(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】気体処理方法、気体処理装置
(51)【国際特許分類】
A61L 9/20 20060101AFI20240904BHJP
H01J 65/00 20060101ALI20240904BHJP
F24F 8/15 20210101ALI20240904BHJP
【FI】
A61L9/20
H01J65/00 B
F24F8/15
(21)【出願番号】P 2021527701
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024867
(87)【国際公開番号】W WO2020262478
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019120975
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敬祐
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-061982(JP,U)
【文献】特表2014-500890(JP,A)
【文献】国際公開第2019/101276(WO,A1)
【文献】特表平09-509340(JP,A)
【文献】特開2003-290622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
B01D 53/34-53/96
H01J 61/16、65/00
F24F 7/00、 8/00
B01J 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなる被処理気体を処理空間内に通流させて前記被処理気体に対する処理を行う気体処理方法であって、
前記処理対象物質は、ホルムアルデヒド、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、及び酢酸エチルからなる群に属する1種以上であり、
前記処理空間内には、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線を出射する光源が配置されており、
前記光源の光出射領域からの離間距離が10mm以下の間隙を介して、
0.3m/s以上、23m/s以下の流速で前記被処理気体を通流させることを特徴とする、気体処理方法。
【請求項2】
前記光源は、Xeを含む発光ガスが封入された管体を含むエキシマランプであることを特徴とする、請求項
1に記載の気体処理方法。
【請求項3】
前記処理対象物質は、ホルムアルデヒド及びトルエンからなる群に属する少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の気体処理方法。
【請求項4】
処理空間内に、VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなる被処理気体を通流させて前記被処理気体に対する処理を行う気体処理装置であって、
前記被処理気体を前記処理空間内に導入する吸気口と、
前記処理空間内で処理された前記被処理気体を排気する排気口と、
前記処理空間内に配置され、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線を出射する光源とを有し、
前記処理対象物質は、ホルムアルデヒド、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、及び酢酸エチルからなる群に属する1種以上であり、
前記被処理気体は、前記光源の光出射領域からの離間距離が10mm以下の間隙を介して、
0.3m/s以上、23m/s以下の流速で前記処理空間内を通流することを特徴とする、気体処理装置。
【請求項5】
前記光源は、Xeを含む発光ガスが封入された管体を含むエキシマランプであることを特徴とする、請求項
4に記載の気体処理装置。
【請求項6】
前記間隙を有して前記管体を取り囲むように、又は前記間隙を有して前記管体を挟み込むように配置された遮風部材を有することを特徴とする、請求項
5に記載の気体処理装置。
【請求項7】
前記吸気口と前記排気口の間に配置された、前記被処理気体の流速を制御するブロアを有することを特徴とする、請求項
4~6のいずれか1項に記載の気体処理装置。
【請求項8】
前記処理対象物質は、ホルムアルデヒド及びトルエンからなる群に属する少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項
4~7のいずれか1項に記載の気体処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体処理方法及び気体処理装置に関し、特に、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)に属する処理対象物質を含む被処理気体に紫外線を照射することで処理を行う、気体処理方法及び気体処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホルムアルデヒドの分解除去装置として、酸化触媒や光触媒を利用する技術が存在する(下記特許文献1,2参照)。
