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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】アンカー器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/064 20060101AFI20240904BHJP
   A61B 17/11 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
A61B17/064
A61B17/11
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021509348
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012490
(87)【国際公開番号】W WO2020196336
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019054027
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥薗 徹
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-509175(JP,A)
【文献】特許第4456482(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2008/0228199(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0054913(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0021044(US,A1)
【文献】特表2004-533294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/064
A61B 17/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の組織を結合するためのアンカー器具であって、
長手方向軸を有する内側シャフトと、
互いに離間し、内側シャフトの外周面に固定位置で装着された第1外側部材及び第2外側部材と、
第1外側部材及び第2外側部材のそれぞれに形成された第1アンカー部及び第2アンカー部とを備え、前記第1アンカー部は、第2アンカー部に向かって延び第1外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、前記第2アンカー部は第1アンカー部に向かって延び第2外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、
第1外側部材は、第1端を有する第1外側シャフトを有し、第2外側部材は、第2端を有する第2外側シャフトを有し、
前記第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第1外側シャフトの長手方向軸に平行な、前記第2端から第1端へ向かう方向に外部からの圧力を加えられると、前記内側シャフトの長手方向軸に対して90°を超える位置に移動するか、及び/又は
前記第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第2外側シャフトの長手方向軸に平行な、前記第1端から前記第2端へ向かう方向に外部からの圧力を加えられると、前記内側シャフトの長手方向軸に対して90°を超える位置に移動する、アンカー器具。
【請求項2】
外部からの圧力を加えない状態において、第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して最大75°まで展開可能である請求項に記載のアンカー器具。
【請求項3】
第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームがそれぞれ第1外側部材及び第2外側部材の連続する一部である請求項に記載のアンカー器具。
【請求項4】
第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して0~10°の角度をなす収縮状態をとることが可能である請求項のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【請求項5】
自己拡張可能である請求項1又は2に記載のアンカー器具。
【請求項6】
第1外側部材及び第2外側部材がそれぞれ第1外側シャフト及び第2外側シャフトである請求項のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【請求項7】
前記第1アンカー部又は前記第2アンカー部が複数個設けられている請求項のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【請求項8】
アンカー器具が拡張した状態で、第1アンカー部の長尺状アンカーアームの先端と第2アンカー部の長尺状アンカーアームの先端が前記複数の組織と接触し、第1アンカー部と第2アンカー部の間の前記複数の組織を互いに密着させるよう作用する請求項のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【請求項9】
第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが第1外側シャフトの一部であり、第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが第2外側シャフトの一部である、請求項6に記載のアンカー器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の組織を結合するためのアンカー器具に関する。
【背景技術】
【0002】
胆嚢炎は胆嚢に炎症が起きる疾患であり、胆嚢炎は急性胆嚢炎と慢性胆嚢炎に分けられるが、国内の症例数は年に約10万件程度である。
【0003】
胆嚢炎の従来の治療方法としては、主に腹腔鏡下胆嚢摘出術、経皮経肝胆嚢ドレナージ及び胆嚢-十二指腸バイパス術が挙げられる。腹腔鏡下胆嚢摘出術は胆嚢の外科的切除により治療を完遂するものであるが、侵襲性が高く、術中及び術後の合併症の恐れがあり、適用できる患者が制限されている。経皮経肝胆嚢ドレナージ(Percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)は肝臓を介して胆嚢にドレナージチューブを留置し、胆嚢内に欝滞した胆汁を一定期間で排出する処置であり、高齢者、緊急患者、及び高リスク患者にも適用できるが、処置に痛みを伴う、チューブが閉塞したり抜けてしまうという問題がある。
【0004】
胆嚢-十二指腸バイパス術は消化器内視鏡により十二指腸-胆嚢をバイパスし、膿や胆石を除去する方法であり、経皮経肝ドレナージと比較して侵襲性が低く、処置時間が短く、適用範囲が広いという利点があるが、胆嚢と十二指腸にバイパスのための孔を開ける壁を胆嚢と十二指腸を互いに固定しないフリーな状態で行っているため、術中に穿孔した箇所から胆汁が漏れる場合があるという問題がある。
【0005】
