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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】4輪駆動車の走行駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20240904BHJP
   B60K 17/348 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60K23/08 C
B60K17/348 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023549300
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035391
(87)【国際公開番号】W WO2023047585
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】下西 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】後田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊輔
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-50051(JP,A)
【文献】特開2015-229366(JP,A)
【文献】特公平5-37854(JP,B2)
【文献】特開平10-272948(JP,A)
【文献】特開昭63-2738(JP,A)
【文献】特許第2679113(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方を第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、
前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力伝達路に第2のクラッチを備え、
前記走行駆動制御装置は、
前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを作動制御して、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを切断する2輪駆動モードと、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続する4輪駆動モードと、前記第2のクラッチを接続し前記第1のクラッチを切断する4輪駆動待機モードと、のいずれかに切り替えるクラッチ制御部と、
前記車両の走行状態に基づいて前記第2のクラッチを結合判定する結合判定部と、前記第2のクラッチを切断判定する切断判定部と、を有し、
前記クラッチ制御部は、前記結合判定部において前記結合判定された場合には、前記クラッチ制御部における前記2輪駆動モードへの切り換えを禁止し、
前記4輪駆動モードと前記4輪駆動待機モードにおいて、前記2輪駆動モードへの切替許可フェーズと切替禁止フェーズを夫々有し、
前記クラッチ制御部は、前記4輪駆動待機モードにおいて前記車両の走行停止時に前記切替禁止フェーズから前記切替許可フェーズに切り換え、前記車両の走行中には前記切替禁止フェーズから前記切替許可フェーズへの切り換えを禁止し、
前記クラッチ制御部は、前記切替許可フェーズである場合に前記切断判定部において切断判定された場合にのみ前記2輪駆動モードへ切り換える
ことを特徴とする4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項2】
前記車両の運転者による加減速要求操作に基づいて、前記車両の推定前後加速度を演算する加速度演算部が備えられ、
前記結合判定部は、前記推定前後加速度に基づいて前記結合判定を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項3】
前記車両には、当該車両の実前後加速度を検出する加速度検出部が備えられ、
前記結合判定部は、前記実前後加速度に基づいて前記結合判定を行う
ことを特徴とする請求項1または2に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項4】
前記前輪と前記後輪との速度差を検出する前後輪速度差検出部が備えられ、
前記結合判定部は、前記前輪と前記後輪との速度差に基づいて前記結合判定を行う
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項5】
前記車両は、変速機を備え、
前記切断判定部は、前記変速機の変速段に基づいて前記第2のクラッチを切断判定し、
前記切断判定部は、第1の変速段から前記第1の変速段よりも高速側の第2の変速段にシフトアップしたことを前記切断判定の条件とする
