(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】冷延焼鈍炉内の隔壁、該隔壁を備えた冷延焼鈍炉、および、冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/00 20060101AFI20240904BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20240904BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20240904BHJP
F27B 9/34 20060101ALI20240904BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20240904BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20240904BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
F27D1/00 G
F27D1/12 F
F27D1/16 Z
F27B9/34
C21D9/56 101A
C21D1/26 G
C21D1/00 112F
(21)【出願番号】P 2020065460
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】522123566
【氏名又は名称】マフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】田口 昌邦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 光雄
(72)【発明者】
【氏名】矢野 晃啓
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】実開昭55-135046(JP,U)
【文献】特開平09-310984(JP,A)
【文献】特開2007-278590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00
F27D 1/12
F27D 1/16
F27B 9/34
C21D 9/56
C21D 1/26
C21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷延焼鈍炉内において炉幅方向に亘って設けられた隔壁であって、無機繊維ブランケットが積層されてなる無機繊維モジュールを炉頂方向に多段に備え、該無機繊維モジュールが、炉幅方向に延設された冷却機構を有するパイプに固定されて
おり、
前記炉頂方向に多段に重ねた無機繊維モジュールの間に、前記パイプを備え、
前記パイプに前記無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートが、パイプから水平方向に立設し、該無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートには孔が形成されており、前記無機繊維モジュールの上部には、該孔に挿入するスタッドが形成されており、
前記無機繊維モジュールの上部は、前記パイプに直に接触している、
冷延焼鈍炉内の隔壁。
【請求項2】
前記パイプに前記無機繊維モジュールの下部を固定するためのプレートが、パイプから炉頂方向に立設していることを特徴とする請求項
1に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁。
【請求項3】
前記無機繊維モジュールの下部には、前記無機繊維モジュールの下部を固定するための
プレートを挿入するスリットが形成されている、請求項2に記載の冷延焼鈍炉の隔壁。
【請求項4】
前記無機繊維モジュールの下部は、前記パイプに直に接触している、請求項2または3に記載の冷延焼鈍炉の隔壁。
【請求項5】
前記パイプがI字あるいはU字形状であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁。
【請求項6】
前記無機繊維モジュールを構成する無機繊維ブランケットが、前記冷延焼鈍炉の側壁に対して平行に積層されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁。
【請求項7】
