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特許7549314(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防、改善又は治療用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防、改善又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/37 20060101AFI20240904BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240904BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240904BHJP
【FI】
A61K31/37
A61P27/02
A61P27/06
A61K9/08
A61K9/06
A23L33/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023542988
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 KR2022000112
(87)【国際公開番号】W WO2022154356
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0005273
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523267302
【氏名又は名称】インスファームテック インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】523268284
【氏名又は名称】アレズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】オ,サン テク
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】Pyung jun CHOI et al.,“Anti-proliferative activity of CGK012 against multiple myeloma cells via Wnt/β-catenin signaling attenuation”,Leukemia Research,2017年09月,Vol. 60,p.103-108
【文献】日薬理誌,2010年,Vol.135,pp.142-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A23L 33/10
A23L 33/17
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル((7S)-(+)-cyclopentyl carbamic acid、8,8-dimethyl-2-oxo-6,7-dihydro-2H,8H-pyrano[3,2-g]chromen-7-yl-ester)又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼疾患の予防又は治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記眼疾患は、眼球血管新生、黄斑変性、黄斑症、黄斑浮腫、網膜変性、網膜浮腫、網膜症、黄斑腫脹及び緑内障から選ばれる1種以上の疾患であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD;Age-related macular degeneration)であることを特徴とする、請求項2に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記薬学組成物は、眼局所投与用組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記眼局所投与用組成物は、点眼液、軟膏剤又は眼球用注射剤に剤形化されることを特徴とする、請求項4に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記薬学組成物は、眼球内血管漏出を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル((7S)-(+)-cyclopentyl carbamic acid、8,8-dimethyl-2-oxo-6,7-dihydro-2H,8H-pyrano[3,2-g]chromen-7-yl-ester)又はその食品学的に許容可能な塩を有効成分として含む、眼疾患の予防又は改善用健康機能食品。
【請求項8】
前記眼疾患は、眼球血管新生、黄斑変性、黄斑症、黄斑浮腫、網膜変性、網膜浮腫、網膜症、黄斑腫脹及び緑内障から選ばれる1種以上の疾患であることを特徴とする、請求項7に記載の健康機能食品。
【請求項9】
前記黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD;Age-related macular degeneration)であることを特徴とする、請求項8に記載の健康機能食品。
【請求項10】
前記健康機能食品は、眼球内血管漏出を抑制することを特徴とする、請求項7に記載の健康機能食品。
【請求項11】
前記組成物は、一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含有する、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項12】
前記組成物は、非経口的に投与される、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項13】
非経口的な前記投与は、眼球内注入、硝子体腔内注入、網膜下注入、脈絡膜上腔注入、点眼投与およびそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防、改善又は治療用組成物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
浮腫とは、血管内の体液が抜け出ることによって(すなわち、血管漏出によって)、血管外部分の各細胞間の血漿、間質液(interstitial fluid)及び細胞通過液(transcellular fluid)などの体液が過度に蓄積されることを言う。
【0003】
眼球内での血管漏出は、多様な原因によって起こる。一例として、高血圧患者における持続的な血圧の上昇は、血液-網膜障壁の破壊を誘発し、血液-網膜障壁の損傷で血管漏出によって網膜浮腫が発生するようになる。網膜黄斑は、時々白内障治療のための水晶体を除去した後の黄斑腫脹(macula tumentia)によって損傷する。
【0004】
網膜浮腫は、網膜自体内の非正常的な液体蓄積を示すものであって、網膜分離(剥離)は、基底の網膜色素上皮から網膜分離を起こす網膜下空間での非正常的な液体蓄積によって特徴づけられる。網膜分離(剥離)又は網膜の中心部の浮腫(角膜斑)は、視覚の著しい損失をもたらし、終局には非可逆性失明に至らせる(Yanoff及びDuker,Ophthalmology,Mosby,Philadelphia,(1999);Wilkinson等,Michel’s Retinal Detachment,2版,Mosby,St.Louis,(1997))。
【0005】
糖尿病性網膜症や湿性(滲出性)黄斑変性は、弱い微小血管から流出した血液又は滲出物が積もることによって視力障害が現れ、これまでは、レーザー治療を通じて血管漏出を防止する方法が最も効果的なものとして知られていた。
【0006】
眼内疾患に対する既存の治療法としては、浸湿的手術、局所レーザー治療、硝子体腔内薬物投与などの方法がある。局所的に硝子体腔内に直接投与する市販の各薬物は、通常、4週~6週ごとに反復的な投与が必要なものとして知られており、硝子体腔内への直接投与によって投薬の不便さと苦痛及び副作用を伴うという問題を有していた。
【0007】
前記背景技術として説明した各事項は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎなく、この技術分野で通常の知識を有する者に既に知られた従来技術に該当すると認めるものとして受け入れてはならない。
【0008】
そこで、本発明者等は、投薬の不便さを減少させ、長期投与が可能であり、眼球内血管漏出による眼疾患に優れた治療効能を示す薬剤を開発しようと研究する中で、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル化合物が眼球内血管漏出(vascular leakage)を効果的に抑制し、眼球内血管漏出誘発動物モデルにおいて優れた治療効果を示すことを確認することによって本発明を完成するに至った。