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項6】
前記第1のクラッチは、伝達トルクを調整可能な電子制御カップリングであって、
前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチである
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な4輪駆動車の走行駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の動力駆動源に車両の前輪及び後輪のうちのいずれか一方が接続され、他方がクラッチを介して接続された4輪駆動車が知られている。このような車両は、クラッチを接続することで4輪駆動車となり、クラッチを切断することで2輪駆動車となる。
【0003】
特許文献1には、実施例2として後輪駆動車ベースの4輪駆動車が開示されている。この4輪駆動車は、2輪駆動と4輪駆動とを切り替える手段として電制カップリング(電子制御カップリング)を備えるとともに、2輪駆動時には従動輪側である左右の前輪間を切断するドグクラッチを備えている。
【0004】
そして、電制カップリング及びドグクラッチを接続する4輪駆動モード(コネクト4輪駆動モード)、電制カップリング及びドグクラッチを切断する2輪駆動モード(ディスコネクト2輪駆動モード)、電制カップリングを切断しドグクラッチを接続する4輪駆動待機モード(スタンバイ2輪駆動モード)が選択的に可能になっている。
【0005】
2輪駆動モードによって従動輪を切り離して燃費を向上させる一方、2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り替える際に4輪駆動待機モードを経由して電制カップリングが接続する前にドグクラッチを接続しておくことで、2輪駆動から4輪駆動への切り換え時間を短縮させることが可能になっている。
【0006】
4輪駆動モード、2輪駆動モード、4輪駆動待機モードといった駆動モードは、例えば車速及びアクセル開度に基づいて自動的に切り替えるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6168232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように車速やアクセル開度に基づいて単純に駆動モードを自動的に切り替える構成では、車速やアクセル開度が変動した際に駆動モードが頻繁に切り替わる可能性がある。これにより、駆動モードの切り替え時における振動や異音等の発生により乗員に不快感を与えたり、クラッチ耐久性が低下したりする可能性がある。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、駆動モードの頻繁な切り換えを抑え、乗員の快適性の向上、クラッチ等の部品耐久性を向上させる4輪駆動車の走行駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置は、車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方を第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力伝達路に第2のクラッチを備え、前記走行駆動制御装置は、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを作動制御して、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを切断する2輪駆動モードと、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続する4輪駆動モードと、前記第2のクラッチを接続し前記第1のクラッチを切断する4輪駆動待機モードと、のいずれかに切り替えるクラッチ制御部と、前記車両の走行状態に基づいて前記第2のクラッチを結合判定する結合判定部と、前記第2のクラッチを切断判定する切断判定部と、を有し、前記クラッチ制御部は、前記結合判定部において前記結合判定された場合には、前記クラッチ制御部における前記2輪駆動モードへの切り換えを禁止し、前記4輪駆動モードと前記4輪駆動待機モードにおいて、前記2輪駆動モードへの切替許可フェーズと切替禁止フェーズを夫々有し、前記クラッチ制御部は、前記4輪駆動待機モードにおいて前記車両の走行停止時に前記切替禁止フェーズから前記切替許可フェーズに切り換え、前記車両の走行中には前記切替禁止フェーズから前記切替許可フェーズへの切り換えを禁止し、前記クラッチ制御部は、前記切替許可フェーズである場合に前記切断判定部において切断判定された場合にのみ前記2輪駆動モードへ切り換えることを特徴とする。
【0011】
