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特許7549234発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法
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  • 特許-発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/224 20060101AFI20240904BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08J9/224 CEY
C08F220/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021060053
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156393
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 準平
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-141219(JP,A)
【文献】特開昭53-109565(JP,A)
【文献】特開2013-100443(JP,A)
【文献】特開平08-295755(JP,A)
【文献】特開2001-270959(JP,A)
【文献】特開2020-7417(JP,A)
【文献】特開昭61-23632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 67/20
C08J 9/00-9/42
C08F 220/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂を基材樹脂とする樹脂粒子本体と、発泡剤と、を含む発泡性アクリル系樹脂粒子であって、
前記樹脂粒子本体の表面に融点60℃以上140℃以下の脂肪酸アマイドが付着しており、
前記脂肪酸アマイドの付着量(x)が前記樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.3質量部未満である、発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂の重量平均分子量が50000以上150000以下である、請求項1に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項3】
前記アクリル系樹脂がメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの共重合体であり、
前記アクリル系樹脂中のメタクリル酸エステル成分(A)とアクリル酸エステル成分(B)との合計100モル%に対する前記メタクリル酸エステル成分(A)のモル比が85モル%以上99モル%以下である、請求項1または2に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項4】
前記メタクリル酸エステル成分(A)及び前記アクリル酸エステル成分(B)のうち少なくとも一方の成分が多環式飽和炭化水素基を有している、請求項3に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項5】
前記多環式飽和炭化水素基が、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、ノルボルニル基及びイソボルニル基からなる群より選択される1種または2種以上の炭化水素基である、請求項4に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項6】
前記アクリル系樹脂の数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが1.5以上3以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項7】
前記樹脂粒子本体の表面に脂肪酸金属塩が付着しており、前記樹脂粒子本体100質量部に対する前記脂肪酸アマイドの付着量(x)[質量部]と前記樹脂粒子本体100質量部に対する前記脂肪酸金属塩の付着量(y)[質量部]との比x/yが1以上7以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項8】
アクリル系樹脂発泡ブロックを作製するために用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の発泡性アクリル系樹脂粒子を加熱し、前記脂肪酸アマイドを融解させるとともに前記樹脂粒子本体を発泡させて、表面にクラックが形成されたアクリル系樹脂発泡粒子を得る、アクリル系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項10】
アクリル系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であって、
前記発泡粒子の表面にはクラックが形成されており、
前記発泡粒子の表面に存在するクラックの数が5個/mm以上70個/mm以下である、アクリル系樹脂発泡粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性アクリル系樹脂粒子、アクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば船舶のスクリューやプレス金型などの大型の金属製品は、鋳型内に消失模型を埋設した後、消失模型に金属の溶湯を流し込むことにより消失模型を溶湯で置換しつつ鋳造を行う、フルモールド鋳造法と呼ばれる鋳造法により作製されることがある。
【0003】
大型の鋳造品を鋳造するための消失模型は、従来、以下の方法により作製されている。まず、発泡性樹脂粒子を発泡させることにより、発泡粒子を作製する。この発泡粒子を用いて型内成形を行い、所望する鋳造品の形状よりも大きな寸法を有する、直方体形状のブロック成形体を作製する。この成形体に切削加工等を施すことにより、所望の形状を有する消失模型を得ることができる(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、比較的小型の鋳造品を作製する場合には、アクリル系樹脂発泡粒子を所望の形状に型内成形することにより得られる発泡粒子成形体が、消失模型として用いられている(例えば、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-202868号公報
【文献】特開2003-261603号公報
【文献】特開2015-183111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリル系樹脂発泡粒子を型内成形する場合、まず、金型内で発泡粒子を加熱し、発泡粒子を二次発泡させつつ融着させる。これにより、金型内に発泡粒子成形体が形成される。しかし、型内成形が完了した後、冷却が不十分な状態で金型から発泡粒子成形体を取り出すと、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子の気泡膜が発泡粒子の内圧に耐えられなくなり、発泡粒子成形体が膨張したり、意図しない変形が生じる場合があった。
【0007】
このような発泡粒子成形体の変形を抑制するため、成形工程において、金型内で発泡粒子成形体を十分に冷却し、発泡粒子成形体の形状を安定させている。しかし、例えばブロック成形体のような大型の発泡粒子成形体は、型内成形による加熱が完了した後に成形体の温度が下がりにくい。そのため、大型の発泡粒子成形体を作製する場合には、金型内においてブロック成形体の形状を安定させるために比較的長い冷却時間を要していた。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、発泡粒子成形体の形状を早期に安定させることができるアクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法、並びにこのアクリル系樹脂発泡粒子を得るための発泡性アクリル系樹脂粒子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アクリル系樹脂を基材樹脂とする樹脂粒子本体と、発泡剤と、を含む発泡性アクリル系樹脂粒子であって、
前記樹脂粒子本体の表面に融点60℃以上140℃以下の脂肪酸アマイドが付着しており、
前記脂肪酸アマイドの付着量(x)が前記樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.3質量部未満である、発泡性アクリル系樹脂粒子にある。
【0010】
