(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】植物由来アルカロイドを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4741 20060101AFI20240904BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240904BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240904BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240904BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240904BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240904BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240904BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240904BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240904BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240904BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240904BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240904BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240904BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20240904BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240904BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240904BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240904BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240904BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240904BHJP
A61K 36/59 20060101ALN20240904BHJP
【FI】
A61K31/4741
A61K31/573
A61P43/00 121
A61P37/06
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P13/12
A61P29/00
A61P25/28
A61P37/08
A61P1/16
A61P1/18
A61P11/06
A61P7/04
A61P9/14
A61P21/04
A61P1/04
A61P25/00
A61P17/00
A61P21/00
A61K36/59
(21)【出願番号】P 2019201539
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-09-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽城
(72)【発明者】
【氏名】許 文成
(72)【発明者】
【氏名】杉山 健太郎
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-180873(JP,A)
【文献】岡山医学会雑誌,1980年,11, [12],p.1205-1215
【文献】Phytother. Res.,2019年,33, [1],p.187-196,Published online:2018.10.25, <DOI:10.1002/ptr.6215>
【文献】中部リウマチ,1995年,26, [1],p.46-47
【文献】Immunopharmacology,2000年,49, [3],p.411-417
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61K 31/33-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物、および、副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含有する医薬組成物であって、
前記植物由来アルカロイドが、
セファランチンであり、
前記副腎皮質ステロイドが、
メチルプレドニゾロンである、医薬組成物。
【請求項2】
前記リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態が、関節リウマチ、ネフローゼ症候群、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫性肝炎、膵臓炎、気管支喘息、全身性エリテマトーデス、紫斑病、糸球体腎炎、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、アトピー性皮膚炎、移植拒絶反応、移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態が、関節リウマチ、ネフローゼ症候群および移植拒絶反応からなる群より選択される、請求項