【0003】
ところで、下記特許文献3には、上記低圧水銀ランプよりも短波長である172nmの光を放射する、キセノンエキシマランプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-163055号公報
【文献】特開2000-102596号公報
【文献】特開2007-335350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3に記載されているような主たる発光波長が180nm以下の紫外線は、従来、半導体や液晶パネルの製造工程において、光洗浄や表面改質の用途で用いられており、窒素などの不活性ガス、清浄乾燥空気の雰囲気下で照射されることが想定されていた。
【0006】
近年、地球環境や人体に影響を及ぼす可能性があるガスが問題化されており、自動車や工場などにおける排ガスに対しては、一定の規制が設けられている。また、屋内においても、実験設備や医療現場など、特定の薬剤を利用する可能性がある場所においては、VOCの排出規制が設けられているところが多い。
【0007】
しかし、現時点において、主たる発光波長が180nm以下の紫外線を用いてVOCを含む被処理気体に対する処理を行うことについての知見は得られていない。
【0008】
本発明は、主たる発光波長が180nm以下の紫外線を用いて、VOCを含む被処理気体を効率的に処理することのできる、気体処理方法及び気体処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなる被処理気体を処理空間内に通流させて前記被処理気体に対する処理を行う気体処理方法であって、
前記処理空間内には、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線を出射する光源が配置されており、
前記光源の光出射領域からの離間距離が10mm以下の間隙を介して、23m/s以下の流速で前記被処理気体を通流させることを特徴とする。
【0010】
「発明を実施するための形態」の項で後述されるように、本発明者の鋭意研究によれば、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線を被処理気体に対して照射する場合、被処理気体の流速が23m/sを超えると、流速が速くなるに連れて処理対象物質の分解性能が低下することが確認された。
【0011】
また、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線は、波長が短いため、酸素に吸収されやすい。このため、光源の光出射領域から10mmを超える箇所を通流する被処理気体に対しては紫外線がほとんど届かず、VOCがほとんど分解されないという事態が生じる。
【0012】
上記の方法によれば、被処理気体に含まれるVOCに属する処理対象物質を効率的に分解することができる。
【0013】
なお、本明細書において、「主たる発光波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。例えば所定の発光ガスが封入されているエキシマランプなどのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ光強度を示す光源においては、通常は、相対強度が最も高い波長(主ピーク波長)をもって、主たる発光波長として構わない。
【0014】
上記の方法において、前記被処理気体の流速は0.3m/s以上としても構わない。
【0015】
被処理気体の流速を0.3m/s以上とすることで、処理空間内において被処理気体に乱流を生じさせることができる。これにより、被処理気体に対して光源からの紫外線が照射される時間が長くなり、処理対象物質の分解効率が高められる。
【0016】
前記処理対象物質は、ホルムアルデヒド及びトルエンからなる群に属する少なくとも一種を含むものとしても構わない。なお、処理対象物質としては、上記の例以外に、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチルなどが含まれていても構わない。
【0017】
本発明は、処理空間内に、VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなる被処理気体を通流させて前記被処理気体に対する処理を行う気体処理装置であって、
前記被処理気体を前記処理空間内に導入する吸気口と、
前記処理空間内で処理された前記被処理気体を排気する排気口と、
前記処理空間内に配置され、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線を出射する光源とを有し、
