(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】光コネクタと、光コネクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/26 20060101AFI20240904BHJP
G02B 6/138 20060101ALI20240904BHJP
G02B 6/36 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
G02B6/26 301
G02B6/138
G02B6/36
(21)【出願番号】P 2021513716
(86)(22)【出願日】2020-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2020016139
(87)【国際公開番号】W WO2020209364
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2019075286
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】行川 毅
(72)【発明者】
【氏名】鐙 正大
(72)【発明者】
【氏名】狩野 悟史
(72)【発明者】
【氏名】小松 慧士郎
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0024295(US,A1)
【文献】特開2004-004487(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0154192(US,A1)
【文献】特開2010-145767(JP,A)
【文献】特表2017-507357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 -6/24
6/255-6/27
6/30 -6/34
6/36 -6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフェルールとn本(n:
4以上の自然数)の自己形成光導波路を備え、
フェルールはn本の光ファイバ挿入孔を備えると共に、各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられており、
各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、フェルール端面に丸みが形成され、
自己形成光導波路の端部が、各光ファイバに光学的に接続されている光コネクタであって、
前記自己形成導波路の
前記コア軸方向の一方の端部のコア間隔のバラツキは、前記自己形成導波路の
前記コア軸方向の他方の端部のコア間隔のバラツキより小さく、
前記他方の端部は前記フェルール端面と直接接
する光コネクタ。
【請求項2】
前記フェルールを2つ備えると共に、
2つの前記フェルールは対向配置され、2つの前記フェルール間に前記自己形成光導波路を備え、
2つの前記フェルールは共にn本の前記光ファイバ挿入孔を備えると共に、前記各光ファイバ挿入孔に前記光ファイバが挿入されて備えられており、
前記各光ファイバの前記各コア軸方向の角度と前記コア間隔にバラツキを有すると共に、
2つの前記フェルール端面に丸みが形成され、
n本の前記自己形成光導波路が、光の伝搬方向に対し直交方向で2つに分割されており、分割された各端面での前記自己形成光導波路のコア間隔が互いに同一である請求項1に記載の光コネクタ。
【請求項3】
光素子を更に備えると共に、光素子と前記フェルール間に前記自己形成光導波路を備える請求項1に記載の光コネクタ。
【請求項4】
前記自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の、前記フェルール側からの開始箇所が、隣どうしの前記自己形成光導波路で異なる請求項1~3の何れかに記載の光コネクタ。
【請求項5】
前記フェルールが、1つの割りスリーブで保持されている請求項1~4の何れかに記載の光コネクタ。
【請求項6】
前記nは4以上6以下の自然数である請求項1~
5の何れかに記載の光コネクタ。
【請求項7】
請求項1~
6の何れかに記載の光コネクタの製造方法であって、
少なくとも、n本(n:
4以上の自然数)の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられている2つのフェルールと、光硬化性樹脂を用意し、
2つのフェルールを互いに対向配置すると共に、フェルールの間に光硬化性樹脂を配置し、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、
一方のフェルール端面に丸みが形成されており、他方のフェルール端面には丸みが形成されていない事を確認し、
光硬化性樹脂の端部に、各光ファイバから光を入射し、光硬化性樹脂の端部をコア間隔で硬化させて光硬化性樹脂にコア間隔を転写し、光硬化性樹脂にn本の自己形成光導波路を形成して、自己形成光導波路の一端でのコア間隔のバラツキを、他端のコア間隔のバラツキよりも低く形成し、
クラッドを光硬化性樹脂の硬化により形成し、
他方のフェルールを自己形成光導波路から取り外して、一方のフェルールと自己形成光導波路から構成されるフェルール体を形成する光コネクタの製造方法。
【請求項8】
n本の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられている別のフェルールと、別の光硬化性樹脂を用意し、
更に取り外した前記他方のフェルールを使用して、請求項
