(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】レーザ観測システム
(51)【国際特許分類】
G01S 17/87 20200101AFI20240904BHJP
G01S 7/4861 20200101ALI20240904BHJP
B64G 3/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
G01S17/87
G01S7/4861
B64G3/00
(21)【出願番号】P 2020178631
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕加里
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032459(JP,A)
【文献】特開2020-106475(JP,A)
【文献】特開2019-101000(JP,A)
【文献】特開2012-068224(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172833(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/51
G01S 13/00-13/95
G01S 17/00-17/95
G01C 3/00- 3/32
B64G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算部と、
を含むことを特徴とするレーザ観測システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記任意の仮想観測点として、前記目標物体に対して垂直になる地表面の位置を用いて換算することを特徴とする請求項1に記載のレーザ観測システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置に含まれる各々のレーザ測距装置各々の反射光の測距データを、前記任意の仮想観測点で観測したと想定される各々の測距値に、前記複数のレーザ測距装置に含まれる各々のレーザ測距装置における、前記目標物体に向けてパルスレーザ光を照射し受光する望遠鏡の仰角情報と、パルスレーザ光の照射時刻及びその受光時刻に基づいて、換算することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ観測システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置に含まれるあるレーザ測距装置における別のレーザ測距装置から発射されたパルスレーザ光を受信した反射光の観測データを、前記任意の仮想観測点で観測したと想定される各々の測距値に、前記目標物体に向けてパルスレーザ光を照射する望遠鏡と受光する望遠鏡の各仰角情報と、あるレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及びそのレーザ測距装置での受光時刻と、別のレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及びそのレーザ測距装置での受光時刻と、あるレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及び別のレーザ測距装置での受光時刻と、前記あるレーザ測距装置と別のレーザ測距装置での送信時刻の差と、に基づいて換算することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【請求項5】
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置の任意組で取得された反射光の測距データを、下記式1から式4を満たすよう換算することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ観測システム。
R
0 = (t
1_1- t
1)・c/2・sinθ
1 ・・・式1
R
0 = (t
2_2- t
2)・c/2・sinθ
2 ・・・式2
R
0 = (t
2_1 -(t
2_2 - t
1_1 -Δt
1_2 )/2 -t
2 )・c/2・sinθ
1 ・・・式3
R
0 = (t
1_2 -(t
1_1 - t
2_2 -Δt
2_1 )/2 -t
1 )・c/2・sinθ
2 ・・・式4
ここで、各変数は以下を表す。
cは、光速
R
0は、目標物体から地上に向けて垂直になるよう延ばした仮想観測地点をO
0とした場合における目標物体からO
0までの距離
O
1とO
2は、任意組のレーザ測距装置のそれぞれの設置位置
t
1は、O
1からのレーザパルス発信時刻
t
2は、O
2からのレーザパルス発信時刻
t
1_1は、O
1から出射された送信パルスをO
1で受信した時刻
t
2_2は、O
2から出射された送信パルスをO
2で受信した時刻
t
2_1は、O
2から出射された送信パルスをO
1で受信した時刻
t
1_2は、O
1から出射された送信パルスをO
2で受信した時刻
Δt
1_2は、O
1とO
2で出射された送信パルスの時刻の差
Δt
2_1は、O
2とO
1で出射された送信パルスの時刻の差
【請求項6】
前記測距部は、フォトンデテクタを用いて反射光の有無を検出して測距値を算出することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【請求項7】
