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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】米加工素材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240904BHJP
   A21D 2/36 20060101ALN20240904BHJP
   A21D 13/00 20170101ALN20240904BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/10 B
A21D2/36
A21D13/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022196061
(22)【出願日】2022-12-08
(65)【公開番号】P2024082311
(43)【公開日】2024-06-20
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】511037632
【氏名又は名称】学校法人実践女子学園
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】守田 和弘
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-187663(JP,A)
【文献】特開2012-244936(JP,A)
【文献】特開2014-100094(JP,A)
【文献】特開2015-019629(JP,A)
【文献】特開2017-153425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00-7/25
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を水に浸漬して吸水した米を得る吸水工程と、
前記吸水した米を水とともに磨砕して磨砕液を得る磨砕工程と、
前記磨砕液を炊飯する炊飯工程とを有する、
米加工素材の製造方法。
【請求項2】
前記磨砕工程において、水の量が前記米の乾燥重量の1~4倍量である、請求項1に記載の米加工素材の製造方法。
【請求項3】
前記磨砕工程において、吸水に用いた水を捨てた後に新たな水を加えて磨砕する、請求項1または2に記載の米加工素材の製造方法。
【請求項4】
前記吸水工程において、米を水に1~5時間浸漬させる、請求項1または2に記載の米加工素材の製造方法。
【請求項5】
前記米が、玄米、発芽玄米、分搗き米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の米加工素材の製造方法。
【請求項6】
米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯してなる、米加工素材。
【請求項7】
前記米が、玄米、発芽玄米、分搗き米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項6に記載の米加工素材。
【請求項8】
かたさ応力が1~250kPaである、請求項6または7に記載の米加工素材。
【請求項9】
付着性が500 J/m3~12000 J/m3である、請求項6または7に記載の米加工素材。
【請求項10】
米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯してなる米加工素材を用いて製造された、加工食品。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米を原料とする米加工素材の製造方法、この製造方法を用いて製造された米加工素材、およびこの米加工素材を用いて製造された加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
米の消費量は、1962年をピークに減少傾向であり、2016年にはピーク時の半分以下に減少している。近年、米の消費量を増やすために、主食としての米飯だけでなく、米粉などへの利用が検討されている。
【0003】
米粉は、米を砕いて粉状にしたものであり、パン、ケーキおよび麺などに用いられている。小麦粉の代わりに米粉を用いることにより、小麦の価格変動に対応することができる。また、米粉を用いることによって、小麦アレルギーの人でも安心して食べることができる。
【0004】
たとえば、特許文献1には、米粉及び焙煎米粉の全量に対し、前記焙煎米粉を1.5質量%以上含む、パン用米粉組成物が開示されている。
【0005】
しかし、米粉の製造には製粉コストがかかることが問題となっている。また、米の消費量は、いまだ伸び悩んでいるのが現状である。
【0006】
