(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】軟質の静電容量式圧力センサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240904BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240904BHJP
G06N 3/08 20230101ALI20240904BHJP
【FI】
A61B5/022 400F
A61B5/02 310K
A61B5/022 B
A61B5/022 400M
G06N3/08
(21)【出願番号】P 2021524238
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 US2019060538
(87)【国際公開番号】W WO2020097505
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-09-16
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キーン、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジョシュア
(72)【発明者】
【氏名】ワシントン、グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】スミス、セロン フレデリック、リー
(72)【発明者】
【氏名】エリントン、フロランヌ、タヴェイロウ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア、ジョセフ
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/144772(WO,A1)
【文献】特開2008-168032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0062245(US,A1)
【文献】米国特許第05111826(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0303434(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0086686(US,A1)
【文献】特許第6595742(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質の静電容量式圧力センサであって、前記静電容量式圧力センサは、
a.第1の電極層と、
b.第2の電極層と、
c.誘電体層であって、前記誘電体層が前記第1の電極層と第2の電極層との間にあるように、前記第1の電極層上に配置された誘電体層と、
d.前記第2の電極層から前記誘電体層及び第1の電極層に向かって突出する複数の弾性構造体であって、前記複数の弾性構造体は、前記第1の電極層と前記第2の電極層とを分離する空隙を作り出す、複数の弾性構造体と、
e.前記複数の弾性構造体の間に配置された第1の導電性金属フィルム
であって、前記第2の電極層が、前記第1の導電性金属フィルムを備える、第1の導電性金属フィルムと
を備え、前記静電容量式圧力センサが静止構成にあるとき、前記空隙が、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に配置され、前記空隙は、第2の誘電体層として作用し、前記静電容量式圧力センサが圧縮されると、前記第1の電極層及び前記第2の電極層は互いにより接近し、それにより、前記空隙の高さが減少し、前記静電容量式圧力センサの圧力感度及び静電容量が増加する、静電容量式圧力センサ。
【請求項2】
前記第1の電極層は、第1のエラストマー層と、前記第1のエラストマー層上に配置された第2の導電性金属フィルムとを備え、前記第2の導電性金属フィルムは、前記第1のエラストマー層と前記誘電体層との間にある、請求項1に記載の静電容量式圧力センサ。
【請求項3】
前記第2の電極層は、第2のエラストマー層を備え、前記第1の導電性金属フィルムは、前記第2のエラストマー層上に配置されている、請求項2に記載の静電容量式圧力センサ。
【請求項4】
前記第1及び第2のエラストマー層は、ポリジメチルシロキサン又はポリウレタンを含む、請求項3に記載の静電容量式圧力センサ。
【請求項5】
前記第1及び第2の導電性金属フィルムは、カーボン・ナノチューブ又は金、銀、銅、若しくはアルミニウムのしわの寄った薄いフィルムを含む、請求項4に記載の静電容量式圧力センサ。
【請求項6】
前記誘電体層は、シリコーン・エラストマー、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ポリフッ化ビニリデン、又はジルコニア、チタニア、若しくはシリカの酸化物を含む、請求項1に記載の静電容量式圧力センサ。
【請求項7】
被験者の血圧を監視する方法であって、前記方法は、
a.請求項1に記載の静電容量式圧力センサを準備するステップと、
b.前記被験者の橈骨動脈がある手首に前記静電容量式圧力センサを取り付けるステップと、
c.前記静電容量式圧力センサを使用して前記被験者の血圧信号を測定するステップであって、前記橈骨動脈の拍動が、前記静電容量式圧力センサの圧縮を引き起こし、前記静電容量式圧力センサが、前記橈骨動脈の拍動に対応する前記血圧信号を検出する、ステップと、
d.キャリブレーション・モデルを使用して、前記測定された信号から絶対血圧値を判定するステップと
を含む、方法。
【請求項8】
前記血圧は心拍ごとに監視される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
人工ニューラル・ネットワーク(ANN)を使用して、前記静電容量式圧力センサをキャリブレーションするステップをさらに含み、
a.前記被験者からの複数の血圧信号を測定するステップと、
b.前記被験者からの1つ又は複数の生物学的入力変数を測定するステップと、
c.トレーニング・セットを形成するために、前記測定された血圧信号及び前記生物学的入力変数を組み合わせるステップと、
d.前記キャリブレーション・モデルを生成するために、前記トレーニング・セットを使用して前記ANNをトレーニングするステップと
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記トレーニング・セットは、複数の被験者からの血圧信号の測定値及び1つ又は複数の生物学的入力変数を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数の生物学的入力変数は、センサ圧力、脈拍数、EKGのデータ、加速度計のデータ、ジャイロスコープのデータ、磁力計のデータ、又は血行力学的監視データを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記トレーニング・セットに動きデータを含むことによって、モーション・アーチファクトを差し引くステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
静電容量式圧力センサを製造する方法であって、前記方法は、
a.第1の電極層を形成するために、第1の導電性金属フィルムを第1のエラストマー層に取り付けるステップと、
b.前記第1の導電性金属フィルムが、前記第1のエラストマー層と誘電体層との間に配置されるように、前記誘電体層を前記第1の電極層に取り付けるステップと、
c.第2のエラストマー層を、前記第2のエラストマー層の表面から突出する複数の弾性構造体を有するように成形するステップと、
d.第2の導電性金属フィルムが、前記複数の弾性構造体の間に配置されるように、第2の電極層を形成するために、前記第2の導電性金属フィルムを前記第2のエラストマー層に取り付けるステップと、
e.前記複数の弾性構造体が、前記誘電体層及び前記第1の電極層の方に向けられるように、前記第1の電極層を前記第2の電極層に取り付けるステップであって、前記複数の弾性構造体は、前記第1の電極層と前記第2の電極層との間に空隙を作り出し、前記空隙は第2の誘電体層として作用する、ステップと
を含み、
前記静電容量式圧力センサが圧縮されると、前記第1の電極層及び前記第2の電極層は互いにより接近し、それにより、前記空隙の高さが減少し、前記静電容量式圧力センサの圧力感度及び静電容量が増加する、方法。
【請求項14】
前記第1及び第2のエラストマー層は、ポリジメチルシロキサン又はポリウレタンを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び第2の導電性金属フィルムは、カーボン・ナノチューブ又は金、銀、銅、若しくはアルミニウムのしわの寄った薄いフィルムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記誘電体層は、軟質のシリコーン・ゴム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ポリフッ化ビニリデン、又はジルコニア、チタニア、若しくはシリカの酸化物を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用して前記静電容量式圧力センサをキャリブレーションするステップをさらに含み、前記キャリブレーションは、測定された血圧信号及び1つ又は複数の生物学的入力変数からなるトレーニング・セットを使用して、前記ANNをトレーニングすることにより、キャリブレーション・モデルを生成するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2018年11月8日に出願された米国仮特許出願第62/757,329号、及び2019年7月17日に出願された米国仮特許出願第62/875,418号の利益を主張し、その明細書は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている。
【0002】
本発明は、血圧を読み取る医療デバイスに関する。より詳細には、本発明は、継続的な装着型健康監視用途に向けた、可撓で伸縮性のある静電容量ベースの圧力センサに関する。さらに、本発明は、継続的に圧力を読み取る、圧力センサのニューラル・ネットワークによるキャリブレーションに関する。
【背景技術】
【0003】
