(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】漏洩同軸ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/22 20060101AFI20240904BHJP
H01B 11/18 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
H01Q13/22
H01B11/18 A
(21)【出願番号】P 2020123971
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】505399236
【氏名又は名称】株式会社フジクラ・ダイヤケーブル
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】公賀 邦明
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-26878(JP,A)
【文献】特開2013-126096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/22
H01B 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体と、
前記内部導体を覆う絶縁体と、
前記絶縁体を覆い、少なくとも1つのスロットが形成された外部導体と、を備え、
長手方向における全長が10m以下であり、
前記スロットの長手寸法は10mm以上であり、
前記スロットの周寸法は、前記外部導体の全周に対して35~95%の範囲内であり、
前記絶縁体の外径が5mm以上である、漏洩同軸ケーブル。
【請求項2】
前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、
前記複数のスロットのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっている、請求項1に記載の漏洩同軸ケーブル。
【請求項3】
前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、
前記複数のスロットの前記長手方向における配置の繰り返し寸法をPとし、前記複数のスロットの長手寸法をW1とし、伝送する信号の波長をλとし、波長短縮率をνとするとき、0.97×λν≦P≦1.03×λνおよび0.97×P/2≦W1≦1.03×P/2を満たす、請求項1または2に記載の漏洩同軸ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内部導体と、絶縁体と、スロットが形成された外部導体と、を備えた漏洩同軸ケーブルが開示されている。漏洩同軸ケーブルは、無線通信を行うための送受信アンテナとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばパッシブ型RFIDタグとの間で通信を効果的に行うには、漏洩同軸ケーブルの結合損失を十分に小さくすることが求められる。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、結合損失を抑制した漏洩同軸ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る漏洩同軸ケーブルは、内部導体と、前記内部導体を覆う絶縁体と、前記絶縁体を覆い、少なくとも1つのスロットが形成された外部導体と、を備え、長手方向における全長が10m以下であり、前記スロットの長手寸法は10mm以上であり、前記スロットの周寸法は、前記外部導体の全周に対して35~95%の範囲内であり、前記絶縁体の外径が5mm以上である。
【0007】
上記態様によれば、長手方向における少なくとも一部において結合損失を40dB以内とし、パッシブ型RFIDタグとの間でUHF帯の無線通信を行うアンテナとして利用可能な漏洩同軸ケーブルを提供することが可能となる。
【0008】
ここで、前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、前記複数のスロットのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっていてもよい。
【0009】
この場合、結合損失を長手方向においてより均等にすることができる。
【0010】
また、前記外部導体には、前記スロットを含む複数のスロットが、前記長手方向に間隔を空けて形成され、前記複数のスロットの前記長手方向における配置の繰り返し寸法をPとし、前記複数のスロットの長手寸法をW1とし、伝送する信号の波長をλとし、波長短縮率をνとするとき、0.97×λν≦P≦1.03×λνおよび0.97×P/2≦W1≦1.03×P/2を満たしてもよい。
【0011】
