(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】液体流の形成方法およびそれを用いる対象物の移動方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/12 20060101AFI20240904BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240904BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240904BHJP
【FI】
B01J19/12 B
B01J19/00 321
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2021548841
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034976
(87)【国際公開番号】W WO2021060089
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019172863
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】剣持 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】吉川 研一
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 慧
(72)【発明者】
【氏名】庄野 真由
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/170758(WO,A1)
【文献】特開2011-062607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0113453(US,A1)
【文献】妹尾駿佑 ほか,レーザによる溶液中マイクロ粒子の直進運動と疎密パターンの発生,第78回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2017.08.25,7a-PA2-5
【文献】CHIKAZAWA, Jun-ichi et al.,Flow-Induced Transport via Optical Heating of a Single Gold Nanoparticle,The Journal of Physical Chemistry C,2019.01.26, Vol.123,page.4512-4522
【文献】ORTEGA-MENDOZA, J. G. et al.,Marangoni force-driven manipulation of photothermally-induced microbubbles,Optics Express,2018.03.05, Vol.26, No.6,page.6653-6662
【文献】WANG, Yanan et al.,Laser streaming: Turning a laser beam into a flow of liquid,Science Advances,2017.09.27, Vol.3, e1700555
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
B82Y 5/00-99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の表面領域に液体流を形成する方法であって、
分散微粒子を含む液体の特定の表面領域に、平行な光束を有するレーザー光を照射して、液体の特定の表面領域の温度をその周辺の他の表面領域よりも相対的に高くして液体の双方の表面領域の間で温度勾配を形成することを特徴
とし、また、
微粒子は、金ナノ粒子及び銀ナノ粒子から選択され、
微粒子の長さ基準の平均粒子径が1nm~100nmであることを特徴とする液体流の形成方法。
【請求項2】
分散微粒子を含む液体の特定の表面領域にレーザー光を直接照射することを特徴とする請求項1に記載の液体流の形成方法。
【請求項3】
分散微粒子を含む液体を入れた容器の壁材を介して液体の特定の表面領域にレーザー光を間接的に照射することを特徴とする請求項1に記載の液体流の形成方法。
【請求項4】
液体の特定の表面領域の気液界面にてレーザー光が全反射するようにレーザー光を照射することを特徴とする請求項3に記載の液体流の形成方法。
【請求項5】
分散微粒子を含む液体は、用いるレーザー光の波長±40nmの範囲内に最大の吸光係数を有することを特徴とする
請求項1~4のいずれかに記載の液体流の形成方法。
【請求項6】
液体は、0.5×10
-8質量%~10.0×10
-8質量%の含量で微粒子を含むことを特徴とする
請求項1~5のいずれかに記載の液体流の形成方法。
【請求項7】
微粒子を含む液体は、9.5×10
8M
-1cm
-1~14×10
8M
-1cm
-1の吸光係数を有することを特徴とする
請求項1~6のいずれかに記載の液体流の形成方法。
【請求項8】
微粒子を含む液体は、容器としてのマイクロチップに含まれていることを特徴とする
請求項1~7のいずれかに記載の液体流の形成方法。
【請求項9】
マイクロチップは、バイオチップ、組織チップまたは生体外ヒトモデルであることを特徴とする
請求項8に記載の液体流の形成方法。
【請求項10】
対象物の移動方法であって、
