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特許7549360網膜症の診断および処置のための組成物および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】網膜症の診断および処置のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240904BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240904BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240904BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240904BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240904BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/864 100Z
C07K14/705
A61K48/00
A61P27/02
A61P27/06
A61K31/7088
A61K38/17
【請求項の数】 41
(21)【出願番号】P 2021552829
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 US2020020977
(87)【国際公開番号】W WO2020180981
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】62/813,272
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189666
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ケイ ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】レイ トーマス
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-530253(JP,A)
【文献】特表2017-518271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0011040(US,A1)
【文献】Frontiers in Neuroscience,2017年,Vol.11, No.175,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1を含むクラムス(Crumbs)1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチド配列、網膜細胞においてアイソフォームを発現することができ、かつ前記ポリヌクレオチド配列に作動可能に連結されている異種プロモーターとを含む、単離ポリヌクレオチド。
【請求項2】
CRB1-Bアイソフォームをコードする配列が、配列番号2である、請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の単離ポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項4】
クラムス1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターであって、CRB1-Bアイソフォームが、N末端からC末端に向けて、2つのEGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、および4つのEGFドメインを含む細胞外ポリペプチドに連結されたN末端シグナルペプチドを含み;細胞外ポリペプチドのC末端は、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含むC末端ドメインに連結されている、組換えベクター。
【請求項5】
ポリヌクレオチドが、網膜細胞においてアイソフォームを発現することができる異種プロモーターに作動可能に連結されている、請求項4に記載の組換えベクター。
【請求項6】
網膜細胞が、光受容細胞、網膜色素上皮細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、ミュラー細胞、および/または神経節細胞からなる群から選択される、請求項1~3または5のいずれか1項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクター。
【請求項7】
網膜細胞が、光受容細胞を含む、請求項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクター。
【請求項8】
プロモーターが、ロドプシンキナーゼ(RK)プロモーター、オプシンプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、およびニワトリβ-アクチン(CBAプロモーター)からなる群から選択される、請求項1~3または5~のいずれか1項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクター。
【請求項9】
細胞外ポリペプチドが、CRB1-Aアイソフォームの9番目のEGFドメインのN末端から、CRB1-Aアイソフォームの16番目のEGFドメインのC末端まで伸びている、請求項4または5に記載の組換えベクター。
【請求項10】
C末端ドメインが、VSSLSFYVSLLFWQNLFQLLSYLILRMNDEPVVEWGEQEDY(配列番号3)のアミノ酸配列を含む、請求項4、5または9のいずれか1項に記載の組換えベクター。
【請求項11】
ウイルスベクターである、請求項3~10のいずれか1項に記載の組換えベクター。
【請求項12】
ウイルスベクターが、AAVベクターである、請求項11に記載の組換えベクター。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクターから作製された単離ポリペプチド。
【請求項14】
請求項1もしくは2に記載の単離ポリヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項3~10のいずれか1項に記載の組換えベクターおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項11または12に記載の組換えベクターおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項17】
1×106DRP/ml~1×1014DRP/mlの濃度でウイルスベクターを含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
CRB1-A、CRB1-A2、CRB1-C、またはそれらの組み合わせをコードする第2のベクターをさらに含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
対象における眼障害を処置する方法に使用するための、請求項14~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
それを必要とする対象において視力喪失の進行を低減するか、または視力機能を維持する方法に使用するための、請求項14~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
対象が眼障害を有する、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
眼障害が網膜症を含む、請求項19または21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
対象が、CRB1の1種または複数の対立遺伝子に変異を有する、請求項19~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
網膜症が、常染色体劣性重症早期発症網膜変性(レーバー先天性黒内障)、先天性色覚異常、シュタルガルト病、ベスト病、ドイン病、錐体ジストロフィー、網膜色素変性症、X連鎖網膜分離症、アッシャー症候群、加齢性黄斑変性症、萎縮性加齢性黄斑変性症、新生血管AMD、糖尿病性黄斑症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、嚢胞性黄斑浮腫、中心性漿液性網膜症、網膜剥離、眼内炎、緑内障、および後部ブドウ膜炎からなる群から選択される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項25】
硝子体内投与される、請求項19~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
網膜下投与される、請求項19~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
局所投与される、請求項19~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
方法が、対象の視覚機能をモニタリングすることをさらに含み、対象の視覚機能は、医薬組成物の投与後に維持され、低下しない、請求項19~27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
視覚機能が、マイクロペリメトリー、暗順応ペリメトリー、視覚可動性の評価、視力、ERG、または読み取り評価によって評価される、請求項28に記載の医薬組成物。
【請求項30】
対象の眼障害を処置するためのキットであって、請求項1もしくは2に記載の単離ポリヌクレオチド、請求項3~12のいずれか1項に記載の組換えベクター、請求項13に記載の単離ポリペプチド、または請求項14~18のいずれか1項に記載の医薬組成物前記単離ポリヌクレオチド、前記組換えベクター、前記単離ポリペプチド、または前記医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、使用説明書を含む、キット。
【請求項31】
送達が、網膜下送達を含む、請求項30に記載のキット。
【請求項32】
送達が、硝子体内送達を含む、請求項30に記載のキット。
【請求項33】
送達が、局所送達を含む、請求項30に記載のキット。
【請求項34】
対象における視力喪失の進行を低減するか、もしくは視力喪失を低減するか、または視力機能を維持するためのキットであって、請求項1もしくは2に記載の単離ポリヌクレオチド、請求項3~12のいずれか1項に記載の組換えベクター、請求項13に記載の単離ポリペプチド、または請求項14~18のいずれか1項に記載の医薬組成物前記単離ポリヌクレオチド、前記組換えベクター、前記単離ポリペプチド、または前記医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、使用説明書を含む、キット。
【請求項35】
請求項3~12のいずれか1項に記載の組換えベクター、およびCRB1-A、CRB1-A2、またはCRB1-Cをコードする第2のベクター、および使用説明書を含むキット。
【請求項36】
単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチドまたは医薬組成物を対象の眼に送達するためのシステムであって、治療有効量の請求項1もしくは2に記載のポリヌクレオチド、請求項3~12のいずれか1項に記載の組換えベクター、請求項13に記載の単離ポリペプチド、または請求項14~18のいずれか1項に記載の医薬組成物、および対象に送達するためのデバイスを含む、システム。
【請求項37】
組換えベクターが送達される、請求項36に記載のシステム。
【請求項38】
送達が、網膜下送達を含む、請求項36または37に記載のシステム。
【請求項39】
送達が、硝子体内送達を含む、請求項36または37に記載のシステム。
【請求項40】
デバイスが細径カニューレおよびシリンジを含み、細径カニューレが27~45ゲージである、請求項36~39のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項41】
送達が、局所送達を含む、請求項36または37に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年3月4日出願の米国仮特許出願第62/813,272号の優先権の利益を主張し、この仮特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
連邦政府支援研究に関する声明
本発明は、国立衛生研究所により授与された連邦政府助成金番号F32EY026344に基づく政府の支援によってなされたものである。政府は、本発明にある特定の権利を有する。
配列表
配列表がこの出願に付属しており、2020年3月4日に作成されたサイズ342KBの「2020-03-04_155554.00531_ST25.txt」と名付けられた配列表のASCIIテキストファイルとして提出される。配列表は、本出願とともにEFS-Webを介して電子的に提出され、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
CRB1遺伝子の機能喪失型変異は、広範囲の網膜変性疾患を引き起こす。遺伝子治療の最近の進歩により、単一遺伝子失明性疾患における視力喪失の進行を止めるための新しい可能性が開かれている。CRB1疾患がそのような治療法の有力な候補となるためには、インビボで網膜におけるCRB1タンパク質の正常かつ病理生物学的(pathobiological)機能を理解することが不可欠である。CRB1機能の一般的なモデルは、このことが外境界膜(OLM)の構造的完全性に必要であると仮定している。CRB1タンパク質(大きな細胞外ドメインを有する細胞表面分子)は、光受容体とミュラーグリアとを連結するOLM細胞間接着に局在している。CRB1機能の喪失は、OLM接着を弱め、最終的に光受容体の死を引き起こす構造的欠陥につながると考えられている。このモデルによると、CRB1遺伝子の置換は有望な治療戦略である、すなわち、接着を回復すると、OLMの完全性が向上し、それによって光受容体の死が緩徐するか、さらには停止することが期待される。効果的な遺伝子置換戦略を設計するには、現在不明な2つの極めて重要な情報を知ることが重要である。第1に、どの細胞型でCRB1を置換するべきであるか?置換は、OLM接合部のグリア側または光受容体側、-あるいはその両方において必要であるか?第2に、CRB分子のどのスプライスバリアントを置換に使用するべきであるか?CRB1は、いくつかの代替mRNAアイソフォームをコードすることが知られている;さらに、ヒトトランスクリプトームの真の複雑さは驚くほど難解なままであるため、説明されていない追加のアイソフォームがまだ存在する場合がある。遺伝子治療ベクターに含めるために選択することができるcDNA種は1つだけであるため、成熟網膜に再導入した場合に変性を停止するのにどのアイソフォームが最も効果的であるかを確立することが極めて重要である。
【発明の概要】
【0003】
一態様では、本開示は、配列番号1を含むクラムス(Crumbs)1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、網膜細胞においてアイソフォームを発現することができる異種プロモーターに作動可能に連結された、単離ポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本開示は、単離ポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
別の態様では、本開示は、クラムス1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターであって、CRB1-Bアイソフォームが、N末端からC末端に向けて、2つのEGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、および4つのEGFドメインを含む細胞外ポリペプチドに連結されたN末端シグナルペプチドを含み、細胞外ポリペプチドのC末端は、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含むC末端ドメインに連結されている、組換えベクターを提供する。
【0004】
さらなる態様では、本開示は、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクターから作製された単離ポリペプチドを提供する。
別の態様では、本開示は、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクターと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
別の態様では、本開示は、対象における眼障害を処置する方法であって、本明細書に記載の治療有効量のポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に投与することを含み、それにより眼障害が対象において処置される、方法を提供する。
【0005】
さらに別の態様では、本開示は、それを必要とする対象において視力喪失の進行を低減するか、または視力機能を維持する方法であって、本明細書に記載の治療有効量のポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に投与することを含み、それにより視力喪失が低減される、方法を提供する。
さらに別の実施形態では、本開示は、対象において眼障害を処置するためのキットであって、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物、単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、および使用説明書を含む、キットを提供する。
【0006】
さらなる態様では、本開示は、対象における視力喪失の進行を低減するか、もしくは視力喪失を低減するか、または視力機能を維持するためのキットであって、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物、および単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、および使用説明書を含む、キットを提供する。
別の態様では、本開示は、単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象の眼に送達するためのシステムであって、本明細書に記載の治療有効量の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物、および対象に送達するためのデバイスを含む、システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】高いアイソフォーム多様性を呈する細胞表面受容体を同定するために本明細書で使用される戦略を示す。(A)lrCaptureSeqの遺伝子を選択するためのスクリーニング戦略。EGF、Ig、および接着GPCRファミリーのメンバーを、1)網膜および皮質からのRNA-seqデータを使用して、神経発生の間の発現;および2)UCSC Genes公開データベースと比較したRNA-seqリードアラインメントに基づく、注釈のない転写物の多様性について試験した。選択的スプライシング、新規エクソン、新規転写開始部位(アスタリスク)などの注釈のないイベントの強力なエビデンスを示す30の遺伝子を、完全長転写物の標的化シークエンシング用に選択した(B、C)。(B)lrCaptureSeqワークフロー。完全長リードの同定を可能にするために、cDNAには5’タグを付けている。既知のエクソンをタイリングする赤色のビオチン化捕捉プローブ。インタクトなcDNAが豊富なシークエンシングライブラリーを取得するために、2ラウンドの増幅およびサイズ選択を使用した。(C)各lrCaptureSeq実験の完全長リードのサイズ分布。マウスの網膜転写物を、P1、P6、P10および成体で分析した;皮質データは成体マウスからのものである。リードの大部分は、標的化遺伝子のcDNAの予想サイズ範囲内にある。破線は、リード長分布の四分位数を示す。
図2】IrCaptureSeqによって明らかにされたmRNAアイソフォーム多様性を示す。(A)lrCaptureSeqバイオインフォマティクスパイプラインの完了後に各遺伝子についてカタログ化されたアイソフォームの総数。(B)PacBio lrCaptureSeqデータセットのアイソフォーム数を公開データベース(RefSeq、UCSC Genes)と比較するUpSetプロット。共通部分は、NCBI RefSeqアイソフォームの53.9%がPacBioデータセットで検出されたことを示す(255 RefSeqアイソフォーム、左から4列目および6列目)。UCSC遺伝子の場合、このデータベース中で注釈付きアイソフォームの72.3%がPacBioデータセットで検出された(102個のUCSCアイソフォーム、5列目および6列目)。(C)各遺伝子についてカタログ化されたアイソフォームの総数(右Y切片)、および各アイソフォームによって表される各遺伝子の総リードの割合(ドット)を示すローレンツプロット。曲線は累積関数であり、アイソフォームは総遺伝子リードの最高(左)から最低(右)の割合で順番に表示されている。図10Dも参照のこと。(D)シャノン多様度指数を使用して、各遺伝子の相対的多様性を比較した。より高いシャノン指数は、より多いアイソフォーム数とアイソフォーム発現のパリティの両方を反映している。(E)データセット全体内の遺伝子(色)およびアイソフォーム(ネストされた長方形)の相対的存在量を示すツリープロット。長方形のサイズは、総リード数に比例する。最も豊富なアイソフォームはCrb1に属していた;最も豊富な遺伝子はNrcamであった。(F、G)単一遺伝子レベルで適用される教師なしクラスタリングは、特定の配列要素を共有する関連するアイソフォームのファミリーを識別する。一例としてPtprd遺伝子を示す。Ptprdアイソフォームのサブセットを、5グループにクラスタリングする(F、下)。これらは3つの変数に基づいて異なっている:5’UTRの長さ;3’UTRの長さ;可変エクソンクラスターのスプライシング(F、上)。同じ群が主成分プロット(G)内で分離する。
図3】転写物の多様性が豊富なタンパク質多様性に寄与することを実証する。(A)lrCaptureSeqデータセット内の各遺伝子の転写物およびORFの総数。ORFの数は、典型的には、ほとんどの遺伝子にわたる同様の線の勾配で示されるように、転写物数に対応する。少数の遺伝子は、転写アイソフォームよりもはるかに少ないORFを呈する(急勾配)。(B)図2Cと同様のアイソフォームORF分布のローレンツプロット。多くの予測されるタンパク質アイソフォーム(ドット)は、遺伝子発現全体に寄与すると予想される。(図11A、Bも参照のこと)。(C)各遺伝子の固有の予測ORFのシャノン多様度指数。トランスシナプス結合タンパク質をコードする遺伝子は、赤色で強調表示されている。(D)データセット内の予測ORFの相対的存在量を示すツリープロット。ほとんどの遺伝子では、全体的な発現は多くのORFアイソフォームにわたって分布している。Aにおいて急勾配の遺伝子(Cntn4など)は、転写ツリープロット(図2E)と比較してここで違いを示している。(E)細胞表面タンパク質を濃縮するために使用されるプロテオミクス技術の概略。(F)ビオチン標識およびストレプトアビジン濃縮細胞表面タンパク質からのクマシー染色タンパク質ゲル。溶出レーン(E)は、総溶解物投入(I)と比較して高分子量タンパク質の濃縮を示している。75kDa~250kDaのバンドを質量分析用に切り出した。(G)UniProtKBデータベースに存在しない、質量分析によって発見された注釈のないペプチドの数を示すプロット。そのようなペプチドは、lrCaptureSeqによって存在すると予測されていなかった場合、検出されなかったであろう。
図4】モジュラー選択的スプライシングによって推進されるMegf11のアイソフォーム多様性を実証する。(A)MEGF11タンパク質の概略図であり、ドメインの特徴がエクソンの境界にどのように対応するかを示している。ほとんどの細胞外ドメインエクソンは、個々のEGFまたはEGF-ラミニン(Lam)リピートをコードする。EGF-Lamドメインを短縮化するスプライシング(例えば、エクソン14のスキッピング)は、インタクトなEGFドメインを残してモジュール性を維持すると予測される。カノニカルな(canonical)シグナル伝達モチーフをコードする細胞内ドメインエクソンが注目される:+、免疫受容体チロシン系活性化モチーフ(YxxL/Ix(6-8)YxxL/I);-、免疫受容体チロシン系阻害モチーフ(S/I/V/LxYxxI/V/L)。TMは膜貫通ドメイン;EMIはエミリン-相同性ドメインを示す。(B)組み合わせたPacBioデータセットから生成されたMegf11 sashimiプロット。最もばらつきのあるエクソンクラスター(13~17および19~23)が示されている。これらのクラスター内のエクソンは、クラスター内の任意の下流エクソンとスプライシングすることができる。線の幅は、アイソフォームデータベースのスプライシングイベントの頻度に対応している。C)Megf11アイソフォーム全体にわたるエクソン使用の相関。高いピアソン相関値(赤)は、最小限のスプライシングを示すエクソン間の短い距離、例えば1~8および17~19で見られる。長距離の相関はほとんどなく、ほとんどのスプライシングが確率論的であることを示唆している。長距離の強い負の相関は、選択的転写停止部位の下流にあるエクソン(アスタリスク)の自明なケースでのみ観察される。(D)10個の最も豊富なMegf11アイソフォームの予測されるタンパク質構造。選択的スプライシングによって、タンパク質の細胞外部分のEGFおよびEGF-Lamドメインの数および同一性が変化し、5つの異なる細胞質ドメインが産生される。アイソフォーム8は、選択的転写停止部位(C、エクソン8b)の結果であり、分泌されたアイソフォームをコードすると予測される。*エクソン19~20をスプライシングすると、フレームシフトおよび早期停止コドンが生じる。**イントロン24の保持により、フレームシフトおよび早期停止コドンが生じる。(E)示されたスプライスジャンクション(赤)を標的とするプローブを使用した、P10マウス網膜断面のBaseScope インサイチュハイブリダイゼーション。構成的ジャンクション(2~3、左上)は、4つの細胞型において完全なMegf11発現パターンを示している:ONおよびOFFスターバーストアマクリン細胞(青色矢印)、水平細胞(赤色矢印)、および未確認アマクリン細胞(黒色矢印)。カルビンジン(緑色)は、スターバーストおよび水平細胞を示す。各ジャンクションプローブの染色強度は、シークエンシングデータにおけるジャンクション頻度と一致している(Sashimiプロット、Bを参照のこと)。すべてのジャンクションは、スターバーストおよび水平集団のすべての個々の細胞によって表される。スケールバー=10μm。
図5】Crb1-Bが、マウスおよびヒトの網膜において最も豊富なCrb1アイソフォームであることを実証する。(A、B)マウス網膜(A)および皮質(B)からの最も豊富なCrb1アイソフォームの転写マップ。Aはカノニカルなアイソフォームである;A2はAのマイナーなスプライスバリアントである。これらのアイソフォームは網膜と皮質の間で共有されるが、Cortex1、Cortex2、およびCrb1-Bは組織特異的である。対応するエクソンカバレッジ(紺色)およびsashimiプロット(赤色の線)は、lrCaptureSeqデータセットから生成された。Crb1-Bアイソフォーム(A)に関連するリードの頻度に注意すること。(C)クロマチンアクセシビリティのアッセイ(ATAC-seq;GSE102092、GSE83312)では、Crb1-AおよびCrb1-Bアイソフォームの有望なプロモーターを同定する。色付きバーは、推定されるA(緑色)およびB(青色)プロモーターの位置を示す。A~Cのマップは互いにアラインされている。Crb1-Aプロモーターは、発生の間はよりオープンであるが、成熟網膜においてアクセス可能なままである。Crb1-Bプロモーターはオープンであり、成熟桿体と両方のタイプの錐体において活性があると推定される。ENCODEプロジェクトからのDNase I高感受性データによって、Aアイソフォームおよびより短い皮質アイソフォーム(cortex1および2;上部の灰色のバー)の発現と一致する前頭皮質の明確なクロマチン環境が明らかになる。(D)PacBioデータセットから定量化された、マウス発生全体にわたる上位3種のCrb1アイソフォームの網膜発現。AアイソフォームはP1で優勢であるが、Crb1-BはP6で最も豊富になる。データは、各時点での総Crb1リード計数に正規化された(P1=923リード、P6=6,127リード、P10=14,007リード、成体=10,975リード)。(E)lrCaptureSeqによって同定された、最も豊富なヒト網膜CRB1アイソフォームの転写マップ。AおよびBアイソフォームはマウス(A)に対し高い相同性がある。CRB1-Cは、推定される分泌型タンパク質をコードする;CRB1-Cは、マウスデータセットでも同定されたが、マウスでの相対的存在量はAおよびBよりもはるかに少なかった。Crb1-A2はヒトデータセットでは検出されなかったことに注意すべきである。エクソンカバレッジ(紺色)およびsashimiプロット(赤色の線)は、lrCaptureSeqデータから生成された。(F)ヒト周辺(per.)および黄斑(mac.)網膜のATAC-seq(GSE99287)は、CRB1-A(緑色のバー)およびCRB1-B(青色のバー)の推定プロモーターに対応するオープンな調節部位を示す。2つの生物学的複製を示す。E、Fのマップは互いにアラインされている。(G)成人のヒト網膜lrCaptureSeqデータセットから定量化された上位3種のヒトCRB1アイソフォームの発現。(H、I)ショートリードRNA-seqデータを使用した上位3種のマウス(H)またはヒト(I)CRB1アイソフォームの定量化。マウスデータセット(GSE101986)では、PacBioデータ(D)で観察された各アイソフォームの発生調節が確認される。ヒトデータセット(GSE94437)では、CRB1-Bが成人の網膜内で優性アイソフォームであることが確認される。線(I)は、同じドナーから得られた測定値を示す。統計(I):Tukeyの事後比較を伴う一元配置ANOVA。****P<1×10-7。***P=1.6×10-6(上);P=6.6×10-6(下)。エラーバーは、95%信頼区間(H)またはS.D.(I)。