この場合、漏洩同軸ケーブルからの-1次の輻射を長手方向に対して垂直にすることができ、長手方向に変動の少ない電界を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記態様によれば、結合損失を抑制した漏洩同軸ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る漏洩同軸ケーブルの斜視図である。
【
図2】本実施形態の変形例に係る漏洩同軸ケーブルの斜視図である。
【
図3】本実施形態の他の変形例に係る漏洩同軸ケーブルの斜視図である。
【
図4】試験例1-1、1-2の結果を示すグラフである。
【
図6】試験例3-1、3-2、3-3の結果を示すグラフである。
【
図7】試験例4-1、4-2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の漏洩同軸ケーブルについて図面に基づいて説明する。
図1に示すように、漏洩同軸ケーブル1は、内部導体2と、絶縁体3と、外部導体4と、を備える。絶縁体3は内部導体2を覆っており、外部導体4は絶縁体3を覆っている。外部導体4には、複数のスロット4aが形成されている。なお、外部導体4に形成されるスロット4aの数は1つでもよい。外部導体4等を保護するため、漏洩同軸ケーブル1は、外部導体4を被覆する不図示のシース(ゴム、樹脂など)を備えてもよい。
【0015】
(方向定義)
本実施形態では、内部導体2の中心軸線Oに沿う方向を長手方向といい、Z軸によって表す。長手方向から見て、中心軸線Oに交差する方向を径方向といい、中心軸線O回りに周回する方向を周方向という。長手方向は、漏洩同軸ケーブル1に信号が伝搬する方向でもある。信号が伝搬する方向における終端側を+Z側とし、信号源側を-Z側とする。すなわち、信号は+Z側に向けて伝搬する。
【0016】
内部導体2は、銅などの金属により形成されており、長手方向に沿って延びている。内部導体2は、複数の導体の細線を撚り合わせることで形成された撚線であってもよい。
絶縁体3は、内部導体2を径方向外側から覆っている。絶縁体3としては、発泡ポリエチレンなどの絶縁性を有する樹脂が用いられる。
【0017】
内部導体2は、外部の信号源に電気的に接続され、信号源から供給される高周波信号を伝搬させる。高周波信号の伝搬に伴い、外部導体4に形成されたスロット4aを通して電磁波が漏洩同軸ケーブル1の外部に漏洩する。
【0018】
外部導体4は、絶縁体3を径方向外側から覆っている。外部導体4は、例えば、金属(銅等)のテープを絶縁体3に巻き付けることで形成される。このため、外部導体4の内径は、絶縁体3の外径と略同じ、あるいは、絶縁体3の外径よりわずかに大きくなる。絶縁体3と外部導体4との間に、空気の層があってもよい。スロット4aとなる貫通孔を、外部導体4となるテープに予め形成しておくことで、任意の配置および形状のスロット4aを容易に形成できる。外部導体4の厚さは、例えば0.01~0.02mmである。
【0019】
外部導体4の内周面には、絶縁性基材と、絶縁性基材を外部導体4に接着させる接着層と、が設けられてもよい。絶縁性基材としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、あるいは、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を採用できる。接着層としては、例えばエチレン系アイオノマー樹脂を採用できる。絶縁性基材および接着層には、スロット4aに対応した開口が形成されていなくてもよい。
【0020】
複数のスロット4aは、長手方向に間隔を空けて形成されている。各スロット4aは、長手方向および周方向に沿って延びており、径方向外側から見ると矩形状となっている。または、スロット4aは長円形状、平行四辺形状であってもよい。また、外部導体4となるテープを絶縁体3に巻き付ける前の、テープが平らな状態においても、各スロット4aは矩形状となっている。
図1に示すように、本明細書では、長手方向におけるスロット4aの寸法を長手寸法W1といい、周方向におけるスロット4aの寸法を周寸法W2という。
【0021】
本実施形態では、終端側(+Z側)に位置するスロット4aほど、周寸法W2が大きくなっている。詳細は後述するが、このように複数のスロット4aを形成することで、長手方向において結合損失をより均一にすることができる。終端側に位置するスロット4aほど周寸法W2が大きくなる構成としては、
図2のような構成も採用できる。
図2の漏洩同軸ケーブル1では、周寸法W2が同様の2つのスロット4aが長手方向に隣接して形成され、その終端側に、周寸法W2がより大きい2つのスロット4aが配置されている。
【0022】
なお、上記のように各スロット4aの周寸法W2を異ならせることは必須ではない。つまり、
