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特許7549521解体工事用養生設備及びこれを使用した既存建物の解体方法
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  • 特許-解体工事用養生設備及びこれを使用した既存建物の解体方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】解体工事用養生設備及びこれを使用した既存建物の解体方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/32 20060101AFI20240904BHJP
   E04G 23/08 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
E04G21/32 B
E04G23/08 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020213701
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099731
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】平野 英雄
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勇貴
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-256833(JP,A)
【文献】特開2007-262687(JP,A)
【文献】特開平07-237869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/24-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物の解体作業時に当該既存建物の外側に設置される落下・飛散防止用の養生ユニットを備えた解体工事用養生設備であって、
前記養生ユニットには、前記既存建物の外壁面に近接又は当接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置される複数の縦フレーム材と、隣接する前記縦フレーム材の間に備えられる複数の養生パネルと、前記養生ユニットの全重量を前記既存建物に負担させる状態で、前記縦フレーム材を前記既存建物の外壁に固定する複数の固定具とが含まれている解体工事用養生設備。
【請求項2】
前記縦フレーム材は、上下方向に着脱可能に接続される複数の分割フレーム材で構成され、
前記分割フレーム材には、前記養生パネルにおける前記横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する案内溝が備えられ、
前記養生パネルは、前記横方向で隣接する前記縦フレーム材の間に、前記案内溝を使用して上下方向に積み重ねた状態で備えられている請求項1に記載の解体工事用養生設備。
【請求項3】
前記案内溝は、前記分割フレーム材における前記既存建物の外壁面から離れる側の端部に備えられている請求項2に記載の解体工事用養生設備。
【請求項4】
前記固定具には、前記縦フレーム材に一端部が接合されて前記既存建物の外壁に形成された複数の貫通孔に差し込まれるブラケットと、当該ブラケットの他端部に接合されて当該ブラケットを抜け止めする抜け止め部材とが備えられている請求項1~3のいずれか一項に記載の解体工事用養生設備。
【請求項5】
前記縦フレーム材には、前記既存建物の外壁面に当接する複数のスペーサが上下方向に所定間隔を置いて備えられている請求項1~4のいずれか一項に記載の解体工事用養生設備。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の解体工事用養生設備を使用した既存建物の解体方法であって、
複数の前記縦フレーム材を、前記既存建物の外壁面に近接又は当接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置しながら、複数の前記固定具を使用して前記既存建物の外壁に固定し、かつ、隣接する前記縦フレーム材の間に複数の前記養生パネルを備えて、前記養生ユニットを、その全重量を前記既存建物に負担させる状態で前記既存建物の外側に設置する養生ユニット設置工程と、
前記養生ユニットの全重量を前記既存建物に負担させた状態を維持しながら、前記既存建物を上部側から順に切断して撤去していく既存建物切断撤去工程とが含まれている既存建物の解体方法。
【請求項7】
