(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】動物の弁修復手術用の手術器具
(51)【国際特許分類】
A61D 1/00 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
A61D1/00 Z
(21)【出願番号】P 2024106547
(22)【出願日】2024-07-02
【審査請求日】2024-07-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514108470
【氏名又は名称】日本どうぶつ先進医療研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【氏名又は名称】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】上地 正実
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-165479(JP,A)
【文献】国際公開第2016/080175(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 1/00
A61B 17/04-17/062
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の心臓の心室
底部と弁尖との間に配置される動物の弁修復手術用の手術器具であって、
一方向に長い棒状であり、長手方向の一方側に位置する端部が前記心室
底部に当接可能な支持部と、
前記支持部の前記長手方向の他方側に位置する端部に設けられ、前記他方側に三つの突起を有し、前記弁尖に当接可能な糸保持部と、
を備
え、
前記支持部の一方側の前記端部から前記糸保持部までの長さは、前記心室底部から前記弁尖までの長さと略同一である、
手術器具。
【請求項2】
動物の心臓の心室底部と弁尖との間に配置される動物の弁修復手術用の手術器具であって、
一方向に長い棒状であり、長手方向の一方側に位置する端部が前記心室底部に当接可能な支持部と、
前記支持部の前記長手方向の他方側に位置する端部に設けられ、前記他方側に三つの突起を有し、前記弁尖に当接可能な糸保持部と、
を備え、
前記支持部の一方側の前記端部から前記糸保持部までの長さは、前記支持部が前記心室底部に当接する際に前記糸保持部が前記弁尖に同時に当接可能な長さである、
手術器具。
【請求項3】
三つの前記突起は、前記長手方向の前記糸保持部側から見たときに仮想的な三角形の各頂点に各々設けられる、
請求項1
又は2に記載の手術器具。
【請求項4】
一つの前記突起の前記長手方向の長さは、他の前記突起の前記長手方向の長さより短い、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項5】
前記長手方向の前記糸保持部側から見たときに、三つの前記突起の先端間を結んだ仮想的な三角形は、略二等辺三角形である、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項6】
前記略二等辺三角形の底辺に接しない頂点に先端を有する一つの前記突起の前記長手方向の長さは、他の前記突起の前記長手方向の長さより短い、
請求項
5に記載の手術器具。
【請求項7】
前記突起の少なくとも1つは、前記糸保持部の外周方向に突き出して設けられる、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項8】
前記支持部は、取り外し可能である、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項9】
前記支持部の一端は丸みを帯びている、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項10】
前記糸保持部の直径は、前記支持部の直径よりも大きい、
請求項
3に記載の手術器具。
【請求項11】
前記突起は、弾性素材で構成される、
請求項
3に記載の手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の弁修復手術用の手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、心臓の僧帽弁の弁尖と、乳頭筋とを連結する複数の腱索の内の1つ又は複数の腱索が伸びる、又は破断してしまう症状に対し、弁尖と乳頭筋とを人工腱索用の人工糸で連結する弁形成術が知られていた。
【0003】