図3に示すように、外部導体4に形成されるスロット4aのそれぞれの周寸法W2は互いに同じであってもよい。また、各スロット4aの長手寸法W1は互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0023】
ここで、本実施形態の漏洩同軸ケーブル1は、例えばパッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うためのアンテナとして使用される。パッシブ型RFIDタグでは、一般的に、UHF帯(例えば920MHz程度)の高周波信号が用いられる。このような高周波信号を用いて、漏洩同軸ケーブル1とパッシブ型RFIDタグとの間の間隔を例えば1m程度空けた状態で良好な通信状態を保つには、結合損失を40dB以内とすることが求められる。結合損失を小さくするには、漏洩同軸ケーブル1から放出される電磁波のエネルギーを高めることが求められる。また、上記のように、本実施形態の漏洩同軸ケーブル1は放出される電磁波のエネルギーを高めて用いるため、例えば100mを超えるような長距離の伝送には適さない。パッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うという用途を考慮すると、漏洩同軸ケーブル1の全長は、例えば10m以下であってもよい。
【0024】
漏洩同軸ケーブル1は、TEMモードと呼ばれる電界により、エネルギーを伝搬する。外部導体4には長手方向に電流が流れる。周方向および長手方向に延びるスロット4aを外部導体4に形成することで、外部導体4に流れる電流が部分的に切られてスロット4aの信号源側と終端側との間で電位差が生じ、電界となって漏洩同軸ケーブル1の外部にエネルギーが放出される。このエネルギーを大きくすることは、スロット4aの長手寸法W1および周寸法W2を大きくすることで実現できる。本願発明者らが鋭意検討した結果によれば、長手寸法W1を10mm以上とし、周寸法W2を外部導体4の全周の35%以上とすることが好ましい。以下、より詳しく説明する。
【0025】
図4に、長手寸法W1と結合損失との関係を示す。試験例1-1、1-2の条件は下記表1に示す通りである。表1における「外部導体の周長」は、外部導体4のスロット4aが形成されていない部分の周方向の全長を示している。「周開口率R」は、周寸法W2の外部導体の周長に対する率である。
【0026】
【0027】
図4に示すように、試験例1-1、1-2ともに、スロット4aの長手寸法W1を異ならせて、結合損失を測定した。試験例1-1、1-2ともに、長手寸法W1が50mm以下の領域では、長手寸法W1が大きいほど結合損失が小さくなる。これは、長手寸法W1が大きいほどスロット4aから漏洩する電磁波の量が大きくなるためである。また、試験例1-1のほうが、試験例1-2よりも、結合損失が小さい傾向となった。これは、試験例1-1のほうが試験例1-2よりも周寸法W2および周開口率Rが大きいためである。
【0028】
試験例1-1の条件(R=83%)では、長手寸法W1を10mm以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。試験例1-2の条件(R=70%)では、長手寸法W1を30mm以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。なお、長手寸法W1の上限値については任意であるが、例えば複数のスロット4aを形成する場合に、スロット4a同士が長手方向に間隔を空けて形成されるように設定するとよい。
【0029】
図5に、周開口率Rと結合損失との関係を示す。試験例2では、外部導体4の外径を10mmとし、スロットの数を1つとし、長手寸法W1を100mmとした。そして、周寸法W2(周開口率R)を異ならせて、結合損失を測定した。
図5に示すように、周開口率Rが大きいほど、結合損失が小さくなる。試験例2の条件では、周開口率Rを35%以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができた。
【0030】
スロット4aの数が1つのみの漏洩同軸ケーブルにおいて結合損失を低下させるという観点では周開口率Rが大きいほど好ましい。一方、スロット4a数が複数である漏洩同軸ケーブルにおいては、スロット4aの周開口率Rが大きすぎると、スロット4aが形成された部分における伝送損失が大きくなり、終端側のスロット4aに供給される信号エネルギーが極端に少なくなる。目安として、周開口率Rは95%以下とすることが好ましい。周開口率Rが95%以下であれば、終端側のスロット4aにも適度な信号エネルギーが供給され、漏洩同軸ケーブル全体として結合損失を低くできる。
【0031】
