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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】電池劣化判定支援方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240904BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240904BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240904BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240904BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024026540
(22)【出願日】2024-02-26
【審査請求日】2024-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524073359
【氏名又は名称】テクタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】524073360
【氏名又は名称】サン・ライズ・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】石橋 義人
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/244378(WO,A1)
【文献】特開2013-160613(JP,A)
【文献】特開2008-298786(JP,A)
【文献】特開2010-223968(JP,A)
【文献】特開2010-156702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
G01R 27/02
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の内部特性を電子回路によって取得することにより前記電池の劣化判定を支援する方法であって、
前記電子回路は、
前記電池の放電をON/OFF制御する制御手段と、
前記ON/OFF制御された前記電池の電圧を計測して電圧計測データを取得する電圧計測手段と、
前記電池が放電する電流量を計測する電流計測手段と、
を備え、前記電子回路により、
前記ON/OFF制御に伴う周期に対する測定開始時と測定終了時とにおける電圧差を取得し、前記取得した電圧差を前記周期における放電期間で按分することによる補正データによって補正処理を行い、
前記補正処理を行った結果に対し、時間領域から周波数領域への変換処理(フーリエ変換処理)または、時間領域から複素数領域への変換処理(ラプラス変換処理)を行う第一の変換処理を行い、
前記補正データに対して、時間領域から周波数領域への変換処理(フーリエ変換処理)または、時間領域から複素数領域への変換処理(ラプラス変換処理)を行う第二の変換処理を行い、
前記第一の変換処理の結果に対し、前記第二の変換処理の結果を適用することによって、前記補正処理の影響分を差し戻すための処理を行う、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第一の変換処理は、フーリエ変換処理であり、
前記第二の変換処理は、補正処理によって生成された補正データに対して窓関数を適用してフーリエ変換処理を行って生成された第一の補正変換データに対し、窓関数の影響によるゲイン係数を勘案した第二の補正変換データを生成するものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記放電のON/OFF制御の周波数を複数選択して制御を行い、
相対的に高い周波数の制御時には前記補正を行わないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記相対的に高い周波数は、少なくとも1Hzあるいは数Hz以上であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の方法を実行する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の劣化判定を支援する方法等に関し、より具体的には、リチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池、太陽電池、燃料電池等の電池の内部特性を取得することにより、電池の劣化判定を支援する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池等の電気エネルギー供給媒体の劣化状態を診断する種々の方法が提案されている。その診断方法の一手段として、横軸に二次電池等の交流インピーダンスの実部をとり、縦軸に二次電池等の交流インピーダンスの虚部をとったコールコールプロット(Cole-Cole plot)あるいはナイキストプロットが採用されている。
【0003】
(コールコールプロットの原理説明)
コールコールプロットは、電池の内部抵抗を交流によって測定するAC-IR測定法による計測値をプロットしたものである。具体的には、計測対象の電池に様々な周波数の正弦波を印加した際の電流値及び電圧値を計測し、これらの値から位相差を含めた抵抗値を算出し、抵抗値の実部と虚部をプロットすることで得られる散布図である。
なお、交流においては、電圧値V=Vr+Vi×j(但し、j=(-1)0.5)、電流値I=Ir+Ii×jとして表され、抵抗値Rは、V/Iという複素数として算出される。一例ではあるが、V=-229.585443703293-4195.93748617154i、I=-1.47516371438595-5.46385648982277iのとき、R=0.0012072190153994-0.000304333685571092iと算出される。
【0004】
また、正弦波を印加するということは、計測対象の電池に対する充電と放電を行うことを意味する。測定する際に設定される周波数は、0.1Hzから1kHzまで数十から百点ほどの計測が必要とされる。高周波での計測時間は問題にならないが、例えば周波数が0.1Hzのときの計測には10秒を要することとなるため、予定される全ての周波数で計測するには、数分~10分程度の時間を要する。
さらにノイズ低減のため平準化を行う場合、更なる測定時間が必要となる。例えば、4回平均を取りたいという場合、上の例の4倍である20分~30分程度が一回の計測に必要な時間となってしまう。
【0005】
図8A及び図8Bを参照して、AC-IR計測器による計測結果からコールコールプロットを生成する例を説明する。図8Aは、AC-IR計測器による計測結果を例示的に示している。すなわち、同図には、AC-IR計測器によって計測対象の電池に様々な周波数の正弦波を印加した際の電流値及び電圧値が計測され、これらの計測値から算出された位相差を含めた抵抗値(実部抵抗及び虚部抵抗)が周波数ごとに記載されている。
