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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 75/04 20060101AFI20240904BHJP
   F28G 9/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C10G75/04
F28G9/00 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020176022
(22)【出願日】2020-10-20
(65)【公開番号】P2021156568
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2020057642
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀一
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 喜啓
(72)【発明者】
【氏名】岩船 聖敏
(72)【発明者】
【氏名】深津 直矢
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-241181(JP,A)
【文献】特開2020-164683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 75/04
F28G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.85~1.00g/cm、アスファルテン含有量が5.00質量%以下である重油脱硫装置用被処理油を90.0~99.0容量%含有するとともに、
接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40.0~80.0質量%である燃料油基材を1.0~10.0容量%含有する洗浄用鉱油を、
重油脱硫装置用熱交換器に流通する
ことを特徴とする重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法。
【請求項2】
前記重油脱硫装置用熱交換器に対し、重油脱硫装置用被処理油のみを流通させた後、前記洗浄用鉱油を流通させる処理を繰り返し行う請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用鉱油を流通させる前に流通させた重油脱硫装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用鉱油を流通させたときの洗浄用鉱油の流通量(L)、Cは前記洗浄用鉱油中の燃料油基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用鉱油を流通させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記重油脱硫装置用被処理油が、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留残渣油および低硫黄重油から選ばれる一種以上である請求項1~請求項3のいずれかに記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重油脱硫装置は、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油および減圧蒸留残渣油等の重油脱硫装置用被処理油を水素化脱硫処理することで硫黄化合物をはじめとする不純物を除去し、低硫黄重油を得るための装置である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記重油脱硫装置の処理対象となる被処理油は、熱交換器や加熱炉で350℃から400℃付近まで予熱されてから重油脱硫装置に投入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-147597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、重油脱硫装置で処理される被処理油は高密度なものであることから、熱交換器を用いて加熱または冷却すると熱交換部位に堆積物(汚れ分)が付着して熱交換効率の低下および圧力損失を生じ易くなることが判明した。熱交換効率の低下および圧力損失を生じると重油脱硫装置に投入される重質油(重油脱硫装置用被処理油)が十分に加温されなくなるために、重油脱硫装置で処理する際により大きなエネルギーが必要となるばかりか、圧力制御が困難となり装置の非定常運転停止を招きやすくなる。
【0006】
このような状況下、本発明は、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、重油脱硫装置用熱交換器に付着する汚れ分の原因成分に対して溶解性を示す燃料油基材を一定程度含む組成物を流通することにより、熱交換器の壁面への汚れ分の付着を抑制するか、一旦付着した汚れ分を好適に溶解し得ることを着想した。
【0008】
上記知見に基づいて本発明者等がさらに検討したところ、重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法であって、15℃における密度が0.85~1.00g/cm、アスファルテン含有量が5.00質量%以下である重油脱硫装置用被処理油を90.0~99.0容量%含有するとともに、接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40.0~80.0質量%である燃料油基材を1.0~10.0容量%含有する洗浄用鉱油を、重油脱硫装置用熱交換器に流通する洗浄方法により、上記目的を達成し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.85~1.00g/cm、アスファルテン含有量が5.00質量%以下である重油脱硫装置用被処理油を90.0~99.0容量%含有するとともに、
接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40.0~80.0質量%である燃料油基材を1.0~10.0容量%含有する洗浄用鉱油を、
重油脱硫装置用熱交換器に流通する
ことを特徴とする重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法、
(2)前記重油脱硫装置用熱交換器に対し、重油脱硫装置用被処理油のみを流通させた後、前記洗浄用鉱油を流通させる処理を繰り返し行う上記(1)に記載の洗浄方法、
