(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】有機デバイス、表示装置、光電変換装置、電子機器、照明装置、移動体用の灯具および移動体
(51)【国際特許分類】
H10K 59/122 20230101AFI20240904BHJP
H01L 31/10 20060101ALI20240904BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240904BHJP
H10K 50/814 20230101ALI20240904BHJP
H10K 50/84 20230101ALI20240904BHJP
H10K 50/852 20230101ALI20240904BHJP
H10K 59/124 20230101ALI20240904BHJP
H10K 59/35 20230101ALI20240904BHJP
【FI】
H10K59/122
H01L31/10 A
H10K50/10
H10K50/814
H10K50/84
H10K50/852
H10K59/124
H10K59/35
(21)【出願番号】P 2020118736
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲生
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-123527(JP,A)
【文献】特開2019-012684(JP,A)
【文献】特開2019-091724(JP,A)
【文献】特開2013-012493(JP,A)
【文献】特開2019-179716(JP,A)
【文献】特開2019-220397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/00-33/28
H01L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の主面の上に配された第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配された第1部分および前記第1電極の外縁部を覆うように配された第2部分を含む絶縁層と、前記第1電極、前記第2電極および前記絶縁層の上に配された有機層と、前記有機層の上に配された第3電極と、を含む有機デバイスであって、
前記有機層は、複数の機能層と前記複数の機能層の間に配される電荷発生層とを含み、
前記第1電極は、前記絶縁層に覆われていない第3部分を含み、
前記第2部分のうち前記主面から最も離れた頂部と、前記第1部
分と、の間の前記絶縁層の表面は、前記主面に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である傾斜部を含み、
前記傾斜部の上端が、前記
第1部分の上における前記電荷発生層の上面よりも前記主面から遠く、かつ、前記
第1部分の上における前記有機層の
第4部分の上面よりも前記主面に近
く、
前記第4部分の上面は、前記第1部分の上における前記有機層の上面のうち前記主面に最も近い部分であることを特徴とする有機デバイス。
【請求項2】
前記有機層は、複数の前記電荷発生層を含み、
前記傾斜部の上端が、前記
第1部分および前記第3部分のうち少なくとも一方の部分の上における複数の前記電荷発生層のいずれの上面よりも前記主面から遠いことを特徴とする請求項1に記載の有機デバイス。
【請求項3】
前記有機層が、前記電荷発生層と前記第3電極との間に配されている電荷輸送層をさらに含み、
前記傾斜部の上端は、前記
第1部分および前記第3部分のうち少なくとも一方の部分の上における前記電荷輸送層の上面よりも前記主面から遠いことを特徴とする請求項1または2に記載の有機デバイス。
【請求項4】
前記電荷輸送層が、正孔輸送層であることを特徴とする請求項3に記載の有機デバイス。
【請求項5】
前記電荷輸送層が、前記電荷発生層の上面に接していることを特徴とする請求項3または4に記載の有機デバイス。
【請求項6】
前記傾斜部の前記主面に平行な面に対する角度が、50°よりも大きく、かつ、90°以下であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項7】
前記頂部と前記
第1部分および前記第3部分のうち少なくとも一方の部分との間の前記絶縁層の表面が、前記主面に平行な面に対する角度が0°以上、かつ、50°以下である緩傾斜部をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項8】
前記緩傾斜部が、前記頂部と前記傾斜部との間に配されることを特徴とする請求項7に記載の有機デバイス。
【請求項9】
前記
第1部分および前記第3部分のうち少なくとも一方の部分の上における前記有機層の厚さをC、前記第3部分と前記第2電極のうち前記絶縁層に覆われていない部分との間の距離をDとしたとき、
D/C < 50
を満たすことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項10】
前記有機デバイスは、前記第1電極および前記第2電極を含む複数の下部電極を備え、
前記第1電極と前記第2電極とが、互いに隣り合って配されていることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項11】
前記第3部分が、前記第1部分よりも前記主面から遠いことを特徴とする請求項1乃至
10の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項12】
前記第1電極と前記主面との間に光学調整層が配され、
前記第1部分が、前記光学調整層の上に配され、
前記第1部分と前記第2電極との間に、前記第1部分よりも前記主面に近い第
5部分をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至
11の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項13】
前記第1部分と前記第
5部分との間の前記絶縁層の表面は、前記主面に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である前記傾斜部とは別の傾斜部を含み、
前記別の傾斜部の上端は、前記第
5部分の上における前記電荷発生層の上面よりも前記主面から遠く、かつ、前記第
5部分の上における前記有機層の上面よりも前記主面に近いことを特徴とする請求項
12に記載の有機デバイス。
【請求項14】
前記第2電極と前記主面との間に、前記光学調整層よりも膜厚が薄い光学調整層が配されていることを特徴とする請求項
12または
13に記載の有機デバイス。
【請求項15】
前記第2電極と前記主面との間に、光学調整層が配されないことを特徴とする請求項
12または
13に記載の有機デバイス。
【請求項16】
前記複数の機能層が、発光層または光電変換層を含むことを特徴とする請求項1乃至
15の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項17】
前記複数の機能層が、発光層を含み、
前記第1電極および前記第2電極が、前記発光層が発する光を反射させるための光反射電極であり、前記第3電極が、前記発光層が発する光を透過させるための光透過電極であり、
前記第1電極および前記第2電極と、前記第3電極と、の間の距離Lが以下の式を満たし、
(λ/8)×(-(2φ/π)-1) < L < (λ/8)×(-(2φ/π)+1)
ここで、λは前記発光層が発する光の発光スペクトルの最大のピーク波長であり、φは前記第1電極および前記第2電極における位相シフトであることを特徴とする請求項1乃至
15の何れか1項に記載の有機デバイス。
【請求項18】
請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスと、前記有機デバイスに接続されている能動素子と、を有することを特徴とする表示装置。
【請求項19】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、画像を表示する表示部と、を有し、
前記表示部は、前記撮像素子が撮像した画像を表示する表示部であり、かつ、請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする光電変換装置。
【請求項20】
表示部が設けられた筐体と、前記筐体に設けられ、外部と通信する通信部と、を有し、
前記表示部は、請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする電子機器。
【請求項21】
光源と、光拡散部および光学フィルムの少なくとも一方と、を有する照明装置であって、
前記光源は、請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする照明装置。
【請求項22】
請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスと、前記有機デバイスを保護する保護部材と、を有することを特徴とする移動体用の灯具。
【請求項23】
機体と、前記機体に設けられている灯具を有し、
前記灯具は、請求項1乃至
17の何れか1項に記載の有機デバイスを有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機デバイス、表示装置、光電変換装置、電子機器、照明装置、移動体用の灯具および移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
発光や光電変換を行う有機層を含む発光素子や光電変換素子を備える有機デバイスが注目されている。特許文献1には、有機層として複数の発光ユニットを積層したタンデム素子を備える発光装置が示されている。タンデム素子は、発光効率の向上に有利である反面、導電性が高い中間層を介して隣り合う素子間で電流がリークし発光してしまうクロストーク現象が起こりやすい。特許文献1には、クロストーク現象を抑制するために、それぞれの下部電極の間に位置する隔壁に凹みを設けることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機デバイスの効率向上や解像度の向上のために、素子間のリークのさらなる抑制が必要である。
【0005】