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置各々の各パルスレーザ光の送信タイミングを、Δt
1_2を0に近づける予測値に基づき定める、送信タイミング調整処理を実行することを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【請求項8】
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得し、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、
換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する
ことを特徴とするレーザ観測データ処理方法。
【請求項9】
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と接続されたコンピュータを、
前記複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得する通信手段と、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算する換算手段と、
換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算手段、
として動作させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間を飛行する物体を観測するレーザ観測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、様々な用途にレーザ光を利用している。代表的なレーザ観測システムには、レーザ測距システムがある。例えば、リフレクタを搭載した人工衛星を観測するレーザ観測システムは、SLR(Satellite Laser Ranging)と呼ばれている。
【0003】
SLRでは、レーザ光の発射地点から人工衛星(リフレクタ)までの正確な距離測定が行える。多くの地点で人工衛星の正確な位置を観測することで、観測システムはこの衛星の正確な軌道が導出できる。その結果、様々なシステムでこの人工衛星を軌道上の3角点として利用できるようになる。また、近年ではその省電力性や高信頼性からレーザによる測距技術を用いて宇宙空間におけるスペースデブリ(以下単にデブリと記載)を観測する手法も注目を集めている。
【0004】
宇宙空間におけるデブリの実体状況を把握するため、宇宙状況把握(SSA,Space Situational Awareness)システムが構築されている。SSAシステムでは、デブリの観測に光学望遠鏡などによる受動的な観測法やレーダによる能動的な観測法が使用されている。SSAシステムでは、デブリを観測すると共に、デブリの軌道情報のデータベース化(カタログ化)などを行っている。しかし、日々のデブリの増加数、形状の多様性などにより、精確なデータベースの整備には未だ至っていない。また、デブリの精確な軌道予測は現状未だ困難を伴っている。これは、現在データ化されているデブリの大きさや、形状、軌道情報の正確さなどに起因している。デブリによる被害の予防には、より精確なデータベース化と予測精度の更なる向上が望まれる。
【0005】
SSAシステムに関する先行技術は、例えば特許文献1が挙げられる。
特許文献1には、宇宙空間に位置する宇宙物体を観測する宇宙物体観測システム(SSAシステム)が記載されている。この文献には、宇宙物体観測システムの一部として、地上から宇宙空間に照射レーザを放出し、その反射レーザ光を受光して、宇宙物体を観測するレーザ観測装置が記載されている。また、宇宙物体の観測時に、照射レーザについて、事前観測情報に基づいて ある観測時刻において宇宙物体が位置する推定領域を算出し、観測時刻において宇宙物体に照射される照射レーザ光の広がり角を推定領域に基づいて調節することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スペースデブリなどの宇宙空間を飛行する物体についてより正確なデータベース(カタログ化)が望まれ、様々な組織により日々データベースの更新が行われている。
【0008】
デブリの正確なデータベース化と予測精度の更なる向上のため、発明者はレーザ観測システムが有する幾つかの問題点を現実的に解決する手法を検討した。その中で現実に宇宙空間を飛行するデブリをレーザ観測した際に、レーザ観測で収集される任意ターゲットの測距データ(測距値群)について、ノイズと真の測距データのS/N比 および その弁別が難しい点に着目した。この問題は、フォトンデテクタを用いて反射光を受光する測距部を含むレーザ測距装置では、より顕著な問題と捉えられる。
【0009】
大半のデブリはレーザリフレクタを有しておらず、デブリによる反射光強度が多くの場合、非常に弱いものとなる。このため、測距データに関してノイズと真の観測値との識別が困難であり、正しく測距できているかどうか(受光信号がターゲットからの反射光かどうか)を判断することが現実的に難しい場合がある。
【0010】
また、既知のデブリは、レーザリフレクタの搭載されたSLR衛星や生存している衛星と異なり、レーダや光学望遠鏡、カタログから取得されたデータから予測軌道が生成されているものが多い。この予測軌道の精度は、現状で全てが十分に高いとは云えず、予測位置に望遠鏡を向けてもレーザがターゲットに当たらないこともある。このため、特許文献1に有るように、SLRでも一般的に実施されているビーム拡がり角を広くしてビームが当たりやすくしたり、望遠鏡を走査してターゲットからの受信光をサーチする工夫が考えられている。