(3)前記洗浄方法が以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用鉱油を流通させる前に流通させた重油脱硫装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用鉱油を流通させたときの洗浄用鉱油の流通量(L)、Cは前記洗浄用鉱油中の燃料油基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用鉱油を流通させることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の洗浄方法、
(4)前記重油脱硫装置用被処理油が、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留残渣油および低硫黄重油から選ばれる一種以上である上記(1)~(3)のいずれかに記載の洗浄方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例および比較例で使用した熱交換器の汚れ評価装置の概念図である。
図2】本発明の実施例および比較例における熱交換器の汚れ評価結果を示す図である。
図3】本発明の実施例および比較例における熱交換器の汚れ評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法は、重油脱硫装置用熱交換器の洗浄方法であって、
15℃における密度が0.85~1.00g/cm、アスファルテン含有量が5.00質量%以下である重油脱硫装置用被処理油を90.0~99.0容量%含有するとともに、
接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40.0~80.0質量%である燃料油基材を1.0~10.0容量%含有する洗浄用鉱油を、
重油脱硫装置用熱交換器に流通する
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油は、15℃における密度が0.85~1.00g/cm、アスファルテン含有量が5.00質量%以下である。
【0014】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油の15℃における密度は、0.85~1.00g/cmであり、好ましくは0.86~1.00g/cm、より好ましくは0.87~1.00g/cmである。
【0015】
重油脱硫装置用被処理油の15℃における密度が上記範囲内にあることにより、洗浄処理後に得られる留分が、十分な体積あたりの発熱量を有し、工業炉やボイラーなどで使用した際に、燃焼の不均一性や失火などを抑制することができる。
【0016】
なお、本出願書類において、15℃における密度は、JIS K2249-1:2011により測定される値を意味する。
【0017】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油のアスファルテン含有量は、5.00質量%以下であり、4.50質量%以下であることが好ましく、4.00質量%以下であることがより好ましい。
重油脱硫装置用被処理油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、熱交換器に付着する汚れを低減または抑制し易くなり、また、洗浄処理後に重油脱硫装置から得られる重質留分を工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0018】
なお、本出願書類において、アスファルテン含有量は、JPI-5S-22-83に準じて測定される値を意味する。
【0019】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油の芳香族分含有量は、5.0~30.0質量%であることが好ましく、8.0~30.0質量%であることより好ましく、10.0~30.0質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
なお、本出願書類において、芳香族分含有量は、JPI-5S-49-97により測定される値を意味する。
【0021】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油の沸点範囲は、180~750℃であることが好ましく、190~750℃であることがより好ましく、200~750℃であることがさらに好ましい。
なお、本出願書類において、沸点範囲は、JIS K2254:1998により測定される値を意味する。
【0022】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油の90容量%留出温度は、450~700℃であることが好ましく、455~700℃であることがより好ましく、460~700℃であることがさらに好ましい。
重油脱硫装置用被処理油の90容量%留出温度が上記範囲内であることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
なお、本出願書類において、90容量%留出温度は、JIS K2254:1998で測定される値を意味する。
【0023】
本発明において、重油脱硫装置用被処理油としては、上記特性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留軽油、減圧蒸留残渣油および脱硫重油等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0024】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材は、接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含み、芳香族分含有量が40.0~80.0質量%である燃料油基材を含有する。
【0025】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材の芳香族分含有量は、40.0~80.0質量%であり、42.0~80.0質量%であることが好ましく、45.0~80.0質量%であることがより好ましい。
燃料油基材の芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、洗浄用鉱油が優れた溶解力を発揮して、より効果的に熱交換器の汚れを低減することができる。
【0026】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材の90容量%留出温度は、280~600℃であることが好ましく、290~600℃であることがより好ましく、300~600℃であることがさらに好ましい。
