(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】インフレーション成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20240904BHJP
B29C 55/28 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08L67/04
B29C55/28
(21)【出願番号】P 2020141509
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 武史
(72)【発明者】
【氏名】苗 偉
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222791(JP,A)
【文献】特表2014-523962(JP,A)
【文献】特開2013-185139(JP,A)
【文献】特開2005-162884(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146194(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有し、下記要件a)及びb)を満足する、インフレーション成形体
であって、
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1~5モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(B)を含む、インフレーション成形体。
a)引張弾性率が500MPa以上1500MPa以下
b)メチルエチルケトンに2時間浸漬して測定した膨潤度が1以上
1.9以下
【請求項2】
前記共重合体(A)と前記共重合体(B)の合計に対して、前記共重合体(A)の割合が35重量%以上で、前記共重合体(B)の割合が65重量%以下である、請求項
1に記載のインフレーション成形体。
【請求項3】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、さらに、
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6モル%以上24モル%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含み、
前記共重合体(A)、前記共重合体(B)及び前記共重合体(C)の合計に対する前記共重合体(C)の割合が、5重量%以上50重量%以下である、請求項
1又は2に記載のインフレーション成形体。
【請求項4】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める前記他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有割合が、10~18モル%である、請求項
1~3のいずれか1項に記載のインフレーション成形体。
【請求項5】
前記他のヒドロキシアルカノエート単位が、3-ヒドロキシヘキサノエート単位である、請求項
1~4のいずれか1項に記載のインフレーション成形体。
【請求項6】
前記インフレーション成形体が、ヒートシールによって融着した部位を含む包装材の形態である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のインフレーション成形体。
【請求項7】
前記インフレーション成形体の膜厚が10μm以上100μm以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載のインフレーション成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有するインフレーション成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。
【0003】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は優れた海水分解性を有しており、廃棄されたプラスチックが引き起こす環境問題を解決しうる材料である。例えば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の1種であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を変化させることにより、機械特性を柔軟にコントロールできる。
【0004】
しかし、3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を上昇させると、結晶性が低下することにより、その成形体の強度は向上するものの、成形体の生産性が低下する傾向がある。成形体に要求される機械特性を実現するためには、工業的な生産が極めて困難なレベルになるまで3-ヒドロキシヘキサノエートの組成比率を上昇させる必要があった。そのため、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を用いて良好な生産性および強度の双方を満足する成形体を得ることは難しかった。
【0005】
特許文献1では、溶融成形加工における固化性を改善して加工速度を向上させるために、2種類のポリヒドロキシアルカノエートを含有するポリエステル樹脂組成物が記載されており、その成形体の一例としてフィルムやシートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているポリエステル樹脂組成物では、良好な生産性でインフレーション成形体を製造できるが、得られたインフレーション成形体の強度が十分に高いものとはならず、成形体の強度と生産性を両立することが困難であった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有するインフレーション成形体であって、高い強度を有し、且つ良好な生産性で製造可能なインフレーション成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂成分を含有し、引張弾性率と膨潤度がそれぞれ特定の数値範囲を満足するように構成したインフレーション成形体は、高い強度を有し、且つ良好な生産性で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有し、下記要件a)及びb)を満足する、インフレーション成形体に関する。
a)引張弾性率が500MPa以上1500MPa以下
b)メチルエチルケトンに2時間浸漬して測定した膨潤度が1以上5以下
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である。
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む。