7に記載の光コネクタの製造方法によって、別の自己形成光導波路を形成し、
別のフェルールと別の自己形成光導波路から構成される別のフェルール体を形成し、
前記自己形成光導波路と別の自己形成光導波路を光学的に接続する請求項
7に記載の光コネクタの製造方法。
【請求項9】
光素子を用意し、
前記自己形成光導波路と光素子を光学的に接続する請求項
7に記載の光コネクタの製造方法。
【請求項10】
前記自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の、前記一方のフェルール側からの開始箇所を、隣どうしの前記自己形成光導波路で異ならせると共に、隣どうしの前記自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の形成終了時間に時間差を設ける請求項
7~
9の何れかに記載の光コネクタの製造方法。
【請求項11】
前記n本の光ファイバから、前記光硬化性樹脂に光を同時に入射する請求項
7~
10の何れかに記載の光コネクタの製造方法。
【請求項12】
前記他方のフェルールに、予め離型剤を塗布する請求項
7~
11の何れかに記載の光コネクタの製造方法。
【請求項13】
前記フェルールを、1つの割りスリーブで保持する請求項
7~
12の何れかに記載の光コネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コネクタと、光コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを用いた光ケーブルは多量の情報の高速通信が可能なので、家庭用又は産業用の情報通信に利用されている。例えば自動車には各種電装品(例えばカーナビゲーションシステム等)が装備されており、これら電装品の光通信にも光ケーブルが使用されている。そして光ファイバの一端を、複数のフォトダイオード等の光素子と光学的に接続(光信号を伝達可能に接続)した光コネクタ(光導波路)や、複数の光ファイバの端部どうしを光学的に接続した光コネクタが種々提案されている。
【0003】
これら光コネクタとして、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1記載の光コネクタは、ピン付きフェルール(特許文献1では、「フェルール組立体」と記載)と孔付きフェルール(特許文献1では、「フェルール組立体」と記載)で構成されている。ピン付きフェルールは樹脂成形部品であり、基準となるガイドピンと、4つの光ファイバ挿入孔を有する。一方の孔付きフェルールも樹脂成形部品であり、ガイドピンが挿入されるガイドピン挿入孔と4つの光ファイバ挿入孔を有する。ピン付きフェルールのガイドピンが、孔付きフェルールのガイドピン挿入孔に挿入されて、2つのフェルールが面対向で突き合わせられ光学的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし実際製造されたフェルールには、各光ファイバ挿入孔の軸方向に角度のバラツキが生じる。更に、各光ファイバ挿入孔の中心点どうしの間隔にもバラツキが生じる。
【0006】
更にフェルールの端面に研磨加工を施すと端面が平面とならず、端面が丸み(研磨だれ)を帯びた形状に形成される。この丸みにより光素子とフェルールの間や、2つのフェルールの間に隙間が形成される。
【0007】
前記各バラツキにより、フェルールに挿入される各光ファイバの配列精度に狂いが生じる。またフェルール端面の丸みにより、接続するファイバ間に隙間(空隙)が生じて、所望の光素子-光ファイバ間又は所望の光ファイバどうしの光学的な接続が達成されず、接続損失が発生してしまう。
【0008】
一方で、前記接続損失を低減する為には、光素子に対するフェルールの各光ファイバの配列や、2つのフェルール間の各光ファイバどうしの配列に高い精度が求められる。しかし実際に作製されるフェルールには、前記各種バラツキや端面の丸みが不可避で発生する為、これらフェルールの使用を前提とすると前記配列の精度を高める事は困難であった。
【0009】
更にフェルールの回転方向の角度バラツキは、
図18(b)に示すようにフェルール外周側の光ファイバほど相対的に大きくなる。従って、位置ずれが大きくなり、光損失が増加する。
図18(a)に、従来の光コネクタで使用されるフェルールを示す。また
図18(b)には、
図18(a)に示すフェルールの光ファイバ挿入孔の本来の位置を実線円で示すと共に、角度バラツキに伴う各光ファイバ挿入孔のずれ位置を、破線で示す。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、各光ファイバ挿入孔の軸方向の角度バラツキや各光ファイバ挿入孔の中心点どうしの間隔のバラツキ、又は端面の丸みを有するフェルールの使用を許容しながらも、接続損失を容易に低減可能となる光コネクタと、その光コネクタの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の本発明により解決される。即ち、本発明の光コネクタは少なくともフェルールとn本(n:0を含まない自然数)の自己形成光導波路を備え、フェルールはn本の光ファイバ挿入孔を備えると共に、各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられており、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、フェルール端面に丸みが形成され、自己形成光導波路の端部が、各光ファイバに光学的に接続されている事を特徴とする。
【0012】
