(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】乳化組成物、ならびにそれを用いた食品付着防止剤および付着性が低減された食品
(51)【国際特許分類】
A23D 7/005 20060101AFI20240904BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20240904BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
A23D7/005
A23L7/109 A
A23G3/34 101
(21)【出願番号】P 2020125772
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】安藤 為明
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-271348(JP,A)
【文献】特開昭58-175461(JP,A)
【文献】特開2021-185809(JP,A)
【文献】特開2021-180613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00-7/06
A23L 7/00-7/25
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状油脂および乳化剤成分を含有する油滴を含む油相と、水系媒体
および有機酸塩を含む水相とからなる水中油滴型の乳化組成物であって、
該乳化剤成分が、
クエン酸モノグリセライドと、ジアセチル酒石酸モノグリセライドおよび/または蒸留モノグリセライドとを含み、
該油滴が、100nmから1500nmの平均粒子径を有
し、
蒸留水で2質量%の濃度に希釈した際のpHが4から6である、乳化組成物。
【請求項2】
前記水系媒体が、水および多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項
1に記載の乳化組成物。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の乳化組成物を含有する、食品の付着を防止するための製剤。
【請求項4】
麺のほぐれ性を高めるために用いられる、請求項
3に記載の製剤。
【請求項5】
ゲル化食品の凝集を防止するために用いられる、請求項
3に記載の製剤。
【請求項6】
請求項
3に記載の製剤と食品成分とを含有する、付着性が低減された食品。
【請求項7】
付着性が低減された食品の製造方法であって、請求項
3に記載の製剤と食品素材とを合わせる工程を包含する、方法。
【請求項8】
前記合わせる工程が、前記食品素材の表面に前記製剤を付与することにより行われる、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記合わせる工程が、前記食品素材と前記製剤とを混合することにより行われる、請求項
7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化組成物、ならびにそれを用いた食品付着防止剤および付着性が低減された食品に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な加工食品の製造では、その食感、味覚、外観などの観点から消費者の購買意欲を低下させないために、従来から種々の改良が行われている。例えば、麺線同士の結着やわらび餅、グミ菓子などの菓子類同士の付着(すなわち、食品同士の付着)、ならびに食品と包装材、成形型、調理器具などとの付着(すなわち、食品と他物品との間の付着)は、例えば、食し難い、扱いづらいなどの点で敬遠される傾向にある。よって、このような食品同士の付着や食品と他物品との間の付着(これらをまとめて「食品の付着」ということがある)を防止するという観点からのさらなる技術改良が所望されている。
【0003】
こうした食品の付着防止のために、食品素材に種々の乳化組成物を付与することが提案されている(特許文献1~6)。しかし、これらの乳化組成物は、付着を防止する商品が限定的であったり、未だ満足し得る付着防止の効果が得られない場合もある。
【0004】
一方、麺類の付着防止の例として、麺類に所定の製剤(ほぐれ剤)を表面塗布する、あるいは練り込むことにより、当該麺類のほぐれ性を向上させることが知られている。このようなほぐれ剤としては、例えば、大豆多糖類や改質小麦タンパク質(乳化剤により改質した小麦タンパク質)などを有効成分として使用することが知られている。
【0005】
しかし、これらの有効成分はアレルゲンの1種である。このため、これらに対してアレルギーを示す人々はその食品自体を食すことができない点で、消費者に対する汎用性はいまだ十分であるとは言えない。また、こうしたほぐれ剤を付与した食品については、食感や呈味を向上させる点でさらなる改良も所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-036774号公報
【文献】特開2016-192959号公報
【文献】特開2012-235746号公報
【文献】特開2002-345423号公報
【文献】特開平4-058859号公報
【文献】特開2017-063619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、アレルゲンとなる物質の使用を回避しかつ様々な食品の付着の防止に有用な乳化組成物、ならびにそれを用いた食品付着防止剤および付着性が低減された食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、液状油脂および乳化剤成分を含有する油滴を含む油相と、水系媒体を含む水相とからなる水中油滴型の乳化組成物であって、
該乳化剤成分が、グリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステル誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であり、そして
該油滴が、100nmから1500nmの平均粒子径を有する、乳化組成物である。
【0009】
1つの実施形態では、本発明の乳化組成物では、蒸留水で2質量%の濃度に希釈した際のpHが4から6である。
【0010】
1つの実施形態では、上記水相は有機酸塩を含有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記水系媒体は、水および多価アルコールからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0012】
本発明はまた、上記乳化組成物を含有する、食品の付着を防止するための製剤である。
【0013】
1つの実施形態では、本発明の製剤は、麺のほぐれ性を高めるために用いられる。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の製剤は、ゲル化食品の凝集を防止するために用いられる。
【0015】
本発明はまた、上記製剤と食品成分とを含有する、付着性が低減された食品である。
【0016】
