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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F02B 17/00 20060101AFI20240904BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20240904BHJP
   F02B 23/08 20060101ALI20240904BHJP
   F02B 31/06 20060101ALI20240904BHJP
   F02B 31/08 20060101ALI20240904BHJP
   F02M 25/025 20060101ALI20240904BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
F02B17/00 L
F02B23/10 G
F02B17/00 D
F02B17/00 F
F02B17/00 101
F02B23/08 Q
F02B23/10 N
F02B23/10 310B
F02B31/06 500B
F02B31/08 500A
F02M25/025
F02D19/12 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020042790
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021143629
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三橋 大輝
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-280055(JP,A)
【文献】特開2012-241656(JP,A)
【文献】特開平06-159077(JP,A)
【文献】特開2000-002118(JP,A)
【文献】特開2000-248942(JP,A)
【文献】特開2018-184908(JP,A)
【文献】特開2019-105222(JP,A)
【文献】特開2018-059488(JP,A)
【文献】特開2017-025775(JP,A)
【文献】特開2010-203276(JP,A)
【文献】特開2006-161733(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017204055(DE,A1)
【文献】特開2008-169768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00- 23/10
F02B 31/06- 31/08
F02B 47/00- 47/06
F02M 25/00- 25/14
F02M 39/00- 71/04
F02D 13/00- 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内部にタンブル流を生成させるタンブル流生成手段と、
前記シリンダ内部の中央領域に向けて燃料を噴霧する燃料噴射用インジェクタと、
シリンダヘッドにおいて、前記燃料噴射用インジェクタを挟んで両サイド領域のそれぞれに設けられ、前記シリンダ内部の前記両サイド領域のそれぞれに向けて、吸気ポートから前記シリンダ内部に流入する空気の流通方向と同一の方向に水を噴霧する複数の水噴射用インジェクタと、
を具備し、
前記タンブル流生成手段は、ピストン冠面の略中央領域に形成される中央凹溝と、前記中央凹溝を挟んで当該ピストン冠面の両側縁部にそれぞれ形成され当該ピストン冠面の外周縁に向けて傾きを有する複数の周縁側傾斜面と、前記中央凹溝の末端に形成され前記中央凹溝の底部から前記中央凹溝の延長方向に延びかつ前記ピストン冠面の上方に向けて形成される末端傾斜面と、前記中央凹溝の内側面の両サイドに形成され前記中央凹溝の底部から前記中央凹溝の延長方向に直交する方向に延びかつ前記ピストン冠面の上方に向けて形成される凹状傾斜面と、を有し、
前記燃料噴射用インジェクタから噴霧された燃料と前記吸気ポートから吸入された空気との混合気は、前記シリンダ内部の中央領域において、前記タンブル流生成手段により生成されたタンブル流によって循環し、
前記水噴射用インジェクタから噴霧された霧状の水は、前記シリンダ内部の両サイド領域のそれぞれにおいて、前記タンブル流生成手段により生成されたタンブル流によって循環し、
前記混合気と前記霧状の水とは、相互に層状化した状態が保持されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記タンブル流生成手段は、さらに、
前記吸気ポートの内部に形成され、前記吸気ポート内の吸気流路を縦方向に分割する隔壁からなることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリンダ内部へ水噴射を行う水噴射装置を備えた内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンを燃料とする内燃機関(いわゆるガソリンエンジン)を適用した自動車に対する燃費規制は、増々強化されている。
【0003】
従来の自動車用ガソリンエンジンにおいて、燃費向上を実現する技術としては、例えば希薄燃焼(リーンバーン)技術がある。しかしながら、希薄燃焼技術を採用したガソリンエンジンでは、窒素酸化物(NOx)を多く含む排気ガスが発生する傾向が強いことから、三元触媒による排気ガスの浄化が困難であるという問題点がある。
【0004】
そこで、近年における自動車用ガソリンエンジンにおいては、排気ガス(特に窒素酸化物(NOx))の発生の低減を図ると同時に、燃費向上を企図するための技術手段として、シリンダ内部を冷却するための水噴射を行う技術が、例えば特開2018-173000号公報,特開2001-152859号公報等によって種々提案されており、また一般に実用化されている。
