(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】電動車両の駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240904BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240904BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240904BHJP
B60W 10/18 20120101ALI20240904BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240904BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L7/14
B60W10/08
B60W10/18
B60W10/00 120
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2022540148
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2021026378
(87)【国際公開番号】W WO2022024753
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2020128753
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】古賀 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃
(72)【発明者】
【氏名】古市 哲也
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077753(JP,A)
【文献】特開2019-123313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/08
B60W 10/18
B60W 10/04
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右の車輪に夫々備えられた制動装置と、
前記車両の車輪を駆動及び回生制動する電動モータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記車両に付加するヨーモーメント付加量を演算する車両運動制御部と、
前記車両運動制御部で演算されたヨーモーメント付加量に基づいて、前記制動装置を左右独立して制御して、前記車両のヨーモーメントを制御する制動装置制御部と、
前記電動モータの駆動トルク及び回生制動トルクを制御するモータ制御部と、を備えた電動車両の駆動制御装置であって、
前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、前記電動モータの前記駆動トルクを増加または前記回生制動トルクを減少させる補正制御を実行し、
前記制動装置制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両の旋回走行時に旋回内輪側の前記制動装置の制動トルクを増加して前記車両の旋回を促進させる旋回アシスト制御、または前記車両の旋回走行時に旋回外輪側の前記制動装置の制動トルクを増加して前記車両の旋回を抑制させる旋回スピン抑制制御を実行し、
前記モータ制御部は、前記旋回アシスト制御実行時と前記旋回スピン抑制制御実行時とで、それぞれ異なる前記駆動トルクまたは前記回生制動トルクの補正制御を実行することを特徴とする電動車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記車両は、左右前輪を駆動する前輪駆動モータと、左右後輪を駆動する後輪駆動モータを有し、
前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、加速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には前記前輪駆動モータよりも前記後輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させ、加速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には前記後輪駆動モータよりも前記前輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記車両は、左右前輪を駆動する前輪駆動モータと、左右後輪を駆動する後輪駆動モータを有し、
前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、減速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には前記後輪駆動モータよりも前記前輪駆動モータの回生制動トルクを大きく減少させ、減速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には前記前輪駆動モータよりも前記後輪駆動モータの回生制動トルクを大きく減少させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記制動装置制御部は、前記車両の前輪の前記制動装置を左右独立して制御して、前記旋回アシスト制御、または旋回スピン抑制制御を実行し、
前記モータ制御部は、前記車両の後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能であって、
前記車両運動制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両に付加する前記ヨーモーメント付加量を前記制動装置による第1ヨーモーメント付加量と前記電動モータによる第2ヨーモーメント付加量とに配分するヨーモーメント配分量を演算し、
前記制動装置制御部及び前記モータ制御部は、前記ヨーモーメント配分量に基づいて、前記制動装置及び電動モータをそれぞれ制御し、
前記モータ制御部は、
