(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】監視システム及び表示制御方法
(51)【国際特許分類】
H04N 7/18 20060101AFI20240904BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240904BHJP
B61L 25/04 20060101ALI20240904BHJP
H04N 23/60 20230101ALI20240904BHJP
H04N 23/63 20230101ALI20240904BHJP
【FI】
H04N7/18 J
B60L3/00 Q
B61L25/04
H04N7/18 E
H04N23/60 500
H04N23/63 100
(21)【出願番号】P 2020098626
(22)【出願日】2020-06-05
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】直井 寛典
(72)【発明者】
【氏名】ポール スクリムショウ
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/145736(WO,A1)
【文献】特許第5826980(JP,B1)
【文献】特開2018-113602(JP,A)
【文献】特許第5759907(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0007626(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 7/18
H04N 23/60
H04N 23/63
B61L 25/04
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の車両の外側に取り付けられたカメラであって、カメラ映像の視認性低下に対する対策のために、オリジナルのカメラ映像に対してコントラスト伸長
などを含む補正処理を施す機能を有する、前記カメラと、
前記カメラにより撮像されたカメラ映像を表示するモニタと、
ユーザ指示に従って、前記カメラ映像に対する前記補正処理の強度を変更するための制御信号を出力する制御装置と、
前記補正処理の強度変更のログを記録する記憶装置とを備え、
前記制御装置は、前記列車が所定状態であることを検出したことに応じて、前記補正処理の強度の設定をリセットするように動作し、
前記制御装置は更に、前記補正処理の強度変更のログの分析により得られた、前記補正処理の強度変更の発生頻度が高い時間帯または場所の情報に基づいて、駅に列車が停車した際の状況に応じて前記補正処理の強度を自動的に変更するように動作することを特徴とする監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の監視システムにおいて、
前記制御装置は、前記列車のドアの開閉状態を示す情報と、前記列車の速度を示す情報とに基づいて、前記列車が前記所定状態であるか否かを判定することを特徴とする監視システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の監視システムにおいて、
前記モニタは、ディスプレイ領域の少なくとも一部に設けられたタッチセンサ機能を有し、
前記制御装置は、前記補正処理の強度の設定をリセットするためのリセット信号を反転した信号を用いて、前記タッチセンサ機能を起動するための起動信号を生成し、
前記モニタは、前記起動信号に応じて起動した前記タッチセンサ機能により前記ユーザ指示を受け付けることを特徴とする監視システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の監視システムにおいて、
前記モニタは、前記ユーザ指示として、表示中の全てのカメラ映像に対する前記補正処理の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であることを特徴とする監視システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の監視システムにおいて、
前記モニタは、前記ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択した撮影方向の各カメラ映像に対する前記補正処理の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であることを特徴とする監視システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の監視システムにおいて、
前記モニタは、前記ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択した車両の各カメラ映像に対する前記補正処理の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であることを特徴とする監視システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の監視システムにおいて、
