(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】整流装置
(51)【国際特許分類】
B62D 37/02 20060101AFI20240904BHJP
B62D 35/00 20060101ALI20240904BHJP
B60R 19/48 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B62D37/02 Z
B62D35/00 A
B60R19/48 S
(21)【出願番号】P 2020129791
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直人
(72)【発明者】
【氏名】堂ヶ平 雄作
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272258(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102016104359(DE,A1)
【文献】特開2019-055627(JP,A)
【文献】特開2020-011543(JP,A)
【文献】特開2009-286267(JP,A)
【文献】特開2019-059249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 37/02
B62D 35/00
B60R 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と、
車体の下方及び外側方に開口するとともに前記
前輪の一部を収容する
ホイールハウスと
を備える車両に設けられる整流装置であって、
前記
ホイールハウスにおいて前記
前輪に対して車両前方側に設けられ、前記
前輪の車幅方向内側の面部に隣接する乱流境界層を形成する気流を噴出する気流噴出部
と、
前記気流噴出部を制御する制御ユニットと、
を備え
、
前記気流噴出部は、前記ホイールハウスの車両前方の壁部において車両後方に向かって開口する開口部から走行風を前記ホイールハウス内に導入するダクト部と、前記ダクト部の車両後方側端部の車幅方向外側の側壁部に設けられ、車両後方側へ進行する気流を発生する第1プラズマアクチュエータと、前記ダクト部の車両後方側端部の車幅方向内側の側壁部に設けられ、車両後方側へ進行する気流を発生する第2プラズマアクチュエータと、を含み、
前記制御ユニットは、前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度及び前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を個別に制御することにより、前記開口部から前記ホイールハウス内に噴出される気流の噴出方向を車幅方向に偏向させること
を特徴とする整流装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、
前記前輪がトーイン側にステアされている場合に、前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度に対して大きくし、
前記前輪がトーアウト側にステアされている場合に、前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度に対して大きくすること
を特徴とする請求項1に記載の整流装置。
【請求項3】
前記開口部は、前記車両を鉛直上方から見た場合に、前記前輪の車幅方向における中心よりも車幅方向内側に配置されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の整流装置。
【請求項4】
前記開口部は、舵角が中立状態である前記前輪の車幅方向内側の面部よりも車幅方向内側に配置されること
を特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の整流装置。
【請求項5】
前記気流噴出部は、前記開口部の車両後方側に設けられ、前記開口部から前記ホイールハウス内に噴出される気流の噴出方向を車幅方向に変化させる可動ルーバを含むこと
を特徴とする
請求項1から請求項4
のいずれか一項に記載の整流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられ車輪周辺の気流を整流する整流装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の走行時に、車体の周辺には自車両の走行に起因して発生する気流(いわゆる走行風)が形成される。
このような走行風が車体周辺の一部で乱流となり、渦流を形成すると、空気抵抗、操縦安定性、空力騒音(風切音)、空力振動などが悪化する原因となる。
