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特許7549472記録装置、制御方法、記憶媒体及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】記録装置、制御方法、記憶媒体及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20240904BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020108999
(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公開番号】P2022006642
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 武史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】横澤 琢
(72)【発明者】
【氏名】国峯 昇
(72)【発明者】
【氏名】平 寛史
(72)【発明者】
【氏名】川藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】茂木 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】愛知 晶子
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-002738(JP,A)
【文献】特開2007-276360(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0284915(US,A1)
【文献】特開2008-168625(JP,A)
【文献】特開2015-134501(JP,A)
【文献】特開2007-290355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録材を付与する記録手段と、
前記記録手段の温度を取得する取得手段と、
前記記録手段に設けられた発熱素子を駆動することにより、前記記録手段の温度を制御する温度制御手段と、
前記取得手段により取得された温度が記録許可温度に達していることを条件として、前記記録手段による記録動作を開始させるよう制御する制御手段と、を備え、
記録命令毎に記録モードが設定され、
記録動作中の前記記録手段と記録媒体との相対速度が第一の速度である第一の記録モードにおける記録許可温度は、前記相対速度が前記第一の速度よりも遅い第二の速度である第二の記録モードにおける記録許可温度よりも低い、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載の記録装置であって、
前記第一の記録モードと前記第二の記録モードとは、同じ種類の記録媒体に対して記録動作を行うための記録モードである、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の記録装置であって、
前記記録手段を搭載して移動するキャリッジを備え、
前記相対速度とは、前記キャリッジの移動速度である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の記録装置であって、
記録媒体を搬送方向に搬送する搬送手段をさらに備え、
前記記録手段は、前記搬送方向と交差する方向に複数の記録素子が設けられたフルラインヘッドであり、
前記相対速度とは、前記記録媒体が搬送される搬送速度である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記記録装置の周辺の温度を取得する周辺温度取得手段と、
前記周辺温度取得手段が取得した温度に基づいて前記記録許可温度を設定する設定手段と、を備える、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項5に記載の記録装置であって、
前記設定手段は、前記周辺温度取得手段が取得した温度が第一の温度の場合は、前記記録許可温度を変更せず、前記第一の温度よりも低い第二の温度の場合は、前記記録許可温度を高温側に補正する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の記録装置であって、
前記記録許可温度は、前記記録装置の周辺の温度よりも高い温度である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記記録装置の周辺の湿度を取得する周辺湿度取得手段と、
前記周辺湿度取得手段により取得された湿度に基づいて前記記録許可温度を設定する設定手段と、を備える、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項9】
請求項8に記載の記録装置であって、
前記設定手段は、前記周辺湿度取得手段により取得された湿度が第一の湿度の場合は、前記記録許可温度を変更せず、前記第一の湿度よりも低い第二の湿度の場合は、前記記録許可温度を高温側に補正する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記発熱素子は、記録材としてインクを吐出する記録素子である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記温度制御手段は、
