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特許7549383医用画像処理装置、コンピュータプログラム及び核医学装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】医用画像処理装置、コンピュータプログラム及び核医学装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
G01T1/161 A
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022505996
(86)(22)【出願日】2021-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2021008383
(87)【国際公開番号】W WO2021182281
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2020044795
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 :World Molecular ImagingCongress2019 開催場所:カナダ ケベック州 モントリオール モントリオール国際会議場 開催日 :2019年9月6日 〔刊行物等〕 掲載アドレス: https://ink.springer.com/article/10.1007/s11307-019-01453-z 掲載日 :2019年11月19日 〔刊行物等〕 集会名 :IEEENuclear Science Symposium(NSS)and Medical Imaging Conference(MIC)2019 開催場所:イギリス マンチェスターマンチェスター中央会議場 開催日 :2019年11月2日〔刊行物等〕 掲載アドレス: http://www.eventclass.org/contxt_ieee2019/online-program/session?s=MIC-19 掲載日 :2019年7月11日 〔刊行物等〕 集会名:次世代PET研究会2020 開催場所:東京都中央区八重洲1-3-7 八重洲ファーストフィナンシャルビル3F ベルサール八重洲 開催日 :2020年1月18日 〔刊行物等〕刊行物 :次世代PET研究報告書2019,第34~37頁発行日 :2020年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 英朗
(72)【発明者】
【氏名】山谷 泰賀
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-136152(JP,A)
【文献】特開2014-52353(JP,A)
【文献】特開2000-28732(JP,A)
【文献】国際公開第2012/77468(WO,A1)
【文献】CHINN Garry,A Method to Include Single Photon Events in Image Reconstruction for a 1 mm Resolution PET System Bu,IEEE Nuclear Science Symposium Conferece Record,2006年,1740-1745,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?arnumber=4179346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の消滅放射線による同時計数信号が得られるPETイベントと、コンプトン散乱によって得られるコンプトンイベントを用いて逐次近似により画像を再構成するための医用画像処理装置において、
現在の画像をPETイベントを用いて更新してPETイベント更新画像を生成するPETイベント更新画像生成手段と、
現在の画像をコンプトンイベントを用いて更新してコンプトンイベント更新画像を生成するコンプトンイベント更新画像生成手段と、
互いに独立に生成した前記PETイベント更新画像とコンプトンイベント更新画像とを重みをつけて加算する加算手段と、
該加算手段によって得られた画像を用いて現在の画像を更新する更新手段と、
前記PETイベント更新画像生成手段、前記コンプトンイベント更新画像生成手段、前記加算手段、前記更新手段の処理を反復する反復手段と、
を備えたことを特徴とする医用画像処理装置。
【請求項2】
前記PETイベント更新画像生成手段及び前記コンプトンイベント更新画像生成手段の少なくとも一方が、更新用パラメータとしてサブセット数を設定するようにされていることを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記PETイベント更新画像生成手段及び前記コンプトンイベント更新画像生成手段の少なくとも一方が、前記サブセットによる画像の更新をサブ反復するようにされていることを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記更新用パラメータのサブセット数及びサブ反復回数と重み付き加算のタイミングを、PETイベントとコンプトンイベントで独立して設定することが可能とされていることを特徴とする請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記コンプトンイベントが、消滅放射線コンプトンイベントとシングルガンマ線コンプトンイベントを含むことを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記PETイベントが、吸収検出器同士のPETイベント、散乱検出器と吸収検出器のPETイベント、及び、散乱検出器同士のPETイベントを含むことを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記PETイベントが、飛行時間情報有りのPETイベントと飛行時間情報無しのPETイベントを含むことを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
3ガンマ線核種の場合、3ガンマイベントを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の医用画像処理装置をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
散乱検出器及び吸収検出器を有するPET・コンプトン同時測定装置と、
請求項5に記載の医用画像処理装置と、
を備えたことを特徴とする核医学装置。
【請求項11】