【0009】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は、眼疾患の予防、改善又は治療用組成物を提供することにある。
【0010】
〔課題を解決するための手段〕
前記目的を達成するために、本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む、眼疾患の予防又は治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
本発明の一実施例によると、前記眼疾患は、眼球内の血管新生、黄斑変性、黄斑症、黄斑浮腫、網膜変性、網膜浮腫、網膜症、黄斑腫脹及び緑内障から選ばれる1種以上の疾患であり得る。
【0012】
本発明の一実施例によると、前記薬学組成物は、眼局所投与用組成物であり得る。
【0013】
本発明の一実施例によると、前記眼局所投与用組成物は、点眼液、軟膏剤又は眼球用注射剤に剤形化され得る。
【0014】
本発明の一実施例によると、前記薬学組成物は、眼球内血管漏出を抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H、8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む、眼疾患の予防又は改善用健康機能食品を提供する。
【0016】
〔発明の効果〕
本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルは、眼球内血管漏出を著しく減少させるという効果を示すので、眼疾患の予防、改善又は治療用組成物として有用に使用され得る。
【0017】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、実施例の化合物(CGK012)及び比較例の化合物(デクルシン)をそれぞれヒト血管内皮細胞(HUVEC)及びヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に処理した後、前記各化合物がHUVECの細胞生存力(A)及びARPE-19の血管内皮成長因子(VEGF)レベル(B)に及ぼす影響を確認した結果である。
【0018】
図2(A)は、脈絡膜新生血管(CNV)誘発ウサギモデルにおいて、本発明の化合物(CGK012)の点眼による眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果を示し、図2(B)は、図2(A)で確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0019】
図3は、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、試験物質の投与を開始した後、時間の経過による試験群G1~G5の蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0020】
図4aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図4bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図4cは、図4bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0021】
図5aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図5bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図5cは、図5bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0022】
図6aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図6bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図6cは、図6bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0023】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明者等は、投薬の不便さは減少させ、長期投与が可能であり、眼球内血管漏出に優れた抑制効能を示す薬剤を開発しようと研究する中で、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルが眼球内、特に網膜内の血管漏出を効果的に抑制し、多様な眼疾患に治療効果を示すことを確認することによって本発明を完成するに至った。
【0025】
本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防、改善又は治療用組成物に関する。
【0026】
本発明における「血管漏出(vascular leakage)」という用語は、血管の完全性(integrity)損傷による体液又は血漿成分の漏出を意味するものであって、眼球(eye ball)内の血管漏出は、多様な眼疾患の主要病態を構成する。
【0027】
本発明における「眼球内血管漏出」という用語は、眼球を構成する多様な組織(脈絡膜、網膜、黄斑など)での血管漏出を意味するものであって、好ましくは網膜内血管漏出であり得る。
【0028】
本発明における眼疾患の予防、改善又は治療は、眼球内血管漏出抑制を通じて達成されるものであり得る。
【0029】
具体的には、本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防又は治療用薬学組成物を提供する。
【0030】
また、本発明は、(7S)-(+)-シクペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル又はその薬学的に許容可能な塩を、これを必要とする対象体(subject)に投与する段階を含む眼疾患の予防、改善又は治療方法を提供する。
【0031】
また、本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル又はその薬学的に許容可能な塩の治療用途(for use in therapy)を提供する。
【0032】
本発明の前記治療用途は、眼疾患の治療用途であり得る。
【0033】
ここで使用された「対象体(subject)」は、予防、改善、治療、観察又は実験の対象である哺乳動物を言い、好ましくは、眼疾患の予防、改善及び/又は治療を必要とするヒト又は哺乳動物であり得る。
【0034】
本発明の前記化合物は、当該技術分野で通常の方法によって薬学的に許容可能な塩で製造され得る。本発明における「薬学的に許容される」という用語は、生理学的に許容され、ヒトに投与されるとき、通常、胃腸障害、めまいなどのアレルギー反応又はこれと類似する反応を起こさないことを意味する。前記薬学的に許容可能な塩としては、薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、通常の方法、例えば、化合物を過量の酸水溶液に溶解し、この塩を水混和性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、アセトン又はアセトニトリルを用いて沈澱させて製造することができる。同モル量の化合物及び水中の酸又はアルコール(例:グリコールモノメチルエーテル)を加熱し、続いて、前記混合物を蒸発させて乾燥させたり、又は析出された塩を吸引・ろ過させることができる。
【0035】
前記薬剤学的に許容される塩には、無機酸又は有機酸との酸付加塩が含まれる。酸付加塩としては、薬剤学的に許容可能な遊離酸によって形成された酸付加塩が有用である。遊離酸としては、無機酸と有機酸を使用することができ、無機酸としては、塩酸、臭素酸、硫酸、リン酸などを使用することができ、有機酸としては、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、マレイン酸、安息香酸、グルコン酸、グリコール酸、コハク酸、4-モルホリンエタンスルホン酸、カンファースルホン酸、4-ニトロベンゼンスルホン酸、ヒドロキシ-O-スルホン酸、4-トルエンスルホン酸、ガラクツロン酸、エンボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などを使用することができる。
【0036】