本発明はまた、付着性が低減された食品の製造方法であって、上記製剤と食品素材とを合わせる工程を包含する、方法である。
【0017】
1つの実施形態では、上記合わせる工程が、上記食品素材の表面に上記製剤を付与することにより行われる。
【0018】
1つの実施形態では、上記合わせる工程は、上記食品素材と上記製剤とを混合することにより行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、アレルゲンを含有することなく、種々の食品の付着を防止し得る製剤を提供することができる。本発明の食品付着防止剤は、例えば食品素材との混合によっても、得られる食品の表面で生じる当該食品の付着防止の効果を発現することができる。これにより、当該食品の製造工程の短縮化または効率化も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(乳化組成物)
本発明の乳化組成物は、液状油脂および乳化剤成分を含有する油滴を含む油相と、水系媒体を含む水相とからなる水中油滴型の組成物である。
【0021】
本明細書において、「水中油滴型の乳化組成物」とは、油脂組成物(液状油脂および乳化剤成分を含有する)を油相とする油滴が、水系媒体を含む水相中に存在する水中油(o/w)型の乳化液を形成しているものをいう。
【0022】
(油相)
油相に含まれる液状油脂は、例えば常温(好ましくは5℃~30℃、より好ましくは15℃~25℃)で液体である油脂である。
【0023】
本発明の乳化組成物の油相を構成する液状油脂は、常温で液体である限り特に限定されない。液状油脂としては、例えば、菜種油、米油、コーン油、大豆油、サフラワー油、綿実油、魚油(例えば、鯨油、鮫油、および肝油)、および中鎖脂肪酸油(中鎖脂肪酸トリグリセライドおよび中鎖脂肪酸ジグリセライド)が挙げられる。本発明においては、これらの液状油脂を1種類で用いてもよく、または2種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。好ましくは食用油脂である。植物油が好ましい。好ましくは、菜種油、米油、コーン油、大豆油、サフラワー油、綿実油、あるいは中鎖脂肪酸油、これらの任意の2種以上の組合せであり、より好ましくは中鎖脂肪酸油である。
【0024】
本発明の乳化組成物における液状油脂の含有量は特に限定されないが、乳化組成物100質量%中、例えば1質量%~10質量%、好ましくは3質量%~7質量%である。乳化組成物中の液状油脂の含有量を上記範囲内とすることにより、乳化剤を含む油相(油滴)を後述の水系媒体を含む水相中により均一に分散させることができ、当該乳化組成物中で水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができる。
【0025】
乳化剤成分は、上記液状油脂と一緒になって本発明の乳化剤組成物の油相を形成し得る。乳化剤成分の例としては、グリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステル誘導体、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン分子を構成する3つのヒドロキシ基のうち1つまたは2つに高級脂肪族カルボン酸(脂肪酸)分子がエステル結合したグリセリン脂肪酸モノまたはジエステルである。グリセリン脂肪酸モノエステルをモノグリセライドともいう。グリセリン脂肪酸エステル誘導体は、グリセリン脂肪酸モノまたはジエステルを構成する分子の残りのヒドロキシ基のうち1つまたは2つに低級脂肪族カルボン酸(有機酸)分子がさらに結合した化合物である。グリセリン脂肪酸モノエステルを構成する分子の残りのヒドロキシ基に有機酸がエステル結合したものを有機酸モノグリセライドともいう。
【0027】
高級脂肪族カルボン酸は、例えば、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数16~22の飽和もしくは不飽和の脂肪族モノカルボン酸である。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数16~22の飽和もしくは不飽和の脂肪族モノカルボン酸は、ヒドロキシ基を有していてもよく、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸;およびオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、リシノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エイコサトリエン酸、ドコサヘキサエン酸、イワシ酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸が挙げられる。
【0028】
低級脂肪族カルボン酸は、例えば、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~10の脂肪族モノ、ジもしくはトリカルボン酸である。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~10の脂肪族モノ、ジもしくはトリカルボン酸は、ヒドロキシ基を有していてもよく、ジおよびトリカルボン酸では、モノグリセリドとエステル結合するカルボキシル基以外のカルボキシル基がアセチル化されていてもよい。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数2~10の脂肪族モノ、ジもしくはトリカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸などの脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸;クエン酸などの脂肪族トリカルボン酸;およびグリコール酸、乳酸、グリセリン酸、タルトロン酸、りんご酸、酒石酸、ジアセチル酒石酸、トロパ酸などのヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0029】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば反応モノグリセライドおよび蒸留モノグリセライドが挙げられる。本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができる、このような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる等の理由から、好ましくは、蒸留モノグリセライドである。例えば、主構成脂肪酸の炭素数16~22(好ましくは、炭素数が16~18)の蒸留モノグリセライドは、主構成脂肪酸の炭素数が16~22(好ましくは炭素数が16~18)の反応モノグリセライドを蒸留により精製し、モノグリセライドの含有量を高めたものである。蒸留による精製方法としては、例えば流下薄膜式分子蒸留装置又は遠心式分子蒸留装置等を用いて真空蒸留する方法が挙げられる。蒸留モノグリセライド100%中のモノグリセライドの含有量は、質量を基準として好ましくは90%~99%である。