例えば、特許文献1には、正常な腱索の腱索長を基準として人工糸の長さを定める人間用の手術器具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、人間ではなく、例えば犬や猫等の動物に弁形成術を適用する場合、複数又は全ての腱索が破断してしまっていることも多く、特許文献1に記載の技術のように正常な腱索の腱索長を基準として人工糸の長さを定めることが困難であった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、正常な腱索の腱索長を基準としない場合であっても人工糸の長さを定めることができる動物の弁修復手術用の手術器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1態様によれば、以下の動物の弁修復手術用の手術器具が提供される。この動物の弁修復手術用の手術器具は、動物の心臓の心室と弁尖との間に配置される動物の弁修復手術用の手術器具であって、一方向に長い棒状であり、長手方向の一方側に位置する端部が動物の心臓の心室に当接可能な支持部と、前記支持部の前記長手方向の他方側に位置する端部に設けられ、前記他方側に三つの突起を有し、前記心臓の弁尖に当接可能な糸保持部と、を備える。
【0008】
また、本発明の第2態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、三つの前記突起は、前記長手方向の前記糸保持部側から見たときに仮想的な三角形の各頂点に各々配置されている。
【0009】
また、本発明の第3態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、一つの前記突起の前記長手方向の長さは、他の前記突起の前記長手方向の長さより短い。
【0010】
また、本発明の第4態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記長手方向の前記糸保持部側から見たときに、三つの前記突起の先端間を結んだ仮想的な三角形は、略二等辺三角形である。
【0011】
また、本発明の第5態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記略二等辺三角形の底辺に接しない頂点に先端を有する一の前記突起の前記長手方向の長さは、他の前記突起の前記長手方向の長さより短い。
【0012】
また、本発明の第6態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記突起の少なくとも1つは、前記糸保持部の外周方向に突き出して設けられる。
【0013】
また、本発明の第7態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記支持部は、取り外し可能である。
【0014】
また、本発明の第8態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記支持部の一端は丸みを帯びている。
【0015】
また、本発明の第9態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記糸保持部の直径は、前記支持部の直径よりも大きい。
【0016】
また、本発明の第10態様に係る動物の弁修復手術用の手術器具では、前記突起は、弾性素材で構成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る動物の弁修復手術用の手術器具によれば、三つの突起を有することにより、正常な腱索の腱索長を基準としない場合であっても、一つの突起に掛けた人工糸の長さを基準として、他の人工糸の長さを定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る手術器具を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す糸保持部をA方向から見た平面図である。
【
図3】手術器具が適用される対象の心臓の例を示す概略図である。
【
図4】手術器具を心臓内に配置した状態の概略図である。
【
図5】手術器具の第一突起に人工糸を掛けた状態の概略図である。
【
図6】手術器具の第二突起に二本目の人工糸を、第三突起に三本目の人工糸を掛けた状態の概略図である。
【
図7】手術器具を心臓から外し、各人工糸の余った部分を切り取った状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0020】
---実施形態---
まず、本発明の実施形態に係る手術器具1を説明する。
【0021】
<全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る手術器具1を示す斜視図である。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態による手術器具1は、一方向に長い棒状の支持部20と、支持部20の端部に設けられた糸保持部30とを備える。手術器具1は、人工腱索の腱索長を定めることが可能な、動物の弁修復手術用の手術器具である。手術器具1は、軸線方向(以下、長手方向という)に沿って伸びる略円筒状の形状である。
【0023】