本発明の光コネクタの製造方法は、少なくとも、n本(n:0を含まない自然数)の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられている2つのフェルールと、光硬化性樹脂を用意し、2つのフェルールを互いに対向配置すると共に、フェルールの間に光硬化性樹脂を配置し、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、一方のフェルール端面に丸みが形成されており、他方のフェルール端面には丸みが形成されていない事を確認し、光硬化性樹脂の端部に、各光ファイバから光を入射し、光硬化性樹脂の端部をコア間隔で硬化させて光硬化性樹脂にコア間隔を転写し、光硬化性樹脂にn本の自己形成光導波路を形成して、自己形成光導波路の一端でのコア間隔のバラツキを、他端のコア間隔のバラツキよりも低く形成し、クラッドを光硬化性樹脂の硬化により形成し、他方のフェルールを自己形成光導波路から取り外して、一方のフェルールと自己形成光導波路から構成されるフェルール体を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光コネクタ及びその製造方法に依れば、取り外し前のフェルールによって、自己形成光導波路の一端が他端よりもコア間隔のバラツキが低い状態で自己形成光導波路が形成される。従って、一端に於ける自己形成光導波路とフェルール内の光ファイバとの接続損失を低減する事が出来る。更に、各光ファイバ挿入孔の軸方向の角度バラツキや中心点どうしの間隔のバラツキ、又は端面の丸みを有するフェルールの使用を許容しながらも、自己形成光導波路を備えて各光ファイバと自己形成光導波路の端部とを確実に接続可能とし、接続損失を容易に低減可能であると共に、光コネクタの歩留まり向上とそれに伴う製造コストの低減が可能となる。
【0014】
更に、取り外したフェルールをマスターフェルールとして別の光コネクタの製造工程へと繰り返し使用して行く事が出来る。各種バラツキや丸みの小さい高精度なフェルールを取り外し繰り返し使用する事で、自己形成光導波路の端部を取り外したフェルールが有する高精度な一定のコア間隔で製造する事が可能になる。従って、マスターフェルールによって同一コア間隔で複製された自己形成光導波路の端部どうしで光学的な接続を行うので、この点でも光コネクタの接続損失を容易に低減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態1に係る光コネクタの模式図である。
【
図2】
図1の光コネクタの、フェルールの一部と自己形成光導波路及びクラッドを切断した部分断面図である。
【
図3】実施形態1の光コネクタに使用されるフェルールを模式的に示す斜視図である。
【
図4】本発明の光コネクタに備えられるフェルールの光ファイバ挿入孔の、軸方向の角度バラツキを模式的に示す説明図である。
【
図5】実施形態1の光コネクタに使用されるフェルールの端部を模式的に示す説明図である。
【
図6】本発明の光コネクタに使用されるフェルールと、その端面の形状を示す説明図である。
【
図7】本発明に係る光コネクタの自己形成光導波路を示す部分拡大説明図である。
【
図8】本発明の光コネクタに使用される割りスリーブを示す斜視図である。
【
図9】
図2の光コネクタが、
図8の割りスリーブを備えた状態を示す部分断面図である。
【
図10】本発明の実施形態1に係る光コネクタの製造方法を模式的に示す部分断面図である。
【
図11】
図10に示す製造方法で用いられる、他方のフェルールの端部を模式的に示す説明図である。
【
図12】本発明の実施形態2に係る光コネクタの模式図である。
【
図13】本発明の実施形態2に係る光コネクタの製造方法を模式的に示す部分断面図である。
【
図14】本発明に係る光コネクタに使用されるフェルール端面の変更例を示す部分説明図である。
【
図15】本発明に係る光コネクタに使用されるフェルール端面の他の変更例を示す部分説明図である。
【
図16】本発明に係る光コネクタに使用されるフェルール端面の他の変更例を示す部分説明図である。
【
図17】本発明の光コネクタに使用されるフェルールの変更例に示す斜視図である。
【
図18】従来の光コネクタで使用されるフェルールと、その回転方向の角度バラツキの状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態の第一の特徴は、少なくともフェルールとn本(n:0を含まない自然数)の自己形成光導波路を備え、フェルールはn本の光ファイバ挿入孔を備えると共に、各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられており、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、フェルール端面に丸みが形成され、自己形成光導波路の端部が、各光ファイバに光学的に接続されている光コネクタである。
【0017】
本実施の形態の第二の特徴は、フェルールを2つ備えると共に、2つのフェルールは対向配置され、2つのフェルール間に自己形成光導波路を備え、2つのフェルールは共にn本の光ファイバ挿入孔を備えると共に、各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられており、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、2つのフェルール端面に丸みが形成され、n本の自己形成光導波路が、光の伝搬方向に対し直交方向で2つに分割されており、分割された各端面での自己形成光導波路のコア間隔が互いに同一である光コネクタである。
【0018】
本実施の形態の第三の特徴は、光素子を更に備えると共に、光素子とフェルール間に自己形成光導波路を備える光コネクタである。
