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特許7549502電動車両のバッテリ管理システム、及び、電動車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】電動車両のバッテリ管理システム、及び、電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 58/16 20190101AFI20240904BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240904BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240904BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240904BHJP
   G01C 21/36 20060101ALI20240904BHJP
   G08G 1/0968 20060101ALI20240904BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240904BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
B60L58/16
B60L3/00 S
B60L15/20 J
B60L50/60
G01C21/36
G08G1/0968 B
B60W60/00
H02J7/00 Y
H02J7/00 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020167370
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059540
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】中川 功
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/044597(WO,A1)
【文献】特開2018-067172(JP,A)
【文献】特開2020-137412(JP,A)
【文献】特開2011-158277(JP,A)
【文献】特開2020-077385(JP,A)
【文献】特開2019-192630(JP,A)
【文献】国際公開第2020/044719(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/090341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
G08G 1/00 - 99/00
B60W 10/00 - 60/00
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータに電力を供給するバッテリを有する複数の電動車両と、
複数の前記電動車両と通信可能な情報処理部とを有する電動車両のバッテリ管理システムであって、
前記電動車両は、
前記バッテリの劣化状態を検出する劣化状態検出部と、
前記バッテリの使用状態を検出する使用状態検出部とを有し、
前記情報処理部は、
複数の前記電動車両の前記劣化状態及び前記使用状態に関する情報を蓄積するバッテリ情報蓄積部と、
前記バッテリ情報蓄積部に蓄積され、前記バッテリの劣化進行を推定すべき特定の前記電動車両の使用条件に類似する使用条件で運行された他の複数の前記電動車両の現在の前記バッテリの劣化状態及び現在までの前記バッテリの使用状態の情報に基づいて前記バッテリの将来的な劣化状態の推移を推定する推定バッテリ劣化ラインを生成するバッテリ劣化推定マップ生成部と、
保証されるバッテリの劣化状態の推移となるように設定されている標準バッテリ劣化ラインと前記推定バッテリ劣化ラインとを比較し、該推定バッテリ劣化ラインの劣化状態の推移が所定以上に悪化することが推定される場合、特定の前記電動車両の制御を前記バッテリの劣化が抑制される方向に変更する車両制御変更部と
を備えることを特徴とする電動車両のバッテリ管理システム。
【請求項2】
前記電動車両は、操舵及び加減速を自動的に行う自動運転機能を備えること
を特徴とする請求項1に記載の電動車両のバッテリ管理システム。
【請求項3】
前記車両制御変更部は、自動運転制御におけるルート設定を、加減速及び登坂のうち少なくとも一つの回数が減るよう変更すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車両のバッテリ管理システム。
【請求項4】
前記車両制御変更部は、前記走行用モータの制御を、前記走行用モータの出力を抑制するよう変更すること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電動車両のバッテリ管理システム。
【請求項5】
走行用モータに電力を供給するバッテリを有する電動車両であって、
前記バッテリの劣化状態を検出する劣化状態検出部と、
前記バッテリの使用状態を検出する使用状態検出部と、
前記劣化状態及び前記使用状態に関する情報を車外に設けられる情報処理部に送信するとともに、前記情報処理部において、特定の前記電動車両の使用条件に類似する使用条件で運行された他の複数の前記電動車両の現在の前記バッテリの劣化状態及び現在までの前記バッテリの使用状態の情報に基づいて、他の複数の該電動車両のバッテリの将来的な劣化状態の推移を推定する推定バッテリ劣化ラインを生成し、保証されるバッテリの劣化状態の推移となるように設定されている標準バッテリ劣化ラインと前記推定バッテリ劣化ラインとを比較し、該推定バッテリ劣化ラインの劣化状態の推移が所定以上に悪化すると推定された場合に前記情報処理部が送信する車両制御変更指令を受信する通信部とを備え、
前記車両制御変更指令の受信に応じて、特定の前記電動車両における制御を前記バッテリの劣化が抑制される方向に変更すること