前記散乱検出器及び吸収検出器の少なくとも一方が、リング型又は部分リング型又は対向型に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の核医学装置。
【請求項12】
前記散乱検出器のリングが多重化されていることを特徴とする請求項10に記載の核医学装置。
【請求項13】
前記散乱検出器が、前記吸収検出器の測定視野内に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の核医学装置。
【請求項14】
前記散乱検出器が、前記吸収検出器の測定視野外に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の核医学装置。
【請求項15】
前記PETイベントの測定視野に対して、前記コンプトンイベントの測定視野が大きくされていることを特徴とする請求項10に記載の核医学装置。
【請求項16】
前記コンプトンイベントの測定視野の画素サイズが、前記PETイベントを含む測定視野の画素サイズより大きくされていることを特徴とする請求項15に記載の核医学装置。
【請求項17】
PETイベントとコンプトンイベントを同時に測定するPET・コンプトンイベント同時測定装置と、
該PET・コンプトンイベント同時測定装置の出力からシングル計数イベントを収集するシングル計数イベント収集装置と、
前記PET・コンプトンイベント同時測定装置の出力からPETイベントを収集するためのソフトウェア同時計数装置と、
前記シングル計数イベント収集装置及びソフトウェア同時計数装置の出力に基いて、PETイベントとコンプトンイベントのハイブリッド画像を再構成するための、請求項1に記載の医用画像処理装置を含むハイブリッド画像再構成装置と、
前記PET・コンプトンイベント同時測定装置、シングル計数イベント収集装置、ソフトウェア同時計数装置及びハイブリッド画像再構成装置を制御する制御装置と、
表示・操作用コントローラと、
を備えたことを特徴とする核医学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像処理装置、コンピュータプログラム及び核医学装置に係り、特に、医療機器に用いるのに好適な、性質が異なるPETイベントとコンプトンイベントを組合わせて効率的、安定的な画像再構成を可能とし画質を向上させることが可能な医用画像処理装置、コンピュータプログラム及び核医学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PET(Positron Emission Tomography)は、陽電子放出核種により標識した薬剤を生体内に投与し、その分布を画像化する核医学の手法である。投与した薬剤から、ほぼ180°反対方向に対となって放出される消滅放射線を、測定対象領域を囲むように配置した検出器(PETリング)の同時計数によってPETイベントとして測定する。PETイベントでは、2つの検出器を結ぶ直線上(LOR:Line of Response)に線源位置を限定することができ、複数のPETイベントから薬剤の生体内分布を推定することができる。その際、発生した消滅放射線を同時計数できる確率は高々5%~10%であり、場所によっては1%以下となる。一方で、同時計数されず対のうちの片方のみが検出される検出イベントが10倍近く存在する。また、陽電子放出核種の中には崩壊過程で陽電子以外の壊変を行うものも多くあり、消滅放射線以外にシングルガンマ線も放出するものがある。そのような核種をPETで用いる場合、シングルガンマ線はノイズにしかならない。
【0003】
そこで、出願人は、PETリングの中に散乱検出器のリングを挿入することで、消滅放射線の一方や、シングルガンマ線をコンプトンカメラの原理を用いてコンプトンイベントとして検出し、装置の感度を高める方法を提案している。コンプトンイベントでは、エネルギー情報と検出位置情報を用いることで、円錐表面(コンプトンコーン)上に線源位置を限定することができる。
【0004】
更に、出願人は、特許文献1で、PET核種を対象とした部分リングPETの不完全投影データの問題を、コンプトンカメラの原理を用いてシングルガンマ線を検出し、画質低下を補う方法を提案している。
【0005】
又、特許文献2には、測定対象より放出された一対の放射線(一対の光子)を検出し、その検出結果から再構成された第1画像と、測定対象より放出された単一の放射線から得られる1以上の光子をコンプトン散乱に基づき検出し、その検出結果から再構成された第2画像とを用いて、診断用の最終画像を生成する核医学診断装置が開示されている。
【0006】
更に、非特許文献1には、PET核種の測定を対象として、コンプトンイベントとPETイベントを組み合わせた画像再構成手法として3つの方法が記載されている。具体的には、(1)コンプトンイベントとPETイベントを単純に合わせて1つのシステムモデルとする方法、(2)最初にコンプトンイベントのみを用いてOSEM(Ordered Subset Expectation Maximization)による画像再構成を行い、そこで得られた画像を初期画像と
してPETイベントのみを用いたOSEMによる画像再構成を続けて行う手法、そして、(3)コンプトンイベントのみを用いた再構成画像を事前情報として用いたベイズ法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-136152号公報
【文献】特開2014-52353号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】G. Chinn, A. M. K. Foudray, and C. S. Levin, A method to include single photon events in image reconstruction for a 1 mm resolution PET system built with advanced 3-D positioning detectors, 2006 IEEE Nuclear Science Symposium Conference Record, pp. 1740-1745, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、測定可能な投影方向が充足されることを示しているのみで、具体的にコンプトンカメラの原理で測定したシングルガンマ線のコンプトンイベントとPETイベントを組み合わせて画像再構成を行う手法については開示されていない。
【0010】
又、特許文献2には、PETイベントに基づいて生成された第1画像と、コンプトンイベントに基づいて生成された第2画像と、を『重み付けして加算』することは記載されていない。
【0011】