前記無機繊維モジュールが炉幅方向に3~20%圧縮されていることを特徴とする、請求項6に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の隔壁を備えた、冷延焼鈍炉。
【請求項9】
冷延焼鈍炉における炉壁を形成する位置に、パイプを設置する第一工程、
前記パイプの下に無機繊維モジュールを設置する第二工程、
前記無機繊維モジュールの上部と前記パイプとを接続する第三工程、
前記パイプの上に次の段の無機繊維モジュールを設置する第四工程、
前記次の段の無機繊維モジュールの下部と前記パイプとを接続する第五工程、
前記次の段の無機繊維モジュールの上にさらにパイプを設置する第六工程、
前記次の段の無機繊維モジュールの上部と前記さらに設置したパイプとを接続する第七工程、
および、第四工程~第七工程を繰り返す工程を備
え、
前記パイプに前記無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートが、前記パイプから水平方向に立設し、該無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートには孔が形成されており、前記無機繊維モジュールの上部には、該孔に挿入するスタッドが形成されており、前記第三工程および前記第七工程において、前記スタッドを前記無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートの孔に挿入して接続し、
前記無機繊維モジュールの上部は、前記パイプに直に接触している、
冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法。
【請求項10】
前記第五工程において、前記次の段の無機繊維モジュールの下部と前記パイプとを、さらに、スタッドピンを用いて固定する、請求項9に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法。
【請求項11】
前記パイプに前記無機繊維モジュールの下部を固定するためのプレートが、前記パイプから炉頂方向に立設しており、前記無機繊維モジュールの下部には、該無機繊維モジュールの下部を固定するためのプレートを挿入するスリットが形成されており、前記第五工程において、前記無機繊維モジュールの下部を固定するためのプレートを前記スリットに挿入して接続し、
前記無機繊維モジュールの下部は、前記パイプに直に接触している、請求項9または10に記載の冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延焼鈍炉内の隔壁、該隔壁を備えた冷延焼鈍炉、および、冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延焼鈍炉は、温度帯によって、加熱帯、均熱帯、および、冷却帯等に分けられるが、冷延焼鈍炉を建設する際に、これら温度帯毎に建屋を分けると建設費用が高額になるため、1つの建屋の内部に隔壁を設けて、温度帯毎に冷延焼鈍炉内部の空間を分けることが多い。
隔壁には耐火レンガが使用されているが、該耐火レンガは炉の昇降温に耐えられず、比較的短期間で破損する。そのため、定期的に隔壁を修理しなければならず、さらに修理時に該耐火レンガ、またがその破片が落下し人に直撃すると、人命を左右する大事故に繋がるという問題があった。また、操業中、レンガくずが落下し、鋼板を傷つけるなど製造される鋼板の品質面でも問題点があった。
【0003】
また、類似技術として、加熱炉の温度帯を分けるためのセラミックファイバー製の仕切り壁がある(特許文献1、2)。特許文献1、2の技術によると、セラミックファイバーの固定を炉殻もしくは炉外で行うため、セラミックファイバーを固定する部材が熱変形を起こさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-145260
【文献】特開平9-310984
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2の技術は、圧延前のスラブを加熱する加熱炉に対する技術である。一方、冷延焼鈍炉は炉高(炉頂方向長さ)が大きく、該方法をそのまま冷延焼鈍炉の隔壁に適用することはできない。
【0006】
以上より、本発明は、無機繊維性の隔壁であって、炉高(炉頂方向長さ)の大きい冷延焼鈍炉に適用可能な隔壁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の事項を見出した。