を特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両のバッテリの劣化状態に応じて車両の制御を最適化する電動車両のバッテリ管理システム及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン-電気ハイブリッド自動車や、電気自動車(いわゆるピュアEV)などの電動車両において、走行用モータに電力を供給する走行用バッテリの劣化が過度に進行すると、車両の出力や航続距離などの性能に悪影響を及ぼすことから、バッテリの劣化の進行が所定の正常範囲内となるよう、劣化状態を適切に判別するとともに、劣化の進行を抑制するようバッテリの充放電などを適切に制御することが求められる。
【0003】
電動車両のバッテリ管理に関する従来技術として、例えば特許文献1には、車重、外気温、総走行時間などの劣化関連パラメータに基づく劣化パラメータ係数を、バッテリの電力消費制御に反映させること、及び、車両の運転終了時の実バッテリ残量に基づいて実バッテリ劣化度を算出し、劣化パラメータ係数算出用テーブルを修正することが記載されている。
また、車両に関するものではないが、特許文献2には、通信ネットワークを介して、蓄電池システムを示す識別情報、蓄電池の状態を示す特性データを受信し、特性データに基づいてデータベースに管理された他の蓄電池の劣化傾向を示した劣化モデルを用いて劣化モデルを判断すること、及び、蓄電池の劣化を抑制する制御データを生成することが記載されている。
また、特許文献3には、電動車両等に用いられる充電可能な電池の交換を管理するための電池交換管理システムにおいて、複数の電動車両間で電池の劣化を均一化するため、蓄積された各電池の充電情報から、例えば、充電回数又は満充電容量等をもとに、各電池の劣化度を推定し、各電池の劣化度を他の電池の劣化度と比較し、劣化度の差が所定の閾値以上の電池が使われている電動車両の間で電池の交換を促すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-115863号公報
【文献】国際公開WO2013/140781号公報
【文献】特開2015- 27223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動車両の走行用バッテリの場合には、車両が使用される環境(一例として寒暖差や道路の状態)や、走行の仕方などに応じて、例えば産業用の蓄電池などに対して、バッテリの劣化状態のばらつきが大きくなる傾向がある。
これに対し、例えば車両の仕向地などから通常発生し得る使用条件を想定し、バッテリの劣化が過度に進行しないよう、予めバッテリの充放電時の電力(電流値など)を制限するなどして、バッテリを保護する制御を製品に実装することも考えられるが、この場合、大部分の車両に対しては保護が過剰な状態となり、バッテリ本来の性能を引き出すことができず車両の性能に制約が生じてしまう。
また、想定した使用条件に対して特異的にシビアな使用をされた場合、バッテリの劣化進行を十分に抑制することができず、車両に著しい性能低下が生ずることが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、車両の制御をバッテリの劣化状態に応じて最適化することが可能な電動車両のバッテリ管理システム及び電動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
本発明の第1の態様によれば、電動車両のバッテリ管理システムは、走行用モータに電力を供給するバッテリを有する複数の電動車両と、複数の前記電動車両と通信可能な情報処理部とを有する電動車両のバッテリ管理システムであって、前記電動車両は、前記バッテリの劣化状態を検出する劣化状態検出部と、前記バッテリの使用状態を検出する使用状態検出部とを有し、前記情報処理部は、複数の前記電動車両の前記劣化状態及び前記使用状態に関する情報を蓄積するバッテリ情報蓄積部と、前記バッテリ情報蓄積部に蓄積され、前記バッテリの劣化進行を推定すべき特定の前記電動車両の使用条件に類似する使用条件で運行された他の複数の前記電動車両の現在の前記バッテリの劣化状態及び現在までの前記バッテリの使用状態の情報に基づいて前記バッテリの将来的な劣化状態の推移を推定する推定バッテリ劣化ラインを生成するバッテリ劣化推定マップ生成部と、保証されるバッテリの劣化状態の推移となるように設定されている標準バッテリ劣化ラインと前記推定バッテリ劣化ラインとを比較し、該推定バッテリ劣化ラインの劣化状態の推移が所定以上に悪化することが推定される場合、特定の前記電動車両の制御を前記バッテリの劣化が抑制される方向に変更する車両制御変更部とを備えることを特徴とする。
これによれば、複数の電動車両の劣化状態検出部、及び、使用状態検出部から得た情報を蓄積し、蓄積された情報に基づいてバッテリの劣化状態を推定することにより、単一の車両において車上で推定を行う場合に対して、現在及び将来的なバッテリの劣化状態を精度よく推定することができる。
そして、複数の電動車両のうち、バッテリの将来的な劣化状態が所定以上に悪化すると推定される個体の車両側の制御を、バッテリの劣化が抑制される方向に変更することによって、個々の電動車両のバッテリの劣化を適切に抑制することができる。
このため、各電動車両に予め実装される制御の内容を、過度に大きな安全マージンを設けた設定とする必要がなく、バッテリの能力をより引き出して電動車両の性能を向上することができる。
【0007】
本発明の第1の態様において、さらに、前記電動車両は、操舵及び加減速を自動的に行う自動運転機能を備える構成とすることができる。
これによれば、電動車両が自動運転機能を有することにより、ドライバの運転操作等の人為的なばらつきの影響を排し、バッテリの劣化状態の推定精度を向上するとともに、バッテリの劣化を抑制するための車両側の制御をより適切に行うことができる。
【0008】
本発明の第1の態様において、さらに、前記車両制御変更部は、自動運転制御におけるルート設定を、加減速及び登坂のうち少なくとも一つの回数が減るよう変更する構成とすることができる。
また、本発明の第1の態様において、さらに、前記車両制御変更部は、前記走行用モータの制御を、前記走行用モータの出力を抑制するよう変更する構成とすることができる。