又、非特許文献1に記載の技術の内、(1)のコンプトンイベントとPETイベントを単純に合わせて1つのシステムモデルとする方法では、各イベントの性質が大きく異なるため装置構成によっては強いアーチファクトが発生する等、十分に性能を生かせない場合がある。また、その他の(2)や(3)の方法では、一方の画像を先に再構成した後に、その情報を他方の再構成で使用するというアプローチであるため、互いのイベントの利点を十分に生かし切れているとは言いがたい。
【0012】
以上のように、同一の放射能分布から発生するとはいえ、PETイベントとコンプトンイベントは性質が大きく異なるため、これらの情報を効率的に組み合わせて画像再構成する手法はこれまで実現されていなかった。
【0013】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、性質が異なるPETイベントとコンプトンイベントを組合わせて効率的、安定的な画像再構成を可能とし画質を向上させることが可能な医用画像処理装置及びコンピュータプログラムを提供することを第1の課題とする。
【0014】
本発明は、又、前記医用画像処理装置を用いた核医学装置を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、一対の消滅放射線による同時計数信号が得られるPETイベントと、コンプトン散乱によって得られるコンプトンイベントを用いて逐次近似により画像を再構成するための医用画像処理装置において、現在の画像をPETイベントを用いて更新してPETイベント更新画像を生成するPETイベント更新画像生成手段と、現在の画像をコンプトンイベントを用いて更新してコンプトンイベント更新画像を生成するコンプトンイベント更新画像生成手段と、互いに独立に生成した前記PETイベント更新画像とコンプトンイベント更新画像とを重みをつけて加算する加算手段と、該加算手段によって得られた画像を用いて現在の画像を更新する更新手段と、前記PETイベント更新画像生成手段、前記コンプトンイベント更新画像生成手段、前記加算手段、前記更新手段の処理を反復する反復手段と、を備えることにより前記第1の課題を解決するものである。
【0016】
ここで、前記PETイベント更新画像生成手段及び前記コンプトンイベント更新画像生成手段の少なくとも一方が、更新用パラメータとしてサブセット数を設定することができる。
【0017】
又、前記PETイベント更新画像生成手段及び前記コンプトンイベント更新画像生成手段の少なくとも一方が、前記サブセットによる画像の更新をサブ反復することができる。
【0018】
又、前記更新用パラメータのサブセット数及びサブ反復回数と重み付き加算のタイミングを、PETイベントとコンプトンイベントで独立して設定を可能とすることができる。
【0019】
又、前記コンプトンイベントが、消滅放射線コンプトンイベントとシングルガンマ線コンプトンイベントを含むことできる。
【0020】
又、前記PETイベントが、吸収検出器同士のPETイベント、散乱検出器と吸収検出器のPETイベント、及び、散乱検出器同士のPETイベントを含むことができる。
【0021】
又、前記PETイベントが、飛行時間情報有りのPETイベントと飛行時間情報無しのPETイベントを含むことができる。
【0022】
又、3ガンマ線核種の場合、3ガンマイベントを更に含むことができる。
【0023】
本発明は、又、前記医用画像処理装置をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムを提供するものである。このコンピュータプログラムは、コンピュータ読取可能な非一時的な記録媒体に記録することができる。
【0024】
本発明は、又、散乱検出器及び吸収検出器を有するPET・コンプトン同時測定装置と、前記医用画像処理装置と、を備えたことを特徴とする核医学装置により前記第2の課題を解決するものである。
【0025】
ここで、前記散乱検出器及び吸収検出器の少なくとも一方を、リング型又は部分リング型又は対向型に配置することができる。
【0026】
又、前記散乱検出器のリングを多重化することができる。
【0027】
又、前記散乱検出器を、前記吸収検出器の測定視野内に配置することができる。
【0028】
又、前記散乱検出器を、前記吸収検出器の測定視野外に配置することができる。
【0029】
又、前記PETイベントの測定視野に対して、前記コンプトンイベントの測定視野を大きくすることができる。
【0030】
又、前記コンプトンイベントの測定視野の画素サイズを、前記PETイベントを含む測定視野の画素サイズより大きくすることができる。
【0031】
本発明は、又、PETイベントとコンプトンイベントを同時に測定するPET・コンプトンイベント同時測定装置と、該PET・コンプトンイベント同時測定装置の出力からシングル計数イベントを収集するシングル計数イベント収集装置と、前記PET・コンプトンイベント同時測定装置の出力からPETイベントを収集するためのソフトウェア同時計数装置と、前記シングル計数イベント収集装置及びソフトウェア同時計数装置の出力に基いて、PETイベントとコンプトンイベントのハイブリッド画像を再構成するための、前記医用画像処理装置を含むハイブリッド画像再構成装置と、前記PET・コンプトンイベント同時測定装置、シングル計数イベント収集装置、ソフトウェア同時計数装置及びハイブリッド画像再構成装置を制御する制御装置と、表示・操作用コントローラと、を備えたことを特徴とする核医学装置により同じく前記第2の課題を解決するものである。
【0032】
本発明によれば、更に、一対の消滅放射線による同時計数信号が得られるPETイベントと、コンプトン散乱によって得られるコンプトンイベントを用いて逐次近似により画像を再構成するための医用画像処理方法において、現在の画像をPETイベントを用いて更新してPETイベント更新画像を生成するPETイベント更新画像生成処理と、現在の画像をコンプトンイベントを用いて更新してコンプトンイベント更新画像を生成するコンプトンイベント更新画像生成処理と、互いに独立に生成した前記PETイベント更新画像とコンプトンイベント更新画像とを重みをつけて加算する加算処理と、該加算処理によって得られた画像を用いて現在の画像を更新する更新処理とを含み、前記PETイベント更新画像生成処理、前記コンプトンイベント更新画像生成処理、前記加算処理、前記更新処理を反復することを特徴とする医用画像処理方法の請求項も考えられる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、PETイベントとコンプトンイベントを効率的に組み合わせることで、PET核種分布測定の高感度化及び高画質化が可能となる。特に、陽電子以外にシングルガンマ線を放出するような核種を測定する際、従来の装置と手法では有効に使えなかったシングルガンマ線を効率的に活用することで、より高い高感度化及び高画質化の効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第1の手法を示す図