前記記録手段の記録待機中に、前記記録手段を前記記録許可温度へ昇温させるように前記発熱素子を駆動する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記制御手段は、前記記録許可温度に基づいて前記記録手段の前記記録動作における制御パラメータを変更する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記温度制御手段は、所定の温度まで前記記録手段の温度を昇温させ、
前記所定の温度は、最も高い前記記録許可温度と同じか、それよりも高い温度である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記相対速度は、記録動作時に定速となる速度である、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の記録装置であって、
前記取得手段は、前記記録手段に設けられた検知手段が検知した温度を取得する、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項16】
記録媒体に記録材を付与する記録手段と、
前記記録手段の温度を取得する取得手段と、
を備えた記録装置の制御方法であって、
前記記録手段に設けられた発熱素子を駆動することにより、前記記録手段の温度を制御する温度制御工程と、
前記取得手段により取得された温度が記録許可温度に達していることを条件として、前記記録手段による記録動作を開始させるよう制御する制御工程と、を含み、
記録命令毎に記録モードが設定され、
記録動作中の前記記録手段と記録媒体との相対速度が第一の速度である第一の記録モードにおける記録許可温度は、前記相対速度が前記第一の速度よりも遅い第二の速度である第二の記録モードにおける記録許可温度よりも低い、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項17】
請求項16に記載の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるプログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項18】
請求項16に記載の制御方法の各工程をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出する記録手段を用いた記録技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出する記録手段を用いた記録装置では、吐出されるインクの粘度等の変動を抑制し、インクの吐出を安定的に行うためにインクの保温制御を行う技術が提案されている。例えば、熱エネルギーによってインクを吐出する記録素子を備えた記録ヘッドにおいては、記録素子にインクを吐出しない程度の駆動パルス(短駆動パルス)を印加して記録ヘッド(つまりインク)を昇温する制御が知られている。また、記録素子とは別の保温用のサブヒータを記録ヘッドに設けて記録ヘッド(つまりインク)を昇温する制御も知られている。特許文献1には、記録素子とは別の加熱素子を有し、画像データの種類や記録時のパス分割数といった記録モードの違いによって、温調制御の温度を変更する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-31886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録ヘッドの温調制御を行う記録装置においては、所定の温度に記録ヘッドが温度調節されるのを待機し、所定の温度に到達したことを確認してから記録が開始される。温度調節のための待機時間によって、スループットが低下するという課題がある。
【0005】
本発明は、温度調節のための待機時間を改善する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
記録媒体に記録材を付与する記録手段と、
前記記録手段の温度を取得する取得手段と、
前記記録手段に設けられた発熱素子を駆動することにより、前記記録手段の温度を制御する温度制御手段と、
前記取得手段により取得された温度が記録許可温度に達していることを条件として、前記記録手段による記録動作を開始させるよう制御する制御手段と、を備え、
記録命令毎に記録モードが設定され、
記録動作中の前記記録手段と記録媒体との相対速度が第一の速度である第一の記録モードにおける記録許可温度は、前記相対速度が前記第一の速度よりも遅い第二の速度である第二の記録モードにおける記録許可温度よりも低い、
ことを特徴とする記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度調節のための待機時間を改善する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】(A)は本発明の一実施形態に係る記録装置の外観図、(B)は図1(A)の記録装置における記録媒体の搬送機構を示す模式図。
図2】(A)はキャリッジを上側から見た図、(B)は記録ヘッドをインク吐出面の側から見た模式図、
図3】(A)は吐出素子基板の拡大図、(B)は図3(A)のA-A線断面図。
