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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20240904BHJP
【FI】
A63B37/00 328
A63B37/00 214
A63B37/00 314
A63B37/00 332
A63B37/00 340
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018237317
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2020096762
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-11-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山邊 将大
(72)【発明者】
【氏名】望月 雄宣
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】道祖土 新吾
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-113308(JP,A)
【文献】特開2011-67595(JP,A)
【文献】特開2015-126772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層からなるコアにカバーを被覆し、該カバーの表面に塗膜を形成してなるゴルフボールにおいて、該カバーがポリウレタン又はポリウレアを主成分として含有した樹脂組成物により形成され、この樹脂組成物の材料硬度がショアD硬度で39~43であると共に、上記カバーの厚みが0.8mmであり、上記カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点で測定した該カバーのマルテンス硬度をHMa[N/mm2]、該カバーの弾性回復率をηIta[%]としたとき、HMa及びηItaは、下記式(1)~(3):
ηIta≧-1.16×HMa+79 ・・・(1)
11.1≦HMa≦17.2 ・・・(2)
64≦ηIta≦75 ・・・(3)
を満足し、且つ、上記塗膜のマルテンス硬度(HMb)が13.7N/mm 2 であり、弾性回復率(ηItb)が78%であることを特徴とするゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアとカバーとを具備するツーピース以上の多層ゴルフボールに関するものであり、更に詳述すると、アプローチショット時のスピン性能に優れると共に、耐擦過傷性にも優れたゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの要求特性は、主に飛距離の増大であるが、そのほかには、アプローチショット時にはボールが良く止まる性能や耐傷付き性(耐擦過傷性)などがある。即ち、今までは、ドライバー打撃時はよく飛び、アプローチショット時にはバックスピンが好適にかかるゴルフボールが多く開発されている。更に、ゴルフボールのカバー材料として、高反発であり且つ耐傷付き性の良いものが開発されてきた。
【0003】
このようなカバー材料としては、特にプロや上級者向きとして、アイオノマー樹脂材料に代わるものとしてウレタン樹脂材料を採用するものが多くなっている。
しかしながら、プロや上級者からはアプローチ時に更にコントロールし易いゴルフボールを要望しており、ウレタン樹脂材料をベース樹脂とするカバー材料であっても更なる改良が求められている。特開2017-113220号公報(特許文献1)には、グリーン周りにおけるサンドウエッジ(SW)等のショートアイアンでの操作性に優れ、ドライバーショット時のボールの飛距離を伸ばすことができるカバー材として、特定のスチレン系熱可塑性エラストマー及び分子中にスチレンモノマー単位及びジエンモノマー単位のいずれか一方を有する熱可塑性樹脂を含有したゴルフボール用樹脂材料が提案されている。また、特開2016-119946号公報(特許文献2)には、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を主材とし、グリーン周りにおけるサンドウエッジ(SW)等のショートアイアンでの操作性に優れるゴルフボール用樹脂材料が提案されている。
【0004】
しかしながら、このようなゴルフボール用樹脂材料は、アプローチ時のスピン量が多くなりコントロール性能は良好ではあるが、耐擦過傷性が十分でない場合がある。従って、従来から提供されるゴルフボールよりもアプローチショット時にコントロール性能と共に耐擦過傷性を一層高めることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-113220号公報
【文献】特開2016-119946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、アプローチショット時のスピン性能に優れると共に、耐擦過傷性にも優れたゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、コアとカバーとを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの材料として、ポリウレタン又はポリウレアを主成分として含有した樹脂組成物を用いると共に、上記カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点で測定した該カバーのマルテンス硬度をHMa[N/mm2]、該カバーの弾性回復率をηIta[%]としたとき、HMa及びηItaが、ηIta≧-1.16×HMa+79(但し、10.0≦HMa≦38.0及び40≦ηIta≦80である。)の特定式を満足するゴルフボールを作製したところ、このゴルフボールはアプローチ時のスピン量が多くなり、耐擦過傷性も良好であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.少なくとも1層からなるコアにカバーを被覆し、該カバーの表面に塗膜を形成してなるゴルフボールにおいて、該カバーがポリウレタン又はポリウレアを主成分として含有した樹脂組成物により形成され、この樹脂組成物の材料硬度がショアD硬度で39~43であると共に、上記カバーの厚みが0.8mmであり、上記カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点で測定した該カバーのマルテンス硬度をHMa[N/mm2]、該カバーの弾性回復率をηIta[%]としたとき、HMa及びηItaは、下記式(1)~(3):