図6に、外部導体4の内径(絶縁体3の外径)と結合損失との関係を示す。試験例3-1~3-3は、それぞれ、内部導体2の外径を0.6mm、1mm、および2mmとしている。また、絶縁体3の外径(D)を1.5mm、2.5mm、および5mmとしている。なお、外部導体4の外径は、絶縁体3の外径に、外部導体4の厚さの2倍を足した値とほぼ同じになる。試験例3-1~3-3の以下の条件は共通とした。
漏洩同軸ケーブル1の全長:5m
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.8)
長手寸法W1:110mm
周開口率R:80%
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:21
長手方向におけるスロット4a同士の間の間隔:128mm
周波数:920MHz
【0032】
なお、結合損失の測定は、測定器(ダイポールアンテナ)を各漏洩同軸ケーブル1から1.5m離して配置し、測定器を漏洩同軸ケーブル1に対して長手方向に移動させることで行った。
図6において、横軸(測定位置)は漏洩同軸ケーブル1の長手方向における位置を示している。具体的に、横軸が0mのポイントが漏洩同軸ケーブル1の信号源側の端部に対応し、横軸が5mのポイントが漏洩同軸ケーブル1の終端側の端部に対応している。
【0033】
図6に示すように、絶縁体3の外径Dが大きいほど、結合損失が小さくなる結果となった。特に、絶縁体3の外径Dが5mmである試験例3-3では、長手方向におけるほとんどの領域で、結合損失が40dB以内となった。なお、試験例3-3のように、長手方向における一部の領域で結合損失が40dBを超えても、パッシブ型RFIDタグとの間で通信を行うことは可能である。例えば、漏洩同軸ケーブル1のうち結合損失が40dB以内の領域(試験例3-3では横軸が0~4.7mの領域)だけを通信用アンテナとして使用すれば足りるためである。あるいは、漏洩同軸ケーブル1とパッシブ型RFIDタグとの間の間隔を、1.5mよりも小さくすれば、漏洩同軸ケーブル1の長手方向の全長にわたって結合損失が40dB以内に調整できるためである。
【0034】
ここで、一般的な理屈でいえば、長手寸法W1が同じ場合、絶縁体3の外径Dとスロット4aのうち周方向に延びるエッジの長さの比率で結合損失が決まるため、結合損失は外径Dに依存しないと考えられる。しかし、試験例3-1~3-3ではそのような結果とならず、絶縁体3の外径Dが大きいほど結合損失が小さくなった。その理由として、前記エッジが、外部導体4の他の部分と結合して、インピーダンスが上がらないことが考えられる。例えば、試験例3-1~3-3におけるスロット4aは矩形状であるため、角部が略直角に曲がっているが、容量結合して電流が外部導体4を通らず絶縁体3中を進むことが考えられる。あるいは、前記エッジの中間部分は内部導体2と結合することが考えられる。このような現象が生じると、外径Dが大きくても実効的なエッジ部長が短くなり、結合損失が下がらないと考えられる。
【0035】
図4~
図6の結果を総合すると、結合損失を40dB以内に抑制するためには、以下の条件Aまたは条件Bを満たすことが好ましい。
条件A:長手寸法W1を10mm以上とし、周開口率Rを35~95%の範囲内とし、絶縁体3の外径Dを5mm以上とする。
条件B:長手寸法W1を30mm以上とし、周開口率Rを70~95%の範囲内とし、絶縁体3の外径Dを5mm以上とする。
【0036】
次に、
図7を用いて、終端側(+Z側)に位置するスロット4aほど周寸法W2を大きくすることの効果について説明する。
図7に示す試験例4-1、4-2は、以下の条件については共通である。なお、試験例4-1、4-2では、絶縁体3の材質である発泡ポリエチレンの発泡率が試験例3-1等とは異なっているため、波長短縮率も異なっている。
漏洩同軸ケーブル1の長さ:1m
内部導体2の外径:4.3mm
絶縁体3の外径D:10mm
絶縁体3の材質:発泡ポリエチレン(波長短縮率0.87)
長手寸法W1:100mm
側方からみたスロット4aの形状:矩形状
スロット4aの数:5
長手方向におけるスロット4a同士の間の間隔:128mm
周波数:920MHz
【0037】
一方、試験例4-1と試験例4-2とでは、表2に示すように、周寸法W2が異なっている。試験例4-1は、5つのスロット4aの全ての周寸法W2が共通(28mm)である。試験例4-2は、
図2に示すように、終端側に位置するスロット4aほど周寸法W2が大きくなっている。より詳しくは、信号源側から1番目および2番目のスロット4aの周寸法W2が17mmであり、信号源側から3番目および4番目のスロット4aの周寸法W2が20mmであり、信号源側から5番目(最も終端側)のスロット4aの周寸法W2が28mmである。
【0038】
【0039】
図7に示した試験例4-1、4-2に係る結合損失は、シミュレーションに基づいている。
図7の横軸は長手方向における位置である。