【0005】
上記特開2018-173000号公報等によって開示されている内燃機関は、窒素酸化物(NOx)等の排気ガスの発生を抑止するために、燃料と水とをシリンダ内部に向けてそれぞれ別個に噴射するための複数の噴射装置を備えて構成されている。
【0006】
この場合において、当該内燃機関では、運転状態が高負荷の時には、燃料噴射と水噴射とを所定の重複したタイミングで実施することによって、燃焼室の中央部分に燃料と水と空気とを混合状態で偏在させて、効率的な燃焼を得るようにしている。
【0007】
一方、同内燃機関において、運転状態が低負荷の時には、燃料噴射を所定のタイミングで実施すると共に水噴射を停止させることによって、燃焼室の中央部分に燃料と空気の混合気のみを偏在させて効率的な燃焼を得るように構成している。
【0008】
また、上記特開2001-152859号公報等によって開示されている内燃機関は、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)と未燃炭素量を抑制するために、燃料と空気と水とを予め混合させて、その混合気を燃焼室内へと噴射するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-173000号公報
【文献】特開2001-152859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特開2018-173000号公報,上記特開2001-152859号公報等によって開示されている内燃機関では、噴射された燃料と水とは燃焼室内で混合した状態となるように構成されている。
【0011】
一般に、ガソリンなどの燃料の気化熱に比べて、水の気化熱の方が高いことは周知である。このことを考慮すると、ガソリンエンジンなどの内燃機関において、水噴射を行って、シリンダ内部を効率的に冷却するのと同時に、理論空燃比近傍での燃焼を実現するためには、シリンダ内部に噴射された燃料と水とが混合することなく、相互に層状化した状態が保たれることが望ましい。
【0012】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、シリンダ内部へ水噴射を行う水噴射装置を備えた内燃機関において、運転状況に応じて水噴射を行ってシリンダ内部を効率的に冷却することができると同時に、希薄燃焼状態になることを避け、水噴射によるシリンダ内部の作動流体を増やして、理論空燃比近傍での燃焼を実現することのできる内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の内燃機関は、シリンダ内部にタンブル流を生成させるタンブル流生成手段と、前記シリンダ内部の中央領域に向けて燃料を噴霧する燃料噴射用インジェクタと、シリンダヘッドにおいて、前記燃料噴射用インジェクタを挟んで両サイド領域のそれぞれに設けられ、前記シリンダ内部の両サイド領域のそれぞれに向けて、吸気ポートから前記シリンダ内部に流入する空気の流通方向と同一の方向に水を噴霧する複数の水噴射用インジェクタと、を具備し、前記タンブル流生成手段は、ピストン冠面の略中央領域に形成される中央凹溝と、前記中央凹溝を挟んで当該ピストン冠面の両側縁部にそれぞれ形成され当該ピストン冠面の外周縁に向けて傾きを有する複数の周縁側傾斜面と、前記中央凹溝の末端に形成され前記中央凹溝の底部から前記中央凹溝の延長方向に延びかつ前記ピストン冠面の上方に向けて形成される末端傾斜面と、前記中央凹溝の内側面の両サイドに形成され前記中央凹溝の底部から前記中央凹溝の延長方向に直交する方向に延びかつ前記ピストン冠面の上方に向けて形成される凹状傾斜面と、を有し、前記燃料噴射用インジェクタから噴霧された燃料と前記吸気ポートから吸入された空気との混合気は、前記シリンダ内部の中央領域において、前記タンブル流生成手段により生成されたタンブル流によって循環し、前記水噴射用インジェクタから噴霧された霧状の水は、前記シリンダ内部の前記両サイド領域のそれぞれにおいて、前記タンブル流生成手段により生成されたタンブル流によって循環し、前記混合気と前記霧状の水とは、相互に層状化した状態が保持されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリンダ内部へ水噴射を行う水噴射装置を備えた内燃機関において、運転状況に応じて水噴射を行ってシリンダ内部を効率的に冷却することができると同時に、希薄燃焼状態になることを避け、水噴射によるシリンダ内部の作動流体を増やして、理論空燃比近傍での燃焼を実現することのできる内燃機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の内燃機関の概略構成を示す要部断面図
図2図1の内燃機関に適用されるピストン冠面の概略形状を示す平面図
図3図2の[3]-[3]線に沿う概略断面図
図4図2の[4]-[4]線に沿う概略断面図
図5図1の内燃機関において、燃焼室近傍の構成を概念的に示す図