請求項1~9のいずれかに記載の液体流の形成方法において、移動を意図する対象物を液体の表面領域に浮遊させた状態で、その対象物が浮遊する表面領域を、またはその近傍に位置する表面領域を、「液体の特定の表面領域」として、レーザー光で照射して液体流を形成し、浮遊する対象物を形成される液体の流れに乗せて移動することを特徴とする移動方法。
【請求項11】
対象物は、液体の表面上に浮いていることを特徴とする
請求項10に記載の移動方法。
【請求項12】
対象物は、液体の表面領域の内部に存在することを特徴とする
請求項11に記載の移動方法。
【請求項13】
液体の表面領域に液体流を形成するために用いる容器およびレーザー光源であって、
容器は分散微粒子を含む液体を保持し、レーザー光源は液体の特定の表面領域に、平行な光束を有するレーザー光を照射し、
液体の特定の表面領域の温度をその周辺の他の表面領域よりも相対的に高くして液体の双方の表面領域の間で温度勾配を形成することにより液体流を形成することを特徴
とし、また、
微粒子は、金ナノ粒子及び銀ナノ粒子から選択され、
微粒子の長さ基準の平均粒子径が1nm~100nmであることを特徴とする容器およびレーザー光源。
【請求項14】
容器は、レーザー光源から照射されたレーザー光が入射して透過できる端面を有することを特徴とする
請求項13に記載の容器およびレーザー光源。
【請求項15】
容器は、レーザー光源から照射されたレーザー光が斜め上向きに入射して透過できる端面を有することを特徴とする
請求項14に記載の容器およびレーザー光源。
【請求項17】
レーザー光源は、レーザー光が、入射後、液体表面にて反射するように構成されている
請求項15に記載の容器およびレーザー光源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて液体の流れ(即ち、液体流)を形成する方法、および形成される液体流を用いて対象物を移動する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光を用いて微粒子を操作する手段として光ピンセットが知られている。光ピンセットは周知の技術であり、レーザー光の焦点付近の屈折に伴う引力作用を利用して物体を焦点近傍にトラップするものである。例えば、「革新的な光技術をもたらした“光ピンセット”と“高強度超短パルスレーザー”」『化学』 Vol.73 No.12(2018年12月発行)、および低温物質科学研究センター誌第7号(2005年11月発行)にて説明されている(下記非特許文献1および2参照)。
【0003】
微粒子のサイズが光の波長より大きい場合、液体中で分散している微粒子に光を照射すると、ミー散乱が起こる。この際、レンズで光を集光して照射すると、光が微粒子に入射して射出する際に力が作用し、また、微粒子表面での光の屈折や反射によって微粒子に力が作用する。このように微粒子に力が作用する結果、微粒子は集光点付近に引き寄せられる。
【0004】
また、微粒子のサイズが光の波長より十分に小さい場合、液体中で分散している微粒子に光を照射すると、レイリー散乱が起こる。この際、電磁波である光により微粒子に誘起双極子が生じ、この誘起双極子と電磁場との相互作用により、集光点方向に引力が引き起こされる。その結果、微粒子を集光点付近に引き寄せることができる。
【0005】
いずれの場合であっても、微粒子を集光点付近に引き寄せることができる、即ち、保持できる。これを利用すると、微粒子を保持でき、また、例えば集光点の位置を変えることによって、微粒子を移動させることができる。このように光を用いる操作は、対象物である微粒子に触れることなく、また、非侵襲で微粒子を扱えるピンセットとして利用できる。このような光ピンセットは、例えばタンパク質、DNA等の微小物体の操作、移動等に使用できる。このような光ピンセットは、光の集光点付近にて分散媒体中で微粒子を捕捉することができる。従って、集光点を移動させることによって、数十μm以下のサイズの微小物体(通常0.1μm~50μm)を移動させることができる。しかしながら、より大きい物体、具体的にはミリメートルオーダーの物体を移動させることが望まれている。また、光ピンセットでの物体の捕捉や移動は、高倍率の凸レンズを使う必要があり、この場合一般的に、レンズから物体までの距離を1mm以下にする必要があり、これが操作の自由度を大きく制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】増原 宏・中島信昭 「革新的な光技術をもたらした“光ピンセット”と“高強度超短パルスレーザー”」『化学』 Vol.73 No.12(2018年12月発行)
【文献】西山雅洋,岡本憲二 「光ピンセット」『低温物質科学研究センター誌』第7号(2005年11月発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光ピンセットを用いると、非接触かつ非侵襲で対象物としての個々の微粒子を操作できるが、その実用性を考慮すると、より大きい(例えば数百μmより大きい)対象物を操作できることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、発明者らが鋭意検討を重ねた結果、レーザー光のエネルギーを効率的に吸収する、分散した微粒子を含む液体の表面の特定の領域(以下、液体の「特定の表面領域」とも呼ぶ)をレーザー光により照射して、特定の表面領域で分散している微粒子が照射したレーザー光を吸収して特定の表面領域がその周辺の他の表面領域に対して相対的に高温となるようにして液体の表面領域にて温度勾配を形成することによって表面張力勾配を形成して液体の表面領域に液体の流れ(即ち、液体流)を形成し、また、レーザー光の照射方向および/または照射位置により流れを制御することにより上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