これにより、2輪駆動モードにおいて、第2のクラッチを切断することで、左右の副駆動輪を切り離し、走行中に副駆動輪の回転に伴って回転する駆動系の部位を減らして、フリクション損失等を低減させることにより、燃費を向上させることができる。
【0012】
また、2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り替える際に、4輪駆動待機モードを経由して駆動源から動力が伝達していない状態の第2のクラッチをあらかじめ接続しておくことで、2輪駆動モードから4輪駆動モードに直接移行する場合のように第1のクラッチ及び第2のクラッチの両方を同時に接続するよりも、2輪駆動状態から4輪駆動状態への移行時間を短縮させることができる。
【0013】
更に、第2のクラッチを結合判定する結合判定部を有し、結合判定された場合にはクラッチ制御部における2輪駆動モードへの切り換えを規制するので、4輪駆動モードまたは4輪駆動待機モードから2輪駆動モードへの切り換え頻度、即ち第1のクラッチの切り換え頻度を抑制することができる。
【0015】
更に、4輪駆動モードあるいは4輪駆動待機モードにおいて切替禁止フェーズである場合、切替許可フェーズであっても切断判定部において切断判定されない場合に、2輪駆動モードへの切り換えが禁止されるので、第1のクラッチの切り換え頻度を抑制することができる。
【0017】
更に、車両の走行中に4輪駆動待機モードの切替禁止フェーズである場合には、走行停止するまでは切替許可フェーズに切り換えられずに、2輪駆動モードへの切り換えが禁止され、4輪駆動待機モードによる第1のクラッチが接続した2輪駆動となる。したがって、2輪駆動であっても第1のクラッチが接続した機会が増加し、悪路の走行性を向上させることができる。
【0018】
好ましくは、前記車両の運転者による加減速要求操作に基づいて、前記車両の推定前後加速度を演算する加速度演算部が備えられ、前記結合判定部は、前記推定前後加速度に基づいて前記結合判定を行うとよい。
【0019】
これにより、運転者による加減速要求操作に基づいて第2のクラッチの結合判定が行われるので、車重や駆動源の出力、駆動系の仕様が異なる車両に対して本発明を幅広く適用して、各駆動モードの切り替えを適切に行うことができる。
【0020】
好ましくは、前記車両には、当該車両の実前後加速度を検出する加速度検出部が備えられ、前記結合判定部は、前記実前後加速度に基づいて前記結合判定を行うとよい。
【0021】
これにより、傾斜地を走行しているときの車両の加減速に対応して第2のクラッチの結合判定が適切に行われ、各駆動モードの切り替えを適切に行うことができる。
【0022】
好ましくは、前記前輪と前記後輪との速度差を検出する前後輪速度差検出部が備えられ、前記結合判定部は、前記前輪と前記後輪との速度差に基づいて前記結合判定を行うとよい。
【0023】
これにより、滑りやすい路面のように前輪と後輪との速度差が大きくなる状況に応じて結合判定が行なわれ、4輪駆動待機モードの機会を増加させることで、滑りやすい路面での走行性を向上させることができる。
【0024】
好ましくは、前記車両は、変速機を備え、前記切断判定部は、前記変速機の変速段に基づいて前記第2のクラッチを切断判定し、前記切断判定部は、第1の変速段から前記第1の変速段よりも高速側の第2の変速段にシフトアップしたことを前記切断判定の条件とする。
【0025】
これにより、変速機が第1の変速段では切断判定されずに第2のクラッチを結合した状態にしておくことで、第1の変速段での急加速に伴う車輪スリップ備えて4輪駆動モードへの切り換えを迅速に行うことができる。
【0026】
好ましくは、前記第1のクラッチは、伝達トルクを調整可能な電子制御カップリングであって、前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチであるとよい。
【0027】
これにより、4輪駆動待機モードから4輪駆動モードへ切り替える際に、第1のクラッチによって伝達トルクを調整しつつ接続することで、切り換えの際の車両の振動を抑制することができる。また、第2のクラッチを比較的安価なドグクラッチにすることで、車両のコストを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置によれば、第2のクラッチを備えることで、2輪駆動時(2輪駆動モード)における燃費を向上させることができる。
【0029】
また、2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り替える際に、第2のクラッチを接続した2輪駆動状態である4輪駆動待機モードを経由することで、2輪駆動から4輪駆動への切り換えを迅速に行うことが可能になる。
【0030】
更に、結合判定部によって結合判定された場合に2輪駆動モードへの切り換えが禁止されることで、第2のクラッチの切り換え頻度を抑制することができる。