前記制動装置制御部による前記前輪の前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、加速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には旋回外輪側の前記後輪よりも旋回内輪側の前記後輪の駆動トルクを大きく増加させ、加速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には旋回内輪側の前記後輪よりも旋回外輪側の前記後輪の駆動トルクを大きく増加させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記制動装置制御部は、前記車両の前輪の前記制動装置を左右独立して制御して、前記旋回アシスト制御、または旋回スピン抑制制御を実行し、
前記モータ制御部は、前記車両の後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能であって、
前記車両運動制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両に付加する前記ヨーモーメント付加量を前記制動装置による第1ヨーモーメント付加量と前記電動モータによる第2ヨーモーメント付加量とに配分するヨーモーメント配分量を演算し、
前記制動装置制御部及び前記モータ制御部は、前記ヨーモーメント配分量に基づいて、前記制動装置及び電動モータをそれぞれ制御し、
前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記前輪の前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、減速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には旋回外輪側の前記後輪よりも旋回内輪側の前記後輪の回生制動トルクを大きく減少させ、減速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には旋回内輪側の前記後輪よりも旋回外輪側の前記後輪の回生制動トルクを大きく減少させることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右輪で独立して制動制御可能な電動車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の横滑り防止や旋回性能の向上を図るために、車両の駆動トルクや制動トルクを左右の車輪(走行輪)で異なる値に制御する制駆動装置が開発されている。この制駆動装置としては、車両の横滑り防止装置やアクティブヨーコントロール装置等が知られている。例えば、特許文献1に開示された車両は、車両の左右前後の車輪毎に駆動用モータ及びブレーキ装置を備えており、各駆動用モータ及び各ブレーキ装置を独立して制御可能である。特許文献1では、操舵角と実ヨーレートに基づいて駆動用モータあるいはブレーキ装置を作動制御することで、車両のヨーモーメントを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような制駆動装置において、ブレーキ装置による制動トルクのみで車両のヨーモーメントを制御する装置は、比較的安価に実行可能であり汎用性が高い。
しかしながら、ブレーキ装置による制動トルクを付加することで、車両全体として速度低下を招き、運転者が違和感を覚える可能性がある。
また、ブレーキ装置は、ブレーキディスクの状態のバラツキ等により、制動トルクを精度よく制御することが困難であるといった問題点もある。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車輪の制動により車両のヨーモーメントを制御する車両において、制動による違和感を抑制することが可能な電動車両の駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両の駆動制御装置は、車両の左右の車輪に夫
々備えられた制動装置と、前記車両の車輪を駆動及び回生制動する電動モータと、前記車
両の走行状態に基づいて、前記車両に付加するヨーモーメント付加量を演算する車両運動
制御部と、前記車両運動制御部で演算されたヨーモーメント付加量に基づいて、前記制動
装置を左右独立して制御して、前記車両のヨーモーメントを制御する制動装置制御部と、
前記電動モータの駆動トルク及び回生制動トルクを制御するモータ制御部と、を備えた電
動車両の駆動制御装置であって、前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、前記モータ制御部による前記駆動トルクを増加または前記回生制動トルクを減少させる補正制御を実行し、前記制動装置制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両の旋回走行時に旋回内輪側の前記制動装置の制動トルクを増加して前記車両の旋回を促進させる旋回アシスト制御、または前記車両の旋回走行時に旋回外輪側の前記制動装置の制動トルクを増加して前記車両の旋回を抑制させる旋回スピン抑制制御を実行し、前記モータ制御部は、前記旋回アシスト制御実行時と前記旋回スピン抑制制御実行時とで、それぞれ異なる前記駆動トルクまたは前記回生制動トルクの補正制御を実行することを特徴とする。
【0007】
これにより、制動装置制御部によって車両のヨーモーメントが制御された際に、制動装置によって車両が制動されるが、この制動トルクの増加に伴って、モータ制御部による駆動トルクを増加または回生制動トルクを減少させることで、車両の減速を緩和させることができる。
【0008】
また、制動装置制御部により、左右の制動装置を制御することで、車両の旋回を促進させる旋回アシスト制御と、車両の旋回を抑制させる旋回スピン抑制制御とが可能になる。そして、旋回アシスト制御と旋回スピン抑制制御とにより、それぞれ異なる駆動トルクまたは回生制動トルクの補正制御を実行することで、旋回アシスト制御実行時及び旋回スピン抑制制御実行時の夫々において適切に駆動トルクまたは回生制動トルクの補正を行い、車両の旋回性能あるいは走行安定性能を向上させることができる。
【0009】
好ましくは、前記車両は、左右前輪を駆動する前輪駆動モータと、左右後輪を駆動する後輪駆動モータを有し、前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、加速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には前記前輪駆動モータよりも前記後輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させ、加速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には前記後輪駆動モータよりも前記前輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させるとよい。