本発明は、有機デバイスにおいて、素子間のリークの抑制に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みて、本発明の実施形態に係る有機デバイスは、基板と、前記基板の主面の上に配された第1電極および第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配された第1部分および前記第1電極の外縁部を覆うように配された第2部分を含む絶縁層と、前記第1電極、前記第2電極および前記絶縁層の上に配された有機層と、前記有機層の上に配された第3電極と、を含む有機デバイスであって、前記有機層は、複数の機能層と前記複数の機能層の間に配される電荷発生層とを含み、前記第1電極は、前記絶縁層に覆われていない第3部分を含み、前記第2部分のうち前記主面から最も離れた頂部と、前記第1部分と、の間の前記絶縁層の表面は、前記主面に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である傾斜部を含み、前記傾斜部の上端が、前記第1部分の上における前記電荷発生層の上面よりも前記主面から遠く、かつ、前記第1部分の上における前記有機層の第4部分の上面よりも前記主面に近く、前記第4部分の上面は、前記第1部分の上における前記有機層の上面のうち前記主面に最も近い部分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機デバイスにおいて、素子間のリークの抑制に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る有機デバイスの構成例を示す断面図。
【
図3】
図1の有機デバイスの構成例を示す断面の拡大図。
【
図4】
図1の有機デバイスの画素間のリーク電流を説明する図。
【
図5】
図1の有機デバイスの構造と赤画素の色度との関係を示す図。
【
図6】
図1の有機デバイスの有機層の成膜をシミュレーションする際の各部材の配置を示す図。
【
図9】
図1の有機デバイスの有機層の層厚比率を示す図。
【
図10】
図1の有機デバイスの実施例および比較例の評価結果を示す図。
【
図11】本実施形態の発光装置の構成例を示す断面図
【
図12】本実施形態の発光装置を用いた表示装置の一例を示す図。
【
図13】本実施形態の発光装置を用いた光電変換装置の一例を示す図。
【
図14】本実施形態の発光装置を用いた電子機器の一例を示す図。
【
図15】本実施形態の発光装置を用いた表示装置の一例を示す図。
【
図16】本実施形態の発光装置を用いた照明装置の一例を示す図。
【
図17】本実施形態の発光装置を用いた移動体の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
図1~17を参照して、本開示の実施形態による有機デバイスについて説明する。
図1は、本実施形態に係る有機デバイス100の構成例を示す断面図である。
図2は、有機デバイス100の一部の上面俯瞰図である。
図2のA-A’間の断面が、
図1に相当し、3つの発光素子10で1つの画素を構成する例を示す。本実施形態では、デルタ配列の画素の例を示すが、これに限られることはなく、ストライプ配列やスクエア配列であってもよい。
【0011】
本実施形態において、後述するように有機デバイス100は有機発光装置であってもよく、この場合、有機層は例えば発光層を含む。また、本実施形態にかかる有機デバイス100は、有機発光装置に限られるものではない。有機デバイス100は光電変換装置であってもよく、この場合、有機層は例えば光電変換層を含む。
【0012】
有機デバイス100は、基板1と基板1の上に配される複数の発光素子10とを含む。
図1には、有機デバイス100に含まれる複数の発光素子10のうち、3つの発光素子10R、10G、10Bが示されている。発光素子10Rにおける「R」は、赤色を発光する素子であることを示している。同様に発光素子10G、10Bはそれぞれ緑色、青色を発光することを示している。本明細書において、複数の発光素子10のうち特定の発光素子を示す場合、発光素子10「R」のように参照番号の後に添え字を追加し、複数の発光素子10の何れであってもよい場合、単に発光素子「10」と示す。他の構成要素についても同様である。
【0013】
有機デバイス100は、基板1と、基板1の主面12の上に配された複数の下部電極2と、下部電極2の間に配された部分3aおよび下部電極2の外縁部を覆うように配された部分3bを含む絶縁層3と、複数の下部電極2および絶縁層3の上に配された有機層4と、を含む。さらに、有機デバイス100は、有機層4の上に、有機層4を覆うように上部電極5が配される。下部電極2は、絶縁層3によって発光素子10ごとに分離される。
【0014】
ここで、有機デバイス100が発光装置である場合について、より詳細に説明する。本実施形態において、有機デバイス100は、上部電極5から光を取り出すトップエミッション型デバイスである。したがって、有機層4は、機能層として発光層を有する。また、有機デバイス100は、上部電極5を覆うように配された保護層6と、保護層6の上に複数の発光素子10のそれぞれと対応するように配された複数のカラーフィルタ7と、を含みうる。さらに、有機デバイス100は、保護層6とカラーフィルタ7との間に、平坦化層8を有していてもよい。ここでは、有機デバイス100が発光装置の場合を示すが、有機デバイス100が光電変換装置の場合、有機層4は、機能層として光電変換層を有する。
【0015】
本実施形態において、有機層4は、白色発光し、カラーフィルタ7B、7G、7Rは、有機層4から発せられる白色光から、RGBそれぞれの光を分離する。カラーフィルタは有機層4から発せられた光を吸収して他の色に変換する色変換層であってもよい。
【0016】
本明細書において、「上」「下」とは、
図1における上下を指す。したがって、下部電極2の基板1の側の面を、下部電極2の「下面」と呼び、下部電極2の有機層4の側の面を「上面」と呼ぶ。ここで、下部電極2の下面とは、基板1の最上面の層間絶縁層と接する面を指す。例えば、下部電極2の下面に他の配線パターンと接続するためのプラグなどが接続されている場合、その部分を除いた略平面の部分を下部電極2の下面とする。
【0017】
図1において、図示しないが、基板1は、下部電極2に接続されているトランジスタを含む駆動回路や配線、プラグ、層間絶縁層などを含んでいてもよく、最上面(下部電極2と接する面)には、層間絶縁層を有する。層間絶縁層は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンなどの無機物によって構成されていてもよく、また、ポリイミド、ポリアクリルなどの有機物によって構成されていてもよい。機能層などの有機層4は、水分によって劣化する場合があるため、水分侵入を抑制する観点から、層間絶縁層は、無機材料で形成されていてもよい。層間絶縁層は、下部電極2を形成する面の凹凸を軽減する目的から平坦化層と呼ばれることもある。
【0018】
下部電極2は、有機層4の発光波長に対する反射率が80%以上の金属材料が用いられてもよい。例えば、AlやAgなどの金属や、これらの金属にSi、Cu、Ni、Ndなどを添加した合金が、下部電極2に使用されうる。ここで、発光波長とは、有機層4から出射する光のスペクトル範囲のことを指す。下部電極2の有機層4の発光波長に対する反射率が高ければ、下部電極2は、バリア層を含む積層構造としてもよい。バリア層の材料としては、Ti、W、Mo、Auなどの金属やその合金が用いられてもよい。バリア層は、下部電極2の上面に配される金属層であってもよい。
【0019】
絶縁層3は、下部電極2の外縁部を覆い、下部電極2と有機層4との間に配されていてもよい。また、下部電極2は、絶縁層3に覆われている部分(第1領域)と、絶縁層3に覆われず、有機層4に覆われている部分(第2領域)を有していてもよい。第2領域は、有機層4のうち、本実施形態において有機層41に接しているといってもよい(
図3を用いて後述する)。第2領域は、下部電極2の上面に対する正射影において、絶縁層3の開口部と重なる。第2領域は、それぞれの発光素子10の発光領域となる。
【0020】
すなわち、発光素子10の発光領域の上面俯瞰の形状は、絶縁層3の開口によって規定される形状であってもよい。絶縁層3は、各発光素子10の下部電極2を電気的に分離する機能および発光素子10の発光領域を規定する機能を有していればよく、
図1、2に示されるような形状に限られることはない。
【0021】
絶縁層3は、例えば、化学気相堆積法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)などで形成されうる。絶縁層3は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化シリコン酸化物などで構成されていてもよい。また、絶縁層3は、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化シリコンなどの積層膜であってもよい。
【0022】
絶縁層3の部分3bなどの表面の傾斜角は、例えば、異方性エッチングや等方性エッチングなどの条件によって制御される。また、絶縁層3の直下の層の傾斜角を制御することで、絶縁層3の部分3bなどの表面の傾斜角を制御してもよい。例えば、基板1の最上面の層間絶縁層に傾斜した側面を有する凹部を形成し、その傾斜の角度を調整することで、絶縁層3の傾斜角を調整することができる。絶縁層3は、エッチングなどによる加工や、層の積み増しなどによって、上面に凹凸を有していてもよい。絶縁層3の形状については、
図3を用いて後述する。
【0023】
有機層4は、下部電極2および絶縁層3と上部電極5との間に配されている。有機層4は、基板1の上に連続的に形成され、複数の発光素子10によって共有されていてもよい。すなわち、1つの有機層4を複数の発光素子10が共有していてもよい。有機層4は、発光装置である有機デバイス100の画像を表示する表示領域の全面において、一体的に形成されていてもよい。
【0024】
有機層4は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を含んでいてもよい。有機層4は、発光効率、駆動寿命、光学干渉といった観点からそれぞれ適切な材料を選択することができる。正孔輸送層は、電子ブロック層や正孔注入層として機能してもよく、正孔注入層や正孔輸送層や電子ブロック層などの積層構造としてもよい。機能層である発光層は、異なる色を発光する発光層の積層構造でもよく、異なる色を発光する発光ドーパントを混合した混合層でもよい。また、電子輸送層は、正孔ブロック層や電子注入層として機能してもよく、電子注入層や電子輸送層や正孔ブロック層の積層構造としてもよい。
【0025】
また、有機層4は複数の機能層(発光層)と複数の機能層間に配される中間層とを有していてもよく、有機デバイス100は、中間層が電荷発生層であるタンデム構造の発光装置であってもよい。タンデム構造は、電荷発生層と発光層との間に正孔輸送層や電子輸送層などの電荷輸送層を形成してもよい。
【0026】
電荷発生層は、電子供与性の材料と電子受容性の材料を含み電荷を発生する層である。電子供与性の材料と電子受容性の材料とは、それぞれ、電子を与える材料およびその電子を受け取る材料である。これによって、電荷発生層には正および負の電荷が発生するため、電荷発生層よりも上方および下方の層に、正または負の電荷を供給することができる。電子供与性の材料は、例えば、リチウム、セシウムなどのアルカリ金属であってもよい。また、電子供与性の材料は、例えば、フッ化リチウム、リチウム錯体、炭酸セシウム、セシウム錯体などであってもよい。この場合、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムのような還元性の材料と共に含まれることで、電子供与性を発現してもよい。電子受容性の材料は、例えば、酸化モリブデンのような無機物であってもよく、[ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル]のような有機物であってもよい。電子受容性の材料と電子供与性の材料は混合されていてもよいし、積層されていてもよい。
