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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】パイロット式制御弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/42 20060101AFI20240904BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
F16K31/42 A
F16K31/06 305K
F16K31/06 305Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020177983
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022069046
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】100100365
【弁理士】
【氏名又は名称】増子 尚道
(72)【発明者】
【氏名】木船 仁志
(72)【発明者】
【氏名】森田 紀幸
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-115988(JP,A)
【文献】特開2019-183937(JP,A)
【文献】実開昭50-020239(JP,U)
【文献】特開2012-202443(JP,A)
【文献】特開平11-051238(JP,A)
【文献】特開2007-092826(JP,A)
【文献】特開2015-081632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/12 - 31/165
F16K 31/36 - 31/42
F16K 31/06 - 31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に主弁室を備え、側部に前記主弁室に開口する流入口が形成され、底部に前記主弁室に開口する流出口が形成され、前記主弁室に開口する弁口および主弁座を有する筒状の弁座部が前記流出口に備えられた弁本体と、
前記主弁室に備えられ、前記主弁座に着座した閉弁位置と前記主弁座から離間した開弁位置との間で前記主弁座に対して昇降動する主弁体と、
前記主弁体を昇降動させるパイロット弁と、
前記パイロット弁を駆動する電気的駆動装置と、
前記弁座部の周囲に配置されて前記主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねと
を備え、
前記開弁ばねについて前記流入口に近い側を前、前記流入口から遠い側を後とし、前記開弁ばねの底面部の前端部を当該底面部の後端部を中心として回転させて開弁位置にある前記主弁体の底面に当接させた状態を最大変位状態と称するときに、
前記最大変位状態のときに前記底面部の前端部が前記主弁座より外側に位置するようにしたパイロット式制御弁であって、
前記開弁ばねは、円筒状の全体形状を有し、
当該開弁ばねの外径をa、前記主弁座の外径をb、前記開弁ばねの底面部から開弁位置にある前記主弁体の底面までの距離をh、前記最大変位状態のときの前記底面部の前端部の回転角をθ、前記開弁ばねの線径をdとそれぞれしたときに、
0.5b<a×cosθ-0.5a-d
および
h=a×sinθ
の両式を満たす
ことを特徴とするパイロット式制御弁。
【請求項2】
前記最大変位状態のときに前記底面部の前端部が前記主弁座より外側に位置するように前記開弁ばねの底面部の高さ位置を設定した
請求項1に記載のパイロット式制御弁。
【請求項3】
前記開弁ばねは、円筒状の全体形状を有し、
前記最大変位状態のときに前記底面部の前端部が前記主弁座より外側に位置するように前記開弁ばねの径寸法を設定した
請求項1または2に記載のパイロット式制御弁。
【請求項4】
前記開弁ばねの軸線方向に関し前記主弁体に近い側を上、前記主弁体から遠い側を下としたときに、
前記開弁ばねは、下端部に、2巻以上の座巻巻線からなる底面座巻部を備え、
前記底面部は、当該底面座巻部の座巻巻線のうち最上部に位置する座巻巻線である
請求項1からのいずれか一項に記載のパイロット式制御弁。
【請求項5】
前記開弁ばねは、上端部に、前記底面座巻部と略同一巻数の座巻巻線からなる天面座巻部をさらに備えている