・隔壁を形成するのに、無機繊維ブランケットを積層してなる無機繊維モジュールを使用することが、耐久性、施工性、耐熱性、安全性の点から好ましい。
・炉高(炉頂方向長さ)の大きい冷延焼鈍炉内に隔壁を形成するのに、上下方向に一体の無機繊維モジュールを使用するのは、モジュール自体が大きくなり、かつ高重量となるので、作業性(施工性)の点で問題がある。
・そのため、冷延焼鈍炉内において、炉頂方向に複数の無機繊維モジュールを多段に重ねて、隔壁を形成する必要がある。
・上記多段構造を採用した場合、無機繊維モジュールを固定する部材が冷延焼鈍炉の炉内に位置し、熱に曝されるので、該固定部材の熱変形を防ぐ機構を設ける必要がある。
・固定部材として、冷却機構を有するパイプが使用可能である。
【0008】
以上の事項を元に、本発明者は以下の発明を完成させた。
なお、本明細書において、
図1のX方向を炉幅方向といい、Y方向を鋼板流れ方向といい、Z方向を炉頂方向という。
【0009】
第1の本発明は、冷延焼鈍炉内において炉幅方向に亘って設けられた隔壁であって、無機繊維ブランケットが積層されてなる無機繊維モジュールを炉頂方向に多段に備え、該無機繊維モジュールが、炉幅方向に延設された冷却機構を有するパイプに固定されている、冷延焼鈍炉内の隔壁である。
【0010】
なお、全ての無機繊維モジュールは、パイプに固定されている必要はない。炉幅方向に複数設置された無機繊維モジュールは、その反発力により炉壁に固定することが可能である。よって、各段の無機繊維モジュールにおいて、炉幅方向に並んだ複数の無機繊維モジュールのうち少なくとも一つがパイプに固定されていればよく、また、該複数の無機繊維モジュールのうち、炉幅方向に一つ置きに(一つずつ間を飛ばして)、無機繊維モジュールがパイプに固定されていることが好ましく、さらには、すべての無機繊維モジュールがパイプに固定されていることがより好ましい。
【0011】
第1の本発明において、前記炉頂方向に多段に重ねた無機繊維モジュールの間に、前記パイプを備えることが好ましい。隔壁の上端または下端には、必ずしもパイプを配置する必要はない。該端部の無機繊維モジュールにパイプを配置しなくても、無機繊維ブランケットの反発力により十分に各モジュールを固定が可能だからである。
隔壁の上端または下端にパイプを設置して、無機繊維モジュールを固定した場合は、隔壁の端部をより強固に固定可能となるが、鋼板が通過する側の端部にパイプを設置する場合は、パイプが露出した側を断熱材により保護する必要がある。
また、鋼板が通過する側とは反対側にパイプを設置する場合は、炉壁(炉底または炉の天井)と接しており、炉壁によりパイプが断熱されるが、パイプと炉壁との間に隙間が開いている場合は、該隙間を断熱材(例えば、無機繊維ブランケット、下端の場合はレンガも使用可能。)により埋める必要がある。
【0012】
第1の本発明において、前記パイプに前記無機繊維モジュールの下部を固定するためのプレートが、パイプから炉頂方向に立設していることが好ましい。
【0013】
第1の本発明において、前記パイプに前記無機繊維モジュールの上部を固定するためのプレートが、パイプから水平方向に立設していることが好ましい。
【0014】
第1の本発明において、前記パイプがI字あるいはU字形状であることが好ましい。
【0015】
第1の本発明において、前記無機繊維モジュールを構成する無機繊維ブランケットが、前記冷延焼鈍炉の側壁に対して平行に積層されていることが好ましい。
【0016】
第1の本発明において、前記無機繊維モジュールが炉幅方向に3~20%圧縮されていることが好ましい。
【0017】
第2の本発明は、第1の本発明の隔壁を備えた、冷延焼鈍炉である。
【0018】
第3の本発明は、冷延焼鈍炉における隔壁を形成する位置に、パイプを設置する第一工程、前記パイプの下に無機繊維モジュールを設置する第二工程、前記無機繊維モジュールの上部と前記パイプとを接続する第三工程、前記パイプの上に次の段の無機繊維モジュールを設置する第四工程、前記次の段の無機繊維モジュールの下部と前記パイプとを接続する第五工程、前記次の段の無機繊維モジュールの上部にさらにパイプを設置する第六工程、前記次の段の無機繊維モジュールの上部と前記さらに設置したパイプとを接続する第七工程、および、第四工程~第七工程を繰り返す工程を備えた、冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法である。