本発明の他の態様は、前記の態様の発泡性アクリル系樹脂粒子を加熱し、前記脂肪酸アマイドを融解させるとともに前記樹脂粒子本体を発泡させて、表面にクラックが形成されたアクリル系樹脂発泡粒子を得る、アクリル系樹脂発泡粒子の製造方法にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、アクリル系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子であって、
前記発泡粒子の表面にはクラックが形成されており、
前記発泡粒子の表面に存在するクラックの数が5個/mm以上70個/mm以下である、アクリル系樹脂発泡粒子にある。
【発明の効果】
【0012】
前記発泡性アクリル系樹脂粒子(以下、適宜「発泡性樹脂粒子」という。)は、アクリル系樹脂を基材樹脂とする樹脂粒子本体と、樹脂粒子本体の表面に付着した脂肪酸アマイドとを有している。また、脂肪酸アマイドの融点は、前記特定の範囲内である。このような脂肪酸アマイドは、発泡性樹脂粒子を発泡させた際に基材樹脂と相溶し、樹脂粒子本体の表面部分に偏在して分散することができる。そして、表面に脂肪酸アマイドが分散した状態で樹脂粒子本体が発泡することにより、得られるアクリル系樹脂発泡粒子(以下、適宜「発泡粒子」という。)の表面にクラックを形成することができる。
【0013】
また、前記の態様のアクリル系樹脂発泡粒子の製造方法においては、表面に脂肪酸アマイドが付着した前記発泡性アクリル系樹脂粒子を加熱し、脂肪酸アマイドを融解させるとともに前記樹脂粒子本体を発泡させる。これにより、表面にクラックが形成されたアクリル系樹脂発泡粒子を得ることができる。
【0014】
前記の態様の発泡粒子の表面にはクラックが形成されており、クラックの数が前記特定の範囲内である。発泡粒子のクラックの数を前記特定の範囲内とすることにより、型内成形時に発泡粒子同士を融着させた上で、発泡粒子成形体における発泡粒子の気泡内に残存する発泡剤を、クラックを介して気泡の外部へ放出させることができる。その結果、型内成形が完了した後に発泡粒子成形体中の発泡粒子の内圧を早期に低下させ、早期に発泡粒子成形体の形状を安定させることができる。また、特に、発泡粒子の内圧を早期に低下させ難い、大型の発泡粒子成形体において早期に発泡粒子成形体の形状を安定させることができる。
【0015】
以上のように、前記の態様によれば、発泡粒子成形体の形状を早期に安定させることができるアクリル系樹脂発泡粒子及びその製造方法、並びにこのアクリル系樹脂発泡粒子を得るための発泡性アクリル系樹脂粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例2における発泡粒子の表面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前記発泡性樹脂粒子、前記発泡粒子及びその製造方法の実施形態について説明する。
【0018】
(発泡性樹脂粒子)
前記発泡性樹脂粒子は、アクリル系樹脂を基材樹脂とする樹脂粒子本体と、発泡剤とを有している。また、樹脂粒子本体の表面には、脂肪酸アマイドが付着している。
【0019】
・アクリル系樹脂
基材樹脂に含まれるアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル系単量体を重合してなる重合体であり、アクリル系樹脂には、少なくとも、(メタ)アクリル酸エステル成分が含まれている。なお、前述した「(メタ)アクリル酸」という表現は、アクリル酸とメタクリル酸とを包含する概念である。例えば、アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルの重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルと、他の単量体との共重合体であってもよい。
【0020】
メタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル等の多環式飽和炭化水素基を備えたメタクリル酸エステル等を使用することができる。アクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等のアクリル酸アルキルエステルや、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸ジシクロペンタニル等の多環式飽和炭化水素基を備えたアクリル酸エステル等を使用することができる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独で使用されていてもよく、2種以上の(メタ)アクリル酸エステルが併用されていてもよい。
【0021】
また、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレンやα-メチルスチレンなどを使用することができる。
【0022】
アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの共重合体であり、前記アクリル系樹脂中のメタクリル酸エステル成分(A)とアクリル酸エステル成分(B)との合計100モル%に対する前記メタクリル酸エステル成分(A)のモル比が85モル%以上99モル%以下であることが好ましい。
【0023】
このような共重合体を鋳造用消失模型の基材樹脂とすることにより、鋳造中のススの発生を低減することができる。さらに、共重合体中のメタクリル酸エステル成分(A)及びアクリル酸エステル成分(B)のモル比を前記特定の範囲とすることにより、鋳造中に消失模型から生じる熱分解ガスの発生速度の過度の増大をより確実に回避することができる。これにより、鋳型内の圧力の過度の上昇をより確実に回避し、鋳造性をより改善することができる。
【0024】
また、前記共重合体においては、メタクリル酸エステル成分(A)及び前記アクリル酸エステル成分(B)のうち少なくとも一方の成分が多環式飽和炭化水素基を有していることが好ましい。この場合には、発泡性樹脂粒子の発泡性および型内成形時の成形性をより向上させることができる。
【0025】
鋳造性をより高める観点からは、前記共重合体に含まれる多環式飽和炭化水素基は、ジシクロペンタニル基、アダマンチル基、ノルボルニル基及びイソボルニル基からなる群より選択される1種または2種以上の炭化水素基であることが好ましい。
【0026】
また、前記共重合体中の多環式飽和炭化水素基を有する成分の含有量は、アクリル系樹脂中のメタクリル酸エステル成分(A)とアクリル酸エステル成分(B)との合計100モル%に対して2モル%以上20モル%以下であることが好ましく、3モル%以上15モル%以下であることがより好ましい。この場合には、前述した作用効果をより確実に奏することができる。
【0027】
前記脂肪酸アマイドとアクリル系樹脂との相溶性をより高める観点からは、アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルと、アクリル酸メチルと、メタクリル酸イソボルニルとの共重合体から構成されていることが好ましい。この場合、アクリル系樹脂中のメタクリル酸メチルに由来する成分の含有量が80モル%以上95モル%以下、アクリル酸メチルに由来する成分の含有量が3モル%以上9モル%以下、メタクリル酸イソボルニルに由来する成分の含有量が2モル%以上12モル%以下であることがより好ましい。ただし、前述した含有量は、メタクリル酸メチルに由来する成分、アクリル酸メチルに由来する成分及びメタクリル酸イソボルニルに由来する成分の合計を100モル%とした場合の各成分の割合である。
【0028】
前記アクリル系樹脂の重量平均分子量は、50000以上150000以下であることが好ましく、60000以上140000以下であることがより好ましく、60000以上120000以下であることがさらに好ましい。基材樹脂として前記特定の範囲の重量平均分子量を備えたアクリル系樹脂を用いることにより、アクリル系樹脂と、樹脂粒子本体の表面に付着した脂肪酸アマイドとの親和性を適度に高めることができる。これにより、前記発泡性樹脂粒子を発泡させた際に、発泡粒子の表面に脂肪酸アマイドを分散させ、発泡粒子の表面により容易にクラックを形成することができる。
【0029】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定されたポリスチレン換算分子量である。アクリル系樹脂の重量平均分子量の測定方法は実施例にてより具体的に説明する。
【0030】
前記アクリル系樹脂の数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwとの比Mw/Mnが1.5以上3以下であることが好ましく、1.6~2.5であることがより好ましい。この場合には、前記発泡性樹脂粒子を発泡させた際に、発泡粒子の表面にさらに容易にクラックを形成することができる。
【0031】