従って、第1の要旨において、本発明は、液体の表面領域に液体流を形成する方法を提供し、その方法は、分散微粒子を含む液体の特定の表面領域にレーザー光を照射して、液体の特定の表面領域の温度をその周辺の他の表面領域よりも相対的に高くして液体の双方の表面領域の間で温度勾配を形成することを特徴とする。このように、液体の表面にて温度勾配を形成すると、それに対応して表面張力勾配が形成され、その結果、相対的に高温である特定の表面領域から相対的に低温である周辺の他の表面領域に向かって液体が流れる、即ち、液体流が形成される。換言すれば、温度勾配が形成されることによって生じる表面張力勾配が動力源となって液体流が形成される。尚、一般的に、表面張力は温度依存性があり、温度が高いほど、表面張力は小さくなる(従って、特定の表面領域の表面張力が相対的に小さくなる)。尚、液体の「特定の表面領域」はレーザー光を照射する領域であり、「周辺」なる用語は、照射される「特定の表面領域」に隣接してその周囲に存在する(従って、レーザー光が照射されない)ことを意味する。
【0010】
本発明において、上述のような温度勾配を液体の表面領域に形成するには、特定の表面領域を加熱して相対的に高温にする必要がある。そのために、特定の表面領域に照射されたレーザー光のエネルギーを効率的に吸収するように液体の表面領域を構成する。具体的には、レーザー光を効率的に吸収する、分散した微粒子を含む液体を使用し、好ましくは微粒子を液体中で実質的に均一に分散させる。
【0011】
尚、本発明の流体流の形成方法において、1つの態様では、微粒子を含む液体は、それを収容できる容器であって、収容されている液体の表面領域において液体流を形成する必要がある、液体の表面領域が気相と隣接する状態を作ることができれば、いずれの適当な容器内で保持されていてもよい。そのような容器には、例えば種々の形態の容器、種々のチューブ、種々の形態の流路またはチャンネル等であってよい。容器を構成する材料は、レーザー光が透過できる材料、例えば透明のガラス、プラスチック等であるのが好ましい。特に好ましい態様では、容器はいわゆる透明のガラス容器、マイクロ流路等である。
【0012】
1つの好ましい態様では、容器は、透明ガラス容器、透明プラスチック容器等であり、液体は、その流路にて気相と隣接した状態で保持される。そのような容器において、液体の表面領域に隣接する気相が周辺環境に対して開放状態であっても(即ち、オープンであっても)、あるいは閉鎖状態であっても(即ち、クローズであっても)よい。より具体的には、容器が蓋として機能する部分(即ち、蓋部分)を有さなくても、あるいは蓋部分を有してもよい。蓋部分は、それを介してレーザー光を特定の表面領域に照射する場合は、レーザー光に対して透過性である必要がある。
【0013】
別の好ましい態様では、液体に隣接する気相が実質的に存在しないように蓋部分が液体を容器内に実質的に封入していてもよい。例えば、そのような容器は、種々のマイクロチップであってよく、詳しくはマイクロチップのマイクロ流路、マイクロミキサー(混合機能を有する微小部分)等の微小空間部を規定する、種々の容器の一部分であってよい。より具体的には、容器は、例えばバイオチップ(例えばイムノアッセイに用いる抗体検出チップ)、組織チップ(Organ on a Chip)、生体外ヒトモデル(BOC(Body on a Chip ))等のマイクロチップの微小空間部分(例えばマイクロ流路部分、マイクロミキサー部分等)であってよい。
【0014】
以下、上述のようなオープンのガラス容器に液体が収容されている場合を例にして、本発明を更に説明する。本明細書において、ガラス容器とは、流路が例えば矩形の断面を有し、流路の断面の幅および深さが数ミリメートルオーダーのサイズを有する、ガラス製のものを意味し、より具体的には幅が8mm、深さが13mmのものを例示できる。流路の長さは、特に限定されるものではないが、例えばミリメートルオーダーの長さ、具体的には30mm~200mmの長さであってよく、別の態様では、例えばマイクロメートルオーダーの長さ、具体的には1μm~1000μmの長さであってよい。このガラス容器において、液体は気相(例えば空気)との気液界面を表面として有する。尚、このようなガラス容器と同等の相当径を有する他の断面形状を有するガラス容器であってもよい。勿論であるが、マイクロメートルオーダーの断面サイズを有するより細い流路であってもよい。
【0015】
第2の要旨において、本発明は、対象物の移動方法を提供し、本発明の第1の要旨の液体流の形成方法において、移動を意図する対象物を液体の表面領域に浮遊させた状態で、その対象物が浮遊する表面領域を、またはその近傍に位置する表面領域を、「液体の特定の表面領域」として、レーザー光で照射して液体流を形成し、浮遊する対象物を形成される液体の流れに乗せて移動することを特徴とする。浮遊領域とは、浮遊する対象物を含む液体の表面領域を意味し、対象物は液体の表面領域上に浮いていても、および/またはその少なくとも一部分が液体表面領域の内部に存在してもよく、これらの双方の場合を包含する意味として「浮遊」なる用語を使用している。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体流の形成方法において、液体中に微粒子を分散させて、液体の特定の表面領域に含まれる微粒子が照射されたレーザー光のエネルギーを吸収してその領域の液体を加熱し、それによって液体の表面領域にて温度勾配を、従って、それに対応して表面張力勾配を形成し、それによって液体の表面領域にて流れを形成する。即ち、本発明では、分散している粒子を介して、マス(または塊)としての特定の表面領域の液体を加熱し、それによって、その領域からそれに近接する領域に向かってマスとしての液体流を形成する、即ち、液体自体を移動させる。