図6図1の内燃機関を備えた自動車において適用される水回収システムの概略構成を概念的に示すブロック構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示の実施の形態によって本発明を説明する。以下の説明に用いる各図面は模式的に示すものであり、各構成要素を図面上で認識できる程度の大きさで示すために、各部材の寸法関係や縮尺等を構成要素毎に異ならせて示している場合がある。したがって、本発明は、各図面に記載された各構成要素の数量や各構成要素の形状や各構成要素の大きさの比率や各構成要素の相対的な位置関係等に関して、図示の形態のみに限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の内燃機関の概略構成を示す要部断面図である。図2図4は、図1の内燃機関に適用されるピストンの概略形状を示す図である。このうち、図2は、ピストン冠面の概略形状を示す平面図である。図3は、図2の[3]-[3]線に沿う概略断面図である。図4は、図2の[4]-[4]線に沿う概略断面図である。図5は、図1の内燃機関において、燃焼室近傍の構成を概念的に示す図である。ここで、図5は、当該内燃機関のシリンダ上方からピストン冠面に対向して見たときの内部構造を平面的に示している。
【0018】
本発明の一実施形態は、例えばガソリンを燃料とする内燃機関、即ちガソリンエンジンであって、例えば自動車等に適用される内燃機関の一例を示している。
【0019】
図1に示すように、本実施形態における内燃機関としてのエンジン1は、シリンダブロック5と、当該シリンダブロック5と一体に形成されたクランクケース6と、シリンダブロック5に連結されたシリンダヘッド7等を備えて構成されている。
【0020】
シリンダブロック5には、気筒を構成するシリンダ10が内部に配設されている。このシリンダ10には、ピストン11が摺動自在に配設されている。そして、シリンダヘッド7と、シリンダ10と、ピストン11とによって囲まれた空間が気筒の燃焼室12として形成されている。
【0021】
なお、図1においては、図面の煩雑化を避けるために、1気筒分のみを図示しているが、本実施形態が適用されるエンジン1は、例えば水平対向4気筒エンジン等のような形態の多気筒エンジンであってもよい。
【0022】
また、エンジン1には、クランクケース6によってクランク室13が形成されている。このクランク室13の内部には、クランクシャフト14が、図1の符号Cで示す回転軸を中心に回転自在に支持されている。このクランクシャフト14には、コネクティングロッド15を介してピストン11が連結されている。
【0023】
シリンダヘッド7には、吸気ポート20及び排気ポート21が形成されている。これら、吸気ポート20及び排気ポート21は、シリンダヘッド7の外部空間と燃焼室12とを連通させるための貫通孔である。なお、図1には図示されないが、吸気ポート20及び排気ポート21は、それぞれ複数設けられている(図5参照)。
【0024】
また、シリンダヘッド7には、吸気バルブ25及び排気バルブ26と、吸気用カムシャフト27及び排気用カムシャフト28等からなる弁開閉機構が設けられている。
【0025】
吸気バルブ25及び排気バルブ26は、吸気ポート20及び排気ポート21の燃焼室12への開口部分を所定のタイミングで開閉するための開閉弁である。ここで、吸気バルブ25の末端には吸気用カムシャフト27に固定された吸気カム27aが当接している。そして、吸気バルブ25は、吸気用カムシャフト27の回転に伴って、吸気ポート20を燃焼室12に対して開閉する。なお、図1に示す状態は、吸気カム27aの作用によって、吸気ポート20が燃焼室12に対して開状態とされている状態を示している。
【0026】
この状態にあるとき、吸気ポート20からは、シリンダ10(燃焼室12)の内部へと空気が流入する。この流入空気は、シリンダ10(燃焼室12)の内部に、図1の矢印符号Taで示すようなタンブル流を発生させる。
【0027】
ここで、吸気ポート20からの流入空気によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部にタンブル流を生成させるためのタンブル流生成手段としては、例えば、ピストン冠面の略中央部分に形成した凹部や、吸気ポート20の内部に設けられるタンブルジェネレーションバルブ(TGV;Tumble Generation Valve)61等がある。これらの形態のタンブル流生成手段は周知の技術である。
【0028】
また、詳細は後述するが(図1図5等参照)、本実施形態のエンジン1においては、吸気ポート20の形状や、その内部構成、及びピストン11の冠面形状などを工夫することによって、上記タンブル流生成手段によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部に生成されたタンブル流を、同シリンダ10の内部において、複数のタンブル流を層状に生成させるための構成を有している。
【0029】
例えば、本実施形態のエンジン1においては、図5に示すように、各吸気ポート20の内部に、空気の流通方向に沿って形成され、空気流通路を縦方向に2分割するための隔壁20aが設けられている。この場合において、当該隔壁20aは、各吸気ポート20の内部を、空気の流通方向に対して2つの領域に分割している。即ち、当該隔壁20aは、吸気ポート20の内部の空気流通路を左右2分割している。そして、これにより、吸気ポート20の燃焼室12に臨む開口も、隔壁20aによって左右に2分割されている。
【0030】
このような構成によって、隔壁20aは、吸気ポート20からシリンダ10(燃焼室12)の内部へと流入する空気の流れを2方向に分割する役目をしている。これにより、吸気ポート20の燃焼室12に臨む開口のうち、図5の符号20fで示す領域(左ハッチングで示す領域)を通る空気は、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍に向けて主に流入する。また、吸気ポート20の燃焼室12に臨む開口のうち、図5の符号20wで示す領域(右ハッチングで示す領域)を通る空気は、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍に向けて主に流入する。
【0031】