動脈拍動は、心血管の疾患ばかりでなく一般的な健康も定量的に評価及び監視するために臨床的に使用されている、収縮期及び拡張期の圧力を含む、豊富な心血管情報を含んでいる。こうした動脈拍動は、非侵襲的血圧(NIBP:non-invasive blood pressure)監視ツールを使用して、上腕動脈及び橈骨動脈など、身体の多くの様々な場所で測定できる。研究によると、1日を通して血圧の変動を監視することで、心血管の健康に関する洞察を得ることができることが示されている。この理由から、血圧の変動及び心血管の健康への血圧変動の影響をより適切に理解するために、血圧を継続的に監視する必要がある。
【0004】
膨張可能な上腕カフを使用するオシロメトリック式の測定は、臨床現場で広く使用されるようになったが、断続的であり、約30~40秒の期間にわたって1組の収縮期及び拡張期の血圧値しか提示しない。或いは、心拍ごとの血圧を継続的に監視するには、末梢動脈を拍動させる各心周期の検出及び分析が必要である。フィンガ・カフによる容積締付け法は、心拍ごとの血圧を測定できる方法の1つであるが、現在、携行式の監視を可能にする形状要素は有してはいない。
【0005】
動脈圧平圧力測定法は、多くの場合手持ち式プローブである圧力センサを使用して、動脈を局所的に平坦化する(圧平する)、別のNIBPの方法である。続いて、動脈圧平の程度を調整することにより、動脈圧を測定する。圧平圧力測定は、携行式の継続的な監視に適さない脈圧を測定するために、操作者が、圧力トランスデューサを動脈上に安定して配置することに大きく依存する。より新しい代替方法では、身体へのなじみ性を向上させることができる軟質のセンサを使用する。なじむことにより、センサと身体との結合が改善され、動脈拍動のより高精度な測定が可能になる。しかし、現在報告されている軟質のセンサは、理論モデルを使用して心拍ごとの血圧を計算する手段として、脈圧波形の振幅変化からではなく、拍動の2点間の通過時間を測定する。さらに、小さな圧力(健康な被験者からの橈骨拍動によって加えられる皮膚の表面のおおよその圧力である、<5kPa)を検出でき、速い応答時間(橈骨動脈の脈波の、拡張期のポイントと収縮期のポイントとの間のおおよその時間である、約100ms)を特徴とする、高感度の圧力センサを開発する必要がある。
【0006】
静電容量式圧力センサは、該センサの単純なデバイス設計、迅速な応答時間、比較的小さいヒステリシス、及び低い消費電力要件により、多くの注目を集めており、これらはすべて、軟質の装着型電子機器用途に向けて、非常に望ましいものである。軟質の誘電体材料を使用する場合、誘電体層を圧縮すると、
【数1】
に等しい静電容量の増加を生じ、ここで、ε
0は真空の誘電率、ε
rは誘電材料の比誘電率、Aは平行板電極の重なる表面積、dは平行板電極間の距離である。
【0007】
静電容量式センサは、多重化データ取得ツールを使って、圧力を「マッピング」するよう構成され得る。たとえば、静電容量式センサのグリッドは、表面の局所的な圧力を空間的に分解できる。静電容量式センサの単純なレイアウトにより、該センサは、機械的圧力を検出する魅力的なモダリティとなる。しかし、現在の静電容量式センサは、通常、誘電体層の圧縮が小さいことに起因する、動脈の拍動測定に影響を与える、低い圧力感度(約0.5~1kPa-1以下)を特徴とし、橈骨拍動を確実に検出するための、長時間(>30秒)の調査には使用されていない。
【0008】
以前に報告された静電容量式センサは、硬質の基板(すなわち、ポリエチレン(PET))を使用することが多く、これは、橈骨動脈の拍動を検出するセンサの用途を、制限する場合がある。たとえば、PET基板は硬質であるため、人体への共形接触を阻害する場合がある。また、硬質の基板は、より広いエリアにわたって応力を非局在化する可能性があり、信号を減衰させる可能性がある。これは、信頼性のあるデータの取得ばかりでなく、空間を分解するマッピング機能にも悪影響を与える可能性がある。もう1つの制限は、従来の静電容量式センサを開発するのに使用される電極の耐久性である。こうした電極は脆く、大きな曲げ/引っ張り/捩り歪みに耐えることができない。他の、以前に報告された、ポリジメチルシロキサン(PDMS)基板上に支持された弾性カーボン・ナノチューブ(CNT:carbon nanotube)導体を使用した、皮膚のような静電容量式圧力センサは、圧力感度が低く、動脈拍動の圧力の測定を困難にしていた。他の種類の静電容量式圧力センサは、誘電体層にPDMSマイクロピラミッド構造体を組み込んで圧力感度を大幅に改善するか、又は微小毛髪状PDMS構造体を組み込んで皮膚の表面へのなじみ性を改善し、続いて動脈圧の測定値を増幅する。こうしたセンサは、センサにより圧力をかけ、皮膚へ加えることにより、橈骨動脈圧波形にわずかにより大きい変化をもたらし得ることを実証している。ただし、こうした変化は最小限であり、これはおそらく、圧力センサのダイナミック・レンジが圧平圧力測定に十分ではなかったことを示唆していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、独立請求項で明示される、表皮(皮膚)の表面上で橈骨拍動によって加えられる圧力など、人間の生理学的信号を測定するための、高感度の機械式圧力センサ、及び該センサを作製する方法を提供することである。さらに、拍動性の血流を継続的に監視するための、該センサの高精度のキャリブレーションについて、本明細書に記載されている。本発明の実施例は、従属請求項に記載されており、従属請求項は、相互に排他的でない場合、互いに自由に組み合わせることができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
動脈圧平は、圧力センサと動脈との間(すなわち、皮膚)の弾性抵抗を低減することによって、安定した脈圧測定を実現させるための重要な構成要素である。動脈圧平及び安定した脈圧測定を実現させるには、圧力センサが、広いダイナミック・レンジにわたって高い圧力感度を有している必要がある。軟質の静電容量式圧力センサで広いダイナミック・レンジを実現させる手法の1つに、微小隆起構造体を用いて空隙を作り出すことが含まれる。
【0011】
いくつかの態様では、本発明は、しわの寄った金属の薄いフィルムを組み込んだ、軟質の静電容量式圧力センサを特徴とし、橈骨圧力測定用途向けの、軟質で伸縮性のある電極を開発している。静電容量式圧力センサは、たとえば、拍動性の血流を測定及び監視できる。橈骨動脈がセンサへの圧力を誘起すると、センサの平行板が、互いにより近づき得る。薄いフィルムのしわの寄った構造体は、薄いフィルムが繰り返し曲がる堅牢性を生み出す。これにより、広いダイナミック・レンジにわたる十分な感度、及び10ms未満の高速な応答時間で、継続的に動脈圧を測定し、詳細な脈圧波形を取り込むことが可能となる。
【0012】
非常にしわの寄った薄いフィルムは、軟質のエラストマー基板に接して支持されると、機械的歪みに対する機械的堅牢性を実現する。こうした電極は軟質なので、センサを身体になじませ、動脈拍動による圧力を高精度で測定することが可能である。圧力感度及びダイナミック・レンジを向上させるために、微細に隆起した構造体が誘電体層内に備えられ、0~10kPaの広い圧力範囲内で最大5倍まで圧力感度を改善した。こうした微細構造体は、対向する電極を持ち上げて誘電体層に空気の空洞を作り出し、それによって誘電体層を圧縮できる量を増やす。これは、要するに、誘電体層の弾性抵抗を減少させる。空気の空洞(εair=1)が存在するため、実効誘電率も低下する。誘電体層が圧縮されると、空気の空洞の容積が減少するにつれて実効誘電率が高くなり、静電容量の変化がより大きくなる。この軟質の静電容量式圧力センサを使用した心拍ごとの血圧の継続的な測定について、FDA承認のNIBP監視デバイスと比較することによって実証する。
【0013】
いくつかの実施例では、静電容量式圧力センサは、第1の電極層と、第2の電極層と、誘電体層であって、誘電体層が第1の電極層と第2の電極層との間にあるように、第1の電極層に接して配置された誘電体層と、第2の電極層から誘電体層及び第1の電極層に向かって突出する、1つ又は複数の弾性隆起部とを備え得る。1つ又は複数の弾性隆起部は、第1の電極層と第2の電極層とを分離する空隙を作り出す。センサが静止構成にあるとき、空隙が、第1の電極層と第2の電極層との間に配置される。空隙は、第2の誘電体層として作用する。センサが圧縮されると、第1の電極層及び第2の電極層は互いにより接近し、それにより、空隙の高さが減少し、センサの圧力感度及び静電容量が増加する。一実施例では、第1の電極層は、エラストマー層と、エラストマー層と誘電体層との間に配置された導電性金属フィルムとを備え得る。別の実施例では、第2の電極層は、エラストマー層と、エラストマー層に接して配置された導電性金属フィルムとを備え得る。非限定的な実例では、エラストマー層は、ポリジメチルシロキサンを含み得る。導電性金属フィルムは、しわの寄ったAuの薄いフィルムを含み得る。誘電体層は、軟質のシリコーン・ゴムを含み得る。いくつかの実施例では、センサの圧力感度は、0~10kPaの間の圧力範囲において、約0.1kPa-1から約0.2kPa-1の範囲である。センサの応答時間は、約20ms未満、好ましくは10ms未満である。
【0014】
いくつかの実施例では、導電層は、任意の薄いフィルム金属であってもよく、Auに限定されない。他の実例には、銅、銀、又はアルミニウムの薄いフィルムが含まれる。他の実施例では、電極層は、しわの寄った浸透回路網(percolating network)である、カーボン・ナノチューブの薄いフィルムを含み得る。いくつかの実施例では、エラストマー層は、シリコン・ベースの材料又はポリウレタンなどの非シリコン材料を含み得る。他の実施例では、シリコーン誘電体材料は、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウム、ポリフッ化ビニリデン、又はジルコニア、チタニア、若しくはシリカの酸化物を含むがこれらに限定されない、他の誘電体材料で置き換えることができる。
【0015】
いくつかの態様では、本発明はまた、継続的な血圧監視用途向けに、軟質の静電容量ベースのセンサを作製するために組み立てることができる、伸縮性があり可撓な電極を製造する方法を提供する。いくつかの実施例によれば、静電容量式圧力センサを製造する方法は、第1の電極層を形成するために、導電性金属フィルムをシリコーン・エラストマー層に取り付けるステップと、導電性金属フィルムが、シリコーン・エラストマー層と誘電体層との間に配置されるように、誘電体層を第1の電極層に取り付けるステップと、第2の電極層を形成するために、第2の導電性金属フィルムを第2のシリコーン・エラストマー層に取り付けるステップであって、シリコーン・エラストマー層は、シリコーン・エラストマー層の表面から突出する1つ又は複数の弾性隆起部を備える、ステップと、1つ又は複数の弾性隆起部が、誘電体層及び第1の電極層の方に向けられるように、第1の電極層を第2の電極層に取り付けるステップとを含み得る。弾性隆起部は、第1の電極層と第2の電極層との間に空隙を作り出すよう構成される。たとえば弾性隆起部は、誘電体層及び第1の電極層を、第2の電極層と離して押し出すか又は分離する。しかしセンサが、たとえば動脈の拍動によって圧縮されると、第1の電極層及び第2の電極層は互いにより接近し、それにより、空隙の高さが減少し、センサの圧力感度及び静電容量が増加する。