前記養生ユニット設置工程には、前記養生パネルにおける前記横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する案内溝が備えられた複数の分割フレーム材を、前記既存建物の外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置するとともに上下方向に接続して、複数の前記縦フレーム材を構築しながら、前記分割フレーム材を、前記固定具を使用して前記既存建物の外壁に固定する縦フレーム材設置工程と、前記横方向に隣接する前記分割フレーム材の間に、前記案内溝を使用して前記養生パネルを上下方向に積み重ねた状態で設置する養生パネル設置工程とが含まれており、
前記既存建物切断撤去工程には、前記既存建物を上部側から順に切断して撤去する解体作業の進捗状況に応じて、前記分割フレーム材と前記養生パネルとを上部側から順に取り外して撤去する養生ユニット順次撤去工程が含まれている請求項6に記載の既存建物の解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の解体作業時に当該既存建物の外側に設置される落下・飛散防止用の養生ユニットを備えた解体工事用養生設備、及び、これを使用した既存建物の解体方法に関する。
【背景技術】
【0002】
解体工事用養生設備に関するものとしては、例えば、多層建築物の外周部に周方向に間隔をおいて固定された複数の固定建枠と、各固定建枠の互いに対向する側面部に支持された昇降ガイドと、互いに対向する一対の昇降ガイドに案内されて上下移動する可動パネル支持体と、可動パネル支持体を上下移動させる駆動手段と、可動パネル支持体の外側面に固定された外部パネルとを備えて、各外部パネルからなる仮囲いが、多層建築物に沿って上下移動して解体する階層部分の外周を囲むことにより、周辺への粉塵などの飛散や解体資材などの落下を防止するようにした多層建築物の仮囲い装置などがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6635377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の多層建築物の仮囲い装置においては、複数の足場ユニットを上下方向に連設することにより、各固定建枠が、多層建築物の最下階層から最上階層に至る高さに形成されている。そのため、多層建築物の外側に確保できる余剰スペースが足場ユニットの横幅よりも狭い場合には、多層建築物の外側に仮囲い装置の固定建枠を設置することができなくなって、解体する階層部分の外周を仮囲いで囲むことができなくなることから、解体作業時に発生する瓦礫などの落下や飛散を仮囲い装置によって防止することができなくなる。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、解体する既存建物の外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、養生ユニットの設置を可能にして、解体作業時に発生する瓦礫などが、解体する既存建物に近接する隣地に落下・飛散するのを防止できるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、既存建物の解体作業時に当該既存建物の外側に設置される落下・飛散防止用の養生ユニットを備えた解体工事用養生設備であって、
前記養生ユニットには、前記既存建物の外壁面に近接又は当接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置される複数の縦フレーム材と、隣接する前記縦フレーム材の間に備えられる複数の養生パネルと、前記養生ユニットの全重量を前記既存建物に負担させる状態で、前記縦フレーム材を前記既存建物の外壁に固定する複数の固定具とが含まれている点にある。
【0007】
本構成によると、解体する既存建物の外壁を活用しながら、各養生パネルを既存建物の外壁面に近接させた状態で、養生ユニットを既存建物の外側に設置することができる。
これにより、既存建物の解体作業を行う作業現場において、既存建物の外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、その狭い余剰スペース内に落下・飛散防止用の養生ユニットを設置することができる。
その結果、解体する既存建物の外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、解体作業時に発生する瓦礫などが、解体する既存建物に近接する隣地に落下・飛散するのを防止した安全な状態で、既存建物の解体作業を好適に行うことができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、