【0011】
これらの方法では、一度ターゲットからの反射レーザ光を見つけることで、ビーム拡がり角を絞っていき、ポインティングを正確に合わせることが可能になる。またこのように複数の観測工程を経ることで、ポインティングを正確にできS/N比を向上させることも期待できる。
【0012】
しかし、これらの工夫は大型のレーザや望遠鏡を有していれば適当なシーケンスとなり得るものの、大型の施設の新規構築や使用には様々な問題が付きまとう。
【0013】
一方、フォトンカウンティングによるデブリ観測では必ずしも大型のレーザや望遠鏡を有する必要はなく、より現実的に構築しやすい規模でシステム(観測網)を構成(増築)することが可能になる。また、現実的な規模の観測網として観測する局数が増えることでデータベースの整備速度や観測精度の向上も図れるものと考えられる。しかしながら、上述したようなフォトンカウンティングによるデブリ観測では、反射レーザ光による受光信号が弱く、ダークカウントノイズと同等レベルの受信レベルしか期待できないことも多い。このような場合、ターゲットからの反射光とノイズとの弁別が非常に困難となる。無論、ノイズ発生の抑制やノイズ除去が良好に行われなければS/N比は悪化する。
【0014】
なお、フォトンカウンティングによらないデブリ観測であっても、レーザ観測で収集される任意ターゲットの測距データ(測距値群)について、ノイズと真の測距データのS/N比および弁別精度の向上は望まれる。
【0015】
本発明は、上記課題の幾つかを解決するために成されたものであり、ノイズと受光信号が混在するレーザ観測の測距データから、受光信号の判別を容易化するレーザ観測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る一実施形態のレーザ観測システムは、パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と、前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算部と、を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る一実施形態のレーザ観測データ処理方法は、パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得し、前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る一実施形態のプログラムは、パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と接続されたコンピュータを、前記複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得する通信手段と、前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算する換算手段と、換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算手段、として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ノイズと受光信号が混在するレーザ観測の測距データから、受光信号の判別を容易化するレーザ観測システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態にかかるレーザ観測システム1を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態にかかるレーザ測距装置10を示すブロック図である。
【
図3】一実施形態にかかる中央演算装置20を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態に係るマルチスタティック方式の概念図である。
【
図5】n=2の場合の一実施形態に係るマルチスタティック方式の概念図である。
【
図6】任意ターゲットに関する、反射光が十分強い場合(a)と弱い場合(b)の観測データを表すプロット図である。
【
図7】任意ターゲットに関する、反射光が弱くノイズレベルと同等な場合であり、2拠点の観測点で取得した観測データを表すプロット図である。
【
図8】任意ターゲットに関する反射光が弱くノイズレベルと同等な場合であり、他の観測地点からの受信光の測距データを時間調整せずにそのままプロットした場合(a)とある観測地点における他の観測地点からの受信光のタイミングを予測調整して観測した測距データをプロットした場合(b)の任意ターゲットに関する観測データを表すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
実施形態を用いて説明するレーザ観測システム1は、既存のレーザ測距システムと同様にレーザ光を目標に向けて送出し、その反射波たる反射レーザ光を受光する仕組みを具備する。
【0023】
目標物体(ターゲット)の初期捕捉は、目標物体の軌道が予め記録された予測軌道情報データベースを参照する。また、この予測軌道情報データベースは、内部システムでも外部システムでもかまわない。また、レーダ観測手法、光学観測手法の一方若しくは両方を用いて初期捕捉を実施することとしてもかまわない。