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1~5モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(B)を含む。
好ましくは、前記共重合体(A)と前記共重合体(B)の合計に対して、前記共重合体(A)の割合が35重量%以上で、前記共重合体(B)の割合が65重量%以下である。
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、さらに、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6モル%以上24モル%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(C)を含み、前記共重合体(A)、前記共重合体(B)及び前記共重合体(C)の合計に対する前記共重合体(C)の割合が、5重量%以上50重量%以下である。
好ましくは、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める前記他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有割合が、10~18モル%である。
好ましくは、前記他のヒドロキシアルカノエート単位が、3-ヒドロキシヘキサノエート単位である。
好ましくは、前記インフレーション成形体が、ヒートシールによって融着した部位を含む包装材の形態である。
好ましくは、前記インフレーション成形体の膜厚が10μm以上100μm以下である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有するインフレーション成形体であって、高い強度を有し、且つ良好な生産性で製造可能なインフレーション成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有するインフレーション成形体に関する。
【0014】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂成分は、単独のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であってもよいし、2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物であっても良いが、後述する引張弾性率と膨潤度の制御が容易であることから、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物であることが好ましい。
【0015】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位を有する重合体、具体的には、下記一般式(1)で示される単位を含む重合体であることが好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
【0016】
一般式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0017】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0018】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、重合体の構成単位として、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0019】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位を含む単独重合体又は共重合体であることが好ましい。特に、3-ヒドロキシブチレート単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート単位であることが好ましい。また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体であることが好ましい。
【0020】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、インフレーション成形体の生産性および機械特性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0021】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む場合、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、インフレーション成形体の強度と生産性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート=93/7~80/20(モル%/モル%)が好ましく、92/8~81/19(モル%/モル%)がより好ましく、90/10~82/18(モル%/モル%)がさらに好ましく、88/12~82/18(モル%/モル%)がより更に好ましく、86/14~82/18(モル%/モル%)が特に好ましく、84/16~82/18(モル%/モル%)が最も好ましい。
【0022】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル比を意味し、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である場合、混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル比を意味する。
【0023】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の重量平均分子量は、特に限定されないが、インフレーション成形体の引裂強度と生産性を両立する観点から、20万~200万が好ましく、25万~150万がより好ましく、30万~100万が更に好ましい。
【0024】
また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である場合、各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されない。しかし、例えば、後述するような高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂とを併用する場合、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、インフレーション成形体の強度と生産性を両立する観点から、20万~100万が好ましく、22万~80万がより好ましく、25万~60万が更に好ましい。一方、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、インフレーション成形体の強度と生産性を両立する観点から、20万~250万が好ましく、25万~230万がより好ましく、30万~200万が更に好ましい。また、後述するような中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂をさらに使用する場合、中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、インフレーション成形体の強度と生産性を両立する観点から、20万~250万が好ましく、25万~230万がより好ましく、30万~200万が更に好ましい。
