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特許7549525スチレン系二軸延伸シート及びそれを用いた容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】スチレン系二軸延伸シート及びそれを用いた容器
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240904BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
C08J5/18 CET
B65D65/02 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020214799
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022100682
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神巻 恵理
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕卓
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039341(WO,A2)
【文献】特開2018-048320(JP,A)
【文献】特開2012-025786(JP,A)
【文献】特開2008-094912(JP,A)
【文献】特開平04-214323(JP,A)
【文献】特開昭60-125634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化ビニル単量体単位を含むスチレン系共重合体(A)と、
マレイミド系単量体単位を含むスチレン系共重合体(B)と、を含むスチレン系二軸延伸シートであって、
前記スチレン系二軸延伸シートの長さ方向及び幅方向の熱収縮開始温度が107℃以上であり、
前記スチレン系二軸延伸シートの総質量に対して、前記スチレン系共重合体(A)を60~95質量%含み、前記スチレン系共重合体(B)を5~40質量%含む、スチレン系二軸延伸シート。
【請求項2】
前記スチレン系共重合体(A)が、アクリロニトリル-スチレン共重合体である、請求項1に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項3】
前記マレイミド系単量体単位が、N-フェニルマレイミド単位を含む、請求項1または2に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項4】
前記スチレン系共重合体(B)中の前記N-フェニルマレイミド単位の割合が、前記スチレン系共重合体(B)の総質量に対して、35~55質量%である、請求項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項5】
前記スチレン系共重合体(B)が、無水マレイン酸単位を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項6】
前記スチレン系共重合体(B)が、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体を含む、請求項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項7】
前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体が、さらにアクリロニトリル単位を含む、請求項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載のスチレン系二軸延伸シートからなる容器。
【請求項9】
食品包装用である、請求項に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系二軸延伸シート及びそれを用いた容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレンからなる二軸延伸シート(以下、「ポリスチレン二軸延伸シート」と記載する)は、透明性、及び剛性に優れることから、食品包装用容器をはじめ、各種成形容器として広く利用されている。一方でポリスチレン二軸延伸シートは耐熱性に劣るため、前記二軸延伸シートからなる成形品を容器本体や蓋材として用いた容器を電子レンジで加熱した場合、変形が生じる場合がある。
ポリスチレン二軸延伸シートの耐熱性を改良することを目的に、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やスチレン-無水マレイン酸共重合体等の耐熱性スチレン樹脂を用いた、ポリスチレン系樹脂シートが提案されている(例えば、特許文献1~2等)。
【0003】
ところで、電子レンジで加熱される食品の中には、油を多く含むものがある。このような食品を内包した容器を電子レンジで加熱した場合、(1)食品の熱が容器に伝達して容器の温度が上昇する、(2)食品に含まれる油が容器を構成する樹脂に浸透して樹脂が可塑化する、といった原因により、容器に局所的に収縮応力が発生して容器に穴が開いたり、容器が大きく変形したりする場合がある。このような現象は、1000Wを超えるような高出力の電子レンジで食品を加熱した場合により顕著となる。そのため、食品包装用の容器には、高出力の電子レンジで加熱しても、穴あきや変形が生じない、高い耐熱性及び耐油性が要求されている。前述の特許文献1~2に記載のポリスチレン系樹脂シートから得られた容器は、耐熱性及び耐油性が十分ではない。
【0004】
ポリスチレン系樹脂シートの耐油性を改良する方法として、例えば、特許文献3~5には、親水性高分子や熱可塑性エマルジョンの塗膜をポリスチレン系樹脂シートの上に形成することが提案されている。しかしながら、高出力の電子レンジで加熱する用途においては、十分な耐熱性、及び耐油性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-036353号公報
【文献】特開2005-330299号公報
【文献】特開2007-277428号公報
【文献】特開2016-098254号公報