一方、図1に戻って、排気バルブ26の末端には排気用カムシャフト28に固定された排気カム28aが当接されている。そして、排気バルブ26は、排気用カムシャフト28の回転に伴って、排気ポート21を燃焼室12に対して開閉する。
【0032】
また、シリンダヘッド7には、燃料噴射用インジェクタ30と、点火プラグ31と、水噴射用インジェクタ32等が設けられている。これら燃料噴射用インジェクタ30,点火プラグ31,水噴射用インジェクタ32は、それぞれの先端部分が燃焼室12内に配置されるように、それぞれがシリンダヘッド7の所定の位置に固定されている。
【0033】
なお、燃料噴射用インジェクタ30には、不図示の燃料タンクから延出される燃料供給用管路30aが接続されている。また、水噴射用インジェクタ32には、水タンク33から延出される水供給用管路33aが接続されている。また、図1には図示されていないが、本実施形態のエンジン1においては、水噴射用インジェクタ32は複数設けられている。具体的には、本実施形態においては、2つの水噴射用インジェクタ32を設けた例を示している(図5参照)。
【0034】
これら燃料噴射用インジェクタ30,点火プラグ31,水噴射用インジェクタ32は、不図示のエンジン制御ユニット(ECU;Electronic Control Unit)によって所定の制御がなされる。
【0035】
例えば、エンジン制御ユニットは、燃料噴射用インジェクタ30を駆動して、所定のタイミングでシリンダ10(燃焼室12)の内部に向けて燃料を噴霧する制御を行う。ここで、燃料を噴霧するとは、燃料に圧力を加えて霧状にして噴射することを言う。この制御によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部における所定の領域には、吸気ポート20から流入した空気と、燃料噴射用インジェクタ30から噴霧された燃料との混合気が偏在される。ここで、当該混合気の偏在される所定の領域は、シリンダ10(燃焼室12)の略中央領域近傍である(詳細後述;図5参照)。
【0036】
なお、混合気を偏在させる所定の領域として、シリンダ10(燃焼室12)の略中央領域近傍となるように構成しているのは、点火プラグ31が、シリンダ10の内側上面において略中央部分近傍に配置されているためである。つまり、シリンダ10(燃焼室12)の内部において、点火プラグ31の近傍に、燃料を含む混合気を偏在させるように構成することは、当該混合気の着火性を向上させる意図を有している。
【0037】
また、エンジン制御ユニットは、点火プラグ31を所定のタイミングで点火させる制御を行う。この制御によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部に充填された燃料と空気との混合気を燃焼させる。
【0038】
そして、エンジン制御ユニットは、水噴射用インジェクタ32を駆動して、所定のタイミングで水(例えば蒸留水若しくは水道水など)をシリンダ10(燃焼室12)の内部に向けて噴霧する制御を行う。ここで、水を噴霧するとは、水に圧力を加えて霧状にして噴射することを言う。この制御によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部における所定の領域には、水噴射用インジェクタ32から噴霧された水が偏在される。ここで、霧状の水が偏在される所定の領域は、シリンダ10(燃焼室12)の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍である(詳細後述;図5参照)。
【0039】
吸気ポート20には、インテークマニホールド35を介して吸気管36が接続されている。これら吸気ポート20,インテークマニホールド35,吸気管36等によって吸気通路37が構成されている。なお、図1においては、吸気通路37を通る空気の流れを矢印符号[IN]で示している。
【0040】
インテークマニホールド35の終端側(吸気管36が接続される側)には、インテークマニホールド合流部35aが設けられている。このインテークマニホールド合流部35aは、当該エンジン1が、多気筒エンジン形態である場合に、各気筒の各吸気ポート20にそれぞれ連設されている各インテークマニホールド35のそれぞれの終端が合流する部分を示している。そして、このインテークマニホールド合流部35aには、吸気管36が接続されている。
【0041】
一方、排気ポート21には、エキゾーストマニホールド38を介して排気管39が接続されている。これら排気ポート21,エキゾーストマニホールド38,排気管39等によって排気通路40が構成されている。なお、図1においては、排気通路40を通って外部に排出される空気の流れを矢印符号[EX]で示している。
【0042】
エキゾーストマニホールド38の終端側(排気管39が接続される側)には、エキゾーストマニホールド合流部38aが設けられている。このエキゾーストマニホールド合流部38aは、当該エンジン1が、多気筒エンジン形態である場合に、各気筒の各排気ポート21にそれぞれ連設されている各エキゾーストマニホールド38のそれぞれの終端が合流する部分を示している。そして、このエキゾーストマニホールド合流部38aには、排気管39が接続されている。
【0043】
吸気通路37の上流側において、吸気管36の中途には、外部から吸入された空気に混入する塵埃や異物等を除去するためのエアクリーナ45が設けられている。
【0044】
また、吸気通路37の中途において、例えば、吸気管36とインテークマニホールド35との接続部近傍の内部には、スロットル弁46が設けられている。このスロットル弁46は、吸気通路37を通って燃焼室12へと送出される空気量を調節するための開閉弁である。スロットル弁46は、例えばエンジン制御ユニットによって不図示のアクチュエータが駆動制御されることにより開閉動作される電子制御式の開閉弁からなる。
【0045】