請求項に記載のパイロット式制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロット式制御弁に係り、特に、パイロット式制御弁において主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータによりパイロット弁を開閉駆動し、このパイロット弁の開閉に応動して主弁を開閉するようにしたパイロット式制御弁がエアコンや冷凍庫・冷蔵庫など冷媒回路を備えた冷凍サイクル装置に従来から使用されている。
【0003】
またこの種の制御弁では、ゼロ差圧でも主弁を確実に開弁させるために、主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねが備えられることがある。
【0004】
また、このような開弁ばねを備えたパイロット式制御弁を開示するものとして下記特許文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-92826号公報
【文献】特開2015-81632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような制御弁では、極めて稀なことではあるが、冷媒回路内の流体(冷媒)が不安定な状態となり、特に流体が液状態のときに開弁ばねに高い流体力がかかる場合がある。開弁ばねは、流入口に側面が面するように流入口に近接して配置されており、開弁時には流入口から主弁室に流入する流体が直接衝突するからである。
【0007】
このため、流体に押されて各巻線の流入口側(前側)の部分が流入口とは反対側(後側)の部分を中心として回転するように持ち上げられ、流入口側の巻線部分が主弁(主弁体と主弁座の間)に挟み込まれることがあった。そして、このような開弁ばねの挟み込みが生じると、主弁体が閉弁状態に戻らなくなり、あるいは主弁体や主弁座に傷が付いて弁漏れが生じることがある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、このような開弁ばねの主弁への挟み込みを防止する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係るパイロット式制御弁(以下、単に「制御弁」と言うことがある)は、内部に主弁室を備え、側部に主弁室に開口する流入口が形成され、底部に主弁室に開口する流出口が形成され、主弁室に開口する弁口および主弁座を有する筒状の弁座部が流出口に備えられた弁本体と、主弁室に備えられ、主弁座に着座した閉弁位置と主弁座から離間した開弁位置との間で主弁座に対して昇降動する主弁体と、主弁体を昇降動させるパイロット弁と、パイロット弁を駆動する電気的駆動装置と、弁座部の周囲に配置されて主弁体を開弁方向に付勢する開弁ばねとを備えた制御弁である。
【0010】
そして本発明に係る制御弁では、開弁ばねについて流入口に近い側を「前」、流入口から遠い側を「後」とし、開弁ばねの底面部の前端部を底面部の後端部を中心として回転させて開弁位置にある主弁体の底面に当接させた状態を「最大変位状態」と称するときに、最大変位状態のときに底面部の前端部が主弁座より外側に位置するようにした。
【0011】
なお、開弁ばねについて本発明が言う上記「底面部」は、より具体的には、開弁ばねが底面に座巻を備えていない場合には最下部に位置する(主弁体から最も遠い位置にある)巻線であり、開弁ばねが底面に座巻を備えている場合には当該座巻である。ただし、開弁ばねが底面側に2巻以上の座巻を備えている場合には、当該座巻を構成する座巻巻線のうち最上部に位置する(主弁体に最も近い位置にある)座巻巻線が上記「底面部」となる。これは、後に述べるように2巻以上の座巻を備えている場合には、座巻部が全体として一体となって回転し、底面座巻を構成する座巻巻線のうち最上部の座巻巻線の前端部が主弁体の底面に当接し且つ最も内側に入り込む(主弁体底面の中心に近い位置に変位する)こととなるからである。
【0012】
弁座部の周囲に配置される開弁ばねは、主弁室の側面に開口する流入口から流入する流体の力を側面から受けて変形することがあるが、この場合、流入口から弁口(主弁座)に向かって流れる流体によって各巻線の前端部(流入口に最も近い部分)が押し上げられ、各巻線の前端部が後端部(流入口から最も遠い部分)を中心として回転するように上方へ変位する。
【0013】
また、このような回転変位を伴う変形時には、下方に位置する巻線ほど回転量が大きくなり、このため、下方の巻線ほど前端部が主弁の内側に入り込む(主弁体の中心軸線に近い位置まで変位する)こととなる(図4参照)。また、このように回転変位する巻線の前端部が主弁の内側に最も入り込むのは最大量回転したとき、つまり主弁体の底面に当接したとき(最大変位状態)である。
【0014】