また、玄米は、ビタミンB1を多く含むことなどから、健康食品として注目されている。しかし、玄米は食感や風味が悪いため、嗜好性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2022-083802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
米の消費量を増やすため、従来の米飯および米粉とは異なる新たな加工素材の開発が求められている。また、玄米の嗜好性を改善することができれば、新たな健康食品を提供できることが期待される。
【0009】
そこで、本発明は、従来の米加工素材とは異なる物性を有し、かつ玄米の嗜好性を改善することができる新たな米加工素材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯したところ、従来の素材とは異なる特徴的な物性を有する米加工素材を得ることができることを見出した。この方法であれば、磨砕前の浸漬時間、磨砕時の加水量の調節、および磨砕の強度等を変えることによって、液状、ゲル状およびペースト状などの幅広い物性を有する米加工素材を提供可能であることを見出した。また、この方法であれば、玄米を用いた場合でも、嗜好性を向上させることができることを見出した。本発明は、これらの知見をもとになされた。
【0011】
本発明は、米を水に浸漬して吸水した米を得る吸水工程と、吸水した米を水とともに磨砕して磨砕液を得る磨砕工程と、磨砕液を炊飯する炊飯工程とを有する、米加工素材の製造方法を提供する。
【0012】
本発明はまた、上記磨砕工程において、水の量が米の乾燥重量の1~4倍量である、米加工素材の製造方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、上記磨砕工程において、吸水に用いた水を捨てた後に新たな水を加えて磨砕する、米加工素材の製造方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、上記吸水工程において、米を水に1~5時間浸漬させる、米加工素材の製造方法を提供する。
【0015】
本発明はまた、上記米が、玄米、発芽玄米、分搗き米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つである、米加工素材の製造方法を提供する。
【0016】
本発明はまた、米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯してなる、米加工素材を提供する。
【0017】
本発明はまた、上記米が、玄米、発芽玄米、分搗き米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つである、米加工素材を提供する。
【0018】
本発明はまた、かたさ応力が1~250kPaである、上記米加工素材を提供する。
【0019】
本発明はまた、付着性が500 J/m3~12000 J/m3である、上記米加工素材を提供する。
【0020】
本発明はまた、米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯してなる米加工素材を用いて製造された、加工食品を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により得られる米加工素材は、従来の米粉等の米加工素材とは異なる特徴的な物性を有するため、新たな食感を呈する加工食品等を提供することができる。また、本発明の米加工素材の製造は、低コストで簡便に行うことができる。また、本発明であれば、玄米を用いた場合でも、嗜好性を向上させることができる。そのため、本発明は、米の新たな利用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例として、白米を用いた米加工素材の外観を示す図。
図2】本発明の実施例として、玄米を用いた米加工素材の外観を示す図。
図3】白米を用いた本発明の一実施例(炊飯処理)および比較例(通常加熱処理)の米加工素材の外観を示す図。
図4】玄米を用いた本発明の一実施例(炊飯処理)および比較例(通常加熱処理)の米加工素材の外観を示す図。
図5】本発明の一実施例の米加工素材団子および比較例の上新粉団子の官能評価の結果を示す図。
図6】本発明の一実施例の米加工素材団子および比較例の上新粉団子の外観を示す図。
図7】玄米を用いた本発明の一実施例(磨砕あり)および比較例(磨砕なし)の米加工素材の外観を示す図。
図8】本発明の米加工素材の一実施例を用いて製造したパンの外観を示す図。
図9】玄米粉を用いて製造したパン、玄米ペーストを用いて製造したパン、および本発明の玄米の米加工素材の一実施例を用いて製造したパンの外観を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(米加工素材の製造方法)
本発明は、米加工素材の製造方法を提供する。
