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特許7549261機器制御または異常検知システム、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】機器制御または異常検知システム、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20240904BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20240904BHJP
   F24F 11/89 20180101ALI20240904BHJP
   F24F 11/38 20180101ALI20240904BHJP
   F24F 140/00 20180101ALN20240904BHJP
【FI】
G06N20/00 130
F24F11/64
F24F11/89
F24F11/38
F24F140:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023058419
(22)【出願日】2023-03-31
【審査請求日】2024-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉見 学
(72)【発明者】
【氏名】岩名 壱征
(72)【発明者】
【氏名】山田 祥平
【審査官】宮司 卓佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-070115(JP,A)
【文献】特開2020-187516(JP,A)
【文献】特開平06-067705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
F24F 11/64
F24F 11/89
F24F 11/38
F24F 140/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機種の機器の制御または異常検知を行うシステムであって、
前記予測モデルの作成時に、複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを教師データとして機械学習し、
前記システムの運用時に、運用時の複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、前記仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを前記予測モデルに入力する、制御部を備えるシステム。
【請求項2】
前記制御部は、前記運転データの前記機器が装備する部品の機械的な特徴に基づく運転データの特性を補正する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記運転データの統計的な特徴に基づく運転データの特性を補正する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記運転データを、最小値を0、最大値を1にスケーリングして変換する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記運転データを、平均が0かつ分散が1にスケーリングしてZスコアに変換する、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記制御部は、前記運転データを、ロバストZスコアに変換する、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
前記制御部は、補正された運転データを再補正し、前記再補正された運転データを前記予測モデルに入力する、請求項1から6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機種の機器の制御または異常検知を行うシステムの制御部が実行する方法であって、
前記予測モデルの作成時に、複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを教師データとして機械学習し、
前記システムの運用時に、運用時の複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、前記仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを前記予測モデルに入力するステップ
を含む方法。
【請求項9】
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機種の機器の制御または異常検知を行うシステムの制御部に、
前記予測モデルの作成時に、複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを教師データとして機械学習し、
前記システムの運用時に、運用時の複数の異なる機種の各機種の機器の運転データの特性を、前記仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを前記予測モデルに入力すること
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機器制御または異常検知システム、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の運転データと予測モデルを用いて、機器の制御または異常検知を行うことが知られている。機器の特性が異なると(例えば、機器の種類が異なると)運転データの特性も異なるため、予測誤差が生じないように、各機器の特性に応じた予測モデルを作成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7152938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各機器の特性に応じた予測モデル(例えば、機器の種類ごとの予測モデル)を作成することは容易ではなかった。
【0005】
本開示では、機器ごとの専用の予測モデルを作成せずに、複数の異なる機器の制御または異常検知を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様によるシステムは、
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステムであって、