図2】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第2の手法を示す図
図3図2の手法の場合の実装式を示す図
図4】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第3の手法を示す図
図5】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第4の手法を示す図
図6図5の手法の場合の実装式を示す図
図7】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第5の手法を示す図
図8】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第6の手法を示す図
図9】本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第7の手法を示す図
図10】同じく第8の手法を示す図
図11】本発明の実施形態で用いるPET・コンプトンイベント同時測定装置における測定イベントの分類を示す図
図12】同じくPETイベントとして扱うことのできる消滅放射線コンプトンイベントの分類を示す図
図13】同じく散乱検出器と吸収検出器で測定されたシングル計数イベントの時間情報とエネルギー情報を基にPETイベントと消滅放射線コンプトンイベント、シングルガンマ線コンプトンイベントを抽出するアルゴリズムのフローチャート
図14A】本発明を実施するための2重リング方式の検出器配置の例を示す横断面図
図14B】同じく多重リング方式の検出器配置の例を示す横断面図
図15A】同じく体軸方向に関して、吸収検出器リングの中に散乱検出器リングを配置した例を示す縦断面図
図15B】同じく吸収検出器リングの外に散乱検出器リングを配置した例を示す縦断面図
図16A】同じく散乱検出器部分リング型の検出器配置例を示す横断面図
図16B】同じく両検出器部分リング型の検出器配置例を示す横断面図
図16C】同じく対向型の検出器配置例を示す横断面図
図17A】検出器として使用するシンチレーション検出器の例を示す断面図
図17B】検出器として使用するDOI検出器の例を示す断面図
図17C】検出器として使用する半導体検出器の例を示す断面図
図18A】本発明を実施するための半導体検出器による多重リング用検出器の構成例を示す断面図
図18B】同じくシンチレーション検出器による多重リング用検出器の構成例を示す断面図
図19】本発明の実施形態に係る画像再構成の計算量を削減するためにPETイベント測定が可能な範囲の外側の画素サイズを大きくした例を示す水平断面図
図20】本発明の実施形態に係る核医学装置の実施形態の全体構成を示す図
図21】同じく処理手順を示すフローチャート
図22】本発明の実施形態に係る核医学装置の実証実験のセットアップを示す図
図23A】実証実験による測定データにおけるPETイベントのみでの再構成結果を示す図
図23B】同じくコンプトンイベントのみでの再構成結果を示す図
図23C】同じく単純同時再構成(従来法)の適用結果を示す図
図23D】同じくハイブリッド再構成(本発明法)の適用結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0036】
本発明の実施形態は、逐次近似型の画像再構成法として、各反復において、PETイベントとコンプトンイベントを別々に用いて更新画像を生成し、2つの更新画像を加重平均により組み合わせることで1つの更新画像を得るハイブリッド画像再構成手法である。この手法の概念を図1図10に示す。
【0037】
本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第1の手法では、図1に示す如く、ステップ1000で反復計数用カウンタの計数値kを0にリセットして、ステップ1010で画像を初期化して得た現在の画像1020に対して、ステップ1030でPETイベントによる更新を行ったPETイベント更新画像を得ると共に、ステップ1040でコンプトンイベントによる更新を行ったコンプトンイベント更新画像を得る。そして、加算器1050で所定の係数β(0<β<1)、(1-β)を乗じて重み付け加算することによって更新画像1060を得る。そして、ステップ1070で1だけカウンタの計数値kをカウントアップして、設定値Kに至ったかをステップ1080で判定する。設定値K未満である場合にはステップ1020に戻り、PETイベントによる更新1030とコンプトンイベントによる更新1040を互いに独立して繰返す。カウンタの計数値kが設定値Kに到達したときにはステップ1090に進み、画像を出力する。
【0038】
又、本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成でサブセットを用いるようにした第2の手法では、図2に示す如く、ステップ1100でサブセット用カウンタの計数値lと反復計数用カウンタの計数値kを0にリセットし、ステップ1110で画像を初期化して得た現在の画像1120に対し、PETイベント用のサブセット1132と、コンプトンイベント用のサブセット1142を用いて、ステップ1130、1140でそれぞれ所定のサブセットlによる逐次近似画像の更新を行った後、加算器1150で重み付け加算して更新画像1160を得る。そしてステップ1170でサブセット用カウンタの計数値lのカウントアップを行って、ステップ1180で設定値Lに到達するまでPETイベントのサブセットによる逐次近似画像更新と、コンプトンイベントのサブセットによる逐次近似画像の更新を繰返す。ステップ1180でサブセット用カウンタの計数値lが設定値Lに到達したと判定された時には、ステップ1190へ進み、サブセット用カウンタの計数値lを0にリセットすると共に反復計数用カウンタの計数値kをカウントアップする。そしてステップ1200で反復計数用カウンタの計数値kが設定値Kに到達したと判定されるまで、ステップ1200から1190を繰返す。ステップ1200で反復計数用カウンタの計数値kが設定値Kに到達したと判定された時には、ステップ1210で画像を出力する。
【0039】
図2に相当する実装例を図3の式に示す。それぞれL個のサブセットに分割したPETイベントとコンプトンイベントを用いて、各イベントを用いた更新画像を生成し、所定の係数(パラメータ)βによる重みづけをしたのち加算することで画像の更新を行う。その際、各画素の感度のばらつきはイベントの種類ごとに全体感度画像として加算する前に補正されているため、同じ次元と定量性を持った画像として加算することができる。