【0010】
これにより、加速走行中における旋回アシスト制御実行時には、前輪駆動モータよりも後輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させることで、速度低下を抑制しつつ旋回性能を確保することができる。また、加速走行中における旋回スピン抑制制御実行時には後輪駆動モータよりも前輪駆動モータの駆動トルクを大きく増加させることで、速度低下を抑制しつつ旋回スピンを抑制して走行安定性能を確保することができる。
【0011】
好ましくは、前記車両は、左右前輪を駆動する前輪駆動モータと、左右後輪を駆動する後輪駆動モータを有し、前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、減速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には前記後輪駆動モータよりも前記前輪駆動モータの回生制動トルクを大きく減少させ、減速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には前記前輪駆動モータよりも前記後輪駆動モータの回生制動トルクを大きく減少させるとよい。
【0012】
これにより、減速走行中における旋回アシスト制御実行時には、後輪駆動モータよりも前輪駆動モータの回生制動トルクを大きく減少させることで、速度低下を抑制しつつ車両の旋回性能を確保することができる。また、減速走行中における旋回スピン抑制制御実行時には、前輪駆動モータよりも後輪駆動モータの駆動トルクを大きく減少させることで、速度低下を抑制しつつ旋回スピンを抑制して走行安定性能を確保することができる。
【0013】
好ましくは、前記制動装置制御部は、前記車両の前輪の前記制動装置を左右独立して制御して、前記旋回アシスト制御、または旋回スピン抑制制御を実行し、前記モータ制御部は、前記車両の後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能であって、前記車両運動制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両に付加する前記ヨーモーメント付加量を前記制動装置による第1ヨーモーメント付加量と前記電動モータによる第2ヨーモーメント付加量とに配分するヨーモーメント配分量を演算し、前記制動装置制御部及び前記モータ制御部は、前記ヨーモーメント配分量に基づいて、前記制動装置及び電動モータをそれぞれ制御し、前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記前輪の前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、加速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には旋回外輪側の前記後輪よりも旋回内輪側の前記後輪の駆動トルクを大きく増加させ、加速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には旋回内輪側の前記後輪よりも旋回外輪側の前記後輪の駆動トルクを大きく増加させるとよい。
【0014】
これにより、後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能な車両においては、加速走行中における旋回アシスト制御実行時には、車両運動制御部で演算されたヨーモーメント付加量の総和を満たす様に各トルクを決定する。例えば、ヨーモーメント付加量の総和が一定で、前輪の制動トルクを増加する場合は、旋回外輪側の後輪よりも旋回内輪側の後輪の駆動トルクを大きく増加させることで、速度低下を抑制しつつ過度な旋回を抑制して走行安定性能を確保することができる。また、加速走行中における旋回スピン抑制制御実行時には、旋回外輪側の後輪よりも旋回内輪側の後輪の駆動トルクを大きく増加させることで、速度低下を抑制しつつ過度な旋回スピンの抑制を抑えて旋回性能を確保することができる。
【0015】
好ましくは、前記制動装置制御部は、前記車両の前輪の前記制動装置を左右独立して制御して、前記旋回アシスト制御、または旋回スピン抑制制御を実行し、前記モータ制御部は、前記車両の後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能であって、前記車両運動制御部は、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両に付加する前記ヨーモーメント付加量を前記制動装置による第1ヨーモーメント付加量と前記電動モータによる第2ヨーモーメント付加量とに配分するヨーモーメント配分量を演算し、前記制動装置制御部及び前記モータ制御部は、前記ヨーモーメント配分量に基づいて、前記制動装置及び電動モータをそれぞれ制御し、前記モータ制御部は、前記制動装置制御部による前記前輪の前記制動装置の制動トルクの増加に伴って、減速走行中における前記旋回アシスト制御実行時には旋回外輪側の前記車輪よりも旋回内輪側の前記車輪の回生制動トルクを大きく減少させ、減速走行中における前記旋回スピン抑制制御実行時には旋回内輪側の前記車輪よりも旋回外輪側の前記車輪の回生制動トルクを大きく減少させるとよい。
【0016】
これにより、後輪の駆動トルクを左右独立して制御可能な車両においては、減速走行中における旋回アシスト制御実行時には、車両運動制御部で演算されたヨーモーメント付加量の総和を満たす様に各トルクを決定する。例えば、ヨーモーメント付加量の総和が一定で、前輪の制動トルクを増加する場合は、旋回外輪側の後輪よりも旋回内輪側の後輪の回生制動トルクを大きく減少させることで、速度低下を抑制しつつ過度な旋回を抑制して走行安定性能を確保することができる。また、減速走行中における旋回スピン抑制制御実行時には、旋回内輪側の後輪よりも旋回外輪側の後輪の回生制動トルクを大きく減少させることで、速度低下を抑制しつつ過度な旋回スピンの抑制を抑えて旋回性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両の姿勢制御装置は、制動装置制御部によって車両のヨーモーメントが制御された際に、制動装置によって車両が制動されるが、この制動トルクの増加に伴って、モータ制御部による駆動トルクを増加または回生制動トルクを減少させることで、車両の減速を緩和させることができる。