なお、アクリル系樹脂の数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定されたポリスチレン換算分子量である。アクリル系樹脂の数平均分子量の測定方法は実施例にてより具体的に説明する。
【0032】
アクリル系樹脂のガラス転移温度は、112℃以上125℃以下であることが好ましい。アクリル系樹脂のガラス転移温度を前記特定の範囲とすることにより、発泡性樹脂粒子の発泡性を向上させることができ、発泡粒子の成形性を向上させることができる。同様の観点から、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、115℃以上123℃以下であることがより好ましく、116℃以上122℃以下であることがさらに好ましい。
【0033】
なお、アクリル系樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。まず、以下の方法により発泡性樹脂粒子の再沈殿精製を行い、メタノール不溶分を抽出する。再沈殿精製によって得られるメタノール不溶分には、アクリル系樹脂が含まれている。
【0034】
再沈殿生成を行うに当たっては、発泡性樹脂粒子1gをメチルエチルケトン10mLに溶解させる。次いで、メタノール500mL中に得られたメチルエチルケトン溶液を滴下し、メタノール不溶分を沈殿させる。次いで、メタノール中のメタノール不溶分を濾取し、室温にて風乾する。その後、メタノール不溶分を恒量になるまで真空乾燥させる。なお、発泡性樹脂粒子の代わりに、発泡粒子や発泡粒子成形体を用いて再沈殿精製を行っても、上記と同様に発泡粒子や発泡粒子成形体からメタノール不溶分を分離することが可能である。
【0035】
次に、再沈殿精製により得られたメタノール不溶分2mgを秤量し、JIS K 7121:1987に基づいてDSCを行う。そして、昇温速度10℃/分の条件で得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を求める。このようにして求められる、発泡性樹脂粒子のメチルエチルケトン可溶分中のメタノール不溶分のガラス転移温度を、アクリル系樹脂のガラス転移温度とする。なお、測定装置としては、例えば、ティ・エイ・インスツルメント社製のDSC測定装置Q1000を使用することができる。
【0036】
・その他の成分
樹脂粒子本体の基材樹脂には、本発明の目的を阻害しない範囲内において、アクリル系樹脂以外の樹脂や添加剤が添加されていてもよい。例えば、基材樹脂には可塑剤が含まれていてもよい。可塑剤としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサンなどの環式脂肪族炭化水素等を使用することができる。他の樹脂や添加剤等の添加量は、基材樹脂100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
【0037】
[発泡剤]
発泡性樹脂粒子には、発泡剤が含まれている。発泡剤は、樹脂粒子本体に含浸されている。発泡剤としては、例えば、炭素数3~6の鎖式炭化水素を使用することができる。より具体的には、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n-ヘキサン等を発泡剤として使用することができる。これらの発泡剤は単独で使用されていてもよいし、2種以上の発泡剤が併用されていてもよい。鎖式炭化水素としては、炭素数3~5の鎖式炭化水素を使用することが好ましく、ペンタンを使用することが特に好ましい。発泡性樹脂粒子中の前記鎖式炭化水素の含有量は、例えば、6~10質量%の範囲内から適宜設定することができる。
【0038】
[脂肪酸アマイド]
発泡性樹脂粒子における樹脂粒子本体の表面には、脂肪酸アマイドが付着している。脂肪酸アマイドは、樹脂粒子本体の全面を被覆していてもよいし、樹脂粒子本体の表面の一部を被覆していてもよい。脂肪酸アマイドは、発泡性樹脂粒子を発泡させる過程において軟化した基材樹脂と相溶し、発泡性樹脂粒子の表面部分に偏在して分散する。このように分散した脂肪酸アマイドは、発泡性樹脂粒子が発泡する過程や発泡後の発泡粒子が冷却される過程においてクラックの起点となる。それ故、樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドを付着させることにより、発泡粒子の表面に均一にクラックを形成することができる。
【0039】
脂肪酸アマイドとしては、脂肪酸と1級アミンとの縮合体や脂肪酸と2級アミンとの縮合体を使用することができる。例えば、脂肪酸アマイドとしては、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイド、ステアリン酸アマイド及びN-ステアリルステアリン酸アマイド等の化合物を使用することができる。これらの脂肪酸アマイドは単独で使用されていてもよいし、2種以上の脂肪酸アマイドが併用されていてもよい。
【0040】
脂肪酸アマイドの融点は、60℃以上140℃以下である。樹脂粒子本体の表面に前記特定の範囲内の融点を備えた脂肪酸アマイドを付着させることにより、発泡性樹脂粒子を発泡させる際に、軟化した基材樹脂と脂肪酸アマイドとを相溶させやすくすることができる。その結果、発泡粒子の表面に、容易にクラックを発生させることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、脂肪酸アマイドの融点は、65℃以上120℃以下であることが好ましく、70℃以上100℃以下であることがより好ましい。
【0041】
また、前記脂肪酸アマイドと基材樹脂との相溶性の観点から、前記アクリル系樹脂のガラス転移温度Tgと前記脂肪酸アマイドの融点Tmとの差Tg-Tmは、50℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、20℃以下であることがさらに好ましい。
【0042】
脂肪酸アマイドの付着量(x)は、樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.3質量部未満である。脂肪酸アマイドの付着量(x)を前記特定の範囲とすることにより、発泡性樹脂粒子の表面に付着する脂肪酸アマイドの量を十分に多くし、発泡粒子の表面に適度な数のクラックを発生させることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、脂肪酸アマイドの付着量(x)は、樹脂粒子本体100質量部に対して0.02質量部以上0.2質量部以下であることがより好ましく、0.03質量部以上0.1質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
脂肪酸アマイドの付着量(x)の測定方法は、例えば以下の通りである。発泡性樹脂粒子をN,N-ジメチルホルムアミド(つまり、DMF)に溶解させる。この溶解液のガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、溶解液中の脂肪酸アマイドの量を定量することができる。
【0044】
また、上記の方法に替えて、以下の方法により脂肪酸アマイドの付着量(x)を測定することも可能である。まず、メタノールなどの基材樹脂が溶解しない溶媒を使用して発泡性樹脂粒子を洗浄し、樹脂粒子本体と付着物とを分離する。この付着物をDMFに溶解させ、溶解液のガスクロマトグラフィー分析を行うことにより溶解液中の脂肪酸アマイドの量を定量することができる。なお、脂肪酸アマイドの付着量(x)は、発泡性樹脂粒子の製造過程における脂肪酸アマイドの添加量と概ね等しい。
【0045】
・脂肪酸金属塩
樹脂粒子本体の表面には、脂肪酸アマイドに加えて、さらに、脂肪酸金属塩が付着していることが好ましい。この場合には、発泡時におけるブロッキング、つまり、発泡粒子同士が誤って融着する現象の発生をさらに効果的に抑制することができる。
【0046】
脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸金属塩や、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム等のラウリン酸金属塩等などの、炭素数12~24の脂肪酸の金属塩である高級脂肪酸金属塩を使用することができる。これらの脂肪酸金属塩は単独で使用されていてもよいし、2種以上の脂肪酸金属塩が併用されていてもよい。
【0047】
発泡性樹脂粒子に脂肪酸金属塩が付着している場合、樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸アマイドの付着量(x)と樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸金属塩の付着量(y)との比x/yは1以上7以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。なお、前述した脂肪酸アマイドの付着量(x)及び脂肪酸金属塩の付着量(y)の単位は、いずれも質量部である。この場合には、脂肪酸アマイドによるクラック形成の効果を損なうことなく、発泡時のブロッキングを効果的に抑制することができる。同様の観点から、脂肪酸金属塩の付着量(y)は、樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上0.2質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