1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、同時、個別、順次又は連続使用のための、
(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、
(ii)副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と
の組合せ剤であって、
前記植物由来アルカロイドが、
セファランチンであり、
前記副腎皮質ステロイドが、
メチルプレドニゾロンである、組合せ剤。
【請求項5】
リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、
(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、
(ii)副腎皮質ステロイド
または医薬的に許容可能な塩
もしくは溶媒和物と
を含む、組合せ剤であって、
前記植物由来アルカロイドが、
セファランチンであり、
前記副腎皮質ステロイドが、
メチルプレドニゾロンである、組合せ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来アルカロイドを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の免疫系疾患の治療には、強力な抗炎症作用と免疫系への抑制作用とを有する副腎皮質ステロイド薬が汎用されていた。副腎皮質ステロイド薬が適応となる疾患、障害および病態には、各種の自己免疫疾患、臓器移植拒絶反応など数多くが含まれる。
【0003】
副腎皮質ステロイド薬は、多くの疾患、障害および病態の治療に用いられているが、治療効果に耐性を示す患者が少なからず存在し、薬効が十分に表れない場合がある。また、易感染性、消化性潰瘍(ステロイド潰瘍)、骨粗しょう症(ステロイド骨粗鬆症)、糖尿病(ステロイド糖尿病)、緑内障、白内障、動脈硬化、高血圧症および血栓症等の副作用が治療の妨げとなることもある。
【0004】
このような副腎皮質ステロイド薬の副作用を軽減するためには一般的に、投薬量の減量や投与期間の短縮が求められる。副腎皮質ステロイド薬と各種免疫抑制薬との併用は、副腎皮質ステロイド薬の上記欠点を補う一手段ではあるが、シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬にも、種々の無視できない重篤な副作用が現れることがある。それ故、代替の治療手段に対する需要が存在した。
【0005】
本発明者らは、天然物をシードとした新規免疫抑制薬を探索しつつ、当該新規免疫抑制薬と副腎皮質ステロイド薬との併用効果にも着目し、基礎研究および臨床研究の両面から研究を行ってきた。その背景として本発明者らは、患者の末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells(PBMC))のin vitroでの免疫抑制薬応答性が、薬物の治療効果と相関することを国際誌上で報告してきた(非特許文献1、非特許文献2および非特許文献3)。本発明者らは、本研究体系が、既存の免疫抑制薬の個別医療の推進に有用であるだけでなく、これまで免疫抑制作用が知られていなかった化合物の発見にも応用することが可能であると考え、本研究体系を用い、生薬および天然に由来するシード(例えば、フラボノイド、リグナン、ペプチドおよびアルカロイドなど)、ならびに、既存の医薬品(例えば、抗菌薬や脂溶性ビタミン類等)の中から、ステファニア属の植物由来アルカロイドを候補化合物として見出した。
【0006】
タマサキツヅラフジ、トウコウツヅラフジなどのツヅラフジ科ステファニア属の植物に含まれる植物由来アルカロイドとしては、例えば、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリンなどの成分が挙げられる。ステファニア属の植物、特にタマサキツヅラフジから抽出されたアルカロイドを有効成分として含有する医薬製剤として、セファランチン(登録商標)が挙げられる。セファランチン(登録商標)は、白血球減少症やマムシ咬傷などに適応を持ち、例えば、錠剤、散剤および静注の形態で市販されている。しかしながら、その作用機序には不明な点が多い。
【0007】
一方、Yamazakiらは、多施設の臨床研究において、血小板減少性紫斑病の患者にセファランチン(登録商標)を適応外使用し、血小板数の回復について検討した(非特許文献4)。本研究の結果、セファランチン(登録商標)は、副腎皮質ステロイド薬を使用中であって、ステロイド薬の効果が得られにくい同患者に有効であり、ステロイド薬の減量が可能であったことが報告された。しかしながら、血小板減少性紫斑病患者における血小板数改善やステロイド薬の減量におけるセファランチン(登録商標)の作用機序については報告がない。さらに、他の免疫系疾患や臓器移植患者において、セファランチン(登録商標)と副腎皮質ステロイド薬とを組み合わせたことによる薬効の改善について報告された例はこれまでにない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Hirano T et al., Clin Pharmacol Ther 74: 581-590; 2003
【文献】Muhetaer G et al., Cell Medicine 3:75-80; 2012