ηIta≧-1.16×HMa+79 ・・・(1)
11.1≦HMa≦17.2 ・・・(2)
64≦ηIta≦75 ・・・(3)
を満足し、且つ、上記塗膜のマルテンス硬度(HMb)が13.7N/mm 2 であり、弾性回復率(ηItb)が78%であることを特徴とするゴルフボール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴルフボールは、アプローチショット時のスピン性能に優れると共に、耐擦過傷性にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施態様であるマルチピースソリッドゴルフボールの概略断面図である。
図2】本実施例及び比較例における、カバーのマルテンス硬度HMa及びその弾性回復率ηItaの関係を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、少なくとも1層からなるコアとカバーとを具備するものである。
【0012】
上記コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。
【0013】
また、ポリブタジエンは、Nd触媒の希土類元素系触媒,コバルト触媒及びニッケル触媒等の金属触媒により合成することができる。
【0014】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤,ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0015】
本発明では、上記カバーは、ポリウレタン又はポリウレアを含有した樹脂組成物により形成される。この樹脂組成物において、ポリウレタン、ポリウレア及びこれらの混合物が樹脂組成物全体に占める割合は、ウレタン樹脂が有する耐擦過傷性を十分に付与する点から、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0016】
ここで、上記のポリウレタン又はポリウレアについて以下に説明する。
ポリウレタン
ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来からポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではない。例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記の長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れたポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,500~4,000の範囲内であることがより好ましく、1,700~3,500の範囲内であることが更に好ましい。
【0018】
なお、上記の数平均分子量とは、JIS-K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である(以下、同様。)。
【0019】
鎖延長剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。
【0020】
ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。
【0021】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は適宜好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させてポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95~1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0022】
ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0023】
上述したポリウレタンとしては、熱可塑性ポリウレタン材料を用いることが好ましい。熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」や、大日精化工業社製の商品名「レザミン」などを挙げることができる。
【0024】
ポリウレア
ポリウレアは、(i)イソシアネートと(ii)アミン末端化合物との反応により生成するウレア結合を主体にした樹脂組成物である。この樹脂組成物について以下に詳述する。
【0025】
(i)イソシアネート
イソシアネートは、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はなく、上記ポリウレタン材料で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0026】
(ii)アミン末端化合物
アミン末端化合物は、分子鎖の末端にアミノ基を有する化合物であり、本発明では、以下に示す長鎖ポリアミン及び/又はアミン系硬化剤を用いることができる。
【0027】
長鎖ポリアミンは、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000~5,000であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は1,500~4,000であり、更に好ましくは1,900~3,000である。上記長鎖ポリアミンの具体例としては、アミン末端を持つ炭化水素、アミン末端を持つポリエーテル、アミン末端を持つポリエステル、アミン末端を持つポリカーボネート、アミン末端を持つポリカプロラクトン、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの長鎖ポリアミンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