脂肪酸金属塩の付着量(y)の測定方法は、例えば以下の通りである。まず、メタノールなどの基材樹脂が溶解しない溶媒を使用して発泡性樹脂粒子を洗浄し、樹脂粒子本体と付着物とを分離する。そして、キレート滴定法等の方法により付着物に含まれる脂肪酸金属塩中の金属イオンの量を定量し、金属イオン量を脂肪酸金属塩の量に換算すればよい。なお、脂肪酸金属塩の付着量(y)は、発泡性樹脂粒子の製造過程における脂肪酸金属塩の添加量と概ね等しい。
【0049】
・クラック形成特性
前記発泡性樹脂粒子は、温度105℃、ゲージ圧0.03MPa(G)のスチームを用いて100秒間加熱して発泡させた場合に、得られる発泡粒子の表面に5個/mm以上70個/mm以下のクラックが形成される特性を有していることが好ましい。このようなクラック形成特性を備えた発泡性樹脂粒子を発泡させることにより、表面に適度なクラックを備えたアクリル系樹脂発泡粒子を容易に得ることができる。そして、このようなクラックを備えた発泡粒子を型内成形すると、発泡粒子の二次発泡性を確保しつつ、発泡粒子の気泡内部に残存する発泡剤の外部への放出を促進することができる。その結果、成形性を確保するとともに、発泡粒子成形体の形状の安定化に要する時間を短縮することができる。
【0050】
前述したクラック形成特性の評価は、具体的には、以下の方法により行うことができる。まず、発泡性樹脂粒子を温度105℃、ゲージ圧0.03MPa(G)のスチームを用いて100秒間加熱して発泡させる。発泡性樹脂粒子の加熱には、予備発泡機(例えば、DAISEN株式会社製「DYHL-1000」)などを使用することができる。走査型電子顕微鏡を用いて発泡が完了した後の発泡粒子の表面を観察することにより、発泡粒子の表面に存在するクラックの数を計測する。なお、クラックの数の計測方法については後述する。
【0051】
・用途
前記発泡性樹脂粒子は、鋳造模型用の発泡粒子成形体を作製するために用いることができ、特に、アクリル系樹脂発泡ブロック(以下、適宜「発泡ブロック」という。)を作製するために好適に用いることができる。発泡ブロックは、例えば長さ2m±0.3m、幅1m±0.2m、厚み0.5m±0.1m程度の寸法を有する、体積1m程度の大型の成形体である。前述したように、従来のアクリル系樹脂発泡粒子を用いて発泡ブロックの型内成形を行う場合には、金型から取り出した発泡ブロックが発泡粒子の内圧に耐えて形状を維持することができるようになるまで、金型内において発泡ブロックを十分に冷却していた。また、発泡ブロックのような大型の成形体は、小型の成形体に比べて成形体中央部分の温度が特に下がりにくいため、発泡ブロックの冷却には特に長い時間を要していた。
【0052】
これに対し、前記発泡性樹脂粒子を発泡させてなる発泡粒子は、表面に適度な数のクラックを有している。そのため、発泡粒子を型内成形した際に、発泡粒子を十分に二次発泡させて発泡粒子同士を融着させることができる。さらに、発泡粒子が十分に融着した後においては、発泡粒子の内圧を早期に低下させ、冷却に要する時間を短縮することができる。このように、前記発泡性樹脂粒子を発泡させてなる発泡粒子は、発泡ブロックを作製する場合においても、成形性を確保するとともに、早期に形状を安定させることができる。
【0053】
(発泡性樹脂粒子の製造方法)
前記発泡性樹脂粒子は、例えば、特開2015-183111号公報などに記載された懸濁重合等の従来公知の方法によって樹脂粒子本体を作製した後、樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドを付着させることにより作製することができる。
【0054】
樹脂粒子本体を懸濁重合により製造する場合には、例えば以下のような方法を採用することができる。まず、撹拌装置の付いた密閉容器内で、適当な懸濁剤や懸濁助剤を分散させた水性媒体中に、前述したモノマー成分としての(メタ)アクリル酸エステル等を、可塑剤、重合開始剤、連鎖移動剤等と共に添加し、モノマー成分を水性媒体中に分散させる。次に、モノマー成分の重合反応を開始する。そして、重合途中あるいは重合完了後に発泡剤を密閉容器内に添加し、前記重合反応によって生じた重合体であるアクリル系樹脂に発泡剤を含浸させる。このようにして、樹脂粒子本体を得ることができる。
【0055】
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、重合時における連鎖移動剤の添加量等により調整することができる。連鎖移動剤を使用する場合、連鎖移動剤の添加量は、アクリル系樹脂を構成するモノマー成分100質量部に対して、概ね0.20質量部以上0.60質量部以下であることが好ましく、0.25質量部以上0.50質量部以下であることがより好ましい。連鎖移動剤の添加量を前記特定の範囲とすることにより、アクリル系樹脂の重量平均分子量を前記特定の範囲に調整しやすくすることができる。
【0056】
連鎖移動剤としては、n-オクチルメルカプタンや、αメチルスチレンダイマー等の従来公知の連鎖移動剤を用いることができるが、n-オクチルメルカプタンを用いることがより好ましい。
【0057】
このようにして得られた樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイド等を付着させることにより、発泡性樹脂粒子を得ることができる。脂肪酸アマイドを樹脂粒子本体の表面に付着させるに当たっては、脂肪酸アマイドが樹脂粒子本体の表面に偏在するように脂肪酸アマイドを付着させればよい。また、脂肪酸アマイドを樹脂粒子本体の表面に付着させるに当たっては、脂肪酸アマイドが樹脂粒子本体の表面部分に均一に付着するように脂肪酸アマイドを付着させることがより好ましい。
【0058】
脂肪酸アマイドを樹脂粒子本体の表面に付着させる方法は特に限定されることはなく、例えば、前記の方法により得られた樹脂粒子本体と脂肪酸アマイドとを混合機で混ぜる方法や、樹脂粒子本体を貯蔵槽に空気輸送する際に、輸送途中の配管内に脂肪酸アマイドを投入する方法等を採用することができる。なお、撹拌装置としては、例えば、タンブラーミキサー等を使用することができる。前記樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸アマイドの添加量は、0.01質量部以上0.2質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上0.1質量部以下であることがより好ましく、0.03質量部以上0.08質量部以下であることがさらに好ましい。
【0059】
また、前記樹脂粒子本体の表面には、脂肪酸金属塩を付着させることが好ましい。脂肪酸金属塩の添加量は、前記樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上0.2質量部以下であることがより好ましい。なお、脂肪酸金属塩と脂肪酸アマイドを前記樹脂粒子本体に付着させる場合には、脂肪酸アマイドまたは脂肪酸金属塩のいずれかを先に樹脂粒子本体に付着させてもよく、両者を同時に樹脂粒子本体に付着させてもよい。より確実に発泡粒子の表面にクラックを形成する観点からは、脂肪酸アマイドと脂肪酸金属塩を同時に樹脂粒子本体に添加して撹拌するか、脂肪酸アマイドを樹脂粒子本体に添加して撹拌した後に脂肪酸金属塩を樹脂粒子本体に添加して撹拌し、樹脂粒子本体に脂肪酸アマイド及び脂肪酸金属塩を付着させることが好ましい。
【0060】
(発泡粒子)
前記アクリル系樹脂発泡粒子の基材樹脂はアクリル系樹脂である。
また、アクリル系樹脂発泡粒子の表面には5個/mm以上70個/mm以下のクラックが存在している。
【0061】
・アクリル系樹脂
前記発泡粒子の基材樹脂は、前述した発泡性樹脂粒子における基材樹脂と同様である。
【0062】
・脂肪酸アマイド
発泡粒子は、その表面に脂肪酸アマイドを有していることが好ましい。前記発泡粒子における脂肪酸アマイドは、前述した発泡性樹脂粒子における脂肪酸アマイドと同様である。また、発泡性樹脂粒子から発泡粒子を得る工程において、基材樹脂に変化は生じないので、発泡性樹脂粒子における脂肪酸アマイドの付着量(x)は、発泡粒子における脂肪酸アマイドの付着量とほぼ同一であると考えられる。
【0063】
・クラック