PTGBD以外の保存的治療として、超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ (EUS-GBD) がある。近年では,少数ながらEUS-GBDの有効性を示す報告が散見される。EUS-GBDは、胆嚢摘出術のように全身麻酔を必要とせず静脈麻酔だけで処置を行える、PTGBDと比較して患者の疼痛が少ない、患者による自己抜去もない等の利点があり、Tokyo Guideline2018 (TG18) 治療選択肢として記載されている(非特許文献1)。しかしながら、EUS-GBDも胆嚢壁と胃壁又は十二指腸とを互いに固定しないフリーな状態で行っているため、医師の熟練を要し、ステント逸脱や胆汁漏による偶発症が認められるという問題がある。
【0006】
2つの組織を固定するための装置として、特許文献1には、中隔欠損を閉じる際に使用するためのデバイスであって、該デバイスは、長手軸を有する内側部分;該内側部分と一体に形成される第1および第2のフィンガーの組であって、該フィンガーは、前記軸から実質的に放射状に延びることができ、第1のフィンガーの組が径方向外側の端部でフィンガーの第2の組に接続されておらず、第1および第2の組は、該軸上で互いから離れて軸の距離だけ間隔を開けられている、第1および第2のフィンガーの組、及び、第1および第2のフィンガーの組の一方だけを覆うウェブを含む、デバイスが開示されている。
【0007】
特許文献2には、複数の組織層を結合するために用いる組織係止具であって、送出状態から展開状態へと拡がるように構成され、かつ固定部材を備えた基端部材と、送出状態から展開状態へと拡がるように構成された先端部材と、基端部材を先端部材に連結し、基端部材と先端部材との間に引張力を作用させる連結部材とを備え、前記組織係止具の末端部は連結部材に対して連結されて、基端部材の基端側に延び、基端側に引かれた時に連結部材の長さを調節し、前記固定部材は連結部材の外面に係合して、基端部材を連結部材に対して離脱可能に取り付け、展開状態にて、前記基端部材及び前記先端部材は、複数の組織層を係止することを特徴とする組織係止具が開示されている。
【0008】
特許文献3には、基部と複数の形状記憶アンカーアームとを含むアンカーであって、前記基部は略管形状を有し、中心線を有する内腔を画定すると共に、係留部を含んでなり、前記複数の形状記憶アンカーアームが、前記基部の中心軸と実質的に平行となるように前記基部に連結されてなり、前記複数の形状記憶アンカーアームの各々が、留置時に外転するように構成されるシャフト部と、当該シャフト部に連結されて支持される組織穿通点とを含んでなり、留置に際して、前記シャフト部の各々が前記基部の中心軸から外転する、アンカーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4767292号
【文献】特許第4456482号
【文献】特表2015-528732号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Journal of hepato-biliary-pancreatic sciences. 2018;25(1):87-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、引用文献1-3の装置ではいずれも、組織を固定するための複数のフィンガー又はアンカーアームをデバイス本体と一体に設ける場合、かかる複数のフィンガー又はアンカーアームは、デバイス本体の両端を切断することにより形成されている。組織を穿孔するときには複数のフィンガー又はアンカーアームの先端が接するため、組織の穿孔面が粗くなる等の問題がある。複数の組織を結合できる、異なる構成を有するアンカー器具が求められている。
【0012】
本発明が解決すべき課題は、低侵襲的かつ迅速に複数の組織を結合できるアンカー器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の態様を包含する。
項1.複数の組織を結合するためのアンカー器具であって、
長手方向軸を有する内側シャフトと、
互いに離間し、内側シャフトの外周面に固定位置で装着された第1外側部材及び第2外側部材と、
第1外側部材及び第2外側部材のそれぞれに形成された第1アンカー部及び第2アンカー部とを備え、前記第1アンカー部は、第2アンカー部に向かって延び第1外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、前記第2アンカー部は、第1アンカー部に向かって延び第2外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、
第1外側部材は、第1端を有する第1外側シャフトを有し、第2外側部材は、第2端を有する第2外側シャフトを有し、
前記第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第1外側シャフトの長手方向軸に平行な、前記第2端から第1端へ向かう方向に外部からの圧力を加えられると、前記内側シャフトの長手方向軸に対して90°を超える位置に移動するか、及び/又は
前記第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第2外側シャフトの長手方向軸に平行な、前記第1端から前記第2端へ向かう方向に外部からの圧力を加えられると、前記内側シャフトの長手方向軸に対して90°を超える位置に移動する、アンカー器具。
項2.外部からの圧力を加えない状態において、第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して最大75°まで展開可能である項1に記載のアンカー器具。
項3.第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームがそれぞれ第1外側部材及び第2外側部材の連続する一部である項1に記載のアンカー器具。
項4.第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して0~10°の角度をなす収縮状態をとることが可能である項1~3のいずれか一項に記載のアンカー器具。
項5.自己拡張可能である項1又は2に記載のアンカー器具。
項6.第1外側部材及び第2外側部材がそれぞれ第1外側シャフト及び第2外側シャフトである項1~5のいずれか一項に記載のアンカー器具。
項7.前記第1アンカー部又は前記第2アンカー部が複数個設けられている項1~6のいずれか一項に記載のアンカー器具。
項8.アンカー器具が拡張した状態で、第1アンカー部の長尺状アンカーアームの先端と第2アンカー部の長尺状アンカーアームの先端が前記複数の組織と接触し、第1アンカー部と第2アンカー部の間の前記複数の組織を互いに密着させるよう作用する項1~7のいずれか一項に記載のアンカー器具。
項9.第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが第1外側シャフトの一部であり、第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが第2外側シャフトの一部である、項6に記載のアンカー器具。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)本発明の第1実施形態のアンカー器具の側面図、(B)同アンカー器具の平面図を示す。