特に、車輪及び車輪を収容するホイールハウスの周辺では、走行風が車輪や周辺部品と衝突して剥離することにより、気流の乱れが発生しやすいことから、様々な手法により車輪周辺の整流を図ることが提案されている。
【0003】
車両の車輪、又は、その周辺に設けられる整流装置に関する従来技術として、例えば特許文献1には、車輪を収容するホイールハウス内に突出した整流位置と、車輪との干渉を回避する回避位置との間で移動可能な空力スタビライザを設けることが記載されている。
特許文献2には、車体の側方における空気乱れの発生を抑制するため、ホイールハウスからの空気流の吹き出しを抑制するフィンを設けることが記載されている。
特許文献3には、車両ホイールのディスク部に、気流導引部及び気流補助部を前後に配列した複数のホイールブレードを設けて空気抵抗と騒音を防止することが記載されている。
特許文献4には、タイヤサイド部の温度低減を図るため、タイヤのサイドウォールから突出し車輪の径方向に沿って延在する乱流発生用突起を設けることが記載されている。
また、整流装置に気流を発生させるデバイスを設けることに関する従来技術として、例えば特許文献5には、車体下部に設けられるアンダーカバーの下面部に、車両後方側へ噴出する空気流を発生させるプラズマアクチュエータを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-253929号公報
【文献】特開2015- 9749号公報
【文献】特開2014-227168号公報
【文献】国際公開WO2008/114668
【文献】特開2016-222152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の走行時に自車両の前方側から床下側に流入する走行風が車輪(典型的には前輪)やその周辺の他部品に衝突すると、気流が剥離して乱れが生じ、特にタイヤの車幅方向内側へ剥離した流れは、タイヤの内側面に沿って進行した後、一部は車両の外側面側へ排出される。
このような車両外側面方向への剥離流れは、空気抵抗や操縦安定性が悪化する要因となる。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、走行風が車輪に衝突して生じる剥離流れを適切に整流する整流装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、前輪と、車体の下方及び外側方に開口するとともに前記前輪の一部を収容するホイールハウスとを備える車両に設けられる整流装置であって、前記ホイールハウスにおいて前記前輪に対して車両前方側に設けられ、前記前輪の車幅方向内側の面部に隣接する乱流境界層を形成する気流を噴出する気流噴出部と、前記気流噴出部を制御する制御ユニットと、を備え、前記気流噴出部は、前記ホイールハウスの車両前方の壁部において車両後方に向かって開口する開口部から走行風を前記ホイールハウス内に導入するダクト部と、前記ダクト部の車両後方側端部の車幅方向外側の側壁部に設けられ、車両後方側へ進行する気流を発生する第1プラズマアクチュエータと、前記ダクト部の車両後方側端部の車幅方向内側の側壁部に設けられ、車両後方側へ進行する気流を発生する第2プラズマアクチュエータと、を含み、前記制御ユニットは、前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度及び前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を個別に制御することにより、前記開口部から前記ホイールハウス内に噴出される気流の噴出方向を車幅方向に偏向させることを特徴とする整流装置である。
これによれば、車輪の車幅方向内側の面部(内側面)に隣接する乱流境界層を形成することにより、車輪や隣接する他部品に走行風が衝突して剥離した流れを、この乱流境界層に追従させて車両床下中央側の流れに合流させ、剥離した流れが車体の外側面側に排出されることを防止できる。
これにより、車両の空気抵抗を抑制するとともに操縦安定性を改善することができる。
特に前輪に整流装置を設けた場合には、剥離した流れが後輪及びその周辺部品に衝突することを抑制し、空気抵抗をさらに抑制するとともに、後輪周辺の空力騒音、空力振動を抑制することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記制御ユニットは、前記前輪がトーイン側にステアされている場合に、前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度に対して大きくし、前記前輪がトーアウト側にステアされている場合に、前記第2プラズマアクチュエータが発生する気流の強度を前記第1プラズマアクチュエータが発生する気流の強度に対して大きくすることを特徴とする請求項1に記載の整流装置である。