前記被処理気体は、前記光源の光出射領域からの離間距離が10mm以下の間隙を介して、23m/s以下の流速で前記処理空間内を通流することを特徴とする。
【0018】
前記被処理気体の流速が0.3m/s以上であるものとしても構わない。
【0019】
被処理気体の流速を0.3m/s以上とすることで、処理空間内において被処理気体が乱流を生じるため、被処理気体が処理空間内に留まる時間が確保され、処理対象物質が分解するのに必要な時間にわたって、紫外線を照射させることができる。
【0020】
前記光源は、Xeを含む発光ガスが封入された管体を含むエキシマランプであるものとしても構わない。この場合、光源からは主たる発光波長が172nmの紫外線が照射される。
【0021】
前記気体処理装置は、前記間隙を有して前記管体を取り囲むように、又は前記間隙を有して前記管体を挟み込むように配置された遮風部材を有するものとしても構わない。
【0022】
前記気体処理装置は、前記吸気口と前記排気口の間に配置された、前記被処理気体の流速を制御するブロアを有するものとしても構わない。この場合、前記ブロアによって、被処理気体が23m/s以下の流速で処理空間内に導入されるように制御される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被処理気体に含まれるVOCに属する処理対象物質を効率的に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の気体処理装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。
【
図3】エキシマランプと遮風部材を方向d1から見たときの模式的な平面図である。
【
図4】Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプの発光スペクトルと、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
【
図5】遮風部材がない場合において、エキシマランプの表面からの距離と、被処理気体に含まれるヒドロキシラジカル(・OH)の濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】エキシマランプの別の模式的な断面図である。
【
図7】エキシマランプの別の模式的な断面図である。
【
図9】被処理気体の流速とVOC除去率との関係を示すグラフである。
【
図10】本発明の気体処理装置の別施形態の構成を模式的に示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の気体処理装置及び気体処理方法の各実施形態について、適宜図面を参照して説明する。なお、以下の図面において、図面上の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致していない。
【0026】
図1は、気体処理装置の一実施形態の構成を模式的に示す図面である。気体処理装置1は、中空状の処理空間8を内蔵した筐体3を有する。筐体3は、吸気口5と、吸気口5に対して方向d1に離間した位置に配置された排気口7とを有する。吸気口5から導入された被処理気体G1は、方向d1に進行して処理空間8内で処理がされた後、処理済気体G2として排気口7から排気される。
【0027】
気体処理装置1は、VOCに属する処理対象物質が空気に混在してなる被処理気体G1に対して処理を行って、含有する処理対象物質の濃度を低下させた処理済気体G2に変換する。VOCに属する処理対象物質としては、ホルムアルデヒド、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチルなどが挙げられる。気体処理装置1は、これらの処理対象物質の1種類以上を含む空気を処理する目的で利用され得る。
【0028】
気体処理装置1は、処理空間8内に配置されたエキシマランプ10を備える。
図2は、エキシマランプ10を方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
【0029】
エキシマランプ10は、方向d1に沿って延伸する管体14を有する。より詳細には、この管体14は、円筒形状を呈し外側に位置する外側管14aと、外側管14aの内側において外側管14aと同軸上に配置されており、外側管14aよりも内径が小さい円筒形状を呈した内側管14bとを有する。いずれの管体14(14a,14b)も、合成石英ガラスなどの誘電体からなる。
【0030】
外側管14aと内側管14bとは、共に方向d1に係る端部において封止されており(不図示)、両者の間には方向d1から見たときに円環形状を呈する発光空間が形成される。この発光空間内には、放電によってエキシマ分子を形成する発光ガス13Gが封入されている。発光ガス13Gのより詳細な一例としては、キセノン(Xe)とネオン(Ne)を所定の比率(例えば3:7)で混在させたガスからなり、更に酸素や水素を微量に含むものとしても構わない。
【0031】