一方、アミン系硬化剤は、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000未満であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は800未満であり、更に好ましくは600未満である。上記アミン系硬化剤の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1-メチル-2,6-シクロヘキシルジアミン、テトラヒドロキシプロピレンエチレンジアミン、2,2,4-及び2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタン、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタンの誘導体、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、1,3-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、ジエチレングリコールジ-(アミノプロピル)エーテル、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、プロピレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、イミド-ビス-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス-(2-クロロアニリン)、3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,6-トルエンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジフェニルメタン及びその誘導体、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、N,N’-ジアルキルアミノ-ジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、トリメチレングリコール-ジ-p-アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、4,4’-メチレンビス-(3-クロロ-2,6-ジエチレンアニリン)、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジエチルアニリン)、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及びこれらの混合物をあげることができるが、これらに限定されない。これらのアミン系硬化剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(iii)ポリオール
ポリウレアには、必須成分ではないが、上述した(i)成分及び(ii)成分に加えて更にポリオールを配合することができる。このポリオールとして、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はないが、具体例として、以下に示す長鎖ポリオール及び/又はポリオール系硬化剤を例示することができる。
【0030】
長鎖ポリオールとしては、従来からポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000であることが好ましく、より好ましくは1,700~3,500である。この数平均分子量の範囲であれば、反発性及び生産性等がより一層優れるものとなる。
【0032】
ポリオール系硬化剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が1000未満である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。また、上記ポリオール系硬化剤の、好ましい数平均分子量は800未満であり、より好ましくは600未満である。
【0033】
上記ポリウレアの製造方法については、公知の方法を採用し得、プレポリマー法、ワンショット法等の公知の方法を適宜選択すればよい。
【0034】
上記カバーを形成する樹脂組成物において、その材料硬度については、ゴルフボールとして得られるスピン特性や耐擦過傷性の点から、ショアD硬度で65以下であることが好ましく、より好ましくはショアD硬度で60以下、更に好ましくは55以下である。また、その下限値としては、成型性の点からショアD硬度で25以上が好ましく、より好ましくはショアD硬度で30以上である。
【0035】
また、上記のポリウレタン又はポリウレアの樹脂成分以外の他の樹脂材料を配合してもよい。その目的は、ゴルフボール用樹脂組成物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等の諸物性を高めるなどの点からである。
【0036】
他の樹脂材料としては、具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、ポリアセタール、ポリエチレン、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド及びポリアミドイミドから選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。
【0037】
上記カバーを形成する樹脂組成物には、更に、イソシアネート化合物を含有させることができる。これはポリウレタン又はポリウレアとイソシアネート化合物との反応により、この樹脂組成物の耐擦過傷性を更に向上させることができるほか、イソシアネートの可塑化効果により流動性を向上させて成型性を向上させることができる。
【0038】
上記イソシアネート化合物としては、通常のポリウレタンに使用されているイソシアネート化合物であれば特に制限なく用いることができ、例えば芳香族イソシアネート化合物としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート又はこれら両者の混合物、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネートなどが挙げられ、これら芳香族イソシアネート化合物の水添物、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることもできる。また、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、オクタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。更に、末端に2個以上のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基と活性水素を有する化合物とを反応させたブロックイソシアネート化合物や、イソシアネートの二量化によるウレチジオン体などが挙げられる。