このとき、遊離酸としては、有機酸と無機酸を使用することができ、無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸、酒石酸などを使用することができ、有機酸としては、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸(maleic acid)、コハク酸、シュウ酸、安息香酸、酒石酸、フマル酸、マンデル酸、プロピオン酸(propionic acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリコール酸(glycollic acid)、グルコン酸(gluconic acid)、ガラクツロン酸、グルタミン酸、グルタル酸(glutaric acid)、グルクロン酸(glucuronic acid)、アスパラギン酸、アスコルビン酸、カルボン酸、バニリン酸、ヨウ化水素酸などを使用することができる。また、塩基を用いて、本発明の化合物を薬学的に許容可能な金属塩で作ることができる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩は、例えば、化合物を過量のアルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物溶液中に溶解し、非溶解化合物塩をろ過した後、ろ液を蒸発・乾燥させて得る。このとき、金属塩としては、特に、ナトリウム、カリウム又はカルシウム塩を製造することが製薬上に適しており、また、これに対応する銀塩は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩を適当な銀塩(例:硝酸銀)と反応させて得ることができる。
【0037】
本明細書における「有効成分として含む」とは、本発明の化合物が眼疾患の予防、改善又は治療効能又は活性を達成するのに十分な量を含むことを意味する。
【0038】
本明細書における「予防」という用語は、前記眼疾患を抑制又は遅延させる全てのことを意味する。
【0039】
本明細書における「改善」という用語は、本発明の薬学組成物の投与で治療される状態と関連したパラメーター、例えば、症状の程度を少なくとも減少させることを意味する。
【0040】
本明細書における「治療」という用語は、別に言及されない限り、前記眼疾患の症状を逆転させたり、緩和させたり、その進行を抑制したり、又は予防することを意味する。
【0041】
本発明の一実施例では、in vivo脈絡膜新生血管(CNV)動物モデルに、本発明の化合物である(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを点眼する場合、血管漏出を効果的に抑制し、眼疾患に対する治療効能を示すことを確認した。また、点眼すること以外にも、他の投与経路(硝子体腔内への直接投与、経口投与、腹腔注射など)を通じてもターゲット組織(目)に分布し、投与経路とは関係なく治療効能を示すことを確認した。
【0042】
したがって、本発明の薬学組成物は、多様な眼疾患に対して予防又は治療効果を有する。本発明の薬学組成物を適用できる疾患は、当業界に網膜疾患、黄斑疾患、脈絡膜疾患などの眼疾患として公知となったものであればよく、特に制限されないが、例えば、眼球血管新生(ocular neovascularization)、黄斑変性(macular degeneration)、黄斑症(maculopathy)、黄斑浮腫(macular edema)、網膜変性(retianl degeneration)、網膜浮腫(retinal edema)、網膜症(retinopathy)、黄斑腫脹(macula tumentia)及び緑内障を含み、好ましくは、黄斑変性、黄斑浮腫、網膜変性、網膜浮腫、糖尿病性網膜症(DR)から選ばれる1種以上の疾患であってもよく、さらに好ましくは、網膜変性、網膜浮腫、黄斑変性及び糖尿病性網膜症(DR)から選ばれる1種以上の疾患であってもよい。また、前記黄斑変性は、加齢黄斑変性(AMD;Age-related macular degeneration)であり得る。
【0043】
本明細書における「黄斑変性」という用語は、黄斑が変性したり、機能的活性を失う任意の数の障害と症状を称する。前記変性又は機能的活性の損失は、例えば、細胞死滅、細胞増殖減少、正常な生物学的機能損失又はこれらの組み合わせの結果として起こり得る。黄斑変性は、細胞及び/又は黄斑の細胞外基質の構造的完全性変化、正常細胞及び/又は細胞外基質構成の変化及び/又は黄斑細胞の機能喪失につながったり/又はこれらとして発現され得る。前記細胞は、RPE細胞、光受容体及び/又は毛細管内皮細胞を含む黄斑内又は近傍に正常に存在する任意の細胞類型であり得る。加齢黄斑変性(AMD;Age-related macular degeneration)は、黄斑変性のうち最も多く見られるが、「黄斑変性」という用語は、老人でない患者の黄斑変性を必ず排除するものではない。黄斑変性の非制限的な例は、加齢黄斑変性(湿性又は乾性);Best黄斑ジストロフィー、Sorsby眼底ジストロフィー、Mallatia Leventinese、Doyne蜂巣状網膜ジストロフィー、Stargardt病(Stargardt黄斑ジストロフィー、青少年黄斑変性又は黄色斑眼底(fundus flavimaculatus)とも言う)及び色素上皮剥離関連黄斑変性を含む。
【0044】
本明細書における「加齢黄斑変性」(AMD)は、一般に老人に影響を及ぼし、網膜の中央部(すなわち、黄斑)損傷による中心視野喪失と関連した網膜症を意味する。AMDは、一般に、黄斑(主に、網膜色素上皮(RPE)とその下側にある脈絡膜との間)内のドルーゼン(アミロイドβなどの細胞外タンパク質及び脂質の蓄積)という黄色を帯びる不溶性細胞外沈着物の漸進的な蓄積又は凝集を特徴とする。黄斑内のこれらの沈着物の蓄積又は凝集は、黄斑を漸次悪化させ、中心視野損傷をもたらし得る。本明細書で使用する「黄斑」という用語は、中央の高解像度色覚を担当する網膜の中心部を意味する。
【0045】
酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害及び炎症過程を含むいくつかの理論が提案されたが、加齢黄斑変性の病因はよく知られていない。損傷した細胞成分の生成と分解との間の不均衡は、例えば、細胞内リポフスチンと細胞外ドルーゼンなどの有害産物の蓄積につながる。初期萎縮は、AMDの初期段階で地図状萎縮に先行する網膜色素上皮(RPE)薄層化又は脱色の領域によって区分される。AMDの進行段階におけるRPEの萎縮(地図状萎縮)及び/又は新しい血管の発達(血管新生)は、光受容体の死滅と中心視野喪失をもたらす。乾性(非滲出性)AMDにおいて、ドルーゼンという細胞破片が網膜と脈絡膜との間に蓄積され、網膜に萎縮と傷跡が生じる。さらに重症である湿性(滲出性)AMDでは、血管が網膜の後側の脈絡膜で成長し(血管新生)、滲出物と体液が漏れ、出血を誘発することもある。
【0046】
前記加齢黄斑変性は、乾性(dry(atrophic) macular degeneration)又は湿性(wet(neovascular or exudative) macular degeneration)に分けることができる。また、前記加齢黄斑変性は、初期(early AMD)、中期(intermediate AMD)、末期(late or advanced AMD(geographic atrophy))に分けることもできる。
【0047】
本明細書における「乾性AMD」(萎縮性加齢黄斑変性又は非滲出性AMDとも言う)という用語は、湿性(血管新生性)AMDでない全ての形態のAMDを称する。これは、初期及び中期形態のAMDのみならず、地図状萎縮として知られた進行期形態の乾性AMDを含む。乾性AMD患者は、さらに早い初期で最小症状を有する傾向があり、視覚機能喪失は、症状が地図状萎縮に進行される場合にさらに頻繁に発生する。
【0048】
本明細書における「湿性AMD」(血管新生性加齢黄斑変性又は滲出性AMDとも言う)という用語は、網膜血管新生の存在を特徴とする網膜症状を称するものであって、最も進行された形態のAMDである。湿性AMDにおいて、血管は、ブルッフ膜(Bruch’s membrane)の欠陥を通じて脈絡膜毛細血管、及び一部の場合は下部の網膜色素上皮(脈絡膜新生血管形成又は血管新生)から成長する。これらの血管から抜け出る漿液性又は出血性滲出物の組織化は、神経網膜の付随的変性、網膜色素上皮の剥離及び破裂、硝子体出血及び中心視野の永久損傷と共に、黄斑部位の線維血管の傷跡生成を起こし得る。
【0049】
本明細書における「網膜症」という用語は、網膜(すなわち、角膜と水晶体を通過する像を捕捉する目の後側の内側表面を覆っている組織)の疾患、炎症又は損傷を称する。前記網膜症は、糖尿病性網膜症、中心性網膜症、及び未熟児網膜症を含む。
【0050】
本発明における「糖尿病性網膜症」という用語は、非増殖性糖尿病性網膜症(non-proliferative diabetic retinopathy(NPDR))、増殖性糖尿病性網膜症(proliferative diabetic retinopathy(PDR))、糖尿病性黄斑症(diabetic maculopathy)、糖尿病性黄斑浮腫(diabetic macular edema)及び糖尿病性網膜浮腫(diabetic retinal edema)を含む。
【0051】