前記モニタは、前記ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択したカメラ映像に対する前記補正処理の強度を個別に調整する指示を受け付け可能であることを特徴とする監視システム。
【請求項8】
列車の車両の外側に取り付けられたカメラと、前記カメラにより撮影されたカメラ映像を表示するモニタとを備えた車載型の監視システムによる表示制御方法において、
前記カメラは、カメラ映像の視認性低下に対する対策のために、オリジナルのカメラ映像に対してコントラスト伸長
などを含む補正処理を施す機能を有しており、
ユーザ指示に従って、前記カメラ映像に対する前記補正処理の強度を変更するための制御信号を出力するステップと、
前記列車が所定状態になった場合に、前記補正処理の強度の設定をリセットするためのリセット信号を出力するステップとを有する表示制御方法であって、
前記監視システムは、前記補正処理の強度変更のログを記録する記憶装置を更に備えており、前記補正処理の強度変更のログの分析により得られた、前記補正処理の強度変更の発生頻度が高い時間帯または場所の情報に基づいて、駅に列車が停車した際の状況に応じて前記補正処理の強度を自動的に変更することを特徴とする表示制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車のドア付近をカメラ映像で監視する監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
列車システムでは、運転士又は乗務員(以下では、これらを単に「乗務員」と称する)が、プラットホームを移動する乗客を映像でチェックし、乗客の安全を確認した後にドアの開閉制御を行う。乗客の映像は、列車の車両本体又はプラットホームに設置したカメラによって撮像され、列車の運転室のモニタ又はプラットホームのモニタに表示される。カメラの設置場所の相違は、主に、列車の運行とインフラを同じ事業者が管理しているか、別々の事業者が管理しているかの違いに起因している。
【0003】
以下では、列車の車両本体に設置されたカメラの映像を運転室のモニタに表示する監視システムについて言及する。例えば、特許文献1には、1台のモニタに複数のカメラ映像を同時表示する監視システムに関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主に日光を含む気象条件などの外部要因によって、カメラ映像が平常時に比べて霞がかったような見え方になる霞現象が発生することがある。すなわち、例えば、カメラに高輝度光が入射し、適切な映像データを作成するのに適した露光時間を超えた場合に霞現象が発生し、カメラ映像が白っぽくなるなど不鮮明になる。また、列車の車両の外側に配置されるカメラは、その保護カバー(フロントガラス)に土埃などの汚れが付着しやすく、汚れの付着に起因して、カメラ映像の視認性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記のような従来の事情に鑑みて為されたものであり、視認性の良いカメラ映像を乗務員に負担をかけずに得ることができる監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、監視システムを以下のように構成した。
すなわち、本発明に係る監視システムは、列車の車両の外側に取り付けられたカメラと、カメラにより撮像されたカメラ映像を表示するモニタと、ユーザ指示に従って、カメラ映像に対する霞補正の強度を制御する制御装置とを備え、制御装置は、列車が所定状態であることを検出したことに応じて、霞補正の強度の設定をリセットすることを特徴とする。
【0008】
ここで、制御装置は、列車のドアの開閉状態を示す情報と、列車の速度を示す情報とに基づいて、列車が所定状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0009】
また、モニタは、ディスプレイ領域の少なくとも一部に設けられたタッチセンサ機能を有し、制御装置は、霞補正の強度の設定をリセットするためのリセット信号を反転した信号を用いて、タッチセンサ機能を起動するための起動信号を生成し、モニタは、起動信号に応じて起動したタッチセンサ機能によりユーザ指示を受け付けるようにしてもよい。
【0010】
また、モニタは、ユーザ指示として、表示中の全てのカメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であってもよい。
【0011】
また、モニタは、ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択した撮影方向の各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であってもよい。
【0012】
また、モニタは、ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択した車両の各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する指示を受け付け可能であってもよい。
【0013】