【0040】
次に図4を参照して、本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成でサブ反復を数反復行うようにした第3の手法を説明する。
【0041】
この手法では、ステップ1300でカウンタの計数値kをリセットし、ステップ1310で画像を初期化して、ステップ1320で現在の画像を得る。次いでステップ1330に進み、PETイベントのサブセット1332を用いてPETイベントのサブセットによる逐次近似画像更新をサブ反復する。サブ反復ではサブセットを順番に使用し、最後まで終わったら0番目に戻る。
【0042】
コンプトンイベントのサブセットによる逐次近似画像更新1340も同様に、コンプトンイベントのサブセット1342を用いて、サブセットによる逐次近似画像更新を行う。サブセットはサブ反復ごとに順番に使用し、最後まで終わったら0番目に戻る。
【0043】
PETイベントのサブセットによる逐次近似画像更新1330のサブ反復とコンプトンイベントのサブセットによる逐次近似画像更新1340のサブ反復が共に終了したときには、加算器1350で所定係数β(0<β<1)、(1-β)を掛けて重み付け加算し、更新画像1360を得る。
【0044】
次いでステップ1370に進み、カウンタの計数値kを1だけカウントアップし、ステップ1380で設定値K未満であるか判定する。ステップ1380の判定結果が正である場合には、ステップ1320に戻り、メイン反復を繰返す。
【0045】
ステップ1380で設定値Kに到達したと判定された時には、ステップ1390に進み画像を出力する。
【0046】
次に図5を参照して、本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成でPETイベントとコンプトンイベントによるサブ反復の回数を別々に設定する第4の手法について説明する。
【0047】
この手法では、まずステップ1400でカウンタの計数値k、lp、lcをそれぞれ0にリセットする。
【0048】
次いでステップ1410に進み、画像を初期化して、現在の画像1420を得る。
【0049】
次いでステップ1430に進み、PETイベントの逐次近似画像更新1430ではPETイベントのサブセット1432を用いて、ステップ1440でカウンタの計数値lp
カウントアップしつつ、設定回数Np回に到達するまでサブ反復を繰返す。
【0050】
一方、コンプトンイベントの逐次近似画像更新1450では、コンプトンイベントのサブセット1452を用いて、ステップ1460でカウンタの計数値lcをカウントアップ
しつつ、所定回数Lc回に到達するまでサブ反復を繰返す。
【0051】
PETイベントのサブセットのカウンタの計数値lpによる逐次近似画像更新とコンプトンイベントのサブセットのカウンタの計数値lcによる逐次近似画像更新が終了したと
きには、加算器1470で重み付け加算して、更新画像1480を得る。次いでステップ1490へ進み、カウンタの計数値kを1だけカウントアップして、ステップ1500で設定値Kに到達したか判定する。所定値に到達していない時には、ステップ1420に戻り、メイン反復を繰返す。
【0052】
ステップ1500でカウンタの計数値kが設定値Kに到達したと判断されたときには、ステップ1510に進み画像を出力する。
【0053】
図5に相当する実装例を図6の式に示す。メイン反復毎にPETイベントを用いたサブ反復をNP回、コンプトンイベントを用いたサブ反復をNC回行う。そして、それぞれのサブ反復が終了した画像をメイン反復の最後に所定の係数(パラメータ)βによる重みづけをして加算することで画像の更新を行う。また、図3の式と同様に、各画素の感度のばらつきはイベントの種類ごとに全体感度画像として加算する前に補正されているため、同じ次元と定量性を持った画像として加算することができる。
【0054】
次に図7を参照して本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第5の手法を説明する。
【0055】
この手法では、まずステップ1600でカウンタの計数値kを0にリセットしてステップ1610で画像を初期化し、ステップ1620で現在の画像を得る。
【0056】
次いでステップ1630におけるPETイベントによる画像更新と、ステップ1640における消滅放射線コンプトンイベントによる画像更新と、ステップ1650によるシングルガンマ線イベントによる画像更新を行う。
【0057】
次いで加算器1660へ進み、それぞれ所定の係数β1、β2、β3(β1+β2+β3=1)を重みづけ加算して更新画像1670を得る。
【0058】
次いでステップ1680でカウンタの計数値kを1だけカウントアップし、ステップ1690でカウンタの計数値kが設定値K未満であるかを判定する。判定結果が正である場合にはステップ1620に進み、ステップ1630、1640、1650による画像更新を繰返す。
【0059】
ステップ1690の判定結果が否である場合には、ステップ1700に進み画像を出力する。
【0060】
次に、図8を参照して本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第6の手法を説明する。
【0061】
この手法では、ステップ1800でカウンタの計数値kを0にリセットし、ステップ1810で画像を初期化し、ステップ1820で現在の画像を得る。そして、ステップ1830における吸収検出器リング80の吸収検出器同士のPETイベントによる画像更新、ステップ1840における散乱検出器リング70の散乱検出器と吸収検出器間のPETイベントによる画像更新、ステップ1850における散乱検出器リング70の散乱検出器同士のPETイベントによる画像更新、ステップ1860における消滅放射線コンプトンイベントによる画像更新、ステップ1870におけるシングルガンマ線コンプトンイベントによる画像更新を行う。
【0062】
画像更新終了後、加算器1880で、係数β1、β2、β3、β4、β5(β1+β2+β3+β4+β5=1)による重み付け加算を行って更新画像1890を得る。次いでステップ1900に進み、カウンタの計数値kを1だけカウントアップして、ステップ1910でカウンタの計数値kが設定値K未満であるか否かを判定する。判定結果が正である場合にはステップ1820に進み、画像更新を反復する。
【0063】
一方、ステップ1910の判定結果が否である場合には、ステップ1920で画像を出力する。
【0064】
次に、図9を参照して本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第7の手法を説明する。