【0030】
本発明の乳化組成物を構成するグリセリン脂肪酸エステルは、例えば市販のものを用いることができる。
【0031】
グリセリン脂肪酸エステル誘導体としては、例えばグリセリン分子を構成する3つのヒドロキシ基に、1つの高級脂肪族カルボン酸分子と1つの低級脂肪族カルボン酸分子、2つの高級脂肪族カルボン酸分子と1つの低級脂肪族カルボン酸分子、または1つの高級脂肪族カルボン酸分子と2つの低級脂肪族カルボン酸分子がそれぞれエステル結合した化合物が挙げられる。中でも、乳化剤組成物としての安定性が良好であるとの理由から、グリセリン脂肪酸エステル誘導体は、グリセリン分子を構成する3つのヒドロキシ基に、1つの高級脂肪族カルボン酸分子と1つの低級脂肪族カルボン酸分子とがエステル結合した化合物であることが好ましい。
【0032】
グリセリン脂肪酸エステル誘導体としては、例えば、クエン酸モノグリセリド(例えば、クエン酸モノオレイン酸グリセリン、クエン酸モノステアリン酸グリセリン)、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(例えば、ジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン)、酢酸モノグリセリド(例えば、酢酸モノステアリン酸グリセリン)ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができる、このような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる等の理由から、クエン酸モノオレイン酸グリセリンおよびジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0033】
本発明の乳化組成物を構成するグリセリン脂肪酸エステル誘導体は、例えば市販のものを用いることができる。
【0034】
上記グリセリン脂肪酸エステルおよびその誘導体は、例えば3~10、好ましくは3~8のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance:親水性親油性バランス)値を有する。例えば、乳化剤成分がグリセリン脂肪酸エステルである場合、そのHLB値は、例えば3~8であり、好ましくは3~5である。乳化剤成分がグリセリン脂肪酸エステル誘導体である場合、そのHLB値は、例えば5~10であり、好ましくは5~8である。HLB値が上記範囲内であることにより、後述の水系媒体中での乳化が容易となり得る。
【0035】
有機酸モノグリセリドには、例えば食品添加物として入手可能なものが用いられ得る。
【0036】
本発明の乳化組成物における乳化剤成分の含有量は特に限定されないが、乳化組成物100質量%中、例えば10質量%~35質量%、好ましくは15質量%~30質量%である。乳化組成物中の乳化剤成分の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができ、および/またはこのような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる。
【0037】
本発明の乳化組成物はまた、食品の付着性をより確実に低減させるために、乳化剤成分は、クエン酸モノグリセライド(好ましくは、クエン酸モノオレイン酸グリセリン)およびジアセチル酒石酸モノグリセライド(好ましくは、ジアセチル酒石酸モノオレイン酸グリセリン)に加えて、蒸留モノグリセライド(好ましくは、主構成脂肪酸がオレイン酸である)をさらに含むことができる。乳化剤成分は、ジアセチル酒石酸モノグリセライドと、クエン酸モノグリセライドおよび蒸留モノグリセライドの合計とを、例えば、2~4:18~16、好ましくは、2.5~3.7:17.5~16.3との質量比にて含み、かつクエン酸モノグリセライドと蒸留モノグリセライドとの質量比は、例えば、1~4:1、好ましくは、2.5~3.7:1である。このような質量比の範囲を満足することにより、例えば後述する平均粒子径を有する油相(油滴)を含む乳化組成物を得ることが容易になる。
【0038】
本発明の乳化組成物において、油相は、上記液状油脂および上記乳化剤成分を含有する油滴の形態で含有されている。油滴には、上記液状油脂および乳化剤成分が奏する作用効果を損なわない範囲において他の油脂および/または親油性物質が含有されていてもよい。
【0039】
本発明の乳化組成物において、油相を構成する油滴は、100nm~1500nm、好ましくは400~1000nmの平均粒子径を有する。油滴の平均粒子径が100nmを下回ると、そのような微細な粒径を得るためにはより高度な機械設備が必要となり、所望の組成物を得るための製造効率を低下させることがある。油滴の平均粒子径が1500nmを上回ると、食品に使用した際に当該食品の付着の防止効果が十分に発揮されないことがある。
【0040】
(水相)
水相に含まれる水系媒体としては、例えば、水およびアルコール、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。水の例としては、蒸留水、イオン交換水、RO水、超純水、水道水などが挙げられる。アルコールは好ましくは食品分野において許容され得るアルコールであり、例えばエタノールのような低級アルコール;およびグリセリン、ソルビトール、還元澱粉糖化物のような多価アルコール;ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。乳化組成物としての安定性が優れているとの理由から、水系媒体としては多価アルコールが好ましく、ソルビトールが特に好ましい。
【0041】
本発明の乳化組成物における水系媒体の含有量は特に限定されないが、乳化組成物100質量%中、例えば40質量%~75質量%、好ましくは45質量%~65質量%である。乳化組成物中の水系媒体の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができ、および/またはこのような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる。
【0042】
本発明において、水相は有機酸塩をさらに含んでもよい。このような有機酸塩としては、例えば、有機酸のアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩)、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。汎用性に富みかつ水系媒体に対する溶解性が良好であるとの理由から、有機酸のアルカリ金属塩が好ましい。
【0043】
有機酸塩は、例えば炭素数2~10の有機酸のアルカリ金属塩である。有機酸塩の具体的な例としては、酢酸ナトリウム(例えば、無水物または三水和物)、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、乳酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム、およびグルコン酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。乳化組成物としての安定性が良好であるとの理由から、有機酸塩は、酢酸ナトリウム(無水)、クエン酸三ナトリウム、および乳酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0044】