【文献】特開2016-098255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性及び耐油性に優れたスチレン系二軸延伸シート及びそれを用いた容器を提供することを目的とする。さらに詳しくは、高出力の電子レンジで加熱しても変形や穴あきが生じにくい、高い耐熱性及び耐油性を備える食品包装用容器を提供できる、スチレン系二軸延伸シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に対して、本願発明者らは鋭意検討した結果、特定の単量体単位を含むスチレン系共重合体(A)、(B)を含み、かつ熱収縮開始温度が特定の温度以上であるスチレン系二軸延伸シートであれば、上記の全ての課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]シアン化ビニル単量体単位を含むスチレン系共重合体(A)と、マレイミド系単量体単位を含むスチレン系共重合体(B)と、を含むスチレン系二軸延伸シートであって、前記スチレン系二軸延伸シートの長さ方向及び幅方向の熱収縮開始温度が107℃以上である、スチレン系二軸延伸シート。
[2]前記スチレン系二軸延伸シートの総質量に対して、前記スチレン系共重合体(A)を60~95質量%含み、前記スチレン系共重合体(B)を5~40質量%含む、[1]に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[3]前記スチレン系共重合体(A)が、アクリロニトリル-スチレン共重合体である、[1]または[2]に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[4]前記マレイミド系単量体単位が、N-フェニルマレイミド単位を含む、[1]から[3]のいずれか一項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[5]前記スチレン系共重合体(B)中の前記N-フェニルマレイミド単位の割合が、前記スチレン系共重合体(B)の総質量に対して、35~55質量%である、[4]に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[6]前記スチレン系共重合体(B)が、無水マレイン酸単位を含む、[1]から[5]のいずれか一項に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[7]前記スチレン系共重合体(B)が、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体を含む、[6]に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[8]前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体が、さらにアクリロニトリル単位を含む、[7]に記載のスチレン系二軸延伸シート。
[9][1]から[8]のいずれか一項に記載のスチレン系二軸延伸シートからなる容器。
[10]食品包装用である、[9]に記載の容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性及び耐油性に優れたスチレン系二軸延伸シート及びそれを用いた容器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
[スチレン系二軸延伸シート]
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、シアン化ビニル単量体単位を含むスチレン系共重合体(A)と、マレイミド系単量体単位を含むスチレン系共重合体(B)と、を含むスチレン系二軸延伸シートであって、前記スチレン系二軸延伸シートの長さ方向及び幅方向の熱収縮開始温度が107℃以上であることを特徴とする。このようなスチレン系二軸延伸シート(以下、単に「延伸シート」と記載することもある)は、耐熱性及び耐油性に優れている。そのため、本発明に係るスチレン系二軸延伸シートからなる容器は、食品等の内容物を内包して高出力の電子レンジで加熱しても、穴あきや変形が生じにくい。なお、本明細書において「二軸延伸シート」とは、無延伸シートを、長さ方向及び幅方向に逐次延伸又は同時に延伸した、樹脂シートのことを意味する。
【0010】
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートの長さ方向及び幅方向の熱収縮開始温度は107℃以上である。前記熱収縮開始温度の上限は特に限定されない。好ましい態様においては、前記熱収縮開始温度は107℃以上130℃以下であってもよく、110~123℃であってもよい。なお、本明細書において、「スチレン系二軸延伸シートの長さ方向」とは、延伸シートを成形する際の樹脂の流れ方向(MDの方向)を意味する。また、「スチレン系二軸延伸シートの幅方向」とは、前記長さ方向に対して直交する方向を意味する。本明細書においては、スチレン系二軸延伸シートの長さ方向を「MD方向」と記載し、「幅方向」を「TD方向」と記載することもある。
本発明における、延伸シートのMD方向及びTD方向の熱収縮開始温度は、具体的には以下の方法で測定した値を意味する。
<熱収縮開始温度の測定方法>
熱収縮応力測定機(テスター産業(株)製、製品名:「TP-501」)を用いて測定する。具体的には、作製した二軸延伸シートを、150mm(MD方向)×15mm(TD方向)に切り出して測定サンプルを調製する。前記延伸シートのサンプルを、チャック間距離100mmとなるように前記測定器のチャック部分で把持して、90℃以下の油浴に浸漬させる。その後、油浴の温度を0.5℃/分の昇温速度で、90℃から140℃まで昇温させる。この際、延伸シートのMD方向又はTD方向に熱収縮が発生して、熱収縮応力が0.05MPa以上に達した時の温度を、MD方向又はTD方向の熱収縮開始温度とする。
【0011】
(スチレン系共重合体(A))
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、シアン化ビニル単量体単位を含むスチレン系共重合体(A)(以下、単に「共重合体(A)」と記載する)を含む。スチレン系二軸延伸シートが共重合体(A)を含むことにより、耐油性が良好となり、レンジ加熱時に穴あきが発生しにくい。なお、本明細書において、「スチレン系共重合体」とは、スチレン系単量体単位を含む共重合体を意味する。すなわち、「共重合体(A)」は、単量体単位として、少なくともスチレン系単量体単位と、シアン化ビニル単量体単位とを含む。