これらの各発明によれば、バッテリの使用条件を緩和することにより、バッテリの劣化進行を確実に抑制することができる。
【0009】
本発明の第2の態様によれば、走行用モータに電力を供給するバッテリを有する電動車両であって、前記バッテリの劣化状態を検出する劣化状態検出部と、前記バッテリの使用状態を検出する使用状態検出部と、前記劣化状態及び前記使用状態に関する情報を車外に設けられる情報処理部に送信するとともに、前記情報処理部において、特定の前記電動車両の使用条件に類似する使用条件で運行された他の複数の前記電動車両の現在の前記バッテリの劣化状態及び現在までの前記バッテリの使用状態の情報に基づいて、他の複数の該電動車両のバッテリの将来的な劣化状態の推移を推定する推定バッテリ劣化ラインを生成し、保証されるバッテリの劣化状態の推移となるように設定されている標準バッテリ劣化ラインと前記推定バッテリ劣化ラインとを比較し、該推定バッテリ劣化ラインの劣化状態の推移が所定以上に悪化すると推定された場合に前記情報処理部が送信する車両制御変更指令を受信する通信部とを備え、前記車両制御変更指令の受信に応じて、特定の前記電動車両における制御を前記バッテリの劣化が抑制される方向に変更することを特徴とする。
これによれば、上述した第1の態様の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、車両の制御をバッテリの劣化状態に応じて最適化することが可能な電動車両のバッテリ管理システム及び電動車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した電動車両のバッテリ管理システムの実施形態におけるクライアントである電動車両(実施形態の電動車両)の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図2】実施形態のバッテリ管理システムの構成を模式的に示すブロック図である。
図3】実施形態のバッテリ管理システムの機能を示す図である。
図4】実施形態の電動車両におけるバッテリの劣化の進行の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した電動車両のバッテリ管理システム(以下単に「バッテリ管理システム」と称する)、及び、電動車両の実施形態について説明する。
実施形態のバッテリ管理システムは、クライアントである複数の電動車両に搭載された走行用のバッテリの将来的な劣化状態SOHを推定するとともに、バッテリの将来的な劣化状態SOHが所定以上に悪化すると推定される場合に、当該電動車両の車両の制御を、バッテリの劣化を抑制するように変更する情報処理部であるサーバを備えている。
【0013】
図1は、実施形態のバッテリ管理システムにおけるクライアントである電動車両(以下、「車両」と称する。実施形態の電動車両でもある。)の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
図1に示す車両Vは、例えば、乗用車等の自動車であり、エンジン-電気パラレルハイブリッド車両である。
【0014】
車両Vは、一例として、エンジン10、エンジン制御ユニット100、トルクコンバータ110、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、フロントディファレンシャル160、リアディファレンシャル170、トランスファクラッチ180、モータジェネレータ190、バッテリ200、トランスミッション制御ユニット210、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220、自動運転制御ユニット300、環境認識ユニット310、操舵制御ユニット320、ブレーキ制御ユニット330、通信装置340等を備えたエンジン電気ハイブリッドのAWD車両である。
【0015】
エンジン10は、モータジェネレータ190とともに、車両Vの走行用動力源として搭載される例えば4ストローク水平対向4気筒の直噴(筒内噴射)ガソリンエンジンである。
エンジン10の出力は、後述する動力伝達機構を介して、車両Vの駆動輪に伝達される。
【0016】
エンジン制御ユニット(ECU)100は、エンジン10及びその補器類を統括的に制御する制御装置である。
エンジン制御ユニット100は、例えば、自動運転制御ユニット300からの指令に応じて、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220が設定する要求トルクに応じて、実際のトルクが要求トルクに達するようスロットルバルブの開度、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期、バルブタイミング等を制御する。
【0017】
トルクコンバータ110は、エンジン10の出力をエンジンクラッチ120に伝達する流体継手である。
トルクコンバータ110は、車両が停止状態からエンジントルクを伝達可能な発進デバイスとしての機能を有する。
また、トルクコンバータ110は、トランスミッション制御ユニット210によって制御され、入力側(インペラ側)と出力側(タービン側)とを直結する図示しないロックアップクラッチを備えている。
【0018】
エンジンクラッチ120は、トルクコンバータ110と前後進切替部130との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
エンジンクラッチ120は、例えば、車両Vがエンジン10を停止してモータジェネレータ190の出力のみによって走行するEV走行モード時等において、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切断される。
【0019】
前後進切替部130は、エンジンクラッチ120とバリエータ140との間に設けられ、トルクコンバータ110とバリエータ140とを直結する前進モードと、トルクコンバータ110の回転出力を逆転させてバリエータ140に伝達する後退モードとを、トランスミッション制御ユニット210からの指令に応じて切り換えるものである。
前後進切替部130は、例えば、プラネタリギヤセット等を有して構成されている。