本発明の乳化組成物における有機酸塩の含有量は特に限定されないが、乳化組成物100質量%中、例えば0.3質量%~2質量%、好ましくは0.5質量%~1質量%である。乳化組成物中の有機酸塩の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができ、および/またはこのような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる。
【0045】
水相には、上記水系媒体や有機酸塩が奏する作用効果を損なわない範囲において他の親水性物質が含有されていてもよい。
【0046】
(その他)
本発明の乳化組成物においては、蒸留水で2質量%の濃度に希釈した際のpHが、好ましくは4~6、より好ましくは4~5である。このようなpHへの調整は、例えば水系媒体に対して、上記有機酸塩の含有量を変動させることにより行うことができる。pHが上記範囲内にあることにより、本発明の乳化組成物における水中油滴型の乳化状態をより安定的に保持することができ、および/またはこのような乳化組成物を含む食品の付着性を一層低減させることができる。
【0047】
本発明の乳化組成物はまた、本発明の効果を阻害しない程度にて、食品分野において一般に使用され得るその他の成分を含有していてもよい。その他の成分の例としては、調味料、静菌剤、酸化防止剤、保存剤などが挙げられる。その他の成分の含有量は当業者によって適宜選択され得る。
【0048】
本発明の乳化組成物は例えば以下のようにして作製される。1つの実施形態では、まず上記液状油脂および乳化剤成分と必要に応じて添加され得る他の油脂および/または親油性物質とが予め混合され、油状組成物が調製される。他方で、水系媒体ならびに必要に応じて添加され得る有機酸塩および/または他の親水性物質が予め混合され、水系組成物が調製される。その後、この水系組成物を撹拌した状態で、所定の温度にて、その中に油状組成物が添加され、その後も撹拌が行われる。油状組成物を添加する際に採用される撹拌には、例えば、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーなどの公知の撹拌手段が用いられる。このような撹拌を通じて、油状組成物は微細な油滴(油相)となって水系組成物(水相)内に略均一に分散(乳化)し、水中油滴型の乳化組成物が形成される。
【0049】
(食品付着防止剤)
上記水中油滴型の乳化組成物は、食品の付着を防止するための製剤(以下、食品付着防止剤ともいう)の有効成分として使用することができる。ここで、本明細書中に用いられる用語「付着」とは、ある対象物と他の対象物との間で物理的または化学的に接着、吸着固着または密着すること等によって引っ付いた状態になることを指して言う。さらに、用語「食品の付着」とは、食品同士の付着、および食品と他の物品との間の付着の両方を包含する。用語「付着性」とは、当該付着を引き起こす性質を指して言い、用語「付着防止性」とは当該付着を防止し得る性質を指して言う。
【0050】
本発明の食品付着防止剤が適用され得る食品は、例えば、デンプンや寒天などの多糖類成分、および/またはゼラチンのようなタンパク質成分を豊富に含む任意の食品である。このような食品としては、例えば、小麦加工品、デンプン加工品およびゼラチン加工品が挙げられ、具体的な例としては、うどん、ひやむぎ、素麺、中華そば、中華麺、スパゲティ、スパゲティーニ、フェデリーニ、カッペリーニ、タリアテッレ、ブカティーニ、春雨、冷麺、葛切り、粟麺、ビーフン、フォー、米線、しらたき、低カロリー麺(こんにゃく麺)、十割蕎麦、二八蕎麦、更科蕎麦、田舎蕎麦、藪蕎麦、黒豆麺、ひえめん、海藻麺、餃子の皮、シュウマイの皮、春巻きの皮、ワンタンなどの麺類;白玉団子、みたらし団子、蕎麦団子、吉備団子、羽二重団子、ゴマ団子、茶団子などの団子類;わらび餅、蘇鉄餅、なまこ餅、丸餅、揚げ餅、飴餅、あん餅(大福)、磯部餅、えび餅、かき餅、草餅、豆餅、きなこ餅、巾着餅、くるみ餅、ずんだ餅、菱餅、信玄餅、羽二重餅、芥子餅、煎餅、ちまきなどの餅類;中華ちまき、米飯(白飯)、味飯、赤飯などの米飯類;グミ菓子などのゲル化食品;などが挙げられる。
【0051】
例えば、本発明の食品付着防止剤が麺類のために使用される場合、当該製剤は例えば、麺同士の付着を防止してほぐれやすい状態を得るためのほぐれ剤として使用され得る。ここで、本明細書中に用いられる用語「ほぐれ(る)」とは、食品(例えば、麺類製品、米飯製品または菓子製品)の付着性を低減し、当該食品同士が互いに分離し易くなることをいう。また、本明細書中に用いられる用語「ほぐれ性」とは食品同士のほぐれ易さをいい、食品同士がほぐれ易いほど、ほぐれ性が高いことを表す。
【0052】
あるいは、本発明の食品付着防止剤がゲル化食品のために使用される場合、当該製剤は例えばゲル化食品同士の凝集の防止、ならびにゲル化食品と他の物品との間の付着を防止することができる。他の物品の例としては、包装材(例えば、包装袋、包装シート(食品間に配置される分離シートを包含する)、包装容器)、成形型、および調理器具が挙げられる。
【0053】
(付着性が低減された食品およびその製造方法)
上記食品付着防止剤は、食品を構成する食品成分と一緒になって付着性が低減された食品を構成する。
【0054】
このような食品は、本発明の食品付着防止剤を、食品素材と併せることによって製造され得る。
【0055】
1つの実施形態では、本発明の食品付着防止剤は食品素材の表面に付与することにより行われる。このような付与は、食品付着防止剤を含む浴に食品素材を浸漬するか、あるいは食品素材に対して、食品付着防止剤を噴霧または塗布(例えば刷毛塗り)することによって行われる。食品付着防止剤が付与された後、得られる食品は所定の手段を用いて乾燥が行われる。
【0056】
1つの実施形態では、本発明の食品付着防止剤は食品素材と混合することにより行われる。このような混合は、目的の食品を得るために複数の食品素材が使用される場合に特に有効である。複数の食品素材と一緒に本発明の食品付着防止剤を混合し、必要に応じて練り込むことにより、上記のような後処理としての食品付着防止剤の付与が不要となるからである。これにより、一連の食品製造に係る効率性を高めることができる。
【0057】
以下、例示のため、麺類、米飯類およびゲル化食品の各製造方法を説明する。
【0058】
麺類の製造では、本発明の食品付着防止剤を、麺の原材料となる粉素材(例えば、小麦粉)と練り込みによって混合し、および/または蒸したあるいは茹でた麺類(例えば、その麺線)との接触が行われ得る。このような接触は、例えば、蒸したあるいは茹でた麺類を、本発明の食品付着防止剤中に漬け込むか、あるいは蒸したまたは茹でた麺類に当該食品付着防止剤を直接噴霧かまたは塗布することにより行われる。例えば、本発明の食品付着防止剤(の水相)に調味料を添加することにより、一つの工程で麺類の調味と付着防止処理とを一括して行うことができる。
【0059】