さらに、吸気通路37の下流側には、吸気ポート20の内部を空気の流通方向に沿って上下2つに区画する隔壁60が設けられている。この隔壁60の上流側にはタンブルジェネレーションバルブ(TGV)61が設けられている。これら隔壁60及びTGV61等はタンブル流生成手段の一部を構成している。
【0046】
TGV61は、不図示のアクチュエータによって開閉動作される電子制御式バルブである。TGV61は、アクチュエータが不図示のエンジン制御ユニット(ECU)によって駆動制御されることにより、隔壁60によって区画された流路の一方(図1の上側流路)を開閉する。
【0047】
具体的には、エンジン負荷(アクセル開度)が小さく吸気流量が少ない場合、ECUはTGV61の開度を絞り、吸気のほとんどを隔壁60によって区画された他方の流路(図1の下側流路)に流通させる。これにより、燃焼室12には流速を高めた空気が流入され、燃焼室12内において強いタンブル流が生成される。
【0048】
一方、排気通路40には、エキゾーストマニホールド合流部38aよりも下流側に、触媒41が設けられている。この触媒は、例えば三元触媒であって、燃焼室12から排出された排気ガス中の炭化水素(HC),一酸化炭素(CO),窒素酸化物(NOx)等を浄化する構成ユニットである。
【0049】
本実施形態の内燃機関としてのエンジン1は、以上のように構成されている。なお、本実施形態のエンジン1は、上述した各構成部材,構成ユニットなど以外にも多数の構成部材,構成ユニットを有して構成されているものである。しかしながら、それらの構成部材,構成ユニットなどについては、本発明に直接関連しない部分であるので、それらの図示及び詳細な説明は省略する。
【0050】
また、本実施形態のエンジン1に適用される得る水噴射装置としては、上述した水噴射用インジェクタ32,水タンク33,水供給用管路33a等によって構成される構成ユニットを指す。この場合において、水噴射装置は、図示していないその他の構成要素、例えば水タンク33に貯留された水(例えば蒸留水若しくは水道水など)を水供給用管路33aを通して水噴射用インジェクタ32へと適宜必要量だけ吐出するための水吐出用ポンプなどのほか、水噴射用インジェクタ32を駆動制御するためのエンジン制御ユニット(ECU)の機能をも含むものとして説明している。
【0051】
次に、本実施形態のエンジン1に適用されるピストン11に関し、その冠面形状について、図2図4を用いて、以下に説明する。
【0052】
本実施形態のエンジン1に適用されるピストン11の冠面形状は、図2図4に示すように、略中央部分に形成されており、断面が略凹状からなる中央凹溝11aと、この中央凹溝11aを挟んで、当該ピストン冠面の両側縁部近傍にそれぞれ形成されており、断面が略凹状からなり、かつ当該ピストン冠面の外周縁に向けて傾きを有する複数(2つ)の周縁側傾斜面11dを有して形成されている。なお、このうち中央凹溝11aは、ピストン冠面の略中央部分に形成した凹部である。即ち、本実施形態のエンジン1のピストン11における中央凹溝11aは、従来構成のエンジンにおけるタンブル流生成手段の一部に略相当するものでもある。
【0053】
さらに詳述すると、本実施形態においては、ピストン冠面の中央凹溝11aは、当該ピストン11の冠面において、吸気ポート20から流入される空気の流通方向と略同方向に沿って延びる溝によって形成されている。そして、この中央凹溝11aの末端には、当該中央凹溝11aの底部から同中央凹溝11aの延長方向に延び、かつピストン冠面の上方に向けた略凹状の末端傾斜面11bが形成されている。さらに、中央凹溝11aの内側面の両サイドには、当該中央凹溝11aの底部から当該中央凹溝11aの延長方向に直交する方向(周縁側傾斜面11dに対向する方向)に延び、かつピストン冠面の上方に向けた略凹状の傾斜面11cが形成されている。
【0054】
このような冠面形状を備えて形成されたピストン11が適用される本実施形態のエンジン1においては、吸気ポート20からシリンダ10(燃焼室12)の内部へと流入する空気(図1図5の符号[IN]参照)は、まず、吸気ポート20の各隔壁20aによってそれぞれ左右2分割される。
【0055】
このとき、2つの吸気ポート20の燃焼室12に臨む2つの開口のうち、図5の符号20fで示す領域(左ハッチングで示す2つの領域)を通る空気は、上述したように、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍、即ちピストン冠面の中央凹溝11aに向けて主に流入する。ここで、中央凹溝11aは、上述したように、末端傾斜面11b及び傾斜面11cを有して形成されている。このことから、燃焼室12には、図5の矢印符号Ta1に示すようなタンブル流が形成される。このタンブル流Ta1は、上述したピストン冠面形状(中央凹溝11a,末端傾斜面11b)によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍で主に循環する。
【0056】
そして、燃料噴射用インジェクタ30から所定のタイミングでシリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍に向けて燃料が噴霧されると(図5の矢印符号F参照)、燃焼室12の略中央領域近傍には、燃料と空気との混合気が、タンブル流Ta1によって偏在し循環する。
【0057】
そのために、本実施形態のエンジン1においては、燃料噴射用インジェクタ30は、例えば、シリンダヘッド7上において、2つの吸気ポート20に挟まれる部分であって、ピストン冠面の略中央領域近傍に対向する部分に配設されている。この場合において、燃料噴射用インジェクタ30の燃料の噴射方向は、各吸気ポート20の各領域20fからシリンダ10(燃焼室12)の内部にそれぞれ流入する空気の流通方向と、略同一方向となるように、当該燃料噴射用インジェクタ30の配置が設定されている。