図2図1(A)の2-2線に沿ったアンカー器具の断面図を示す。
図3】収縮状態にある図1のアンカー器具の側面図を示す。
図4】(A)-(C)アンカー器具を用いた2つの組織の密着を説明する模式図を示す。
図5】(A)-(E)図1のアンカー器具を用いた2つの組織の結合手順を説明する模式図を示す。
図6】アンカーアームの別例を示す略端面図を示す。
図7】アンカーアームの別例を示す略端面図を示す。
図8】アンカー器具の別例を示す側面図を示す。
図9】アンカー器具の別例を示す側面図を示す。
図10】アンカー器具の別例を示す側面図を示す。
図11】アンカー器具の別例を示す側面図を示す。
図12】本発明の第2実施形態のアンカー器具の側面図を示す。
図13図12のアンカー器具の分解図を示す。
図14】収縮状態にある図12のアンカー器具の側面図を示す。
図15】ダイレータによる拡張処置。(A)透視画像、(B)模式図。
図16】アンカー器具の留置後の内視鏡像。
図17】ドレナージチューブの留置後の透視画像。矢印の位置に3つのアンカー器具が観察される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のアンカー器具の実施形態を図1~14に従って説明する。
【0017】
まず、本発明の第1実施形態のアンカー器具について説明する。
【0018】
図1(A)に示すように、複数の組織を結合するためのアンカー器具1は、長手方向軸を有する長尺状のシャフト2と、互いに離間し、各々がシャフト2に形成された第1アンカー部6及び第2アンカー部8とを備えている。第1アンカー部6は複数の長尺状アンカーアーム7を有し、第2アンカー部8は複数の長尺状アンカーアーム9を有する。なお、複数の組織を結合するとは、本発明のアンカー器具の第1アンカー部と第2アンカー部の間で複数の組織を接触状態で保持することを指す。
【0019】
第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7は、シャフト2の長手方向に沿った第1位置12と第2位置13との間でシャフト2を切り欠いた部分からなり、シャフト2の一部を構成する。また、第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9も、シャフト2の長手方向に沿った第1位置12と第2位置13との間でシャフト2を切り欠いた部分からなり、シャフト2の一部を構成する。第1位置12と第2位置13の間の距離dと、長尺状アンカーアーム7,9の各々の長さLは、2L≦dであることが好ましい。
【0020】
シャフト2の直径、シャフトの全長、距離d、長尺状アンカーアーム7,9の各々の長さLは使用箇所により変更可能であり、特に限定されない。例えば、シャフトの全長は10-50mm、距離dは8-45mm、長尺状アンカーアーム7,9の各々の長さLは1-20mmとすることができる。
【0021】
シャフト2の第1位置12及び第2位置13は、シャフト2の第1端4及び第2端5から離れている。つまり、シャフト2の第1端4と第1位置12の間には一定長さの第1端部14が存在し、シャフト2の第2端5と第2位置13の間には一定長さの第2端部15が存在する。
【0022】
第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7は、シャフト2の長手方向に延びるシャフト本体3の長手方向における第1位置12を基点として、第2アンカー部8に向かってシャフト2の長手方向軸から離れる方向に展開可能である。また、第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9は、シャフト2の長手方向に延びる第2位置13を基点として、第1アンカー部6に向かってシャフト2の長手方向軸から離れる方向に展開可能である。
【0023】
このため、図1(B)において理解されるように、シャフト2が拡張された構成を有する場合、つまり第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9のそれぞれが展開され、シャフト2の長手方向に延びるシャフト本体3から複数の長尺状アンカーアーム7,9が立ち上がっている場合、シャフト2には切り欠き孔10,11がそれぞれ存在する。
【0024】
シャフト2の材料は特に限定されず、例えば金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、生分解性樹脂、その他の医療グレード材料等を使用することができる。
【0025】
金属の例としてはステンレス鋼、金、白金、チタン、タンタル等が挙げられるがこれに限定されない。
【0026】
金属合金の例としてはニッケルチタン合金(ニチノール)、鉄-マンガン-ケイ素合金、コバルトクロム合金等が挙げられるがこれに限定されない。
【0027】
熱可塑性プラスチックの例としては、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、改質ポリエチレンテレフタレートグリコール、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フルオロポリマー(例えばフッ素化エチレンプロピレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリフッ化ビニリデン、ペルフルオロアルコキシ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0028】
生分解性樹脂としては、L体およびD体のポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、DL-ラクチド-co-ε-カプロラクトン(DL-PLCL)、ポリ(4-ヒドロキシブチレート)(P4HB)、ポリ(バレロラクトン)、ポリジオキサノン、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリ(エチレンテレフタラート)、酢酸セルロース(CDA)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
その他の医療グレード材料は、エラストマー有機ケイ素ポリマー、ポリエーテルブロックアミド又は熱可塑性コポリエーテル(PEBAX)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
高弾性の材料とする点で、シャフト2の材料はニッケルチタン合金(ニチノール)または熱可塑性プラスチックであることが好ましい。高い剛性又は圧縮抵抗性の点では、シャフト2の材料はニッケルチタン合金又はステンレス鋼であることが好ましい。形状記憶の点では、ニッケルチタン合金が好ましい。
【0031】
シャフト2は、外部からの圧力を加えない状態(解放状態、自由状態とも言う)では拡張された構成をとる自己拡張型シャフトであることが好ましい。自己拡張型シャフトはニチノール等を用いて製造することができる。シャフト2を自己拡張型シャフトとすることにより、第1実施形態のアンカー器具1は自己拡張可能な自己拡張型アンカー器具とすることができる。
【0032】