【0025】
なお、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂又はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0026】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0027】
(他の樹脂)
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は、発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0028】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0029】
(シリカ)
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は、引裂強度や突刺し強さなどの機械特性について改良効果を得ることを目的に、更にシリカを含有しても良い。
【0030】
前記シリカとしては、特にその種類は限定されないが、汎用性の観点から、乾式法または湿式法で製造される合成非晶質シリカが好ましい。また、疎水処理または非疎水処理を施したいずれのものも使用可能であり、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0031】
前記シリカとしては、吸着水分量が0.5重量%以上7重量%以下のシリカが好ましい。吸着水分量は、例えば研精工業株式会社製電磁式はかりMX-50を用いて160℃における揮発分を吸着水分量として測定することができる。吸着水分量が7重量%より大きい場合、シリカ表面や粒子間に吸着した水分の凝集力で分散しにくくなってインフレーション成形時にフィッシュアイとなって外観不良を起こす場合がある。また逆に0.5重量%未満の場合には、この僅かに粒子間の残った水分が架橋液膜を形成して表面張力で大きな結合力を生み、分離・分散が極端に難しくなる傾向がある。
【0032】
前記シリカの平均一次粒子径は、インフレーション成形体の引裂強度を向上させることができ、フィッシュアイ等の外観上の欠陥を生じにくく、透明性を大きく損なうことがなければ特に限定されないが、引裂強度等の機械的特性の向上効果が得られやすく、透明性に優れている点で0.001~0.1μmであることが好ましく、0.005~0.05μmであることが特に好ましい。なお、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察した任意の50個以上の一次粒子の径を算術平均することにより求められる。
【0033】
前記シリカの配合量(総配合量)は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、1~12重量部であることが好ましい。1重量部より少ないと、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分と複合化した際に引裂強度などの機械特性について前記シリカの配合による十分な改良効果を発現できない場合がある。また、12重量部より多い場合は、シリカを良好に分散させることが難しくなる場合がある。前記シリカの配合量は、2重量部以上がより好ましく、4重量部以上がさらに好ましい。また、11重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
【0034】
前記シリカの分散性を向上させることを目的に、前記シリカと、分散助剤を併用することが好ましい。
【0035】
前記分散助剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物などが例示される。これらのうち、樹脂成分への親和性に優れブリードしにくいことから、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプリレート、グリセリンジアセトモノデカノエートなどの変性グリセリン系化合物;ジエチルヘキシルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸エステル系化合物;ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジカプリレート、ポリエチレングリコールジイソステアレートなどのポリエーテルエステル系化合物が好ましく、更には、バイオマス由来成分を多く含むものが、組成物全体のバイオマス度を高めることができることから特に好ましい。このような分散助剤としては、理研ビタミン株式会社のアセチル化モノグリセライドBIOCIZERやPLシリーズ、ROQUETTE社のPolysorbシリーズなどが例示される。分散助剤は一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
前記分散助剤の配合量(総配合量)は、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して0.1~20重量部であることが好ましい。0.1重量部未満では、シリカの分散助剤としての機能を十分に発揮させることができない場合や、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分と複合化した際に引裂強度などの機械特性について前記シリカの配合による十分な改良効果を発現できない場合がある。一方、20重量部を超えると、ブリードアウトの原因になる場合がある。前記分散助剤の配合量は、0.3重量部以上がより好ましく、0.5重量部以上がさらに好ましい。また、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0037】
(添加剤)
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は、発明の効果を阻害しない範囲において、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0038】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。また、結晶化核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0039】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。また、滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0040】