更に、4輪駆動モードあるいは4輪駆動待機モードにおいて切替禁止フェーズである場合、切替許可フェーズであっても切断判定部において切断判定されない場合に、2輪駆動モードへの切り換えが禁止されるので、第1のクラッチの切り換え頻度を抑制することができる。
更に、車両の走行中に4輪駆動待機モードの切替禁止フェーズである場合には、走行停止するまでは切替許可フェーズに切り換えられずに、2輪駆動モードへの切り換えが禁止され、4輪駆動待機モードによる第1のクラッチが接続した2輪駆動となる。したがって、2輪駆動であっても第1のクラッチが接続した機会が増加し、悪路の走行性を向上させることができる。
これにより、乗員の快適性を向上させるとともに、クラッチ等の部品耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態に係る4輪駆動車の走行駆動系の構成図である。
図2】本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
図3】本実施形態における駆動モード切替の説明図である。
図4】本実施形態における摩擦クラッチ制御量演算の説明図である。
図5】駆動対応制御による摩擦クラッチ制御量の演算用マップの一例である。
図6】目標差回転制御による摩擦クラッチ制御量の演算用マップの一例である。
図7】ヨーレイトFB制御による摩擦クラッチ制御量の演算用マップの一例である。
図8】本実施形態におけるドグクラッチ制御の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る4輪駆動車の走行駆動系の構成図である。図2は、本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
【0034】
図1に示すように、本発明を採用した車両1は、後輪駆動ベースの4輪駆動車である。
【0035】
車両1の後輪駆動系は、走行駆動源であるエンジン2及び変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6、左後輪ドライブシャフト7、右後輪ドライブシャフト8、左後輪9、右後輪10を備えている。変速機3は、自動変速機(AT)であり、副変速機4は例えば手動によりハイ、ローの2段切り換えが可能である。エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6を介して、左後輪ドライブシャフト7及び右後輪ドライブシャフト8に伝達し、主駆動輪である左後輪9及び右後輪10を駆動する。左後輪9と右後輪10とは、リアデファレンシャル6によって差動が許容される。
【0036】
車両1の前輪駆動系は、電制カップリング20(電子制御カップリング、第1のクラッチ)、フロントプロペラシャフト21、フロントデファレンシャル22、左前輪ドライブシャフト23、右前輪ドライブシャフト24、左前輪25、右前輪26を備えている。
【0037】
電制カップリング20は、伝達トルク(クラッチトルク)を調整可能な電子制御クラッチであり、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間に介装されている。電制カップリング20は、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間の伝達トルクを0にすることで、動力伝達を切断可能である。電制カップリング20を接続することで、エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、電制カップリング20、フロントプロペラシャフト21、フロントデファレンシャル22を介して、左前輪ドライブシャフト23及び右前輪ドライブシャフト24に伝達し、副駆動輪である左前輪25及び右前輪26を駆動する。左前輪25と右前輪26とは、フロントデファレンシャル22によって差動が許容される。
【0038】
更に、車両1の前輪駆動系には、ドグクラッチ30(第2のクラッチ)が備えられている。ドグクラッチ30は、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間の動力伝達路である右前輪ドライブシャフト24に介装され、接続及び切断を切り換え可能である。ドグクラッチ30を接続することでフロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力が伝達可能となる。ドグクラッチ30を切断することで、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力伝達不能となる。
【0039】
図2に示すように、電制カップリング20及びドグクラッチ30は、車両1に搭載された走行駆動コントロールユニット40(走行駆動制御装置)によって、車両1の走行状態及び運転者による運転操作に基づいて作動制御される。
【0040】