第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9が、シャフト2の長手方向軸に対して展開可能な角度θは、好ましくは最大90°であり、より好ましくは最大75°であり、さらに好ましくは最大45°である。θの角度が大きいほど、アンカー器具1の第1アンカー部6又は第2アンカー部7が組織を貫通した後で戻って抜けずに良好に維持されるが、θの角度が小さいほど、アンカー器具1の第1アンカー部6又は第2アンカー部7が組織を貫通した後で、アンカー器具1を組織から回収する際の組織の損傷を少なくすることができる。
【0033】
第1実施形態のアンカー器具1のシャフト2は2つのアンカー部6,8を備えており、図2に示すように、中空略円形の断面を四等分したその一つの弧の長さがアンカー部6,8の周方向の長さに対応する。
【0034】
アンカー器具1は、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9がシャフト2の長手方向軸に対して略平行な、収縮状態をとることが可能である。収縮状態において、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9は、好ましくはシャフト2の長手方向軸に対して0~10°の角度をなし、より好ましくは0~5°の角度をなし、さらにより好ましくはシャフト2の長手方向軸に対して0°をとることが可能である。
【0035】
シャフト2が自己拡張型シャフトである場合、アンカー器具1に圧力を加えるにつれて、シャフト2の長手方向軸に対して長尺状アンカーアーム7,9がとる角度が小さくなる。十分な圧力がシャフト2に加わると、図3に示すように、第1実施形態のアンカー器具1のシャフト2は、外部からの圧力を加えた場合に、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9がシャフト2の長手方向軸に沿った位置をとることができる。これは、長尺状アンカーアーム7,9がシャフト2の長手方向軸に対して0°の角度をなし、閉じたアンカーアーム7,9が切り欠き孔10,11に収容された状態である。
【0036】
第1実施形態のアンカー器具1は、シャフト2を金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、生分解性樹脂、その他の医療グレード材料等の公知の材料から製造し、第1アンカー部6及び第2アンカー部8を設けるシャフト2上の箇所を公知のレーザー加工装置等の切断手段で切断することにより製造することができる。
【0037】
次に、図4(A)-(C)を参照しながら、本発明の第1実施形態のアンカー器具1を用いて2つの組織を結合する処置の例について説明する。胆嚢壁と十二指腸壁の間をアンカー器具1により密着させる例を挙げる。
【0038】
図4(A)に胆嚢壁20と十二指腸壁22を示す。図4(B)に示すように、アンカー器具1は十二指腸壁22と胆嚢壁20を穿通し、アンカー器具1自体が拡張した状態で十二指腸壁22と胆嚢壁20を結合する。胆嚢壁20及び十二指腸壁22の複数個所(図では3箇所)をアンカー器具1で結合し、互いに固定した後、図4(C)に示すように、瘻孔24を形成する。この状態で胆汁を胆嚢から十二指腸へ排出させる。この構成によれば、瘻孔24を開ける作業を胆嚢壁20と十二指腸壁22とを互いに固定した状態で行っているため、瘻孔形成の操作が容易となり、また、瘻孔24を形成した箇所からの胆汁の漏出を抑制又は排除することができる。
【0039】
次に、図5(A)-(E)を参照しながら、本発明の第1実施形態のアンカー器具1を用いた2つの組織の結合手順の例をより詳しく説明する。なお、図5(B)-(E)ではアンカー器具1及び超音波内視鏡下針管26の動作を明確に示すため、超音波内視鏡25を省略している。
【0040】
まず、医師は、超音波内視鏡25を患者の口を経て消化管に挿入し、モニタで観察しながら消化管内を前進させる(図5(A))。十二指腸壁より、超音波内視鏡25にて胆嚢を描出し、超音波内視鏡下穿刺針の針管26を超音波内視鏡25内の鉗子チャネル内を通し、針管26により十二指腸壁22および胆嚢壁20を穿通する(図5(B))。針管26の先端が胆嚢壁20を貫通したら、スタイレット29等の押出部材を消化器内視鏡25の基端方向から先端方向へ矢印の方向へ前進させ、アンカー器具1を針管26内から外へ押し出す(図5(C))。押し出されたアンカー器具1の第1アンカー部6は弾性等により自律的に展開し、針管26を矢印の方向に引き戻した場合に、胆嚢壁20に形成された孔を介して戻ることが規制される(図5(D))。次に、針管26をさらに引き戻すと、アンカー器具1は完全に針管26から解放されて、アンカー器具1の第2アンカー部8も弾性等により自律的に展開する。アンカー器具1がこのように拡張した状態で、胆嚢壁20及び十二指腸壁22はアンカー器具1の第1アンカー部6と第2アンカー部8の間に保持され、互いに密着及び固定される(図5(E))。その後、針管26は消化器内視鏡25内に回収され、消化器内視鏡25は身体外部へ引き戻される。図5(A)-(E)の手順を繰り返して複数個所で胆嚢壁20と十二指腸壁22とを固定した後、図4(C)に示したように瘻孔24を形成し、排液チューブを留置することで、胆嚢内溶液を排出する。
【0041】
胆嚢から十二指腸への胆汁の排出が落ち着き、胆嚢の炎症が改善し、状態が落ちついた際に、消化器内視鏡25を再び消化管内をアンカー器具1の位置まで進め、消化器内視鏡25内に収容した鉗子、スネア等の公知の把持器具を消化器内視鏡25の先端から外へ前進させてアンカー器具1の第2アンカー部8を把持し、該把持器具を消化器内視鏡25の基先端方向へ引き戻し、アンカー器具1を消化器内視鏡25内へ回収する。
【0042】
本発明の第1実施形態のアンカー器具1の効果について説明する。
(1)第1実施形態のアンカー器具1によれば、従来の外科的手術と比較すると、低侵襲的かつ迅速に複数の組織を結合することができ、操作者の熟練を要しない。また、複数の組織の結合後の瘻孔形成等の手技がより容易となる。
(2)第1実施形態のアンカー器具1では、第1アンカー部6及び第2アンカー部8がシャフト2の第1位置12及び第2位置13で収束している。このため、第1実施形態のアンカー器具1を生体内(特に消化管内)で前進させるときや組織を貫通させるときに有利である。また、アンカー器具1を組織から引き抜いて回収する場合も、第2アンカー部8がアンカー器具1を引き抜く方向とは反対方向に展開しているため、回収が容易である。(3)第1実施形態のアンカー器具1がシャフト2という一つの部材から形成されているため、構成が簡単であり、低コストで製造することができる。
【0043】
以上、本発明の第1実施形態のアンカー器具1を説明したが、第1実施形態のアンカー器具1は以下のように変形が可能である。
・第1アンカー部6の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の長尺状アンカーアーム9の各々の数は2つに限定されない。例えば第1アンカー部6の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の長尺状アンカーアーム9の数は図6に示すように3つであってもよいし、図7に示すように4つであってもよいし、5つ以上であってもよい。
【0044】