【0016】
いくつかの実施例では、該製造方法は、シリコーン・エラストマー層の表面から突出する1つ又は複数の弾性隆起部を備えるように、シリコーン・エラストマー層を成形するステップを含み得る。他の実施例では、該製造方法は、人工ニューラル・ネットワーク(ANN:artificial neural network)を使用して、静電容量式圧力センサをキャリブレーションするステップをさらに含み得る。キャリブレーションするステップは、測定された血圧信号及び1つ又は複数の生物学的入力変数からなるトレーニング・セットを使用して、ANNをトレーニングすることにより、キャリブレーション・モデルを生成するステップを含み得る。こうしたセンサは、引っ張り/曲げ/捩り歪みに耐えることができ、耐久性を向上させながら、人体に共形接触する軟質な機械的性質も維持する。ここで説明される軟質な静電容量式センサは、0~10kPaの圧力範囲で約0.1kPa-1~0.2kPa-1の圧力感度も有し、応答時間が高速である(<20ms)。
【0017】
本発明の唯一的で創意に富んだ技術的特徴の1つは、2つの電極層間に空隙が形成されるように、対向する電極を支持する隆起部である。加えて、本発明は、隆起部と誘電体層とが別個の構成要素であるという特徴を有する。誘電体層は、空隙と使用される誘電体材料との両方からなる。空隙と誘電体材料との両方が存在する場合、誘電率は、この2つの組合せである。空気の誘電定数は1に等しいのに対して、PDMSなどのシリコーン・エラストマーは約3である。したがって、センサの誘電定数は、空気とシリコーン・エラストマーとのそれぞれが占める容積の割合に応じて、その中間のeとなる。圧力センサが圧縮されると、空隙の容積が減少し、誘電定数が増加して3により近くなる。本発明をどんな理論又は仕組みに限定することも望まないが、隆起部を誘電体層から分離することによる誘電定数の増加は、圧力感度をより高くすることに寄与した。本発明の創意に富んだ技術的特徴が、驚くべきことに、広い圧力範囲にわたって高感度であり、且つ動脈の拍動において、心拍ごとの血圧の高精度な測定を可能にする、センサを作り出すという結果をもたらした。現在知られている従来の参考文献又は研究のいずれも、本発明の唯一的で創意に富んだ技術的特徴を有していない。
【0018】
さらに、従来の研究は、本発明とは離れた教示を行っている。たとえば、以前のセンサは、構造体のアレイを収容するよう形成された誘電体材料を利用していた。しかし、誘電定数を増加させ、圧力感度を増加させるという本発明の有利な方策は、誘電体層が微細構造化されている場合には実施できない。
【0019】
いくつかの実施例では、2つの隆起部を備えることは、構造体のアレイよりも有利である。というのは、2つの隆起部は、簡単に製造できるのに対して、構造体のアレイの製造は、時間のかかるプロセスであり且つ常に高い忠実度で生成するとは限らない、シリコン・ウェーハのエッチングを必要とするからである。誘電体構造体のアレイが圧縮されると、より一層圧縮されるほどに、たとえば空隙の容積が減少するほどに、機械的抵抗が生じ、圧縮する必要のある材料の量が増加する。2つの隆起部の圧縮は、より小さい機械的な力しか必要とせず、誘電材料の圧縮が事実上不要になるため、圧力感度が向上する。
【0020】
他の実施例によれば、本発明は、被験者の血圧を監視する方法を提供し、該方法は、静電容量式圧力センサを準備するステップと、センサを、被験者の橈骨動脈がある前腕又は手首に取り付けるステップと、センサを使用して被験者の血圧信号を測定するステップであって、橈骨動脈の拍動がセンサの圧縮を引き起こすと、センサが橈骨動脈の拍動に対応する血圧信号を検出する、ステップと、キャリブレーション・モデルを使用して、測定された信号から絶対血圧値を判定するステップとを含み得る。一態様では、血圧は継続的に監視できる。さらなる実施例では、該方法は、人工ニューラル・ネットワーク(ANN)を使用して、静電容量式圧力センサをキャリブレーションするステップを含む。このキャリブレーションするステップは、被験者からの複数の血圧信号を測定するステップと、被験者からの1つ又は複数の生物学的入力変数を測定するステップと、トレーニング・セットを形成するために、測定された血圧信号及び生物学的入力変数を組み合わせるステップと、キャリブレーション・モデルを生成するために、トレーニング・セットを使用してANNをトレーニングするステップとを含み得る。
【0021】
したがって、本発明は、心拍ごとの血圧を非侵襲的に、継続的に監視するための、動脈の血圧の自動キャリブレーションを可能にする。一実施例では、静電容量式センサは、FDA承認のClearSight(登録商標)デバイスに合わせてキャリブレーションできる。或いは、ClearSight(登録商標)デバイスなしでmmHgを出力するために、様々なパラメータを入力するニューラル・ネットワークを開発した。非限定的な実施例では、ニューラル・ネットワークは、モデルを作成するために、センサからの容量測定値、機械式センサによって加えられる圧力、脈拍数、EKG、加速度計のデータ、ジャイロスコープのデータ、磁気計のデータ、血行力学的監視データ、及びClearSight(登録商標)のデータなど、トレーニング・セットを構成する様々な入力を使用してトレーニングできる。血圧信号の測定値、及び1つ又は複数の生物学的入力変数を含むトレーニング・セットが、複数の被験者から取得され得る。この堅牢なモデルが作成された後、センサから静電容量の測定値を入力すると、絶対圧力が出力される。トレーニング・セットを生成する際に、モデルに対する被験者を、事前定義された既知のやり方で動かすことにより、この手法を使用してモーション・アーチファクトを差し引くこともできる。キャリブレーションされたセンサが同じ人に対して使用されると、センサで測定された拍動波形は、動脈の血圧と相関し得る。したがって、他のどんな入力もなしに、高精度の血圧測定読取り値を取得できる。たとえば、センサがキャリブレーションされると、最終ユーザによる追加の機器は必要ない。ユーザは、ただ橈骨動脈に圧力センサを配置するだけで、絶対mmHgが記録されることになる。
【0022】
本発明の別の唯一的で創意に富んだ技術的特徴は、継続的な機械式血圧センサをキャリブレーションするための、ニューラル・ネットワークの使用である。本発明をどんな理論又は仕組みに限定することも望まないが、本発明の技術的特徴は、有利なことには、心拍ごとの血圧の非侵襲的監視を提供すると考えられる。現在知られている従来の参考文献のいずれも、本発明の唯一的で創意に富んだ技術的特徴を有していない。
【0023】
本明細書に記載のどの特徴、又は特徴の組合せも、任意のかかる組合せに含まれる特徴が、文脈、この明細書、及び当業者の知識から明らかになるものと相互に矛盾しない限り、本発明の範囲内に含まれる。本発明のさらなる利点及び態様は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲において、明らかである。
【0024】
本発明の特徴及び利点は、以下の添付図面と共に提示される、以下の詳細な説明を考察することにより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】本発明の静電容量式圧力センサの断面図である。誘電体層は、2つのしわの寄ったAuの薄いフィルム(wAu)層間に配置されている。電極のトレース縁部に沿った隆起部が存在することにより、空隙が形成されている。
【
図1B】本発明の静電容量式圧力センサの断面図である。誘電体層は、2つのしわの寄ったAuの薄いフィルム(wAu)層間に配置されている。圧縮されると、空隙のエリアが減少し、それによって実効誘電定数が変化する。電極間の距離も短くなり、それによって静電容量が増加する。
【
図2】軟質の静電容量式圧力センサを作製造するための、製造プロセスの非限定的な実施例を示す図である。ステップa)では、レーザ・カッタを使用して、シャドウ・マスク及びPS基板をエッチングした。ステップb)では、Auを、シャドウ・マスクを通してPS基板上にスパッタリングした。ステップc)では、シャドウ・マスクを取り除き、d)では、PS基板を140℃まで加熱して、2軸方向への収縮を助長する。ステップe)では、wAuをMPTMSで処理した後、シリコーン・エラストマーを基板の上にスピン・コーティングする。したがって、エッチングされた溝が象られる。ステップf)では、基板を有機溶媒に入れて、wAuを持ち上げてPSから離す。ステップg)では、電気的相互接続部を取り付けた後、電極層と誘電体層とを一体にプラズマ接合して、ステップh)では、最終デバイスを作製する。
【
図3A】手首の、橈骨動脈の上に配置したときの、圧力センサの概略図である。血液の拍動が橈骨動脈を通るとき、圧力センサは変形する。ねじを使用して、圧力の増分を加え、橈骨動脈を圧平している。
【
図3B】手首の、橈骨動脈の上に配置したときの、圧力センサの概略図である。血液の拍動が橈骨動脈を通るとき、圧力センサは変形する。ねじを使用して、圧力の増分を加え、橈骨動脈を圧平している。
【
図4】実施例である、静電容量式圧力センサ及びwAuの走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)の画像である。
【
図5A】微細隆起構造体の断面のSEM画像である。
【
図5B】電極間に存在する空隙のSEM画像である。
【
図6】PDMS成形プロセスの際に形成された、PDMS弾性隆起部の高さプロファイルを示す図である。隆起部の縦横比は、収縮プロセスの間に増加する。
【
図7A】0~10kPaでの、隆起部のある静電容量式圧力センサ(赤)、隆起部のない静電容量式圧力センサ(青)、及び平坦なAu電極で作製されたセンサ(緑)の、圧力感度曲線を示す図である。
【
図7B】隆起部がある場合対隆起部がない場合の、圧力センサの圧力感度曲線を示す図である。黒線は負荷をかけている状態を示し、色付きの線は負荷を取り外している状態を示す。負荷を取り外す前に加えた負荷の量は、色付きの線で、単位ニュートンで示している。
【
図8】
図7Bの挿入図であり、1Nの力(約40kPa)で負荷をかけ、負荷を取り外した後の、圧力センサの電気機械的応答性を示す図である。
【
図9】5000サイクルにわたる、25kPaの繰返し負荷のグラフである。
【