【0019】
第3の本発明において、前記第五工程において、前記次の段の無機繊維モジュールの下部と前記パイプとを、さらに、スタッドピンを用いて固定することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の冷延焼鈍炉内の隔壁は、無機繊維モジュールから構成されるので、耐久性、施工性、耐熱性、および、安全性が高く、炉高(炉頂方向長さ)の大きい冷延焼鈍炉に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】冷延焼鈍炉200の模式図(斜視図)である。
【
図2】(a)は、本発明の隔壁100の斜視図である。(b)は無機繊維モジュール10の斜視図である。
【
図3】(a)~(c)は、無機繊維モジュール10の製造工程を示す模式図である。
【
図4】(a)は、本発明の隔壁100を構成する無機繊維モジュール10およびパイプ20の位置関係を示す模式図であり、(b)はパイプ20の拡大図である。
【
図5】(a)および(b)は、本発明の隔壁100の施工工程を示す模式図である。
【
図6】(a)および(b)は、本発明の隔壁100の施工工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態の一例としての冷延焼鈍炉内の隔壁、該隔壁を備えた冷延焼鈍炉、および、冷延焼鈍炉内の隔壁の施工方法について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
なお、数値範囲を示す「a~b」の記述は、特にことわらない限り「a以上b以下」を意味すると共に、「好ましくはaより大きい」及び「好ましくはbより小さい」の意を包含するものである。
また、本明細書における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0023】
<冷延焼鈍炉内の隔壁>
本発明の冷延焼鈍炉内の隔壁は、冷延焼鈍炉200内において炉幅方向(X方向)に亘って設けられた隔壁であって、無機繊維ブランケットが積層されてなる無機繊維モジュールを炉頂方向に多段に備え、該無機繊維モジュールが、炉幅方向(X方向)に延設された冷却機構を有するパイプに固定されている。
【0024】
冷延焼鈍炉内部において、隔壁100は、炉幅方向(X方向)に連続して形成されている。炉頂方向(Z方向)においては、上端または下端の一端には、鋼板が通過する隙間が形成されており、他端は、炉壁(炉底または炉の天井)まで連続して隔壁100が形成されている。
本発明の隔壁100は、加熱帯と均熱帯の間以外にも、均熱帯と冷却帯の間に形成してもよいし、冷延焼鈍炉内の複数個所に形成してもよい。本発明の隔壁100は、冷延焼鈍炉200の炉壁の両側面の間で、無機繊維ブランケットが炉幅方向に圧縮されることで、該無機繊維ブランケットの反発力により冷延焼鈍炉200内において固定される。よって、隔壁100は炉幅方向(X方向)に連続的に存在していることが好ましい。
【0025】
隔壁100の上端または下端には、鋼板が通過するための隙間が形成されている。隙間の位置は、上端、下端、または、これらの間であっても構わないが、隔壁100の形成し易さの点から、隔壁100の下端は炉底に連続して形成されており、上端に鋼板が通過する隙間を形成することが好ましい。
隔壁100の厚さ、つまり鋼板流れ方向(Y方向)の幅は、区分けする帯を断熱できる断熱性を奏しうる幅であればよいが、例えば、100mm~1000mmとすることが好ましく、150mm~700mmとすることがより好ましく、200~500mmとすることがさらに好ましい。
【0026】
隔壁100の高さ、つまり、炉頂方向(Z方向)の長さは、冷延焼鈍炉200の高さに依存するが、好ましくは10~30mである。また、隔壁100の幅、つまり、炉幅方向(X方向)の長さは、冷延焼鈍炉200の幅に依存するが、好ましくは、1.5m~5.5mである。
【0027】
図2(a)に、本発明の隔壁100の模式図(斜視図)を示す。
図2(a)では、隔壁100の一部を示しており、パイプ20が見易いように、一部の無機繊維モジュール10を省略している。また、複数の無機繊維モジュール10の内、
図2(a)中の上段左側の無機繊維モジュールのみ符号を付し、他は省略している。また、
図2(b)に、本発明の隔壁100を構成する、無機繊維モジュール10の模式図(斜視図)を示す。
