(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】積層接合材料、半導体パッケージおよびパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
H01L21/52 E
(21)【出願番号】P 2023517449
(86)(22)【出願日】2022-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2022017980
(87)【国際公開番号】W WO2022230697
(87)【国際公開日】2022-11-03
【審査請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2021076312
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】亀田 直人
(72)【発明者】
【氏名】出井 寛大
(72)【発明者】
【氏名】▲土▼屋 政人
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-139000(JP,A)
【文献】特開2015-133396(JP,A)
【文献】国際公開第2016/079881(WO,A1)
【文献】特許第5285079(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、
基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、
第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、
前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmであ
り、
前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である、積層接合材料。
【請求項2】
前記鉛フリーはんだのヤング率が55GPa以上である、請求項
1に記載の積層接合材料。
【請求項3】
前記基材は、格子間隔が2.0mm以上のメッシュ形状を有する、請求項1
または2に記載の積層接合材料。
【請求項4】
前記基材の線膨張係数が5.9~14.4ppm/Kである、請求項1~
3のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項5】
前記基材の線膨張係数が7.0~11.6ppm/Kである、請求項
4に記載の積層接合材料。
【請求項6】
前記基材の線膨張係数が7.7~9.9ppm/Kである、請求項
2に記載の積層接合材料。
【請求項7】
前記基材は、Cu-W基材料、Cu-Mo基材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料、Cu-W基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-Mo基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料のいずれかからなる、請求項1~
6のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項8】
前記基材のCu含有量が、60%以下である、請求項1~
7のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項9】
前記基材のCu含有量が、15%以上である、請求項1~
8のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項10】
前記第1はんだ部および第2はんだ部のうちの少なくとも一方と前記基材との界面が、前記基材側から順にNi、Snにより下地処理されている、請求項1~
9のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項11】
前記基材と前記第1はんだ部の厚さの比と、前記基材と前記第2はんだ部の厚さの比のうちの少なくとも一方が、2:1~10:1である、請求項1~
10のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項12】
前記鉛フリーはんだの融点が、210℃以上である、請求項1~
11のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項13】
前記鉛フリーはんだの融点が、230℃以上である、請求項1~
12のいずれかに記載の積層接合材料。
【請求項14】
基板と、前記基板上に配置された半導体素子と、前記基板と前記半導体素子との間に配置され、前記基板と前記半導体素子とを接合する積層接合材料と、を備え、
前記積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmであ
り、
前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である、半導体パッケージ。
【請求項15】
基板と、前記基板上に配置された半導体素子と、前記基板と前記半導体素子との間に配置され、前記基板と前記半導体素子とを接合する第1積層接合材料と、前記基板の前記半導体素子とは逆側に配置された放熱部と、前記基板と前記放熱部との間に配置され、前記基板と前記放熱部とを接合する第2積層接合材料と、を備え、
前記第1積層接合材料と前記第2積層接合材料のうちの少なくとも一方は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmであ
り、
前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である、半導体パッケージ。
【請求項16】
基板と、前記基板上に配置されたパワー半導体素子と、前記基板と前記パワー半導体素子との間に配置され、前記基板と前記パワー半導体素子とを接合する積層接合材料と、を備え、
前記積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmであ
り、
前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である、パワーモジュール。
【請求項17】
基板と、前記基板上に配置されたパワー半導体素子と、前記基板と前記パワー半導体素子との間に配置され、前記基板と前記パワー半導体素子とを接合する第1積層接合材料と、前記基板の前記パワー半導体素子とは逆側に配置された放熱部と、前記基板と前記放熱部との間に配置され、前記基板と前記放熱部とを接合する第2積層接合材料と、を備え、
前記第1積層接合材料と前記第2積層接合材料のうちの少なくとも一方は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmであ
り、
前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である、パワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、積層接合材料、半導体パッケージおよびパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、半導体素子はその要求特性が高くなり、従来半導体素子材料として使用されてきたSiに加えて、SiC、GaAs、GaNなども使用されるようになっている。これらの材料を用いた半導体素子は、動作温度の上昇を図ることができ、バンドギャップが拡大するなどの優れた特性を備えており、パワートランジスタなどのパワー半導体素子に適用されている。
【0003】
パワー半導体素子は、高温動作が可能であり、接合部のはんだ継手が200℃以上の高温に達することがある。このような高温環境下では、半導体素子と基板との間の接合部において、半導体素子と基板のCTE(Coefficient of Thermal Expansion;熱膨張率)の差による歪みが生じ、その歪みからクラックが発生し、結果としてパワー半導体製品の寿命を縮めてしまうことが問題になっている。
【0004】
特開2009-269075号公報では、軟らかいPbまたはPb基合金を応力緩和層として備える積層はんだ材の製造方法が記載されている。ただし、応力緩和層がPbを含有することから、RoHS(Restriction of Hazardous Substances)等の環境規制に対応していない。
【0005】
特開2015-23183号公報では、半導体素子と、一方の面が半導体素子に接合して形成された第1の金属層と、半導体素子に接し、第1の金属層の他方の面の外周周辺部に形成された有機絶縁膜と、有機絶縁膜に接し、第1の金属層の他方の面の中央部に接合して形成された第2の金属層と、第2の金属層を介して第1の金属層の他方の面に接合して形成された接合材と、を備えたパワーモジュールが記載されている。
【0006】
特開2009-147111号公報では、板状の中央層の上下表面に表面層が積層された接合材であって、中央層が表面層より融点が高い接合材が記載されており、中央層の具体例として、ビスマスの単相、またはビスマスを主成分とする、銀、銅、アンチモン、インジウム、錫、ニッケル、ゲルマニウム、テルル、リンなどとの合金が記載されている。
【発明の概要】
【0007】
本件発明者らは、RoHS等の環境規制に対応しながら接合部に生じる歪みを緩和できる技術を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、接合部のはんだに鉛フリーはんだを採用しながらコア材として熱膨張率が所定の範囲内の材料を用いることで、半導体素子と基板のCTE差による接合部に生じる歪みを緩和できることを知見した。さらに、本件発明者らは、そのような接合部において、鉛フリーはんだの厚みや材質、基材の形状等を特定のものに限定することで、応力緩和効果を高めることができ、結果として従来と比較して製品の寿命を大きく延ばすことができることを知見した。
【0008】
特に高温環境下において接合部に生じる歪みを緩和できる積層接合材料、半導体パッケージおよびパワーモジュールを提供することが望まれる。
【0009】
一実施の形態に係る積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係る積層接合材料の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、一実施の形態に係る半導体パッケージの概略構成を示す縦断面図である。
【
図3A】
図3Aは、第1冷熱サイクル試験で用いた接合部材の構成を示すテーブルである。
【
図3B】
図3Bは、第1冷熱サイクル試験で用いた接合部材の構成を示すテーブルである。
【
図4】
図4は、第1冷熱サイクル試験で用いた接合部材の構成を示すテーブルである。
【
図5A】
図5Aは、実施例1~3および比較例7~8のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図5B】
図5Bは、実施例7~8および比較例15~16のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図6A】
図6Aは、比較例1~4のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図6B】
図6Bは、比較例11~14のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図7A】
図7Aは、実施例4~6および比較例9~10のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図7B】
図7Bは、実施例9~10および比較例17~18のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【
図8A】
図8Aは、第2冷熱サイクル試験で用いた接合部材の構成を示すテーブルである。
【
図8B】
図8Bは、第2冷熱サイクル試験で用いた接合部材の構成を示すテーブルである。
【
図9】
図9は、シミュレーションによる解析条件を説明するための図である。
【
図10A】
図10Aは、応力解析シミュレーションで用いたサンプル1~13の構成を示すテーブルである。
【
図10B】
図10Bは、応力解析シミュレーションで用いたサンプル14~23の構成を示すテーブルである。
【
図11】
図11は、サンプル1、2、17についての1サイクル経過後の歪み分布を示すグラフである。
【
図12】
図12は、サンプル1、3~9についての1サイクル経過後の歪み量を示すグラフである。
【
図13A】
図13Aは、メッシュ形状を有する基材の一例を説明するための図である。
【
図13B】
図13Bは、メッシュ形状を有する基材の一例を説明するための図である。
【
図13C】
図13Cは、メッシュ形状を有する基材の一例を説明するための図である。
【
図13D】
図13Dは、メッシュ形状を有する基材の一例を説明するための図である。
【
図14】
図14は、サンプル1、4、13~23についての1サイクル経過後の歪み量を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の第1の態様に係る積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【0012】
