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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】半導体基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20240904BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B33/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020065514
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021160999
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 信也
(72)【発明者】
【氏名】横尾 昌法
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-024840(JP,A)
【文献】特開2002-052448(JP,A)
【文献】特開2016-013930(JP,A)
【文献】特開2015-163566(JP,A)
【文献】特開2008-042213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/16
C30B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面取り加工部を外周部に有する、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板であって、
前記面取り加工部が、前記半導体基板の第1の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第1の傾斜面と、前記半導体基板の前記第1の主面の反対側の第2の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第2の傾斜面と、前記面取り加工部の先端に位置する、前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面の間の端面と、を有し、
前記端面の前記半導体基板の厚さ方向の幅が、前記半導体基板の厚さの55%以上、90%以下の範囲内にあ
前記端面が、外側に膨らむように前記半導体基板の厚さ方向に沿って曲がっており、
前記半導体基板の垂直断面における前記端面の曲率半径が340μm以上である、
半導体基板。
【請求項2】
前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の、前記半導体基板の面内方向の幅が、0.025mm以上、0.9mm以下の範囲内にある、
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が、(001)又は(100)である、
請求項1又は2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が(001)であり、
<010>方向に沿ったオリエンテーションフラットを有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体基板。
【請求項5】
酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板の製造方法であって、
前記半導体基板の外周部に面取り加工を施して面取り加工部を形成する工程と、
前記面取り加工部を形成する工程の後の、前記半導体基板の第1の主面及び前記第1の主面の反対側の第2の主面に研磨加工を施す工程と、
を含み、
前記面取り加工部が、前記第1の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第1の傾斜面と、前記第2の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第2の傾斜面と、前記面取り加工部の先端に位置する、前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面の間の端面と、を有し、
前記研磨加工後の前記端面の前記半導体基板の厚さ方向の幅が、前記研磨加工後の前記半導体基板の厚さの55%以上、90%以下の範囲内にあ
前記研磨加工後の前記端面が、外側に膨らむように前記半導体基板の厚さ方向に沿って曲がっており、
前記研磨加工後の前記半導体基板の垂直断面における前記端面の曲率半径が340μm以上である、
半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記面取り加工部を形成する工程において、前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面を形成した後に前記端面を形成する、
請求項5に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記面取り加工部を形成する工程において、前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の形成に用いる砥石よりも軟らかい砥石を用いて前記端面を形成する、
請求項5又は6に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記面取り加工部を形成する工程において、レジンボンド砥石を用いて前記端面を形成する、