【文献】Sugiyama K et al., Cell Medicine 6: 47-55; 2014
【文献】Yamazaki T et al., Pediatric Int 59:303-308; 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物由来アルカロイドを含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ツヅラフジ科ステファニア属、特にタマサキツヅラフジの植物由来アルカロイドが、関節リウマチ患者のリンパ球の病的活性化を抑制する作用を有するという新たな知見を得た(
図1参照)。このことは、関節リウマチ、および、従来ステロイドを適応していたその他の疾患等に、セファランチン(登録商標)が使用可能であることを示唆するものであり、本発明者らは、上記知見に基づき、セファランチン(登録商標)をステロイド適応疾患に適用することにより本発明に至った。
【0011】
さらには、セファランチン(登録商標)を副腎皮質ステロイド薬と組み合わせて使用することにより、副腎皮質ステロイド薬の免疫抑制作用を大幅に増強するという知見を得た。 具体的に、健常者や関節リウマチ患者の末梢血リンパ球を用い、セファランチンを非常に少量(pg/mLレベル)の副腎皮質ステロイドと併用すると、Tリンパ球の病的活性化を強くかつ有意に抑制することを予備的実験により確認した(
図2参照)。本発明者らは、これらの知見に基づき、関節リウマチやネフローゼ症候群等の免疫系疾患や臓器移植患者に副腎皮質ステロイド薬を投与する際、セファランチンまたはセファランチンを含む製剤を併用投与して、ステロイド薬の薬効増強および副作用軽減を図る。
【0012】
即ち、本発明は:
[1]リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を含有する医薬組成物;
[2]前記植物由来アルカロイドが、ツヅラフジ科ステファニア属の植物由来アルカロイドである、[1]に記載の医薬組成物;
[3]前記植物由来アルカロイドが、ツヅラフジ科ステファニア属のタマサキツヅラフジの植物由来アルカロイドである、[1]または[2]に記載の医薬組成物;
[4]前記植物由来アルカロイドが、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリン、アロモリン、オバメジン、ノルシクレアニン、2-ノルセファランチン、2-ノルセファラノリン、2-ノルベルバミン、セコセファランチン、オバベリン、2-ノルイソテトランドリン、オキシアカンチン、ステフィバベリン、タルルゴシン、コクラウリン、レチキュリン、ロウダニジン、プロトシノメニン、N-メチルコクラウリン、FK-3000、シノメニン、セファモニン、タンナジン、セファムリン、ラストアワビリン、イソコリジン、コリジン、ステファリン、セファラミン、アクナジニンおよびアクナジラクタムからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[5]前記植物由来アルカロイドが、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリン 、アロモリン、オバメジン、ノルシクレアニン、2-ノルセファランチン、2-ノルセファラノリン、2-ノルベルバミン、セコセファランチン、オバベリン、2-ノルイソテトランドリン、オキシアカンチン、ステフィバベリンおよびタルルゴシンからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[6]前記植物由来アルカロイドが、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリンおよびセファラノリンからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[7]前記植物由来アルカロイドが、セファランチンである、[1]~[6]のいずれか1項に記載の医薬組成物 ;
[8]副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[9]前記副腎皮質ステロイドが、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾンおよびトリアムシノロンからなる群より選択される、[8]に記載の医薬組成物;
[10]前記副腎皮質ステロイドが、メチルプレドニゾロンおよびプレドニゾロンからなる群から選択であされる、[8]または[9]に記載の医薬組成物;
[11]前記リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態が、関節リウマチ、ネフローゼ症候群、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫性肝炎、膵臓炎、気管支喘息、全身性エリテマトーデス、紫斑病、糸球体腎炎、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、アトピー性皮膚炎、移植拒絶反応、移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[10]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[12]前記リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態が、関節リウマチ、ネフローゼ症候群および臓器移植拒絶反応からなる群より選択される、[1]~[11]のいずれか1項に記載の医薬組成物;