そこで、本発明では、最も下側に位置する巻線(底面部)に着目し、当該巻線の前端部が主弁体の底面に当接したときに主弁座より外側に位置するようにすることにより、開弁ばねが変形したときにも主弁体と主弁座との間に巻線が入り込むことがないようにする。これにより、主弁体と主弁座との間に開弁ばねが挟み込まれて主弁体や主弁座が傷付けられることを防ぐことが出来る。
【0015】
また、「最大変位状態のときに底面部の前端部が主弁座より外側に位置するようにする」より具体的な構造としては、例えば、次のような態様が考えられる。
【0016】
第一の態様では、最大変位状態のときに底面部の前端部が主弁座より外側に位置するように開弁ばねの底面部の高さ位置を設定しておく。つまり、従来の制御弁に比べ、開弁ばねの底面部が上方に(主弁体の底面に近い位置に)配置されるようにする。底面部の高さ位置を主弁体の底面に近づけるほど上述のように底面部が回転変位したときに前端部が主弁体底面の外側位置(主弁体の中心軸線から離れた位置)に当接することとなるからである。
【0017】
第二の態様では、開弁ばねが円筒状の全体形状を有し、最大変位状態のときに底面部の前端部が主弁座より外側に位置するように開弁ばねの径寸法を設定しておく。開弁ばねの径を大きくすればするほど底面部が回転変位したときに前記第一態様と同様に前端部が主弁体底面の外側位置に当接するからである。
【0018】
第三の態様では、開弁ばねが円筒状の全体形状を有し、開弁ばねの外径をa、主弁座の外径をb、開弁ばねの底面部から開弁位置にある主弁体の底面までの距離をh、最大変位状態のときの開弁ばねの底面部の前端部の回転角をθ、開弁ばねの線径をdとそれぞれしたときに、「0.5b<a×cosθ-0.5a-d」および「h=a×sinθ」の両式を満たすようにする。
【0019】
この第三の態様については、後の実施形態の説明の中で図5に基いて述べる。
【0020】
第四の態様では、開弁ばねの軸線方向に関し主弁体に近い側を「上」、主弁体から遠い側を「下」としたときに、開弁ばねが下端部に2巻以上の座巻巻線からなる底面座巻部を備え、当該底面座巻部の座巻巻線のうち最上部に位置する座巻巻線が前記底面部となるようにする。
【0021】
開弁ばねが2巻以上の底面座巻部を備える場合には、当該座巻部は、後述する第2実施形態(図6図7)で説明するように、全体として一体になって前記回転変位を起こし、当該座巻部を構成する巻線(座巻巻線)のうち最も上部の(主弁体の底面に近い位置にある)座巻巻線が主弁体の底面に当接することとなるからである。
【0022】
第五の態様では、開弁ばねが上端部に底面座巻部と略同一巻数の座巻巻線からなる天面座巻部をさらに備えるようにする。
【0023】
制御弁の製造時に、開弁ばねの上下を間違えて組み込んで本発明の効果を得ることが出来ない事態が生じることを防ぐためである。すなわち、底面と天面の両方に2巻以上の巻線からなる同様の座巻部を備えれば、開弁ばねの上下を反転させても前記第四の態様と同様の効果を得ることが出来るから、製造時に上下を気にすることなく迅速に開弁ばねを組み込むことができ、本発明に係る制御弁の製造効率を向上させることが出来る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、開弁ばねの主弁への挟み込みを防止することが出来るから、主弁体の不戻りを防ぎ、主弁体や主弁座が損傷を受け弁漏れが生じることを防ぐことが出来る。
【0025】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基いて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。なお、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係るパイロット式制御弁(閉弁状態)を示す縦断面図である。
図2図2は、前記第1実施形態に係るパイロット式制御弁(開弁状態)を示す縦断面図である。
図3図3は、前記第1実施形態に係るパイロット式制御弁の弁部(開弁状態/開弁ばねが変形していない状態)を拡大して示す縦断面図である。
図4図4は、前記第1実施形態に係るパイロット式制御弁の弁部(開弁状態/開弁ばねが変形した状態)を拡大して示す縦断面図である。
図5図5は、前記第1実施形態に係るパイロット式制御弁が満たす条件を説明するための弁部(開弁状態)の拡大縦断面図である。
図6図6は、本発明の第2の実施形態に係るパイロット式制御弁(開弁状態/開弁ばねが変形していない状態)を拡大して示す縦断面図である。
図7図7は、前記第2実施形態に係るパイロット式制御弁(開弁状態/開弁ばねが変形した状態)を拡大して示す縦断面図である。
図8図8は、本発明の第3の実施形態に係るパイロット式制御弁(開弁状態/開弁ばねが変形していない状態)を拡大して示す縦断面図である。