スチレン系二軸延伸シート中の共重合体(A)の含有量は、スチレン系二軸延伸シートの総質量に対して、60~95質量%が好ましく、65~85質量%がより好ましく、65~75質量%が特に好ましい。共重合体(A)の含有量が前記範囲内であれば、スチレン系二軸延伸シートの耐熱性及び耐油性が向上しやすくなる。なお、「スチレン系二軸延伸シートの総質量」とは、スチレン系二軸延伸シートを構成する樹脂組成物の総質量のことを意味する。
【0012】
スチレン系単量体単位を構成するスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン等が挙げられる。これらスチレン系単量体は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレンを含むことが好ましい。
共重合体(A)中のスチレン系単量体単位の割合は、共重合体(A)の総質量に対して、60~90質量%であることが好ましく、65~80質量%であることがより好ましく、68~76質量%がさらに好ましい。スチレン系単量体単位の割合が前記範囲内であれば、延伸シートの色相が良好となりやすい。
【0013】
シアン化ビニル単量体単位を構成するシアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらシアン化ビニル単量体は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、耐油性がより向上しやすい観点から、シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリルを含むことが好ましい。
共重合体(A)中のシアン化ビニル単量体単位の割合は、共重合体(A)の総質量に対して、10~40質量%であることが好ましく、18~35質量%であることがより好ましく、24~32質量%であることがさらに好ましい。シアン化ビニル単量体単位の割合が前記範囲内であれば、延伸シートの色相、シート外観、製膜性がより良好となりやすい。
【0014】
共重合体(A)は、必要に応じて、スチレン系単量体単位とシアン化ビニル単量体単位以外の単量体単位(その他の単量体単位(x))を含んでいてもよい。その他の単量体単位(x)としては、ビニル系単量体単位が挙げられ、例えば、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
共重合体(A)がその他の単量体単位(x)を含む場合、共重合体(A)の総質量に対して、10質量%未満であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0015】
共重合体(A)は、アクリロニトリル-スチレン共重合体であることが好ましい。すなわち、本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、アクリロニトリル-スチレン共重合体を含むことが好ましい。共重合体(A)がアクリロニトリル-スチレン共重合体であれば、耐熱性及び耐油性がより向上しやすくなる。アクリロニトリル-スチレン共重合体中の、アクリロニトリル単位及びスチレン単位の好ましい割合は、前述のシアン化ビニル単量体単位及びスチレン系単量体単位と同じである。
【0016】
共重合体(A)は、シアン化ビニル単量体と、スチレン系単量体とを含む単量体混合物、好ましくは、アクリロニトリルとスチレンとを重合して得られる。重合方法としては特に限定されないが、臭気を低減しやすい観点から、塊状連続重合が好ましい。
1つの態様においては、共重合体(A)は、複数の共重合体の混合物であってもよい。この場合、各共重合体を任意の方法で重合したのち、複数の共重合体を混合して共重合体(A)としてもよい。
【0017】
塊状連続重合としては公知の方法を採用することができる。このうち、エチルベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等の溶剤を単量体混合物100質量部に対して、10~40質量部添加して重合を行うことが好ましい。また、重合時に、従来公知の有機過酸化物、分子量調整剤等を必要に応じて添加することができる。
重合温度は、80~170℃が好ましく、100~160℃であることがより好ましい。
【0018】
共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、50,000~250,000であることが好ましく、100,000~200,000であることがより好ましい。共重合体(A)のMwが50,000~250,000であれば、延伸シートの強度が良好となりやすい。また、製膜性も良好となりやすい。また、共重合体(A)のMwと数平均分子量(Mn)との比である多分散度(Mw/Mn)は、2.0~3.0が好ましく、2.1~2.5であることがより好ましい。共重合体(A)の多分散度が2.0~3.0であれば、延伸シートの強度が低下しにくく、耐油性もより良好となりやすい。なお、共重合体(A)のMw及びMnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により、ポリスチレン換算によって算出した値を指す。具体的には、以下の条件で測定した値を指す。
<共重合体(A)のMw及びMnの測定方法>
装置:Shodex(株)製、製品名:「Shodex SYSTEM-21」
カラム:PLgel MIXED-B
測定温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/分
検出方法:RI
サンプル濃度:0.2質量%
注入量:100μL
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)
【0019】
共重合体(A)のJIS K 7206 B50法の条件で測定したビカット軟化温度(VST)は、100~120℃であることが好ましく、105~115℃であることがより好ましく、107~110℃であることがさらに好ましい。共重合体(A)のVSTが前記範囲内であれば、製膜性が良好となりやすい。
