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特許7549356マルチレイヤー構造を有する静電アクチュエータ
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  • 特許-マルチレイヤー構造を有する静電アクチュエータ 図1
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  • 特許-マルチレイヤー構造を有する静電アクチュエータ 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-12
(54)【発明の名称】マルチレイヤー構造を有する静電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021522256
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019839
(87)【国際公開番号】W WO2020241387
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019102866
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100119426
【弁理士】
【氏名又は名称】小見山 泰明
(72)【発明者】
【氏名】実吉 敬二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 輝
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-328762(JP,A)
【文献】特開2013-017287(JP,A)
【文献】特開2014-204651(JP,A)
【文献】特許第5479659(JP,B2)
【文献】特開2007-259663(JP,A)
【文献】特開平06-284750(JP,A)
【文献】特開2017-183814(JP,A)
【文献】特開2017-022926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
各電極フィルムにおいて、前記弾性層は前記絶縁層の全面に亘って形成され、
前記弾性層を構成する材料のヤング率は、前記絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい、静電アクチュエータ。
【請求項2】
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
各電極フィルムにおいて、前記弾性層は前記絶縁層の全面に亘って形成され、
前記弾性層を構成する材料のばね定数は、前記電極フィルムが積層方向に伸長するのに伴い増加する、静電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の静電アクチュエータにおいて、
隣り合う2つの前記電極フィルムは、当該電極フィルムの前記弾性層間が接着或いは共有結合又は弾性体粘着力により接続されている、静電アクチュエータ。
【請求項4】
導体層の両面に絶縁層が配された電極層が弾性層を介して積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
各電極フィルムにおいて、前記弾性層は前記絶縁層の全面に亘って形成され、
前記弾性層を構成する材料のヤング率は、前記絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい、或いは、
前記弾性層を構成する材料のばね定数は、前記静電アクチュエータが積層方向に伸長するのに伴い増加する、静電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載の静電アクチュエータにおいて、
前記弾性層は、前記電極層の面方向に互いに離間した複数の柱を有する構造体である、静電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチレイヤー構造を有する静電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
使いやすい構造の誘電エラストマーアクチュエータおよびその駆動システムの提供を課題として、誘電エラストマーアクチュエータが、伸縮可能な一対の電極間にエラストマーを挟んだ構造の駆動要素Aと、伸縮可能な一対の電極間にエラストマーを挟んだ構造の駆動要素Bと、駆動要素Aと駆動要素Bとを直列に接続する接続部とを備え、駆動要素Aおよび駆動要素Bが有する一対の電極間に電圧を印加したときに、一対の電極間に生じる電場により一対の電極が電場と平行な方向に変位してエラストマーが電場と垂直な方向に伸長し、エラストマーの伸長が接続部を介して互いに作用し合う、誘電エラストマーアクチュエータおよびその駆動システムに関する公報開示の技術が存在する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-33293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の静電アクチュエータは、導体層間に弾性材料である誘電エラストマーを挟んだ構造を有しており、対向する導体層間に電圧が印加されて発生する静電引力で導体層間を収縮させる構成であった。誘電エラストマーは導体層間の絶縁材料としての機能も果たしていた。ここで、静電アクチュエータに長時間電圧を印加して静電引力によって誘電エラストマーに圧縮力を長時間印加するとき、誘電エラストマーが柔らかいと誘電エラストマーは導体と共に横方向に広がり、クリープ現象により誘電エラストマーの層(弾性層)を構成する材料の分子が移動して層が崩れ絶縁破壊が生じる懸念があった。これが理由で、従来の静電アクチュエータは長期間使用することができず、実用化が困難であった。一方、硬い弾性性能を有する誘電エラストマーを採用すれば、収縮率が低下して十分なストロークを確保できないという課題があった。