前記縦フレーム材は、上下方向に着脱可能に接続される複数の分割フレーム材で構成され、
前記分割フレーム材には、前記養生パネルにおける前記横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する案内溝が備えられ、
前記養生パネルは、前記横方向で隣接する前記縦フレーム材の間に、前記案内溝を使用して上下方向に積み重ねた状態で備えられている点にある。
【0009】
本構成によると、解体作業の前には、各分割フレーム材を、既存建物の外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置し、かつ、上下方向に接続して、縦フレーム材を構築しながら、この縦フレーム材を、固定具を使用して既存建物の外壁に固定する。又、隣接する分割フレーム材の間に、それらの案内溝を使用して、複数の養生パネルを上下方向に積み重ねた状態で設置していく。
これにより、既存建物の外壁を活用した状態で、養生ユニットを既存建物の外側に容易に設置することができる。
又、解体作業時には、既存建物を上部側から順に切断して撤去することにより、この解体作業の進捗状況に応じて、養生ユニットの分割フレーム材と養生パネルとを上部側から順に取り外して撤去することができる。
そして、このような解体作業を行うことにより、解体作業が進むにつれて既存建物に負担させる養生ユニットの重量を軽減することができ、解体作業の進捗にかかわらず、養生ユニットを安定性良く既存建物の外側に設置した状態を維持することができる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、
前記案内溝は、前記分割フレーム材における前記既存建物の外壁面から離れる側の端部に備えられている点にある。
【0011】
本構成によると、既存建物の外壁面と当該外壁面に近接する養生パネルとの間に適当な空間を確保することができる。これにより、隣接する縦フレーム材の間に複数の養生パネルを上下方向に積み重ねていくときに、その積み重ねが、既存建物の外壁面に備えられた面格子や竪樋などによって阻害されるのを回避することができる。
その結果、既存建物の外壁を活用した既存建物の外側への養生ユニットの設置を更に容易にすることができる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、
前記固定具には、前記縦フレーム材に一端部が接合されて前記既存建物の外壁に形成された複数の貫通孔に差し込まれるブラケットと、当該ブラケットの他端部に接合されて当該ブラケットを抜け止めする抜け止め部材とが備えられている点にある。
【0013】
本構成によると、各ブラケットの縦フレーム材との接合と外壁の貫通孔への差し込みとを行った後、抜け止め部材をブラケットに接合することにより、縦フレーム材を既存建物の外壁に容易に固定することができる。
その結果、既存建物の外壁を利用した既存建物の外側への養生ユニットの設置を更に容易にすることができる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、
前記縦フレーム材には、前記既存建物の外壁面に当接する複数のスペーサが上下方向に所定間隔を置いて備えられている点にある。
【0015】
本構成によると、各縦フレーム材が既存建物の外壁面に対して面接触ではなく、スペーサの位置で点接触することから、既存建物の外壁面に多少の凹凸が存在している場合であっても、各縦フレーム材をより安定させた状態で既存建物の外壁に固定することができる。
その結果、既存建物の外壁を利用した既存建物の外側への養生ユニットの設置を、より安定した状態で好適に行うことができる。
【0016】
本発明の第6特徴構成は、上記第1~5特徴構成の何れかに記載の解体工事用養生設備を使用した既存建物の解体方法であって、
複数の前記縦フレーム材を、前記既存建物の外壁面に近接又は当接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置しながら、複数の前記固定具を使用して前記既存建物の外壁に固定し、かつ、隣接する前記縦フレーム材の間に複数の前記養生パネルを備えて、前記養生ユニットを、その全重量を前記既存建物に負担させる状態で前記既存建物の外側に設置する養生ユニット設置工程と、
前記養生ユニットの全重量を前記既存建物に負担させた状態を維持しながら、前記既存建物を上部側から順に切断して撤去していく既存建物切断撤去工程とが含まれている点にある。
【0017】
本構成によると、養生ユニット設置工程においては、解体する既存建物の外壁を活用しながら、各養生パネルを既存建物の外壁面に近接させた状態で、養生ユニットを既存建物の外側に設置することができる。