【0024】
図1は、実施形態にかかるレーザ観測システム1を示すブロック図である。
地上に設置された複数のレーザ測距装置10(10
1~10
n)と、ターゲットの予測軌道決定等を実施する中央演算装置20を含み構成される。図示するように、レーザ観測システム1は、マルチスタティック方式を採用し、複数のレーザ測距装置10で同一のターゲットを観測することにより測距値のデータ取得数を増やす。中央演算装置20は、複数のレーザ測距装置10にターゲットの予測軌道を送信するほか、各レーザ測距装置10からの測距データ等を解析する。本発明に係る中央演算装置20の処理については、後に詳説する。
【0025】
図2は、実施形態にかかるレーザ測距装置10を示すブロック図である。
レーザ測距装置10は、レーザ装置として、レーザパルスを生成するレーザ発振部11、送受信光の光検出器やビーム拡がりの調整、送受信光分離などの光学素子が含まれる送受信光学系12を含んでいる。また、レーザ測距装置10は、ターゲットの予測軌道に送受信光軸のポインティングを制御する望遠鏡13(ジンバル機構等を含む)を備えている。また、レーザ測距装置10は、制御部として、タイミング測定部14とデータ処理・制御演算部15を含み構成されている。タイミング測定部14は、各部のタイミング制御や、レーザの送受信タイミングから測距データを演算する。データ処理・制御演算部15は、中央演算装置20から送られるターゲットの予測軌道から予測される送受信タイミングや望遠鏡13のポインティングの制御信号の演算や、タイミング測定部14からの測距データを観測データに演算したり、各部の制御信号を生成する。また、レーザ測距装置10は、中央演算装置20からのタイミング測定部14やデータ処理・制御演算部15用の制御信号を受け、その制御信号に従い動作する機能を含む。
【0026】
各レーザ測距装置10では、レーザ発振部11により生成されたレーザパルス光を、送受信光学系12を経て望遠鏡13からターゲットに向かって照射する。ターゲットで反射した反射光は、再び望遠鏡13に入射し、送受信光学系12で検出される。この反射光は、送受信光学系12内の光検出器でフォトンカウンティングすることで光回路から電気信号に変換され、タイミング測定部14により送信タイミングと受信タイミングにより往復時間が計測される。なお、フォトンカウンティング以外の手法で測距データを得ても構わない。
【0027】
図3は、実施形態にかかる中央演算装置20を示すブロック図である。
中央演算装置20は、図示するように通信部21と演算部としての換算部22と統合部23を含み構成される。
【0028】
通信部21は、各レーザ測距装置10や外部予測軌道情報提供システムと接続し、それぞれのレーザ測距装置10のターゲットの予測軌道から予測される送受信タイミングや望遠鏡のポインティング(仰角を含む)の制御信号を通知する。また、演算部内の換算部22は、レーザ測距装置10各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意に定められた同一の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算する。また、演算部内の統合部23は、換算した、複数のレーザ測距装置10で観測された反射光の測距値群を、観測したターゲットの同一の測距データとして結合する。
【0029】
なお、レーザ測距装置10を単独で観測させる場合、送受信のタイミングは、レーザ測距装置10内のデータ処理・制御演算部15によって予測軌道を基に計算され、タイミング測定部14でレーザ発振のトリガや光検出器のゲートタイミング信号が生成される。中央演算装置20の演算部は、このレーザ測距装置10の各制御系で行われる演算処理を実行し、その結果(制御信号)をレーザ測距装置10に通知するようにしてもよい。
【0030】
中央演算装置20は、仮想観測点として、任意位置を用いて換算することができる。この任意に定められる仮想観測点と他の変数との関係は、
図4に示すように示すことができる。
図4では、一実施形態に係るマルチスタティック方式の関係を示している。また、中央演算装置20は、任意の仮想観測点として、ターゲットに対して垂直になる地表面の位置を用いて換算することができる。このターゲットに対して垂直になる地表面の位置(
図4中O
0)を仮想観測点とした場合のターゲットと仮想観測点との距離R
0は、ターゲットが時間と共に移動しても多くの場合R
0の値が大きく変化しない特徴を有する。これは地球を周回する物体の特徴である。この特徴を活かすことで、任意ターゲットに関しての観測データ(測距値群)の換算処理量の低減と、測距値の統合を図った後のデータ解析の容易さ誤差の少なさを実現できる。なお、任意地点からの推定観測データを得たいなど、必要に応じて任意の位置(
図4中O
a)を仮想観測点に設定してもよい。この際、任意の仮想観測点O
aとの距離R
aは、R
0の値と、O
aにおけるターゲットと地表面がなす角度θ
aを用いて表わすこともできる。
【0031】
換算部22は、あるレーザ測距装置10が照射して自ら受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算と、あるレーザ測距装置10が照射して別のレーザ測距装置10が受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算の両方を実行することとしても良い。また、統合部23は、この両方の方式の仮想観測点相当の測距値として換算した複数の反射光の測距値を、ターゲットの同一の測距データとして結合すればよい。このことで、単独のレーザ測距装置10で測距した場合に比べ、レーザ観測の測距データについて受光信号の判別を容易化できる。