本件発明者らが冷熱サイクル試験および応力解析シミュレーションにより検証したところ、このような態様によれば、特に高温環境下において接合部に生じる歪みを緩和でき、高信頼性を達成できることが確認された。本件発明者らの考えでは、基材の線膨張係数が、半導体素子の線膨張係数と基板や放熱部の材料の線膨張係数との中間にあってバランスが取れるとともに、鉛フリーはんだが適切な厚さを有していることで、基材やはんだの具体的な合金組成に特に依存することなく、高温環境下において半導体素子と基板のCTE差による接合部に生じる歪みを緩和できると考えられる。
【0013】
実施形態の第2の態様に係る積層接合材料は、第1の態様に係る積層接合材料であって、前記鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa以下である。
【0014】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、鉛フリーはんだのヤング率が大きいほど、基板側の接合部に生じる歪みの緩和効果が高く、また、鉛フリーはんだの引張強さが小さいほど、半導体素子側の接合部に生じる歪みの緩和効果が高いことが見出され、このような態様によれば、特に高温環境下において基板側および半導体素子側の両方にて接合部に生じる歪みを効果的に緩和でき、高信頼性を達成できることが確認された。
【0015】
実施形態の第3の態様に係る積層接合材料は、第2の態様に係る積層接合材料であって、前記鉛フリーはんだのヤング率が55GPa以上である。
【0016】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、このような態様によれば、基板側および半導体素子側の両方にて接合部に生じる歪みをさらに効果的に緩和でき、非常に高い信頼性を達成できることが確認された。
【0017】
実施形態の第4の態様に係る積層接合材料は、第1~3のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材は、格子間隔が2.0mm以上のメッシュ形状を有する。
【0018】
本件発明者らが応力解析シミュレーションにより検証したところ、このような態様によれば、基材がベタ状に形成されている場合に比べて、接合部における応力緩和効果をさらに高めることができることが確認された。
【0019】
実施形態の第5の態様に係る積層接合材料は、第1~4のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材の線膨張係数が5.9~14.4ppm/Kである。
【0020】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、このような態様によれば、特に高温環境下において半導体素子側の接合部に生じる歪みを緩和でき、高信頼性を達成できることが確認された。
【0021】
実施形態の第6の態様に係る積層接合材料は、第5の態様に係る積層接合材料であって、前記基材の線膨張係数が7.0~11.6ppm/Kである。
【0022】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、このような態様によれば、基板側の接合部に生じる歪みの緩和効果がより高く、より高い信頼性を達成できることが確認された。
【0023】
実施形態の第7の態様に係る積層接合材料は、第3の態様に係る積層接合材料であって、前記基材の線膨張係数が7.7~9.9ppm/Kである。
【0024】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、このような態様によれば、基板側および半導体素子側の両方にて接合部におけるクラックの進展をほとんど確認することができず、したがって、極めて高い信頼性を達成できることが見出された。
【0025】
実施形態の第8の態様に係る積層接合材料は、第1~7のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材は、Cu-W基材料、Cu-Mo基材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料、Cu-W基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-Mo基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料のいずれかからなる。
【0026】
このような態様によれば、基材が高い熱伝導性を有するため、接合部における過度な温度上昇を抑制でき、接合部に生じる熱的な歪み自体が低減され、結果として製品の長寿命化にさらに有利に作用する。
【0027】
実施形態の第9の態様に係る積層接合材料は、第1~8のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材のCu含有量が、60%以下である。
【0028】
このような態様によれば、基材の線膨張係数がより低くなるため、特に高温環境下においてCTE差による接合部に生じる歪みをさらに緩和できる。
【0029】
実施形態の第10の態様に係る積層接合材料は、第1~9のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材のCu含有量が、15%以上である。
【0030】
このような態様によれば、基材の熱伝導性がより高まるため、接合部に生じる熱的な歪み自体がさらに低減され得る。
【0031】
実施形態の第11の態様に係る積層接合材料は、第1~10のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記第1はんだ部および第2はんだ部のうちの少なくとも一方と前記基材との界面が、前記基材側から順にNi、Snにより下地処理されている。
【0032】
このような態様によれば、基材と鉛フリーはんだとの密着性を高めることができる。
【0033】
実施形態の第12の態様に係る積層接合材料は、第1~11のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記基材と前記第1はんだ部の厚さの比と、前記基材と前記第2はんだ部の厚さの比のうちの少なくとも一方が、2:1~10:1である。
【0034】
実施形態の第13の態様に係る積層接合材料は、第1~12のいずれかの態様に係る積層接合材料であって、前記鉛フリーはんだの融点が、210℃以上である。前記鉛フリーはんだの融点が、230℃以上であってもよい。
【0035】
このような態様によれば、半導体素子の動作温度の上昇により積層接合材料が200℃以上の高温に達する場合であっても、積層接合材料に含まれる鉛フリーはんだが溶けて故障することが防止され得る。
【0036】
実施形態の第14の態様に係る半導体パッケージは、基板と、前記基板上に配置された半導体素子と、前記基板と前記半導体素子との間に配置され、前記基板と前記半導体素子とを接合する積層接合材料と、を備え、前記積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【0037】
