)から抽出される内部磁気特性値は、磁気特性分布を有する試料内部の磁気特性を示す。例えば、磁石の製造工程において、磁石の外側から添加物を添加しても、磁石内部には添加物が届いていない状態と仮定することができる。測定装置101は、添加前の磁気特性が一様な試料の磁気特性を、磁気特性分布を有する試料の内部磁気特性として扱う。
【0032】
具体的には、例えば、測定装置101は、永久磁石を仮想的に区切って複数の領域(分割領域)に分割したメッシュモデルを生成する。そして、測定装置101は、パラメータκを含む関数から、各分割領域の磁気特性値を計算する。例えば、永久磁石の磁気特性のコンター図を表示する際には、各分割領域の磁気特性値に応じて各分割領域が色分けされる。
【0033】
以下の説明では、永久磁石を区切って分割した複数の分割領域を「分割領域#1~#n」と表記する場合がある(nは、2以上の自然数)。また、分割領域#1~#nのうちの任意の分割領域を「分割領域#i」と表記し、分割領域#iの磁気特性値を「磁気特性値Hci」と表記する場合がある。また、閉磁路曲線データJ1(H)から抽出される内部磁気特性値を「内部磁気特性値Hc1」と表記する場合がある。
【0034】
図1の例では、永久磁石110を各軸(x軸、y軸、z軸)方向にそれぞれ3分割して、永久磁石110が分割領域#1~#27に分割された場合を想定する。
【0035】
(3)測定装置101は、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石の推定開磁路曲線データを算出する。永久磁石の推定開磁路曲線データは、開磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石の磁化曲線を示す。
【0036】
具体的には、例えば、測定装置101は、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石の推定閉磁路曲線データを算出する。永久磁石の推定閉磁路曲線データは、閉磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石の磁化曲線を示す。
【0037】
そして、測定装置101は、永久磁石の推定閉磁路曲線データから、永久磁石の推定開磁路曲線データに変換する。推定開磁路曲線データへの変換には、永久磁石を含む空間のメッシュデータが用いられる。メッシュデータは、例えば、空間に配置された永久磁石(磁気特性分布を有する試料)と、永久磁石以外の空気領域とを特定可能な情報である。
【0038】
以下の説明では、磁気特性分布を有する永久磁石の推定閉磁路曲線データを「閉磁路曲線データJ3(H)」と表記し、磁気特性分布を有する永久磁石の推定開磁路曲線データを「開磁路曲線データJ4(H)」と表記する場合がある。
【0039】
図1の例では、永久磁石110の開磁路曲線データJ4(H)が算出された場合を想定する。永久磁石110の開磁路曲線データJ4(H)は、開磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石110の磁化曲線を示す。
【0040】
(4)測定装置101は、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分を最小化するように、パラメータκの値を変更する。具体的には、例えば、測定装置101は、黄金分割法を用いて、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分が最小になるようなパラメータκの値を探索し、パラメータκの値を変更する。
【0041】
図1の例では、永久磁石110の開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分を最小化するように、パラメータκの値が変更される。
【0042】
(5)測定装置101は、変更後のパラメータκの値を含む関数を用いて算出した各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力する。具体的には、例えば、測定装置101は、変更後のパラメータκの値を含む関数を用いて、表面磁気特性値Hc0と内部磁気特性値Hc1とに基づいて、各分割領域#iの磁気特性値Hciを算出する。そして、測定装置101は、算出した各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力する。
【0043】
図1の例では、永久磁石110の各分割領域#1~#27について、変更後のパラメータκの値を含む関数を用いて算出された各磁気特性値Hc
1~Hc
27が出力される。
【0044】
なお、測定装置101は、各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力するにあたり、例えば、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分を最小化するパラメータκの値を探索する際に算出された磁気特性値Hciを出力することにしてもよい。
【0045】
このように、測定装置101によれば、永久磁石の磁気特性の分布を決めるパラメータκから、磁気特性が非均一な磁石全体の開磁路磁化曲線(推定)を計算し、それを開磁路磁化曲線(実測)と比較して、パラメータκにフィードバックすることで、磁石内部の磁気特性分布を推定することができる。これにより、永久磁石を破壊、粉砕せずに、永久磁石の磁気特性分布を測定することができる。
【0046】
図1の例では、永久磁石110を仮想的に分割した各分割領域#1~#27の磁気特性値Hc
1~Hc
27が得られる。各分割領域#1~#27の磁気特性値Hc
1~Hc
27によれば、例えば、コンター
図120のように、永久磁石110の内部の磁気特性分布を表示することが可能となる。なお、コンター
図120では、背景模様の違いにより、永久磁石110の内部(断面)の磁気特性の違いを表している。
【0047】
(情報処理システム300のシステム構成例)
つぎに、
図1に示した測定装置101を含む情報処理システム300のシステム構成例について説明する。ここでは、
図1に示した測定装置101を、情報処理システム300内の情報処理装置301に適用した場合を例に挙げて説明する。情報処理システム300は、例えば、永久磁石の磁気特性を測定するサービスに適用される。
【0048】
図3は、情報処理システム300のシステム構成例を示す説明図である。
図3において、情報処理システム300は、情報処理装置301と、クライアント装置302と、を含む。情報処理システム300において、情報処理装置301およびクライアント装置302は、有線または無線のネットワーク310を介して接続される。ネットワーク310は、例えば、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)などである。
【0049】
ここで、情報処理装置301は、永久磁石Mの磁気特性を測定する。ここで、永久磁石Mは、磁気特性の測定対象となる永久磁石である。永久磁石Mは、例えば、
図1に示した永久磁石110に対応する。情報処理装置301は、例えば、サーバである。
【0050】