【0020】
バリエータ140は、前後進切替部130から伝達されるエンジン10の回転出力、及び、モータジェネレータ190の回転出力を、無段階に変速する変速機構部である。
バリエータ140は、例えば、プライマリプーリ141、セカンダリプーリ142、チェーン143等を有するチェーン式無段変速機(CVT)である。
プライマリプーリ141は、車両Vの駆動時におけるバリエータ140の入力側(回生発電時においては出力側)に設けられ、エンジン10及びモータジェネレータ190の回転出力が入力される。
セカンダリプーリ142は、車両Vの駆動時におけるバリエータ140の出力側(回生発電時においては入力側)に設けられている。
セカンダリプーリ142は、プライマリプーリ141と隣接しかつプライマリプーリ141の回転軸と平行な回転軸回りに回動可能となっている。
チェーン143は、環状に形成されてプライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142に巻き掛けられ、これらの間で動力伝達を行うものである。
プライマリプーリ141及びセカンダリプーリ142は、それぞれチェーン143を挟持する一対のシーブを有するとともに、トランスミッション制御ユニット210による変速制御に応じて各シーブ間の間隔を変更することによって、有効径を無段階に変更可能となっている。
【0021】
出力クラッチ150は、バリエータ140のセカンダリプーリ142と、フロントディファレンシャル160及びトランスファクラッチ180との間に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
出力クラッチ150は、車両Vの走行時には通常接続状態とされるとともに、例えば車両Vの停車中にエンジン10の出力によってモータジェネレータ190を駆動してバッテリの充電を行う場合等に切断される。
【0022】
フロントディファレンシャル160は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の前輪に伝達するものである。
フロントディファレンシャル160は、最終減速装置、及び、左右前輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
出力クラッチ150とフロントディファレンシャル160との間は、直結されている。
【0023】
リアディファレンシャル170は、出力クラッチ150から伝達される駆動力を、左右の後輪に伝達するものである。
リアディファレンシャル170は、最終減速装置、及び、左右後輪の回転速度差を吸収する差動機構を備えている。
【0024】
トランスファクラッチ180は、出力クラッチ150からリアディファレンシャル170へ駆動力を伝達する後輪駆動力伝達機構の途中に設けられ、これらの間の動力伝達経路を接続又は切断するものである。
トランスファクラッチ180は、例えば、接続時の締結力(伝達トルク容量)を無段階に変更可能な油圧式あるいは電磁式の湿式多板クラッチである。
トランスファクラッチ180の締結力は、トランスミッション制御ユニット210によって制御されている。
トランスファクラッチ180は、締結力を変更することによって、前後輪の駆動トルク配分を調節可能となっている。
また、トランスファクラッチ180は、車両Vの旋回時や、ブレーキのアンチロック制御、車両挙動制御などの実行時に、前後輪の回転速度差を許容する必要がある場合には、締結力を低下(開放)させスリップさせることによって回転速度差を吸収する。
【0025】
モータジェネレータ190は、車両Vの駆動力を発生するとともに、減速時に車輪側から伝達されるトルクによって回生発電を行い、エネルギ回生を行う回転電機(走行用モータ)である。
モータジェネレータ190は、バリエータ140のプライマリプーリ141と同心(同軸上)に設けられている。
プライマリプーリ141は、モータジェネレータ190の図示しないロータと回転軸を介して接続されている。
モータジェネレータ190として、例えば、永久磁石式同期電動機が用いられる。
モータジェネレータ190は、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220によって駆動時の出力トルク、及び、回生発電時の回生エネルギ量(入力トルク)を制御されている。
【0026】
モータジェネレータ190は、駆動時にはインバータ191を介してバッテリ200から電力供給を受けるようになっている。
インバータ191は、バッテリ200が放電する直流電力を交流化してモータジェネレータ190に供給するものである。
また、インバータ191と同一のユニット内には、モータジェネレータ190が回生発電時に出力する交流電力を直流化してバッテリ200に供給するACDCコンバータも設けられている。
【0027】
バッテリ200は、インバータ191を介してモータジェネレータ190に電力を供給し、また、モータジェネレータ190が回生発電する電力により充電される二次電池(走行用バッテリ)である。
バッテリ200として、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などを用いることができる。
バッテリ200は、例えば約300Vの定格電圧を有する高電圧バッテリであり、主に車両Vの走行用電力を出力する。
実施形態のバッテリ管理システムは、複数のクライアント車両V1、V2,V3・・・(図2参照)がそれぞれ有する走行用のバッテリ200を管理するものである。
この点については、後に詳しく説明する。
【0028】
バッテリ200には、バッテリ制御ユニット201、冷却装置202が設けられている。
バッテリ制御ユニット201は、バッテリ200内に設けられたバッテリセルの電圧、出力可能電流、充放電電流、充放電履歴、温度等の環境情報、充電状態(State Of Charge, 以下SOC)、劣化状態(State of Health, 以下SOH)の検出機能及び演算機能を有する。
【0029】
SOCは、満充電状態を100%、完全放電状態を0%とした場合における現在の充電率をパーセンテージで表した値である。