実施形態の第15の態様に係る半導体パッケージは、基板と、前記基板上に配置された半導体素子と、前記基板と前記半導体素子との間に配置され、前記基板と前記半導体素子とを接合する第1積層接合材料と、前記基板の前記半導体素子とは逆側に配置された放熱部と、前記基板と前記放熱部との間に配置され、前記基板と前記放熱部とを接合する第2積層接合材料と、を備え、前記第1積層接合材料と前記第2積層接合材料のうちの少なくとも一方は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kであり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【0038】
実施形態の第16の態様に係るパワーモジュールは、基板と、前記基板上に配置されたパワー半導体素子と、前記基板と前記パワー半導体素子との間に配置され、前記基板と前記パワー半導体素子とを接合する積層接合材料と、を備え、前記積層接合材料は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/K以下であり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【0039】
実施形態の第17の態様に係るパワーモジュールは、基板と、前記基板上に配置されたパワー半導体素子と、前記基板と前記パワー半導体素子との間に配置され、前記基板と前記パワー半導体素子とを接合する第1積層接合材料と、前記基板の前記パワー半導体素子とは逆側に配置された放熱部と、前記基板と前記放熱部との間に配置され、前記基板と前記放熱部とを接合する第2積層接合材料と、を備え、前記第1積層接合材料と前記第2積層接合材料のうちの少なくとも一方は、基材と、基材の第1面に積層されている第1はんだ部と、基材の第2面に積層されている第2はんだ部とを有し、基材の線膨張係数が5.5~15.5ppm/K以下であり、第1はんだ部および第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成されており、前記第1はんだ部の厚さと、前記第2はんだ部の厚さが、いずれも、0.05~1.0mmである。
【0040】
以下に、添付の図面を参照して、実施の形態の具体例を詳細に説明する。なお、以下の説明および以下の説明で用いる図面では、同一に構成され得る部分について、同一の符号を用いるとともに、重複する説明を省略する。また、以下の説明および以下の説明で用いる図面において、はんだ組成の表記に関し、元素の前の数値は質量組成(質量%)を表し、SnBal.は「残部Sn」を表す。たとえば、「3.0Ag-0.5Cu-SnBal.」と表記されたはんだ合金中の各構成元素の含有量は、はんだ合金全体を100質量%としたときにAg:3.0質量%、Cu:0.5質量%、Sn:残部である。なお、本明細書において「引張強さ」とは、JIS Z2241:2011に規定された試験方法により室温で測定された値である。
【0041】
(積層接合材料)
図1は、一実施の形態に係る積層接合材料10の概略構成を示す縦断面図である。
【0042】
図1に示すように、積層接合材料10は、基材11と、基材11の第1面に積層されている第1はんだ部12aと、基材11の第2面に積層されている第2はんだ部12bとを有している。
【0043】
このうち基材11は、線膨張係数が5.5~15.5ppm/Kの材料からなる。基材11は、線膨張係数が5.9~14.4ppm/Kであることがより好ましく、線膨張係数が7.0~11.6ppm/Kであることが特に好ましい。具体的には、たとえば、基材11として、Cu-W基材料またはCu-Mo基材料が用いられる。基材11として、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料が用いられてもよい。基材11として、Cu-W基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-Mo基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料のいずれかが用いられてもよい。基材11が複合材料からなる場合には、中央に位置するCu-Mo基材料、Cu-W基材料またはCu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料と、その一方の面に積層されているCu基材料の厚さの比は、たとえば4:1~1:2であってもよい。
【0044】
なお、本明細書において、Cu-W基材料とは、当該材料を構成する元素のうち、質量比でCuとWが最も多い材料をいい、好ましくは当該材料全体に対してCuとWの含有量の合計が質量比で50%以上である。Cu-W基材料は、CuとW以外の元素を不純物として含んでいてもよい。また、Cu-Mo基材料とは、当該材料を構成する元素のうち、質量比でCuとMoが最も多い材料をいい、好ましくは当該材料全体に対してCuとMoの含有量の合計が質量比で50%以上である。Cu-Mo基材料は、CuとMo以外の元素を不純物として含んでいてもよい。
【0045】
基材11のCu含有量が増加すると、熱膨張率が大きくなるため、基材11のCu含有量は、質量比で60%以下であることが好ましい。
【0046】
また、基材11のCu含有量が増加すると、熱伝導率が向上するため、基材11のCu含有量は、質量比で15%以上であることが好ましい。
【0047】
基材11は、(規則的なパターンでの開口が形成されていない)ベタ状(solid)に形成されていてもよいし、(規則的なパターンで開口が形成されている)メッシュ形状を有していてもよい。メッシュ形状の場合には、格子間隔(隣り合う2つの開口の中心間隔)は、1.0mm以上であってもよく、2.0mm以上であってもよい。本件発明者らが応力解析シミュレーションにより検証したところ、このような態様によれば、基材11がベタ状に形成されている場合に比べて、接合部における応力緩和効果をさらに高めることができることが確認された。この理由は、格子間隔が大きいほど、被接合材(たとえば半導体素子22(
図2参照))の角部が基材11のメッシュの開口部分と重なる割合が高まるため、歪みが生じやすい角部において応力緩和効果を高めることができるからであると考えられる。
【0048】
図1に示すように、第1はんだ部12aは、基材11の第1面(図示された例では上面)に積層されており、第2はんだ部12bは、基材11の第2面(図示された例では下面)に積層されている。第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bは、いずれも、鉛フリーはんだで構成されている。
【0049】
第1はんだ部12aの厚さと、第2はんだ部12bの厚さは、いずれも、0.05~1.0mmであってもよく、0.1~1.0mmであってもよい。
【0050】