クライアント装置302は、情報処理システム300のユーザが使用するコンピュータである。ユーザは、例えば、永久磁石の設計者や、永久磁石を使用した工業製品の設計者などである。クライアント装置302は、例えば、PC(Personal Computer)、タブレットPCなどである。
【0051】
なお、ここでは、情報処理装置301とクライアント装置302とを別体に設けることにしたが、これに限らない。例えば、情報処理装置301は、クライアント装置302により実現されることにしてもよい。また、情報処理システム300には、複数のクライアント装置302が含まれることにしてもよい。
【0052】
(情報処理装置301のハードウェア構成例)
図4は、情報処理装置301のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4において、情報処理装置301は、CPU(Central Processing Unit)401と、メモリ402と、ディスクドライブ403と、ディスク404と、通信I/F(Interface)405と、可搬型記録媒体I/F406と、可搬型記録媒体407と、を有する。また、各構成部は、バス400によってそれぞれ接続される。
【0053】
ここで、CPU401は、情報処理装置301の全体の制御を司る。CPU401は、複数のコアを有していてもよい。メモリ402は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびフラッシュROMなどを有する。具体的には、例えば、フラッシュROMがOSのプログラムを記憶し、ROMがアプリケーションプログラムを記憶し、RAMがCPU401のワークエリアとして使用される。メモリ402に記憶されるプログラムは、CPU401にロードされることで、コーディングされている処理をCPU401に実行させる。
【0054】
ディスクドライブ403は、CPU401の制御に従ってディスク404に対するデータのリード/ライトを制御する。ディスク404は、ディスクドライブ403の制御で書き込まれたデータを記憶する。ディスク404としては、例えば、磁気ディスク、光ディスクなどが挙げられる。
【0055】
通信I/F405は、通信回線を通じてネットワーク310に接続され、ネットワーク310を介して外部のコンピュータ(例えば、
図3に示したクライアント装置302)に接続される。そして、通信I/F405は、ネットワーク310と装置内部とのインターフェースを司り、外部のコンピュータからのデータの入出力を制御する。通信I/F405には、例えば、モデムやLANアダプタなどを採用することができる。
【0056】
可搬型記録媒体I/F406は、CPU401の制御に従って可搬型記録媒体407に対するデータのリード/ライトを制御する。可搬型記録媒体407は、可搬型記録媒体I/F406の制御で書き込まれたデータを記憶する。可搬型記録媒体407としては、例えば、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリなどが挙げられる。
【0057】
なお、情報処理装置301は、上述した構成部のほかに、例えば、入力装置、ディスプレイなどを有することにしてもよい。また、
図3に示したクライアント装置302についても、情報処理装置301と同様のハードウェア構成により実現することができる。ただし、クライアント装置302は、上述した構成部のほかに、例えば、入力装置、ディスプレイなどを有する。
【0058】
(入力データの具体例)
つぎに、
図5~
図7を用いて、永久磁石Mの磁気特性の測定に用いられる入力データの具体例について説明する。
【0059】
図5は、入力データの具体例を示す説明図である。
図5において、入力データ500は、閉磁路曲線データJ1(H)と、開磁路曲線データJ2(H)と、表面磁気特性値Hc0と、メッシュデータmdと、寸法データsdと、を含む。
【0060】
閉磁路曲線データJ1(H)は、磁気特性分布を有さない試料(永久磁石M)について、閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す。閉磁路曲線データJ1(H)の具体例については、
図6を用いて後述する。開磁路曲線データJ2(H)は、磁気特性分布を有する試料(永久磁石M)について、開磁路方式で測定された磁化曲線を示す。開磁路曲線データJ2(H)の具体例については、
図7を用いて後述する。
【0061】
表面磁気特性値Hc0は、開磁路曲線データJ2(H)の測定に使用された試料(永久磁石M)表面の磁気特性値を示す。表面磁気特性値Hc0は、例えば、磁石メーカのカタログから取得される。ここでは、磁化特性を「保磁力」とし、表面磁気特性値Hc0を「Hc0=1717[kA/m]」とする。
【0062】
メッシュデータmdは、永久磁石Mと、永久磁石Mの周りの空気領域とを含むメッシュデータであり、ある空間に配置された永久磁石Mと、永久磁石M以外の空気領域とを特定可能な情報である。永久磁石Mの形状は、直方体とする。寸法データsdは、永久磁石Mの各軸(x軸、y軸、z軸)方向の寸法Lx,Ly,Lzを示す。ここでは、寸法Lx,Ly,Lzを「Lx=15[mm],Ly=15[mm],Lz=8[mm]」とする。なお、各寸法Lx,Ly,Lzは、メッシュデータmdから特定されてもよい。
【0063】
図6は、閉磁路曲線データJ1(H)の具体例を示す説明図である。
図6において、閉磁路曲線データJ1(H)は、閉磁路方式で測定された、磁気特性分布を有さない試料(永久磁石M)の磁化曲線を示す情報であり、試料に加える磁界H(kA/m)と試料の磁化J[T]との関係を示す。
【0064】
図7は、開磁路曲線データJ2(H)の具体例を示す説明図である。
図7において、開磁路曲線データJ2(H)は、開磁路方式で測定された、磁気特性分布を有する試料(永久磁石M)の磁化曲線を示す情報であり、試料に加える磁界H(kA/m)と試料の磁化J[T]との関係を示す。
【0065】
(情報処理装置301の機能的構成例)
図8は、情報処理装置301の機能的構成例を示すブロック図である。
図8において、情報処理装置301は、取得部801と、測定部802と、出力部803と、を含む。取得部801~出力部803は制御部となる機能であり、具体的には、例えば、
図4に示したメモリ402、ディスク404、可搬型記録媒体407などの記憶装置に記憶されたプログラムをCPU401に実行させることにより、または、通信I/F405により、その機能を実現する。各機能部の処理結果は、例えば、メモリ402、ディスク404などの記憶装置に記憶される。
【0066】
取得部801は、磁気特性の測定対象となる永久磁石Mについて、磁気特性分布を有さない試料の閉磁路曲線データJ1(H)と、磁気特性分布を有する試料の開磁路曲線データJ2(H)と、磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値Hc0とを取得する。また、取得部801は、磁気特性の測定対象となる永久磁石Mについて、メッシュデータmdと寸法データsdとを取得する。
【0067】
具体的には、例えば、取得部801は、
図3に示したクライアント装置302から、
図5に示したような入力データ500を受信することにより、入力データ500に含まれる閉磁路曲線データJ1(H)と、開磁路曲線データJ2(H)と、表面磁気特性値Hc0と、メッシュデータmdと、寸法データsdとを取得する。
【0068】