SOHは、バッテリ200の健全度、劣化状態を示す指標であり、新品時の満充電容量を100%とした場合において、劣化時の満充電容量の割合をパーセンテージで表した値である。
SOHは、例えば、バッテリ200の放置時間、環境温度、充放電電流、充放電頻度をパラメータとし、予め設定された関数を用いて演算する構成とすることができる。
バッテリ制御ユニット201は、バッテリ200の劣化状態SOHを検出する劣化状態検出部、及び、バッテリ200の使用状態を検出する使用状態検出部として機能する。
【0030】
また、バッテリ制御ユニット201は、バッテリセルが適切な温度範囲に維持されるよ
う、冷却装置202を制御する機能を有する。
冷却装置202は、車両Vの走行中などにバッテリ200が過度に昇温することを防止するため、バッテリ200の冷却を行うものである。
また、冷却装置202は、必要に応じて、車両Vの走行前に予めバッテリ200を冷却しておく事前冷却、及び、車両Vの走行後(ドライビングサイクルの終了後。一例として車両Vの主電源スイッチであるイグニッションスイッチのオフ後)に、バッテリ200を所定の目標温度まで冷却する事後冷却を行う。
【0031】
トランスミッション制御ユニット210は、トルクコンバータ110のロックアップクラッチ、エンジンクラッチ120、前後進切替部130、バリエータ140、出力クラッチ150、トランスファクラッチ180等を統括的に制御するものである。
【0032】
ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220は、モータジェネレータ190の出力トルクや、回生制動時の制動力(発電量)等を制御するとともに、バッテリ制御ユニット201と協働してバッテリ200の充放電を制御するものである。
ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220は、エンジン制御ユニット100との協調制御により、自動運転制御ユニット300が設定する要求トルクに対するエンジン10とモータジェネレータ190との出力分担比を設定する。
また、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220は、バッテリ制御プログラムによる制御に応じて、自動運転制御ユニット300が設定する要求制動力に対するモータジェネレータ190の回生発電ブレーキと液圧式サービスブレーキとの制動力分担比を設定する。
このとき、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220は、バッテリ制御プログラムにより設定されるバッテリ200の充放電電力の制限値を超過しないよう、モータジェネレータ190の出力トルク、回生発電量を制御する。
【0033】
ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220は、バッテリ200の充放電の頻度や、充放電される電力を制限し、バッテリ200を過度の劣化から保護するバッテリ制御プログラムを保持している。
バッテリ200が放電する際の電力の制限は、例えば、モータジェネレータ190の駆動時における出力トルクの制限によって行うことができる。
バッテリ200が充電される際の電力の制限は、例えば、モータジェネレータ190の回生発電時における回生発電量の制限によって行うことができる。
【0034】
自動運転制御ユニット300は、車両を自動的に走行させる自動運転制御を行うものである。
自動運転制御ユニット300は、図示しない入力部から乗員などのユーザが設定する目的地に応じてルート(経路)を設定するとともに、環境認識ユニット310などからの情報に基づいて自車両の目標走行軌跡、目標車速推移などの自動運転シナリオを生成し、自車両の実際の走行軌跡、車速推移が自動運転シナリオに一致するよう、車両Vの駆動、制動、操舵などを統括的に制御する。
なお、自動運転制御におけるルートは、バッテリ200の将来的な劣化状態SOHが所定以上悪化すると推定される場合に、サーバ400からの指令により変更される場合がある。
この点については、後に詳しく説明する。
【0035】
環境認識ユニット310は、各種のセンサ等を用いて、自車両周囲の道路形状や、他車両、歩行者、建築物、地形などの障害物に関する情報を取得するものである。
環境認識ユニット310には、例えば、センサとしてステレオカメラ装置、単眼カメラ装置、ミリ波レーダ装置、3Dレーザスキャナ(LIDAR)装置、後側方レーダ装置などが接続されている。
環境認識ユニット310が取得した自車両周囲の環境に関する情報は、自動運転制御ユニット300に伝達される。
【0036】
操舵制御ユニット320は、車両Vの前輪を操向する操舵装置及びその補機類(センサ等)を統括的に制御するものである。
操舵制御ユニット320は、例えば、タイロッドを介して前輪が取り付けられるハブベアリングハウジング(ナックル)に連結されたステアリングラック軸を、車幅方向に並進駆動する電動モータ(アクチュエータ)の出力及び駆動量を制御する機能を有する。
操舵制御ユニット320は、自動運転時には、自動運転制御ユニット300からの指令に応じて、自車両の軌跡が目標走行軌跡と一致するよう電動モータを制御する。
【0037】
ブレーキ制御ユニット330は、車両Vの各車輪に設けられる液圧式サービスブレーキのブレーキフルード液圧を制御するものである。
ブレーキ制御ユニット330は、各車輪の液圧式サービスブレーキのホイルシリンダ液圧を個別に制御する図示しないハイドロリックコントロールユニットに指令を与える。
ハイドロリックコントロールユニットは、例えば、ブレーキフルードを加圧する電動ポンプ、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を個別に制御する電磁弁などを備えている。
【0038】
ブレーキ制御ユニット330は、アンチロックブレーキ制御や、車両にオーバステア挙動、アンダステア挙動が発生した場合に、左右前輪又は左右後輪の制動力差を生じさせて挙動を抑制するモーメントを発生させる車両安定化制御などを行う機能を有する。
車両Vの自動運転時においては、ブレーキ制御ユニット330は、自動運転制御ユニット300から指示される目標減速度に応じて、液圧式サービスブレーキの制動力を制御する。