請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項9】
前記研磨加工後の前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の、前記半導体基板の面内方向の幅が、0.025mm以上、0.9mm以下の範囲内にある、
請求項5~8のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が、(001)又は(100)である、
請求項5~9のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外周部に面取り加工が施されたガラス板が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載のガラス板は、fan out型のウエハレベルパッケージにおける加工基板の支持板として用いられるものである。
【0003】
特許文献1によれば、ガラス板のノッチ形状やオリエンテーションフラット形状を有する位置合わせ部に面取り加工が施されていることにより、位置決めピン等の位置決め部材を当接させる際の、位置決め部を起点とするガラス板の破損を有効に回避できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/088868号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス板や半導体基板を含む板状物の破損のしやすさは、結晶の劈開面などの材料の特性によって異なるため、破損を効果的に抑制することのできる面取り加工部の形状も板状物の材料によって異なる。このため、特許文献1に記載されたガラス板の面取り加工部の形状を他の材料からなる板状物に適用しても、破損を効果的に抑制することができるとは言えない。
【0006】
本発明の目的は、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板であって、面取り加工により破損の発生が効果的に抑制された半導体基板、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[4]の半導体基板、及び[5]~[10]の半導体基板の製造方法を提供する。
【0008】
[1]面取り加工部を外周部に有する、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板であって、前記面取り加工部が、前記半導体基板の第1の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第1の傾斜面と、前記半導体基板の前記第1の主面の反対側の第2の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第2の傾斜面と、前記面取り加工部の先端に位置する、前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面の間の端面と、を有し、前記端面の前記半導体基板の厚さ方向の幅が、前記半導体基板の厚さの55%以上、90%以下の範囲内にあ前記端面が、外側に膨らむように前記半導体基板の厚さ方向に沿って曲がっており、前記半導体基板の垂直断面における前記端面の曲率半径が340μm以上である、半導体基板。
[2]前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の、前記半導体基板の面内方向の幅が、0.025mm以上、0.9mm以下の範囲内にある、上記[1]に記載の半導体基板。
[3]前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が、(001)又は(100)である、上記[1]又は[2]に記載の半導体基板。
[4]前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が(001)であり、<010>方向に沿ったオリエンテーションフラットを有する、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の半導体基板。
[5]酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板の製造方法であって、前記半導体基板の外周部に面取り加工を施して面取り加工部を形成する工程と、前記面取り加工部を形成する工程の後の、前記半導体基板の第1の主面及び前記第1の主面の反対側の第2の主面に研磨加工を施す工程と、を含み、前記面取り加工部が、前記第1の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第1の傾斜面と、前記第2の主面の外側に位置し、前記半導体基板の垂直断面において縁が直線となる第2の傾斜面と、前記面取り加工部の先端に位置する、前記第1の傾斜面と前記第2の傾斜面の間の端面と、を有し、前記研磨加工後の前記端面の前記半導体基板の厚さ方向の幅が、前記研磨加工後の前記半導体基板の厚さの55%以上、90%以下の範囲内にあ前記研磨加工後の前記端面が、外側に膨らむように前記半導体基板の厚さ方向に沿って曲がっており、前記研磨加工後の前記半導体基板の垂直断面における前記端面の曲率半径が340μm以上である、半導体基板の製造方法。