図10A】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS:pressure sensitivity)曲線を示す図である。微細隆起構造体(高さ85μm、幅100μm)を備えた、7つの相異なる静電容量式センサのPS曲線を示している。
【
図10B】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS)曲線を示す図である。0~10kPaまでの、
図10AのPS曲線の挿入図である。
【
図10C】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS)曲線を示す図である。より大きな微細隆起部(高さ190μm、幅600μm)を備えた、3つの相異なるセンサのPS曲線を示している。
【
図10D】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS)曲線を示す図である。0~10kPaまでの、
図10CのPS曲線の挿入図である。
【
図10E】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS)曲線を示す図である。微細隆起構造体のない、3つの相異なるセンサの湾曲PSを示している。
【
図10F】軟質の静電容量式圧力センサの圧力感度(PS)曲線を示す図である。0~10kPaまでの、
図10EのPS曲線の挿入図である。
【
図11】圧力センサに歪みの衝撃を誘起した後の、信号応答を示す図である。Arduinoで制御されるリニア・アクチュエータに直径約2mmの小さなプローブを取り付けて、歪みの衝撃(<1ms)を誘起した。
【
図12A】Arduinoで制御されるリニア・アクチュエータに、直径約2mmの小さなプローブを取り付けたときの結果を示す図である。実験は、センサに事前に加えられた歪みから始まった。距離が増加するにつれて、プローブがセンサから離れる方向に移動するようにして、距離を測定した(距離がより短いほど、静電容量の一層大きな変化が生じる)。周期的な歪みを誘起したときの、圧力センサからの信号応答を示す図である。
【
図12B】Arduinoで制御されるリニア・アクチュエータに、直径約2mmの小さなプローブを取り付けたときの結果を示す図である。実験は、センサに事前に加えられた歪みから始まった。距離が増加するにつれて、プローブがセンサから離れる方向に移動するようにして、距離を測定した(距離がより短いほど、静電容量の一層大きな変化が生じる)。約11Hzで測定された、加えられた周期的歪み及び圧力センサの信号応答の、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier transform)を示す図である。
【
図13A】橈骨動脈の拍動を測定するために、圧力センサが手首にどのように取り付けられるかを示す、設定の図である。
【
図14】心拍ごとの血圧を測定する際に、センサを配置した場所の写真画像である。
【
図15A】静電容量式圧力センサ(上段)及びClearSight(登録商標)デバイス(下段)で測定された、動脈の拍動波形の実例を示す図である。
【
図15B】
図15Aの強調表示された区間からの、心血管の特徴を示す1つの拍動波形を示す図である。
【
図16A】静電容量式圧力センサとClearSight(登録商標)とを比較するために使用した、被験者1の4つの70心拍区間の実例を示す図である。動脈の拍動波形は黒で示され、SBP及びDBPは、赤で強調表示されている。
【
図16B】圧力センサとClearSight(登録商標)との間の、SBP、DBP、及びMAPの線形回帰分析を示す図である。
【
図17A】SBPについての、被験者1からの圧力センサのキャリブレーション・モデルの実例を示す図である。
【
図17B】DBPについての、被験者1からの圧力センサのキャリブレーション・モデルの実例を示す図である。
【
図17C】MAPについての、被験者1からの圧力センサのキャリブレーション・モデルの実例を示す図である。
【
図17D】組み合わされた、すべての被験者についてのBland-Altmanプロットを示す図である。データには、合計9つの別々のテストのために被験者1に使用した、相異なるセンサが含まれている。破線は、2つの標準偏差を示し、実線は、平均誤差(mean bias)を示している。
【
図18】ECG(mV)及び橈骨動脈に配置した圧力センサ(pF)を使った、拍動通過時間(PTT:pulse transit time)測定方法を示す図である。
【
図19】ECGを使用して測定されたPTT
-1(円の実線)が、圧力センサで測定された血圧変動において、同様の傾向を有することを示す図である。
【
図20A】PTT
-1の、圧力センサとの相関関係を示す図である。
【
図20B】PTT
-1の、ClearSight(登録商標)との相関関係を示す図である。
【
図20C】様々な時間に測定し、次いで、ClearSight(登録商標)によって生成したPTTモデルを使用してキャリブレーションした、60秒の圧力センサのデータを示す図である。収縮期ピークのBland-Altman分析は、FDA承認用のISO規格の範囲内の、平均誤差及び標準偏差を示している。
【
図21】左から右に、プラズマ接合した静電容量式圧力センサ、個々の電極、及び静電容量式圧力センサの4x4感知グリッドを示す図である。
【
図22A】2つの感知エリアを使った拍動測定を示す図である。
【
図22B】同じセンサ上の相異なる場所の圧力を空間的に分解する、センサの機能を実証する図である。データの取得は、Texas Instruments FDC2214EVMを使用して実行した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
「符号の説明」は、本明細書で参照される特定の要素に対応する、要素のリストである。
【0027】
ここで
図1A~
図1Bを参照すると、いくつかの実施例で、本発明は、静電容量式圧力センサ(100)を特徴とする。センサ(100)は、第1の電極層(110)と、第2の電極層(120)と、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)との間に並置された誘電体層(130)とを備え得る。センサ(100)が、
図1Aに示されるような静止構成にあるとき、空隙(140)が、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)との間に配置される。空隙(140)は、第2の誘電体層として作用できる。好ましい実施例では、センサ(100)は、曲げることができ、圧縮可能であり、可撓性である。
図1Bに示されるように、センサ(100)が圧縮されると、空隙の高さが減少し、それにより、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)とが互いにより接近し、センサの圧力感度及び静電容量が増す。本発明をどんな理論又は仕組みに限定することも望まないが、本発明は、有利なことに、高い電気機械的信頼性、高い圧力感度、迅速な応答時間、及び低いエネルギー消費量の圧力センサを提供すると考えられる。現在知られている従来の参考文献又は研究のいずれも、本発明の唯一的で創意に富んだ技術的特徴を有していない。
【0028】
いくつかの実施例では、第1の電極層(110)は、エラストマー層(112)、及びエラストマー層(112)に接して配置された導電性フィルム(114)を備え得る。誘電体層(130)は、第1の電極層(110)の導電性フィルム(114)に接して配置され得る。他の実施例では、第2の電極層(120)は、エラストマー層(122)、及びシリコーン・エラストマー層(122)に接して配置された導電性フィルム(124)を備え得る。さらなる実施例では、第2の電極層(120)は、第2の電極層(120)から第1の電極層(110)に向かって突出する弾性隆起部(125)を備えることができ、隆起部は、静止構成において、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)とを分離する空隙を作り出す。一実施例では、導電性フィルム(124)は、弾性隆起部(125)間に配置され得る。弾性隆起部(125)は、好ましくは、センサ(100)が圧縮されたときに空隙の高さを減少させるように曲がることができる。本明細書で使用される場合、空隙の高さとは、誘電体層(130)と第2の電極層(120)の導電性フィルム(124)との間の距離を指すことができる。
【0029】
一実施例では、弾性隆起部(125)は、2つの隆起部を備え得る。隆起部は、第2の電極層(120)上で互いに平行であり得る。他の実施例では、弾性隆起部(125)は、3つ以上の隆起部を備えてもよい。いくつかの実施例では、弾性隆起部は、図に示されるように、三角形の輪郭又は断面を有する細長いストリップであり得る。三角形の隆起部の尖った遠位端は、対向する電極層の誘電体層に接触し得る。他の実施例では、弾性隆起部は、「U」字の上下逆の輪郭を有していてもよい。いくつかの他の実施例では、弾性隆起部は、ピラミッド構造体、たとえば、2つのピラミッド構造体であってもよい。
【0030】
いくつかの実施例では、エラストマー層(112、122)は、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンを含み得る。他の実施例では、エラストマー層(112、122)は、ポリウレタンなどの非シリコーン・エラストマーを含んでもよい。
【0031】
他のいくつかの実施例では、導電性フィルム(114、124)は金属フィルムである。金属フィルムは、しわの寄ったAuの薄いフィルムなど、しわがあり得る。本発明に従って使用できる他の導電性材料には、銅、銀、又はアルミニウムの薄いフィルムなどの金属が含まれるが、これらに限定されるものではない。別法として、導電性ナノ材料の浸透回路網を、カーボン・ナノチューブなどの導電性電極として使用できる。
【0032】
さらに他の実施例では、誘電体層(130)は、Ecoflexなどの軟質シリコーン・ゴムを含み得る。したがって、センサが静止構成にあるとき、センサの誘電定数は約1である。センサが圧縮されていると、誘電定数は約3となり得る。いくつかの他の実施例では、誘電体層(130)は、より高い誘電定数を有する誘電体材料を含んでもよい。たとえば、誘電体材料の誘電定数は3より大きくてもよい。より高い誘電定数を有する誘電体の実例には、ジルコニア、チタニア、又はシリカなどの酸化物、及びチタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの圧電材料が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明を特定の理論又は仕組みに限定することは望まないが、誘電体材料は、該材料の誘電定数が空気の誘電定数である1よりもはるかに大きくなるよう選択される。これにより、センサが圧縮されたときの誘電定数の変化をより大きくし、したがって圧力感度を向上させることを可能にし得る。