【0065】
この手法においては、ステップ2000でカウンタの計数値kを0にリセットし、ステップ2010で画像を初期化して、ステップ2020で現在の画像を得る。
【0066】
次いで、飛行時間(Time of flight:TOF)情報ありのPETイベントによる画像更新をステップ2030で行い、TOF情報のない通常のPETイベントによる画像更新をステップ2040で行い、コンプトンイベントによる画像更新をステップ2050で行う。それぞれ独立した画像更新終了後、加算器2060で、それぞれの出力に係数β1、β2、β3(β1+β2+β3=1)の重みづけ加算を行ってステップ2070の更新画像を得る。
【0067】
次いでステップ2080に進み、カウンタの計数値kを1だけカウントアップして、ステップ2090で、カウンタの計数値kが設定値K未満であるか否かを判定する。判定結果が正である場合にはステップ2020に戻り、ステップ2030、ステップ2040及び、ステップ2050による画像更新を繰返す。
【0068】
一方、ステップ2090の判定結果が否である場合には、ステップ2100に進み画像を出力する。
【0069】
次に図10を参照して本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成の第8の手法を説明する。
【0070】
この第8の手法においては、ステップ2200でカウンタの計数値kを0にリセットし、ステップ2210で画像を初期化した後、ステップ2220で現在の画像を得る。
【0071】
次いでステップ2230でPETイベントによる画像更新を行い、ステップ2400でコンプトンイベントによる画像更新を行い、ステップ2500で3ガンマイベントによる画像更新を行う。画像更新終了後、加算器2260で、係数β1、β2、β3(β1+β2
β3=1)による重みづけ加算を行って更新画像2270を得る。
【0072】
次いでステップ2280でカウンタの計数値kを1だけカウントアップした後、ステップ2290に進み、カウンタの計数値kが設定値K未満であるか否かを判定する。判定結果が正である場合にはステップ2220に戻る。
【0073】
一方、ステップ2290の判定結果が否である場合には、ステップ2300に進み画像を出力する。
【0074】
なお、前記手法では、いずれも反復を終了する条件を反復回数としていたが、反復を終了する条件は、これに限定されない。
【0075】
本発明の実施形態に係る手法では、感度補正などの各イベント特有の性質を別々に補正でき、組み合わせる際には次元や定量性の一致した情報となっているため、安定した画像更新が可能となる。さらに、図2に示したように、高速化のためのサブセット化も容易であり、各イベントのサブセットを用いた更新画像を組み合わせるだけで、2つの異なる性質をもったイベントを効率よく用いて画像再構成を行うことが可能である。なお、ここで用いるコンプトンイベントは、図11に示すように、核種(ここではPET核種)60から放出される消滅放射線対の片方のみが検出されたもの(消滅放射線コンプトンイベント)と、陽電子以外にシングルガンマ線を放出するような核種から発生したシングルガンマ線が検出されたもの(シングルガンマ線コンプトンイベント)の両方を対象としている。また、後者のような核種を用いる場合、図7に示したように、PETイベント、消滅放射線コンプトンイベント、及び、シングルガンマ線コンプトンイベントを用いて生成した3つの更新画像の加重平均を更新画像とすることも可能である。
【0076】
さらに、散乱検出器と吸収検出器の空間分解能に大きな差がある場合、PETイベントについても検出器の組み合わせごとに更新画像を生成して、加重平均を行うことも可能である。
【0077】
また、イベントの種類によって収束性が異なるため、例えばコンプトンイベントの更新画像を得るために数反復した後に、PETイベントの1反復の画像と組み合わせる等、サブセット数や更新画像を組み合わせるタイミングを工夫することで、最終的な収束性を高めることができる。
【0078】
また、重み付けの係数の合計値は1に限らず、例えば反復に応じて合計値が1よりも小さい係数になるように変化させ、サブセット化による収束性の向上と、ノイズ伝播の抑制による画質向上とを両立させることができる。
【0079】
図11に2重リング方式の装置を用いて陽電子以外にシングルガンマ線を放出するような核種60を測定した際のPETイベント、コンプトンイベントの分類を示す。なお、コンプトンイベントよりもPETイベントの方が直線状に限定できるため、図12のように消滅放射線コンプトンイベントが別の消滅放射線コンプトンイベントもしくは吸収イベントと同じ時間窓に入っていた場合、PETイベントとして取り扱った方がよい。この点を考慮したPETイベントとコンプトンイベントの分類はエネルギー情報と時間情報を用いて行うことが可能である。図13にそのフローチャートを示す。
【0080】
図13に示す手順では、まずステップ3000で時間窓を設定する。次いで、ステップ3010で、時間窓内に未処理のシングル計数イベントのペアがあるか否かを判定する。
【0081】
判定結果が正である場合は、ステップ3020に進み、シングル計数イベントのペアを選択する。
【0082】
次いでステップ3030で検出器の組合せを判定する。
【0083】
散乱検出器同士又は吸収検出器同士である場合は、ステップ3040に進み、それぞれが消滅放射線のエネルギーウィンドウ(例えば400-600keV)内であるか判定する。判定結果が否である場合は、ステップ3010に戻る。
【0084】
一方、散乱検出器と吸収検出器の組合せである場合は、ステップ3050に進み、それぞれが消滅放射線のエネルギーウィンドウ(例えば400-600keV)内であるか判定する。ステップ3050の判定結果が否である場合は、ステップ3060に進み、合計が消滅放射線のエネルギーウィンドウ(例えば400-600keV)内であるか判定する。
【0085】
ステップ3060の判定結果が正である場合は、ステップ3070に進み、散乱検出器が消滅放射線の散乱角度制限のエネルギーウィンドウ(例えば10-120keV)内であるか判定する。判定結果が正である場合は、ステップ3080に進み、同一時間窓内に、消滅放射線のエネルギーウィンドウ内に入ったイベント(散乱検出器と吸収検出器の合計、または単独)が存在するか判定する。
【0086】
一方、ステップ3060又は3070の測定結果が否である場合は、ステップ3090に進み、合計がシングルガンマ線のエネルギーウィンドウ(例えば800-1000keV)内、かつ、散乱検出器がシングルガンマ線の角度制限のエネルギーウィンドウ(例えば10-350keV)内であるか判定する。
【0087】