【0020】
(スチレン系共重合体(B))
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、マレイミド系単量体単位を含むスチレン系共重合体(B)(以下、単に「共重合体(B)」と記載する)を含む。スチレン系二軸延伸シートが共重合体(B)を含むことにより、延伸シートの耐熱性及び耐油性が向上する。本明細書において、「共重合体(B)」は、単量体単位として、少なくともスチレン系単量体単位と、マレイミド系単量体単位とを含む。
スチレン系二軸延伸シート中の共重合体(B)の含有量は、スチレン系二軸延伸シートの総質量に対して、5~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく25~35質量%が特に好ましい。共重合体(B)の含有量が前記範囲内であれば、スチレン系二軸延伸シートの耐熱性及び耐油性がより向上しやすくなる。
【0021】
共重合体(B)に含まれる、スチレン系単量体単位を構成するスチレン系単量体としては、共重合体(A)と同じものが挙げられ、好ましい例もまた同じである。スチレン系単量体は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スチレンを含むことが好ましい。
共重合体(B)中のスチレン系単量体単位の割合は、共重合体(B)の総質量に対して、40~60質量%であることが好ましく、45~55質量%であることがより好ましく、47~53質量%であることがさらに好ましい。スチレン系単量体単位の割合が前記範囲内であれば、延伸シートの外観が良好となりやすい。
【0022】
マレイミド系単量体単位を構成するマレイミド系単量体としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-トルイルマレイミド、N-キシリールマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-t-ブチルマレイミド、N-オルトクロルフェニルマレイミド、N-オルトメトキシフェニルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、マレイミド系単量体としては、マレイミド、又はN-フェニルマレイミドを含むことが好ましい。マレイミド系単量体単位が、N-フェニルマレイミドを含む場合、マレイミド系単量体単位中のN-フェニルマレイミド単位の割合は、延伸シートの耐熱性向上、および黄色味抑制の観点から、マレイミド系単量体単位の総質量に対して、35~50質量%が好ましく、40~45質量%がより好ましい。1つの態様においては、マレイミド系単量体単位は、N-フェニルマレイミド単位のみから構成されていてもよい。
共重合体(B)中のマレイミド系単量体単位の割合は、共重合体(B)の総質量に対して、35~60質量%であることが好ましく、38~55質量%であることがより好ましく、40~52質量%であることがさらに好ましい。マレイミド系単量体単位の割合が前記範囲内であれば、耐熱性がより向上しやすく、かつ延伸シートの色相がより良好となりやすい。
共重合体(B)がN-フェニルマレイミド単位を含む場合、共重合体(B)中のN-フェニルマレイミドの割合は、共重合体(B)の総質量に対して、35~55質量%が好ましく、40~52質量%であることがより好ましい。
【0023】
共重合体(B)は、必要に応じて、スチレン系単量体単位とマレイミド系単量体単位以外の単量体単位を含んでいてもよい。前記単量体単位としては、前述のその他の単量体単位(x)が挙げられる。このうち、耐熱性がより向上しやすい観点から、その他の単量体単位(x)としては、無水マレイン酸単位を含むことが好ましい。共重合体(B)がその他の単量体単位(x)を含む場合、共重合体(B)の総質量に対して、10質量%未満であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましい。また、共重合体(B)が無水マレイン酸単位を含む場合、共重合体(B)の総質量に対する無水マレイン酸単位の割合は、0.1~2質量%が好ましく、0.3~1.1質量%がより好ましい。無水マレイン酸単位の割合が前記範囲内であれば、共重合体(A)と共重合体(B)との相溶性が良好となりやすい。
【0024】
共重合体(B)は、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体を含むことが好ましい。共重合体(B)がスチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体を含むことにより、延伸シートの耐熱性及び耐油性がより向上しやすくなる。
共重合体(B)中の、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体の割合は、共重合体(B)の総質量に対して、90~100質量%が好ましく、92~100質量%がより好ましい。好ましい態様においては、共重合体(B)は、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体であってもよい。
【0025】
前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体は、さらにアクリロニトリル単位を含んでいてもよい。スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体がアクリロニトリル単位を含む場合、その割合は、共重合体(A)と共重合体(B)との相溶性が悪化しにくく、かつ外観をより良好とする観点から、前記共重合体の総質量に対して、10質量%未満であることが好ましく、0~8質量%であることがより好ましい。
【0026】
共重合体(B)は、マレイミド系単量体と、スチレン系単量体とを含む単量体混合物とを重合して得られる。共重合体(B)は、スチレン、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸及び、必要に応じてアクリロニトリルを重合して得られるものであってもよい。
1つの態様においては、共重合体(B)は、複数の共重合体の混合物であってもよい。この場合、各共重合体を任意の方法で重合したのち、複数の共重合体を混合して共重合体(B)としてもよい。