図8Bには、図8Aに示された周波数ごとの抵抗値の実部と虚部がプロットされた様子が表されている。また、図8Bに示されたコールコールプロットにおいて、ゼロクロス点(同図中のA)と変化点(同図中の窪み部分B)は、同じ条件(温度、電池電圧等、以下同じ)、同じ特性の電池であれば、同じ位置に出るという傾向がある。したがって、同じ条件、同じ特性の電池においてこれがずれるということは、異常あるいは劣化していると判定できる。このような判定手法は、一例として、電池製品の製造時のチェックなどで採用することが可能となる。
【0006】
(AC-IR測定法)
AC-IR測定法は、電池の交流特性を取得することで電池内部の各パラメータ値を推定する手法である。従来の手法においては、これら各パラメータ値が正常値からどれくらい乖離しているかを見て、その電池の劣化を推定してきた。なお、従来、DC-IR測定法も利用されているが、これは電池の内部抵抗を直流によって測定した抵抗値に基づく判断手法である。AC-IR測定法は、小電流負荷のため、電池に与えるダメージが少なく、一部の特性しか分からないDC-IR測定法に比べて信頼性の高い測定が可能であると言われている。AC-IR測定法で得られた交流特性は、蓄電池だけでなく、太陽電池、燃料電池、化学反応など様々な反応状態を把握するのに利用できる。
【0007】
図9Aに、リチウムイオン二次電池の物理的構造を概念的に示す。図9Aにおいて、電池900は、正極910と負極920と電解液930とを含み、一実施形態として、正極910には、厚さ15~30μm程度のアルミニウム合金箔が正極集電体911として用いられ、負極920には、圧延銅箔や電解銅箔などの純銅が負極集電体921として用いられる。940は、リチウムイオン二次電池の初期充電過程において電解液や添加物の分解によって負極上に形成されるLi化合物であり、SEI(Solid Electrolyte Interphase)と呼ばれる。その他、同図中において符号番号を付していない粒子は、各種添加物を表している。なお、951a及び951b等に例示される六角形状の粒子は、Li+(イオン)を示す。
【0008】
図9Aに示されたような二次電池の物理的構造は、図9Bに示される等価回路950として考えることができる。図9Bに示された回路は、少なくとも、SEIの等価回路とされるRC並列回路961と、アノード(正極部)の等価回路とされるRC並列回路962と、カソード(負極部)の等価回路とされるRC並列回路963とを含む。また、各RC並列回路において、CPE、CPE、CPEは温度による影響を受けやすいため、同図中のキャパシタの記号としては特殊な記号を用いて表している。
以上、図9A及び図9Bを参照した説明に基づいて、コールコールプロットによる二次電池の劣化状態診断は成立している。
【0009】
また、コールコールプロットから読み取れる情報としては、図9Cに示されるように、一番応答が速い溶液抵抗の反応周波数は1k~300Hz帯に表れ、電極表面の電気二重層抵抗の反応周波数は300Hz~0.1Hz帯に表れ、電極内部活物質の拡散抵抗の反応周波数は0.1Hz以下の帯域に表れるという特徴がある。このため、等価回路の別モデル(簡易等価回路モデル)として、図9Dが採用されることもある。このような簡易等価回路モデルによっても、電池内部の特性パラメータ値を読み取れるようになり、電池の劣化具合を判断できるようになる。
なお、図8Bに示されたコールコールプロットにおいて、ゼロクロス点(同図中のA)と変化点(同図中の窪み部分B)は、同じ条件(温度、電池電圧等、以下同じ)、同じ特性の電池であれば、同じ位置に出るという傾向があるということを述べたが、このことは、AC-IRが、温度及びSoC(State of Charge:充電率)の影響を受けやすいという性質を有するということも意味する。
【0010】
このような従来手法を前提として、測定装置の演算負荷を軽減しつつ速やかに二次電池の劣化状態を診断する電池劣化診断システム等が提案されている(特許文献1)。
【0011】
具体的には、二次電池の電気特性の状態に関する電池状態データを測定する測定装置と、前記二次電池の劣化状態を診断する診断処理装置と、を含み、前記診断処理装置は、前記二次電池の劣化特性を特定するための電池劣化情報をあらかじめ記憶する記憶手段と、前記測定装置から前記電池状態データを受信する受信手段と、前記受信手段が前記電池状態データを受信した場合には、前記記憶手段に記憶された前記電池劣化情報を参照して当該電池状態データに対応する前記二次電池の劣化状態を演算する演算手段と、前記演算手段により演算される前記二次電池の劣化状態を示す診断結果を前記測定装置へ送信する送信手段と、を備える、電池劣化診断システムが開示されている。
【0012】
また、二次電池の状態をより正確に判定することのできる二次電池状態判定方法及び二次電池状態判定装置が提案されている(特許文献2、特許文献3)。
【0013】
すなわち、特許文献2には、判定対象である二次電池に交流電圧又は交流電流を印加することによって測定された複素インピーダンスを取得し、この取得した複素インピーダンスに基づいて二次電池の状態を判定する二次電池状態判定方法であって、前記複素インピーダンスの所定の周波数における値と、負極容量ずれの判定に用いられる第1の判定値との比較に基づいて第1の容量ずれの有無を判定する第1の容量ずれ判定工程と、前記第1の容量ずれ判定工程で前記第1の容量ずれが生じていないと判定されたとき、前記複素インピーダンスの拡散抵抗領域における実軸に対する傾きと、正極容量ずれの判定に用いられる第2の判定値との比較に基づいて第2の容量ずれの有無を判定する第2の容量ずれ判定工程と、を備える二次電池状態判定方法が開示されている。
【0014】
また、特許文献3には、二次電池に対し微小短絡が生じる可能性が高い状態である微小短絡傾向状態を判定する二次電池の状態判定方法であって、所定の周波数以上の電圧又は電流を前記二次電池の電極系に印加することにより、前記二次電池の電子移動抵抗Rsを測定する電子移動抵抗測定のステップと、当該電子移動抵抗測定のステップで取得した電子移動抵抗Rsを、予め設定した下限閾値Rs minと比較する極間距離良否判断のステップと、前記極間距離良否判断のステップにおいて、電子移動抵抗Rsが下限閾値Rs min以上である場合に、極間距離が良好とし前記二次電池を良品と判定する二次電池状態判定のステップとを備えたことを特徴とする二次電池の状態判定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2020-205253号公報
【文献】特開2019-049479号公報