図4】制御回路のブロック図。
図5図1(A)の記録装置の制御例を示すフローチャート。
図6】(A)は記録モードの種類の例を示す図、(B)は温調モードの種類の例を示す図。
図7】(A)及び(B)は異なる記録モードでの記録ヘッドの温度変化の例を示す図。
図8図1(A)の記録装置の別の制御例を示すフローチャート。
図9】環境温度及び環境湿度による記録許可温度の補正値の例を示す図。
図10図1(A)の記録装置の別の制御例を示すフローチャート。
図11】(A)は吐出素子基板の別の例を示す拡大図、(B)は記録ヘッドの別の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<記録装置の概要>
図1(A)は本実施形態における記録装置1の外観図、図1(B)は記録装置1における記録媒体Pの搬送機構を示す模式図である。記録装置1はシリアル型のインクジェット記録装置である。図中、矢印X、Y、Zは、それぞれ、記録媒体Pの搬送方向(副走査方向)、キャリッジ2の移動方向(主走査方向)、上下方向である。主走査方向と副走査方向とは交差しており、本実施形態の場合、直交している。
【0011】
なお、「記録」には、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も含まれ、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、本実施形態では「記録媒体」としてシート状の紙を想定するが、布、プラスチック・フィルム等であってもよい。
【0012】
記録装置1は記録媒体Pを搬送する搬送ローラ10と、搬送ローラ10に圧接されるピンチローラ11とを備える。搬送ローラ10とピンチローラ11とは記録媒体Pを挟持し、その回転によって、記録媒体Pがロール状に巻かれたスプール6から、記録媒体Pをプラテン4上にX方向に給送する。
【0013】
キャリッジ2は記録ヘッド9を搭載し、Y方向に延設されたガイドシャフト8の案内によってプラテン4上をY方向双方向に移動可能に設けられている。図2(A)はキャリッジ2を上側から見た図である。キャリッジ2は、Y方向で記録位置と記録待機位置(ホームポジション)とを移動可能である。記録位置は記録ヘッド9が記録媒体P上の画像記録領域内に存在している位置であり、記録待機位置は記録ヘッド9が記録媒体PからY方向に離間した位置である。キャリッジ2の位置は、キャリッジ2に設けたエンコーダセンサ(不図示)が、Y方向に延設されたエンコーダ7を読み取って出力する位置信号から特定される。
【0014】
キャリッジ2の移動の過程で、位置信号に基づいたタイミングで記録ヘッド9から記録材としてインクを吐出することで記録が行われる。キャリッジ2が移動しつつ記録ヘッド9からインクを吐出することを記録走査と呼ぶ場合がある。記録ヘッド9は、インクを吐出するノズルのノズル配列範囲に対応したX方向の一定のバンド幅で画像を記録可能である。記録走査において、キャリッジ2は、例えば、40インチ毎秒で移動し、600dpi(ドット/インチ)のタイミングでインクの吐出動作を行う。本実施形態では、記録走査をキャリッジ2の往路移動において行う。しかし、キャリッジ2の往路移動及び復路移動のそれぞれについて記録走査を行ってもよい。記録走査と記録媒体Pの所定単位の搬送とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pに画像が記録されていくことになる。
【0015】
なお、記録媒体Pの一回の搬送量はバンド幅の態様の他、バンド幅よりも少ない搬送量とすることも可能である。すなわち、記録走査毎にバンド幅分の記録媒体Pの搬送を行わず、複数回の記録走査を行ってから記録媒体Pの搬送を行うことも可能である。また、いわゆるマルチパス記録を行うことも可能である。マルチパス記録では、記録走査毎に所定のマスクによって間引かれた記録データを記録する。そして、一つの記録領域に対し記録に関与するノズルを異ならせた複数回の記録走査と記録媒体Pの搬送とを行う。
【0016】
記録ヘッド9には、吐出駆動のための記録信号や温調信号などの制御信号を供給するためのフレキシブル配線基板9aが取り付けられている。フレキシブル基板9aの他端は、後述する制御回路に接続されている。
【0017】
<記録ヘッド>
図2(B)は記録ヘッド9をインク吐出面9aの側から見た模式図である。インク吐出面9aはプラテン4と対向する面であり、Y方向に離間した吐出素子基板12、13を有している。図3(A)は吐出素子基板12の拡大図である。
【0018】
吐出素子基板12は、記録素子列12a~12dを有する。記録素子列12a~12dが吐出するインクは、例えば、記録素子列12aはブラックインク、記録素子列12bはグレーインク、記録素子列12cはライトグレーインク、記録素子列12dはライトシアンインクである。各記録素子列12a~12dは、それぞれ、Y方向に離間した二列のノズル列を有しており、各ノズル列はX方向に配置された複数のノズルの群を有する。本実施形態の場合、二列のノズル列はX方向に1200dpiずらされており、一つのノズル列は768個のノズルを有している。
【0019】
