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特許7549288異形断面ガラス繊維用ノズル、及び、異形断面ガラス繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】異形断面ガラス繊維用ノズル、及び、異形断面ガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/083 20060101AFI20240904BHJP
   D01D 5/253 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C03B37/083
D01D5/253
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020103646
(22)【出願日】2020-06-16
(65)【公開番号】P2021195285
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松浦 禅
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226579(JP,A)
【文献】特開平07-330368(JP,A)
【文献】国際公開第2020/040033(WO,A1)
【文献】特開昭62-012629(JP,A)
【文献】特開平07-097710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00 - 37/16
D01D 1/00 - 13/02
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスの流入口および流出口を有する扁平なノズル孔が設けられ、
前記ノズル孔を囲う壁部が、前記ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁部と、短径方向で対向する一対の長壁部とを有し、
前記ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズルであって、
前記一対の短壁部および前記一対の長壁部のうち、前記一対の短壁部の各々についてのみ、該短壁部における前記流出口側の端部に位置する端部領域に、前記ノズル孔の軸線に対して傾いている傾斜部と、前記傾斜部に連なる底壁面を有し、
前記傾斜部は、前記流入口側から前記流出口側に向かうに連れて前記ノズル孔の扁平な断面の中心側から離れるように傾く傾斜面を有する異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項2】
記長壁部が前記流出口側の端部に底壁面を有し、
前記長径方向に直交する断面上での前記長壁部の前記底壁面の長さと比較して、前記短径方向に直交する断面上での前記傾斜部の長さと前記短壁部の前記底壁面の長さとの和の方が長い請求項1に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項3】
前記傾斜部が単一の傾斜面からなる請求項1又は2に記載の異形断面ガラス繊維用ノズル。
【請求項4】
溶融ガラスの流入口および流出口を有する扁平なノズル孔が設けられ、前記ノズル孔を囲う壁部が、前記ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁部と、短径方向で対向する一対の長壁部とを有する、異形断面ガラス繊維用ノズルを用いて、
前記ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための方法であって、
前記一対の短壁部および前記一対の長壁部のうち、前記一対の短壁部の各々についてのみ、該短壁部の前記流出口側の端部に位置する端部領域に、前記ノズル孔の軸線に対して傾いている傾斜部と、前記傾斜部に連なる底壁面を有し、
前記傾斜部は、前記流入口側から前記流出口側に向かうに連れて前記ノズル孔の扁平な断面の中心側から離れるように傾く傾斜面を有する異形断面ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスから断面形状が扁平な異形断面ガラス繊維を製造するためのノズル、及び、当該ノズルを用いた異形断面ガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維の一種として、断面形状が扁平な異形断面ガラス繊維が知られている(特許文献1を参照)。異形断面ガラス繊維は、樹脂と混練して複合化した場合に高い補強効果を実現できることから、繊維強化プラスチック(FRP)用の繊維として採用される等、様々な分野で利用される。
【0003】