図6】CRB1-Bが、光受容体によって発現することを実証する。(A)CRB1-AおよびCRB1-Bタンパク質アイソフォームのドメイン構造。緑色、A特有の領域;青色、B特有の領域。各アイソフォームは、シグナルペプチドをコードすると予測されるN末端、および膜貫通(TM)および細胞内ドメインをコードすると予測されるC末端に固有の配列を有する。(B)固有のCRB1-B配列のClustalWアラインメント(Aの青色)N末端領域とC末端領域の両方が、脊椎動物種全体で高度に保存されている。N末端領域はシグナルペプチド(左)を含み、C末端領域は膜貫通ドメイン(右)を含む。示されている配列は以下のとおりである:配列番号87はコンセンサスシグナルペプチドであり、配列番号88はコンセンサス膜貫通ドメインであり、配列番号89はホモ・サピエンス(Homo sapiens)シグナルペプチドであり、配列番号3はホモ・サピエンス膜貫通ドメインであり、配列番号90はボス・トーラス(Bos taurus)シグナルペプチドであり、配列番号91はボス・トーラス膜貫通ドメインであり、配列番号92はムース・ムースクルス(Mus musculus)シグナルペプチドであり、配列番号93はムース・ムースクルス膜貫通ドメインであり、配列番号94はラトゥス・ノルベギクス(Rattus norvegicus)シグナルペプチドであり、配列番号95はラトゥス・ノルベギクス膜貫通ドメインであり、配列番号96はダニオ・レリオ(Danio rerio)シグナルペプチドであり、配列番号97はダニオ・レリオ膜貫通ドメインである。(C)網膜溶解物におけるCRB1-Bタンパク質発現を検証するウエスタンブロット。CRB1-B抗体が、固有のCRB1-B C末端に対して生成された。変異マウス(Crb1delB対立遺伝子;図7Aを参照のこと)におけるCrb1-Bの第1エクソンの欠失は、抗体の特異性を実証し、転写レベルで予測されるように、Crb1-B固有の第1および最終エクソンが主に一緒に使用されることを実証する(図5A)。光受容体タンパク質ABCA4を、負荷対照(loading control)として使用する。(D)可溶性(S)および膜結合(M)タンパク質画分に分離された網膜溶解物におけるウエスタンブロット。CRB1-Bは、膜画分で検出される。負荷対照:膜画分、ABCA4;可溶性画分、ホスデューシン。(E)CRB1が発現している外網膜領域の解剖学的構造を示す概略図。左、光受容体核を描いた顕微鏡写真;内節(黒色);および外節(茶色)。外境界膜(OLM)は、内節層から核層を分離する。右、OLMの解剖学的構造概略図。OLMは、光受容体(灰色)とミュラー細胞(青色)の間の接合部(赤い点)からなる。これらの接合部は、各細胞型の特定の細胞内ドメイン、すなわちグリア頂端膜および光受容体内節で選択的に形成される。CRB1-Aはミュラー細胞(F、G)によって発現し、OLM接合部に選択的に局在化する49。CRB1-Bは、内節および外節を含む光受容体全体に発現している(F~H)。図14も参照のこと。(F)scRNA-seqデータにおけるCrb1アイソフォームのマッピング48。>90,000の細胞の遺伝子プロファイルから生成されたヒートマップであり、Crb1アイソフォームおよび網膜細胞型マーカー遺伝子の正規化された発現を示す。教師なしクラスタリングを使用して、Crb1アイソフォームと共発現する遺伝子を定義した。Crb1-Bは、既知の錐体および桿体光受容体遺伝子とクラスタリングし、Crb1-Aは、既知のミュラーグリア遺伝子とクラスタリングする。(G)アイソフォーム特異的プローブ(赤色)を使用したP20マウス網膜のBaseScope インサイチュハイブリダイゼーション。青色、Hoeschst核対比染色。Crb1-Aプローブはエクソン1-2ジャンクションを標的とし、これはCrb1-A2およびCrb1-Cでも使用される(図5Aを参照)。シグナルは、ミュラー細胞体が存在する中央INLに、主に限定されている(左)。Crb1-Bプローブは、その固有の5’エクソンとエクソン6との間のジャンクションを標的とした(図5A)。シグナルは、ONL内の光受容体に限定される。略語ONL=外顆粒層;INL=内顆粒層;GCL=神経節細胞層。スケールバー、100μm。(H)桿体光受容体内のCRB1-Bの細胞内局在を、マウスの外網膜を通る連続10μmの接線方向切片のウエスタンブロッティングによって評価した。各レーンは、上部に図案で示されている光受容体の細胞内区画に対応している。ロドプシン(Rho、中央)は外節マーカーであり;GAPDH(下)は外節から除外されているが、細胞の残りの部分全体に存在している。CRB1-Bタンパク質(上)はすべての区画に存在する;発現は、外節および内節に対応するレーンで最も強くなっている。
図7】外境界膜の完全性にCrb1アイソフォームが必要であることを実証する。(A)マウス変異対立遺伝子に関連する遺伝子病変を示すCrb1遺伝子座の概略図。以前に研究された変異体:Crb1ex1は、Crb1-Bアイソフォームに影響を与えないエクソン1の標的化欠失を示す;Crb1rd8は、エクソン9の点変異を示す。この研究のために生成された変異対立遺伝子:Crb1delBは、第1のCrb1-Bエクソンおよびそのプロモーター領域のCRISPR媒介欠失を示し、Crb1-Aアイソフォームはインタクトに残っている;Crb1nullは、すべてのCrb1アイソフォームで使用される連続したエクソンの大規模なCRISPR媒介欠失を示す。新しい対立遺伝子の記録については、図15Aも参照のこと。(B、C)電子顕微鏡によるOLM接合部の評価。B:光受容体の内節を取り巻くOLM接合部(赤色)の位置を示す概略図。C:野生型マウスからの電子顕微鏡写真。すべての内節は、ミュラー細胞とともにOLM接合部を形成する。ISは、内節を示す。赤色の矢じりは、光受容体-グリア接合部を示す。青色の矢じりは、グリア-グリア接合部を示す。(D、E)Crb1変異体におけるOLM破壊表現型。D:対照(野生型)マウスの電子顕微鏡写真。OLM(赤い矢印)は、外顆粒層(ONL)をIS層から分割する。Crb1変異体(E)では、OLMのギャップにより、核が内節層に浸透する。矢印は、OLM接合部を欠く領域を示している。この画像はCrb1delB/null変異体からのものであるが、null、delB、およびrd8変異体で観察されたOLM表現型を表す(図15D~F)。(F~I)Crb1変異体のOLMギャップの高倍率表示であって、OLM接合部(アスタリスク)を欠く内節を示している。各対立遺伝子の組み合わせにおいて、ミュラー接触を欠く光受容体が観察された。赤色と青色の矢じりは、Cと同様である。(J)OLMギャップ頻度(gap frequency)の定量化。野生型またはCrb1null/+ヘテロ接合体ではギャップは観察されなかった。OLM破壊の頻度は、rd8、null、およびdelB/null変異体において類似しており、それらのうちの後者はCrb1-Bを欠いているが、それでもCrb1-Aを発現する。統計、Tukeyの事後検定を伴う一元配置ANOVA。null、rd8、およびdelB/nullはすべて、野生型およびヘテロ接合体対照とは有意に異なっていた(それぞれのP値: 0.014;0.005;0.019)が、互いに有意差はなかった(rd8対null P=0.991;rd8対delB/null P=0.784;null対delB/null P=0.967)。ギャップサイズの定量化については、図15Fも参照のこと。スケールバーは、2μm C、D(バーはEにも適用される);1μm G(バーはFにも適用される)、H、Iである。
図8】すべてのCrb1アイソフォームのアブレーションによって網膜変性が引き起こされることを実証する。(A)P100でのCrb1変異マウスにおける網膜組織学。示された遺伝子型のホモ接合変異体、および野生型対照について、下半球を通る薄いプラスチック切片が示されている。矢印は、光受容体核を含むONL層を示す。光受容体喪失の大きな焦点領域は、網膜剥離を伴うCrb1null網膜において明らかである。最も激しく変性するパッチの外側領域は、ONLの薄化を示す。Crb1delBおよびCrb1rd8変異体は、ONL細胞の明らかな喪失を示していない。ONHは、視神経乳頭を示す。(B)網膜組織学の高倍率表示であり、ONHより450μm劣っている。2つの異なるCrb1null動物からの画像を、限局性変性の変動性を強調するために示す。軽度のnullの場合でも、年齢が一致したCrb1rd8よりも核が少ない、より薄いONL(オレンジ色の線)を有する。null変異体では、外節長さ(青色の線)も短縮する。(C、D)は、P100でのONL細胞数の定量化を示す。C:網膜切片全体に均一に分布した100μmのビン内のONL核の計数を示すスパイダープロット(例:B)。左、下側。Crb1delBスパイダープロットについては、図15を参照のこと。D:8つのビンすべてにおいて計数された総ONL核。統計(C):Sidak事後検定を伴う2元配置ANOVA。P値はWT対nullの比較を指す;rd8は、どの位置でもWTと有意差はなかった。*P=0.015;**P=0.007、P=0.004;****P<1×10-7。統計(D):Tukeyの事後検定を伴う一元配置ANOVA。Crb1nullは、他のすべての群とは有意差があった。すべての比較で****P<1×10-5。他のCrb1変異体はどれもWTと、または互いに異ならなかった。サンプルサイズを、グラフ(D)のドットで示す。
図9】捕捉されたcDNAのPacBioシークエンシングを示す。(A)パイロットlrCaptureSeq実験のPacBioリードサイズ分布のヒストグラムであり、この実験では、PCR増幅後の第2のサイズ選択は実行されなかった(ワークフロー、図1Bを参照のこと)。プロファイルは、このサイズ選択が長い転写物の濃縮に必要であることを実証している。点線は四分位範囲を表す。FLNCは、Iso-Seqソフトウェアによってコールされる完全長の非キメラリードを示す。(B)実験ごとのオンターゲットリードのパーセンテージであって、これは他のすべてのリードに対する我々の標的化遺伝子に対応する高品質(HQ)リードの数として計算される。HQリードは、Iso-Seqソフトウェアによってコールされる。(C)個々のlrCaptureSeq実験および結合データセットからのシークエンシング統計。(D、E)lrCaptureSeqアイソフォーム5’のバリデーションは、CAGEによって終了する。成体マウスの網膜からの3つの独立したCAGE-seq複製を、成体マウスの網膜lrCaptureSeqアイソフォームにマッピングした。D:lrCaptureSeqアイソフォームの第1のエクソンでのCAGEリードカバレッジを示す箱ひげ図。カバレッジは広範囲であり、lrCaptureSeq 5’末端部の精度を支持する。箱はIQRを表し、水平線は中央値を表し、ひげは1.5*IQRに等しくなる。E:lrCaptureSeqアイソフォームにマッピングされたCAGEリードの5’-3’軸に沿った位置。CAGEカバレッジは、転写物の5’末端部に限定されていた。
図10】lrCaptureSeqカタログにおけるアイソフォームの長さおよび存在量を示す。(A)lrCaptureSeqデータセット内の「ground-truth」アイソフォームの数を、CufflinksまたはStringtieによって網膜および皮質のRNA-seqデータセットから計算で予測されたものと比較するUpSetプロット。これらの2つのプログラムによってアセンブルされたよりもはるかに多くのアイソフォームが、lrCaptureSeqによって検出された。それにもかかわらず、予測されたアイソフォームのうちの少数のみがロングリードシークエンシングによってバリデーションされた:Cufflinksによって予測された186のアイソフォーム(3列目+5列目)が、PacBioデータセットで検出され(またはCufflinksアイソフォームの38%)、Stringtieによって予測された170のアイソフォーム(4列目+5列目)が検出された(またはStringtieアイソフォームの17.7%)。(B)lrCaptureSeqアイソフォームにマッピングされたRNA-seqリードの数を示す箱ひげ図。2つのクラスのアイソフォームを比較する:RNA-seqデータ内のすべてのエクソンジャンクションがバリデーションされたもの(完全)と、100%はバリデーションされていないもの(部分的)である。後者の群のリード計数は低く、すべてのジャンクションのバリデーションに失敗したことは、少なくとも部分的には、これらの特定のアイソフォームの低い発現レベルおよび/または不十分なRNA-seqリードカバレッジに起因する場合があることを示唆している。箱はIQRを表し、水平線は中央値を表し、ひげは1.5*IQRに等しくなる。赤色のバーは、平均の95%信頼区間を示す。(C)全体的なアイソフォーム計数に対する非カノニカルなスプライスジャンクションを含むアイソフォームの寄与。曲線は、すべてのアイソフォームの存在量のランク順(赤色)と、非カノニカルなスプライスジャンクションを含むアイソフォームのみの同じランク順(青色)を示す。非カノニカルなジャンクションは、総アイソフォームの少数を占めている。各遺伝子から最も少量のアイソフォームを連続的に除去する(つまり、X軸に沿って移動する)と、非カノニカルなジャンクションを使用するアイソフォームの同様の割合が得られ、これらの一部が豊富に発現していることが示唆される。(D)各遺伝子の総リード計数の上位50%(D)または75%(E)を占めるアイソフォームの数を示すプロット(図2Cを参照のこと)。これらのプロットは、厳格な存在量カットオフがあっても、多くのアイソフォームが存在し、全体的な遺伝子発現に寄与することを示している。(E、F)アイソフォームの長さは大幅に異なる。このことは、各遺伝子のアイソフォームの長さを示すドットプロット(F)、および各遺伝子のアイソフォーム全体で使用されるエクソンの数を示す箱ひげ図によって示される。箱はIQRを表し、水平線は中央値を表し、ひげは1.5*IQRに等しくなる。(G)すべてのアイソフォームのt-SNEプロット。ほとんどのアイソフォームをそれぞれの遺伝子ファミリーに分離して、アイソフォームの類似性を比較するためのクラスタリングアルゴリズムの有効性をバリデーションする。プロットの中央にあるアイソフォームで十分に分離されていないものは、一般に、同じ遺伝子の他のアイソフォームとのクラスタリングを妨げる大きなゲノム要素(つまり、保持されたイントロン)を含んでいる。アイソフォームの拡張は、配列組成の有意な変動を示唆している。プロットを、1,000回の反復およびパープレキシティ=35により生成した。
図11】コーディングおよび非コーディングアイソフォームのバリエーションを示す。(A、B)各遺伝子の総リード計数の上位50%(A)または75%(B)を占める固有の予測ORFの数を示すプロット(図3Bを参照のこと)。(C)イントロンの保持は、ここでVldlr遺伝子によって例示されているように、タンパク質をコードしないアイソフォームの多様性の主な原因である。上位20の最も豊富なVldlrアイソフォームが示されている。黒色の太いバーは、エクソンを示す。広範囲にわたるコンビナトリアルイントロンの保持に注意すべきである。アスタリスクは、lrCaptureSeqアイソフォーム(つまり、ポリアデニル化転写物内)で検出されたイントロンを示す。イントロンの保持により、高度な転写物の多様性が生じるが、ORFの多様性は高くならない。保持されたイントロンはすべて、時期尚早の終止コドンを導入する。(D)非コーディング転写物の多様性は、ここでCntn4によって例示されているように、遺伝子の5’UTR領域のバリエーションから生じる可能性がある。図は、上位20の最も豊富なCntn4アイソフォームの5’末端部を示している。選択的転写開始部位および5’UTR内のエクソンの使用法の差異に注意すべきである。(E)lrCaptureSeqデータセット内に存在する予測トリプシンペプチド産物の数(左のバー)と比較した、UniProtKbデータベース内の我々の30遺伝子によってコードされた固有のトリプシンペプチド産物の数(右のバー)。
図12】PacBioシークエンシングによって明らかにされたMegf11のアイソフォーム多様性を示す。(A)Megf11RT-PCR産物のDNA電気泳動ゲル画像。プライマーは、それぞれエクソン25または選択的エクソン23にプライマーを配置することにより、2つの異なるMegf11バリアント(長および短と表示)を増幅するように設計された。PCRを、網膜(長)または皮質(短)cDNAで実行した。RT-PCR産物のサイズの拡張は、さまざまなサイズの多数のMegf11アイソフォームを容易に増幅することができることを示している。(B)lrCaptureSeqおよびPCRデータセットからのMegf11アイソフォーム存在量のローレンツプロットプロファイル。すべてのデータセットは、多くのアイソフォームが全体的なMegf11発現に寄与することを示唆している。PCRデータセット曲線の右方向へのシフトは、おそらくPCR誘発バイアスが原因で、最も豊富なアイソフォームの過剰表現を示唆している。(C)Megf11の長い形式および短い形式(上)ならびに3つの異なるPacBioシークエンシングデータセットからの対応するエクソンカバレッジ(青色)およびsashimiプロット(赤色)を示す転写マップ。PCR1データセットはMegf11の長い形式のPCR産物をシークエンシングすることによって生成され、PCR2データセットは短い形式のPCR産物をシークエンシングすることによって生成された。これらを、30遺伝子のlrCaptureSeq実験からのMegf11リードと比較する。3つの実験はすべて、Megf11転写物の広範な選択的スプライシングを明らかにしている。sashimiプロットは、異なるデータセット間で顕著な類似性を示している。
図13】Crb1-Bアイソフォームが、さまざまな脊椎動物種にわたって発現していることを実証する。(A)公的に入手可能なRNA-seqデータ(ウシ、GES59911;ラット、GSE84932;ゼブラフィッシュ、GSE101544)に基づく、ウシ、ラット、およびゼブラフィッシュの網膜におけるCrb1アイソフォームの定量化。Crb1-Bは、少なくともすべての種においてCrb1-Aと同じくらい豊富であり、ラットおよびゼブラフィッシュにおいてより豊富である。Crb1-A2は、ウシの網膜でもゼブラフィッシュの網膜でも検出されなかった。エラーバーは、95%信頼区間を表す。(B)マウス網膜におけるCrb1アイソフォームの定量的(q)RT-PCR分析により、PacBioおよびショートリードRNA-seqを使用して同定された発現パターンが確認される(図5)。Crb1-AはP1で最も豊富であり、Crb1-Bは成体期に最も豊富である。PCRプライマーを、示されたアイソフォームによって発現するスプライスジャンクションにまたがるように設計した。データを、pan-Crb1プライマーから得られた値に正規化した。N=各年齢で3匹の動物。(C)pan-Crb1プライマー(pan)、またはCrb1-Bスプライスジャンクションを標的とするプライマー(B)を使用した、マウス網膜および皮質からのcDNAのRT-PCR。Crb1-Bバンドは、マウス皮質では検出されない。Pan-Crb1プライマーは、両方の組織にバンドを生成する。N=3匹のマウス。Lは、はしご型を示す。
図14】Crb1アイソフォームの細胞型特異的発現を示す。(A)Crb1エクソンのピアソン相関は、Crb1-Bに固有のエクソン(5cおよび11b)には、Crb1-Aアイソフォームに固有のエクソン(1~5および12)と負の相関があることを実証する。固有のCrb1-Bエクソン(5cと11b)には強く正の相関があり、主に一緒に使用されることを示唆している。(B)単離錐体(上)および桿体(下)光受容体のバルクRNA-seqからのCrb1アイソフォームの定量化(データセット:GSE74660)。Crb1-Bは、光受容体で発現する唯一のアイソフォームである。エラーバーは、95%信頼区間を表す。(C)K562細胞で発現したCRB1アイソフォームは、原形質膜に移動する。画像は、YFPでC末端にタグ付けされたCRB1-AおよびCRB1-B構造体の自然蛍光を示す。(D)単一細胞RNA-seqデータにおけるCrb1アイソフォームのマッピング31。ジッタープロットは、個々の細胞内の相対的転写物発現計数を示す。各点は、1つの細胞を表し、注釈付き細胞型によって色分けされている。Crb1-Aは、ミュラーグリアによって発現するが、Crb1-Bは、桿体および錐体光受容体によって発現する。比較のために、ミュラーグリア(Aqp4)、桿体(Gnat1)、錐体(Gnat2)、双極細胞(Pcp2)の細胞型特異的マーカーを示す。
図15】Crb1変異マウスおよびOLM表現型を示す。(A)サンガーシークエンシングによって検証されたCrb1nullおよびCrb1delB対立遺伝子内の欠失の位置。赤色のテキストは、欠失ゲノム断片のサイズを示す。Crb1null対立遺伝子を含むゲノム領域は配列番号98(上位4つの配列)であり、Crb1delB対立遺伝子を含むゲノム領域は配列番号99(5、7、および8番目の配列)である。Crb1delB欠失を示す配列は、配列番号100(6番目の配列)である。(B)CRB1-Bタンパク質がCrb1null変異マウスにおいて排除されていることを確認する。網膜溶解物のウエスタンブロットを、図6Cのように実行した。ABCA4は、負荷対照を示す。(C)P100でのCrb1delB/delBマウスにおける光受容体喪失の欠如を示すスパイダープロット。灰色は、野生型対照を示す。(D、E)Crb1nullおよびCrb1rd8変異体におけるOLM破壊を示す代表的な電子顕微鏡写真。画像の縮尺は、図7D、Eと同様である。矢印は、OLM接合部を欠く領域を示している。解剖学的障害は、rd8について以前に報告されたもの36、およびCrb1-Bを欠いているがCrb1-Aのコピーを1つ保持しているCrb1delB/nullマウスで観察されたものと類似している(図7)。スケールバーは5μmである。(F)種々の対立遺伝子の組み合わせを有するCrb1変異体のOLMギャップサイズ。OLMギャップのサイズは、種々の変異体間で有意差はなかった。統計、一元配置ANOVA(F=2.19;P=0.095)。
図16】CRB1-Bアイソフォームのポリペプチド配列(配列番号1)を示しており、EGFドメインは灰色で強調表示されており(残基24~65、68~109、303~334、516~550、773~802、804~839、841~876および924~960)およびラミニンGドメインが赤色で強調表示されている(残基141~276、370~487、および607~732)。タンパク質ドメインの概略図を配列の下に示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
遺伝子置換は、Crb1遺伝子の機能喪失型変異によって引き起こされる広範囲の網膜変性疾患に対する有望な治療戦略である。しかし、効果的な遺伝子置換戦略を設計するには、この遺伝子を置換する必要のある細胞型と、提供する適切なCrb1アイソフォームの両方を同定しなければならない。
Crb1は、進化的に保存されたクラムス遺伝子ファミリーのメンバーであり、頂底(apico-basal)上皮極性を媒介する細胞表面タンパク質をコードする33。特に、遺伝子のマウスバージョンをCrb1と呼び、遺伝子のヒトバージョンをCRB1と呼ぶことは標準的な慣行と考えられている。しかし、本出願では、専門用語Crb1およびCRB1は、遺伝子を指すために交換可能に使用され、遺伝子が由来する種を示すために必ずしも使用されるわけではない。
【0009】
網膜では、CRB1は外境界膜(OLM)に局在しており、これは、光受容体とミュラーグリアとして知られる隣接するグリア細胞との間の構造的に重要な接合部のセットである26。OLM接合部は、各細胞型内のまさにその細胞内ドメインで形成され、これらの細胞間接触の確立における高度な分子特異性を示唆している34。ヒトCRB1における機能喪失型変異は一連の網膜変性疾患を引き起こすため35、OLM接合部でのCRB1の機能を理解することに大きな関心が寄せられている。OLMの完全性の喪失が疾患の病因に関与している可能性があることが提案されている26、36。それでも、マウスでの研究は、このモデルの説得力のある支持をまだ提供していない。例えば、マウスでは、既知のCrb1アイソフォームの欠失は、OLMを破壊することも、重大な光受容体の変性を引き起こすこともない37
【0010】
本出願において、本発明者らは、カノニカルなアイソフォームよりも-マウスおよびヒトの網膜の両方において-はるかに豊富な新しいCrb1アイソフォームを同定する。マウスモデルを使用して、本発明者らは、この新しいアイソフォームがOLMの完全性に必要であり、その除去が、ヒト変性疾患を適切に表現型コピーするために必要であることを示している。これらの結果により、CRB1疾患の遺伝学および病理生物学の一般的なモデルの大幅な改訂が必要とされる。注目すべきことに、本発明者らは、網膜変性遺伝子Crb1の主要なアイソフォームが以前は看過されていたことを発見した。このアイソフォームであるCrb1-Bは、CRB1疾患において影響を受けた細胞である光受容体によって発現する唯一のアイソフォームである。マウスモデルを使用して、本発明者らは、光受容体-グリア接合部におけるこのアイソフォームの機能を同定し、このアイソフォームの喪失が光受容体の死を加速することを実証する。
【0011】
本発明は、主要なアイソフォームCrb1-Bが、トランスで提示される場合、光受容体機能を保持するのに十分であり、その使用により視力を維持し、視力喪失を低減することが可能になることを実証する。具体的には、網膜光受容細胞へのCrb1-Bアイソフォームの導入は、光受容体機能を維持し、光受容体機能の喪失を低減するのに十分である。
アイソフォーム注釈:
ほとんどの遺伝子は、複数のmRNAアイソフォームを生成する。本明細書で使用される場合、「アイソフォーム」という用語は、同じ遺伝子座から産生されるが、それらの転写開始部位(TSS)、タンパク質コードDNA配列(CDS)および/または非翻訳領域(UTR)が異なるmRNAを説明するために使用される。選択的アイソフォーム(Alternative isoforms)は、選択的スプライシング、イントロン保持、選択的転写開始/停止部位などのメカニズムによって産生される。選択的アイソフォームは、タンパク質をコードする能力が異なることが多く1~4、その結果、遺伝子機能が変化することがある。これらのメカニズムは、選択的アイソフォームの使用が特に普及している中枢神経系(CNS)において特に一般的である1、5。さらに、アイソフォーム発現の調節不全は、いくつかの神経障害に関係している9-11
【0012】
アイソフォームの多様性が明らかに重要であるにもかかわらず、CNS mRNAアイソフォームの数および同一性に関する情報は、-主要なトランスクリプトーム注釈データベース内であっても、驚くほど不足している12。RNAシークエンシング(RNA-seq)は、選択的スプライシングに関する新しい情報の爆発的増加をもたらした。しかし、典型的なRNA-seqのリード長は200bp未満であるため、この方法では数千塩基転写物の完全長配列を解決することはできない。したがって、RNA-seqのみに依存することにより、任意の所与の遺伝子によって産生されるアイソフォームの数、またはそれらの完全長配列を決定することは不可能である。信頼できる完全長の転写物の注釈がない場合、遺伝子実験の設計および解釈は非常に困難になる。例えば、転写配列が知られていない限り、「ノックアウト」マウス対立遺伝子がすべてのアイソフォームの発現を完全に排除するように適切に設計されていることを確認することは困難である。注釈のないアイソフォームは、変異がヒトの遺伝病の病理にどのようにつながるかを理解する上でも問題になる可能性がある。隠れたアイソフォームは、特徴付けされていないタンパク質コード配列または新規の発現パターンを有する場合があり、これにより、疾患関連変異の分子的および細胞的結果が誤って解釈される可能性がある。したがって、包括的なアイソフォーム配列情報の欠如は、正常な遺伝子機能と遺伝子機能不全の表現型の結果の両方を理解する上で依然として主要な障害となっている12
【0013】
本出願において、本発明者らは、Pacific Biosciences (PacBio)のロングリードシークエンシング技術を活用して、CNS細胞表面分子の包括的なカタログを生成する戦略を考案した。ロングリードシークエンシングは、完全長転写物の同定に理想的であるが、利用可能なシークエンシング深度は、アイソフォームの多様性の全範囲を明らかにするのに十分ではない27~30。この制限を克服するために、本発明者らは、標的化cDNAが既知のエクソンに対するビオチン化プローブでプルダウンされる、ショートリードシークエンシングからの戦略を採用した31、32。このアプローチにより、ロングリードカバレッジが大幅に改善され、標的化遺伝子によってコードされるアイソフォームの予想外に豊富な多様性が明らかになった。これらの複雑なデータセットを理解するために、本発明者らは、アイソフォームの分類および比較のための、ならびにショートリードRNA-seqデータを使用したそれらの発現パターンを決定するためのバイオインフォマティクスツールを開発した。これらの方法を使用して、本発明者らは、網膜症の処置に大きな可能性を提供する新規のCrb1アイソフォームを同定することができた。
【0014】
組成物
i.ポリヌクレオチド配列、ベクターおよび単離タンパク質
眼障害に対する遺伝子治療プロトコルは、局所発現のために、眼の細胞(例えば、網膜の細胞)へのポリヌクレオチドまたはベクターの局所的送達を必要とする。これらの疾患の処置標的となる細胞には、とりわけ、眼の1種または複数の細胞(例えば、光受容体、眼球ニューロンなど)を含んでもよい。本開示のポリヌクレオチド、ベクター、ポリペプチド、組成物、方法、システムおよびキットは、少なくとも部分的に、Crb11Bと呼ばれる遺伝子Crb1のある特定の未知のアイソフォームが網膜光受容体においてのみ発現するという発見に基づく。Crb1-Bアイソフォームは、例えば、以下を含む多くの理由のために、Crb1遺伝子置換療法の魅力的な候補であることが本発明者らによって見出された:(i)サイズ;(ii)網膜光受容体におけるそれらの局所的発現-網膜ジストロフィーにおいて変性する細胞型;(iii)固有のプロモーター、および固有の第1および最終コーディングエクソンの存在により、Crb1-Bアイソフォームは他のアイソフォームと機能的に区別される;(iv)網膜における他のCrb1アイソフォームよりも発現が増加しており(例えば、Crb1-Bは約10倍高く発現している)、置換して視力を救援するそれらの機能が最も重要であり得ることを示唆している。例で実証されているように、CRB1-Bは網膜光受容体で発現する大部分のアイソフォームであり、他のアイソフォームは他の網膜細胞型で発現する(例えば、CRB1-Aはミュラー細胞で発現することが見出される)。したがって、対象の光受容体内でのCRB1-Bタンパク質のトランス発現は、それ自体で、光受容体機能を保持し、対象の視力を維持するのに十分である。
【0015】
一実施形態では、本技術は、配列番号1(ヒトCRB1-Bタンパク質)を含むクラムス1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチドであって、網膜細胞においてアイソフォームを発現することができる異種プロモーターに作動可能に連結された、単離ポリヌクレオチドを提供する。CRB1-Bアイソフォームは、光受容細胞において、主に内節および外節内で特異的に発現する。この局在化は、OLM内のミュラー細胞の頂端に局在化されたCRB1-Aとは著しく対照的である(図6Eを参照のこと)。一実施形態では、CRB1-Bアイソフォームをコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号2である。
【0016】
他の実施形態では、本技術は、ヒトクラムス1遺伝子の他のアイソフォームをコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。一実施形態では、ポリヌクレオチド配列(配列番号4)は、配列番号5(ヒトCRB1-Aタンパク質)を含むクラムス1-A(CRB1-A)アイソフォームをコードする。別の実施形態では、ポリヌクレオチド配列(配列番号6)は、配列番号7(ヒトCRB1-Cタンパク質)を含むクラムス1-C(CRB1-C)アイソフォームをコードする。
【0017】
さらなる実施形態では、単離ポリヌクレオチドは、マウスクラムス1遺伝子のアイソフォームをコードする。一実施形態では、ポリヌクレオチド配列(配列番号8)は、配列番号9(マウスCRB1-Aタンパク質)を含むクラムス1-A(CRB1-A)アイソフォームをコードする。別の実施形態では、ポリヌクレオチド配列(配列番号10)は、配列番号11(マウスCRB1-Bタンパク質)を含むクラムス1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードする。さらに別の実施形態では、ポリヌクレオチド配列(配列番号12)は、配列番号13(マウスCRB1-Cタンパク質)を含むクラムス1-C(CRB1-C)アイソフォームをコードする。なおさらなる実施形態では、ポリヌクレオチド配列は、クラムス1-A2(CRB1-A2)タンパク質をコードする。