支持部20は、先端部22と、ロッド部24と、凸部26とを有する。先端部22は、ロッド部24の一方側の端部である。凸部26は、ロッド部24の先端部22とは反対側の端部である。先端部22は、丸みを帯びた円錐形状であり、弁修復手術の際、心臓内に手術器具1を配置した際に手術器具1の端部があたってしまった場合に、心臓を傷つけることを防止できる。凸部26が糸保持部30の凹部34と嵌め合うことにより、支持部20は、糸保持部30と結合されている。支持部20は、糸保持部30から引き抜かれることにより、取り外し可能である。ロッド部24は、例えばロッド部24の一部が切断されることにより、手術器具1の長手方向の長さが調整可能である。これにより、手術器具1は、動物の心臓の大きさに合わせた長さに調整可能である。例えば、チワワに対して手術器具1を適用する場合は、チワワより心臓が大きいグレードデンに対して手術器具1を適用する場合よりも手術器具1の長手方向の長さを短く調整可能である。
【0024】
糸保持部30は、突起32と、凹部34とを有する。糸保持部30は、手術器具1において支持部20の長手方向の他方側に位置する端部に設けられる。すなわち、糸保持部30は支持部20の先端部22とは逆側に設けられる。突起32は第一突起32Aと、第二突起32Bと、第三突起32Cとを含む。第一突起32Aの長手方向の長さは、他の第二突起32B又は第三突起32Cの長手方向の長さより短い。突起32は、糸保持部30の長手方向の他方側に設けられる。すなわち、突起32は、糸保持部30nとは逆側に設けられる。弁修復手術の際、各突起32に人工糸を掛けることで、人工糸同士の長さをそろえることが可能である。突起32は、弾性素材から構成される。例えば、突起32は、シリコーンゴム、天然ゴム、又はポリウレタン等の材料から構成される。これにより、弁修復手術の際、各突起32に糸を掛ける又は外す操作が容易となる。凹部35は、支持部20の凸部26と嵌め合う。糸保持部30は、支持部20側が円柱状であり、突起32が設けられている端面に向かうに従って角に丸みを帯びた三角柱状となる形状である。
【0025】
糸保持部30の直径は、支持部20の直径よりも大きい。ここで、支持部20の直径とは、支持部20の任意の断面において測った最大外径と最小外径との平均をいう。また、糸保持部30の直径とは、糸保持部30の突起32が設けられる端面の最大外径と最小外形との平均をいう。支持部20の直径が大きすぎる場合、弁修復手術時に心臓内で引っかかってしまう等、取り回しが容易ではない。一方、支持部20の直径が小さすぎる場合、弁修復手術時に手術器具1を安定して配置することが容易ではない。そのため、支持部20の直径は、好ましくは約1mm~訳5mmでもよく、更に好ましくは約3mmでもよい。また、糸保持部30の直径が大きすぎる場合、支持部20と同様弁修復手術時に心臓内で引っかかってしまう等、取り回しが容易ではない。一方、糸保持部30の直径が小さすぎる場合、人工糸を各突起32に掛ける際のスペースを確保する事が容易ではない。そのため、糸保持部30の直径は、好ましくは約2mm~訳6mmでもよく、更に好ましくは約4mmでもよい。糸保持部30の直径及び支持部20の直径は、適用される動物の心臓の大きさや、手術野等によって任意の大きさに設計されてよいが、人工糸を各突起32に掛ける際のスペースを確保する観点から、糸保持部30の直径は、支持部20の直径よりも大きい方がより望ましい。
【0026】
図2は、
図1に示す糸保持部30をA方向から見た平面図である。
【0027】
図2に示されるように、第一突起32Aと、第二突起32Bと、第三突起32Cとは、長手方向の糸保持部30側から見たとき、糸保持部30の仮想的な略二等辺三角形T1の各頂点に各々設けられている。すなわち、仮想的な略二等辺三角形T1は、各突起32の糸保持部30との結合部分を結んだ三角形を示す。略二等辺三角形T1の底辺をL12、各々ほぼ等しい長さの辺をL14及びL16、略二等辺三角形T1の高さをL18とする。また、略二等辺三角形T2は、長手方向の糸保持部30側から見たときに、3つの各突起32の先端間を結んだ仮想的な三角形である。略二等辺三角形T2の底辺をL22、各々ほぼ等しい長さの辺をL24及びL26、略二等辺三角形T2の高さをL28とする。ここで、第二突起32Bと、第三突起32Cとは、略二等辺三角形T2の底辺であるL22に接する頂点に先端を有する。また、第一突起32Aは、略二等辺三角形T2の底辺であるL22に接しない頂点に先端を有する。略二等辺三角形T1の大きさは、略二等辺三角形T2の大きさより小さい。すなわち、各突起32が糸保持部30の外周方向に突き出して設けられている。これにより、各突起32が手術器具1の中心軸方向に突き出して設けられている場合と比較して、弁修復手術の際に、各突起32へ人工糸を掛ける又は外す操作が容易となる。
【0028】
略二等辺三角形T2の底辺であるL22の長さは、動物の心臓の弁尖間の距離に合わせて、好ましくは約3mm~訳7mmでもよく、更に好ましくは約5mmでもよい。また、略二等辺三角形T2の高さであるL28の長さは動物の心臓の弁尖間の距離に合わせて、好ましくは約2mm~訳6mmでもよく、更に好ましくは約4mmでもよい。L22の長さ又はL28の長さが長すぎる場合は、弁修復手術の際に、弁尖等に引っ掛かり手術の妨げとなる。一方、L22の長さ又はL28の長さが短すぎる場合は、糸掛け操作が困難となり、手術の妨げとなる。尚、二等辺三角形T1は、二等辺三角形でない三角形であってもよい。また、二等辺三角形T2も、二等辺三角形でない三角形であってもよい。