図2,6,7に示した例では、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9の各々がシャフト2の断面を等分した一つの弧に対応して設けられていたが、長尺状アンカーアーム7,9はシャフト2の周方向に等間隔に設けられていなくてもよい。また、シャフト2における長尺状アンカーアーム7,9の周方向の長さと、隣接する長尺状アンカーアーム7の間のシャフト2の部分の周方向の長さとは一致しなくてもよく、シャフト2における長尺状アンカーアーム7,9の周方向の長さと、隣接する長尺状アンカーアーム7,9の間のシャフト2の部分の周方向の長さとは一致しなくてもよい。
【0045】
図8に示すように、アンカー器具1の第1端4及び第2端5を鋭利にしてもよい。このような構成によれば、組織へのアンカー器具1の穿通がより容易になる。
・アンカー器具1は非対称であってもよい。例えば図9に示すように、シャフト2の第1端4と第1位置12の間の第1端部14の長さと、シャフト2の第2端5と第2位置13の間の第2端部15の長さが異なっていてもよい。このような構成によれば、第1端4及び第2端5のうちの一方を、組織を穿通する側の先端とし、第1端4及び第2端5のうちの他方を、アンカー器具1の操作者に近い側の基端として区別することができる。
【0046】
・第1実施形態では第1アンカー部6の長尺状アンカーアーム7と第2アンカー部8の長尺状アンカーアーム9が対称な関係にあるが、第1アンカー部6の長尺状アンカーアーム7と第2アンカー部8の長尺状アンカーアーム9とを異なる大きさ及び/又は数にしてもよい。
図10に示すように、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7の各々の長さは異なっていてもよく、第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9の各々の長さも異なっていてもよい。
【0047】
・第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9は、シャフト2をレーザ加工装置等の切断手段等で切り欠いて構成されていたが、複数の長尺状アンカーアーム7及び8の成形方法は限定されない。
図11に示すように、第1アンカー部6はシャフト2に沿って複数個設けられていてもよいし、第2アンカー部8はシャフト2に沿って複数個設けられていてもよい。
・第1実施形態のシャフト2は中空であるが、シャフト2を中実にしてもよい。
・シャフト2に外部からの圧力を加えない状態では、第1アンカー部6の複数の長尺状アンカーアーム7及び第2アンカー部8の複数の長尺状アンカーアーム9の各々はシャフト2の長手方向軸に対して最大90°の角度θをとるが、長尺状アンカーアーム7,9に対し、長尺状アンカーアーム7,9の展開している方向から収束している方向(つまり、図1において長尺状アンカーアーム7にはシャフト2の長手方向軸に平行な第2端5から第1端4へ向かう方向、長尺状アンカーアーム9にはシャフト2の長手方向軸に平行な第1端4から第2端5へ向かう方向)に外部からの圧力を加えると、長尺状アンカーアーム7,9はθが90°を超える位置、好ましくはθが150~180°の位置に移動されるよう長尺状アンカーアーム7,9を構成してもよい。この場合、図5(E)に示すようにアンカー器具1が展開されて胆嚢壁20及び十二指腸壁22を固定した後、アンカー器具1を組織から引き抜いて回収するときに、第2アンカー部8がアンカー器具1を引き抜く方向とは反対方向に展開するだけでなく、第1アンカー部6も胆嚢壁20に当接してアンカー器具1を引き抜く方向とは反対方向に展開し、アンカー器具1の回収がより容易となる。
・第1実施形態のアンカー器具1の用途は胆嚢-十二指腸バイパス術に限定されない。例えば第1実施形態のアンカー器具1は、十二指腸以外の管腔臓器を含めて、管腔臓器と管腔臓器、管腔臓器と実質臓器、実質臓器と実質臓器、中皮と管腔臓器、中皮と実質臓器等の2つの組織の結合に使用することができる。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態のアンカー器具について説明する。なお、第1実施形態のアンカー器具と同じ部材については説明を省略する。
【0049】
図12及び図13に示すように、複数の組織を結合するためのアンカー器具100は、長手方向軸を有する内側シャフト101と、互いに離間し、内側シャフト101の外周面に装着された第1外側部材としての第1外側シャフト102及び第2外側部材としての第2外側シャフト103と、第1外側シャフト102及び第2外側シャフト103のそれぞれに形成された第1アンカー部106及び第2アンカー部108とを備え、第1アンカー部106は、第2アンカー部108に向かって第1外側シャフト102の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアーム107を有し、第2アンカー部108は、第1アンカー部106に向かって第2外側シャフト103の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアーム109を有する。
【0050】
第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107は第1外側シャフト102を切り欠いた部分からなり、第1外側シャフト102の一部を構成する。第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109も第2外側シャフト103を切り欠いた部分からなり、第2外側シャフト103の一部を構成する。
【0051】
第1外側シャフト102の第1位置112と第2外側シャフト103の第2位置113の間の距離dと、長尺状アンカーアーム107,109の各々の長さLは、2L≦dであることが好ましい。
【0052】
第2実施形態のアンカー器具100においても、外側シャフト102の第1位置112及び外側シャフト103の第2位置113は、外側シャフト102の第1端104及び外側シャフト103の第2端105から離れている。つまり、外側シャフト102の第1端104と第1位置112の間には一定長さの第1端部114が存在し、外側シャフト103の第2端105と第2位置113の間には一定長さの第2端部115が存在する。このため、アンカー器具100を生体内(特に消化管内)で前進させるときや組織を貫通させるときに有利である。
【0053】
内側シャフト101及び外側シャフト102,103の直径、内側シャフト101の全長、距離d、長尺状アンカーアーム107,109の各々の長さLは使用箇所により変更可能であり、特に限定されない。例えば、内側シャフト101の全長は10-50mm、距離dは8-45mm、長尺状アンカーアーム107,109の各々の長さLは1-20mmとすることができる。
【0054】
第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107は、シャフト102の長手方向における第1位置112を基点として、第2アンカー部108に向かってシャフト102の長手方向軸から離れる方向に展開可能である。また、第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109は、シャフト102の長手方向における第2位置113を基点として、第1アンカー部106に向かってシャフト103の長手方向軸から離れる方向に展開可能である。
【0055】