【0018】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。したがって、この用語には、一本鎖、二本鎖、または多本鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、あるいはプリンおよびピリミジン塩基を含むポリマー、あるいは他の天然の、化学的にもしくは生化学的に修飾された、非天然の、または誘導体化されたヌクレオチド塩基が含まれるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドの骨格は、糖およびリン酸基(典型的に、RNAもしくはDNAに見られることがある)、または修飾もしくは置換された糖またはリン酸基を含むことができる。あるいは、ポリヌクレオチドの骨格は、ホスホルアミデートなどの合成サブユニットのポリマーを含み得、したがって、オリゴデオキシヌクレオシドホスホルアミデート(P-NH2)または混合ホスホルアミデート-ホスホジエステルオリゴマーであり得る。加えて、二本鎖ポリヌクレオチドは、相補鎖を合成して適切な条件下で鎖をアニーリングすることによるか、または適切なプライマーを用いたDNAポリメラーゼを使用して相補鎖をデノボ合成することにより、化学合成の一本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。本明細書で提供されるポリヌクレオチド配列は、目的のCRB1アイソフォームをコードするcDNAとして提供される。
【0019】
本明細書で使用される場合、「治療」剤(例えば、治療用ポリペプチド、核酸、または導入遺伝子)は、上記の例示的な臨床結果などの有益なまたは所望の臨床結果を提供するものである。したがって、治療剤は、本明細書に記載の処置に使用することができる。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、Crb1アイソフォームを含む。好ましい実施形態では、Crb1アイソフォームはCrb1-Bである。別の実施形態では、アイソフォームは、Crb1-A、Crb1-A2、Crb1-B、Crb1-Cおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0020】
「異種」とは、それが比較される、またはそれが導入されるもしくは組み込まれる実体の残りのものとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学技術によって異なる細胞型に導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(そして、発現する場合、異種ポリペプチドをコードすることができる)。同様に、ウイルスベクターに組み込まれる細胞配列(例えば、遺伝子またはその一部)は、そのベクターに対する異種ヌクレオチド配列である。「導入遺伝子」という用語は、細胞に導入され、RNAに転写され、任意に、適切な条件下で翻訳されおよび/または発現することができるポリヌクレオチドを指す。態様では、導入遺伝子は、それが導入された細胞に所望の特性を付与するか、別様に、所望の治療的または診断的結果をもたらす。別の態様では、導入遺伝子は、miRNA、siRNA、またはshRNAなどの、RNA干渉を媒介する分子に転写され得る。本発明で使用するための導入遺伝子は、Crb1のアイソフォーム、好ましくはCrb1-Bである。
【0021】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、物質がその元の環境(例えば、それが天然に存在している場合は自然環境)から除去されることを意味する。例えば、生きている微生物に存在している天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されないが、天然系に共存する物質の一部またはすべてから分離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドが単離される。そのようなポリヌクレオチドは、ベクターの一部であり得、および/またはそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、組成物の一部であり得、そのようなベクターまたは組成物はその自然環境の一部ではないという点でさらに単離され得る。
したがって、本開示の別の態様において、Crb1アイソフォームを含み、CRB1-Bタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、それからなる、またはそれから本質的になる組換えベクターを提供する。
【0022】
「ベクター」または「組換えベクター」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、インビトロまたはインビボのいずれかで宿主細胞に送達されるべき核酸を含む組換えプラスミドまたはウイルスを指す。ベクターは、それが連結されている別の核酸を伝搬することができる核酸分子であり得、「発現ベクター」という用語を含む。ベクターはまた、その任意の医薬組成物(例えば、本明細書で提供される組換えベクターおよび薬学的に許容される担体/賦形剤)を含む。ベクターという用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、ならびにそれが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターを含む。発現ベクターを含むベクターは、本明細書に記載のCRB1-Bアイソフォームをコードするヌクレオチド配列と、ベクターの適切な伝搬およびコードされたポリペプチドの発現に必要な異種配列を含む。異種配列(すなわち、ポリペプチドとは異なる種からの配列)は、ポリペプチドの発現を可能にする異種プロモーターまたは異種転写調節領域を含むことができる。本明細書で使用される場合、「異種プロモーター」、「プロモーター」、「プロモーター領域」、または「プロモーター配列」という用語は、一般に、遺伝子の転写調節領域を指し、これは、本明細書に記載のポリヌクレオチドの5’または3’側、またはポリヌクレオチドのコード領域内、またはポリヌクレオチドのイントロン内に見出すことができる。典型的には、プロモーターは、細胞内のRNAポリメラーゼに結合し、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始できるDNA調節領域である。典型的な5’プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位によって境界が定められ、上流(5’方向)に伸びて、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するために必要な最小数の塩基または要素を含む。プロモーター配列内には、転写開始部位、およびRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(コンセンサス配列)がある。網膜細胞においてCRB1-Bを発現することができる任意のプロモーターは、本発明の実施において使用されることが企図されている。
【0023】
いくつかの実施形態では、組換えベクターは、クラムス1-B(CRB1-B)アイソフォームをコードするポリヌクレオチドを含み、CRB1-Bアイソフォームは、N末端からC末端に向けて、2つのEGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、EGFドメイン、lamGドメイン、および4つのEGFドメイン(これらのドメインに注釈が付けられたCRB1-Bタンパク質配列については図16を参照のこと)を含むか、またはそれからなる細胞外ポリペプチドに連結されたN末端シグナルペプチドを含み;細胞外ポリペプチドのC末端は、膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインを含むC末端ドメインに連結されている。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、網膜細胞においてアイソフォームを発現することができる異種プロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、細胞外ポリペプチドは、CRB1-Aアイソフォームの9番目のEGFドメインのN末端から、CRB1-Aアイソフォームの16番目のEGFドメインのC末端まで伸びている。いくつかの実施形態では、C末端ドメインは、VSSLSFYVSLLFWQNLFQLLSYLILRMNDEPVVEWGEQEDY(配列番号3)のアミノ酸配列を含む。
【0024】
本明細書で使用される場合、「EGFドメイン」(「EGF様ドメイン」とも呼ばれる)という用語は、進化的に保存されたタンパク質ドメインであり、その名称は、それが最初に記載された上皮成長因子に由来する。EGF様ドメインのほとんどの発生は、膜結合タンパク質の細胞外ドメインに、または分泌されることが知られているタンパク質に見出される。EGF様ドメインの主な構造は、二本鎖のβシートとそれに続く短いC末端の二本鎖のβシートへのループである。EGF様ドメインは、タンパク質内の多数のタンデムコピーで頻繁に生じ、典型的には一緒に折りたたまれて単一の線形ソレノイドドメインブロックを形成する。好適なEGFドメインには、これらに限定されないが、ヒトCRB1-Bアイソフォーム内に見出されるEGFドメインである配列番号14~20および配列番号52が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「ラミニン球状(G)ドメイン」および「lamGドメイン」という用語は、ラミニンタンパク質ファミリーの種々のメンバーならびに多数の他の細胞外タンパク質に見出されるドメインを指すために交換可能に使用される。好適なlamGドメインには、これらに限定されないが、ヒトCRB1-Bアイソフォーム内に見出されるlamGドメインである配列番号21~23が含まれる。
「N末端シグナルペプチド」(一般に「シグナルペプチド」、「シグナル配列」、または「リーダーペプチド」とも呼ばれる)という用語は、細胞の分泌経路内でタンパク質を標的とすることによりタンパク質の細胞局在化を導くタンパク質のN末端に存在する短いペプチドを指す。「細胞外ポリペプチド」という用語は、細胞外空間の細胞の外側(すなわち、原形質膜の外側)に局在するポリペプチドまたはその一部を指す。
【0026】
したがって、本開示の別の態様は、Crb1-A、Crb1-A2、Crb1-B、Crb1-Cおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるCrb1アイソフォームを含むポリヌクレオチドを含む、それからなる、またはそれから本質的になる組換えベクターを提供する。一実施形態では、Crb1アイソフォームは、Crb1-Aを含む。別の実施形態では、Crb1アイソフォームは、Crb1-A2を含む。別の実施形態では、Crb1アイソフォームは、Crb1-Bを含む。さらに別の実施形態では、Crb1アイソフォームは、Crb1-Cを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、ベクターはウイルスベクターを含む。本明細書で使用されるウイルスベクターという用語はまた、細胞(例えば、細胞株)内でのウイルスベクターの発現によって産生されるウイルスベクターを含有するウイルス粒子を含み、細胞は、ウイルス粒子(すなわち、ビリオン)を含有するウイルスベクターを産生する。ウイルス粒子は、それが導入される細胞において目的のアイソフォームをコードし、発現させることができるウイルスDNAまたはRNAを含む。したがって、「ウイルスベクター」という用語は、宿主細胞、好ましくは網膜細胞において目的のアイソフォームを発現することができるウイルスベクターを含有する成熟ウイルス粒子を含む。ウイルスベクターの宿主細胞、好ましくは網膜細胞への導入または形質導入によって、宿主細胞内のコードされたCRB1-Bアイソフォームの発現が可能になる。ウイルスベクターをビリオン(すなわち、粒子)にパッケージングする方法は、当技術分野において既知である。好ましい実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)である。レトロウイルス、レンチウイルス、HSVベクター、またはセムリキ-フォレスト-ウイルスベクターおよびアデノウイルスを含む他の遺伝子送達ベクターも使用することができ、本発明の一部であると考えられることが理解される。AAVベクターの利点は、それらが一般に1mlあたり約1014のウイルス粒子の力価に濃縮され得ることであり、これは、患者においてより多くの標的細胞、例えば網膜細胞を形質導入する可能性を有するベクターのレベルである。さらに、AAV系ベクターは良好に確立された安全性の記録を有し、標的細胞ゲノムに有意なレベルで統合されないため、有害な遺伝子の挿入活性化または必要な遺伝子の非活性化の可能性が回避される。したがって、ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、網膜において発現するプロモーター配列の制御下にある。他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、1種または複数の網膜細胞型におけるポリヌクレオチドの発現に好適なプロモーターに作動可能に連結されている。いくつかの実施形態では、網膜細胞は、光受容細胞、網膜色素上皮細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、ミュラー細胞、および/または神経節細胞からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、網膜細胞は、光受容細胞を含む。いくつかの実施形態では、プロモーターは、とりわけ、ロドプシンキナーゼ(RK)プロモーター、オプシンプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、およびニワトリβ-アクチン(CBAプロモーター)からなる群から選択される。
【0029】
例えば、一実施形態では、CRB1-Bをコードする単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクターの標的細胞は、網膜の光受容細胞である。別の例では、単離ポリヌクレオチドまたは組換えベクターは、CRB1-Aをコードし、標的細胞はミュラー細胞である。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のベクターを組み合わせて使用してもよく、あるベクターは、CRB1-Bアイソフォームをコードし、1つまたは複数のその他のベクターは、その他のCrbアイソフォームのうちの1つ、例えば、CRB1-A、CRB1-A2、またはCRB-Cをコードする。
「組換えウイルスベクター」は、1つまたは複数の異種配列(すなわち、ウイルス起源ではない核酸配列)を含む組換えポリヌクレオチドベクターを指す。組換えAAVベクターの場合、組換え核酸は少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)に隣接している。いくつかの実施形態では、組換え核酸は、2つのITRに隣接している。
【0030】
「組換えAAVベクター(rAAVベクター)」は、少なくとも1つのAAV逆方向末端反復配列(ITR)に隣接する1つまたは複数の異種配列(すなわち、AAV起源ではない核酸配列)を含むポリヌクレオチドベクターを指す。このようなrAAVベクターは、好適なヘルパーウイルスに感染した(または好適なヘルパー機能を発現している)宿主細胞中に存在し、AAV repおよびcap遺伝子産物(すなわちAAV RepおよびCapタンパク質)を発現している場合、このようなrAAVベクターを複製して感染性ウイルス粒子にパッケージングすることができる。rAAVベクターがより大きなポリヌクレオチドに(例えば、染色体に、またはクローニングもしくはトランスフェクションに使用されるプラスミドなどの別のベクターに)組み込まれる場合、rAAVベクターは「プロベクター」と呼ばれることがあり、これは、AAVパッケージング機能および好適なヘルパー機能の存在下での複製およびキャプシド形成によって「救援され」得る。rAAVベクターは、プラスミド、直鎖人工染色体、脂質と複合体化されたもの、リポソーム内にカプセル化されたもの、ウイルス粒子、例えば、AAV粒子にキャプシド化されたものを含むがこれらに限定されない、複数の形態のいずれかであり得る。rAAVベクターをAAVウイルスキャプシドにパッケージングして、「組換えアデノ随伴ウイルス粒子(rAAV粒子)」を生成することができる。AAVを作製するための方法およびキットが当技術分野において既知であり、例えば、限定されものではないが、AdEasyクローニングシステム(例えば、QBiogene GmbH、Heidelberg、Germanyから入手可能)がある。対応するベクターおよびヘルパーベクターは、当技術分野で広く知られている(Nicklin S A, Baker A H, Curr Gene Ther., 2002, 2: 273-93; Mah et al., Clin Pharmacokinet., 2002, 41: 901-11)。
【0031】
「rAAVウイルス」または「rAAVウイルス粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質およびキャプシド化されたrAAVベクターゲノムで構成されるウイルス粒子を指す。
いくつかの実施形態では、ベクターは、組換えAAV(rAAV)ベクターを含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、1つまたは2つのAAV逆方向末端反復(ITR)に隣接する導入遺伝子を含む。核酸は、AAV粒子内にキャプシド化されている。AAVベクターはまた、キャプシドタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、核酸は、転写の方向に作動可能に連結された目的の成分のコード配列(例えば、Crb1-A、Crb1-A2、Crb1-B、Crb1-C、好ましくはCrb1-B)、制御配列、例えば転写開始および終結配列を含み、それにより発現カセットを形成する。
【0032】
いくつかの実施形態では、発現カセットは、少なくとも1つの機能的AAV ITR配列によって5’および3’末端部に隣接している。「機能的AAV ITR配列」とは、ITR配列が、AAVビリオンの救援、複製、およびパッケージングを目的とするものとして機能することを意味する。Davidson et al., PNAS, 2000, 97(7)3428-32;Passini et al., J. Virol., 2003, 77(12):7034-40;およびPechan i., Gene Ther., 2009, 16:10-16を参照のこと、これらはすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本開示のいくつかの態様を実施するために、組換えベクターは、キャプシド形成に必須のAAVの配列の少なくともすべて、およびrAAVによる感染のための物理的構造を含む。本開示のベクターで使用するためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく(例えば、Kotin, Hum. Gene Ther., 1994, 5:793-801に記載されているように)、ヌクレオチドの挿入、欠失、または置換によって変更される場合があり、またはAAV ITRは、いくつかのAAV血清型のいずれかに由来する場合がある。40を超えるAAVの血清型が現在知られており、新しい血清型および既存の血清型のバリアントが引き続き同定されている。Gao et al., PNAS, 2002, 99(18): 11854-6;Gao et al., PNAS, 2003, 100(10):6081-6;およびBossis et al., J. Virol., 2003, 77(12):6799-810を参照のこと。
【0033】
任意のAAV血清型の使用は、本開示の範囲内であると考えられる。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、AAV血清型に由来するベクターであり、例えば、限定されないが、AAV ITRは、AAV1 ITR、AAV2 ITR、AAV3 ITR、AAV4 ITR、AAV5 ITR、AAV6 ITR、AAV7 ITR、AAV8 ITR、AAVrh8 ITR、AAVrh8R ITR、AAV9 ITR、AAV10 ITR、AAVrh10 ITR、AAV11 ITR、AAV12 ITR、AAV2R471A ITR、AAV DJ ITR、ヤギAAV ITR、ウシAAV ITR、またはマウスAAV ITR、などである。いくつかの実施形態では、AAV中の核酸には、AAV ITRのうちの1つのITRが含まれ、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh8、AAVrh8R、AAV9(Aschauer et al., 2013)、AAV10、AAVrh10、AAV11、AAV12、AAV2R471A、AAV DJ、ヤギAAV、ウシAAV、またはマウスAAVなどである。ある特定の実施形態では、AAV中の核酸には、AAV2 ITRが含まれる。いくつかの実施形態では、ベクターは、スタッファー核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、スタッファー核酸は、緑色蛍光タンパク質をコードし得る。いくつかの実施形態では、スタッファー核酸は、プロモーターと、CRB1-Bアイソフォームをコードする核酸との間に位置し得る。
【0034】
例えばトランスフェクション、安定な細胞株産生、および感染性ハイブリッドウイルス産生システムなどの、rAAVベクターを含むウイルスベクターの産生のための多くの方法が当技術分野において既知である。それらのシステムの一部には、例えば、アデノウイルス-AAVハイブリッド、ヘルペスウイルス-AAVハイブリッド(Conway, J E et al., (1997) J. Virology 71(11):8780-8789)、およびバキュロウイルス-AAVハイブリッドが含まれるが、これらに限定されない。rAAVウイルス粒子の産生のためのrAAV産生培養にはすべて;1)好適な宿主細胞であって、例えば、HeLa、A549、または293細胞などのヒト由来細胞株、またはバキュロウイルス産生システムの場合はSF-9などの昆虫由来細胞株を含む宿主細胞;2)好適なヘルパーウイルス機能であって、野生型または変異型アデノウイルス(温度感受性アデノウイルスなど)、ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、またはヘルパー機能を提供するプラスミド構築物によって提供されるヘルパーウイルス機能;3)AAV repおよびcap遺伝子および遺伝子産物;4)少なくとも1つのAAVITR配列に隣接する導入遺伝子(治療用導入遺伝子など);ならびに5)rAAV産生を支持するための好適な培地および培地成分が必要である。当技術分野において既知の好適な培地を、rAAVベクターの産生に使用することができる。これらの培地には、限定されるものではないが、Hyclone LaboratoriesおよびJRHによって製造された培地、例えば改良イーグル培地(MEM)、ダルベッコの改良イーグル培地(DMEM)など、特に組換えAAVベクターの産生に使用するためのカスタム培地配合物に関して、それぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,566,118号に記載されているようなカスタム配合物、および米国特許第6,723,551号に記載されているSf-900II SFM培地が含まれる。
【0035】
本開示によるベクターは、当技術分野で既知である方法を使用して産生することができる。例えば、米国特許第6,566,118号;同第6,989,264号;および同第6,995,006号を参照のこと。本発明を実施するに際して、rAAV粒子を産生するための宿主細胞には、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、微生物および酵母が含まれる。宿主細胞はまた、AAVベクターゲノムが安定して維持されている宿主細胞または産生細胞において、AAVrepおよびcap遺伝子が安定して維持されているパッケージング細胞であり得る。例示的なパッケージングおよび産生細胞は、293、A549またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当技術分野で既知である標準的な技術を使用して精製および配合される。
【0036】
いくつかの実施形態では、本開示によるベクターは、以下に提供される例示的なトリプルトランスフェクション(triple transfection)法などのトリプルトランスフェクション法によって産生され得る。要約すると、ヘルパーアデノウイルスプラスミドとともに、rep遺伝子およびキャプシド遺伝子を含有するプラスミドを(例えば、リン酸カルシウム法を使用して)細胞株(例えば、HEK-293細胞)にトランスフェクトすることができ、ウイルスを収集することができ、精製してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、ベクターは、以下に提供される例示的な産生細胞株法などの産生細胞株法によって産生され得る((Martin et al., (2013)に参照されている)Human Gene Therapy Methods 24:253-26もまた参照のこと)。要約すると、細胞株(例えば、HeLa細胞株)を、rep遺伝子、キャプシド遺伝子、およびプロモーター-導入遺伝子配列を含むプラスミドで安定にトランスフェクトすることができる。細胞株をスクリーニングして、ベクター産生のためのリードクローンを選択し、次にこれを産生バイオリアクターに拡大し、ベクター産生を開始するためのヘルパーとしてアデノウイルス(例えば、野生型アデノウイルス)に感染させることができる。続いて、ウイルスを採取することができ、アデノウイルスを不活化(例えば、熱によって)および/または除去することができ、ベクターを精製することができる。
ウイルス力価に関して使用される「ゲノム粒子(gp)」、「ゲノム等価物」、または「ゲノムコピー」という用語は、感染性または機能性に関係なく、組換えAAV DNAゲノムを含むビリオンの数を指す。特定のベクター調製物中のゲノム粒子の数は、例えば、Clark et al. (1999) Hum. Gene Ther., 10:1031-1039;Veldwijk et al. (2002) Mol. Ther., 6:272-278に記載されるような手順により測定され得る。
【0038】
本明細書で使用される「ベクターゲノム(vg)」という用語は、ベクター、例えばウイルスベクターのポリヌクレオチド配列のセットを含む1つまたは複数のポリヌクレオチドを指し得る。ベクターゲノムは、ウイルス粒子にキャプシド化されていてもよい。特定のウイルスベクターに応じて、ベクターゲノムは、一本鎖DNA、二本鎖DNA、または一本鎖RNA、もしくは二本鎖RNAを含み得る。ベクターゲノムは、特定のウイルスベクターに関連する内因性配列および/または組換え技術を介して特定のウイルスベクターに挿入された任意の異種配列を含み得る。例えば、組換えAAVベクターゲノムは、プロモーター、スタッファー、目的の配列(例えば、RNAi)、およびポリアデニル化配列に隣接する少なくとも1つのITR配列を含み得る。完全なベクターゲノムは、ベクターのポリヌクレオチド配列の完全なセットを含み得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターの核酸力価は、vg/mLに関して測定され得る。別の実施形態では、例えば、AAVベクターの使用において、ウイルス力価は、成熟したエンベロープAAV粒子が完全に形成されていないAAV粒子から計数されるので、DNase耐性粒子(DRP)に関して測定され得る。この力価を測定するのに好適な方法は、当技術分野において既知である(例えば、定量的PCR)。
【0039】
プロモーター
いくつかの実施形態では、本開示の核酸(ポリヌクレオチド)(例えば、Crb1アイソフォームB、および他の実施形態において、Crb1アイソフォームA、A2および/またはC)は、プロモーターに作動可能に連結されている。プロモーターは、構成的、誘導的、または抑制可能なプロモーターであり得る。好ましくは、プロモーターは、標的細胞内のポリヌクレオチドにコードされているアイソフォームを発現することができる。例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、ホスホグリセリン酸キナーゼ-1(PGK)プロモーター、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターおよびCK6プロモーター、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、TKプロモーター、テトラサイクリン応答性プロモーター(TRE)、HBVプロモーター、hAATプロモーター、LSPプロモーター、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、E2Fプロモーター、テロメラーゼ(hTERT)プロモーター;サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ-アクチン/ウサギβ-グロビンプロモーター(CAGプロモーター;Niwa et al., Gene, 1991, 108(2):193-9)および伸長因子1-αプロモーター(EF1-α)プロモーター(Kim et al., Gene, 1990, 91(2):217-23 and Guo et al., Gene Ther., 1996, 3(9):802-10)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
本明細書で使用される場合、プロモーターは、第2のポリヌクレオチド配列と機能的関係に置かれる場合、「作動可能に接続される」か、または「作動可能に連結される」。例えば、プロモーターがポリヌクレオチドに接続されている場合、プロモーターは、ポリヌクレオチドコード配列の転写に影響を及ぼし得るように、ポリヌクレオチドに作動可能に接続されている。種々の実施形態では、ポリヌクレオチドは、少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、または少なくとも10のプロモーターに作動可能に連結され得る。
【0041】
有利には、プロモーターは、網膜細胞における遺伝子発現を駆動する組織特異的プロモーターである。多数の網膜特異的プロモーターが、当技術分野において既知である。例えば、ヒトロドプシンキナーゼ遺伝子(GenBank Entrez Gene ID6011)に由来するロドプシンキナーゼ(RK)プロモーター(配列番号24)は、桿体および錐体光受容細胞、ならびにWERI Rb-1などの網膜細胞株で特異的に発現を駆動することが示されている(Khani, S. C., et al. (2007) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48(9):3954-61)。本明細書で使用される場合、「ロドプシンキナーゼプロモーター」は、Khani, S. C., et al. (2007) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 48(9):3954-61およびYoung, J. E., et al. (2003) Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 44(9):4076-85、に記載されている配列などの、光受容体特異的発現を駆動するのに十分なプロモーター配列全体またはプロモーター配列の断片を指すことがある。いくつかの実施形態では、RKプロモーターは、転写開始部位に対して-112~+180の範囲にわたる。
【0042】