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記開口部は、前記車両を鉛直上方から見た場合に、前記前輪の車幅方向における中心よりも車幅方向内側に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の整流装置である。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記開口部は、舵角が中立状態である前記前輪の車幅方向内側の面部よりも車幅方向内側に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の整流装置である。
【0010】
請求項5に係る発明は、前記気流噴出部は、前記開口部の車両後方側に設けられ、前記開口部から前記ホイールハウス内に噴出される気流の噴出方向を車幅方向に変化させる可動ルーバを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の整流装置である。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、走行風が車輪に衝突して生じる剥離流れを適切に整流する整流装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用した整流装置の第1実施形態を有する車両の車体前部の模式的側面視図である。
【
図2】
図1のII-II部矢視模式的断面図である。
【
図3】第1実施形態の整流装置に設けられる2極式のプラズマアクチュエータの模式的断面図である。
【
図4】第1実施形態の整流装置におけるプラズマアクチュエータの制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】第1実施形態の整流装置を有する車両において前輪がトーイン側にステアされた際のホイールハウス内の気流の流れを示す模式図である。
【
図6】第1実施形態の整流装置を有する車両において前輪がトーアウト側にステアされた際のホイールハウス内の気流の流れを示す模式図である。
【
図7】本発明を適用した整流装置の第2実施形態を有する車両のホイールハウス周辺部を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した整流装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の整流装置は、例えば、車室前方にエンジンルームが設けられる、いわゆる2ボックス又は3ボックスの車型を有する乗用車等の自動車(移動体)に設けられるものである。
図1は、第1実施形態の整流装置を有する車両の車体前部の模式的側面視図である。
車両1は、フロントシールド10、フロントピラー20、ルーフ30、フロントドア40、フード50、フェンダ60、バンパフェイス70、フロントコンビネーションランプ80、フラップ90等を有して構成されている。
【0014】
フロントシールド10は、車室前部に設けられたウインドウガラスである。
フロントシールド10は、ほぼ矩形状に形成されるとともに、上端部11が下端部12に対して車両後方側となるように後傾して配置されている。
フロントシールド10の側端部13は、フロントピラー20に沿って配置されている。
フロントシールド10は、車両前方側が凸となるように湾曲(ラウンド)して形成された2次曲面の合わせガラスである。
【0015】
フロントピラー(Aピラー)20は、フロントシールド10の側端部13に沿って延在する車体構造部材である。
フロントピラー20の後縁部は、フロントドア40上部のフロントドアガラスの周囲に形成されたサッシュ部と隣接して配置されている。
【0016】
ルーフ30は、車室の上面部を構成するパネル状の部分である。
ルーフ30は、フロントシールド10の上端部から車両後方側へ延在している。
フロントドア40は、車室前部の側面部に設けられた開閉扉である。
フロントドア40は、前端部に設けられた図示しないヒンジ回りに揺動して開閉する。
【0017】
フード50は、エンジンルームの上部を覆って設けられる外装部材であって、開閉式の蓋状体として構成されている。
フード50の後縁部51は、フロントシールド10の下端部12の前方側に、車両前後方向に間隔を隔てて配置されている。
フード50の側縁部52は、フェンダ60の上面部61の車幅方向内側の端縁と、不可避的に設けられる隙間を介して隣接して配置されている。
【0018】
フェンダ60は、エンジンルームの側面部等を構成する車両の外装部材である。
フェンダ60は、上面部61、側面部62等を有して構成されている。
上面部61は、フード50の側縁部52の側端部と隣接する領域であって、フード50の表面部を形成する曲面を車幅方向外側に延長した曲面にほぼ沿って形成されている。