図7に示すように、試験例4-1、4-2ともに、結合損失を40dB以内とすることができた。ただし、試験例4-1については、終端側(+Z側)に向かうに従い、結合損失が低下している。これは、終端側に向かうに従って電磁波が漏洩し、外部導体4内を流れる信号の強度が減衰するためである。一方、試験例4-2については、長手方向において結合損失をより均等にすることができた。これは、終端側に位置するスロット4aほど周寸法W2を大きくして電磁波を漏洩させやすくすることで、外部導体4を流れる信号の強度が終端側に向かうに従って減衰することを打ち消したためである。このように、終端側に位置するスロット4aほど周寸法W2を大きくすることで、長手方向において結合損失をより均等にすることができる。
【0040】
次に、外部導体4に複数のスロット4aを設ける場合における、好ましいスロットピッチPの範囲について説明する。本明細書において「スロットピッチP」とは、長手方向におけるスロット4aの配置の繰り返し寸法である。より詳しくは、スロットピッチPは、長手寸法W1およびスロット4a同士の間の間隔の和である。例えば先述の試験例4-1では、長手寸法W1が100mmでスロット4a間の間隔が128mmのため、P=100+128=228mmである。
【0041】
一般に、漏洩同軸ケーブル1からの電磁波の方射角θnは、中心軸線Oに直角な方射角を0として、終端側に傾いた放射方向を正とすれば、以下の式(1)で表される。
θn=sin-1(nλ/P+1/ν) …(1)
ただし、nは放射モード(負の整数)、λは自由空間での波長、νは漏洩同軸ケーブル1の波長短縮率である。波長短縮率νは、内部導体2と外部導体4との間の絶縁体3および中空部分の体積比から求めた実効比誘電率εsに基づき、以下の式(2)で表される。
ν=1/(εs)1/2 …(2)
【0042】
通常は、n=-1のいわゆる-1次モードだけが使用されることが多い。経験的に、-1次モードの方射角は、-50°~+30°が実用的な限界角度である。したがって、スロットピッチPは、以下の式(3)の範囲が好ましい。
λg/(1+0.776ν)<P<3λg/(1+ν) …(3)
ここで、λgは漏洩同軸ケーブル1内での伝搬波長であり、λg=νλである。
例えば、信号の周波数が920MHz(λ≒325.9mm)、波長短縮率νが0.8においては、スロットピッチPの範囲は、161mm~434mmの範囲が好ましい。
【0043】
以上説明したように、漏洩同軸ケーブル1は、内部導体2と、内部導体2を覆う絶縁体3と、絶縁体3を覆い、少なくとも1つのスロット4aが形成された外部導体4と、を備える。そして、長手方向における漏洩同軸ケーブル1の全長を10m以下とし、スロット4aの長手寸法W1を10mm以上とし、スロット4aの周寸法W2を外部導体4の全周に対して35~95%の範囲内とし、絶縁体3の外径Dを5mm以上とすることで、結合損失を40dB以内とすることができる。これにより、UHF帯のRFID通信を行うアンテナとして利用可能な漏洩同軸ケーブル1を提供することが可能となる。
【0044】
また、外部導体4には、複数のスロット4aが長手方向に間隔を空けて形成されていてもよい。この場合、長手方向においてより広い範囲でRFID通信を行うことが可能な漏洩同軸ケーブル1を提供することができる。
【0045】
また、複数のスロット4aのそれぞれの周寸法は、信号の伝搬方向の終端側に向かうに従って大きくなっていてもよい。この場合、結合損失を長手方向においてより均等にすることができる。
【0046】
また、外部導体4には複数のスロット4aが形成され、スロット4aの長手方向における配置の繰り返し寸法(スロットピッチ)をPとし、スロット4aの長手寸法をW1とし、伝送する信号の波長をλとし、波長短縮率をνとするとき、0.97×λν≦P≦1.03×λνおよび0.97×P/2≦W1≦1.03×P/2を満たしてもよい。この場合、漏洩同軸ケーブルからの-1次の輻射を長手方向に対して垂直にすることができ、長手方向に変動の少ない電界を得ることができる。
【0047】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0048】
例えば、前記実施形態では、漏洩同軸ケーブル1がパッシブ型RFIDタグとの通信を行うアンテナとして利用されると説明した。しかしながら、このような用途に限らず、通信対象物との間である程度(例えば0.5m以上)の距離を空けた状態で結合損失を40dB以内とすることが求められる用途に、本実施形態の漏洩同軸ケーブル1を好適に利用できる。漏洩同軸ケーブル1の用途に合わせて、内部導体2、絶縁体3、外部導体4、およびシース以外の構成を漏洩同軸ケーブル1が備えてもよい。
【0049】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…漏洩同軸ケーブル 2…内部導体 3…絶縁体 4…外部導体 4a…スロット D…絶縁体の外径 W1…長手寸法 W2…周寸法