【0058】
一方、2つの吸気ポート20の燃焼室12に臨む2つの開口のうち、図5の符号20wで示す領域(右ハッチングで示す2つの領域)を通る空気は、上述したように、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍に向けて、即ちピストン冠面の各周縁側傾斜面11dに向けて主に流入する。ここで、各周縁側傾斜面11dは、上述したように、外側に向けた傾斜面からなる。このことから、燃焼室12には、図5の矢印符号Ta2に示すようなタンブル流が、上記タンブル流Ta1とは別の2つの領域に独立して形成される。この2つのタンブル流Ta2は、上述したピストン冠面形状(各周縁側傾斜面11d)によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍のそれぞれにおいて主に循環する。
【0059】
そして、水噴射用インジェクタ32から所定のタイミングでシリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍に向けて水が噴霧されると(図5の矢印符号W参照)、シリンダ10(燃焼室12)の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍のそれぞれには、霧状の水が、タンブル流Ta2によって偏在し循環する。
【0060】
そのために、本実施形態のエンジン1においては、水噴射用インジェクタ32は、シリンダヘッド7上において、上記燃料噴射用インジェクタ30を挟んで両サイド領域にそれぞれ設けられている。そして、各水噴射用インジェクタ32の水噴射方向は、各吸気ポート20の各領域20wからシリンダ10(燃焼室12)の内部にそれぞれ流入する空気の流通方向と、略同一方向となるように、各水噴射用インジェクタ32の配置が設定されている。
【0061】
上述したように、本実施形態のエンジン1においては、吸気ポート20には、流路を縦方向に分割する隔壁20aを設けると共に、ピストン11の冠面形状を工夫することによって、シリンダ10(燃焼室12)の内部の所望の領域に3つの独立したタンブル流(Ta1,Ta2)が層状に、より明確な形態で発生させるように構成されている。
【0062】
そして、このような構成により、本実施形態のエンジン1のシリンダ10(燃焼室12)の内部においては、タンブル流Ta1と2つのタンブル流Ta2とは、それぞれ互いに干渉することなく、相互に層状化した状態が保たれるようになっている。したがって、タンブル流Ta1によってシリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍に偏在する燃料と空気との混合気と、2つのタンブル流Ta2によってシリンダ10(燃焼室12)の内部の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍にそれぞれ偏在する霧状の水とは、互いに混じり合うことがない。
【0063】
また、本実施形態のエンジン1においては、霧状の燃料及び空気の混合気と、霧状の水との混合を避けるためのさらなる工夫として、例えば、燃料と水との噴射タイミングを同時に行うようにしている。このときの燃料及び水の噴射タイミングは、例えば吸気行程の終末期頃のタイミングである。
【0064】
以上説明したように上記一実施形態によれば、シリンダ10の内部にタンブル流を生成させるタンブル流生成手段(中央凹溝11aや隔壁60及びTGV61等)を設け、シリンダ10の内部の略中央領域近傍に向けて燃料を噴霧する燃料噴射用インジェクタ30と、燃料噴射用インジェクタ30を挟んで両サイド領域のそれぞれに設けられ、シリンダ10の内部の両サイド領域近傍のそれぞれに向けて水を噴霧する複数(2つ)の水噴射用インジェクタ32とを具備して構成されている。そして、このとき、混合気と霧状の水とは、相互に層状化した状態が保持されている。
【0065】
これにより、燃料噴射用インジェクタ30から噴霧された燃料と吸気ポート20から吸入された空気との混合気は、シリンダ10の内部の略中央領域近傍においてタンブル流生成手段(11a,60,61等)により生成されたタンブル流によって循環する。また、水噴射用インジェクタ32から噴霧された霧状の水は、シリンダ10の内部の両サイド領域近傍のそれぞれにおいてタンブル流生成手段(11a,60,61等)により生成されたタンブル流によって循環する。このとき、混合気と霧状の水とは相互に層状化した状態が保持されている。
【0066】
また、タンブル流生成手段としてのピストン冠面の形状の工夫は、ピストン11の略中央領域に中央凹溝11aを形成し、この中央凹溝11aを挟んでピストン11の冠面の両側縁部近傍のそれぞれに、ピストン冠面の外周縁に向けて傾きを有する複数(2つ)の周縁側傾斜面11dを形成している。
【0067】
さらに、2つの吸気ポート20のそれぞれに、各吸気流路を縦方向に2分割する隔壁20aを設けている。これにより、2つの吸気ポート20からシリンダ10の内部に流入する空気は、略中央領域近傍と、略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍のそれぞれとの、3つの領域近傍に向けて流入する。
【0068】
このような構成により、シリンダ10の内部において、複数(3つ)の独立したタンブル流を層状に生成させることができる。そして、これら複数(3つ)の独立したタンブル流に各対応する領域、即ちシリンダ10の略中央領域近傍には燃料を噴霧することにより燃料と空気との混合気を偏在させて循環させることができる。一方、シリンダ10の略中央領域近傍を挟んで両サイド領域近傍のそれぞれには水を噴霧することにより霧状の水を偏在させて循環させることができる。