図3(B)は図3(A)のA-A線断面図である。吐出素子基板12は、支持基板26と、記録素子20と、オリフィスプレート22と、を有している。オリフィスプレート22には、吐出口21aが形成されている。支持基板26とオリフィスプレート22との間には、ノズル毎の流路23が形成されている。本実施形態の記録素子20は、熱エネルギーによってインクを吐出口21aから吐出させる発熱素子であり、電気信号の供給により発熱する電気-熱変換素子である。記録素子20は、ノズル21aと対向するように設けられており、その表面には保護膜などが形成されている。インクは共通液室24から流路23に供給され、記録素子20の発熱によるインクの発泡でインクが吐出口21aから吐出される。
【0020】
図3(A)に示すように、吐出素子基板12には、記録ヘッド9の温度を検知する複数のセンサSR1~SR9が設けられている。センサSR1~SR9は例えばダイオードである。センサSR1~SR5は、吐出素子基板12のX方向で中央部に、Y方向に離間して配置されている。センサSR6及びSR7は吐出素子基板12のX方向の一端部に、センサSR8及び9は吐出素子基板12のX方向の他端部に、それぞれY方向に離間して配置されている。センサSR1~SR9を総称する場合、或いは、区別しない場合はセンサSRと表記する。
【0021】
吐出素子基板13は、吐出素子基板12と同様の構成であるが、吐出するインクの種類が異なる。吐出素子基板13は、例えば、シアンインク、ライトマゼンタインク、マゼンタインク及びイエローインクを吐出する。
【0022】
<制御回路>
図4は記録装置の制御回路のブロック図である。図4において、プログラマブル・ペリフェラル・インターフェイス(以下PPIとする)101は、ホストコンピュータ100から送られてくる指令信号(コマンド)や記録データを含む記録情報信号を受信してMPU102に転送する。PPI101は、また、ホストコンピュータ100に対して必要に応じ記録装置1のステータス情報を送出する。
【0023】
コンソール106は、ユーザが各種設定を行う設定入力部やユーザに対してメッセージを表示する表示部などを有し、PPI101を介して、MPU102との間で情報の入出力を行う。センサ群107は、キャリッジ2が記録待機位置にあることを検出するホームポジションセンサ等を含み、MPU102はセンサ群107の検知結果をPPI101を介して取得する。
【0024】
MPU(マイクロプロセッシングユニット)102は、アドレスバス117およびデーせんタバス118を介して各デバイスとデータの入出力が可能であり、制御用ROM105に記憶された制御プログラムに従って、記録装置1の各部を制御する。RAM103は、MPU102のワークエリアとして使用され、また各種データを一時的に記憶する。プリントバッファ121はRAM103等に展開された記録データを記憶するためのであって、複数行記録分の記憶容量を有している。制御用ROM105には上記制御プログラムのほか、後述する制御の過程で使用されるデータ等に対応したデータを格納しておくことができる。
【0025】
モータドライバ114~116は、それぞれ、キャッピングモータ113、キャリッジモータ3および搬送モータ5をMPU102の制御に応じて駆動する駆動回路である。キャッピングモータ113は、記録待機位置において記録ヘッド9のキャッピングを行う機構の駆動源である。搬送モータ5は搬送ローラ10を回転させる機構の駆動源である。
【0026】
キャリッジモータ3はキャリッジ2を移動させる機構の駆動源である。キャリッジモータ3からキャリッジ2への駆動力の伝達には、X方向に走行する無端のキャリッジベルトを用いたベルト伝動機構を用いることができる。別の機構として、例えばキャリッジモータ3の駆動により回転駆動され、X方向に延在するリードスクリュと、キャリッジ2に設けられ、リードスクリュの溝に係合する係合部とを備えた機構であってもよい。
【0027】
シートセンサ109は、記録媒体Pが記録ヘッド9による記録が可能な位置に搬送されたか否かを検知する。ドライバ111は記録ヘッド9の記録素子を駆動するための駆動回路である。温湿度センサ122は記録装置1の周辺の温度を検知する周辺温度検知センサ及び湿度を検知する周辺湿度検知センサを含み、記録装置1の設置環境における環境温度および環境湿度を検知する。温湿度センサ122は記録ヘッド9の近傍に配置されていてもよいし、記録装置1の外側に配置されてもよい。電源部124は記録装置1の各部へ電力を供給する。
【0028】
MPU102には、ホストコンピュータ100から記録データの他、記録モードの指定等の情報が送信される。記録モードは記録条件を特定する。記録条件には、例えば、記録媒体の種類、媒体サイズ、記録品位等が含まれる。記録媒体の種類は、例えば、普通紙、OHPシート、光沢紙等の種類や、さらには転写フィルム、厚紙、バナー紙等の特殊な記録媒体の種別である。媒体サイズは、例えば、A0判、A1判、A2判、B0判、B1判、B2判などである。記録品位は、例えば、ドラフト、高品位、中品位、特定色の強調、モノクローム/カラーの種別などである。記録条件には、また、例えば上述したマルチパス記録を行う際の記録パス数や、記録媒体単位面積あたりのインクの打ち込み量および記録方向等を決定するための情報、マルチパス記録を行う際に適用されるデータ間引き用のマスク種類が含まれ得る。
【0029】
<制御例>