第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの材料は、特に限定されるものではないが、たとえばSn基合金、Sn-Ag基合金、Sn-Cu基合金、Sn-Sb基合金、Sn-Ag-Cu基合金、Sn-Ag-Cu-Sb基合金、Sn-Ag-Cu-In基合金、Sn-Ag-Cu-Bi基合金、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb基合金、Sn-Bi基合金、Sn-In基合金などが用いられてもよい。なお、○○基合金(○○は1種類以上の元素記号)とは、当該合金を構成する元素のうち、質量比で○○が最も多い合金をいい、好ましくは当該合金全体に対して○○の含有量(○○が2種類以上の元素を含む場合には、各元素の含有量の合計)が質量比で50%以上である。○○基合金は、○○以外の元素を不純物として含んでいてもよい。
【0051】
第1はんだ部12aを構成する鉛フリーはんだと第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだ12bとは、同一の組成を有していてもよいし、互いに異なる組成を有していてもよい。
【0052】
本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、
図2を参照し、基板21と半導体素子22の間に配置された積層接合材料10aについて、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだのヤング率が大きいほど、基板11側の接合部に生じる歪みの緩和効果が高く、また、当該鉛フリーはんだの引張強さが小さいほど、半導体素子12側の接合部に生じる歪みの緩和効果が高いことが見出された。したがって、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだは、ヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが100MPa(「3.4Ag-0.7Cu-3.2Bi-3.0Sb-0.025Fe-0.008Co-SnBal.」の引張強さ96.5MPaと「10.0Ag-4.0Cu-20.0Sb-SnBal.」の引張強さ108.8MPaの中間)以下であることが好ましく、ヤング率が55GPa(「10.0Sb-SnBal.」のヤング率53.8GPaと「0.7Cu-0.06Ni-0.003P-SnBal.」のヤング率56.5GPaの中間)以上であることがより好ましい。さらに、鉛フリーはんだのヤング率が55GPa以上である場合には、基材11の線膨張係数が7.7~9.9ppm/Kであることがさらに好ましい。本件発明者らが冷熱サイクル試験により実際に検証したところ、このような態様によれば、基板21側および半導体素子22側の両方にて接合部におけるクラックの進展をほとんど確認することができず、したがって、極めて高い信頼性を達成できることが見出された。
【0053】
本件発明者らが応力解析シミュレーションにより検証したところ、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの引張強さが大きいほど、接合部における応力緩和効果をさらに高めることができることが見出された。したがって、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの引張強さは、53MPa(「3.0Ag-0.5Cu-SnBal.」の引張強さ)以上であることが好ましく、58MPa(「10.0Sb-SnBal.」の引張強さ)以上であることがより好ましい。
【0054】
第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの融点は、210℃以上であることが好ましく、230℃以上であってもよいし、240℃以上であってもよいし、250℃以上であってもよい。
【0055】
基材11と第1はんだ部12aの厚さの比と、基材11と第2はんだ部12bの厚さの比のうちの少なくとも一方は、2:1~10:1であることが好ましい。基材11と第1はんだ部12aの厚さの比と、基材11と第2はんだ部12bの厚さの比の両方とも、2:1~10:1であってもよい。
【0056】
第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bの積層は、電気めっき、溶融めっき、クラッドなどの既存の方法で行われる。クラッドまたは圧延でコーティングの厚さを調整してもよい。
【0057】
図1に示すように、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bの少なくとも一方と基材11との界面が、基材11側から順にNi、Snにより下地処理(たとえばめっき処理)されていることが好ましい。基材11とSnとの間がNiで下地処理されていることで、基材11側へのSnの拡散を抑制できる。またNi上にSnが下地処理されていることで、鉛フリーはんだから構成される第1はんだ12aおよび第2はんだ部12bを積層しやすくなる。したがって、基材11と鉛フリーはんだから構成される第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bとの密着性が高まる。第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bの両方と基材11との界面が、基材11側から順にNi、Snにより下地処理(たとえばめっき処理)されていてもよい。
【0058】
図示された例では、基材11の第1面と鉛フリーはんだから構成される第1はんだ部12aとの間に下地処理による第1下地層13aが形成されており、基材11の第2面と鉛フリーはんだから構成される第2はんだ部12bとの間に下地処理による第2下地層13bが形成されている。
【0059】
(半導体パッケージ、パワーモジュール)
次に、
図2を参照し、一実施の形態に係る半導体パッケージ20について説明する。なお、本明細書において、半導体パッケージ20に含まれる半導体素子22がパワー半導体素子である場合には、そのような半導体パッケージ20(すなわちパワー半導体パッケージ)をパワーモジュールということがある。
【0060】
図2は、一実施の形態に係る半導体パッケージ20の概略構成を示す縦断面図である。
【0061】
図2に示すように、半導体パッケージ20は、基板21と、基板21上に配置された半導体素子22と、基板21と半導体素子22とを接合する第1積層接合材料10aとを有している。
【0062】
このうち第1積層接合材料10aの構成は、上述した一実施の形態に係る積層接合材料10の構成と同じであり、説明を省略する。
【0063】
基板21の種類は、特に限定されるものではないが、たとえばDBC(Direct Bonded Copper)基板またはDBA(Direct Bonded Alminium)基板が用いられる。