前記予測モデルの作成時に教師データとして使用される機器の運転データと、前記システムの運用時に前記予測モデルへの入力となる運用時の機器の運転データと、に対して、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性に近づけるように補正する制御部を備える。
【0007】
本開示の第1の態様によれば、機器ごとの専用の予測モデルを作成せずに、複数の異なる機器の制御または異常検知を行うことができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様に記載のシステムであって、
前記教師データが、前記複数の種類の機器のうちの一つの種類の機器の運転データであり、
前記制御部は、前記システムの運用時に前記教師データに使用した機器以外の機器の運転データの特性を前記教師データに使用した機器の運転データの特性と近づけるように補正する。
【0009】
本開示の第2の態様によれば、ある機器用に既に作成されている予測モデルを別の機器でも活用することができる。
【0010】
本開示の第3の態様は、第2の態様に記載のシステムであって、
前記運転データは、前記機器が装備する部品に関する指令値または状態量であり、
前記制御部は、前記指令値または前記状態量を前記部品の機械的な運転データの特性に基づいて補正する。
【0011】
本開示の第3の態様によれば、各機器が装備する部品の機械的な違いを補正することができる。
【0012】
本開示の第4の態様は、第3の態様に記載のシステムであって、
前記部品は、冷凍空調機器の膨張弁と、圧縮機と、送風機と、である。
【0013】
本開示の第4の態様によれば、各冷凍空調機の膨張弁と、圧縮機と、送風機と、の機械的な違いを補正することができる。
【0014】
本開示の第5の態様は、第2の態様に記載のシステムであって、
主成分分析により、前記教師データに使用した機器の運転データの確率楕円、および、前記教師データに使用した機器以外の機器の運転データの確率楕円を計算し、
前記教師データに使用した機器以外の機器の運転データの確率楕円を前記教師データに使用した機器の運転データの確率楕円に一致させるアフィン変換行列を計算し、前記教師データに使用した機器以外の機器の運転データを前記アフィン変換行列により補正する。
【0015】
本開示の第5の態様によれば、各機器が装備する部品の機械的な違いを補正するための情報がない場合でも、統計的な手法によりデータの違いを補正することができる。
【0016】
本開示の第6の態様は、第1の態様に記載のシステムであって、
前記複数の異なる機器の運転データの特性を補正のために一致させる対象となる前記他の機器の運転データの特性は、仮想の運転データの特性であり、
前記制御部は、
前記予測モデルの作成時に、機器の運転データの特性を、前記仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを教師データとして機械学習し、
前記システムの運用時に、運用時の機器の運転データの特性を、前記仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、前記補正された運転データを前記予測モデルに入力する。
【0017】
本開示の第6の態様によれば、複数の異なる機器の運転データを教師データとして用いた1つの予測モデルだけで、複数の異なる機器の制御または異常検知を行うことができる。
【0018】
本開示の第7の態様は、第6の態様に記載のシステムであって、
前記制御部は、前記運転データの前記機器が装備する部品の機械的な特徴に基づく運転データの特性を補正する。
【0019】
本開示の第7の態様によれば、各機器が装備する部品の機械的な特徴に基づき違いを補正することができる。
【0020】
本開示の第8の態様は、第6の態様に記載のシステムであって、
前記制御部は、前記運転データの統計的な特徴に基づく運転データの特性を補正する。
【0021】
本開示の第8の態様によれば、統計的な特徴に基づき違いを補正することができる。
【0022】
本開示の第9の態様は、第8の態様に記載のシステムであって、
前記制御部は、前記運転データを、最小値を0、最大値を1にスケーリングして変換する。
【0023】
本開示の第9の態様によれば、データの最小値と最大値の範囲が明確な場合に、補正の精度を向上させることができる。
【0024】
本開示の第10の態様は、第8の態様に記載のシステムであって、
前記制御部は、前記運転データを、平均が0かつ分散が1にスケーリングしてZスコアに変換する。
【0025】
本開示の第10の態様によれば、データに大きい外れ値が存在する場合でも、補正の精度を向上させることができる。
【0026】
本開示の第11の態様は、第8の態様に記載のシステムであって、
前記制御部は、前記運転データを、ロバストZスコアに変換する。
【0027】
本開示の第11の態様によれば、データが非正規分布の場合でも、補正の精度を向上させることができる。
【0028】
本開示の第12の態様は、第6の態様から第11の態様のいずれか一項に記載のシステムであって、
前記制御部は、補正された運転データを再補正し、前記再補正された運転データを前記予測モデルに入力する。
【0029】
本開示の第12の態様によれば、補正の精度を向上させることができる。
【0030】
本開示の第13の態様による方法は、
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステムの制御部が実行する方法であって、
前記予測モデルの作成時に機器の運転データを教師データとして使用する前と、前記システムの運用時の機器の運転データを前記予測モデルへ入力する前に、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性と近づけるように補正するステップ
を含む。
【0031】
本開示の第14の態様によるプログラムは、
教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステムの制御部に、
前記予測モデルの作成時に機器の運転データを教師データとして使用する前と、前記システムの運用時の機器の運転データを前記予測モデルへ入力する前に、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性と近づけるように補正すること
を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】膨張弁開度と流量比の関係の機器による違いについて説明するための図である。
図2】圧縮機の断熱効率の機器による違いについて説明するための図である。