【0024】
本発明の米加工素材は、米を原料とした、食品の材料となる素材である。本発明において、米は、玄米、発芽玄米、分づき米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つであることができる。分づき米は、たとえば7分づき米、5分づき米および3分づき米等であることができる。本発明の米加工素材に用いる米は、上述したものの1種類のみであってもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明の製造方法は、米を水に浸漬して吸水した米を得る吸水工程と、吸水した米を水とともに磨砕して磨砕液を得る磨砕工程と、磨砕液を炊飯する炊飯工程とを有する。
【0026】
吸水工程では、米を水に浸漬することにより吸水させる。水は、特に限定されず、水道水、浄水、ミネラルウォーター、蒸留水およびイオン交換水等を用いることができる。浸漬する方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、たとえば容器内で米を水の中に浸漬する方法等を用いることができる。
【0027】
吸水工程における水の量は、米が十分に水に浸漬する量であれば特に限定されないが、たとえば米の乾燥重量の1倍以上であることができる。
【0028】
水に浸漬する時間は、米が十分に吸水するまで浸漬すればよく、特に限定されないが、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上である。また、水に浸漬する時間は、特に限定されないが、たとえば15時間以下、10時間以下、または5時間以下等であることができる。
【0029】
吸水工程における水の温度は、特に限定されないが、5~60℃であることができる。吸水工程では、たとえば20~30℃の室温にて吸水させてもよいし、冷蔵庫に一晩置いて吸水させてもよい。
【0030】
磨砕工程では、吸水工程において吸水した米を水とともに磨砕して磨砕液を得る。磨砕する方法は、特に限定されないが、たとえば市販のミキサーを用いて攪拌および混合する方法を用いることができる。ミキサーを用いて磨砕する時間は、特に限定されないが、たとえば1~5分間磨砕することができる。また、磨砕工程では、米が液状になるまで磨砕してもよい。
【0031】
磨砕工程において米とともに磨砕する水は、吸水工程において吸水のために用いた水をそのまま用いてもよいし、新たに加えてもよい。たとえば、吸水工程において吸水した米を、吸水工程において用いた水とともにそのまま磨砕処理に供してもよい。また、磨砕処理の前に水の量を減らしてもよく、新たに水を加えてもよい。また、吸水工程において用いた水を捨てた後に新たな水を加えてもよい。新たに加える場合には、水は、特に限定されず、水道水、浄水、ミネラルウォーター、蒸留水およびイオン交換水等を用いることができる。
【0032】
磨砕工程において、米とともに磨砕する水の量は、特に限定されないが、たとえば米の乾燥重量の0.8倍量以上5倍量以下、好ましくは1倍量以上4倍量以下とすることができる。磨砕工程における水の量は、所望する米加工素材の物性、外観および形態等によって調節することができる。たとえば、水の量が少ないほど、かたく粘りの強い米加工素材を得ることができ、水の量が多いほど、柔らかく粘りの弱い米加工素材を得ることができる。
【0033】
本発明の製造方法では、磨砕工程における水の量(加水量)を調節することにより、得られる米加工素材のかたさおよび付着性などの物性を様々に変化させ、所望の物性を有する米加工素材を得ることができる。たとえば、磨砕工程における加水量を米の乾燥重量の0.8~1.5倍とすることにより、ゲル状の米加工素材を製造してもよい。また、加水量を米の乾燥重量の1.5~2.5倍とすることにより、ペースト状の米加工素材を製造してもよい。また、加水量を米の乾燥重量の2.5~4倍とすることにより、液状の米加工素材を製造してもよい。加水量と、得られる米加工素材の物性とは、上述したものに限定されず、米の品種、精米の程度および炊飯処理の条件等によって変動し得る。
【0034】
炊飯工程では、磨砕して得られた磨砕液を炊飯処理する。本明細書において「炊飯処理」とは、単なる加熱処理とは異なり、閉じられた系において沸騰させた後に蒸らす処理をいう。炊飯処理する方法には、たとえば、いわゆる炊飯器を用いて炊飯する方法に限らず、米を炊いて米飯とするための公知の方法を用いることができる。炊飯器には、家庭用または業務用などの一般的な炊飯器を用いることができる。炊飯処理の条件は、特に限定されないが、たとえば炊飯器を用いて90~120℃、10~80分間(好ましくは40~60分間)保持する方法などを用いることができる。また、本発明の炊飯工程では、炊飯器を用いず、飯盒、ステンレス鍋および土鍋などを用い、蓋をして「閉じられた系」にて「沸騰および蒸らし」を行うことにより炊飯処理を行ってもよい。本発明における炊飯工程は、たとえば95℃以上にて15~30分間沸騰および蒸し煮を行った後、90℃以上にて5~30分間蒸らすことにより実施されてもよい。