これにより、既存建物の解体作業を行う作業現場において、既存建物の外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、その狭い余剰スペース内に落下・飛散防止用の養生ユニットを設置することができる。
そして、既存建物切断撤去工程においては、養生ユニットの全重量が既存建物に負担された安定した状態で、既存建物がその上部側から順に切断されて撤去されていくことから、養生ユニットによる隣地への瓦礫などの落下・飛散防止を良好に行いながら、既存建物をその上部側から順に切断して撤去することができる。
その結果、解体する既存建物の外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、解体作業時に発生する瓦礫などが、解体する既存建物に近接する隣地に落下・飛散するのを防止した安全な状態で、既存建物の解体作業を好適に行うことができる。
【0018】
本発明の第7特徴構成は、
前記養生ユニット設置工程には、前記養生パネルにおける前記横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する案内溝が備えられた複数の分割フレーム材を、前記既存建物の外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置するとともに上下方向に接続して、複数の前記縦フレーム材を構築しながら、前記分割フレーム材を、前記固定具を使用して前記既存建物の外壁に固定する縦フレーム材設置工程と、前記横方向に隣接する前記分割フレーム材の間に、前記案内溝を使用して前記養生パネルを上下方向に積み重ねた状態で設置する養生パネル設置工程とが含まれており、
前記既存建物切断撤去工程には、前記既存建物を上部側から順に切断して撤去する解体作業の進捗状況に応じて、前記分割フレーム材と前記養生パネルとを上部側から順に取り外して撤去する養生ユニット順次撤去工程が含まれている点にある。
【0019】
本構成によると、養生ユニット設置工程には縦フレーム材設置工程と養生パネル設置工程とが含まれていることにより、養生ユニットを上下方向に分割した状態で段階的に設置することができ、これにより、既存建物の外壁を活用した養生ユニットの設置を容易にすることができる。
又、既存建物切断撤去工程には養生ユニット順次撤去工程が含まれていることにより、解体作業が進むにつれて既存建物に負担させる養生ユニットの重量を軽減することができる。これにより、既存建物の外壁を活用して養生ユニットを設置する構成でありながら、解体作業の進捗にかかわらず、養生ユニットを安定性良く既存建物の外側に設置した状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】解体工事用養生設備の縦フレーム材設置工程が完了した状態を示す斜視図
図2】解体工事用養生設備の養生パネル設置工程が完了した状態を示す斜視図
図3】解体工事用養生設備における既存建物切断撤去工程の開始段階を示す斜視図
図4】解体工事用養生設備における既存建物切断撤去工程の途中段階を示す斜視図
図5】養生ユニットの構成を示す垂直断面図
図6】養生ユニットの構成を示す要部の水平断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態の一例を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1~4に示すように、本実施形態にて例示する解体対象の既存建物は、その一側面が隣接する敷地A1に近接する複層建築物Bであり、この複層建築物Bは、敷地A1に近接する一側面側の建物部分Baを残して、他の建物部分が重機を使用して既に解体された状態となっている。複層建築物Bを解体する解体作業領域A2における隣接地との境界付近には仮囲い10が設置されている。
【0023】
本実施形態にて例示する解体工事用養生設備1には、隣接する敷地A1に一側面が近接する複層建築物Bの建物部分Baに対して既解体側に設置される足場ユニット20、及び、建物部分Baにおける一側面の外側に設置される落下・飛散防止用の養生ユニット30、などが備えられている。
【0024】
足場ユニット20には、建物部分Baの各階層に対応して複数段に積み重ねられた足場枠21、足場枠21にて支持される複数の足場板22、及び、それらを外側から覆って解体作業時に発生する瓦礫などの落下や飛散を防止する養生ネット(図示せず)、などが備えられている。
【0025】