【0017】
このようにマスとしての液体を移動することは、液体に大きな力が作用することを意味する。従って、本発明の対象物の移動方法において、液体の特定の表面領域において、またはその近傍の(例えばそれに隣接する)液体の表面領域に対象物を浮遊させておくと、形成される液体流に乗せて対象物を、1つの態様では比較的大きい対象物(例えば数百μm~数mmサイズを有するもの)を、それに直接触れることなく、移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、液体表面に対して平行にレーザー光を液体の特定の表面領域に照射する態様を示し、
図1(a)は、分散した微粒子を含む水を液体として含む、透明材料でできた透明容器を側方から見た様子を、
図1(b)は透明容器をその上方から見た様子をそれぞれ模式的に示す。
【
図2】
図2は、液体表面に対して斜めにレーザー光を液体の特定の表面領域に照射して、液体表面にて全反射させる態様を示し、
図2(a)は、分散した微粒子を含む水を液体として含む、透明材料でできた透明容器を側方から見た様子を、
図2(b)は、透明容器をその上方から見た様子をそれぞれ模式的に示す。
【
図3】
図3は、液体表面に浮遊する対象物を移動する態様を示し、
図3(a)は、分散した微粒子を含む水を液体として含む、透明材料でできた透明容器を側方から見た様子を、
図3(b)は、透明容器をその上方から見た様子をそれぞれ模式的に示す。
【
図4】
図4は、実施例1において使用した金ナノ粒子を含む水の吸光係数と波長の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例3におけるスイッチングの様子を、透明容器を側方から見た様子を模式的に示す。尚、
図5(a)は、対象物を左向きに移動する場合を、
図5(b)は、対象物を右向きに移動する場合を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、具体的な態様を例として本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、そのような態様に限定されるものではない。
【0020】
本発明の液体流の形成方法において、1つの態様では、液体の意図する特定の表面領域に直接的にレーザー光を照射する。別の態様では、レーザー光を透過する材料(レーザー光の吸収が少ない材料)によって形成した容器の壁材を介して(従って、間接的に)その中の液体に容器の外からレーザー光を入射して、特定の表面領域をレーザー光によって照射する。この態様は、例えば液体をそのような材料で形成した透明容器等に収容して、透明容器の外部からレーザー光をチャンネルの壁材を介して内部に入射させる場合に当て嵌まる。従って、チャンネルの壁材はレーザー光を透過する性質を有する、即ち、レーザー光に対して透明である。
【0021】
本発明の方法において、微粒子を含む液体は、特に限定されるものではなく、意図する液体流を形成しようとするいずれの適当な液体であってもよい。1つの態様では、液体は、例えば安定性、表面張力の大きさ等の観点を考慮して、水または水溶液であってよい。また、液体の表面領域に隣接する気相は、いずれの適当な気体であってもよいが、1つの好ましい態様では、気相は窒素、空気等であってよい。例えば、液体を透明容器内に入れて、空気と液体の境界面(気液界面)の液体側に表面領域が存在する。別の態様では、気液界面に代えて、界面張力が大きくなるような液液界面(例えば水と油、通常の油とフッ素系油等との界面)に本発明の液体流の形成方法およびそれを用いる対象物の移動方法を適用することが可能である。
【0022】
液体が含む微粒子は、照射されるレーザー光のエネルギーの少なくとも一部分、好ましくはより大きな割合のエネルギーを吸収する。「効率的に吸収する」なる用語は、微粒子を含む液体が、照射される光の波長またはその近傍(好ましくは光の波長±40nmの範囲内、より好ましくは光の波長±25nmの範囲内、特に好ましくは光の波長±20nmの範囲内、例えば光の波長±10nmの範囲内微粒子の)に最大の吸光係数(Absorption Coefficient、例えばモル吸光係数)を有することを意味する。そのような液体は、例えばいわゆるナノ粒子、特に金属ナノ粒子(例えば金ナノ粒子、銀ナノ粒子等)等を含むのが好ましい。このような微粒子は、いずれも市販されており、適切なものを選択して意図する液体に分散させて使用できる。別の態様では、微粒子としてグラファイト粒子やカーボンナノチューブを使用できる。
【0023】
微粒子のサイズは特に限定されるものではないが、長さ基準の平均粒子径が、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは1nm~60nm、特に好ましくは5nm~50nmのもの、例えば10nm~15nmのものを使用できる。このような平均粒子径は、一般的に本発明に基づいてレーザー光を用いる場合に好適である。例えばレーザー波長532nmを使用する場合、特に好適である。尚、特異的に大きな寸法を有する微粒子(直径が例えば5μm~50μmの程度の大きい粒子)が含まれている場合、そのような粒子は(悪影響を与えるものではないが、)本発明の微粒子として機能することが期待できないので、平均粒子径の算出にあたりそのような粒子の存在を無視してよい。
【0024】