異形断面ガラス繊維を製造する際には、例えば、溶融ガラスを流通させるためのフィーダーからブッシングに溶融ガラスを供給し、ブッシングに備わった多数のノズルの各々から溶融ガラスを引き出しつつ冷却する。このノズルに設けられたノズル孔の形状は、一般的に扁平な孔形状(楕円形や長円形等)となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/221471号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異形断面ガラス繊維を製造するにあたっては、下記のような解決すべき問題があった。すなわち、ノズル孔から流出する溶融ガラスが、表面張力で表面積が小さくなるように変形するため、高扁平率の異形断面ガラス繊維を成形することが難しい。
【0006】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、異形断面ガラス繊維を製造するに際し、高扁平率の異形断面ガラス繊維の製造を可能にすることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、溶融ガラスの流入口および流出口を有する扁平なノズル孔が設けられ、ノズル孔を囲う壁部が、ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁部と、短径方向で対向する一対の長壁部とを有し、ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための異形断面ガラス繊維用ノズルであって、一対の短壁部の各々について、短壁部における流出口側の端部に位置する端部領域に、ノズル孔の軸線に対して傾いている傾斜部を有することを特徴とする。
【0008】
本ノズルでは、端部領域に、ノズル孔の軸線に対して傾いている傾斜部を有することで、従来のように端部領域に傾斜部が無い場合に比して、端部領域と溶融ガラスとの接触面積が拡大する。これにより、短壁部の端部領域が溶融ガラスを引っ張る能力(ノズル孔の長径方向に沿って引っ張る能力)が向上し、これに伴って、表面張力で表面積が小さくなるような溶融ガラスの変形を抑制できる。その結果、製造される異形断面ガラス繊維を高扁平率に成形することが可能となる。
【0009】
上記の構成では、傾斜部は、流入口側から流出口側に向かうに連れてノズル孔の中心側から離れるように傾く傾斜面を有することが好ましい。
【0010】
このようにすれば、短壁部の端部領域が溶融ガラスを引っ張る能力が更に向上し、異形断面ガラス繊維を高扁平率に成形する上で更に有利となる。
【0011】
上記の構成では、短壁部が端部領域に、傾斜部に連なる底壁面を有し、長壁部が流出口側の端部に底壁面を有し、長径方向に直交する断面上での長壁部の底壁面の長さと比較して、短径方向に直交する断面上での傾斜部の長さと短壁部の底壁面の長さとの和の方が長いことが好ましい。
【0012】
異形断面ガラス繊維を製造する際には、短壁部の傾斜部の他、短壁部および長壁部の底壁面も溶融ガラスで濡れた状態となる。このとき、傾斜部および底壁面は溶融ガラスを引っ張る。さらに、製造される異形断面ガラス繊維の扁平率を高めるためには、溶融ガラスをノズル孔の短径方向よりも長径方向に沿って引っ張ることが有利となる。そして、本構成のようにすれば、溶融ガラスをノズル孔の長径方向に沿って効果的に引っ張ることができ、異形断面ガラス繊維を高扁平率に成形する上で一層有利となる。
【0013】
上記の構成では、傾斜部が単一の傾斜面からなることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、溶融ガラスが滞留し難くなり、失透することを抑制できる。
【0015】
さらに、上記の課題を解決するための本発明は、溶融ガラスの流入口および流出口を有する扁平なノズル孔が設けられ、ノズル孔を囲う壁部が、ノズル孔の長径方向で対向する一対の短壁部と、短径方向で対向する一対の長壁部とを有する、異形断面ガラス繊維用ノズルを用いて、ノズル孔より流出させた溶融ガラスから異形断面ガラス繊維を製造するための方法であって、一対の短壁部の各々について、短壁部の流出口側の端部に位置する端部領域に、ノズル孔の軸線に対して傾いている傾斜部を有することを特徴とする。
【0016】
本方法によれば、上記の異形断面ガラス繊維用ノズルについて既述の作用・効果と同一の作用・効果を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、異形断面ガラス繊維を製造するに際し、高扁平率の繊維の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】異形断面ガラス繊維の製造方法及び製造装置を概略的に示す断面図である。
図2】異形断面ガラス繊維用ノズルの周辺を概略的に示す断面図である。
図3】異形断面ガラス繊維用ノズルの周辺を概略的に示す底面図である。