例えば、即席ノンフライ麺製品は、蒸した麺または茹でた麺の麺線を、本発明の食品付着防止剤に漬け込むか、あるいは当該食品付着防止剤を蒸した麺または茹でた麺の麺線に直接噴霧するかまたは塗布した後、熱風乾燥することにより製造され得る。即席フライ麺製品は、上記熱風乾燥に代えて油処理をすることにより製造され得る。茹で麺製品は、茹でた麺を冷水で水洗後、その麺線を、本発明の食品付着防止剤中に漬け込むか、あるいは当該食品付着防止剤を蒸した麺または茹でた麺の麺線に直接噴霧または塗布した後、耐熱性の袋へ封入し、蒸気(あるいは熱湯)で袋ごと加熱殺菌処理することで製造され得る。
【0060】
米飯類の製造は、本発明の食品付着防止剤と共に、生米を炊飯するかまたは生もち米を蒸すことによる行われ得る。これにより、米飯製品の素材を本発明の食品付着防止剤で処理することができる。
【0061】
例えば、白飯は、洗米した生米を炊飯する際に使用する水に本発明の食品付着防止剤を分散させて、炊飯することにより製造することができ、製造された白飯は、釜離れがよく、飯の付着性が低減され得る。味飯は、洗米した生米を炊飯する際に、味付け目的に添加する調味液に本発明の食品付着防止剤を分散させて、炊飯することにより製造することができ、製造された味飯は、釜離れがよく、飯の付着性が低減され得る。赤飯は、洗米した生もち米をささげ豆の煮汁で着色後に液蒸し処理する際に、蒸したもち米に本発明の食品付着防止剤を分散させた打ち水を噴霧あるいは漬け込みすることにより製造でき、得られた赤飯では飯の付着性が低減され得る。
【0062】
ゲル化食品として、例えばグミ菓子を製造する場合では、当該食品の素材に対し本発明の食品付着防止剤を練り込みにより混合し、加熱によりゲル化することがなされ得る。あるいは、ゲル化食品として、例えば団子類や餅類を製造する場合では、食品のゲル化した素材の表面に対し、本発明の食品付着防止剤を、例えば噴霧によって付与することもできる。
【0063】
本発明の乳化組成物によれば、当該組成物中に乳化剤を高濃度で入れることができる。このため、食品付着防止剤として所望の食品の付着の防止効果を得るために、例えば粉状の食品素材との混合(例えば、練り込み)によって添加することができる。これにより、食品の製造の際、このような乳化組成物を噴霧等によって食品素材の表面への付与を後で行うという工程を省略でき、食品の製造効率を向上させることができる。また、噴霧等によって食品素材の表面への付与が困難であった食品に対しても用いることができ、当該食品の付着性を低減させることができる。
【0064】
本発明の食品付着防止剤は、その構成成分中に大豆多糖類や小麦タンパク質などのアレルゲンを含有させることが不要である。このことから、これを食した者が食品アレルギーを引き起こす心配がなく、より多くの消費者に対してより安全性の向上した食品を提供することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(実施例1~4および比較例1~8)
(乳化組成物の調製)
液状油脂として中鎖脂肪酸油(スコレー8:日清オイリオ株式会社製)を加温しながら60℃に調整して、乳化剤として蒸留モノグリセリド(サンソフトNO.8070V:太陽化学株式会社製)、クエン酸モノグリセリド(サンソフトNO.623M:太陽化学株式会社製)、ジアセチル酒石酸エステル(PANODAN AB-100 VEG:ダニスコジャパン株式会社製)を以下の表1および表2に示す割合(単位:質量部)にて混合して、油相を調製した。
【0067】
多価アルコールとしてグリセリン(阪本薬品工業株式会社製)またはD-ソルビトール液(70%ソルビトール:物産フードサイエンス株式会社製)および水の混合液を加温しながら60℃に調整して、酢酸ナトリウム(無水)を加え混合溶解して水相を調製した。
【0068】
次にホモミキサー(プライミクス株式会社製)ホモミクサーMARK II 2.5型)で水相を3000rpmで撹拌しながら、先の油相成分を徐々に加えて全て投入後に7000rpmで乳化分散して、蒸発分の水を補給し更に撹拌混合して乳化組成物を得た。
【0069】
(乳化組成物のpH評価)
実施例1~4および比較例1~8の各乳化組成物を蒸留水で50倍希釈した液(2%pH)のpHを卓上用pH計(PHL-20型:電気化学計器株式会社製)にて測定した。結果を以下の表1および2に示す。
【0070】
実施例1~4および比較例1~3および5~7ではpHが4.5~4.6程度であったのに対し、有機酸塩を用いなかった比較例4および8はpHが約3.4であった。
【0071】
(乳化組成物の平均粒子径)
実施例1~4および比較例1~8の各乳化組成物を蒸留水で希釈分散させた資料溶液を、レーザー回折式粒度分布計(SALD-2100:株式会社島津製作所製)にて平均粒子径(屈折率:1.70-0.20i)を測定した。結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を調整できなかった調製区は『-』で示した。
【0072】
実施例1~4では、平均粒子径が470~520nmである水中油滴型の乳化組成物を得ることができた。比較例1~2および5~6では平均粒子径が3750nm以上と大きかった。比較例3および7では平均粒子径は約1600nmであった。なお、比較例4および8では、ゲル化が生じ、水中油滴型の液状の乳化組成物を得ることができなかった。
【0073】
(乳化組成物の状態評価)
実施例1~4および比較例1~3および5~7の乳化組成物を室温まで冷却して、50mlずつ瓶(底面直径4.0cm、高さ7.5cm)に取り分けて、25℃で20日間保管した乳化組成物について下記評価を実施した。25℃で20日間保管した各乳化組成物の外観を10名のパネラーが各々目視観察し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより評価した。
【0074】
(評価基準)
A:水中油滴型の均質な乳化分散状態が保持されていた。
B:水相がクリーム状に分離していた。
C:油相と水相が分離していた。
【0075】
結果を以下の表1および2に示す。実施例1~4の乳化組成物では、水中油滴型の均質な乳化分散状態が保持されていた。これに対し、平均粒子径が3750nm以上であった比較例1~2および5~6では油相と水相が分離しており、平均粒子径は約1600nmであった比較例3および7においても水相がクリーム状に分離していた。
【0076】
(乳化組成物の麺ほぐれ性、食味評価(茹でうどんの製造方法))
小麦粉(白椿:日清製粉株式会社製)800g、加工でん粉(あさがお:松谷化学工業株式会社製)200g、粉末グルテン(AグルG:グリコ栄養食品株式会社製)20gを予めポリ袋内で混合して、万能ミキサー(株式会社品川工業所製)に加え撹拌混合しながら、食塩30gを水400gに溶解して更に乳化組成物を20g加えて調製した水溶液を徐々に投入して8分間混合し、そぼろ状の生地を得た。
【0077】
このそぼろ状の生地からロール式製麺機(株式会社福田麺機製)を用いて帯状の生地に製麺して、室温で1時間熟成させた。熟成後、厚さ2.5mmになるまで圧延し、切刃9番角を用いて切断して生うどんを得た。この生うどんを熱湯で8分間茹であげて水道水で30秒間洗った後、約5℃の水に30秒間浸漬して、茹でうどんを得た。