【0019】
これらの構成に依れば、取り外し前のフェルールによって、自己形成光導波路の一端が他端よりもコア間隔のバラツキが低い状態で自己形成光導波路が形成される。従って、一端に於ける自己形成光導波路とフェルール内の光ファイバとの接続損失を低減する事が出来る。更に、各光ファイバ挿入孔の軸方向の角度バラツキや中心点どうしの間隔のバラツキ、又は端面の丸みを有するフェルールの使用を許容しながらも、自己形成光導波路を備えて各光ファイバと自己形成光導波路の端部とを確実に接続可能とし、接続損失を容易に低減可能であると共に、光コネクタの歩留まり向上とそれに伴う製造コストの低減が可能となる。
【0020】
本実施の形態の第四の特徴は、少なくとも、n本(n:0を含まない自然数)の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられている2つのフェルールと、光硬化性樹脂を用意し、2つのフェルールを互いに対向配置すると共に、フェルールの間に光硬化性樹脂を配置し、各光ファイバの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、一方のフェルール端面に丸みが形成されており、他方のフェルール端面には丸みが形成されていない事を確認し、光硬化性樹脂の端部に、各光ファイバから光を入射し、光硬化性樹脂の端部をコア間隔で硬化させて光硬化性樹脂にコア間隔を転写し、光硬化性樹脂にn本の自己形成光導波路を形成して、自己形成光導波路の一端でのコア間隔のバラツキを、他端のコア間隔のバラツキよりも低く形成し、クラッドを光硬化性樹脂の硬化により形成し、他方のフェルールを自己形成光導波路から取り外して、一方のフェルールと自己形成光導波路から構成されるフェルール体を形成する光コネクタの製造方法である。
【0021】
本実施の形態の第五の特徴は、n本の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられている別のフェルールと、別の光硬化性樹脂を用意し、更に取り外した他方のフェルールを使用して、前記記載の光コネクタの製造方法によって、別の自己形成光導波路を形成し、別のフェルールと別の自己形成光導波路から構成される別のフェルール体を形成し、自己形成光導波路と別の自己形成光導波路を光学的に接続する光コネクタの製造方法である。
【0022】
本実施の形態の第六の特徴は、光素子を用意し、自己形成光導波路と光素子を光学的に接続する光コネクタの製造方法である。
【0023】
これらの構成及び製造方法に依れば、前記効果に加えて、取り外したフェルールをマスターフェルールとして別の光コネクタの製造工程へと繰り返し使用して行く事が出来る。各種バラツキや丸みの小さい高精度なフェルールを取り外し繰り返し使用する事で、自己形成光導波路の端部を取り外したフェルールが有する高精度な一定のコア間隔で製造する事が可能になる。従って、マスターフェルールによって同一コア間隔で複製された自己形成光導波路の端部どうしで光学的な接続を行うので、この点でも光コネクタの接続損失を容易に低減可能となる。
【0024】
本実施の形態の第七の特徴は、他方のフェルールに、予め離型剤を塗布する光コネクタの製造方法である。
【0025】
この製造方法に依れば、離型剤の塗布により、フェルールの取り外しの際に自己形成光導波路の端部を欠損させること無く、フェルールを自己形成光導波路から円滑に取り外すことが可能となる。
【0026】
本実施の形態の第八の特徴は、自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の、フェルール側からの開始箇所が、隣どうしの自己形成光導波路で異なる光コネクタである。
【0027】
本実施の形態の第九の特徴は、自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の、一方のフェルール側からの開始箇所を、隣どうしの自己形成光導波路で異ならせると共に、隣どうしの自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の形成終了時間に時間差を設ける光コネクタの製造方法である。
【0028】
これらの構成及び製造方法に依れば、各光ファイバ挿入孔の軸方向の角度バラツキや中心点どうしの間隔のバラツキを有するフェルールの使用を許容しながらも、隣り合う自己形成光導波路どうしの光学的な接続を防止出来る為、光コネクタの接続損失を容易に低減出来る。
【0029】
本実施の形態の第十の特徴は、フェルールが1つの割りスリーブで保持されている光コネクタである。
【0030】
また本実施の形態の第十一の特徴は、フェルールを1つの割りスリーブで保持する光コネクタの製造方法である。
【0031】
これらの構成及び製造方法に依れば、割りスリーブの内径部を基準面として光コネクタを形成する事が出来るので、フェルールの位置出しが容易になる。
【0032】
本実施の形態の第十二の特徴は、n本の光ファイバから、光硬化性樹脂に光を同時に入射する光コネクタの製造方法である。
【0033】
この製造方法に依れば、n本の光ファイバから光硬化性樹脂に出射する光に時間差を設ける必要が無いので、光コネクタの製造コストの低減と歩留まりの向上を図る事が出来る。
【0034】
以下、本発明に係る実施形態1を
図1~
図11を参照しながら、また実施形態2を
図12~
図13を参照しながら、それぞれ説明する。最初に、実施形態1の光コネクタ1と実施形態2の光コネクタ11の共通構造を、以下に説明する。
【0035】