【0027】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合を用いることができる。
【0028】
共重合体(B)の重量平均分子量(Mw)は、50,000~150,000であることが好ましく、80,000~140,000であることがより好ましい。共重合体(B)のMwが前記範囲内であれば、外観が良好となりやすい。また、共重合体(B)の多分散度(Mw/Mn)は、2.0~3.0が好ましく、2.3~2.8がより好ましい。共重合体(B)の多分散度が前記範囲内であれば、共重合体(A)への相溶性が良好となりやすい。なお、共重合体(B)のMw及びMnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により、ポリスチレン換算によって算出した値を指す。具体的には、前述の共重合体(A)と同様の条件で測定することができる。
【0029】
共重合体(B)のMFR(Melt Flow Rate)は、1.0~100g/10分であることが好ましく、3~70g/10分であることがより好ましい。共重合体(B)のMFRが前記範囲内であれば、外観が良好となりやすい。なお、前記MFRは265℃、98Nの荷重条件下で、JIS K 7210に従って測定した値のことを指す。
【0030】
(その他成分)
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、共重合体(A)と共重合体(B)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。その他の樹脂としては、例えば、共重合体(A)、(B)以外のスチレン系共重合体、ハイインパクトポリスチレン、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン-ブタジエンブロック共重合体樹脂等のゴム強化樹脂等が挙げられる。延伸シートがその他の樹脂を含む場合、透明性、耐熱性の観点から、延伸シートの総質量に対して、3質量%未満であることが好ましい。
【0031】
また、延伸シートは、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油等のその他添加剤、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等の補強繊維、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム等の充填剤等を含むことができる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(5’-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α、α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(3’-t-ブチル-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-ブチル-2’-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(3’,5’-ジ-t-アミル-2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-[3’-(3”,4”,5”,6”-テトラヒドロ・フタルイミドメチル)-5’-メチル-2’-ヒドロキシフェニル]ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾ-ル-2-イル)フェノ-ル]等のベンゾトリアゾ-ル系紫外線吸収剤;2-エトキシ-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチル蓚酸ビスアニリド、2-エトキシ-4’-イソデシルフェニル蓚酸ビスアニリド等の蓚酸アニリド系紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;フェニルサリシレ-ト、p-t-ブチルフェニルサリシレ-ト、p-オクチルフェニルサリシレ-ト等のサリチル酸系紫外線吸収剤;2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト、エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト等のシアノアクリレ-ト系紫外線吸収剤;ルチル型酸化チタン、アナタ-ゼ型酸化チタン、アルミナ、シリカ、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤等の表面処理剤で処理された酸化チタン等の酸化チタン系紫外線安定剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケ-ト、コハク酸ジメチル・1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6,(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン-[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕]、1-[2-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコ-ル-ビス[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、2,4-ビス(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリチルテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト、2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノ-ル)及び1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジテトラデシル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジオクチル-3,3’-チオジプロピオネ-ト等の硫黄系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、(トリデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(オクタデシル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ビス(ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリト-ルジホスファイト、ジノニルフェニルオクチルホスフォナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)1,4-フェニレン-ジ-ホスフォナイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)4,4’-ビフェニレン-ジ-ホスフォナイト、10-デシロキシ-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン等の燐系酸化防止剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートには、必要に応じて、公知の補強ゴムが含まれていてもよい。補強ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、(メタ)アクリル酸メチル-ブタジエン-スチレンゴム、エチレン-プロピレンゴム等が挙げられる。これらは、1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。延伸シートが補強ゴムを含む場合、透明性の観点から、延伸シートの総質量に対して、10質量%未満であることが好ましい。
【0036】
[スチレン系二軸延伸シートの製造方法]
本発明に係る延伸シートの製造方法としては、共重合体(A)、共重合体(B)、及び必要に応じてその他の成分を押出機に投入して溶融混錬し、その後ダイ(好ましくはTダイ)から押出して無延伸シートを作成する。無延伸シートの厚みは、包装容器として好適な厚みの点で、1.0~2.0mm、好ましくは1.4~1.9mmとすることができる。その後、無延伸シートを、二軸方向に、逐次又は同時に延伸することにより延伸シートを製造することができる。
延伸方法としては、例えば、二軸延伸機を用いて無延伸シートを延伸する方法等、従来公知の方法を採用することができる。
MD方向への延伸倍率としては、2~4倍が好ましく、2.5~3倍であることがより好ましい。また、TD方向への延伸倍率としては、2~4倍が好ましく、2.5~3倍であることがより好ましい。なお、前記の延伸倍率は、無延伸シートのMD方向の長さ及びTD方向の長さを基準とした場合の倍率(すなわち、無延伸シートのMD方向及びTD方向の長さを「1」とした場合の倍率)である。
延伸シートの厚みは本発明の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、0.15~0.35mmの範囲、より好ましくは0.20~0.30mmの範囲とすることができる。
溶融混錬時の温度としては、220~300℃が好ましく、240~280℃がより好ましい。
延伸時の温度としては、140~160℃が好ましく、145~155℃がより好ましい。また、延伸速度は、配向緩和応力の観点から、20~40mm/秒であることが好ましく、25~35mm/秒であることがより好ましい。
【0037】
延伸シートのMD方向の最大配向緩和応力は、0.1~0.6MPaであることが好ましく、0.1~0.5MPaであることがより好ましい。また、延伸シートのTD方向の最大配向緩和応力は、0.2~0.7MPaであることが好ましく、0.2~0.6MPaであることがより好ましい。MD方向及びTD方向の最大配向緩和応力が前記範囲内であれば、熱収縮開始温度がより好適な範囲となりやすい。また、最大配向緩和応力のMD方向とTD方向の比(MD/TD)は、0.5~1.5であることが好ましく、0.6~1.0であることがより好ましい。なお、前記最大配向緩和応力は、ASTM D1540の条件に従って測定した値を指す。
【0038】
ASTM-D3420に従って測定される、本発明に係る延伸シートのフィルムインパクト強度は、1.8~2.5mm/Jであることが好ましい。
【0039】
本発明に係る延伸シートは、必要に応じて、食品等の内包物と接触する側のシート表面に、防曇剤を塗工してもよい。
【0040】
防曇剤を塗工する場合は、例えば、ポリスチレン系二軸延伸シートの防曇剤として従来公知のものを採用することができる。例えば、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコ-ル及びその共重合体、ポリビニルピロリドン及びその共重合体、水溶性高分子等を延伸シートの表面に塗工してもよい。またその塗工量については特に限定されず、例えば、10~150mg/mの範囲で任意に調整することができる。また塗工方法は、従来公知の方法を採用することができる。
【0041】
[容器]
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートは、公知の手法により容器とすることができる。例えば、真空成型や圧空成形等の方法によって容器とすることができる。具体的には、熱板加熱式圧空成形により型再現性の良好な成形品を得ることができる。本発明における「容器」には、内容物を収納するための本体容器の他、前記本体容器と嵌合可能な蓋材も含まれる。
本発明に係るスチレン系二軸延伸シートからなる容器は、耐熱性及び耐油性に優れるため、食品包装用の容器、特に電子レンジで加熱される食品包装用容器として好適に用いることができる。なお、当然ながら本発明の延伸シートから得られる容器は、その用途が食品包装用途に限定されるわけではない。
【実施例
【0042】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0043】
共重合体(A)及び(B)における、Mw、Mn、VST、MFR及び単量体組成比は以下に示す方法によって測定した。
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