【0069】
この場合において、複数(3つ)のタンブル流は、独立して層状に生成されているので、燃料と水とを層状に循環させることができ、両者が混合することを抑止できる。また、シリンダ10の略中央領域近傍に燃料と空気との混合気を偏在させて循環させているので、当該混合気の着火性をより向上させることができる。
【0070】
一般に、水の気化潜熱は、燃料(ガソリン)の気化潜熱に比べて、7~8倍であることは周知である。本実施形態のエンジン1においては、シリンダ10の内部への燃料噴射を行うと共に、シリンダ10の内部の所定の部位に対して水噴射を行っている。この場合において、シリンダ10の内部に噴霧した燃料は略中央部領域に、水はその両サイド領域に偏在させ、燃料と水とを混合させないように構成している。
【0071】
このことから、本実施形態の構成によれば、燃料及び水の気化潜熱の作用によって、シリンダ10の内部の作動流体を、より効果的に冷却することができる。したがって、これにより、本実施形態のエンジン1においては、ノッキング(異常燃焼)の発生を抑止することができ、点火タイミングを進角化することができる。このことは、より効率的にエンジン1を動作させることができることになり、よって、エンジン1のさらなる高出力化に寄与することができる。
【0072】
さらに、シリンダ10の内部への水噴射によって、シリンダ10(燃焼室12)の内部の空気を効率的に冷却することで、空気の膨張を抑えることができる。このことは、吸気効率を向上させることができると共に、より高圧縮化を実現できる。
【0073】
またさらに、シリンダ10の内部に噴霧された水が蒸発するとき、その蒸気の体積は大幅に膨張することになる。この水の蒸発時の体積膨張力は、ピストン11を押し下げる力に寄与することができる。したがって、本実施形態のエンジン1においては、燃料(ガソリン)が燃焼するときの燃焼エネルギーによってピストン11が押し下げられる際には、当該燃焼エネルギーに加えて、水の蒸発時の体積膨張エネルギーが、ピストン11を押し下げる力として加わるので、エンジン1の高出力化に寄与することができる。
【0074】
また、本実施形態のエンジン1においては、空気とは異なる作動流体として、霧状の水をシリンダ10の内部に噴霧するようにしている。この場合、作動流体としての霧状の水の分だけ、空気の流入を阻止できるので、シリンダ10(燃焼室12)の内部の燃料の希薄化を抑止することができ、理論空燃比近傍での燃焼を実現することができる。これと同時に、シリンダ10(燃焼室12)の内部への流入空気を抑えていることから、空気中の窒素と結合する酸素が少なくなり、よって、窒素酸化物(NOx)の低減化に寄与することができる。
【0075】
さらに、本実施形態のエンジン1においては、シリンダ10の内部への燃料の直接噴霧を行う際に、同時に水噴射を行うようにしたので、例えば高負荷運転時等の熱負荷軽減のためのシリンダ10の内部冷却を目的とする過濃空燃比での燃料の噴霧は必要が無くなる。したがって、本実施形態の構成によれば、高負荷運転時であっても理論空燃比近傍での燃焼を常に実現することができると共に、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の発生を抑制することができ、さらに同時に、燃料消費を抑えることができることから、燃料消費率の向上に寄与することができる。
【0076】
上記一実施形態においては、燃料噴射用インジェクタからの燃料は、シリンダ内部へと直接噴射する形態(いわゆる筒内噴射式)の構成例を示しているが、この形態に限られることはない。燃料噴射用インジェクタからの燃料を、例えば吸気ポート内に噴射して、燃料と空気の混合気を吸気ポートから燃焼室内に流入させる形態(いわゆるポート噴射式)であってもよい。
【0077】
同様に、上記一実施形態においては、水噴射用インジェクタからの水は、シリンダ内部へと直接噴射する形態(いわゆる筒内噴射式)の構成例を示しているが、この形態に限られることはない。水噴射用インジェクタからの水を、例えば吸気ポート内に噴霧して、霧状の水を吸気ポートから燃焼室内に流入させる形態(いわゆるポート噴射式)であってもよい。このように吸気ポートへの水噴射を行う構成を採用すれば、吸入空気温度を下げることができる。このことから、吸入空気の体積を増加させることができるというメリットもある。
【0078】
そして、これらの形態を組み合わせた構成、例えば燃料噴射を吸気ポート内で行い、水噴射をシリンダ内部へ直接噴射するといった形態など、さまざまな形態で構成することは容易にできる。
【0079】
なお、内燃機関において水噴射装置を適用する場合、燃料とは別に、水噴射に用いるための水を別途供給する必要が生じる。そのために、上述の一実施形態においては、水噴射用インジェクタ32へ供給する水として、水タンク33に貯留された水(例えば蒸留水若しくは水道水など)を用いて行うように構成した。この構成の場合、エンジン1を適用した自動車の運用を行うに際しては、所定の走行毎に、水タンク33に対する水の補給を行う必要が発生する。
【0080】
そこで、上述の一実施形態の構成例とは別に、水噴射装置に供給するための水を、排気ガスから回収するための水回収システムというものが考えられる。この水回収システムを適用することにより、自動車の使用者による水タンク33への水の補給作業頻度の削減、若しくは省略することができるという利点がある。なお、当該水回収システムは、上記一実施形態の構成に付加する形態としてもよい。つまり、水タンク33に対しては、自動車の使用者が適宜任意のタイミングで水の補給作業を行うこともできるし、自動車を通常運用していれば、水タンク33への水の補給が、ある程度自動的に行われることにもなる。
【0081】