図3】本開示の第1の実施形態の概要について説明するための図である。
図4】本開示の第2の実施形態の概要について説明するための図である。
図5】本開示の一実施形態に係る全体の構成を示す図である。
図6】本開示の一実施形態に係る学習装置および予測装置のハードウェア構成を示す図である。
図7】本開示の第1の実施形態について説明するための図である。
図8】本開示の第2の実施形態について説明するための図である。
図9】本開示の一実施形態に係る学習装置の制御部の機能ブロックを示す図である。
図10】本開示の一実施形態に係る予測装置の制御部の機能ブロックを示す図である。
図11】本開示の一実施形態に係る膨張弁開度の補正の例である。
図12】本開示の一実施形態に係る圧縮機回転数の補正の例である。
図13】本開示の一実施形態に係るアフィン変換による補正の例である。
図14】本開示の一実施形態に係る仮想的な膨張弁開度の特性の例である。
図15】本開示の一実施形態に係る膨張弁開度の補正の例である。
図16】本開示の一実施形態に係る統計的処理による補正の例である。
図17】本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
図18】本開示の一実施形態に係る予測処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面に基づいて本開示の実施の形態を説明する。
【0034】
まず、図1図2を参照しながら、機器による運転データの特性の違いについて説明する。機器(例えば、冷凍空調装置)Aと機器(例えば、冷凍空調装置)Bで膨張弁や圧縮機の種類が異なると、膨張弁開度と流量比の関係や圧縮機の断熱効率が異なる。
【0035】
図1は、膨張弁開度と流量比の関係の機器による違いについて説明するための図である。図1は、機器Aの膨張弁(膨張弁A)の膨張弁開度(%)と流量比(%/sec)の関係、および、機器Bの膨張弁(膨張弁B)の膨張弁開度(%)と流量比(%/sec)の関係を示す。図1に示されるように、同流量比(例えば、50%/sec)に対する膨張弁開度に差がある(膨張弁Aでは50%、膨張弁Bでは30%)。このように、機器ごとに膨張弁開度に違いが生じる。
【0036】
図2は、圧縮機の断熱効率の機器による違いについて説明するための図である。図2は、機器Aの圧縮機(圧縮機A)のp-h線図、および、機器Bの圧縮機(圧縮機B)のp-h線図を示す。図2に示されるように、圧縮機Aと圧縮機Bの断熱効率に差があると、凝縮圧力と蒸発圧力が同じ条件であっても圧縮機Aと圧縮機Bで、吐出温度や吐出過熱度に違いが生じる。
【0037】
<概要>
図3を参照しながら第1の実施形態の概要について説明し、図4を参照しながら第2の実施形態について説明する。機器の一例である冷凍空調装置の運転データ(例えば、膨張弁開度と吐出過熱度)用いる場合を説明する。
【0038】
[第1の実施形態]
図3は、本開示の第1の実施形態の概要について説明するための図である。
【0039】
図3の[補正前]は、機器Aの膨張弁開度と吐出過熱度の分布、および、機器B(なお、機器Aの特性と機器Bの特性は異なる(例えば、機器Aの機種と機器Bの機種は異なる))の膨張弁開度と吐出過熱度の分布を示す。
【0040】
第1の実施形態では、図3の[補正後]に示されるように、機器Bの運転データの特性が機器Aの運転データの特性に近づくように、機器Bの運転データ(膨張弁開度と吐出過熱度)を補正する。
【0041】
[第2の実施形態]
図4は、本開示の第2の実施形態の概要について説明するための図である。
【0042】
図4の[補正前]は、機器Aの膨張弁開度と吐出過熱度の分布、および、機器B(なお、機器Aの特性と機器Bの特性は異なる(例えば、機器Aの機種と機器Bの機種は異なる))の膨張弁開度と吐出過熱度の分布を示す。
【0043】
第2の実施形態では、図4の[補正後]に示されるように、機器Aの運転データの特性が仮想的な運転データの特性に近づくように、機器Aの運転データ(膨張弁開度と吐出過熱度)を補正する、かつ、機器Bの運転データの特性が仮想的な運転データの特性に近づくように、機器Bの運転データ(膨張弁開度と吐出過熱度)を補正する。
【0044】
<全体の構成>
図5は、本開示の一実施形態に係る全体の構成を示す図である。機器制御・異常検知システム(以下、単に"システム"ともいう)1は、学習装置10と、予測装置20と、を含むことができる。なお、図5では、学習装置10と予測装置20を別々の装置として示しているが、学習装置10と予測装置20を一つの装置としてもよい。以下、それぞれについて説明する。
【0045】
<<機器制御・異常検知システム>>
機器制御・異常検知システム1は、機器30を制御する、あるいは、機器30の異常を検知するシステムである。なお、本明細書では、機器30の冷媒の漏洩を検知する場合を説明するが、冷媒の漏洩の検知に限定されず、本開示は、任意の制御あるいは任意の異常の検知に適用することができる。
【0046】
<<学習装置>>
学習装置10は、機器30の運転データが入力されると、機器30を制御するための情報あるいは機器30の異常を検知するための情報(例えば、機器30の冷媒量(漏洩量あるいは保有量))が出力される予測モデルを作成する装置である。学習装置10は、1つまたは複数のコンピュータから構成される。学習装置10に入力される運転データは、例えば図示しない記憶装置に蓄積されている機器30の過去の運転データである。
【0047】
<<予測装置>>
予測装置20は、学習装置10が作成した予測モデルに、機器30の運転データを入力して、機器30を制御するための情報あるいは機器30の異常を検知するための情報(例えば、機器30の冷媒量(漏洩量あるいは保有量))を出力して、機器30を制御する、あるいは、機器30の異常を検知する。予測装置20は、1つまたは複数のコンピュータから構成される。予測装置20に入力される運転データは、例えば稼働中の機器30から取得したリアルタイムの運転データである。
【0048】
<<機器>>
機器30は、任意の機器であってよい。例えば、機器30は、セントラル空調システムの熱源装置である冷水チラーである。冷水チラーは、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続し、当該配管の内部を冷媒が循環する冷媒回路を有する。冷水チラーは、膨張弁の開度を変化させることで圧縮機の吸入過熱度または吐出過熱度を一定値に制御する。冷水チラーの蒸発器には、冷媒配管と別に水配管が接続されている。蒸発器は、低温の冷媒と水を熱交換させることで冷水を作る。空冷式の冷水チラーの場合、凝縮器から屋外の空気に排熱する。