両実施形態とも、少なくともフェルール2と、n本の自己形成光導波路5a~5d(以下、光導波路5a~5dと記載)を備える。nは0を含まない自然数であり、各図で示す実施形態ではn=4本である。また実施形態1では、更にフェルール3を備える。なお各図のZ軸方向は、フェルール2又は3の長手方向であり、各図で共通方向である。n本の光導波路5a~5dの周囲には、クラッド7が形成されている。
【0036】
フェルール2はn本の光ファイバ挿入孔2aを備えると共に、各光ファイバ挿入孔2aに光ファイバ4a~4dが挿入されて備えられている。なおフェルール3にもn本の光ファイバ挿入孔3aが備えられ、各光ファイバ挿入孔3aに光ファイバ4a~4dが挿入されて備えられている。
【0037】
フェルール2又は3はジルコニア(ZrO
2)製で、外形形状が
図3又は
図5に示す円形、若しくは図示しない四角形に成形可能である。円形の外径は約1.25mm~2.5mmとする。四角形では長辺を約1.25mm~2.5mmとし、短辺は長辺以下の寸法とする。
【0038】
また光ファイバ挿入孔2a、3a(以下、孔2a、3aと記載)の数は4つ又は6つで、孔径は挿入される光ファイバ4a~4dの前記種類を考慮し、0.125mm(125μm)よりも若干大きく且つ約0.2mm以下とする。孔2a、3aの配置は、4つの場合は
図3又は
図5に示す1列×4孔か、
図17(a)に示す2列×2孔とする。また6つの場合は
図17(b)に示す正六角形の頂点に孔2a、3aを配置する。各孔2a、3aどうしの中心点間隔は、約0.25mm~0.45mmとする。
【0039】
各光ファイバ4a~4dは、図示しないコアの周りをクラッドが包囲する型式であり、シングルモード又はマルチモードで、ステップインデックス又はグレーデッドインデックスファイバの何れかである。更に、各光ファイバ4a~4dはガラス又はプラスチック製である。クラッドの外径はシングルモード光ファイバの場合0.125mm(125μm)である。なお、1550nm帯シングルモードファイバのモードフィールド径は10.5μmである。
【0040】
本発明では、
図4より各孔2aの軸方向(Z軸方向)に於ける角度バラツキθ1やθ2を許容する。更に、
図5より各孔2aの中心点どうしの間隔2c1~2c3のバラツキや、
図6よりフェルール2の端面2bの丸みの存在を許容する。フェルール2の端面全体には、研磨加工に伴い丸みが形成される。これはフェルール3の端面3bでも同様である。
【0041】
実施形態1では更に、各孔3aの軸方向(Z軸方向)に於ける角度バラツキθ1やθ2、各孔3aの中心点どうしの間隔3c1~3c3のバラツキも許容する。従って孔2a、3aに挿入される光ファイバ4a~4dの各コア軸方向の角度とコア間隔にはバラツキを有する。
【0042】
各光導波路5a~5dの一方の端部は、それぞれフェルール2の各光ファイバ4a~4dに光学的に接続されている。実施形態1では更に各光導波路5a~5dの他方の端部が、フェルール3の各光ファイバ4a~4dに光学的に接続されている。
【0043】
更に、
図10、
図11、及び
図13より実施形態1と2は共に、以下の製造方法を共通工程として有する。
【0044】
両実施形態の製造方法とも、最初に少なくとも2つのフェルール2及び13と、光硬化性樹脂10を用意する。フェルール13にもn本の光ファイバ挿入孔13a(以下、孔13aと記載)を備えると共に、各光ファイバ挿入孔13aに光ファイバ4a~4dが挿入されて備えられている。
【0045】
各孔13aの軸方向(Z軸方向)に於ける角度にも、角度バラツキθ1やθ2の存在を許容すると共に、
図11に示すように各孔13aの中心点どうしの間隔13c1~13c3のバラツキも許容する。従って孔13aに挿入される光ファイバ4a~4dの各コア軸方向の角度とコア間隔にもバラツキを有する。但し、(間隔13c1~13c3のバラツキ)<(間隔2c1~2c3のバラツキ)とする。更に、各孔13aの角度バラツキθ1やθ2及び間隔13c1~13c3のバラツキは、光コネクタ1又は11の規格内に収まっている事を確認する。
【0046】
なお、フェルール13の端面13bは、
図10に示すように丸みが形成されていない平面形状に形成されている。(間隔13c1~13c3のバラツキ)<(間隔2c1~2c3のバラツキ)であるフェルール13の端面13bの外側面を、図示しない専用の冶具を用い平面研磨加工を施して、端面13bに丸みが発生しないように製造する。一方、端面2bは丸みによって平面状態からより大きく歪んでいると判断出来る。
【0047】
光硬化性樹脂10はクラッド選択重合型であり、材料は2種類以上のモノマーから成る混合液に光重合開始剤を添加した溶液である。光重合開始剤が感度を有する波長帯の光が入射されることで重合硬化し、ポリマーとなる。前記の通り本発明では、各孔2a、13aの角度バラツキθ1、θ2や、間隔2c1~2c3又は13c1~13c3のバラツキ、端面2bの丸みを許容している。従って、フェルール2の各光ファイバ4a~4dの各コア軸方向の角度とコア間隔にバラツキを有すると共に、端面2bに丸みが形成されている事が確認される。他方のフェルール13の端面13bには、前記の通り丸みが形成されていない事を確認する。
【0048】
次に、2つのフェルール2及び13の間に光硬化性樹脂10を配置する事で、端面2bと13bに光硬化性樹脂10を配置する。次に、光硬化性樹脂10の端部に各光ファイバ4a~4dから光を入射し、光硬化性樹脂10の端部を光ファイバ4a~4dのコア間隔(即ち、前記2c1~2c3及び13c1~13c3の各間隔)で重合硬化させる。この重合硬化により光硬化性樹脂10の端部に、コア間隔(2c1~2c3及び13c1~13c3)が転写される。光硬化性樹脂10を重合硬化させる光の波長λwは光重合開始剤に応じて任意に設定可能であるが、一例として365nm~1675nmである。