【0028】
(無機繊維モジュール10)
本発明の隔壁100を構成する無機繊維モジュール10は、積層された無機繊維ブランケットを備えている。
【0029】
・無機繊維ブランケット
無機繊維ブランケットを形成する無機繊維は、特に制限されないが、例えば、シリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア及びカルシアの単独、または複合繊維が挙げられる。中でも、特に好ましいのは、耐熱性、繊維強度(靱性)、安全性の点で、アルミナ/シリカ系繊維、特に多結晶質アルミナ/シリカ系繊維である。特に、アルミナ比が70~80質量%でシリカ比が30~20質量%のアルミナ/シリカ繊維が好ましい。
【0030】
無機繊維ブランケットとしては、実質的に繊維径3μm以下を含まない無機繊維ブランケット(ショットレス無機繊維ブランケット)であることが好ましい。ショットレスであることにより、鋼板製造時にショットが鋼板を傷つけるのを防止することができる。また、無機繊維ブランケットは、ニードリング処理が施されたニードルブランケットであることが好ましい。このようなニードルブランケットを用いることにより、耐熱性や耐久性を高めることができる。
無機繊維ブランケットの嵩密度は特に限定されないが、形成される無機繊維モジュール10の耐熱性および強度の点から、85kg/m3~170kg/m3が好ましく、100kg/m3~140kg/m3がさらに好ましい。
【0031】
無機繊維ブランケットの厚み(圧縮前)は適宜選択されるが、施工性や強度の点から8~30mmが好ましく、10~15mmがより好ましい。厚みが薄くなりすぎると、施工に手間がかかり、厚みが厚すぎると折りたたんだ時に、構造体を維持しづらいという問題点がある。
無機繊維ブランケットのサイズは、無機繊維モジュール10を形成できる限り特に限定されない。無機繊維モジュール10の大きさ、または、無機繊維ブランケットの積層形態に応じて、適宜好適な大きさに切り出したものを使用できる。
【0032】
・無機繊維ブランケットの積層方法(無機繊維モジュール10の製造方法)
無機繊維モジュール10における無機繊維ブランケットの積層方法は、所望の大きさの無機繊維モジュール10を形成できるのであれば、特に限定されない。
図3に無機繊維モジュール10の製造方法の一例を示す。まず、所定の大きさの無機繊維ブランケット(300mm×3000m)を、二枚重ね、重ねた無機繊維ブランケットの長手方向中央部で半分に折る(
図3(a))。無機繊維ブランケットを折る際に、折り目の内側に固定ロッド14を挿入し、固定ロッド14の刃が折り畳んだブランケットの内側から外側に突き抜けるように、固定ロッド14を設置する。形成したものを複数個積み重ねる(
図3(b)では、7個積み重ねている。)。積層方向に圧縮して、バンド16で固定し、固定ロッド14の刃にスタッド17を備えたモジュール固定金具18を接続させる(
図3(c))。
【0033】
固定ロッド14、スタッド17、および、モジュール固定金具18、ナットの材質は、炉内で使用した際に耐熱性を発揮できれば特に限定されないが、例えば、SUS310S、SUS304等の耐熱ステンレスを挙げることができる。バンド16は、無機繊維モジュールを圧縮し固定するために使用されるが、その材質は、この機能を奏することができれば特に限定されないが、例えば、PPバンド、PEバンド、鉄帯等を使用することができる。積層した無機繊維ブランケットの圧縮は、例えば、圧縮梱包機を使用して行うことができる。
【0034】
無機繊維ブランケットの積層方法としては、製造のし易さ、強度、および耐熱性の点から、
図3に示した積層方法が好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、単層の無機繊維ブランケットを折り曲げずに複数枚重ねて(
図3と同様の大きさものものを作成する場合は、28枚重ねる。)、横櫛および固定部材によりスタッドを設置して、無機繊維モジュール10を形成してもよい。また、長尺の無機繊維ブランケットを九十九折りして、固定ロッドとモジュール固定金具を使用して、無機繊維モジュール10を形成してもよい。
無機繊維モジュール10の嵩密度に関して特に制限はないが、96kg/m
3~180kg/m
3が好ましく、110kg/m
3~155kg/m
3が好ましい。
【0035】
無機繊維モジュール10の設置する姿勢(