【0032】
換算部22は、あるレーザ測距装置10が照射して自ら受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算に、ターゲットに向ける望遠鏡13の仰角情報と、パルスレーザ光の照射時刻及びその受光時刻を用いて換算すればよい。
【0033】
また、換算部22は、あるレーザ測距装置10が照射して別のレーザ測距装置10が受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算に、各拠点での望遠鏡13の各仰角情報、各拠点での照射時刻及び各拠点での受光時刻、各拠点の送信時刻の差を用いて換算すればよい。
【0034】
なお、レーザ観測システム1は、統合部23により統合した観測データについて、データ処理もしくは画像処理によってS/N比を向上させるノイズ除去処理を実行する仕組みを具備することが望ましい。このノイズ除去処理は、中央演算装置20が行っても良いし、データ処理・制御演算部15が行うこととしても構わない。
ノイズ除去処理としては、統合後の観測データを密度分析して、密度が薄い部分にある測距データをノイズの可能性が高い測距データとして扱う手法を採り入れることができる。
例えば、ノイズ除去処理としては、統合した観測データに含まれる多くの測距データ(O-Cマッピングデータ)の値を参照し、各マッピングデータ点と他のマッピングデータ点とが成す距離に着目し、一定距離に凝集したマッピングデータ点群をグループ化する。その後、所定数以上もしくは最大のグループをターゲットの観測点グループとしてみなし、それ以外の小グループをノイズとして除去することができる。
また、別のノイズ除去処理としては、統合した観測データに含まれる測距データ内で、他のデータ点との距離が所定以上離れているデータ点をノイズとみなし除去する孤立点除去処理を採用できる。
【0035】
以上の構成においてレーザ観測システム1は、複数のレーザ測距装置10で得られた任意ターゲットの測距データに含まれる測距値を仮想観測点で観測した値を示す測距値にそれぞれ換算し、一組の測距値として統合する。このレーザ観測データ処理方法により、ノイズと受光信号が混在するレーザ観測の測距データについて受光信号の判別を容易化する。
【0036】
図5は、n=2の場合の一実施形態に係るマルチスタティック方式の概念図である。
【0037】
図示するように、ターゲットにレーザ照射可能なn箇所のレーザ測距装置10を用い、各装置で計測された測距データを仮想観測点のデータとして変換し結合するデータ処理を中央演算装置20において実施する。
【0038】
説明を簡単にするために、以下の説明ではn=2の場合(
図5参照)を説明する。n=3以上の場合も以下の説明と同様に、変数を使用するレーザ測距装置10の台数に合わせて増やして演算すれば良い。n=3以上の場合、指数的に統合するデータ数を増すことが出来る。以下の説明で用いる各記号(変数)は、n=2,仮想観測点としてターゲットに対して垂直になる地表面の位置O
0を採用する場合、
図5に示した関係にある。ここで地球の曲率と高低差(標高差)は省略している。レーザ測距装置10と仮想観測点O
0との物理的な位置関係において現実に曲率や高低差を適宜考慮して演算式に反映させればよい。また、O
0とは別の仮想観測点とする場合、O
aの関係式を踏まえて位置関係を適宜演算式に反映させればよい。
【0039】
本発明に係る中央演算装置20によるマルチスタティック方式の演算方式を仮想観測地点観測方式と呼ぶ。以下では、演算部による仮想観測点の測距値への換算について、換算例1と換算例2を用いて説明する。換算例1は、あるレーザ測距装置10が照射して自ら受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算であり、換算例2は、あるレーザ測距装置10が照射して別のレーザ測距装置10が受光した反射光の測距値を仮想観測点相当の測距値への換算である。
【0040】
[仮想観測地点観測方式(n=2)]
[換算例1]
まず、2つのレーザ測距装置10の位置をそれぞれO1、O2,測距対象である任意のターゲットまでの距離をR1、R2,O1、O2から見たターゲットの仰角をθ1、θ2,光速をcと設定する。加えて、ターゲットから地上に向けて垂直になるよう延ばした仮想観測地点O0,ターゲットからO0までの距離をR0として設定する。
ここで、O1からのレーザパルス発信時刻をt1,O2からのレーザパルス発信時刻をt2とし、O1から出射された送信パルスをO1で受信した時刻をt1_1,O2から出射された送信パルスをO2で受信した時刻をt2_2とする。
【0041】
O1、O2から見たターゲットの仰角をθ1、θ2とすると、R0は下式となる。なお、地球の曲率はここでは簡単のため平面と扱っている。
R0 = R1・sinθ1 = R2・sinθ2 ・・・式1
仮想観測地点O0からレーザ光を照射した場合、宇宙物体に反射して帰ってくるまでの時間をT0とおくと、以下の等式が成り立つ。
R0 = T0・c/2 ・・・式2
このとき、O1から送信され、O1で受信された受光信号により、ターゲットとO1との距離の値R1は、下記式3の通りである。
R1 = (t1_1-t1)・c/2 ・・・式3