可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、2~15重量部がより好ましく、3~10重量部がさらに好ましい。また、可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0041】
(インフレーション成形体の引張弾性率)
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は、引張弾性率が500MPa以上1500MPa以下を満足するものである。該引張弾性率が1500MPaを超えると、インフレーション成形体が十分なレベルの引裂強度又は突刺し強さを有することが困難となる。また、前記引張弾性率が500MPa未満であると、インフレーション成形体に力を加えて変形させた後に形状が復元しにくく、インフレーション成形体の使用性が悪化する傾向がある。
【0042】
前記引張弾性率は、1400MPa以下が好ましく、1200MPa以下がより好ましく、1000MPa以下がさらに好ましく、800MPa以下が特に好ましい。また、前記引張弾性率は、600MPa以上が好ましく、700MPa以上がより好ましい。
【0043】
前記引張弾性率は、引張試験機(島津製作所製:EZ-LX 1kN)を用いて、JIS K 7127に準拠して、引張速度100mm/minの条件で、インフレーション成形体のインフレーション方向(MD方向)に、インフレーション成形体の引張試験を行ってS-Sカーブを得、該S-Sカーブに基づいて算出される。
【0044】
前記引張弾性率は、例えば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有割合を調節することによって制御することができる。
【0045】
(インフレーション成形体の膨潤度)
前記インフレーション成形体は、メチルエチルケトンに2時間浸漬して測定した膨潤度が1以上5以下を満足するものである。前記膨潤度は、前記インフレーション成形体を室温(23℃)でメチルエチルケトン中に2時間浸漬して膨潤させた後、計量をすることで、次の式により算出される。
膨潤度=(膨潤後のインフレーション成形体の重量/膨潤前のインフレーション成形体の重量)×100
前記膨潤度は、数値が1に近いほどインフレーション成形体がメチルエチルケトンを吸収しにくいことを意味し、数値が大きいほどインフレーション成形体がメチルエチルケトンを吸収しやすいことを意味する。
【0046】
前記膨潤度は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分に含まれるタイ分子の密度を示す指標である。タイ分子は、樹脂成分中の微細な樹脂結晶粒子同士を架橋する分子であり、それらによりネットワークを形成することで、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分から構成されるインフレーション成形体の引裂強度又は突刺し強さを格段に高めることができる。タイ分子の密度が高いと、インフレーション成形体がメチルエチルケトンを吸収しにくくなるので、膨潤度の数値は比較的低い数値に留まる。
【0047】
前記膨潤度が5を超えると、インフレーション成形体を製造できなかったり、たとえ製造できても、前記膨潤度が5を超えていることから、タイ分子の密度が低くなり、インフレーション成形体の引裂強度又は突刺し強さが十分に高いものとならない。前記膨潤度は4以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3以下がさらに好ましく、2.5以下が特に好ましい。
【0048】
但し、膨潤度が引裂強度又は突刺し強さに与える影響を評価する際には、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分に含まれる樹脂結晶量が同等レベルにある樹脂成分同士で比較することが望ましい。具体的には、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分に含まれる樹脂結晶量はコモノマーの含有割合に依存することから、互いにコモノマーの含有割合が同等である樹脂成分同士で比較することが望ましい。
【0049】
前記膨潤度は、例えば、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物で構成し、前記2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂をそれぞれ、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体から構成することによって制御することができる。特に、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が1~5モル%である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(A)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24モル%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(B)を含む時に、前記膨潤度を5以下に制御し、更に前記引張弾性率を500MPa以上1500MPa以下に制御することが容易である。各共重合体の詳細は後述する。
【0050】
(インフレーション成形体の引裂強度)
前記インフレーション成形体は、高い引裂強度を発現することができ、裂けにくく破れにくいものである。インフレーション成形体が示す引裂強度は、エルメンドルフ引裂強度として、2N/mm以上が好ましく、4N/mm以上がより好ましく、6N/mm以上がさらに好ましく、8N/mm以上が特に好ましくい。
【0051】
前記引裂強度の上限値は特に限定されないが、スリット加工性を考慮して、200N/mm以下が好ましく、100N/mm以下がより好ましく、80N/mm以下がさらに好ましく、60N/mm以下が特に好ましい。
【0052】
前記エルメンドルフ引裂強度は、JIS K7128-2に規定された標準エルメンドルフ引裂試験機に準拠する機能と構造を有する軽荷重引裂度試験機(熊谷理機工業株式会社製:NO.2037特殊仕様機)によって測定される値(N)を、インフレーション成形体の厚さ(mm)で除して得られた値(N/mm)である。
【0053】
(インフレーション成形体の突刺し強さ)
前記インフレーション成形体は、高い突刺し強さを発現することができ、ピンホールが生じにくいものである。インフレーション成形体が示す突刺し強さは1.2N以上が好ましく、1.5N以上がより好ましく、1.8N以上がさらに好ましく、2N以上が特に好ましくい。
【0054】
前記引裂強度の上限値は特に限定されないが、10N以下が好ましく、8N以下がより好ましく、6N以下がさらに好ましく、4N以下が特に好ましい。
【0055】