図6は、本発明の一実施形態の変形例を示す図であって、上記一実施形態の内燃機関を備えた自動車において適用される水回収システムの概略構成を概念的に示すブロック構成図である。
【0082】
本変形例の水回収システム50は、エンジン1の排気管39から排出される排気ガス中に含まれる水分を回収し、回収した水を水噴射装置において利用することができるように構成される構成ユニットである。なお、本変形例の水回収システム50は、水噴射装置を備えた内燃機関であるエンジン1を備えた自動車100において適用される例を示している。
【0083】
図6に示すように、当該水回収システム50は、排気分岐管42と、回収水タンク43と、回収水配管44と、水浄化フィルタ47等によって主に構成されている。なお、水回収システム50には、水噴射装置に含まれる水タンク33も含まれるものである。
【0084】
排気分岐管42は、排気管39中の排気ガスの流れの一部を分岐させ合流させる管状部材である。
【0085】
即ち、排気管39の内部を流れる排気ガス(図6の符号[EX]参照)は、触媒41を通った後、一部が排気分岐管42へと分岐するように構成されている。このとき、図6において、排気分岐管42へと分岐する排気ガスの流れを符号[EX2]で示している。また、同図6において、排気管39をそのまま進む排気ガスの流れは符号[EX1]で示している。そして、排気分岐管42は、分岐後の排気ガス(符号[EX2])が、再度、排気管39へと合流するように構成されている。
【0086】
この場合において排気分岐管42の略中間部位には、回収水タンク43が設けられている。この回収水タンク43は、排気分岐管42へと分岐した排気ガス中の水分を回収し貯留するための容器である。この回収水タンク43には、回収水配管44が接続されている。
【0087】
ここで、排気分岐管42は、排気管39との分岐部分から下方に向けた傾斜を有して形成され、下方に向けた排気分岐管42の先端に回収水タンク43が設置されている。さらに、回収水タンク43には、排気管39との合流部分へ向けて傾斜を有して形成される排気分岐管42の基端が接続されている。
【0088】
このような構成により、排気管39を流れる排気ガス(図6の[EX]参照)は、一部が排気分岐管42へと分岐して流れ(図6の[EX2]参照)、当該排気分岐管42の内部で冷却される。これにより、排気ガス中に含まれる水分が凝縮し液化する。こうして液化された水分は、排気分岐管42の内部の傾斜を伝って回収水タンク43へと流れ込み、当該回収水タンク43に貯留される。つまり、排気分岐管42に傾斜が設けられていることによって、排気分岐管42内部で液化された水分は、回収水タンク43へと集まり易くなっている。
【0089】
なお、排気分岐管42及び回収水タンク43は、排気管39上に設けられている触媒41よりも下流側に配設される。これの構成により、本水回収システム50においては、液化した水の回収を、よりクリーンな排気ガスを対象として行うようにしている。
【0090】
回収水配管44は、回収水タンク43と水タンク33との間を接続する配水管である。水浄化フィルタ47は、回収水配管44の中途部分に設けられ、当該水回収システム50にて排気ガス中より回収された水を浄化するためのフィルタ手段を有して構成される構成ユニットである。水浄化フィルタ47は、水に含まれる塵埃や異物等を除去し浄化するための一般的な手段が適用される。
【0091】
このような構成により、回収水タンク43に貯留された水は、回収水配管44を通って水浄化フィルタ47に至り、当該水浄化フィルタ47において浄化される。水浄化フィルタ47において浄化された水は、その後、さらに、回収水配管44を通って水タンク33へと送られて、当該水タンク33に貯留される。
【0092】
以上説明したように、上記変形例による水回収システム50を上記一実施形態の内燃機関であるエンジン1に適用することにより、自動車100において水分の供給を内部完結させることができる。したがって、自動車の使用者は、水タンク33への水の補給を行う手間を省略することができると共に、水噴射装置の存在に留意することなく当該自動車を使用することができる。
【0093】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用を実施することができることは勿論である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせによって、種々の発明が抽出され得る。例えば、上記一実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。この発明は、添付のクレームによって限定される以外にはそれの特定の実施態様によって制約されない。
【符号の説明】
【0094】
1…エンジン
5…シリンダブロック
6…クランクケース
7…シリンダヘッド
10…シリンダ
11…ピストン
11a…中央凹溝
11b…末端傾斜面
11c…傾斜面
11d…周縁側傾斜面
12…燃焼室
13…クランク室
14…クランクシャフト
15…コネクティングロッド
20…吸気ポート
20a…隔壁
21…排気ポート
25…吸気バルブ
26…排気バルブ
27…吸気用カムシャフト
27a…吸気カム
28…排気用カムシャフト
28a…排気カム
30…燃料噴射用インジェクタ
30a…燃料供給用管路
31…点火プラグ
32…水噴射用インジェクタ
33…水タンク
33a…水供給用管路
35…インテークマニホールド
35a…インテークマニホールド合流部
36…吸気管
37…吸気通路
38…エキゾーストマニホールド
38a…エキゾーストマニホールド合流部
39…排気管
40…排気通路
41…触媒
42…排気分岐管
43…回収水タンク
44…回収水配管
45…エアクリーナ
46…スロットル弁
47…水浄化フィルタ
50…水回収システム
60…隔壁
100…自動車
図1
図2
図3
図4
図5
図6