また、ブレーキ制御ユニット330は、モータジェネレータ190による回生発電ブレーキと、液圧式サービスブレーキとの協調制動制御を行う機能を有する。
協調制動制御においては、ブレーキ制御ユニット330は、ハイブリッドパワートレーン制御ユニット220と協働して、モータジェネレータ190による回生発電量の制限値を超過しないよう、液圧式サービスブレーキと回生発電ブレーキとの制動力分担を設定する。
【0039】
通信装置340は、後述するサーバ400と通信を行うものである。
通信装置340は、例えば、無線を用いた移動体通信システムの端末機器を有する。
上述した各ユニット及び通信装置340は、例えば車載LANシステムの一種であるCAN通信システム等を介して、相互に通信し、必用な情報の伝達が可能となっている。
また、上述した各ユニットは、それぞれCPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
【0040】
図2は、実施形態のバッテリ管理システムの構成を模式的に示すブロック図である。
実施形態のバッテリ管理システムは、上述した電動車両(車両V)と同様の構成を有する複数のクライアント車両V1,V2,V3,・・Vn(nは整数)と、例えばインターネット等のネットワークを介して通信可能に接続された情報処理部であるサーバ400を備えている。
サーバ400は、クライアント車両管理部410、バッテリ情報蓄積部420、バッテリ劣化推定マップ生成部430、通信装置440等を有する。
【0041】
クライアント車両管理部410は、個々のクライアント車両V1等と通信装置440を介して通信し、車上で検出されたバッテリ200の劣化状態(SOH)、及び、使用状態(例えば、外気温履歴、充放電履歴等)を取得するとともに、各クライアント車両V1等に対して、必要に応じて、バッテリ制御プログラムや、自動運転制御におけるルート設定、走行パターンなどに関する車載ソフトウェアを更新する車両制御変更部である。
【0042】
クライアント車両管理部410は、バッテリ制御プログラム更新部411、自動運転ルート設定部412等を有する。
バッテリ制御プログラム更新部411は、バッテリ200の劣化が所定以上に進行しており、将来的な劣化状態SOHが所定以上に悪化すると推定されるクライアント車両V1等のバッテリ制御プログラムを、バッテリ200の劣化を現在のプログラムよりも抑制する方向に変更し、更新する。
【0043】
バッテリ200の劣化を抑制するため、更新版のバッテリ制御プログラムにおいては、例えば、以下の点を従前のプログラムから変更する。
・モータジェネレータ190の出力制限による放電時電力(電流値)の抑制
・モータジェネレータ190の回生発電量の制限による充電時電力(電流値)の抑制
・モータジェネレータ190による駆動頻度の抑制(所定頻度以上でモータジェネレータ190の駆動を行った場合には、モータジェネレータ190の駆動を中止し、エンジン10のみでの走行を行う)
・モータジェネレータ190による回生発電ブレーキの制動頻度の抑制(所定頻度以上で回生発電ブレーキを使用した場合には、回生発電ブレーキの使用を中止し、液圧式サービスブレーキのみでの制動を行う)
・エアコンディショナ等の補機駆動の抑制
・冷却装置202により車両Vの運転前に行うバッテリ200の事前冷却(次回車両運行のスケジュールが予め設定されている場合)、車両Vの運転後に行うバッテリ200の事後冷却の促進
なお、これらの制御は、全てを同時に行う必要はなく、バッテリ200の劣化の程度に応じて段階的に導入する構成とすることができる。
また、充放電時の電力の制限値も、バッテリ200の劣化の程度に応じて、段階的あるいは無段階に変化する構成とすることができる。
【0044】
自動運転ルート設定部412は、バッテリ200の劣化が所定以上に進行し、将来的な劣化状態SOHが所定より悪化することが推定されるクライアント車両において、自動運転制御の目的地設定が行われた場合に、車載の自動運転制御ユニット300が設定するルートに対して、よりバッテリ200の劣化を抑制したルートを設定するものである。
自動運転ルート設定部412は、例えば、高精度の3D地図データを有するとともに、現在の道路状態、他車両の通行状態、気象情報などを、ネットワークを介して図示しない情報源から取得可能となっている。
【0045】
自動運転ルート設定部412は、バッテリ200の劣化を抑制するため、例えば、所定勾配以上の登坂や、加減速の頻度や回数が低減されるよう、ルートを選定する。
登坂の頻度等を低減するためには、例えば、比較的勾配の少ない道路を利用し、山岳地、丘陵地を迂回するようルートを設定する。
また、加減速の頻度等を低減するためには、例えば、一時停止が見込まれる交差点、信号、横断歩道などの少ないルートを選定する。また、機械学習などにより渋滞が発生する可能性が高いことが予めわかっている箇所を避けるようルートを選定してもよい。
また、自動運転ルート設定部412は、例えば自動運転時における標準的な加速度、減速度や、巡航時の車速などの走行パターンを設定する機能を備えている。
自動運転ルート設定部412は、上述したルートの変更とともに、あるいは、ルートの変更に代えて、上述した走行パターンを、バッテリの劣化が抑制される方向に変更するようにしてもよい。
例えば、加速度、減速度を抑制するとともに、巡航時の車速を低く設定することができる。
【0046】
バッテリ情報蓄積部420は、複数のクライアント車両V1,V2,V3・・から逐次送信される各車両のバッテリ200の劣化状態SOH、及び、使用状態に関する情報をデータベース化し、ビッグデータとして蓄積する記憶装置である。
【0047】
バッテリ劣化推定マップ生成部430は、バッテリ情報蓄積部420に蓄積された情報に基づいて、特定の車両に搭載されたバッテリ200の現在の劣化状態SOH、及び、現在までの使用状態から、将来的な劣化状態SOHを推定可能なバッテリ劣化推定マップを生成するものである。
バッテリ劣化推定マップの生成については、後に詳しく説明する。
【0048】
通信装置440は、ネットワークを介して、各クライアント車両の通信装置340と通信するものである。