前記突刺し強さは、インフレーション成形体に、JIS Z1707に規定された直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度50mm/minの速度で突刺し、針が貫通するまでの最大試験力(N)として定義する。
【0056】
(インフレーション成形体の加熱寸法変化)
前記インフレーション成形体は、加熱時の寸法変化率として、特定範囲の数値を満足するものであって良い。具体的には、インフレーション成形体を140℃で10分間加熱した時の、インフレーション成形体のMD方向について測定した寸法変化率が-10%以上-1%以下であることが好ましく、-8%以上-1.5%以下であることがより好ましく、-5%以上-2%以下であることがさらに好ましい。また、インフレーション成形体を160℃で10分間加熱した時の、インフレーション成形体のMD方向について測定した寸法変化率が-20%以上-3%以下であることが好ましく、-18%以上-5%以下であることがより好ましく、-15%以上-8%以下であることがさらに好ましい。加熱時の寸法変化率は、JIS K7133に規定された方法に準拠して測定することができる。寸法変化率の値がマイナスである場合、インフレーション成形体が収縮したことを示す。
【0057】
(インフレーション成形体の厚み)
インフレーション成形体の厚みは特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上80μm以下がより好ましく、15μm以上60μm以下がさらに好ましい。
【0058】
(インフレーション成形体の製造方法)
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体を製造するための方法としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が共重合体を含む場合において該共重合体を構成する各モノマーの含有割合を調整する方法、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を併用する方法等が挙げられる。特に、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を併用する方法が好ましい。
【0059】
少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を併用する場合は、少なくとも1種の高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と、少なくとも1種の低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。一般に、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は生産性に優れるが機械強度が乏しい性質を有し、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は生産性に劣るが優れた機械特性を有する。両樹脂を併用すると、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が微細な樹脂結晶粒子を形成し、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が、該樹脂結晶粒子同士を架橋するタイ分子を形成すると推測される。これらの樹脂を組み合わせて使用することで、インフレーション成形体の引裂強度及び突刺し強さが格段に向上し得る。
【0060】
前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位を含む場合、該高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも高いことが好ましい。
高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該高結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、1~5モル%が好ましく、2~4モル%がより好ましい。
【0061】
前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0062】
また、前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位を含む場合、該低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に含まれる3-ヒドロキシブチレート単位の含有割合は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位の平均含有割合よりも低いことが好ましい。
低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該低結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、24~99モル%が好ましく、24~50モル%がより好ましく、24~35モル%がさらに好ましく、24~30モル%が特に好ましい。
【0063】
前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0064】
高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を併用する場合、両樹脂の合計量に対する各樹脂の使用割合は特に限定されないが、前者が35重量%以上90重量%以下で、後者が10重量%以上65重量%以下であることが好ましく、前者が45重量%以上80重量%以下で、後者が20重量%以上55重量%以下であることがより好ましい。
【0065】
好適な一実施形態によると、前記高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と、前記低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に加えて、さらに、結晶性が前記両樹脂の中間にある中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を組み合わせて使用することが好ましい。
【0066】
中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位を含む場合、該中結晶性の樹脂における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、6モル%以上24モル%未満であることが好ましく、6モル%以上22モル%以下がより好ましく、6モル%以上20モル%以下がさらに好ましく、6モル%以上18モル%以下が好ましい。
【0067】
前記中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、又は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0068】