また、取得部801は、不図示の入力装置を用いたユーザの操作入力により、閉磁路曲線データJ1(H)と、開磁路曲線データJ2(H)と、表面磁気特性値Hc0と、メッシュデータmdと、寸法データsdとを取得することにしてもよい。
【0069】
測定部802は、永久磁石Mの磁気特性を測定する。永久磁石Mの磁気特性は、例えば、残留磁化または保磁力によって表される。測定部802は、例えば、第1の算出部804と、第2の算出部805と、変更部806と、を含む。
【0070】
第1の算出部804は、永久磁石Mを区切って分割した分割領域#iごとの磁気特性値Hciを算出する。具体的には、例えば、第1の算出部804は、閉磁路曲線データJ1(H)から内部磁気特性値Hc1を抽出する。より詳細に説明すると、例えば、第1の算出部804は、閉磁路曲線データJ1(H)から磁気特性値(保磁力または残留磁化の値)を算出することにより、算出した磁気特性値を内部磁気特性値Hc1として抽出する。
【0071】
また、第1の算出部804は、寸法データsdに基づいて、永久磁石Mを仮想的に区切って複数の領域(分割領域#1~#n)に分割したメッシュモデルを生成する。寸法データsdは、永久磁石Mの各軸(x軸、y軸、z軸)方向の寸法Lx,Ly,Lzを示す。分割領域#iの形状は、例えば、立方体である。分割領域#iのサイズは、任意に設定可能である。例えば、分割領域#iは、1辺が1[mm]以下の立方体である。
【0072】
そして、第1の算出部804は、分割領域#iごとに、永久磁石Mの磁気特性の分布を決めるパラメータκを含む関数Fを用いて、表面磁気特性値Hc0と内部磁気特性値Hc1とに基づいて、分割領域#iの磁気特性値Hciを算出する。ここで、関数Fは、パラメータκと、永久磁石Mの内部磁気特性と、永久磁石Mの表面磁気特性とを用いて、各分割領域#iの磁気特性を導出する関数である。
【0073】
より詳細に説明すると、例えば、関数Fは、下記式(1)に示すような分布関数である。ただし、Hc0は、表面磁気特性値である。Hc1は、内部磁気特性値である。κは、拡散係数(パラメータ)である。xは、磁石表面からの距離である。
【0074】
【0075】
第1の算出部804は、表面磁気特性値Hc0と内部磁気特性値Hc1とパラメータκ(拡散係数)の値とを上記式(1)に代入することにより、各分割領域#iの磁気特性値Hciを算出することができる。なお、パラメータκ(拡散係数)の初期値は、任意に設定可能である。
【0076】
ここで、
図9Aを用いて、上記式(1)に含まれるxの算出例について説明する。
【0077】
図9Aは、xの算出例を示す説明図(その1)である。ここでは、分割領域#iを、x方向にA(=1,2,…,Nx)番目、y方向にB(=1,2,…,Ny)番目、z方向にC(=1,2,…,Nz)番目にある分割領域とする。分割要素#iの番号iは、例えば、「i=Nx・Ny(C-1)+Nx(B-1)+A」によって与えられる。
【0078】
図9Aにおいて、分割領域901は、「A=2」、「B=2」の分割領域である。ただし、
図9Aでは、xy方向のみのイメージを示す(Nx=5,Ny=4)。分割領域901の磁石表面からの距離xを算出する場合、第1の算出部804は、例えば、下記式(2)、(3)を用いて、x軸方向の壁との距離dx1,dx2を算出する。
【0079】
dx1=(Lx/Nx)*(A-1/2) ・・・(2)
dx2=(Lx/Nx)*(Nx-A+1/2)・・・(3)
【0080】
また、第1の算出部804は、例えば、下記式(4)、(5)を用いて、y軸方向の壁との距離dy1,dy2を算出する。
【0081】
dy1=(Ly/Ny)*(B-1/2) ・・・(4)
dy2=(Ly/Ny)*(Ny-B+1/2)・・・(5)
【0082】
また、第1の算出部804は、例えば、下記式(6)、(7)を用いて、z軸方向の壁との距離dz1,dz2を算出する。
【0083】
dz1=(Lz/Nz)*(C-1/2) ・・・(6)
dz2=(Lz/Nz)*(Nz-C+1/2)・・・(7)
【0084】
そして、第1の算出部804は、算出した距離dx1,dx2,dy1,dy2,dz1,dz2のうちの最も小さい値を距離xとする。なお、
図9Aでは、分割領域901のx,y軸方向の壁との距離dx1,dx2,dy1,dy2が示されている。
【0085】
また、関数Fは、下記式(8)に示すような拡散方程式であってもよい。ただし、Hc(x,t)は、磁気特性である。κは、拡散係数(パラメータ)である。Hc(x,0)は、内部磁気特性値Hc1であり、時刻t=0で一様の保持力Hc1を持つことを示す。Hc(xBC,t)は、表面磁気特性値Hc0であり、磁石表面では一定の保持力Hc0を持つことを示す。xは、磁石の空間座標である。パラメータκ(拡散係数)の初期値は、任意に設定可能である。
【0086】
【0087】
第1の算出部804は、上記式(8)の微分方程式を分割領域#iに離散化して、ある時刻における磁気特性値Hciを算出することができる。
【0088】
ここで、
図9Bを用いて、上記式(8)に含まれるxの算出例について説明する。
【0089】
図9Bは、xの算出例を示す説明図(その2)である。ここでは、分割領域#iを、x方向にA(=1,2,…,Nx)番目、y方向にB(=1,2,…,Ny)番目、z方向にC(=1,2,…,Nz)番目にある分割領域とする。分割要素#iの番号iは、例えば、「i=Nx・Ny(C-1)+Nx(B-1)+A」によって与えられる。
【0090】
図9Bにおいて、分割領域901は、「A=2」、「B=2」の分割領域である。ただし、
図9Bでは、xy方向のみのイメージを示す(Nx=5,Ny=4)。第1の算出部804は、例えば、下記式(9)を用いて、分割領域901の空間座標xを算出する。
【0091】
【0092】
なお、
図9Bでは、分割領域901の空間座標xのx成分,y成分のみ示されている。
【0093】
算出された各分割領域#iの磁気特性値Hc
iは、例えば、後述の
図10に示すような分割領域管理テーブル1000に記憶される。
【0094】
図8の説明に戻り、第2の算出部805は、分割領域#iごとの磁気特性値Hc
iと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)を算出する。永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)は、開磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石Mの磁化曲線を示す。
【0095】
具体的には、例えば、まず、第2の算出部805は、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する。閉磁路曲線データJ3(H)は、閉磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石Mの磁化曲線を示す。
【0096】
なお、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する具体的な処理内容については、
図11~
図13を用いて後述する。
【0097】