[6]前記面取り加工部を形成する工程において、前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面を形成した後に前記端面を形成する、上記[5]に記載の半導体基板の製造方法。
[7]前記面取り加工部を形成する工程において、前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の形成に用いる砥石よりも軟らかい砥石を用いて前記端面を形成する、上記[5]又は[6]に記載の半導体基板の製造方法。
[8]前記面取り加工部を形成する工程において、レジンボンド砥石を用いて前記端面を形成する、上記[7]に記載の半導体基板の製造方法。
[9]前記研磨加工後の前記第1の傾斜面及び前記第2の傾斜面の、前記半導体基板の面内方向の幅が、0.025mm以上、0.9mm以下の範囲内にある、上記[5]~[8]のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
[10]前記第1の主面及び前記第2の主面の面方位が、(001)又は(100)である、上記[5]~[9]のいずれか1項に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板であって、面取り加工により破損の発生が効果的に抑制された半導体基板、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の斜視図である。
図2図2(a)、(b)は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の部分的に拡大された垂直断面図である。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る半導体基板を構成する酸化ガリウム系半導体の典型例であるβ-Gaの結晶構造を示す模式図である。
図4図4は、オリエンテーションフラットを有する本発明の実施の形態に係る半導体基板の上面図である。
図5図5は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の製造工程の一例を示すフローチャートである。
図6図6(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の製造工程における、半導体基板の材料である結晶体の状態を示す模式図である。
図7図7(a)は、本発明の実施の形態に係る半導体基板の面取り加工に用いることのできる砥石の斜視図である。図7(b)は、砥石の部分的に拡大された垂直断面図である。
図8図8(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨を実施する前と後の試料Aの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
図9図9(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨を実施する前と後の試料Bの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
図10図10(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料C、試料Dの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
図11図11(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料E、試料Fの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
図12図12(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料G、試料Hの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
図13図13(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料I、試料Jの面取り加工部周辺の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(半導体基板の構造)
図1は、本発明の実施の形態に係る半導体基板1の斜視図である。半導体基板1は、面取り加工(ベベル加工)部12を外周部に有する、酸化ガリウム系半導体の単結晶からなる半導体基板である。
【0012】
ここで、酸化ガリウム系半導体とは、β-Ga、又は、Al、Inなどの置換型不純物やSn、Siなどのドーパントを含むβ-Gaを指すものとする。
【0013】
面取り加工部12は、製造過程における研磨加工や搬送の際、又は搬送や位置合わせなどの取り扱いの際に、半導体基板1が損傷を受けることを防ぐために設けられる。面取り加工部12を設けず、半導体基板1の縁(主面10、11と側面の境界)が角張っていると、例えば、主面10、11の研磨加工時に縁が破損し、また、破損片が主面10、11を傷つけたり、汚染したりする。
【0014】
半導体基板1の主面10、11の面方位は特に限定されないが、主面が(001)面又は(100)面である場合には特に劈開による破損が生じやすいため、本発明の破損を抑制する効果が特に重要になる。
【0015】
図3は、半導体基板1を構成する酸化ガリウム系半導体の典型例であるβ-Gaの結晶構造を示す模式図である。酸化ガリウム系半導体は、(001)面と(100)面が劈開面になっていて、これらの面に沿って劈開が生じやすい。より具体的には、(100)面が最も劈開しやすく、次に(001)面が劈開しやすい。