制御回路による記録装置1の制御例について説明する。図5はMPU102が実行する処理例を示すフローチャートである。本制御例は、ユーザがホストコンピュータ100において記録モードの設定や、記録するファイルの選択を行い、記録装置1に記録命令を送信した場合に実行される処理例である。本制御例は、用紙種や記録品位など複数の記録モードの中からユーザが選択した記録モードに対応した記録ヘッド9の温調制御(保温制御)を行う例である。記録ヘッド9を適温に維持することで、吐出されるインクの粘度等の変動を抑制し、インクの吐出を安定的に行うことができる。
【0030】
本実施形態では、記録走査毎に、記録ヘッド9が予め設定される記録許可温度に達していることを条件として記録ヘッド9の記録動作を開始させる。記録ヘッド9が記録許可温度に達するまで、記録動作が待機されるため、昇温時間が長ければスループットが低下する。記録走査中、記録ヘッド9は徐々に温度が低下する。一回の記録走査の時間が短ければ、温度の低下は小さい。したがって、記録走査の時間が短い場合、長い場合に比べて記録許可温度を低くしてもインクの吐出を安定的に行うことができる。そして、記録許可温度が低ければ、記録ヘッド9の昇温に要する時間も短くなる。
【0031】
そこで、本実施形態では記録走査の時間の長短に応じて、記録許可温度を変更する。これにより、インクの吐出を安定的に行いつつ、温度調節のための待機時間を改善してスループットを向上できる。記録走査の時間の長短は、記録ヘッド9と記録媒体Pとの相対速度を基準として区別し、特に、キャリッジ2の移動速度を基準として区別する。ここでの相対速度、すなわちキャリッジ2の移動速度とは、キャリッジの移動が開始して加速した後に、定速で記録動作を行う記録動作時の速度である。
【0032】
図5を参照して、S1においてホストコンピュータ100から記録命令を受信する。S2においてS1で受信した記録命令を解析し、記録モードを設定する。
【0033】
図6(A)は記録モードの種類の例を示している。図示の例では五種類の記録モードが例示されており、それぞれ、「用紙種」、「記録品位」、「パス分割数」、「キャリッジ速度」、「温調モード」が規定されている。「用紙種」は記録媒体Pの種類である。図示の例では普通紙と写真紙の二種類が規定されている。「記録品位」が記録画像の品位の種類である。図示の例では、きれい、標準、高速の三種類が規定されている。「パス分割数」は、一ラインの画像記録に要する記録走査回数である。図示の例では、1回、4回、8回、12回の四種類が規定されている。4回、8回、12回はマルチパス記録を意味する。「キャリッジ速度」は記録走査におけるキャリッジ2のY方向の移動速度である。「温調モード」は、記録ヘッド9の温度制御の制御条件である。図示の例では、A~Dの四種類が規定されている。
【0034】
このように、記録モードとは、記録を行うための詳細な制御を定義する、内部的なパラメータを規定している。図6(A)は一例であり、画像処理解像度や誤差拡散種類、使用するインク種類、など様々な情報を様々なフォーマットで記録モードとして定義することが可能である。
【0035】
図5に戻り、S3では記録許可温度と加熱条件を設定する。記録許可温度は記録モードの種類(温調モードの種類)毎に規定されている。例えば、S2で設定されて記録モードが、用紙種:普通紙、記録品位:標準の記録モードであった場合、温調モードBが参照され、記録許可温度が設定される。
【0036】
図6(B)は温調モードA~Dの各内容を例示している。図示の例では、「記録許可温度」、「加熱周波数」が規定されている。温調モードBの場合、「記録許可温度」は45℃である。「加熱周波数」は、記録ヘッド9を昇温する際に、記録ヘッド9に設けた発熱素子に印可する駆動信号の周波数を規定する。温調モードBの場合、加熱条件として「加熱周波数」は10kHzである。本実施形態の場合、発熱素子として、記録素子20を用いる。記録素子20に、インクを吐出しない短駆動パルスを印可して発熱させ、これにより記録ヘッド9を昇温する。温調モードの情報は例えば制御用ROM105等の記憶デバイスに格納しておくことができる。
【0037】
なお、本実施形態では温調モードが、「記録許可温度」と「加熱周波数」を規定するものとしたが、他の項目を規定することも可能である。例えば、短駆動パルスのパルス長、昇温に使用するノズル等の項目を規定してもよい。
【0038】
図5に戻り、S4ではS3で設定した加熱条件により、記録ヘッド9の加熱を開始する。具体的には、記録ヘッド9の記録素子20に短駆動パルスを供給して発熱させる。キャリッジ2は記録待機位置に位置しており、記録ヘッド9は記録待機中である。上記の通り、本実施形態では記録素子20を用いて記録ヘッド9の温調制御を行う。記録動作中に、並行して記録ヘッド9の温調制御を行うことも可能であるが、制御が複雑になる。本実施形態では、記録ヘッド9の記録待機中に温調制御を行って記録ヘッド9を記録許可温度へ昇温させることで、制御が複雑化することを回避することができる。
【0039】
S5では所定の待機時間(例えば100ms)待機する。記録ヘッド9の昇温待ちである。S6ではセンサSRの検知結果を取得して、記録ヘッド9がS3で設定した記録許可温度に達したか否かを判定する。記録ヘッド9が記録許可温度に達していた場合はS7へ進み、達していない場合はS5に戻る。
【0040】