前記発泡粒子の表面にはクラックが存在している。本明細書において、「クラック」とは、発泡粒子の表面に形成された、開口面積が0.0001mm以上である溝や孔等をいう。発泡粒子の表面に存在するクラックは、通常、周囲よりも陥没している。なお、発泡粒子の表皮部分には気泡に由来する凹凸が存在していることがあるが、これらの凹凸はクラックからは除かれる。クラックの形状は、概ね円または楕円形状である。前記発泡粒子の表面に存在するクラックの数は5個/mm以上70個/mm以下である。このようなクラックを備えた発泡粒子は、型内成形の際に発泡粒子の二次発泡性を確保しつつ、発泡粒子の気泡内に残存する発泡剤の、気泡内から外部への逸散を促進することができる。その結果、発泡粒子成形体の形状の安定化に要する時間を短縮することができる。かかる作用効果をより高める観点から、発泡粒子の表面に存在するクラックの数は10個/mm以上60個/mm以下であることがより好ましく、15個/mm以上50個/mm以下であることがさらに好ましい。
【0064】
発泡粒子の表面に存在するクラックの数が前記特定の範囲よりも少ない場合には、型内成形の際に、クラックから発泡剤が放出されにくくなる。そのため、この場合には、発泡粒子成形体の形状の安定化に要する時間を短縮することが難しくなるおそれがある。また、発泡粒子の表面に存在するクラックの数が前記特定の範囲よりも多い場合には、型内成形の際に、クラックから発泡剤が放出されやすくなる。そのため、この場合には、型内成形の際に発泡粒子の二次発泡が不十分となり、成形性の低下を招くおそれがある。
【0065】
発泡粒子の表面に存在するクラックの数は、具体的には、以下の方法により算出することができる。まず、走査型電子顕微鏡を用い、発泡粒子の表面を150倍で観察して発泡粒子表面の拡大写真を取得する。次に、画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用い、拡大写真上に存在する個々のクラックの開口面積を測定する。この測定において開口面積が0.0001mm未満であるクラックは、計数対象から除外する。
【0066】
次に、得られた拡大写真の中央部分に、一辺の長さが実際の発泡粒子上において0.5mmとなるような正方形状の測定領域を設定する。そして、測定領域内に存在する、開口面積が0.0001mm以上のクラックの数を数える。
【0067】
以上の操作を無作為に選択した10個の発泡粒子について行った後、全ての測定領域におけるクラック数の算術平均値を算出する。この算術平均値を4倍することにより、発泡粒子の表面積1mm当たりのクラックの個数(単位:個/mm)を算出することができる。
【0068】
また、得られた拡大写真ごとに、上記の方法で算出したクラックの開口面積の合計を算出し、その算術平均を取ることにより、発泡粒子の表面積1mm当たりのクラックの面積(単位:mm/mm)を算出することができる。
【0069】
発泡粒子の嵩密度は、15kg/m以上50kg/m以下であることが好ましい。前記特定の範囲内の嵩密度を有する発泡粒子は、成形性に優れており、消失模型用の発泡粒子成形体を得るために好適である。同様の観点から、発泡粒子の嵩密度は18kg/m以上45kg/m以下であることが好ましく、20kg/m以上40kg/m以下であることが好ましい。
【0070】
(発泡粒子の製造方法)
前記発泡粒子は、例えば、以下の方法により作製される。すなわち、まず、発泡剤が含浸された前記樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドを付着させることにより発泡性アクリル系樹脂粒子を作製する。脂肪酸アマイドの融点は60℃以上140℃以下である。また、脂肪酸アマイドの添加量は、樹脂粒子本体100質量部に対して0.01質量部以上0.3質量部未満とする。
次に、前記発泡性アクリル系樹脂粒子を加熱し、前記脂肪酸アマイドを融解させるとともに前記樹脂粒子本体を発泡させることにより、表面にクラックを備えた発泡粒子を得ることができる。
【0071】
前記製造方法において、発泡性アクリル系樹脂粒子を加熱する方法は、種々の態様を採り得る。例えば、発泡性樹脂粒子にスチーム等の加熱媒体を供給して加熱することにより、発泡性樹脂粒子を発泡させることができる。かかる方法としては、例えば撹拌装置の付いた円筒形の発泡機を用いて、スチーム等により発泡性樹脂粒子を加熱して発泡させる方法がある。発泡性樹脂粒子の加熱温度は、脂肪酸アマイドを確実に基材樹脂と相溶させ、樹脂粒子本体の表面部分に均一に脂肪酸アマイドを分散させるとともに樹脂粒子本体を発泡させる観点から、脂肪酸アマイドの融点以上であることが好ましく、110℃以上130℃以下であることがより好ましい。
【0072】
(発泡粒子成形体)
前記発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体を得ることができる。発泡粒子成形体の形状は特に限定されることはないが、型内成形の後、早期に形状を安定させる効果を有効に活用する観点からは、発泡粒子成形体は、直方体形状を有する発泡ブロックであることが好ましい。
【0073】
発泡粒子を型内成形する方法は特に限定されることはない。例えば、所望する発泡粒子成形体の形状に対応したキャビティを有する金型内に発泡粒子を充填し、スチームなどの加熱媒体により金型内で多数の発泡粒子を加熱する。キャビティ内の発泡粒子は、加熱によって二次発泡すると共に、相互に融着する。これにより、多数の発泡粒子が一体化し、キャビティの形状に応じた寸法を有する発泡粒子成形体が得られる。
【0074】
発泡粒子成形体は、発泡ブロックであることが好ましい。前述したように、前記発泡粒子は、優れた融着性を有すると共に、型内成形後の膨張や変形を抑制することができる。それ故、前記発泡粒子を型内成形することにより、直方体形状の発泡ブロックを容易に作製することができる。そして、かかる形状を有する発泡ブロックは、大型の鋳造品を作製するための消失模型に好適である。かかる観点から、発泡ブロックの寸法は、長さ2m±0.3m、幅1m±0.2m、厚み0.5m±0.1mであることが好ましい。
【0075】
また、前記発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、その表面に5個/mm以上70個/mm以下のクラックを有していることが好ましい。前記発泡粒子は、その表面に5個/mm以上70個/mm以下のクラックを有しており、型内成形された発泡粒子成形体の表面においても、そのクラックが残存している。したがって、発泡粒子におけるクラックを測定した際の方法を用いれば、発泡粒子成形体においても、その表面のクラック数を測定することができる。
【0076】
前記発泡粒子を型内成形してなる発泡ブロックの表面融着率は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。また、発泡ブロックの内部融着率は、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。発泡ブロックの表面融着率及び内部融着率がそれぞれ上記範囲内であれば、発泡ブロックを切削加工した際に、発泡粒子の欠けを抑制し、より平滑性の高い切削表面を形成することができる。同様の観点から、内部融着率に対する表面融着率の比は、0.8~1.5であることが好ましく、0.9~1.2であることがより好ましい。
【0077】
また、前記発泡粒子を型内成形してなる発泡ブロックの曲げ強さは、0.15MPa以上0.3MPa以下であることが好ましく、0.18MPa以上0.25MPa以下であることがより好ましい。このような曲げ強さを備えた発泡ブロックは、鋳造模型用の発泡ブロックとして十分な強度を備え、優れた取扱性を有している。
【実施例
【0078】
以下に、前記発泡性樹脂粒子の実施例及び比較例について説明する。本例では、以下の方法により、表1に示す樹脂のいずれかを基材樹脂とする発泡性樹脂粒子(表2~表5参照)を製造した。なお、本発明に係る発泡性樹脂粒子、発泡粒子及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を超えない範囲において適宜構成を変更することができる。
【0079】
(実施例1)
まず、撹拌装置の付いた内容積が1.5m3のオートクレーブ内に、脱イオン水580kg、懸濁剤2.0kg、界面活性剤290g、電解質としての酢酸ナトリウム0.9kg、懸濁助剤としての過硫酸カリウム0.2gを投入した。なお、懸濁剤は、具体的には濃度20.5質量%の第三リン酸カルシウムスラリー(太平化学産業株式会社製)である。また、界面活性剤は、具体的には濃度10質量%のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸二ナトリウム水溶液(具体的には、花王株式会社製「ペレックス(登録商標)SSH」)である。
【0080】