【0078】
また、乳化組成物を添加しない茹でうどんを同様に作製した(対照例)。
【0079】
作製した茹でうどん100gをポリスチレン製の容器に充填・密封し、10℃で24時間保存した。保存後の茹でうどん100gの塊状の麺に水40mlをかけた後、評価基準に従い、ほぐれ性および食味を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0080】
(ほぐれ性の評価基準)
A:麺を箸で持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。
B:麺を箸で持ち上げて軽く振ると一部付着した麺が残った。
C:麺を箸で持ち上げて軽く振ってもほぐれず、麺が付着したままの状態であった。
【0081】
(食味の評価基準)
A:小麦粉の風味があった。
B:小麦粉の風味があるが、違和感のある味が少し残った。
C:小麦粉の風味とは異なる違和感のある味が強く残った。
【0082】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物無添加の対照例では食味は優れるが麺の付着が残りほぐれ性に劣った。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物は、ほぐれ性および食味ともに優れていた。実施例2および4は、実施例1および3と比較するとほぐれ性がやや劣るが、無添加の対照例と比較すると十分に改善された。比較例3および7はほぐれ性が改善されたが食味がやや劣った。比較例1~2および5~6では、ほぐれ性が改善されず、食味も劣るものとなった。
【0083】
(ノンフライ即席麺の製造および評価)
小麦粉(特ことぶき:日本製粉株式会社製)800g、加工でん粉(あさがお:松谷化学工業株式会社製)200g、粉末グルテン(AグルG:グリコ栄養食品株式会社製)20gを予めポリ袋内で混合して、万能ミキサー(株式会社品川工業所製)に加え撹拌混合しながら、食塩10g、かん粉(炭酸ナトリウム:炭酸カリウム=40:60)4.5gを水360gに溶解して更に乳化組成物を20g加えて調製した水溶液を徐々に投入して8分間混合し、そぼろ状の生地を得た。
【0084】
このそぼろ状の生地からロール式製麺機(株式会社福田麺機製)を用いて帯状の生地に製麺して、室温で1時間熟成させた。熟成後、厚さ1.1mmになるまで圧延し、切刃16番角を用いて切断して生中華麺を得た。生中華麺を0.02Mpaの蒸気を含む蒸し庫で、4分間処理して蒸し中華麺を得た。
【0085】
次いで、水100g、食塩10g、調味料1gを含む調味液に蒸し中華麺を調味液に10秒間漬け込み、その後液切りした。液切りした中華麺を型枠に入れて、乾燥機にて90℃で60分間乾燥して、ノンフライ即席麺を得た。
【0086】
対照として、乳化組成物を添加しないノンフライ即席麺を同様に作製した。
【0087】
作製したノンフライ即席麺を容器に入れて熱湯で湯戻して、4分間経過後の麺について、評価基準に従い、ほぐれ性および食味を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0088】
(ほぐれ性の評価基準)
A:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が10秒未満であった。
B:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が10秒以上かつ20秒未満であった。
C:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が20秒以上であった。
【0089】
(食味の評価基準)
A:小麦粉の風味があった。
B:小麦粉の風味があるが、違和感のある味が少し残った。
C:小麦粉の風味とは異なる違和感のある味が強く残った。
【0090】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物無添加の対照例では食味に小麦粉の風味はあるものの食べづらく、麺線の付着による塊が残り、ほぐれ性に劣った。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物は、ほぐれ性および食味ともに優れていた。実施例2および4は、実施例1および3と比較するとほぐれ性がやや劣るが、無添加の対照例と比較すると十分に改善された。比較例3および7はほぐれ性が改善されたが食味がやや劣った。比較例1~2および5~6では、ほぐれ性が改善されず、食味も劣るものとなった。
【0091】
(調理麺(冷やし中華麺)の製造および評価)
小麦粉(特ことぶき:日本製粉株式会社製)800g、加工でん粉(あさがお:松谷化学工業株式会社製)200g、および粉末グルテン(AグルG:グリコ栄養食品株式会社製)20gを予めポリ袋内で混合して、万能ミキサー(株式会社品川工業所製)に加え撹拌混合しながら、食塩10gおよびかん粉(炭酸ナトリウム:炭酸カリウム=40:60(質量比))15gを、水360gを加えて調製した水溶液を徐々に投入して8分間混合し、そぼろ状の生地を得た。
【0092】
このそぼろ状の生地からロール式製麺機(株式会社福田麺機製)を用いて帯状の生地に製麺して、室温で1時間熟成させた。熟成後、厚さ1.5mmになるまで圧延し、切刃20番角を用いて切断して生中華麺を得た。生中華麺を熱湯で90秒間茹で処理して、水道水で30秒間洗った後、約5℃の水に30秒間浸漬して、茹で中華麺を得た。
【0093】
乳化組成物を水で10倍に希釈した希釈液をスプレーボトルに充填して、茹で中華麺100gに対して希釈液5gを麺表面に均一に付着させた。また、対照として、乳化組成物を含まない水を茹で中華麺に対し同様に噴霧して作成した茹で中華麺100gを、ポリスチレン製の容器に充填・密封し、10℃で24時間保存した。保存後の茹でうどん100gの塊状の麺に水40mlをかけた後、評価基準に従い、ほぐれ性および食味を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0094】
(ほぐれ性の評価基準)
A:麺を箸で持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。
B:麺を箸で持ち上げて軽く振ると一部付着した麺線が残った。
C:麺を箸で持ち上げて軽く振ってもほぐれず、麺線が付着したままの状態であった。
【0095】
(食味の評価基準)
A:小麦粉の風味があった。
B:小麦粉の風味があるが、違和感のある味が少し残った。
C:小麦粉の風味とは異なる違和感のある味が強く残った。
【0096】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物無添加の対照例では食味に小麦粉の風味はあるものの食べづらく、麺は全くほぐれなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物は、ほぐれ性および食味ともに優れていた。実施例2および4は、実施例1および3と比較するとほぐれ性がやや劣るが、無添加の対照例と比較すると十分に改善された。比較例3および7はほぐれ性が改善されたが食味がやや劣った。比較例1~2および5~6では、ほぐれ性が改善されず、食味も劣るものとなった。