本発明の流体流の形成方法において、液体に分散させて使用するのが好ましい微粒子として、具体的な一例として金ナノ粒子を挙げることができる。例えば、水中において、塩化金酸(HAuCl4)をクエン酸で還元して得られる球状の金ナノ粒子(金ナノ粒子径約15nm)を使用できる。後述の実施例で使用した金ナノ粒子はこの方法で得たものであり、平均粒子径15nmであったが、経時変化による金ナノ粒子同士の凝集が認められ、大きいものでは粒子径が30μm程度のものも含まれていた。このような金ナノ粒子の場合、吸収極大波長領域(即ち、吸光係数が最大となる波長)は522±20nmであり、波長532nmのレーザー光のエネルギーを効率よく吸収する。
【0025】
液体が含む微粒子の量(即ち、含量)は、特に限定されるものではないが、微粒子を含む液体の質量基準で、一般的には0.5×10-8質量%~10.0×10-8質量%、好ましくは0.7×10-8質量%~6.0×10-8質量%であり、使用するレーザー光の波長が液体の大きい吸光係数、好ましくは最大の吸光係数を示す波長に一致するか、その近傍となるように微粒子の含量を選択するのが好ましい。これらの含量範囲は、一般的に市販されている微粒子、特に金属ナノ粒子を用いる場合にも妥当する。尚、大き過ぎると、微粒子が凝集して所定のように光エネルギーを吸収できない場合があるという問題が生じ得、また、小さ過ぎると、光エネルギーの吸収が不十分な場合が有り得るという問題が生じ得る。
【0026】
レーザー光は特に限定されるものではないが、分散する微粒子を含む液体が光エネルギーを効率的に吸収する波長の光を発するレーザーを用いるのが好ましい。換言すれば、光エネルギーを効率的に吸収する、分散微粒子を含む液体として、使用するレーザーが発する光の波長、またはその近傍に大きい吸光係数、好ましくは最大吸収係数を有するものを使用するのが好ましい。従って、吸光係数は使用する微粒子(従って、微粒子の種類、サイズおよび含量)および使用する液体の種類に依存するので、大きい吸光係数とレーザー光の波長との適切な組み合わせを選択するのが好ましい。
【0027】
尚、液体の最大吸光係数は、使用を意図する液体が、使用を意図する種類および含量の微粒子を含む分散液のサンプルを調製し、そのサンプルを吸光係数測定装置のセルに入れて吸光係数分布を測定することによって求めることができる。その結果に基づいて、最大吸光係数を示す波長またはその近傍の波長の光を発するレーザー光を適用する。このように、使用する液体ならびに微粒子の種類および量を選択すると、使用するのが好ましいレーザー光の波長を決めることができる。具体的には、使用するレーザー光の波長(例えば500nm~560nm)において、微粒子を含む液体は、好ましくは1×108M-1cm-1以上の吸光係数を示す。より好ましくは9.5×108M-1cm-1~14×108M-1cm-1の吸光係数、例えば12×108M-1cm-1~14×108M-1cm-1の吸光係数を示す。
【0028】
例えば、緑色の光(波長:532nm)を発するレーザーを用いる場合、522nmにて最大吸光係数を示す金ナノ粒子(吸光係数がピークとなる波長から平均粒子径を算出することができる:15nm程度)を2.2×10
-8質量%の含量で水に分散させたものを液体として使用できる。この金ナノ粒子を含む水は、522nmにて例えば13.8×10
8M
-1cm
-1の吸光係数を有する(
図4に示す吸光係数分布参照)。
【0029】
レーザーの出力は、用いる液体ならびに用いる微粒子の種類およびその含量等を考慮して適当に選択できるが、例えば、出力範囲は400mW~1000mW、ビーム径3mmのレーザーを使用できる。
【0030】
『表面領域』なる用語は、微粒子を含む液体の気液界面の液体側の領域であって、レーザー光の照射によって生じる表面張力の勾配の影響が実際に生じる領域を意味する。使用する液体、微粒子、レーザー光等の条件に応じて表面領域は影響を受けるが、一般的には気液界面から好ましくは1500μmまでの深さの領域、より好ましくは1000μmまでの深さの領域に存在する液体領域を意味する。
【0031】
1つの好ましい態様では、液体表面直下(具体的な位置としては、液体表面から例えば3mm以内の深さの箇所)にて光軸が液体表面に対して平行となるように、透明容器の端面にてチャンネルの壁材にレーザー光を照射する。この場合、レーザー光は容器の端面の壁材を通過して液体表面直下を透過するが、端面に近接する液体の特定の表面領域が最も高温になり、その領域の表面張力が最も低くなる。その結果、端面から離れる方向に向かって液体の表面領域において流れが生じて液体が移動する。
【0032】
特に好ましい態様では、ビーム径領域の上側の縁が液体表面よりもミリメートルオーダー(例えば1mm~1.5mm)深い位置にくるよう照射し、レーザー光のビーム径領域(ビーム径約3mm)の上側の縁が液体表面に直接当たらないようにする。
【0033】
この態様を示す
図1を参照する。
図1(a)は、分散した微粒子を含む水を液体10として含む、透明材料でできた容器12を側方から見た様子を、
図1(b)は透明容器12をその上方から見た様子をそれぞれ模式的に示す。透明容器12は、例えば矩形断面を有する細長いオープンチャンネルの形態であり、一端にて端面16を有する。透明容器12において、分散状態の微粒子を含む水は空気に隣接し、気液界面22の液体側が液体の表面領域に相当する。レーザー光14は、端面16において気液界面の直下、例えば液体表面の下方(例えば液体表面から3mmの箇所)にて、図示するように光軸が液体表面に対して平行になるように、端面16からその壁材を介して液体内に入射させる。
【0034】