【文献】特開2021-174729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記従来のAR-IR測定法は、高価、大電力消費、長時間の計測時間という課題があり、止む無くDC-IR測定法や簡易充放電を行った場合の電池特性に基づき電池の良否を判定するということも行われていた。例えば、大電力消費については、従来のAC-IR測定法では、二次電池に対して正弦波を印加することで行われており、放電だけでなく、充電が必要となっていた。電池に充電するためには、それなりの電力が必要となるだけでなく、精度を上げるため充放電電流量を増やそうとすれば、更なる電力が必要となり、結果としてAC電力供給が求められ、これにより装置が大型化してしまっていた。同時に、これは製造コストを上昇させてしまうという課題を生じさせていた。
【0017】
また、計測時間の長大化については、全周波数を計測するため、低周波帯域での計測時間の累積が特に課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
そこで、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援方法は、電池の内部特性を電子回路によって取得することにより前記電池の劣化判定を支援する方法であって、前記電子回路は、前記電池の放電をON/OFF制御する制御手段と、前記ON/OFF制御された前記電池の電圧を計測して電圧計測データを取得する電圧計測手段と、前記電池が放電する電流量を計測する電流計測手段と、を備え、前記電子回路により、前記ON/OFF制御に伴う周期に対する測定開始時と測定終了時とにおける電圧差を取得し、前記取得した電圧差を前記周期における放電期間で按分することによる補正データによって補正処理を行い、前記補正処理を行った結果に対し、時間領域から周波数領域への変換処理(フーリエ変換処理)または、時間領域から複素数領域への変換処理(ラプラス変換処理)を行う第一の変換処理を行い、前記補正データに対して、時間領域から周波数領域への変換処理(フーリエ変換処理)または、時間領域から複素数領域への変換処理(ラプラス変換処理)を行う第二の変換処理を行い、前記第一の変換処理の結果に対し、前記第二の変換処理の結果を適用することによって、前記補正処理の影響分を差し戻すための処理を行うことを備えることを特徴とする。
【0019】
また、前記第一の変換処理は、フーリエ変換処理であり、前記第二の変換処理は、補正処理によって生成された補正データに対して窓関数を適用してフーリエ変換処理を行って生成された第一の補正変換データに対し、窓関数の影響によるゲイン係数を勘案した第二の補正変換データを生成するものであることを特徴とする
【0020】
また、前記放電のON/OFF制御の周波数を複数選択して制御を行い、相対的に高い周波数の制御時には前記補正を行わないことを特徴とする。
【0021】
また、前記相対的に高い周波数は、少なくとも1Hzあるいは数Hz以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等によれば、小型で消費電力が低く、計測時間を大幅に短縮できる電池劣化判定支援装置を提供できる等の有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置を含むシステムの全体構成例を説明する説明図である。
図2A】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における電流値の計測例を説明する説明図である。
図2B】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における電圧値の計測例を説明する説明図である。
図3A】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における計測手順を説明するフローチャートである。
図3B】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における計測手順を説明するフローチャートである。
図4A】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等が対処すべき事象を説明する説明図である。
図4B】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等が対処するために使用される電圧グラフの例を説明する説明図である。
図5A】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による処理の前後の様子を説明する説明図である。
図5B】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による処理の前後の様子を説明する説明図である。
図6】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測結果に基づくコールコールプロット例を説明する説明図である。
図7】本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測に基づくコールコールプロット例と従来のAC-IR計測器による計測に基づくコールコールプロット例との比較を説明する説明図である。
図8A】AC-IR計測器による計測結果例を説明する説明図である。
図8B】AC-IR計測器による計測結果からコールコールプロットを生成する例を説明する説明図である。
図9A】従前の二次電池の物理的構造を概念的に説明する説明図である。
図9B】従前の二次電池の物理的構造に基づいた等価回路例を説明する説明図である。
図9C】従前の二次電池をAC-IR計測器によって計測して生成したコールコールプロット例の性質を説明する説明図である。
図9D】従前の二次電池の物理的構造に基づいた簡易等価回路例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本発明の理解の容易のために「電池」という用語を使用するが、本発明は「電池」を含み、電気や電力を供給する電気エネルギー供給媒体に広く適用できる。
【0025】
図1に、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置を含むシステムの全体構成例を示す。
【0026】
図1に示されるように、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置100を含むシステムは、スイッチ回路等をON/OFF制御するための制御信号を送信するための信号制御I/F(111)と、電流計測I/F(112)と、電圧計測I/F(113)と、CPU等の演算処理部114とを有する制御部110を含む。同システムはその他にスイッチ回路120と、シャント抵抗130と、抵抗器(放電抵抗器)140と、シャント抵抗130の抵抗値(または、シャント抵抗130を流れる電流値)をデジタル変換するためのA/D変換器150と、蓄電池190の電圧値をデジタル変換するためのA/D変換器160とを備える。
【0027】
本発明の一実施形態においては、図1中の蓄電池190を除くすべての素子・回路・装置を本発明にかかる電池劣化判定支援装置あるいはシステムとすることもできる。また、制御部110を本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置とすることもできる。