オプシンプロモーターおよびその誘導体もまた、網膜特異的遺伝子発現を駆動するために一般的に使用されている。例えば、最小プロモーターはマウスオプシン遺伝子(配列番号25)に由来し、光受容体における強力な発現を駆動することが示されている(Pawlyk, B. S., et al. (2005) Invest Ophthalmol Vis Sci, 46 (9), 3039-45)。したがって、いくつかの実施形態では、プロモーターは、ロドプシンキナーゼ(RK)プロモーターまたはオプシンプロモーターである。
【0043】
あるいは、プロモーターは、組織特異的ではない構成的プロモーターであり得る。高レベルの遺伝子発現が望ましい場合、そのようなプロモーターの使用は有利であり得る。例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号26)は、強力な構成的プロモーターとして十分に特徴付けられているため、哺乳動物細胞を遺伝子操作するために使用されるベクターに一般的に含まれている(Boshart et al., Cell, 41:521-530 (1985))。一般的に使用される構成的プロモーターの別の例は、「CAGプロモーター」としても知られているニワトリβ-アクチンプロモーター(配列番号27)である(定義を参照のこと;Miyazaki, J., et al. (1989) Gene 79(2):269-77))。CAGプロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメント、プロモーター、ニワトリベータアクチン遺伝子の第1のエクソンと第1のイントロン、およびウサギベータグロビン遺伝子のスプライスアクセプターを組み合わせて形成された強力な合成プロモーターである。したがって、いくつかの実施形態では、プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターまたはニワトリβ-アクチン(CAGプロモーター)である。69502412本明細書で使用されるように、「CAGプロモーター」という用語は、「CBAプロモーター」と交換可能に使用され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーターに連結されたヒトβ-グルクロニダーゼプロモーターまたはサイトメガロウイルスエンハンサーを含む。いくつかの実施形態では、本発明は、CBAプロモーターに作動可能に連結された本開示の異種導入遺伝子をコードする核酸を含む組換えベクターを提供する。例示的なプロモーターおよび説明は、例えば、U.S. PG Pub. 20140335054に見出すことができる。
【0045】
構成的プロモーターの例としては、限定されないが、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(任意にRSVエンハンサーとともに)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(任意にCMVエンハンサーとともに)[例えば、Boshart et al., Cell, 41:521-530 (1985)を参照のこと]、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、およびEF1αプロモーター[Invitrogen]が挙げられる。
【0046】
誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因的に供給される化合物、温度などの環境因子もしくは特定の生理学的状態の存在、例えば急性期、細胞の特定の分化状態によって、または複製細胞のみにおいて調節され得る。誘導性プロモーターおよび誘導系には、Invitrogen、ClontechおよびAriadを含むがこれらに限定されない、さまざまな商業的供給源から入手可能である。他の多くの系が記載されており、当業者によって容易に選択され得る。外因的に供給されるプロモーター(promoters)によって調節される誘導性プロモーターの例としては、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオニン(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO98/10088);エクジソン昆虫プロモーター(No et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制系(Gossen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導系(Gossen et al., Science, 268:1766-1769 (1995)、Harvey et al., Curr. Opin. Chem. Biol., 2:512-518 (1998)もまた参照のこと)、RU486誘導系(Wang et al., Nat. Biotech., 15:239-243 (1997)およびWang et al., Gene Ther., 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導系(Magari et al., J. Clin. Invest., 100:2865-2872 (1997))が挙げられる。さらにこれに関連して有用であり得る他の種類の誘導性プロモーターは、特定の生理学的状態、例えば温度、急性期、細胞の特定の分化状態によって、または複製細胞のみにおいて調節されるものである。
【0047】
網膜細胞で発現することができるAAVベクターで使用するのに好適なプロモーターは、例えば、「Targeting neuronal and glial cell types with synthetic promoter AAVs in mice, non-human primates, and humans」、Juttner et. al, bioRxiv 434720;doi: doi.org/10.1101/434720 (Oct. 2018)におけるTable S1を参照のこと、現在Nature Neuroscience doi: 10.1038/s41593-019-0431-2にて公開されており、参照により全体が組み込まれている、に見られるように、当技術分野において既知である。
【0048】
別の実施形態では、導入遺伝子のためのネイティブプロモーターまたはその断片を使用する。導入遺伝子の発現がネイティブ発現を模倣することが望まれる場合、ネイティブプロモーターを使用することができる。導入遺伝子の発現を、時間的または発生的に、または組織特異的に、または特定の転写刺激に応答して調節しなければならない場合、ネイティブプロモーターを使用することができる。さらなる実施形態では、エンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位またはコザックコンセンサス配列などの他のネイティブ発現制御エレメントもまた、ネイティブ発現を模倣するために使用され得る。
【0049】
いくつかの態様では、本開示は、CRB1-Bアイソフォーム(例えば、配列番号1)を含むか、またはそれからなる単離ポリペプチドを提供する。好適には、単離ポリペプチドは、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたはベクターから発現することがある。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーを指すために交換可能に使用され、最小長に限定されない。アミノ酸残基のそのようなポリマーは、天然または非天然のアミノ酸残基を含有することができ、これらに限定されないが、アミノ酸残基のペプチド、オリゴペプチド、二量体、三量体、および多量体を含む。完全長タンパク質およびその断片の両方が定義に包含される。これらの用語はまた、ポリペプチドの発現後修飾、例えば、グリコシル化、シアリル化、アセチル化、リン酸化なども含む。さらに、本発明の目的のために、「ポリペプチド」は、そのタンパク質が所望の活性を維持する限り、ネイティブ配列に対する欠失、付加、および置換(一般に本質的に保存的)などの改変を含むタンパク質を指す。これらの改変は、部位特異的変異誘発によるように意図的であっても、タンパク質を産生する宿主の変異またはPCR増幅に起因する誤差によるように偶発的なものであってもよい。
【0050】
ポリヌクレオチド配列の「実質的な同一性」という用語は、ポリヌクレオチドが、本明細書に記載の目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。あるいは、パーセント同一性は、95%から100%までの任意の整数であり得る。一実施形態では、配列同一性は、少なくとも95%、あるいは少なくとも99%である。より好ましい実施形態には、本明細書に記載のプログラム;好ましくは、記載のように標準パラメータを使用するBLASTを使用する参照配列と比較して、少なくとも:96%、97%、98%、99%または100%が含まれる。これらの値を適切に調整して、コドン縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレーム位置決めなどを考慮に入れることにより、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の対応する同一性を決定することができる。
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の目的のためのアミノ酸配列の「実質的な同一性」という用語は、少なくとも95%、好ましくは98%、最も好ましくは99%または100%のポリペプチド配列同一性を意味する。ポリペプチドの好ましいパーセント同一性は、95%から100%までの任意の整数であり得る。より好ましい実施形態には、少なくとも96%、97%、98%、99%、または100%が含まれる。
【0051】
iii.医薬組成物
本開示は医薬組成物をさらに提供する。医薬組成物は、CRB1アイソフォームをコードする単離ポリヌクレオチド、CRB1アイソフォーム、好ましくは本明細書に記載のCRB1-Bアイソフォームをコードする組換えベクター、および薬学的に許容される担体を含むか、またはそれらからなり得る。一例では、医薬組成物は、CRB1-Bアイソフォームをコードするウイルスベクターを含み得る。医薬組成物は、約1×106 DNase耐性粒子(DRP)/ml~約1×1014 DRP/mlの濃度で、ウイルスベクター、例えば、rAAVウイルスベクターを含むことができる。CRB1-A、CRB1-A2、CRB1-C、またはそれらの組み合わせをコードする第2のベクターをさらに含む、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【0052】
本開示によるベクターはさらに、医薬組成物の形態であってもよい。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるベクターは、緩衝液および/または薬学的に許容される賦形剤および/または薬学的に許容される担体をさらに含み得る。当技術分野で周知であるように、薬学的に許容される賦形剤および/または担体は、薬理学的に有効な物質の投与を容易にする比較的不活性な物質であり、液体溶液もしくは懸濁液として、エマルジョンとして、または使用前に液体に溶解または懸濁するのに好適な固体形態として供給することができる。薬学的に許容される担体は、所望の投与経路に基づいて選択することができる。例えば、賦形剤は、形態または稠度を与えるか、または希釈剤として作用することができる。好適な賦形剤としては、安定剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を変化させるための塩、封入剤、pH緩衝物質、および緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。そのような賦形剤には、過度の毒性なしに投与することができる、眼への直接送達に好適な任意の医薬品が含まれる。好適には、薬学的に許容される担体は、投与前にウイルスベクターのウイルス粒子の完全性を維持するのを助け、例えば、好適なpH平衡溶液を提供する。薬学的に許容される賦形剤には、ソルビトール、種々のTWEEN化合物のいずれか、および水、生理食塩水、グリセロール、およびエタノールなどの液体が含まれるが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩としては、例えば、鉱酸塩、例として塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;有機酸の塩、例として酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩など、挙げることができる。薬学的に許容される賦形剤の詳細な考察は、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co., N.J. 1991)において入手可能である。組成物は、投与前に従来の周知の滅菌技術(例えば、濾過、滅菌剤の添加など)によって滅菌することができる。組成物は、生理学的条件に近似させるのに必要とされる薬学的に許容される追加の物質、例としてpH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含有してもよい。
【0053】
眼への送達に関連するいくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体としては、例えば減菌液体、例えば、水、および石油、動物、植物または合成由来のものを含む油、例として、ピーナッツ油、大豆油、鉱油などが挙げられる。生理食塩水ならびにデキストロース水溶液、ポリエチレングリコール(PEG)およびグリセロール溶液も、特に注射用溶液のために、液体担体として用いることができる。追加の成分、例えば、防腐剤、緩衝液、等張剤、抗酸化剤および安定剤、非イオン性湿潤または清澄剤、増粘剤なども使用することができる。
いくつかの実施形態では、本開示の医薬組成物は、網膜下注射による投与のために製剤化される。したがって、これらの組成物は、生理食塩水、リンゲルの平衡塩類溶液(pH7.4)などの薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせることができる。必須ではないが、組成物を、正確な量の投与に好適な単位剤形で任意に供給してもよい。
【0054】
他の実施形態では、本開示の医薬組成物は、眼への局所投与のために製剤化される。そのような実施形態では、従来の眼内送達試薬を使用することができる。例えば、局所眼内送達のための本開示の医薬組成物は、上記のような生理食塩水、角膜浸透促進剤、不溶性粒子、ワセリンまたは他のゲルベースの軟膏、眼への滴下注入時に粘度が増加するポリマー、または粘膜付着性ポリマーを含み得る。好ましくは、眼内送達試薬は、粘度効果を通じて、または角膜上皮を覆うムチン層との物理化学的相互作用を確立することによって、角膜浸透を増加させるか、またはsiRNAの前眼部保持を延長する。
【0055】
処置方法
本開示はさらに、本開示によるポリヌクレオチド、ベクター、および医薬組成物を使用して、対象における眼障害を処置および/または予防する方法を提供する。いくつかの実施形態では、処置の方法は、そのような眼障害のための遺伝子治療プロトコルであり、網膜の細胞への本開示によるポリヌクレオチドまたはベクターの局所的送達を必要とする。そのような実施形態において処置標的となる細胞は、網膜の光受容細胞または神経感覚網膜の下にあるRPE細胞のいずれかである。したがって、一実施形態では、本開示によるポリヌクレオチドおよびベクターの送達は、網膜とRPEとの間の網膜下腔への注射によって達成される。したがって、本開示の一態様は、対象における眼障害を処置および/または予防する方法であって、本開示による治療有効量のポリヌクレオチド、組換えベクター、または医薬組成物を対象に投与することを含むか、それからなるか、またはそれから本質的になり、それにより眼障害が対象において処置される、方法を提供する。好ましくは、ポリヌクレオチドまたは組換えベクターまたはそれを含む医薬組成物は、本明細書に記載のCRB1-Bアイソフォームをコードする。
【0056】
本開示は、それを必要とする対象において視力喪失の進行を低減するか、または視力機能を維持する方法を提供する。この方法は、本明細書に記載の治療有効量の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に投与することを含み、それにより視力喪失の進行が低減される。いくつかの実施形態では、視力喪失は、処置が開始されたときの視力レベルと同様のレベルに維持され、例えば、視力は、処置の開始時の視力の約10%以内に維持される。いかなる理論に拘束されるものではないが、処置を必要とする対象の網膜内の光受容細胞におけるCRB1-Bのトランス発現のレベルの維持によって、光受容細胞の死を減少させ、かつ光受容体-グリア接合部を維持することが可能になり、対象の視力が維持される場合がある。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、組換えベクターまたは医薬組成物は、硝子体内、網膜下、または局所的に投与される。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法は、対象の視覚機能をモニタリングすることをさらに含むことができ、対象の視覚機能は、投与後に維持され、低下しない。視覚機能をモニタリングする方法は、当技術分野において既知であり(以下でさらに説明する)、例えば、対象の視力をモニタリングすることが含まれる。
【0057】
いくつかの例では、光受容体-グリア接合部でのこのアイソフォームの機能は、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物による処置後に維持される。「投与する」という用語は、単離ポリペプチド、ベクター、または医薬組成物を、対象の網膜内の1つまたは複数の細胞に送達する方法を包含する。好ましい実施形態では、アイソフォームはCRB1-Bであり、1つまたは複数の細胞は網膜内の光受容細胞である。本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を対象に送達するための好適な技術は、遺伝子銃、エレクトロポレーション、ナノ粒子、ウイルス粒子による形質導入、マイクロカプセル化、遺伝子編集などによるもの、または非経口および経腸投与経路によるものなどの当技術分野において既知の多数の方法を含み得る。好適な非経口投与経路としては、例えば、組織周囲および組織内投与(例えば、網膜内注射もしくは網膜下注射);新生血管形成部位もしくはその近接した領域への直接(例えば、局所)適用、例えば、カテーテルまたは他の留置デバイス(例えば、角膜ペレットもしくは座薬、点眼器、または多孔性、非多孔性、もしくはゼラチン状の材料を含むインプラント)によるものが挙げられる。好適な留置デバイスには、米国特許第5,902,598号および同第6,375,972号に記載の眼用インプラント、ならびに米国特許第6,331,313号に記載の生分解性眼用インプラントが含まれ、それらの全開示は参照により本明細書に組み込まれる。このような眼用インプラントは、Control Delivery Systems, Inc. (Watertown、Mass.)およびOculex Pharmaceuticals, Inc. (Sunnyvale、Calif.)から入手可能である。ある特定の実施形態では、非経口投与経路は、眼内投与を含む。本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび医薬組成物の眼内投与は、投与経路により、単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物が眼に入ることが可能になる限り、眼への注射または直接(例えば、局所)投与によって達成され得ることが理解される。上記の眼への局所投与経路に加えて、好適な眼内投与経路には、硝子体内、網膜内、網膜下、テノン嚢下、眼窩周囲および眼窩後、角膜横断および強膜横断投与が含まれる。そのような眼内投与経路は当業者の範囲内である;例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、Acheampong A A et al, 2002, supra;およびBennett et al. (1996), Hum. Gene Ther. 7: 1763-1769 およびAmbati J et al., 2002, Progress in Retinal and Eye Res. 21: 145-151を参照のこと。
【0058】
本明細書で使用される場合、「局所的に」という用語は、眼の表面への適用を意味する。
いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、網膜下送達を介して対象に投与する。網膜下送達の方法は、当技術分野において既知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるWO2009/105690を参照のこと。要約すると、本開示によるベクターを黄斑および中心窩の網膜下に送達するための一般的な方法は、以下の簡単な概要によって説明することができる。この例は、単に本方法のある特定の機能を説明することを意味するものであり、限定することを意味するものではない。
【0059】
一般に、それらは、手術顕微鏡を使用した直接観察下で眼内(網膜下)に注射された組成物の形態で送達することができる。この手順は、硝子体切除に続いて、細いカニューレを使用して、1つまたは複数の小さな網膜切開を介して網膜下腔にベクター懸濁液を注射することを含み得る。
【0060】
要約すると、注入カニューレを所定位置に縫合して、手術全体にわたって(例えば、生理食塩水の)注入によって正常な球体容積を維持することができる。硝子体切除は、適切な孔径(例えば、20~27ゲージ)のカニューレを使用して実行され、除去される硝子体ゲルの量は、注入カニューレからの生理食塩水または他の等張液の注入によって置き換えられる。硝子体切除が有利に実行されるのは、(1)その皮質(後部硝子体膜)の除去によりカニューレによる網膜の貫通が容易になり;(2)除去および流体(生理食塩水など)との置換により、ベクターの眼内注射に対応する空隙が生じ、(3)制御された除去により、網膜裂孔および予想外の網膜剥離の可能性が低下する、ためである。
【0061】
いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物は、適切な孔径(例えば、27~45ゲージ)のカニューレを利用することによって、中心網膜の外側の網膜下腔に直接注射され、したがって、網膜下腔にブレブが生じる。他の実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物の網膜下注射の前に、中心網膜の外側の網膜下腔に少量(例えば、約0.1~約0.5ml)の適切な流体(生理食塩水またはリンゲル液など)の網膜下注射を行う。網膜下腔へのこの最初の注射は、網膜下腔内に最初の流体ブレブを確立し、最初のブレブの位置で局所的な網膜剥離を引き起こす。この最初の流体ブレブにより(ベクターおよび/または医薬組成物送達の前に注射面を画定することによって)、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物の網膜下腔への標的化送達が容易になる可能性があり、脈絡膜への単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物の投与の可能性、ならびに硝子体腔への単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物の注射または逆流の可能性を最小限に抑えることができる。いくつかの実施形態では、この最初の流体ブレブには、1つまたは複数の単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物および/または1つまたは複数の追加の治療剤を含む流体を、同じかまたは追加の細径カニューレを使用して、これらの流体を最初の流体ブレブに直接投与することによって、さらに注射することができる。
【0062】
本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物、および/または最初の少量の流体の眼内投与を、シリンジに取り付けられた細径カニューレ(例えば、27~45ゲージ)を使用して実行することができる。いくつかの実施形態では、このシリンジのプランジャーは、機械化されたデバイスによって、例としてフットペダルの踏み込みなどによって、駆動され得る。細径カニューレは、強膜切開を通って、硝子体腔を横断して、網膜で、標的とされる網膜の領域(ただし、中心網膜の外側)に従って各対象において事前に決定された部位に進められる。直接視覚化の下、単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物懸濁液を、神経感覚網膜下に機械的に注射し、自己密封式非拡張網膜切開による局所的網膜剥離を引き起こす。上記のように、単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、網膜下腔に直接注射して中心網膜の外側にブレブを作出するか、または単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を中心網膜の外側の最初のブレブに注射して、それを拡大する(そして網膜剥離の領域を拡大する)。いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物の注射の後、ブレブに別の流体を注射する。
【0063】
理論に拘束されることを望むものではないが、網膜下注射の速度および位置は、黄斑、中心窩および/または下にあるRPE細胞に損傷を与え得る局所的剪断力をもたらす可能性がある。網膜下注射は、剪断力を最小化または回避する速度で実行することができる。いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、約15~17分にわたって注射する。いくつかの実施形態では、ベクターを、約17~20分にわたって注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約20~22分にわたって注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約35~約65μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約35μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約40μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約45μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約500分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約55μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約60μl/分の速度で注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物を、約65μl/分の速度で注射する。当業者は、ブレブの注射の速度および時間は、例えば、ベクターおよび/または医薬組成物の体積、または中心網膜の細胞にアクセスするのに十分な網膜剥離が生じるのに必要なブレブのサイズ、単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物を送達するために使用されるカニューレのサイズ、および本発明のカニューレの位置を安全に維持する能力によって導かれることを認識するであろう。
【0064】
本開示のいくつかの実施形態では、網膜の網膜下腔に注射される(溶液中または本明細書で提供される医薬組成物中の)単離ポリヌクレオチドまたはベクターの体積は、約1μl、2μl、3μl、4μl、5μl、6μl、7μl、8μl、9μl、10μl、15μl、20μl、25μl、50μl、75μl、100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、900μl、もしくは1mLのいずれか1つより大きいか、またはそれらの間の任意の量である。
【0065】
いくつかの実施形態では、方法は、本開示による有効量の単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物の眼への投与(例えば、網膜下および/または硝子体内投与による)を含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが医薬組成物に使用され、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1012、6×1012、7×1012、8×1012、9×1012、10×1012、11×1012、15×1012、20×1012、25×1012、30×1012、または50×1012ゲノムコピー/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×1012~6×1012、6×1012~7×1012、7×1012~8×1012、8×1012~9×1012、9×1012~10×1012、10×1012~11×1012、11×1012~15×1012、15×1012~20×1012、20×1012~25×1012、25×1012~30×1012、30×1012~50×1012、または50×1012~100×1012ゲノムコピー/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×1012~10×1012、10×1012~25×1012、または25×1012~50×1012ゲノムコピー/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×109、6×109、7×109、8×109、9×109、10×109、11×109、15×109、20×109、25×109、30×109、または50×109形質導入単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×109~6×109、6×109~7×109、7×109~8×109、8×109~9×109、9×109~10×109、10×109~11×109、11×109~15×109、15×109~20×109、20×109~25×109、25×109~30×109、30×109~50×109または50×109~100×109形質導入単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×109~10×109、10×109~15×109、15×109~25×109、または25×109~50×109形質導入単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、9×1010、10×1010、11×1010、15×1010、20×1010、25×1010、30×1010、40×1010、または50×1010感染単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1010~6×1010、6×1010~7×1010、7×1010~8×1010、8×1010~9×1010、9×1010~10×1010、10×1010~11×1010、11×1010~15×1010、15×1010~20×1010、20×1010~25×1010、25×1010~30×1010、30×1010~40×1010、40×1010~50×1010、または50×1010~100×1010感染単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1010~10×1010、10×1010~15×1010、15×1010~25×1010、または25×1010~50×1010感染単位/mLのいずれかである。