本明細書で使用する「黄斑症」という用語は、非常に敏感で且つ正確な視力と関連がある網膜の中心領域である黄斑の任意の病理学的症状を意味する。一部の様態において、「黄斑症」及び「網膜症」という用語は、互換して使用され得る(すなわち、黄斑の影響のみを受ける場合)。一部の様態において、前記黄斑症は、糖尿病性黄斑症である。
【0052】
「糖尿病性黄斑症」は、黄斑が糖尿病によってもたらされた網膜変化による影響を受けるときに発生する。前記用語は、2個の区別される眼疾患である糖尿病性黄斑浮腫と糖尿病性虚血性黄斑症を意味する。前記二つの類型の黄斑症は、時々併存症(comorbid)であって、すなわち、黄斑浮腫がある人は、時々虚血性黄斑症を有している。虚血性黄斑症は、黄斑浮腫と共に発生し、黄斑浮腫が軽症である場合にも発生し得る。一部の様態において、糖尿病性黄斑症と関連した網膜変化は、対象の網膜内で網膜電位の減少、血管周囲細胞の損失、無細胞性毛細血管形成、血管鬱血、血管機能障害、血管漏出、血管閉塞、組織腫脹(浮腫)、組織虚血又はこれらの任意の組み合わせを含む。
【0053】
本明細書における「眼球血管新生(ocular neovascularization)」という用語は、出血を誘発し、視力喪失を起こし得る目の互いに異なる部分での新しい非正常的な血管の成長を称する。本明細書における「脈絡膜血管新生」という用語は、脈絡膜(すなわち、結合組織を含み、網膜と鞏膜との間にある目の血管層)での新しい血管の非正常的な成長を称する。湿性AMDにおいて、新しい血管は、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜を通じて網膜に成長することができ、血液及び脂質漏出によって視覚機能に損傷を与え得る。本明細書における「網膜血管新生」という用語は、網膜の上部又は内部、例えば、網膜表面での血管の非正常的な発達、増殖及び/又は成長を称する。網膜血管新生は、網膜虚血及び/又は炎症疾患と関連した網膜症(例えば、糖尿病性網膜症、鎌状赤血球網膜症、Eales病、眼虚血症候群、頚動脈・海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula)、家族性滲出性硝子体網膜症、過粘度症候群、特発性閉塞性細動脈炎、放射線網膜症、網膜静脈閉塞、網膜動脈閉塞、網膜塞栓症、散弾状脈絡膜網膜症(birdshot retinochoroidopathy)、網膜血管炎、類肉腫症、トキソプラズマ症及びブドウ膜炎、脈絡膜黒色腫、慢性網膜剥離、前方虚血性視神経症(AION)、非動脈性前方虚血性視神経症(NAION)及び色素失調症(incontinentia pigmenti))などの多くの網膜症で発生し得る。
【0054】
本明細書における「視神経損傷」という用語は、視神経の正常な構造又は機能の変化を称する。視神経の正常な構造又は機能の変化は、緑内障を含む任意の疾患、障害又は損傷の結果であり得る。視神経の正常な機能の変化は、網膜から脳への視覚情報伝達能力のように、視神経の適切な機能能力の任意の変化を含む。機能変化は、例えば、視野喪失、中心視野損傷、非正常的な色覚などとして自体的に発現され得る。構造変化の例としては、網膜神経線維損失、視神経の非正常的なカッピング(cupping)及び/又は網膜の網膜神経節細胞層からの細胞損失が含まれる。本明細書で使用する「視神経損傷」は、対象の一つ又は二つの全ての視神経の視神経損傷を含むことができる。
【0055】
本発明に係る薬学的組成物は、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル又はその薬学的に許容可能な塩を単独で含有したり、又は一つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含有することができる。
【0056】
薬学的に許容される担体としては、例えば、経口投与用担体又は非経口投与用担体をさらに含むことができる。経口投与用担体は、ラクトース、澱粉、セルロース誘導体、マグネシウムステアレート、ステアリン酸などを含むことができる。また、非経口投与用担体は、水、適切なオイル、食塩水、水性グルコース及びグリコールなどを含むことができ、安定化剤及び保存剤をさらに含むことができる。適切な安定化剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸などの抗酸化剤がある。適切な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチル又はプロピルパラベン及びクロロブタノールがある。本発明の薬学的組成物は、前記各成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤などをさらに含むことができる。その他の薬学的に許容される担体としては、次の文献に記載されているものを参考にすることができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences,19th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PA,1995)。
【0057】
本発明の組成物は、ヒトを始めとした哺乳動物に如何なる方法でも投与することができ、例えば、経口又は非経口的に投与することができる。非経口的な投与方法は、これに限定されないが、静脈内投与、筋肉内投与、動脈内投与、骨髓内投与、硬膜内投与、眼球内注入、硝子体腔内注入、網膜下注入(subretinal injection)、脈絡膜上腔注入(suprachoroidal injection)、点眼投与(eye drop administration)、経皮投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、腸管投与、局所投与、舌下投与又は直腸内投与であってもよく、好ましくは、眼球内注入、硝子体腔内注入、網膜下注入、脈絡膜上腔注入又は点眼投与であってもよく、さらに好ましくは点眼投与であってもよい。
【0058】
本発明の薬学的組成物は、上述した投与経路によって経口投与用又は非経口投与用製剤に剤形化することができる。
【0059】
経口投与用製剤の場合、本発明の組成物は、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液などとして当業界に公知となった方法を用いて剤形化され得る。例えば、経口用製剤は、活性成分を固体賦形剤と配合した後、これを粉砕し、適切な補助剤を添加した後で顆粒混合物に加工することによって錠剤又は糖衣錠剤を収得することができる。適切な賦形剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール及びマルチトールなどを含む糖類と、トウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉及びジャガイモ澱粉などを含む澱粉類と、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを含むセルロース類と、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどの充填剤とが含まれ得る。また、場合によって、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はナトリウムアルギネートなどを崩壊剤として添加することができる。さらに、本発明の薬学的組成物は、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含むことができる。
【0060】
非経口投与用製剤の場合は、注射剤、点眼剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、オイル剤、ゲル剤、エアロゾル及び鼻腔吸入剤の形態で当業界に公知となった方法を用いて剤形化することができる。これらの剤形は、全ての製薬化学に一般的に公知となった処方書である文献(Remington’s Pharmaceutical Science,15th Edition,1975.Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania 18042,Chapter 87:Blaug,Seymour)に記載されている。
【0061】
好ましくは、本発明の前記薬学的組成物は、経口剤、注射剤、点眼剤及び軟膏剤で構成された群から選ばれるいずれか一つの形態に製造されるものであってもよく、さらに好ましくは、眼局所投与用組成物である眼球用注射剤、点眼剤及び軟膏剤から選ばれるいずれか一つであってもよく、さらに好ましくは点眼剤であってもよい。
【0062】