つぎに、第2の算出部805は、閉磁路曲線データJ3(H)とメッシュデータmdとに基づいて、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)を算出する。メッシュデータmdは、永久磁石Mと、永久磁石Mの周りの空気領域とを含むメッシュデータであり、例えば、永久磁石Mを配置した空間を格子状に区切って分割したメッシュごとの属性情報を含む。
【0098】
より詳細に説明すると、例えば、まず、第2の算出部805は、閉磁路曲線データJ3(H)とメッシュデータmdとに基づいて、ニュートン・ラフソン法等を用いて、下記式(10)~(12)の連立方程式の解J5(x,H)を算出する。ただし、J5(x,H)は、試料内部の場所ごとの開磁路曲線データである。xは、各メッシュの節点の座標である。Hd(x)は、試料内部と空気領域の場所ごとの反磁界である。φ(x)は、試料内部と空気領域の場所ごとの磁気ポテンシャルである。試料以外の空間部分(空気領域)も考慮し、空気領域では「J5(x,H)=Hd(x)=0」として計算する。
【0099】
【0100】
そして、第2の算出部805は、下記式(13)を用いて、永久磁石M全体のJ5(x,H)の平均値として、開磁路曲線データJ4(H)を算出する。
【0101】
【0102】
これにより、永久磁石Mの分割領域#iごとの磁気特性値Hciから、開磁路方式で測定される永久磁石Mの磁化曲線を推定することができる。
【0103】
変更部806は、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分rを最小化するように、パラメータκの値を変更する。具体的には、例えば、変更部806は、下記式(14)を用いて、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分rを算出する。ただし、jは、磁化曲線データのステップのインデックスである(j=1,2,…,N)。Hjは、各ステップでの外部磁界である。
【0104】
【0105】
そして、変更部806は、例えば、黄金分割法を用いて、磁化差分rが最小になるように、「κ=κ+Δκ」のΔκを探索することにより、パラメータκの値を変更する。より詳細に説明すると、例えば、変更部806は、それぞれ異なる値のパラメータκを用いて、磁化差分rを複数回算出し、磁化差分rが最小のときのパラメータκの値を選択することにより、パラメータκの値を変更する。
【0106】
測定部802は、第1の算出部804、第2の算出部805および変更部806を制御して、磁化差分rが閾値ε以下となるまで、分割領域#iの磁気特性値Hciの算出、開磁路曲線データJ4(H)の算出、および、パラメータκの値の変更を繰り返し行う。分割領域#iの磁気特性値Hciの算出では、変更後のパラメータκの値を含む関数Fが用いられる。
【0107】
閾値εは、任意に設定可能である。例えば、閾値εは、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)とのずれ(磁化差分rに相当)が無視できる程度に小さくなるような値に設定される。なお、測定部802は、例えば、分割領域#iの磁気特性値Hciの算出、開磁路曲線データJ4(H)の算出、および、パラメータκの値の変更を、あらかじめ決められた回数繰り返すことにしてもよい。
【0108】
出力部803は、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出された各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力する。具体的には、例えば、出力部803は、磁化差分rが閾値ε以下となった場合に、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出された各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力する。
【0109】
出力部803の出力形式としては、例えば、メモリ402、ディスク404などの記憶装置への記憶、通信I/F405による他のコンピュータ(例えば、クライアント装置302)への送信、不図示のディスプレイへの表示、不図示のプリンタへの印刷出力などがある。
【0110】
より詳細に説明すると、例えば、出力部803は、後述の
図10に示すような分割領域管理テーブル1000を参照して、永久磁石Mの磁気特性分布を表すコンター図を、クライアント装置302に表示することにしてもよい。コンター図の具体例については、
図16を用いて後述する。
【0111】
なお、上述した情報処理装置301の機能部は、情報処理システム300内の複数のコンピュータ(例えば、情報処理装置301とクライアント装置302)により実現されることにしてもよい。
【0112】
(分割領域管理テーブル1000の記憶内容)
つぎに、
図10を用いて、分割領域管理テーブル1000の記憶内容について説明する。分割領域管理テーブル1000は、例えば、メモリ402、ディスク404などの記憶装置により実現される。
【0113】
図10は、分割領域管理テーブル1000の記憶内容の一例を示す説明図である。
図10において、分割領域管理テーブル1000は、分割領域番号、磁気特性値、閉磁路曲線および磁束密度曲線のフィールドを有し、各フィールドに情報を設定することで、分割領域管理情報(例えば、分割領域管理情報1000-1~1000-3)をレコードとして記憶する。
【0114】
ここで、分割領域番号は、永久磁石Mを区切って分割した分割領域#iを一意に識別する識別子(i)を示す。磁気特性値は、分割領域#iの磁気特性値Hciを示す(単位:kA/m)。閉磁路曲線は、分割領域#iの閉磁路曲線データJ1i(H)を示す。閉磁路曲線データJ1i(H)は、点(H[kA/m],J[T])の集合である。
【0115】
磁束密度曲線は、分割領域#iの磁束密度曲線データB1i(H)を示す。磁束密度曲線データB1i(H)は、点(H[kA/m],B[T])の集合である。情報処理装置301は、例えば、分割領域管理テーブル1000を用いて、永久磁石Mの各分割領域#iの各種情報を管理する。
【0116】
(閉磁路曲線データJ3(H)を算出する具体的な処理内容)
つぎに、
図11~
図13を用いて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する具体的な処理内容について説明する。まず、
図11を用いて、分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1
i(H)を算出する具体的な処理内容について説明する。
【0117】
図11は、分割領域#iの閉磁路曲線データを算出する処理内容の一例を示す説明図である。
図11に示すように、第2の算出部805は、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出するにあたり、分割領域#iごとの磁気特性値Hc
iと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1
i(H)を算出する。閉磁路曲線データJ1
i(H)は、閉磁路方式で測定される分割領域#iの磁化曲線を示す。
【0118】
具体的には、例えば、第2の算出部805は、閉磁路曲線データJ1(H)の磁気特性値Hc1(内部磁気特性値Hc1)が、分割領域#iの磁気特性値Hciとなるように、磁界軸方向に閉磁路曲線データJ1(H)を並進することにより、分割領域#iの閉磁路曲線データJ1i(H)を算出する。