図9図9は、従来のパイロット式制御弁の弁部(開弁状態/開弁ばねが変形していない状態)を拡大して示す縦断面図である。
図10図10は、従来のパイロット式制御弁の弁部(開弁状態/開弁ばねが変形した状態)を拡大して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔第1実施形態〕
図1から図5に示すように、本発明の第1の実施形態に係るパイロット式制御弁11は、流体の流路を開閉(開放および遮断)する弁部12と、弁部12を駆動する電磁式アクチュエータ(電気的駆動装置)13とを備えたパイロット式電磁弁である。なお、各図には上下および前後方向を表す互いに直交する二次元座標を示しており、以下、これらの方向に基づいて説明を行う。
【0028】
弁部12は、内部に主弁室22を備えた弁本体21と、主弁室22内に昇降(上下動)可能に配置した主弁体31と、主弁体31を昇降動させるパイロット弁(後述するパイロット弁体36及びパイロット通路34)とを有する。また、弁本体21の側部(周壁の前側)には、主弁室22に開口する流入口23を形成し、主弁室22内に流体を流入させる流入管24を流入口23に設置してある。
【0029】
さらに、弁本体21の底部(下面)21aには、主弁室22に開口する流出口25を形成し、この流出口25に円筒状の弁座部27を弁本体21と一体に形成する。弁座部27は、主弁室22に開口する弁口28を有するとともに、弁本体21の底部21aから垂直に上方に延び、上面に主弁座29を備えている。そして、流出口25には、弁座部27の弁口28に連通して主弁室22から流体を流出させる流出管26を設置してある。なお、本実施形態では、弁座部27を弁本体21と一体に形成しているが、別部材として用意した弁座部27と弁本体21をろう付けなどで接合しても良い。
【0030】
主弁体31は、弁本体21に摺動可能に嵌挿した円柱状体で、金属製の外周部材32と外周部材32の中央部に嵌合させて、外周部材32の下端周縁をかしめることにより固定した断面凸形の樹脂製の内周部材33とからなり、内周部材33が弁座部27の主弁座29に着座および離脱できるようになっている。
【0031】
また、主弁体31の内周部材33の中央部を上下方向に貫通するようにパイロット通路34を形成する。このパイロット通路34は、主弁体31の上方に形成される背圧室35と流出管26内とを連通させるもので、後に述べるパイロット弁体36により開閉される。
【0032】
また、弁座部27の周囲には、主弁体31を開弁方向(上方)に付勢する開弁ばね51を備える。この開弁ばね51は、円筒状のコイルばねからなり、弁本体21の底部21aの内面(上面)に下端が、また主弁体31の底面に上端がそれぞれ当接するように圧縮した状態で主弁室22内に備えてある。また、開弁ばね51は上下各端部に座巻を有するが、上端部の座巻を「天面座巻」、下端部の座巻を「底面座巻」とそれぞれ称する(第2以降の実施形態においても同様)。開弁ばね51については後にさらに詳しく述べる。
【0033】
一方、主弁体31の上方に配置した電磁式アクチュエータ(図1及び図2参照)13は、コイル47と、吸引子(固定鉄心)48と、プランジャ(可動鉄心)42と、プランジャ42の下面に設置した球状のパイロット弁体36とを有する。なお、パイロット弁体36は、プランジャ42の下面に形成した保持穴43に下部を露出させた状態で収納し、保持穴43の下端周縁をかしめることにより固定してある。
【0034】
また、プランジャ42の上部には、縦穴44と、縦穴44に連通する均圧穴である横穴45とを形成し、縦穴44にプランジャ42を下方(閉弁方向)に付勢する閉弁ばね46を収容してある。閉弁ばね46は、コイルばねからなり、プランジャ42を介してパイロット弁体36を下方へ付勢する。
【0035】
プランジャ42は、コイル47と吸引子48との間にその上部が配置されたガイドパイプ41に摺動可能に嵌挿されている。ガイドパイプ41の上端は、吸引子48の外周段差部に溶接により固定してある。一方、ガイドパイプ41の下端には、外方に張り出したフランジ部41aを備え、フランジ部41aの外周部分が弁本体21の上部内周段差部に載置されている。ガイドパイプ41のフランジ部41aは、弁本体21の上端周縁を間にリング状部材37を挟んだ状態でかしめることにより固定されている。また、フランジ部41aの下面は、主弁体31の開弁方向(上方)への移動を規制するストッパ面となっており、主弁体31は開弁時に当該フランジ部41aの下面に当接することにより停止する。
【0036】