重量平均分子量算出はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定で行った。条件を下記に示す。
装置:Shodex(株)製、製品名:「SYSTEM-21」
カラム:PLgel MIXED-B
温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:1.0mL/分
検出:RI
濃度:0.2質量%
注入量:100μl
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories社製)を用い、溶離時間と溶出量の関係を分子量と変換して各種平均分子量を求めた。
【0044】
<ビカット軟化温度(VST)>
50N荷重下、JIS K 7206 B50法に従い測定した。
【0045】
<MFR>
265℃、98N荷重条件下で、JIS K 7210に従い測定した。
【0046】
<単量体組成比:熱分解ガスクロマトグラフィ>
熱分解装置:日本分析工業(株)製 製品名:「JPS-220」
熱分解温度:590℃
ガスクロマトグラフィ:ヒューレットパッカード社製 製品名:「5890SERIESI」
カラム:微極性カラム アジレント・テクノロジー(株)製、製品名:「DB-5」
キャリアガス:He 圧力2psi
温度条件:50℃で5分間保持した後、18℃/分で250℃まで昇温し、250℃で7分間保持
検出:FID
共重合体(A)、(B)のサンプルを0.3mg秤量して上記の条件で測定した。検出された成分のピーク面積比から単量体組成比を決定した。
【0047】
[共重合体(A-1)の製造]
連続式の塊状重合にて作製した。反応器として完全混合槽型撹拌槽を1基使用し、30Lの容量で重合を行った。スチレン60質量%、アクリロニトリル22質量%、エチルベンゼン18質量%の原料溶液を作製し、反応器に9.5L/hの流量で連続的に供給した。また、原料溶液に対して、重合開始材としてt-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを160ppm、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを400ppmの濃度となるよう、原料溶液の供給ラインに連続的に添加した。反応器の反応温度は145℃となるよう調整した。反応器から連続的に取り出された共重合体を含む溶液を、予熱器付き真空脱揮槽に供給し、未反応のスチレン及びアクリロニトリル、エチルベンゼンを分離した。脱揮槽内の共重合体の温度が235℃となるように予熱器の温度を調製した。また、脱揮槽内の圧力は0.4kPaとした。ギヤーポンプにより真空脱揮槽から共重合体を抜出し、ストランド状に押出して冷却水にて冷却後、切断してペレット状の共重合体(A-1)を得た。共重合体(A-1)の構成単位は、スチレン単位が73.5質量%、アクリロニトリル単位が26.5質量%であった。また、重量平均分子量は146,000であった。また、VSTは107℃であった。共重合体(A-1)の詳細を表1に示す。
【0048】
[共重合体(A-2)~(A-3)の製造]
単量体混合物中のアクリロニトリル及びスチレンの比率を変更した以外は、共重合体(A-1)と同様の方法にて、共重合体(A-2)~(A-3)を調製した。共重合体(A-2)~(A-3)の詳細を表1に示す。
【0049】
[共重合体(B-1)の製造]
攪拌機を備えた容積約120Lのオートクレーブに、スチレン42質量部、アクリロニトリル10質量部、無水マレイン酸4質量部、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.6質量部、メチルエチルケトン27質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、無水マレイン酸21質量部と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.15質量部とを、メチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液、及びスチレン20質量部を、4.5時間かけて連続的にオートクレーブに添加した。更に、無水マレイン酸を含む前記溶液を添加終了後、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.02質量部をメチルエチルケトン9質量部に溶解した溶液及びスチレン3質量部を30分かけて連続的に添加した。添加後、120℃に昇温し、30分反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン23質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体(B-1)を得た。共重合体(B-1)は、スチレン単位52質量%、アクリロニトリル単位8質量%、N-フェニルマレイミド単位39質量%、無水マレイン酸単位1質量%であり、重量平均分子量Mwは80,000、多分散度(Mw/Mn)は2.4であった。また、MFR(265℃、98N)は70g/10minであった。共重合体(B-1)の詳細を表2に示す。
【0050】
[共重合体(B-2)~(B-4)の製造]
共重合体(B-2)は、アニリンの添加量を調整して無水マレイン酸のマレイミドへの転化率を調整したこと、α-メチルスチレンダイマーを添加してMwを調整したこと以外は、共重合体(B-1)と同様の方法にて調製した。また、共重合体(B-3)~(B-4)は、マレイミドへの転化率、Mwの調整、及びアクリロニトリルを添加しなかったこと以外は、共重合体(B-1)と同様の方法にて調製した。共重合体(B-2)~(B-4)の詳細を表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
(実施例1)