前記中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂をさらに併用する場合、高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、及び、中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の合計に対する中結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の割合は、5重量%以上50重量%以下が好ましく、6重量%以上40重量%以下がより好ましく、7重量%以上30重量%以下がさらに好ましく、8重量%以上20重量%以下が特に好ましい。
【0069】
2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂のブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて2種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
【0070】
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は、必要に応じて樹脂成分や各種添加剤などを溶融混錬した後、インフレーション成形を実施することによって製造することができる。
前記インフレーション成形とは、先端に円筒ダイが取り付けられた押出機から溶融樹脂組成物をチューブ状に押し出し、直後に、該チューブのなかに気体を吹き込んでバルーン状にふくらませることでチューブ状の単層または多層フィルムを成形する成形方法のことをいう。当該インフレーション成形の方法は、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂をフィルム成形する際に用いられる一般的なインフレーション成形機を用いて実施することが可能である。一般的なインフレーション成形機とは、単層フィルムの成形の場合、1台の単軸押出機に1台の円筒ダイが取り付けられているものをいう。多層フィルムの成形の場合は、使用する樹脂の種類に合わせて複数の押出機から1台の円筒ダイに溶融樹脂を流し込み、ダイス内で各樹脂を積層できるものをいう。上記単軸押出機は、投入された原料樹脂を溶融混練し、所望の温度に保ちながら一定の吐出を得るものであればよい。単軸押出機のスクリュー形状等も特に限定されないが、ミキシングエレメントを備えるものが、混練性の観点から好ましい。また、円筒ダイの構造も単層、積層フィルムに合わせて適宜設計されるものであり特に限定されないが、中でも、ウエルドの発生が少なく、厚みの均一性も得やすいため、スパイラルマンドレルダイが好ましい。
【0071】
インフレーション成形における成形温度としては、樹脂が適切に溶融できる温度であれば特に限定されるものではないが、例えば135~200℃が好ましい。ここでいう成形温度とは、押出機以降からダイから吐出するまでの間の樹脂温度のことを指す。樹脂温度は、一般的には例えばアダプターに設置された温度計により測定することができる。
【0072】
インフレーション成形における引取速度としては、成形体の膜厚、幅、樹脂吐出量により決定されるが、バルーン安定性を維持できる範囲で調整可能である。一般的に1~50m/分が好ましい。
【0073】
インフレーション成形においては、バルーンの外側から吹き付けるエアリングを、吐出した溶融樹脂を固化させてバルーンを安定させるために用いることができる。好適に用いられるエアリングの吹き付け構造としては、エアの吹き出す環状のスリットが複数設けられ、各スリット間にあるチャンバーによりバルーンの安定化が促進されるスリットタイプのものである。
【0074】
インフレーション成形の後、チューブ状の成形フィルムをピンチロールで折り重ねた状態で巻き取りロールまで引き取る工程や、巻き取り後に折り重ねた成形フィルムを容易に剥離させるため、ピンチロールで折り重なったフィルムの界面にエアを吹き込む工程、引き取りの途中で、用途に合わせてフィルムをカットする工程などを行ってもよい。カット方式としては、折り重ねられたチューブ状成形フィルムの幅方向の両端をカットして2枚のフィルムを形成する方式や、チューブ状成形フィルムを幅方向にホットカットすると共に、ヒートシールによって融着を行うことで袋形状のフィルムを形成する方式などがある。また、カットしやすいように、カット直前で折り重なったフィルムの界面にエアを吹き込む工程を含んでもよい。また、折り重ねられた状態のチューブ状フィルムの両端を内側に折り込む、いわゆるガゼット折りをする工程を行ってもよい。また、ピンチロールで折り重ねた後、巻き取り前までにフィルム表面に印刷する工程を行ってもよく、さらに印刷密着性を向上させるために、印刷前にフィルム表面にコロナ処理を行ってもよい。印刷方法としては、特に限定されるものではないが、グラビア印刷やフレキソ印刷が挙げられる。
【0075】
本発明の一実施形態に係るインフレーション成形体は優れた生分解性を有しているため、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、食品産業、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に用いることができる。例えば、ゴミ袋、レジ袋、野菜・果物の包装袋、ピロー包装、宅配用袋、農業用マルチフィルム、林業用燻蒸シート、フラットヤーン等を含む結束テープ、植木の根巻フィルム、おむつのバックシート、包装用シート、ショッピングバック、水切り袋、その他コンポストバック等の用途に用いられる。特に、前記インフレーション成形体は、ヒートシールによって融着した部位を含む包装材(例えば、各種の袋など)の形態であることが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0077】
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂]
P3HB3HH-1:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=97.2/2.8(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例2に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-2:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=71.8/28.2(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例9に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-3:X131A(カネカ生分解性ポリマーPHBH(登録商標))(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は60万g/mol)