【0028】
(電池劣化判定支援装置の作動要領)
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置の作動上の特徴は、これらに制限されるものではないが、次のとおりである。
(1)反応特性は矩形波で取得されること
矩形波には、基本周波数とその高次の周波数特性が含まれる。例えば、100Hzの矩形波を印加しその特性を取ることで、300Hz、500Hzと高次奇数項の特性が同時取得可能となる。高次項は、フーリエ変換処理によって取得することで計測時間の短縮を図ることができる。この計測時間の短縮の効果は、高次項のフーリエ変換処理にかかる演算量の増大を上回るものである。
(2)反応は放電特性のみを取得すること
従来のAC-IR測定法では、充電特性と放電特性の両方を取得していたが、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置においては、放電特性のみを取得する。この特徴により、電力的な負担や装置の大型化に伴う煩雑さを軽減することができる。
【0029】
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置は、こうした特徴を備える結果、次のような利点を発揮する。
(A)小型であること
本願の出願時点において、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置は、概ね75.0mm×103.0mm×50mmの小型化を実現できており、さらなる小型化の可能性も見えている。
(B)低消費電力であること
本願の出願時点において、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置は、325mWの低消費電力を実現できている。
(C)計測時間の短縮化
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置の周波数帯域上の計測点は4点である(これらに制限されるものではないが、一実施形態として、0.2Hz(F1)、1.5Hz(F2)、12Hz(F3)、100Hz(F4)の4点)。この結果、本願の出願時点において、計測時間約10秒、通信時間約20秒という実績を出している(一実施形態において、通信速度は約100Kbps、データ形式はASCIIであり、通信速度を例えば1Mbpsに引き上げ、データ形式をバイナリーに変更することで、更なる通信時間の短縮が図ることができる)。さらに、この計測点は自由に選択できるようにも改善されており、究極的には2点の計測点(一実施形態として、0.3Hzと10Hz。高次項は11~13次程度が限界と考えられる。それ以上の高次の周波数ではノイズに埋もれてプロットが広がって行ってしまう)でも作動可能である。
【0030】
(電池劣化判定支援装置のシステム構成例)
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置のシステム構成例として、次のようなものがある。
【0031】
(1)構成例1
単セル計測の場合において、1セルの蓄電池に対し1台の電池劣化判定支援装置で対応する。そして、複数の電池劣化判定支援装置を制御する制御装置(不図示。既存技術で実現可能である)を用意し、複数の電池劣化判定支援装置と制御装置とをRS-485等で相互に接続して通信処理する。処理した結果データは、図示しないクラウドで解析させるようにしてもよい。
【0032】
このような構成にすると、電池劣化判定支援装置のコストを低減でき、解析PC等が不要になるという利点がある。
【0033】
(2)構成例2
測定は必要な2点のみとし、測定から得られたデータからフィッティング処理を行う。また、測定点を2点に絞ったことによる非測定域のデータは、上述のフィッティング結果から推定処理する。ここでのフィッティング処理は、コールコールプロットにおいて採用される処理であり、抵抗と複数の並列回路(RCやRL)の直接接続によって表現される等価回路と所定数の周波数の組とを用いてシミュレーションされる。このフィッティング処理については、既知のものを採用することができる。
【0034】
このような構成は、電池製造ラインでAC-IR測定及びコールコールプロット算出したいというニーズに応えることができる。これまでは、このようなニーズに応じるためには、装置に対する大きなコストと測定器を設置する空間及びAC電源確保などの煩雑性があったが、本構成では、数万円程度の装置コストとたばこサイズの空間とUSB電源で対応できる。
【0035】
なお、本発明の一実施形態においては、以下のような回路を想定したフィッティング処理を行うことができる。
【0036】
circuit=R0-p(R1,C1)-p(R2,C2)-p(R3,C3)-p(R4,L4)
【0037】
但し、R0等は抵抗、C1等はコンデンサ、L4はインダクタを表し、「p(R1,C1)」等はかっこ内の素子の並列接続、「-」は直列接続を表す。また、周波数は、あくまでも本発明の理解のための一例として、[0.2, 1, 4.5, 7.5, 12.5, 36.5, 61, 97.5, 290, 879, 1465]といった周波数の組が採用される。
【0038】
図2Aに、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における電流値の計測例を示す。同図において、横軸の値ゼロ近辺から2000近辺までは、放電停止中の区間の電流値を示している。同じく、横軸の値2000近辺から4000近辺までは、放電中の区間の電流値を示している。同図に示される波形は、矩形波を示している。
【0039】
なお、正確には、放電期間で約20点計測しているため、サンプリング点は、20から2068、そして、2068から4116となる。2048+20、4096+20ということである。最初の20という値は、適宜決めることができる。本発明の一実施形態においては、この値は、2~3程度から多くても20程度が望ましいと考えられる。
【0040】
図2Bに、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における電圧値の計測例を示す。同図の電圧値の横軸は、図2Aの電流値の横軸に対応する。図2Bにおいて、横軸の値ゼロ近辺から2000近辺までは、放電停止中の区間の電圧値を示している。同じく、横軸の値2000近辺から4000近辺までは、放電中の区間の電圧値を示している。同図に示される波形は、放電停止・放電中という状態に応じた電圧値を示している。
【0041】
図3A及び図3Bに本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における計測手順を示す。本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等における計測は、大局的には、図3Aに示されるフローと図3Bに示されるフローとが並列に処理される。より具体的には、一実施形態において、図3AにおけるステップS304~ステップS308まで、および、図3BにおけるステップS351~ステップS353までが並列処理される。