したがって、制動装置制御部によって車両のヨーモーメントが制御された際に運転者の予期しない減速感を緩和して、違和感の少ない走行が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施形態の駆動制御装置を備えたハイブリッド車両の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の駆動制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回加速走行の際の旋回アシスト制御実行時における駆動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図4】第1実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回加速走行の際のスピン抑制制御実行時における駆動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図5】第1実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回減速走行の際の旋回アシスト制御実行時における回生制動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図6】第1実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回減速走行の際のスピン抑制制御実行時における回生制動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図7】第2実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回加速走行の際の旋回アシスト制御実行時における駆動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図8】第2実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回加速走行の際のスピン抑制制御実行時における駆動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図9】第2実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回減速走行の際の旋回アシスト制御実行時における回生制動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図10】第2実施形態の駆動制御装置を備えた車両の左旋回減速走行の際のスピン抑制制御実行時における回生制動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図11】第3実施形態の駆動制御装置を備えた車両の直進加速走行の際の駆動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【
図12】第3実施形態の駆動制御装置を備えた車両の直進減速走行の際の回生制動トルクの設定例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態の駆動制御装置を備えたハイブリッド車(以下、車両1という)の概略構成図である。
本発明の駆動制御装置を採用した第1実施形態の車両1(電動車両)は、エンジン2の出力によって前輪3a、3b(車輪)を駆動して走行可能であるとともに、前輪3a、3bを駆動する電動のフロントモータ4(前輪駆動モータ、電動モータ)及び後輪3c、3d(車輪)を駆動する電動のリヤモータ6(後輪駆動モータ、電動モータ)を備えた4輪駆動車である。
【0020】
エンジン2は、フロントトランスアクスル7を介して前輪3の駆動軸8を駆動可能であるとともに、フロントトランスアクスル7を介してモータジェネレータ9を駆動して発電させることが可能となっている。また、エンジン2と前輪3a、3bとは、フロントトランスアクスル7内に配置されたクラッチ16を介して接続されている。
フロントモータ4は、フロントコントロールユニット10を介して、車両1に搭載された駆動用バッテリ11及びモータジェネレータ9から高電圧の電力を供給されて駆動し、フロントトランスアクスル7を介して前輪3a、3bの駆動軸8を駆動する。
【0021】
リヤモータ6は、リヤコントロールユニット12を介して駆動用バッテリ11から高電圧の電力を供給されて駆動し、リヤトランスアクスル13を介して後輪3c、3dの駆動軸14を駆動する。
モータジェネレータ9によって発電された電力は、フロントコントロールユニット10を介して駆動用バッテリ11を充電可能であるとともに、フロントモータ4及びリヤモータ6に電力を供給可能である。
【0022】
駆動用バッテリ11は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルをまとめて構成された図示しない電池モジュールを有している。また、駆動用バッテリ11には、駆動用バッテリ11の充電率SOCを検出する充電率検出部11aを備えている。
フロントコントロールユニット10は、車両1に搭載されたハイブリッドコントロールユニット20からの制御信号に基づき、フロントモータ4の駆動トルク及び回生制動トルクを制御するとともに、モータジェネレータ9の発電量及び出力を制御する機能を有する。
【0023】
リヤコントロールユニット12は、ハイブリッドコントロールユニット20からの制御信号に基づきリヤモータ6の駆動トルク及び回生制動トルクを制御する機能を有する。
エンジンコントロールユニット22は、エンジン2の制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)及びタイマ等を含んで構成される。エンジンコントロールユニット22は、ハイブリッドコントロールユニット20からの制御信号(要求出力)に基づき、エンジン2における燃料噴射量及び燃料噴射時期、吸気量等を制御して、エンジン2の駆動制御を行う。
【0024】
また、車両1には、エンジン2に燃料を供給する燃料を貯留する燃料タンク17と、駆動用バッテリ11を外部電源によって充電する図示しない充電機が備えられている。