走行駆動コントロールユニット40は、入出力装置、記憶部(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0041】
走行駆動コントロールユニット40には、車両1の走行状態及び運転操作として、車速、前輪速度、後輪速度、実前後加速度、エンジントルク情報、変速機(変速機3、副変速機4)のギヤ段等が入力する。なお、実前後加速度は、車両1の備えられた車両前後加速度センサ48(加速度検出部)から入力する。
【0042】
走行駆動コントロールユニット40は、停車判定部41、結合判定部42、切断判定部43、クラッチ制御量演算部44、クラッチ制御部45、車両前後加速度演算部46(加速度演算部)、前後輪速度差演算部47(前後輪速度差検出部)を備えている。
【0043】
停車判定部41は、車両1が走行停止状態である停車判定を行う。結合判定部42は、ドグクラッチ30を結合(接続)する結合判定を行う。切断判定部43は、ドグクラッチ30を切断する切断判定を行う。クラッチ制御量演算部44は、電制カップリング20における伝達トルクであるクラッチトルクを演算する。クラッチトルクの演算についての詳細は後述する。
【0044】
クラッチ制御部45は、コネクト4WDモード(4輪駆動モード)、ディスコネクト2WDモード(2輪駆動モード)、スタンバイ4WDモード(4輪駆動待機モード)の3種類の駆動モードのいずれかに判定し、電制カップリング20及びドグクラッチ30を作動制御する。
【0045】
コネクト4WDモード、ディスコネクト2WDモード、スタンバイ4WDモードの3種類の駆動モードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30の作動制御によって切り替えられる。
【0046】
コネクト4WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を接続した状態である。コネクト4WDモードでは、エンジン2等の走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動するとともに、走行駆動源から前輪駆動系によって右前輪26及び左前輪25を駆動する。
【0047】
ディスコネクト2WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を切断した状態である。ディスコネクト2WDモードでは、走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動する一方、電制カップリング20が切断していることで右前輪26及び左前輪25は駆動されない。なお、ドグクラッチ30が切断していることで、右前輪26とフロントデファレンシャル22とが切断され、走行中に前輪25、26の回転に伴って回転する前輪駆動系の部位を減らして、フリクション損失やオイル攪拌損失を低減させることにより、燃費を向上させることができる。
【0048】
スタンバイ4WDモードは、電制カップリング20を切断し、ドグクラッチ30を接続した状態である。スタンバイ4WDモードでは、電制カップリング20が切断していることから前輪25、26は駆動されずに後輪駆動であるが、ドグクラッチ30を接続していることから、電制カップリング20を接続することで、直ぐにコネクト4WDモードに移行できる。したがって、ディスコネクト2WDモードからコネクト4WDモードに移行する前にスタンバイ4WDモードを経由することで、即ち2輪駆動から4輪駆動に切り換える際に、電制カップリング20を接続する前にあらかじめドグクラッチ30を接続しておき、電制カップリング20を接続することで2輪駆動から4輪駆動への速やかな切り換えが可能になる。また、このときドグクラッチ30にはエンジン2等の駆動源からの動力が伝達していないので、ドグクラッチ30を接続する際のトルク伝達を抑えて車両1の振動を抑制し、電制カップリング20によってトルク伝達を徐々に行うことで滑らかな4輪駆動への切り換えが可能になる。
【0049】
車両前後加速度演算部46は、車両1のエンジントルク情報等や車速(加減速要求操作)に基づいて、車両1の推定前後加速度を演算する。
【0050】
前後輪速度差演算部47は、車両1の前輪速度と後輪速度を入力し、その差である前後輪速度差を演算する。
【0051】
なお、推定前後加速度及び前後輪速度差については、他の車両走行制御部において演算した値を使用してもよい。
【0052】
本実施形態では、クラッチ制御部45において駆動モードを判定する際に、単純に3つの駆動モード間を移行するのではなく、図3に示すように、コネクト4WDモード及びスタンバイ4WDモードにおいて、ドグクラッチ30の切断受付禁止フェーズ(切替禁止フェーズ)50a、51aと切断受付許可フェーズ(切替許可フェーズ)50b、51bの2つのフェーズを夫々有している。また、ディスコネクト2WDモードには、切断フェーズ52cを有している。そして、これらの3種類、合計5つのフェーズ50a、51a、50b、51b、52cを、車両1の走行状態や運転操作状態に基づいて切り替える。