【0005】
本発明は、弾性層がクリープ現象により変形しても導体層間の絶縁性能が維持された積層型静電アクチュエータの提供を目的とする。また、十分なストロークの確保が容易な積層型静電アクチュエータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の積層型静電アクチュエータは、
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有し、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
弾性層を構成する材料のヤング率は、絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい。
【0007】
上記課題を解決するために、請求項2に記載の積層型静電アクチュエータは、
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有し、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
弾性層を構成する材料のばね定数は、電極フィルムが積層方向に伸長するのに伴い増加する。
【0008】
請求項3に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1又は2に記載の静電アクチュエータにおいて、
隣り合う2つの電極フィルムは、電極フィルムの弾性層間が接着或いは共有結合又は弾性体粘着力により接続されている。
【0009】
上記課題を解決するために、請求項4に記載の積層型静電アクチュエータは、
導体層の両面に絶縁層が配された電極層が弾性層を介して積層結合した構造を有し、
弾性層を構成する材料のヤング率は、絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい、或いは、
弾性層を構成する材料のばね定数は、静電アクチュエータが積層方向に伸長するのに伴い増加する。
【0010】
請求項5に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項4に記載の静電アクチュエータにおいて、
弾性層は、電極層の面方向に互いに離間した複数の柱を有する構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極間に電圧が印加されるとき、弾性層は柔らかく変形するが、導体層は絶縁層で保護される。長期間の電圧印加で弾性層がクリープ現象により変形しても導体層は絶縁層によって絶縁が維持されることが可能となった。その結果、柔らかい弾性性能を有する弾性材料の採用が可能となり、十分なストロークと信頼性の両立が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータを構成する電極フィルム一層の断面図である。
図2図1に示す電極フィルムが積層結合した構造を有する積層型静電アクチュエータ全体の断面図である。
図3】2つの端部材の間に積層を離そうとする向きの外力が印加されて電極フィルムの間隔が伸長した状態を示す図である。
図4】電圧が印加されて電極フィルムの間隔が収縮した状態を示す図である。
図5】第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータの断面図である。
図6図5に示す積層型静電アクチュエータの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態を図面を用いて以下に説明する。図1は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1を構成する電極フィルム10一層の断面図である。図2は、図1に示す電極フィルム10が積層結合した構造を有する積層型静電アクチュエータ1全体の断面図である。
【0014】
(構成)
積層型静電アクチュエータ1は、2つの端部材(図示省略)に挟まれた、多数の電極フィルム10a,10bが積層結合されて構成される(図2、後述)。各電極フィルム10a,10bは、図1に示すように、第1弾性層11a、第1絶縁層12a、導体層13a、第2絶縁層14a、第2弾性層15aからなる5層構造を有して構成される。以下の説明では、第1絶縁層12aと導体層13aと第2絶縁層14aとを電極層16aと称することがある。
【0015】
第1弾性層11,11a及び第2弾性層15,15aは、例えばゲルやアクリル系またはシリコン系樹脂等の柔軟材料が採用される。導体層13,13aは、例えば銅等の金属膜や導電性高分子、または導電性の炭素同素体(または炭素を主体とした導電性の混合体)等の良電気伝導性の膜で構成される。導体層13,13aの両面には塗布、接着又は蒸着等により絶縁層(第1絶縁層12,12a、第2絶縁層14,14a)を形成し、導体層13,13aを第1絶縁層12,12a及び第2絶縁層14,14aが挟んで電極層16,16aを構成する。第1及び第2の絶縁層12,14;12a,14aの材料には、例えばパリレン(登録商標)等の絶縁性の高分子材料を使用してもよく、耐電圧特性の良いセラミックやガラス材料などを使用してもよい。電極層16,16aの厚さは、例えば数マイクロメートルである。
【0016】
ここで、第1弾性層11,11a及び第2弾性層15,15aを構成する材料として、第1絶縁層12,12a及び第2絶縁層14,14aを構成する材料のヤング率よりも小さいヤング率を有する材料を採用してもよい。あるいは、第1弾性層11,11a及び第2弾性層15,15aを構成する材料として、積層型静電アクチュエータ1が積層方向に伸長するのに伴いばね定数が増加する性質を有する材料を採用してもよい。