ここで、本実施形態では、記録ヘッド9の温度を検知するセンサとして、吐出素子基板12に九つのセンサSR1~SR9が設けられている。吐出素子基板13も同様である。このような構成の場合、各検知結果と記録許可温度との比較方法は種々の方法を採用可能である。例えば、全センサSRの検知温度の平均値を記録ヘッド9の温度とみなしてもよい。また、使用するノズルとの関係で比較するセンサSRを選択してもよいし、検知結果に重みづけをしてもよい。例えば、記録する画像が白黒画像である場合、黒インクを吐出するノズル列近傍に存在するセンサSRの検知結果のみを利用する、或いは、黒インクを吐出するノズル列近傍に存在するセンサSRの検知結果に重みづけをする、という方法がある。
【0041】
S7ではS4で開始した記録ヘッド9の加熱を停止する。具体的には、記録ヘッド9の記録素子20に対する短駆動パルスの供給を停止する。S8では記録動作を実行する。具体的には記録走査を一回行う。なお、記録を行うためには、あらかじめ記録データを生成するケースもあるが、記録を行いながらデータ処理を行い、記録データを生成してもよい。S9では、次の記録走査のための記録データが残っているかどうかを判定し、残っていなければ記録を終了する。残っていればS4へ進み、同様の処理を繰り返し、複数回の記録走査によって画像が記録される。
【0042】
次に、記録許可温度の変更によるスループットの向上の例について説明する。ここでは、図6(A)の記録モードのうち、用紙種:普通紙、記録品位:標準の記録モード(温調モードB)と、用紙種:普通紙、記録品位:高速の記録モード(温調モードC)と、を比較対象とする。これらの記録モードは、記録媒体Pの種類やパス分割数が同じであり、キャリッジ2の移動速度のみが異なっている。用紙種:普通紙、記録品位:標準の記録モードでは相対的に遅く(60ips)、用紙種:普通紙、記録品位:高速の記録モードでは相対的に速い(80ips)。逆に、記録許可温度は、用紙種:普通紙、記録品位:標準の記録モードでは相対的に高く(温調モードB:45℃)、用紙種:普通紙、記録品位:高速の記録モードでは相対的に低い(温調モードC:40℃)。
【0043】
図7(A)及び図7(B)は、記録ヘッド9の温度変化の例を示している。図7(A)は、用紙種:普通紙、記録品位:標準の記録モードで記録動作を実行した場合、図7(B)は用紙種:普通紙、記録品位:高速の記録モードで記録動作を実行した場を示している。図中のグラフは、横軸が経過時間、縦軸が記録ヘッドの温度である。
【0044】
縦軸上のa-T1、b-T1が記録開始時の記録ヘッドの温度、a-T2、b-T2が記録許可温度(45℃、40℃)を意味する。横軸上のa-Time1、b-Time1が、初回の記録走査前の記録ヘッド9の加熱開始タイミングを意味する。a-Time2、b-Time2は、記録ヘッド9の温度が記録許可温度に到達して記録を開始したタイミングを示す。a-Time3、b-Time3は初回の記録走査を終了したタイミングを示す。
【0045】
図7(A)と図7(B)の例では、記録許可温度の設定の違いから、記録を開始するa-Time2、b-Time2の時点での記録ヘッド9の温度に差がある。図7(A)の例の方が記録ヘッド9の温度が高い。記録走査中(a-Time2からa-Time3の間、b-Time2からb-Time3の間)、記録ヘッド9の温度は低下している。この温度が下がる現象は、例えば白黒の文字だけの文書を記録する場合においてみられる。インクを吐出する頻度が低いため、記録中といえども記録ヘッド9の温度が下がるのである。
【0046】
そして、キャリッジ速度が図7(A)の場合の方が図7(B)よりも遅いため、つまり一回の記録走査を行うのにより時間がかかるため、一回の終了時点(a-Time3、b-Time3)での記録ヘッド9の温度は同じT0である。温度T0が、安定してインクを吐出するために必要な最低温度を超えていれば、記録許可温度に差があってもよいことになる。
【0047】
すなわち、安定吐出に必要となる温調制御について述べると、一回の記録走査中にインクを吐出しないノズルがある場合、そのノズル表面の液滴から水分が蒸発し、インク粘度が局所的に上昇する。そこで、水分蒸発とヘッド温度低下の両方を鑑みたうえで、一回の記録走査の間に温度が下がっても、安定吐出を得られるような最低吐出必要温度以上に、記録ヘッド9を維持することが肝要となる。
【0048】
キャリッジ2の移動速度が異なれば、一回の記録走査における記録ヘッド9の降温度量が異なる。よって、記録ヘッド9を最低吐出必要温度以上に維持するために、降温度量が大きいと見込まれる記録モードでは記録許可温度を高くする必要があるが、降温度量が小さい記録モードでは記録許可温度を低くすることができる。記録許可温度が低ければ、図7(B)に示されるように、昇温待ち時間を短くすることができ、記録動作の待ち時間の削減に貢献できる。その結果として、スループットを向上することができる。
【0049】
<第二実施形態>
記録装置1の使用環境が、記録ヘッド9の温度に影響を与える場合がある。本実施形態では、記録装置1の周辺の温度や湿度に応じて、記録許可温度を補正する。図8図5に代わるMPU102が実行する処理例を示すフローチャートである。図8の各ステップのうち、図5のステップと同じステップについては同じ符号を付して説明を省略する。
【0050】
S3で記録許可温度・加熱条件を設定した後、S11で温湿度センサ122の検知結果を取得して、記録装置1の周辺温度取得(環境温度取得)と周辺湿度取得(環境湿度取得)とを行う。S12ではS11で取得した環境温度と環境湿度に基づいて、S3で設定した記録許可温度を補正する。ここで、環境温湿度がインクの吐出に与える影響について説明する。