また、モニタは、ユーザ指示として、表示中の複数のカメラ映像のうち、選択したカメラ映像に対する霞補正の強度を個別に調整する指示を受け付け可能であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、視認性の良いカメラ映像を乗務員に負担をかけずに得ることができる監視システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る監視システムの概略的な構成例を示す図である。
【
図2】
図1の監視システムにおけるカメラ配置の例を示す図である。
【
図3】霞補正の強度を自動リセットするためのリセット信号を生成する論理回路の例を示す図である。
【
図4】タッチセンサ機能を自動起動するためのタッチセンサ起動信号を生成する論理回路の例を示す図である。
【
図5】霞補正の強度を自動リセットするタイミングチャートの例を示す図である。
【
図6】表示中の全てのカメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する例を示す図である。
【
図7】選択した撮影方向の各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する例を示す図である。
【
図8】選択した車両の各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る監視システムの構成例を示す図である。また、
図2は、
図1の監視システムにおけるカメラ配置の例を示す図である。
【0017】
本例の監視システム100は、車両101~106の6両で編成された列車に搭載されている。図面左方向に向かって列車が進行する場合には、左端に示す1両目の車両101が先頭となり、右端に示す6両目の車両106が最後尾となる。また逆に、図面右方向に向かって列車が進行する場合には、右端に示す6両目の車両106が先頭となり、左端に示す1両目の車両101が最後尾となる。列車は、例えば、1両目~3両目の車両と4両目~6両目の車両を同じ構造にして、1両目~3両目の車両に対して4両目~6両目の車両を前後反転して連結して構成される。
【0018】
各車両は、一方の側面に2つのドア121,122を備えると共に、他方の側面に2つのドア123,124を備える。また、各車両には、ドア121~124のそれぞれに対応させて、ドアを制御するドア制御装置(図中の“Door C.U.”)131~134と、ドア及びその周辺を車外から撮影するカメラ(撮像装置)141~144を設置してある。なお、
図1では、説明の便宜のために、車両の一方の側面にあるドア121,122(又は123,124)、ドア制御装置131,132(又は133,134)、カメラ141,142(又は143,144)のみを示してある。
【0019】
監視システム100は、カメラ141~144と、スイッチングハブ(図中の“HUB”)145と、モニタ(表示装置)146~147と、CCTV(Closed-circuit Television)制御装置(図中の“CCTV C.U.”)151と、TMS(Train Monitoring System)制御装置(図中の“TMS C.U.”)152とを有する。これらの機器は、ネットワークケーブルを用いて接続される。また、これらの機器には、電源供給ケーブルが接続されており、各車両の電源供給部(不図示)から電源が供給される。
【0020】
各車両には、4つのカメラ141~144と、スイッチングハブ145が設置されている。また、1両目の車両101及び6両目の車両106には運転室があり、この運転室内に2台のモニタ146~147が設置されている。各車両のカメラ141~144(及びモニタ146~147)は、その車両のスイッチングハブ145にネットワークケーブルで接続されている。
【0021】
更に、1両目の車両101には、CCTV制御装置151及びTMS制御装置152が設置されている。CCTV制御装置151は、スイッチングハブ145にネットワークケーブルで接続されている。また、TMS制御装置152は、CCTV制御装置151にネットワークケーブルで接続されると共に、各車両のドア制御装置131~134ともネットワークケーブルで接続される。なお、6両目の車両106にも、1両目の車両101と同様にCCTV制御装置151やTMS制御装置152を配置して、これらの装置を多重化してもよい。
【0022】
また、各車両のスイッチングハブ145は、隣接する車両のスイッチングハブ145とネットワークケーブルで接続されている。このように、隣り合う車両にそれぞれ搭載されたスイッチングハブ145同士を接続することで、列車内ネットワークを構築している。なお、これらのネットワークケーブルは、例えば、車両床下を経由してツナギ箱(不図示)へ接続され、車両間についてはそれぞれ隣り合う車両のツナギ箱間をジャンパ線で接続する。
【0023】
TMS制御装置152は、各車両のドア制御装置131~134と通信してドア121~124の開閉を制御すると共に、列車の状態を示す列車情報を所定の周期でCCTV制御装置151に提供する。列車情報には、例えば、列車の各ドアの開閉状態、列車の走行速度、現在の停車駅(走行中の場合は次の停車駅)における乗降サイド(左右どちらのドアを開扉するか)、列車の車両数、列車の進行方向などが含まれる。