【0029】
<手術器具が適用される心臓の構造>
図3は、手術器具1が適用される対象の心臓5の例を示す概略図である。
【0030】
図3で示されるように、心臓50は、弁尖52と、乳頭筋54と、心室56とを備える。弁尖52は、心臓50の弁の一部であり、弁の開閉を制御する。弁尖52は、後尖52Aと前尖52Bとからなる。乳頭筋54は、弁尖52の適切な位置を保持し、弁の正確な閉鎖を助ける筋肉である。乳頭筋54は、正常な腱索又は人工糸によって弁尖52に連結される。心室56は、血液を体全体に送り出す役割を果たし、筋肉で構成される。心室56は、弁尖52から見て乳頭筋54の方向に位置する心室底部57を有する。
【0031】
<使用手順>
次に
図3~
図7を参照して、手術器具1の使用手順の一例を説明する。
図3に示す例では、弁尖52と乳頭筋54との間の全ての腱索が失われて逸脱が生じており、弁尖52と乳頭筋54との間に新たに人工腱索を形成するものとする。
【0032】
まず、弁修復手術前に、弁尖52と心室底部57との間の距離が超音波測定され、手術器具1の長さは、弁尖52から心室底部57までの長さと略同一となるように調整される。
【0033】
図4は、手術器具1を心臓50内に配置した状態の概略図である。
【0034】
図4に示されるように、支持部20は、長手方向の一方側の端部である先端部22が動物の心臓50の心室56に当接可能である。具体的には、支持部20の先端部22は、心室底部57付近に配置される。また、糸保持部30は、心臓50の弁尖52に当接可能である。具体的には、糸保持部30は、後尖52Aと前尖52Bとの間に配置される。この時、糸保持部30は、第一突起32Aが後尖52A側に位置し、第二突起32B及び第三突起32Cが前尖52B側に位置するよう配置される。また、
図4の左方向に手術対象である動物の胸が位置しており、右方向に動物の背中が位置している。弁修復は、多くの場合胸を開胸して行われるため、術者はB方向から心臓50を見て施術を行う。
【0035】
図5は、手術器具1の第一突起32Aに人工糸Y1を掛けた状態の概略図である。
【0036】
図5に示されるように、乳頭筋54は、人工腱索形成用の人工糸Y1を刺し通される。また、人工糸Y1は、後尖52Aに刺し通され、第一突起32Aに掛けられる。また、第一突起32Aに掛けられた人工糸Y1を、糸の余りが出ないよう結ぶ。人工糸Y1は、例えば穿刺針により乳頭筋54及び後尖52Aに刺し通されるが、穿刺針の図示は省略されている。人工糸Y1は一例として、合成樹脂材料で形成された糸を用いることができ、例えばゴアテックス(登録商標)が用いられる。但し、人工腱索の形成に適した各種の糸が人工糸Y1として用いられてもよい。
【0037】
図6は、手術器具1の第二突起32Bに二本目の人工糸Y2を、第三突起32Cに三本目の人工糸Y3を掛けた状態の概略図である。
【0038】
図6に示されるように、乳頭筋54は、人工糸Y2を刺し通される。また、人工糸Y2は、前尖52Bに刺し通され、第二突起32Bに掛けられる。また、第二突起32Bに掛けられた人工糸Y2を、糸の余りが出ないよう結ばれる。また、同様に人工糸Y3は、乳頭筋54に刺し通され、前尖52Bに刺し通され、第三突起32Cに掛けられ、更に人工糸Y3は糸の余りが出ないよう結ばれる。人工糸Y2及び人工糸Y3が上記のように操作されることで、人工糸Y2の長さ及び人工糸Y3の長さは、人工糸Y1の長さと略同一に揃えることが可能である。
【0039】
ここで、第一突起32Aは、B方向から施術を行う術者から見て手前に位置する。また、第二突起32B及び第三突起32Cは、術者から見て奥側に位置する。よって、第一突起32Aの長手方向の長さが、他の第二突起32B及び第三突起32Cの長手方向の長さより短いことにより、施術の際、第二突起32B及び第三突起32Cが視認されやすく、また糸掛けが容易となる。第一突起32Aの長手方向の長さは、好ましくは約1mm~訳5mmでもよく、更に好ましくは約3mmでもよい。第二突起32B又は第三突起32Cの長手方向の長さは、好ましくは約2mm~訳6mmでもよく、更に好ましくは約4mmでもよい。
【0040】
各突起32が糸保持部30の端面上の仮想的な三角形の各頂点に各々配置されていることにより、第一突起32Aが後尖52A側に位置し、第二突起32B及び第三突起32Cが前尖52B側に位置するよう配置することが可能である。これにより、人工糸Y1~Y3の長さを略同一に揃える事が容易となる。
【0041】
各突起32の糸保持部30との結合部分を結んだ仮想的な三角形が略二等辺三角形であることにより、B方向から見て奥側に位置する第二突起32B及び第三突起32Cが、術者から見て略等間隔に配置されることとなる。これにより、糸掛けが容易となり、また人工糸Y2の長さ及び人工糸Y3の長さを略同一に揃える事が容易となる。