ハイブリッドコントロールユニット20は、車両1の総合的な制御を行うための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)及びタイマ等を含んで構成される。
【0025】
ハイブリッドコントロールユニット20の入力側には、フロントコントロールユニット10、リヤコントロールユニット12、エンジンコントロールユニット22が接続されており、これらの機器からの検出及び作動情報が入力される。
一方、ハイブリッドコントロールユニット20の出力側には、フロントコントロールユニット10、リヤコントロールユニット12、エンジンコントロールユニット22、フロントトランスアクスル7のクラッチ16が接続されている。
【0026】
そして、ハイブリッドコントロールユニット20は、車両1のアクセル操作情報度等の各種検出量及び各種作動情報に基づいて、車両1の走行駆動に必要とする車両要求出力を演算し、エンジンコントロールユニット22、フロントコントロールユニット10、リヤコントロールユニット12に制御信号を送信して、走行モード(EVモード、シリーズモード、パラレルモード)の切換え、エンジン2とフロントモータ4とリヤモータ6の出力、モータジェネレータ9の発電電力及び出力、フロントトランスアクスル7におけるクラッチ16の断接を制御する。
【0027】
EVモードでは、エンジン2を停止し、駆動用バッテリ11から供給される電力によりフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して走行させる。
シリーズモードでは、フロントトランスアクスル7のクラッチ16を切断し、エンジン2によりモータジェネレータ9を作動する。そして、モータジェネレータ9により発電された電力及び駆動用バッテリ11から供給される電力によりフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して走行させる。また、シリーズモードでは、エンジン2の回転速度を効率のよい値に設定し、余剰出力によって発電した電力を駆動用バッテリ11に供給して駆動用バッテリ11を充電する。
【0028】
パラレルモードでは、フロントトランスアクスル7のクラッチ16を接続し、エンジン2からフロントトランスアクスル7を介して機械的に動力を伝達して前輪3a、3bを駆動させる。また、エンジン2によりモータジェネレータ9を作動させて発電した電力及び駆動用バッテリ11から供給される電力によってフロントモータ4やリヤモータ6を駆動して走行させる。
【0029】
ハイブリッドコントロールユニット20は、例えば、高速領域のように、エンジン2の効率のよい領域では、走行モードをパラレルモードとする。また、パラレルモードを除く領域、即ち中低速領域では、駆動用バッテリ11の充電率SOC(充電量)に基づいてEVモードとシリーズモードとの間で切換える。
また、車両1の各車輪3a~3dには、制動トルクを付与するブレーキ装置30a、30b、30c、30d(制動装置)が備えられている。各ブレーキ装置30a~30dは、ブレーキECU31(制動装置制御部)によって制御され、車輪3a~3d毎に制動トルクを独立して制御可能に構成されている。ブレーキECU31は、ハイブリッドコントロールユニット20と相互に通信可能に接続されており、図示しないブレーキペダルセンサからのブレーキペダルの操作信号等に基づいて、各ブレーキ装置30a~30dを作動制御する。
【0030】
図2は、第1実施形態の駆動制御装置33の概略構成を示すブロック図である。
第1実施形態の駆動制御装置33は、各モータ4、6、エンジン2及びモータジェネレータ9を作動制御して車両1の走行駆動を制御する駆動制御部35を有している。
駆動制御部35は、ハイブリッドコントロールユニット20に備えられ、ドライバ要求トルク演算部36、車両運動制御部37、ブレーキ応答特性補償部38、モータトルク制御部39(モータ制御部)、発電制御部40を備えている。
【0031】
ドライバ要求トルク演算部36は、アクセル操作量及びブレーキ操作量を入力し、車両1の運転者の要求トルクを演算する。運転者の要求トルクは、アクセル操作やブレーキ操作といった運転者の操作に応じて車両1の加減速を行うために必要な車両1の要求トルクである。
車両運動制御部37は、アクセル操作量、ブレーキ操作量及びステアリング操作量、車両1の加速度、ヨーレート等といった車両1の走行操作状態や走行状態等の旋回走行に関連するパラメータを入力し、旋回アシスト制御及び旋回スピン抑制制御を必要とするか判定する。車両運動制御部37は、旋回アシスト制御または旋回スピン抑制制御を必要と判定した場合に、これらの制御を行うためのヨーモーメント付加量に対応するブレーキ付加要求量をブレーキECU31に出力する。
【0032】
ブレーキECU31は、ブレーキ付加要求量に基づいて、ブレーキ装置30a~30dの制動トルクを補正制御する。
旋回アシスト制御は、車両1の操舵方向側(旋回内輪側)のブレーキ装置30a~30dの制動トルクを、操舵方向逆側(旋回外輪側)のブレーキ装置30a~30dの制動トルクよりも大きくして、旋回内輪側への車両1のヨーモーメントを増加させることで、車両1の旋回を促進させる制御である。
【0033】
旋回スピン抑制制御は、車両1の旋回外輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクを、旋回内輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクよりも大きくして、旋回外輪側への車両1のヨーモーメントを増加させることで、旋回走行時における過度なヨーモーメントの増加を抑制して車両1のスピンを抑制する制御である。
ブレーキ応答特性補償部38は、車両運動制御部37からブレーキ付加要求量を入力し、当該ブレーキ付加要求量に基づく車両1の減速分を補償するようにモータトルク補正量を演算する。
【0034】
モータトルク制御部39は、ドライバ要求トルク演算部36から出力した要求トルクとブレーキ応答特性補償部38から出力したモータトルク補正量との加算値を入力して、各モータ4、6の出力要求トルクを、フロントコントロールユニット10、リヤコントロールユニット12に出力する。
発電制御部40は、ドライバ要求トルク演算部36から出力した要求トルクとブレーキ応答特性補償部38から出力したモータトルク補正量との加算値を入力して、必要に応じて、例えば駆動用バッテリ11からモータ4、6への供給電力が不足する場合や駆動用バッテリ11の充電率が低下している場合に、エンジン2及びモータジェネレータ9によって発電を行うように、エンジンコントロールユニット22及びフロントコントロールユニット10に作動制御信号を出力する。