図4】(a)は異形断面ガラス繊維用ノズルを長壁部側から見た側面図、(b)は図3のノズルの4b-4b断面図、(c)は(a)の4c-4c断面図である。
図5図4(b)におけるA部を拡大して示す断面図である。
図6】異形断面ガラス繊維用ノズルにおける長壁部の底壁面の周辺を示す断面図である。
図7】異形断面ガラス繊維を示す断面図である。
図8】異形断面ガラス繊維用ノズルの変形例を示す図であり、(a)は異形断面ガラス繊維用ノズルを短壁部側から見た側面図、(b)は図3のノズルの4b-4b断面図、(c)は(a)の4d-4d断面図である。
図9】変形例に係る異形断面ガラス繊維用ノズルの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る異形断面ガラス繊維用ノズル、及び、異形断面ガラス繊維の製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示すように、異形断面ガラス繊維は、製造装置1により製造される。製造装置1は、図示省略の溶融炉で生成した溶融ガラス2を流通させるフィーダー3と、フィーダー3よりも下方に配置されたブッシング4と、フィーダー3とブッシング4とを接続するパイプ5とを備えている。溶融ガラス2は、フィーダー3からパイプ5を介してブッシング4に供給される。そして、溶融ガラス2は、ブッシング4のノズル孔6から流出する。溶融ガラス2は冷却されて異形断面ガラス繊維2f(以下、ガラス繊維2fと表記)となる。
【0021】
本実施形態においては、溶融ガラス2がEガラスからなる。しかしながら、この限りではなく、溶融ガラス2がDガラス、Sガラス、ARガラス、Cガラス等の他のガラスからなってもよい。
【0022】
フィーダー3は、図示省略のガラス溶解炉と接続されている。フィーダー3は、ガラス溶解炉で連続的に生成した溶融ガラス2を流通させることが可能である。フィーダー3の内部には、溶融ガラス2の液面2aが形成されている。
【0023】
ブッシング4は、底部にベースプレート7を備えている。ベースプレート7には、複数の異形断面ガラス繊維用ノズル8(以下、ノズル8と表記)と、これらノズル8の近傍に配置された冷却管9とが備わっている。複数のノズル8は相互に同一の構成を有する。詳細は後述するが、各ノズル8に設けられたノズル孔6は扁平に形成されている。
【0024】
パイプ5は管軸が上下方向に延びた円筒状に形成されている。パイプ5の上端部はフィーダー3の底部と連結され、パイプ5の下端部はブッシング4の上端部と連結されている。なお、パイプ5は、フィーダー3とブッシング4とを接続できるものであれば、形状や管軸が延びる方向は本実施形態と異なっていてもよい。
【0025】
ブッシング4、パイプ5、ノズル8、及び冷却管9の各部材に関し、その一部又は全体は、白金又は白金合金(例えば、白金ロジウム合金等)により構成されている。なお、本実施形態においては、これらの部材のうち、パイプ5は全体が白金又は白金合金で構成されている。
【0026】
フィーダー3とパイプ5との接続部から、ブッシング4のノズル孔6に至るまでの流路全体は、溶融ガラス2で満たされている。これにより、ノズル孔6から溶融ガラス2を流出させるための圧力(ヘッド圧)が、ノズル孔6とフィーダー3内の溶融ガラス2の液面2aとの高低差Hで決定される。ここで、高低差Hは、例えばパイプ5の長さを変更することで調節が可能である。
【0027】
ガラス繊維2fを成形する際における溶融ガラス2の温度・粘度は、それぞれ1100℃~1250℃(好ましくは1150℃~1200℃)、102.6dPa・s~103.8dPa・s(好ましくは102.9dPa・s~103.3dPa・s)に設定される。なお、ここでいう「溶融ガラス2の温度・粘度」とは、ノズル8に流入する位置での溶融ガラス2の温度・粘度である。溶融ガラス2の温度・粘度の調整は、例えば、ブッシング4とパイプ5とをそれぞれ任意の加熱手段(例えば、通電加熱装置)により個別に加熱する等して行えばよい。この他、ガラス溶解炉内の溶融ガラス2や、フィーダー3を通電加熱等で加熱して溶融ガラス2の温度・粘度を調節してもよい。
【0028】
ガラス繊維2fの表面には、図示省略のアプリケーターにより集束剤が塗布される。これにより、数百本~数千本程度のガラス繊維2fが、一本のストランド2sとして紡糸される。紡糸されたストランド2sは、巻き取り装置であるボビン10の周りに繊維束2rとして巻き取られる。ストランド2sは、例えば、1mm~20mm程度の長さに切断され、チョップドストランドとして利用される。
【0029】
図2及び図3に示すように、ノズル8は、一対の長壁部11,11と一対の短壁部12,12とを有する。これら壁部に囲われて扁平なノズル孔6が形作られている。ノズル孔6は、溶融ガラス2を流入させる流入口6aと、流出させる流出口6bとを有する。一対の長壁部11,11の各々には、流出口6b側に向けて口を開けた切欠き部13が設けられている。これにより、ノズル孔6が切欠き部13を通じてノズル8の外部空間と連なっている。