図1~6に示すように、養生ユニット30には、建物部分Baにおける一側面側の外壁面に近接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置される複数の縦フレーム材31と、隣接する縦フレーム材31の間に備えられる複数の養生パネル32と、各縦フレーム材31を建物部分Baの外壁Wに固定する複数の第1固定具33(図5~6参照)と、各縦フレーム材31の上端部を建物部分BaのパラペットPに固定する複数の第2固定具34(図5~6参照)とが含まれている。養生ユニット30は、それらの各縦フレーム材31が各固定具33,34を介して建物部分Baに固定されることにより、養生ユニット30の全重量を建物部分Baに負担させるようになっている。
【0026】
図5~6に示すように、各縦フレーム材31は、上下方向に着脱可能に接続される複数の分割フレーム材35で構成されている。各分割フレーム材35は、複層建築物Bの1階層分に相当する長さを有するH形鋼35AとT形鋼35BとL形鋼35Cと角形の棒鋼材35D(図6参照)とを溶接接合して構成されている。詳述すると、各分割フレーム材35は、H形鋼35Aにおける一方のフランジにT形鋼35Bのウェブが溶接接合されることにより、それらのフランジ間に、養生パネル32における横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する2本の案内溝35Eが形成されている。各分割フレーム材35は、T形鋼35BのフランジにL形鋼35Cの一辺と棒鋼材35Dとが溶接接合されることにより、それらの間に、防炎シート40の端縁部に取り付けられたシート固定金具41(図6参照)の支持を可能にするシート支持部35F(図6参照)が形成されている。各分割フレーム材35は、上下に並ぶ分割フレーム材35におけるH形鋼35Aのウェブが、スプライスプレート36及びボルト37などを使用して着脱可能に接続されている。各縦フレーム材31の最下位に配置される分割フレーム材35の下端部には、案内溝35Eにて案内された養生パネル32を受け止める平鋼材からなるストッパ35G(図5参照)が溶接接合されている。各H形鋼35Aにおける建物側のフランジの上下両端部には、建物部分Baの外壁面に当接する丸形の棒鋼材からなるスペーサ35Hが溶接接合されている。
【0027】
各養生パネル32は、隣接する縦フレーム材31間に備えられる前の段階において、所定枚数の板金製のフラットパネル32Aが、左右一対の支持部材(図示せず)を使用して上下方向に連接されることにより、それらの上下長さとして、複層建築物Bの1階層分に相当する各分割フレーム材35と同じ上下長さを有するように構成されている。そして、このように構成された各養生パネル32が、クレーンC(図3~4参照)にて吊り上げられ、その横方向の両端部が横方向で隣接する縦フレーム材31の各案内溝35Eに上方から差し入れられて、縦フレーム材31間に下側から順に積み上げられることにより、縦フレーム材31の間に上下方向に積み重ねた状態で備えられている。各案内溝35Eは、分割フレーム材35における建物部分Baの外壁面から離れる側の端部に備えられている。
【0028】
図5~6に示すように、各第1固定具33には、建物部分Baの外壁Wにおける各縦フレーム材31との対向部位に形成された貫通孔Waに一端側が差し込まれて一端部が縦フレーム材31に現場溶接されるブラケット33Aと、ブラケット33Aの他端部に垂下姿勢で現場溶接されてブラケット33Aを抜け止めする抜け止め部材33Bと、抜け止め部材33Bの下端部に溶接されたナット33Cにねじ込み装着されたボルト33Dとが備えられている。これにより、各第1固定具33は、ボルト34Dのねじ込み操作が行われることにより、ボルト34Dと縦フレーム材31側のスペーサ35Hとの間に建物部分Baの外壁Wを挟み込む状態になり、これにより、縦フレーム材31を建物部分Baの外壁Wに固定する。
【0029】
図5に示すように、各第2固定具34には、各縦フレーム材31の上部から建物側に延出するH形鋼からなるブラケット34Aと、ブラケット34Aの延出端部から垂下するL形鋼からなる垂下部材34Bと、垂下部材34Bの下端部に溶接されたナット34Cにねじ込み装着されたボルト34Dと、ボルト34Dと建物部分BaのパラペットPとの間に挟み込まれる敷プレート34Eとが備えられている。これにより、各第2固定具34は、各縦フレーム材31の上部と各第2固定具34の垂下部材34Bとの間に建物部分BaのパラペットPと敷プレート34Eとが位置する状態でボルト34Dのねじ込み操作が行われることにより、敷プレート34Eと縦フレーム材31側のスペーサ35Hとの間にパラペットPを挟み込む状態になり、これにより、縦フレーム材31の上端部を建物部分BaのパラペットPに固定する。
【0030】