本発明の薬学組成物は(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル又はその薬学的に許容可能な塩を有効量で含むとき、好ましい眼疾患の予防、改善又は治療効果を提供することができる。本明細書において、「有効量」とは、陰性対照群に比べてそれ以上の反応を示す量を言い、好ましくは、眼疾患を改善又は治療するのに十分な量を言う。前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル又はその薬学的に許容可能な塩は、薬学組成物の総含量に対して0.01mg/ml乃至20mg/ml、好ましくは0.05mg/ml乃至15mg/ml、さらに好ましくは0.1mg/ml乃至10mg/ml、さらに好ましくは0.5mg/ml乃至5mg/ml、さらに好ましくは1mg/ml乃至2mg/ml、最も好ましくは1.5mg/mlの濃度で含まれ得る。このとき、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルの含量が前記下限値未満である場合は、細胞生存率には優れるが、眼疾患の改善又は治療効果が所望の程度に現れないこともある。その反対に、前記上限値を超える場合は、濃度が増加するほど眼疾患の改善又は治療効果が増加しないか、毒性があり得る。一方、インビトロ実験の結果、本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルの濃度が前記範囲である場合は、眼疾患の改善又は治療に対して有意な効果が現れながらも細胞毒性などの副作用が現れなかった。本発明の薬学組成物に含まれる(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルの有効量は、組成物が製品化される形態などによって変わり得る。
【0063】
本発明の薬学的組成物の総有効量は、単一投与量(single dose)で患者に投与されてもよく、多重投与量(multiple dose)で長期間投与される分割治療方法(fractionated treatment protocol)によって投与されてもよい。本発明の薬学組成物は、疾患の程度によって有効成分の含量を異ならせることができる。
【0064】
前記薬学的組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性などの各要因によって多様であり、通常、熟練した医者であれば、所望の治療又は予防に効果的な投与量を容易に決定及び処方することができる。好ましい具現例によると、前記薬学的組成物の好ましい1日投与量は、10μl/kg乃至200μl/kgであり得る。
【0065】
また、本発明は、(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含む眼疾患の予防又は改善用健康機能食品を提供する。
【0066】
本発明の前記化合物は、当該技術分野で通常の方法によって食品学的に許容可能な塩で製造され得る。
【0067】
また、本発明の「健康機能食品」は、人体に有用な機能性を有する原料や成分を用いて法的基準に従って製造(加工を含む)した食品(健康機能食品に関する法律第3条第1号)を言う。前記「健康機能食品」は、国家ごとに用語や範囲に差があり得るが、米国の「食餌補充剤(Dietary Supplement)」、ヨーロッパの「食品補充剤(Food Supplemnet)」、日本の「保健機能食品」又は「特定の保健用食品(Food for Special Health Use、FoSHU)」、中国の「保健食品」などに該当し得る。
【0068】
前記健康機能食品は、食品添加物をさらに含むことができ、食品添加物としての適合可否は、他の規定がない限り、「食品添加物公典」の総則及び一般試験法などによって該当の品目に関する規格及び基準に従う。
【0069】
また、前記健康機能食品には、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルと共に、「目の健康改善用健康機能食品」に使用される「機能性原料」として告示された原料又は個別的に認定された原料として、ルテイン、ゼアキサンチン抽出物、ビルベリー抽出物、マリーゴールド抽出物、クロマメノキ抽出物、シソ抽出物、ヘマトコッカス藻抽出物などの目の健康に役立つ健康機能食品素材を複合することによって眼疾患の予防又は改善用健康機能食品を製造することができる。
【0070】
前記健康機能食品は、本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを多様な食品素材に添加したり、カプセル化、粉末化、懸濁液などで製造した食品であって、これを摂取する場合に健康上の特定の効果をもたらすことを意味するが、一般薬品とは異なり、食品を原料とするので、薬品の長期服用時に発生し得る副作用などがないという長所を有する。このようにして得られる本発明の健康機能食品は、日常的に摂取可能であるので非常に有用である。このような健康機能食品における(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルの添加量は、対象である健康機能食品の種類によって異なるので一律的に規定できないが、食品本来の味を損傷させない範囲で添加すればよく、対象食品に対して、通常、0.01重量%乃至50重量%、好ましくは0.1重量%乃至10重量%の範囲である。また、丸剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態の健康機能食品の場合は、通常、0.1重量%乃至100重量%、好ましくは0.5重量%乃至50重量%の範囲で添加すればよい。一具体例において、本発明の健康機能食品は、粉末、顆粒、錠剤、カプセル又は飲料の形態であり得る。
【0071】
また、前記健康機能食品は、当業界に公知となった通常の方法によって多様な形態に製造することができる。一般食品は、これに限定されないが、飲料(アルコール性飲料を含む)、果実及びその加工食品(例:果物缶詰、瓶詰、ジャム、マーマレードなど)、魚類、肉類及びその加工食品(例:ハム、ソーセージ、コンビーフなど)、パン類及び麺類(例:うどん、そば、ラーメン、スパゲッティ、マカロニなど)、果汁、各種ドリンク、クッキー、飴、乳製品(例:バター、チーズなど)、食用植物油脂、マーガリン、植物性タンパク質、レトルト食品、冷凍食品、各種調味料(例:みそ、醤油、ソースなど)などに前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを添加して製造することができる。また、栄養補助剤は、これに限定されないが、カプセル、タブレット、丸などに前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを添加して製造することができる。また、健康機能食品は、これに限定されないが、例えば、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル自体をお茶、ジュース及びドリンクの形態に製造し、飲用(健康飲料)できるように液状化することができ、顆粒化、カプセル化及び粉末化して摂取することができる。また、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを食品添加剤の形態で使用するためには、粉末に製造したり、抽出後に濃縮液の形態に製造して使用することができる。
【0072】
本発明の眼疾患の予防又は改善用健康機能食品が健康飲料組成物として用いられる場合、前記健康飲料組成物は、通常の飲料のように、様々な香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。上述した天然炭水化物は、フドウ糖、果糖などのモノサカライド;マルトース、スクロースなどのジサカライド;デキストリン、シクロデキストリンなどのポリサカライド;キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールであり得る。甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物などの天然甘味剤;サッカリン、アスパルテームなどの合成甘味剤などを使用することができる。前記天然炭水化物の比率は、本発明の組成物100mL当たり、一般に約0.01g乃至0.04g、好ましくは約0.02g乃至0.03gである。
【0073】
本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルは、前記健康機能食品の有効成分として含有され得るが、その量は、眼疾患に対して予防、改善又は治療効果を達成するのに有効な量であり得る。具体的には、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルは、健康機能食品の総含量に対して0.01mg/ml乃至20mg/ml、好ましくは0.05mg/ml乃至15mg/ml、さらに好ましくは0.1mg/ml乃至10mg/ml、さらに好ましくは0.5mg/ml乃至5mg/ml、さらに好ましくは1mg/ml乃至2mg/ml、最も好ましくは1.5mg/mlの濃度で含まれ得る。このとき、前記(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルの含量が前記下限値未満である場合は、細胞生存率には優れるが、眼疾患の改善又は治療効果が所望の程度に現れないこともある。その反対に、前記上限値を超える場合は、濃度が増加するほど眼疾患の改善又は治療効果が増加しないか、毒性があり得る。