【0033】
一実施例では、センサの圧力感度は、0~10kPaの圧力範囲において、約0.1kPa-1から約0.2kPa-1であり得る。別の実施例では、センサの応答時間は、約20ms未満、好ましくは10ms未満である。
【0034】
いくつかの実施例によれば、本発明は、被験者の血圧を監視する方法を特徴とする。該方法は、本明細書に記載の静電容量式圧力センサ(100)のいずれか1つを準備するステップと、センサを被験者の橈骨動脈がある前腕又は手首に取り付けるステップと、センサを圧力計に動作可能に接続するステップとを含み得る。本発明を特定の理論又は仕組みに限定することは望まないが、橈骨動脈の拍動が、センサの圧縮を引き起こし、センサは、橈骨動脈の拍動に対応する信号を検出して、該信号を圧力計に送信する。次いで、圧力計は、該信号から血圧を判定する、たとえば計算することができる。
【0035】
さらに別の実施例では、被験者の血圧を監視する方法は、静電容量式圧力センサ(100)を、被験者の橈骨動脈がある前腕又は手首に取り付けるステップと、センサ(100)を使用して被験者の血圧信号を測定するステップであって、橈骨動脈の拍動がセンサの圧縮を引き起こし、センサ(100)が橈骨動脈の拍動に対応する血圧信号を検出する、ステップと、キャリブレーション・モデルを使用して、測定された信号から絶対血圧値を判定するステップとを含み得る。さらなる実施例では、該監視する方法は、人工ニューラル・ネットワーク(ANN)を使用して、静電容量式圧力センサ(100)をキャリブレーションするステップをさらに含み得る。キャリブレーションするステップは、被験者からの複数の血圧信号を測定するステップと、被験者からの1つ又は複数の生物学的入力変数を測定するステップと、トレーニング・セットを形成するために、測定された血圧信号及び生物学的入力変数を組み合わせるステップと、キャリブレーション・モデルを生成するために、トレーニング・セットを使用してANNをトレーニングするステップとを含み得る。キャリブレーション・モデルは、センサ(100)をキャリブレーションするために使用され、測定された信号から絶対血圧値を判定することを可能にする。他の実施例では、キャリブレーションするステップは、トレーニング・セットに動きデータを含むことによって、モーション・アーチファクトを差し引くステップをさらに含み得る。いくつかの実施例では、トレーニング・セットは、複数の被験者からの血圧信号の測定値、及び1つ又は複数の生物学的入力変数を含み得る。他の実施例では、1つ又は複数の生物学的入力変数には、センサ圧力、脈拍数、EKGのデータ、加速度計のデータ、ジャイロスコープのデータ、磁力計のデータ、又は血行力学的監視データが含まれ得る。
【0036】
一実例では、キャリブレーション・モデルは、拍動通過時間(PTT)を含む、追加の生理学的パラメータを利用できる。PTTは、血液の拍動が、あるポイントから別のポイントに移動するのにかかる時間である。これは、心電図(ECG:electrocardiogram)、及び橈骨動脈上の圧力センサなどの近位センサを使用して測定できる。これら2つの構成要素により、拍動の開始、及びその拍動が橈骨動脈に到達するまでにかかる時間を検出できる。より圧力が高いほど、拍動を身体全体に一層速く送ることができるため、PTTは血圧と相関し得る。PTTは、静電容量式圧力センサを基準値にキャリブレーションするのに役立ち得る。したがって、PTT及び静電容量式センサの情報を組み合わせて使用し、圧力センサをキャリブレーションするためのANNを生成することができる。
【0037】
一実施例では、センサを使用して、被験者の、たとえば心拍ごとの血圧を継続的に監視できる。別の実施例では、やはりセンサを使用して、ただ1回の血圧測定を行うこともできる。センサは、好ましくは、非侵襲的に血圧を監視するために使用できる。いくつかの実施例では、センサ(100)は、接着テープ、又は調節可能な若しくは弾性のバンドなどのカフによって、前腕又は手首に取り付けられ得る。
【0038】
他の実施例によれば、本発明は、静電容量式圧力センサ(100)を製造する方法を特徴とする。該方法は、第1の電極層(110)を形成するために、導電性金属フィルム(114)をエラストマー層(112)に取り付けるステップと、導電性金属フィルム(114)がエラストマー層(112)と誘電体層(130)との間に配置されるように、誘電体層(130)を第1の電極層(110)に取り付けるステップと、第2の電極層(120)を形成するために、第2の導電性金属フィルム(124)を、第2のエラストマー層の表面から突出する弾性隆起部(120)を備える、第2のエラストマー層(122)に取り付けるステップと、第1の電極層(110)を第2の電極層(120)に取り付けるステップとを含み得る。弾性隆起部(120)は、好ましくは、第1の電極層(110)の方に向けられ、誘電体層(130)は、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)との間に並置される。したがって、弾性隆起部(125)は、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)との間に空隙(140)を作り出す。センサ(100)が圧縮されると、空隙の高さが減少し、それにより、第1の電極層(110)と第2の電極層(120)とが互いにより接近し、圧力感度及びセンサの静電容量が増す。
【0039】
代替の実施例では、本発明は、こうしたセンサのグリッドを使用することによって、相異なるエリアを感知する機能を有し得る。これは、橈骨動脈の最適な場所を空間的に分解できるようにするために重要である。これは、製造プロセスに追加の電極を導入することにより実現され得る。本発明は、4x4グリッド・センサに限定されないことを理解されたい。他の実施例では、感知する「ピクセル」の量は、任意のサイズ、たとえば、1x1、2x2、3x3、5x5、10x10、100x100などであり得る。別法として又は組み合わせて、複数のセンサを一緒に使用して、マッピング機能(空間分解能)を使用可能にすることができる。たとえば、2~5個のセンサが、相異なるエリアを感知するために、互いに動作可能に結合され得る。
【0040】
いくつかの他の実施例によれば、本発明は、人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用して、機械的で継続的な血圧モニタをキャリブレーションする方法を特徴とする。非限定的な実例として、該方法は、機械的で継続的な血圧モニタを準備するステップと、血圧モニタを患者に使用するステップと、患者の複数の機械的血圧信号を測定するステップと、患者の1つ又は複数の追加の生物学的入力変数を測定するステップと、トレーニング・セットを形成するために、測定された機械的血圧信号及び追加の生物学的入力変数を組み合わせるステップと、キャリブレーション・モデルを生成するために、トレーニング・セットを使用してANNをトレーニングするステップと、血圧モニタを使用して患者の血圧を継続的に測定できるように、キャリブレーション・モデルを使用して血圧モニタをキャリブレーションするステップとを含み得る。
【0041】
いくつかの実施例では、血圧モニタは、本明細書に記載の静電容量式圧力センサのいずれかを備え得る。非限定的な実例として、静電容量式圧力センサは、第1の電極層と、第2の電極層と、第1の電極層及び第2の電極層の間に並置された誘電体層とを備え得る。好ましい実施例では、センサが静止構成にあるとき、第1の電極層と第2の電極層との間に空隙が配置され、センサが圧縮されると、空隙の高さが減少し、それによって第1の電極層と第2の電極層とが互いにより近くなり、センサの圧力感度及び静電容量が増す。
【0042】
いくつかの実施例では、血圧モニタは、橈骨動脈又は別の動脈などの、被験者の動脈に使用され得る。いくつかの実施例では、血圧モニタは、心拍ごとの血圧を測定するためにキャリブレーションされ得る。いくつかの実施例では、トレーニング・セットは、複数の患者からの測定値を含み得る。非限定的な実例として、トレーニング・セットは、数十人、数百人、数千人、数万人、又はそれを上回る患者からの測定値を含み得る。一実施例によれば、キャリブレーションされた血圧モニタは、再キャリブレーションを必要とすることなく、高い精度で新しい患者に使用できる。
【0043】
いくつかの実施例では、機械的血圧信号は、拍動波形を含み得る。いくつかの実施例では、追加の生物学的入力変数には、センサ圧力、脈拍数、EKGのデータ、加速度計のデータ、ジャイロスコープのデータ、磁力計のデータ、又は血行力学的監視データが含まれる。いくつかの実施例では、該方法は、モーション・アーチファクトを差し引くステップをさらに含み得る。非限定的な実例として、モーション・アーチファクトは、トレーニング・セットに動きデータを含むことによって、差し引くことができる。非限定的な実例として、動きデータは、患者を所定の態様で動かすことによって、トレーニング・セットに含むことができる。
【0044】
一実施例では、本発明は、キャリブレーションされた、機械的で継続的な血圧モニタを特徴とする。非限定的な実例として、モニタは、拍動ごとの血圧の継続的な監視を可能にするよう構成された静電容量式圧力センサと、静電容量式圧力センサからの複数の測定値を使用して、人工ニューラルネットワーク(ANN)によって生成されたキャリブレーション・モデルとを備え得る。いくつかの実施例では、キャリブレーションされた血圧モニタは、追加のデータ入力なしで高精度の血圧測定を実現するよう構成され得る。
【0045】
いくつかの実施例では、複数の測定値は、単一の患者又は複数の患者からのものであり得る。いくつかの実施例では、静電容量式圧力センサは、使い捨て又は再利用可能であり得る。いくつかの実施例では、センサは、患者の皮膚表面に取り付けられるよう構成され得る。非限定的な実例として、センサは、患者の動脈の上に取り付けられ得る。好ましい実施例では、モニタは、単一のセンサを備え得る。別法として、複数のセンサを組み合わせて使用してもよい。
【0046】