【0024】
各車両のカメラ141~144は、乗客が乗降するドア付近を少なくとも撮影でき、かつ、なるべく死角が少なくなるように配置される。本例では、
図2に示すように、各車両の両側それぞれにある前後2つのドアの間に、2台のカメラを互いに向かい合うように配置してある。すなわち、後方のドア側に向けて車体に取り付けた前方のカメラ141(又は143)で、後方のドア付近を撮影する。また、前方のドア側に向けて車体に取り付けた後方のカメラ142(又は144)で、前方のドア付近を撮影する。
【0025】
各車両のカメラ141~144によって撮影された複数のカメラ映像は、CCTV制御装置151による制御の下で、列車の進行方向の前方にある車両のモニタ146~147に表示される。すなわち、図面左方向に向かって列車が走行している場合には、車両101のモニタ146~147にカメラ映像が表示され、図面右方向に向かって列車が走行している場合には、車両106のモニタ146~147にカメラ映像が表示される。なお、進行方向にかかわらず車両101,106両方のモニタ146~147にカメラ映像が表示されてもよい。
【0026】
モニタ146~147の各ディスプレイ領域は、列車片側の各カメラにより撮影された複数のカメラ映像を同時に表示できるように、複数のエリアに分割してある。本システムでは、例えば
図6に示すように、1台のモニタのディスプレイ領域を上下2分割、左右6分割することで、合計12のエリアを設けている。したがって、1台のモニタだけでも6両分のカメラ映像(列車片側の合計12枚のカメラ映像)を表示することができ、2台のモニタを併用すれば最大12両分のカメラ映像を表示することができる。本例の列車は6両編成であるため、以下では、モニタ146のみを使用してカメラ映像を表示する場合を例にして説明する。
【0027】
CCTV制御装置151は、列車片側の各カメラにより撮影された複数のカメラ映像を、乗務員が各カメラ映像に対応する監視エリアを簡単に認識できるような順番で、ディスプレイ領域の各エリアに配置する。一例として、列車の進行方向の前方から後方に向かう順の各ドアのカメラ映像を、モニタの左上から右下に順に割り当てるロジックで、ディスプレイ領域の各エリアにカメラ映像を配置する。ディスプレイ領域の各エリアに対するカメラ映像の割り当ては、例えば、特許文献1(EPC出願公開:EP3349440A1に対応)に開示されている方式を使用することができる。
【0028】
また、CCTV制御装置151は、各エリアのカメラ映像に、その映像に映るドアの位置を示すドア位置情報を重畳する。例えば
図6では、車両番号を表す数字(“1”~“6”)と、ドアの位置が車両の前方か後方かを表す符号(“A”又は“B”)とを含むドア位置情報を、各カメラ映像に重畳してある。例えば、「3-B」は、3両目の車両の後方側のドアを映したカメラ映像であることを示す。
【0029】
カメラ141~144は、雨滴、小石、排気ガスなどの予期できない外部物質が撮像素子に直に接触することを防ぐために、撮像素子を覆う透明な保護カバー(フロントガラス)を有する撮像装置である。撮像素子は、一種のデジタル撮像ツールであり、CCD(Charge-Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)、又は他の許容可能な受光素子により構成される。デジタル撮像ツールは、撮像素子を通じて得られた可視光像を電気信号に変換するツールとして機能し、カメラ内の信号処理部が可視光像の信号に基づいて画像データを構築する。
【0030】
カメラ141~144は、前述したように、霞現象やフレア現象などによるカメラ映像の視認性低下に対する対策のために、オリジナルのカメラ映像に対してコントラスト伸長などを含む霞補正処理を施す霞補正機能を有している。なお、霞補正機能は、カメラ映像の表示を制御するCCTV制御装置151や、カメラ映像の表示先であるモニタ146などの他の装置によって提供されてもよい。
【0031】
モニタ146は、ディスプレイ領域の少なくとも一部に設けられたタッチセンサ機能を有する表示装置であり、霞補正の強度を変更するユーザ指示を乗務員からタッチ操作により受け付けることができる。霞補正の強度は、例えば、無補正、弱補正、強補正の3段階があり、ユーザ(乗務員)は任意の強度を選択することができる。
【0032】
モニタ146が霞補正の強度を変更するユーザ指示(タッチ操作)を受け付けると、その信号がCCTV制御装置151に送信される。CCTV制御装置151は、対象のカメラに対して、霞補正の強度を変更するための制御信号を送信する。その結果、対象のカメラでカメラ映像に施される霞補正の強度が変更される。また、霞補正の強度が変更された場合には、その事実がログとして記憶装置(不図示)に記録される。霞補正の強度変更のログは、例えば、列車運行部門に集約され、霞補正の強度変更の発生頻度が高い時間帯や場所を分析するために使用される。また、この分析結果を使用して、霞補正の強度を自動的に調整する仕組みを構築してもよい。一例として、特定の駅において駅構内の照明機器やその他の環境要因との関係に由来して特定車両のカメラ映像については高頻度でコントラスト調整が必要というような状況が把握されると、そのような情報は駅の地点情報や車両の進行方向の情報とともにTMS装置152に登録され、列車が所定の進路を走行して該当駅に停車すると自動的に適切な強度補正が実行される。このような構成を採用することにより、乗務員の負荷を更に低減することが可能となる。