共重合体(A-1)(樹脂組成物の総質量に対して70質量%)と、共重合体(B-1)(樹脂組成物の総質量に対して30質量%)とを、同方向二軸押出機(東芝機械(株)製、製品名:「TEM-35B」、有効長(L/D):32)を用いて、シリンダー温度260℃、フィード量20kg/hr、スクリュー回転数200rpmの条件にて溶融混錬しペレット化した。得られたペレットをスクリュー径が40mmの単軸押出機を用いて、240℃、70rpmで溶融混錬し、Tダイを通して、厚み1.5mmの無延伸シートを得た。得られた無延伸シートを、二軸延伸機を用いて、延伸温度147℃、延伸速度30mm/秒、MD方向の延伸倍率2.6倍、TD方向の延伸倍率2.6倍で逐次延伸して、二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの熱収縮開始温度を以下の方法で測定した。実施例1の二軸延伸シートのMD方向及びTD方向の熱収縮開始温度はいずれも117℃であった。また、得られた二軸延伸シートのMD方向及びTD方向の最大配向緩和応力、シート外観、色見、耐熱性、及び耐油性を以下の条件で測定した。結果を表3に示す。なお、表3における「製膜性」とは、Tダイ押出による製膜の可否を評価したものである。すなわち、Tダイ押出により製膜できたものを「合格」とし、製膜できなかったものを「不合格」として評価した。
<熱収縮開始温度の測定方法>
熱収縮応力測定機(テスター産業(株)製、製品名:「TP-501」)を用いて、測定した。具体的には、二軸延伸シートを150mm(MD方向)×15mm(TD方向)に切り出して測定サンプルを調製した。前記延伸シートのサンプルを、チャック間距離100mmとなるように前記測定器のチャック部分で把持して、90℃以下の油浴に浸漬させた。その後、油浴の温度を0.5℃/分の昇温速度で、90℃から140℃まで昇温させた。この際、延伸シートのMD方向又はTD方向に熱収縮が発生して、熱収縮応力が0.05MPa以上に達したときの温度を、MD方向又はTD方向の熱収縮開始温度とした。
【0054】
<最大配向緩和応力の測定>
熱収縮応力測定器(テスター産業(株)製、製品名:「TP-501」)を用いて、ASTM D1540の条件に従って測定した。具体的には、二軸延伸シートを150mm(MD方向)×15mm(TD方向)に切り出して測定サンプルを調製した。前記延伸シートサンプルを、チャック間距離100mmとなるように前記測定器のチャック部分で把持して、150℃の湯浴に浸漬させた。この際、延伸シートのMD方向またはTD方向に熱収縮が発生して、熱収縮応力が最大となったときの荷重を、MD方向又はTD方向の最大配向緩和応力とした。
【0055】
<シート外観の評価>
延伸シートのシート外観を視認性により評価した。具体的には、400mm×400mmの大きさの延伸シート5枚を目視で評価し、延伸シート全体の厚みムラの有無を確認した。また、以下の評価基準に沿って評価し、良評価以上を合格(シート外観が良好である)とした。
(評価基準)
優:厚みムラがなく視認性が良好であった。
良:延伸シートの一部に、厚みムラにより視認性が低下している箇所があった。
不可:厚みムラにより、延伸シート全体の視認性が悪かった。
【0056】
<色見の評価>
延伸シートの色見を、色差計(コニカミノルタ(株)製、製品名:「分光測色計CM-2500d」)を用いて評価した。具体的には、厚さ0.25mmの延伸シート6枚を重ね合わせて、厚み1.5mmのシートサンプルを作成し、SCI法の条件でサンプルの色見を評価した。また、以下の評価基準に沿って評価し、良評価以上を合格(黄色味が少ないため色相が良好である)とした。
優:bの値が10以下である。
良:bの値が10超15以下である。
不可:bの値が15超である。
【0057】
<耐熱性及び耐油性の評価>
延伸シートを熱板成形機((株)脇坂エンジニアリング製、製品名:「HPT-400A」)にて、熱板温度145℃、金型温度90℃の条件で成形して、容器の蓋材を得た。次に、厚み2.4mmの発泡スチレン(PSP)系シートから成形された本体容器を準備し、前記本体容器内に麻婆丼450g((株)セブン-イレブン・ジャパン製、商品名:「花椒の香り広がる!麻婆丼」)を内包した。前記麻婆丼10gを、蓋材の内容物側の表面に均一に付着させた後、前記蓋材を本体容器と嵌合させた。その後、1500Wの電子レンジで2分間加熱して、蓋材の状態を以下の評価基準に沿って評価した。また、良評価以上を合格(耐熱性及び耐油性に優れる)とした。
優:蓋材に変形及び穴あきがない。
良:蓋材が僅かに変形したが、穴あきはない。
不可:蓋材が大きく変形し、かつ穴あきが発生した。
【0058】
<耐油性の評価:マヨネーズ付着試験>
より過酷な条件での耐油性を以下の方法で評価した。
延伸シートの中央部を50mm×50mmの大きさに切り出し、マヨネーズを9か所にそれぞれ1gずつ付着させて評価シートを作成した。この評価シートを各3枚ずつ作製し、前述の耐熱性及び耐油性の評価と同条件で作成した容器蓋の内側に貼り付けた。次に、前述の耐熱性及び耐油性の評価と同条件で作成した容器本体に水300gを入れ、3枚の評価シートを貼り付けた容器蓋を嵌合させ、1500Wの電子レンジで90秒間加熱した。その後、評価シートの変形度合いを以下の評価基準に沿って評価した。また、良評価以上を合格とした。
優:マヨネーズ付着部分27箇所中、評価シートの変形箇所が10箇所未満であった。
良:マヨネーズ付着部分27箇所中、評価シートの変形箇所が10箇所以上20箇所未満であった。
不可:マヨネーズ付着部分27箇所中、評価シートの変形箇所が20箇所以上であった。
【0059】
[実施例2~8及び比較例1]
共重合体(A)、(B)の割合及び無延伸シートの厚みを表3に示す通りとした以外は、実施例1と同様の方法にて延伸シートを作成した。また各例の延伸シートについて、実施例1と同様の方法で、熱収縮開始温度、最大配向緩和応力、シート外観、色見、耐熱性、及び耐油性を評価した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示す通り、本発明の構成を満たす実施例1~8の延伸シートから得られた容器(蓋材)は、耐熱性及び耐油性に優れていた。すなわち、食品を内包した状態で高出力の電子レンジで加熱しても、容器の変形や穴あきが生じにくかった。また、マヨネーズを直接付着させた状態で高出力の電子レンジで加熱した場合でも変形箇所が少なく、耐油性に非常に優れていた。一方、本発明の構成を満たさない延伸シートから得られた比較例1の容器(蓋材)は、高出力の電子レンジで加熱した際に穴あき及び変形が生じた。以上の結果から、本発明のスチレン系二軸延伸シートは、耐熱性及び耐油性に優れており、高出力の電子レンジで加熱しても変形や穴あきが生じにくい食品包装用容器を提供できることが確認された。