【0042】
仮想観測地点O0で受信されたとする仮想観測値に換算すると、ターゲットから仮想観測地点O0までの距離は、上記式1と式3を組み合わせることで、式4で表せられる。
R0 = (t1_1-t1)・c/2・sinθ1 ・・・式4
中央演算装置20は、上記関係を満たす換算式によりO1から出射してO1で受信された反射光の測距データ(測距値)を仮想観測地点O0での測距値(仮想観測値)に換算する。
【0043】
同様に、O2から送信され、O2で受信された受光信号により、ターゲットとO2との距離の値R2は、下記式5の通りである。
R2 = (t2_2-t2)・c/2 ・・・式5
仮想観測地点O0で受信されたとする仮想観測値に換算すると、ターゲットから仮想観測地点O0までの距離は、上記式1と式5を組み合わせることで、式6で表せられる。
R0 = (t2_2-t2)・c/2・sinθ2 ・・・式6
中央演算装置20は、上記関係を満たす換算式によりO2から出射してO2で受信された反射光の測距データ(測距値)を仮想観測地点O0での測距値(仮想観測値)に換算する。
【0044】
上記の数式で示したように、中央演算装置20は、各レーザ測距装置10での観測データを1つの仮想観測地点O0での受光信号の測距値にそれぞれ換算できる。この換算によって得られる各測距値は、同一地点(仮想観測地点O0)での同一ターゲットの観測データとして扱えるため、結合(重畳)させて一組の測距データとして取り扱える。
【0045】
[仮想観測地点観測方式(n=2)]
[換算例2]
次に、O2から出射された送信パルスをO1で受信した時刻をt2_1,同様にO1から出射された送信パルスをO2で受信した時刻をt1_2とする。このとき、R1、R2の関係は下記式のように表せられる。
R1 =(t2_1-t2)・c/2-(R2-R1)/2 ・・・式7
また、O1とO2で出射された送信パルスの時刻の差Δt1_2は、下記式8で表せられ、R2-R1との差は、下記式9で表せられる。
Δt1_2 = t2-t1 ・・・式8
R2-R1 = (t2_2-t1_1 -Δt1_2)・c/2 ・・・式9
上記各式を組み合わせることにより、R1は式10と表現できる。
R1 = (t2_1-(t2_2-t1_1-Δt1_2)/2-t2)・c/2 ・・・式10
したがって、O2から出射された送信パルスをO1で受信した時の測距値を、下記式11のように、仮想観測地点O0での測距値に換算できる。
R0 = (t2_1-(t2_2-t1_1-Δt1_2 )/2-t2)・c/2・sinθ1 ・・・式11
中央演算装置20は、上記関係を満たす換算式によりO2から出射してO1で受信された送信パルスの測距データを仮想観測地点O0での測距値(仮想観測値)に換算する。
【0046】
時刻t1_2に受信したパルス(O1から送信され、O2で受信された受光信号)についても上記の換算と同様であり、O2とO1で出射された送信パルスの時刻の差Δt2_1は、下記式12で表せられ、R1-R2との差は、下記式13で表せられる。
Δt2_1 = t1 - t2 ・・・式12
R1-R2 =(t1_1-t2_2 -Δt2_1)・c/2 ・・・式13
上記格式を組み合わせることにより、R2は式14と表現できる。
R2 =(t1_2 -(t1_1 - t2_2 -Δt2_1)/2 -t1 )・c/2 ・・・式14
したがって、O1から出射された送信パルスをO2で受信した時の測距データを、下記式15のように、仮想観測地点O0での測距値に換算できる。
R0 =(t1_2 -(t1_1 - t2_2 -Δt2_1 )/2 -t1 )・c/2・sinθ2 ・・・式15
中央演算装置20は、上記関係を満たす換算式によりO1から出射してO2で受信された送信パルスの測距データを仮想観測地点O0での測距値(仮想観測値)に換算する。
【0047】
上記の数式で示したように、中央演算装置20は、各レーザ測距装置10で受光した別のレーザ測距装置10で送出された送信パルスの測距値を、1つの仮想観測地点O0での受光信号にそれぞれ換算できる。この換算によって得られる測距値は、同一地点(仮想観測地点O0)での観測データとして扱えるため、結合(重畳)させて一組の測距データとして取り扱える。
【0048】
ここで、あるターゲットに関しての観測データをO-Cのマッピング処理により可視化することで得られる図面を示して、本発明を説明する。
なお、ここでのO-C処理(Observed Minus Calculated)は、実際測定された測距値と事前に他局・他方式等で取得されたターゲットの予測値とを比較した値を算出する処理である。
【0049】
図6(a)は、任意ターゲットからの反射光が十分強い場合の任意ターゲットに関する観測データを表すプロット図である。他方、
図6(b)は、任意ターゲットからの反射光が弱い場合の観測データを表すプロット図である。
【0050】
受信光の強度が十分に強い場合、O-C処理後のマッピング処理により任意ターゲットの測距データをプロットすると、
図6(a)に示されるようにターゲットによる反射光のデータとノイズのデータの判別が容易なプロット図が出力される。 なお、図中の本来の測距データと示したプロットが真の観測データであり他のプロットがノイズである。
【0051】
他方、受信光の強度が弱い場合、O-C処理後のマッピング処理により任意ターゲットの測距データをプロットすると、
図6(b)に示されるようにターゲットによる反射光のデータとノイズのデータの判別が困難なプロット図が出力される。
【0052】