【0033】
図6には、モニタ146に表示中の全てのカメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する例を示してある。
図6では、ディスプレイ領域の大部分をカメラ映像の表示に使用し、その右下の位置に、霞補正の強度を一括で調整するためのボタン301を配置してある。ボタン301は、無補正に対応する「Original」、弱補正に対応する「Mode 1」、強補正に対応する「Mode 2」の3種類のモードを有している。ボタン301は、乗務員によるタッチ操作に応じてモードを巡回的に変更すると共に、タッチ検出信号をCCTV制御装置151に送信するように構成されている。
【0034】
CCTV制御装置151は、ボタン301からタッチ検出信号を受信すると、モニタ146に表示中のカメラ映像を撮影する全てのカメラに、選択されたモードに対応する霞補正の強度への変更を指示する制御信号を送信する。その結果、モニタ146に表示中の全てのカメラ映像に対する霞補正の強度が変更させる。これにより、
図6左側に示すように、霞現象などにより全てのカメラ映像が見えづらいような状況でも、ユーザ(乗務員)はボタン301を1回操作するだけで、
図6右側に示すように、弱レベルの霞補正を全てのカメラ映像に施して見易くすることが可能となる。また、弱レベルの霞補正では不十分な場合には、ボタン301をもう1回操作するだけで、強レベルの霞補正を全てのカメラ映像に施して更に見易くすることが可能となる。
【0035】
ここで、乗務員が列車の運転に集中できるように、霞補正の強度の調整操作は、列車の状態に応じて制限されることが望ましい。具体的には、列車の走行中は列車の進行方向に注意を向けることを維持する必要があるため、列車が駅に停止するまでは、ボタン301を非表示又は無効化することで、ボタン301の操作が制限されるようにする。また、列車が駅に停止した際に、ボタン301を表示又は有効化することで、ボタン301の操作が許容されるようにする。このような制御は、列車の速度やドアの開閉状態に基づいて、電気回路や論理回路により実現することが可能である。なお、ボタン301を非表示又は無効化するのではなく、モニタ146自体をオフ(黒画面)にして何も表示しないようにしてもよい。
【0036】
また、特定の駅では霞補正が必要であったとしても、次の駅では霞補正が不要になることも多いので、霞補正の強度調整に係る負担が軽減されるように、霞補正の強度の設定を自動的にリセットすることが好ましい。この自動リセットの制御も、列車の速度やドアの開閉状態に基づいて、電気回路や論理回路により実現することが可能である。本例では、上記のような制御を行う回路をCCTV制御装置151に配置しているが、他の装置(例えば、TMS制御装置152)に配置しても構わない。
【0037】
図3には、霞補正の強度の設定を自動リセットするためのリセット信号を生成する論理回路を例示してある。
図3に例示する論理回路は、ANDゲート201を有している。ANDゲート201は、少なくとも2つの信号が入力され、これらの論理積を出力する。ANDゲート201に入力される第1の信号は、全てのドアが閉扉状態であるか否かを示す信号であり、全てのドアが閉扉状態である場合はオン(=“1”)、そうでない場合はオフ(=“0”)である。ANDゲート201に入力される第2の信号は、列車の速度が3kph以上であるか否かを示す信号であり、列車の速度が3kph以上である場合はオン(=“1”)、そうでない場合はオフ(=“0”)である。したがって、全てのドアが閉扉状態となり、かつ、列車の速度が3kph以上となった場合(つまり、列車が走行を開始した場合)に、ANDゲート201から出力されるリセット信号はオン(=“1”)となり、そうでない場合はオフ(=“0”)となる。なお、第1の信号は、TMS制御装置152の監視下にあるドアのインターロックの起動を示す信号で代用してもよい。
【0038】
CCTV制御装置151は、上記のリセット信号に従って、全てのカメラに対する霞補正の強度の設定を初期値(本例では無補正)にリセットすると共に、モニタ146によるカメラ映像の表示を停止し、タッチセンサ機能も停止させる。これにより、列車が次の駅に停車したときには、モニタ146に表示されるカメラ映像が無補正の状態となる。なお、霞補正の強度の初期値として弱補正などの他の強度を用いてもよく、乗務員が任意の強度を初期値に設定しておくことが可能である。
【0039】
図4には、
図3の自動リセットに加え、霞補正の強度の調整操作が可能になるように、タッチセンサ機能を自動起動するためのタッチセンサ起動信号を生成する論理回路を例示してある。
図4に例示する論理回路は、ANDゲート201と、NOTゲート202と、ORゲート203と、ANDゲート204とを有している。ANDゲート201の入出力は
図3と同様なので、説明を省略する。
【0040】