【0064】
図2に示すように、半導体素子22は、基板21上に第1積層接合材料10aを介して配置されており、基板21と半導体素子22とは第1積層接合材料10aによって接合されている。
【0065】
半導体素子22の種類は、特に限定されるものではないが、たとえばパワートランジスタやパワーダイオードなどのパワー半導体素子が用いられる。この場合、半導体素子22の動作温度の上昇により第1積層接合材料10aが200℃以上の高温に達することがあっても、第1積層接合材料10aにおいて、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの融点が210℃以上であれば、鉛フリーはんだが溶けて故障することが防止され得る。
【0066】
本実施の形態では、
図2に示すように、半導体パッケージ20は、基板21の下に配置された放熱部23と、基板21と放熱部23とを接合する第2積層接合材料10bとをさらに有している。
【0067】
このうち第2積層接合材料10bの構成は、上述した一実施の形態に係る積層接合材料10の構成と同じであり、説明を省略する。
【0068】
図2に示すように、放熱部23は、基板21の半導体素子22とは逆側に第2積層接合材料10bを介して配置されており、基板21と放熱部23とは第2積層接合材料10bによって接合されている。
【0069】
図2に示す例では、放熱部23は、放熱板23aと、放熱板23aの一方の面(図示された例では下面)に密着して固定された放熱フィン23bとを有しており、放熱板23aの他方の面(図示された例では上面)は第2積層接合材料10bに密着して固定されている。放熱部23の材料としては、熱伝導性の高い材料が用いられ、たとえば、CuMoやCuWが用いられる。
【0070】
本件発明者らが後述する冷熱サイクル試験および応力解析シミュレーションにより検証したところ、以上のような本実施の形態によれば、特に高温環境下において接合部に生じる歪みを緩和でき、高信頼性を達成できることが確認された。本件発明者らの考えでは、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bに含まれる基材11の線膨張係数が、半導体素子22の線膨張係数と基板21や放熱部23の材料の線膨張係数との中間にあってバランスが取れるとともに、鉛フリーはんだから構成される第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bが適切な厚さを有していることで、基材やはんだの具体的な合金組成に特に依存することなく、高温環境下において半導体素子22と基板21や放熱部23のCTE差によって、半導体素子22と基板21との間の接合部および基板21と放熱部23との間の接合部に生じる歪みを緩和できると考えられる。
【0071】
また、本実施の形態によれば、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bに含まれる基材11が、Cu-W基材料、Cu-Mo基材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料、Cu-W基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-Mo基材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料、Cu-W基材料とCu-Mo基材料との積層材料の第1面および第2面にそれぞれCu基材料が積層された複合材料のいずれかからなり、基材11が高い熱伝導性を有するため、接合部における過度な温度上昇を抑制でき、接合部に生じる熱的な歪み自体が低減され、結果として半導体パッケージ20の製品としての長寿命化にさらに有利に作用する。
【0072】
また、本実施の形態によれば、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bに含まれる基材11のCu含有量が60%以下であるため、当該基材11の線膨張係数がより低くなり、特に高温環境下においてCTE差による接合部に生じる歪みをさらに緩和できる。
【0073】
また、本実施の形態によれば、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bに含まれる基材11のCu含有量が15%以上であるため、当該基材11の熱伝導性がより高まり、接合部に生じる熱的な歪み自体がさらに低減され得る。
【0074】
また、本実施の形態によれば、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bにおいて、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bのうちの少なくとも一方と基材11との界面が、基材11側から順にNi、Snにより下地処理されているため、基材11と鉛フリーはんだから構成される第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bとの密着性を高めることができる。
【0075】
また、本実施の形態によれば、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bにおいて、第1はんだ部12aおよび第2はんだ部12bを構成する鉛フリーはんだの融点が210℃以上であるため、半導体素子22の動作温度の上昇により第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bが200℃以上の高温に達する場合であっても、第1積層接合材料10aおよび第2積層接合材料10bに含まれる鉛フリーはんだが溶けて故障することが防止され得る。
【0076】
(実施例)
次に、本実施の形態に係る具体的な実施例について説明する。
【0077】
(1)第1冷熱サイクル試験
本件発明者らは、
図3A、
図3Bおよび
図4に示すように、実施例1~23および比較例1~18の接合材料(6.5mm□、基材はベタ状)をそれぞれ用意し、各接合材料を用いて基板(20mm□、厚さ2mmのCuブロック)と半導体素子(5.5mm□、厚さ0.4mmのSiチップ)とを接合したサンプルを作成した。次に、各サンプルに対して、冷熱衝撃装置 TSA-71L-A(エスペック(株)製)を使用して、-40℃~+150℃(各さらし時間0.5h)の試験条件にて、冷熱サイクル試験を実施した。そして、冷熱サイクル試験前、250サイクル後、500サイクル後、1000サイクル後の各時点における各サンプルに対して、超音波映像装置 FineSAT FAS200II(日立建機ファインテック(株)製)を使用して、Siチップ側およびCuベース側の各々からSAT観察を行って、SAT観察画像から接合部の空隙面積率を算出し、その変化率(クラック進展率)を評価した。ここで、クラック進展率は、下式(1)により計算した。