【0049】
例えば、セントラル空調システムは、熱源装置である冷水チラーと室内に設置されるファンコイル含む。冷水チラーとファンコイルは水配管で接続されている。セントラル空調システムは、冷水チラーの蒸発器からファンコイルに冷水を供給し、冷水を室内の空気と熱交換させることで室内を冷房する。セントラル空調システムは、ファンコイルで熱交換して温度が上昇した水を再び冷水チラーの蒸発器へ戻して再度冷却することで、継続して室内を冷房する。
【0050】
<<運転データ>>
運転データは、機器30の運転中に取得可能なデータである。例えば、運転データは、機器30が装備する部品に関する制御指令値、または、機器30に関する、温度、圧力、電流等の状態量である。例えば、部品は、冷凍空調機器の膨張弁と、圧縮機と、送風機と、の少なくとも1つを含む。
【0051】
<ハードウェア構成>
図6は、本開示の一実施形態に係る学習装置10および予測装置20のハードウェア構成を示す図である。学習装置10および予測装置20は、制御部1001と、主記憶部1002と、補助記憶部1003と、入力部1004と、出力部1005と、インタフェース部1006と、を備えることができる。以下、それぞれについて説明する。
【0052】
制御部1001は、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを実行するプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)など)である。
【0053】
主記憶部1002は、不揮発性メモリ(ROM(Read Only Memory))および揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))を含む。ROMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを制御部1001が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する。RAMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムが制御部1001によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0054】
補助記憶部1003は、各種プログラムや、各種プログラムが実行される際に用いられる情報を格納する補助記憶デバイスである。
【0055】
入力部1004は、学習装置10および予測装置20の操作者が学習装置10および予測装置20に対して各種指示を入力する入力デバイスである。
【0056】
出力部1005は、学習装置10および予測装置20の内部状態等を出力する出力デバイスである。
【0057】
インタフェース部1006は、ネットワークに接続し、他の装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0058】
[第1の実施形態]
図7は、本開示の第1の実施形態について説明するための図である。機器Aと機器Bは、特性が異なる機器(例えば、機器Aの機種と機器Bの機種が異なる、機器Aが機器Bの旧機種である等)である。
【0059】
例えば、教師データは、冷凍空調装置の冷媒量(冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))、膨張弁の開度、圧縮機の吐出過熱度、冷凍空調装置の負荷率である。例えば、予測モデルは、運転データ(膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)が入力されると、冷媒量を予測する。
【0060】
[学習]
学習時には、教師データである機器Aのデータを用いて予測モデル(つまり、機器A用予測モデル)が作成される。
【0061】
[予測]
・機器Aの予測時には、運用中の機器Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、[学習]で作成した予測モデルに入力して、冷媒量を予測する。
・機器Bの予測時には、運用中の機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、機器Bの運転データの特性が機器Aの運転データの特性に近くづくように補正する。そして、補正後の機器Bの運転データを、[学習]で作成した予測モデルに入力して、冷媒量を予測する。
【0062】
このように、第1の実施形態では、機器Bの運転データの特性が機器Aの運転データ(つまり、予測モデルの教師データである機器の運転データ)の特性に近づくように、機器Bの運転データを補正したうえで、機器Aのデータを用いて作成された予測モデルに入力する。
【0063】
[第2の実施形態]
図8は、本開示の第2の実施形態について説明するための図である。機器Aと機器Bは、特性が異なる機器(例えば、機器Aの機種と機器Bの機種は異なる)である。なお、図8では、機器Aと機器Bの2つを示しているが、機器A、機器B、機器C、・・・と3つ以上でもよい。
【0064】
例えば、教師データは、冷凍空調装置の冷媒量(冷媒の漏洩量(漏洩している量)または冷媒の保有量(保有している量))、膨張弁の開度、圧縮機の吐出過熱度、冷凍空調装置の負荷率である。例えば、予測モデルは、運転データ(膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)が入力されると、機器の冷媒量が予測される。
【0065】
[学習]
学習時には、教師データである機器Aのデータと機器Bのデータを用いて予測モデルが作成される。
・機器Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、機器Aの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように補正する。
・機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、機器Bの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように補正する。
・そして、補正後の機器Aの運転データと補正後の機器Bの運転データを用いて予測モデルが作成される。
【0066】
[予測]
・機器Aの予測時には、運用中の機器Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、機器Aの運転データの特性が仮想の運転データの特性([学習]時と同じ仮想の運転データの特性)に近くづくように補正する。そして、補正後の機器Aの運転データを、[学習]で作成した予測モデルに入力して、冷媒量を予測する。