【0066】
1つまたは複数(例えば、2、3、またはそれ以上)のブレブを形成することができる。一般に、本発明の方法およびシステムによって形成された1つまたは複数のブレブの総量は、典型的なヒト対象における眼の流体量、例えば、約4mlを超えることはできない。個々のブレブの総量は、中心網膜の細胞型を露出させ、最適な操作に対する十分な依存性のブレブを形成するのに十分なサイズの網膜剥離を促進するために、少なくとも約0.3mlまたは少なくとも約0.5mlであり得る。当業者は、本発明の方法およびシステムに従ってブレブを形成する際に、眼構造に対する損傷を回避するために適切な眼圧を維持しなければならないことを理解するであろう。個々のブレブのサイズは、例えば、約0.5~約1.2ml、約0.8~約1.2ml、約0.9~約1.2ml、約0.9~約1.0ml、約1.0~約2.0ml、約1.0~約3.0mlであり得る。したがって、一例では、合計3mlの単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物懸濁液を注射するために、それぞれ約1mlの3つのブレブを確立することができる。組み合わせたすべてのブレブの総量は、例えば、約0.5~約3.0ml、約0.8~約3.0ml、約0.9~約3.0ml、約1.0~約3.0ml、約0.5~約1.5ml、約0.5~約1.2ml、約0.9~約3.0ml、約0.9~約2.0ml、約0.9~約1.0mlであり得る。
【0067】
ブレブの元の位置の縁の外側の標的網膜の領域(例えば、中心網膜)に安全かつ効率的に形質導入するために、ブレブを操作して、形質導入のためにブレブを標的領域に再配置することができる。ブレブの操作は、ブレブの体積によって生じるブレブの依存性、ブレブを含有する眼の再配置、1つまたは複数のブレブを含有する1つまたは2つの眼を有するヒトの頭の再配置によって、および/または流体-空気交換によって生じる可能性がある。この領域は典型的には網膜下注射による剥離に抵抗するため、これは中心網膜に特に関係がある。いくつかの実施形態では、流体-空気交換を利用してブレブを再配置する;注入カニューレからの流体を、例えば網膜の表面に空気を吹き付けることによって、空気により一時的に置き換える。空気の体積が網膜の表面から硝子体腔液を押しのけると、硝子体腔内の流体がカニューレから流出する場合がある。硝子体腔液からの圧力が一時的に不足すると、ブレブが移動し、眼の依存部分に引き寄せられる。眼球を適切に配置することにより、網膜下ベクターのブレブおよび/または医薬組成物の位置が操作されて、隣接する領域(例えば、黄斑および/または中心窩)に関与する。場合によっては、流体と空気の交換を使用しなくても、ブレブの質量は、ブレブを引き寄せるのに十分である。対象の頭の位置を変更することによって、所望の位置へのブレブの移動をさらに容易にして、ブレブを眼の所望の位置に引き寄せることができる。ブレブの所望の構成が達成されると、流体を硝子体腔に戻す。流体は、適切な流体、例えば、未処理生理食塩水である。一般に、網膜下ベクターおよび/または医薬組成物を、網膜切開術に対する網膜復位術なしでおよび眼内タンポナーデなしでインサイチュで放置してもよく、網膜は、約48時間以内に自発的に再付着する。
【0068】
本明細書で使用される「ブレブ」という用語は、眼の網膜下腔内の流体空隙を指す。本発明のブレブは、単一の空隙への流体の単一の注射、同じ空隙への1または複数の流体の複数回の注射、または複数の空隙への複数回の注射によって作出することができ、これは、再配置されると、網膜下腔の所望の部分にわたって治療効果を達成するのに有用な総流体空隙を作出する。
【0069】
治療用ポリペプチド(例えば、CRB1-B)を含むベクターにより眼細胞(例えば、RPEおよび/または例えば黄斑および/または中心窩の光受容細胞)を安全かつ効果的に形質導入することによって、形質導入された細胞が、眼障害を処置するのに十分な量の治療用ポリペプチドCRB1-BまたはRNA配列を産生する、本発明の方法を使用して、眼障害を有する個体;例えばヒトを処置することができる。
処置の目的に応じて、本開示による有効量の単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物を投与する。例えば、低いパーセンテージの形質導入により所望の治療効果を達成することができるウイルスベクターの使用において、処置の目的は、したがって一般に、このレベルの形質導入を満たすか、または超えることである。場合によっては、このレベルの形質導入は、標的細胞の約1~5%のみの形質導入によって、いくつかの実施形態では、所望の組織型の細胞の少なくとも約20%、いくつかの実施形態では、少なくとも約50%、いくつかの実施形態では、少なくとも約80%、いくつかの実施形態では、少なくとも約95%、いくつかの実施形態では、所望の組織型の細胞の少なくとも約99%の形質導入によって達成することができる。単離ポリヌクレオチド、ベクターおよび/または医薬組成物を、同じ手順の間、または数日、数週間、数か月、もしくは数年間隔のいずれかで、1回または複数の網膜下注射によって投与することができる。いくつかの実施形態では、複数のベクターを使用してヒトを処置することができる。例えば、一実施形態では、それぞれが異なるCRB1アイソフォームまたは他の網膜治療剤をコードする複数のベクターを使用することができる。例えば、CRB1-Bをコードするベクターを使用して、単独で、または網膜内のミュラー細胞を標的にすることができるCRB1-AおよびCRB1-A2から選択されるCRB1アイソフォームをコードする第2のベクターと組み合わせて、網膜内の光受容細胞を標的にすることができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、本開示による有効量の単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物の網膜への投与によって、投与部位にまたはそれに近接して光受容細胞を形質導入する。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが使用される場合、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または100%のいずれかより多い光受容細胞に単離ポリヌクレオチドまたはベクターを組み込み、CRB1アイソフォームを発現させる。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが使用される場合、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、または100%のいずれかより多い光受容細胞に単離ポリヌクレオチドまたはベクターを組み込み、CRB1アイソフォームを発現させ、形質導入する。いくつかの実施形態では、約5%~約100%、約10%~約50%、約10%~約30%、約25%~約75%、約25%~約50%、または約30%~約50%の光受容細胞が標的とされる(例えば、ウイルスベクターにより形質導入される)。ベクターを含むAAVウイルス粒子によって形質導入された、または医薬組成物で標的化された光受容細胞を同定する方法は、当技術分野において既知であり、例えば、免疫組織化学またはポリヌクレオチドもしくはベクター内のマーカーの使用を含み、例として、増強された緑色蛍光タンパク質を使用して、ベクターまたは医薬組成物の組み込みまたは形質導入を検出することができる。
【0071】
本開示のいくつかの実施形態では、方法は、眼障害を有する個体;例えば眼障害を有するヒトを処置するための本開示による有効量の単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、哺乳動物の網膜下(例えば、網膜下腔)に投与することを含む。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、光受容細胞におけるポリヌクレオチドの発現が可能になるように、網膜下の1つまたは複数の位置に注射する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、網膜下の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の位置または10を超える位置のいずれかに注射する。
【0072】
いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、同時にまたは連続して2つ以上の位置に投与する。いくつかの実施形態では、単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物の複数回注射は、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、9時間、12時間、または24時間以下の間隔である。
【0073】
他の実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物を、対象に硝子体内投与してもよい。硝子体内注射の一般的な方法は、以下の簡単な概要によって説明することができる。この例は、単に本方法のある特定の機能を説明することを意味するものであり、限定することを意味するものではない。硝子体内注射の手順は、当技術分野において既知である(例えば、Peyman, G. A., et al. (2009) Retina 29(7):875-912およびFagan, X. J. and Al-Qureshi, S. (2013) Clin. Experiment. Ophthalmol. 41(5):500-7を参照のこと)。
【0074】
要約すると、硝子体内注射の対象を、瞳孔拡張、眼の滅菌、および麻酔薬の投与による手順のために用意することができる。瞳孔拡張のために当技術分野において既知である任意の好適な散瞳剤を使用してもよい。処置前に適切な瞳孔拡張を確認することがある。滅菌は、滅菌アイトリートメント、例えば、ポビドンヨード(BETADINE(商標))などのヨウ化物含有溶液を適用することによって達成することができる。類似の溶液を使用して、まぶた、まつげ、および任意の他の近くの組織(皮膚など)を洗浄することもできる。リドカインまたはプロパラカインなどの任意の好適な麻酔薬を、任意の好適な濃度で使用することができる。麻酔薬は、局所点滴、ゲルまたはゼリー、および麻酔薬の結膜下適用を含むがこれらに限定されない、当技術分野において既知の任意の方法によって投与することができる。
【0075】
注射の前に、滅菌開瞼器を使用して、まつげをその領域から取り除くことができる。注射部位は、シリンジで印をつけることができる。患者のレンズに基づいて、注射部位を選択することができる。例えば、注射部位は、偽水晶体または無水晶体の患者では輪部(limus)から3~3.5mm、有水晶体の患者では輪部から3.5~4mmであってもよい。患者は注射部位と反対方向を見ていてもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、方法は、本開示による有効量の単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物の眼への投与(例えば、網膜下および/または硝子体内投与による)を含む。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが医薬組成物で投与され、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1012、6×1012、7×1012、8×1012、9×1012、10×1012、11×1012、15×1012、20×1012、25×1012、30×1012、または50×1012ゲノムコピー/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、ベクターおよび/または医薬組成物のウイルス力価は、約5×1012~6×1012、6×1012~7×1012、7×1012~8×1012、8×1012~9×1012、9×1012~10×1012、10×1012~11×1012、11×1012~15×1012、15×1012~20×1012、20×1012~25×1012、25×1012~30×1012、30×1012~50×1012、または50×1012~100×1012ゲノムコピー/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×109~10×109、10×109~15×109、15×109~25×109、または25×109~50×109形質導入単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1010、6×1010、7×1010、8×1010、9×1010、10×1010、11×1010、15×1010、20×1010、25×1010、30×1010、40×1010、または50×1010感染単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、少なくとも約5×1010~6×1010、6×1010~7×1010、7×1010~8×1010、8×1010~9×1010、9×1010~10×1010、10×1010~11×1010、11×1010~15×1010、15×1010~20×1010、20×1010~25×1010、25×1010~30×1010、30×1010~40×1010、40×1010~50×1010、または50×1010~100×1010感染単位/mLのいずれかである。いくつかの実施形態では、組成物のウイルス力価は、約5×1012~10×1012、10×1012~25×1012、または25×1012~50×1012ゲノムコピー/mLの少なくとも約5×1010~10×1010、10×1010~15×1010、15×1010~25×1010、または25×1010~50×1010感染単位/mLのいずれかである。
【0077】
いくつかの実施形態では、方法は、本開示による有効量のベクターの、個体(例えば、ヒト)の眼への(例えば、網膜下および/または硝子体内投与による)投与を含む。いくつかの実施形態では、個体に投与されるベクターおよび/または医薬組成物の用量は、体重1kgあたり少なくとも約1×108~約1×1013ゲノムコピーのいずれかである。いくつかの実施形態では、個体に投与されるベクターおよび/または医薬組成物の用量は、体重1kgあたり約1×108~約1×1013ゲノムコピーのいずれかである。
【0078】
注射の間、針は強膜に対して垂直に挿入され、眼の中心を指すことがある。針は、先端が網膜下腔ではなく硝子体で終わるように挿入することができる。注射のために当技術分野において既知の任意の好適な体積を使用してもよい。注射後、抗生物質などの滅菌剤で眼を処置してもよい。眼をすすいで、余分な滅菌剤を除去してもよい。
【0079】
本開示の他の実施形態は、本開示によるベクターまたは医薬組成物の送達の有効性を決定するための手段を提供する。本開示によるベクターまたは医薬組成物の網膜下または硝子体内注射による送達の有効性は、本明細書に記載のいくつかの基準によってモニタリングすることができる。例えば、本発明の方法を使用する対象における処置後、本明細書に記載されているものを含む1つまたは複数の臨床パラメータによって、例えば、病状の1つもしくは複数の徴候または症状の進行の改善および/または安定化および/または遅延について、対象を評価することができる。そのような試験の例は、当技術分野において既知であり、客観的および主観的(例えば、対象が報告した)測定が挙げられる。例えば、対象の視覚機能に対する処置の有効性を測定するために、以下のうちの1つまたは複数を評価することができる:対象の主観的な視力の質または中心視機能の改善(例えば、流暢に読む、顔を認識する対象の能力の改善)、対象の視覚可動性(例えば、迷路をナビゲートするのに必要な時間の短縮)、視力(例えば、対象のLog MARスコアの改善)、マイクロペリメトリー(例えば、対象のdBスコアの改善)、暗順応視野検査(例えば、対象のdBスコアの改善)、ファインマトリックスマッピング(例えば、対象のdBスコアの改善)、ゴールドマン視野検査(例えば、スコトマトース領域(すなわち、失明の領域)のサイズ縮小、およびより小さな標的を解像する能力の改善)、フリッカー感度(例えば、ヘルツの改善)、自家蛍光、ならびに電気生理学的測定(例えば、ERGの改善)。いくつかの実施形態では、視覚機能は、対象の視覚可動性によって測定される。いくつかの実施形態では、視覚機能は、対象の視力によって測定される。いくつかの実施形態では、視覚機能は、マイクロペリメトリーによって測定される。いくつかの実施形態では、視覚機能は、暗順応視野検査によって測定される。いくつかの実施形態では、視覚機能は、ERGによって測定される。いくつかの実施形態では、視覚機能は、対象の主観的な視力の質によって測定される。
【0080】
進行性の視覚機能変性をもたらす疾患の場合、対象を若年時に処置すると、疾患の進行が緩徐または停止をもたらすだけでなく、後天性弱視による視覚機能の喪失を改善または予防する場合がある。弱視には2つのタイプがあり得る。出生から生後数か月まで完全な暗闇に保たれている非ヒト霊長類および子猫の研究では、網膜から機能シグナルが送られているにもかかわらず、その後光にさらされた場合でも、動物は機能的に不可逆的に盲目である。この失明は、皮質の神経接続および「教育」が、刺激の停止により出生から発生的に停止しているために生じる。この機能を復元することができるかどうかは不明である。網膜変性の疾患の場合、正常な視覚野回路は、変性が重大な機能不全を引き起こす時点まで、最初は「学習」されたか、発生上適切であった。機能不全の眼におけるシグナル伝達に関する視覚刺激の喪失によって、「後天性」または「学習」機能不全(「後天性弱視」)が生じ、脳がシグナルを解釈したり、その眼を「使用」したりすることができなくなる。「後天性弱視」のこれらの症例では、弱視眼の遺伝子治療の結果として網膜からのシグナル伝達が改善され、進行の緩徐または病状の安定化に加えて、より正常な機能の獲得がさらにもたらされ得るかどうかは不明である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは30歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは20歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは18歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは15歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは14歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは13歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは12歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは10歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは8歳未満である。いくつかの実施形態では、処置されるヒトは6歳未満である。
【0081】
一部の眼障害では、あるタイプの細胞の機能を改善すると別のタイプの細胞の機能が改善される「ナース細胞」現象がある。例えば、本開示の単離ポリヌクレオチド、ベクター、および/または医薬組成物による中心網膜の網膜色素上皮(RPE)の形質導入によって、次に、桿体の機能が改善されることがあり、次いで、桿体機能の改善によって、錐体機能の改善がもたらされる。したがって、ある細胞型を処置すると、別の細胞型の機能の改善がもたらされることがある。
本開示による特定の単離ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物の選択は、個々のヒトの病歴および状態の特徴ならびに処置される個体を含むがこれらに限定されない複数の異なる要因に依存する。そのような特徴の評価および適切な治療レジメンの設計は、最終的には処方する医師の責任である。
【0082】
本明細書で使用される場合、「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、ヒトおよび非ヒト動物の両方を指す。本開示の「非ヒト動物」という用語は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳動物および非哺乳動物、例として飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびにげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)、両生類、爬虫類などを含む。いくつかの実施形態では、個体または対象はヒトを含む。ある特定の実施形態では、対象は、眼障害に罹患している、または罹患するリスクがあるヒトを含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、処置を受けるべき対象は、遺伝的眼障害を有するが、臨床的徴候または症状がまだ明らかになっていない。いくつかの実施形態では、処置を受けるべきヒトは、眼障害を有する。いくつかの実施形態では、処置を受けるべきヒトは、眼障害の1つまたは複数の徴候または症状を示している。いくつかの実施形態では、処置を受けるべき対象は、crb1遺伝子の一方または両方の対立遺伝子に変異を有する。
「対立遺伝子」は、染色体上の所与の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの代替形態のうちの1つを指す。対立遺伝子の長さは1ヌクレオチドと同じくらい短い場合があるが、多くの場合それよりも長い。本明細書で使用される場合、「変異」は、遺伝子のDNA配列の変化を指し、その結果、配列は、ほとんどの人に見られるものとは異なる。変異は、1つもしくは複数のヌクレオチドの置換、1つもしくは複数のヌクレオチドの挿入、または1つもしくは複数のヌクレオチドの欠失を含み得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、眼障害は網膜症を含む。本明細書で使用される場合、「網膜症」という用語は、眼の網膜に対する任意の損傷を指す。この用語は、多くの場合、網膜血管疾患、または異常な血流によって引き起こされる網膜に対する損傷を指す。本発明のシステムおよび方法によって処置され得る眼障害または網膜症の非限定的な例としては:常染色体劣性重症早期発症網膜変性(レーバー先天性黒内障)、先天性色覚異常、シュタルガルト病、ベスト病、ドイン病、錐体ジストロフィー、網膜色素変性症、X連鎖網膜分離症、アッシャー症候群、加齢性黄斑変性症、萎縮性加齢性黄斑変性症、新生血管AMD、糖尿病性黄斑症、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、嚢胞性黄斑浮腫、中心性漿液性網膜症、網膜剥離、眼内炎、緑内障、後部ブドウ膜炎、コロイデレミア、およびレーバー遺伝性視神経症が挙げられる。
【0085】
本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物は、単独で、または眼障害を処置するための1つもしくは複数の追加の治療剤と組み合わせて使用することができる。連続投与間の間隔は、少なくとも(あるいは、より少ない)数分、数時間、または数日単位であり得る。
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の追加の治療剤は、網膜下または硝子体に投与され得る(例えば、硝子体内投与を介して)。追加の治療剤の非限定的な例としては、ポリペプチド神経栄養因子(例えば、GDNF、CNTF、BDNF、FGF2、PEDF、EPO)、ポリペプチド抗血管新生因子(例えば、sFlt、アンギオスタチン、エンドスタチン)、抗血管新生性核酸(例えば、siRNA、miRNA、リボザイム)、例えば、VEGFに対する抗血管新生性核酸、抗血管新生性モルフォリノ、例えば、VEGFに対する抗血管新生性モルフォリノ、抗血管新生抗体および/または抗体断片(例えば、Fab断片)、例えば、VEGFに対する抗血管新生抗体および/または抗体断片が挙げられる。
【0086】
別の実施形態では、使用される治療剤は、細胞喪失を回復するために眼の網膜で使用される幹細胞療法の使用であり得る。組み合わせて使用するのに好適な幹細胞は当技術分野において既知であり、網膜光受容細胞に分化することができる前駆幹細胞を投与することが含まれる。
上記の態様および実施形態のうちのいくつかの実施形態では、本開示による本明細書に記載の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物は、定位送達によって送達される。いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、単離ポリペプチド、ベクターおよび/または医薬組成物は、対流増強送達によって送達される。いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、単離ポリペプチド、ベクターおよび/または医薬組成物は、CED送達システムを使用して投与される。いくつかの実施形態では、カニューレは、逆流防止カニューレまたは段付きカニューレである。いくつかの実施形態では、CED送達システムは、カニューレおよび/またはポンプを含む。いくつかの実施形態では、本開示による単離ポリヌクレオチド、単離ポリペプチド、ベクターおよび/または医薬組成物は、CED送達システムを使用して投与される。いくつかの実施形態では、ポンプは手動ポンプである。いくつかの実施形態では、ポンプは浸透圧ポンプである。いくつかの実施形態では、ポンプは注入ポンプである。
【0087】
「有効量」または「治療有効量」は、臨床結果(例えば、症状の改善、臨床エンドポイントの達成など)を含む有益なまたは所望の結果を達成するのに十分な量である。有効量を、1回または複数回の投与で投与することができる。病状の点から、有効量は、疾患の改善、安定化、または発症遅延に十分な量である。
本明細書で使用される場合、「処置」、「処置すること」、「治療」、および/または「治療レジメン」は交換可能に使用され、有益なまたは所望の臨床結果を得るためのアプローチを指す。本開示の目的では、有益なまたは所望の臨床結果は、検出可能か検出不可能かを問わず、症状の軽減、疾患の程度の低下、安定化した(例えば、悪化しない)病状、疾患の拡大(例えば、光受容体および視力のさらなる喪失)の予防、疾患進行の遅延または緩徐、病状の改善または緩和、および寛解(部分寛解であろうと、完全寛解であろうと)を含むが、これらに限定されない。「処置」は、処置を受けていない場合に予期される視力喪失と比較して視力の延長も意味することができる。
【0088】
本明細書で使用される場合、「予防(prophylactic)処置」または「予防的(preventative)処置」という用語は、個体が障害を有することまたは障害を有するリスクがあることが分かっているかまたは疑われるが、その障害の症状をまったくまたは最小限にしか示していない場合の処置を指す。予防処置を受ける個体は、発症前に処置され得る。いくつかの実施形態では、遺伝性の遺伝的眼疾患を有する対象は、眼疾患の徴候および/または症状を示す前に処置され得る。
【0089】
本明細書で使用される「中心網膜」という用語は、外黄斑および/または内黄斑および/または中心窩を指す。本明細書で使用される「中心網膜細胞型」という用語は、例えば、RPEおよび光受容細胞などの中心網膜の細胞型を指す。
「黄斑」という用語は、周辺網膜と比較して相対濃度がより高い光受容細胞、特に桿体および錐体を含有する、霊長類の中心網膜の領域を指す。本明細書で使用される「外黄斑」という用語は、「周辺黄斑」と呼ばれることもある。本明細書で使用される「内黄斑」という用語は、「中心黄斑」と呼ばれることもある。
「中心窩」という用語は、周辺網膜および黄斑と比較した場合に相対濃度がより高い光受容細胞、特に錐体を含有する、直径がおよそ0.5mm以下の霊長類の中心網膜内の小領域を指す。
本明細書で使用される「網膜下腔」という用語は、網膜内の光受容細胞と網膜色素上皮細胞との間の位置を指す。網膜下腔は、任意の網膜下液注射前などの潜在的空隙であり得る。網膜下腔には、潜在的空隙に注射される流体が含まれている場合もある。この場合、流体は「網膜下腔と接触している」。「網膜下腔と接触している」細胞には、RPEおよび光受容細胞などの、網膜下腔に隣接する細胞が含まれる。
【0090】
システムおよびキット:
本開示による単離ポリヌクレオチド、ベクター、または医薬組成物は、本明細書で提供される本開示の方法の1つで使用するように設計されたシステム内に含まれ得る。そのような態様では、システムは、本明細書で提供される治療有効量のベクター、およびベクターを対象に送達するためのデバイスを含むか、それからなるか、またはそれから本質的になる。
いくつかの実施形態では、システムは、本開示によるベクターを、個体の眼に網膜下送達するために設計されている。他の実施形態では、システムは、本開示によるベクターを、個体の眼に硝子体内送達するために設計されている。さらに他の実施形態では、システムは、本開示によるベクターを、個体の眼に局所送達するために設計されている。
【0091】
一般に、本開示によるベクターの硝子体内または網膜下送達の場合、システムは、27~45ゲージである細径カニューレと、1本または複数の(例えば、1、2、3、4またはそれ以上の)シリンジと、本開示の方法での使用に好適な1または複数(例えば、1、2、3、4またはそれ以上)の流体とを含む。細径カニューレは、網膜下腔に注射されるベクターおよび/または他の流体の網膜下注射に好適である。いくつかの実施形態では、カニューレは、27~45ゲージである。いくつかの実施形態では、細径カニューレは、35~41ゲージである。いくつかの実施形態では、細径カニューレは、40または41ゲージである。いくつかの実施形態では、細径カニューレは、41ゲージである。カニューレは、任意の好適なタイプのカニューレであってもよく、例えば、de-Juan(商標)カニューレまたはEagle(商標)カニューレであってもよい。
【0092】
シリンジは、任意の好適なシリンジであってもよいが、ただし、流体送達のためのカニューレへの接続が可能であることを条件とする。いくつかの実施形態では、シリンジは、Accurus(商標)システムシリンジである。いくつかの実施形態では、システムは、1本のシリンジを有する。いくつかの実施形態では、システムは、2本のシリンジを有する。いくつかの実施形態では、システムは、3本のシリンジを有する。いくつかの実施形態では、システムは、4本またはそれ以上のシリンジを有する。
システムは、例えばフットペダルによって作動させることができる、自動インジェクションポンプをさらに含んでもよい。
【0093】
本開示の方法での使用に好適な流体としては、本明細書に記載するもの、例えば、本明細書に記載の1つまたは複数の有効量のベクターを各々が含む1つまたは複数の流体、最初のブレブを形成するための1つまたは複数の流体(例えば、生理食塩水または他の適切な流体)、および1つまたは複数の治療剤を含む1つまたは複数の流体が挙げられる。
本開示の方法での使用に好適な流体としては、本明細書に記載するもの、例えば、本明細書に記載の1つまたは複数の有効量のベクターを各々が含む1つまたは複数の流体、最初のブレブを形成するための1つまたは複数の流体(例えば、生理食塩水または他の適切な流体)、および1つまたは複数の治療剤を含む1つまたは複数の流体が挙げられる。
【0094】
いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、少なくとも約0.9mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、少なくとも約1.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、少なくとも約1.5mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、少なくとも約2.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8~約3.0mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8~約2.5mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8~約2.0mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8~約1.5mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.8~約1.0mlよりも大きい。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.9~約3.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.9~約2.5mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.9~約2.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.9~約1.5mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約0.9~約1.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約1.0~約3.0mlである。いくつかの実施形態では、有効量のベクターを含む流体の体積は、約1.0~約2.0mlである。
【0095】
最初のブレブを形成するための流体は、例えば、約0.1~約0.5mlであり得る。いくつかの実施形態では、システム内のすべての流体の総体積は、約0.5~約3.0mlである。
いくつかの実施形態では、システムは、単一の流体(例えば、有効量のベクターを含む流体)を含む。いくつかの実施形態では、システムは2つの流体を含む。いくつかの実施形態では、システムは3つの流体を含む。いくつかの実施形態では、システムは4つまたはそれ以上の流体を含む。
【0096】
本開示のシステムは、さらにキットにパッケージングすることができ、キットは、使用説明書をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、キットは、本開示によるベクターの送達のためのデバイスをさらに含む。いくつかの実施形態では、送達は、網膜下送達を含む。他の実施形態では、送達は、局所送達を含む。さらに他の実施形態では、送達は、硝子体内送達を含む。いくつかの実施形態では、使用説明書は、本明細書に記載する方法のうちの1つに従う説明書を含む。いくつかの実施形態では、使用説明書は、本開示によるベクターの網膜下、硝子体内および/または局所送達のための説明書を含む。
別の実施形態では、本開示は、対象の眼障害を処置するためのキットであって、本明細書に記載の単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物、および単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、または単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、および使用説明書を含む、キットを提供する。いくつかの実施形態では、送達用のデバイスは、網膜下送達用に設計されている。別の実施形態では、送達用のデバイスは、硝子体内送達用に設計されている。さらなる実施形態では、送達用のデバイスは、局所送達用に設計されている。
【0097】
別の態様では、本開示は、対象における視力喪失の進行を低減するか、もしくは視力喪失を低減するか、または視力機能を維持するためのキットであって、単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物、および単離ポリヌクレオチド、組換えベクター、単離ポリペプチド、または医薬組成物を対象に送達するためのデバイス、および使用説明書を含む、キットを提供する。好ましい実施形態では、キットは、CRB1-Bをコードする第1のベクター、およびCRB1-A、CRB1-A2、またはCRB1-Cをコードする第2のベクター、および使用説明書を含む。
【0098】
本明細書に記載のキットは、単一の単位投薬量または複数投薬量形態でパッケージングすることができる。キットの内容物は、一般に、減菌かつ実質的に等張の溶液として製剤化される。
本開示のさらに別の態様は、本明細書に開示および図示されるすべてを提供する。
本開示の原理の理解を促進する目的で、ここで、好ましい実施形態を参照し、特定の言語を使用してそれを説明する。それにもかかわらず、本開示の範囲の限定はそれによって意図されておらず、本明細書に示される開示のそのような変更およびさらなる修正は、本開示が関連する当業者に典型的に起こるように企図されることが理解されるであろう。
冠詞「1つの(a)」および「1つの(an)」は、本明細書では、その冠詞の文法的対象の1つまたは1つ超(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用する。例として、「要素(an element)」は、少なくとも1つの要素を意味し、1つ超の要素を含むことができる。
「約(about)」は、所与の値が所望の結果に影響を与えることなく端点の「わずかに上」または「わずかに下」になり得ることを提供することにより、数値範囲の端点に柔軟性を提供するために使用される。
【0099】
本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」、または「有する(having)」という用語、およびそれらの変形の使用は、その後に列挙される要素およびその均等物、ならびに追加の要素を包含することを意味する。ある特定の要素を「含む(including)」、「含む(comprising)」、または「有する(having)」として列挙される実施形態はまた、それらのある特定の要素「から本質的になる」およびそれら「からなる」と企図される。本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目の1つまたは複数のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合、組み合わせの欠如を指し、それらを包含する。
【0100】
本明細書で使用される場合、移行句である「から本質的になる(consisting essentially of)」(および文法的変形)は、列挙された材料またはステップ、および特許請求される発明の「基本的および新規の特性に実質的に影響を及ぼさない」材料またはステップを包含すると解釈されるべきである。In re Herz, 537 F.2d 549, 551-52, 190 U.S.P.Q. 461, 463 (CCPA 1976)を参照のこと(オリジナルの強調);MPEP第2111.03条も参照のこと。したがって、本明細書で使用される「から本質的になる」という用語は、「含む(comprising)」と同等であると解釈されるべきではない。
【0101】
さらに、本開示はまた、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることを企図している。例えば、複合体が成分A、BおよびCを含むと明細書で述べられている場合、A、BもしくはCのいずれか、またはそれらの組み合わせを省略し、単独でまたは任意の組み合わせで放棄できることが特に意図されている。
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書に特に明記しない限り、単にその範囲内に含まれるそれぞれ別個の値を各々示すのを省略した方法として機能することを意図しているにすぎず、それぞれ別個の値は、あたかも本明細書に各々列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。例えば、濃度範囲が1%~50%と記載されている場合、2%~40%、10%~30%、または1%~3%などの値は、本明細書に明示的に列挙されることを意図している。これらは、具体的に意図されたものの単なる例であり、列挙された最低値と最高値との間の、およびそれらを含む数値のすべての可能な組み合わせが、本開示において明示的に記載されると考えるべきである。
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0102】
本発明の概念から逸脱することなく、すでに説明したもの以外の多くの追加の修正が可能であることは当業者には明らかであるはずである。本開示を解釈する際に、すべての用語は、文脈と一致する最大限広範な手法で解釈されるべきである。「含む(comprising)」という用語の変形形態は、非排他的な手法で要素、構成成分、またはステップを指すものとして解釈されるべきであり、したがって言及された要素、構成成分、またはステップは、明示的に言及されていない他の要素、構成成分、またはステップと組み合わせることができる。ある特定の要素を「含む(comprising)」として言及される実施形態はまた、それらの要素「から本質的になる」およびそれらの要素「からなる」と企図される。「から本質的になる」および「からなる」という用語は、MPEPおよび関連する連邦巡回区控訴裁判所(Federal Circuit)の解釈に沿って解釈されるべきである。「から本質的になる」という移行句は、請求項の範囲を、明記された材料またはステップおよび特許請求された発明の基本的かつ新規な特性に実質的に影響を与えないものに限定する。「からなる」は、請求項に明記されていない、いかなる要素、ステップ、または成分をも除外する限定用語(closed term)である。例えば、「からなる」配列に関しては、配列番号に列挙されている配列を指し、その一部としてその配列番号を含み得るより大きな配列を指す。
【0103】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。抵触する場合には、定義を含めて、本明細書が優先する。
本発明の他の特徴および利点は、その好ましい実施形態の説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができ、好適な方法および材料を以下に説明する。加えて、材料、方法、および例は例示にすぎず、限定することを意図したものではない。
【実施例
【0104】
細胞表面タンパク質をコードする遺伝子は神経系の発生を制御し、神経障害に関与している。これらの遺伝子によって選択的mRNAアイソフォームが産生されるが、これらは特徴付けが不十分なままであり、疾患に関連する変異がどのように病理を引き起こすかについての理解が妨げられている。ここでは、個々の遺伝子によってコードされた完全な完全長のアイソフォームポートフォリオを明らかにするための戦略を導入する。この戦略を使用して、神経細胞表面分子の多様性をカタログ化し、網膜および脳で発現する数千の注釈のないアイソフォームを同定する。質量分析により、インビボで細胞表面上に新たに発見されたタンパク質の発現を確認する。注目すべきことに、我々は、網膜変性遺伝子CRB1の主要なアイソフォームが以前は看過されていたことを発見している。このアイソフォームは、CRB1疾患において影響を受けた細胞である光受容体によって発現する唯一のアイソフォームである。マウスモデルを使用して、我々は、光受容体-グリア接合部におけるこのアイソフォームの機能を同定し、このアイソフォームの喪失が光受容体の死を加速することを実証する。
【0105】
材料および方法
供給源および試薬
抗体、プライマー、データセット、動物系統など、この研究で使用されたすべての主要な試薬は、主要な供給源の表に列挙されている(表1)。
【0106】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【0107】
動物
この研究でのマウスの使用は、Duke University施設内動物管理使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。すべての実験手順は、国立衛生研究所の実験動物の管理および使用に関するガイド(Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に概説されているガイドラインに従った。マウスを12時間の明暗サイクルで飼育し、餌および水を自由に摂取させた。
【0108】
ノックアウトマウスの生成
Crb1delBを生成するために、CRISPRガイドを、ゲノム座標chr1:139,256,486および139,254,837を標的とするように設計し、注射前にゲノムDNAでインビトロにてバリデーションした。C57Bl6J/SJL F1ハイブリッドマウス系統を注射に使用した;両方の系統はCrb1遺伝子座で野生型である(つまり、rd8を有していない)。対立遺伝子を区別するためにPCRプライマーを使用してファウンダーをジェノタイピングした(プライマー配列については表1を参照のこと)。ゲノム欠失のある2つのファウンダー系統が維持された。1つは欠失139,254,836~139,256,488(Δ1,652bp)プラス2つの追加のシトシンを有し、もう1つは139,254,836~139,256,488(Δ1,652bp)を有していた。両方の対立遺伝子は、Crb1-Bの第1のエクソン全体とプロモーター領域を効果的に削除し、現在、表現型的に識別不能である。Crb1nullを生成するために、CRISPRガイドを、ゲノム座標chr1:139,256,486~139,243,407を標的とするように設計し、注射前にゲノムDNAでインビトロにてバリデーションした。C57Bl6J/SJL F1ハイブリッドマウス系統を注射に使用し、対立遺伝子を区別するためにPCRプライマー(表1)を使用してファウンダーをジェノタイピングした。ゲノム欠失のある2つのファウンダー系統が維持された。1つは欠失chr1:139,256,844~139,243,411(Δ13,433bp)を有し、もう1つは139,257,194~139,243,411(Δ13,783bp)を有していた。両方の対立遺伝子は、Crb1-Aのエクソン6およびエクソン7の一部に加えて、Crb1-Bの第1のエクソン全体とプロモーター領域を効果的に削除する。この削除により、エクソン7スプライスアクセプターが排除され、エクソン7が完全に除外されると予測される。エクソン5~8(Crb1-Aにおけるように)および4~8(Crb1-A2におけるように)をスプライシングすると、フレームシフトが生じる。エクソン6以降のCrb1-C固有の保持されたイントロンも完全に削除される。ファウンダー動物を、分析前に少なくとも2世代についてC57Bl6Jマウスと戻し交配し、ジェノタイピングを行ってSJLバックグラウンドからのrd1変異を有していないことを確認した。この研究で生成された動物は、非営利使用のために研究団体に提供される。
【0109】
ヒト網膜組織
Institutional Review Boardプロトコル番号PRO-00050810の下でBioSight(Duke University Shared Resource)によって配布されたヒトドナーの眼を、Miracles in Sight(Winston Salem、NC)から入手した。死後のヒトドナーの眼を摘出し、解剖までPBS中の氷上に保存した。網膜を後極から解剖で取り出し、RNAの単離に進んだ。網膜疾患の病歴を有するドナーを、研究から除外した。
【0110】
CRB1-B抗体
Pierce Custom抗体サービス(Thermo Fisher Scientific)を使用して、CRB1-B特異的抗体を生成した。抗原は、CRB1-Bの最終16アミノ酸(RMNDEPVVEWGAQENY;配列番号53)であり、タンパク質レベルでこのアイソフォームに排他的であると予測されている。抗体は、最初の接種とそれに続く3回の追加免疫を伴う90日間のプロトコルに従ってウサギにおいて作製された。抗体をアフィニティー精製して、Crb1delBノックアウト対照を用いたウエスタンブロットによってバリデーションした。CRB1-Bは、予測サイズの110kDaよりも大きい約150kDaのバンドを生成する。PNGase Fの添加によりバンドサイズ(示されていない)が低下したため、実験サイズ対予測サイズのこの不一致は、グリコシル化などの翻訳後修飾が原因である可能性がある。この研究で生成された抗体は、非営利使用のために研究団体に提供される。
【0111】
RNA抽出
PacBioシークエンシング実験およびqRT-PCRには、C57Bl6/Jマウスを使用した。マウスをイソフルランまたは低温麻酔(新生児のみ)で麻酔した後、断頭した。眼を摘出して網膜を解剖で取り出すか、頭蓋骨から脳を解剖して大脳皮質を取り出した。全RNAは、Tri Reagent(ThermoFisher Scientific AM9738)を製造元のプロトコルに従って使用して単離した。Tri Reagentで組織を、機械的に均質化した後、クロロホルムで相分離し、イソプロパノール沈殿させた。RNAサンプルは-80℃で保存した。Bioanalyzerを使用して、RIN数を計算した。9を超えるRIN値のみをシークエンシングに使用した。
【0112】
マウスサンプル用のPacBioライブラリーの調製
Clontech SMARTer cDNAキットを製造元のプロトコルに従って使用して、逆転写を行った。cDNAをKAPA HiFi DNAポリメラーゼで12サイクル増幅した後、サイズを選択した(4.5~10Kb)。捕捉のために、1ugのcDNAを変性させ、DTTプライマーおよびClontechプライマーでブロックし、NimblegenのSeqCap EZ Developer(≦200Mb)カスタムベイツと47°Cで20時間混合した。非特異的結合を最小限に抑えるために、ビオチン化(Biotynaylated)cDNAをストレプトアビジンビーズでプルダウンし、Nimblegenハイブリダイゼーション緩衝液で洗浄した。標的化cDNAライブラリーを、TakaraLATaqで11サイクル増幅した。SMRT bellライブラリーを構築し、追加のサイズ選択(4.5~10Kb)を実行した後、ポリメラーゼをP6-C4ケミストリー(RSII)に結合させた。ライブラリーを、80pM(RSII)でMagBeadローディングを使用してSMRTセル上にロードした。PacBio Sequelライブラリーの場合、ポリメラーゼバージョン2.0を使用して、シークエンシングプライマーバージョン2.1をアニーリングさせ、結合させた。結合した複合体を、PB Ampureビーズで洗浄し、120分の事前伸長を伴う6pMでの拡散によってロードした。
【0113】
ヒト網膜用のPacBioライブラリー調製
Clontech SMARTer cDNAキットを製造元のプロトコルに従って使用して、逆転写を行った。Prime Star GXLポリメラーゼを使用してcDNAを14サイクル増幅した後、Blue Pippinのサイズを選択した(4.5~10Kb)。捕捉には、1ugの変性cDNAを使用し、Twistカスタムプローブとともに70℃で20時間インキュベートした。非特異的結合を低下させるために、ビオチン化されたcDNAをストレプトアビジンビーズでプルダウンし、Twistハイブリダイゼーション緩衝液で洗浄した。標的化cDNAライブラリーを、TakaraLATaqで11サイクル増幅して、ライブラリー調製用に650ngの濃縮cDNAを得た。エキソヌクレアーゼ後SMRTbell鋳型調製キット1.0をライブラリー調製に使用し、続いてBlue Pippinサイズを選択した(4Kb~50KB)サイズ選択後、120ngのDNAが得られた。ポリメラーゼバージョン2.0を使用して、シークエンシングプライマーバージョン3.0をアニーリングさせ、結合させた。結合した複合体を、PB Ampureビーズで洗浄し、6pMでの拡散によってPacBio Sequel機器にロードした。
【0114】
PacBio生データの処理
Iso-Seqソフトウェアを、生PacBioデータの最初の後処理に使用した。lrCaptureSeq実験の場合、ConsensusTools.shを、パラメータ--minFullPasses 1 --minPredictedAccuracy 80 --parameters /smrtanalysis/current/analysis/etc/algorithm_parameters/2014-09/を用いて使用して、PacBio生リードから挿入のリードを生成した。挿入完全長のリードから、pbtranscript.py classifyを、パラメータ--min_seq_len 500を用いて使用し、3’プライマーに先行するポリAテールに加えて5’および3’Clontechプライマーの存在を伴って、非キメラリード(FLNCリード)を生成した。Megf11 PCR産物のシークエンシングでは、完全長リードが、Megf11特有のプライマー配列(5’GGCTCCGGGGTATAGGA(配列番号54);Megf11ロングの場合は3’配列CTGGCTGCATTGCATTGG(配列番号55)、Megf11ショートの場合はGGTGTCCAATAAAGTC(配列番号56))の存在によって区別されることを除いて、パラメータは同じであった。
【0115】
アイソフォームレベルのクラスタリング
FLNCリードのアイソフォームへのクラスタリングを、2つの部分:1)コンセンサスアイソフォームを生成するために使用される、アイソフォームレベルのクラスタリングアルゴリズムICE(誤り訂正のための反復クラスタリング)、および2)コンセンサスアイソフォームを研磨するために使用されるQuiverからなるToFUを使用して実行した。転写アイソフォームを、ToFU_wrap scriptを、パラメータ--bin_manual 「(0,4,6,9,30)」--quiver--hq_quiver_min_accuracy 0.99(Megf11 PCRデータの場合は0.98)を用いて使用して生成した。これにより、補正後の精度が≧99%(Megf11 PCRデータの場合は≧98%)の高品質の完全長転写物が生成された。GMAP(バージョン1.3.3b)を使用して、アラインメント精度(0.85)およびカバレッジ(0.99)のデフォルト値を用いて、アイソフォームをマウスゲノムmm10にアラインさせた。5’の末端長に基づく過剰クラスタリング(over clustering)を防ぐために、まったく同じエクソン構造を共有するすべての転写物を折りたたむことにより、冗長なクラスターを除去した。短縮化mRNAがアイソフォーム数の増加に与え得る影響を最小限に抑えるため、アイソフォームを定義するために、クラスタリングする必要がある2つ以上の独立した完全長リードのしきい値を設定した。
【0116】
アイソフォームカタログ全体を生成するために、Iso-Seq(バージョン3)のクラスター関数を、デフォルトのパラメータを用いて使用して、完全データセット(すべての時点、網膜および皮質)を分析した。各実験からの最高品質の完全長リード(≧99%の精度またはQV≧20)のみがこの分析に渡された。Iso-Seqの結論として、30遺伝子の8,287個のアイソフォームが同定された。アイソフォームの細分化の過剰クラスタリング(overclustering)をさらに低減させるために、HQリードをゲノム(マウスの場合はmm10、ヒトの場合はhg19)Cupcake ToFU(github.com/Magdoll/cDNA_Cupcake)にマッピングした。
【0117】
最後に、IsoPopsソフトウェアを使用して、推定されるスプリアス(spurious)アイソフォームの追加フィルタリングを実行した。このフィルタリングの目的は、ゲノムDNA内のcDNA短縮またはポリAミスプライミングから生じるアーティファクトを除去することであった。フィルタリング方法の詳細は、ソフトウェアパッケージを説明するセクションで以下に提供されている。これらのフィルターを適用すると、4,116個のアイソフォームの最終カタログが得られた。非カノニカルなジャンクションを含有するアイソフォームは非常に豊富であるため、除外しなかった;しかし、それらが除外されたとしても、全体的なアイソフォーム数はわずかに減少するだけである(図10C)。
最終アイソフォームカタログには、アイソフォームの数だけでなく、各アイソフォームについて取得された完全長のリードの数も明記されていた。我々の分析のうちの一部について、これらのリード計数を報告した(例えば、図2C、E;図3B、D)。これらのデータは、特定の遺伝子の全体的な発現がそのアイソフォームポートフォリオ全体にどのように分布しているかを理解するのに役立つ。PacBioデータが独立したショートリードRNA-seqデータによって支持されていない限り、特定のアイソフォームの発現レベルについて結論を出すことは回避した(例:図5D、G、H、I)。
【0118】
IsoPops Rパッケージ
PacBioトランスクリプトーム配列出力の簡便な分析および表示のためのRソフトウェアのパッケージを開発した。IsoPops Rパッケージにより、ユーザーは、この研究で説明した分析の多くを、自身のロングリードデータに対して実行することができる。
【0119】
パッケージは以下の機能を提供する。第1に、パッケージにより、短縮およびスプリアスアイソフォームのフィルタリングが可能になり、下流分析が容易になる。第2に、パッケージにより、エクソン使用のマップを表示して、ユーザーがアイソフォームの違いを視覚的に比較できるようにする。第3に、パッケージにより、個々の遺伝子内およびデータセット全体のアイソフォームの発現レベルをまとめたプロットを生成する。これらには、ツリープロット(図2E)と、クラゲプロット(jellyfish plot)と呼ばれるローレンツプロットの変形(図2C)が含まれる。第4に、パッケージにより、同様のアイソフォームをクラスタリングし、デンドログラムおよび3次元PCAプロットなどの種々の次元削減プロットにデータを表示する。第5に、パッケージにより、遺伝子のアイソフォームの長さの分布または各アイソフォームで使用されるエクソンの数などの要約統計量を提供する。最後に、パッケージにより、相互相関を実行し、ユーザーは、ある特定のエクソンが同じ転写物に一緒に現れる傾向があるかどうか求めることができる。これらの機能に関連する方法を以下に説明する。
【0120】
フィルタリング
IsoPopsアイソフォームフィルタリングプロセスは、3ステップからなる:第1に、n個未満のエクソンを含有する転写物を除去する。我々の研究では、我々のデータセット内の遺伝子にそのような短いアイソフォームはないと予想したため、nを4に設定した。エクソン数を定量化するために、エクソン注釈を参照せず、代わりに、非連続(non-contiguous)ゲノムセグメントの数(またはジャンクションの数に1を加えた数)を各アイソフォームのエクソン数として定義した。これらの配列は典型的には単一の「エクソン」にマッピングされるため、このフィルタリングステップにより、ゲノムポリAのミスプライミングから生じるほとんどのスプリアス転写物が除去された。
【0121】
第2に、短縮アーティファクトをフィルタリングで除去した。短縮化アイソフォームを同定するために、潜在的に価値のある固有の転写物を破棄せずに、可能な限り徹底的にフィルタリングするように設計されたアルゴリズムを開発した。特に、すべての固有のスプライシングイベントを保持し、固有の転写開始部位(TSS)および転写終了部位(TTS)を適度に許容したいと考えた。アルゴリズムは、アイソフォームペアAおよびBのエクソン境界のセット(アクセプターとドナーのスプライス部位の座標)を比較し、以下の2つの規則を適用する。規則1:Bにおけるすべてのエクソン境界がAにおけるエクソン境界の連続サブセットを形成する場合、BはAの短縮化である。イントロンが保持された転写物のフィルタリングを回避するために、サブセットが連続的である必要があった。規則2:以下の3つの条件すべてが満たされる場合、BはAの短縮化である。1)BのTSSはAのエクソン内にある;2)BのTTSは、A内か、または遺伝子の3’側のほとんどのエクソン内/外側のいずれかにみられる;3)Bの内部エクソン境界(つまり、Bの5’および3’側のほとんどのエクソン境界を除外する)は、Aの連続サブセットである。
第3に、これらの非常に少量のアイソフォームが実験的または生物学的ノイズを構成する可能性があるという仮定の下で、各遺伝子のアイソフォームのうちの最も少量の5%をフィルタリングで除去した。
【0122】
ピアソン相関
この機能により、アイソフォーム間でのエクソンの共起の分析が可能になる。所与の遺伝子の各アイソフォームを、そのcDNA配列内でコールされたエクソンを表す一連のバイナリ値でラベル付けした。エクソンコールは、転写物内の各エクソンの最初の30bpまたは最後の30bpのいずれかの完全一致を検索することによって決定された。エクソンの定義は、PacBioアイソフォームGFFファイルに由来していた。アイソフォームを、完全長のリード計数によって重み付けした後、エクソンコール間のペアワイズピアソン相関を計算した。
【0123】
K-merベクトル化
IsoPopsにより、アイソフォーム間の配列の差異を定量化することができる。アイソフォーム間の相対的な差異を定量化するために、各アイソフォームのcDNA配列(またはそれらの予測されるORFアミノ酸配列)のベクトル化間のユークリッド距離を計算した。text2vec Rパッケージを使用して、各アイソフォームのベクトルを生成し、ベクトル内の各要素は、ある特定のk-mer(配列断片)がアイソフォーム内に出現する回数に等しい。k=6を選択して、アイソフォーム内のすべての可能な6-merを計数し、過剰な計算リソースを必要とせずにアイソフォーム間のk-mer計数の一意性を最大化した。次に、k-mer計数の各アイソフォームのベクトルを合計して1に正規化したため、これらのベクトルから計算されたアイソフォームの距離は、転写物間の長さの差異によって支配されない。
【0124】
アイソフォームクラスタリング
アイソフォームをクラスタリングするために、アイソフォームのk-mer計数ベクトル化間のペアワイズユークリッド距離を計算した。次に、デフォルト設定および「complete」の凝集法を使用して、Rベースアルゴリズムhclustを使用して階層型凝集クラスタリングを実行した。クラスタリングのデンドログラムプロットを、dendextend Rパッケージによって生成した。
【0125】
次元削減
PCAおよびt-SNEを、k-mer計数のベクトル化で直接実行した。デフォルト設定で、PCAにRベースアルゴリズムprcompを使用した。t-SNEの場合、Rtsneパッケージのexact t-SNEアルゴリズム(theta=0、maximum iterations=1000、perplexity=35)を実行し、これには、データ前処理のためのPCAのラウンドが含まれる。t-SNEの結果は、アルゴリズムによって出力されたものと同じ次元数でプロットされる(つまり、3D t-SNEプロットはndim=3で生成された)。
【0126】
ローレンツ(クラゲ)プロット
累積パーセント存在量を、各遺伝子のアイソフォームについて独立して計算した。まず、完全長のリード計数を遺伝子全体で正規化し、「存在パーセント」とラベル付けした。次に、所与の遺伝子のアイソフォームを、存在パーセントの降順でランク付けした。最後に、降順での存在パーセントの部分和を介して、各アイソフォームの累積パーセント存在量を計算した。次に、アイソフォームをy軸に沿ってこの順序でプロットし、x軸に沿った累積パーセント存在量に従って配置した。
ORF予測
Sqanti67を、PacBioアイソフォームのORF予測およびゲノム修正に使用した。
【0127】
RNA-seq分析