クラック進展率(%)={(1000サイクル後の空隙面積率-冷熱サイクル試験前の空隙面積率)/(100-冷熱サイクル試験前の空隙面積率)}×100 式(1)
【0078】
図3A、
図3Bおよび
図4の「クラック進展率」の列は、試験結果を示している。
図3A、
図3Bおよび
図4において、クラック進展率「◎」は、Siチップ側のクラック進展率が10%未満であり、かつ、Cuベース側のクラック進展率が10%未満のものである。クラック進展率「〇」は、Siチップ側のクラック進展率が10%未満であり、Cuベース側のクラック進展率が10%以上50%未満のものである。クラック進展率「×」は、Siチップ側のクラック進展率が10%以上、またはCuベース側のクラック進展率が50%以上のものである。
【0079】
図5Aは、実施例1~3および比較例7~8のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
図5Bは、実施例7~8および比較例15~16のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
図6Aは、比較例1~4のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
図6Bは、比較例11~14のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
図7Aは、実施例4~6および比較例9~10のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
図7Bは、実施例9~10および比較例17~18のクラック進展率を比較して示す棒グラフである。
【0080】
図3A、
図3B、
図5A~
図7Bに示すように、実施例1~23ではいずれも、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%未満であり、特に高温環境下においてSiチップ側の接合部に生じる歪みを緩和でき、高信頼性であることが確認された。他方、
図4、
図5A~
図7Bに示すように、比較例1、4~11、13~18では、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%以上(比較例1、4、11、14~18では100%)であり、特に高温環境下においてSiチップ側の接合部に生じる歪みを緩和できず、信頼性が低いことが確認された。実施例1~23は基材の線膨張係数が5.9~14.4ppm/Kである。一方、比較例7、9、15、17は基材が存在せず、比較例1、8、10~11、16、18は基材の線膨張係数が17.1ppm/Kと高く、比較例5~6は基材の線膨張係数が4.6~5.2ppm/Kと低い。したがって、基材の第1面および第2面に鉛フリーはんだから構成されている第1はんだ部および第2はんだ部が積層された積層接合材料において、基材の線膨張係数が5.5(5.9と4.6の中間)~15.5(14.4と17.1の中間)ppm/K、より好ましくは5.9~14.4ppm/Kであれば、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%未満となり、特にSiチップ側の接合部に生じる歪みを緩和でき、高信頼性を達成できると言える。
【0081】
また、
図3A、
図3B、
図5A~
図7Bに示すように、実施例2、7~10、13、16、19では、Cuベース側のクラック進展率が10%未満であり、Cuベース側の接合部に生じる歪みの緩和効果がより高いことが確認された。実施例1~10、13~14、16~21は基材の線膨張係数が7.0~11.6ppm/Kであるのに対し、実施例11~12、15は基材の線膨張係数が5.9~6.8ppm/Kであり、実施例22~23は基材の線膨張係数が13.8~14.4ppm/Kである。このことから、基材の第1面に積層されている第1はんだ部および第2面に積層されている第2はんだ部が鉛フリーはんだで構成された積層接合材料において、接合部に生じる歪みの緩和効果がより高く、より高い信頼性を達成するためには、基材の線膨張係数は7.0~11.6ppm/Kであることがより好ましいと言える。
【0082】
(2)第2冷熱サイクル試験
本件発明者らは、
図8Aおよび
図8Bに示すように、実施例B1~B36の接合材料(6.5mm□、基材はベタ状)をそれぞれ用意し、各接合材料を用いて基板(20mm□、厚さ2mmのCuブロック)と半導体素子(5.5mm□、厚さ0.4mmのSiチップ)とを接合したサンプルを作成した。なお、実施例B13~B18、B33~B36のサンプルはそれぞれ、第1冷熱サイクル試験における実施例1、4、2、5、3、6、7、9、8、10のサンプルに対応するものである。次に、第1冷熱サイクル試験と同様に、各サンプルに対して、冷熱衝撃装置 TSA-71L-A(エスペック(株)製)を使用して、-40℃~+150℃(各さらし時間0.5h)の試験条件にて、冷熱サイクル試験を実施した。そして、冷熱サイクル試験前、1000サイクル後の各時点における各サンプルに対して、超音波映像装置 FineSAT FAS200II(日立建機ファインテック(株)製)を使用して、Siチップ側およびCuベース側の各々からSAT観察を行って、SAT観察画像から接合部の空隙面積率を算出し、その変化率(クラック進展率)を評価した。
【0083】
図8Aおよび
図8Bの「クラック進展率」の列は、試験結果を示している。
図8Aおよび
図8Bにおいて、クラック進展率「A」は、Siチップ側のクラック進展率が10%未満であり、かつ、Cuベース側のクラック進展率が10%未満のものである。クラック進展率「B」は、Siチップ側のクラック進展率が10%未満であり、Cuベース側のクラック進展率が10%以上34%未満のものである。クラック進展率「C」は、Siチップ側のクラック進展率が10%未満であり、Cuベース側のクラック進展率が34%以上51%未満のものである。クラック進展率「D」は、Siチップ側のクラック進展率が10%以上、またはCuベース側のクラック進展率が51%以上のものである。なお、第2冷熱サイクル試験と第1冷熱サイクル試験との間で試験結果に違いのあるものについては、その理由は、第2冷熱サイクル試験では第1冷熱サイクル試験に比べて、試験数を増やしてその平均値データを使用してクラック進展率を評価したためであると考えられる。
【0084】
図8Aおよび