【0017】
以上の構成を有する電極フィルム10a,10bが、積層結合されて積層型静電アクチュエータ1が構成される。積層結合は、例えば、弾性層間の共有結合や弾性体粘着力により実行される。尚、弾性層間が結合された構造を説明したが、導体層の両面に絶縁層が配された電極層が弾性層を介して積層結合されて静電アクチュエータを構成してもよい。
【0018】
(動作)
図3は、2つの端部材(図示省略)の間に積層を離そうとする向きの外力が印加されて電極フィルム10a,10bの間隔が伸長した状態を示す図であり、図4は、電圧が印加されて電極フィルム10a,10bの間隔が収縮した状態を示す図である。
【0019】
各電極フィルム10を離そうとする向きの外力を受けると、第1の電極フィルム10aと第2の電極フィルム10bとの間の弾性層15a,11bは積層方向に伸長すると同時に積層方向に垂直で電極フィルム間の内方向に凹む(図3)。第1及び第2の電極フィルム10a,10bの導体層13a,13bの間に電圧が印加されると、第1及び第2の電極フィルム10a,10bは互いに引き合い、弾性層15a,11bは積層方向に収縮すると同時に積層方向に垂直で電極フィルム10a,10b間の外方向に膨らむ(図4)。
【0020】
電圧が印加されるとき、弾性層15a,11bは変形するが、導体層13a,13bは絶縁層14a,12bで保護される。このため、長時間の電圧印加で弾性層15a,11bにクリープが生じても、導体層13a,13bと弾性層15a,11bとの間に絶縁層14a,12bが存在することにより絶縁破壊は発生せず、導体層13a,13bの絶縁性能は確保される。これにより、弾性層15a,11bに柔らかい材料を採用することが可能となり、静電アクチュエータとして十分なストロークの確保と絶縁性能に対する信頼性とを両立させることが可能となる。
【0021】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101の断面図である。図6は、図5に示す積層型静電アクチュエータ101の変形例である。第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1との同一又は類似の要素については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。図5に示すように、積層型静電アクチュエータ101は、導体層113の両面に絶縁層112,114が配された電極層116が弾性層115を介して積層結合されて構成される。弾性層115は、内部に空隙120a,120bを設けた電極層116の面方向に互いに離間した複数の柱121a,121bを有する。
【0022】
第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1では、弾性層の外方向に膨らんだ外周面付近の変形量が大きくなり、積層型静電アクチュエータ1の外周面近傍の弾性層11,15、特に弾性層11,15と絶縁層12,14との接続部に大きな応力が発生する(図4参照)。これに対して、図5に示すように、弾性層115を柱状に分割することで、個々の柱121a,121bは独立に変形するため個々の柱121a,121bの変形量が小さくなり、弾性層115に発生する応力を低減させることができる。これにより、積層型静電アクチュエータとして十分なストロークの確保と絶縁性能に対する信頼性とを両立させることが可能となる。また、引っ張りに対してすべての柱121a,121bで支え合うため、強度が高まる。尚、柱121は端部で繋がっていてもよいし(図6(a))、個々で独立に絶縁層114a,112bに繋がっていても良い(図6(b))。また、柱の本数や断面形状、位置は、電極層の面の大きさや積層型静電アクチュエータに加わる力の大きさ、要求される応答性能等により適宜設定される。
〔態様1〕
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
前記弾性層を構成する材料のヤング率は、前記絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい、静電アクチュエータ。
〔態様2〕
複数の電極フィルムが積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
各電極フィルムは、弾性層、絶縁層、導体層、絶縁層、弾性層の5層構造を有し、
前記弾性層を構成する材料のばね定数は、前記電極フィルムが積層方向に伸長するのに伴い増加する、静電アクチュエータ。
〔態様3〕
態様1又は2に記載の静電アクチュエータにおいて、
隣り合う2つの前記電極フィルムは、当該電極フィルムの前記弾性層間が接着或いは共有結合又は弾性体粘着力により接続されている、静電アクチュエータ。
〔態様4〕
導体層の両面に絶縁層が配された電極層が弾性層を介して積層結合した構造を有する静電アクチュエータであって、
前記弾性層を構成する材料のヤング率は、前記絶縁層を構成する材料のヤング率よりも小さい、或いは、
前記弾性層を構成する材料のばね定数は、前記静電アクチュエータが積層方向に伸長するのに伴い増加する、静電アクチュエータ。
〔態様5〕
態様4に記載の静電アクチュエータにおいて、
前記弾性層は、前記電極層の面方向に互いに離間した複数の柱を有する構造体である、静電アクチュエータ。
【符号の説明】
【0023】
1:積層型静電アクチュエータ、10,10a,10b:電極フィルム、11,11a,11b:第1弾性層、12,12a,12b:第1絶縁層、13,13a,13b:導体層、14,14a:第2絶縁層、15,15a:第2弾性層、16,16a:電極層
101:積層型静電アクチュエータ、112,114,114a,112b:絶縁層、113:導体層、115:弾性層、116:電極層、120a,120b:空隙、121a,121b:柱
図1
図2
図3
図4
図5
図6