一実施例では、本発明は、血圧監視を必要とする被験者の、心拍ごとの血圧を継続的に監視する方法を特徴とする。非限定的な実例として、該方法は、キャリブレーションされた機械的で連続的な血圧モニタを準備するステップと、モニタを被験者の橈骨動脈がある被験者の前腕又は手首に取り付けるステップと、モニタを使用して被験者の機械的血圧信号を測定するステップと、絶対血圧値を判定するために、キャリブレーション・モデルを使用して、測定された信号を解釈するステップと含み得る。いくつかの実施例では、モニタは、静電容量式圧力センサを備え得る。いくつかの実施例では、該方法は、非侵襲的であり得る。いくつかの実施例では、モニタのキャリブレーションは、人工ニューラルネットワーク(ANN)を使用して行うことができる。いくつかの実施例では、モニタは、接着テープ又はカフによって被験者の皮膚表面に取り付けられる。
【0047】
他の実施例では、本発明の圧力センサは、身体の他の部分に使用でき、前腕又は手首への使用に限定されるものではない。たとえば、センサは、首、上腕、胸、脚などに取り付けられ得る。
【0048】
さらに他の実施例では、本発明は、圧力測定値、流量などを必要とする、他の用途で実施できる。非限定的な実施例として、圧力センサは、パイプなどの構造物に使用できる。
実例
【0049】
以下は、本発明の非限定的な実例である。該実例は、いかなる形であれ、本発明を限定することを意図するものではないことを理解されたい。同等物又は代替物は、本発明の範囲内にある。
【0050】
実験
【0051】
静電容量ベースの圧力センサの製造
【0052】
センサは、しわの寄った電極、誘電体層、空隙、及びエッチングした隆起部を有するしわの寄った電極の4層で構成した。
図2を参照して、両方の電極を製造するためのプロセスは、予め応力を加えたポリスチレン(PS)基板(Grafix Shrink Film KSF50-C、Grafix Arts、OH)を、70%エタノールですすぐことから始めた。センサのデザインは、AutoCAD(Autodesk,Inc.、CA)を使用して開発し、レーザ・カッタ(Universal Laser、AZ)を使用して、接着性ポリマー・フィルム(Grafix Frisket Film、Grafix Arts、OH)で作製したシャドウ・マスク上にパターン形成した。デザインは、収縮後の最終的な電極寸法が、幅2mm、長さ15mmになるよう作成した。まずFrisketフィルムをPS基板の上面に配置し、次いで、センサのデザインを、マスキングされたPS基板上にパターン形成した。隆起部がエッチングされた電極については、より高い電力設定(0.5%電力、3%速度、1000PPI)を使用して、電極の側部に沿ってPS基板にエッチングを行った。両方の基板をマスキングしてパターン形成した後、マグネトロン・スパッタ・コータ(Q150R、Quorum Technologies、UK)を使用して、各PS基板上に15nmのAuを堆積させた。
【0053】
続いて、シャドウ・マスクを取り除き、スパッタされた基板を140℃の対流式オーブンに入れて、Auフィルムの2軸方向への収縮及びしわを誘起した。収縮したサンプルを、純粋なエタノール中の5mMの3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(95%MPTMS、Sigma Aldrich)で、1時間処理した。次いで、サンプルをエタノールですすぎ、エア・ガンで乾燥させた。その後、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(Sylgard 184 Silicon Elastomer Base、Dow Corning、MI)を、MPTMSで処理したAuフィルムの上に注ぎ、300rpmで30秒間スピン・コーティングを行い、最終的な基板の厚さを約0.5mmにした。サンプルを30分間真空中に置いて気泡を取り除き、60℃の対流式オーブンで一晩硬化させた。次いで、硬化したサンプルを75°アセトン浴に15分間入れてPS基板を溶解し、PDMS及びしわの寄ったAuフィルムを持ち上げてPSから離した。その後、センサをトルエンに2分間浸し、アセトンですすぐことにより、しわの寄った薄いフィルムから残留したPSを除去した。次いで、サンプルを一晩風乾した。
【0054】
コロイド状銀の液体(Pelco Colloidal Silver Liquid、Ted Pella、CA)を使用して、Au電極をワイヤと相互接続し、乾燥後、樹脂を使用して、相互接続した接点を封止した。樹脂が乾燥した後、電極との相互接続部をさらに固定するために、ポリイミドのテープを樹脂上に貼り付けた。Ecoflex(登録商標)は、Ecoflex(登録商標)がPDMS基板上で硬化されるか、又は他のシリコーン・エラストマーで化学修飾された場合にのみ、他のシリコーンにプラズマ接合できる。したがって、まずシリコーン・エラストマーEcoflex(登録商標)0030(Smooth-On、PA)を、硬化したPDMS層にスピン・コーティングした。塗布ステップは1000rpmで10秒間、スピンコート・ステップは3000RPMで30秒間行い、最終的な厚さを15μmにした。次いで、エラストマーを、60℃の対流式オーブンに2時間入れて硬化させた。次に、硬化したエラストマーを約16Pa(120mTorr)で、外気で40秒間平坦な電極にプラズマ接合し(PE-50、Plasma Etch、NV)、次いで60℃の対流式オーブンに入れて化学結合を促進した。Ecoflex(登録商標)層からPDMS層を取り除いた後、次いで、誘電体層を備えた平坦な電極を、エッチングされた電極にプラズマ接合して、最終的な静電容量ベースのセンサを形成した。化学結合を促進するために、センサを、60℃の対流式オーブンに入れた。
【0055】
平坦なAu電極(制御部として機能した)は、PS基板上に90nmのAuをパターン形成することにより製造した。Auを、純粋なエタノール中の5mMのMPTMS(95%MPTMS)で、1時間処理した。次いで、PDMSを、300RPMで30秒間基板上にスピン・コーティングし、60℃の対流式オーブンで2時間硬化させた。アセトンの液滴をPDMS上に滴下して、PS基板からAuを持ち上げた。電気的相互接続部を取り付けた後、Ecoflex(登録商標)0030を、一方の電極に3000RPMで30秒間スピン・コーティングし、次いで60℃の対流式オーブンで2時間硬化させた。硬化後、対向する電極を、Ecoflex(登録商標)誘電体層と共に、電極の上面に配置した。電極の表面積の重なりは、2x2mm2であった。
【0056】
特性評価
【0057】
走査型電子顕微鏡(SEM)(FEI Magellan400XHR)を使用して、Auフィルムのしわ構造体の特性を明らかにした。圧力感度は、テストスタンド(ESM303、Mark-10、NY)に接続されたフォース・ゲージ(Force Gauge Series5、Mark-10、NY)を使用してテストした。フォース・ゲージを、センサの少し上に配置し、次いで直径6mmのフォース・プローブを使用して、毎分1.1mmの降下速度で移動させた。フリンジ効果を低減するために、ガラス繊維プローブを使用した。静電容量の変化は、力を加えているときに収集し、LCRメータ(300kHz)(E4980AL Precision LCR Meter、Keysight、CA)を使って測定した。データは、LabViewを使用して収集し、次いでMatlabを使用してデータ処理した。インピーダンス・アナライザ(1MHz、500mV)(4291B、Agilent、CA)を使用して、Arduinoによって制御される特注のリニア・アクチュエータを使って加えられる、繰り返す静的な負荷による、圧力センサの信号応答を測定した。特注のリニア・アクチュエータからの距離情報は、National Instrumentデータ取得システム(USB-6003、TX)を使用して、リニア・ポテンショメータ(Spectra Symbol、UT)で記録した。
【0058】
心拍ごとの血圧法
【0059】
センサは、徐々に圧力を加えるために、ねじを使って特注のVelcro(登録商標)バンド上に組み立てた。センサを身体に取り付ける前に、Tegaderm(登録商標)(3M Health Care、MN)ストリップを左手首に配置して、センサと皮膚との親和性を促進した。次いで、センサを取り付け、特注のVelcro(登録商標)バンドでしっかりと縛った。ClearSight(登録商標)フィンガ・カフを、被験者の右手の人差し指に取り付けた。圧力センサとClearSight(登録商標)デバイスとの測定は、同時に測定し、続いてMatlabで分析した。
【0060】
統計分析
【0061】
センサの静電容量の読取り値は、LCRメータから約56Hzのサンプリング周波数で取得した(データ・ポイントには、ミリ秒の精度でタイムスタンプを付けた)。すべてのデータセットをMatlabで後処理し、ClearSight(登録商標)(200Hz)のデータセットと整合するように、200Hzに線形補間した。次いで、補間したデータは、5箇所のデータ・ポイントの移動平均フィルタにより平滑化した。
【0062】
上記のように、ClearSight(登録商標)は、検出された心周期の数で、心拍ごとの血圧測定値をセグメント化する。70拍からなる区間が、血圧測定において最も高精度且つ正確であると見なした。ただし、こうした区間のそれぞれには、分析に使用した69の完全な心周期しか含まれていなかった。4つの連続した区間で、相異なる呼吸法(breathing maneuver)を実行した。被験者及び個々の区間ごとに、SBP、DBP、及びMAP(n=69)について、圧力センサとClearSight(登録商標)との間に線形回帰を得た。次いで、被験者ごとに4つの区間を組み合わせて、線形回帰によって分析した(n=276)。
【0063】
Bland-Altman分析を使用して、ClearSight(登録商標)と圧力センサとの一致具合を調査した。各被験者のデータを、無作為に2つの別個のセットに分割し、データの75%をモデルの作成に使用し、25%をモデルのテストに使用した。線形回帰モデルを構築し、SBP、DBP、及びMAP値をそれぞれ予測した(n=207)。次いで、被験者ごとの残りのデータ(n=69)を、線形回帰モデルでキャリブレーションした。次いで、SBP、DBP、及びMAPパラメータ(n=621)ごとに組み合わせた9つの被験者のテストすべてについて、平均誤差及び標準偏差を計算した。3つの連続した心周期を平均化し、同様に分析した(n=207)。平均誤差及び標準偏差は、心周期の平均化なし(n=1863)及び3つの連続した心周期の平均(n=621)も組み合わせて、すべてのSBP、DBP、及びMAPパラメータについて計算した。
【0064】
結果
【0065】
センサの製造方法
【0066】
誘電体層によって分離された2つの導電性平行板からなる軟質の静電容量式圧力センサは、熱的に誘起する収縮製造プロセスを使用して製造した(