図7は、ターゲットからの反射光が弱くノイズレベルと同等な場合であり、2拠点の観測点で取得した任意ターゲットに関する観測データを重畳して表すプロット図である。
O-C処理後のマッピング処理により任意ターゲットの2拠点の測距データを換算して全てプロット(重畳)すると、
図7に示されるようにターゲットによる反射光のデータとノイズのデータの判別が容易なプロット図が出力される。
【0053】
マルチスタティック方式により得られたそれぞれの観測データを任意の観測点からターゲットをレーザ測距したときのデータに置き換えることで、1つのターゲットに関する測距データを結合(統合)できる。
【0054】
このことにより、一台のレーザ測距装置10では不十分な観測データであったとしても
図7のように、本発明に係るマルチスタティック方式により各データを取得し、ノイズとの識別を可能にすることができる。すなわち、ノイズと受信信号の識別性能向上を図れる。また、統合した観測データについてノイズ除去処理を行うことで、S/N比を向上させることも可能である。
【0055】
なお、パルス受信タイミングによってO-C処理後のマッピング処理によりプロットした結果、実データの分布位置に差異が見られることもある。
図8(a)は、ターゲットからの反射光が弱くノイズレベルと同等な場合であり、他の観測地点からの受信光の測距データを時間調整せずにそのままプロットした場合の任意ターゲットに関する観測データを表す図である。
一方、
図8(b)は、ターゲットからの反射光が弱くノイズレベルと同等な場合であり、ある観測地点における他の観測地点からの受信光のタイミングを予測調整して観測した測距データをプロットした場合の任意ターゲットに関する観測データを表す図である。
【0056】
例えばマルチスタティック方式によるリアルタイム観測により各レーザ測距装置で生成される任意ターゲットの観測データ(実データ)の分布位置に差異が見られた場合(
図8(a)状態)、仮想観測地点観測方式に切り替えて、デブリ観測を継続する。この際、各レーザ測距装置10の送信タイミングの調整を、Δt
1_2を予測軌道を基に0に近づける予測値に基づき実行し、上述の計算式を利用することにより、プロットされる各データを
図8(b)に示すように同等位置に重畳させられる。
【0057】
この各レーザ測距装置10のレーザ光の送受信タイミングの調整処理は、ターゲットの予測情報等に基づき、中央演算装置20の統合部23によって実施すればよい。
【0058】
なお、上記した中央演算装置20の情報処理並びに各レーザ測距装置10の観測制御は、何れかのレーザ測距装置10が行うこととしてもよい。この場合、中央演算装置20の演算部の処理動作は、任意のレーザ測距装置10の制御部が行えばよい。また、各レーザ測距装置10が各々に上記中央演算装置20の演算部の処理で必要となるデータを他のレーザ測距装置10から取得し、また制御を実行し、自律分散型的にレーザ観測システムを構築してもよい。
【0059】
上記したように、レーザ観測システム1は、各レーザ測距装置10に照射レーザの送信タイミングの制御と、複数のレーザ測距装置10から反射光を同時に受信できる機能を具備させ、マルチスタティック方式で測距データを収集し、上記データ処理する。このことで、任意観測点からターゲットをレーザ測距したときの測距値に置換して、そのすべての測距データを結合することで、S/N比が改善した任意ターゲットの測距データを得られる。この測距データは、ノイズと受光信号の識別がし易い特徴を有する。
【0060】
また、レーザ観測システム1は、必要に応じてレーザの種類・出力の切り替えを行い、ターゲットの検知・情報抽出に加えて、レーザによる宇宙物体への妨害・破壊機能を備えることも可能である。
【0061】
以上説明したように、本発明を適用したレーザ観測システムは、ノイズと受光信号が混在するレーザ観測の測距データから、受光信号の判別を容易化するレーザ観測システムを提供できる。
【0062】
尚、レーザ観測システムの演算部は、コンピュータシステムのハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて実現すればよい。また、このコンピュータシステムは、上記メモリーに演算部用プログラムが展開され、このプログラムに基づいて1ないし複数のプロセッサー等のハードウェアを動作させることによって実現すればよい。この際、必要に応じて、このプログラムは、オペーレティングシステムや、マイクロプログラム、ドライバなどのソフトウェアが提供する機能と協働して、所望機能を実現することとしてもよい。
【0063】
なお、実施形態を例示して本発明を説明した。しかし、本発明の具体的な構成は前述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があってもこの発明に含まれる。例えば、上述した実施形態のブロック構成の分離併合、手順の入れ替えなどの変更は本発明の趣旨および説明される機能を満たせば自由であり、上記説明が本発明を限定するものではない。
【0064】
また、上記の実施形態の一部又は全部は、以下のようにも記載されうる。尚、以下の付記は本発明をなんら限定するものではない。
【0065】
[付記1]
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算部と、
を含むことを特徴とするレーザ観測システム。
【0066】
[付記2]
前記演算部は、前記任意の仮想観測点として、前記目標物体に対して垂直になる地表面の位置を用いて換算することを特徴とする付記1に記載のレーザ観測システム。