・機器Bの予測時には、運用中の機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を、機器Bの運転データの特性が仮想の運転データの特性([学習]時と同じ仮想の運転データの特性)に近くづくように補正する。そして、補正後の機器Bの運転データを、[学習]で作成した予測モデルに入力して、冷媒量を予測する。
【0067】
なお、仮想の運転データとは、実在する機器(この例では、機器Aおよび機器B)の運転データではなく、仮想的な運転データである。機器Aの学習時、機器Bの学習時、機器Aの予測時、機器Bの予測時に用いられる仮想データは、同じ仮想データである。
【0068】
このように、第2の実施形態では、機器Aと機器Bの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように、機器Aと機器Bの運転データを補正する。補正後の機器Aおよび機器Bの運転データを用いて予測モデルを作成し、補正後の機器Aまたは機器Bの運転データを当該予測モデルに入力する。
【0069】
<機能ブロック>
図9は、本開示の一実施形態に係る学習装置10の制御部1001の機能ブロックを示す図である。制御部1001は、教師データ取得部101と、補正部102と、学習部103と、を備えることができる。制御部1001は、プログラムを実行することによって、教師データ取得部101、補正部102、学習部103、として機能することができる。
【0070】
教師データ取得部101は、教師データを取得する。
【0071】
[第1の実施形態]の場合、教師データ取得部101は、機器(例えば、冷凍空調装置)Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)、および、冷媒量(漏洩量または保有量)を取得する。
【0072】
[第2の実施形態]の場合、教師データ取得部101は、機器(例えば、冷凍空調装置)Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)および冷媒量(漏洩量または保有量)、および、機器Bの運転データおよび冷媒量を取得する。
【0073】
補正部102は、教師データ取得部101が取得したデータのうち、[第1の実施形態]の場合、一部の機器の運転データを補正し、[第2の実施形態]の場合、全部の機器の運転データを補正する。
【0074】
[第2の実施形態]の場合、補正部102は、機器Aの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように、機器Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を補正する。また、補正部102は、機器Bの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように、機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を補正する。
【0075】
学習部103は、機器30の運転データが入力されると機器30の冷媒量が出力される予測モデルを作成する。学習装置10は、機械学習して予測モデルのパラメータを決定する。
【0076】
[第1の実施形態]の場合、学習部103は、教師データ取得部101が取得した機器Aの運転データおよび冷媒量を用いて、予測モデルを作成する。
【0077】
[第2の実施形態]の場合、学習部103は、補正部102が補正した機器Aの運転データおよび機器Bの運転データ、および、教師データ取得部101が取得した機器Aの冷媒量および機器Bの冷媒量を用いて、予測モデルを作成する。
【0078】
図10は、本開示の一実施形態に係る予測装置20の制御部1001の機能ブロックを示す図である。制御部1001は、運転データ取得部201と、補正部202と、予測部203と、を備えることができる。制御部1001は、プログラムを実行することによって、運転データ取得部201、補正部202、予測部203、として機能することができる。
【0079】
運転データ取得部201は、運用中の機器30の運転データを取得する。
【0080】
[第1の実施形態]の場合、運転データ取得部201は、機器(例えば、冷凍空調装置)Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)または機器Bの運転データを取得する。
【0081】
[第2の実施形態]の場合、運転データ取得部201は、機器(例えば、冷凍空調装置)Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)または機器Bの運転データを取得する。
【0082】
補正部202は、運転データ取得部201が取得したデータのうち、[第1の実施形態]の場合、一部の機器の運転データを補正し、[第2の実施形態]の場合、全部の機器の運転データを補正する。
【0083】
[第1の実施形態]の場合、補正部202は、機器Bの運転データの特性が機器Aの運転データの特性に近づくように、機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を補正する。
【0084】
[第2の実施形態]の場合、補正部202は、機器Aの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように、機器Aの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を補正する。また、補正部102は、機器Bの運転データの特性が仮想の運転データの特性に近づくように、機器Bの運転データ(例えば、膨張弁開度および吐出過熱度および負荷率)を補正する。
【0085】
予測部203は、機器30の運転データを予測モデルに入力して機器30の冷媒量を予測する。
【0086】
[第1の実施形態]の場合、予測部203は、運転データ取得部201が取得した機器Aの運転データを予測モデルに入力して機器Aの冷媒量を予測する。また、予測部203は、補正部202が補正した機器Bの運転データを予測モデルに入力して機器Bの冷媒量を予測する。
【0087】
[第2の実施形態]の場合、予測部203は、補正部202が補正した機器Aの運転データを予測モデルに入力して機器Aの冷媒量を予測する。また、予測部203は、補正部202が補正した機器Bの運転データを予測モデルに入力して機器Bの冷媒量を予測する。