プランジャ42と主弁体31との間は背圧室35となっており、主弁体31が閉弁しているときには(図1参照)、流入管24から主弁室22に流入した流体は、主弁体31の外周部材32の外周面と、弁本体21の内周面との間を通って背圧室35に流入し、さらに背圧室35からプランジャ42の外周面とガイドパイプ41の内周面との間、横穴45および縦穴44を通って吸引子48とプランジャ42との間に形成される空間にも流入する。
【0037】
本実施形態の制御弁11の動作を述べれば次のとおりである。
【0038】
コイル47に通電されていない状態では、図1に示すように閉弁ばね46の付勢力によってプランジャ42とパイロット弁体36が下方に押圧され、パイロット弁体36がパイロット通路34を塞ぐとともに、主弁体31が主弁座29に押し付けられて弁口28を閉塞する。これにより、流入管24(流入口23)と流出管26(流出口25)は非連通状態となっている。
【0039】
一方、コイル47に通電されると、図2に示すように、閉弁ばね46の付勢力に抗して吸引子48がプランジャ42を吸着し、パイロット弁体36が上方へ移動する。これに伴い、主弁体31のパイロット通路34が開かれ、背圧室35の流体がパイロット通路34を通して流出管26に排出される。これにより背圧室35が減圧されるとともに、主弁体31が開弁ばね51の付勢力により上昇して主弁座29を離れ、主弁が開弁する。
【0040】
なお、この開弁動作で主弁体31は、上面が前記ガイドパイプ41のフランジ部41aの下面に当接することにより停止する。主弁が開かれると、流入管24と流出管26とが連通状態となり、流入口23から主弁室22に流入した流体は、弁口28に向け主弁室22内を流れ、弁座部27の中を通って流出口25から外部へ流出するようなる。
【0041】
ここで、上記のような開弁時の流体の流れに押されて開弁ばね51が押し上げられ、閉弁するときに主弁体31と主弁座29との間に巻線が挟み込まれて主弁体31が主弁座29に着座することが出来ずに閉弁できない事態(主弁座の不戻り)が生じ、あるいは主弁体31や主弁座29が傷付けられることがあった。そしてこの原因は、図9図10に示すように従来の制御弁では、開弁ばね51の特に底面座巻52の前端部52aが後端部52bを中心として回転するように押し上げられたときに、底面座巻前端部52aが主弁座29の外縁より内側(弁座部27の中心軸線寄り)に入り込んでしまうことにある(図9の符号P2参照)。
【0042】
そこで、本実施形態では、図3に示すように従来に比べて主弁室22を底上げし、つまり主弁室22の床面(弁本体21の底部21aの上面)を高くして底面座巻52が高い位置(主弁体31の底面に近い位置)に配置されるようにすることにより、底面座巻52が上記のように回転変位して当該座巻52の前端部52aが主弁体31の底面に当接した最大変位状態にあるときに(当接点を符号P1で示す)、当該座巻前端部52aが主弁座29の外縁より外側(流入口23寄り)に位置するようにした。
【0043】
このため、本実施形態に係る制御弁11では、流入口23から流入する流体によって底面座巻52の前端部52aが押し上げられても主弁体31と主弁座29との間に入り込むことがなく、開弁ばね51の挟み込みを防ぐことが出来る。したがって、開弁ばね51の挟み込みによる、主弁体31の不戻り、主弁体31や主弁座29の破損、ならびに、弁漏れの発生を防止することが出来る。なお、開弁ばね51の中間部の巻線の前端部も底面座巻前端部52aと同様に押し上げられるが、これら中間部の巻線は底面座巻52より上方にあるため、図4に示すように底面座巻前端部52aより内側に入り込むことはない。
【0044】
また、上記のように開弁ばね51が変形したときに底面座巻前端部52aが主弁座29の外縁より外側に位置するようにするためには、図5に示すように次の2つの式を満たすように各部の寸法を設定すれば良い。
【0045】
0.5b<a×cosθ-0.5a-d …(式1)
【0046】
h=a×sinθ …(式2)
【0047】
なお、上記各式で、「a」は開弁ばね51の外径を、「b」は主弁座29の外径を、「h」は開弁ばね51の底面部(底面座巻52)から開弁位置にある主弁体31の底面までの距離を、「θ」は最大変位状態のときの開弁ばね51の底面部(底面座巻52)の前端部52aの回転角を、「d」は開弁ばね51の線径をそれぞれ示す。
【0048】