このようにレーザー光を入射させると、端面16に隣接する表面領域18(特定の表面領域に相当)は、そこに存在する微粒子が光エネルギーを効率的に吸収して局所的に加熱され、加熱領域18と(相対的に低い温度の)その周辺の非加熱領域との間で温度勾配が形成され、その結果、それに対応して表面張力勾配が生じて右向きの液体流(矢印20参照)が表面領域に形成される。図示するように気液界面の形状は細長い矩形であるので、
図1(b)から分かるように液体の表面領域において相対的に温度が低い領域は、加熱領域18の実質的に右側に存在するため、液体の表面領域にて形成される液体流は実質的に右向きに(矢印20の方向に)流れる。
【0035】
他の好ましい態様では、光が液体中を通過して気液界面に斜めに向かって進むように、即ち、液体表面に対して光軸が斜めとなるように(即ち、交差するように)透明容器の端面の壁材にレーザー光を入射させる。この場合、気液界面における光の入射角(即ち、光軸と気液界面における垂線とが為す角度)が臨界角以上となるようにレーザー光を照射する。このようにすると、液体中を通過する光は、気液界面にて全反射することになり、照射された光エネルギーは、反射点にて液体の外部に、即ち、気相中に射出しないで反射して、液体中を進んで液体の反射点付近の表面領域(特定の表面領域に相当)の局所的な加熱に寄与する。即ち、そのような反射点付近における液体の特定の表面領域の温度は、その周囲の表面領域に対して相対的に高温となる。その結果、液体の表面領域にて反射点からその周囲に向かう液体流が形成される。
【0036】
この態様を示す
図2を参照する。
図1と同様に、
図2(a)は微粒子を含む液体10を含む透明容器12を側方から見た様子を、
図2(b)は透明容器をその上方から見た様子をそれぞれ模式的に示す。レーザー光14は、液体の気液界面22の直下、例えば界面の下方の箇所(液体表面から約2mmの箇所)にて透明容器の端面16の壁材を介して液体内に入射し、その後、反射点24に向かって進む。この光の入射角θは、臨界角(液体が水で気体が空気の場合、48.6°)以上であるのが好ましく、80°以上であるのがより好ましく、例えば約84°である。
【0037】
その場合、反射点24にて入射した光は全部反射し、反射した光によって反射点24付近の表面領域26(特定の表面領域に相当)に存在する微粒子は反射した光のエネルギーをも吸収して局所的に加熱される。即ち、表面領域26は入射した光および反射した光の双方のエネルギーを吸収できる。加熱領域26と(相対的に低い温度の)その周辺の非加熱領域との間で温度勾配が形成され、その結果、表面張力勾配が生じて左向きの液体流(矢印28参照)および右向きの液体流(矢印30参照)が形成される。
【0038】
図示した態様では、気液界面の形状は、
図1の場合と同様に細長い矩形であるため、
図2(b)から分かるように液体の表面領域において相対的に温度が低い領域は、加熱領域26の実質的に両側(図示した態様では左側および右側)に存在するため、形成される液体流は加熱領域から両側に向かって矢印28および矢印30のように流れる。尚、実際には、レーザー光は壁材を通過する時に屈折するが、簡単のため、この屈折は省略して図示している。
【0039】
レーザー光は、
図1および
図2を参照して先に説明したように、液体を含む容器の壁材を介して入射して液体の特定の表面領域を間接的に照射することができる。別の態様では、液体をオープンチャンネル形態の容器に容れ、その液体の上方からレーザー光を特定の表面領域に向かって直接的に照射する。このような直接的な照射を
図1(a)および
図2(a)にて破線矢印32および34にてそれぞれ示す。尚、直接的な照射は、図示するようにレーザー光の光軸が気液界面と為す角度(即ち、入射角)が90°となるよう実施してもよいが、より好ましくは図示するように90°より小さい角度で斜入射することで、液体表面の照射断面積が増え、表面近傍を効率よく温めることが可能となる。
【0040】
上述のように、本発明の流体流の形成方法を実施するには、微粒子を含む液体とそれに隣接する、気相との境界面の液体側、即ち、液体の特定の表面領域にレーザー光を局所的に照射してその特定の表面領域を局所的に加熱できればよい。局所的に照射するとは、液体の特定の表面領域だけを照射することを意味し、例えば特定の表面領域にレーザー光を集光することによってその領域を加熱する。このような液体流の形成方法は、液体を流すという意味では、液体を移動するポンプとして利用できる。
【0041】
本発明の液体流の形成方法において、
図1を参照して説明した方法および
図2を参照して説明した方法を組み合わせることによって、液体流の向きをスイッチングすることができる。具体的には、
図1に示すように、容器の端面から光軸が気液界面と平行になるようにレーザー光を入射して端面に隣接する特定の表面領域を加熱して右向きの液体流(矢印20)を形成し、その後、
図2に示すように、容器の端面16からレーザー光が気液界面にて全反射するように斜めに照射して反射点24付近の特定の表面領域を加熱して左向きの液体流(矢印28)を形成する。従って、透明容器の同じ端面16から照射するレーザー光の入射する角度を変えることによって、右向きの液体流と左向きの液体流を形成できる、即ち、液体流の流れ方向を切り替えること、即ち、スイッチングができる。
【0042】
尚、液体流のスイッチングに際して、右向きの液体流を形成するためにレーザー光32による直接照射、およびレーザー光34による直接照射を用いてもよい。勿論、間接的な照射と直接的な照射とを組み合わせることもできる。
【0043】
1つの態様において、最初に