【0027】
上部電極5は、有機層4の上に配されている。上部電極5は、基板1の上に連続的に形成され、複数の発光素子10によって共有されていてもよい。有機層4と同様に、上部電極5は、発光装置である有機デバイス100の画像を表示する表示領域の全面において、一体的に形成されていてもよい。上部電極5は、有機層4の発光層が発する光を透過させるための光透過電極である。また、上部電極5は、上部電極5の下面に到達した光の少なくとも一部を透過する電極であってもよい。上部電極5は、一部の光を透過するとともに、他の一部を反射する(すなわち半透過反射性)半透過反射層として機能してもよい。
【0028】
上部電極5は、例えば、マグネシウムや銀などの金属、または、マグネシウムや銀を主成分とする合金、もしくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属を含んだ合金材料から形成されうる。また、上部電極5に、酸化物導電体などが用いられてもよい。また、上部電極5は、適当な透過率を有するならば、積層構造であってもよい。
【0029】
保護層6は、例えば、窒化シリコン、酸窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化シリコンおよび酸化チタンなど、外部からの酸素や水分の透過性が低い材料で構成することができる。窒化シリコン、酸窒化シリコンは、例えば、CVD法を用いて形成されてもよい。また、酸化アルミニウム、酸化シリコンおよび酸化チタンは、例えば、原子層堆積法(ALD法)を用いて形成することができる。
【0030】
保護層6の構成材料および製造方法の組み合わせは、上記の例示に限定されないが、形成する層厚、形成に要する時間などを考慮して適宜選択される。保護層6は、上部電極5を透過した光を透過し、十分な水分遮断性能があれば、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよい。
【0031】
カラーフィルタ7は、保護層6の上に形成される。
図1に示されるカラーフィルタ7Rとカラーフィルタ7Gとのように、隙間なく接してもよい。また、カラーフィルタが他の色のカラーフィルタの上に重なるように配されていてもよい。
【0032】
本実施形態において、保護層6とカラーフィルタ7との間には、平坦化層8が配される。平坦化層8は、例えば、ポリイミド、ポリアクリルなどの有機物によって構成されていてもよい。また、無機物や有機物を用いた積層構造であってもよい。
【0033】
次に、本実施形態の有機デバイスの絶縁層3と有機層4との関係について
図3を用いて説明する。
図3は、
図1の点線で囲まれた領域Bを拡大した図である。複数の下部電極2のうち互いに隣り合って配された2つの下部電極2(第1電極および第2電極)の間に配された絶縁層3が示されている。
【0034】
図3に示される構成において、下部電極2の上面は、絶縁層3に覆われていない部分21を含み、絶縁層3の部分3aは、2つの下部電極2の間に配された部分33を含む。部分21、33は、主面12に平行な面に対する角度が0°の部分であってもよい。つまり、部分21、33は、主面12に略平行な部分でありうる。絶縁層3の部分33は、
図3に示されるように、平坦な部分でありうる。また、絶縁層3の部分33は、互いに隣接する下部電極2の間隔が狭い場合、傾斜が下降から上昇に切り替わる部分でありうる。
【0035】
ここで、絶縁層3の部分3bうち主面12から最も離れた部分を頂部315と呼ぶ。頂部315は、
図3に示されるように、平坦であってもよいし、傾斜が上昇から下降に切り替わる部分であってもよい。
【0036】
次に、頂部315と下部電極2の上面の部分21との間の絶縁層3の表面31に注目する。頂部315と部分21との間の絶縁層3の表面31は、基板1の主面12に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である傾斜部312を含む。また、この傾斜部312の基板1の主面12に平行な面に対する角度は、50°よりも大きく、かつ、90°以下であってもよい。傾斜部312は、
図3に示されるような一定の角度であってもよいし、連続的または段階的に角度が変化してもよい。傾斜部312は、表面31のうち基板1の主面12に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満の範囲に収まる部分である。つまり、傾斜部312は、下部電極2の上面の部分21に対して逆テーパ形状であってもよい。
【0037】
有機層4は、上述のタンデム構造を備える。つまり、有機層4は、複数の機能層と複数の機能層の間に配される電荷発生層42とを含む。有機層4には、電荷発生層42よりも基板1に近い側に機能層として発光層を含む有機層41と、電荷発生層42よりも基板1から遠い側に機能層として発光層を含む有機層43と、が配されている。
【0038】
本実施形態において、電荷発生層42の上面Hの基板1の主面12からの距離と、絶縁層3の表面31の傾斜部312上端Fの主面12からの距離と、は以下の関係を満たす。
電荷発生層42の上面H < 絶縁層3の傾斜部312の上端F・・・(1)
つまり、絶縁層3の表面31の傾斜部312の上端Fが、下部電極2の上面の部分21の上における電荷発生層42の上面Hよりも基板1の主面12から遠い。
【0039】
これによって、電荷発生層42のうち傾斜部312に沿った部分において、電荷発生層42の膜厚を薄くすることができる。電荷発生層42のうち薄膜化した部分は高抵抗となるため、導電性の電荷発生層42を電荷が伝導して生じる、発光素子10間(下部電極2間)のリーク電流を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態において、有機層4の上面Eの基板1の主面12からの距離と、絶縁層3の傾斜部312の上端Fの基板1の主面12からの距離と、は以下の関係を満たす。
有機層4の上面E > 絶縁層3の傾斜部312の上端F・・・(2)
つまり、絶縁層3の表面31の傾斜部312の上端Fが、下部電極2の上面の部分21の上における有機層4の上面Eよりも基板1の主面12に近い。
【0041】
これによって、傾斜部312が有機層4に埋め込まれるため、有機層4のうち傾斜部312に沿う部分の膜厚が薄くなり難くなる。結果として、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流を抑制することができる。
【0042】
有機層4は、電荷発生層42を含む複数の電荷発生層を含んでいてもよい。この場合、絶縁層3の表面31の傾斜部312の上端Fが、下部電極2の上面の部分21の上における電荷発生層42を含む複数の電荷発生層のいずれの上面よりも基板1の主面12から遠くてもよい。これによって、隣り合う発光素子10間(下部電極2間)のリーク電流の抑制効果を大きくすることができる。
【0043】
図3に示されるように、有機層43は、電荷輸送層431と有機層432とを含む。電荷輸送層431は、電荷発生層42と上部電極5との間に配されている。有機層432は、電荷輸送層431の上面に接して発光層を備える。これによって、電荷発生層42で発生した電荷が、電荷輸送層431を介して効率的に有機層432に配された発光層に流れ、高発光効率を実現することができる。
【0044】
このとき、
図3に示される構成において、電荷発生層42の上面に接する電荷輸送層431の上面Gの基板1の主面からの距離と、絶縁層3の傾斜部312の上端Fの基板1の主面12からの距離と、は以下の関係を満たしていてもよい。
電荷輸送層431の上面G < 絶縁層3の傾斜部312の上端F・・・(3)
つまり、絶縁層3の表面31の傾斜部312の上端Fが、下部電極2の上面の部分21の上における電荷輸送層431の上面Gよりも基板1の主面12から遠くてもよい。
【0045】
これによって、電荷輸送層431のうち傾斜部312に沿った部分の膜厚も薄くできるため、電荷発生層42で発生した電荷が、電荷輸送層431を流れて生じる発光素子10間(下部電極2間)のリーク電流も抑制することができる。電荷輸送層431は、一般的に発光素子10間(下部電極2間)方向の電荷輸送性も高いため、傾斜部312の上端Fを電荷輸送層431の上面Gよりも高い位置にすることによって、発光素子10間(下部電極2間)のリーク電流の抑制効果が大きくなる。
【0046】
電荷輸送層431は、正孔輸送層であってもよい。電子輸送層よりも、正孔輸送層の移動度が高い場合、発光素子10(下部電極2)間のリーク電流が流れやすくなるため、本実施形態の効果をより大きく享受できる。
【0047】
また、絶縁層3の頂部315と下部電極2の部分21との間の絶縁層3の表面31が、基板1の主面12に平行な面に対する角度が0°以上、かつ、50°以下である緩傾斜部313をさらに含んでいてもよい。
図3に示されるように、緩傾斜部313が、頂部315と傾斜部312との間に配されていてもよい。これによって、有機層4のうち絶縁層3の表面31に沿って膜厚が薄くなる部分ができ難くなる。よって、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流を抑制することができる。傾斜部312および緩傾斜部313は、例えば、絶縁層3をとなる材料膜を成膜した後に等方性エッチングと異方性エッチングとを組み合わせることで形成することができる。
【0048】
また、ここまで、絶縁層3の頂部315と下部電極2の部分21との間の表面31における傾斜部312の上端Fの位置について説明した。しかしながら、これに限らず、絶縁層3の頂部315と絶縁層3の部分33との間の表面32についても同様の関係があってもよい。つまり、絶縁層3のうち主面12から最も離れた頂部315と、部分33および下部電極2のうち絶縁層3に覆われていない部分21のうち少なくとも一方の部分と、の間の絶縁層3の表面31、32は、主面12に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である傾斜部312、322を含んでいてもよい。また、傾斜部312、322の主面12に平行な面に対する角度が、50°よりも大きく、かつ、90°以下であってもよい。
【0049】
より具体的には、頂部315と絶縁層3の部分33との間の絶縁層3の表面32は、基板1の主面12に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満である傾斜部322を含む。このとき、絶縁層3の表面32の傾斜部322の上端が、絶縁層3の部分33の上における有機層4の上面よりも基板1の主面12に近くてもよい。また、絶縁層3の表面32の傾斜部322の上端が、絶縁層3の部分33の上における有機層4の上面よりも基板1の主面12に近くてもよい。つまり、上記の式(1)、式(2)の関係を満たしていてもよい。さらに、絶縁層3の表面32の傾斜部322の上端が、絶縁層3の部分33の上における電荷輸送層431の上面よりも基板1の主面12から遠くてもよい。つまり、上記の式(3)の関係を満たしていてもよい。