【0039】
上記イソシアネート化合物の配合量は、ポリウレタン又はポリウレアの基材樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、上限値としては、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。この配合量が少なすぎると、十分な架橋反応が得られず、物性の向上が認められない場合がある。一方、この配合量が多すぎると、経時、熱や紫外線による変色が大きくなり、あるいは、熱可塑性を失ってしまったり、反発の低下等の問題が生じる場合がある。
【0040】
更に、上記樹脂組成物には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、充填剤(無機フィラー)、有機短繊維、補強剤、架橋剤、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、基材樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0041】
上記カバーを形成する樹脂組成物の調製方法については、例えば、混練型(単軸又は)二軸押出機,バンバリー,ニーダー,ラボプラストミル等の各種の混練機を用いて樹脂材料の各成分を混合することができ、或いは、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドにより各成分を混合しても良い。更に、イソシアネート化合物を用いる場合には、各種混練機を用いて樹脂混合時に含有させてもよく、または、イソシアネート化合物成分を含有した樹脂マスターバッチを別途用意し、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドすることもできる。
【0042】
例えば、上記カバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂組成物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂組成物を射出することによりカバーを成形することができる。この場合、成形温度としては、ポリウレタン又はポリウレア等の種類によって異なるが、通常150~270℃の範囲である。
【0043】
本発明では、上記カバーの所定位置の硬度について、具体的には、該カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点で測定した該カバーのマルテンス硬度をHMa[N/mm2]、該カバーの弾性回復率をηIta[%]としたとき、HMa及びηItaは、下記式(1)~(3):
ηIta≧-1.16×HMa+79 ・・・(1)
10.0≦HMa≦38.0 ・・・(2)
40≦ηIta≦80 ・・・(3)
を満足する。
【0044】
上記カバーのマルテンス硬度HMaは、上記のとおり、10.0~38.0N/mm2であり、下限値として、好ましくは11.0N/mm2以上であり、より好ましくは12N/mm2以上である。上限値としては、好ましくは36.0N/mm2以下、さらに好ましくは34.0N/mm2以下である。このマルテンス硬度が10.0~38.0N/mm2の範囲であれば、擦過傷性及びアプローチスピン性能に優れる。
【0045】
上記のマルテンス硬度HMaは、ISO 14577 :2002「Metallic materials - Instrumented indentation test for hardness and materials parameters」に基づいて超微小硬度計により測定することができる。即ち、圧子に荷重をかけながら測定対象物に押し込むことにより求められる物性値であり、押し込み力[N] /受圧部の面積[mm2]で求められる。マルテンス硬度の測定は、例えば、超微小硬さ試験システムの商品名「Fischerscope HM2000」(フィッシャー・インストルメンツ社製)などを用いて行うことが可能である。この測定装置は、例えば、ステップ的に荷重を連続して加えながらカバーの硬さを測定することができ、設定条件としては、室温で、10秒間で印加荷重を50mNに設定することができる。
【0046】
また、カバーの表面を測定する際は、該カバー表面に塗膜等が形成されているので、その特定が困難であり、また、カバー表面からボールの中心に向かって深い地点となると隣接層の硬度の影響を受けてしまうので、カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点であれば安定的にカバー固有のマルテンス硬度が得られるためである。
【0047】
また、上記のカバーの弾性回復率ηItaは、上記のとおり、40~80%であり、好ましくは50~75%である。この弾性仕事回復率が上記の範囲内であると、ゴルフボール表面に形成されるカバーが一定の硬度及び弾性を維持しながら自己修復回復機能が高くなりボールの優れた耐久性及び耐擦過傷性に寄与し得るものである。なお、マルテンス硬度が低くても、弾性回復率が低い場合には、アプローチ時のスピン性能が良いが擦過傷性が悪くなる。上記の弾性仕事回復率の測定方法については後述する。
【0048】
上記の弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、カバー物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、確実且つ精度高くなるカバー物性を評価することができると考えられる。このため、ゴルフボールのカバーがドライバーや各種のクラブの打撃より大きな影響を受け、当該カバーがゴルフボールの各種の物性に及ぼす影響は小さくないことから、該カバーを超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0049】
カバーの厚さは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.6mm以上であり、上限として、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
【0050】