図2に例示されたエキシマランプ10は、外側管14aの外壁面上に配設された第一電極11と、内側管14bの内壁面上に配設された第二電極12とを有する。第一電極11は、メッシュ形状又は線形状を呈する。また、第二電極12は膜形状を呈する。なお、第二電極12についても、第一電極11と同様にメッシュ形状又は線形状であっても構わない。
【0032】
なお、
図1に示す例では、エキシマランプ10は、方向d1に係る端部にベース部19を有する。このベース部19は、ステアタイト、フォルステライト、サイアロン、アルミナなどのセラミックス材料(無機材料)からなり、管体14の端部を固定する機能を有している。ベース部19に設けられた孔部又はベース部19の外縁を通じて、各電極(11,12)に接続される不図示の給電線が配設されている。
【0033】
エキシマランプ10においては、不図示の点灯電源から給電線を介して第一電極11と第二電極12との間に例えば50kHz~5MHz程度の高周波の交流電圧が印加されると、発光ガス13Gに対して、管体14を介して前記電圧が印加される。このとき、発光ガス13Gが充填されている放電空間内で放電プラズマが生じ、発光ガス13Gの原子が励起されてエキシマ状態となり、この原子が基底状態に移行する際にエキシマ発光を生じる。発光ガス13Gとして、上述したキセノン(Xe)を含むガスを用いた場合には、このエキシマ発光は、172nm近傍にピーク波長を有する紫外線L1となる。
【0034】
本実施形態の気体処理装置1は、遮風部材20を備える。
図3は、エキシマランプ10と遮風部材20を方向d1から見たときの模式的な平面図である。遮風部材20は、中央付近に開口を有した遮風面23を有する。エキシマランプ10は、遮風部材20の前記開口の内側に挿通されることで、エキシマランプ10の光出射領域と遮風面23との間に間隙21が設けられる。この間隙21は、10mm以下であり、より好ましくは8mm以下である。一方で、間隙21をあまりに細くすると、吸気口5から導入された被処理気体G1が遮風部材20に衝突した後、後段に流入しにくくなり、処理能力が低下するおそれがあるため、間隙21は2mm以上が好ましく、3mm以上とするのがより好ましい。
【0035】
なお、
図2に示すエキシマランプ10において、光出射領域とは、第一電極11がメッシュ形状又は線形状を呈することで、第一電極11に隠れずに露出された管体14の壁面に対応する。
【0036】
図4は、Xeを含む発光ガスが封入されたエキシマランプの発光スペクトルと、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収スペクトルとを重ねて表示したグラフである。
図4において、横軸は波長を示し、左縦軸はエキシマランプの光強度の相対値を示し、右縦軸は、酸素(O
2)及びオゾン(O
3)の吸収係数を示す。
【0037】
エキシマランプ10の発光ガスとしてXeを含むガスを用いる場合、
図4に示されるように、エキシマランプ10から出射される紫外線L1は、主たる発光波長が160nm以上180nm未満の範囲内(以下、「第一波長帯λ
1」と呼ぶ)である。
図4に示すように、この第一波長帯λ
1の光は、酸素(O
2)による吸収量が大きい。
【0038】
被処理気体G1に対して、エキシマランプ10からの第一波長帯λ1の紫外線L1が照射され、酸素(O2)に吸収されると、以下の(1)式の反応が進行する。(1)式において、O(1D)は、励起状態のO原子であり、高い反応性を示す。O(3P)は基底状態のO原子である。また、(1)式において、hν(λ1)は、第一波長帯λ1の光が吸収されていることを示す。
O2 + hν(λ1) → O(1D) + O(3P) ‥‥(1)
【0039】
(1)式で生成されたO(3P)は、被処理気体G1に含まれる酸素(O2)と反応して、(2)式に従ってオゾン(O3)を生成する。
O(3P) + O2 → O3 ‥‥(2)
【0040】
また、高い反応性を示すO(1D)の一部は、被処理気体G1に含まれる水分(H2O)と反応して、(3)式に従ってヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。
O(1D) + H2O → ・OH + ・OH ‥‥(3)
【0041】
上記反応により、高い反応性を示すO(1D)やヒドロキシラジカル(・OH)が生成されることで、被処理気体G1内に含まれるVOCに属する処理対象物質が効率的に分解される。
【0042】
一方で、
図4を参照して上述したように、第一波長帯λ
1の紫外線L1は、酸素(O
2)による吸収量が大きい。このため、仮に、筐体3の内側に遮風部材20が設けられていない場合、吸気口5から被処理気体G1を導入したとしても、エキシマランプ10の近傍を通流する被処理気体G1に含まれる酸素によって紫外線L1が吸収される。この結果、エキシマランプ10から離れた位置を通流する被処理気体G1に対しては高い光量を維持したまま紫外線L1を照射することができない。
【0043】