【0035】
以下に、ブレーキ応答特性補償部38において演算されるモータトルク補正量の詳細について説明する。
図3~
図6は、第1実施形態の駆動制御装置を備えた車両1の左旋回走行の際の駆動トルク及び回生制動トルクの設定例を示すイメージ図であり、
図3は加速旋回アシスト制御実行時における駆動トルク、
図4は加速スピン抑制制御実行時における駆動トルク、
図5は減速旋回アシスト制御実行時における回生制動トルク、
図6は減速スピン抑制制御実行時における回生制動トルクの設定例を示す。
【0036】
図3~6及び後述する
図7~
図10において、車輪3a~3dの外側方に記載された矢印は当該車輪3a~3dを駆動するモータ4、6による駆動トルクあるいは回生制動トルクの大きさ及び駆動方向を示し、白抜きの矢印はブレーキ応答特性補償部38によるモータトルク補正ありの場合、破線はモータトルク補正なしの場合を示す。黒塗りの矢印は車両運動制御部37から出力したブレーキ付加要求量によって付加されるブレーキトルクを示す。なお、車両前中央部に記載した白抜き矢印は、車両1の左旋回走行を示す。
【0037】
図3~
図6に示す第1実施形態の車両1では、車両1の左右前輪3a、3bを駆動するフロントモータ4と、左右後輪3c、3d駆動するリヤモータ6を有しており、左右の駆動トルクは、前後夫々で左右の駆動トルクが同一であるが、前後で異なる値に設定することが可能である。
図3に示すように、第1実施形態の車両1において、左旋回加速走行時に車両運動制御部37により旋回アシスト制御が行われ、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じてフロントモータ4及びリヤモータ6の駆動トルクを増加させて、旋回アシスト制御によって付与された制動トルクを4つの車輪3a~3dの駆動トルクの増加分で補うようにする。これにより、旋回アシスト制御による運転者の予期しないタイミングでの車両1の速度低下を抑制することができる。また、フロントモータ4よりもリヤモータ6の駆動トルクを増加させることで、即ち、前輪3a、3bよりも後輪3c、3dの駆動トルクを大きく増加させることで、旋回性能を向上させることができる。
【0038】
図4に示すように、車両1の左旋回加速走行時に、車両運動制御部37により旋回スピン抑制制御が行われ、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bが制動した場合には、当該制動トルクに応じてフロントモータ4及びリヤモータ6の駆動トルクを増加させて、旋回スピン抑制制御によって付与された制動トルクを4つの車輪3a~3dの駆動トルクの増加分で補うようにする。これにより、旋回スピン抑制制御による運転者の予期しないタイミングでの車両1の速度低下を抑制することができる。また、リヤモータ6よりもフロントモータ4の駆動トルクを増加させることで、即ち、後輪3c、3dよりも前輪3a、3bの駆動トルクを大きく増加させることで、直進性能を向上させて、旋回スピンを更に抑制して走行安定性能を向上させることができる。
【0039】
図5に示すように、車両1の左旋回減速走行時に、車両運動制御部37により旋回アシスト制御が行われ、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じてフロントモータ4及びリヤモータ6の回生制動トルクを減少させて、旋回アシスト制御によって付与された制動トルクを4つの車輪3a~3dの回生制動トルクの減少分で補うようにする。これにより、旋回アシスト制御による運転者の予期しないタイミングでの車両1の速度低下を抑制することができる。また、リヤモータ6よりもフロントモータ4の回生制動トルクを大きく減少させることで、即ち、後輪3c、3dよりも前輪3a、3bの制動トルクを減少させることで、前輪3a、3bのスリップを抑制して旋回性能を確保することができる。
【0040】
図6に示すように、車両1の
左旋回減速走行時に、車両運動制御部37により旋回スピン抑制制御が行われ、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bが制動した場合には、当該制動トルクに応じてフロントモータ4及びリヤモータ6の回生制動トルクを減少させて、旋回スピン抑制制御によって付与された制動トルクを4つの車輪3a~3dの回生制動トルクの減少分で補うようにする。これにより、旋回スピン抑制制御による運転者の予期しないタイミングでの車両1の速度低下を抑制することができる。また、フロントモータ4よりもリヤモータ6の回生制動トルクを減少させることで、即ち、前輪3a、3bよりも後輪3c、3dの回生制動トルクを大きく減少させることで、直進性能を増加させて、旋回スピンを抑制し走行安定性能を向上させることができる。
【0041】
以上のように、本実施形態では、旋回走行時に旋回アシスト制御あるいは旋回スピン抑制制御が実行された場合に、ブレーキ装置30a、30bが作動することで車両1の速度が低下するが、本実施形態ではモータ4、6の駆動トルクあるいは回生制動トルクを補正して、車両1の速度低下を抑えることができる。したがって、旋回アシスト制御あるいは旋回スピン抑制制御による運転者の予期しないタイミングでの速度低下を抑えることができる。特に、旋回アシスト制御においては旋回性能を向上させる一方、旋回スピン抑制制御においては旋回スピンを更に抑えて走行安定性を向上させることができる。
【0042】
なお、第1実施形態の車両1は、パラレルモードが可能であるが、シリーズモードあるいはEVモードのようにモータ4、6のみによって車輪3a~3dを駆動し、エンジン2の出力が車両1の走行駆動トルクに影響を及ぼさないような走行モードにおいて本発明を適用することが望ましい。シリーズモードあるいはEVモードのようにエンジン2の出力が機械的に前輪3a、3bに伝達しない走行モードにすることで、エンジン2よりも精度良く出力制御が可能なモータ4、6を利用して、車両全体としての駆動・制動トルクを精度よく制御することが可能となる。
【0043】
図7~10は、第2実施形態の駆動制御装置を備えた車両51の左旋回走行の際の駆動トルク及び制動トルクの設定例を示すイメージ図であり、
図3は加速旋回アシスト制御実行時、
図4は加速旋回スピン抑制制御実行時、
図5は減速旋回アシスト制御実行時、
図6は減速旋回スピン抑制制御実行時における設定例を示す。