【0097】
(蒸気殺菌・茹で中華麺の製造および評価)
小麦粉(特ことぶき:日本製粉株式会社製)700g、加工でん粉(あさがお:松谷化工業株式会社製)300g、粉末グルテン(AグルG:グリコ栄養食品株式会社製)30gを予めポリ袋内で混合して、万能ミキサー(株式会社品川工業所製)に加え撹拌混合しながら、食塩10gおよびかん粉(炭酸ナトリウム:炭酸カリウム=40:60(質量比))15gを水360gに溶解し更に乳化組成物を20g加えて調製した水溶液を、8分間混合して調製した水溶液を徐々に投入して8分間混合し、そぼろ状の生地を得た。
【0098】
このそぼろ状の生地からロール式製麺機(株式会社福田麺機製)を用いて帯状の生地に製麺して、室温で1時間熟成させた。熟成後、厚さ1.5mmになるまで圧延し、切刃20番丸を用いて切断して生中華麺を得た。生中華麺を熱湯で90秒間茹で処理して、水道水で30秒間洗った後、約5℃の水に30秒間浸漬して、茹で中華麺を得た。
【0099】
乳化組成物を水で10倍に希釈した希釈液をスプレーボトルに充填して、茹で中華麺100gに対して希釈液5gを噴霧し、麺表面に均一に付与した。
【0100】
対照として、乳化組成物を添加しない茹で中華麺および乳化組成物を含まない水を茹で中華麺に対し同様に噴霧した。
【0101】
茹で中華麺を耐熱性のポリエチレン袋に100gを充填して密封後、90℃に温度調整した蒸し庫にて30分間の蒸気殺菌を実施した。室温まで放冷して、10℃で72時間保存した。保存後の茹で中華麺を袋から取り出して、水500gの入ったステンレス容器に麺を投入して、箸で麺をかき混ぜながらほぐれ性を評価した。評価基準に従い、ほぐれ性および食味を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0102】
(ほぐれ性の評価基準)
A:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が10秒未満であった。
B:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が10秒以上かつ20秒未満であった。
C:箸で麺を持ち上げて揺すりながら麺線の付着による塊がなくなる時間が20秒以上であった。
【0103】
(食味の評価基準)
A:小麦粉の風味があった。
B:小麦粉の風味があるが、違和感のある味が少し残った。
C:小麦粉の風味とは異なる違和感のある味が強く残った。
【0104】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物無添加の対照例では食味に小麦粉の風味はあるものの食べづらく、麺線の付着による塊が残り、麺はほぐれなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物は、ほぐれ性および食味ともに優れていた。実施例2および4は、実施例1および3と比較するとほぐれ性がやや劣るが、無添加の対照例と比較すると十分に改善された。比較例3および7はほぐれ性が改善されたが食味がやや劣った。比較例1~2および5~6では、ほぐれ性が改善されず、食味も劣るものとなった。
【0105】
(わらび餅の製造および評価)
わらび餅粉300gと水700gとの混合物を加熱し、混合物が透明になった時点で加熱をやめ、10等分して100gずつ成形型に入れ、冷却成形してわらび餅を得た。
【0106】
次いで、冷却成形したわらび餅を5つに切断し、乳化組成物を水で10倍に希釈した希釈液100gにこの5つのわらび餅を10秒間浸漬した。この5つのわらび餅を取り出して液切りした後、プラスチック容器にこれらのわらび餅がそれぞれ密着するように盛り付け、5℃にて24時間保存した。保存後、付着防止性を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0107】
(付着防止性の評価基準)
A:箸で容易に剥がすことができた。
B:箸で剥がすことができるが、やや粘着性を有していた。
C:わらび餅同士が密着して、形を保ったまま箸で剥がすことが困難であった。
【0108】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を添加しなかった対照例では、わらび餅同士が密着し、箸で剥がすことができなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物を用いた場合では、わらび餅を箸で容易に剥がすことができた。実施例2および4の各乳化組成物を用いた場合では、得られたわらび餅の表面が幾分粘着性を有していたものの、対照例と比較してわらび餅同士が付着した数は低下しており、付着防止性が十分に改善されていたことを確認した。
【0109】
(グミ菓子の製造および評価)
ステンレス容器に、水200gを入れ、70℃に加熱しながら、粉末水あめ300gおよび上白糖300gを加えて溶解させて糖度78に調整した。糖度調整した糖液に乳化組成物を10g添加して均一に分散させて、乳化組成物を含む糖液を調製した。次に水100gに粉末ゼラチン90gを加えてゼラチンを膨潤させて、70℃に加温しながら溶解させたゼラチン溶液を調製した。乳化組成物を含む糖液に先のゼラチン溶液を添加して混合し、さらにクエン酸(無水)5gと香料を適量加え混合してグミ溶液を調製した。グミ溶液を、プラスチック型枠(縦横2cm、高さ2cm)に充填し、蓋をした後に室温で24時間静置してグミ菓子を得た。
【0110】
保管後、型枠から楊枝を用いてグミを取り出す時の付着防止性を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0111】
(付着防止性の評価基準)
A:楊枝で型枠から容易に剥がすことができた。
B:楊枝で型枠から剥がすことができるが、やや付着していた。
C:型枠に密着して、楊枝で型枠から剥がすことが困難であった。
【0112】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を添加しなかった対照例では、グミ菓子が型枠に密着し、楊枝でこれを型枠から剥がすことができなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物を用いた場合では、グミ菓子を楊枝で容易に型枠から剥がすことができた。実施例2および4の各乳化組成物を用いた場合では、グミ菓子と型枠との間にやや付着が見られたものの、対照例と比較してグミ菓子が型枠に付着した数は低下しており、付着防止性が十分に改善されていたことを確認した。
【0113】
(焼餃子の製造および評価)
小麦粉(特ことぶき:日本製粉株式会社製)1000gを万能ミキサー(株式会社品川工業所製)に加え撹拌混合しながら、食塩10gを水360gに溶解し、さらに乳化組成物を20g添加して調製した水溶液を徐々に投入し、8分間混合することによりそぼろ状の生地を得た。そぼろ状の生地からロール式製麺機(株式会社福田麺機製)を用いて帯状の生地に製麺して、室温で1時間熟成させた。熟成後、厚さ1.0mmになるまで圧延した麺帯を、直径8.5cmの円柱状の金属製の筒で円形に打ち抜き、生餃子皮を得た。