【0049】
図3は、実施形態のバッテリ管理システムの機能を示す図である。
図3において、破線より下方側がいわゆるインカー側(クライアント車両V1等側)の機能を示し、破線より上方側からいわゆるアウトカー側(サーバ400側)の機能を示している。
インカー側においては、先ず乗員などのユーザにより、自動運転制御による走行の目的地(ゴール)の設定が行われる。
また、インカー側においては、当該クライアント車両の諸元が予め各種車両制御の前提としてインプットされている。(S01)
【0050】
自動運転制御ユニット300は、ユーザが設定した目的地に応じて、車両の走行経路(ルート)を設定する。
その後、ユーザからの走行開始操作に応じて、車両は、自動運転制御による走行を開始する。
自動運転によるドライビングサイクル中(運転開始から目的地到着まで)に、車両は、バッテリ200から放電してモータジェネレータ190を駆動する走行(S02)、モータジェネレータ190による回生発電によるバッテリ200への充電(S03)、停車(S04)などを繰り返す。
【0051】
車両のドライビングサイクルが終了すると、バッテリ制御ユニット201は、冷却装置202によるバッテリ200の走行後冷却(次回走行前冷却)(S05)などの、バッテリ200の劣化を抑制するためのバッテリケア制御(S06)を実行する。
バッテリケア制御の内容(冷却目標温度、冷却時間等)は、バッテリ制御ユニット201が保持するバッテリ制御プログラムによって管理される。
【0052】
ドライビングサイクル中においては、走行(S02)、充電(S03)、停車(S04)の各状況下において、バッテリ制御ユニット201が、バッテリ200の劣化状態(SOH)、及び、補機負荷等の車両の運転状態や、バッテリ200の放電量、雰囲気温度、セル温度、充電状態(SOC)などの使用状態に関する情報を逐次取得し、通信装置340を介してサーバ400側へ伝達する。(S07)
【0053】
サーバ400のバッテリ情報蓄積部420は、各クライアント車両V1,V2,V3・・のバッテリ200の使用状態と、バッテリ200の劣化状態SOHとの相関関係に関する情報を、ビッグデータとして蓄積する。(S11)
バッテリ劣化推定マップ生成部430は、バッテリ情報蓄積部420に蓄積されたデータに基づいて、バッテリ200の使用状態と劣化状態SOHとの相関を整理し、特定の使用状態におけるバッテリ200の劣化状態SOHの将来的な推移を推定可能なバッテリ劣化推定マップを生成する。(S12)
【0054】
図4は、実施形態の電動車両におけるバッテリの劣化の進行の一例を示す図である。
図4において、横軸はバッテリ200の新品時からの使用期間(年)を示し、縦軸はバッテリ200の劣化状態(SOH)(%)を示している。
図4において、環境条件や充放電履歴など、バッテリ200の使用状態が一般的な複数のクライアント車両のデータを〇印でプロットし、例えば最小二乗法などの近似演算によって得た推定バッテリ劣化ラインを一点鎖線で示す。
例えば、10年使用後において、劣化状態SOHが80%以上であることを保証する必要がある場合に、10年後のSOHが80%となるよう設定した標準バッテリ劣化ラインに対して、上述した推定バッテリ劣化ラインはわずかに上方(劣化が抑制される方向)にあり、これらのクライアント車両における車両制御、バッテリ制御は適切であるといえる。
【0055】
一方、図4において、バッテリの200の使用条件が一般的な条件に対して相対的にシビアな条件である複数のクライアント車両のデータを×印でプロットし、近似演算によって得た推定バッテリ劣化ラインを二点鎖線で示す。
このバッテリ劣化推定ラインは、標準バッテリ劣化ラインの下方(劣化がより進行する方向)にあり、仮に現在の車両制御、バッテリ制御を続行した場合には、使用後10年でSOH80%を保証できないことが予測される。
バッテリ劣化推定マップは、バッテリ200の劣化進行を推定すべき特定のクライアント車両の使用条件をもとに、類似する使用条件で運行された他のクライアント車両のデータに基づいて生成された推定バッテリ劣化ラインを読み出し、今後のバッテリ200の劣化の進行度合い(将来的なSOHの推移)を推定(予測)可能なよう構成されている。
【0056】
バッテリ200の劣化が所定以上進行しており、将来的な劣化状態SOHが所定以上悪化すると推定されるクライアント車両(例えば、推定バッテリ劣化ラインが、標準バッテリ劣化ラインを下回っている車両・使用後10年後における推定SOHが閾値(この場合80%)未満である車両)に関しては、クライアント車両管理部410のバッテリ制御プログラム更新部411は、バッテリ劣化状態に応じた各クライアント車両固有のバッテリ制御プログラムを生成する。(S12)
生成されたバッテリ制御プログラム等の車載ソフトウェアは、通信装置440から各クライアント車両へ、車両制御変更指令として送信される。(S13)
クライアント車両(インカー)側においては、例えばドライビングサイクルの終了時(イグニッションオフ時、バッテリケア制御時など)(S06)に車載ソフトウェアの更新を行う。
【0057】
自動運転ルート設定部412は、バッテリ200の劣化が所定以上進行しているクライアント車両において、自動運転制御における目的地設定が行われた場合には、インカー側で自動運転制御ユニット300により設定されたルート、走行パターンに関する情報を取得し、よりバッテリ200の使用条件がマイルドになるルート、走行パターン(例えば、自動運転制御における標準的な加速度、減速度、巡航時の車速等)を設定する。(S14)
サーバ400側において設定されたルート、走行パターンは、通信装置440を介してクライアント車両側へ伝達される。
クライアント車両側においては、図示しない入出力装置(例えばタッチパネルディスプレイ等)により、乗員などのユーザに、ルート、走行パターンの更新を促す出力が行われる。