図7~
図10に示す第2実施形態の車両51は、車両51の左後輪3cを主に駆動する左後輪モータ52cと、右後輪3dを主に駆動する右後輪モータ52dを備え、左右後輪3c、3dで独立して駆動トルク及び回生制動トルクを制御可能な、所謂アクティブヨーコントロール装置を備えた車両である。
【0044】
本実施形態の車両運動制御部37は、車両1の走行状態に基づいて、車両に付加するヨーモーメント付加量とヨーモーメント配分量を演算する。ヨーモーメント配分量により、ヨーモーメント付加量は、各ブレーキ装置30a~30dによるヨーモーメント付加量である第1ヨーモーメント付加量と、各モータ52c、52dによるヨーモーメント付加量である第2ヨーモーメント付加量とに配分される。そして、車両運動制御部37は、第1ヨーモーメント付加量に対応するモータ52c、52dによるブレーキ付加要求量をブレーキECU31に出力し、第2ヨーモーメント付加量に対応するモータ52c、52dによるブレーキ付加要求量をブレーキ応答特性補償部38に出力する。
【0045】
ブレーキECU31は、第1ヨーモーメント付加量に対応するブレーキ付加要求量に基づいて、ブレーキ装置30a~30dの制動トルクを補正制御する。ブレーキ応答特性補償部38は、第2ヨーモーメント付加量に対応するブレーキ付加要求量に基づいてモータトルク補正量を演算し、モータ52c、52dの駆動トルクを補正制御する。したがって、ブレーキ装置30a~30dの制動トルクの補正制御によるヨーモーメント付加量(第1ヨーモーメント付加量)とモータ52c、52dの駆動トルクの補正制御によるヨーモーメント付加量(第2ヨーモーメント付加量)との総和が、車両1の走行状態に基づいて演算されたヨーモーメント付加量となるように制御される。
【0046】
本実施形態の車両51における旋回アシスト制御では、旋回内輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクを、旋回外輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクよりも大きくするとともに、アクティブヨーコントロール装置によって旋回内輪側よりも旋回外輪側の車輪3a~3dの駆動トルクを大きく設定する。また、旋回スピン抑制制御では、旋回外輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクを、旋回内輪側のブレーキ装置30a~30dの制動トルクよりも大きくするとともに、アクティブヨーコントロール装置によって旋回外輪側よりも旋回内輪側の車輪3a~3dの駆動トルクを大きく設定する。
【0047】
なお、第2実施形態の車両51は、後輪を駆動する所謂FR車であるが、第1実施形態のように更に前輪3a、3bの駆動が可能な車両であってもよい。この場合には前輪3a、3bの駆動トルク及び回生制動トルクについては補正を行わなくてもよいし、あるいは第1実施形態の様に補正を行ってもよい。
車両51においては、例えば
図7に示すように、左旋回加速走行時において車両運動制御部37により旋回アシスト制御が行われ、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じて右後輪モータ52d及び左後輪モータ52cの駆動トルクを増加させて、旋回アシスト制御によって付与された制動トルクを左右後輪3c、3dの駆動トルクの増加分で補うようにする。これにより、旋回アシスト制御による車両51の運転者の予期しないタイミングでの速度低下を抑制することができる。また、右後輪モータ52dよりも左後輪モータ52cの駆動トルクを大きく増加させる。詳しくは、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aの制動による車両51の旋回モーメントと、左右後輪の駆動トルクの差によって発生する車両51の旋回モーメントとの和が、要求される車両51の旋回モーメント(ヨーモーメント付加量)に合致するように、左右後輪3c、3dの駆動トルクを制御する。したがって、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aの制動による過度な旋回モーメントの増加を抑えることができ、車両51の走行安定性能を向上させることができる。
【0048】
例えば
図8に示すように、左旋回加速走行時において車両運動制御部37により旋回スピン抑制制御が行われ、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bが制動した場合には、当該制動トルクに応じて右後輪モータ52d及び左後輪モータ52cの駆動トルクを増加させて、旋回アシスト制御によって付与された制動トルクを左右後輪3c、3dの駆動トルクの増加分で補うようにする。これにより、旋回スピン抑制制御による運転者の予期しないタイミングでの車両51の速度低下を抑制することができる。また、左後輪モータ52cよりも右後輪モータ52dの駆動トルクを大きく増加させることで、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bの制動による過度な旋回モーメントの減少を抑えることができ、車両51の旋回性能を確保することができる。
【0049】
例えば
図9に示すように、左旋回減速走行時において車両運動制御部37により旋回アシスト制御が行われ、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じて右後輪モータ52d及び左後輪モータ52cの回生制動トルクを減少させて、旋回アシスト制御によって付与された制動トルクを右後輪モータ52d及び左後輪モータ52cの回生制動トルクの減少分で補うようにする。これにより、旋回アシスト制御による運転者の予期しないタイミングでの車両51の速度低下を抑制することができる。また、右後輪モータ52dよりも左後輪モータ52cの回生制動トルクを大きく減少させることで、旋回内輪側の左前ブレーキ装置30aの制動による過度な旋回モーメントの増加を抑えることができ、車両51の走行安定性能を向上させることができる。
【0050】
例えば