図5は、遮風部材20を設けない筐体3内にエキシマランプ10を配置して、エキシマランプ10を発光させながら被処理気体G1を通流させた場合において、エキシマランプ10の表面からの距離と、エキシマランプ10から照射される紫外線L1の相対照度との関係をグラフ化したものである。詳細には、
図5は、紫外線L1が透過する距離に関して指数関数的に減弱することを前提に、
図4に示すエキシマランプ10のスペクトルデータと酸素(O
2)の吸収係数、及び紫外線L1の透過する距離に基づいて、シミュレーションによって算定された結果に対応する。
図5では、透過する距離が0の位置、すなわち、エキシマランプ10の表面における紫外線L1の照度を100%とし、各位置における相対照度がグラフ化されている。
【0044】
式(1)及び式(3)から、ヒドロキシラジカル(・OH)の生成量は、O(
1D)の量に比例し、そして、O(
1D)の量は、照射される光の量に比例することが分かる。つまり、
図5は、エキシマランプ10の表面、すなわち光出射領域からの距離と、ヒドロキシラジカル(・OH)の生成量との関係を示していることになる。
図5によれば、エキシマランプ10の表面(光出射領域)からの距離が遠ざかるに連れて、ヒドロキシラジカル(・OH)の濃度が低下していることが確認される。そして、エキシマランプ10の表面(光出射領域)から10mmを超える程度に離れた場合には、ヒドロキシラジカル(・OH)の濃度が極めて低くなることが確認される。なお、
図5によれば、被処理気体G1の湿度にかかわらず同様の傾向が示されること、及び、被処理気体G1の湿度が高いほどヒドロキシラジカル(・OH)の生成濃度が高められることが確認される。
【0045】
上述したように、本実施形態の気体処理装置1によれば、筐体3の内側に遮風部材20が配置されているため、遮風部材20によって被処理気体G1の通流領域が限定される。より詳細には、吸気口5から導入された被処理気体G1は、遮風面23に衝突して進行方向が変更され、10mm以下の間隙21内を通流する。この結果、被処理気体G1をエキシマランプ10の光出射領域の近傍に導くことができる。これにより、かかる領域に位置する被処理気体G1に対して高い割合でエキシマランプ10の紫外線L1が照射されるため、高い反応性を示すO(1D)や・OHの生成確率が高められる。
【0046】
図1に示す気体処理装置1は、方向d1に離間した位置に2枚の遮風部材20を設けた構成としているが、遮風部材20は3枚以上であっても構わないし、1枚であっても構わない。気体処理装置1が1枚の遮風部材20を備える場合であっても、吸気口5から導入された被処理気体G1は、いったん間隙21を通過した後に排気口7に向かって通流する。この結果、被処理気体G1は、一時的ではあるものの必ずエキシマランプ10の光出射領域の近傍を通過するため、この通過時に紫外線L1が照射されることで高い反応性を示すO(
1D)や・OHの生成確率が高められる。
【0047】
エキシマランプ10は、
図2の形状には限定されず、
図6や
図7に示す構造のものを用いても構わない。
図6は、いわゆる「一重管構造」を呈したエキシマランプ10を、方向d1に直交する平面で切断したときの模式的な断面図である。
図6に示すエキシマランプ10は、
図2に示すエキシマランプ10とは異なり、1つの管体14を有している。管体14は、長手方向、すなわち方向d1に係る端部において封止されており(不図示)、内側の空間内に発光ガス13Gが封入される。そして、管体14の内側(内部)には第二電極12が配設され、管体14の外壁面には、網目形状又は線形状の第一電極11が配設される。
【0048】
図7は、いわゆる「扁平管構造」を呈したエキシマランプ10を、
図6にならって模式的に図示した断面図である。
図7に示すエキシマランプ10は、長手方向、すなわち方向d1から見たときに矩形状を呈した1つの管体14を有する。そして、エキシマランプ10は、管体14の一方の外表面に配置された第一電極11と、管体14の外表面であって第一電極11と対向する位置に配置された第二電極12とを有する。第一電極11及び第二電極12は、管体14で発生した紫外線L1が管体14の外側に出射することへの妨げにならないよう、いずれもメッシュ形状(網目形状)又は線形状を呈している。
【0049】
なお、エキシマランプ10を方向d1に直交する平面で切断したときの形状については、
図2及び
図6に示す円形や、
図7に示す長方形には限定されず、種々の形状が採用され得る。
【0050】
気体処理装置1においては、エキシマランプ10の光出射領域の近傍において、被処理気体G1を流速23m/s以下で通流させることで、被処理気体G1に含まれるVOCの分解効率が更に高められることが確認された。以下、実施例を参照して説明する。
【0051】
[実施例]
以下、実験データに基づいて説明する。