図2)。ポリスチレン(PS)基板上で収縮させると、Auの薄いフィルムの、非常にしわの寄った構造体(wAu)が形成された。こうしたしわの寄った薄いフィルムの構造体をシリコーン・エラストマー基板上に移すと、wAuの薄いフィルムは、電気的に故障する前に、最大200%の伸縮性を実証した。wAu電極が機械的に堅牢なので、こうしたwAu電極を、静電容量式圧力センサの平行板(2x2mm
2)として使用した。こうしたしわの寄った構造体により、機械的堅牢性を大幅に向上させ、15nm厚のwAuの薄いフィルムを軟質の基板に統合して、数千回のサイクルに耐えることが可能となる。こうした電極は、とりわけ、局所的な圧力を測定するために重要な、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む軟質のシリコーン基板上で支持することが可能である。報告されている多くの静電容量式圧力センサは、PDMS(E約1MPa)などの軟質のシリコーン・エラストマーほど人体に対して機械的に親和性がない、ポリエチレンテレフタレート(PET、E約2.5GPa)などの硬質の基板を使用している。また硬質の基板は潜在的に、局所的な応力の空間分解能を妨げ、動脈拍動の測定に悪影響を与える可能性もある。
【0067】
平行板間の軟質の誘電体層として、軟質のシリコーン・エラストマーであるEcoflex(登録商標)(15μm)を使用した。平行板電極間の弾性抵抗を低減させ、圧力感度を向上させるために、Ecoflexの軟質の機械的特質(ショア硬度00~30)により、PDMS(ショア硬度A-48)ではなくEcoflex(登録商標)を使用した。加えて、微細構造の隆起部は、PDMSで、PS基板にレーザ・カット・エッチングされた溝を象ることによって作製した。微細構造の隆起部は、高さ約85μm、幅約100μmであり、
図5Aから分かるように、しわの寄った薄いフィルム電極の縁部に隣接して位置し、互いに約2mmの間隔をあけて配置した。電極間の空隙のサイズは、
図5Bから分かるように、高さ約130μmであった。隆起部は対抗する電極を支持し、誘電体層内に空気の空洞を作り出した。
【0068】
圧力が加えられると、平行板が互いにより近づき、静電容量が増加した。空気の空洞の圧縮により、実効比誘電率も増加してε
ecoの比誘電率により近づき、静電容量の変化が一層大きくなった。この効果は、式2で説明できる。
【数2】
ここで、ε
r0は圧力を加える前の比誘電率、ε
rは圧力を加えた後の比誘電率である。
【0069】
電気機械的特性評価
【0070】
軟質の静電容量式圧力センサの電気機械的性能を、式3で定義される圧力感度を測定することによって評価した。
【数3】
ここで、ΔCは静電容量の変化、C
0は初期の静電容量、Pは圧力である。センサの圧力感度は、力を加えて静電容量の変化を測定することによって測定した。フォース・ゲージに取り付けられた6mmのガラス繊維プローブの先端に、力を加えた。ガラス繊維プローブを使用して、静電容量式圧力センサとの、いかなるフリンジ静電容量干渉をも低減した。
【0071】
測定した、微細構造の隆起部を備えるセンサの圧力感度は、0~10kPaの間で、0.148kPa
-1であった(
図7A)。微細構造の隆起部のない、しわの寄った電極の対照群もテストした。微細隆起部のない静電容量式圧力センサは、3~10kPa間で0.029kPa
-1の、圧力感度がより低い特性を示した。しかし、隆起部のない圧力センサの圧力感度は、0~2kPaの範囲では約0.12kPa
-1の圧力感度を示した。これは、微細隆起部のある圧力センサに匹敵する。この場合、空気の空洞を作り出すための微細隆起部はないが、しわの寄ったAu電極の凸凹に起因して、小さな空隙が依然として存在している。ただし、こうした空隙は、低圧領域で完全に圧縮されているため、さらなる圧力を加えると、圧力感度はより低くなる。したがって、微細構造の隆起部により、軟質の静電容量式圧力センサは、広いダイナミック・レンジにわたって高い圧力感度を実現できる。しかし、微細隆起部のサイズが大きくなると(高さ190μm、幅600μm)、圧力感度が低下した(
図8)。この圧力感度の低下は、圧縮する必要のあるより大きな形体に起因する可能性がある。
【0072】
平坦なAu電極を備えた静電容量式圧力センサを、wAu電極と比較するために製造した。PDMS基板上のAuの薄いフィルムの脆性により、15nmを移すことが不可能であったため、15nmの代わりに90nmのAuを使用した。平らなAu電極を備えた静電容量式圧力センサ(空隙がほとんど又はまったく存在しない)は、0~10kPaで、約0kPa-1の圧力感度を示した。これは、wAu電極が、15nm程度の薄いフィルムの付着を可能にする、機械的堅牢性を実現し、また平坦なAu電極と比較して大幅に高い、圧力感度を示すことも示唆している。
【0073】
より大きな圧力範囲も調査し、微細構造の隆起部があるセンサとないセンサとの間で比較した。1N(
図8)で、最初に機械的負荷を加え、次いで負荷を取り外し、ヒステリシスの兆候を示した。次いで、
図7Bから分かるように、これを、1~20Nまで負荷を増加させて繰り返した。両方の条件での電気機械的応答性は、応力-歪み曲線が、以前に加えられた応力の大きさによって変わることを示す、Mullins効果の特性を示している。
図7Bから分かるように、微細隆起部を備えた圧力センサの電気機械的応答性は、微細隆起部を備えていない圧力センサと比較して、より広いダイナミック・レンジにわたってより高い圧力感度を示した。
【0074】
加えて、繰返し負荷に対する電気機械的応答性を、
図9に示すように分析した。圧力センサに、約25kPaを5,000サイクル加えた。圧力センサは、多数回繰り返す負荷に対する応力への、機械的堅牢性を示した。これは、継続的な動脈圧測定に必要な、繰り返す機械的負荷に対する耐久性を実証している。
【0075】
微細隆起部の組み込みが、0~10kPaの間の広いダイナミック・レンジ内で、最大5倍まで圧力感度を改善したことは明らかである。加えて、しわの寄った構造体の機械的堅牢性により、製造がより容易且つ迅速になる、著しくより薄い電極の堆積が可能となる。こうしたセンサの再現性は、
図10A~
図10Fに示されている。加えて、圧力センサの応答時間及び弛緩時間を測定した。Arduinoで制御できるリニア・アクチュエータに、直径約2mmのプローブを取り付けた。圧力センサは、歪みの衝撃(<1ms)を加えたときに、応答時間(<10ms)及び弛緩時間(<17ms)を示した(
図11)。圧力センサは、最大10Hzの周期的歪みを測定することも可能であった(
図12A~
図12B)。動的な機械的テストに使用したサンプリング測定速度は、約130Hz(4291B、Agilent、CA)であった。
【0076】
心拍ごとの血圧監視
【0077】
NIBPのための実験の設定
【0078】
前述のように、動脈圧測定法は、圧力センサを使用して動脈圧を定量化する方法である。さらに、軟式の静電容量式圧力センサを使用して、動脈圧を監視することが可能である。次いで、NIBP装着型用途向けに、橈骨動脈圧の高精度且つ正確な測定値を、心拍ごとの血圧に変換できる。
【0079】
心拍ごとの血圧監視を実証するために、センサを、カリフォルニア大学の施設内審査委員会(IRB番号2016-2924)からの承認の下で、健康な被験者に使用した。堅牢性を実証するために、合計7人の被験者に対して1つの軟式の静電容量式圧力をテストした。再現性を実証するために、2つのさらなる軟式の静電容量式センサを、被験者1に対してテストした。圧力センサは、手首の橈骨動脈の上に取り付けた。その後、被験者に、皮膚表面で橈骨動脈を晒す助けとなるように、手のひらを上に向けてわずかに伸ばし過ぎた状態を維持するよう指示した。この測定中、被験者は、圧力センサを心臓の高さに近づけて座っていた。アレルギー反応又は痛みは、テストされた被験者から報告されなかった。
【0080】
動脈の拍動測定のために、圧力センサを、Velcro(登録商標)ストラップを使ってアクリル裏板上に取り付けた。アクリル裏板が、橈骨動脈を圧平するために圧力の増分を加えることができるように、ねじをアクリル裏板に取り付けた。圧力の増分により、静電容量式圧力センサの基準静電容量が増加した。圧力センサ・デバイスの概略図は、
図3A~
図3Bで確認できる。圧力センサと人間の皮膚との接触を改善するために、医療用テープも手首に取り付けた。最後に、圧力センサと表皮との間にPDMSスペーサ(250μm)も使用して、組織をさらに圧縮し、橈骨動脈の拍動を増幅した。橈骨動脈内で血圧が上昇すると、橈骨動脈が拡張し、周囲の組織を変形させ、続いて圧力センサを変形させる。この圧力は、圧力センサと身体との接触が安定して保たれている限り、動脈の血圧に関係し得る。
【0081】
拍動ごとの血圧を測定する静電容量式圧力センサの機能を評価するために、圧力センサを、FDA承認の指容積締付けデバイスである、ClearSight(登録商標)(Edwards Lifesciences, Irvine, CA)と比較した。ClearSight(登録商標)を、被験者の右手の人差し指に取り付けた。デバイスが取り付けられた場所を示す写真画像を、
図14で確認できる。測定は、圧力センサの橈骨動脈から加えられた圧力の測定と、ClearSight(登録商標)の上腕動脈の圧力の測定とを、同時に行った。圧力センサ及びClearSight(登録商標)による、測定した橈骨動脈の拍動波形の実例を
図16Aに提示する。
図16Bに見られるように、迅速な応答時間及び圧力感度により、ClearSight(登録商標)信号では容易に識別できない収縮後期ピークを含む、橈骨動脈の拍動波形の唯一的な特徴検出が可能となった。
【0082】
調査したパラメータには、収縮期(SBP)、拡張期(DBP)、及び平均動脈圧(MAP:mean arterial pressure)を含めた。これらは、人の心血管の健康状態を評価するときに、最も一般的なパラメータである。SBPは、心臓が収縮したときの動脈壁に対する血圧、DBPは、心臓が弛緩したときの動脈壁に対する血圧、MAPは、1つの心周期全体を通した平均圧力であり、式4を使用して計算できる。
【数4】
ここで、PPは脈圧であり、SBPマイナスDBPに等しい。
【0083】
動脈の拍動は、人体の多くの様々な部位で触診できる。こうした動脈の拍動は、心血管樹の様々なエリアに伝播するので、様々な波形である。血液が心臓から末梢動脈に送り出されると、血管が狭くなることにより、動脈の拍動波形は増幅される。こうした動脈圧を測定することにより、次いでその情報を代わりに使用して、心血管樹の様々な場所での動脈圧を推定することが可能である。
【0084】