ステップ3090の判定結果が正である場合は、ステップ3120に進み、シングルガンマ線コンプトンイベントとして抽出する。判定結果が否である場合は、ステップ3010に戻る。
【0088】
又、前記ステップ3040又は3050又は3080の判定結果が正である場合は、ステップ3100に進み、PETイベントとして抽出する。
【0089】
又、ステップ3080の判定結果が否である場合には、ステップ3110に進み、消滅放射線コンプトンイベントとして抽出する。
【0090】
一方、ステップ3010の判定結果が否である場合には、ステップ3200で次の時間窓に進む。
【0091】
そして抽出した各イベントに対してハイブリッド画像再構成手法を適用することで高画質な画像を安定して再構成することが可能となる。
【0092】
本発明の実施形態による手法を適用するためには、PETイベントとコンプトンイベントを同一の分布に対して測定可能である必要がある。最も効果的な検出器配置は、図14Aに示すように、例えば散乱検出器ブロック72で構成される散乱検出器リング70と吸収検出器ブロック82で構成される吸収検出器リング80をそれぞれリング状に配置し、外側に吸収検出器リング80、内側に散乱検出器リング70、そしてそのさらに内側に測定対象の患者62を配置するような形態となる。その際、図14Bに示すように、散乱検出器ブロックアレイ74を用いて散乱検出器リング70を多重化して、多重リング方式としてもよい。後者の多重リング方式によれば、散乱させ易くなって感度が向上するだけでなく、単に厚くするだけよりも、層による散乱位置の識別も可能となり優れている。
【0093】
また散乱検出器リング70と吸収検出器リング80を配置する際、図15Aのように、患者62の体軸方向の位置を合わせて吸収検出器リング80の中に散乱検出器リング70を配置する以外にも、図15Bに示すように、散乱検出器リング70を70A、70Bの2つに分割して、吸収検出器リング80の患者体軸方向外側に配置する構成にすることもできる。この構成では、吸収検出器リング80が散乱検出器リング70A、70Bによって邪魔されないので、吸収検出器リング80によるPETイベントに対する感度を最大化することが可能である。
【0094】
また、それぞれリング状にしなくても、図16Aに示すように、例えば散乱検出器のみ部分リング76とし、又は図16Bに示すように、散乱検出器と吸収検出器を両方ともに部分リング76、86として、設置が容易な場所にのみ設置したり、図16Cに示すように、例えばリング状でない散乱検出器78と吸収検出器88を対向型に設置したりすることも可能である。また対向型に設置した場合、患者62に対して相対的に回転(患者62を回転させてもよい)させながら測定したりすることも可能である。図16Bにおいて、64はベッド、66は枕である。
【0095】
使用する検出器としては、図17Aに例示するように、PET検出器として一般的に用いられている、シンチレータアレイ102と光検出器104で構成されるシンチレーション検出器100や、図17Bに例示するように、3次元シンチレータアレイ112を用いて3次元化したDOI(Depth-of-Interaction)検出器110のほか、図17Cに示すような半導体放射線検出器120の使用が想定される。
【0096】
また、多重リング方式とする場合には、図18Aに示すように、半導体放射線検出器120を適切な距離離して配置したり、図18Bに示すように、シンチレーション検出器100を同様に適切な距離離して配置したりすることで実現することができる。また、液体キセノンやガスシンチレーション検出器を使用することも可能である。各検出器とも散乱検出器として構成することも、吸収検出器として構成することも可能であるが、いずれの形態においてもコンプトンイベントとPETイベントの感度を最適化するように検出器の厚みや幅、検出器間距離、測定対象からの距離等のパラメータを調整することが望ましい。
【0097】
また、コンプトンイベントの方が、PETイベントよりも測定可能な視野が広いが、空間分解能は検出器からの距離に比例して劣化していくため、図19に例示するように、PETイベント測定が可能な範囲の外側に関しては、画像再構成を行う際に画素サイズを大きくして計算量を削減することが可能である。
【0098】
PETイベント、コンプトンイベントのいずれも同時計数測定が必要であるが、図13のフローチャートに示したように、エネルギーによってはコンプトンイベントをPETイベントとして抽出する方が望ましい等、複雑な処理を行う必要があるため、ハードウェアによる同時計数回路を構成することは困難であると考えられる。そこで、実施するための形態としてはすべての測定をシングル計数イベントとして収集し、同時計数処理を後処理またはオンザフライ計算によるソフトウェア同時計数で行う。そして、図13のフローチャートの処理等によって抽出されたPETイベントやコンプトンイベントを効率的に組み合わせて画像再構成を行うための、ハイブリッド画像再構成法は、例えば図3又は図6に示した式のように実装することができる。ここでは、リストモードOSEM法を基にして実装している。
【0099】
ハイブリッド画像再構成手法の特徴は、各サブ反復で、PETイベントとコンプトンイベントを独立に用いて更新画像を生成し、それらを加重平均によって足し合わせて新しい更新画像とすることである。その際、感度補正や吸収補正、散乱補正等の各種補正法も独立に適用することができ、更新画像同士は次元や定量性の一致したものとなっているため、組み合わせることが容易で安定した解を得ることができる。また、リストモードOSEM法の他、画像に関する先見情報を用いたMAP-EM(Maximum a Posteriori-Expectation Maximization)法など、様々な逐次近似法を適用することが可能である。
【0100】
また、TOF(Time Of Flight)情報を得られる検出器を用いることも可能である。その際、図9に示したように、TOF情報のあるPETイベントとTOF情報のないPETイベントに分類し、それぞれのイベントを用いて更新画像を生成し、コンプトンイベントによる更新画像と合わせて加重平均するといった応用も可能である。特に、散乱検出器では高いエネルギー分解能が要求され、時間分解能との両立が困難な場合にTOF情報のありなしで分けてハイブリッド画像再構成手法を適用することが有効であると考えられる。
【0101】
また、44Scのようにシングルガンマ線の放出が陽電子放出と同時に行われるような核種を用いた場合、PETイベントとシングルガンマ線コンプトンイベントが同じ時間窓にあった場合には、LORとコンプトンコーンの交点上に線源位置を限定できるため、図10に示したように3ガンマイベントとして抽出し、別の更新画像として加重平均に組み込むことが可能である。
【0102】