図8Bに示すように、実施例B1~B24ではいずれも、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%未満であり、かつ、Cuベース側のクラック進展率が51%未満であり、特に高温環境下においてCuベース側およびSiチップ側の両方にて接合部に生じる歪みを効果的に緩和でき、高信頼性を達成できることが確認された。実施例B1~B24では、鉛フリーはんだのヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが97MPa以下であるのに対し、実施例B25~B36では、鉛フリーはんだのヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張強さが108MPa以上である。このことから、Cuベース側およびSiチップ側の両方にて接合部に生じる歪みの緩和効果が高く、より高い信頼性を達成するためには、鉛フリーはんだのヤング率が45GPa以上であり、かつ、引張り強さが100(97と108の中間)MPa以下であることが好ましいと言える。
【0085】
また、
図8Aに示すように、実施例B19~B24ではいずれも、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%未満であり、かつ、Cuベース側のクラック進展率が34%未満であり、特に高温環境下においてCuベース側およびSiチップ側の両方にて接合部に生じる歪みをさらに効果的に緩和でき、非常に高い信頼性を達成できることが確認された。実施例B19~B24では、鉛フリーはんだのヤング率が56GPa以上であるのに対し、実施例B1~B18では、鉛フリーはんだのヤング率が54GPa以下である。このことから、Cuベース側およびSiチップ側の両方にて接合部に生じる歪みの緩和効果をさらに高めて、より高い信頼性を達成するためには、鉛フリーはんだのヤング率が55(54と56の中間)GPa以上であることがより好ましいと言える。
【0086】
さらに、
図8Aに示すように、実施例B21~B24ではいずれも、1000サイクル後のSiチップ側のクラック進展率が10%未満であり、かつ、Cuベース側のクラック進展率が10%未満であり、Cuベース側およびSiチップ側の両方にて接合部におけるクラックの進展をほとんど確認することができず、したがって、極めて高い信頼性を達成できることが見出された。実施例B21~B24では、基材の線膨張係数が7.7~9.9ppm/Kであるのに対し、実施例B19~B20では、基材の線膨張係数が7.0ppm/Kである。このことから、鉛フリーはんだのヤング率が54GPa以下であり、かつ、引張り強さが100MPa以下である場合には、基材の線膨張係数は7.7~9.9ppm/Kであることがより好ましいと言える。
【0087】
(3)応力解析シミュレーション
本件発明者らは、積層接合材料の応力緩和効果が、鉛フリーはんだの厚みや材質、基材の形状等に対して依存するか否かを、上述した冷熱サイクル試験を模したコンピュータシミュレーションにより確認した。
【0088】
すなわち、本件発明者らは、まず、
図10Aおよび
図10Bに示すように、サンプル1~23の接合材料(6.5mm□)を定義した。このうちサンプル14~16では、
図13Aに示すように、基材は、□0.35mmの開口が格子状のパターン(隣り合う2つの開口の中心間隔(ピッチ)が0.5mm)にて形成されたメッシュ形状を有しており、被接合材であるSiチップの4隅の角部が、基材の開口部分と重なることができるようになっている。また、サンプル17~19では、
図13Bに示すように、基材は、□1.0mmの開口が格子状のパターン(隣り合う2つの開口の中心間隔(ピッチ)が2.0mm)にて形成されたメッシュ形状を有しており、被接合材であるSiチップの4隅の角部が、基材の開口部分と重なることができるようになっている。また、サンプル20~21では、
図13Cに示すように、基材は、□2.0mmの開口が格子状のパターン(隣り合う2つの開口の中心間隔(ピッチ)が3.0mm)にて形成されたメッシュ形状を有しており、被接合材であるSiチップの4隅の角部が、基材の開口部分と重なることができるようになっている。また、サンプル22~23では、
図13Dに示すように、基材は、□4.5mmの開口が格子状のパターン(隣り合う2つの開口の中心間隔(ピッチ)が5.0mm)にて形成されたメッシュ形状を有しており、被接合材であるSiチップの4隅の角部が、基材の開口部分と重なることができるようになっている。
【0089】
次に、本件発明者らは、物理シミュレーションソフト(COMOSOL AB社製COMSOL Multiphysics(登録商標)Ver.5.5)を使用し、
図9に示すように、各接合材料を用いて基板(20mm□、厚さ2mmのCuブロック)と半導体素子(5.5mm□、厚さ0.4mmのSiチップ)とを接合した評価サンプルを作成し、各評価サンプルに対して、-40℃~+150℃(各さらし時間0.5h)の試験条件にて、冷熱サイクル試験のシミュレーション(計算方法(アルゴリズム)は、はんだ部を粘塑性体、その他を完全弾性体とした有限要素法解析)を行い、1サイクル経過後に基板側および半導体素子側の界面において発生する歪み分布を測定した。
図11は、サンプル1、2、17についての1サイクル経過後の半導体素子と接合部材との界面における歪み分布を示すグラフである。
【0090】
図12は、サンプル1、3~9についての1サイクル経過後の半導体素子と接合部材との界面における歪み量(歪み分布の平均値)を、鉛フリーはんだの厚さを横軸として示すグラフである。
図12に示すように、はんだの厚さが0.02~0.1mmの範囲では、はんだの厚さが増えるにつれて歪み量が急減しており、0.1~1.0mmの範囲では、はんだの厚さによらずに歪み量は概ね一定となることが確認された。このことから、積層接合材料における鉛フリーはんだの厚さは、0.05~1.0mmであることが好ましいと言える。
【0091】
図14は、サンプル1、4、13~23についての1サイクル経過後の半導体素子と接合部材との界面における歪み量(歪み分布の最大値)を、サンプル1の歪み量を基準に規格化して示す棒グラフである。
図14に示すように、基材がメッシュ形状(格子間隔が2.0mm)を有する場合(サンプル17~19)は、基材がベタ状に形成されている場合(サンプル1、4、13)に比べて歪み量が概ね減少しており、基材がメッシュ形状(格子間隔が3.0mmまたは5.0mm)を有する場合(サンプル20~23)は、基材がベタ状に形成されている場合(サンプル1、4)に比べて歪み量が明らかに減少していることが確認された。このことから、基材がメッシュ形状を有する場合には、格子間隔が1.0mm(サンプル14~16とサンプル17~19の中間)以上、または2.0mm(サンプル17~19)以上であれば、基材がベタ状に形成されている場合に比べて、接合部における応力緩和効果をさらに高めることができると言える。
【0092】
以上、実施の形態および変形例を例示により説明したが、本技術の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。また、各実施の形態および変形例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。