モノマー成分として、メタクリル酸メチル343kgと、メタクリル酸イソボルニル40kgと、アクリル酸メチル20kgとの混合物を準備した。この混合物に、重合開始剤としてのt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(具体的には、日油株式会社製「パーブチル(登録商標)O」)0.54kg及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート(具体的には、日油株式会社製「パーブチルE」)0.54kgと、可塑剤としてのアジピン酸ジオクチル(沸点:331℃)2.0kgと、連鎖移動剤としてのn-オクチルメルカプタン(シェブロン社製)0.97kgと、を溶解させた。なお、本例における、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルとの合計に対するメタクリル酸メチル、メタクリル酸イソボルニル及びアクリル酸メチルそれぞれの配合量のモル比は、表1に示す通りである。
【0081】
オートクレーブ内の空気を窒素にて置換した後、オートクレーブ内を密閉した。次いで、オートクレーブ内を撹拌速度100rpmで撹拌しながら1時間15分かけてオートクレーブ内の温度を70℃まで昇温させ、70℃の温度を6時間保持して前段重合工程を行った。また、前段重合工程において、オートクレーブ内の温度が70℃に到達してから5時間が経過した時点で、発泡剤としてのペンタン(具体的には、n-ペンタン80質量%とi-ペンタン20質量%の混合物)48kgを1時間かけて添加した。そして、発泡剤の添加が完了した後に、撹拌速度を80rpmに下げた。
【0082】
前段重合工程が完了した後、オートクレーブ内の温度を4時間かけて115℃まで昇温させ、115℃の温度を5時間保持して後段重合工程を行った。
【0083】
後段重合工程を完了した後、オートクレーブ内の温度を4時間かけて35℃まで冷却し、更に室温まで冷却した。
【0084】
冷却後、オートクレーブの内容物から樹脂粒子本体を取り出した。この樹脂粒子本体を硝酸で洗浄して表面に付着した第三リン酸カルシウムを溶解させた。その後、遠心分離機を用いて樹脂粒子本体の脱水及び洗浄を行い、さらに気流乾燥装置を用いて樹脂粒子本体の表面に付着した水分を除去した。
【0085】
次に、樹脂粒子本体を篩にかけて、直径が0.50~1.2mmの粒子を取り出した。次いで、樹脂粒子本体100質量部と、0.06質量部のアルキルジエタノールアミンとをドラムタンブラーに供給した。更に、ドラムタンブラー内に、樹脂粒子本体100質量部に対して0.03質量部のステアリン酸亜鉛と、0.04質量部のエルカ酸アマイドと、を供給した後、これらを攪拌して混合することにより、樹脂粒子本体の表面をこれらの化合物で被覆した。以上により、発泡性樹脂粒子を得た。
【0086】
なお、本例において使用したエルカ酸アマイドの融点は82℃である。表2~表5においては、エルカ酸アマイドを「Er-A」、オレイン酸アマイドを「Ol-A」、ステアリン酸アマイドを「St-A」、N-ステアリルステアリン酸アマイドを「St-ASt」、エチレンビスステアリン酸アマイドを「(St2)A」、リノレン酸アマイドと「Li-A」と記載した。
【0087】
また、表2~表5中の「n-ペンタンの含有量」「i-ペンタンの含有量」欄に示した値は、発泡性樹脂粒子中に実際に取り込まれた発泡剤の含有量である。
【0088】
(実施例2~実施例5)
実施例2~実施例5の発泡性樹脂粒子は、脂肪酸アマイドの種類及び付着量(x)をそれぞれ表2または表3に示すように変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子と同様の構成を有している。これらの発泡性樹脂粒子の作製方法は、脂肪酸アマイドの種類及び添加量をそれぞれ表2または表3に示すように変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子の作製方法と同様である。なお、実施例3において使用したオレイン酸アマイドの融点は73℃であり、実施例4において使用したステアリン酸アマイドの融点は103℃であり、実施例5において使用したN-ステアリルステアリン酸アマイドの融点は95℃である。
【0089】
(実施例6~実施例8)
実施例6~実施例8の発泡性樹脂粒子は、アクリル系樹脂の種類を表3に示すように変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子と同様の構成を有している。実施例6~実施例8の発泡性樹脂粒子の作製方法は、分子量が表1に示す値となるように重合条件を変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子の作製方法と同様である。
【0090】
(比較例1)
比較例1の発泡性樹脂粒子は、樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドが付着していない以外は実施例1の発泡性樹脂粒子と同様の構成を有している。比較例1の発泡性樹脂粒子の製造方法は、樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドを付着させない以外は実施例1の発泡性樹脂粒子の製造方法と同様である。
【0091】
(比較例2及び比較例3)
比較例2及び比較例3の発泡性樹脂粒子は、脂肪酸アマイドの種類及び付着量(x)をそれぞれ表4に示すように変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子と同様の構成を有している。これらの発泡性樹脂粒子の作製方法は、脂肪酸アマイドの種類及び添加量をそれぞれ表4に示すように変更した以外は、実施例1の発泡性樹脂粒子の作製方法と同様である。なお、比較例2において使用したエチレンビスステアリン酸アマイドの融点は145℃であり、比較例3において使用したリノレン酸アマイドの融点は59℃である。
【0092】
(参考例1)
参考例1は、スチレン系樹脂を基材樹脂とする発泡性樹脂粒子の例である。本例の発泡性樹脂粒子を作製するに当たっては、まず、公知の方法により表5に示す基材樹脂及び発泡剤を含む樹脂粒子本体を作製した。この樹脂粒子本体を篩にかけて、直径が0.50~1.2mmの粒子を取り出した。次いで、樹脂粒子本体100質量部と、0.06質量部のアルキルジエタノールアミンとをドラムタンブラーに供給した。更に、ドラムタンブラー内に、樹脂粒子本体100質量部に対して0.03質量部のステアリン酸亜鉛と、を供給した後、これらを攪拌して混合することにより、樹脂粒子本体の表面にこれらの化合物を付着させた。以上により、発泡性樹脂粒子を得た。
【0093】
(参考例2)
参考例2の発泡性樹脂粒子は、樹脂粒子本体の表面に脂肪酸アマイドが付着している以外は、参考例1の発泡性樹脂粒子と同様の構成を有している。参考例2の発泡性樹脂粒子の作製方法は、ドラムタンブラー内に、樹脂粒子本体、アルキルジエタノールアミン、ステアリン酸アミンとともに表5に示す量のエルカ酸アマイドを添加した以外は、参考例1の発泡性樹脂粒子の作製方法と同様である。
【0094】
以上により得られた発泡性樹脂粒子を用い、後述する方法によりアクリル系樹脂の分子量、平均粒子径の測定及び発泡性の評価を行った。
【0095】
次に、発泡性樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を作製した。具体的には、まず、発泡性樹脂粒子13.0kgを加圧バッチ発泡機(DAISEN株式会社製「DYHL-1000」)内に投入した。この発泡性樹脂粒子を撹拌しながら、発泡機内の圧力がゲージ圧で0.025MPa(G)となるようにスチームを供給した。この圧力を110秒間して発泡性樹脂粒子を加熱することにより、発泡性樹脂粒子を発泡させ発泡粒子を得た。
【0096】
次いで、発泡粒子を室温下で1日間風乾した。その後、1Lのメスシリンダーを用い、乾燥後の発泡粒子1Lの質量(単位:g)を測定した。この発泡粒子1L当たりの質量を単位換算することで、嵩密度(単位:kg/m3)を算出した。表2~表5の「発泡粒子の嵩密度」欄に、各発泡性樹脂粒子から得られた発泡粒子の嵩密度を示す。
【0097】
次に、以下の方法により、発泡粒子を型内成形して発泡粒子成形体を作製した。まず、上記のようにして得られた発泡粒子を室温で表2~表5に示す期間放置して熟成させた後、ブロック成形機(笠原工業株式会社製「PEONY-P205DS」)の金型のキャビティ内に充填した。なお、キャビティの内寸法は、縦2.0m、横1.0m、厚み0.54mである。また、発泡粒子成形体の厚み方向の端面、つまり、長さ2.0mの辺と1.0mの辺とに囲まれた面に対面する金型の壁面の中央部には、型内成形中に金型が受ける圧力を測定するための面圧計が取り付けられている。
【0098】
次に、キャビティ内にスチームを供給することにより発泡粒子の型内成形を行った。型内成形においては、金型の受ける圧力が表2~表5の「目標面圧」欄に示す目標面圧となった後、この面圧が33秒間保たれるようにスチームの圧力を調整した。型内成形中に金型が受ける圧力の最高値は、表2~表5の「最高面圧」欄に示す通りであった。
【0099】
その後、金型を3秒間水冷し、更にキャビティ内をゲージ圧で-0.08MPaまで減圧した。面圧が0MPaとなるまで減圧状態を維持した後、金型を開いて発泡粒子成形体を取り出した。その後、発泡ブロックを温度60℃で表2~表5の「乾燥日数」欄に示す期間乾燥させ、更に室温下で1日以上養生した。