解体工事用養生設備1を使用した既存建物の解体方法について説明すると、この解体方法には、既存建物である複層建築物Bのうちの敷地A1に近接する建物部分Baを残して他の建物部分を重機にて解体する第1解体工程と、残した建物部分Baを解体する第2解体工程(図1~4参照)とが含まれている。
【0031】
第1解体工程には、複層建築物Bのうちの敷地A1から離れた建物部分を落下・飛散防止用の養生ユニット(図示せず)で囲む養生ユニット設置工程、及び、重機を使用して敷地A1から離れた建物部分を解体する既存建物解体工程、などが含まれている。
【0032】
第2解体工程には、残された建物部分Baの既解体側に足場ユニット20を設置する足場ユニット設置工程(図1参照)、クレーンC(図3~4参照)などを使用して、複数の縦フレーム材31を、建物部分Baの外壁面に近接させた状態で当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置しながら、複数の固定具33,34を使用して建物部分Baの外壁W及びパラペットPに固定し、かつ、隣接する縦フレーム材31の間に複数の養生パネル32を備えることにより、養生ユニット30を、その全重量を既存建物Baに負担させる状態で建物部分Baの敷地A1側に設置する養生ユニット設置工程(図1~2参照)、及び、養生ユニット30の全重量を建物部分Baに負担させた状態を維持しながら、ワイヤーソー(図示せず)やクレーンCなどを使用して建物部分Baを上部側から順に切断して撤去していく既存建物切断撤去工程(図3~4参照)、などが含まれている。
【0033】
養生ユニット設置工程には、クレーンC(図3~4参照)などを使用して、複数の分割フレーム材35を、建物部分Baの外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置するとともに上下方向に接続して複数の縦フレーム材31を構築しながら、各分割フレーム材35を、複数の固定具33,34を使用して建物部分Baの外壁Wに固定する縦フレーム材設置工程(図1参照)と、事前に複数のフラットパネル32Aを連接して構成された複数の養生パネル32を、クレーンC(図3~4参照)などを使用して、縦フレーム材設置工程で設置された各縦フレーム材31の案内溝35Eに上方から差し入れて、縦フレーム材31間に下側から順に積み上げていくことで、縦フレーム材31間に上下方向に積み重ねた状態で設置する養生パネル設置工程(図2参照)とが含まれている。そして、縦フレーム材設置工程を行った後に養生パネル設置工程を行うことで、各分割フレーム材35を上下に接続して各縦フレーム材31を構築した後に、隣り合う縦フレーム材31の間に養生パネル32を設置するようにしている。
【0034】
既存建物切断撤去工程には、建物部分Baを上部側から順に切断して撤去する解体作業の進捗状況に応じて、クレーンCなどを使用して、養生ユニット30の分割フレーム材35と養生パネル32とを上部側から順に取り外して撤去する養生ユニット順次撤去工程と、足場ユニット20の足場枠21と足場板22とを上部側から順に取り外して撤去する足場ユニット順次撤去工程とが含まれている(図3~4参照)。
【0035】
以上の通り、本実施形態にて例示する解体工事用養生設備1によると、解体する建物部分Baにおける一側面の外側に設置される養生ユニット30には、建物部分Baの外壁面に近接した状態で当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置される複数の縦フレーム材31と、隣接する縦フレーム材31の間に備えられる複数の養生パネル32と、養生ユニット30の全重量を既存建物に負担させる状態で、縦フレーム材31を建物部分Baの外壁Wに固定する複数の固定具33,34とが含まれている。
【0036】
この構成により、養生ユニット設置工程においては、解体する建物部分Baの外壁Wを活用しながら、各養生パネル32を建物部分Baの外壁面に近接させた状態で、養生ユニット30を建物部分Baの外側に設置することができる。
これにより、建物部分Baの解体作業を行う作業現場において、図1~4に示すように、建物部分Baの外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、その狭い余剰スペース内に落下・飛散防止用の養生ユニット30を設置することができる。
その結果、解体する建物部分Baの外側に確保できる余剰スペースが狭い場合であっても、既存建物切断撤去工程において発生する瓦礫などが、解体する建物部分Baに近接する敷地A1に落下・飛散するのを防止した安全な状態で、建物部分Baの解体作業を好適に行うことができる。
【0037】