【0051】
インクの吐出を悪化させる要因としては、以下2点の理由が考えらえる。1点目は、記録ヘッド9の温度が低い、つまり吐出口近傍のインク温度が低いため、インクの粘度が下がって発泡しづらくなる点である。2点目は、吐出口付近の液滴の水分蒸発により、局所的にインクの粘度が上昇し、その結果として発泡しづらくなる点である。つまり、環境温湿度は、一回の記録走査における記録ヘッド9の降温量に影響し、また、最低吐出必要温度に影響を与えることが考えられる。
【0052】
これらの影響を補正するために、1点目の記録ヘッド9の温度低下に関しては、記録走査における記録ヘッド9の降温量を、環境温度と記録ヘッド9の温度との差分を考慮することにより、補正することができる。要は、環境温度が低い場合は降温量が大きくなるので、その分を考慮して記録許可温度を高めに設定すればよいことになる。2点目の水分蒸発に関しては、飽和水蒸気量と絶対湿度との関係を考慮することにより、補正することができる。
【0053】
図9は補正値の例を示す。同図の補正値は例えば制御用ROM105等の記憶デバイスに格納しておくことができる。図9の例は、環境温度と環境湿度との組み合わせで補正値が設定されている。補正値の傾向として、環境温度については、環境温度が低くなるにつれて記録許可温度を高温側に補正されるように補正値が設定されている。また、環境湿度については、環境湿度が低くなるにつれて記録許可温度が高温側に補正されるように補正値が設定されている。例えば、環境温度が5~15℃の範囲内で、かつ、環境湿度が0~30%の範囲内の場合、記録許可温度は10℃高く補正される。また、環境温度が25~35℃の範囲内で、かつ、環境湿度が30~60%の範囲内の場合、記録許可温度は補正されない。また、環境温度が35℃を超え、かつ、環境湿度が60%を超える場合、記録許可温度は3℃低く補正される。
【0054】
このように、記録ヘッド9と記録媒体Pの相対速度に加えて、環境温湿度を考慮して記録許可温度を設定することで、記録装置1の使用環境に適応して、インクの吐出を安定的に行いつつ、スループットを向上できる。
【0055】
なお、本実施形態では、環境温度と環境湿度との双方を考慮して、記録許可温度を補正する例を説明したが、環境温度のみを考慮して記録許可温度を補正してもよく、この場合環境湿度の検知は不要である。同様に、環境湿度のみを考慮して記録許可温度を補正してもよく、この場合環境温度の検知は不要である。
【0056】
<第三実施形態>
第一実施形態では、記録モードによって記録ヘッド9の記録許可温度が異なることから、記録モードが異なれば、記録中の記録ヘッド9の温度も異なることになる。このため、記録ヘッド9から吐出されるインクの物性が変化する場合があり、これにより、インクの吐出量が変動する場合がある。その結果、同じ画像を記録したとしても、記録モードによって色味が異なる場合がある。
【0057】
その対策としては、例えば、記録許可温度に基づいて記録ヘッド9の記録動作における制御パラメータを変更してもよい。例えば、記録許可温度に応じて、記録走査時におけるインクの吐出量や吐出速度を変更してもよく、これらは、記録素子20の駆動パルスの長さを変調することなどによって実現することができる。こうした吐出量制御によって、記録ヘッド9がの温度が異なっても色味を一定にすることができる。
【0058】
また、記録ヘッド9の温度の相違によって吐出量が異なることを想定して、色処理やガンマ処理のパラメータといった画像処理パラメータを変更することにより、色味を一定としてもよい。
【0059】
また、別の対策として、記録許可温度とは別に、全記録モードに共通の規定温度まで、記録ヘッド9を昇温させてもよい。規定温度は、最も高い記録許可温度と同じか、それよりも高い温度である。例えば、図6(B)の例では、温調モードDno記録許可温度が最も高い(53℃)。よって、規定温度は、53℃或いは55℃等に設定する。規定温度は予め設定される、全記録モードに共通の温度である。
【0060】
記録ヘッド9が記録許可温度に達している場合であっても、記録媒体Pの搬送や、記録ヘッド9の性能回復処理のために記録走査を開始できない場合がある。このような他の記録開始条件の成立までの待機時間を利用して記録ヘッド9を規定温度まで昇温させる。記録モードの種類に関わらず、記録走査時の記録ヘッド9の温度を均一に近づけることができる。記録ヘッド9が記録許可温度に達しており、かつ、他の記録開始条件が成立している場合、記録ヘッド9が規定温度に達していなくても記録走査を開始する。これにより昇温待ち時間を短くできる。記録走査によって、記録ヘッド9が記録許可温度に達しているが、規定温度に達していない場合が生じ得る。この結果、初期の段階では若干の色味変化が生じ得るが、記録ヘッド9の最終的な到達温度を一定にして、全体的に色味変化を抑えることができる。
【0061】
図10は、記録ヘッド9を規定温度まで昇温させる制御例を示すフローチャートであり、図5に代わるMPU102が実行する処理例を示すフローチャートである。図10の各ステップのうち、図5のステップと同じステップについては同じ符号を付して説明を省略する。
【0062】