[13]リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、同時、個別、順次又は連続使用のための、
(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、
(ii)副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と
の組合せ;
[14]リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、
(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、
(ii)副腎皮質ステロイド若しくは医薬的に許容可能な塩または溶媒和物と
を含む、組合せ剤
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、植物由来アルカロイドを含有する医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、健常者及び関節リウマチ(RA)患者における、コンカナバリンAで刺激した末梢血単核細胞(PBMC)の増殖に対するセファランチン(CEP)の効果を示す。PBMCをRPMI1640培地に懸濁させ、コンカナバリンAおよび各種薬物の存在下に4日間培養し、その後細胞の増殖をWST法により検討した。
図1(A)は、健常者のPBMCとRA患者のPBMCの増殖に対する用量依存的な抑制効果を示し、
図1(B)は、健常者のPBMC(○)とRA患者のPBMC(●)の増殖に対するCEPのIC
50値の比較を示す。
【
図2】
図2は、T細胞マイトゲンで刺激した健常者のPBMCの増殖に対する、セファランチン単独使用の効果、およびセファランチンとメチルプレドニゾロンとの併用による効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0016】
本発明の第1の側面は、植物由来アルカロイドを有効成分として含有する医薬組成物である。有効成分としての植物由来アルカロイドには、植物由来アルカロイドの医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物も包含される。本発明に係る医薬組成物は、植物由来アルカロイドを含有することにより、リンパ球の病的活性化を抑制する作用を有する。
【0017】
植物由来アルカロイドは、ツヅラフジ科ステファニア属の植物、例えばタマサキツヅラフジ、コウトウツヅラフジなどから常法に従って抽出することができる。ステファニア属の植物は好ましくは、タマサキツヅラフジである。
【0018】
本発明の有効成分としては、ステファニア属の植物からの抽出液を濃縮したエキス、このエキスの酸性溶液をアルカリ性にしたときに生ずる沈殿、さらにこれより分離されるアルカロイド含有画分、また常法により分離精製して得られる結晶などを用いることができる。例えば、ステファニア属の植物(根茎、茎、種子、葉などが使用できるが、これらの部分に限定されない)を、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ベンゼンなどの溶媒で抽出し、抽出液を濃縮し、濃縮物を希塩酸、希硫酸、クエン酸水溶液、シュウ酸水溶液などの酸性水溶液に溶解し、溶液をアルカリ性にして生じた沈澱を採取することによりアルカロイド画分を分離することができる。得られた画分はさらに各種クロマトグラフィー、再結晶など公知の手段により精製してもよい。
【0019】
植物由来アルカロイドとしては、下記:
(a)ビスベンジルイソキノリンアルカロイド:例えばセファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリン 、アロモリン、オバメジン、ノルシクレアニン、2-ノルセファランチン、2-ノルセファラノリン、2-ノルベルバミン、セコセファランチン、オバベリン、2-ノルイソテトランドリン、オキシアカンチン、ステフィバベリンおよびタルルゴシンなど;
(b)ベンジルイソキノリンアルカロイド:例えばコクラウリン、レチキュリン、ロウダニジン、プロトシノメニン、N-メチルコクラウリンなど;
(c)モルフィナンアルカロイド:例えばFK-3000、シノメニン、セファモニン、タンナジン、セファムリンなど;
(d)アポルフィンアルカロイド:例えばラストアワビリン、イソコリジン、コリジンなど;
(e)プロアポルフィンアルカロイド:例えばステファリンなど;
(f)ハスバサンアルカロイド:例えばセファラミン、アクナジニン、アクナジラクタムなど
が挙げられ、本発明に係る医薬組成物は、これらのアルカロイドからなる群より選択される1つまたは複数の植物由来アルカロイドを含有する。
【0020】
本発明に係る医薬組成物に含有される植物由来アルカロイドは、好ましくは、上記(a)群のビスベンジルイソキノリンアルカロイド、すなわち、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリン 、アロモリン、オバメジン、ノルシクレアニン、2-ノルセファランチン、2-ノルセファラノリン、2-ノルベルバミン、セコセファランチン、オバベリン、2-ノルイソテトランドリン、オキシアカンチン、ステフィバベリンおよびタルルゴシンからなる群より選択される少なくとも1つであり、より好ましくは、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリンおよびセファラノリンからなる群より選択される少なくとも1つである。
【0021】