【0074】
以下、好ましい実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれによって制限されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0075】
〔実施例〕
(1)(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル((7S)-(+)-cyclopentyl carbamic acid、8,8-dimethyl-2-oxo-6,7-dihydro-2H,8H-pyrano[3,2-g]chromen-7-yl-ester)の製造
ラウンドフラスコに(+)-(3S)-3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-3,4-ジヒドロピラノ[3,2-g]クロメン-8-オン((3S)-3-hydroxy-2,2-dimethyl-3,4-dihydropyrano[3,2-g]chromen-8-one)(200mg、0.812mmol)を乾燥メチレンクロライド(Dry MC)20mlに溶解させた後、シクロペンチルイソシアネート(1.827mmol)、トリエチルアミン(TEA、204μl、1.462mmol)、4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP、59.5mg、0.487mmol)を入れ、40℃で24時間にわたって反応させた。反応溶液を減圧・濃縮して得た残渣をシリカゲルカラム分離を通じて精製し、所望の生成物である化合物(CGK012)を得た。
【0076】
収率:43.2%;
白色固相(white solid);
mp:158.5℃;
Rf=0.41(n-HX:EA=1:1);
【0077】
【数1】
【0078】
H NMR(400MHz、DMSO-d):7.920(d、J=9.6Hz、1H)、7.475(s、1H)、7.254(d、J=7.2Hz、1H)、6.759(s、1H)、6.253(d、J=9.6Hz、1H)、4.902(t、J=3.8Hz、1H)、3.827-3.734(m、1H)、3.182(dd、J=4.4、17.6Hz、1H)、2.810(dd、J=3.2、17.6Hz、1H)、1.768-1.701(m、2H)、1.591-1.511(m、3H)、1.484-1.390(m、3H)、1.334(s、3H)、1.279(s、3H);
IT-TOF/MS 380.1468[M+Na]+。
【0079】
(2)点眼液の製造
通常の点眼液の製造方法によって下記表1の組成で点眼液を製造した。
【0080】
【表1】
【0081】
比較例
実施例と同一に実施し、実施例(2)の表1において、実施例(1)の化合物(CGK012)の代わりにデクルシン(Decursin)を用いて点眼液を製造した。
【0082】
<材料及び実験方法>
(1)細胞培養
ARPE-19(RID:CVCL 0145)とL-Wnt3a(RID:CVCL 0635)細胞は、ATCC(American Type Culture Collection)で獲得し、10%のウシ胎児血清(fetal bovine serum、FBS)、120μg/mLのペニシリン、及び200μg/mLのストレプトマイシンが追加されたDMEM培地を用いて培養した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs、RID:CVCL 2959)は、CEFO(Cell Engineering for Origin)で購入し、専用培地(CEFOgro-HUVEC)を用いて培養した。Wnt3a-CM(Wnt3a-Conditioned Medium)は、活性を有するWnt-3aタンパク質を培地に分泌するL-Wnt3a細胞株を用いて作った。まず、4日間培養した後、培地を集めておき、新しい培地を入れ、3日後に再び培地のみを集める。これらの二つの培地を合わせた後、0.22μmのフィルターに通過させた後で使用した。全ての細胞は、37℃、5%CO条件の細胞培養器で培養された。
【0083】
(2)細胞生存力試験(cell viability)
HUVEC細胞は、透明底の黒色96ウェル(well)プレートに1ウェル当たり5,000個を接種し、一晩中培養した後、多様な濃度の試験物質(実施例(1)の化合物(CGK012)及び比較例(1)のデクルシン)を培地と共に処理した(1ウェル当たりの総体積:100μl)。48時間後に、製造社の指針に従ってCelltiter-Glo発光細胞生存率アッセイキット(Luminescent Cell Viability Assay Kit)(Promega、G7572)を用いて細胞生存力を測定した。それぞれCGK012及びデクルシンの処理が終了した後、プレートを常温で30分間安定化し、100μlのCelltiter-Glo試薬(reagent)(培地と同一の体積)を各ウェルに追加した。細胞溶解のために2分間オービタルシェーカー(orbital shaker)で混ぜ、10分間常温で安定化を誘導した後で発光(luminescence)を測定した。細胞の生存力は、測定された発光値からCGK012及びデクルシンの処理前の発光値を引いた後、CGK012及びデクルシンが処理されていない群を100%として計算された。
【0084】
(3)ウェスタンブロッティング
RIPAバッファーを用いて細胞全体のタンパク質を得た。1xタンパク質分解酵素(protease)阻害剤が含まれたRIPAバッファーを細胞に適正量で処理した後、氷で反応させながら10分に1回ずつボルテックス(vortexing)を行った。13,000rpm、4℃で10分間遠心分離を行って得られた上澄み液をブラッドフォードアッセイ(Bradford assay)を通じて定量した後、20μlのタンパク質を電気泳動を通じて分子量によって分離した後、PVDFメンブレンに転写(transfer)し、VEGF(sc-152、1:500)、β-アクチン(A1978、1:2000;Sigma)に対する抗体を用いてこれらのタンパク質レベルを確認した。
【0085】
(4)動物実験
1)動物入手
(株)ドリームバイオから約2.5kg~3.0kgのオスのチンチラウサギ50匹を入手した後、7日間の馴化期間にわたって健康状態を確認し、健康な動物を試験に使用した。
【0086】
2)CNV(choroidal neovascularization、脈絡膜新生血管)誘発
馴化期間が経過した後、健康な42匹を選別し、右側の眼球に散瞳剤(ミドリアシル1%点眼液)を点眼し、動物を麻酔した後、レーザー(Elite、Lumenis、USA)を532nm、パワー(power)150mW、期間(duration)0.1secの条件で照射し、視神経(optic nerve)を中心に約6時方向に6個のスポット(spot)を作った。
【0087】
3)試験物質の投与
実験動物をG1~G7の合計7グループに分けた後、前記レーザーを通じたCNV誘発当日に下記表2のような濃度と方法で試験物質の投与を開始した。下記表2において、陽性対照物質としては、アイリーア(Eylea、Aflibercept)を用いた。硝子体内投与(Intravitreal Injections)の場合、CNV誘発当日に動物が麻酔された状態で陽性対照物質(アイリーア)40μLを該当の動物の右側眼球に31ゲージ(gauge)注射針が装着された注射器を用いて硝子体内投与した。点眼投与(instillation)の場合、補助者が動物を飼育箱の外側に取り出して自然に補正した後、投与者は、ピペットを用いて各試験群に該当する試験物質200μLを右側眼球角膜の中央に点眼した。「a)」と表示された場合、4回に分けて点眼し、各回次ごとに5分間隔を置く方式で投与した。
【0088】
【表2】
【0089】
4)CNV測定眼底撮影
試験物質の投与を開始する前(0)、投与を開始してから7日、14日、28日、42日及び56日目に動物の右側眼球に散瞳剤(ミドリアシル1%点眼液)を点眼し、動物を麻酔した後、2%のフルオレセインナトリウム塩溶液(fluorescein sodium salt solution)約1mLを耳静脈を通じて注入した後、眼底カメラ(TRC-50IX、TOPCON、Japan)を用して約2分以内に撮影した。
【0090】
蛍光強度(fluorescein intensity)分析
網膜CNV確認及び薬効評価は、網膜蛍光眼底写真を用いて行った。イメージ分析では、ImageJソフトウェア(NIH、Bethesda、MD)を用いて照射部位の蛍光強度を分析した。
【0091】
5)統計学的分析