【0088】
以下、補正の例を説明する。
【0089】
学習装置10および予測装置20は、任意の手法で運転データを補正することができる。
【0090】
例えば、学習装置10および予測装置20は、機械学習により作成されたモデル(詳細には、補正前の運転データが入力されると補正後の運転データが出力されるモデル)を用いて運転データを補正することができる。
【0091】
例えば、学習装置10および予測装置20は、回帰式(詳細には、補正前の運転データが入力されると補正後の運転データが算出される回帰式)を用いて運転データを補正することができる。
【0092】
例えば、学習装置10および予測装置20は、マップ(詳細には、補正前の運転データと補正後の運転データとの対応関係を定めたルール)を用いて運転データを補正することができる。
【0093】
まず、本開示の第1の実施形態の例として膨張弁開度の補正について説明する。
【0094】
図11は、仕様の異なる機器Aと機器Bが備える膨張弁の開度(pls)と流量(%)の関係を示す。2つの膨張弁は、100%の最大流量時の膨張弁開度が異なっている。そのため、ある中間流量y%の時の機器A、Bのそれぞれの膨張弁開度が、x1、x2であり異なる値になっている。例えば、機器Aの膨張弁開度と流量データで学習した予測モデルを機器Bで使用する場合、x2をx1に補正してから入力する必要がある。そのためには、x2をx1に補正する補正式を求める必要がある。
【0095】
x2をx1に補正する補正式は、機器Aと機器Bの膨張弁の機械的な特性から求めることができる。機器Aと機器Bの膨張弁開度に対する流量特性Q1とQ2が既知の場合、以下のようになる。
機器Aの膨張弁開度:x1
機器Bの膨張弁開度:x2
機器Aの膨張弁流量特性:Q1=k1・x1^2
機器Bの膨張弁流量特性:Q2=k2・x2
Q1=Q2とすると、式(1)が成り立つ。
【0096】
【数1】
【0097】
機器Bの補正後の膨張弁開度をx2´とすると、式(1)のx1をx2´で置き換えるとx2の補正式である式(2)が導き出される。
【0098】
【数2】
【0099】
このように、運転データが、機器30が装備する部品に関する指令値または状態量である場合、当該部品の機械的な運転データの特性に基づいて、運転データを補正することができる。
【0100】
次に、本開示の別の一実施形態に係る圧縮機回転数の補正の例を説明する。
【0101】
図12は、仕様の異なる機器Aと機器Bが備える圧縮機の回転数(rps)と冷凍能力(%)の関係を示す。2つの機器は、冷凍能力が最大である100%の時の圧縮機回転数が異なっている。そのため、ある中間冷凍能力y%の時の機器A、Bのそれぞれの圧縮機回転数が、x1、x2であり異なる値になっている。例えば、機器Aの圧縮機回転数と冷凍能力のデータで学習した予測モデルを機器Bで使用する場合、x2をx1に補正してから入力する必要がある。そのためには、x2をx1に補正する補正式を求める必要がある。
【0102】
x2をx1に補正する補正式は、機器Aと機器Bの圧縮機の機械的な特性から求めることができる。機器Aと機器Bの圧縮機回転数に対する冷凍能力W1とW2が既知の場合、以下のようになる。
機器Aの圧縮機回転数:x1
機器Bの圧縮機回転数:x2
機器Aの冷凍能力:W1=k1・x1
機器Bの冷凍能力:W2=k2・x2
機器Bの補正後の圧縮機回転数:x2´
W1=W2とすると、式(3)が成り立つ。式(3)から、x2の補正式である式(4)が導き出される。
x1=(k2/k1)・x2 式(3)
x2´=(k2/k1)・x2 式(4)
【0103】
このように、運転データが、機器30が装備する部品に関する指令値または状態量である場合、当該部品の機械的な運転データの特性に基づいて、運転データを補正することができる。
【0104】
図13は、本開示の一実施形態に係るアフィン変換による補正の例である。下記のように、アフィン変換により運転データを補正することができる。
・主成分分析により、教師データに使用した機器(機器A)の運転データの確率楕円、および、教師データに使用した機器以外の機器(機器B)の運転データの確率楕円を計算する(図13の左図)。
・次に、教師データに使用した機器以外の機器(機器B)の運転データの確率楕円を教師データに使用した機器(機器A)の運転データの確率楕円に一致させるアフィン変換行列を計算する。
・次に、教師データに使用した機器以外の機器(機器B)の運転データをアフィン変換行列により補正する(図13の右図)。
【0105】
【数3】
【0106】
式(5)は、アフィン変換行列を示す。なお、λは拡大・縮小率、θは回転角度、Tx、Tyは、x、y方向の平行移動である。
【0107】
なお、線形変換(上記のアフィン変換)ではなく、非線形変換(格子点の移動およびB-スプライン補間)を用いてもよい。
【0108】
次に、第2の実施形態の場合の補正の例を説明する。本開示の一実施形態に係る膨張弁開度の補正の例として、図11に示す仕様の異なる機器Aと機器Bの膨張弁を用いる。
【0109】
図14は、仮想的な膨張弁の膨張弁開度(%)に対する流量Q(%)の特性を示す。この膨張弁の流量は、膨張弁開度に比例し、膨張弁開度が100%の時に流量が最大の100%になる。本実施形態では、機器Aと機器Bと膨張弁の開度特性を前記の仮想的な膨張弁の開度特性と一致するように補正する。
【0110】
図15の上図は、機器Aと機器Bが備える膨張弁の膨張弁開度(pls)を、膨張弁の最大開度を100%とし、%表示にスケール変換したものである。この変換により、機器A、B共に、膨張弁開度が100%の時は、流量が最大の100%となっている。機器Bの場合、流量が膨張弁開度に比例しているため、この変換だけで膨張弁開の特性が仮想的な膨張弁の特性と一致するように補正されている。
【0111】
それに対して機器Aは、流量と膨張弁開度が非線形な関係であるため、膨張弁開度を%表示に変換するだけでは、仮想的な膨張弁の特性と一致しない。そこで、図15の下図に示すように、機器Aの膨張弁開度を%表示に変換した後、流量に対する非線形な特性を線形化する補正を実施することで、仮想的な膨張弁の特性と一致させることができる。そのような補正は、機器Aの膨張弁開度(pls)と流量(%)の関係式が既知であれば、まず関係式の膨張弁開度を%表示に変更した式の逆関数を求め、その逆関数に機器Aの値を入力することで容易に実施可能である。
【0112】
このように、運転データの機器が装備する部品の機械的な特徴に基づく運転データの特性を補正することができる。
【0113】