図2(b)の姿勢)における上部には、スタッド17が設置されることが好ましい。スタッド17はモジュール固定金具18に直接溶接もしくはモジュール固定金具18の孔にボルトを刺し込みナットで固定するなどして固定することが好ましい。このスタッド17を介して、後に説明するパイプ20に無機繊維モジュール10の上部が固定される。また、無機繊維モジュール10の設置する姿勢(
図2(b)の姿勢)における下部には、スリット19が形成されることが好ましい。このスリット19を介して、後に説明するパイプ20に無機繊維モジュール10の下部が固定される。スリット19の形成方法は、X1方向に貫く溝を無機繊維モジュール10下部に形成できれば、特に限定されないが、例えば、カッター等の刃物により形成できる。
【0036】
無機繊維モジュール10は、アルミナロープなどで縫製して、圧縮したり、構造を保持したりすることができる。また、無機繊維ブランケットを積層して圧縮する際に、圧縮面の両側をべニア板や金属板等の抑え板で抑えて圧縮し、バンド16で固定することもできる。ただし、本願発明においては、以下に示すように、従来の無機繊維モジュールに比べると、無機繊維モジュールの炉頂方向(Z1方向)が長い。よって、施工位置に無機繊維モジュール10を設置して圧縮を開放した後に、該抑え板を除去する際の摩擦力が大きい。よって、抑え板としては除去し易いように摩擦係数の小さい素材を使用したものが好ましい。なお、無機繊維モジュール10は、所定の位置に設置後に、バンド16を切断し、圧縮を開放して、無機繊維モジュール10同士を炉幅方向に密着させて、冷延焼鈍炉内に固定することができる。
【0037】
・無機繊維モジュール10のサイズ
無機繊維モジュール10は、炉頂方向(Z方向)に長い冷延焼鈍炉200の隔壁100を形成する観点から、炉頂方向(Z1方向)に長尺のモジュールとすることが好ましい。無機繊維モジュールの炉頂方向(Z1方向)の長さは、好ましくは500~2000mm、より好ましくは700~1800mmであり、モジュールの炉幅方向(X1方向)の長さは、好ましくは150~700mm、より好ましくは200~500mmであり、モジュールの鋼板流れ方向(Y1方向)の長さは、好ましくは150~700mm、より好ましくは200~500mmである。
【0038】
(パイプ20)
本発明の隔壁100において、それぞれの無機繊維モジュール10は、炉幅方向(X方向)に延設された冷却機構を有するパイプ20に固定されている。本発明の隔壁100では、炉頂方向に無機繊維モジュール10が多段に積層されており、上下の無機繊維モジュール10間で、無機繊維モジュール10同士をパイプ20により接続することでモジュール間の隙間を無くし密閉性を向上させることができる。
【0039】
パイプ20は、炉幅方向(X方向)に延設されており、両端部が炉壁の側面に固定されている。つまり、冷延焼鈍炉内における隔壁100が形成される位置において、一方の炉壁の側面から、他方の炉壁の側面を渡すように、略水平にパイプ20が設置される。ここで、略水平とは、厳密な意味での水平を意味しない。無機繊維モジュール10を固定することができるのであれば、パイプ20の一方の端部および他方の端部の炉頂方向位置が異なっていてもよい。
【0040】
パイプ20にはパイプ20の熱変形や無機繊維モジュール10を固定するための各種プレート、スタッド等の熱変形を防ぐための冷却機構が備わっている。冷却機構は、冷却媒体をパイプ20内部に流通させる方式を採用できる。冷却媒体としては、パイプ20を所望の温度に冷却できれば特に限定されないが、コストの点から空気または水、蒸気が好ましい。パイプの形状としては、一方から他方へ冷却媒体を流通させるI字状であってもよいし、一方から導入した冷却媒体が他方で折り返して戻って排出されるU字状であってよい。また、パイプ20は、直線状であることが好ましいが、無機繊維モジュール10同士を接続する機能を果たすのであれば、一部または全部に亘って湾曲していてもよく、また、段差があっても構わない。パイプ20の材質は、SUS310S、SUS304等の耐熱ステンレスを使用することができる。
【0041】
パイプ20は、炉頂方向(Z方向)に多段に積層された無機繊維モジュール10間を接続すべく、無機繊維モジュール10の間にある必要がある。よって、パイプ20は、無機繊維モジュール10の上部と固定する部材、および、無機繊維モジュール10の下部と固定する部材を備えている。
図4(a)にパイプ20に無機繊維モジュール10を設置する様子を示し、