【0035】
(米加工素材)
本発明はまた、米を水に浸漬して吸水させた後、水とともに磨砕して得られた磨砕液を炊飯してなる、米加工素材を提供する。本発明の米加工素材は、上述した製造方法によって製造することができる。
【0036】
本発明において、米は、玄米、発芽玄米、分搗き米、胚芽米、白米、無洗米および雑穀米からなる群より選択される少なくとも1つであることができる。
【0037】
本発明の米加工素材のかたさ応力は、特に限定されないが、たとえば250kPa以下、150kPa以下、80kPa以下、50kPa以下、40kPa以下、30kPa以下、20kPa以下、および10kPa以下等であることができる。また、本発明の米加工素材のかたさ応力は、特に限定されないが、たとえば1kPa以上、4kPa以上、6kPa以上、10kPa以上、20kPa以上、30kPa以上、40kPa以上、70kPa以上、100kPa以上および200kPa以上等であることができる。かたさ応力が高ければ、かたい物性の米加工素材とすることができ、かたさ応力が低ければ、柔らかい物性の米加工素材とすることができる。
【0038】
本発明の米加工素材の付着性は、特に限定されないが、たとえば12000 J/m3以下、8000 J/m3以下、5000 J/m3以下、4000 J/m3以下、3000 J/m3以下、2000 J/m3以下、1000 J/m3以下および800 J/m3以下等であることができる。また、本発明の米加工素材の付着性は、特に限定されないが、たとえば500 J/m3以上、800 J/m3以上、1500 J/m3以上、2000 J/m3以上、3000 J/m3以上、4000 J/m3以上、7000 J/m3以上および10000 J/m3以上等であることができる。付着性が高ければ、粘りの強い米加工素材とすることができ、付着性が低ければ、粘りの弱い米加工素材とすることができる。
【0039】
かたさ応力および付着性は、たとえば得られた米加工素材を60℃で保温し、一軸圧縮試験機を用いて圧縮速度10 mm/sで測定することができる。
【0040】
本発明の米加工素材の形態は、特に限定されないが、液状、ペースト状およびゲル状などであることができる。
【0041】
(加工食品)
本発明はまた、上記米加工素材を用いて製造された加工食品を提供する。本発明の加工食品は、特に限定されないが、たとえばパン類;麺類;菓子類;揚げ物類;調味料類;粉物料理類などであることができる。パン類には、たとえば食パン、イギリスパン、フランスパン、ライ麦パン、マフィン、フォカッチャ、コッペパン、ロールパン、クロワッサン、菓子パン、調理パン、ピザ、パイ、ピタ、ナンおよび蒸しパン等が含まれる。麺類には、たとえばうどん、そば、中華麺、そうめんおよびスパゲティ等が含まれる。菓子類には、たとえば団子、ケーキ、ドーナツ、ワッフル、パイ、シュー、クレープ、クッキーおよびビスケット等が含まれる。揚げ物類には、たとえば天ぷら、フライおよびから揚げ等が含まれる。調味料類には、たとえばソースおよびたれ類等が含まれる。粉物料理類には、たとえばたこ焼きおよびお好み焼き等が含まれる。
【0042】
本発明の米加工素材は、たとえば通常小麦粉を用いる加工食品において、小麦粉の全てまたは一部の代わりに用いられることができる。本発明の米加工素材は、通常小麦粉を用いる加工食品において、小麦粉の一部の代わりに用いられる場合、たとえば小麦粉の配合量の10~50%、好ましくは20~40%の量の小麦粉の代わりに配合してもよい。本発明の米加工素材を加工食品における小麦粉の全てまたは一部と置き換えることにより、加工食品の原価を抑えることができる。
【実施例
【0043】
以下に実施例を示し、本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例では、米の品種に「コシヒカリ」を使用したが、米の品種は特に限定されない。また、本実施例では、白米および玄米を使用したが、精米の程度はこれらに限定されない。また、本発明の米加工素材の製造方法において用いられる磨砕のためのミキサーおよび炊飯器には、一般的なミキサーおよび炊飯器を用いることができ、本実施例において使用したものに限定されない。
【0044】
〔実施例1~12〕
本発明の米加工素材の実施例を製造し、その性状および物性を評価した。
【0045】
白米または玄米100 gを、十分な吸水が得られるまで浸漬(白米:1時間以上、玄米:5時間以上)した。その後、浸漬水を一旦捨て、乾燥重量の1~4倍量(100~400 g)の水と共にミキサー(MX-X701、Panasonic社製)に入れ、低速モード(7900回転/分)で2分間磨砕を行った。磨砕を行う際の加水量は、表1および表2に示す。得られた磨砕液を全量炊飯器に入れ、炊飯を行った。炊飯は、炊飯器(JPK-B100、TIGER社製)を用いて早炊きモードで20分間行った。炊飯後、しゃもじで攪拌し、米加工素材を得た(実施例1~12)。