【0030】
冷却管9は、その内部を冷却水14が循環し、溶融ガラス2を冷却する。冷却管9は外形が板状に形成され、板面が長壁部11と平行になっている。ここで、冷却管9はベースプレート7と一体に設けられているが、ベースプレート7から離れた位置に設けられていてもよい。また、冷却管9は円管状に形成されていてもよい。
【0031】
冷却管9の高さ位置は、溶融ガラス2の冷却条件に応じて調整が可能である。一例として、冷却管9は、ノズル8から引き出された溶融ガラス2と板面とが面しないように、ノズル8の下端部よりも上方に配置されていてもよい。一方、ノズル8及びノズル8から引き出された溶融ガラス2の双方と板面とが面するように、ノズル8の下端部を基準として上方と下方とに跨って冷却管9が配置されていてもよい。なお、溶融ガラス2の冷却には、冷却管9の他、空気流で冷却する冷却フィン等を用いてもよい。また、冷却管9は必須の構成ではなく省略してもよい。
【0032】
ベースプレート7には、複数のノズル列Pが間隔を空けて平行に配置されている。各ノズル列Pには複数のノズル8が属する。同じノズル列Pに属する複数のノズル8は、これらに形成されたノズル孔6が同一直線上に位置するように配置されている。
【0033】
上記の冷却管9は、隣り合う両ノズル列P,Pの相互間において、ノズル列Pと平行に延びるように配置されている。これにより、冷却管9に面した切欠き部13を通じてノズル孔6内の溶融ガラス2が冷却される。具体的には、溶融ガラス2が、冷却管9により1000℃以上の温度から急激に冷却される。ここで、冷却管9は、ブッシング4(ベースプレート7)やノズル8を冷却することで、これらの部材の熱による劣化を抑制して耐久性を高める機能もある。
【0034】
図4(a),(b)に示すように、各ノズル8の長壁部11に設けられた切欠き部13は、上底が下底よりも短い等脚台形状をなす。これにより、切欠き部13は、ノズル孔6の流入口6a側から流出口6b側に向かうに連れて開口幅が漸次に拡大している。切欠き部13の深さ(ノズル孔6の軸線6xに沿う方向の長さ)は0.1mm~2mmとされている。これは、切欠き部13の深さが2mmを超える場合は、製造されたガラス繊維2fの断面において、長手方向の両端部が細くなりすぎ、ガラス繊維2fが破損しやすくなるためである。
【0035】
切欠き部13の形状は台形状に限られるものではなく、他の形状であってもよい。例えば三角形状や半円形状や矩形形状であってもよい。ただし、これら他の形状を採用する場合でも、切欠き部13は、ノズル孔6の流入口6a側から流出口6b側に向かうに連れて開口幅が漸次に拡大していることが好ましい。
【0036】
図4に示すように、本実施形態では、一つのノズル8に単一のノズル孔6が設けられている。ノズル孔6は長穴形状に形成されている。一対の長壁部11,11は長穴形状のノズル孔6の短径方向で対向し、一対の短壁部12,12は長径方向で対向している。なお、本実施形態では、短壁部12の厚み(ノズル孔6の長径方向に沿った厚み)が長壁部11の厚み(ノズル孔6の短径方向に沿った厚み)よりも大きくなっている。ここで、ノズル孔6の扁平比(長径と短径との比)は2~5とされている。長壁部11の内壁面11aおよび短壁部12の内壁面12aを含むノズル孔6の内周面は、白金又は白金合金で構成されている。また、長壁部11の内壁面11aは図4(c)に示すように直線状であり、対向する内壁面11aは平行である。
【0037】
なお、長壁部11と短壁部12との境目15は、図4(c)の左右方向に対する内壁面の傾きが0から変化する点であり、紙面水平方向に対する傾きが0である部分が長壁部11であり、傾きが0以外の部分が短壁部12である。
【0038】
図4(b)及び図5に示すように、一対の短壁部12,12の各々について、これらの流出口6b側の端部に位置した端部領域Tには、ノズル孔6の軸線6xに対して傾いている傾斜部12aaが形成されている。具体的には、傾斜部12aaは、流入口6a側から流出口6b側に向かうに連れて、ノズル孔6の中心側から外側(長径方向の内側から外側)に向かうように傾いている。これにより、一対の短壁部12,12の一方に存する傾斜部12aaと他方に存する傾斜部12aaとは、相互に逆向きに傾いている。両傾斜部12aa,12aaはそれぞれ単一の傾斜面(傾斜平面)からなる。傾斜部12aaは、短径方向(図4(b)及び図5にて紙面に鉛直な方向)に沿った短壁部12の全長に亘って形成されている。傾斜部12aaが軸線6xに直交する線に対して傾いた角度θ1は、特に限定されるものではないが、本実施形態では55°である。なお、ノズル孔6の軸線6xに対して傾いていれば、傾斜部12aaは湾曲面であってもよい。また、傾斜部12aaの表面粗さは、内壁面12aの表面粗さよりも粗くしてもよい。なお、傾斜部12aaが軸線6xに直交する線に対して傾いた角度θ1は、10°以上、80°以下であることが好ましい。