〔第2実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るパイロット式制御弁は、前記第1実施形態の制御弁と同様に、電磁式アクチュエータによりパイロット弁(パイロット通路34)を開閉駆動し、このパイロット弁の開閉に応動して主弁を開閉するようにした制御弁で、主弁体31を開弁方向に付勢する開弁ばね53を備えるものであるが、開弁ばね53の構造と弁本体21の底面部21bの形状が第1実施形態と異なる。なお、以下の説明では、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して重複した説明を省略し、相違点を中心に述べる(後述の第3実施形態についても同様)。
【0049】
図6から図7に示すように本実施形態の制御弁では、前記従来(図9図10)と同一の弁本体21を使用しており、したがって弁本体21の底面部21bの形状が前記従来の制御弁と同じである。また、開弁ばね53は、第1実施形態と同様に円筒状のコイルばねであるが、底面座巻54が複数巻の巻線からなる。なお、図示の例では3巻であるが、例えば2巻または4巻以上としても良い。
【0050】
かかる底面座巻54は、前述したような回転変位を起こすときに、図7に示すように座巻54が全体として一体となって回転する。したがって本実施形態では、底面座巻54の最上部の座巻巻線について、その前端部54aが最大変位状態において前記第1実施形態と同様に主弁座29の外縁の外側に位置するようにする。これにより、主弁への開弁ばね53の挟み込みを防ぐことが出来る。
【0051】
また、前記式1および式2を利用する場合には、底面座巻54の最上部の座巻巻線を前記第1実施形態における底面部(底面座巻)であるとみなして式1および式2を適用すれば良い。すなわち、距離hは、底面座巻54の最上部の座巻巻線から開弁位置にある主弁体31の底面までの距離とし、回転角θは、最大変位状態(図7に示す状態)のときの底面座巻54の最上部の座巻巻線の前端部54aの回転角とする。
【0052】
本実施形態には、前記第1実施形態と同様に開弁ばね53の挟み込みによる、主弁体31の不戻り、主弁体31や主弁座29の破損、ならびに、弁漏れの発生を防止することが出来ることに加えて、開弁ばねの変更(開弁ばね53の使用)のみで、弁本体21については形状を変更することなく既存の弁本体21をそのまま利用することが出来る利点がある。
【0053】
〔第3実施形態〕
図8に示すように本発明の第3の実施形態に係るパイロット式制御弁は、前記第2実施形態の制御弁と同様に複数巻の巻線からなる底面座巻54を有する開弁ばね55を備えたものであるが、開弁ばね55が底面座巻54と同じ巻数の天面座巻56を備えている。
【0054】
このように同一巻数の座巻54,56を上下に備えた本実施形態によれば、制御弁の製造時に、上下を気にすることなく開弁ばね55を組み込むことが可能となるから、開弁ばね55の上下に関する設置ミスを防ぐことができ、効率的に歩留まり良く本発明に係る制御弁を製造することが可能となる。
【0055】
なお、底面座巻54の挙動(回転変位の状態)ならびに主弁への挟み込みを防止できる点は前記第2実施形態と同様であるから重複した説明を省略する。
【0056】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0057】
例えば、前記実施形態では典型的な例として電磁弁について述べたが、本発明は例えばモータにより駆動される電動弁等にも適用することが可能であり、本発明は必ずしも電磁弁に限定されるものではない。また、弁座部27を弁本体21と一体に形成したが、弁座部27と弁本体21とを別部材で構成することも可能である。
【0058】
さらに、本発明に係る制御弁は、典型的にはエアコンや冷凍庫・冷蔵庫など冷媒回路を備えた冷凍サイクル装置に好ましく使用することが出来るが、これらに限らず、他にも様々な用途に本発明に係る制御弁を用いることが可能である。したがって、本発明に言う「流体」には熱媒体(冷媒および熱媒)のほか、各種の液体や気体(ガス)が含まれる。
【符号の説明】
【0059】
11 パイロット式制御弁
12 弁部
13 電磁式アクチュエータ(電気的駆動装置)
21 弁本体
21a,21b 弁本体の底部
22 主弁室
23 流入口
24 流入管
25 流出口
26 流出管
27 弁座部
28 弁口
29 主弁座
31 主弁体
32 外周部材
33 内周部材
34 パイロット通路
35 背圧室
36 パイロット弁体
37 リング状部材
41 ガイドパイプ
41a フランジ部
42 プランジャ(可動鉄心)
43 保持穴
44 縦穴
45 横穴
46 閉弁ばね
47 コイル
48 吸引子(固定鉄心)
51,53,55 開弁ばね
52,54 底面座巻
52a 底面座巻の前端部
52b 底面座巻の後端部
56 天面座巻
P1,P2 底面座巻前端部の主弁体底面への当接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10