側面部62は、上面部61の車幅方向外側の端部近傍から、下方へ延びて形成されている。
また、側面部62には、前輪FWが収容されるホイールハウスHの開口63が形成されている。
【0019】
バンパフェイス70は、車両前端部の下部に設けられる樹脂製の外装部材である。
バンパフェイス70は、フェンダ60における開口63の前方側に設けられている。
バンパフェイス70の内部には、車体前面部に設けられた開口から走行風を取り入れ、ホイールハウス内に導入するダクト71が設けられている。
ダクト71の詳細な構成は、後に詳しく説明する。
フロントコンビネーションランプ80は、前照灯、車幅灯、ターンシグナル灯などの各種灯火装置を、共通のハウジング内に収容しユニット化したものである。
フロントコンビネーションランプ80は、車両前端部においてフード50の下方側であってバンパフェイス70の上方側に配置されている。
【0020】
フラップ90は、車体下面における前輪FWの前方側の領域から下方に突出した板状の部材である。
フラップ90は、車両前方側から床下側に流入する走行風を左右に振り分けるよう整流し、前輪FWへの衝突を抑制する機能を有する。
【0021】
図2は、
図1のII-II部矢視模式的断面図である。
ダクト71は、車両の前後方向に沿って延在し、前端部はバンパフェイス70の前面において車両前方側に開口している。
ダクト71の後端部は、前輪FWを収容するホイールハウスHの車両前方の壁部(インナフェンダ)に開口している。
ダクト71の後端部は、車幅方向における位置が、前輪FWの車幅方向内側の面部(内側面)と隣接する箇所に配置されている。
ダクト71の後端部は、後述するプラズマアクチュエータ100o,100iと協働して、本発明の気流噴出部として機能する。
ダクト71の後端部は、前輪FWの内側面に対して車幅方向内側にオフセットされ、ダクト71から後方へ噴出された気流が前輪FWの内側面に沿って、渦を伴う乱流により構成された境界層である乱流境界層Tを形成可能とすることが好ましい。
乱流境界層Tは、比較的流速の大きい流れと、前輪FWの内側面に近接した流速の小さい流れとが混合され、運動量交換が活発に行われることにより、層流境界層に対して剥離し難い特性を有する。
【0022】
図2に示すように、ダクト71には、例えば一対のプラズマアクチュエータ100(100o,100i)が設けられている。
プラズマアクチュエータ100(100o,100i)は、ダクト71の後端部近傍において、車幅方向に相互に対向する一対の側壁部にそれぞれ設けられている。
プラズマアクチュエータ100oは、ダクト71における車幅方向外側の側壁部に設けられている。
プラズマアクチュエータ100iは、ダクト71における車幅方向内側の側壁部に設けられている。
プラズマアクチュエータ100(100o,100i)は、車両後方側へ進行する気流F(Fo,Fi)を発生するとともに、その強度(流速、流量)を調節可能となっている。
プラズマアクチュエータ100(100o,100i)は、本発明の気流偏向部、気流加速部として機能する。
【0023】
図3は、第1実施形態の整流装置に設けられる2極式のプラズマアクチュエータの模式的断面図である。
2極式のプラズマアクチュエータ100(100o,100i)は、誘電体110、上部電極120、下部電極130、絶縁体140等を有して構成されている。
【0024】
誘電体110は、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ化炭素樹脂などからなるシート状の部材である。
上部電極120、下部電極130は、例えば銅などの金属薄膜からなる導電テープにより構成されている。
上部電極120は、誘電体110の表面側(車体等に取り付けた際、外部に露出する側)に貼付されている。
下部電極130は、誘電体110の裏面側に貼付されている。
上部電極120と下部電極130とは、誘電体110の面方向にオフセットして配置されている。
絶縁体140は、プラズマアクチュエータ100の基部となるシート状の部材であって、誘電体110の裏面側に、下部電極130を覆って設けられている。
【0025】
プラズマアクチュエータ100の上部電極120と下部電極130に、電源PSによって所定の波形を有する交流電圧を印加すると、電極間にプラズマ放電Pが発生する。
印加電圧は絶縁破壊が生じてプラズマ放電Pが発生する程度の高圧とする必要があり、例えば、1乃至10kV程度とすることができる。
また、印加電圧の周波数は、例えば、1乃至10kHz程度とすることができる。
このとき、プラズマアクチュエータ100の表面側の空気がプラズマ放電Pに誘引され、壁面噴流状の気流F(
図2における気流Fo,Fi)が発生する。
また、プラズマアクチュエータ100は、印加される交流電圧の波形を制御することにより、気流Fの方向を逆転することも可能となっている。