RNA-seq fastqファイルをNCBI GEOからダウンロードし、Hisat2(バージョン2.1.0)を使用して、参照ビルドmm10(マウス用)、hg19(ヒト用)、bosTau8(ウシ)、danRer11(ゼブラフィッシュ)、およびrn6(ラット)にデータをマッピングした。データセットGSE101986およびGSE74660を、Cufflinks(バージョン2.2.1)により定量化した。データセットGSE94437、GSE101544、GES49911、およびGSE84932を、StringTie(バージョン1.3.3b)を使用して定量化した。アイソフォーム定量分析のすべての参照注釈を、30遺伝子のそれぞれについて上位3つの最も豊富なアイソフォームを使用して、Iso-SeqGFF出力とマージされた対応する参照GTFファイルから生成した。
【0128】
RNA-seqデータからのアイソフォーム予測
アイソフォームの計算予測を、参照アセンブリなしでCufflinks(バージョン2.2.1)またはStringtie(バージョン1.3.3b)を使用して、RNA-seqデータセットGSE101986およびGSE79416で実行した。得られたアセンブリを、Cuffmergeを使用してマージして、最終参照アセンブリを作出した。データセット間のアイソフォームマッチングを、Sqantiを使用して実行した。アイソフォームは、Sqantiによって「full-splice match」として識別された場合、一致と考えられた。他のすべてのアイソフォームは、不一致と考えられた。
【0129】
lrCaptureSeqアイソフォームと他のデータベースとのマッチング
Sqantiを、公開データベースのアイソフォームのバリデーション、およびCufflinks/Stringtieの予測アイソフォームデータベースのバリデーションに使用した。参照GTF(計算アセンブリ、NCBI RefSeqまたはUCSC Genesのいずれかから)を入力として使用して、バリデーションを実行した。アイソフォームを、参照に対して「full-splice_match」であるかどうかをバリデーションした。他のすべてのアイソフォームは、別個のものと考えられた。
【0130】
lrCaptureSeqアイソフォームのスプライスジャンクションおよび5’末端部のバリデーション
RNA-seqデータによるPacBioアイソフォームのジャンクションカバレッジを、Sqantiソフトウェアを使用して評価した。Sqantiのジャンクション入力ファイルを、STAR(STAR_2.6.0a)を使用して、マウス網膜および皮質RNA-seqデータ(GSE101986およびGSE79416)を、PacBioGFF出力を使用して作成されたカスタムインデックスを用いて、mm10ゲノムにマッピングすることによって生成した。ジャンクションを、カノニカル(GT-AG、GC-AG、およびAT-AC)または非カノニカル(他のすべての組み合わせ)のいずれかに分類した。
成体マウスの網膜からのCAGE RNA-seqデータ(DRA002410;サンプルSham1、Sham2、およびSham3)を、Hisat2を使用してゲノム(mm10)にアラインさせた。lrCaptureSeqアイソフォームのエクソン1でのリードカバレッジを、BedTools(バージョン2.29.2)を使用して決定した。正規化アイソフォーム長全体にわたるCAGEデータカバレッジを、Qualimap(バージョン2.2.1)を使用して実行した。
【0131】
クロマチンアクセシビリティ
公的に入手可能なATAC-seqデータを使用して、マウスおよびヒトの網膜におけるクロマチンのアクセシビリティ(すなわち、推定プロモーター部位)を評価した68~70。ENCODEプロジェクトからのDNAse I高感受性データを、マウス皮質の評価に使用した71。すべての生fastqファイルをSRAからダウンロードしたか、またはアラインされたbamファイルをENCODEデータポータルからダウンロードした。リードを、fastqc(バージョン0.11.3)およびtrim galore(バージョン0.4.1)を使用してトリミングし、bowtie2(バージョン2.2.5)を使用してmm9またはhg19ゲノムのいずれかにマッピングした。アラインされたbamファイルを、品質(> Q30)でフィルタリングし、ミトコンドリア領域およびブラックリスト登録領域を除去した。ファイルを、deeptools(バージョン3.1.0)を使用してbigwigに変換し、IGV(バージョン2.4.16)で視覚化した。同じ実験のすべてのトラックを、グループスケーリングする(group scaled)。
【0132】
シャノン多様度指数
シャノン指数を、RパッケージVegan(https://github.com/vegandevs/vegan)を使用して以下の等式に従って計算した。
H’=-Σ pi ln pi
(式中、piは遺伝子中で見出されたアイソフォームの割合(pi=ni/N)、niはアイソフォームiのリード数、Nは遺伝子のリード総数である)。
【0133】
sashimiプロット
sashimiプロットを、PacBioで生成されたGFFファイルを用いてGviz(バージョン1.24.0)を使用して生成した。GMAP(バージョン2014-09-30)を使用して、PacBio FLNC.fastq(≧85%の精度)ファイルをゲノム(mm10、hg19)にマッピングすることによって、プロットのリードを生成した。我々の最終データセットのようにフィルタリングで除去されていなかったFLNCリードのエラー率は比較的高かったため、また発現は遺伝子によって異なっていたため、最小ジャンクションカバレッジはプロットごとに変動した。最小ジャンクションカバレッジは、Crb1マウス網膜で60、Crb1皮質で4、ヒトCRB1で11、Megf11で4に設定された。
【0134】
scRNA-seq
マウス網膜発生をプロファイリングする生scRNAseqデータ48を、CellRanger(v3.0、10X Genomics)を使用して、カスタムmm10マウスゲノム/トランスクリプトームにアラインさせた。mm10参照ゲノムおよびトランスクリプトームを、10X Genomicsからダウンロードし、GTFファイルを修正して優性Crb1アイソフォーム(Crb1-AおよびCrb1-B)を独立遺伝子として同定した。CellRanger count関数は、単一遺伝子に一意にマッピングされるアラインメントのみを考慮するため、出力ファイルは、独立した3’エクソン内にマップされるか、最も遠位の最終共有エクソンからこれらにスプライシングされるリードのみを報告する。
その後、データを、以前に報告されたとおりに正確に分析した48。この新しい分析の各細胞のバーコードを、元の原稿の分類に基づいて細胞型に割り当てた。Monocle(v3.0)72、73およびカスタム R scriptsを、データの視覚化およびプロットに使用した。
【0135】
BaseScope インサイチュハイブリダイゼーション
眼を摘出し、網膜を眼盃(eyecup)から解剖で取り出し、PBSで洗浄し、4%ホルムアルデヒドを補充したPBSで室温にて24時間固定した。網膜を、30%スクロースを補充したPBS中で4度にて一晩浸透圧平衡によって凍結保護した。網膜を組織凍結培地に包埋し、ドライアイスで冷却した2-メチルブタンで瞬間冷凍した。網膜の接線方向切片を、Thermo Scientific Microm HM 550クリオスタットで18μmに切断し、Superfrost Plusスライドに接着させた。
プローブを、種々のスプライシングイベントを検出するためにスプライスジャンクションに対して設計した(配列については表1を参照のこと)。Red検出キットを使用して、プローブ検出を実行した。BaseScope インサイチュハイブリダイゼーションを、わずかな変更を加えた製造元のプロトコルに従って実行した。固定凍結網膜を60℃のオーブンで1時間焼き、その後、以下の例外を除いて、標準の固定凍結前処理条件で進めた:前処理2でのインキュベーションを2分に短縮し、前処理3を室温で13分に短縮した。BaseScopeプローブを組織に加え、40℃で2時間ハイブリダイズさせた。スライドを洗浄緩衝液で洗浄し、RedSingleplex検出キットを使用してプローブを検出した。一次抗体と一晩インキュベートすることによりプローブを検出した後、免疫染色を実行した。Megf11 BaseScopeの場合、α-カルビンジン抗体を使用してスターバーストアマクリン細胞および水平細胞を標識化した。組織をPBSで3回洗浄し、二次抗体を適用して室温で1時間インキュベートした。スライドをもう一度洗浄し、カバーガラスを取り付けた。
【0136】
K562細胞におけるCRB1アイソフォームの発現
タグ付きCRB1構築物を、CRB1-AおよびCRB1-BのC末端にYFPをインフレームでクローニングすることによって構築した。タグ付き構築物を、pCAG-YFPプラスミド(Addgene番号11180)にクローン化させた。
【0137】
K562細胞(ATCC(登録商標)CCL-243(商標))を、ATCCから入手し、ATCCによりバリデーションし、ATCCによりマイコプラズマ試験を行った。細胞を、10cm細胞培養皿内の10%ウシ増殖血清、4.5g/L D-グルコース、2.0mM L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。細胞は、2~3日ごとに継代された後、200万細胞/mlに達した。K562ヌクレオフェクションマニュアルの指示に従って、Amaxa(登録商標)CellLineNucleofector(登録商標)キットVを使用して、細胞をトランスフェクトした。具体的には、100万個の細胞のアリコートを、エッペンドルフチューブ内で室温にて5分間200×gで遠心分離することによりペレット化した。上清は完全になり、細胞ペレットを、サンプルあたり100ulのNucleofector(登録商標)溶液に懸濁した。2ugのプラスミドDNA(pCAG:Crb1A-YFP、pCAG:Crb1B-YFP、またはpCAG:YFP)を添加し、浮遊細胞と穏やかに混合した。細胞とDNAの混合物をキュベット内でトランスフェクトし、Nucleofector(登録商標)キュベットホルダーに挿入し、プログラムT-016によりトランスフェクトした。プログラムが完了した後、キュベットをホルダーから取り出し、すぐに500ulの事前に平衡化した培養培地を添加した。次に、これらのトランスフェクトされた細胞を分割し、24ウェルガラス底皿(MatTek Corporation)の2つのウェルに移した。トランスフェクションの24時間後に、倒立共焦点顕微鏡(Nikon)により細胞の画像化した。
【0138】
網膜薄切片化および電子顕微鏡
マウスをイソフルランで麻酔した後、断頭した。上網膜に、方向を追跡するために低温焼灼で印をつけた。眼を摘出し、Glut緩衝液(40mM MOPS、0.005%CaCl2、2%ホルムアルデヒド、H2O中2%グルタルアルデヒド)中、室温にて一晩固定した。背腹軸は解剖時に印が付けられ、その後、薄切片で上網膜と下網膜を識別できるようになった。埋め込みの準備ができるまで4℃で保存するために、眼をPBSを含有する未使用チューブに移した。
薄切片の場合、角膜を眼盃から除去し、眼盃を0.1%カコジル酸緩衝液中の2%四酸化オスミウムに浸した。次に、眼盃を脱水し、Epon812樹脂に埋め込んだ。0.5μmの半薄切片を、上網膜から下網膜まで視神経乳頭を通って切断した。切片を1%メチレンブルーで対比染色しOlympus IX81明視野顕微鏡で画像化した。
電子顕微鏡検査のために、組織を、記載のように処理し、画像化した74。要約すると、遠位周辺網膜をトリミングし、Leica ultramicrotomeで65~75μmの切片を準備した。切片は、各網膜の上片側切断および下片側切断により別々に準備し、2%酢酸ウラニル+3.5%クエン酸鉛の溶液で対比染色した。Orius1000カメラを装備したJEM-1400電子顕微鏡で、イメージングを実行した。
【0139】
網膜核計数
網膜の半薄切片を、60倍オイル対物レンズ(oil objective)を備えたOlympus IX81明視野顕微鏡でタイルスキャンし、cellSensソフトウェアで繋ぎ合わせた。Fijiソフトウェア75を使用して、上網膜と下網膜の両方について、視神経乳頭から周辺へ、セグメント化された線を引いた。500μmの間隔で、外顆粒層をカプセル化する100μmの4つのボックスが描かれ、ボックスの中心が視神経乳頭から500μmの係数になった。網膜の各半球に対して、4つのボックスを作成した。ImageJの計数機能を使用して、各ボックスによってカプセル化された核の総数を、各位置で計数した。計数を各位置にわたって平均してプロットし、同様に各網膜の8つの測定値すべての総計数もプロットした。
電子顕微鏡によるOLM接合部の評価
1つの網膜半切片の約90%を含む(切片化中に遠位周辺網膜がトリミングされた)各切片を、電子顕微鏡でOLMギャップについて評価した。各潜在的ギャップが画像化され、その後、画像化された光受容体の内節上の電子密度の高いOLM接合部の存在を評価することにより、ギャップをオフラインで確認した。切片ごとのギャップの数を、Fijiソフトウェアを使用して、各ギャップのサイズとともに定量化した。どちらの遺伝子型もOLMギャップを示さなかったため、定量化および統計のために、野生型およびnull/+ヘテロ接合対照をグループ化した。
【0140】
ウエスタンブロッティングによる網膜連続切片化
連続切片化を、記載のように50、51実行した。要約すると、マウスをイソフルランで麻酔した後、断頭した。眼を摘出し、氷冷リンゲル液中で解剖して取り出した。網膜パンチ(直径2mm)を、視神経乳頭に隣接して配置された外科用トレフィン(trephine)で眼盃から切断し、光受容体層を上に向けてPVDF膜に転写し、プラスチックスペーサー(約240μm)で分離された2つのガラススライドの間に平らに取り付け、ドライアイスで凍結させた。網膜の表面をクリオスタットの切断面に合わせ、不均一な縁部をトリミングした。切片化の端点(それぞれ光受容体または内網膜)に応じて、10μmまたは20μmの連続する接線方向切片を収集した。
【0141】
プロテオミクス
網膜トリプシン細胞外ドメイン抽出
幼若P14マウスをイソフルランで麻酔した後、断頭した。眼を摘出し、リンゲル液(154mM NaCl、5.6mM KCl、1mM MgCl2、2.2mM CaCl2、10mMグルコース、20mM HEPES)中で眼盃から解剖で取り出した。網膜を、5μgのトリプシン/lys-cを含有する100μlのリンゲル液中に入れた。網膜を含む溶液を、周期的に穏やかに混合しながら、室温で10分間インキュベートした。次に内容物を300×Gで1.5分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。尿素をタンパク質混合物に8Mまで添加し、次に50℃でインキュベートした。1時間のインキュベーション後、DTTを最終濃度が10mMになるように添加し、50℃で15分間インキュベートした。3.25μlの20mMヨードアセトアミドを添加してペプチドをアルキル化し、暗所で室温にて30分間インキュベートした。DTTを、50mMの最終濃度まで添加することにより反応をクエンチした。混合物を、約270μlの重炭酸アンモニウムで1:3に希釈した。混合物を、37℃で、1μgのトリプシン/lys-cを添加することにより一晩さらに消化した。
【0142】
細胞表面タンパク質の標識化およびプルダウン
膜タンパク質の細胞表面標識化を、記載されているプロトコルに基づいて実行した76。マウスをイソフルランで麻酔した後、断頭した。眼を摘出し、網膜を眼盃から解剖で取り出して氷冷HBSS中に入れた。網膜をHBSSで洗浄した後、EZ-Link Sulfo_NHS-SS-Biotin(HBSS中0.5mg/ml)を補充したHBSS中で45分間氷上にてインキュベートした。次に、網膜をHBSS+100μMリジンで3回洗浄し、残りの反応性エステルをクエンチした。次に、網膜を、400μl(200μl/網膜)溶解緩衝液(1%Triton X-100、20mM Tris、50mM NaCl、0.1%SDS、1mM EDTA)に収集した。超音波処理装置で短いパルスを使用して、網膜を均質化した。溶解物を21,000×Gで20分間、4℃で遠心分離し、可溶性画分を収集した。免疫沈降では、75μgのタンパク質溶解物を、100μlのストレプトアビジン磁気ビーズ(Pierce(商標))と混合し、回転させながら室温でインキュベートした。ストレプトアビジン/ビオチン複合体を、磁石を使用して隔離し、溶解緩衝液で洗浄した。タンパク質を、溶出緩衝液(0.1%SDS 100mM DTTを含むPBS)と50°Cで30分間インキュベートすることにより、ビーズから溶出させた。実験サンプル(入力、ビオチン濃縮、および非ビオチン標識陰性対照)を4×SDS-PAGEサンプル緩衝液と混合し、ヒートブロック上で90℃にて10分間インキュベートした。次に、サンプルを、4~15%のmini PROTEAN TGX未染色タンパク質ゲルにロードした。電気泳動を、スタッキングゲルを介して65Vで実施し、次に色素フロントがゲルの下端に達するまで100Vに調整した。
【0143】
ゲル内トリプシン消化
電気泳動後、ゲルをH2Oで2回洗浄し、50%メタノール、7%酢酸で20分間固定し、コロイド状クマシー系GelCode Blue Stain試薬(Thermo Fischer Scientific、カタログ番号24590)で30分間染色した。ゲルを揺り動かしながら4℃で2時間、蒸留水により脱色した。タンパク質バンドを、Bio-Rad ChemiDoc Touchイメージャー上で画像化した。きれいなカミソリ刃を使用して、75~250kDaのバンドを切り出し、約1×1mmの小片に切断し、0.5mlのシリコーン処理(低保持)遠心チューブに収集した。ゲル片を、200μlの脱色溶液(50mM重炭酸アンモニウム、50:50アセトニトリル:水中のNH4HCO3)を用いて37℃にて30分間振とうしながら脱色した。溶液を除去し、200μlの脱色溶液と交換し、振とうしながら37℃で30分間再度インキュベートした。溶液をゲル片から除去し、ペプチドを、60℃で15分間、50mM重炭酸アンモニウム緩衝液(pH7.8)中の20μlの20mM DTTで還元した。50μlのアルキル化緩衝液(50mMヨードアセトアミドを含む重炭酸アンモニウム緩衝液)を添加することによりシステインをアルキル化し、暗所で室温で1時間インキュベートした。アルキル化緩衝液をチューブから取り出し、200μlの脱色緩衝液と交換した。サンプルを振とうしながら37℃で30分間インキュベートし、緩衝液を除去し、脱色緩衝液で再度洗浄した。ゲル片を75μlのアセトニトリルで脱水し、室温で15分間インキュベートした。アセトニトリルをチューブから取り出し、収縮したゲル片を15分間乾燥させた。トリプシン/lys-c(25μlの重炭酸アンモニウム緩衝液中5ng/μl)をゲル片に添加し、室温で1時間インキュベートした。追加の25μlの重炭酸アンモニウム緩衝液をチューブに添加し、37℃で一晩インキュベートした。蒸留水でサンプル量を125μlにし、トリプシン処理ペプチドを含有する液体をきれいなシリコーン処理0.5mlチューブ内に入れた。
【0144】
質量分析用lrCaptureSeqペプチドライブラリーの生成
Sqantiソフトウェアを網膜サンプルからのIso-seq出力で使用して、アイソフォームのORFおよびアミノ酸配列を予測した。アミノ酸配列を、デフォルト設定でPythonプログラムtrypsinを使用してインシリコでトリプシン化した。リジンまたはアルギニンがプロリンの直前にある場合、リジンまたはアルギニンを削除しないプロリン規則に従った。
【0145】
網膜サンプルの質量分析
トリプシン消化物の2μlアリコートを、Synapt G2 HDMS質量分析計(Waters Corp、Milford、MA)に接続されたnanoAcquity UPLCシステムを使用してLC-MS/MSにより分析した。ペプチドを、最初に180μm×20mm Symmetry C18カラムにトラップした(99.9%水、0.1%ギ酸中で5μl/分の流速で3分間)。次に、1.7μmのC18 BEH樹脂(Waters)を充填した75μm×150mmのカラムで、0.1%ギ酸を含む6~30%のアセトニトリル勾配を使用して、0.3μl/分の流速で35℃にて90分間ペプチド分離を実行した。溶出したペプチドを、3.0kVの電圧で10μmのPicoTipエミッター(Waters)を使用してSynapt G2のイオン源にスプレーした。
【0146】
各サンプルを、ペプチドの定量と同定を同時に行うためのイオン移動度ワークフローを使用して、データ非依存的分析(HDMSE)にかけた。すべてのHDMSE実行にわたる個々のペプチドの堅牢なピーク検出およびアラインメントのために、Progenesis QIソフトウェアを使用して、同じ質量/保持時間機能を表すイオンクロマトグラフィーピークの自動アラインメントを実行した。イオン機能へのペプチド割り当てを実行するために、PLGS 2.5.1(Waters)を使用して検索可能なファイルを生成し、Progenesis QI for Proteomicsに組み込まれたIdentityE検索エンジンに送信した。ペプチドの同定のために、上記のIso-Seqカスタムデータベースを検索した。新規ペプチドを同定するために、同定されたすべてのペプチドをUniProtKbマウスデータベースと相互参照した。タンパク質およびペプチドの誤検出率を、Protein and Peptide Prophetソフトウェア(Scaffold 4.4)およびデコイデータベース-リバースマウスUniProt2016データベースを使用して決定した。タンパク質およびペプチドのFDRはそれぞれ1%および5%未満であった。新たに発見されたペプチドを、翻訳後修飾を含む既知のペプチドと区別するために、S、T、およびYでのリン酸化;Eでのグルタミル化;Kでのアセチル化;DおよびEでのメチル化など、最も一般的なタンパク質修飾を使用して追加のデータベース検索を行った。潜在的な誤認は発見されなかった。
【0147】
ウエスタンブロッティング
同腹仔WTおよびCrb1変異マウスの網膜を短時間超音波処理し、PBS中に2%SDSを含有する溶解緩衝液400μlとプロテアーゼ阻害剤カクテル(cOmplete;Roche)中でボルテックスした。溶解物を20,000×gで22℃にて10分間遠心を行い、上清を収集し、総タンパク質濃度をDCタンパク質アッセイキット(Bio-Rad)で決定した。溶解緩衝液を使用して、総タンパク質濃度によって溶解物を正規化するように体積を調整してから、400mM DTTを含有する4×SDS-PAGE緩衝液を添加し、溶解物を90℃で10分間加熱した。それぞれ15μgの総タンパク質を含有する等体積の溶解物をSDS-PAGEにかけ、タンパク質をポリフッ化ビニリデン膜(Bio-Rad)に転写した。膜をOdysseyブロッキング緩衝液(LiCor Bioscience)でブロックし、適切な一次抗体およびAlexa Fluor680または800コンジュゲート二次抗体(Invitrogen)とインキュベートした。タンパク質バンドを、Odyssey CLx赤外線イメージングシステム(LiCor Bioscience)によって画像化した。
【0148】
可溶性タンパク質と不溶性タンパク質を分離するために、マウスの網膜を短時間超音波処理し、氷上の300μlの水で低浸透圧ショックを与えた。溶解した網膜懸濁液を20,000×gで、4℃にて20分間遠心させ、得られた上清を収集し、ペレットを水で1回すすいだ。ペレットと上清を、2%SDS、1×PBS、およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(cOmplete;Roche)を含有する最終体積400μLの溶解緩衝液中で再構成した。これらの溶解物の等体積アリコートを、上記のウエスタンブロッティングで使用した。
【0149】
データ入手可能性
ロングリードシークエンシングデータは、NCBI BioProjectリポジトリ(アクセッション番号PRJNA547800)で入手可能である。表2は、lrCaptureSeqデータセット内のCrb1のすべてのアイソフォームの配列、ゲノム位置、およびリード番号を明記する。
質量分析プロテオミクスデータは、データセット識別子PXD017290(DOI:10.6019/PXD017290)でPRIDEパートナーリポジトリを介してProteomeXchange Consortiumに寄託されている。
コード入手可能性
IsoPopsコードは、GNU General Public License v3.0の下で許諾されている、kellycochran.github.io/IsoPops/index.htmlで入手可能である。
【0150】
【表2】
結果:
ロングリードキャプチャーシークエンシングを介してアイソフォームをカタログ化するためのワークフロー
CNS細胞表面分子のアイソフォーム多様性をカタログ化するために、最初にマウスの網膜および脳からのRNA-seqデータを手動でスクリーニングし38、39、実質的な注釈のないmRNAの多様性を示した遺伝子を同定した。上皮成長因子(EGF)、免疫グロブリン(Ig)、および接着Gタンパク質共役型受容体スーパーファミリーの細胞表面受容体に焦点を当て、それはこれらの遺伝子が細胞間認識において多くの既知の役割を果たしているからである。スクリーニングされた各遺伝子(n=402)について、CNS発生の間に発現したかどうか、発現した場合は、RNA-seqリードが注釈のないエクソンまたはスプライスジャンクションの存在を支持しているかどうかを評価した(図1A)。遺伝子の約15%(60/402)が、注釈のない複数の機能の強力なエビデンスを示していることが分かった。これらの遺伝子を、ロングリードシークエンシングの候補として選択した。
【0151】
これらの遺伝子の転写物を包括的に同定するために、候補遺伝子リストにあるような、大きく(>4kb)かつ中程度に発現するcDNAのPacBioシークエンシング深度を改善する方法を開発した。以前のCaptureSeqアプローチ31、32、40を採用して、ロングリードPacBioプラットフォームでタンパク質をコードするcDNAの特徴付けが可能になったため、この戦略をロングリードキャプチャーシークエンシング(lrCaptureSeq)と呼ぶ。lrCaptureSeq(図1B、C)では、ビオチン化プローブは、捕捉された転写物のプールが特定のアイソフォームに偏らないように、スプライスジャンクションを通過せずに既知のエクソンをタイル表示するように設計されている。これらのプローブを使用して、短縮cDNAをフィルタリングするためにサイズ選択されたライブラリーからcDNAをプルダウンする。パイロット実験では、短めの断片がシークエンシング出力を支配する傾向があるため15、サイズ選択が完全長リードを取得するために不可欠であることが分かった(図9A)。
【0152】
lrCaptureSeqを実装するために、最初に、同様の長さ(4~8kb)のcDNAをコードすると予測された60種類候補の初期リストを30種類までフィルタリングした。最終的な標的リストには、軸索ガイダンス、シナプス形成、およびニューロンとグリアの相互作用に関与する遺伝子が含まれていた;また、遺伝性の光受容体変性に関与している網膜疾患遺伝子Crb1も含まれていた。標的遺伝子の一部は多くのアイソフォーム(Nrxn1、Nrxn3)を生成することが知られていたが、ほとんどの場合、アイソフォーム多様性は以前に特徴付けられていなかった。捕捉されたcDNAがPacBioプラットフォーム上でシークエンシングされた場合、実験ごとに約132,000の完全長リードが生成された(図9C)。これらのリードは、標的化遺伝子が強く濃縮されており(図9B)、リードの大部分は標的とされた長さの範囲内であった(図1C)。したがって、lrCaptureSeqでは、他のロングリードデータセットでは過小評価されている、より大きなcDNAの高深度完全長カバレッジ(deep full-length coverage)を実現することができる。
【0153】
lrCaptureSeqによって生成された包括的なアイソフォームカタログ
発生全体およびCNS領域全体にわたる30遺伝子すべてのアイソフォームをカタログ化するために、マウスの網膜および脳におけるさまざまな時点でlrCaptureSeqを実行した(図1C図9C)。アイソフォームの数、およびそれぞれを含むリードは、PacBio Iso-Seqソフトウェアと、アイソフォーム集団の分析用に開発したカスタムソフトウェア(IsoPops; https://github.com/kellycochran/IsoPops)とを一緒に使用して決定した。この処理パイプラインの後、lrCaptureSeqカタログには30種類の標的化遺伝子の4,116個のアイソフォームが含まれており(図2A、B;表2;)-これは、公開データベースで現在この遺伝子セットに注釈が付けられているアイソフォームの数よりもおよそ1桁多かった(図2B)。また、これは、一般的なショートリードトランスクリプトームアセンブリソフトウェアによって予測されたアイソフォームの数よりもはるかに多かった(図10A)。lrCaptureSeqアイソフォームの9%のみが、調査したデータベースのいずれにも出現し、それらのほとんどが新規であることを示唆している。
【0154】
これらの新規アイソフォームが本物であることを確認するために、独立したデータセットを使用して、それらの転写開始部位およびエクソンジャンクションをバリデーションした。開始部位を、5’cap41に関連する配列を同定するためのショートリード法である遺伝子発現のキャップ分析(CAGE)を使用して同定した。成体マウス網膜42からのCAGE-seqリードは、lrCaptureSeqによって同定された転写開始部位の97.5%を裏付けた(1051/1078成体網膜アイソフォームは5’末端部でCAGE-seqカバレッジを有していた;図9D)。さらに、CAGE-seqリードはlrCaptureSeqアイソフォームの5’末端部に選択的にマッピングされ(図9D、E)、転写開始部位注釈の精度をさらに支持する。スプライスジャンクションをバリデーションするために、最初に、lrCaptureSeqエクソンジャンクションの大部分(98.9%)がカノニカルなスプライス部位(n=80,590ジャンクション)で生じたことを検証した。次に、網膜と脳からのショートリードデータセットに、lrCaptureSeqエクソンジャンクションが存在するかどうかを試験した38、39。lrCaptureSeqジャンクションの大部分(98.1%)(n=79,020)は、これらのショートリードデータセットによって裏付けられ、それらの有効性を独立して確認した。これには、lrCaptureSeqアイソフォームの71%の完全なジャンクションカバレッジが含まれていた(n=2,925)。完全なカバレッジを示さなかったアイソフォームの量が大幅に少ないため、発現レベルが低いことにより、未確認のジャンクションはRNA-seqデータに存在しない可能性がある(図10B)。この解釈と一致して、未確認のジャンクションはRT-PCR産物のシークエンシングによって検出することができ、RNA-seq検出しきい値を単に下回っていたことを示唆している(Megf11遺伝子にRNA-seqジャンクションがない場合は、RT-PCRによってn=9/12が検出された)。総合すると、これらの分析により、我々のlrCaptureSeqアイソフォームカタログの有効性が強く支持される。
【0155】
lrCaptureSeqによる効率的なアイソフォーム検出
アイソフォーム検出の精度および感度を精査するために、我々のlrCaptureSeqデータを、Nrxn1およびNrxn3遺伝子のアイソフォーム多様性をカタログ化した以前のロングリードシークエンシング研究と比較した。これらの研究では、PCRを使用してNrxn転写物のαおよびβクラスのアイソフォームライブラリーを生成し、PacBioシークエンシングを使用して特徴付けした15、16。我々が特定したNrxn1およびNrxn3アイソフォームの総数は、ライブラリーの調製方法およびバイオインフォマティクスのワークフローが根本的に異なるにもかかわらず、以前の研究(図2A)と規模が類似していた。選択的スプライス部位(AS)1-AS4でのエクソン使用のパターンも同様であった(データは示していない)。例えば、Nrxn3エクソン24が常にエクソン25aにスプライシングする、以前の研究で同定された決定論的AS4スプライシングイベントを、我々のデータにおいて確認した(n=76エクソン24含有アイソフォーム、すべてエクソン25にスプライシングしている)。これらの知見は、我々のNrxn1および3アイソフォームカタログが、過去の研究によって生成されたものとほぼ一致することを示唆している。それでも、以前のカタログには記載されていなかったニューレキシン遺伝子の新機能を見出すことができた。我々の方法はPCRプライマー配置によりバイアスがなかったため、カノニカルなαまたはβ転写物の開始/終了部位を含まないアイソフォームが見出された。例えば、Nrxn3αのリードの64%には、5’UTRを長くする注釈付きのα転写開始部位の上流に、明確な第1のエクソンが含まれていた。さらに、16の異なるNrxn3αアイソフォームによって使用される、膜貫通ドメインの上流のmRNAを短縮化する7つの新規転写終結部位が同定された(データは示していない)。これらの新しい部位の7つすべてが、RNA-seqデータからのジャンクションカバレッジで裏付けられた。総合すると、これらの知見は、高効率でアイソフォーム多様性を回復する上での、lrCaptureSeqの有用性を実証している。