このため、図10において理解されるように、外側シャフト102,103が拡張された構成を有する場合、つまり第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109のそれぞれが展開され、外側シャフト102,103から複数の長尺状アンカーアーム107,109が立ち上がっている場合、外側シャフト102,103のそれぞれには切り欠き孔110,111がそれぞれ存在する。
【0056】
シャフト101,102,103の材料は特に限定されず、例えば金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、生分解性樹脂、その他の医療グレード材料等を使用することができる。このような材料は第1実施形態のアンカー器具1に関して説明した通りである。
【0057】
外側シャフト102,103は、外部からの圧力を加えない状態(解放状態、自由状態とも言う)では拡張された構成をとる自己拡張型シャフトであることが好ましい。自己拡張型シャフトはニチノール等を用いて製造することができる。外側シャフト102,103を自己拡張型シャフトとすることにより、第2実施形態のアンカー器具100は自己拡張可能な自己拡張型アンカー器具とすることができる。
【0058】
第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109が、外側シャフト102,103のそれぞれの長手方向軸に対して展開可能な角度θは、好ましくは最大90°であり、より好ましくは最大75°であり、さらに好ましくは最大45°である。θの角度が大きいほど、アンカー器具100の第1アンカー部106又は第2アンカー部107が組織を貫通した後で戻って抜けずに良好に維持されるが、θの角度が小さいほど、アンカー器具100の第1アンカー部106又は第2アンカー部107が組織を貫通した後で、アンカー器具100を組織から回収する際の組織の損傷を少なくすることができる。
【0059】
第2実施形態のアンカー器具100の外側シャフト102,103の各々はアンカー部106,108を備えており、中空略円形の断面を四等分したその一つの弧の長さがアンカー部6,8の周方向の長さに対応する。
【0060】
アンカー器具1は、第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109が外側シャフト102,103のそれぞれの長手方向軸に対して略平行な、収縮状態をとることも可能である。第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109は、内側シャフト101の長手方向軸、ならびに外側シャフト102,103のそれぞれの長手方向軸に対して0~10°の角度をなし、より好ましくは0~5°の角度をなし、さらにより好ましくは、内側シャフト101の長手方向軸、ならびに外側シャフト102,103のそれぞれの長手方向軸に対して0°をとることが可能である。
【0061】
外側シャフト102,103が自己拡張型シャフトである場合、アンカー器具1に圧力を加えるにつれて、外側シャフト102,103のそれぞれの長手方向軸に対して長尺状アンカーアーム107,109がとる角度が小さくなる。十分な圧力が外側シャフト102,103に加わると、図14に示すように、第2実施形態のアンカー器具100の外側シャフト102,103は、外部からの圧力を加えた場合に、第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109が内側シャフト101の長手方向軸、並びに外側シャフト102,103の長手方向軸に沿った位置をとることができる。これは、長尺状アンカーアーム107,109がシャフト102,103の長手方向軸に対して0°の角度をなし、閉じたアンカーアーム107,109が切り欠き孔110,111に収容された状態である。
【0062】
第2実施形態のアンカー器具100は、外側シャフト102,103を金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、生分解性樹脂、その他の医療グレード材料等の公知の材料から製造し、第1アンカー部106及び第2アンカー部108を設けるシャフト2上の箇所を公知のレーザー加工装置等の切断手段で切断することにより製造することができる。
【0063】
本発明の第2実施形態のアンカー器具100を用いて2つの組織を結合する処置、並びに本発明の第2実施形態のアンカー器具100を用いた2つの組織の結合手順の例については図4及び図5に説明した通りである。
【0064】
本発明の第2実施形態のアンカー器具100の効果について説明する。
【0065】
本発明の第2実施形態のアンカー器具100は、第1実施形態のアンカー器具1の上記の効果(1)及び(2)に加えて、以下の効果を有する。
【0066】
(4)本発明の第1実施形態のアンカー器具1の上記の効果(1)及び(2)に加えて、第2実施形態のアンカー器具100は内側シャフト101と、2つの外側シャフト102,103とから形成しているため、アンカー器具1の長手方向軸に沿った強度が増大する。
【0067】
(4)外側シャフト102,103の端面の全周に長尺状アンカーアーム107,109を形成することができるため、第1実施形態の長尺状アンカーアーム7,9と比較して、アンカーアーム7,9の数や面積を増大させることができる。
【0068】
以上、第2実施形態のアンカー器具100を説明したが、第2実施形態のアンカー器具100は以下のように変形が可能である。
・第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109の各々の数は2つ以上であれば限定されない。
・第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109の各々が第1外側シャフト102及び第2外側シャフト103の断面を等分した一つの弧に対応して設けられる代わりに、長尺状アンカーアーム107,109はシャフト2の周方向に等間隔に設けられていなくてもよい。また、シャフト102,103における長尺状アンカーアーム107,109の周方向の長さと、隣接する長尺状アンカーアーム107の間の第1外側シャフト102の部分の周方向の長さとは一致しなくてもよく、及び隣接する長尺状アンカーアーム109の間の第2外側シャフト103の部分の周方向の長さとも一致しなくてもよい。
【0069】
・内側シャフト101の両端、第1外側シャフト102の端104及び第2外側シャフト103の端105を鋭利にしてもよい。このような構成によれば、組織へのアンカー器具100の穿通がより容易になる。
・アンカー器具100は非対称であってもよい。第1外側シャフト102の端104と第1位置112の間の第1端部114の長さと、第2外側シャフト103の第端105と第2位置113の間の第2端部115の長さが異なっていてもよい。このような構成によれば、端104及び端105のうちの一方を、組織を穿通する側の先端とし、他方を、アンカー器具100の操作者に近い側の基端として区別することができる。
【0070】
・第1端部114と第2端部115を省略してもよいし、長尺状アンカーアーム107,109を連結できる限りシャフト以外の任意の形状の部材としてもよい。