ビスベンジルイソキノリンアルカロイドは、下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
植物由来アルカロイドは、医薬的に許容可能な塩または溶媒和物であってもよい。例えば、医薬的に許容可能な塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸などの無機酸の付加塩、酢酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸の付加塩が挙げられる。
【0030】
ステファニア属の植物由来アルカロイドを含有する医薬製剤としては、タマサキツヅラフジ抽出アルカロイド製剤であるセファランチン(Cepharanthin、登録商標、化研生薬株式会社)が市販されている。セファランチン(登録商標)製剤は、アルカロイドとして、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリン、セファラノリン 、アロモリン、オバメジン、ノルシクレアニン、2-ノルセファランチン、2-ノルセファラノリン、2-ノルベルバミン、セコセファランチン、オバベリン、2-ノルイソテトランドリン、オキシアカンチン、ステフィバベリンおよびタルルゴシンからなる群から選択される1つ以上を含有し、主成分は、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミン、シクレアニン、ホモアロモリンおよびセファラノリンである。また、別の態様において、主成分は、セファランチン、イソテトランドリン、ベルバミンおよびシクレアニンであってもよい。
【0031】
本明細書において、「セファランチン(登録商標)」と記載する場合、タマサキツヅラフジから抽出されたアルカロイド製剤の市販品(化研生薬株式会社から市販されている)を意味し、単に、「セファランチン」と記載するときは、上記化学式(I)(式中、R1はCH3であり、R2およびR3は-CH2-を形成し、R4はCH3である。)で表される化合物を意味する。
【0032】
上記のように、ステファニア属の植物由来アルカロイドを含有する医薬製剤は、有効成分として複数の植物由来アルカロイドを含有するものであってもよいが、別の態様では、ステファニア属の植物由来アルカロイドを含有する医薬製剤は、有効成分としてセファランチンのみを含むものであってもよい。
【0033】
本発明に係る医薬組成物は、典型的には、製薬上に許容される添加剤、例えば、当該分野で既知の賦形剤、結合剤、滑沢剤、溶剤、希釈剤、安定化剤、等張化剤などを含んでよい。賦形剤としては、例えば澱粉、乳糖、メチルセルロース、結晶セルロース、合成珪酸アルミニウムなど、結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、滑沢剤としては、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなど、等張化剤としては塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセロール、マンニトールなどが用いられる。
【0034】
本発明に係る医薬組成物は、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、注射剤、液剤、坐剤などに製剤化される。
【0035】
医薬組成物は、リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防に用いられる。ここで、「リンパ球の病的活性化」とは、自己抗原や移植臓器に対する反応性の発現など、患者にとって不利な免疫反応に係るリンパ球の活性化を意味する。
【0036】
リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態は、例えば、関節リウマチ、ネフローゼ症候群、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫性肝炎、膵臓炎、気管支喘息、全身性エリテマトーデス、紫斑病、糸球体腎炎、重症筋無力症、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、皮膚筋炎、多発性筋炎、アトピー性皮膚炎、移植拒絶反応、移植片拒絶反応および移植片対宿主病からなる群より選択される。
【0037】
リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態は好ましくは、関節リウマチ、ネフローゼ症候群および移植拒絶反応からなる群より選択される。ここで、移植拒絶反応には、臓器移植拒絶反応も含むものとする。
【0038】
本発明に係る医薬組成物は、例えば、経口、静脈内、皮下、腹腔内により投与することができる。本発明に係る医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、病状などによって異なる。
【0039】
本発明の第2の側面は、植物由来アルカロイドに加えて、副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物をさらに含む医薬組成物に関する。植物由来アルカロイドと副腎皮質ステロイドとを組み合わせて用いることにより、リンパ球の病的活性化に関し、相乗的な抑制効果を得ることができる。
【0040】
副腎皮質ステロイドは、例えば、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾンおよびトリアムシノロンからなる群より選択され、好ましくは、メチルプレドニゾロンおよびプレドニゾロンからなる群より選択される。