ORゲート203は、少なくとも2つの信号が入力され、これらの論理和を出力する。ORゲート203に入力される第1の信号は、列車の速度が3kph未満であるか否かを示す信号であり、列車の速度が3kph未満である場合はオン(=“1”)、そうでない場合はオフ(=“0”)である。ORゲート203に入力される第2の信号は、1以上のドアが開扉状態であるか否かを示す信号であり、1以上のドアが開扉状態である場合はオン(=“1”)、そうでない場合はオフ(=“0”)である。したがって、列車の速度が3kph未満となるか、1以上のドアが開扉状態となった場合(つまり、ドア付近にいる乗客の安全確認が必要な場合)に、ORゲート203からの出力信号はオン(=“1”)となり、そうでない場合はオフ(=“0”)となる。
【0041】
ANDゲート204に入力される第1の信号は、ANDゲート201からの出力信号を分岐してNOTゲート202により反転した信号である。つまり、ANDゲート201から出力されるリセット信号がオフ(=“0”)の場合は、NOTゲート202の出力信号がオン(=“1”)となり、そうでない場合は、NOTゲート202の出力信号がオフ(=“0”)となる。ANDゲート204に入力される第2の信号は、ORゲート203からの出力信号である。したがって、ANDゲート201から出力されるリセット信号がオン(=“1”)の場合は、ANDゲート204から出力されるタッチセンサ起動信号は常にオフ(=“0”)となる。一方、ANDゲート201から出力されるリセット信号がオフ(=“0”)の場合は、ORゲート203の出力信号がそのままANDゲート204からタッチセンサ起動信号として出力される。
【0042】
CCTV制御装置151は、上記のタッチセンサ起動信号に従って、モニタ146によるカメラ映像の表示を開始させると共に、タッチセンサ機能を起動させる。これにより、列車が駅に到着した際に、カメラ映像が自動的にモニタ146に表示され、乗務員は必要に応じて霞補正の強度の調整操作を行えるようになる。モニタ146の表示やタッチセンサ機能は、タッチセンサ起動信号がオンの期間は継続され、リセット信号がオンになることで停止される。
【0043】
このように、
図4の論理回路からリセット信号又はタッチセンサ起動信号が出力されるが、これら信号は反転関係にあるので、常にどちらかの信号が出力されることになる。また、少なくとも1つのドアが開扉された状態では、タッチセンサ起動信号の出力によりモニタ146にカメラ映像が表示されるので、列車に乗り降りする乗客の安全の確認に適している。また、ANDゲート201からの出力の無信号状態を1つの指標として扱い、ドアの閉扉時又は速度の計測時に異常が発生した場合でも、タッチセンサ起動信号を出力してモニタ146にカメラ映像が表示されるようにしている。なお、
図3、
図4の論理回路は例示に過ぎず、同様な結果を出力できる他の論理回路に置き換えてもよい。
【0044】
図5には、霞補正の強度を自動リセットするタイミングチャートを例示してある。
図5の例では、列車が停車中に乗務員がボタン301をタッチして「Original」(無補正)から「Mode 1」(弱補正)に変更すると、その次の送信タイミングの制御信号によって指示がカメラ側に伝達され、カメラ映像に対する霞補正の強度が変更される。その後、全てのドアを閉扉して列車が走行を開始し、列車の走行速度が3kph以上になった際に、上記の論理回路によりリセット信号が出力される。その結果、ボタン301のモードが元に戻ると共に、その次の送信タイミングの制御信号によって指示がカメラ側に伝達され、カメラ映像に対する霞補正の強度がリセットされる。したがって、乗務員は手動で霞補正の強度をリセットする必要がない。
【0045】
図6では、モニタ146に表示中の全てのカメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整する例を示したが、特定のグループ別に霞補正の強度の調整できるようにしてもよい。一例として、各カメラ映像に対する霞補正の強度を撮影方向別に調整する場合について、
図7を参照して説明する。
図7では、車両の前方側のドアの各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整するためのボタン302と、車両の後方側のドアの各カメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整するためのボタン303とが、カメラ映像の表示部分の左下の位置に配置してある。例えば、日光などによって各車両の前方側のドアのカメラ映像が見えづらい場合に、ボタン302をタッチ操作することで、
図7左側のような表示が
図7右側のような表示に変化する。すなわち、各車両の前方側のドアのカメラ映像(1-A、2-A、3-A、4-A、5-A、6-A)に対する霞補正の強度が、無補正(Original)から弱補正(Mode 1)に変更される。
【0046】
別の例として、各カメラ映像に対する霞補正の強度を車両別に調整する場合について、
図8を参照して説明する。
図8では、各車両のカメラ映像に対する霞補正の強度を一括で調整するためのボタン304が、各車両の2枚のカメラ映像の中央部分に重ねて配置してある。例えば、4両目の車両104と5両目の車両105が建物の陰になってカメラ映像が見えづらい場合に、それら車両のカメラ映像に重畳されたボタン304をタッチ操作することで、