【0042】
(計測処理の概要)
まず計測回路や素子を含めた計測処理全体の概要を説明する。図3A及び図3Bの処理フローにおいて、SW(スイッチング回路)には、FET(Field Effect Transistor)が採用されている。また、一実施形態において、FETのON/OFF制御は、半導体を使った電力制御を行うPWM(Pulse Width Modulation)制御が採用される。規定回数分のON/OFFが繰り返すように制御することができる。
【0043】
本発明はこれに限定されるものではないが、一実施形態において、最初にSWをONにしたあと(最初に)OFFになる直前から電圧値/電流値のサンプリングを開始し、ここを始点とする。その後、所定回数のON/OFF制御が繰り返された後の最後のONの終了直前でサンプリングを修了し、ここを終点とする。例えば、所定回数を4回として4回のON/OFF制御の繰り返し波形を計測する場合、実際には4.5波形分をとることになる。このとき、FETは、ON1/OFF1/ON2/OFF2/ON3/OFF3/ON4/OFF4/ON5と繰り返し処理され、計測は最初のON(ON1)から(最初に)OFF(OFF1)になる直前で計測を開始し、最後のONからOFFになる直前(ON5の終了間際)で終了するため、実際に計測に使われるデータは4波分のデータとなる。
【0044】
次に、計測対象データは、規定周期でI2C(Inter-Integrated Circuit)規格で読み出される(一実施形態において、10μ秒毎である。)。また、読み出されたデータは、必要に応じて平均化処理されることができる。本発明の一実施形態において、電流・電圧共に4096点のサンプリングを行って処理される。一実施形態において、PC当において計測データがある程度溜まったらデータの読み出しを行うような処理にしてもよい。また、他の実施形態においては、制御部110内の演算処理部114で処理することもできる。
また、電圧と電流はA/D値となっているため、これを電圧値・電流値に変換する処理が行われる。
【0045】
また、電圧値は放電により徐々に低下するため、始点と終点の電圧値は異なることになる。
【0046】
そこで、電圧値については、始点と終点の値を一致させるよう次のように処理される。まず、始点電圧と終点電圧の差を求める。次に、この差を放電期間で均等に加算する。上述した例でいえば、4波形分のON区間だけに均等に加算するなどである(補正電圧データの加算)。この処理により、始点における電圧と終点における電圧は合致することになる。
そして、電圧値については、上記補正電圧データに対して4096点の高速フーリエ変換(以下、FFT。)処理を実施(この結果を補正電圧FFT処理結果とする)し、電流値については、そのまま4096点のFFT処理を実施する。
【0047】
次に、始点と終点を合わせるために電圧加算した信号(等分補正データ)に窓関数を適応し、FFT処理を実施する。次に、FFT処理した結果に対し、ゲイン補正を行う。例えば、ハニング窓(hamming window)を使うとゲインが2分の1になるので、ハニング窓を使って出力された結果を2倍してゲイン補正を行うなどである。最後に、この補正結果を補正電圧FFT処理結果に加算し、得られた結果を補正済みの電圧FFT処理結果とする。
【0048】
そして、補正済みの電圧FFT処理結果と電流FFT処理結果を使用して抵抗値を算出する。
【0049】
なお、本発明の他の実施形態においては、上述のFFT処理に替えて、一般のフーリエ変換を採用してもよいし、4096点ではなく1024点等で行ってもよい。また、代替可能な公知のラプラス変換処理を採用することもできる(以下、FFT処理について同じ。)。
【0050】
(計測処理フロー)
図3Aにおいて、ステップS301にて1つの周波数に対する処理を開始すると、ステップS302へ進み、SW制御が開始される。次にステップS303へ進み、計測する波形の繰り返し回数が設定される。一実施形態として、4波形分を取る場合には繰り返し回数として4回が設定される。
【0051】
次にステップS304へ進み、SWがONに制御される。次にステップS305へ進み、規定時間が経過したかが判断される。これは周波数によって決まる時間であり、0.1Hzの周波数に対する処理であればON区間の5秒がここでの規定時間となる。ステップS305でNoであれば同ステップにおいて規定時間が経過するまで待機となるが、同ステップでYesとなれば、次ステップへ進む。
【0052】
ステップS306では、SWがOFFに制御される。次にステップS307へ進み、規定時間が経過したかが判断される。これは周波数によって決まる時間であり、0.1Hzの周波数に対する処理であればOFF区間の5秒がここでの規定時間となる。ステップS307でNoであれば同ステップにおいて規定時間が経過するまで待機となるが、同ステップでYesとなれば、次ステップへ進む。
【0053】
ステップS308では、計測する波形の繰り返し回数がステップS303で設定された回数に達したかどうかが判断され、NoであればステップS304へ復帰するが、YesであればステップS309へ進み、1つの周波数に対する計測としては終了する。
【0054】
一方、ステップS304~ステップS308までの処理と並列して実施される処理として、図3BにおけるステップS351で処理が開始されると、ステップS352では計測データが取得され、ステップS353では電圧値/電流値がデータとして取得され、ステップS354では取得されたデータが保存される。
【0055】
なお、図3Aの処理をPWM処理としてマイコンで自動制御してもよい。この場合、ON/OFFは、PWM制御部が自動的に行う。マイコンで設定するのは、繰返し周期、開始及び停止の指示のみである。繰返し周期を設定し、PWMを開始すると所定時間経過したら終了という流れになる。この終了判断時間がS308に相当する。
また、計測側について、S305~S308でON/OFF制御されている間、S351~S354が繰り返し実行されるところは、本例では4096×N回行っている。Nは、平均回数である。
【0056】
上述の作動要領をまとめると下表のようになる。
【表1】
【0057】
上表の下から2番目(F2)を例に説明すると、1.531Hz周期でFETがON/OFFされる(実際にはON/OFF/ONまでの制御。)。時間軸でみると、327.68msの間ONとなり、次の327.68msの間はOFFとなり、最後に327.68msの間ONとなる。計測は、最初のONの終わり(例えば)7.68msくらいから開始され、最後のONの320ms後で計測終了となる。この間、10usごとに計測されるので、655.36ms間では65,536回計測されることとなるが、16個平均を取ることで、4096個になる。この16という数字が上でいうNに相当する。すなわち、S351~S354は、所定回数繰り返され、必要に応じて平均化され、所望の4096点(この数も自由に選択できる)が得られる、という作動の流れとなる。