S6で記録ヘッド9がS3で設定した記録許可温度に達したと判定された後、直ちに記録ヘッド9の加熱を停止せず、S21で記録走査が開始可能か否かを判定する。ここでは、例えば、記録媒体Pの搬送等、他の記録開始条件が成立しているかを判定する。S21で記録走査が開始可能であると判定した場合はS7で記録ヘッド9の加熱を停止し、S8で記録走査を開始する。
【0063】
S21で記録走査が開始可能でないと判定した場合はS22で記録ヘッド9が規定温度に達しているか否かを判定する。この判定は、S6の判定と同様、センサSRの検知結果に基づいて行う。記録ヘッド9が規定温度に達していない場合はS21へ戻る。この場合、記録ヘッド9の加熱が継続される。記録ヘッド9が規定温度に達している場合はS23へ進む。S23では記録ヘッド9の温度を維持する制御を行う。例えば、加熱を停止する、或いは、加熱を弱くする、といった制御を行い、記録ヘッド9が規定温度を超えて昇温されることを防止する。
【0064】
このような制御によって、異なる記録モード間で記録ヘッド9の温度を均一に近づけることができる。記録データの濃度が高い場合は、記録走査における記録素子20の駆動頻度が高く、記録ヘッド9の温度が記録初期よりも上昇することが予想される。初期の記録時には記録ヘッド9の温度が記録モードの種類によって異なるものの、記録モード間での記録ヘッド9の温度差分を減らしつつ、待ち時間の発生を抑制できる。
【0065】
<第四実施形態>
第一~第三実施形態では、記録素子20を発熱素子として利用し、記録ヘッド9の温調制御を行ったが、インクの吐出には使用しない、温調専用の発熱素子を設けてもよい。図11(A)はその一例を示す吐出素子基板12の拡大図である。図11(A)の例のうち、図3(A)の例と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
本実施形態の吐出素子基板12は、発熱素子として保温ヒータ12e及び12fを備える。保温ヒータ12e及び12fは電力の供給により発熱する金属配線である。保温ヒータ12e及び12fは吐出素子基板12を取り囲むようにして形成されている。
【0067】
なお、保温ヒータ12e及び12fの配置は図示の例に限られず、ノズル列に沿って配線するなど、いろいろなレイアウトを採用可能である。また、保温ヒータはインク流路内に設けた発熱体であってもよい。
【0068】
本実施形態のように、記録素子20とは別に保温ヒータ12e及び12fを設けたことにより、記録ヘッド9の温調制御を記録走査中に行うことも可能となる。また、本実施形態のように専用の保温ヒータを設けた構成においては、記録素子としてピエゾ式の記録素子のように熱エネルギーを要せずにインクを付与する記録素子も利用可能である。
【0069】
また、吐出素子基板12に設けられたセンサによって、記録ヘッド9の温度を検知する形態について説明したが、これに限られない。例えば、インク中に設けられたセンサで検知した吐出口近傍のインクの温度を取得する形態であってもよい。
【0070】
<第五実施形態>
第一~第四実施形態では、記録ヘッド9の温調制御及び記録許可温度への到達確認を一回の記録走査毎に行ったが、これに限られず、複数回の記録走査毎、頁毎、所定時間毎、記録ジョブ毎に行ってもよい。但し、一回の記録走査毎に行う態様においては、記録ヘッド9の温度変動を抑えることができる。
【0071】
<第六実施形態>
第一~第五実施形態では、シリアル型のインクジェット記録装置を例示したが、フルラインヘッドのインクジェット記録装置にも本発明は適用可能である。図11(B)はその一例を示す模式図であり、図2(A)と同様、記録ヘッド9’を上側から見た図である。
【0072】
記録ヘッド9’は、Y方向に延設され、その位置が固定されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体Pの画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。記録動作においては、例えば、記録媒体PをX方向に連続的に搬送しつつ、記録ヘッド9’からインクを記録媒体Pに吐出して画像を記録する。
【0073】
記録ヘッド9’の温調制御及び記録許可温度への到達確認は、例えば、頁間、或いは、記録ジョブ間に行うことができる。この場合も、記録許可温度を記録ヘッド9’と記録媒体Pとの相対速度に基づいて設定し、相対速度は記録媒体Pの搬送速度である。記録媒体Pの搬送速度が速い記録モードにおいては、頁単位或いは記録ジョブ単位の記録動作の時間が短くなるので、記録許可温度は相対的に低く設定される。逆に記録媒体Pの搬送速度が遅い記録モードにおいては、頁単位或いは記録ジョブ単位の記録動作の時間が長くなるので、記録許可温度は相対的に高く設定される。
【0074】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0075】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0076】
1:記録装置、9、9’:記録ヘッド、SR1~9:センサ、102:MPU
図1
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図5
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図10
図11