燃料油基材の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、熱交換器の汚れ原因と考えられる重質なワックス留分の含有量が抑制され、効果的に汚れを低減することができる。
【0027】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材のアスファルテン含有量は、1.00質量%以下であることが好ましく、0.80質量%以下であることがより好ましく、0.50質量%以下であることがさらに好ましい。
燃料油基材のアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、重油脱硫装置用熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。また、洗浄処理後に重油脱硫装置から得られる重質留分を工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0028】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材は、接触分解軽油、接触分解残渣油および潤滑油を製造する際のフルフラール抽出工程により得られるエキストラクトから選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素油を含む。
燃料油基材が上記留分を含むことにより、重油脱硫装置への影響を抑制しつつ、重油脱硫装置用被処理油の処理量をさほど落とすことなく、重油脱硫装置の連続運転を止めずに熱交換器に付着した汚れを低減させることができる。
【0029】
本発明において、接触分解軽油とは、重質油を接触分解処理したときに中間留分として得られる接触分解軽油、すなわちライトサイクルオイル(LCO)を意味する。
【0030】
本発明において、接触分解軽油の芳香族分含有量は、40.0~80.0質量%であることが好ましく、42.0~80.0質量%であることがより好ましく、45.0~80.0質量%であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の芳香族分含有量が上記範囲内であることにより、混合して得られる洗浄用鉱油の溶解力が向上し、効果的に重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0031】
本発明において、接触分解軽油の90容量%留出温度は、280~390℃であることが好ましく、290~390℃であることがより好ましく、300~390℃であることがさらに好ましい。
接触分解軽油の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、燃料用基材を重油脱硫装置用被処理油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0032】
本発明において、接触分解軽油のアスファルテン含有量は、0.10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
接触分解軽油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、重油脱硫装置用熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。また、洗浄処理後に重油脱硫装置から得られる重質留分を工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0033】
本発明において、接触分解残渣油とは、重質油を接触分解処理したときに残渣留分として得られる接触分解残渣油、すなわちスラリーオイル(SLO)を意味する。
【0034】
本発明において、接触分解残渣油の芳香族分含有量は、10.0~70.0質量%であることが好ましく、15.0~70.0質量%であることがより好ましく、20.0~70.0質量%であることがさらに好ましい。
接触分解残渣の芳香族分含有量が上記範囲内であることにより、混合して得られる洗浄用鉱油の溶解力が向上し、効果的に重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0035】
本発明において、接触分解残渣油の90容量%留出温度は、400
~580℃であることが好ましく、410~580℃であることがより好ましく、420~580℃であることがさらに好ましい。
接触分解残渣油の90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、燃料用基材を重油脱硫装置用被処理油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0036】
本発明において、接触分解残渣油のアスファルテン含有量は、1.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることがさらに好ましい。
接触分解残渣油のアスファルテン含有量が上記範囲内にあることにより、重油脱硫装置用熱交換器に付着する汚れを容易に低減または抑制することができる。また、洗浄処理後に重油脱硫装置から得られる重質留分を工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を容易に抑制することができる。
【0037】
本発明において、エキストラクトとは、常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる中質・重質の減圧蒸留留出油あるいは減圧蒸留残渣油の脱歴油(ブライトストック油)をフルフラール等で抽出分離した油を意味する。
上記フルフラール等で抽出した残分は、ラフィネートと称される潤滑油基油として使用されることから、エキストラクトは工業的には潤滑油製造工程で得られるものである。
【0038】
本発明において、エキストラクトの芳香族分含有量は、40.0~70.0質量%であることが好ましく、45.0~70.0質量%であることがより好ましく、50.0~70.0質量%であることがさらに好ましい。
エキストラクトの芳香族分含有量が上記範囲内にあることにより、混合して得られる洗浄用鉱油の溶解力が向上し、効果的に重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを低減することができる。
【0039】
本発明において、エキストラクトの90容量%留出温度は、500~600℃であることが好ましく、510~600℃であることがより好ましく、520~600℃であることがさらに好ましい。
エキストラクトの90容量%留出温度が上記範囲内にあることにより、燃料用基材を重油脱硫装置用被処理油に混合する際、重質なワックスの含有量が容易に抑制され、効果的に汚れを低減できる。