【0050】
さらに、絶縁層3の表面32は、基板1の主面12に平行な面に対する角度が0°以上、かつ、50°以下である緩傾斜部321をさらに含んでいてもよい。緩傾斜部321は、一定の角度であってもよいし、連続的または段階的に角度が変化してもよい。緩傾斜部312は、表面31のうち基板1の主面12に平行な面に対する角度が0°以上、かつ、50°以下の範囲に収まる部分である。この場合、
図3に示されるように、緩傾斜部321が、頂部315と傾斜部322との間に配されていてもよい。また、緩傾斜部321のうち基板の主面12から最も離れた部分が、頂部315と呼ばれうる。
【0051】
また、
図3では、下部電極2の上部の部分21と絶縁層3の部分33とが、ほぼ同じ高さに描かれているが、これに限られることはない。例えば、部分21が、部分33よりも基板1の主面12から遠い位置に配されていてもよい。
【0052】
次に、本実施形態の効果がより得られる構成について
図4および
図5を用いて説明する。
図4は、赤色カラーフィルタ7Rを有する発光素子10Rと緑色カラーフィルタ7Gを有する発光素子10Gとが形成された比較例の有機デバイスの模式図である。
図1~3に示される本実施形態の有機デバイス100と異なる点は、絶縁層3が下部電極2の外縁部を覆わず、下部電極2の間のみに配されている点である。
【0053】
図4には、発光素子10Rのリーク電流に関係する等価回路を重ねて記した。
図4の等価回路は、有機層4の抵抗などを示すものであり、電子回路が組み込まれるものではない。また、下部電極2の間のリーク電流を説明するために、発光素子10Gの等価回路も記載されている。
【0054】
下部電極2R、2Gの部分21R、21Gの上における有機層4の厚さをC、下部電極2Rのうち絶縁層3に覆われていない部分と下部電極2Gのうち絶縁層3に覆われていない部分との間の距離をDとする。また、有機層4の基板1の主面12に対して垂直方向(厚さ方向)における単位面積あたりの抵抗をrとする。
【0055】
下部電極2Rに電流を流す(点灯させる)ことによって発生するリーク電流を抑制する上述の効果は、有機層4の厚さCに対する距離Dの比(以下、D/C比と呼ぶ場合がある。)が50未満(D/C < 50)のときに、より得られる。有機層4の厚さCに対する距離DのD/C比が小さいほど、有機層4の厚さDに対する発光素子10の下部電極2と有機層4とが接する発光領域の間の距離が小さい。すなわち、このD/C比の値が小さいほど、発光素子10が高精細に配列された有機デバイスであり、下部電極2の間のリーク電流が問題となりやすい。その根拠を以下に説明する。
【0056】
図4の比較例の有機デバイスにおいて、有機層4の下部電極2の下面に平行な方向における単位面積あたりの抵抗は、r(D/C)となる。ここから、発光素子10Rに流れる電流をI
R、発光素子10Rに電流I
Rを流すことによって発光素子10Gに生じるリーク電流をI
Gとすると、以下の関係が成り立つ。
I
G/I
R=1/(1+D/C)・・・(4)
【0057】
式(4)より、発光素子10Rに流れる電流IRと発光素子10Gに生じるリーク電流IGは、有機層4の厚みCおよび距離Dを係数として比例関係を有することがわかる。つまり、赤色発光素子10Rのみを発光(矢印9R)させようとしても、緑色発光素子10Gにも電流が流れ発光(矢印9G)してしまう。さらに、この場合のリーク電流IGが、D/C比に依存するということである。
【0058】
同じ電流量で発光させた際の、赤色発光素子10Rのみの発光スペクトルをSR、緑色発光素子10Gのみの発光スペクトルをSG、とした場合、下部電極2の間のリーク電流を考慮した発光スペクトルSR+Gは、以下の式(5)にて示される。
SR+G=SR+SG(IG/IR)・・・(5)
【0059】
発光スペクトルS
R+GのCIExy空間における色度座標を算出しx座標の値を縦軸、比D/Cを横軸としたグラフを
図5に示す。
図5において、x座標値が変化するということは、赤発光を意図しているにも関わらず、緑色も発光されていることを意味する。すなわち、
図5において、x座標値が低いことは、発光素子10Rに隣り合って配された発光素子10Gへのリーク電流が発生していることを示している。
図5に示されるように、D/C比が50以上の場合、x座標値がほとんど変化しない。つまり、絶縁層3が下部電極2の外縁部を覆っていない下部電極2の間のリーク電流が起こりやすい場合であっても、D/C比が50以上の場合、下部電極2の間のリーク電流が課題とならない可能性があることがわかる。
【0060】
一方、D/C比が50未満の場合、x座標値が大きく低下しており、赤色の色純度の低下が顕著となっており、下部電極2の間のリーク電流が、色純度に影響を与えていることがわかる。すなわち、D/C比が50未満の場合、発光素子10が配列される密度が高いため、下部電極2の間のリーク電流の有機デバイス100への影響が顕著となる。したがって、
図3に示すような絶縁層3の表面31、32が傾斜部312、322を備える構造は、D/C比が50未満の場合、下部電極2の間のリーク電流抑制の効果が特に高くなりうる。
【0061】
次いで、発光素子10の光干渉を考慮した構造について説明する。本実施形態における有機デバイス100の上部電極5と下部電極2との間の光学距離は、強め合わせの干渉構造となっていてもよい。強め合わせの干渉構造は、共振構造ということもできる。
【0062】
発光素子10において、強め合わせの光学干渉条件を満たすように有機層4に含まれる複数の層を形成することで、光学干渉によって有機デバイス100からの取り出し光を強めることができる。正面方向の取り出し光を強める光学条件とすれば、より高効率に正面方向(
図1、3において上方向)に光が放射される。また、光学干渉により強められた光は、発光スペクトルの半値幅が、干渉前の発光スペクトルに比べて小さくなることが知られている。すなわち、色純度を高くすることができる。
【0063】
波長λの光に対して設計した場合、発光層の発光位置から光反射材料(下部電極2)の反射面までの距離d0をd0=iλ/4n0(i=1,3,5,・・・)に調整することで強め合わせの干渉とすることができる。結果として、波長λの光の放射分布に正面方向の成分が多くなり、正面輝度が向上する。なお、n0は、発光位置から反射面までの層の波長λにおける屈折率である。
【0064】
発光位置から下部電極2の反射面までの間の光学距離Lrは、反射面での波長λの光が反射する際の位相シフト量の和をφr[rad]とすると、以下の式(6)で示される。なお、光学距離Lは、有機層4の各層の屈折率njと各層の厚さdjの積の総和である。つまり、Lは、Σnj×djと表せ、またn0×d0とも表せられる。なお、φは負の値である。
Lr=(2m-(φr/π))×(λ/4)・・・(6)
式(6)中、mは0以上の整数である。なお、φ=-πにおいて、m=0ではL=λ/4、m=1ではL=3λ/4となる。以後、式(6)のm=0の条件をλ/4の干渉条件と、式(6)のm=1の条件を3λ/4の干渉条件と記載する。
【0065】
発光位置から光取出し電極(上部電極5)の反射面までの間の光学距離Lsは、反射面での波長λの光が反射する際の位相シフトの和をφs[rad]とすると、以下の式(7)で示される。式(7)中、m’は0以上の整数である。
Ls=(2m’-(φs/π))×(λ/4)=-(φs/π)×(λ/4)・・・(7)
【0066】
したがって、全層干渉Lは、以下の式(8)の通りである。
L=(Lr+Ls)=(2m-(φ/π))×(λ/4)・・・(8)
ここで、φは波長λの光が該光反射電極と該光取出し電極で反射する際の位相シフトの和(φr+φs)である。
【0067】
この場合、実際の発光素子10では、正面の光取り出し効率とトレードオフの関係にある視野角特性などを考慮すると、上記の式と厳密に一致させなくてもよい。具体的には、Lが式(8)を満たす値から±λ/8の値の範囲内の誤差があってもよい。Lの値が干渉条件から離れてもよい許容値は、50nm以上75nm以下であってもよい。
【0068】
よって、本発明に係る有機発光装置において、以下の式(9)を満たしていてもよい。さらに、Lが式(8)を満たす値から±λ/16の値の範囲内であればよく、以下の式(9’)を満たしていてもよい。
(λ/8)×(4m-(2φ/π)-1)<L<(λ/8)×(4m-(2φ/π)+1)・・・(9)
(λ/16)×(8m-(4φ/π)-1)<L<(λ/16)×(8m-(4φ/π)+1)・・・(9’)
【0069】
発光素子10は、式(9)、式(9’)において、m=0、かつ、m’=0、つまりλ/4の干渉条件であってもよい。その場合、式(9)、式(9’)は、式(10)、式(10’)のように表される。
(λ/8)×(-(2φ/π)-1)<L<(λ/8)×(-(2φ/π)+1)・・・(10)
(λ/16)×(-(4φ/π)-1)<L<(λ/16)×(-(4φ/π)+1)・・・(10’)
【0070】
式(9)、式(9’)において、m=0、m’=0である場合、強め合わせの干渉構造の中で有機層4の膜厚が、最も薄くなる。これによって、発光素子10の駆動電圧が低くなり、電源電圧の上限の範囲内で、発光素子10は、より高輝度の発光が可能となる。有機層4が薄くなる場合、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流が発生しやすくなる。したがって、安易に絶縁層3の傾斜を利用して有機層4を薄膜化することができない。これに対して、上述の式(1)、式(2)を満たすことによって、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流を抑制しながら、下部電極2の間のリーク電流を抑制することができる。さらに、上述の式(3)を満たすことによって、さらに下部電極2の間のリーク電流を抑制することができる。
【0071】
ここで、発光波長λは、有機層4の発光層が発する光の発光スペクトルの最大のピーク波長であってもよい。有機化合物の発光においては、発光スペクトルのうち波長が短い側のピークが、最大の発光であることが一般的でありうる。このため、最大のピーク波長は、例えば、発光スペクトルのうち波長が最も短い側のピークの波長であってもよい。
【0072】
また、有機層4の、下部電極2と接する部分における下部電極2の上面(例えば、部分21)に垂直な方向の厚みは、100nm未満であってもよい。これによって、有機デバイス100の駆動電圧を低電圧化しやすくなる。また、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流の抑制を行いながら、下部電極2の間のリーク電流を抑制する、本実施形態の効果が大きくなる。
【0073】