【0026】
第1実施形態の整流装置は、上述したプラズマアクチュエータ100(100o,100i)に駆動電力を供給して気流F(Fo,Fi)を発生させ、ホイールハウスH内の整流を行うため、以下説明する制御システムを備えている。
図4は、第1実施形態の整流装置におけるプラズマアクチュエータの制御システムの構成を示すブロック図である。
制御システムは、整流制御ユニット200、車速センサ210、舵角センサ220等を備えている。
整流制御ユニット200は、電源PSを制御してプラズマアクチュエータ100o,100iの作動、停止、及び、作動させる場合の強度(風量、風速)を制御するものである。
整流制御ユニット200は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROM等の記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンとして構成されている。
【0027】
車速センサ210は、車両1の走行速度を検出するものである。
車速センサ210は、前輪FW及び図示しない後輪を回転可能に支持するハブベアリングハウジングに設けられ、車輪の回転速度に応じた車速信号を出力する。
舵角センサ220は、前輪FWの舵角を検出するものである。
舵角センサ220は、例えば、図示しない電動パワーステアリング装置の一部として設けられ、ステアリングホイールの回転をステアリングギアボックスに伝達するステアリングシャフトの角度位置を検出する角度エンコーダを有する構成とすることができる。
【0028】
次に、第1実施形態の整流装置の動作について説明する。
図2は、車両が直進時(前輪FWの舵角が中立時)の状態を示している。
この状態では、外側、内側のプラズマアクチュエータ100o,100iは、発生する気流Fo,Fiの強度(流速)を同等として、車両後方側へ噴出させる。
気流Fo,Fiの強度は、車速の増加に応じて増加するよう制御される。
これにより、ダクト71に進入した走行風Wは、気流Fo,Fiによって加速された噴流としてホイールハウスHの空間部S内に噴出し、前輪FWの内側面に沿った乱流境界層Tを形成する。
これにより、車体下部においてフラップ90、前輪FWと衝突し剥離した気流は、乱流境界層Tに引き寄せられて追従し、車両床下中央側の流れに合流する。
このため、剥離した気流の車幅方向外側(車両外側面側)への流出、及び、後輪への衝突が抑制される。
【0029】
また、プラズマアクチュエータ100o,100iは、発生する気流Fo,Fiの強度を相互に異ならせる(流速差を発生させる)ことによって、ダクト71から噴出される気流の方向を水平面にほぼ沿って変化(揺動)させることができる。
図5、
図6は、第1実施形態の整流装置を有する車両において前輪がトーイン側、トーアウト側にそれぞれステアされた際のホイールハウス内の気流の流れを示す模式図である。
図5においては、例えば、車両1の左側の前輪FWがトーイン側(右側)へステアされた状態を示している。
この場合、整流制御ユニット200は、外側のプラズマアクチュエータ100oが発生する気流Foの強度を、内側のプラズマアクチュエータ100iが発生する気流Fiに対して大きくする。
気流Fo,Fiの速度差により、気流Fo,Fiが合成されてホイールハウスHの空間部S内に噴出する気流は、車幅方向内側に偏向される。
これにより、前輪FWの前端部が車幅方向内側に変位した状態であっても、前輪FWの内側面に沿って適切に乱流境界層Tを形成することができる。
【0030】
図6においては、例えば、車輪1の左側の前輪FWがトーアウト側(左側)へステアされた状態を示している。
この場合、整流制御ユニット200は、内側のプラズマアクチュエータ100iが発生する気流Fiの強度を、内側のプラズマアクチュエータ100oが発生する気流Foに対して大きくする。
気流Fo,Fiの速度差により、気流Fo,Fiが合成されてホイールハウスHの空間部S内に噴出する気流は、車幅方向外側に偏向される。
これにより、前輪FWの前端部が車幅方向外側に変位した状態であっても、前輪FWの内側面に沿って適切に乱流境界層Tを形成することができる。
【0031】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ダクト71及びプラズマアクチュエータ100(100o,100i)を用い、前輪FWの車幅方向内側の面部(内側面)に隣接する乱流境界層Tを形成することにより、前輪FWやフラップ90等の隣接する他部品に走行風Wが衝突して剥離した流れを、この乱流境界層Tに追従させて車両床下中央側の流れに合流させ、剥離した流れがフェンダ60の側面部62側に排出されることを防止できる。
これにより、車両1の空気抵抗を抑制するとともに操縦安定性を改善することができる。