図3(a)に示すように、気液界面40に対して平行な光軸となるように透明容器の端面16からレーザー光42を入射させて端面に隣接する特定の表面領域44の表面よりもミリメートルオーダー深い位置にビーム領域の上側の縁がくるよう照射し、レーザービーム領域の上側の縁が液体表面に直接当たらないように照射する。それによって、特定の表面領域44に含まれる微粒子が光エネルギーを吸収して相対的に高温となってその表面張力が相対的に小さくなり、その結果、右向きの液体流(矢印46)が形成される。対象物48を特定の表面領域44に、またはその近傍に(例えばそれに隣接して)浮遊させておくと、形成された液体流に乗って対象物48が右方向に移動して、例えばレーザー照射を止めるか、全反射条件で短時間照射すると対象物48’で示す位置で停止する。
【0044】
従って、本発明の液体流の形成方法によって形成された液体流に乗せることによって対象物を移動する方法をも本発明は提供する。即ち、本発明の対象物を移動する方法は、本発明の要旨の液体流の形成方法において、移動を意図する対象物を液体の表面領域に浮遊させた状態で、そのような浮遊領域を、またはその近傍に位置する(例えばそれに隣接する)液体の表面領域を、「液体の特定の表面領域」として、レーザー光で照射して液体流を形成し、浮遊する対象物を形成される液体の流れに乗せて移動することを特徴とする。尚、「浮遊領域」なる用語は、対象物が存在する液体の表面領域を意味し、その領域またはその近傍の液体の表面領域(例えばそれに隣接または離隔する領域)にレーザー光を照射する。この場合、浮遊領域またはその近傍の液体の表面領域が液体の特定の表面領域に対応する。
【0045】
このような本発明の対象物を移動する方法は、マイクロチップの微小空間部分(例えばマイクロ流路)に微粒子を含む液体が含まれている場合、微小空間部分の所定部分(液体の特定の表面領域に相当)にレーザー光を照射して液体流を形成することによって、それに乗せて所定の対象物を移動するために使用できる。例えば、マイクロチップの微小空間部分に収容されている所定の対象物(例えば抗原)を含む液体の特定の表面領域にレーザー光を照射することによって形成される液体流に対象物を載せて移動させるマイクロチップの操作方法として本発明の移動方法を使用できる。更に、そのように移動させることによって、チップに組み込まれた抗体に抗原を結合させることができるので、マイクロチップを用いる分析方法に本発明の移動方法を使用できる。
【0046】
本発明の移動方法では、形成される液体流に乗せるので、対象物を液体流の始点(レーザー光を照射する液体の特定の表面領域)に乗せても、あるいは液体流の途中(レーザー光の照射により形成される特定の表面領域の液体流が移動することにより結果的に(玉突き的に)生じる別の液体流)に乗せてもよい。前者の場合は、対象物の浮遊領域と特定の表面領域とが一致する。後者の場合は、対象物の浮遊領域は液体の特定の表面領域の近傍に(隣接状態を含む)位置し、この場合、液体の表面領域に浮遊している対象物は、液体の特定の表面領域から移動したい方向に離れてその近傍領域に位置する。流れに乗せるためには、特定の表面領域から過度に離れることを避ける必要がある。
【0047】
次に、対象物48’の直ぐ右側が反射点50となり、かつ、その反射点で全反射するように、入射角θで端面16のレーザー光42の入射位置よりも下方からレーザー56を特定の表面領域52に照射する。その結果、特定の表面領域52に含まれる微粒子が光エネルギーを吸収して相対的に高温となってその表面張力が相対的に小さくなり、その結果、左向きの液体流(矢印54)が形成される。その結果、反射点50の左側にて特定の表面領域52で浮遊している対象物48’が左方向に移動する。
【0048】
図3においては、対象物48が特定の表面領域44および52に隣接してその上で浮いた状態で示しているが、特定の表面領域で浮遊していてもよい。対象物は、特定の表面領域に含まれるいずれの適当なものであってもよい。例えば、対象物は特定の表面領域内に、および/またはそれに隣接して含まれる、分散物、粒状物、溶解物等(例えばバイオチップに含まれる薬剤、細胞、抗体等)であってよい。対象物は、液体表面の特定の表面領域および/またはその近傍においてのみ存在していてもよいが、別の態様では、全液体中に存在していてもよい。対象物が特定の表面領域にのみ浮遊している場合は、前者の態様に相当する。尚、「浮遊」なる用語は、特定の表面領域の液面上で浮いている場合、および/または表面領域内に存在している場合を意味する。
【0049】
本発明の液体流の形成方法では、液体自体の流れを形成するので、比較的大きい対象物を移動することができる。具体的には、液体表面に浮かせる対象物は、マイクロメートルオーダー~ミリメートルオーダーのサイズを有してよく、例えば2mm×2mm(厚さ1μm~1mm)のサイズのプラスチックシート片を移動させることがきる。
【0050】
1つの態様では、生命科学分野で細胞等を種々処理するに際して、細胞等を本発明の方法における対象物として扱うことができ、細胞等を含む本発明の液体をマイクロ流路にて移動させ、その移動の間に必要な処理を細胞等に施すことができる。例えばマイクロチップを用いて分析するに際して、試料を特定の試薬と反応させるために、マイクロ流路中で試料を所定の場所に移動させてそこで処理する場合に本発明の対象物の移動方法を利用できる。
【0051】
別の態様では、本発明の液体流の形成方法を、種々のサイズを有する物質を含む混合物の篩分に用いることができる。具体的には、
図1に示すように、液体を含む透明容器12の端面16付近に篩分したい混合物を入れ、その端部の表面領域を「液体の特定の表面領域」18としてレーザー光14を照射して端部から矢印20のように他方への液体の流れを形成する。
【0052】