又、本実施形態にて例示する解体工事用養生設備1によると、各縦フレーム材31が、上下方向に着脱可能に接続される複数の分割フレーム材35で構成され、各分割フレーム材35には、養生パネル32における横方向の端部を上下方向に案内可能に支持する案内溝35Eが備えられている。そして、複数の養生パネル32が、横方向で隣接する縦フレーム材31の間に、それらの案内溝35Eを使用して上下方向に積み重ねた状態で備えられている。
【0038】
この構成により、養生ユニット設置工程の縦フレーム材設置工程においては、各分割フレーム材35を、解体する建物部分Baの外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置し、かつ、上下方向に接続して、縦フレーム材31を構築しながら、この縦フレーム材31を、各固定具33,34を使用して建物部分Baの外壁Wに固定する。又、養生ユニット設置工程の養生パネル設置工程においては、隣接する分割フレーム材35の間に、それらの案内溝35Eを使用して、複数の養生パネル32を上下方向に積み重ねた状態で設置していく。
これにより、養生ユニット設置工程においては、建物部分Baの外壁Wを活用した状態で、養生ユニット30を建物部分Baの外側に容易に設置することができる。
又、既存建物切断撤去工程においては、建物部分Baを上部側から順に切断して撤去することにより、この解体作業の進捗状況に応じて、養生ユニット30の分割フレーム材35と養生パネル32とを上部側から順に取り外して撤去する養生ユニット30順次撤去工程と、足場ユニット20の足場枠21と足場板22とを上部側から順に取り外して撤去する足場ユニット順次撤去工程とを行うことができる。
そして、このような解体作業を行うことにより、解体作業が進むにつれて建物部分Baに負担させる養生ユニット30の重量を軽減することができ、解体作業の進捗にかかわらず、養生ユニット30を安定性良く建物部分Baの外側に設置した状態を維持することができる。又、解体作業の進捗状況に応じて、養生ユニット30と足場ユニット20とを上部側から順に解体することから、解体作業を効率良く行うことができる。
【0039】
しかも、各養生パネル32を案内する案内溝35Eは、各分割フレーム材35における建物部分Baの外壁面から離れる側の端部に備えられていることから、建物部分Baの外壁面と当該外壁面に近接する養生パネル32との間に適当な空間を確保することができる。
これにより、隣接する縦フレーム材31の間に複数の養生パネル32を上下方向に積み重ねていくときに、その積み重ねが、建物部分Baの外壁面に備えられた面格子(図示せず)や竪樋(図示せず)などによって阻害されるのを回避することができる。
その結果、建物部分Baの外壁Wを活用した建物部分Baの外側への養生ユニット30の設置を更に容易にすることができる。
【0040】
これに加えて、各分割フレーム材35における建物部分Baの外壁面から離れる側の端部には、案内溝35Eよりも建物部分Baの外壁面から離れる位置に、防炎シート40用のシート支持部35F(図6参照)が形成されていることから、建物部分Baの外壁面に備えられた面格子や竪樋などが、隣接する分割フレーム材35の案内溝35E間まで張り出して養生パネル32の設置に支障を来す場合には、隣接する分割フレーム材35のシート支持部35Fを使用して防炎シート40を設置して、養生パネル32の設置に支障を来す面格子や竪樋などを溶断して撤去することができ、この撤去後に養生パネル32を設置することができる。
【0041】
そして、本実施形態にて例示する解体工事用養生設備1によると、各第1固定具33には、建物部分Baの外壁Wに形成された各貫通孔Waに差し込まれて各縦フレーム材31に一端部が現場溶接にて接合されるブラケット33Aと、当該ブラケット33Aの他端部に現場溶接にて接合されて当該ブラケット33Aを抜け止めする抜け止め部材33Bと、抜け止め部材33Bの下端部に溶接されたナット33Cにねじ込み装着されたボルト33Dとが備えられている。
【0042】
この構成により、各ブラケット33Aを外壁Wの貫通孔Waに差し込んで、その差し込み側の端部を縦フレーム材31に現場溶接で接合した後、抜け止め部材33Bをブラケット33Aの非差し込み側の端部に現場溶接で接合することにより、各縦フレーム材31を建物部分Baの外壁Wに容易に抜け止め固定することができる。そして、この抜け止め固定後にボルト34Dのねじ込み操作が行われることにより、ボルト34Dと縦フレーム材31側のスペーサ35Hとの間に建物部分Baの外壁Wを挟み込む状態で、縦フレーム材31を建物部分Baの外壁Wに固定することができる。
【0043】