本実施形態において、傾斜部312の傾斜角(基板1の主面12に平行な面に対する角度)が、50°よりも大きく、かつ、180°未満の範囲である。傾斜角が50°よりも大きい場合、傾斜部312に沿った有機層4の領域の厚みが薄くなりやすく、傾斜角が50°以下の場合、傾斜部312に沿った有機層4の厚みが薄くなり難いためである。この傾斜角と有機層4との関係を裏付けるために、蒸着法による成膜シミュレーションを実施した。
図6は、蒸着シミュレーションの際の各部材の配置図である。蒸着源201、基板1、基板1に配された発光素子10の位置を
図7のように設定し、R=200mm、r=95mm、h=340mmとした。また、以下の式(11)で表す、蒸着分布のn=2とした。
φ=φ
0cos
nα・・・(11)
ここで、αは角度、φは角度αにおける蒸気流密度、φ
0はα=0における蒸気流密度である。また、基板1は基板の中心で回転することを前提とした。
【0074】
基板1上の発光素子10の位置に傾斜角0°~90°の傾斜部がある場合を仮定し、傾斜角0°における有機層4の層厚を76nmとした際の、各傾斜角における、傾斜部に沿った有機層4の層厚を計算した。
図7に、成膜シミュレーションの結果を示す。グラフの屈曲点が、50°となっていることが分かる。
【0075】
したがって、傾斜部312、322の基板1の主面12に平行な面に対する角度を50°よりも大きくすることによって、電荷発生層42や電荷輸送層431の厚みを薄化することができ、互いに隣り合う下部電極2の間のリーク電流を効果的に抑制することができる。また、傾斜部312の傾斜角を50°よりも大きく、かつ、90°以下の範囲で調整することで、有機層4、電荷発生層42、電荷輸送層431のリーク電流低減に寄与する部分の膜厚を、適当な厚みに調整することができる。さらに、傾斜部312の傾斜角を90°よりも大きい逆テーパ形状にすることによって、電荷発生層42や電荷輸送層431の厚みを薄化することが可能となる。したがって、傾斜部312の傾斜角を50°よりも大きく、かつ、120°未満の範囲で調整してもよい。さらに、傾斜部312の傾斜角を50°よりも大きく、かつ、150°未満の範囲で調整してもよい。また、さらに、傾斜部312の傾斜角を50°よりも大きく、かつ、180°未満の範囲で調整してもよい。
【0076】
また、緩傾斜部313の傾斜角(基板1の主面12に平行な面に対する角度)を0°以上、かつ、50°以下とすることによって、有機層4の膜厚が薄くなりすぎるのを抑制できる。したがって、上部電極5と下部電極2の間のリーク電流を抑制しながら、下部電極2の間のリーク電流も低減することができる。
【0077】
図8は、
図1、3に示される有機デバイス100の変形例を示す断面図である。下部電極20(20R、20G、20B)と反射電極80(80R、80G、80B)とが、プラグ91を介して接続されている。互いに隣り合う発光素子10の下部電極20の間には、上述の絶縁層3が配され、反射電極80の間には、下部絶縁層81が配されている。下部絶縁層81は、反射電極80の間に凹部を備え、凹部の側壁間に側壁間絶縁層83が配される。側壁間絶縁層83の上面は、中間絶縁層82に覆われる。
【0078】
基板1の上に、反射電極80が配され、反射電極80と下部電極20との間に下部絶縁層81、中間絶縁層82が配されている。また、発光素子10Rが配される副画素では、中間絶縁層82と下部電極20Rとの間に光学調整層101Rが配され、発光素子10Gが配される副画素では、中間絶縁層82と下部電極20Gとの間に光学調整層101Gが配される。また、発光素子10Bが配される副画素では、中間絶縁層82と下部電極20Bとの間に光学調整層が配されていない。
図8に示される構成において、反射電極80が配される構成を示しているが、光学調整層101と基板1との間に配される光を反射する層は、電極の機能を有していなくてもよい。
【0079】
図8に示される構成において、光学調整層101Rと光学調整層101Gとが、別の絶縁層であるように記載されているが、これに限られることはない。例えば、中間絶縁層82と下部電極20R、20Gとの間に共通の絶縁層が配され、共通の絶縁層と下部電極20Rとの間に別の絶縁層が配されていてもよい。
【0080】
光学調整層101は、例えば絶縁層であり、無機物であっても有機物であってもよい。例えば、有機層4への水分侵入抑制の観点から、光学調整層101は、無機物であってもよい。具体的には、例えば、光学調整層101は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコンなどや、これらの組み合わせを用いて形成することができる。
【0081】
発光素子10R、10Gにおいて、光学調整層101の上に下部電極20R、20Gが形成され、下部電極20の外縁部を覆うように絶縁層3が形成される。ここでは、絶縁層3は光学調整層101Rの端部や光学調整層101Gの端部を覆っていてもよい。
【0082】
反射電極80は、光反射性の電極であり、上述の下部電極2と同様な材料を用いることができる。下部絶縁層81、中間絶縁層82、光学調整層101は、光透過性の絶縁体であり、絶縁層3と同様な材料を用いることができる。下部電極20は、光透過性の導電体であり、ITO(酸化インジウムスズ)やIZO(酸化インジウム亜鉛)などの導電性酸化物などを用いることができる。
【0083】
本実施形態における有機デバイス100は、赤色発光素子10R、緑色発光素子10G、青色発光素子10Bの、光学干渉に関わる距離をそれぞれの発光素子で最適にすることができる。この他の構成は、
図1に示される有機デバイス100と同様の構成であってもよいため、個々では説明を省略する。
【0084】
発光素子10Rの絶縁層3の下部電極20Rの側について説明する。上述の下部電極2と絶縁層3との関係と同様に、下部電極20の上面には絶縁層3に覆われていない部分21Rが存在し、絶縁層3の表面31には傾斜部312Rが存在しうる。このとき、積層する有機層4のそれぞれと傾斜部312Rとの基板1の主面12からの距離の関係が、上述の式(1)、式(2)を満たしていてもよい。
【0085】
また、発光素子10Rの絶縁層3の下部電極とは反対の側の部分3aの側について説明する。上述の絶縁層3の部分3aの側の部分33と表面32との関係と同様に、絶縁層3の部分34Rと傾斜部325Rとが存在しうる。このとき、積層する有機層4のそれぞれと傾斜部325Rとの基板1の主面12からの距離の関係が、上述の式(1)、式(2)を満たしていてもよい。このとき、
図8に示されるように、下部電極20の上面の部分21Rが、絶縁層3の上面の部分34Rよりも基板1の主面12から遠い位置に配されていてもよい。
【0086】
さらに、発光素子10Rと発光素子10Gとの間に配された絶縁層3について説明する。発光素子10Rと発光素子10Gとの間に配された絶縁層3は、光学調整層101Rの上に配された部分34Rと下部電極20Gとの間に、部分34Rよりも基板1の主面12に近い部分33Rを含みうる。部分33Rは、基板1の主面12と略平行な平坦部でありうる。また、部分33Rは、部分34Rから下部電極20Gまでの間で、傾斜が下降から上昇に切り替わる部分でありうる。部分34Rと部分33Rとの間の絶縁層3の表面に配される傾斜部322Rと、についても、積層する有機層4のそれぞれと傾斜部322Rとの基板1の主面12からの距離の関係が、上述の式(1)、式(2)を満たしていてもよい。また、部分33Rと下部電極20Gとの間に配される絶縁層3の表面も、上述の式(1)、式(2)を満たしていてもよい。さらに、下部電極20Gと下部電極20Bとの間に配される絶縁層3についても、それぞれ上述の式(1)、式(2)を満たしていてもよい。
【0087】
これによって、発光素子10間のリーク電流と、上部電極5と下部電極20との間のリーク電流と、の抑制が両立しやすくなりうる。基板1の主面12に平行な面に対する角度が50°よりも大きく、かつ、180°未満の「急傾斜部(上述の傾斜部312、322に相当する。)」が、発光素子10間に2つ配されることによって、電荷発生層42の膜厚が薄く高抵抗となる場所が2か所となる。これによって、発光素子10間のリーク電流を抑制しやすくなる。また、2つの急傾斜部を用いる場合、1つの急傾斜部の高さを高くすることによって発光素子10間のリーク電流を抑制しようとする場合と異なり、有機層4の上端の高さ(主面12からの距離)よりも急傾斜部の高さを低くしやすいため、上部電極5と下部電極20との間のリーク電流を抑制しやすくなる。
【0088】
図1、3に示される構成において、層厚変化が光学干渉に関わる層は、下部電極2と上部電極5との間の有機層4に限定されていた。一方、
図8に示される構成では、層厚変化が光学干渉に関わる層は、有機層4に加えて、光反射性の反射電極80の直上の層から光透過性の下部電極20までの層も含まれる。したがって、有機層4の厚みを、薄く設定する必要がある。このため、絶縁層3の急傾斜部では、有機層4の厚みがより薄くなり、上部電極5と下部電極2との間にリーク電流が流れやすくなる。そのため、
図8の有機デバイス100は、リーク電流を抑制する効果を大きく享受できる。
【0089】
また、
図8に示されるように、各色の発光素子10ごとに有機層4よりも下方(基板1の側)の層の厚みを調節することによって光学干渉距離を最適とする有機デバイス100は、各発光素子10間において、有機層4の直下の層に大きな段差を有しやすい。そのため、本実施形態の有機デバイス100は、急傾斜部を備えることによる上述の効果を大きく享受できる。
【0090】
図8に示される構成において、下部電極2の上面と基板1の主面12との間の距離の差が最も大きい発光素子10間に、急傾斜部が配されていてもよい。例えば、
図8において、発光素子10Bの発光素子10Gとは反対側に発光素子10Rが配されうる。この発光素子10Bと発光素子10Rとの間の絶縁層3の表面と有機層4のそれぞれの層との関係が、上述の式(1)、式(2)の関係を満たしていてもよい。下部電極2の上面と基板1の主面12との距離の差が最も大きい発光素子10間は、有機層4が薄くなりやすいため、上述のリーク電流抑制の効果を大きく享受することができる。
【0091】
本実施形態において、発光材料のうち最も短波長の発光ピークを有する材料を有する発光層が、他の発光層に比べて基板1の側に配置されることが好ましい。これによって、光学設計の関係上、最も短波長の発光ピークを有する材料を有する発光層と反射電極80までの距離を小さくできるため、有機層4を薄くすることができる。これによって、発光素子10の駆動電圧が低くなり、電源電圧の上限の範囲内で、より高輝度の発光が可能となる。有機層4が薄くなる場合は、上部電極5と下部電極20との間のリーク電流が発生しやすくなる。したがって、安易に絶縁層3の傾斜を利用して有機層4を薄膜化することができない。しかしながら、上述の式(1)、式(2)、さらに式(3)の要件を満たすことによって、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流を抑制しながら、下部電極2間のリーク電流を十分に抑制することができる。
【0092】