【0016】
また、半導体基板1を研磨するときには、劈開面に近い面方位を有する面は比較的軟らかく、劈開面から離れた面方位を有する面は比較的硬いため、削れやすさが異なる。酸化ガリウム系半導体は単斜晶系であるため、半導体基板1が円形基板のような平面形状の輪郭に曲線を含む基板である場合は、外周部に面取り加工を施すときに、研磨箇所の面方位が連続的に変わり、加工の難易度が高い。
【0017】
半導体基板1の主面10、11が(001)面である場合には、主面10、11に対して103.7°で交わる(100)面での劈開が生じやすく、また、主面10、11に平行な(001)面の劈開も生じ得る。(001)面の劈開は、主面10、11の研磨時に生じることはほとんどないが、面取り加工のような基板端面の加工時に生じ得る。
【0018】
半導体基板1の主面10、11が(100)面である場合には、主面10、11に平行な(100)面の劈開が生じやすく、主面10、11に対しておよそ103.7°で交わる(001)面での劈開が生じ得る。(100)面の劈開は、基板端面の加工時にも生じるが、主面10、11の研磨時にも生じやすい。
【0019】
半導体基板1の主面10、11が(-201)面である場合には、主面10、11に対して53.8°で交わる(100)面での劈開は生じ得るが、主面に対して49.9°で交わる(001)面での劈開はほとんど生じない。
【0020】
図2(a)、(b)は、半導体基板1の部分的に拡大された垂直断面図である。図2(a)、(b)は、半導体基板1の面取り加工部12の周辺の垂直断面形状を示している。
【0021】
半導体基板1の面取り加工部12は、半導体基板1の主面10側の傾斜面121と、主面10の反対側の主面11側の傾斜面122と、面取り加工部12の先端に位置する、傾斜面121と傾斜面122の間の端面123とを有する。
【0022】
傾斜面121は、主面10の外側に位置し、半導体基板1の垂直断面において縁が直線となる、環状に連続する面である。傾斜面122は、主面11の外側に位置し、半導体基板1の垂直断面において縁が直線となる、環状に連続する面である。端面123は、半導体基板1の側面と捉えることもできる、環状に連続する面である。
【0023】
例えば、半導体基板1が図1に示されるような円形基板である場合は、傾斜面121、傾斜面122、及び端面123は、それぞれ円環状に連続する。
【0024】
端面123の半導体基板1の厚さ方向の幅bは、半導体基板1の厚さtの50%以上、97%以下の範囲内にある。幅bが厚さtの50%以上である場合、面取り加工部12を形成する工程(後述する製造工程におけるステップS5)や、その後の工程(ステップS6、S7)、さらには搬送や位置合わせなどの半導体基板1の取り扱い時において、面取り加工部12の端面123を含む先端部分の破損、特に劈開による破損の発生を効果的に抑制することができる。一方、幅bが厚さtの97%以下である場合、上述の半導体基板1の縁の破損、特に主面10、11の研磨時の破損片による傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0025】
端面123の半導体基板1の厚さ方向の幅bが、半導体基板1の厚さtの50%以上、97%以下の範囲内にあれば、その主面10、11の面方位が(001)や(100)である場合であっても、上記の面取り加工部12の先端部分の破損や研磨時の破損片により生じる傷などの半導体基板1の破損を効果的に抑制することができる。すなわち、主面10、11の面方位によらず、半導体基板1の破損を効果的に抑制することができる。
【0026】
また、半導体基板1の破損をより効果的に抑えるためには、幅bが厚さtの55%以上、90%以下の範囲内にあることが好ましく、60%以上、86%以下の範囲内にあることがより好ましい。端面123と傾斜面121の境界から端面123の最も外側の点までの半導体基板1の面内方向(主面10、11に平行な方向)の距離bs1は、典型的には端面123と傾斜面122の境界から端面123の最も外側の点までの半導体基板1の面内方向の距離bs2と等しいが、異なっていてもよい。
【0027】
傾斜面121、傾斜面122の半導体基板1の面内方向(主面10、11に平行な方向)の幅as1、as2は、0.025mm以上、0.9mm以下の範囲内にあることが好ましい。幅as1、as2が0.025mm以上である場合、上述の半導体基板1の縁の破損、特に主面10、11の研磨時の破損片による傷の発生を効果的に抑制することができる。一方、幅as1、as2が0.9mm以下である場合、面取り加工量が抑えられるため、面取り加工効率の向上や、面取り加工に用いる砥石の摩耗の抑制による半導体基板1の製造コストの低減などの効果が得られる。
【0028】
また、これらの効果をより確実に得るためには、幅as1、as2が0.05mm以上、0.45mm以下の範囲内にあることが好ましく、100μm以上、200μm以下の範囲内にあることがより好ましい。傾斜面121の幅as1、半導体基板1の厚さ方向の幅at1は、典型的にはそれぞれ傾斜面122の幅as2、半導体基板1の厚さ方向の幅at2と等しいが、異なっていてもよい。
【0029】
端面123は、図2(a)に示されるように、外側に膨らむように半導体基板1の厚さ方向に沿って曲がっていてもよく、図2(b)に示されるように、半導体基板1の厚さ方向に沿って平坦であってもよい。
【0030】