ClearSight(登録商標)は、上腕の血圧を推定するために、指の動脈圧を測定する。広範な研究により、人々の幅広い範囲でのClearSight(登録商標)デバイスの性能が評価され、橈骨動脈カテーテルと比較した場合、上腕動脈圧を高精度且つ正確に測定するという満足のいく結果が示されており、ClearSight(登録商標)デバイスは、心拍ごとの血圧を測定するための至適基準である。ただし、こうした研究には、特に収縮期の血圧を測定するときに、患者の中で様々な結果が示されていることにも留意することが重要である。
【0085】
心拍ごとの血圧データ分析
【0086】
ClearSight(登録商標)が測定を開始すると、ClearSight(登録商標)は、キャリブレーションするステップを開始する前に10心周期を測定する。精度の自己評価後、ClearSight(登録商標)は、20心周期を測定し、キャリブレーションするステップを繰り返す。ClearSight(登録商標)は、ClearSight(登録商標)が血圧測定において最も高精度且つ正確であると考えられる70心周期に達するまで、さらなる心周期を測定し続けることになる。この重要領域(epoch region)で、静電容量式圧力センサをClearSight(登録商標)と比較した。加えて、続く各70心拍区間の後に、深呼吸と通常の呼吸とをそれぞれ交互に繰り返すように、被験者に求めた。深く呼吸することにより、肺の拡張によるわずかな心臓の圧縮によって、血圧を上昇させることが可能である。軟式の静電容量式圧力センサの、血圧のより大きな変化を探知する機能を評価するために、深く呼吸するよう被験者に求めた。
【0087】
図16A~
図16Bは、1人の被験者について収集したデータを示している。
図16Aでは、定性分析は、2つのデバイスが血圧の同様の傾向を測定したことを示している。これは、頻度の低い血圧変化が、圧力センサとClearSight(登録商標)との両方に反映されている、深い呼吸区間で明らかである。続いて、
図16Bから分かるように、SDP、DBP、及びMAPを互いにプロットし、線形回帰を使用して分析した。圧力センサとClearSight(登録商標)デバイスとの間の一致度は、SDPではR
2=.765、DBPではR
2=.902、MAPではR
2=.839と、強い相関を示した。前述のように、ClearSight(登録商標)デバイスでは、高精度且つ正確なSBP値を測定することが困難であり、これにより、圧力センサとClearSight(登録商標)との間のR
2がより低いことが説明され得る。
【0088】
残りの被験者のデータは、表1~表3で確認できる。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
心拍ごとの血圧を監視する圧力センサの機能の精度及び正確さをさらに評価するために、圧力センサをClearSight(登録商標)に合わせてキャリブレーションし、圧力センサのモデルを作成して相互検証した。モデルを作成するために、まず、3つの連続する心周期を一緒に平均化した。平均化した後、データの75%を無作為に選択して、圧力センサの線形回帰モデルを生成した。圧力センサからの残りの保留しているデータセットを、血圧の単位である水銀柱ミリメートル(mmHg)に変換した。1人の被験者からのこのキャリブレーションの実例は、
図17A~
図17Cに示されている。
【0093】
次いで、Bland-Altman分析を使用して、血圧測定における圧力センサとClearSight(登録商標)との間の一致具合を評価した。Bland-Altmanは、同時に測定した血圧の平均値に対してプロットした、同時に測定した血圧の差異を調べる。より差異が大きいほど、2つのデバイス間の不一致具合が一層大きいことを示すことになる。
図17Dに示されるように、7人の被験者すべてを、2つの追加センサでテストした被験者1のデータセットを含め、1つのBland-Altmanプロットにまとめている。計算した平均誤差及び標準偏差は、-0.054±2.09mmHgであった。AAMIによって設定されたISO81060-2は、平均誤差が5mmHg未満で標準偏差が8mmHg未満の場合、NIBPは動脈カテーテルと置換え可能であると見なされることを示している。ここでのBland-Altman分析は、平均誤差及び標準偏差が、ISO規格で示されている要件をかなり下回っていることを示している。表4~表5は、心周期の平均化なしで計算された平均誤差及び標準偏差も示しており、これも、圧力センサが十分にISO規格の範囲内にあることを示している。これは、ClearSight(登録商標)デバイスに合わせてキャリブレーションした場合、圧力センサは、血圧の測定において、非常に高精度且つ正確であることを示唆している。
【0094】
【0095】
【0096】
本発明の軟質の静電容量式圧力センサは、橈骨動脈圧測定用途に利用することができる。動脈圧の安定した測定により、SBP、DBP、及びMAP圧力のわずかな変化を探知及び検出できた。ClearSight(登録商標)デバイスとの間の相関関係は、可能性のある携行式の心拍ごとのNIBP監視に向けた、有望な結果を示している。圧力センサの電気機械的特質により、広範囲の圧力を高精度に監視する機能が使用可能である。加えて、静電容量式圧力センサの迅速な応答時間及び広いダイナミック・レンジにより、橈骨動脈の拍動波形を高い忠実度で検出できるため、急性心血管性事象の監視に不可欠な、血圧の高精度且つ正確な測定が可能になる。
【0097】
さらなる実施例において、本発明は、動脈の拍動性の血流を測定するのに好ましい電気機械的特質を有する、軟質の静電容量式圧力センサを開発する容易な方法を提供する。軟質で非常にしわの寄った薄いフィルム電極を利用することにより、局所的で微妙な圧力を定量化するために人体と効果的に結合できる、広いダイナミック・レンジを有する軟質の圧力センサを製造することができた。センサはまた、十分な圧力感度、迅速な応答時間、並びに繰返し負荷に対する機械的堅牢性も実証した。
【0098】
拍動通過時間(PTT)を使った血圧キャリブレーション
【0099】
本発明の圧力センサを使って取得した脈圧測定値は、ClearSight(登録商標)を使って取得した血圧測定値と高度に相関している。しかし依然として、ClearSight(登録商標)に継続的に依存することなく、圧力センサで取得した脈圧測定値を、絶対血圧にキャリブレーションする必要がある。
【0100】
絶対血圧を測定するために、圧力センサをキャリブレーションするのに使用できる2つの注目すべき方法がある。1つの方法では、収縮期血圧及び拡張期血圧をキャリブレーションするために、従来のオシロメトリック式アーム・カフを使用する必要がある。オシロメトリック式アーム・カフは、アーム・カフの膨張及び収縮中の設定された期間にわたって、収縮期血圧及び拡張期血圧を計算する。この測定では、心拍ごとの血圧は得られないが、オシロメトリック式アーム・カフによって計算された値を使用して、圧力センサを血圧の基準値にキャリブレーションできる。
【0101】
もう1つの方法は、拍動通過時間(PTT)を使用する必要がある。PTTは、脈波が、どれだけ迅速に1つの動脈の場所から別の動脈の場所に移動したかを示す、時間である。脈波が移動した時間は、血圧に直接関係している。たとえば、脈波がより速く移動するほど、血圧は一層高く、逆も同様である。PTTは、ECG、及び末梢動脈(すなわち、橈骨動脈)に配置された圧力センサを使用して測定できる。ECGは、心臓が収縮した瞬間を提示し、圧力センサは、拍動が末梢動脈まで移動するのにどれだけ時間がかかったかに関する情報を提示する。より具体的には、PTTは、ECGのRピークと、圧力センサで測定した対応する拡張期ピークとの間の、時間である(
図18)。PTTはまた、2つの周辺センサを使用して、拍動が1つのセンサから次のセンサに移動する時間を測定することによっても、測定できる。研究によると、ECGを使用するのではなく、末梢動脈の脈波を測定することにより、より適切な血圧との相関が得られることが示されている。これは、2つの圧力センサを使って、1つを橈骨動脈に配置し、もう1つを上腕動脈に配置して測定することによって実現できる。PTTは、絶対血圧値しか提示できず、脈波のどんな他の情報(たとえば、脈波増大係数(augmentation index))も提示しないことに留意されたい(
図19)。
【0102】
PTTは、被験者によって変わるパラメータであり、血圧とのキャリブレーションを必要とする。これは、前述のように、従来のアーム・カフに合わせてキャリブレーションすることにより実現できる(PTTを、ClearSight(登録商標)を使用してキャリブレーションすることもできる)。PTTモデルは、その後PTTモデルの再キャリブレーションが必要になるまで、数か月から数年にわたって使用できる。PTTモデルをキャリブレーションすると、その後続けてPTTモデルを使用して、圧力センサをキャリブレーションできる(
図20A~
図20C)。圧力センサをPTTモデルに合わせてキャリブレーションする利点は、大きな動きの後、又は圧力センサのオン及びオフを切り替えたときに、圧力センサを血圧に合わせてキャリブレーションするフィードバックの仕組みである。
【0103】
本明細書で使用される場合、「約(about)」という用語は、参照される数のプラス10%又はマイナス10%を指す。
【0104】
本発明の好ましい実施例が示され、説明されてきたが、添付の特許請求の範囲を超えない変更を、実施例に加えることができることは、当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。いくつかの実施例では、この特許出願に提示された図は、角度、寸法比などを含めて、一定の縮尺で描かれている。いくつかの実施例では、図は、代表的なものにすぎず、特許請求の範囲は図の寸法によって限定されるものではない。いくつかの実施例では、「含む、備える(comprising)」という句を使用して本明細書に記載された本発明の説明は、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」と説明できる実施例を含み、したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」という句を使用する、本発明の1つ又は複数の実施例を特許請求するための書面による説明の要件は、満たされている。
【0105】
以下の特許請求の範囲に列挙されている参照番号は、この特許出願の審査を容易にするためだけのものであり、例示的なものであり、特許請求の範囲を、いかなる形であれ、図面内の対応する参照番号を有する特定の特徴に限定することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0106】
100 静電容量式圧力センサ
110 第1の電極層
120 第2の電極層
112、122 エラストマー層
114、124 導電性フィルム
125 隆起部
130 誘電体層
140 空隙