図8は、気体処理装置1を模擬した実験系の構成を模式的に示す図面である。実験系2は、処理空間8を内蔵する筐体3と、筐体3に連結された導管(51,52,53)を有する。VOC生成器30は、VOCを揮発させることで、空気にホルムアルデヒドが含有されてなる被処理気体G1を生成する。被処理気体G1は、吸気口5から導管51に取り込まれ、導管51内を通流した後に処理空間8に導かれる。被処理気体G1は、処理空間8内で紫外線L1が照射されることで処理された後、処理済気体G2として導管52,53を経て、排気口7から系外に排気される。
【0052】
導管52には、処理空間8から排気された気体に含まれるVOCの濃度を測定するためのVOC測定器41が設けられている。また、導管53内には、被処理気体G1の流速を制御するためのブロア42が設けられている。
【0053】
図9は、VOC生成器30がVOCとしてのホルムアルデヒドを生成する場合と、VOCとしてのトルエンを生成する場合の双方において、被処理気体G1の流速とVOC除去率との関係を示すグラフである。VOC除去率Y1とは、紫外線L1を照射する前に被処理気体G1に含まれるVOCの含有濃度を基準濃度A1とし、処理済気体G2に含まれるVOCの含有濃度を処理後濃度A2としたときにおいて、Y1=(A1-A2)/A1で定義される値である。
【0054】
なお、基準濃度A1は、エキシマランプ10を不点灯状態として、吸気口5から被処理気体G1を通流させたときに、VOC測定器41で読み取られたVOCの濃度が採用された。また、処理後濃度A2は、エキシマランプ10を点灯状態として同様に測定した値で採用された。
【0055】
実験系2の詳細な条件は以下の通りである。
【0056】
VOCをホルムアルデヒドとする場合、VOC生成器30によって、被処理気体G1に含まれるホルムアルデヒドの含有濃度が15ppmとなるように設定された。また、VOCをトルエンとする場合、VOC生成器30によって、被処理気体G1に含まれるトルエンの含有濃度が10ppmとなるように設定された。
【0057】
エキシマランプ10は、
図7に示す扁平管構造のものが採用された。具体的には、方向d1から見たときの矩形部分が11mm×20mmであり、方向d1に係る長さが145mmであった。
【0058】
遮風部材20は、エキシマランプ10の吸気口5側の端部から、方向d1に関して100mmの箇所に設置された。遮風部材20は、PTFEなどのフッ素系樹脂で形成された板状部材であって、エキシマランプ10の管体14が挿通されると電極(11,12)から6mmの間隙21が確保されるように、開口が設けられていた。なお、
図7において、管体14の短手方向に係る端面と遮風部材20との間に形成される間隙21は、6mm以下であった。
【0059】
筐体3の通流部分の内径、導管(52,53)の内径は、いずれもΦ100であった。
【0060】
被処理気体G1の流速は、熱線式風速計testo425(株式会社テストー製)によって測定された。なお、
図9の横軸が示す流速の値は、上記方法によって測定された、Φ100の導管53内を流れる処理済気体G2の速度の値から、3mmの間隙21を通過する被処理気体G1の速度の値を演算によって算定した値が採用された。より具体的には、被処理気体G1(及び処理済気体G2)の流量Qは通流領域の断面積Sと流速vの積で規定され、流量Qが一定の元では断面積Sと流速vの積が一定であるため、流速vが測定された箇所における通流領域の断面積S1、測定された流速v1、及び求めたい箇所の通流領域の断面積S2から、求めたい箇所の流速v2が算定される。
【0061】
図9に示すグラフ上にプロットされた値は、以下の表1の通りである。
【0062】
【0063】
驚くべきことに、
図9によれば、間隙21を通過する被処理気体G1の流速が23m/s以下の範囲では、VOCの除去率が略100%であるのに対し、23m/sを超えると流速が速くなるに連れてVOCの除去率が低下することが確認された。更に、間隙21を通過する被処理気体G1の流速が35m/sよりも速くなると、VOCの除去率の低下傾向が顕著になることが確認された。なお、この結果は、VOCの物質がホルムアルデヒドである場合も、トルエンである場合も同様であった。更に、エキシマランプ10の構造を、
図2に示す形状とした場合であっても、全く同じ結果が得られた。
【0064】
これは、被処理気体G1が間隙21内を通過することで、エキシマランプ10の光出射領域の近傍を通流するようにしても、その速度があまりに速いと、間隙21を通過した後、直ちにエキシマランプ10の光出射領域から離れた箇所に拡がってしまい、上述した(1)~(3)式の反応が充分に生じないためと考えられる。
【0065】
一方で、間隙21を通過する被処理気体G1の流速が23m/s以下の範囲内であれば、上述した(1)~(3)式の反応が生じる時間の間、被処理気体G1をエキシマランプ10の光出射領域の近傍に流すことができるため、VOCを効率的に分解できたものを考えられる。
【0066】
なお、同様の演算によれば、間隙21の大きさを7mmとしたときは、間隙21を通過する被処理気体G1の流速を8m/s以下とするのが好ましい。間隙21の大きさを8mmとしたときは、間隙21を通過する被処理気体G1の流速を6.7m/s以下とするのが好ましい。間隙21の大きさを9mmとしたときは、間隙21を通過する被処理気体G1の流速を5.7m/s以下とするのが好ましい。間隙21の大きさを10mmとしたときは、間隙21を通過する被処理気体G1の流速を5m/s以下とするのが好ましい。