図4(b)にパイプ20の拡大図(パイプ20の端部を拡大し、一部を省略している。)を示した。
図4(a)および(b)に示すように、パイプ20が備える無機繊維モジュール10の下部と固定する部材としては、パイプ20から炉頂方向に立設しているプレート22(下部固定プレート22)を挙げることができる。該下部固定プレート22を、無機繊維モジュール10に設けたスリット19に差し込むことにより無機繊維モジュール10が鋼板流れ方向(Y方向)にずれるのを防止し、その位置を固定することができる。また、下部固定プレート22には、孔を有していることが好ましい。スタッドピン32を無機繊維モジュール10を貫通させて該孔に差し込むことにより、さらに無機繊維モジュール10の炉幅方向(X方向)の位置を固定することができる。スタッドピン32としては、セラミックスピン、あるいは、SUS310S、SUS304等の耐熱ステンレス製のものを使用することができる。
【0042】
また、
図4(b)に示すように、パイプ20が備える無機繊維モジュール10の上部を固定する部材としては、パイプ20から水平方向に立設しているプレート24(上部固定プレート24)を挙げることができる。
図4(b)では、U字状のパイプ20の間にパイプ20を渡すようにプレート24形成されており、無機繊維モジュール10の上部に形成したスタッド17を挿入する孔が形成されている。該孔にスタッド17を挿入し、ナット締め等することにより、無機繊維モジュール10の上部をパイプ20に固定することができる。
【0043】
パイプ20は、上記したように、炉頂方向(Z方向)に多段に積層された無機繊維モジュールの間に設置して、無機繊維モジュール10同士を接続するが、それ以外に、隔壁100の上端および/または下端をより強固に固定すべく、隔壁100の上端および/または下端にパイプ20を設置しても構わない。
【0044】
<隔壁100を備えた冷延焼鈍炉200>
本発明の冷延焼鈍炉200は、上記した隔壁100を冷延焼鈍炉内の所定の位置に備えている。隔壁100は、冷延焼鈍炉200の炉壁の両側壁の間に亘って形成されている。隔壁100を形成する無機繊維モジュール10は、該両側壁の間において、3~20%圧縮されていることが好ましく、5~15%圧縮されていることがより好ましい。
【0045】
無機繊維モジュール10を構成する無機繊維ブランケットは、冷延焼鈍炉200の側壁に対して平行に積層されていることが好ましい。これにより、冷延焼鈍炉200の側壁の間で、無機繊維モジュール10を圧縮して、無機繊維モジュール10を冷延焼鈍炉内に強固に固定することが可能となり、さらに、隔壁100の断熱性を向上させることができる。
また、無機繊維ブラケットは、冷延焼鈍炉200の側壁に対して垂直に積層することも可能である。このような積層形態であっても、隔壁100は形成することができるが、この場合無機繊維モジュール10を炉の側壁の間で圧縮することができないので、冷延焼鈍炉内に隔壁100を強度に固定することができず、また、隔壁100の耐熱性を向上させることもできない。
【0046】
<冷延焼鈍炉の隔壁100の施工方法>
本発明の冷延焼鈍炉の隔壁100の施工方法は、冷延焼鈍炉における炉壁を形成する位置に、パイプを設置する第一工程、前記パイプの下に無機繊維モジュールを設置する第二工程、前記無機繊維モジュールの上部と前記パイプとを接続する第三工程、前記パイプの上に次の段の無機繊維モジュールを設置する第四工程、前記次の段の無機繊維モジュールの下部と前記パイプとを接続する第五工程、前記次の段の無機繊維モジュールの上部にさらにパイプを設置する第六工程、前記次の段の無機繊維モジュールの上部と前記さらに設置したパイプとを接続する第七工程、および、第四工程~第七工程を繰り返す工程を備える。
【0047】
(第一工程)
図5および
図6に本発明の冷延焼鈍炉の隔壁100の施工方法の各工程を示す模式図を示す。
図5、
図6に示す図では、隔壁100の下端が冷延焼鈍炉の炉壁(炉底)と連続しており、上端に鋼板が通る隙間がある形態の施工方法を示している。また、隔壁100の下端にはパイプ20を設置せず、隔壁100の上端にはパイプ20を設置している。
第一工程では、パイプ20(パイプ20が複数ある場合は、最も炉底側に設置されるパイプ)を設置する。冷延焼鈍炉200内部の隔壁100を施工する位置の炉壁の両側面には、パイプ20を導入するためのガイドとなる溝が、炉頂方向に形成されている。該溝の形成方法は、特に限定されないが、例えば、該溝以外の炉壁を冷延焼鈍炉の鉄皮に断熱材を内貼りして形成し、該溝部分には断熱材を内貼りしないことで形成することができる。