図2(a)に示されるように、端面123は半導体基板1の厚さ方向に沿って曲がっている方が、加工の際に砥石との接触面が小さくなりやすく、応力が集中しにくいために、面取り加工部12の端面123を含む先端部分の破損をより効果的に抑制できる。加工の際の破損が十分に抑えられる場合は、端面123は半導体基板1の厚さ方向に沿って平坦であってもよい。また、面取り加工部12の先端部分が尖りすぎていると先端部分において劈開が生じやすいため、半導体基板1の垂直断面における端面123の曲率半径が340μm以上であることが好ましい。
【0031】
半導体基板1の厚さは、1mm未満であることが好ましく、0.7mm未満であることがより好ましい。酸化ガリウム系半導体からなる半導体基板1は、他の半導体からなる基板と比較して熱伝導性が低いため、デバイスの放熱性を確保するために薄くすることが求められるためである。また、半導体基板1の厚さは、半導体基板1の使用(エピタキシャル成長、デバイス作製等)における搬送や作業の取り扱い時における割れを抑えるため、0.1mm以上であることが好ましく、0.3mm以上であることがより好ましい。上述のように面取り加工部12が半導体基板1の破損を抑制することのできる形状を有していても、半導体基板1が薄すぎると、搬送や取り扱い時に生じる応力により割れが生じる可能性がある。
【0032】
図4は、オリエンテーションフラットを有する半導体基板1の上面図である。図4に示されるように、半導体基板1は、位置合わせ用のオリエンテーションフラットを有してもよい。オリエンテーションフラットを設ける場合には、オリエンテーションフラットが設けられていない外周部と同様の面取り加工をオリエンテーションフラット部分にも施し、同様の垂直断面形状を有する面取り加工部を形成する。
【0033】
図4に示される例では、半導体基板1は(001)面を主面10、11とし、主面11と劈開面である(100)面との交線の方向である<010>方向に沿ったオリエンテーションフラット13aを有する。オリエンテーションフラット13aを<010>方向に沿って設けることにより、基板外周部近傍の(100)面の面積が小さい部分が除去されるため、半導体基板1のオリエンテーションフラット13a側における(100)面の劈開を抑制することができる。
【0034】
また、半導体基板1のオリエンテーションフラット13aの反対側に、<010>方向に沿ったオリエンテーションフラット13bを設けてもよい。これによって、半導体基板1のオリエンテーションフラット13b側においても、(100)面の劈開を抑制することができる。
【0035】
また、オリエンテーションフラット13aのみ、又はオリエンテーションフラット13a、13bのみでは半導体基板1の裏表を判別できないため、<010>方向と直交する<100>方向などに沿った、裏表判別用のオリエンテーションフラット13cを設けてもよい。
【0036】
なお、半導体基板1の平面形状は、典型的には円形又はオリエンテーションフラットが設けられた円形であるが、多角形などの他の形状であってもよい。その場合も、円形である場合と同様の面取り加工を基板外周部に施し、同様の垂直断面形状を有する面取り加工部を形成する。
【0037】
(半導体基板の製造工程)
図5は、半導体基板1の製造工程の一例を示すフローチャートである。また、図6(a)~(c)は、半導体基板1の製造工程における、半導体基板1の材料である結晶体の状態を示す模式図である。以下、図5のフローチャートに沿って半導体基板1の製造工程の流れを説明する。
【0038】
まず、図6(a)に示されるようなバルク単結晶20を用意する(ステップS1)。バルク単結晶20は、EFG(Edge Defined Film Fed Growth)法、VB(Vertical Bridgeman)法、FZ(Floating Zoned)法、CZ(Czochralski)法などの単結晶育成法により育成された単結晶インゴットから切り出された酸化ガリウム系半導体の単結晶のブロックである。
【0039】
図6(a)に示される四角形の板状のバルク単結晶20は、EFG法により育成された平板状のインゴットから切り出されたバルク単結晶20の例である。VB法、FZ法、CZ法などにより育成された円柱状のインゴットから切り出されたバルク単結晶20は、円形の板状になる。
【0040】
次に、バルク単結晶20にスライス加工を施して、図6(b)に示される複数の単結晶板21を得る(ステップS2)。バルク単結晶20のスライス加工は、例えばマルチワイヤーソーを用いて実施される。ワイヤーソーは固定砥粒方式又は遊離砥粒方式を用いることができ、スライス速度は毎分0.125~0.3mm程度であることが好ましい。
【0041】
次に、複数の単結晶板21に抜き加工を施し、図6(c)に示される複数の半導体基板1を抜き出す(ステップS3)。単結晶板21の抜き加工は、例えば、ワイヤー放電加工、外周研削、超音波加工、コアドリルを用いたコアリングなどにより実施される。なお、ステップS2のスライス加工とステップS3の抜き加工の順番は逆であってもよい。
【0042】
半導体基板1にオリエンテーションフラットを形成する場合は、例えば、ステップS3の抜き加工において、ワイヤー放電加工、外周研削、超音波加工などによりオリエンテーションフラットを含んだ形状に半導体基板1を抜き出してもよいし、抜き加工により円形に抜き出された半導体基板1の一部を、スライシングマシンなどを用いて切り落としてもよい。
【0043】