【0041】
本発明の別の側面は、リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、同時、個別、順次または連続使用のための、(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、(ii)副腎皮質ステロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物との組合せに関する。
【0042】
本発明のさらに別の側面は、リンパ球の病的活性化が関与する疾患、障害または病態の治療または予防のための、(i)植物由来アルカロイドまたはその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物と、(ii)副腎皮質ステロイド若しくは医薬的に許容可能な塩または溶媒和物とを含む、組合せ剤に関する。
【0043】
組合せ剤に関し、成分(i)(第1の有効成分)および成分(ii)(第2の有効成分)は、一緒に、順々にまたは個別に、1つの組み合わせ単位剤形または個別の2つの単位剤形で投与されてもよい。治療有効量の、本発明にかかる組合せ剤の各有効成分が、同時に、個別に、または、任意の順序で、順次にもしくは連続して投与されてもよい。組合せ剤において、第1の有効成分および前記第2の有効成分が複数のユニットで存在してもよい。組合せ剤には、例えば、成分(i)、成分(ii)および使用指示を含むキットも含まれる。
【0044】
上記成分(i)および成分(ii)を組み合わせて適用することで、これら成分のそれぞれを適用する単剤療法と比較して、リンパ球の病的活性化ないし増殖に関し、相乗的な抑制効果を奏し、例えば、リンパ球の病的な活性化が関与する疾患、障害または病態において、症状の軽減、進行の遅延または抑制に相乗的な効果を奏する。また、これらを組み合わせて適用することにより、有効成分各々の投与量を低減することができるか、または、投与頻度を減らすこともできる。これにより、副作用が低減され、クオリティ・オブ・ライフの改善などをもたらすことが期待される。
【0045】
本発明の組合せ剤に使用される各有効成分の投与量は、使用される化合物または医薬組成物、投与方法、疾患、障害または病態の重症度に応じて変更され得る。
【0046】
セファランチン(登録商標)製剤はこれまで長期間、臨床で用いられてきたが、副作用が少なく、副作用が発現したとしても軽微であり、安全性の点では免疫抑制薬をはるかにしのぐと考えられている。副腎皮質ステロイド薬との併用による相乗効果が臨床試験でも認められれば、副腎皮質ステロイド薬の投与量や投与期間を減らし、薬物耐性や同薬の副作用の大幅軽減につながるものと考えられる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0048】
<1>ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の分離および培養
遠沈管にリンパ球分離液(Nakarai 社, 日本)を分注し、健常被験者のヘパリン化末梢静脈血20mLを静かに重層して、2300rpm、23℃で20分間遠心分離した。分離後、単核細胞(PBMC)層を分取し、これにRPMI1640液体培地(Gibco BRL社、Grand Island, NY, 米国)を加えてさらに遠心分離を2回行い、PBMCを洗浄した後にRPMI1640培地に再懸濁させた。これを血球計算盤上に分取し、倒立光学顕微鏡にて細胞数を数え、1.0×106 cells/mLとなるように培地で希釈してPBMC懸濁液を得た。なお、PBMCには末梢血中のすべてのTリンパ球が含まれる。
【0049】
96穴滅菌平底マイクロプレート(コスモバイオ社、日本)の各ウェルにPBMC懸濁液を200μLずつ移したのち、T細胞の増殖を刺激する物質(マイトゲン)としてコンカナバリンA(生化学工業社、日本)を最終濃度5μg/mLとなるように加え、さらにセファランチン(Cayman Chamical 社、米国)とメチルプレドニゾロン(Sigma Aldrich社、St. Louis. Mo., 米国)を加えて、プレートごと37℃、5%CO2存在下にて4日間培養した。以上の操作は全てクリーンベンチ内で無菌的に行った。
【0050】
<2>ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の増殖に及ぼすセファランチンとメチルプレドニゾロンの効果の評価方法
上記<1>のようにして、PBMCを各薬物存在下で培養した後、細胞の増殖率をMTT法により検討した。具体的には、まず培養終了後の細胞懸濁液にMTT溶液を添加し、37℃、5%CO
2存在下にてさらに4時間培養した。MTTは増殖細胞中で色素(フォルマザン結晶)に変化するため、この色素の量を比色定量法にて測定することにより、細胞の増殖率を判定することができる。プレートの各ウェルの吸光度を、マルチスペクトロプレートリーダーにて波長550nmにて測定した。このようにして求めた吸光度値から、各濃度の薬物存在下におけるPBMCの増殖率を算出した。セファランチンの各濃度について、メチルプレドニゾロンの濃度に対するPBMCの増殖率をプロットした。結果を
図2に示す。
【0051】
図2は、セファランチンが、T細胞マイトゲン(コンカナバリンA)で刺激した健常者末梢血リンパ球の増殖を抑制したことを示す。さらに、1μM以上の濃度のセファランチンはメチルプレドニゾロンと組み合わせて使用することで、メチルプレドニゾロンの濃度依存的にT細胞マイトゲンで刺激した健常者末梢血リンパ球の増殖を相乗的かつ有意に抑制することを示す。