また、剥離した流れが後輪及びその周辺部品に衝突することを防止し、これによっても車両の空気抵抗を抑制し、さらに後輪周辺での空力騒音、空力振動を抑制することができる。
(2)プラズマアクチュエータ100o,100iが発生する気流Fo,Fiの速度差を利用し、前輪FWの転舵に応じて気流を偏向させることにより、前輪FWの転舵(トー方向変位)により、前輪FWとダクト71の出口部との位置関係が変化した場合であっても、前輪FWの内側面近傍に確実に乱流境界層Tを形成することができ、上述した効果を得ることができる。
(3)バンパフェイス70の前部の開口からホイールハウスHの空間部S内に走行風Wを導入するダクト71を設けることにより、走行風Wの動圧を利用して、乱流境界層Tを形成する気流を効率よく発生させることができる。
(4)ダクト71内を流れる気流(走行風)を気流加速部でさらに加速させることにより、乱流境界層の流速及び乱れを強め、上述した効果を促進することができる。
(5)走行風Wを加速、偏向する気流Fo,Fiを、プラズマアクチュエータ100o,100iを用いて発生させることにより、可動部分を持たないシンプルな構成により、応答性よく気流Fo,Fiを発生させることができる。
【0032】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した整流装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図7は、第2実施形態の整流装置を有する車両のホイールハウス周辺部を示す模式図(第1実施形態の
図2に相当する図)である。
第2実施形態の整流装置は、ダクト71の出口部分に、ダクト71から噴出される気流の風向を偏向させる可動ルーバ300を備えている。
可動ルーバ300は、例えば、車両1の直進状態において鉛直方向及び車両前後方向にほぼ沿った平板状のフラップとして形成されている。
可動ルーバ300は、前端部に設けられかつ鉛直方向に延在する回転軸301回りに、図示しないアクチュエータにより回転(揺動)駆動される。
可動ルーバ300は、前輪FWの内側面に沿って乱流境界層Tが形成されるよう、舵角センサ220が検出する前輪FWの舵角に応じて回動する。
以上説明した第2実施形態によれば、ダクト71からホイールハウスH内に噴出される気流の方向制御性を高めることにより、転舵状態における整流効果をより確実に得ることができる。
【0033】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両及び整流装置の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することが可能である。
(2)実施形態におけるプラズマアクチュエータの配置、個数は一例であって、適宜変更することができる。
(3)実施形態では、プラズマアクチュエータを用いて乱流境界層を形成する気流を発生させているが、プラズマアクチュエータ以外の手法により気流を発生させてもよい。
例えば、ブロワファン等の他の気流発生手段を用いてもよい。
また、プラズマアクチュエータの構成も、実施形態のものに限定されず、適宜変更することができる。
例えば、実施形態では2極式のプラズマアクチュエータとしたが、複数の電極対を配列した3極式のプラズマアクチュエータとしてもよい。
さらに、気流を偏向させる手段も特に限定されない。
(4)実施形態では、プラズマアクチュエータの電極間に交流電圧を印加しているが、これに代えて、直流電圧を印加する構成としてもよい。例えば、直流電圧を所定の周波数でパルス状に印加してもよい。また、直流電圧を印加する場合には、気流の発生方向を制御するため、極性をスイッチング可能とすることができる。
また、3極式のプラズマアクチュエータを用いる場合は、両方の電極対に交流電圧を印加する構成、両方の電極対に直流電圧を印加する構成、一方の電極対に交流電圧を印加しかつ他方の電極対に直流電圧を印加する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 車両 10 フロントシールド
11 上端部 12 下端部
13 側端部 20 フロントピラー
30 ルーフ 40 フロントドア
50 フード 51 後縁部
52 側縁部 60 フェンダ
61 上面部 62 側面部
63 開口 70 バンパフェイス
71 ダクト
80 フロントコンビネーションランプ
90 フラップ FW 前輪
100(100o,100i) プラズマアクチュエータ
110 誘電体 120 上部電極
130 下部電極 140 絶縁体
PS 電源 P プラズマ放電
F(Fo,Fi) 気流 W 走行風
200 整流制御ユニット 210 車速センサ
220 舵角センサ
300 可動ルーバ 301 回転軸
H ホイールハウス S 空間部
T 乱流境界層