・第1アンカー部106の長尺状アンカーアーム107と第2アンカー部108の長尺状アンカーアーム109を異なる大きさ及び/又は数にしてもよい。
・第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107の各々の長さは異なっていてもよく、第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109の各々の長さも異なっていてもよい。
【0071】
・第1アンカー部106は内側シャフト101に沿って複数個設けられていてもよいし、第2アンカー部108は内側シャフト101に沿って複数個設けられていてもよい。
・第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109は、それぞれ第1外側シャフト102及び第2外側シャフト103をレーザ加工装置等の切断手段等で切り欠いて構成されていたが、複数の長尺状アンカーアーム107及び108の成形方法は限定されない。
・内側シャフト101を中実にしてもよい。
・外側シャフト102,103に外部からの圧力を加えない状態では、第1アンカー部106の複数の長尺状アンカーアーム107及び第2アンカー部108の複数の長尺状アンカーアーム109の各々は外側シャフト102,103の長手方向軸に対して最大90°の角度をとるが、長尺状アンカーアーム107,109に対し、長尺状アンカーアーム107,109の展開している方向から収束している方向(つまり、図12において長尺状アンカーアーム107には外側シャフト102の長手方向軸に平行な第2端105から第1端104へ向かう方向、長尺状アンカーアーム109には外側シャフト103の長手方向軸に平行な第1端104から第2端105へ向かう方向)に外部からの圧力を加えると、長尺状アンカーアーム107,109はそれぞれ外側シャフト102,103の長手方向軸に対して90°を超える位置、好ましくはθが150~180°の位置に移動されるよう長尺状アンカーアーム107,109を構成してもよい。この場合、アンカー器具100が展開されて胆嚢壁20及び十二指腸壁22を固定した後、アンカー器具100を組織から引き抜いて回収するときに、第1アンカー部106及び第2アンカー部108のいずれもがアンカー器具1を引き抜く方向とは反対方向に展開し、アンカー器具100の回収がより容易となる。
・第2実施形態のアンカー器具100の用途は胆嚢-十二指腸バイパス術に限定されない。例えば第2実施形態のアンカー器具100は、十二指腸以外の管腔臓器を含めて、管腔臓器と管腔臓器、管腔臓器と実質臓器、実質臓器と実質臓器、中皮と管腔臓器、中皮と実質臓器等の2つの組織の結合に使用することができる。
【0072】
また、本発明は以下の構成を採用することもできる。
(1)複数の組織を結合するためのアンカー器具であって、長手方向軸を有するシャフトと、互いに離間し、各々がシャフトに形成された第1アンカー部及び第2アンカー部とを備え、第1アンカー部は、シャフトの第1位置を基点として第2アンカー部に向かってシャフトの長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、前記第2アンカー部はシャフトの第2位置を基点として第1アンカー部に向かってシャフトの長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有する、アンカー器具。
(2)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームがシャフトの連続する一部である(1)に記載のアンカー器具。
(3)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが前記第1位置と前記第2位置との間でシャフトを切り欠いた部分からなる(1)又は(2)に記載のアンカー装置。
【0073】
(4)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して0~10°の角度をなす収縮状態をとることが可能である(1)~(3)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(5)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対して最大45°まで展開可能である(1)~(4)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【0074】
(6)前記シャフトの第1位置及び第2位置が、シャフトの両端から離れている(1)~(5)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(7)自己拡張可能である(1)~(6)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(8)外部からの圧力を加えない状態において、第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対してなす角度が、好ましくは最大90°であり、より好ましくは最大75°、さらにより好ましくは最大45度である(7)に記載のアンカー器具。
【0075】
(9)前記シャフトが金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、又は生分解性樹脂を含む(1)~(8)のいずれかに記載のアンカー器具。
(10)管腔臓器と管腔臓器、管腔臓器と実質臓器、実質臓器と実質臓器、中皮と管腔臓器、中皮と実質臓器等の2つの組織の結合に使用される(1)~(9)のいずれかに記載のアンカー器具。
(11)(I)針管を超音波内視鏡内の鉗子チャネル内を通し、針管により2つの組織を穿通すること、及び(II)(1)~(10)のいずれかに記載のアンカー器具を針管内から外へ押し出してアンカー器具を展開し、それにより2つの組織を第1アンカー部と第2アンカー部の間に保持することを含む2つの組織の結合方法。
【0076】
(12)複数の組織を結合するためのアンカー器具であって、長手方向軸を有する内側シャフトと、互いに離間し、内側シャフトの外周面に装着された第1外側部材及び第2外側部材と、第1外側部材及び第2外側部材のそれぞれに形成された第1アンカー部及び第2アンカー部とを備え、前記第1アンカー部は、第2アンカー部に向かって第1外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有し、前記第2アンカー部は第1アンカー部に向かって第2外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能な複数の長尺状アンカーアームを有する、アンカー器具。
【0077】
(13)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームがそれぞれ第1外側部材及び第2外側部材の連続する一部である(12)に記載のアンカー器具。
(14)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームがそれぞれ第1外側部材及び第2外側部材を切り欠いた部分からなる(12)又は(13)に記載のアンカー器具。