次に、加工歪を緩和して反り量を低減するため、熱処理を半導体基板1に施す(ステップS4)。例えば、昇温時には酸素雰囲気下で熱処理を行い、昇温後に温度を保持する間は窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等の不活性雰囲気下で熱処理を行う。保持温度は1400~1600℃であることが好ましい。
【0044】
次に、半導体基板1の各々の外周部に面取り加工を施し、面取り加工部12を形成する(ステップS5)。面取り加工には、例えば、円板状の砥石を備えた外周加工装置を用いる。なお、面取り加工の前に、半導体基板1のサイズを外周研削により調整してもよい。
【0045】
面取り加工部12の形成においては、傾斜面121、122を形成する工程と端面123を形成する工程を分け、傾斜面121、122を形成した後に端面123を形成することが好ましい。これにより、端面123を形成する工程における、劈開による破損を抑えることができる。
【0046】
図7(a)は、半導体基板1の面取り加工に用いることのできる砥石30の斜視図である。円板状の砥石30は、その側面に沿って複数の溝31を有し、その中心軸上に軸32が取り付けられている。
【0047】
図7(b)は、砥石30の部分的に拡大された垂直断面図である。図7(b)には、溝31が設けられた砥石30の側面の垂直断面形状が示されている。砥石30を用いて半導体基板1の面取り加工を実施するときには、軸32を回転軸として砥石30を回転させた状態で、砥石30の側方から半導体基板1を近付けてその外周部を砥石30の溝31内に進入させ、溝31の内面で外周部を削る。
【0048】
傾斜面121、122の形成には、砥石30の摩耗による溝31の形状の変化を抑えるため、比較的硬い砥石を砥石30として用いることが好ましい。一方、端面123の形成には、硬い砥石を用いると(100)面や(001)面での劈開による破損が生じやすいため、傾斜面121、122の形成に用いる砥石よりも軟らかい砥石を砥石30として用いることが好ましい。この場合、傾斜面121、122の形成には、メタルボンド砥石(粒度は例えば#600)を砥石30として用いることができ、端面123の形成には、レジンボンド砥石(粒度は例えば#1000)を砥石30として用いることができる。
【0049】
半導体基板1が円形の場合には、半導体基板1を回転させながら、外周部の全ての領域を砥石30によって研磨する。半導体基板1にオリエンテーションフラットを形成している場合は、半導体基板1を回転させず、砥石30に対して横方向にスライドさせながら、オリエンテーションフラット部分に面取り加工を施す。
【0050】
次に、半導体基板1の主面10、11に研磨加工を施す(ステップS6)。主面10、11の研磨加工は、例えば、片面研磨機又は両面研磨機を用いたラッピングとその後のポリッシングにより実施される。また、ラッピングやポリッシングのような機械的研磨の他に、ドライエッチング、ケミカルエッチング、熱エッチングなどを実施してもよい。この研磨加工における主面10、11の研磨量は、それぞれ半導体基板1の厚さ方向におよそ10~300μmである。
【0051】
ステップS6の研磨加工の具体例では、まず、ダイヤモンドの研削砥石を用いて、又は研磨定盤とダイヤモンド系スラリーを用いて、半導体基板1の主面10、11を研削、又はラップ研磨する。ダイヤモンドの研削砥石の粒度は#800~1000(JISB4131による規定)程度であることが好ましい。研磨定盤は金属系やガラス系、樹脂系の材質のものが好ましい。ダイヤモンド系スラリーに含まれるダイヤモンド系砥粒の粒径は0.5~8μm程度相当が好ましい。次に、ポリッシングクロスとCMP(Chemical Mechanical Polishing)用のスラリーを用いて、原子レベルの平坦性(例えば、平均粗さRaが0.05~0.28nm)が得られるまで半導体基板1の主面10、11を研磨する。ポリッシングクロスはナイロン、絹繊維、ウレタン等の材質のものが好ましい。スラリーの砥粒にはコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0052】
その後、半導体基板1を洗浄し、乾燥させる(ステップS7)。具体的には、例えば、酸系又はアルカリ系の洗剤を用いた超音波洗浄又はスクラブ洗浄、5分間の流水洗浄、5分間の硫酸加水洗浄、15分間の流水洗浄を順次行う。次いで、スピン乾燥、真空乾燥、マランゴニ乾燥、温風乾燥、リフトドライ、等の方法で乾燥させる。
【0053】
ステップS6の研磨加工後の半導体基板1は、端面123の半導体基板1の厚さ方向の幅bが、半導体基板1の厚さtの50%以上、97%以下の範囲内にあるという条件を満たしている。これによって、ステップS5~S7における半導体基板1の破損を抑制することができる。
【0054】
(実施の形態の効果)
上記の実施の形態によれば、面取り加工部12を上記の条件を満たす形状に形成することにより、酸化ガリウム系単結晶からなる半導体基板1の製造工程や取り扱い時における破損の発生を効果的に抑制することができる。
【実施例
【0055】
面取り加工部12の形状の異なる10種の半導体基板1(試料A~Jとする)を製造し、各試料において、面取り加工部12を形成する工程と主面10、11を研磨する工程において破損が生じるか否かを調べた。試料A~Jについては、それぞれ直径2インチの試料と直径4インチの試料を製造し、評価した。
【0056】
試料A~Jは、いずれもβ-Gaからなり、主面10、11の面方位が(001)であり、オリエンテーションフラット13a~13cを備えた基板である。また、試料A~Jは、いずれも厚さ方向に対称性を有し、幅as1と幅as2が等しく(幅aとする)、幅at1と幅at2が等しく(幅aとする)、距離bs1と距離bs2が等しい(距離bとする)。