【0119】
すなわち、第2の算出部805は、分割領域#iにおける磁化曲線の形状が、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ1(H)と同じであると仮定して、磁気特性値Hc
iから分割領域#iの閉磁路曲線データJ1
i(H)を推定する。算出された各分割領域#iの閉磁路曲線データJ1
i(H)は、例えば、
図10に示した分割領域管理テーブル1000に記憶される。
【0120】
つぎに、
図12A、
図12Bおよび
図13を用いて、分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1
i(H)から、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する具体的な処理内容について説明する。ここでは、複数の磁石の磁束密度曲線の合成を利用して、磁石全体の閉磁路曲線を推定する場合について説明する。
【0121】
図12Aは、直列配置の場合の磁束密度曲線の合成例を示す説明図である。
図12Aに示すように、磁界H
A,H
B(外部磁界)の方向に対して、磁石A,Bが直列に配置されている場合、磁石A,B全体の磁束密度曲線は、例えば、下記式(15)および(16)のような、各磁石A,Bの磁束密度曲線の合成式によって算出される。ただし、B
A,B
Bは、磁石A,Bの磁束密度である。V
A,V
Bは、磁石A,Bの体積である。
【0122】
Bsynth=BA=BB ・・・(15)
Hsynth=(VAHA+VBHB)/(VA+VB) ・・・(16)
【0123】
上記式(15)および(16)によれば、磁石Aの磁束密度曲線BA(H)と磁石Bの磁束密度曲線BB(H)とから、合成後の磁束密度曲線1210が算出される。
【0124】
図12Bは、並列配置の場合の磁束密度曲線の合成例を示す説明図である。
図12Bに示すように、磁界H(外部磁界)の方向に対して、磁石A,Bが並列に配置されている場合、磁石A,B全体の磁束密度曲線は、例えば、下記式(17)および(18)のような、各磁石A,Bの磁束密度曲線の合成式によって算出される。
【0125】
Bsynth=(VABA+VBBB)/(VA+VB) ・・・(17)
Hsynth=HA=HB ・・・(18)
【0126】
上記式(17)および(18)によれば、磁石Aの磁束密度曲線BA(H)と磁石Bの磁束密度曲線BB(H)とから、合成後の磁束密度曲線1220が算出される。
【0127】
なお、複数の磁石の磁束密度曲線を合成する技術については、例えば、「徳重貴之ほか著、保磁力分布磁石の減磁曲線の推定法、電気学会論文誌A、IEEJ Trans.FM,Vol.132,No.1,2012」を参照することができる。
【0128】
第2の算出部805は、
図12Aおよび
図12Bに示したような、複数の磁石の磁束密度曲線の合成を利用して、分割領域#1~#nの閉磁路曲線から、永久磁石M全体の閉磁路曲線を推定する。
【0129】
図13は、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する処理内容の一例を示す説明図である。
図13において、まず、第2の算出部805は、分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1
i(H)から、分割領域#iごとの磁束密度曲線データB1
i(H)を算出する。
【0130】
具体的には、例えば、第2の算出部805は、分割領域管理テーブル1000を参照して、下記式(19)を用いて、分割領域#iの閉磁路曲線データJ1i(H)から、分割領域#iの磁束密度曲線データB1i(H)を算出することができる。ただし、μ0は、真空透磁率(定数)である。
【0131】
B1i(H)=μ0H+J1i(H) ・・・(19)
【0132】
算出された各分割領域#iの磁束密度曲線データB1i(H)は、例えば、分割領域管理テーブル1000に記憶される。
【0133】
つぎに、第2の算出部805は、分割領域#iの磁束密度曲線データB1i(H)を合成することにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出する。具体的には、例えば、第2の算出部805は、分割領域#1~#nのうち外部磁界の方向に直列配置された分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、直列配置された分割領域を合成した直列分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出する。
【0134】
より詳細に説明すると、例えば、第2の算出部805は、分割領域管理テーブル1000を参照して、上記式(15)および(16)を用いて、磁束密度Bの値を変化させながら、磁束密度Bに対する磁界Hを求めることにより、直列分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出する。なお、永久磁石Mにおける各分割領域#iの配置位置は、例えば、分割領域番号(i)から特定可能であるとする。
【0135】
図13の例では、第2の算出部805は、例えば、分割領域#1~#27のうち外部磁界Hの方向に直列配置された分割領域#1,#4,#7の磁束密度曲線データB1
1(H),B1
4(H),B1
7(H)を合成することにより、分割領域#1,#4,#7を合成した直列分割領域#z1の磁束密度曲線データB1
z1を算出する。
【0136】
つぎに、第2の算出部805は、外部磁界と垂直な方向に並列配置された直列分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出する。より詳細に説明すると、例えば、第2の算出部805は、上記式(17)および(18)を用いて、磁界Hの値を変化させながら、磁界Hに対する磁束密度Bを求めることにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出する。
【0137】
図13の例では、第2の算出部805は、複数の直列分割領域(例えば、直列分割領域#z1~#z3)の磁束密度曲線データ(例えば、磁束密度曲線データB1
z1~B1
z3)を合成することにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出する。
【0138】
そして、第2の算出部805は、算出した永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)から、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する。具体的には、例えば、第2の算出部805は、下記式(20)を用いて、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)から、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出することができる。
【0139】
J3(H)=B3(H)-μ0H ・・・(20)
【0140】
これにより、複数の磁石の磁束密度曲線の合成を利用して、分割領域#iごとの閉磁路曲線を磁束密度曲線に変換した上で、永久磁石M全体の閉磁路曲線を推定することができる。