上記コアと上記カバーとの間に少なくとも1層の中間層を介在させることができる。この場合、中間層の材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適であり、アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。
【0051】
本発明のゴルフボールには、空気力学的性能の点から、最外層の表面に多数のディンプルが設けられる。上記最外層表面に形成されるディンプルの個数については、特に制限はないが、空気力学的性能を高め飛距離を増大させる点から、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、さらに好ましくは290個以上、最も好ましくは300個以上であり、上限値として、好ましくは400個以下、より好ましくは380個以下、さらに好ましくは360個以下である。
【0052】
本発明では、カバー表面には塗膜層が形成される。この塗膜層を形成する塗料としては、2液硬化型ウレタン塗料を採用することが好適である。具体的には、この場合、上記2液硬化型ウレタン塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする主剤と、ポリイソシアネートを主成分とする硬化剤とを含むものである。
【0053】
カバー表面に上記の塗料を塗装して塗膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法等、所望の方法を用いることができる。
【0054】
塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常、8~22μm、好ましくは10~20μmである。
【0055】
上記塗膜のマルテンス硬度をHMb[N/mm2]及び弾性回復率をηItb[%]としたとき、HMb及びηItbは、下記式(4),(5):
HMb≦20.0 ・・・(4)
52≦ηItb≦82 ・・・(5)
を満たすものであることが好ましい。本発明のカバーの構成と相俟って、塗膜の硬度及び弾性を維持しながら自己修復回復機能が高くなりボールの優れた耐久性及び耐擦過傷性に寄与し得るものであり、且つ、アプローチ時のスピン性能もより一層良好になる。
【0056】
なお、上記の塗膜のマルテンス硬度及び弾性回復率の測定方法について、印加荷重等の条件以外は、上記カバーでのマルテンス硬度及び弾性回復率で説明したのと同様である。
【0057】
なお、本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0059】
〔実施例1~10、比較例1~3〕
表1に示す配合により、比較例2を除いた全ての例に共通するコア用のゴム組成物を調製・加硫成形することにより直径38.6mmのコアを作製した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「cis-1,4-ポリブタジエン」JSR社製、商品名「BR01」
・「アクリル酸亜鉛」日本触媒社製
・「酸化亜鉛」堺化学工業社製
・「硫酸バリウム」堺化学工業社製
・「老化防止剤」商品名「ノクラックNS6」(大内新興化学工業社製)
・「有機過酸化物(1)」ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・「有機過酸化物(2)」1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・「ステアリン酸亜鉛」日油社製
【0062】
次に、全ての例に共通する中間層樹脂材料を配合した。この中間層樹脂材料は、酸含量18質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体のナトリウム中和物50質量部と、酸含量15質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の亜鉛中和物50質量部との合計100質量部とするブレンド物である。この樹脂材料を、上記で得た直径38.6mmのコアの周囲に射出成形し、厚さ1.25mmの中間層を有する中間層被覆球体を製造した。
【0063】
次に、上記の中間層被覆球体の周囲に、以下に記載した各実施例・比較例のカバー材料を用い、同表に示す配合量で射出成形し、厚さ0.8mmのカバー層(最外層)を有する直径42.7mmのスリーピースゴルフボールを作製した。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。
【0064】
カバー樹脂組成物の調製
各実施例及び比較例のカバー樹脂組成物については、下記表2のとおりである。
【0065】
【表2】
【0066】
〈実施例1~10、比較例1、3〉 ・・・ 「TPU1~12」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン、「MDI」:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(イソシアネート化合物)
〈比較例2〉 ・・・ ProV1x(2017年モデル)、ウレタンカバー
【0067】
カバーのマルテンス硬度
各例のゴルフボールにおいて、ボールを半分に切断し、そのボール断面から、カバーの表面からボールの中心に向かって0.3mmの地点を特定し、当該箇所におけるマルテンス硬度HMa[N/mm2]をフィッシャー・インスツルメンツ社製の商品名「Fischerscope HM2000」の超微小硬度試験計を用いて測定した。硬度測定の条件は、室温で印加荷重50mN/10sの下で、測定を行った。
【0068】
カバーの弾性仕事回復率
カバーの弾性仕事回復率の測定には、フィッシャー・インスツルメンツ社製の商品名「Fischerscope HM2000」の超微小硬度試験計を用いて測定した。測定条件は、室温で印加荷重50mN/10sの下で、カバーの戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=(Welast / Wtotal) × 100(%)
【0069】
なお、本実施例及び比較例における、カバーのマルテンス硬度HMa及びその弾性回復率ηItaをプロットして、その関係を示したデータを図2に示した。
【0070】
塗膜層の形成
