(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240904BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240904BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240904BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240904BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240904BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/06
F16C33/66 Z
F16J15/3204 201
F16J15/447
(21)【出願番号】P 2020217398
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】辻 直明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千春
(72)【発明者】
【氏名】田中 新樹
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-073454(JP,U)
【文献】特開2020-133682(JP,A)
【文献】特開2020-159549(JP,A)
【文献】国際公開第2005/075610(WO,A1)
【文献】特開2016-023727(JP,A)
【文献】特開2017-087629(JP,A)
【文献】実開平01-158824(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 33/80
F16C 19/06
F16C 33/66
F16J 15/3204
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付られ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成され、前記シール部材は、芯金と、前記シール溝における外側溝壁面に接触する主リップと、前記シール溝に非接触の副リップと、を備える転がり軸受であって、
前記主リップは、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜する基端部と、この基端部から内径方向に延びるリップ本体部とを有し、
前記副リップは、基端部から軸方向内側に突出し、この副リップの先端部と前記シール溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールが形成され、
前記芯金の軸受内部側位置から前記副リップの先端部までの軸方向における最大の距離をDとし、前記芯金の板厚をdとしたとき、1.90≦D/d≦2.50である転がり軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の転がり軸受において、前記副リップの内径部から前記リップ本体部の内径側端部までの径方向寸法Eが、前記シール部材の内周側部分であるゴム部断面の径方向長さFの60%±10%である転がり軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転がり軸受において、前記内輪の外周面と前記内側溝壁面との交点と、前記副リップの先端部との間の軸方向隙間をAとしたとき、0.2≦A/D≦0.5である転がり軸受。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記軸受空間に封入されるグリースが、軸受内部空間容積の10%以上である転がり軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の転がり軸受において、前記グリースが基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物であって、
前記基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm
2/s以上の混合油であり、
前記増ちょう剤は、ウレア化合物であり、前記増ちょう剤量が10wt%~15wt%含まれ、
前記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240である転がり軸受。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記副リップの前記基端部の外径寸法が、前記内輪の外周面よりも外径側に位置し、前記副リップの外径部は、この転がり軸受を軸方向を含む平面で切断して見た断面において、直線形状に延びる部分を有し、且つ軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する断面直線形状部を有し、前記軸方向に対して、前記副リップの前記断面直線形状部の傾斜角度Gが5°以上25°以下である転がり軸受。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール溝の外側溝壁面は、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、前記シール部材は、前記主リップの先端部が、前記シール溝の前記外側溝壁面に法線方向に当たるR形状に形成され、軸方向に対する前記外側溝壁面の傾斜角度が53~68°である転がり軸受。
【請求項8】
請求項7に記載の転がり軸受において、前記主リップの先端部は半径が0.03~0.09mmの円弧状である転がり軸受。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール部材は、前記芯金とゴム材とを有し、前記主リップおよび前記副リップは、前記ゴム材から成り、これら主リップおよび副リップの内側面を含む前記ゴム材の内側面におけるPCDよりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さがRa=0.4~2.5μmである転がり軸受。
【請求項10】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール部材に内圧を逃がす空気出口が設けられている転がり軸受。
【請求項11】
請求項10に記載の転がり軸受において、少なくとも片側の前記シール部材の外周側部分に対して前記空気出口が複数設けられ、これら空気出口は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口とを有し、これら径方向の空気出口と軸方向の空気出口とが異なる円周方向位置に設けられている転がり軸受。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール部材の前記主リップに、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられている転がり軸受。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記シール部材に設けられた前記空気出口は、軸方向一方側または両側のシール部材にある転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、軸受内部からの発塵量を低減し得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図10に示すサーボモータ用の転がり軸受50において、モータ51の近傍にエンコーダ52が配置される機種については、軸受内部からの発塵およびシール摩耗粉がエンコーダ52に付着することによるエンコーダ52の誤動作防止のため、接触シールにて転がり軸受50としての低発塵が求められる。