【0100】
このようにして得られた発泡粒子及び発泡ブロックを用い、以下の方法により、型内成形時の冷却時間、型内成形後の収縮、融着性、曲げ強さ、鋳造性及び切削性の評価を行った。
【0101】
「分子量」
ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により、表1に示す各樹脂のクロマトグラムを取得した。そして、得られたクロマトグラムに基づき、アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂の数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びz平均分子量Mzを算出した。
【0102】
クロマトグラムの取得には東ソー(株)製のHLC-8320GPC EcoSECを使用した。測定試料としての発泡性樹脂粒子をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて濃度0.1wt%の試料溶液を調製した後、TSKguardcolumn SuperH-H×1本、TSK-GEL SuperHM-H×2本を直列に接続したカラムを用い、溶離液:THF、THF流量:0.6ml/分という分離条件で、測定試料を分子量の違いによって分離し、クロマトグラムを得た。
【0103】
そして、標準ポリスチレンを用いて作成した較正曲線によって得られたクロマトグラムにおける保持時間を分子量に換算し、微分分子量分布曲線を得た。アクリル系樹脂及びスチレン系樹脂の分子量は、それぞれ表1の「数平均分子量Mn」、「重量平均分子量Mw」及び「z平均分子量Mz」欄に示す通りであった
【0104】
「ガラス転移温度」
メタノールを用いた再沈殿精製により、発泡性樹脂粒子からアクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含むメタノール不溶分を抽出した。具体的には、まず、発泡性樹脂粒子1gをメチルエチルケトン10mLに溶解させた。次いで、メタノール500mL中に、得られたメチルエチルケトン溶液を滴下し、アクリル系樹脂を含むメタノール不溶分を沈殿させた。メタノール不溶分を濾取し、室温にて風乾し、その後、樹脂を恒量になるまで真空乾燥させた。このようにしてアクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含むメタノール不溶分を得た。
【0105】
次に、メタノール不溶分2mgを秤量し、JIS K 7121:1987に準拠してDSCを行った。測定装置としては、示差走査熱量計(ティ・エイ・インスツルメント社製「Q1000」)を使用し、昇温速度は10℃/分とした。DSCにより得られるDSC曲線の中間点ガラス転移温度を、アクリル系樹脂またはスチレン系樹脂のガラス転移温度とした。各樹脂のガラス転移温度は、表1に示した通りであった。
【0106】
「発泡性樹脂粒子中の発泡剤の含有量及び脂肪酸アマイドの付着量(x)」
精秤した発泡性樹脂粒子1gをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)25mlに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(GC)による測定を行い、発泡性樹脂粒子中の発泡剤(ペンタン、ブタン)の含有量及び発泡性樹脂粒子における脂肪酸アマイドの付着量(x)を定量した。各発泡性樹脂粒子中に含まれる発泡剤の含有量、及び、樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸アマイドの付着量(x)は、表2~表5に示した通りであった。なお、表2~表5に示した脂肪酸アマイドの付着量(x)は、発泡性樹脂粒子の重量から樹脂粒子本体の表面に付着した成分や発泡剤を除いた樹脂粒子本体を100質量部とした場合の質量比率である。また、ガスクロマトグラフィーの測定条件は次の通りである。
【0107】
測定装置:株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフGC-9A
カラム材質:内径3mm、長さ3000mmのガラスカラム
カラム充填剤:
〔液相名〕PEG-20M
〔液相含浸率〕25質量%
〔担体粒度〕60/80メッシュ
〔担体処理方法〕AW-DMCS(水洗、焼成、酸処理、シラン処理)
キャリアガス:N2
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
定量方法:内部標準法
【0108】
脂肪酸アマイドの付着量(x)の測定方法としては、上記の方法に替えて、メタノールなどの基材樹脂が溶解しない溶媒を使用して発泡性樹脂粒子から付着物を洗い流した後、付着物のみをDMFに溶解させ、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて定量する方法を採用することもできる。
【0109】
「脂肪酸金属塩の付着量(y)」
発泡性樹脂粒子5g程度を精秤し、メタノールを用いて発泡性樹脂粒子を洗浄し、樹脂粒子本体と付着物とを分離した。そして、付着物に含まれる脂肪酸金属塩に由来する金属イオン量をキレート滴定によって定量した。この金属イオン量を脂肪酸金属塩の量に換算し、樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸金属塩の付着量(y)を算出した。樹脂粒子本体100質量部に対する脂肪酸金属塩の付着量(y)は、表2~表5に示した通りであった。
【0110】
「発泡性樹脂粒子の平均粒子径」
JIS Z 8801の規定に適合する試験用篩を用いて発泡性樹脂粒子をふるい分けし、発泡性樹脂粒子を粒径範囲に基づいて分級した。篩上に残った発泡性樹脂粒子の質量を測定することにより、各粒径範囲の発泡性樹脂粒子の質量分率を算出した。これらの質量分率からロジン・ラムラー分布式を用いて粒径分布を決定した後、得られた粒径分布に基づいて、積算ふるい下百分率、つまり、小粒子側から積算した質量分率の累積値が63質量%となる粒径を算出した。この値を発泡性樹脂粒子の平均粒子径とした。表2~表5に、各発泡性樹脂粒子の平均粒子径を示す。
【0111】
「発泡性」
以下の方法により、発泡粒子の嵩密度及びブロッキングの程度に基づいて発泡性樹脂粒子の発泡性(発泡力)を評価した。嵩密度の測定方法は以下の通りである。まず、棚式発泡機内にゲージ圧で3kPa(G)のスチームを供給して発泡性樹脂粒子を270秒間加熱することにより、発泡性樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得た。次いで、発泡粒子を室温下で1日間風乾した。その後、1Lのメスシリンダーを用い、乾燥後の発泡粒子1Lの質量(単位:g)を測定した。この発泡粒子1L当たりの質量を単位換算することで、嵩密度(単位:kg/m3)を算出した。表2~表5の「嵩密度(棚式)」欄に、各発泡性樹脂粒子から得られた発泡粒子の嵩密度を示す。
【0112】
また、ブロッキングの程度の評価方法は以下の通りである。まず、発泡直後の発泡粒子群を篩い分けし、ブロッキングにより生じた発泡粒子の塊を集める。そして、篩い分け前の発泡粒子群の質量(単位:g)に対する発泡粒子の塊の質量(単位:g)の割合を百分率で表した値(単位:質量%)を、ブロッキングの程度の指標とする。表2~表5の「ブロッキング」欄に、各発泡性樹脂粒子を発泡させた際に生じる発泡粒子の塊の質量比率を示す。
【0113】
「クラック数及びクラックの面積」
走査型電子顕微鏡を用い、発泡粒子の表面を倍率150倍で観察して発泡粒子表面の拡大写真を取得した。次に、画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用い、拡大写真上に存在する個々のクラックの開口面積を測定した。
【0114】
次に、得られた拡大写真上に、一辺の長さが実際の発泡粒子上において0.5mmとなるような正方形状の測定領域を、拡大写真の中央部に設定した。そして、各測定領域内に存在する開口面積が0.0001mm以上のクラックの数を数えるとともに、これらのクラックの開口面積を合計した。なお、この測定において開口面積が0.0001mm未満であるクラックは、クラック数の計数及び合計面積の算出から除外した。
【0115】
以上の操作を無作為に選択した10個の発泡粒子について行った後、全ての測定領域におけるクラック数の算術平均値及び開口面積の合計の算出平均値を算出した。そして、クラック数及び開口面積の合計の算術平均値を4倍することにより、発泡粒子の表面の面積1mm当たりのクラックの個数(単位:個/mm)及びクラックの面積(単位:mm/mm)を算出した。
【0116】