【0046】
図1は、白米を用いた米加工素材(実施例2、4、5)の外観を示す。実施例5の米加工素材(加水量3倍)は、外観が液状となった。実施例4の米加工素材(加水量2倍)は、外観がペースト状となった。また、実施例2の米加工素材(加水量1.2倍)は、外観がゲル状となった。
【0047】
図2は、玄米を用いた米加工素材(実施例8、10、11)の外観を示す。実施例11の米加工素材(加水量3倍)は、外観が液状となった。実施例10の米加工素材(加水量2倍)は、外観がペースト状となった。また、実施例8の米加工素材(加水量1.2倍)は、外観がゲル状となった。
【0048】
次に、得られた米加工素材を60℃で保温し、一軸圧縮試験機(レオナーRE2-3305、山電製)を用いて圧縮速度10 mm/sでかたさ応力および付着性を測定した。実施例1~6(白米を用いた米加工素材)のかたさ応力および付着性を表1に示す。実施例7~12(玄米を用いた米加工素材)のかたさ応力および付着性を表2に示す。
【0049】
表1に示すように、白米を用いた米加工素材のかたさ応力は、加水量が少ないほど高かった。すなわち、加水量が少ないほどかたくなることが示された。また、白米を用いた米加工素材の付着性は、加水量が少ないほど高かった。すなわち、加水量が少ないほどべたつきが強くなることが示された。
【0050】
表2に示すように、玄米を用いた米加工素材のかたさ応力は、加水量が少ないほど高かった。すなわち、加水量が少ないほどかたくなることが示された。また、玄米を用いた米加工素材の付着性は、加水量2倍で最も高く、加水量がそれよりも多くなると低下することがわかった。すなわち、玄米を用いた米加工素材は、加水量を2倍程度とすることにより、付着性の高い、すなわち粘りの強い加工素材とすることができることが示された。
【0051】
これらの結果から、加水量を調節することによって、かたさや付着性を変化させ、様々な物性を持つ加工素材を製造することが可能であることが確認された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
〔実施例13~14〕
白米および玄米の米加工素材について、磨砕後に、炊飯した場合と通常加熱した場合との水分変化およびテクスチャー特性を比較した。
【0055】
白米または玄米100 gを、十分な吸水が得られるまで浸漬(白米:1時間以上、玄米:5時間以上)した。その後、浸漬水を一旦捨て、乾燥重量の2倍量(200 g)の水と共にミキサー(MX-X701、Panasonic社製)に入れ、低速モード(7900回転/分)で2分間磨砕を行った。この磨砕物を、実施例1~12と同じ条件で炊飯し、実施例13(白米)および実施例14(玄米)の米加工素材を得た。また、磨砕物を、片手鍋で5分間加熱し、比較例1(白米)および比較例2(玄米)の米加工素材を得た。
【0056】
図3は、白米を用いた実施例13(炊飯処理)および比較例1(通常加熱処理)の米加工素材の外観を示す。炊飯処理した実施例13の米加工素材は、粘りのある柔らかなテクスチャーを有していた。一方、通常の加熱処理を行った比較例1の米加工素材は、かたいテクスチャーを有し、実施例13と比較して、食した際のパサつきが大きかった。このように、炊飯処理した実施例13と通常の加熱処理を行った比較例1とは、明らかに異なる食感を呈していた。
【0057】
白米を用いた実施例13および比較例1について、炊飯または加熱の前後における水分量(g/100 g)を表3に示す。実施例13では、炊飯処理前の水分量は71.5(g/100g)、炊飯処理後の水分量は68.1(g/100g)であり、3.4(g/100g)減少した。一方、比較例1では、加熱前の水分量は71.5(g/100g)、加熱後の水分量は64.9(g/100g)であり、6.6(g/100g)減少した。このように、炊飯処理した場合には、通常の加熱処理を行った場合と比較して、水分の減少量が顕著に少なかった。
【0058】
白米を用いた実施例13および比較例1の米加工素材のかたさ応力、凝集性および付着性を測定した。得られた米加工素材を60℃で保温し、一軸圧縮試験機(レオナーRE2-3305、山電製)を用いて圧縮速度10 mm/sでかたさ応力、凝集性および付着性を測定した。
【0059】
実施例13および比較例1のかたさ応力、凝集性および付着性を表4に示す。実施例13のかたさ応力は19.5kPaであり、比較例1の28.1kPaと比較して顕著に低かった。また、実施例13の凝集性は0.71であり、比較例1の0.86と比較して低かった。また、実施例13の付着性は3837J/m3であり、比較例1の9504J/m3と比較して顕著に低かった。このように、炊飯処理した実施例13の米加工素材は、通常の加熱処理を行った比較例1の米加工素材とは明らかに異なる物性を有することが示された。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