そして、各縦フレーム材31には、各分割フレーム材35のH形鋼35Aにおける建物側のフランジの上下両端部に溶接接合されることにより、建物部分Baの外壁面に当接する複数のスペーサ35Hが上下方向に所定間隔を置いて備えられている。
【0044】
この構成により、各縦フレーム材31が建物部分Baの外壁面に対して面接触ではなく、各スペーサ35Hの位置で点接触することから、建物部分Baの外壁面に多少の凹凸が存在している場合であっても、各縦フレーム材31をより安定させた状態で建物部分Baの外壁Wに固定することができる。
その結果、建物部分Baの外壁Wを利用した建物部分Baの外側への養生ユニット30の設置を、より安定した状態で好適に行うことができる。
【0045】
〔別実施形態〕
本発明の別実施形態について説明する。
尚、以下に説明する各別実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、上記の実施形態や他の別実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
(1)上記の実施形態においては、養生ユニット設置工程として、縦フレーム材設置工程を行った後に養生パネル設置工程を行うことで、各分割フレーム材35を上下に接続して各縦フレーム材31を構築した後に、隣り合う縦フレーム材31の間に養生パネル32を設置するものを例示したが、これに限らず、例えば、各分割フレーム材35を、下層階から順に設置するごとに、それらの隣り合う分割フレーム材35の間に養生パネル32を設置する養生ユニット分割設置工程を繰り返すことにより、養生ユニット30を下層階から順に設置するようにしてもよい。
【0047】
(2)上記の実施形態においては、養生ユニット30として、防炎シート40を含むものを例示したが、これに限らず、例えば、防炎シート40を含まないものであってもよく、又、防音シートなどを含むものであってもよい。
【0048】
(3)上記の実施形態においては、縦フレーム材31として、上下方向に着脱可能に接続される複数の分割フレーム材35で構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、上下方向に分割不能な長尺で単一のフレーム材で構成されたものであってもよい。
【0049】
(4)上記の実施形態においては、縦フレーム材31として、建物部分Baにおける一側面側の外壁面に近接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置されたものを例示したが、これに限らず、例えば、建物部分Baにおける一側面側の外壁面に当接した状態で、当該外壁面に沿って横方向に所定間隔を置いて配置されるものであってもよい。
【0050】
(5)上記の実施形態においては、養生パネル32として、所定枚数の板金製のフラットパネル32Aを、左右一対の支持部材を使用して上下方向に連接することにより、複層建築物Bの1階層分に相当する上下長さを有するように構成されたものを例示したが、これに限らず、例えば、支持部材を備えずに、単品のフラットパネル32Aで構成されたものであってもよく、又、複層建築物Bの複数階層分に相当する上下長さを有するように構成されたものであってもよい。
【0051】
(6)上記の実施形態においては、縦フレーム材31を既存建物Bの外壁Wに固定する複数の固定具として、第1固定具33と第2固定具34とを備えるものを例示したが、これに限らず、例えば、第2固定具34を備えずに、複数の第1固定具33を備えるものであってもよい。
【0052】
(7)上記の実施形態においては、固定具(第1固定具)33として、外壁Wの貫通孔Waに差し込まれるブラケット33Aと、当該ブラケット33Aを抜け止めする抜け止め部材33Bとが現場溶接されるものを例示したが、これに限らず、例えば、ブラケット33Aが縦フレーム材31又は分割フレーム材35に工場溶接されるものであってもよく、又、抜け止め部材33Bがブラケット33Aにボルト接合されるものであってもよく、更に、抜け止め部材33Bがブラケット33Aに直接的にねじ込み装着されるものであってもよい。
【0053】
(8)上記の実施形態においては、スペーサ35Hとして、丸形の棒鋼材からなるものを例示したが、これに限らず、例えば、角形の棒鋼材又は合成ゴムなどからなるものであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
30 養生ユニット
31 縦フレーム材
32 養生パネル
33 固定具
33A ブラケット
33B 抜け止め部材
35 分割フレーム材
35E 案内溝
35H スペーサ
B 既存建物
W 外壁
Wa 貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6