図8左側のような表示が
図8右側のような表示に変化する。すなわち、4両目の車両104と5両目の車両105のカメラ映像(4-A、4-B、5-A、5-B)に対する霞補正の強度が、無補正(Original)から弱補正(Mode 1)に変更される。
【0047】
なお、
図6~
図8は例示に過ぎず、これらを組み合わせてもよい。また、上記のように複数のカメラ映像に対して一括で霞補正の強度を調整する構成に限定されず、カメラ映像毎に個別に霞補正の強度を調整できる構成としてもよい。この場合、霞補正の強度を調整するためのボタンを、各カメラ映像に重ねて別々に配置してもよいし、各カメラ映像に隣接させて別々に配置してよい。また、モニタ146だけでなくモニタ147を併用して複数のカメラ映像を表示する場合にも、各モニタに表示中の複数のカメラ映像に対して一括で又は個別に霞補正の強度を調整することが可能である。
【0048】
以上のように、本例の監視システム100は、列車の車両の外側に取り付けられたカメラ141~144と、カメラ141~144により撮像されたカメラ映像を表示するモニタ146~147と、ユーザ指示に従って、カメラ映像に対する霞補正の強度を制御するCCTV制御装置151とを備え、CCTV制御装置151が、列車が所定状態であることを検出したことに応じて、霞補正の強度の設定をリセットする構成となっている。
【0049】
このような構成によれば、特定の環境下でカメラ映像を見易くするために霞補正の強度を手動で変更した場合でも、元の設定に自動的にリセットされるので、霞補正の強度調整に係る乗務員の負担が軽減される。また、乗務員は、乗客の安全をカメラ映像で確認した後に霞補正の強度を元に戻す作業が不要となるので、列車の運転に集中しやすくになる。
【0050】
また、本例の監視システムでは、CCTV制御装置151が、TMS制御装置152から受信した、列車のドアの開閉状態を示す情報と、列車の速度を示す情報とに基づいて、列車が所定状態であるか否かを判定する構成となっている。具体的には、全てのドアが閉扉状態となり、かつ、列車の速度が所定値(本例では3kph)以上となった場合に、列車が所定状態であると判定し、霞補正の強度の設定をリセットする。したがって、列車が走行を開始した時点(すなわち、カメラ映像を確認する必要性が低下した時点)で、霞補正の強度の設定を自動的にリセットすることができる。
【0051】
また、本例の監視システムでは、モニタ146~147が、ディスプレイ領域の少なくとも一部に設けられたタッチセンサ機能を有しており、CCTV制御装置151が、霞補正の強度の設定をリセットするためのリセット信号を反転した信号を用いて、タッチセンサ機能を起動するためのタッチセンサ起動信号を生成し、モニタ146~147が、タッチセンサ起動信号に応じて起動したタッチセンサ機能によりユーザ指示を受け付ける構成となっている。したがって、タッチセンサ機能の起動時には、既に霞補正の強度の設定がリセットされた状態としておくことができる。なお、タッチセンサ機能によりユーザ指示を受け付ける構成は一例に過ぎず、モニタ146~147に接続されたマウス等の他の入力デバイスによりユーザ指示を受け付けるようにしてもよい。または、モニタ146~147のディスプレイ領域に隣接させて物理的なボタンを配置し、ユーザ指示を受け付けるようにしてもよい。また、モニタ146~147は運転室に備え付けられたものに限られず、例えば、運転士以外の乗務員が携行する携帯端末装置(例えばタブレット端末)上に構成されてもよい。その場合は、モニタ146~147を有する携帯端末装置の無線通信インターフェイスと、スイッチングハブ145に接続された無線通信装置のインターフェイスとを介して、映像やユーザ指示の双方向通信をさせることにより、携帯端末装置上でドア121近傍の安全を確認することが可能となる。
【0052】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記のような構成に限定されるものではなく、上記以外の構成により実現してもよいことは言うまでもない。例えば、本発明は、鉄道上を走行する列車のほか、モノレールや路面電車など、種々の形式の列車に適用することが可能である。
また、本発明は、例えば、上記の処理に関する技術的手順を含む方法や、上記の処理をプロセッサにより実行させるためのプログラム、そのようなプログラムをコンピュータ読み取り可能に記憶する記憶媒体などとして提供することも可能である。
【0053】
なお、本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。更に、本発明の範囲は、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、列車のドア付近をカメラ映像で監視する監視システムに利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
100:監視システム、 101~106:車両、 121~124:ドア、 131~134:ドア制御装置、 141~144:カメラ、 145:スイッチングハブ、 146~147:モニタ、 151:CCTV制御装置、 152:TMS制御装置