【0057】
また、試料A~Jにおいては、いずれも傾斜面121、122を粒度♯600のメタルボンド砥石を用いた研磨により形成し、端面123を粒度♯1000のレジンボンド砥石を用いた研磨により形成した。
【0058】
図8(a)、(b)は、それぞれステップS6の主面10、11の研磨を実施する前と後の試料Aの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。図9(a)、(b)は、それぞれステップS6の主面10、11の研磨を実施する前と後の試料Bの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。
【0059】
図10(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料C、試料Dの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。試料C、試料Dは、ともに端面123が半導体基板1の厚さ方向に沿って湾曲しており、厚さtがともに0.65mmと等しく、また、傾斜面121、122の傾斜角度(a/a)が等しいが、試料Dの方が、距離bが小さくなっている。すなわち、試料Dの面取り加工部12は、試料Cの面取り加工部12の先端を尖らせるように伸ばした形状を有する。
【0060】
図11(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料E、試料Fの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。試料E、試料Fは、ともに端面123が半導体基板1の厚さ方向に沿って湾曲しており、厚さtがともに0.35mmと等しく、また、傾斜面121、122の傾斜角度(a/a)が等しいが、試料Dの方が、距離bが小さくなっている。すなわち、試料Fの面取り加工部12は、試料Eの面取り加工部12の先端を尖らせるように伸ばした形状を有する。
【0061】
図12(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料G、試料Hの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。試料G、試料Hは、ともに端面123が厚さ方向に沿って平坦であり、厚さtがともに0.65mmと等しく、また、ともに傾斜面121、122が比較的小さいが、試料Hの方が、より傾斜面121、122が小さくなっている。
【0062】
図13(a)、(b)は、それぞれ主面の研磨後の試料I、試料Jの面取り加工部12周辺の垂直断面図である。試料I、試料Jは、ともに端面123が厚さ方向に沿って平坦であり、厚さtがともに0.35mmと等しく、また、ともに傾斜面121、122が比較的小さいが、試料Jの方が、より傾斜面121、122が小さくなっている。
【0063】
端面123が半導体基板1の厚さ方向に沿って湾曲した試料A~Fの端面123の曲率半径は、いずれも0.6~0.7mmであった。
【0064】
次の表1に、試料A~Jの寸法及び破損の発生の有無を示す。ここで、表1の“破損(面取り加工)”は、ステップS5の面取り加工部12を形成する工程において傾斜面121、122又は端面123に生じた破損(劈開割れ、欠け、又は傷)の有無を意味する。“破損(主面研磨)”は、ステップS6の主面10、11を研磨する工程において主面10、11に生じた破損(研磨傷)の有無を意味する。また、“試料A(研磨前)”、“試料B(研磨前)”は、それぞれステップS6の主面10、11の研磨を実施する前の試料A、試料Bを意味する。なお、試料A~Jのいずれにおいても、直径2インチの試料と直径4インチの試料について同じ結果(破損の発生の有無)が得られた。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、試料D、試料Fは、面取り加工直後に面取り加工部12に破損が確認された。これは、幅bが厚さtの50%に満たず、面取り加工部12の先端が尖っているために劈開割れが生じたものと考えられる。
【0067】
また、表1にされるように、試料H、試料Jは、研磨された主面10、11に破損が確認された。これは、幅bが厚さtの97%を超え、傾斜面121、122が小さすぎるために主面10、11の縁の近傍に破損が生じ、破損片により研磨傷が生じたものと考えられる。
【0068】
一方で、表1に示されるように、幅bが厚さtの50%以上、97%以下の範囲内にある試料A~C、E、G、Iにおいては、面取り加工部12の破損も研磨による主面10、11の破損も確認されなかった。
【0069】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0070】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0071】
1…半導体基板、 10、11…主面、 12…面取り加工部、 121、122…傾斜面、 123…端面、 13a、13b、13c…オリエンテーションフラット、 20…バルク単結晶
図1
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図4
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