図4は、玄米を用いた実施例14(炊飯処理)および比較例2(通常加熱処理)の米加工素材の外観を示す。炊飯処理した実施例14の米加工素材は、通常加熱処理を行った比較例2と比べて、もちもちとした口当たりの良い食感を呈した。このように、炊飯処理した実施例14と通常の加熱処理を行った比較例2とは、明らかに異なる食感を呈していた。
【0063】
玄米を用いた実施例14(炊飯処理)および比較例2(通常加熱処理)について、炊飯または加熱の前後における水分量(g/100 g)を表5に示す。実施例14では、炊飯処理前の水分量は69.6(g/100g)、炊飯処理後の水分量は68.2(g/100g)であり、1.4(g/100g)減少した。一方、比較例1では、加熱前の水分量は69.6(g/100g)、加熱後の水分量は63.7(g/100g)であり、5.9(g/100g)減少した。このように、炊飯処理した場合には、通常の加熱処理を行った場合と比較して、水分の減少量が顕著に少なかった。
【0064】
玄米を用いた実施例14および比較例2の米加工素材のかたさ応力、凝集性および付着性について、上述した方法を用いて測定した。
【0065】
実施例14および比較例2のかたさ応力、凝集性および付着性を表6に示す。実施例14のかたさ応力は27.4kPaであり、比較例2の47.6kPaと比較して顕著に低かった。また、実施例14の凝集性は0.68であり、比較例2の0.53と比較して高かった。また、実施例14の付着性は4550J/m3であり、比較例2の7020J/m3と比較して顕著に低かった。このように、炊飯処理した実施例14の米加工素材は、通常の加熱処理を行った比較例2の米加工素材とは明らかに異なる物性を有することが示された。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
〔実施例15〕
本発明の一実施例として、白米の米加工素材を使用した団子を製造した。白米の米加工素材は、実施例1と同様の方法を用い、磨砕時の加水量を米の乾燥重量の1倍として製造した。団子の製造方法は、上新粉を用いて製造する場合の通常の製造方法を用いた。各材料の配合量を以下に示す。
【0069】
(実施例15:米加工素材団子)
白米の米加工素材(1倍加水):100g
砂糖 :15g
【0070】
また、比較例として、米加工素材の代わりに上新粉を使用した団子を製造した。各材料の配合量を以下に示す。
【0071】
(比較例3:上新粉団子)
上新粉:50g
水 :50g
砂糖 :15g
【0072】
(官能評価)
実施例15および比較例3の団子を実際に食し、官能評価を行った。官能評価では、団子の「外観」、「食感」、「もちもち感」、「食べやすさ」および「味」のそれぞれの項目を評価した。各項目は、比較例3の評価値を0点としたときの評点を、-3点(悪い)、-2点、-1点、0点、1点、2点、3点(良好)の7段階で評価した。この評価は、訓練された13人のパネラーにて実施し、その平均値を算出した。また、各項目の値の平均値を算出し、「総合評価」とした。各項目の判断基準を以下に示す。
【0073】
(外観の判断基準)
3点:比較例と比較して、かなり見た目が良い
2点:比較例と比較して、見た目が良い
1点:比較例と比較して、やや見た目が良い
0点:比較例と同等である
-1点:比較例と比較して、やや見た目が悪い
-2点:比較例と比較して、見た目が悪い
-3点:比較例と比較して、かなり見た目が悪い
【0074】
(食感の判断基準)
3点:比較例と比較して、かなり食感がよい
2点:比較例と比較して、食感がよい
1点:比較例と比較して、やや食感がよい
0点:比較例と同等である
-1点:比較例と比較して、やや食感が悪い
-2点:比較例と比較して、食感が悪い
-3点:比較例と比較して、かなり食感が悪い
【0075】
(もちもち感の判断基準)
3点:比較例と比較して、もちもち感がかなり強い
2点:比較例と比較して、もちもち感が強い
1点:比較例と比較して、もちもち感がやや強い
0点:比較例と同等のもちもち感である
-1点:比較例と比較して、もちもち感がやや弱い
-2点:比較例と比較して、もちもち感が弱い
-3点:比較例と比較して、もちもち感がかなり弱い
【0076】
(食べやすさの判断基準)
3点:比較例と比較して、かなり口当たりがよく、食べやすい
2点:比較例と比較して、口当たりがよく、食べやすい
1点:比較例と比較して、やや口当たりがよく、食べやすい
0点:比較例と同等
-1点:比較例と比較して、やや口当たりが悪く、食べにくい
-2点:比較例と比較して、口当たりが悪く、食べにくい