本試験の結果に対して資料の正規性を仮定し、パラメトリックな一元配置分散分析(One-way ANOVA)を用いて試験群間の有意性を検定し、有意性が認められた場合、ダネットの多重比較検定(Dunnett’s multiple comparison test)を用いて事後検定を実施した。統計学的分析は、Prism 7.04(GraphPad Software Inc.,San Diego,CA,USA)を用いて実施し、p値が0.05未満である場合、統計学的に有意なものとして判定した。
【0092】
試験例1:実施例の化合物(CGK012) 対 比較例の化合物(デクルシン)の効能比較
1-1:インビトロ試験
ヒト血管内皮細胞(HUVEC)及びヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に実施例の化合物(CGK012)及び比較例の化合物(デクルシン)をそれぞれ処理した後、前記各化合物がHUVECの細胞生存力(A)及びARPE-19のVEGFレベル(B)に及ぼす影響を確認した結果である(図1)。
【0093】
図1(A)を検討すると、本発明の実施例の化合物(CGK012)は、低濃度から濃度依存的にヒト血管内皮細胞(HUVEC)の細胞死滅を誘導し、特に高濃度でHUVECの生存を大きく阻害した一方で、比較例の化合物(デクルシン)は、高濃度でもHUVECの細胞死滅を大きく誘導できないことを確認することができる。
【0094】
また、図1(B)を検討すると、ヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)において、本発明の実施例の化合物(CGK012)は、濃度依存的にVEGFを著しく減少させる一方で、比較例の化合物(デクルシン)は、VEGFのレベルに有意な影響を示さなかった。
【0095】
このような結果は、本発明の化合物(CGK012)が、VEGFR-2を媒介するデクルシンと異なり、VEGFのレベルを調節して作用するメカニズムを有していることを示す。
【0096】
1-2:インビボ試験
レーザー照射を通じて脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization、CNV)が誘導されたウサギに、試験物質である実施例及び比較例の点眼液をそれぞれ7日間1日1回300μgだけ点眼・投与した。試験物質の投与を開始してから7日目に、前記試験物質が眼球内血管漏出に及ぼす影響を比較するために眼底カメラで撮影した後、網膜の蛍光強度レベルを分析し、その結果を図3及び図2に示した。図2(A)は、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、本発明の化合物の点眼による眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果を示し、図2(B)は、図2(A)で確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。下記表3は、対照群(G1)、試験群(G6)及び比較群(G7)の網膜蛍光眼底写真のイメージ分析を行い、照射部位の蛍光強度を数値化した後、相対的蛍光強度(% 対照群)で比較して示したものである。
【0097】
【表3】
【0098】
前記表3及び図2を検討すると、対照群に比べて試験群の網膜の蛍光強度が大きく低下した一方で、比較群は、対照群と類似するレベルを示すことを確認することができる。
【0099】
このような結果は、本発明の実施例の化合物(CGK012)が、経口投与又は硝子体内注射投与に比べて便利に投与可能でありながらも優れた眼球内血管漏出抑制活性を有していることを示す。
【0100】
試験例2:実施例の化合物(CGK012)の単独投与及び陽性対照群であるアイリーアとの併用投与の効能比較
2-1:陽性対照群であるアイリーアとの効能比較
レーザー照射を通じて脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization、CNV)が誘導されたウサギに、陽性対照群であるアイリーアの硝子体内投与、実施例の点眼液の点眼投与、又はアイリーア及び実施例の点眼液の併用投与を行った。具体的な試験群は、前記表2に示したように、(G1)誘発対照群(ビヒクル処理)、(G2)アイリーア(陽性対照群)、(G3)アイリーア+CGK012投与群(G2に比べてアイリーアの投与間隔の増加(3週→6週))、(G4)アイリーア+CGK012投与群(G2に比べてアイリーアの投与量の減少(1600μg/回→800μg/回)、(G5)CGK012単独投与群に区分し、試験物質を投与した。試験物質の投与を開始してから7日、14日、28日、42日、及び56日目に網膜の蛍光強度レベルを分析し、その結果を下記表4及び図3に示した。図3は、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、試験物質の投与を開始した後、時間の経過による試験群G1~G5の蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。下記表4は、試験物質の投与を開始した後、時間の経過による試験群G1~G5の蛍光強度を数値化した後、相対的蛍光強度(% 対照群)で比較して示したものである。
【0101】
【表4】
【0102】
前記表4において、*、**及び***は、G1群と比較してそれぞれp<0.05、p<0.01及びp<0.001で有意な差があることを意味する。
【0103】
前記表4及び図3を検討すると、試験群G2~G5は、それぞれ誘発対照群G1に対して血管生成が20%乃至30%減少する傾向を示すことを確認することができる。前記試験群G2~G5は、概ね類似する蛍光強度を示し、統計的に有意な差を示さなかった。参考までに、減少した網膜の蛍光強度は、CNV誘発後、新生血管の生成が減少したことを意味する。
【0104】
このような結果から、本発明の実施例に係る点眼液が、2週間の短期点眼投与のみならず、長期的な点眼投与にも網膜新生血管の減少効果を有意に示すことを確認することができる。
【0105】
2-2:G2(アイリーア) 対 G3(アイリーアの投与間隔2倍+CGK012)
陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の網膜の蛍光強度レベルを比較した(図4)。
【0106】
図4aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図4bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図4cは、図4bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0107】
前記図4b及び図4cを検討すると、アイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の網膜の蛍光強度レベルは、誘発対照群(G1)に比べて有意に低いことが観察され、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2;3週間隔投与)と統計的に有意な差を示さなかった。
【0108】
このような結果から、本発明の実施例の化合物(CGK012)が、アイリーアの投与間隔を2倍(3週→6週)に増加できることを確認することができる。
【0109】
2-3:G2(アイリーア) 対 G4(アイリーアの投与量1/2+CGK012)
陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の網膜の蛍光強度レベルを比較した(図5)。
【0110】
図5aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図5bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図5cは、図5bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0111】
前記図5b及び図5cを検討すると、アイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の網膜の蛍光強度レベルは、誘発対照群(G1)に比べて有意に低いことが観察され、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2;1600μg投与)と統計的に有意な差を示さなかった。
【0112】
このような結果から、本発明の実施例の化合物(CGK012)が、アイリーアの投与量を1/2(1600μg→800μg)に減少できることを確認することができる。
【0113】
2-4:G2(アイリーア) 対 G5(CGK012)
陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の網膜の蛍光強度レベルを比較した(図6)。
【0114】