【0049】
転写後、更に光ファイバ4a~4dから光硬化性樹脂10に光を入射継続する事で、光硬化性樹脂10にn本の光導波路5a~5dを形成する。光導波路5a~5dのコア径は、光ファイバ4a~4dのコア径と同一とする事が望ましく、且つ、各光導波路5a~5dの光軸方向で一様な直径が望ましい。光導波路5a~5dのモードフィールド径はシングルモードファイバと同一(10.5μm)とする。
【0050】
前記の通り、(間隔13c1~13c3のバラツキ)<(間隔2c1~2c3のバラツキ)である。従って、光導波路5a~5dの一端(フェルール13との接続端部)でのコア間隔13c1~13c3のバラツキは、他端(フェルール2との接続端部)のコア間隔2c1~2c3のバラツキよりも低く形成される。
【0051】
次に、クラッド7を形成する。クラッド7は、クラッド選択重合型により形成される。光導波路5a~5dでは、波長λwに対して少なくとも1種類のモノマーが重合反応する。この結果、硬化したコア領域中には混合液中と同程度の濃度で重合反応しなかったモノマー成分が未反応モノマーとして分散する。同時に、コア領域中では一方のモノマーのみが消費されて重合するので、コアとクラッドとの境界面ではモノマーの濃度勾配が生じ、相互拡散が進行し、クラッドの機能を果たす。最後に、光硬化性樹脂10全体を紫外線照射(UV照射)することで、コア及びクラッド7全体が硬化形成されて、光導波路5a~5dが得られる。
【0052】
次に
図10(d)に示すように、フェルール13を光導波路5a~5dから取り外して、フェルール2と光導波路5a~5dから構成されるフェルール体14を形成する。
【0053】
取り外したフェルール13は、マスターフェルールとして別のフェルール体の製造工程へと繰り返し使用して行く。前記各種バラツキが小さく、端面13bが平面で歪みの無い高精度なフェルール13を取り外して繰り返し使用する事で、光導波路5a~5dの端部をフェルール13が有する高精度な一定のコア間隔(13c1~13c3)でフェルール体14を複製する事が可能になる。
【0054】
以上の共通構造を有すると共に、共通の製造工程で製造される光コネクタを、実施形態1と2とに分けて、更に詳述して行く。なお、前述の説明と同一箇所は、省略又は簡略化して記載する。最初に実施形態1に係る光コネクタ1を説明する。
【0055】
光コネクタ1では、
図8に示す割りスリーブ8内に、フェルール2及び3を対向配置させ、2つのフェルール2と3の間に光導波路5a~5dを備えている。n本の光導波路5a~5dは、光の伝搬方向(
図9中のZ軸方向)に対し、直交方向で2つに分割されており、
図9内では分割線を示している。分割された各光導波路5a~5dの各端面での、光導波路5a~5dのコア間隔は互いに同一である。更に前記直交方向に平面状の端面どうしが、隙間無く接続されている。
【0056】
2つのフェルール2と3を1つの割りスリーブ8内に挿入保持することで、2つのフェルール2と3を同軸上に配置でき、更に割りスリーブ8の内径部を基準面として配置する事が出来るので、2つのフェルール2と3の位置出しが容易になる。
【0057】
光コネクタ1にスリーブを用いる場合、円筒型スリーブよりも割りスリーブ8の方が、光硬化性樹脂10を流し込む事が可能なので、より好ましい。
【0058】
更に、
図10より光コネクタ1の製造方法を説明する。最初にフェルール2と13を用意すると共に、光硬化性樹脂10を用意する。
図10(a)より、2つのフェルール2と13を共に割りスリーブ8内に挿入し、割りスリーブ8内で互いに対向配置すると共に、フェルール2と13の間に隙間を形成する。隙間は、光導波路5a~5dを形成する為に必要な寸法に設定すれば良く、一例として1mmとする。
【0059】
次に
図10(b)より、フェルール2と13の間に光硬化性樹脂10を、割りスリーブ8の割れ目から流し込んで配置する。
【0060】
次に
図10(c)より、光硬化性樹脂10の端部に、2つのフェルール2と13が備える各光ファイバ4a~4dから光を入射し、光硬化性樹脂10の端部をコア間隔2c1~2c3及び13c1~13c3で硬化させ、光硬化性樹脂10にコア間隔2c1~2c3及び13c1~13c3を転写する。
【0061】
更に光を入射して光硬化性樹脂10にn本の光導波路5a~5dを形成して、光導波路5a~5dの一端でのコア間隔13c1~13c3のバラツキを、他端のコア間隔2c1~2c3のバラツキよりも低く形成する。端面13bは平面形状に形成されている為、端面13bに接する光導波路5a~5dの端面も平面状に形成され、端面での歪みが解消される。一方、端面2bは丸みによって平面状態からより大きく歪んでいる為、その端面2bに接する光導波路5a~5dの端面にも歪みが発生する。
【0062】
次にクラッド7を光硬化性樹脂10の硬化により形成する。その後
図10(d)より、フェルール13を光導波路5a~5dから取り外す。取り外しは、フェルール13をZ軸方向に割りスリーブ8から引き抜く事で行う。
【0063】
フェルール13の取り外し後、別のフェルール(例えばフェルール3)と、別の光硬化性樹脂を用意する。別のフェルールとは、n本の光ファイバ挿入孔を備えると共に各光ファイバ挿入孔に光ファイバが挿入されて備えられているフェルールである。更にそのフェルールの各孔の軸方向(Z軸方向)に於ける角度とコア間隔にはバラツキを有すると共に、フェルール端面には端面2bと同様の丸みが有る物を用意する。更に、その各種バラツキは、フェルール13の各種バラツキ以上とする。
【0064】
フェルール13と別のフェルールを、