【0040】
本発明において、エキストラクトのアスファルテン含有量は、1.00質量%以下であることが好ましく、0.80質量%以下であることがより好ましく、0.50質量%以下であることがさらに好ましい。
エキストラクトのアスファルテン含有量が上記範囲内であることにより、重油脱硫装置用熱交換器に付着する汚れを低減または抑制することができる。また、洗浄処理後に重油脱硫装置から得られる重質留分を工業炉やボイラーなどで使用した際に、スラッジ堆積量を抑制することができる。
【0041】
本発明において、洗浄用鉱油を構成する重油脱硫装置用被処理油の含有割合は、90.0~99.0容量%であり、90.0~98.5容量%であることが好ましく、90.0~98.0容量%であることがより好ましい。
【0042】
また、本発明において、洗浄用鉱油を構成する燃料油基材の含有割合は、1.0~10.0容量%であり、1.5~10.0容量%であることが好ましく、2.0~10.0容量%であることがより好ましい。
【0043】
洗浄用鉱油を構成する燃料油基材の含有割合が上記範囲内にあることにより、重油脱硫装置の連続運転を止めずに重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、重油脱硫装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、重油脱硫装置用被処理油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えつつ、経済的に洗浄処理することができる。
【0044】
本発明に係る洗浄方法においては、上記重油脱硫装置用熱交換器に対し、重油脱硫装置用被処理油のみを流通させた後、上記燃料油基材を含有する洗浄用鉱油を流通させる処理を繰り返し行うことが好ましい。
重油脱硫装置用被処理油としては、上述したものと同様のものを挙げることができる。
重油脱硫装置用被処理油を流通した後の燃料油基材を含有する洗浄用鉱油の流通は定期的に行ってもよいし、非定期的に行ってもよいが、定期的に行うことが好ましい。
このように、重油脱硫装置用被処理油の流通と、燃料油基材を含有する洗浄用鉱油の流通を交互に行うことにより、重油脱硫装置装置の連続運転を止めずに重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを十分にかつ簡便に低減することができる。
【0045】
本発明に係る洗浄方法においては、以下の式(I)
{(V2×C)/V1}≧0.20 (I)
(ただし、V1は、洗浄用鉱油を流通させる前に流通させた重油脱硫装置用被処理油の流通量(L)、V2は前記洗浄用鉱油を流通させたときの洗浄用鉱油の流通量(L)、Cは前記洗浄用鉱油中の燃料油基材の含有割合(容量%)である。)
を満たすように洗浄用鉱油を流通させることが好ましい。
【0046】
式(I)において、重油脱硫装置用被処理油の流通と、燃料油基材を含有する洗浄用鉱油の流通を各々1回ずつ行ったときは、V1およびV2は、各々の流通量(L)である。
式(I)において、重油脱硫装置用被処理油のみを流通させた後、洗浄用鉱油を流通させる処理を繰り返し行ったときは、重油脱硫装置用被処理油のみの流通とその直後の洗浄用鉱油の流通を1つの処理として、各処理時における、重油脱硫装置用被処理油の流通量をV1(L)、洗浄用鉱油の流通量をV2(L)として、上記比を算出する。
【0047】
上記式{(V2×C)/V1}で表される値は、0.20以上であり、0.22以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。
【0048】
本発明に係る洗浄方法において式(I)を満たすように定期的ないし非定期的に洗浄用鉱油を流通させることにより、重油脱硫装置装置の連続運転を止めずに重油脱硫装置用熱交換器に付着した汚れを低減させることができ、重油脱硫装置の連続運転を停止して熱交換器を解放洗浄するまでの期間を延長することができる。また、重油脱硫装置用被処理油の処理量をさほど落とすことなく、さらに洗浄のために使用する付加価値の高い燃料油基材の使用量を抑えることができ、経済的な処理が可能となる。
【0049】
本発明によれば、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を十分にかつ簡便に抑制し得るの洗浄方法を提供することができる。
【実施例
【0050】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(1)原料油
重油脱硫装置用被処理油として、表1に示す物性を有する脱硫重油1を用意するとともに、燃料油基材として、表1に示す物性を有する接触分解残渣油(SLO)1を用意した。
上記重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油1)を90.0容量%、SLO1を10.0容量%の割合で混合して洗浄用鉱油1とした。
【0052】
【表1】
【0053】
(2)洗浄方法
図1に概略断面図で示すように、重質油タンクT1に貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.2Lの上記重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油1)を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直径6.5mm)内にポンプPを用いて毎分20mLで送液しつつ、上記重油脱硫装置用被処理油の流通配管内にヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を配置した加熱ヒーターHTを設定温度400℃で加熱して上記重質油タンクT1に返送する操作を40分間継続した後、バルブV1を切り替え、洗浄タンクT2に貯蔵された洗浄用鉱油1を毎分10mLで10分間通油した。この際バルブV2を開くことで洗浄用鉱油が原料タンクに混入しないようにした。
このとき、加熱ヒーターHTの下流側に設けられ150℃に加温されたフィルターFで加熱ヒーターHTから流出する堆積物(汚れ)を捕集したときの、フィルターFの入口および出口間における差圧を測定した。結果を表2および図2に示す。
【0054】
(比較例1)
洗浄用鉱油を通油せず、重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油1)を50分間継続して送液した以外は、実施例1と同一の条件でフィルターFの入口および出口間における差圧を測定した。
結果を表2および図2に示す。
【0055】