【0141】
(永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)の具体例)
ここで、
図14を用いて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)の具体例について説明する。また、
図15を用いて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)から算出される永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)の具体例について説明する。
【0142】
図14は、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)の具体例を示す説明図である。
図14において、閉磁路曲線データJ3(H)は、閉磁路方式で測定される永久磁石M(磁気特性分布を有する試料)の磁化曲線の推定結果を示した情報であり、永久磁石Mに加える磁界H(kA/m)と永久磁石Mの磁化J[T]との関係を示す。
【0143】
図15は、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)の具体例を示す説明図である。
図15において、開磁路曲線データJ4(H)は、開磁路方式で測定される永久磁石M(磁気特性分布を有する試料)の磁化曲線の推定結果を示した情報であり、永久磁石Mに加える磁界H(kA/m)と永久磁石Mの磁化J[T]との関係を示す。
【0144】
図15に示した永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)は、
図14に示した永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)から算出された開磁路曲線を示す。
【0145】
(コンター図の具体例)
つぎに、
図16を用いて、コンター図の具体例について説明する。コンター図は、例えば、クライアント装置302に表示される。ここでは、磁気特性を「保磁力」とし、永久磁石Mの開磁路曲線データJ2(H)を
図7に示した開磁路曲線データJ2(H)とし、表面磁気特性値Hc0を「Hc0=1717[kA/m]」とする。また、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ1(H)を
図6に示した閉磁路曲線データJ1(H)とし、内部磁気特性値Hc1を「Hc1=1567.9[kA/m]」とする。また、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)を
図15に示した開磁路曲線データJ4(H)とし、磁化差分rが閾値ε以下となったときの磁化差分rを「r=0.000235」とし、パラメータκを「0.28」とする。
【0146】
図16は、コンター図の具体例を示す説明図である。
図16において、コンター
図1601,1602は、永久磁石M(15[mm]×15[mm]×8[mm])の断面の磁気特性分布を表すコンター図の一例である。コンター
図1601は、情報処理装置301によって推定された永久磁石Mの磁気特性分布を表している。
【0147】
具体的には、コンター
図1601は、磁化差分rが閾値ε以下となった場合に、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出された各分割領域#iの磁気特性値Hc
iに基づく磁気特性分布を表す。永久磁石Mにおける各分割領域#iの配置位置は、例えば、分割領域番号(i)から特定可能である。
【0148】
一方、コンター
図1602は、永久磁石Mを破壊、粉砕して磁石片に分解し、磁石片ひとつひとつについて磁気特性を計測して得られた実測結果を表している。コンター
図1601とコンター
図1602とを比較すると、磁気特性の値が高い領域と磁気特性の値が低い領域の分布が類似している。
【0149】
このため、コンター
図1601は、永久磁石Mを破壊、粉砕して計測した実測結果をよく再現できているといえる。コンター
図1601によれば、ユーザは、永久磁石Mを破壊、粉砕することなく、磁石内部の磁気特性分布を把握することができる。
【0150】
(情報処理装置301の磁気特性分布推定処理手順)
つぎに、
図17を用いて、情報処理装置301の磁気特性分布推定処理手順について説明する。
【0151】
図17は、情報処理装置301の磁気特性分布推定処理手順の一例を示すフローチャートである。
図17のフローチャートにおいて、まず、情報処理装置301は、入力データを取得したか否かを判断する(ステップS1701)。入力データは、閉磁路曲線データJ1(H)と開磁路曲線データJ2(H)と表面磁気特性値Hc0とメッシュデータmdと寸法データsdとを含む。
【0152】
ここで、情報処理装置301は、入力データを取得するのを待つ(ステップS1701:No)。そして、情報処理装置301は、入力データを取得した場合(ステップS1701:Yes)、閉磁路曲線データJ1(H)から内部磁気特性値Hc1を抽出する(ステップS1702)。
【0153】
つぎに、情報処理装置301は、寸法データsdに基づいて、永久磁石Mを仮想的に区切って複数の領域(分割領域#1~#n)に分割する(ステップS1703)。そして、情報処理装置301は、パラメータκを含む関数Fを用いて、表面磁気特性値Hc0と内部磁気特性値Hc1とに基づいて、分割領域#iごとの磁気特性値Hciを算出する(ステップS1704)。
【0154】
つぎに、情報処理装置301は、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出する(ステップS1705)。閉磁路曲線データJ3(H)は、閉磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石Mの磁化曲線を示す。
【0155】
そして、情報処理装置301は、閉磁路曲線データJ3(H)とメッシュデータmdとに基づいて、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)を算出する(ステップS1706)。開磁路曲線データJ4(H)は、開磁路方式で測定される、磁気特性分布を有する永久磁石Mの磁化曲線を示す。
【0156】
つぎに、情報処理装置301は、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分rを算出する(ステップS1707)。そして、情報処理装置301は、算出した磁化差分rが閾値ε以下であるか否かを判断する(ステップS1708)。
【0157】
ここで、磁化差分rが閾値εより大きい場合(ステップS1708:No)、情報処理装置301は、磁化差分rが最小になるように、パラメータκへのフィードバック量Δκを算出する(ステップS1709)。そして、情報処理装置301は、算出したフィードバック量Δκを用いて、パラメータκの値を変更して(ステップS1710)、ステップS1704に戻る。
【0158】
一方、磁化差分rが閾値ε以下の場合(ステップS1708:Yes)、情報処理装置301は、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出された各分割領域#iの磁気特性値Hciを含む磁気特性分布を出力して(ステップS1711)、本フローチャートによる一連の処理を終了する。