一例として、図1に、実施例2の発泡性樹脂粒子を発泡させてなる発泡粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより得られる、倍率150倍のSEM像を示す。図1に示すように、実施例2における発泡粒子1の表面には、孔状のクラック2が複数形成されていた。また、図には示さないが、実施例1及び実施例3~実施例7における発泡粒子の表面にも、実施例2と同様に孔状のクラックが複数形成されていた。
【0117】
「成形性」
成形性の評価は、型内成形後の冷却時間、表面融着率、内部融着率、成形後の収縮量及び曲げ強さに基づいて行った。型内成形後の冷却時間は、発泡粒子を型内成形する工程において、金型内の減圧を開始した時点から、面圧が0MPaに到達した時点までの所要時間である。実施例における冷却時間は、表2及び表3に示した通りであった。また、比較例及び参考例における冷却時間は、表4または表5に示した通りであった。
【0118】
成形後の収縮量の測定方法は以下の通りである。まず、発泡ブロックの厚さ方向の端面(つまり、金型内において2.0m×1.0mの金型面に対面していた面)に、長さ1.0mの辺と平行になるように定規を当てた。発泡ブロックの収縮によって厚み方向の端面が凹状に湾曲している場合、厚み方向の端面における2か所の外周端縁の両方に定規を当接させることができる。この場合には、定規に沿う線上における、定規と端面との隙間(つまり、厚さ方向における距離)の最大値を収縮量とした。
【0119】
以上の測定を、2か所の厚み方向の端面における、縦方向(つまり、長さ2.0mの辺に平行な方向)の中央と、縦方向の中央から0.5m離れた位置との計6か所について行った。そして、得られた収縮量のうち最も大きい値を表2~表5の「最大収縮量」欄に記載した。
【0120】
表面融着率の評価方法は以下の通りである。まず、ニクロム線を用い、厚さ方向に9等分となるように発泡ブロックをスライスし、9枚の薄板を作製した。これらの薄板のうち、発泡ブロックの厚み方向の端面を含む薄板を、縦方向に概ね等分となるように破断させた。次に、破断面に露出した発泡粒子のうち無作為に選択した100個以上の発泡粒子を目視により観察し、粒子内部で破断した発泡粒子(つまり、材料破壊した発泡粒子)であるか、発泡粒子同士の界面で破断した発泡粒子であるかを判別した。そして、観察した発泡粒子の総数に対する粒子内部で破断した発泡粒子の数の比率を百分率で表した値を、成形体表面における融着率とした。表2~表5の「表面融着率」欄に、実施例、比較例及び参考例の成形体表面における融着率を示す。
【0121】
内部融着率の評価方法は、発泡ブロックの厚み方向の中央に配置されていた薄板を用いる以外は前述した表面融着率の評価方法と同様である。表2~表5の「内部融着率」欄に、実施例、比較例及び参考例の成形体の内部における融着率を示す。
【0122】
曲げ強さの評価方法は以下の通りである。ます、ニクロム線を用い、発泡ブロックの中央部から、成形体の表面(スキン面)を含まないようにして、縦300mm、横75mm、厚み25mmの直方体状の試験片を3個採取した。これらの試験片を用いてJIS K 7221-1:2006に準拠した方法により3点曲げ試験を行い、最大曲げ応力(MPa)を測定した。なお、3点曲げ試験における支点間距離は200mmとした。表2~表5の「曲げ強さ」欄に、3個の試験片における最大曲げ応力の平均値を示す。
【0123】
「切削性」
以下の方法により算出した平滑率の値に基づいて切削性を評価した。まず、直径20mmのフラット刃を取り付けたNC切削機(庄田鉄工株式会社製:NCN8200)を用いて発泡ブロックの厚み方向における中央部が露出するように切削加工を施した。切削加工時のツールの回転数は10,000rpmとし、送り速度は8,000mm/分とした。
【0124】
3D形状測定機(キーエンス株式会社製「VR-3000」)を用い、上記の条件で切削した切削面をスーパーファインモードで観察し、深度合成を行うことにより切削面の三次元形状を再構成した。得られた三次元形状における、最も高い部分の高さよりも0.2mm以上陥没している領域を切削加工時に発泡粒子が脱落した領域とした。そして、視野の面積に対する発泡粒子が脱落した領域の面積率を100%から差し引いた値を、切削面の平滑率とした。表2~表5に、実施例、比較例及び参考例における切削面の平滑率を示す。
【0125】
「鋳造性」
鋳造性は、鋳造物の鋳肌、注湯時の様子及びススの量により評価した。まず、実施例の成形体から、成形体の表面(スキン面)を含まないようにして、縦150mm×横75mm×厚み40mmの直方体状を呈する試験体を作製した。
【0126】
この試験体を消失模型として用い、フルモールド鋳造法により金属の鋳造を行った。具体的には、まず、ジルコン系塗型剤を塗布した発泡ブロックを、湯道及び堰とともに鋳枠内に配置した。そして、鋳枠内に鋳型となる砂を充填した。砂としては、アルカリフェノールガス硬化バインダー樹脂(花王株式会社製 カオーステップ(登録商標)C-800)を使用した。
【0127】
次に、二酸化炭素ガスを鋳枠全体に行き渡るように充填し、砂を硬化させた。湯口と逃がし口を取り付けた後、溶融金属を湯口より流し込み、鋳込みを行った。なお、溶融金属としては、球状黒鉛鋳鉄(つまり、FCD)を使用した。鋳込み時の溶融金属の温度は約1400℃であった。鋳込みが完了した後、鋳枠内で金属が凝固することにより、発泡ブロックに対応した形状の鋳物が形成された。鋳枠内で鋳物の温度を十分に低下させた後、鋳物を鋳枠から取り出し、ショットブラスト処理を行った。
【0128】
・鋳肌の評価
鋳物を目視観察してスス欠陥の有無を評価した。なお、スス欠陥とは、鋳造時に発泡ブロック(すなわち、消失模型)の熱分解物がうまく排出されずに砂型内に残ることによって引き起こされる、鋳肌や鋳物の内部に生じた空洞やへこみのことである。スス欠陥がない場合や少ない場合は燃焼時にススの発生がほとんどないか少ないことを意味する。
【0129】
表2~表5の「鋳肌」欄には、鋳物がスス欠陥を有しない場合には記号「A」、鋳物にスス欠陥がわずかに見られる場合には記号「B」、鋳物にスス欠陥が見られる場合には記号「C」、鋳物にスス欠陥が顕著に見られる場合には記号「D」を記載した。
【0130】
・注湯時の様子
上記のようにして溶融金属を湯口に流し込んだ際の溶融金属の吹き返し、つまり、発泡ブロックから生じた熱分解ガスによって湯口から溶融金属が吹き出す現象の有無を目視で判断した。表2~表5の「注湯時の様子」欄には、吹き返しがない場合には記号「A」、わずかに吹き返しがある場合には記号「B」、吹き返しが激しい場合には記号「C」を記載した。
【0131】
・ススの量
発泡ブロックから、成形体の表面(スキン面)を含まないようにして、縦75mm×横25mm×厚さ25mmの寸法の試験片を切り出した。この試験片をクランプに水平に取り付け、試験片に炎を接触させた。このとき、発生したススの量を目視にて観察した。表2~表5の「スス量」欄には、ススの発生がほとんどない場合に記号「A」、ススの発生が少ない場合に記号「B」、ススの発生が多い場合に「C」を記載した。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
表2及び表3に示すように、実施例1~実施例8の発泡性樹脂粒子は、基材樹脂としてのアクリル系樹脂と、発泡剤とを含む樹脂粒子本体と、樹脂粒子本体の表面に付着した脂肪酸アマイドとを有している。また、実施例1~実施例8の発泡性樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子の表面には、5個/mm以上70個/mm以下のクラックが形成された。それ故、これらの発泡性樹脂粒子を用いて作製された発泡粒子は、型内成形の際に十分に二次発泡することができる。また、二次発泡により発泡粒子同士が融着した後においては、発泡粒子の気泡内に残存する発泡剤が気泡の外部へ放出されやすい。その結果、成形性を確保するとともに型内成形後の冷却時間を短縮し、短時間で発泡ブロックの形状を安定させることができる。
【0138】
一方、表4に示すように、比較例1及び比較例2においては、発泡後の発泡粒子に形成されるクラックの数が前記特定の範囲よりも少ない。そのため、これらの比較例においては、実施例1~実施例8に比べ、発泡ブロックの形状が安定するまでに長い時間を要した。
【0139】
比較例3においては、発泡後の発泡粒子に形成されるクラックの数が前記特定の範囲よりも多い。そのため、これらの比較例においては、型内成形中の発泡粒子の二次発泡性が不十分となり、発泡ブロックの表面の融着率及び内部の融着率の両方が低下した。
【0140】
表5に示すように、参考例1及び参考例2の発泡粒子は、基材樹脂としてスチレン系樹脂が用いられている。そのため、これらの発泡粒子から作製された消失模型は、鋳造中にススが発生しやすい。また、参考例1と参考例2との比較から、スチレン系樹脂を基材樹脂とする発泡粒子においては、脂肪酸アマイドによる冷却時間短縮の効果が得られないことが理解できる。
【符号の説明】
【0141】
1 アクリル系樹脂発泡粒子
2 クラック
図1