【0058】
図4Aに、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等が対処すべき事象を説明する。図4Aには、放電中(SW制御のON区間)と放電停止中(SW制御のOFF区間)の繰り返しを2回弱繰り返している様子を表している。なお、同図中では、繰り返し回数は1回に設定されており、その繰り返し区間(SWのON/OFF制御1回分)において4096点のサンプリングが行われる。
【0059】
図4Aにおいて注目すべきは、まず、1周期目の放電開始時の電圧よりも2周期目の放電開始時の電圧のほうが若干下がることである(同図のp部分)。次に、2周期目の放電区間が終了した時点での電圧は、1周期目の放電区間の終了時点の電圧よりもDだけ下がるということである。
【0060】
このように、電圧が周期ごとに低下する理由は、放電と放電停止を繰り返すことにより生じるSoCの低下による。具体的な症状は、次のとおりである。
図4Aにおいて、時刻t0の時点での計測対象電池のSoCがx%とすると、時刻t0から時刻t1までの放電停止期間中のSoCはx%に維持される。ところが、時刻t1から放電が開始されると放電が停止される時刻t2までの期間中はSoCが徐々に低下する。そして、時刻t2には、SoCの低下による電圧降下(D)が生じる。
【0061】
このような電圧降下(D)は、(計測処理の概要)でも述べたように始点の電圧値と終点の電圧値との差であるので、FFT処理を行ううえでは、適切な補正を行う必要がある。その理由は、FFTを有限期間で処理する場合、FFT変換開始時と終了時の値にずれがあると、余計な周波数成分が発生するからである(高次項の周波数特性が算出されるという課題)。したがって、両者の値は一致している必要がある。
【0062】
一般的には、このような始点と終点における信号値にずれがある場合の対応としては、窓関数を適用し、始点及び終点をゼロにして合致させる手法が挙げられる。すなわち、窓関数は中央部のみを大きくし、周辺をゼロに近づけるような形状となる関数を掛け、両端のずれを「みなしゼロ」として飛びをなくす手法である。なお、このような手法がうまくいく場合は、信号の特性が中央に含まれている関数の場合に限られる。例えば、重要な信号が、始点及び終点部分に多く含まれるような場合には重要な情報が消えてしまうため、うまくいかない。過渡応答の場合には、窓関数を適用すると始点及び終点近辺で得られる応答信号の多くを消滅させてしまうことになるので、窓関数を使わない信号処理方法を導入する必要がある。
【0063】
以上の考察から、本発明の一実施形態においては、始点の電圧値と終点の電圧値を一致させるような次の補正処理が行われる。
【0064】
(補正処理)
(1)始点電圧と終点電圧の差を求める(D)。
【0065】
(2)上記(1)で求めた電圧差Dを放電期間において均等になるように加算する。具体的には、繰り返し回数(図4では1回)分の波形(図4では1波形)のON区間にだけ均等に補正電圧データを加算する。
【0066】
(3)電圧値については、上記補正電圧データに対して4096点のFFT処理を実施し、補正電圧FFT処理結果とする。
【0067】
(4)電流値については、補正は行わずに取得されたデータに対して4096点のFFT処理を実施し、補正結果とする。
【0068】
(5)始点と終点を合わせるために電圧加算した信号(等分補正データ)に窓関数を適応し、FFT処理を実施する。
【0069】
(6)FFT処理した結果に対し、ゲイン補正を行う。例えば、ハニング窓(hamming window)を使うとゲインが2分の1になるので、ハニング窓を使って出力された結果を2倍してゲイン補正を行うなどである。
【0070】
(7)上記(6)で実施された補正結果を補正電圧FFT処理結果から減算し、得られた結果を補正済みの電圧FFT処理結果とする。
【0071】
(8)補正済みの電圧FFT処理結果と電流FFT処理結果を使用して抵抗値を算出する。この抵抗値は、周波数ごとに実部抵抗(R)及び虚部抵抗(X)で構成される複素インピーダンスとなる。
【0072】
上記(1)~(8)の処理は、他の観点からは(電池過渡応答処理フェーズ)と(後処理フェーズ)とに分けることができ、その場合には、次のように説明することもできる。
【0073】
(電池過渡応答処理フェーズ)
(A1)1回目にFETをOFFにする直前(時刻t0)のセル電圧をV0(FFT開始時電圧)とする。このとき、FFT開始時から1回目の放電停止までの時間は短いため、ここでのSoCの変化はないものとみなすことができる(この近辺のセル電圧はV0で一定ということになる)。
【0074】
(A2)FETをOFFしている時間が終了し(時刻t1より少し後)、再びFETをONにする(放電開始)。すると、セル電圧は急激に減少しはじめる。そして、FFT終了時点(時刻t2)のセル電圧をV1とすると、仮に放電によりSoCが変動しない場合には、V1はもっと高いはずである。その電圧値はV0より高いか低いかは定かではないが、ここでは、仮にV0と仮定する。
【0075】
(A3)そして、V1-V0となる差分について、FETをONにした直後(図では時刻t1より少しあとの電圧が下がり始める時刻)から按分減算して行き、FFT終了時点(時刻t2)でセル電圧がV0になるような補正を掛ける。これでFFTを掛ける時には、始点と終点の値を合致させることができる。
【0076】
このように、時刻t0では電圧はV0で、放電停止までこの値は変動しないと仮定している(この間の時間は短いため。)。このとき、D=V0-V1となっている。本発明の一実施形態においては、このDを按分減算していくことになる。そして、理論上は2048点となるところ、実際の計測では、t0と放電停止までの時間が1msなら100点(1点測定に10usかかるため)を要するため、1948点が実質的に按分されることになる。
【0077】
(後処理フェーズ)
(B1)FFT処理した結果について、FETをONにした直後からFFT終了時点までの一定電圧降下分に対してFFT処理を施す。このとき、始点と終点が一致しない点については、窓関数が適用される。
【0078】
(B2)これに限定されるわけではないが、本発明の一実施形態において、適用される関数は、単純な電圧降下関数(時間と共にリニアに電圧が下がる関数)である。
【0079】
以上のように計測や補正の実施形態において多角的に説明したが、以下ではその理解をさらに深めるための補足説明を加える。
【0080】
[補足1]始点と終点の電圧を合わせることの意義
上述のとおり、補正処理においては、始点と終点の電圧を合わせる処理を行うが、これは放電期間における差分値を等分して「合わせる」ことになる。さらに例を挙げてこの処理を補記すると、次の(1-1)~(1-4)のとおりとなる。
【0081】
(1-1)