図10(a)と同様に割りスリーブ8内で互いに対向配置する(
図10(a)内に於いて、フェルール2を別のフェルールに置き換えた状態である)。更に2つのフェルールの間に
図10(b)と同様に光硬化性樹脂を配置する。
【0065】
光硬化性樹脂の端部に、2つのフェルールの各光ファイバから光を入射し、各光ファイバの前記コア間隔で光硬化性樹脂の端部を硬化させ、光硬化性樹脂に各コア間隔を転写し、光硬化性樹脂にn本の光導波路を形成する。
【0066】
次に、クラッドを光硬化性樹脂の硬化により形成し、フェルール13を形成した自己形成光導波路から取り外す事で、
図10(d)のフェルール体14と同様の構成として、別のフェルールと別の自己形成光導波路から構成されて成る、別のフェルール体を形成する。
【0067】
フェルール体14と別のフェルール体に於いて、フェルール13と接続していた端部は、同一のコア間隔13c1~13c3で形成されている。フェルール13を、予め図示しないコネクタハウジングによって回転調整を行っておく事で、そのコネクタハウジングに組み立てられるフェルール2及び別のフェルール体を構成するフェルールも、コネクタで接続するだけで、回転調整無く各光ファイバ4a~4dの位置が決まる。よって
図9に示すように互いの光導波路5a~5dが同一間隔13c1~13c3で接続されて、低損失で接続可能となる。
【0068】
更に、端面13bはZ軸方向に対し、直交方向で丸みの無い平面形状に形成されているので、フェルール13と接続していた端部どうしを接続すると、
図9のように空間的な隙間の無い接続状態を形成する事が可能となる。従ってこの点でも低損失で接続可能となる。
【0069】
更に、取り外し前のフェルール13によって、光導波路5a~5dの一端が他端よりもコア間隔のバラツキが低い状態で光導波路5a~5dが形成される。従って、一端に於ける光導波路5a~5dと光ファイバ4a~4dとの接続損失を低減する事が出来る。更に、各光ファイバ挿入孔2aや3aの軸方向の角度バラツキや中心点どうしの間隔(2c1~2c3及び3c1~3c3)のバラツキ、又は端面2b、3bの丸みを有するフェルール2及び3の使用を許容しながらも、光導波路5a~5dを備えて各光ファイバ4a~4dと光導波路5a~5dの端部とを確実に接続可能とし、接続損失を容易に低減可能であると共に、光コネクタ1の歩留まり向上とそれに伴う製造コストの低減が可能となる。
【0070】
フェルール13を光導波路5a~5dから取り外す事は、フェルール13の外観に予め離型剤を塗布しておく事で実現可能となる。離型剤の塗布により、フェルール13の取り外しの際に光導波路5a~5dの端部を欠損させること無く、フェルール13を光導波路5a~5dから円滑に取り外すことが可能となる。
【0071】
取り外したフェルール13は、マスターフェルールとして別のフェルール体の製造工程へと繰り返し使用して行く。前記各種バラツキが小さく、端面13bが平面で歪みの無い高精度なフェルール13を取り外して繰り返し使用する事で、光導波路5a~5dの端部をフェルール13が有する高精度な一定のコア間隔(13c1~13c3)でフェルール体を複製する事が可能になり、この点でも光コネクタの接続損失を容易に低減可能となる。
【0072】
取り外しを考慮しなくても良いフェルール2は、
図16に示すように端面2bから全ての光ファイバ4a~4dの端部が引っ込むように予め挿入配置し、そこに光硬化性樹脂を流し入れて光導波路5a~5dを光学的に接続すると共に、クラッド7を形成しても良い。
【0073】
又は
図14や
図15に示すように、端面2bを段付き成形加工し、端面2bから凹むように段部12又は12’を設け、全ての光ファイバ端部をフェルール2の最突出端部である端面2bから引っ込むように成形し、段部12又は12’に光硬化性樹脂10を充填しても良い。仮にフェルール3が取り外しを考慮しなくても良い場合も、
図14~
図16の構造がフェルール3にも適用可能である。
【0074】
更に、光導波路5a~5dには
図7に破線で示すように軸ずれ補正部分が形成されている。
図7の各光導波路5a~5dに於ける二点鎖線で挟まれた破線部分が、軸ずれ補正部分であり、フェルール2が左側に配置されている場合を図示している。フェルール2、3、及び13の各光ファイバ4a~4dに、各コア軸方向の角度とコア間隔(2c1~2c3、3c1~3c3、及び13c1~13c3)にバラツキを有すると共に、端面2b及び3bに丸みが形成され、フェルール端面が歪んでいる。従って、Z軸方向に於いてフェルール2、3、及び13の各光ファイバ4a~4dが同軸上に配置されず、軸ずれが不可避で発生する為、各光導波路5a~5dの形成時に軸ずれ補正部分も不可避で形成される。
【0075】
光コネクタ1では軸ずれ補正部分の、フェルール2側からの開始箇所6a~6dを、
図7中Z軸方向に於いて、隣どうしの光導波路で異ならせている。
図7では、光導波路5aの開始箇所6aが、光導波路5bの開始箇所6bよりも早く形成が開始された事が分かる。一方、開始箇所6bは、光導波路5cの開始箇所6cよりも遅く形成が開始された事が分かる。また開始箇所6cは、光導波路5dの開始箇所6dよりも早く開始された事が分かる。なお、
図7では開始箇所6a~6dの見易さを優先して、軸ずれ補正部分を破線で示すと共に、二点鎖線で区切っているが、軸ずれ補正部分のみが可視不可能部分という構造では無い。
【0076】