【0042】
図7は、手術器具1を心臓50から外し、各人工糸Y1~Y3の余った部分を切り取った状態の概略図である。
【0043】
図7に示されるように、各人工糸Y1~Y3の長さは、略同一に揃えられる。
【0044】
尚、本実施形態に記載の使用手順では、第一突起32Aに初めに人工糸Y1が掛けられ、その後に第二突起32B、第三突起32Cに人工糸Y2~Y3が掛けられる手順を説明したが、人工糸Y1~Y3が掛けられる順序はこれに限定されない。例えば、第二突起32B又は第三突起32Cに初めに人工糸が掛けられ、その後に第一突起32Aに人工糸が掛けられてもよい。また、実施形態では、第一突起32Aに、後尖52Aに刺し通された人工糸が掛けられ、第二突起32B又は第三突起32Cに、前尖52Bに刺し通された人工糸が掛けられる使用方法を説明したが、各突起32と弁尖52との対応はこれに限定されない。例えば、第一突起32Aに、前尖52Bに刺し通された人工糸が掛けられ、第二突起32B又は第三突起32Cに、後尖52Aに刺し通された人工糸が掛けられてもよい。使用手順及び方法は、手術野の状況や、弁尖52、乳頭筋54、心室底部57の位置や大きさ等に応じて適宜変更されてもよい。
【0045】
<作用効果>
以上、本実施形態に係る動物の弁修復手術用の手術器具1は、動物の心臓50の心室56と弁尖52との間に配置される動物の弁修復手術用の手術器具1であって、一方向に長い棒状であり、長手方向の一方側に位置する端部が心室56に当接可能な支持部20と、支持部20の長手方向の他方側に位置する端部に設けられ、前記他方側に三つの突起32を有し、心臓50の弁尖52に当接可能な糸保持部30と、を備える。
【0046】
この構成によれば、三つの突起32を有することにより、正常な腱索の腱索長を基準としない場合であっても、一つの突起32に掛けた人工糸Y1の長さを基準として、他の人工糸Y2~Y3の長さを定めることができる。
【0047】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、三つの突起32は、長手方向の糸保持部30側から見たときに仮想的な三角形の各頂点に各々配置されている。
【0048】
一般に、弁尖は前尖と後尖を備え、人工糸は乳頭筋と前尖又は後尖とを連結する。そのため、この構成によれば、仮想的な三角形の一つの角を前尖52B又は後尖52Aの一方の近くに、仮想的な三角形の二つの角を前尖52B又は後尖52Aの他方の近くに配置することで、人工糸Y1~Y3の長さを略同一に揃える事が容易となる。
【0049】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、一つの突起32Aの長手方向の長さは、他の突起32の長手方向の長さより短い。
【0050】
この構成によれば、弁修復手術の際に、多くの場合奥側に位置することとなる突起32が手前の突起32よりも高いことにより、奥側の突起32が視認されやすく、人工糸を掛ける又は人工糸を外す操作が容易となる。
【0051】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、長手方向の糸保持部30側から見たときに、三つの突起32の先端間を結んだ仮想的な三角形は、略二等辺三角形T2である。
【0052】
この構成によれば、弁修復手術の際に、多くの場合奥側に位置することとなる突起32が、術者から見て手前側の突起32と略等間隔に配置されることとなるため、人工糸Y1~Y3の長さを略同一に揃える事が容易となる。
【0053】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、略二等辺三角形T2の底辺L28に接しない頂点に先端を有する一つの突起32Aの長手方向の長さは、他の突起32の長手方向の長さより短い。
【0054】
この構成によれば、弁修復手術の際に、多くの場合奥側に位置することとなる突起32が、術者から見て略等間隔に配置され、手前の突起32よりも高く設けられることにより、奥側の突起32が視認されやすく、また人工糸Y1~Y3の長さを略同一に揃える事が容易となる。
【0055】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、突起32の少なくとも1つは、糸保持部30の外周方向に突き出して設けられる。
【0056】
この構成によれば、各突起32が手術器具1の中心軸方向に突き出して設けられている場合と比較して、弁修復手術の際に、各突起32へ人工糸を掛ける又は外す操作が容易となる。
【0057】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、支持部20は、取り外し可能である。
【0058】
この構成によれば、心臓50の大きさに合わせて手術器具1の長さが調整可能である。
【0059】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、支持部20の一端は丸みを帯びている。
【0060】