図6aは、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図で、図6bは、脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果で、図6cは、図6bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
【0115】
前記図6b及び図6cを検討すると、実施例の化合物(CGK012)を単独で点眼投与した投与群(G5)の網膜の蛍光強度レベルは、誘発対照群(G1)に比べて有意に低いことが観察され、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)と統計的に有意な差を示さなかった。
【0116】
このような結果から、本発明の実施例の化合物(CGK012)の単独点眼投与を通じて脈絡膜新生血管の生成を抑制することができ、その効果が8週間有効に現れることを確認することができる。すなわち、本発明の実施例の化合物(CGK012)が、従来の硝子体内注射を通じて投与しなければならないアイリーアに取って代わるものになると期待される。
【0117】
結論的に、本試験条件下でレーザー照射で誘発されたチンチラウサギCNVモデルに、本発明の実施例の化合物(CGK012)を反復して点眼投与したとき、CGK012単独投与群、及びCGK012及びアイリーアの併用投与群の網膜の蛍光強度レベルは、CNV誘発対照群に比べて有意に低いレベルに維持され、これは、CGK012の投与が網膜新生血管の抑制を促進したと判断される。よって、レーザー照射で誘発されたチンチラウサギCNVモデルにおいて、CGK012の反復点眼投与は、脈絡膜新生血管の抑制を促進できると見なされる。
【0118】
試験例3:毒性実験
1)急性毒性
本発明の化合物を短期間に過量摂取したとき、急性的(24時間以内)に動物の体内に及ぼす毒性を調査し、致死率を決定するために本実験を行った。一般的なマウスであるICRマウス系統を対照群に5匹、各実験群に5匹ずつ割り当てた。対照群には何ら投与もしておらず、試験群は、実施例(1)の化合物を2.0g/kg(一般的な動物実験で使用される量の50倍程度)の濃度で経口投与した。投与してから24時間後に、それぞれの致死率を調査した結果、対照群と2.0g/kg濃度の化合物を投与した実験群は全て生存した。
【0119】
2)試験群及び対照群の臓器及び組織毒性
C57BL/6Jマウスを対象にして動物の各臓器(組織)に及ぼす影響を調査するために、実施例(1)の化合物を投与した実験群と溶媒のみを投与した対照群の各動物から8週後に血液を採取し、GPT(glutamate-pyruvate transferase)及びBUN(Blood Urea Nitrogen)の血液内濃度をSelect E(Vital Scientific NV、Netherland)機器を用いて測定した。その結果、肝毒性と関係があるものとして知られたGPTと腎臓毒性と関係があるものとして知られたBUNの場合、対照群と比較して、実験群は別段の差を示さなかった。また、各動物から肝と腎臓を採取し、通常の組織切片の製作過程を経て光学顕微鏡で組織学的観察を施行し、特異な異常が観察されなかった。
【0120】
以下、本発明に係る前記実施例の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを有効成分として含有する製品の製剤例を説明するが、本発明は、これを限定しようとするものではなく、具体的に説明しようとするものに過ぎない。
【0121】
<製剤例1>薬学的製剤の製造
製剤例1-1:錠剤の製造
本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル20gをラクトース175.9g、ジャガイモ澱粉180g及びコロイド性ケイ酸32gと混合した。この混合物に10%ゼラチン溶液を添加した後、粉砕して14メッシュ篩に通過させた。これを乾燥させ、これにジャガイモ澱粉160g、滑石50g及びステアリン酸マグネシウム5gを添加して得た混合物を錠剤として作った。
【0122】
製剤例1-2:注射液の製造
本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステル0.5gを蒸留水に溶解させ、100mlを作った。この溶液を瓶に入れ、20分乃至30分間加熱して滅菌させた。
【0123】
<製剤例2>健康機能食品の製造
製剤例2-1:乳製品の製造
本発明の(7S)-(+)-シクロペンチルカルバミン酸、8,8-ジメチル-2-オキソ-6,7-ジヒドロ-2H,8H-ピラノ[3,2-g]クロメン-7-イル-エステルを0.1重量%~1.0重量%として牛乳に添加し、前記牛乳を用いてバター及びアイスクリームなどの多様な乳製品を製造した。
【0124】
製剤例2-2:機能性飲料の製造
実施例(1)で得た化合物1,000mg
クエン酸1,000mg
オリゴ糖100g
梅濃縮液2g
タウリン1g
精製水を加えて全体900mL
通常の健康飲料の製造方法によって前記成分を混合した後、約1時間にわたって85℃で撹拌・加熱した後、作られた溶液をろ過し、滅菌された2Lの容器に取得して密封・滅菌し、冷蔵保管した後で本発明の機能性飲料組成物の製造に使用する。
【0125】
前記組成比は、比較的嗜好飲料に適切な成分を好ましい実施例で混合して組成したが、需要階層、需要国家、使用用途などの地域的及び民族的嗜好度によってその配合比を任意に変形して実施しても構わない。
【0126】
以上、本発明の好ましい実施例に対して説明したが、本発明は、これに限定されなく、本発明の技術思想範囲内で様々に変形して実施可能であり、これも添付の特許請求の範囲に属することは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1】実施例の化合物(CGK012)及び比較例の化合物(デクルシン)をそれぞれヒト血管内皮細胞(HUVEC)及びヒト網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に処理した後、前記各化合物がHUVECの細胞生存力(A)及びARPE-19の血管内皮成長因子(VEGF)レベル(B)に及ぼす影響を確認した結果である。
図2図2(A)は、脈絡膜新生血管(CNV)誘発ウサギモデルにおいて、本発明の化合物(CGK012)の点眼による眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果を示し、図2(B)は、図2(A)で確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
図3】脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、試験物質の投与を開始した後、時間の経過による試験群G1~G5の蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
図4a】陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図である。
図4b】脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与間隔を2倍に増加させ(3週→6週)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G3)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果である。
図4c図4bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
図5a】陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図である。
図5b】脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)、及びアイリーアの投与量を1/2に減少させ(1600μg→800μg)、実施例の化合物(CGK012)を併用投与した投与群(G4)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果である。
図5c図5bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
図6a】陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の網膜の蛍光強度を比較するための試験方法を簡単に示す模式図である。
図6b】脈絡膜新生血管(CNV)誘発マウスモデルにおいて、陽性対照群であるアイリーア投与群(G2)及び実施例の化合物(CGK012)投与群(G5)の眼球内血管漏出抑制効果を蛍光眼底血管撮影で確認した結果である。
図6c図6bで確認した蛍光強度を数値化し、対照群に対する相対的比率で比較して示したグラフである。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図6a
図6b
図6c