【0067】
ところで、被処理気体G1の粘性係数をμ[N・s/m2]、配管の径をL[m]、密度をρ[kg/m3]、流速をv[m/s]とすると、レイノルズ数Reは、以下の(4)式で定義される。
Re = (ρ・v・L)/μ ‥‥(4)
【0068】
ここで、レイノルズ数Reが2300以上であるとき、流体は乱流であると判断される。ここで、Lの値として、導管(52,53)の内径Φ=100mmを採用し、粘性係数μの値を1.82×10-5[Pa・s]、密度ρの値を1.20×10-3[g/cm3]とすると、流速v≧0.32m/sの場合に、被処理気体G1は導管(52,53)内で乱流を生じることが確認される。気体処理装置1は、Φ100以上の一般的な導管と連結されて利用されることを想定すると、被処理気体G1の流速を0.3m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。この結果、被処理気体G1の多くを、エキシマランプ10の光出射領域の近傍に通流させやすくなる。
【0069】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0070】
〈1〉上記実施形態では、遮風部材20が中央付近に開口を有する板状部材からなり、開口箇所に光源としてのエキシマランプ10が挿通されることで、間隙21を形成するものとした。しかし、開口を有しない複数枚の遮風部材20を、エキシマランプ10の管体14を挟み込むように配置することで、遮風部材20とエキシマランプ10の光出射領域との間に形成される間隙21を、10mm以下にするものとしても構わない。
【0071】
〈2〉
図10に示すように、遮風部材20を設けずに、筐体3の内側の開口領域を一部分において細くすることで、筐体3の内壁とエキシマランプ10の光出射領域との間に形成される間隙21を、10mm以下にするものとしても構わない。
【0072】
この場合、上記(4)式においてL=10mmとすると、被処理気体G1の流速を3.5m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。なお、L=9mmの場合には、被処理気体G1の流速を3.9m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。L=8mmの場合には、被処理気体G1の流速を4.4m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。L=7mmの場合には、被処理気体G1の流速を5m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。L=6mmの場合には、被処理気体G1の流速を5.8m/s以上とすることで、気体処理装置1内において被処理気体G1が乱流を生じやすくなる。
【0073】
〈3〉上記実施形態では、エキシマランプ10の長手方向が被処理気体G1の通流方向d1に一致する場合について説明したが、エキシマランプ10の配置態様は任意である。
【0074】
更に、上記実施形態では、気体処理装置1が光源としてエキシマランプ10を有する場合について説明したが、主たる発光波長が160nm以上、180nm以下の紫外線L1を発する限りにおいて、光源はエキシマランプ10には限定されない。
【0075】
〈4〉
図8を参照した実験系2では、ブロア42によって被処理気体G1の流速を制御したが、間隙21内を通流する被処理気体G1の流速を23m/s以下にする方法は任意である。
【0076】
〈5〉
図9及び表1によれば、被処理気体G1の流速が35m/sを超えると、更にVOC除去率が低下することが分かる。そして、被処理気体G1の流速を35m/s以下とすると、ホルムアルデヒド及びトルエンの双方について、80%以上の除去率が実現される。
【0077】
環境基準によっては、VOCを含む気体(ここでいう被処理気体G1)から80%以上のVOCを除去することができれば、ダクトから系外に排出することが許容される場合がある。このような場合には、被処理気体G1の流速を35m/s以下に設定するものとしても構わない。無論、VOCの除去率を、80%を超えて更に高める観点からは、被処理気体G1の流速を31m/s以下とするのが好ましく、23m/s以下とするのが特に好ましい。
【符号の説明】
【0078】
1 : 気体処理装置
2 : 実験系
3 : 筐体
5 : 吸気口
7 : 排気口
8 : 処理空間
10 : エキシマランプ
11 : 第一電極
12 : 第二電極
13G : 発光ガス
14 : 管体
14a : 外側管
14b : 内側管
19 : ベース部
20 : 遮風部材
21 : 間隙
23 : 遮風面
30 : VOC生成器
41 : VOC測定器
42 : ブロア
51,52,53 : 導管
L1 : 紫外線