また、実施例1および比較例1における式{(V2×C)/V1}の算出結果を表3に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表2及び図2より、実施例1では、測定開始後40~50分間において洗浄用鉱油が通油されたことにより、フィルターFの入口および出口間における差圧の上昇が緩和されていることが分かる。
一方、表2および図2より、比較例1では洗浄用鉱油を通液しないために、フィルターFの入口および出口間における差圧が時間経過とともに上昇していることが分かる。
【0059】
洗浄用鉱油を通油した実施例1では、洗浄用鉱油の通油時におけるフィルターFの差圧が比較例1と比べて低いことから、重質油の通油によってヒーターロッドRに付着する汚れが、10分間洗浄用鉱油を流通させる処理により低減されたことが分かる。
【0060】
このため、重油脱硫装置用熱交換器への重油脱硫装置用被処理油の供給を極く短時間だけ洗浄用鉱油に切り替えることにより、汚れ分の付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を十分にかつ簡便に抑制し得ることが分かる。
【0061】
また、表2、表3および図2より、式{(V2×C)/V1}≧0.20を満たすように洗浄用鉱油を流通した実施例1は、フィルターFの入口および出口間における差圧の上昇が洗浄用鉱油の流通後すぐに緩和していることから、洗浄用鉱油の流通前に付着した汚れを効果的に低減できていることが分かる。
一方、比較例1では、洗浄用鉱油を通油していないことから、フィルターFの入口および出口間の差圧が時間経過とともに上昇し、重油脱硫装置用被処理油の流通量の増加とともにヒーターロッドRに付着する汚れが増加していることが分かる。
【0062】
(実施例2)
(1)原料油
重油脱硫装置用被処理油として、表4に示す物性を有する脱硫重油2を用意するとともに、燃料油基材として、表4に示す物性を有する接触分解残渣油2(SLO2)を用意した。
上記重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油2)を90.0容量%、SLOを10.0容量%の割合で混合して洗浄用鉱油2とするとともに、脱硫重油2を92.0容量%、SLO2を8.0容量%の割合で混合して洗浄用鉱油3とした。
【0063】
(2)洗浄方法
図1に概略断面図で示すように、重質油タンクT1に貯蔵されホットプレートHPにより70℃に加温された1.2Lの上記重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油2)を、同じく(図示しない)リボンヒーターにより流路全体が70℃に維持された流通配管c(直径6.5mm)内にポンプPを用いて毎分20mLで送液しつつ、上記重油脱硫装置用被処理油の流通配管内にヒーターロッドR(ステンレス鋼製、長さ200mm、直径6mm)を配置した加熱ヒーターHTを設定温度400℃で加熱して上記重質油タンクT1に返送する操作を200分間継続した後、バルブV1を切り替え、洗浄タンクT2に貯蔵された洗浄用鉱油2を毎分20mLで5分間通油した。この際バルブV2を開くことで洗浄用鉱油2が原料タンクに混入しないようにした。
このとき、加熱ヒーターHTの下流側に設けられ150℃に加温されたフィルターFで加熱ヒーターHTから流出する堆積物(汚れ)を捕集したときの、フィルターFの入口および出口間における差圧を測定した。結果を表5および図3に示す。
【0064】
(実施例3)
(1)原料油
重油脱硫装置用被処理油として、実施例2で用いた脱硫重油2を用意するとともに、燃料油基材として、実施例2で用いた接触分解残渣油2(SLO2)を用意した。
上記重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油2)を92.0容量%、SLO2を8.0容量%の割合で混合して洗浄用鉱油3とした。
(2)洗浄方法
洗浄用鉱油2に代えて洗浄用鉱油3を用いた以外は、実施例2(2)と同一の条件で処理し、フィルターFの入口および出口間における差圧を測定した。
結果を表5および図3に示す。
【0065】
(比較例2)
洗浄用鉱油を通油せず、重油脱硫装置用被処理油(脱硫重油2)を
205分間継続して送液した以外は、実施例2と同一の条件でフィルターFの入口および出口間における差圧を測定した。
結果を表5および図3に示す。
【0066】
また、実施例2、実施例3および比較例2における式{(V2×C)/V1}の算出結果を表5に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
表5及び図3より、実施例2及び実施例3では、測定開始後200~205分間において、洗浄用鉱油が通油されたことによりフィルターFの入口および出口間における差圧の上昇が緩和されていることが分かる。
一方、表5および図3より、比較例2では洗浄用鉱油を通液しないために、フィルターFの入口および出口間における差圧が時間経過とともに上昇していることが分かる。
【0071】
洗浄用鉱油を通油した実施例2及び実施例3では、洗浄用鉱油の通油時におけるフィルターFの差圧が比較例2と比べて低いことから、重質油の通油によってヒーターロッドRに付着する汚れが、5分間洗浄用鉱油を流通させる処理により低減されたことが分かる。
【0072】
このため、重油脱硫装置用熱交換器への重油脱硫装置用被処理油の供給を極く短時間だけ洗浄用鉱油に切り替えることにより、汚れの付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れの付着を十分にかつ簡便に抑制し得ることが分かる。
【0073】
また、表5、表6および図3より、式{(V2×C)/V1}≧0.20を満たすように洗浄用鉱油を流通した実施例2および実施例3は、フィルターFの入口および出口間における差圧の上昇が洗浄用鉱油の流通後すぐに緩和していることから、洗浄用鉱油の流通前に付着した汚れを効果的に低減できていることが分かる。
一方、比較例2では、洗浄用鉱油を通油していないことから、フィルターFの入口および出口間の差圧が時間経過とともに上昇し、重油脱硫装置用被処理油の流通量の増加とともにヒーターロッドRに付着する汚れが増加していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を運転中に低減することができ、重油脱硫装置用熱交換器への汚れ分の付着を十分にかつ簡便に抑制し得る洗浄方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
T1、T2 :タンク
V1、V2 :切り替えバルブ
HP :ホットプレート
c :流通配管
HT :加熱ヒーター
R :ヒーターロッド
P :ポンプ
F :フィルター
図1
図2
図3