次に、下記表3に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成されたカバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗膜層を形成したゴルフボールを作製した。実施例1~7、実施例9,10、比較例1及び比較例3のゴルフボールについては、下記の塗料配合「A」を使用し、実施例8ゴルフボールについては、下記の塗料配合「B」を使用した。
【0071】
【表3】
【0072】
表3中のアクリル系ポリオール*1及び*2の合成例を以下に記載する。なお、以下において、「部」は「質量部」を意味する。
【0073】
[アクリル系ポリオールの合成例1]
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、および滴下装置を備えた反応器に、酢酸ブチルを1000部仕込み、撹拌しながら100℃まで昇温した。そこに、ポリエステル含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM-3)620部、メチルメタクリレート317部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート63部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル12部からなる混合物を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後、酢酸ブチル532部,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルL205AL)520部仕込み、混合して固形分50%、粘度600mPa・s(25℃)、重量平均分子量70,000、水酸基価142mgKOH/g(固形分)の、透明なアクリル系ポリオール樹脂溶液(ポリオール*1)を得た。
【0074】
[アクリル系ポリオールの合成例2]
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入管、および滴下装置を備えた反応器に、酢酸ブチルを1000部仕込み、撹拌しながら100℃まで昇温した。そこに、ポリエステル含有アクリルモノマー(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルFM-3)220部、メチルメタクリレート610部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート170部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル30部からなる混合物を、4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で6時間反応させた。反応終了後、酢酸ブチル180部,ポリカプロラクトンジオール(ダイセル化学工業株式会社製、プラクセルL205AL)150部を仕込み、混合して固形分50%、粘度100mPa・s(25℃)、重量平均分子量10,000、水酸基価113mgKOH/g(固形分)の、透明なアクリル系ポリオール樹脂溶液(ポリオール*2)を得た。
【0075】
得られた実施例及び比較例の各ゴルフボールについて、下記のとおり、ボールの直径、ボールのたわみ量、マルテンス硬度及び弾性回復率を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0076】
ボールの直径(外径)
23.9±1℃の温度で、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数5個のボールの平均値を求めた。
【0077】
ボールのたわみ量
ボールを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときまでのたわみ量(mm)を計測した。なお、上記のたわみ量はいずれも23.9℃に温度調整した後の測定値である。
【0078】
ボール(塗膜)のマルテンス硬度及び弾性回復率
上記カバーの測定で使用した装置により、ゴルフボールをハーフキャップに入れて、測定したい場所を頂点に持っていき、ディンプルの底部を測定箇所にしてピントを合わせ測定した。測定の条件は、以下の通りである。
・温度(約23~24℃)
・荷重F:0.3mN
・荷重時間:10秒
・測定数(N):3回
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=(Welast / Wtotal) × 100(%)
【0079】
上記各実施例及び比較例で得られたゴルフボールについて、アプローチ時のスピン性能及び耐擦過傷性を下記のとおり評価した。
【0080】
アプローチスピン性能
ゴルフ打撃ロボットにサンドウェッジ(SW)を取り付けて、ヘッドスピード20m/sで打撃した時のスピン量を測定した。クラブはブリヂストン社製「TourStage X-WEDGE」(ロフト56°)を使用した。
【0081】
耐擦過傷性
ボールを23℃に保温するとともに、スウィングロボットマシンを用い、クラブはピッチングウェッジを使用して、ヘッドスピード33m/sで各ボールを各5球ずつ打撃し、打撃傷を以下の基準で目視にて評価し、その平均値を算出した。
5点:傷がついていないか、ほとんど傷が目立たない。
4点:やや傷が見られるものの、ほとんど気にならない。
3点:表面がやや毛羽立っている。
2点:表面が毛羽立ったり、ディンプルが欠けたりしている。
1点:ディンプルが完全に削り取られてしまっている。
【0082】
〔比較例2〕
比較例2についても、ゴルフボールのアプローチスピン性能及び耐擦過傷性を上記の各実施例と同様の方法で評価した。なお、比較例2のゴルフボールは、下記の市販品の2層コア、中間層及びカバーを具備するフォーピースソリッドゴルフボールである。
「比較例2」・・・製品名「Titleist ProV1x 2017年モデル」(Acushnet社製)
【0083】
【表4】
【0084】
上記表4の結果から、本実施例1~10のゴルフボールは、上記式(1)~(3)を満たすものであり、その結果、アプローチ時のスピン量が多くなり、コントロール性能が良好であり、また、耐擦過傷性も良好であることが分かる。
これに対して、比較例1は、上記式(1)および(2)を満たさないため、アプローチスピン量が多くなり、コントロール性能が良好ではあるが、耐擦過傷性に劣る。比較例2は、式(1)を満たさないため、アプローチスピン量が多くなり、コントロール性能が良好ではあるが、耐擦過傷性に劣る。比較例3は、上記式(2)を満たさないため、アプローチスピン量と耐擦過傷性との両方に劣る。
図1
図2