【0067】
[付記3]
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置に含まれる各々のレーザ測距装置各々の反射光の測距データを、前記任意の仮想観測点で観測したと想定される各々の測距値に、前記複数のレーザ測距装置に含まれる各々のレーザ測距装置における、前記目標物体に向けてパルスレーザ光を照射し受光する望遠鏡の仰角情報と、パルスレーザ光の照射時刻及びその受光時刻に基づいて、換算することを特徴とする付記1又は2に記載のレーザ観測システム。
【0068】
[付記4]
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置に含まれるあるレーザ測距装置における別のレーザ測距装置から発射されたパルスレーザ光を受信した反射光の観測データを、前記任意の仮想観測点で観測したと想定される各々の測距値に、前記目標物体に向けてパルスレーザ光を照射する望遠鏡と受光する望遠鏡の各仰角情報と、あるレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及びそのレーザ測距装置での受光時刻と、別のレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及びそのレーザ測距装置での受光時刻と、あるレーザ測距装置からのパルスレーザ光の照射時刻及び別のレーザ測距装置での受光時刻と、前記あるレーザ測距装置と別のレーザ測距装置での送信時刻の差と、に基づいて換算することを特徴とする付記1から3の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【0069】
[付記5]
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置の任意組で取得された反射光の測距データを、下記式1から式4を満たすよう換算することを特徴とする付記1又は2に記載のレーザ観測システム。
R0 = (t1_1- t1)・c/2・sinθ1 ・・・式1
R0 = (t2_2- t2)・c/2・sinθ2 ・・・式2
R0 = (t2_1 -(t2_2 - t1_1 -Δt1_2 )/2 -t2 )・c/2・sinθ1 ・・・式3
R0 = (t1_2 -(t1_1 - t2_2 -Δt2_1 )/2 -t1 )・c/2・sinθ2 ・・・式4
ここで、各変数は以下を表す。
cは、光速
R0は、目標物体から地上に向けて垂直になるよう延ばした仮想観測地点をO0とした場合における目標物体からO0までの距離
O1とO2は、任意組のレーザ測距装置のそれぞれの設置位置
t1は、O1からのレーザパルス発信時刻
t2は、O2からのレーザパルス発信時刻
t1_1は、O1から出射された送信パルスをO1で受信した時刻
t2_2は、O2から出射された送信パルスをO2で受信した時刻
t2_1は、O2から出射された送信パルスをO1で受信した時刻
t1_2は、O1から出射された送信パルスをO2で受信した時刻
Δt1_2は、O1とO2で出射された送信パルスの時刻の差
Δt2_1は、O2とO1で出射された送信パルスの時刻の差
【0070】
[付記6]
前記測距部は、フォトンデテクタを用いて反射光の有無を検出して測距値を算出することを特徴とする付記1から5の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【0071】
[付記7]
前記演算部は、前記複数のレーザ測距装置各々の各パルスレーザ光の送信タイミングを、Δt1_2を0に近づける予測値に基づき定める、送信タイミング調整処理を実行することを特徴とする付記1から6の何れか一項に記載のレーザ観測システム。
【0072】
[付記8]
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得し、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算し、
換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する
ことを特徴とするレーザ観測データ処理方法。
【0073】
[付記9]
パルスレーザ光を目標物体に向けて1ないし複数送出可能であり、前記目標物体に当たって返ってきた反射光をそれぞれ観測して前記目標物体までの距離を算出し測距データとして出力する測距部を各々含む複数のレーザ測距装置と接続されたコンピュータを、
前記複数のレーザ測距装置から、それぞれ測距データを取得する通信手段と、
前記複数のレーザ測距装置各々で観測された測距データについて、それぞれの反射光の測距値を任意の仮想観測点で観測したと想定される測距値に各々換算する換算手段と、
換算した複数の反射光の測距値を、前記目標物体の同一の測距データとして結合する演算手段、
として動作させることを特徴とするプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、宇宙空間のデブリ軌道決定に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 レーザ観測システム
10 レーザ測距装置
11 レーザ発振部
12 送受信光学系
13 望遠鏡
14 タイミング測定部
15 データ処理・制御演算部
20 中央演算装置
21 通信部
22 換算部
23 統合部