まず、始点電圧をV0とし、終点電圧をV1、中間電圧をVxとする。また、それぞれの電圧時の時刻をt0、t1、txとする。また、それぞれのサンプル番号を0、4095、Cxとする。
【0082】
(1-2)
中間電圧Vxは、放電停止によりV0からVxに向けて上昇していく。また、時刻txで放電が開始されると、中間電圧Vxは、V1に向けて下降していく。
【0083】
(1-3)
ここで、Vd=V0-V1とする(放電によりSoCが低下するため、V0>V1とすることができる)。本発明の一実施形態においては、4096点取得しているが、t0から放電停止までの20~30サンプルも取得しており、これらのデータも4096点に含まれる。よって、終点時刻は2回目の放電停止より20~30サンプル前となる。
【0084】
(1-4)
VxからV1へ向かう区間でサンプル数がS(=4095-Cx)とすると、ti時刻の電圧は、V=Vi+Vd/S*(Ci-Cx)と補正される。
また、ti=txであるならば、Vi=Vx+Vd/S*(Cx-Cx)=Vxと補正され、ti=t1であるならば、Vi=V1+Vd/S*(C1(=4095)-Cx)=V1+Vd=V1+V0-V1=V0となり、始点と終点の電圧は合わさる。
【0085】
[補足2]差分の影響分を差し戻す処理の必要性
補記1で説明したように始点と終点の電圧を合わせる処理を行うと、差分影響分を差し戻す処理が必要となる。例を挙げてこのことを(2-1)~(2-3)に説明する。
【0086】
(2-1)
補記1での処理は、2回目の放電期間での差分を按分加算する手法である。しかし、このように按分加算した電圧値は、本来の電圧ではない。あくまでも、FFT処理を行った際の高次項のエラーの発生を回避するための措置である。
【0087】
(2-2)
従って、最終的にFFT処理を行った後、この補正した分を元に戻す必要がある。加算処理したものは、t0~txの期間まではゼロ、tx~t1の期間は直線的にVd下がるような直線である。しかし、これをFFT処理しても直線なので、求めたい結果が得られない。
【0088】
(2-3)
そこで、図4Bに示すような電圧グラフのデータに対して窓関数を適用してFFT処理を行い、さらにゲインを掛けてその影響分を算出し、上記電圧FFTから差し引くことにより影響がなかった状態に戻す。
【0089】
[補足3]高周波においては補正処理を行わないことの意義
計測対象となる電池や放電体によって求めたい特性の周波数は異なるが、通常は0.1Hz~1kHz程度を100分割して計測する。これに対し、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置の周波数帯域上の計測点は4点である(これらに制限されるものではないが、一実施形態として、0.2Hz(F1)、1.5Hz(F2)、12Hz(F3)、100Hz(F4)の4点とした。)。そして、10Hzを越える周波数については補正処理を行うことはないが、その技術的正当性は次のとおりである。
【0090】
すなわち、100Hzで1波長分の矩形波を入れた場合、実時間に換算すると0.005秒間だけONされている計算となる(正確には、ON/OFF/ON→終了なので、0.01秒間ONすることにはなる。)。この間に、SoCがどの程度低下するのかといえば、ほとんど下がることはない(図4Aのp部分における若干の電圧降下分を参照。)。
【0091】
実際、100Hzで計測した際の始点電圧が3.26431Vであったのに対し、終点電圧は3.26400Vであった。この間約0.00031Vの電圧降下があったが、この降下分がFFT処理に与えた影響は無視できる程度のものであった。
【0092】
さらに、一実施形態において、100Hzよりも小さい周波数での実際の計測値は次にとおりであった。すなわち、12Hzで計測した際の始点電は3.26393Vであったのに対し、終点電圧は3.26393Vであり、1.5Hzで計測した際の始点電圧は3.26294Vであったのに対し、終点電圧は3.26256Vであり、0.2Hzで計測した際の始点電圧3.26050Vであったのに対し、終点電圧は3.25943Vであった。
【0093】
いずれもFFT処理に与える影響は少ないものと判断できるが、本発明の一実施形態においては、少なくとも1Hzあるいは数Hz以上の周波数については補正処理を行わないことでも差し支えない。例えば、1Hz時のON時間は0.5秒であるが、これくらいの時間であれば、SoC低下による影響は少ないとみられる。
【0094】
[補足4]フィッティングによるパラメータ算出を行うことの意義
本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置の周波数帯域上の計測点は4点である。一実施形態として、0.2Hz(F1)、1.5Hz(F2)、12Hz(F3)、100Hz(F4)の4点であり、これらの計測値に基づいて、高次項(1次、3次、5次、・・・)を算出していく。一方で、遅いほうの周波数については、0.2Hz、0.6Hz、1.0Hz、1.4Hz・・・が出るが、上記の条件では、0.2Hzより低いところは出ないこととなる。速いほうは、約100Hzを基準にして、300Hz、500Hz、700Hzと出すことができるが、例えば、2kHzや3kHz辺りまで行くとゲインが小さくなり過ぎ、ノイズの影響を受けて振れ幅が出てきてしまう。
【0095】
そこで、上述したフィッティング処理を行うが、このときに採用される回路が、
circuit=R0-p(R1,C1)-p(R2,C2)-p(R3,C3)-p(R4,L4)
である。
【0096】
上記の回路にフィッティング結果の値を代入し、数値的に周波数を測定域外に振って計算によって高次項の値を求めることができる。これに制限されるものではないが、本発明の一実施形態においては、0.5Hzと20Hzの2点のみを測定し、高次項によって間をある程度埋めたうえでフィッティングによるパラメータ計算を行い、計測対象電池の劣化判定に十分なコールコールプロットを作成することができる。
【0097】
なお、上述した0.2Hzをどこまで高速にできるについては、電池の特性に依存すると考えられる。0.2Hzの意味するところは、FETのON/OFF周期が0.2Hzということで、1周期に5秒を要することになる。電池の劣化判定に有利な正確なコールコールプロットを作成するには0.1Hzか計測することが望ましい場合もあるが、その場合には10秒時間がかかることになる。フィッティングの結果に大差ない場合には、0.5Hzから処理する方が処理時間を2秒へと大幅に短縮でき、総合的にみた利便性が高まることも多い。その場合には、0.5Hzの周波数にて実施したあと、高次項の1.5Hz、7.5Hz等々を埋めていき、さらにフィッティングを行ってパラメータを算出し、そこから(0.1Hz等の)低速域を含めたコールコールプロットを生成することでも差し支えない。
【0098】