次いで、本実施形態の有機デバイス100の実施例について説明する。
【0093】
まず、基板1の上に金属層を形成し、マスクパターンなどを用いて金属層の所望の領域をエッチングすることによって、下部電極2を形成した。次いで、絶縁層3を、下部電極2の外縁部を覆うように形成した。本実施例において、絶縁層3は酸化シリコンによって形成され、下部電極2の上面に垂直な方向における、下部電極2の上面での絶縁層3の膜厚は170nmとした。
【0094】
絶縁層3を形成した後、エッチングすることによって、下部電極2の上面の部分21が露出するように開口部を形成した。絶縁層3の形状は
図3に示されるように、傾斜部312、322および緩傾斜部313、321を有する形状であった。傾斜部312の基板1の主面12に平行な面に対する角度(傾斜角)は80°、緩傾斜部313は10°であった。傾斜部312の上端と、下部電極2の絶縁層3に覆われていない部分21と、の基板1の主面12からの距離の差は150nmであった。つまり、傾斜部312の上端は、下部電極2の部分21よりも150nm高い位置に配される。また、傾斜部322の傾斜角は80°、緩傾斜部324の傾斜角は10°であった。傾斜部322の上端と、絶縁層3の部分33と、の基板1の主面12からの距離の差は150nmであった。つまり、傾斜部322の上端は、絶縁層3の部分33よりも150nm高い位置に配される。
【0095】
本実施例において、画素は、
図2に示すように、各画素が六角形の形状をしたデルタ配列とした。また、互いに隣り合う下部電極2のうち絶縁層3に覆われていない部分(開口部)間の距離を1.4μm、互いに隣り合う下部電極2の間の距離を0.6μmとした。
【0096】
次いで、有機層4を形成した。有機層4は、正孔輸送層(正孔注入層、正孔輸送層、及び電子ブロック層の積層)、2層構成の発光層、及び電子輸送層(電子輸送層及び電子注入層の積層)をこの順で有する構成とした。まず、基板1の上に正孔注入層として下記の化合物1に示す材料を7nm成膜した。
【0097】
【0098】
次いで、正孔輸送層として、下記の化合物2に示す材料を5nm、電子ブロック層として下記の化合物3に示す材料を45nm成膜した。そして、1層目の発光層として、ホスト材料が下記に示す化合物4、発光ドーパントが下記に示す化合物6である発光層を形成した。発光ドーパントの重量比は1%となるように調整し、1層目の発光層の層厚は30nmとした。次に、電子輸送層として下記の化合物7を21nm成膜した。
【0099】
【0100】
次に、第1電荷発生層として、LiFを1nm、第2電荷発生層としてAlを2nm、第3電荷発生層として酸化モリブデン(MoO3)を10nm成膜した。
【0101】
次いで、正孔輸送層として、上記の化合物2に示す材料を5nm、電子ブロック層として上記の化合物3を15nm成膜した。
【0102】
次に、2層目の発光層として、ホスト材料が上記の化合物4、発光ドーパントが上記の化合物5である発光層を形成した。発光ドーパントの重量比は3%となるように調整し、2層目の発光層の層厚は10nmとした。2層構造の発光層の形成後、電子輸送層として下記の化合物7を30nm成膜し、さらに、電子注入層としてLiFを0.5nm成膜した。
【0103】
【0104】
有機層4の形成後、上部電極5としてMgとAgとの割合が1:1のMgAg合金を10nm成膜した。上部電極5の形成後、保護層6としてCVD法を用いて窒化シリコンを1.5μm成膜した。保護層6の形成後、平坦化層8およびカラーフィルタ7を形成した。
【0105】
有機層4の、下部電極2の部分21と接する部分の厚み181nm(各有機層の合計)に対する、互いに隣り合う2つの下部電極2のうち絶縁層3に覆われていない部分の間の距離1.4μmの比は、8であり、50未満であった。
【0106】
電荷発生層42の、部分21の上での部分21からの高さは121nmであった。また、部分21の上での、電荷発生層42の上面に接する電荷輸送層431の上面の部分21からの高さは141nmであった。また、部分33の上における有機層4の厚さ、電荷発生層42の上面および電荷輸送層431の上面のそれぞれ部分33からの高さは、部分21の上と同様であった。また、上述のように、傾斜部312の上端および傾斜部322の上端は、それぞれ部分21および部分33よりも150nm高い位置に配された。
【0107】
したがって、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における電荷発生層42の上面よりも基板1の主面12から遠かった。つまり、上述の式(1)の関係が、満たされている。また、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における有機層4の上面よりも基板1の主面12に近かった。つまり、上述の式(2)の関係が、満たされている。さらに、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における電荷輸送層431の上面よりも基板1の主面12から遠かった。つまり、上述の式(3)の関係が、満たされている。
【0108】
次いで、本実施例の有機デバイス100の特性について説明する。まずは、下部電極2の間のリーク電流に関する指標である、Ileak/Ioledの測定方法について、発光素子10Rを例示して説明する。
【0109】
互いに隣り合う発光素子10G画素および発光素子10Bを短絡(電位=0V、つまりショート)させた状態で、発光素子10Rを通電させた。このとき、発光素子10Rの下部電極2Rから発光素子10Rの上部電極5へ流れた電流をIoled、発光素子10Rの下部電極2Rから発光素子10Gまたは発光素子10Bの上部電極5へ流れた電流和をIleakとした。Ileakは、Ioledが0.1nA/pixelとなる電位の値で測定した。Ioledに対するIleakの比を、Ileak/Ioledとする。
【0110】
次に、上部電極5と下部電極2と間のリーク電流について説明する。発光素子10の発光閾値電圧が約2Vであるので、上部電極5と下部電極2の間のリーク電流が発生しない発光素子10は、例えば、上部電極5と下部電極2との間に1.5Vの電圧を印加しても電流が流れない。ところが、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流が発生する発光素子10においては、上部電極5と下部電極2との間に1.5Vの電圧を印加した場合、電流が流れる。そこで、発光素子10Rの上部電極5と下部電極2Rとの間に1.5Vの電圧を印加時の電流値を測定した。すなわち、1.5Vを印加した時に、流れる電流はリーク電流である。
【0111】
また、本実施例の有機デバイス100のそれぞれの層の膜厚を断面TEM像から測長した。測長箇所は、部分21に沿って形成された有機層4の全体、有機層41、電荷発生層42、電荷輸送層431である。また、有機層4の全体、有機層41、電荷発生層42、電荷輸送層431の、部分21から部分33までの間に形成された各層の最も薄い部分の層厚を測長した。また、有機層4、有機層41、電荷発生層42、電荷輸送層431のそれぞれに対して、部分21、33での層厚に対する、最も薄い部分での層厚の比率を層厚比率として算出した。
図9に結果が示されている。
【0112】
図9から、部分21、33において、傾斜部312、322の上端の高さである150nmよりも上面の高さが低い層は、層厚比率が小さくなりやすいことがわかる。また、部分21、33において、傾斜部312、322の上端の高さである150nmよりも上面の高さが高い層は、層厚比率が小さくなりにくいことがわかる。つまり、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流を抑制しながら、下部電極2間のリーク電流を抑制することができる。
【0113】
次いで、作製した比較例の有機デバイスについて説明する。傾斜部312の上端が部分21よりも70nm高い位置、傾斜部322の上端が部分33よりも70nm高い位置にそれぞれ配される以外、実施例1と同様の有機デバイスを作製し比較例1とした。また、傾斜部312の上端が部分21よりも200nm高い位置、傾斜部322の上端が部分33よりも200nm高い位置にそれぞれ配される以外、実施例1と同様の有機デバイスを作製し比較例2とした。
【0114】
図10に、実施例1、比較例1、比較例2の有機デバイスの評価結果をまとめた。
図10において、I
leak/I
oledが0.40以下であれば、リーク電流が抑制されていると評価し「A」と表記した。また、I
leak/I
oledが0.40より大きい場合は、リーク電流の抑制が不十分と評価し「B」と表記した。上部電極5と下部電極2との間に1.5Vを印加した際の電流は、10
-5nA/pixel以下の場合はリーク電流が抑制されていると評価し「A」と表記し、10
-5nA/pixelよりも大きい場合は、リーク電流の抑制が不十分と評価し「B」と表記した。
【0115】
図10より、実施例1の有機デバイスは、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における電荷発生層42の上面よりも基板1の主面12から遠く、かつ、それぞれ部分21、部分33の上における有機層4の上面よりも基板1の主面12に近い。このため、発光素子10(下部電極2)間のリーク電流と、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流と、がともに抑制され、良好な特性を有していることがわかる。
【0116】
一方、比較例1の有機デバイスは、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における電荷発生層42の上面よりも基板1の主面12に近い。このため、発光素子10(下部電極2)間のリーク電流の抑制が不十分になってしまったと考えられる。また、比較例2の有機デバイスは、傾斜部312、傾斜部322の上端が、それぞれ部分21、部分33の上における有機層4の上面よりも基板1の主面12から遠い。このため、上部電極5と下部電極2との間のリーク電流の抑制が不十分になってしまったと考えられる。
【0117】
ここで、発光素子10について説明する。発光素子10は、基板1の上に、陽極、有機化合物層、陰極を形成して設けられる。陰極の上には、保護層6、カラーフィルタ7などを設けてもよい。カラーフィルタ7を設ける場合は、保護層6とカラーフィルタ7との間に平坦化層8を設けてもよい。平坦化層8はアクリル樹脂などで構成することができる。
【0118】
上述の実施形態において、基板1としてシリコンなどの半導体基板を用いることを述べた。しかしながら、これに限られることはなく、基板1として、石英、ガラス、シリコンウエハ、樹脂、金属などが用いられてもよい。また、基板1上には、上述の実施形態のように、トランジスタなどのスイッチング素子や配線を備え、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、発光素子10の陽極と基板に形成されたトランジスタなどとの導通を確保するために、コンタクトホールを形成可能で、かつ、接続しない配線パターンとの絶縁を確保できれば、材料は問わない。例えば、ポリイミドなどの樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。