透明容器における流れ(矢印20)の途中に目開きが段階的に小さくなるように複数のメッシュを流れが通過するように配置しておく。物質は、そのサイズに応じて通過できるメッシュの目開きが決まっているので、混合物は、メッシュの目開きに応じてサイズ毎に篩分できる。
【実施例1】
【0053】
直方体のガラスの透明容器12(8mm(幅)×100mm(長さ)×18mm(深さ)、端面のサイズ:8mm×13mm)に微粒子として金ナノ粒子を含む、液体10としての水を入れた。尚、容器は蓋部分が無いオープンな容器であり、水深は13mmであった。尚、透明容器は、厚さ2mmのガラスシートにより構成した。
【0054】
水は2.2×10
-8質量%の金ナノ粒子(長さ基準平均粒子径:15nm)を含有した。UV-vis装置を用いて、この金ナノ粒子の吸光係数を測定したところ、
図4に示す結果を得た。吸光係数は、波長522nmにて最大値(13.8×10
8M
-1cm
-1)を示した。尚、吸光係数の測定は、UH5300(HITACHI製)を用いて実施した。
【0055】
図1に示すように、室温(25℃)にて光軸が液体表面と実質的に平行になるように容器の端面16からレーザー光14を入射させた。入射位置は、液体表面の下方約3mmとした。尚、レーザー光源として(OXIDE製、製品名:CW 3波長レーザー、出力:730mW)用いた。3波長のうちの緑色のレーザー光(波長:532nm)を使用した。
【0056】
その結果、
図1に示すように、照射とほぼ同時に、矢印20で示すように液体流が発生した。この液体流の流速は、最大で約0.63mm/秒であった。また、液体の表面温度をサーモカメラで測定したところ、端面16に隣接する特定の表面領域の温度は32℃となりその周辺温度(例えば端面16から右側に約30mm離れた箇所)より約5℃高かった。
【実施例2】
【0057】
実施例1と同様に、容器に金ナノ粒子を含む水を入れた。次に、
図2に示すように、容器の端面16から斜め上向きにレーザー光14を入射させて入射点24にて液体表面で全反射させた。レーザーの入射角θは84°であった。
【0058】
その結果、
図2に示すように、照射とほぼ同時に、矢印28で示すように反射点24から左方向に液体流が発生し、また、矢印30で示すように反射点24から右方向に液体流が発生した。この液体流の流速は、左方向は最大で約0.7mm/秒で、右方向は最大で約0.3mm/秒であった。また、液体の表面温度をサーモカメラで測定したところ、反射点付近では32℃であり、反射点24から右側および左側に約30mm離れた表面領域では27℃であり、両端面に隣接する表面領域の温度は25℃であった。
【実施例3】
【0059】
図1と同様に、実施例1と同様に、容器に金ナノ粒子を含む水を入れた。
図5(a)に示すように、対象物としての市販のプラスチックシート(2mm×2mm、厚さ0.25mm)を図示する対象物60の位置にて液体表面に浮かべた。
【0060】
実施例2と同様にして端面16から斜めにレーザー光61を斜めに入射させてプラスチックシート60の直ぐ右側の反射点62で全反射するようにした。尚、入射角θは84°であった。その結果、反射点62付近の領域の温度が上昇し、その周囲の表面張力より小さくなったため、矢印64で示すように左向きの液体流が生じてプラスチックシート60が左向きに移動した。プラスチックシート60が20秒間で移動した距離は、約7mmであった。
【0061】
次に、
図5(b)に示すように実施例2と同様にして端面16から斜めにレーザー光66を斜めに入射させてプラスチックシート60の直ぐ左側の反射点68で全反射するようにした。尚、入射角θは84°であった。その結果、反射点68付近の領域の温度が上昇し、その周囲の表面張力より小さくなったため、矢印70で示すように右向きの液体流が生じてプラスチックシート60が右向きに移動した。プラスチックシート60が20秒間で移動した距離は、約5.5mmであった。
【0062】
この結果は、液体流の流れ方向を変えること、即ち、スイッチングできることを意味する。これを利用すると、所望の流れ方向の液体流をレーザー光によって形成して対象物を移動させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
上述の説明から明らかなように、本発明の液体流の形成方法では、透明容器に含まれる液体の特定の表面領域にレーザー光を照射することによって液体流を形成できる。更に、そのように液体流を形成することは透明容器において液体を所定のように、移動できることを意味する。これを利用すると、透明容器に含まれる液体を移動して必要な処理を施し、処理後に再びレーザー光を照射することによって液体流を形成して必要なように非接触で移動することができる。例えば、生命科学分野において微量のサンプルを適宜処理するために、サンプルを移動させることが必要となる。本発明の液体流の形成方法によって形成された液体流にサンプルを乗せると、サンプルを容易に移動することができる。
【符号の説明】
【0064】
10…微粒子含有液体、12…容器、14…レーザー光、16…容器の端面、
18…特定の表面領域、20…液体の流れ方向、22…気液界面、24…反射点、
26…特定の表面領域、28…液体の流れ方向、30…液体の流れ方向、
32,34…直接照射レーザー光、40…気液界面(または液体表面)、
42…レーザー光、44…特定の表面領域、46…液体の流れ方向、
48,48’…対象物、50…反射点、52…特定の表面領域、
54…液体の流れ方向、56…レーザー光、60…対象物、61…レーザー光、
62…反射点、 64…液体の流れ方向、66…レーザー光、68…反射点、
70…液体の流れ方向。