【0053】
これらのフェーズは、停車判定部41による停車判定、結合判定部42による結合判定、切断判定部43による切断判定、及びクラッチ制御量演算部44によるクラッチ制御量(電制カップリング20のクラッチトルク制御量)によって切り替えられる。各駆動モードにおける各フェーズ間の切り換えの詳細については後述する。
【0054】
停車判定部41は、車速に基づいて停車判定を行い、例えば車速が0に近い所定値V1で所定時間t1以上継続した場合に停車判定する。
【0055】
結合判定部42は、以下の1)~3)の判定条件のいずれか1つが満たされた場合に、結合判定をする。
1)推定前後加速度が所定値a1以上
2)実前後加速度が所定値a1以上
3)前後輪速度差が所定値V2以上
なお、所定値V2は適宜設定された0に近い値であり、所定値a1は適宜設定された値である。
【0056】
切断判定部43は、変速機3のギヤ段が2速から3速にシフトアップした場合に、切断判定をする。
【0057】
クラッチ制御量演算部44では、図4に示すように、駆動制動対応制御、目標差回転制御、ヨーレイトFB制御から、電制カップリング20による伝達トルク(クラッチトルク)の制御量を演算する。
【0058】
駆動制動対応制御は、運転者の加減速要求(要求駆動力)に対応するフィードフォワード制御である。例えば図5に示すように、クラッチ制御量演算部44は、要求駆動力が増加するに伴ってクラッチトルクを大きく設定する。
【0059】
目標差回転制御は、目標前後差回転を得るためのフィードバック制御である。例えば図6に示すように、クラッチ制御量演算部44は、目標前後差回転数偏差が増加するに伴ってクラッチトルクを大きく設定する。
【0060】
ヨーレイトFB制御は、主に旋回走行時に働き、目標ヨーレイトを得るためのフィードバック制御である。例えば図7に示すように、クラッチ制御量演算部44は、目標ヨーレイト偏差が0の場合はクラッチトルクを0とし、目標ヨーレイト偏差に応じてクラッチトルクを増減する。
【0061】
最終的なクラッチ制御量(クラッチトルク)は、これらの3つの制御によって算出したクラッチトルクを加算して算出する。
【0062】
なお、要求駆動力、目標前後差回転、目標ヨーレイトについては、公知の4輪駆動車の走行駆動制御装置のように、車両1の走行状態や走行操作等に基づいて得られる。
【0063】
図3に示すように、コネクト4WDモードまたはスタンバイ4WDモードにおいて、切断受付許可フェーズ50b、51bにあるときに結合判定がされた場合には、夫々のモードにおける切断受付禁止フェーズ50a、51aに移行する。スタンバイ4WDモードにおいて、切断受付禁止フェーズ51aにあるときに停車判定がされた場合には、切断受付許可フェーズ51bに移行する。コネクト4WDモードにおいて、切断受付禁止フェーズ50aにあるときに停車判定がされても、切断受付許可フェーズ50bには移行しない。
【0064】
コネクト4WDモードとスタンバイ4WDモードとは、クラッチ制御量演算部44において演算したクラッチトルクの合計値に基づいて切り替えられる。クラッチトルクが0の場合には、コネクト4WDモードからスタンバイ4WDモードに切り替えられるが、同一種類のフェーズに移行する。即ち、クラッチトルクが0になったときに、コネクト4WDモードの切断受付許可フェーズ50bである場合にはスタンバイ4WDモードの切断受付許可フェーズ51bに移行し、コネクト4WDモードの切断受付禁止フェーズ50aである場合にはスタンバイ4WDモードの切断受付禁止フェーズ51aに移行する。
【0065】
また、クラッチトルクが0以外である場合には、スタンバイ4WDモードからコネクト4WDモードに切り替えられるが、これも同一種類のフェーズに移行する。即ち、クラッチトルクが0以外になったときに、スタンバイ4WDモードの切断受付許可フェーズ51bである場合にはコネクト4WDモードの切断受付許可フェーズ50bに移行し、スタンバイ4WDモードの切断受付禁止フェーズ51aである場合にはコネクト4WDモードの切断受付禁止フェーズ50aに移行する。
【0066】
コネクト4WDモードの切断受付許可フェーズ50bである場合、またはスタンバイ4WDモードの切断受付許可フェーズ51bである場合に、切断判定された場合には、ディスコネクト2WDモードの切断フェーズ52cに移行し、ドグクラッチ30は切断される。コネクト4WDモード及びスタンバイ4WDモードのいずれにおいても、切断受付禁止フェーズ50a、51aである場合には、切断判定されたとしても、ディスコネクト2WDモードの切断フェーズ52cに移行せず、ドグクラッチ30は切断されない。
【0067】
ディスコネクト2WDモードの切断フェーズ52cである場合に、停車判定された場合には、スタンバイ4WDモードの切断受付許可フェーズ51bに移行して、電制カップリング20は切断されたままドグクラッチ30が接続される。