【0119】
電極は、一対の電極(上述の下部電極2、上部電極5)を用いることができる。一対の電極は、陽極と陰極であってもよい。発光素子10が発光する方向に電界を印加する場合に、電位が高い電極が陽極であり、他方が陰極である。また、発光素子10の発光層にホールを供給する電極が陽極であり、電子を供給する電極が陰極であるということもできる。
【0120】
陽極の構成材料として、仕事関数が大きい材料が用いられうる。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステンなどの金属単体やこれらを含む混合物、あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウムなどの金属酸化物が、陽極として使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性ポリマーも、陽極として使用できる。
【0121】
これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0122】
陽極を反射電極として用いる場合、例えば、クロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデン、またはこれらの合金、積層したものなどを用いることができる。また、陽極を透明電極として用いる場合には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物透明導電層などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。電極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0123】
一方、陰極の構成材料としては仕事関数の小さな材料が用いられうる。例えば、リチウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロムなどの金属単体、またはこれらを含む混合物が挙げられる。また、これら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム-銀、アルミニウム-リチウム、アルミニウム-マグネシウム、銀-銅、亜鉛-銀などが、陰極として使用できる。酸化錫インジウム(ITO)などの金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。陰極として、銀を用いてもよく、銀の凝集を低減するため、銀合金としてもよい。銀の凝集が低減できれば、合金の比率は問わない。例えば、銀と銀以外の材料との比が1:1であってもよい。
【0124】
陰極は、ITOなどの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子としてもよいし、アルミニウム(Al)などの反射電極を使用してボトムエミッション素子としてもよいし、特に限定されない。陰極の形成方法としては、特に限定されないが、直流および交流スパッタリング法などを用いると、膜のカバレッジがよく、抵抗を下げやすい。
【0125】
陰極の上に、保護層6を設けてもよい。例えば、陰極上に吸湿剤を設けたガラスを接着することによって、有機EL層などの発光層に対する水などの浸入を低減し、表示不良の発生を低減することができる。また、別の実施形態としては、陰極上に窒化ケイ素などのパッシベーション膜を設け、発光層に対する水などの浸入を低減してもよい。例えば、陰極を形成後に真空を破らずに別のチャンバーに搬送し、化学気相成長法(CVD法)で厚さ2μmの窒化ケイ素膜を形成することによって、保護層6としてもよい。CVD法の成膜の後で原子堆積法(ALD法)を用いた保護層6を設けてもよい。
【0126】
保護層6の上にカラーフィルタ7を設けてもよい。例えば、発光素子10のサイズを考慮したカラーフィルタ7を別の基板上に設け、カラーフィルタ7を設けた基板と発光素子10を設けた基板1と貼り合わせてもよいし、上述した保護層6上にフォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルタ7をパターニングしてもよい。カラーフィルタ7は、高分子で構成されていてもよい。
【0127】
カラーフィルタ7と保護層6との間に平坦化層8を有していてもよい。平坦化層8は有機化合物で構成されてもよく、低分子材料によって構成されても、高分子材料によって構成されてもよい。例えば、平坦化層8は、高分子の有機化合物によって形成されうる。
【0128】
平坦化層8は、カラーフィルタの上下に設けられてもよく、その構成材料は同じであってもよいし異なっていてもよい。具体的には、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂などがあげられる。
【0129】
平坦化層8の上に、対向基板を有していてもよい。対抗基板は、前述の基板と対応する位置に設けられるため、対向基板と呼ばれる。対向基板の構成材料は、前述の基板1と同じであってもよい。
【0130】
本開示の一実施形態に係る発光素子10を構成する有機層4(正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層など)は、以下に示す方法により形成される。有機層4は、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング法、プラズマなどを用いたドライプロセスを用いることができる。また、ドライプロセスに代えて、適当な溶媒に溶解させ、公知の塗布法(例えば、スピンコーティング法、ディッピング法、キャスト法、LB法、インクジェット法など)によって層を形成するウェットプロセスを用いることもできる。
【0131】
ここで真空蒸着法や溶液塗布法などによって有機層4を形成すると、結晶化などが起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で有機層4を成膜する場合、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0132】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0133】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマーまたは共重合体として一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を併用してもよい。
【0134】
次に、図面を参照しながら本実施形態に係る発光装置について説明する。
図11は、上述の発光素子10の一例である発光素子とこの発光素子に接続されるTFT素子とを有する有機デバイス100の一例である発光装置の断面模式図である。TFT素子は、能動素子の一例である。
【0135】
図11の有機デバイス100の一例である発光装置2310は、ガラス、シリコンなどの基板2311とその上部に絶縁層2312が設けられている。絶縁層2312の上には、TFT2318などの能動素子が配されており、TFT2318のゲート電極2313、ゲート絶縁膜2314、半導体層2315が配置されている。
図11に示されるTFT2318は、駆動回路のトランジスタの一例である。TFT2318は、他にも半導体層2315とドレイン電極2316とソース電極2317とを含み構成されている。TFT2318の上部には絶縁膜2319が設けられている。絶縁膜2319に設けられたコンタクトホール2320を介して発光素子を構成する陽極2321とソース電極2317とが接続されている。
【0136】
なお、発光素子に含まれる電極(陽極、陰極)とTFTに含まれる電極(ソース電極、ドレイン電極)との電気接続の方式は、
図11に示される態様に限られるものではない。つまり、陽極または陰極のうちいずれか一方と、TFT2318のソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが電気接続されていればよい。TFTは、薄膜トランジスタを指す。
【0137】
図11の発光装置2310では有機層2322を1つの層の如く図示をしているが、有機層2322は、複数層であってもよい。陰極2323の上には発光素子の劣化を低減するための保護層2324や保護層2325が設けられている。
【0138】
図11の発光装置2310ではスイッチング素子としてトランジスタを使用しているが、これに代えて他のスイッチング素子として用いてもよい。
【0139】
また、
図11の発光装置2310に使用されるトランジスタは、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタに限らず、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタでもよい。活性層として、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコン、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物などの非単結晶酸化物半導体が挙げられる。なお、薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0140】
図11の発光装置2310に含まれるトランジスタは、Si基板などの基板内に形成されていてもよい。ここで基板内に形成されるとは、Si基板などの基板自体を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板とトランジスタとが一体に形成されていると見ることもできる。
【0141】
本実施形態に係る発光素子10はスイッチング素子の一例であるTFTにより発光輝度が制御され、発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。なお、本実施形態に係るスイッチング素子は、TFTに限られず、低温ポリシリコンで形成されているトランジスタ、Si基板などの基板上に形成されたアクティブマトリクスドライバーであってもよい。基板上とは、その基板内ということもできる。基板内にトランジスタを設けるか、TFTを用いるかは、表示部の大きさによって選択され、例えば0.5インチ程度の大きさであれば、Si基板上に有機発光素子を設けてもよい。
【0142】
ここで、上述の各実施形態の有機デバイス100を表示装置、光電変換装置、電子機器、照明装置、移動体に適用した応用例について