本発明の実施形態に係る医用画像処理を採用した核医学装置の実施形態の全体構成を図20に示す。この実施形態は、上記で例示したようなPET・コンプトンイベント同時測定装置200と、該PET・コンプトンイベント同時測定装置200の出力によりシングル計数イベントを収集するシングル計数イベント収集装置210と、シングル計数イベント用ストレージ220と、該シングル計数イベント用ストレージ220の出力に基いてソフトウェアで同時計数するソフトウェア同時計数装置230と、抽出イベント用ストレージ240と、前記ストレージ220、240の出力に基いて、本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成を行うハイブリッド画像再構成装置250と、前記PET・コンプトンイベント同時測定装置200、シングル計数イベント収集装置210、ソフトウェア同時計数装置230、ハイブリッド画像再構成装置250を制御する制御装置260と、該制御装置260に連結された表示・操作用コンソール270と、を用いて構成されている。
【0103】
この核医学装置におけるオンザフライのソフトウェア計算は、図21に示すように行われる。即ちまずステップ4000でPET・コンプトンイベント同時測定装置200による測定を行い、ステップ4010で検出信号をシングル計数イベント収集装置210に送信してシングル計数イベントを収集する。
【0104】
シングル計数イベント収集装置210は、ステップ4020でシングル計数イベント用ストレージ220にシングル計数イベントを書き込む。
【0105】
一方、ソフトウェア同時計数装置230では、測定開始と共にソフトウェア同時計数処理を開始し、ステップ4030で、シングル計数イベント用ストレージ220から読みだしたシングル計数イベントと共に、ソフトウェア同時計数装置230によりPETイベント及びコンプトンイベントを抽出してステップ4040で抽出イベント用ストレージ240に書き込む。
【0106】
そしてステップ4050に進み、ハイブリッド画像再構成装置250で、前記PETイベント及びコンプトンイベントを用いて、本発明の実施形態によるハイブリッド画像再構成を行う。
【0107】
図22に2重リング方式のPET・コンプトンイベント同時測定装置200によって小動物を測定したハイブリッド再構成の実証実験セットアップの模式図を示す。9.8MBqの89Zr-oxalateを投与したマウス68を、投与22時間後に上半身のみが覆われる
体軸方向の幅の散乱検出器リング70内に配置し、その外側に吸収検出器リング80が配置されている2重リング方式の実施例とし、5分間の測定を行った。89Zrは、陽電子崩壊を含む崩壊と、その後の909keVのシングルガンマ線を放出する崩壊との間に十分な時間差があるため、同一の分布から発生するPETイベントとコンプトンイベントを独立に測定することが可能である。
【0108】
ハイブリッド再構成手法の有効性と安定性を示すために、PETイベントとしては内側の散乱検出器リング同士のもののみを抽出した。また、コンプトンイベントとしては、909keVのシングルガンマ線のみを抽出した。
【0109】
図23Aは、PETイベントを用いた場合に得られた画像を示し、図23Bは、コンプトンイベントを用いた場合に得られた画像を示し、図23Cは、従来法により2つのイベントを単純に組み合わせて1つのシステムとして画像再構成(単純同時再構成)した場合に得られた画像を示し、そして、図23Dは、本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成法によって再構成した場合に得られた画像を示している。図23AのPETイベントを用いて再構成した結果を見ると、マウスの上半身のどの部分までが散乱検出器リングに入っているかわかる。また、図23Bに示したコンプトンイベントを用いた場合、散乱検出器リングの外側の部分まで画像を得られることが分かる。そして、図23Cに示した従来の単純同時再構成ではリング内の画質は多少改善されているものの、散乱検出器リングの端に強いアーチファクトが現れた。一方、図23Dに示した本発明の実施形態に係るハイブリッド画像再構成手法による画像では、リングの端におけるアーチファクトも抑制され、さらに、図23Cの単純同時再構成よりも散乱検出器リング内部の画像がより高画質に再構成されることが確認できる。また、散乱検出器リングの外側も大きなアーチファクトがなく画像化できていることが分かる。この実証実験結果から、本発明の実施形態に係る手法によりPETイベントとコンプトンイベントを効率的かつ安定的に組み合わせることが可能であることが確認できた。
【0110】
なお、逐次近似型の画像再構成方法としては、例えばリストモード法を用いることができるが、画像再構成方法は、これに限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のハイブリッド画像再構成手法により、PETとコンプトンカメラの原理を組み合わせた新しい核医学装置を実現することが可能となる。この装置では、通常のPET核種を用いた検査の感度を高め安定して画質を向上させられる他、89Zr等のシングルガンマ線を同一の分布から放出するような核種を用いた場合、通常のPET装置ではノイズにしかならない成分を画像化に有効活用することができるため、大幅な画質向上が期待できる。特に、半減期が3.3日の89Zrのような長半減期の核種は、一般的に用いられている半減期が110分の18F-FDGでは減衰してしまって測定ができないような長期間の追跡が可能であり、今後様々な薬剤動態解析や検査のために需要が高まることが予想されている。その際に、この装置を実現するために必要不可欠な本手法は、産業上重要なものとなると予想できる。
【符号の説明】
【0112】
60…核種
62…患者
64…ベッド
68…マウス
70、70A、70B…散乱検出器リング
72…散乱検出器ブロック
74…散乱検出器ブロックアレイ
76…散乱検出器部分リング
78…散乱検出器
80…吸収検出器リング
82…吸収検出器ブロック
86…吸収検出器部分リング
88…吸収検出器
100…シンチレーション検出器
102…シンチレータアレイ
104…光検出器
110…DOI検出器
120…半導体放射線検出器
200…PET・コンプトンイベント同時測定装置
210…シングル計数イベント収集装置
220…シングル計数イベント用ストレージ
230…ソフトウェア同時計数装置
240…抽出イベント用ストレージ
250…ハイブリッド画像再構成装置
260…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図16C
図17A
図17B
図17C
図18A
図18B
図19
図20
図21
図22
図23A
図23B
図23C
図23D