この開始箇所6a~6dの相違は、各光ファイバ4a~4dに、各コア軸方向の角度のバラツキと端面2b又は3bでの丸みによる歪みが有るために発生するものであり、フェルール2、3、13から光を入射させ軸ずれ補正部分を形成する時に、軸ずれ補正部分の形成角度も異なる。従って、各光ファイバ4a~4dからの光の入射に時間差を設けずに、各光ファイバ4a~4dから同時に光を入射させるだけで、開始箇所6a~6dを隣どうしの光導波路で異ならせる事が出来る。更に開始箇所6a~6dが隣どうしで異なるので、隣どうしの光導波路の軸ずれ補正部分の形成終了時間に時間差を設ける事も出来る。
【0077】
従って、各孔の軸方向の角度バラツキや各孔の中心点どうしの間隔のバラツキを有するフェルール2、3、13の使用を許容しながらも、隣り合う光導波路5a~5dどうしの光学的な接続を防止出来る為、光コネクタ1の接続損失を容易に低減出来る。
【0078】
またn本の光ファイバ4a~4dから光硬化性樹脂10に出射する光に時間差を設ける必要が無いので、光コネクタ1の製造コストの低減と歩留まりの向上を図る事が出来る。
【0079】
なお、各光ファイバ4a~4dからの光の入射は同時とする事が、複雑な入射時間制御が必要無いので最も好ましいが、2~3秒差以内であれば製造工程上での許容範囲とする。
【0080】
前述では、軸ずれ補正部分に於いてフェルール2側からの開始箇所を説明したが、フェルール3側からの開始箇所のずれ(例えば、
図7の右側の二点鎖線部分)を考慮しても良い。
【0081】
なおフェルール13を、図示しないコネクタハウジングで予め角度を回転調整しておけば、フェルール2と3はコネクタで接続するだけで、回転調整無く位置決めされる。
【0082】
次に、
図10~
図12を参照して実施形態2に係る光コネクタ11とその製造方法を説明する。なお、前述までの説明又は実施形態1と同一箇所は、省略又は簡略化して記載する。
【0083】
光コネクタ11は、
図12に示すようにフェルールを1つ備えると共に光素子9を備え、光素子9とフェルール2の間に光導波路5a~5dを備える。光素子9は、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)、発光ダイオード、レーザダイオード、フォトダイオードとする。
【0084】
光素子9のアレイとフェルール2は、1つの割りスリーブ8内に保持される。光素子9のアレイとフェルール2を1つの割りスリーブ8内に挿入保持することで、各光素子9と光ファイバ4a~4dを同軸上に配置でき、更に割りスリーブ8の内径部を基準面とする事が出来て、光素子9とフェルール2の位置出しが容易になる。
【0085】
更に、
図10及び
図13より光コネクタ11の製造方法を説明する。最初に前記
図10(a)~(d)の説明に従い、フェルール体14を作製する。作製されたフェルール体14を
図13(a)に示す。
図10(d)又は
図13(a)に示すように、少なくとも1つのフェルールと光導波路とから構成されるフェルール体も、本発明では光コネクタと称する。
【0086】
次にVCSEL等の光素子9のアレイを用意し、光素子9のアレイも割りスリーブ8内に挿入して、
図13(b)に示すように光導波路5a~5dと光素子9とを光学的に接続し、光コネクタ11を作製する。なお、光コネクタ11の製造方法の説明に於いて、
図10(d)と
図13(a)の割りスリーブ8の長さが異なっているものの、説明上同一の物を指していると見なす。取り外したフェルール13は、マスターフェルールとして別のフェルール体の製造工程へと繰り返し使用して行く。光コネクタ11は、光コネクタ1と同様の効果を有する。
【0087】
前記実施形態に於いては、
図10で割りスリーブ内に隙間を設けて光硬化性樹脂を配置する構造を説明したが、光硬化性樹脂の表面張力でフェルール間に保持可能な隙間間隔に設定する事で、割りスリーブ8を廃した製法及び光コネクタの構成に変更することも可能である。
【0088】
以下に本発明に係る実施例を説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【実施例】
【0089】
本実施例に係る光コネクタは
図9に示す構造とした。前記
図10(a)~(c)に従い、光導波路5a~5dを形成した。光導波路5a~5dの形成後2分間放置して、コアとクラッドとの境界面でのモノマーの相互拡散を促し、その後UV照射でクラッド7を形成した。
【0090】
このようにしてフェルール体14を複製し、光導波路5a~5dの端部どうしで光学的に接続させて、
図9の構造を有する光コネクタ1を製造した。
【0091】
光コネクタ1を形成後、各光ファイバ4a~4dから各光導波路5a~5dに850nm波長の光を伝搬させ、フェルール2と3間での光学的な接続損失を計測した。
【0092】
一方比較例は、
図9に於いて光導波路5a~5d及びクラッド7を廃し、2つのフェルール2と3の各端面2bと3bを面接触させて光コネクタを構成した。比較例でも各光ファイバ4a~4dに850nm波長の光を伝搬させ、フェルール2と3間での光学的な接続損失を計測した。
【0093】
比較例を基準とした時の実施例に於ける接続損失の改善値を、表1に示す。表1より、2回とも全ての光ファイバ4a~4dの伝搬光路に於いて、接続損失が改善されている事が確認された。なお光導波路長とは、
図9のZ軸方向における各光導波路5a~5dの長さである。
【0094】
【符号の説明】
【0095】
1、11 光コネクタ
2、3、10、11、13 フェルール
2a、3a、13a フェルールの光ファイバ挿入孔
2b、3b、13b フェルールの端面
2c1~2c3、3c1~3c3、13c1~13c3 光ファイバ挿入孔の間隔
4a~4d 光ファイバ
5a~5d 自己形成光導波路
6a~6d 自己形成光導波路の軸ずれ補正部分の開始箇所
7 クラッド
8 割りスリーブ
9 光素子
10 光硬化性樹脂
12、12’ 段部
14 フェルール体