図12~17を用いて説明する。つまり、上述の有機層4が、発光層を含む場合の有機デバイスの応用例について説明する。他にも、有機デバイス100には、電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、白色光源にカラーフィルタを有する発光装置などの用途がある。表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された情報を処理する情報処理部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。また、カメラやインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は、赤外線方式でも、静電容量方式でも、抵抗膜方式であっても、電磁誘導方式であってもよく、特に限定されない。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0143】
図11は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の一例を表す模式図である。表示装置2400は、上部カバー2401と、下部カバー2409と、の間に、タッチパネル2403、表示パネル2405、フレーム2406、回路基板2407、バッテリー2408を有していてもよい。タッチパネル2403および表示パネル2405は、フレキシブルプリント回路FPC2402、2404が接続されている。回路基板2407には、トランジスタなどの能動素子が配される。バッテリー2408は、表示装置2400が携帯機器でなければ、設けなくてもよいし、携帯機器であっても、この位置に設ける必要はない。表示パネル2405に、有機層4の発光層が有機ELなどの有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。表示パネル2405として機能する有機デバイス100は、回路基板2407に配されたトランジスタなどの能動素子と接続され動作する。
【0144】
図12に示される表示装置2400は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光し電気信号に光電変換する光電変換素子とを有する光電変換装置(撮像装置)の表示部に用いられてもよい。光電変換装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してもよい。また、表示部は、光電変換装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。光電変換装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってもよい。また、光電変換装置の光電変換素子として、有機層4の機能層が光電変換層を含む本実施形態の有機デバイス100が用いられてもよい。
【0145】
図13は、本実施形態の有機デバイス100を用いた光電変換装置の一例を表す模式図である。光電変換装置2500は、ビューファインダ2501、背面ディスプレイ2502、操作部2503、筐体2504を有していてもよい。光電変換装置2500は、撮像装置とも呼ばれうる。表示部であるビューファインダ2501に、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。この場合、有機デバイス100は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示などを表示してもよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性などであってもよい。
【0146】
撮像に適するタイミングはわずかな時間である場合が多いため、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、上述の有機層4の発光層が有機発光材料を含む有機デバイス100がビューファインダ2501に用いられうる。有機発光材料は応答速度が速いためである。有機発光材料を用いた有機デバイス100は、表示速度が求められる、これらの装置に、液晶表示装置よりも適して用いることができる。
【0147】
光電変換装置2500は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、光学部を通過した光を受光する筐体2504内に収容されている光電変換素子(不図示)に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。
【0148】
有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100は、電子機器の表示部に適用されてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォンなどの携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイなどが挙げられる。
【0149】
図14は、本実施形態の有機デバイス100を用いた電子機器の一例を表す模式図である。電子機器2600は、表示部2601と、操作部2602と、筐体2603と、を有する。筐体2603には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有していてもよい。操作部2602は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部2602は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する携帯機器は通信機器ということもできる。表示部2601には、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。
【0150】
図15(a)、15(b)は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の一例を表す模式図である。
図15(a)は、テレビモニタやPCモニタなどの表示装置である。表示装置2700は、額縁2701を有し表示部2702を有する。表示部2702に、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。表示装置2700は、額縁2701と表示部2702とを支える土台2703を有していてもよい。土台2703は、
図15(a)の形態に限られない。例えば、額縁2701の下辺が土台2703を兼ねていてもよい。また、額縁2701および表示部2702は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってもよい。
【0151】
図15(b)は、本実施形態の有機デバイス100を用いた表示装置の他の例を表す模式図である。
図15(b)の表示装置2710は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置2710は、第1表示部2711、第2表示部2712、筐体2713、屈曲点2714を有する。第1表示部2711と第2表示部2712とには、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。第1表示部2711と第2表示部2712とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってもよい。第1表示部2711と第2表示部2712とは、屈曲点で分けることができる。第1表示部2711と第2表示部2712とは、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第1表示部2711と第2表示部2712とで1つの画像を表示してもよい。
【0152】
図16は、本実施形態の有機デバイス100を用いた照明装置の一例を表す模式図である。照明装置2800は、筐体2801と、光源2802と、回路基板2803と、光学フィルム2804と、光拡散部2805と、を有していてもよい。光源2802には、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。光学フィルム2804は光源の演色性を向上させるフィルタであってもよい。光拡散部2805は、ライトアップなど、光源の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。照明装置2800は、光学フィルム2804と光拡散部2805との両方を有していてもよいし、何れか一方のみを有していてもよい。
【0153】
照明装置2800は例えば室内を照明する装置である。照明装置2800は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってもよい。それらを調光する調光回路を有していてもよい。照明装置2800は、光源2802として機能する有機デバイス100に接続される電源回路を有していてもよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。また、照明装置2800は、カラーフィルタを有してもよい。また、照明装置2800は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコンなどが挙げられる。
【0154】
図17は、本実施形態の有機デバイス100を用いた車両用の灯具の一例であるテールランプを有する自動車の模式図である。自動車2900は、テールランプ2901を有し、ブレーキ操作などを行った際に、テールランプ2901を点灯する形態であってもよい。本実施形態の有機デバイス100は、車両用の灯具としてヘッドランプに用いられてもよい。自動車は移動体の一例であり、移動体は船舶やドローン、航空機、鉄道車両などであってもよい。移動体は、機体とそれに設けられた移動体用の灯具を有していてもよい。灯具は機体の現在位置を知らせるものであってもよい。
【0155】
テールランプ2901に、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が適用できる。テールランプ2901は、テールランプ2901として機能する有機デバイス100を保護する保護部材を有していてもよい。保護部材は、ある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネートなどで構成されてもよい。また、保護部材は、ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体などを混ぜてもよい。
【0156】
自動車2900は、車体2903、それに取り付けられている窓2902を有してもよい。窓は、自動車の前後を確認するための窓であってもよいし、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、有機層4の発光層が有機発光材料を含む上述の有機デバイス100が用いられてもよい。この場合、有機デバイス100が有する電極などの構成材料は透明な部材で構成される。
【0157】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0158】
1:基板、3:絶縁層、4:有機層、12:主面、42:電荷発生層、21,33:部分、100:有機デバイス、315:頂部