P3HB3HH-4:P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=83/17(モル%/モル%、重量平均分子量は70万g/mol)
国際公開広報WO2019/142845号の実施例7に記載の方法に準じて製造した。
【0078】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分として2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物を使用する場合、表1中の平均HH割合は、各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂における3HH割合と、各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量割合とから算出した平均値である。
【0079】
[添加剤]
添加剤-1:ペンタエリスリトール(三菱化学社製:ノイライザーP)
添加剤-2:ベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)
添加剤-3:エルカ酸アミド(日本精化社製:ニュートロン-S)
【0080】
実施例および比較例において実施した評価方法に関して、以下に説明する。
・インフレーション成形によるフィルムの取得
φ50mm単軸押出機とインフレーション成形ダイ(ダイ径100mm、リップクリアランス1.0mm)を有するインフレーション成形機(北進産業株式会社製)を用いて、後述する樹脂組成物ペレットを押出機に投入し、吐出10kg/h、樹脂温度165℃、インフレーションフィルムの折幅400mm(ブローアップ比2.55)、引取り速度5m/minで、厚み30μmのインフレーションフィルムを取得した。取得したフィルムは60℃で1週間養生した後、以下の各評価に供した。
【0081】
・引張弾性率の測定
得られたフィルムについて、そのインフレーション方向(MD方向)に、引張試験機(島津製作所製:EZ-LX 1kN)を用いて、JIS K 7127に準拠して、試験片タイプ5を用い、引張速度100mm/minの条件で引張試験を行った。引張試験により得られたS-Sカーブに基づき、引張弾性率の算出を行った。
【0082】
・膨潤度の測定
得られたフィルムを約0.5gの重量になるようにカットして膨潤前のサンプルとし、電子天秤を用いて正確な重量を量った。その後、室温(23℃)でメチルエチルケトン(MEK)中に2時間浸漬した。浸漬後、サンプルを取り出し、表面に付着したMEKを素早くキムワイプで拭き取り、膨潤後のサンプル重量を量った。次の式により、膨潤度を算出し、サンプルの膨潤度とした。
膨潤度=(膨潤後のサンプル重量/膨潤前のサンプル重量)×100
【0083】
・引裂強度の測定
得られたフィルムの引裂強度を、JIS K7128-2に規定された標準エルメンドルフ引裂試験機に準拠する機能と構造を有する軽荷重引裂度試験機(熊谷理機工業株式会社製:NO.2037特殊仕様機)を用いて測定した。測定された値をフィルムサンプルの厚さ(mm)で除し、フィルムサンプルのエルメンドルフ引裂強度(N/mm)とした。
【0084】
・突刺し強さの測定
得られたフィルムに、JIS Z1707に規定された直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を試験速度50mm/minの速度で突刺し、針が貫通するまでの最大試験力(N)を測定した。
【0085】
・加熱寸法変化の測定
得られたフィルムを、JIS K7133に規定された方法に準拠して加熱温度140℃又は160℃、加熱時間10分で加熱した後のMD方向の寸法変化を測定した。値がマイナスである場合、フィルムが収縮したことを示す。
【0086】
(実施例1)
表1に記載の樹脂組成となるようにP3HB3HH-1にP3HB3HH-2をブレンドしたもの100重量部に対し、添加剤-1を1.0重量部、添加剤-2および添加剤-3をそれぞれ0.5重量部になるよう配合し、二軸押出機(TEM25 東芝機械製)を用いバレル温度160℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量10kg/h条件で混練し、ダイから溶融混錬されたストランドを出し、40℃に加熱した水槽中にストランドを投入し固化させ、ペレタイザーにてカットすることで樹脂組成物ペレットとした。
前記樹脂組成物ペレットを用いて、上述のようにインフレーション成形機にてフィルムを作製し、1週間養生後に、引張弾性率、膨潤度、引裂強度、突刺し強さ、及び、加熱寸法変化を測定した。測定した結果を表1にまとめた。
【0087】
(実施例2~3、比較例1~3)
樹脂配合を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを作製し、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1にまとめた。
【0088】
尚、比較例3ではインフレーション成形で樹脂が固化せず、インフレーションフィルムを取得できなかった。しかし、比較例3の樹脂組成物ペレットを用いて、下記に示す方法によってプレスフィルムを作製した。
当該プレスフィルムについて、上述の測定方法によって膨潤度を測定したところ、膨潤度は5.12であった。
【0089】
・プレスフィルムの作製
2mm厚のSUS板(30cm×35cm)の上にポリイミドフィルムを設置し、前記ポリイミドフィルム上に2.0gの樹脂組成物ペレットを置いた。さらに、前記樹脂組成物ペレットを囲うようにスペーサーとして200μm厚のシムプレートを設置した。その後、前記樹脂組成物ペレットを挟むように前記SUS板と同じ板を被せ、170℃に加熱したプレス機(株式会社神藤金属工業所製:圧縮成形機NSF-50)の加熱プレス板上に設置し、5分間予熱した。予熱後、2分間の時間をかけながら徐々に5MPaまで加圧した後、2分間圧力を保持した。プレス完了後、およそ20℃に冷却された冷却板上で室温まで冷却し、約200μm厚のフィルムを得た。このフィルムを室温23℃、湿度50%の環境中で1週間養生し、フィルムサンプルとした。
【0090】
【0091】
表1より以下のことが分かる。実施例1~3の各インフレーションフィルムは、引張弾性率が500MPa以上1500MPa以下、膨潤度が1以上5以下の範囲内にあるもので、高い引裂強度および高い突刺し強さを有していた。
【0092】
一方、比較例1のインフレーションフィルムは、膨潤度が1以上5以下の範囲内にあったが、引張弾性率が高すぎるもので、引裂強度が低いものであった。また、比較例2のインフレーションフィルムも引張弾性率が高すぎるもので、引裂強度および突刺し強さが低いものであった。更に、比較例3は、膨潤度が5を超える材料を使用したもので、平均HH割合が実施例1又は2と同レベルにあるにも関わらず、インフレーション成形で樹脂が固化せず、インフレーションフィルムを取得することができなかった。