【0156】
多くのアイソフォームは、全体的な遺伝子発現に寄与している。
我々のlrCaptureSeqデータセットで同定されたアイソフォームの数が多いことを考慮して、次に、アイソフォーム多様性が遺伝子機能に影響を与えるためにどの程度位置付けられているかを調べた。多様性が機能的に重要であるためには、2つの条件を満たす必要がある:1)個々の遺伝子の複数のアイソフォームを意味のあるレベルで発現させなければならない;かつ、2)アイソフォームの配列は、機能の違いをコードする程度に異なっている必要がある。アイソフォームの発現レベルを調査するために、各遺伝子の全体的な発現がアイソフォームポートフォリオ全体にどのように分布しているかを評価した(図2C、E、図10D)。一部の遺伝子-例えば、EgflamおよびCrb1-は、少数のアイソフォームにおいて優勢であった。しかし、アイソフォームの数が最も多い遺伝子の場合、発現レベルはアイソフォーム全体ではるかに均等に分布していた(図2C、E)。シャノン多様度指数43を使用して、発現したmRNA種の多様性に基づいて遺伝子をランク付けした。広範な多様性を生み出すことが知られているNrnx3は、最高位の遺伝子であった。しかし、ラトロフィリンおよびプロテインチロシンホスファターゼ受容体(PTPR)ファミリーの他のいくつかの遺伝子は、ほぼ同じ高得点であった(図2D)。したがって、Nrxn3は、多数のアイソフォームを表現するという点で決して固有ではない。我々は、データセット内の遺伝子については、多様なアイソフォームの多くがかなりのレベルで発現していると結論付けている。
【0157】
lrCaptureSeqアイソフォームの予測される機能的多様性
次に、我々のデータセット内の各遺伝子のアイソフォーム間の配列の差異の程度を調査した。30遺伝子のほとんどは、エクソンの長さおよび数が大きく異なるアイソフォームをコードしており(図10E、F)、機能の多様性が大きい可能性を示唆している。機能的に分岐する可能性が最も高いアイソフォームを同定するために、教師なしクラスタリング法を使用して、配列の類似性に基づいてアイソフォームをグループ化した(図2F、G;図10G)。ほとんどの遺伝子について、アイソフォームを、代替mRNA要素間で同様の選択を行った関連するアイソフォームの別個のグループにクラスタリングした(図2F、G)。したがって、主要な配列の差異は、個々の遺伝子のアイソフォームポートフォリオ内に存在しており、これは、関連するアイソフォームのファミリーによる特定のエクソン配列の包含に起因する可能性がある。
【0158】
これらの配列の差異によって、タンパク質の産出が多様化されるかどうかを知るために、予測されるオープンリーディングフレーム(ORF;表2)を分析した。データセット内の4,116個のアイソフォームの半分以上に、固有のORFが含まれていることが分かった(2,247;54.6%)。遺伝子の小さなサブセットにはmRNA発現の大きな多様性があったが、ORF発現の同等の多様性はなかった(図3A);これは主に、5’UTRの変動または組織的なイントロン保持によるものであった(図11C、D)。しかし、全体として、アイソフォームの数と予測されるORFの数との間には強い相関関係があった(図3A)。多様な発現ORFの量は遺伝子によって異なる;しかし、mRNAと同様に、この予測された多様なタンパク質の大部分は、かなりのレベルで発現していた(図3B~D;図11A、B)。注目すべきことに、ORFの多様性が最も高い遺伝子は、特定のタイプの細胞表面タンパク質をコードする傾向があった。シャノン多様性指数の上位の遺伝子はすべて、シナプス間接着分子をコードしている(図3C)。この結果は、mRNA多様性の主な機能が、シナプス接続の形成または安定性に影響を与えるように配置されたタンパク質バリアントの生成であることを示している。
【0159】
mRNA多様性がタンパク質配列に有意な影響を与えるかどうかを判断するために、個々の遺伝子の予測されるタンパク質産生を調べた。多くの場合、予測されるタンパク質は、十分に特徴付けされた特徴または機能ドメインを含む点で実質的に異なる。この現象は、網膜発生の間の細胞間認識に関与する膜貫通型EGFリピートタンパク質をコードするMegf11遺伝子によって例示されている44。Megf11は、広範な選択的スプライシングの対象となる:26個のタンパク質をコードするエクソンのうち、21個が選択的スプライシングされる(81%)。実際、3つの独立したロングリードシークエンシング実験で同定された234個のMegf11アイソフォーム内の、10個の構成的スプライスジャンクションのみを記録した(図4A、B;図12)。予測されるタンパク質の検査により、このような広範なスプライシングの潜在的な理由が明らかになった:細胞外ドメインを含むEGFリピートのほとんどは、個々のエクソンによってコードされているため、選択的スプライシングによってモジュラー方式で展開される(図4A~D)。細胞内ドメインエクソンも、ショウジョウバエのホモログであるDraper45の状況と同様に、ITAMまたはITIMシグナル伝達モチーフの使用においてモジュール性の可能性を示した(図4A~D)。このモジュラー構成の結果として、予測されたMEGF11タンパク質は、含まれるEGFリピートの数および/または同一性に実質的な変動を示した(図4D)。最も変化しやすいEGFリピートはエクソン14-16bによってコードされていた(図4B);しかし、ほとんどのEGFリピートは別の使用法の対象であった。BaseScope(商標)インサイチュハイブリダイゼーション46、47を使用して、最も変化しやすいエクソンジャンクションのそれぞれが、インビボで網膜ニューロンによって発現することを確認した(図4E)。注目すべきことに、個々のMegf11発現細胞は、試験したすべてのエクソンジャンクションを使用することが分かり、個々のニューロン内でも広範なMegf11のアイソフォーム多様性が存在することが示唆された(図4E)。したがって、昆虫Dscam1と同様に、Megf11は、モジュラー細胞外ドメイン機能の選択的スプライシングを使用して、異なる細胞表面分子をコードするアイソフォームの大きなファミリーを作出する。完全なlrCaptureSeqデータセットの我々の分析とともに、これらの知見は、アイソフォーム多様性が、インビボで神経細胞表面のプロテオームを多様化するのに役立つことを強く示唆している。
【0160】
lrCaptureSeqによって予測される細胞表面タンパク質は、発生中の網膜内で発現する
新規のlrCaptureSeqアイソフォームがタンパク質に翻訳されるかどうかを決定するために、発生中の網膜から得られた細胞表面タンパク質サンプルに対して質量分析を実行した。細胞表面タンパク質を、細胞外エピトープを開裂またはビオチン化する細胞不透過性試薬を使用して捕捉した(図3E、F)。捕捉されたペプチドのいずれかが新規タンパク質アイソフォームに由来するかどうかを知るために、lrCaptureSeqカタログ内のアイソフォームに由来する可能性のあるトリプシンペプチド産物のデータベースを生成した。タンパク質の同定には、未処理の質量分析データを参照ペプチドデータベースと比較する必要があるため、これは不可欠であった。この新しい予測ペプチドデータベースの生成時に、ほとんどのプロテオミクス実験で典型的に使用されるUniProtマウスリファレンスデータベースよりも、我々の30遺伝子の推定ペプチドが約25%多いことが分かった(図11E)。追加の推定ペプチドは、lrCaptureSeqによって予測された新規タンパク質領域を表している。
【0161】
この新しいデータベースを参照として使用すると、28種類の遺伝子に対応する合計686種類のペプチドが見出された。これらのペプチドのうち35種類は、UniProt標準リファレンスには存在せず、我々の新しいリファレンスデータベースにのみ存在していた(図3G)。この画分は、lrCaptureSeqアイソフォームカタログから予測された、典型的な質量分析実験では検出されなかったであろう新規ペプチドを表している。30遺伝子のうち14個で新規ペプチドが見出され、新規エクソン配列、スプライスジャンクション、およびスプライスアクセプター部位をバリデーションした(データは示していない)。これらの知見は、予測されたタンパク質の少なくとも一部が、インビボで網膜細胞の表面に発現していることを実証している。したがって、ここで説明するmRNA多様性は、網膜細胞表面プロテオームの多様性に寄与する。
【0162】
lrCaptureSeqデータベースで最も豊富な転写物は、Crb1の新規アイソフォームである。
新たに発見されたアイソフォームが遺伝子機能への洞察を提供することができるかどうかを調査するために、我々は周知の網膜疾患遺伝子であるCrb1に焦点を当てた。我々のCrb1カタログには15種類のアイソフォームが含まれており、そのうちのいくつかは組織特異的であり、かつ発生的に調節されていた(図5A、B;図13B、C)。成熟した網膜では、Crb1の発現は単一のアイソフォームによって支配されていたが、以前のほぼすべてのCrb1研究の対象となったアイソフォームではなかった。代わりに、優勢なアイソフォームは、固有の5’および3’エクソン(図5A、D;図14A)ならびに新規5’エクソンのすぐ上流にある固有のプロモーター部位(図5C)を有する網膜特異的バリアントであった。このアイソフォームをCrb1-Bと名付け、これをカノニカルなCrb1-Aアイソフォームと区別した。
【0163】
Crb1-Bは、我々のデータセット内の4,116個のアイソフォームの中で最も豊富であったが(図2D)、主要なゲノムデータベース(RefSeq、GENCODE、またはUCSC)では注釈が付けられていなかった。また、我々の知る限り、それは文献に記録されていなかった。CRB1-Bはまた、ヒト網膜cDNAから生成されたlrCaptureSeqデータセットによって示されるように、ヒト網膜において最も豊富なアイソフォームでもある(図5E、G)。3番目のバリアントであるCRB1-Cも、-マウスよりもはるかに高い-中程度のレベルでヒト網膜に発現したが、それでもCRB1-Bほど豊富ではなかった(図5E、G)。マウスにおけるように、ATAC-seqデータによって、ヒト網膜における推定Bアイソフォームプロモーターが明らかになった(図5C、F)。ショートリードデータセットを使用して、マウスおよびヒトの知見を裏付け、次にそれらを他のいくつかの脊椎動物種に拡張した(図5H、I;図13A)。総合すると、これらの結果は、重要な疾患遺伝子の主要な網膜アイソフォームが以前は看過されていたことを実証している。脊椎動物種の範囲全体で、CRB1-Bは網膜の主要なCRB1アイソフォームである。
【0164】
Crb1-AおよびCrb1-Bは、異なる細胞型で発現する細胞表面タンパク質をコードする
Crb1-Bは、CRB1-Aと有意な細胞外ドメインの重複を共有する膜貫通タンパク質をコードすると予測されているが、完全に異なる細胞内ドメインである(図6A、B)。したがって、このタンパク質が発現しているかどうか、発現している場合は、タンパク質がどこに局在しているかを求めた。CRB1-B細胞内ドメインに対して産生された抗体を用いたウエスタンブロッティングは、タンパク質がインビボで存在することを実証した(図6C)。さらに、Crb1-Bプロモーターおよび5’エクソンを欠くように操作されたマウスでは細胞内ドメインの発現がなかったため(図6C;マウスの設計については図7Aを参照のこと)、タンパク質は、lrCaptureSeqによって予測された構成で存在する(図6A)。CRB1-Bは膜貫通タンパク質であるという考えと一致して、CRB1-Bは網膜溶解物の可溶性画分ではなく、膜画分で検出された(図6D)。さらに、異種細胞内で発現した場合、CRB1-Bは、CRB1-Aに非常に類似した方法で原形質膜に輸送された(図14C)。これらのデータは、両方の主要なCRB1アイソフォームが細胞表面に局在することを示唆している。
【0165】
Crb1-AおよびCrb1-Bの発現パターンを決定するために、単一細胞(sc)-RNA-seqデータセット内のlrCaptureSeqアイソフォームの発現を評価する戦略を開発した。この戦略を、発生中のマウス網膜からのscRNA-seqデータに適用して48、各アイソフォームの異なる発現パターンを見出した。Crb1-Aは、主にミュラーグリアによって発現し(図6E、F;図14D)、このことは、以前の免疫組織化学的研究と一致している37、49。対照的に、Crb1-Bは、桿体および錐体光受容体によって発現した(図6E、F;図14B、D)。これらの細胞型特異的発現パターンを、2つの独立した方法を使用してバリデーションした:第1に、桿体および錐体からのATAC-seqデータは、光受容体がCrb1-Bプロモーターを選択的に使用することを示した(図5C)。第2に、BaseScope染色により、2つのアイソフォームの相互に排他的な発現が確認され、Crb1-Aはミュラー細胞に局在し、Crb1-Bは光受容体に局在していた(図6G)。
【0166】
CRB1-Bタンパク質の局在を調べるために、最初に免疫組織化学を試みたが、抗体が好適でないことが分かった。したがって、網膜の連続接線方向凍結切片化とウエスタンブロッティングとを組み合わせた手法に目を向けた50、51。各接線方向切片には、代表的なタンパク質マーカーで認識できる細胞および細胞内構造の特定のサブセットが含まれている(図6H)。このアプローチでは、主に内節および外節内の光受容体層におけるCRB1-Bの発現を確認した。この局在化は、このアイソフォームに特異的な抗体を使用して37、49、OLM内(図6E)のミュラー細胞の頂端に局在化されたCRB1-Aとは著しく対照的である。
【0167】
CRB1-Bは、外境界膜の完全性に必要である
次に、CRB1-Bアイソフォームの機能を調査した。主要なCRB1アイソフォームを発現する2つの細胞型である、光受容体およびミュラーグリア(図6F、G)は、OLMを形成する特殊な細胞間接合に関与する(図6E図7B、C)。CRB1疾患の変性病変は、これらの接合部の破壊に起因する場合があることが示唆されているが、マウスの研究では、CRB1が実際にOLMの完全性に必要かどうかを明らかにすることができていない。2つの既存のCrb1変異系統は、OLM表現型が対立している。rd8として知られるCrb1点変異を有するマウスは、散発的なOLM破壊を示す36が、ここではCrb1ex1と表記するCrb1「ノックアウト」対立遺伝子は、OLM接合部を妨害することができない37。我々のlrCaptureSeqデータは、これら2つの対立遺伝子の重要な違いを明らかにした:rd8はCrb1-AとCrb1-Bの両方のアイソフォームに影響を与えるが、「ノックアウト」ex1対立遺伝子はCrb1-Bをインタクトで残す(図7A)。したがって、Crb1-Bは、OLMでの光受容体-ミュラー接合部の完全性に重要な役割を果たしていると仮定した。この仮説を試験するために、2つの新しい変異対立遺伝子を生成した(図7A図15A、B)。第1のCrb1delBは、Crb1-Aを含む他のアイソフォームを保持しながら、Crb1-Bを消滅させる。第2のCrb1nullは、すべてのCrb1アイソフォームを破壊するように設計された大きな削除である。
【0168】
電子顕微鏡を使用してOLMの完全性を評価すると、Crb1null変異体がOLMで破壊を呈し、それによって光受容体核が内節層に侵入し、外網膜の構造を妨害することが分かった(図7B~E;図15D)。破壊された領域内では、光受容体の内節は、頂端ミュラープロセスとの特徴的な電子密度の高い接合部を欠いており、光受容体-ミュラー接触の破壊によりOLMギャップが生じたことを示している(図7F)。以前に報告されたように、同様の表現型がCrb1rd8変異体でも観察された36図7F、G、J;図15D~F)。OLM表現型への各アイソフォームの寄与を調査するために、Crb1nullおよびCrb1delB対立遺伝子の種々の組み合わせを有するマウスを調べた。Crb1-Bを欠いているがCrb1-Aの2つのコピーを保持しているCrb1delB/delBマウスでは、OLM表現型は依然として明らかであったが、rd8またはnullホモ接合体における場合よりも弱かった(図7H、J)。対照的に、OLM表現型は、Crb1delB/nullマウスのrd8およびnull変異体と同等であり、Crb1-Bを欠いているが、Crb1-Aのコピーを1つ保持している(図7E、J;図15F)。これらの知見は、OLM接合部の完全性には両方のCrb1アイソフォームが必要であることを示しているが、Crb1-Aが存在している場合でも、深刻なOLM破壊が生じる可能性があることを考えると、Crb1-Bの役割は特に重要である。
【0169】
すべてのCrb1アイソフォームを欠くマウスの網膜変性
最後に、CRB1アイソフォームへの洞察を使用してCRB1変性疾患の動物モデルを改善できるかどうかを求めた。光受容体の変性は、既存のCrb1機能喪失マウスには存在しないか、非常に遅いため、ヒトの変性表現型のモデルとしては不十分である36、37、52。Crb1-Bなど、以前は注釈が付けられていなかったCrb1アイソフォームが、これらの軽度の表現型の説明に役立つ可能性があるという仮説を立てた。この可能性と一致して、既存のCrb1変異対立遺伝子のいずれもがすべてのCrb1アイソフォームを完全に排除するわけではないことに気づいた(図7A)。光受容体の変性に対する新しいCrb1アイソフォームの寄与を試験するために、新しく生成されたCrb1delB系統およびCrb1null系統を利用した(図7A)。若い成体マウス(P100)の光受容体数の分析により、Crb1-AとCrb1-Bの両方のアイソフォームが光受容体の生存に必要であることが明らかになった。Crb1delB変異体は、以前に報告されたCrb1ex1変異体37と同様に、正常な光受容体数を有していた(図8A、D;図15C)。したがって、いずれかの主要なアイソフォームを単独で除去しても、変性効果は最小限に抑えられる。対照的に、Crb1nullマウスのすべてのアイソフォームの削除によって、顕著な光受容体変性が生じた(図8A~D)。したがって、有意に細胞が喪失するには、Crb1-AとCrb1-Bの両方が不全であることが必要である。Crb1rd8変異体のP100ではまだ変性は見られず(図8B~D)、これは、有意な変性には約2年かかるという以前の報告と一致している36、52、53。総合すると、これらの遺伝子実験は、-新規Crb1-Bアイソフォームを含む、複数のCrb1アイソフォームが、光受容体の生存に寄与するという結論を支持する。したがって、ヒトの疾患のモデリングは、lrCaptureSeqアイソフォームカタログによって導出される変異対立遺伝子の合理的な設計によって達成することができる。
【0170】
考察
シークエンシング技術の最近の進歩にもかかわらず、CNSトランスクリプトームの真の多様性は驚くほど難解なままである12。ほとんどの遺伝子について、完全なアイソフォームポートフォリオの小さなサブセットのみが記録されている。ここでは、lrCaptureSeqが前例のないレベルの詳細でアイソフォーム多様性を明らかにできることを示す。lrCaptureSeqは、正確かつ効率的であり、存在量の少ないアイソフォームであっても完全長配列を明らかにする程度の深度を備えている。lrCaptureSeqデータの解釈を容易にするために、アイソフォームカタログを分析および視覚化するためのコンパニオンRソフトウェアパッケージを提供している。これらの新しいツールを発生中の神経系に適用することで、細胞表面タンパク質をコードする多種多様なアイソフォームを発見し、そのほとんどは新規であった。多くは、機能的タンパク質ドメインを変化させると予測された。さらに、我々のデータセット全体で最も豊富なアイソフォームであるCrb1疾患遺伝子の新規アイソフォームは、カノニカルなアイソフォームとは異なる発現パターンと機能を有し、それにより疾患関連機能を備えていることが分かった。したがって、CRB1は、包括的な完全長アイソフォーム同定の意義がある顕著な例として機能する。lrCaptureSeqを適用して、多くの異なるCNS領域および細胞型の完全長アイソフォームカタログを生成することができることを提案し、これは、CNS遺伝子の機能および機能不全に対する多くの新しい洞察を引き出す可能性が高いアプローチである。
【0171】
アイソフォームの同定には、かなりのシークエンシング深度が必要である。ショートリードRNA-seqを使用しても、転写物の最も少量の44%では1%のリードしか得られないことを考えると、完全なアイソフォームポートフォリオは最も豊富な遺伝子についてのみ検出可能である可能性がある31、54。標的化CaptureSeqアプローチを使用して、少量の転写物のショートリード検出が改善されてきた31、55。ここでは、タンパク質をコードするmRNAのロングリードシークエンシングにこの戦略を適用して、cDNAサイズおよび発現レベルのために既存のPacBioトランスクリプトームではほとんど表現されない遺伝子グループの深い完全長カバレッジを取得した。アイソフォームの存在量の分布(図2C)から、最も少量のアイソフォームのみが検出を免れたことが明らかである。我々のライブラリー調製プロトコルのサイズ選択ステップを考えると、4.5kb未満の一部のアイソフォームも検出を回避している場合がある(図1B)。このような理由によって、直近のアイソフォームをすべて検出したわけではないと思われる。しかし、長い転写物を濃縮した場合でも、依然としてより短いリードの大きなサンプルを取得し(図10E)、Crb1-B(3.0kb)を含む多くのより小さなアイソフォームを同定した。したがって、lrCaptureSeqカタログには、ある特定の短いおよび/またはまれな転写物が欠けている場合があるが、標的化組織で発現しているアイソフォームのほとんどが検出されたと結論付ける。並列シークエンシング用に30遺伝子を標的にすることでこの深度を達成したが、現在は高スループットのPacBio機器が利用可能であり;これらによって、アイソフォームカバレッジを犠牲にすることなく、実質的により多くの標的化遺伝子を並行してシークエンシングすることが可能になるはずである。
【0172】
我々の結果は、トランスクリプトーム注釈におけるlrCaptureSeqの多くの利用可能性を示唆している。特に刺激的なユースケースの1つは、細胞型特有のアイソフォーム発現パターンの同定である。lrCaptureSeqデータを、単一細胞データを含む既存のショートリードRNA-seqデータセットと統合して、アイソフォーム発現の時間および場所を明らかにできることを示す。現在のところ、この発現マッピングは、ほとんどの単一細胞ライブラリー調製法に固有の3’バイアスのため、3’末端部が異なるアイソフォームに最適である。将来的には、scRNA-seq法を改良して深度およびカバレッジが改善されるため、他のタイプのアイソフォームをこの方法でマッピングに適するようになると予想している。この方法では、神経系の細胞タイプごとにlrCaptureSeqカタログを生成する必要はなく;むしろ、細胞型特異的アイソフォームの発現を、異なるタイプのシークエンシングデータを組み合わせることによって生物情報学的に決定することができる。
【0173】
任意の所与の遺伝子によっていくつのmRNAアイソフォームが産生されるか?我々のデータセット内の30遺伝子の場合、RefSeqアイソフォーム数の中央値は11.5であり、51を超える遺伝子はなかった。対照的に、lrCaptureSeqカタログのアイソフォーム数の中央値は50であったが、最も多様な遺伝子であるNrxn3は900近くを有していた。全体として、lrCaptureSeqアイソフォームの数は、参照トランスクリプトームで注釈付けされた数をほぼ1桁上回った(図2B)。対照的に、長鎖非コーディングRNAの以前のCaptureSeq研究では、2倍以上のアイソフォームしか見出されなかった40。したがって、ほとんどの遺伝子が複数のアイソフォームを生成することが広く認識されているにもかかわらず、細胞表面分子について我々が明らかにした多様性の規模は、依然として驚くべきものであった。我々の30遺伝子は、転写物の多様性のエビデンスを示したために選択されたことを考えると、おそらく平均的な遺伝子よりも多くのアイソフォームを有する(図1A)。そのような多様性が他の遺伝子クラスおよび他の組織に典型的であるかどうかは、-おそらくlrCaptureSeq方法のより広範な適用を通じて、まだ決定されていない。
【0174】
細胞表面タンパク質の広範な多様性が、精密なニューロン接続の形成に関与している可能性があるのではないかと長い間考えられてきた5、8、56。しかし、最近、多数の細胞表面手がかりの必要性が疑問視されている57。この見方では、広範な多様性は、Dscam1およびクラスタリングされたプロトカドヘリンによって媒介される自己認識と非自己認識の間など、ある特定の選択された状況でのみ必要とされる58、59。ここでは、広範なアイソフォーム多様性が多くの細胞表面受容体遺伝子に広がっていること、および個々のニューロンがある特定の遺伝子のアイソフォームを多数発現している可能性が高いことを示している(例えば、Megf11;図4E)。したがって、「多数の手がかり」モデルの分子的前提条件が整っている。驚くべきことに、タンパク質の多様性が最も予測される遺伝子は、シナプス間細胞接着分子としての共通の機能を共有している(図3C)。これらの遺伝子の多くは、シナプス形成において既知の役割を果たしている19、60、61。したがって、これらの多様な分子手がかりは、シナプス接続の精度に影響を与えるために正確に正しい場所に配置されている可能性がある。本明細書で記載されたアイソフォームがシナプス特異性においてどの程度機能するかを知ることは興味深い。
【0175】
Dscam1アイソフォーム多様性の顕著な特徴は、結合特異性を改変するためのIgリピートのモジュラー展開である。細胞外ドメインモチーフのモジュラースワッピングの可能性が同等に高い他の遺伝子は、これまでに同定されていなかった。ここでは、網膜発生の間に同型の細胞間反発を媒介する認識分子であるMegf1144が、EGF様リピートの広範なモジュラー使用を通じて細胞外ドメインを多様化することを示す。選択的スプライシングによるモジュラーEGFリピートスワッピングの現象は、小規模ではあるが、ネトリン-Gタンパク質で以前に観察されている62。したがって、多くのEGFリピート遺伝子が同様のモジュラー戦略を使用して細胞表面タンパク質の大きなファミリーを生成し得ることが可能である。
【0176】
我々のCRB1の研究は、個々の遺伝子の完全なアイソフォーム産生を記録することの価値と重要性を示している。CRB1は、レーバー先天性黒内障、網膜色素変性症、黄斑ジストロフィーなどの遺伝性網膜変性疾患の主要な原因遺伝子である63~65。そのため、マウスCrb1とヒトCRB1の両方が集中的に研究されてきた。それにもかかわらず、成熟ヒト網膜の主要なCRB1アイソフォームであるCRB1-Bは、これまで検出が回避されてきた。CRB1-Bは、その5’および3’エクソンが、CRB1-Aと区別する転写物の唯一の部分であるため、看過されている場合がある。ショートリードシークエンシングでは、これら2つの離間したエクソンが同じ転写物で典型的に一緒に使用されていることを判断するのは困難である。対照的に、lrCaptureSeqは、最も豊富な網膜CRB1アイソフォームが、これらの従来と異なる5’および3’エクソンを含む新規バリアントであることを明確に示した。
【0177】
Crb1-AおよびCrb1-Bは、それらの別個の5’および3’末端部(図6A)のために、それらに別個の機能を与える可能性が高い重要な点において異なっている。それらの5’エクソンは、異なる細胞型-ミュラーグリアのCrb1-Aと光受容体のCrb1-B-において発現を駆動する異なるプロモーターを有するが、3’エクソンは異なる細胞内ドメインをコードしている。CRB1-A細胞内ドメインは、ショウジョウバエクラムスの他の脊椎動物ホモログと同様に、クラムス複合体として知られる極性タンパク質との相互作用を媒介する2つの高度に保存されたモチーフを含有している66。これらのモチーフは、クラムスホモログを頂端接合部に局在化し、上皮の構造的完全性および頂底極性を維持するために必要とされる33。CRB1-Bはこれらの保存されたモチーフを欠いており、CRB1-AとCRB1-Bとが異なる細胞内相互作用パートナーを介して異なる細胞型で機能するモデルを示唆している。
【0178】
我々の知見は、CRB1およびクラムス複合体がミュラーグリアと光受容体との間のOLM接合部の完全性に必要であると仮定しており、これは、CRB1疾患の一般的なモデルに影響を及ぼす26。このモデルの主な課題は、CRB1-Aを欠くCrb1ex1変異体37におけるOLM表現型の欠如または光受容体変性であった(図7A)。この変異マウスはnull対立遺伝子であると考えられていたため、その弱い表現型は、CRB1がマウスの光受容体の生存に重要でない可能性があることを示唆していた26。ここでは、CRB1がOLMの完全性および光受容体の生存に実際に必要であることを示しているが、メカニズムには光受容体特異的CRB1-Bアイソフォームが決定的に関与している。さらに、2つのアイソフォーム間の遺伝的相互作用を示し、Crb1ex1変異系統では不明瞭であったCRB1-AのOLMの完全性および生存促進機能を明らかにする。我々は、グリアにおけるCRB1-Aと光受容体におけるCRB1-Bの協調作用によって、おそらくそれぞれの細胞型における接合タンパク質複合体の集合または維持を通じて、OLMの完全性および光受容体の健康が制御されることを提案する。
Crb1-AおよびCrb1-B機能の協調という概念は、両方のアイソフォームに影響を与える点変異であるCrb1rd8図7A)がCrb1ex1よりも多くの変性を呈するという事実によってさらに支持されている36、37、53。しかし、AとBの両方のアイソフォームが両方の変異体で影響を受けている場合でも、Crb1rd8はCrb1nullよりも明らかに重症度が低くなっている(図8)。この違いの考えられる理由の1つは、Crb1rd8がmRNAまたはタンパク質null53ではない場合があるということである。別の可能性は、Crb1rd8の影響を受けないため、Crb1-Cアイソフォームが代償的な役割を果たす場合があるということである(図7A)。いずれにせよ、我々の結果は、完全なアイソフォームカタログが利用可能になると、マウス疾患モデルの設計が大幅に強化されることを示している。
【0179】
全体として、我々の研究は、完全かつ正確な完全長のアイソフォームカタログを構築することの価値を強調している。このような情報が不足していると、重要な遺伝子機能が看過され、遺伝子実験および疾患の表現型についての誤解を招く可能性がある。ディープロングリードキャプチャーシークエンシングによって提供されるトランスクリプトームの「グラウンドトゥルース」は、トランスクリプトーム注釈ツールボックスへの重要な追加であり、これにより、幅広い正常および疾患プロセスに寄与する特定のmRNAアイソフォームの発見が可能になると期待されている。
【0180】
参考文献





図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図14-4】
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図16
【配列表】
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