この構成によれば、心臓50が傷つけられることを防止できる。
【0061】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、糸保持部30の直径は、支持部20の直径よりも大きい。
【0062】
この構成によれば、人工糸Y1~Y3を各突起32に掛ける際のスペースを確保でき、人工糸を掛ける又は人工糸を外す操作が容易となる。
【0063】
また、動物の弁修復手術用の手術器具1では、突起32は、弾性素材で構成される。
【0064】
この構成によれば、突起32が弾性素材で構成されない場合と比較して、人工糸を掛ける又は人工糸を外す操作が容易となる。
【0065】
---変形例---
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。すなわち、上述した具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。また、上記実施形態及び下記変形例が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0066】
例えば、先端部22は、丸みを帯びた円錐形状である例を一例としたが、先端部22の形状はこれに限定されない。例えば、支持部20が一様な円柱の形状であってもよい。また、先端部22の少なくとも一部が弾性素材で構成されてもよい。例えば、中空且つ半球のゴムが先端部22にかぶせられてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、ロッド部24及び凸部26の一部が切断されることにより、手術器具1の長手方向の長さが調整可能である構成を一例としたが、手術器具1の長さの調整方法はこれに限定されない。例えば、動物の心臓の大きさに合わせて、各々長さが異なる支持部20を同一の糸保持部30と組み合わせて使用されてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、突起32を3つ設ける構成を一例としたが、突起32の数は2つ、若しくは4つ以上でもよい。但し、弁修復手術では、人工腱索及び正常な腱索を合わせ、3つの腱索を掛ける場合が多く、好ましくは、突起32は、3つ以上設けられることが好ましい。例えば、4つの突起32を設ける場合は、各突起32は、糸保持部30上の仮想的な三角形の各頂点及び当該三角形の中心に各々設けられてもよく、糸保持部30上の仮想的な四角形の各頂点に各々設けられていてもよい。突起32を4つ以上設けることにより、心臓50内の弁尖52の位置等に応じて、必要な3つの突起32を弁修復手術で使用することが可能となる。
【0069】
また、突起32は、弾性素材以外で構成されてもよい。例えば、突起32は、硬質プラスチック、金属、セラミック等の材料から構成されてもよい。
【0070】
また、糸保持部30は、支持部20側が円柱状であり、突起32が設けられている端面に向かうに従って角に丸みを帯びた三角柱状となる形状を一例としたが、糸保持部30の形状はこれに限定されない。たとえば、糸保持部30は、球状でも、一様に三角柱状の形状でも、一様に円柱の形状でもよい。また、糸保持部30の支持部20側の端面の外径を、支持部20の外径と略同一とすることで、支持部20と糸保持部30との結合部が滑らかに結合される形状であってもよい。
【0071】
また、上述した実施形態では、各突起32が手術器具1の外周方向に突き出して設けられている構成を一例としたが、突起32の突き出し方向はこれに限定されない。例えば、各突起32が長手方向と並行に突き出して設けられていてもよく、各突起32は、手術器具1の中心軸方向に突き出して設けられていてもよい。但し、人工糸の各突起32への糸掛けを容易とするため、各突起32が手術器具1の外周方向に突き出して設けられている構成がより望ましい。
【0072】
また、上述した実施形態では、第一突起32Aの長手方向の長さは、他の第二突起32B又は第三突起32Cの長手方向の長さより短い構成を一例としたが、各突起32の長手方向の長さはこれに限定されない。例えば、第一突起32Aの長手方向の長さは、他の第二突起32B又は第三突起32Cの長手方向の長さと同じであってもよく、より長くてもよい。但し、施術時の視認性、糸掛けの容易性の観点から、第一突起32Aの長手方向の長さは、他の第二突起32B又は第三突起32Cの長手方向の長さより短いことが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
1:手術器具、5:心臓、20:支持部、30:糸保持部、32:突起、50:心臓、52:弁尖、56:心室
【要約】
【課題】正常な腱索の腱索長を基準としない場合であっても、人工糸の長さを定めることができる。
【解決手段】動物の弁修復手術用の手術器具1は、棒状であり、長手方向の一方側の端部が動物の心臓50の心室56に当接可能な支持部20と、支持部20の他方側の端部に設けられ、端面上に三つの突起32A、32B、32Cを有し、心臓50の弁尖52に当接可能な糸保持部30と、を備える。
【選択図】
図4