【0159】
このように、情報処理装置301は、磁化差分rが閾値ε以下となるまで、分割領域#iの磁気特性値Hciの算出、閉磁路曲線データJ3(H)の算出、開磁路曲線データJ4(H)の算出、および、パラメータκの値の変更を繰り返し行うことができる。これにより、永久磁石Mを破壊、粉砕せずに、永久磁石Mの磁気特性分布(分割領域#1~#nの磁気特性値Hc1~Hcn)を測定することができる。
【0160】
以上説明したように、実施の形態にかかる情報処理装置301によれば、磁気特性の測定対象となる永久磁石について、閉磁路曲線データJ1(H)と開磁路曲線データJ2(H)と表面磁気特性値Hc0とを取得し、永久磁石Mを区切って分割した分割領域#iごとに、永久磁石Mの磁気特性の分布を決めるパラメータκを含む関数Fを用いて、閉磁路曲線データJ1(H)から抽出される内部磁気特性値Hc1と表面磁気特性値Hc0とに基づいて、分割領域#iの磁気特性値Hciを算出することができる。
【0161】
これにより、永久磁石Mの磁気特性の分布を決めるパラメータκから、永久磁石Mの磁気特性分布を仮定することができる。
【0162】
また、情報処理装置301によれば、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石Mの開磁路曲線データJ4(H)を算出し、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)との磁化差分rを最小化するように、パラメータκの値を変更し、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出した各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力することができる。永久磁石Mの磁気特性は、例えば、永久磁石Mの保磁力または残留磁化によって表される。
【0163】
これにより、パラメータκを用いて仮定した磁気特性分布(分割領域#iの磁気特性値Hci)から、磁気特性が非均一な磁石全体の開磁路磁化曲線(推定)を算出し、それを開磁路磁化曲線(実測)と比較して、パラメータκにフィードバックすることで、磁石内部の磁気特性分布を精度よく測定することができる。
【0164】
また、情報処理装置301によれば、磁化差分rが閾値ε以下となるまで、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いた分割領域#iの磁気特性値Hciの算出、開磁路曲線データJ4(H)の算出、および、パラメータκの値の変更を繰り返し行い、磁化差分rが閾値ε以下となった場合に、変更後のパラメータκの値を含む関数Fを用いて算出した各分割領域#iの磁気特性値Hciを出力することができる。
【0165】
これにより、永久磁石Mの磁気特性分布の測定精度を向上させることができる。例えば、開磁路曲線データJ2(H)と開磁路曲線データJ4(H)とのずれが無視できる程度に小さくなるまで、パラメータκへのフィードバックを繰り返すことで、実測と同程度の永久磁石Mの磁気特性分布を推定することができる。
【0166】
また、情報処理装置301によれば、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出し、閉磁路曲線データJ3(H)とメッシュデータmdとに基づいて、開磁路曲線データJ4(H)を算出することができる。
【0167】
これにより、閉磁路方式で測定される永久磁石Mの磁化曲線を推定してから、それを変換することで、開磁路方式で測定される永久磁石Mの磁化曲線を推定することができる。
【0168】
また、情報処理装置301によれば、分割領域#iごとの磁気特性値Hciと閉磁路曲線データJ1(H)とに基づいて、分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1i(H)を算出し、算出した分割領域#iごとの閉磁路曲線データJ1i(H)から、分割領域#iごとの磁束密度曲線データB1i(H)を算出することができる。そして、情報処理装置301によれば、算出した分割領域#iごとの磁束密度曲線データB1i(H)を合成することにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出し、算出した磁束密度曲線データB3(H)から、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ3(H)を算出することができる。
【0169】
これにより、複数の磁石の磁束密度曲線の合成技術を利用して、分割領域#iごとの閉磁路曲線を磁束密度曲線に変換した上で、永久磁石M全体の閉磁路曲線を推定することができる。
【0170】
また、情報処理装置301によれば、分割領域#1~#nのうち外部磁界の方向に直列配置された分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、直列配置された分割領域を合成した直列分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出することができる。そして、情報処理装置301によれば、外部磁界と垂直な方向に並列配置された直列分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、永久磁石Mの磁束密度曲線データB3(H)を算出することができる。
【0171】
これにより、外部磁界の方向に対して分割領域同士がどのように配置されているかを考慮して、分割領域同士の磁束密度曲線を合成することにより、永久磁石M全体の磁束密度曲線を精度よく推定することができる。
【0172】
また、情報処理装置301によれば、閉磁路曲線データJ1(H)の磁気特性値Hc1(内部磁気特性値Hc1)が、分割領域#iの磁気特性値Hciとなるように、磁界軸方向に閉磁路曲線データJ1(H)を並進することにより、分割領域#iの閉磁路曲線データJ1i(H)を算出することができる。
【0173】
これにより、分割領域#iにおける磁化曲線の形状が、永久磁石Mの閉磁路曲線データJ1(H)と同じであると仮定して、磁気特性値Hciから分割領域#iの閉磁路曲線データJ1i(H)を推定することができる。
【0174】
また、情報処理装置301によれば、パラメータκを拡散係数とし、関数Fとして、分布関数または拡散方程式を用いることができる。
【0175】
これにより、永久磁石Mの内部を含めた磁気特性分布(分割領域#1~#nの磁気特性値Hci~Hcn)を模擬することができる。
【0176】
また、情報処理装置301によれば、黄金分割法を用いて、磁化差分rを最小化するように、パラメータκの値を変更することができる。
【0177】
これにより、磁化差分rを最小化するように、パラメータκの値を修正することができる。
【0178】
これらのことから、実施の形態にかかる情報処理装置301(測定装置101)によれば、磁気特性が不均一な永久磁石Mについて、永久磁石Mを破壊・粉砕せずに、永久磁石Mの磁気特性分布を測定することが可能となり、測定作業にかかる作業負荷および作業時間を削減することができる。
【0179】