-3点:比較例と比較して、かなり口当たりが悪く、食べにくい
【0077】
(味の判断基準)
3点:比較例と比較して、味がかなり良好である
2点:比較例と比較して、味が良好である
1点:比較例と比較して、味がやや良好である
0点:比較例と同等である
-1点:比較例と比較して、味がやや悪い
-2点:比較例と比較して、味が悪い
-3点:比較例と比較して、味がかなり悪い
【0078】
実施例15の米加工素材団子および比較例3の上新粉団子の官能評価の結果を図5および表7に示す。また、実施例15の米加工素材団子および比較例3の上新粉団子の外観を図6に示す。図5では、対応のあるt検定の結果、比較例3の上新粉団子と実施例15米加工素材団子の平均値間において、「**」は1%水準、「*」は5%水準で有意差があることを示す。実施例15の団子は、「食感」、「もちもち感」、「食べやすさ」および「味」の項目において、比較例3に対し有意に良好であるという結果が得られた。実施例15の団子は、特に、「もちもち感」において高い評価が得られた。
【0079】
【表7】
【0080】
〔実施例16〕
本発明の玄米の米加工素材について、磨砕せずに炊飯処理したものと比較した。
【0081】
玄米170 gに2倍量の水350 gを加え、5時間浸漬後、ミキサー(MX-X701、Panasonic社製)により低速モード(7900回転/分)で2分間磨砕を行った。得られた磨砕液を実施例1~12と同じ条件で炊飯し、米加工素材(実施例16)を得た。
【0082】
また、比較例4として、磨砕せずに炊飯した以外は実施例16と同様に製造した米加工素材を製造した。
【0083】
図7は、玄米を用いた実施例16(磨砕あり)および比較例4(磨砕なし)の米加工素材の外観を示す。実施例16の米加工素材は、柔らかく粘りがあり、表面がなめらかであった。一方、比較例4の米加工素材は、かたく粒が残っていてまとまりが悪かった。
【0084】
実施例16および比較例4を実際に食し、官能評価を行った。実施例16の米加工素材は、比較例4の米加工素材と比べて「食感が良い」「食べやすい」「玄米特有の臭いが軽減されている」という評価が得られた。したがって、本発明の方法であれば、玄米を用いた場合でも嗜好性が著しく向上することが示された。
【0085】
〔実施例17〕
本発明の一実施例として、白米の米加工素材を使用したパンを製造した。白米の米加工素材は、実施例1と同様の方法を用い、磨砕時の加水量を米の乾燥重量の1.4倍として製造した。パンは、小麦粉を用いて製造する場合の通常の製造方法を用い、小麦粉の一部(約50%)を白米の米加工素材に代えて製造した。各材料の配合量を以下に示す。
白米の米加工素材(1.4倍加水):600 g(白米250 g+水350 gで製造)
小麦粉(強力粉) :250 g
バター :30 g
砂糖 :25 g
食塩 :10 g
脱脂粉乳 :10 g
ドライイースト :4 g
【0086】
図8は、本発明の米加工素材の一実施例を用いて製造したパンの外観を示す。実施例17のパンを試食してアンケートを実施したところ、小麦粉100%のパンおよび市販の米粉パンと比較して、実施例17のパンはもちもち感が強く、甘みがあり、風味がよいという評価が得られた。
【0087】
〔実施例18〕
本発明の一実施例として、玄米の米加工素材を使用したパンを製造した。玄米の米加工素材は、実施例1と同様の方法を用い、磨砕時の加水量を米の乾燥重量の1.5倍として製造した。パンは、小麦粉を用いて製造する場合の通常の製造方法を用い、小麦粉の30%を玄米の米加工素材に代えて製造した。各材料の配合量を以下に示す。
玄米の米加工素材(1.5倍加水):187.5 g(玄米75 g+水112.5 gで製造)
小麦粉(強力粉) :175 g
水 :62.5 g
バター :15 g
砂糖 :15 g
食塩 :5 g
脱脂粉乳 :10 g
ドライイースト :2 g
【0088】
比較対象として、玄米の米加工素材の代わりに玄米粉(市販;コシヒカリ100%)を使用したパンを製造した。また、炊飯処理をしなかった点以外は実施例18の玄米の米加工素材と同様に製造した玄米ペースト(炊飯処理なし)を使用したパンを製造した。
【0089】
図9は、玄米粉を用いて製造したパン、玄米ペーストを用いて製造したパン、および本発明の玄米の米加工素材の一実施例を用いて製造したパンの外観を示す。本発明の玄米の米加工素材を用いて製造したパンは、玄米粉および玄米ペーストを用いて製造したパンと比較して、強いもちもちした食感を有しており、明らかに異なる食感を呈することが示された。本発明の米加工素材を用いることにより、新たなテクスチャーを有するパンの製造が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の米加工素材は、食品分野に好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9