図10に示すように、左旋回減速走行時において車両運動制御部37により旋回スピン抑制制御が行われ、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bが制動した場合には、当該制動トルクに応じて右後輪モータ及52d及び左後輪モータ52cの回生制動トルクを減少させて、旋回スピン抑制制御によって付与された制動トルクを右後輪モータ52d及び左後輪モータ52cの回生制動トルクの減少分で補うようにする。これにより、旋回スピン抑制制御による運転者の予期しないタイミングでの車両51の速度低下を抑制することができる。また、左後輪モータ52cよりも右後輪モータ52dの回生制動トルクを大きく減少させることで、旋回外輪側の右前ブレーキ装置30bの制動による過度な旋回モーメントの減少を抑えることができ、車両51の旋回性能を確保することができる。
【0051】
このように、第2実施形態の車両51では、ブレーキ装置30a~30dによる制御と、左右後輪3c、3dの駆動トルクあるいは回生制動トルクの制御によって、車両のヨーモーメントを制御可能であるが、両方を作動制御した際の過度な旋回あるいは旋回スピン抑制を抑えて、適切な旋回走行が可能になる。
【0052】
図11、12は、第3実施形態の駆動制御装置を備えた車両61の直進走行の際の駆動トルク及び制動トルクの設定例を示すイメージ図であり、
図11は加速時、
図12は減速時における設定例を示す。
図11、12に示す第3実施形態の車両61は、前輪駆動用のフロントモータ62を備えている。
本実施形態の車両61では、車両運動制御部37において、前輪3a、3bのブレーキ装置30a、30bとフロントモータ62の制御により、第1実施形態及び第2実施形態と同様な旋回アシスト制御及び旋回スピン抑制制御が可能になっている。特に、旋回スピン抑制制御により直進走行性を向上させるヨーモーメント制御が実行可能になっている。当該ヨーモーメント制御は、直進走行時に例えば右方向にヨーモーメントが発生した場合にヨーモーメントの発生方向とは逆側のブレーキ装置30aを作動させることで、直進走行性を向上させる。
【0053】
なお、第3実施形態の車両61は、前輪3a、3bを駆動する所謂FF車であるが、左右前輪3a、3bの駆動トルクは同一である。第1実施形態のように更に後輪3c、3dの駆動が可能な車両であってもよく、この場合には後輪3c、3dの駆動トルク及び回生制動トルクについては補正を行わなくてよい。
例えば
図11に示すように、直進加速走行時において直進走行性を向上させるヨーモーメント制御が行われ、左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じて前輪3a、3bの駆動トルクを増加させて、ヨーモーメント制御によって付与された制動トルクを左右前輪3a、3bの駆動トルクの増加分で補うようにする。これにより、直進加速走行時において、ヨーモーメント制御による運転者の予期しないタイミングでの車両61の速度低下を抑制することができる。
【0054】
図12に示すように、直進減速走行時において直進走行性を向上させるヨーモーメント制御が行われ、左前ブレーキ装置30aが制動した場合には、当該制動トルクに応じて前輪3a、3bの回生制動トルクを低下させて、ヨーモーメント制御によって付与された制動トルクを左右前輪3a、3bの回生制動トルクの減少分で補うようにする。これにより、直進減速走行時において、ヨーモーメント制御による運転者の予期しないタイミングで車両61の速度低下を抑制することができる。
【0055】
以上のように、上記の第1~第3の実施形態では、車両運動制御部37により車両1、51、61の走行状態に基づいて左右のブレーキ装置30a、30bを制御して車両1、51、61のヨーモーメントを制御するので、運転者の予期しないタイミングで車両1、51、61が制動される場合がある。しかしながら、上記の実施形態では、車両運動制御部37によって付加される制動トルクに基づいて車両1、51、61の駆動トルクあるいは回生制動トルクを補正制御する。詳しくは、車両運動制御部37によって付加される制動トルクが増加されるに伴って、車両加速時には各モータ4、6の駆動トルクを増加させ、車両減速時には各モータ4、6による回生制動トルクを減少させる。これにより、車両運動制御部37による運転者の予期しないタイミングでの制動によって車両61の速度低下を緩和させ、違和感の少ない走行が可能になる。
【0056】
更に、第1、2実施形態のように、車輪3a~3dの駆動トルクを前後あるいは左右独立して制御可能な車両1、51では、車両運動制御部37による左右のブレーキ装置30a、30bの制動に合わせて、車両1、51の前後あるいは左右の車輪3a~3dの駆動トルクあるいは回生制動トルクを制御することで、車両1、51の適切な旋回走行が可能になる。
【0057】
第3実施形態の車両61は、直進安定性を向上させるために左右の前輪3a、3bのいずれかを制動する機能を有するが、このように前輪3a、3bを制動させた場合でも、前輪3a、3bの駆動トルクを増加あるいは回生制動力を減少させることで、運転者の予期しない車両61の減速を抑制することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記第1~3実施形態では、左右前輪3a、3bのブレーキ装置30a、30bを独立して制御して、車両1、51、61のヨーモーメントを制御しているが、左右後輪3c、3dのブレーキ装置30c、30dを独立して制御して、ヨーモーメントを制御する車両に本発明を適用してもよい。
【0058】
また、第2実施形態では、左右後輪3c、3dの駆動トルクを独立して制御するアクティブヨーコントロールシステムを備えているが、左右前輪3a、3bの駆動トルクを独立して制御するアクティブヨーコントロールシステムを備えた車両に本発明を適用してもよい。
また、第1~3実施形態では、加速走行時に駆動トルクの補正、減速走行時に回生制動トルクの補正を行っているが、いずれか一方のみ行ってもよい。
【0059】
また、第2実施形態、第3実施形態では、旋回アシスト制御及び旋回スピン抑制制御の両方で駆動トルクあるいは回生制動トルクの補正を行っているが、いずれかの制御実行時のみ補正を行ってもよい。
また、本発明は、左右の制動装置を独立して制御可能であって、モータによる走行駆動が可能な車両に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、51、61 車両
3a、3b 前輪(車輪)
3c、3d 後輪(車輪)
4 フロントモータ(前輪駆動モータ、電動モータ)
6 リヤモータ(後輪駆動モータ、電動モータ)
30a、30b、30c、30d ブレーキ装置(制動装置)
31 ブレーキECU(制動装置制御部)
33 駆動制御装置
37 車両運動制御部
39 モータトルク制御部(モータ制御部)