なお、本実施の形態で説明した測定方法は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナル・コンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することにより実現することができる。本測定プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD、USBメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行される。また、本測定プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布してもよい。
【0180】
また、本実施の形態で説明した測定装置101(情報処理装置301)は、スタンダードセルやストラクチャードASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定用途向けICやFPGAなどのPLD(Programmable Logic Device)によっても実現することができる。
【0181】
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0182】
(付記1)磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決めるパラメータを含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記パラメータの値を変更し、
変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
制御部を有することを特徴とする測定装置。
【0183】
(付記2)前記制御部は、
前記磁化差分が閾値以下となるまで、変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いた前記分割領域の磁気特性値の算出、前記推定開磁路曲線データの算出、および、前記パラメータの値の変更を繰り返し行い、
前記磁化差分が閾値以下となった場合に、変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
ことを特徴とする付記1に記載の測定装置。
【0184】
(付記3)前記制御部は、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、閉磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定閉磁路曲線データを算出し、
前記推定閉磁路曲線データと、前記永久磁石を含む空間のメッシュデータとに基づいて、前記推定開磁路曲線データを算出する、
ことを特徴とする付記1または2に記載の測定装置。
【0185】
(付記4)前記制御部は、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、閉磁路方式で測定される前記分割領域ごとの磁化曲線を示す閉磁路曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの閉磁路曲線データから、前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記分割領域ごとの磁束密度曲線データを合成することにより、前記永久磁石の磁束密度曲線データを算出し、
算出した前記永久磁石の磁束密度曲線データから、前記推定閉磁路曲線データを算出する、
ことを特徴とする付記3に記載の測定装置。
【0186】
(付記5)前記制御部は、
前記分割領域のうち外部磁界の方向に直列配置された分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、前記直列配置された分割領域を合成した直列分割領域ごとの磁束密度曲線データを算出し、
前記外部磁界と垂直な方向に並列配置された前記直列分割領域の磁束密度曲線データを合成することにより、前記永久磁石の磁束密度曲線データを算出する、ことを特徴とする付記4に記載の測定装置。
【0187】
(付記6)前記制御部は、
前記実測閉磁路曲線データの磁気特性値が、算出した前記分割領域の磁気特性値となるように、磁界軸方向に前記実測閉磁路曲線データを並進することにより、前記分割領域の閉磁路曲線データを算出する、ことを特徴とする付記4または5に記載の測定装置。
【0188】
(付記7)前記磁気特性は、前記永久磁石の保磁力または残留磁化によって表される、ことを特徴とする付記1~6のいずれか一つに記載の測定装置。
【0189】
(付記8)前記パラメータは、拡散係数であり、
前記関数は、分布関数または拡散方程式である、
ことを特徴とする付記1~7のいずれか一つに記載の測定装置。
【0190】
(付記9)前記制御部は、
黄金分割法を用いて、前記磁化差分を最小化するように、前記パラメータの値を変更する、ことを特徴とする付記1~8のいずれか一つに記載の測定装置。
【0191】
(付記10)磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決めるパラメータを含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記パラメータの値を変更し、
変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
処理をコンピュータが実行することを特徴とする測定方法。
【0192】
(付記11)磁気特性の測定対象となる永久磁石について、磁気特性分布を有さない試料の閉磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測閉磁路曲線データと、磁気特性分布を有する試料の開磁路方式で測定された磁化曲線を示す実測開磁路曲線データと、前記磁気特性分布を有する試料の表面磁気特性値とを取得し、
前記永久磁石を区切って分割した分割領域ごとに、前記永久磁石の磁気特性の分布を決めるパラメータを含む関数を用いて、前記実測閉磁路曲線データから抽出される内部磁気特性値と前記表面磁気特性値とに基づいて、前記分割領域の磁気特性値を算出し、
前記分割領域ごとの磁気特性値と前記実測閉磁路曲線データとに基づいて、開磁路方式で測定される前記永久磁石の磁化曲線を示す推定開磁路曲線データを算出し、
前記実測開磁路曲線データと前記推定開磁路曲線データとの磁化差分を最小化するように、前記パラメータの値を変更し、
変更後の前記パラメータの値を含む前記関数を用いて算出した前記各分割領域の磁気特性値を出力する、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする測定プログラム。
【符号の説明】
【0193】
101 測定装置
110,200,M 永久磁石
210 磁化曲線データ
300 情報処理システム
301 情報処理装置
302 クライアント装置
310 ネットワーク
400 バス
401 CPU
402 メモリ
403 ディスクドライブ
404 ディスク
405 通信I/F
406 可搬型記録媒体I/F
407 可搬型記録媒体
500 入力データ
801 取得部
802 測定部
803 出力部
804 第1の算出部
805 第2の算出部
806 変更部
1000 分割領域管理テーブル