図16は、本開示の一実施形態に係る統計的処理による補正の例である。機器Aの運転データの分布、機器Bの運転データの分布、機器Cの運転データの分布、・・・が仮想的な分布に近づくように、各機器(つまり、機器A、機器B、機器C、・・・)の運転データを補正することができる。なお、機器の運転データの分布は、正規分布であってもよいし、非正規分布であってもよい。以下、具体例を説明する。
【0114】
例えば、各機器の運転データを、最小値を0、最大値を1にスケーリングして変換する(つまり、正規化)ことで、補正することができる。各機器の運転データの分布が外れ値がなく一様分布とみなせる場合に適している。
【0115】
例えば、各機器の運転データを、平均が0かつ分散が1にスケーリングしてZスコアに変換することで、補正することができる。各機器の運転データの分布が正規分布とみなせる場合に適している。
【0116】
例えば、各機器の運転データを、ロバストZスコアに変換することで、補正することができる。各機器の運転データの分布が非正規分布である場合に適している。
【0117】
[再補正]
例えば、補正部202が、補正された運転データを再補正し、予測部203が、再補正された運転データを予測モデルに入力してもよい。具体的には、図16に示す機器A、B、Cのように非正規分布(ピークが左右に偏っている、複数のピークを持つ等)である運転データに対しては、各手法(例えば、対数変換、指数変換、Box-Cox変換)を用いて非正規分布から正規分布に補正する。例えば、機器A、B、Cの運転データを非正規分から正規分布に補正した場合、補正後の分布は正規分布であっても、それぞれの平均と分散が異なるため、分布の形状は一致しない。そこで、正規分布に補正された運転データをzスコアに変換することで再補正すれば、それぞれの正規分布の形が一致して等価な運転データとして扱うことが可能になる。
【0118】
<方法>
図17を参照しながら学習処理の方法について説明し、図18を参照しながら予測処理の方法について説明する。
【0119】
[学習処理]
図17は、本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
【0120】
ステップ101(S101)において、学習装置10は、教師データを取得する。
【0121】
ステップ102(S102)において、学習装置10は、機器30の運転データを補正する。
【0122】
ステップ103(S103)において、学習装置10は、予測モデルを作成する。
【0123】
[第1の実施形態]
上記の第1の実施形態の場合を説明する。
・学習装置10は、教師データ(詳細には、機器の運転データ(例えば、機器Aの運転データ)、および、機器を制御するための情報あるいは機器の異常を検知するための情報(例えば、機器Aの冷媒量))を取得する。
・次に、学習装置10は、取得した教師データを用いて予測モデルを作成する。
【0124】
[第2の実施形態]
上記の第2の実施形態の場合を説明する。
・学習装置10は、教師データ(詳細には、機器の運転データ(例えば、機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・)、および、機器を制御するための情報あるいは機器の異常を検知するための情報(例えば、機器Aの冷媒量、機器Bの冷媒量、・・・))を取得する。
・次に、学習装置10は、取得した機器の運転データ(機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・)の特性を仮想の運転データの特性に近づけるように、取得した機器の運転データ(機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・)を補正する。
・次に、学習装置10は、補正した機器の運転データ(つまり、機器Aの補正後の運転データ、機器Bの補正後の運転データ、・・・)、および、機器を制御するための情報あるいは機器の異常を検知するための情報(機器Aの冷媒量、機器Bの冷媒量、・・・)を用いて予測モデルを作成する。
【0125】
[予測処理]
図18は、本開示の一実施形態に係る予測処理のフローチャートである。
【0126】
ステップ201(S201)において、予測装置20は、運用中の機器30の運転データを取得する。
【0127】
ステップ202(S202)において、予測装置20は、S201で取得した機器30の運転データを補正する。
【0128】
ステップ203(S203)において、予測装置20は、S202で補正した機器30の運転データを予測モデルに入力して冷媒量を予測する。
【0129】
[第1の実施形態]
上記の第1の実施形態の場合を説明する。
・予測装置20は、運用中の機器の運転データ(例えば、機器Bの運転データ)を取得する。
・次に、予測装置20は、取得した機器の運転データ(つまり、機器Bの運転データ)の特性を予測モデルの教師データである機器の運転データ(つまり、機器Aの運転データ)の特性に近づくように、取得した機器の運転データ(つまり、機器Bの運転データ)を補正する。
・次に、予測装置20は、補正した機器の運転データ(つまり、機器Bの運転データ)を予測モデル(機器Aの運転データを教師データとして用いて作成された予測モデル)に入力して冷媒量を予測する。
【0130】
[第2の実施形態]
上記の第2の実施形態の場合を説明する。
・予測装置20は、運用中の機器の運転データ(例えば、機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・のいずれかの機器の運転データ)を取得する。
・次に、予測装置20は、取得した機器の運転データ(つまり、機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・のいずれかの機器の運転データ)の特性を仮想の運転データの特性に近づけるように、取得した機器の運転データ(つまり、機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・のいずれかの機器の運転データ)を補正する。
・次に、予測装置20は、補正した機器の運転データ(つまり、機器Aの運転データ、機器Bの運転データ、・・・のいずれかの機器の補正後の運転データ)を予測モデル(機器Aの補正後の運転データ、機器Bの補正後の運転データ、・・・を教師データとして用いて作成された予測モデル)に入力して冷媒量を予測する。
【0131】