【0114】
対照として、乳化組成物を添加しなかったこと以外は上記と同様にして作製した生餃子皮を得た。
【0115】
次いで、餃子皮に予め準備した具材10gを包み込みで生餃子を得た。生餃子を90℃に温度調整した蒸し庫内に入れ、15分間の蒸し処理を行い、蒸し餃子を得た。蒸し餃子6個を蓋つきのポリエチレン製の容器に蒸し餃子同士が密着するように充填した。密着状態の蒸した餃子を、植物油を引いた餃子用焼成器にて焼成し、焼餃子を得た。室温まで放冷した焼餃子の付着防止性を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0116】
(付着防止性の評価基準)
A:餃子を箸で持ち上げると容易に剥がれた。
B:餃子を箸で持ち上げると剥がせたが、餃子の一部分が他の餃子と付着していた。
C:餃子を箸で持ち上げても剥がれず、餃子同士が付着したままであった。
【0117】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を添加しなかった対照例では、餃子を箸で持ち上げても全く剥がれなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物を用いた場合では、餃子を箸で持ち上げると容易に剥がれた。実施例2および4の各乳化組成物を用いたでは、一部付着が見られたものの、対照例と比較して餃子の皮の付着性が低減され、付着防止性は改善されていたことを確認した。
【0118】
(茹ではるさめの製造および評価)
市販の乾燥はるさめ(翁はるさめ:森井食品株式会社製)を熱湯で5分間茹で処理を行い、水道水で30秒間洗った後、約5℃の水に30秒間浸漬して、茹ではるさめを得た。
【0119】
乳化組成物を水で10倍に希釈した希釈液をスプレーボトルに充填して、茹ではるさめ100gに対して希釈液5gを麺表面に噴霧し、均一に付与した後、ポリスチレン製の容器に充填および密封し、10℃で24時間保存した。また、対照として、乳化組成物を含まない水を茹ではるさめに対し同様に噴霧した。
【0120】
保存後の茹ではるさめのほぐれ性を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0121】
(ほぐれ性の評価基準)
A:はるさめを箸で持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。
B:はるさめを箸で持ち上げて軽く振ると、他のはるさめと一部付着したはるさめが残った。
C:はるさめを箸で持ち上げて軽く振ってもほぐれず、はるさめが付着したままの状態であった。
【0122】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を添加しなかった対照例では、はるさめを箸で持ち上げて軽く振っても全くほぐれなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物を用いた場合では、はるさめを箸で持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。実施例2および4の各乳化組成物を用いた場合では一部付着が見られたものの、対照例と比較してはるさめのほぐれ性が十分に改善されたことを確認した。
【0123】
(米飯の製造および評価)
市販の無洗米(新潟産コシヒカリ)300gを計量して、炊飯器(タイガーIH炊飯ジャー タイガー魔法瓶株式会社製)の窯へ加え、無洗米の重量に対して1.4倍量の水に乳化組成物を3g加えて調製した水溶液を窯へ投入した。スパチュラにて5回撹拌して無洗米と水溶液をなじませて、炊飯器の白飯モードにて炊飯した。炊飯完了後、窯を室温まで放冷して白飯を得た。対照として、乳化組成物を含まない白飯を同様に得た。
【0124】
炊飯した白飯を、直径60mm、高さ30mmの円柱状のカップ容器に充填して円柱状の白飯成型物を得た。白飯成型物のほぐれ性を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して以下の基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0125】
(ほぐれ性の評価基準)
A:白飯成型物の一部分を箸で持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。
B:白飯成型物の一部分を箸で持ち上げて軽く振るとほぐれたが、一部成型した状態で残った。
C:白飯成型物の一部分を箸で持ち上げて軽く振ってもほぐれず、成型したままの状態であった。
【0126】
結果を以下の表1および2に示す。乳化組成物を添加しなかった対照例では、箸で白飯を持ち上げて軽く振っても全くほぐれなかった。これに対し、実施例1および3の各乳化組成物を用いた場合では、箸で白飯を持ち上げて軽く振ると容易にほぐれた。実施例2および4の各乳化組成物を用いた場合では一部成型した状態で残るものの、対照例と比較して白飯の付着防止性が十分に改善されたことを確認した。
【0127】
【0128】
【0129】
(実施例3、実施例5および比較例11)
上記「乳化組成物の調製」に示した手順において、7000rpmでの撹拌時間をそれぞれ30分、60分または15分として乳化分散を行ったこと以外は実施例1と同様にして、油相(油滴)の平均粒子径が異なる乳化組成物を調製した。それぞれの平均粒子径は、475nm、105nmおよび1580nmであった(実施例3、実施例5および比較例11)。
【0130】
得られた各乳化組成物について、乳化組成物の外観を評価した。さらに、各乳化組成物を用いて、上記と同様にして茹でうどんを製造し、そして10名のパネラーにより当該うどんのほぐれ性および食味を10名のパネラーが各々官能的に評価し、各自の結果を集めて協議して上記基準のいずれか1つを選択することにより決定した。
【0131】
【0132】
実施例5の乳化組成物(油相(油滴)の平均粒子径が105nm)では、25℃の乳化安定性、官能評価(ほぐれ性、食味)において、実施例3の乳化組成物(油相(油滴)の平均粒子径が475nm)と同様の評価結果が得られた。
【0133】
比較例11の乳化組成物(油相(油滴)の平均粒子径が1580nm)では、7000rpmの乳化分散時の処理時間が、実施例3と比較して、半分の処理時間での調製が可能であった。しかし、比較例11の乳化組成物では、乳化安定性が不安定であり、官能評価による麺のほぐれ性および食味の評価を低下させるものであった。
【0134】
(実施例1および実施例3の乳化組成物の低温保管)
実施例1の乳化組成物および実施例3の乳化組成物を、それぞれ-3℃にて20日間をかけて低温保管した。実施例1の乳化組成物は、この低温保管により固化した。実施例3の乳化組成物は、低温保管においても固化せず、液状の特性を保持した。実施例3の乳化組成物は、この低温保管の場合であっても食品加工時の生産性に影響を及ぼさないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、例えば、食品の製造および調理加工、ならびに食品添加剤の製造の分野において有用である。