【0068】
ディスコネクト2WDモードの切断フェーズ52cである場合に、結合判定された場合には、コネクト4WDモードの切断受付禁止フェーズ50aに移行して、電制カップリング20及びドグクラッチ30が接続される。
【0069】
図8に示すように、図3からドグクラッチ30の接続、切断の条件について抜粋して説明すると、ドグクラッチ30が結合指示された状態(結合状態)であるときには、切断受付禁止フェーズ50a、51aと切断受付許可フェーズ50b、51bのいずれかに属する。切断受付許可フェーズ50b、51bにあるときに切断判定された場合には、ドグクラッチ30が切断指示される。しかしながら、切断受付禁止フェーズ50a、51aにあるときには、切断判定されても切断指示されない。
【0070】
これにより、車両走行中に一度でも結合判定すると、停車判定されるまでは切断受付禁止フェーズ50a、51aとなって、ドグクラッチ30の接続状態が維持される。このような場合は、4輪駆動を必要とした走行シーンであると考えられるため、例えばアクセル踏み込みによる要求駆動力等の増加により4輪駆動走行が必要となったときに、電制カップリング20を接続することで、すぐに4輪駆動走行が可能になる。また、ドグクラッチ30は切り換えの際にショックや異音が発生しやすいが、上記のようにドグクラッチ30の接続状態を維持することで、ドグクラッチ30の切り換え頻度を抑制して、ドグクラッチ30の耐久性の向上、及び運転者への不快感を抑制することができる。
【0071】
また、結合判定された場合にドグクラッチ30が結合することで、前輪25、26のスリップを抑制して駆動力を確保し、悪路での走行性能を向上させることができる。
【0072】
また、上記の1)のように、結合判定部42において演算前後加速度が所定値a1以上であることを結合判定の条件の1つとしている。これにより、車重やエンジン、トランスミッションなどの類別が変わっても、運転者の操作に基づいて結合判定されるので、略同一の基準で適合することが可能となる。
【0073】
上記の2)のように、結合判定部42において実前後加速度が所定値a1以上であることを結合判定の条件の1つとしている。これにより、例えば登坂路を走行するときに、演算前後加速度が所定値a1未満となるような駆動力が少ない場合であっても、ドグクラッチ30を結合させることが可能となり、アクセルを大きく踏み込まない状況でも登坂性能を向上させることができる。
【0074】
上記の3)のように、結合判定部42においてに前後輪速度差が所定値V2以上であることを結合判定の条件の1つとしている。これにより、滑りやすい路面では車両加速度が比較的小さくてもスリップする可能性があるため、このような場合でもドグクラッチ30が結合させることが可能となり、滑りやすい路面での走行性を向上させることができる。
【0075】
また、上記のように切断判定部43は、変速機が2速から3速にシフトアップしたことを切断判定の条件としている。これにより、変速機3の変速段が1速や2速では、切断判定されず、ドグクラッチ30を結合しておくことで、急加速に伴う車輪スリップに備えて4輪駆動への切り換えを迅速に可能とすることができる。
【0076】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば上記実施形態では、後輪駆動車をベースとした、即ち後輪9、10を主駆動輪とし前輪25、26を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用しているが、前輪駆動車をベースとした、即ち前輪25、26を主駆動輪とし後輪9、10を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用してもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、走行駆動源がエンジン2である車両1に本発明を適用しているが、モータを走行駆動源とする電気自動車、走行駆動源をエンジン及びモータとするハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
2 エンジン(駆動源)
20 電制カップリング(第1のクラッチ)
22 フロントデファレンシャル(デファレンシャル)
25 左前輪(前輪、副駆動輪)
26 右前輪(前輪、副駆動輪)
30 ドグクラッチ(第2のクラッチ)
40 走行駆動コントロールユニット(走行駆動制御装置)
42 結合判定部
43 切断判定部
45 クラッチ制御部
46 車両前後加速度演算部(加速度演算部)
47 前後輪速度差演算部(前後輪速度差検出部)
48 車両前後加速度センサ(加速度検出部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8