【0039】
短壁部12は、傾斜部12aaに連なる底壁面12bを有する。詳述すると、底壁面12bは、傾斜部12aaに対してノズル孔6の長径方向の外側に連なっている。本実施形態においては、底壁面12bは軸線6xに直交する平坦面である。ここで、傾斜部12aaの長さをL1とすると共に、底壁面12bの長さをL2とする。なお、「傾斜部12aaの長さL1、及び、底壁面12bの長さL2」とは、それぞれノズル孔6の短径方向に直交する断面上での長さである。
【0040】
これにより、本実施形態における端部領域Tは、傾斜部12aaが無い場合と比較して大きくなる。詳述すると、本実施形態において、端部領域Tの概略の面積は、傾斜部12aaの長さL1と底壁面12bの長さL2の和に、短壁部12の周長さを掛け合わせた値となり、従来のように傾斜部12aaが無い場合の端部領域の概略の面積は、底壁面12bの長さL2と仮想底壁面の長さL3の和に、短壁部12の周長さを掛け合わせた値となる。L1とL3との関係は、L1=L3/cos55°=1.74×L3となる。すなわち、本実施形態における端部領域Tの概略の面積は、従来のように傾斜部12aaが無い場合の端部領域の概略の面積と比較して大きくなる。
【0041】
図6に示すように、長壁部11は底壁面11bを有する。なお、長壁部11のうち、切欠き部13が設けられた箇所での底壁面11bとは、等脚台形の上底、或いは、上底と下底とを結ぶ辺に相当する箇所である。本実施形態では、底壁面11bは平坦面(等脚台形の上底に相当する箇所では軸線6xに直交する平坦面)である。ここで、底壁面11bの長さをL4とする。なお、「底壁面11bの長さ」とは、長径方向に直交する断面上での長さである。そして、長さL4と比較して、上記の長さL1と長さL2との和の方が長くなっている。これにより、長壁部11の底壁面11bの面積に対する短壁部12の端部領域Tの面積が大きくなり、ノズル孔6の短径方向よりも長径方向に沿って溶融ガラス2が引っ張られやすくなる。
【0042】
以下、上記のノズル8を用いた異形断面ガラス繊維の製造方法による主たる作用・効果について説明する。
【0043】
上記のノズル8では、端部領域Tがノズル孔6の軸線6xに対して傾いている傾斜部12aaを有することで、傾いていない場合に比して端部領域Tと溶融ガラス2との接触面積が拡大する。これにより、短壁部12が溶融ガラス2を引っ張る能力が向上し、これに伴って、表面張力で表面積が小さくなるような溶融ガラス2の変形を抑制できる。その結果、図7に示すような高扁平率のガラス繊維2fの製造が可能となる。ここでは、ガラス繊維2fの断面形状が長円形に近い形状に形成される。
【0044】
ここで、本発明に係る異形断面ガラス繊維用ノズル、及び、異形断面ガラス繊維の製造方法は、上記の実施形態で説明した構成や態様に限定されるものではない。例えば、図8に示すように、長壁部11は、傾斜部11aaを有しても良い。なお、傾斜部11aaが軸線6xに直交する線に対して傾いた角度θ2は、10°以上、80°以下であることが好ましい。また、θ1>θ2とすることにより、長壁部11の内壁面11aが溶融ガラス2を引っ張る能力が大きくなりすぎ、ガラス繊維の扁平率が小さくなるのを抑制できる。
【0045】
さらに、長壁部11に傾斜部11aaを設ける場合、長壁部11の中央側には傾斜部11aaを設けず、長壁部11の両端側のみに傾斜部11aaを設けることにより、長壁部11が溶融ガラス2を引っ張る能力が大きくなりすぎ、ガラス繊維の扁平率が小さくなるのを抑制できる。例えば、図9に示すように、等脚台形状の切欠き部13の上底以外の長壁部11に傾斜部11aaを設け、切欠き部13の上底に傾斜部11aaを設けないことで、ガラス繊維の扁平率が小さくなるのを抑制できる。
【0046】
また、上記の実施形態では、一対の長壁部11,11の各々に切欠き部13が設けられているが、切欠き部13を設けることは必須ではなく、取り除いても構わない。また、ノズル孔6は、長穴形状以外にも、楕円形状、ダンベル形状、ひし形形状、矩形形状、3連真円形状等でもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 溶融ガラス
2f 異形断面ガラス繊維
6 ノズル孔
6a 流入口
6b 流出口
6x 軸線
8 異形断面ガラス繊維用ノズル
11 長壁部
11b 底壁面
12 短壁部
12a 内壁面
12aa 傾斜部
12b 底壁面
L1 長さ
L2 長さ
L3 長さ
T 端部領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9