バッテリ200の使用条件をマイルドにする場合、例えば山岳路等の迂回や、加減速、車速の抑制などにより、目的地までの到着時間が遅延するなどの弊害があり得るが、ユーザが入出力装置への操作により、更新されたルート、走行パターンへの変更を許可した場合には、当該クライアント車両は、サーバ400側で再設定されたルート、走行パターンに従って、以降の自動運転制御を行う。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)複数のクライアント車両V1等のバッテリ制御ユニット201から得たバッテリ200の劣化状態SOH、及び、使用状態に関する情報を蓄積し、蓄積された情報に基づいてバッテリ劣化推定マップを生成し、バッテリ200の劣化状態を推定することにより、単一の車両において車上でのみSOH推定を行う場合に対して、現在及び将来的なバッテリ200の劣化状態SOHを精度よく推定することができる。
そして、複数の電動車両(クライアント車両)のうち、特にバッテリ200の劣化が所定以上に進行し、将来の劣化状態が所定以上に悪化すると推定される個体におけるバッテリ制御プログラム、及び、自動運転におけるルート及び走行パターンを、バッテリ200の劣化が抑制される方向(バッテリ200の使用条件がマイルドな方向)に変更することによって、個々の電動車両のバッテリ200の劣化を適切に抑制することができる。
このため、各電動車両に予め実装される制御の内容を、過度に大きな安全マージンを設けた設定とする必要がなく、バッテリ200の能力をより引き出して電動車両の性能を向上することができる。
また、所定の期間(例えば車両のライフサイクル)にわたって車両の性能を保証することが比較的容易となり、車両の信頼性やリセールバリューを向上することができる。
(2)各クライアント車両V1等が自動運転機能を有することにより、ドライバの運転操作等の人為的なばらつきの影響を排除し、バッテリ200の劣化状態SOHの推定精度を向上するとともに、バッテリ200の劣化を抑制するための車両側の制御をより適切に行うことができる。
(3)バッテリ200の劣化状態SOHが、標準バッテリ劣化ラインに対して悪化し、将来的な劣化状態SOHの悪化が推定されるクライアント車両を対象として、自動運転制御におけるルート設定を、加減速や登坂の頻度等が減少するよう変更することにより、バッテリ200の充放電頻度や、充放電を行う際の電流を抑制し、バッテリ200の劣化を適切に抑制することができる。
(4)バッテリ200の劣化状態SOHが、標準バッテリ劣化ラインに対して悪化し、将来的な劣化状態の悪化が推定されるクライアント車両を対象として、バッテリ制御プログラムを更新し、モータジェネレータ190の出力を抑制することにより、バッテリ200の放電時における最大電流を抑制し、バッテリ200の劣化の進行を適切に抑制することができる。
【0059】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)バッテリ管理システム及び電動車両の構成は、上述した実施形態に限定されず適宜変更することができる。
例えば、実施形態において複数のユニット等が協働して実現している機能を、単独のユニット等に集約してもよい。
また、実施形態において単独のユニット等で実現している機能を、複数のユニット等が協働して実現する構成としてもよい。
(2)実施形態において、クライアント車両となる電動車両は、一例としてエンジン-電気ハイブリッド車両の乗用車であるが、これに限定されず、走行用バッテリを有する他種の電動車両であってもよい。
例えば、車種は乗用車に限らず、商用車、大型車、二輪車などでもよく、特に限定されない。
また、エンジン-電気ハイブリッド車両に限らず、例えば電気自動車(いわゆるピュアEV)、レンジエクステンダーを有する電気自動車、水素自動車など、走行用バッテリを有する他種の車両であってもよい。
また、複数のクライアント車両は、諸元やパワーユニットの種類などが異なった複数種類の車両を含むようにしてもよい。
(3)実施形態では、推定バッテリ劣化ラインを、SOHとバッテリの使用開始時からの経過時間との関係で定義しているが、これに限定されず、例えばバッテリの使用開始時からの車両の走行距離や、バッテリの稼働時間を用いて定義してもよい。
(4)実施形態におけるバッテリの劣化を抑制するための制御の内容は一例であって、適宜変更することが可能である。
例えば、ユーザの操作等によりエンジンを始動せずモータジェネレータのみで走行するEVモードを有する車両において、バッテリの劣化が所定以上進行した場合には、EVモードの選択を禁止するようにしてもよい。
(5)実施形態において、バッテリの使用状態に含まれるパラメータは一例であって、適宜変更することができる。
(6)実施形態においては、バッテリの劣化状態SOHに応じた自動運転のルートの設定をサーバ側(アウトカー側)で行っているが、これに代えて、車両に搭載されるルート設定プログラムを更新し、同様の機能を持たせるようにしてもよい。
(7)実施形態においては、バッテリの将来的な劣化状態の悪化に応じて、サーバ(アウトカー)側でバッテリ制御プログラム等を生成しているが、これに代えて、予め車両側にバッテリの劣化状態に応じた複数の各種制御プログラム等を保持させておき、これをサーバ側からの車両制御変更指令に応じて切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
V 車両 V1、V2,V3 クライアント車両
10 エンジン 100 エンジン制御ユニット
110 トルクコンバータ 120 エンジンクラッチ
130 前後進切替部 140 バリエータ
141 プライマリプーリ 142 セカンダリプーリ
143 チェーン 150 出力クラッチ
160 フロントディファレンシャル 170 リアディファレンシャル
180 トランスファクラッチ 190 モータジェネレータ
191 インバータ
200 バッテリ 201 バッテリ制御ユニット
202 冷却装置
210 トランスミッション制御ユニット
220 ハイブリッドパワートレーン制御ユニット
300 自動運転制御ユニット 310 環境認識ユニット
320 操舵制御ユニット 330 ブレーキ制御ユニット
340 通信装置
400 サーバ 410 クライアント車両管理部
411 バッテリ制御プログラム更新部
412 自動運転ルート設定部 420 バッテリ情報蓄積部
430 バッテリ劣化推定マップ生成部
440 通信装置
図1
図2
図3
図4