【0048】
(第二工程、第三工程)
第二工程では、第一工程にて設置したパイプ20の下に無機繊維モジュール10を設置する。無機繊維モジュール10は、X1方向に圧縮したものをX方向に複数個並べて設置する。そして、第三工程にて、無機繊維モジュール10の上部とパイプ20とを接続する。この接続は、パイプ20から水平方向に立設した上部固定プレート24に設けた孔に、無機繊維モジュール10の上部に設けたスタッド17を挿入し、ナットなどで固定することにより、行われる。スタッド17が孔に入りやすいように、スタッド17にガイドパイプを取り付けると作業効率が高まりより好ましい。これにより、無機繊維モジュール10の上部の固定が行われる。X1方向に圧縮された無機繊維モジュール10の圧縮は、バンド16を除去することで、適宜解除され、ブランケットの反発力により、モジュール10が炉壁の間で固定される。
上記により、最下段の無機繊維モジュール10が設置されるが、該最下段の無機繊維モジュール10と炉底との間に、隙間がある場合は、該隙間を埋めるべく、無機繊維ブラケットまたは耐熱レンガを設置する。
【0049】
(第四工程、第五工程)
図5(b)に示すように、第四工程では、パイプ20の上に次の段の無機繊維モジュール10を設置する。無機繊維モジュール10は、X1方向に圧縮したものをX方向に複数個並べて設置する。そして、第五工程にて、無機繊維モジュール10の下部とパイプ20とを接続する。この接続は、パイプ20から炉頂方向に立設した下部固定プレート22を無機繊維モジュール10のスリット19に挿入することにより行われる。これにより、無機繊維モジュール10の鋼板流れ方向(Y方向)の振れが防止できる。また、さらに、無機繊維モジュール10を貫通させて、スタッドピン32を差し込み、該ピン32を下部固定プレート22に設けた孔に挿入しつつ、反対側でナット等で留めることにより、無機繊維モジュール10の炉幅方向の振れをも防止することができる。スタッドピン32としては、例えば、
図6(a)に示した、ピン32の両端部にワッシャーを備えたものを採用することが可能である。また、炉幅方向に並んだ複数のスタッドピン32が貫通する共通の帯状の断熱材をさらに備えることにより、無機繊維モジュール10の固定がより強度となる。スタッドピン32は、各無機繊維モジュール10に対し、一つずつ設置することが好ましい。
【0050】
(第六工程、第七工程)
図6(a)に示すように、第六工程では、設置した前記次の段の無機繊維モジュール10の上にさらに別のパイプ20が設置される。そして、第七工程にて、前記次の段の無機繊維モジュール10の上部と別のパイプ20とが接続される。この接続は、上記第三工程における接続と同様である。
【0051】
(第四工程~第七工程を繰り返す工程)
上記第七工程の後、さらに、第四工程~第七工程を1または複数回繰り返すことにより、炉頂方向(Z方向)に長尺の隔壁100を形成することができる。繰り返す回数は特に制限されないが、例えば、炉高20mの冷延焼鈍炉において、高さ(Z1方向の長さ)1.8mの無機繊維モジュール10を使用して隔壁100を形成する場合、最初の第一~第七工程の後、19回に亘って第四~第七工程を繰り返すことにより、およそ18mの隔壁100を形成することが可能となる。
【0052】
なお、
図6(b)に示すように、隔壁100の上端(鋼板が通過する側の端部)には、パイプ20の上部を断熱すべく、小型の断熱材50を設置することが好ましい。また、上記したパイプを導入するガイドとなる炉壁側面の溝には、パイプ20とパイプ20との間に、断熱材60を設置して、該溝を埋めて、隙間なく断熱することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の冷延焼鈍炉内の隔壁は、冷延焼鈍炉の建屋を温度帯毎に分けなくても、内部を温度帯毎に分割することが可能であり、炉高(炉頂方向長さ)の大きい冷延焼鈍炉に適用可能な隔壁である。
【符号の説明】
【0054】
200:冷延焼鈍炉
210:鋼板
100:炉壁
10:無機繊維モジュール
12:無機繊維ブランケット
14:固定ロッド
16:バンド
17:スタッド
18:モジュール固定金具
19:スリット
20:パイプ
22:下部固定プレート
24:上部固定プレート
32:スタッドピン
50、60:断熱材