以上、本開示の実施形態によれば、教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステム1であって、予測モデルの作成時に教師データとして使用される機器の運転データと、システム1の運用時に予測モデルへの入力となる運用時の機器の運転データと、に対して、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性に近づけるように補正する制御部1001を備えるシステム1を提供することができる。
【0132】
これにより、機器ごとの専用の予測モデルを作成せずに、複数の異なる機器の制御または異常検知を行うことができる 。
【0133】
好ましくは、教師データが、複数の種類の機器のうちの一つの種類の機器(例えば、旧機種の機器)の運転データであり、制御部1001は、システム1の運用時に教師データに使用した機器以外の機器(例えば、新機種の機器)の運転データの特性を教師データに使用した機器(例えば、旧機種の機器)の運転データの特性と近づけるように補正する。これにより、ある機器(例えば、旧機種の機器)用に既に作成されている予測モデルを別の機器(例えば、新機種の機器)でも活用することができる。
【0134】
好ましくは、運転データは、機器が装備する部品に関する指令値または状態量であり、制御部1001は、指令値または状態量を部品の機械的な運転データの特性に基づいて補正する。これにより、各機器が装備する部品の機械的な違いを補正することができる。
【0135】
好ましくは、部品は、冷凍空調機器の膨張弁と、圧縮機と、送風機と、である。これにより、各冷凍空調機の膨張弁と、圧縮機と、送風機と、の機械的な違いを補正することができる。
【0136】
好ましくは、主成分分析により、教師データに使用した機器の運転データの確率楕円、および、教師データに使用した機器以外の機器の運転データの確率楕円を計算し、教師データに使用した機器以外の機器の運転データの確率楕円を教師データに使用した機器の運転データの確率楕円に一致させるアフィン変換行列を計算し、教師データに使用した機器以外の機器の運転データをアフィン変換行列により補正する。これにより、各機器が装備する部品の機械的な違いを補正するための情報がない場合でも、統計的な手法によりデータの違いを補正することができる。
【0137】
好ましくは、複数の異なる機器の運転データの特性を補正のために一致させる対象となる他の機器の運転データの特性は、仮想の運転データの特性であり、制御部1001は、予測モデルの作成時に、機器(例えば、機器A、機器B、・・・)の運転データの特性を、仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、補正された運転データを教師データとして機械学習し、システム1の運用時に、運用時の機器(例えば、機器A、機器B、・・・)の運転データの特性を、仮想の運転データの特性に近づけるように補正して、補正された運転データを予測モデルに入力する。これにより、複数の異なる機器(例えば、機器A、機器B、・・・)の運転データを教師データとして使用した1つの予測モデルだけで、複数の異なる機器(例えば、機器A、機器B、・・・)の制御または異常検知を行うことができる。
【0138】
好ましくは、制御部1001は、運転データの機器が装備する部品の機械的な特徴に基づく運転データの特性を補正する。これにより、各機器が装備する部品の機械的な特徴の違いを補正することができる。
【0139】
好ましくは、制御部1001は、運転データの統計的な特徴に基づく運転データの特性を補正する。これにより、統計的な特徴の違いを補正することができる。
【0140】
好ましくは、制御部1001は、運転データを、最小値を0、最大値を1にスケーリングして変換する。これにより、データの最小値と最大値の範囲が明確な場合に、補正の精度を向上させることができる。
【0141】
好ましくは、制御部1001は、運転データを、平均が0かつ分散が1にスケーリングしてZスコアに変換する。これにより、データに大きい外れ値が存在する場合でも、補正の精度を向上させることができる。
【0142】
好ましくは、制御部1001は、運転データを、ロバストZスコアに変換する。これにより、データが非正規分布の場合でも、補正の精度を向上させることができる。
【0143】
好ましくは、制御部1001は、補正された運転データを再補正し、再補正された運転データを予測モデルに入力する。これにより、補正の精度を向上させることができる。
【0144】
本開示の実施形態によれば、教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステム1の制御部1001が実行する方法であって、予測モデルの作成時に機器の運転データを教師データとして使用する前と、システム1の運用時の機器の運転データを予測モデルへ入力する前に、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性と近づけるように補正するステップを含む方法を提供することができる。
【0145】
本開示の実施形態によれば、教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステム1の制御部1001に、予測モデルの作成時に機器の運転データを教師データとして使用する前と、システム1の運用時の機器の運転データを予測モデルへ入力する前に、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性と近づけるように補正することを実行させるプログラムを提供することができる。
【0146】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0147】
1 機器制御・異常検知システム
10 学習装置
20 予測装置
30 機器
101 教師データ取得部
102 補正部
103 学習部
201 運転データ取得部
202 補正部
203 予測部
1001 制御部
1002 主記憶部
1003 補助記憶部
1004 入力部
1005 出力部
1006 インタフェース部
【要約】
【課題】機器ごとの専用の予測モデルを作成せずに、複数の異なる機器の制御または異常検知を行う。
【解決手段】本開示の一実施形態であるシステムは、教師データを用いて学習した予測モデルを用いて複数の異なる機器の制御または異常検知を行うシステムであって、前記予測モデルの作成時に教師データとして使用される機器の運転データと、前記システムの運用時に前記予測モデルへの入力となる運用時の機器の運転データと、に対して、一部の機器または全部の機器の運転データの特性を、他の機器の運転データの特性に近づけるように補正する制御部を備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18