図5A及び図5Bに、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による処理の前後の様子を示す。図5Aには、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による処理前の電圧値の計測例が示されており、図5Bには、図5Aに示された電圧値の計測例に対して本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による補正処理を施した結果例が示されている。図5Bに示されたように、図5Aに示された電圧値の計測例に認められた始点電圧と終点電圧の差Dは、上述した電圧補正処理により放電中期間の電圧全体に対して底上げされてゼロになっていることを確認できる。
また、上述したFFT処理は、図5Bに示された補正後の電圧値に対して施される。すなわち、始点と終点が合致し、この波形が繰り返されるという前提で演算すれば、高周波の異常データが算出されるという不都合は生じない。
【0099】
(コールコールプロットの例)
図6に、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測結果に基づくコールコールプロット例を示す。図6において、プロットa1~a4は、1次項の計測点である。また、r1領域のプロットの散らばりに表れているように、次数が大きくなるとプロットがばらつく傾向がある。r1領域のプロットは、高次項として算術演算によって導き出すことができる。r2領域のプロットはa4の高次項として算術演算によって導き出すことができ、ここでは3次、5次、7次、9次まで表記している。これより高次の項も出せるが、高周波の1次項a3と重なっているため、ここで表記を止めている。
【0100】
図7に、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測に基づくコールコールプロット例と従来のAC-IR計測器による計測に基づくコールコールプロット例との比較を示す。同図において、A側に集中しているプロットは、Battery1(良好なバッテリー)について、従来のAC-IR計測器による計測に基づいて行ったコールコールプロット(○プロット)と、同じくBattery1について、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測に基づいて行ったコールコールプロット(△プロット)である。また、B側に集中しているプロットは、Battery2(劣化したバッテリー)について、従来のAC-IR計測器による計測に基づいて行ったコールコールプロット(○プロット)と、同じくBattery2について、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測に基づいて行ったコールコールプロット(△プロット)である。
【0101】
従来のAC-IR計測器による計測及び本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測のいずれについても、良好なバッテリー及び劣化したバッテリーのそれぞれの特性を同じように表しており、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測は、従来のAC-IR計測器による計測に比して全く遜色がないことを表している。
【0102】
すなわち、当業者であれば、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等による計測に基づいて行ったコールコールプロットを観察して従来と同様に正確な電池劣化判定を行うことができる。
【0103】
以上、具体例に基づき、本発明の一実施形態にかかる電池劣化判定支援装置等を説明したが、本発明の実施形態としては、システム又は装置を実施するための方法又はプログラムの他、プログラムが記録された記憶媒体(一例として、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、CD-RW、磁気テープ、ハードディスク、メモリカード)等としての実施態様をとることも可能である。
【0104】
また、プログラムの実装形態としては、コンパイラによってコンパイルされるオブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラムコード等のアプリケーションプログラムに限定されることはなく、オペレーティングシステムに組み込まれるプログラムモジュール等の形態であっても良い。
【0105】
さらに、プログラムは、必ずしも制御基板上のCPUにおいてのみ、全ての処理が実施される必要はなく、必要に応じて基板に付加された拡張ボードや拡張ユニットに実装された別の処理ユニット(DSP等)によってその一部又は全部が実施される構成とすることもできる。
【0106】
本明細書(特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に記載された構成要件の全て及び/又は開示された全ての方法又は処理の全てのステップについては、これらの特徴が相互に排他的である組合せを除き、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0107】
また、本明細書(特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に記載された特徴の各々は、明示的に否定されない限り、同一の目的、同等の目的、または類似する目的のために働く代替の特徴に置換することができる。したがって、明示的に否定されない限り、開示された特徴の各々は、包括的な一連の同一又は均等となる特徴の一例にすぎない。
【0108】
さらに、本発明は、上述した実施形態のいずれの具体的構成にも制限されるものではない。本発明は、本明細書(特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に記載された全ての新規な特徴又はそれらの組合せ、あるいは記載された全ての新規な方法又は処理のステップ、又はそれらの組合せに拡張することができる。
【符号の説明】
【0109】
10 電池劣化判定支援装置
110 制御部
111 信号制御I/F
112 電流計測I/F
113 電圧計測I/F
120 スイッチ回路、スイッチング回路
【要約】
【課題】 小型で消費電力が低く、計測時間を大幅に短縮できる電池劣化判定支援装置を提供する。
【解決手段】 電気エネルギー供給媒体の内部特性を電子回路によって取得することによりその劣化判定を支援する方法であって、電池の内部特性を予め取得して、電池の良否判定に必要な周波数を2点以上選択し、選択された周波数を保存し、選択された周波数に基づいた放電制御を行い、電圧計測手段と電流計測手段を用いて電圧データ及び電流データを取得し、電圧データに対し補正処理を行って補正電圧データを算出し、補正電圧データと電流データとから抵抗データを算出し、抵抗データから少なくとも一部のコールコールプロットデータを算出し、必要に応じて少なくとも一部のコールコールプロットデータを利用してフィッティング処理を行う。
【選択図】 図1
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D