(15)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第1外側部材及び第2外側部材のそれぞれの長手方向軸に対して0~10°の角度をなす収縮状態をとることが可能である(12)~(14)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(16)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、第1外側部材及び第2外側部材のそれぞれの長手方向軸に対して最大45°まで展開可能である(12)~(15)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(17)第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアームは、第1外側部材の第1位置を基点として、第2アンカー部に向かって第1外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能であり、第2案カー部の複数の長尺状アンカーアームは、第2外側部材の第2位置を基点として第1アンカー部に向かって第2外側部材の長手方向軸から離れる方向に展開可能であり、
第1外側部材の第1位置及び第2外側部材の第2位置は、第1外側部材の第1端及び第2外側部材の第2端からそれぞれ離れている(12)~(16)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
【0078】
(18)自己拡張可能である(12)~(17)のいずれか一項に記載のアンカー器具。
(19)外部からの圧力を加えない状態において、第1アンカー部の複数の長尺状アンカーアーム及び第2アンカー部の複数の長尺状アンカーアームが、シャフトの長手方向軸に対してなす角度が、好ましくは最大90°であり、より好ましくは最大75°、さらにより好ましくは最大45度である(18)に記載のアンカー器具。
(20)前記内側シャフト及び外側シャフトの各々が金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、又は生分解性樹脂を含む(12)~(19)のいずれかに記載のアンカー器具。
(21)管腔臓器と管腔臓器、管腔臓器と実質臓器、実質臓器と実質臓器、中皮と管腔臓器、中皮と実質臓器等の2つの組織の結合に使用される(12)~(20)のいずれかに記載のアンカー器具。
【0079】
(22)(I)針管を超音波内視鏡内の鉗子チャネル内を通し、針管により2つの組織を穿通すること、及び(II)(12)~(21)のいずれかに記載のアンカー器具を針管内から外へ押し出してアンカー器具を展開し、それにより2つの組織を第1アンカー部と第2アンカー部の間に保持することを含む2つの組織の結合方法。
【0080】
実施例
消化管壁同士をできるだけ簡便かつ強固に固定するため、本発明者は、複数の羽状の突起(アンカーアーム)を伴うシャフト状のアンカー器具を開発し、生体ブタ体内においてこのアンカー器具の機能を検証した。超音波内視鏡下胆嚢ドレナージ (EUS-GBD)の前処置としてアンカー器具により胆嚢壁と消化管壁を確実に固定することで、EUS-GBDの難易度と処置後の偶発症リスクを大幅に引き下げる術式を提案する。
【0081】
1.目的
EUS-GBDの前処置に使用できるアンカー器具を開発し、生体ブタの体内において胃壁と胆嚢壁の接着を試み,臨床応用への実現可能性、安全性について評価した。
2.方法
医療用のニッケルチタン合金を用いて、図1の実施形態に示すアンカー器具1を設計した。留置には生検針 (19ゲージ, 内径約0.9 mm) を想定しているため、その中にスムーズに挿入できるように直径0.84 mm, 長さ20mmのニッケルチタン合金製のパイプ材を使用し、レーザーカットにてアーム部の構造を形成した。
【0082】
次にアンカー器具を用いたEUS-GBDの前処置を述べる。まずコンベックス型のEUS(GF-UCT260,オリンパス社)を用いて、胃あるいは十二指腸より胆嚢を描出し、スタイレットを抜去したEUS-FNA用生検針(EZ Shot 3 Plus, オリンパス社)にて胃から胆嚢壁を穿刺する。アンカー器具を専用の補助具を用いて生検針の手元側から挿入し、スタイレットを用いて針先まで押し込む。胆嚢内にある生検針の先端において、アンカー器具の遠位側のアンカーアームが完全に展開したことを透視画面とEUS画面にて確認する。続いてEUS先端を押し当てたままで生検針をゆっくり引きアンカー器具の遠位側を胆嚢壁に接触させる。生検針を完全に引き抜くと近位側のアンカー器具のアンカーアームが展開する。同様の処置を合計2-3カ所で行うことで,胆嚢壁と胃壁をより強固に固定する。
【0083】
アンカー器具の留置後には、留置を行った部位に再度生検針を穿刺し、ガイドワイヤ(VisiGlide2, オリンパス社)を留置後にダイレータ(ESダイレータ, ゼオンメディカル社)による拡張を行い、ドレナージチューブ(ダブルピッグテイルチューブ, 7Fr, 150mm特注品 フォルテグロウメディカル株式会社)を留置した(図15(A))。説明のために図15(B)を参照すると、符号1(2つ図示)がアンカー器具、符号25が内視鏡、符号30がガイドワイヤ、符号32がダイレータ、符号40が胆嚢、符号42が胃壁である。
【0084】
動物実験は東北大学において動物実験委員会による審査承認を受け「東北大学における動物実験等に関する規程」に従って実施した.実験には体重38~42kgの家畜ブタ4頭を用いた。4頭に対して,上記のアンカー器具の留置を試み、処置の成功率、処置時間について検討した。4頭のうち2頭に対して,処置後17日と34日の飼育を行い長期安定性と安全性の評価を行った。
【0085】
3.結果
4頭のうち、1頭は胃壁から胆嚢を描出することができず、3頭に対して図3に示した手順で胆嚢と胃を接着するようにアンカー器具の留置を試みた。3頭全例において,アンカー器具の遠位側のアンカーアームが胆嚢内で展開したことをEUS像から視認できた(データ省略)。また生検針を引いて胆嚢壁を胃壁に引き寄せ、アンカー器具の留置を行った。留置後の内視鏡画像を図 16に示す。アンカー器具の近位側のアンカーアームが展開し、胃壁に留置されていることが視認された。3頭の平均処置時間は15.3分(13, 15, 18分)であった。
3頭のうち1頭については、さらにドレナージチューブの留置を行い、成功した(図17)。
【0086】
次に解剖による所見を述べる。ドレナージチューブの挿入まで行った1頭は同日に解剖を行い、アンカー器具により胆嚢壁と胃壁が固定されていることが確認できた(データ非図示)。34日飼育した一頭は、開腹胆嚢摘出術を行ったところ、摘出胆嚢と胃が4 cm2の面で接着しており、胆嚢壁を損傷せずに剥離が可能であった。一方、17日後に解剖した一頭は、アンカー器具の胆嚢壁側のアンカーアームが破損し、胆嚢と胃壁は接着されていなかった。実験後に飼育した2頭のうち1頭はアンカー器具により接着されており、50%の接着率であった。
【0087】
ブタの胆嚢を描出できた3例において、アンカー器具の留置が可能であり,生体内における展開動作に問題が無いことを確認した。ヒト胆嚢と比べて脆弱なブタ胆嚢においてアンカー器具の留置が可能であったことは、本器具の臨床応用の可能性を示している。
図1
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図16
図17