【0003】
先行技術に係る転がり軸受では、
図11に示すように、低トルクと高シール化を図るために、主リップ53はシール溝54の外側溝壁面に接触させ、副リップ55の先端部とシール溝54の内側溝壁面との間でラビリンスシールを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受の内輪高速回転時において、転がり軸受の内圧が上昇するため、シール性が不十分であると空気と共にグリースが外部に吐き出され転がり軸受の周辺を汚損させる。
そこで、本件出願人は、副リップの形状と内輪とのクリアランス、グリース封入量およびグリース性状等を規定することにより、転がり軸受の内部からグリースが塊となってシール溝の内部への侵入することを防ぎ、流出を抑制し軸受内部からの発塵量を低減することを見出した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からの発塵量を低減することができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付られ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成され、前記シール部材は、芯金と、前記シール溝における外側溝壁面に接触する主リップと、前記シール溝に非接触の副リップと、を備える転がり軸受であって、
前記副リップは、基端部から軸方向内側に突出し、この副リップの先端部と前記シール溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールが形成され、
前記芯金の軸受内部側位置から前記副リップの先端部までの軸方向における最大の距離をDとし、前記芯金の板厚をdとしたとき、1.90≦D/d≦2.50である。
【0008】
本発明において使用するグリースが比較的硬いものである場合、グリースの動きに対して副リップが耐えなければならない。芯金に対して副リップが長すぎるとグリースに負け発塵する可能性がある。芯金に対して副リップが短すぎる、つまり芯金そのものが厚くなりすぎる場合、軸受空間が狭く制限される。軸受空間が狭く制限されると、保持器の強度を確保することが困難となるだけでなく、軸受空間へのグリースの充填量が十分でなくなる。また、シール部材は接触シールであるため、トルクが大きくなる懸念がある。
【0009】
この構成によると、芯金の板厚dに対する、芯金の軸受内部側位置から副リップの先端部までの軸方向における最大の距離Dの比、D/dを1.90以上2.50以下としたため、軸受空間に封入するグリースとして比較的硬いものを採用した場合でも、グリースの動きに対して副リップが耐え発塵を抑制することが可能となるうえ、芯金が厚くなりすぎることを防止し得る。芯金が厚くなりすぎることを防止し得るため、保持器の強度を確保でき軸受空間へのグリースの充填量を十分に満たすことができる。
したがって、軸受空間に封入されたグリースが、塊となって内輪のシール溝の内部へ侵入することを抑制することができる。転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からの発塵量を低減することができる。
【0010】
前記内輪の外周面と前記内側溝壁面との交点と、前記副リップの先端部との間の軸方向隙間をAとしたとき、0.2≦A/D≦0.5であってもよい。
前記内輪の外周面と前記内側溝壁面との交点が角部(いわゆるエッジ)である場合、その位置を基準として軸方向隙間Aを規定する。前記内輪の外周面と前記内側溝壁面との交点がエッジではなく、滑らかに繋がっていてもよく、この場合は、前記内輪の外周面と前記内側溝壁面とが滑らかに繋がっている部分の略中央位置を基準として軸方向隙間Aを規定する。
このように軸方向隙間Aを規定することで、軸受空間に封入されたグリースが、塊となって内輪のシール溝の内部へ侵入することをより確実に抑制することができる。
【0011】
前記軸受空間に封入されるグリースが、軸受内部空間容積の10%以上であってもよい。
前記「軸受内部空間容積」とは、内輪および外輪間の軸受空間における、転動体および保持器を除く空間の容積のことである。軸方向両側にシール部材が取り付けられている場合、内外輪間の軸受空間のうち、軸方向両側のシール部材の間の空間の容積である。
この構成によると、グリースの充填量の下限値を軸受内部空間容積の10%と少なくすることで、発塵のリスクを低減することができる。例えば、グリースの充填量の上限値を軸受内部空間容積の60%と多くすると、発塵のリスクは高まるが、定められた硬さのグリース、副リップの軸方向隙間、主リップの当たり具合等を規定することで、グリースの発塵を抑制することができる。
【0012】
前記グリースが基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物であって、前記基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm2/s以上の混合油であり、前記増ちょう剤は、ウレア化合物であり、前記増ちょう剤量が10wt%~15wt%含まれ、前記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240であってもよい。
グリースの流動を抑えるには、グリースは硬い方が好ましく、混和ちょう度が200~240が望ましい。混和ちょう度を200~240とするために、増ちょう剤量を10wt%~15wt%とすることにより、グリースを硬くすることができ、グリースの移動を鈍感にしてグリースの流出を抑制し得る。このようなグリース組成物を適用することで、耐摩耗性および寿命の低下を抑えつつ、低発塵性を実現できる。グリースの充填量の上限値を高めた場合であっても、このグリース組成物を適用することで、グリースの発塵を抑制し得る。
【0013】
前記副リップの前記基端部の外径寸法が、前記内輪の外周面よりも外径側に位置し、前記副リップの外径部は、この転がり軸受を軸方向を含む平面で切断して見た断面において、直線形状に延びる部分を有し、且つ軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する断面直線形状部を有し、前記軸方向に対して、前記副リップの前記断面直線形状部の傾斜角度Gが5°以上25°以下であってもよい。
【0014】
副リップの傾斜角度Gが大きすぎると、内輪のシール溝にグリースが侵入し、発塵してしまう可能性が高まる。前記傾斜角度Gが小さすぎる、換言すれば、副リップの外径部が軸方向に平行に近づくと、副リップの先端部の外径側端が内輪外周面よりも外径側に位置する。このため、回転時のグリース攪拌と同時にグリースがシール溝の溝底面側に流れていくことを助長する可能性がある。
この構成によると、副リップの外径部における断面直線形状部の傾斜角度Gを5°以上25°以下として、断面直線形状部の延長線と、内輪の外周面の延長線とが滑らか(程よい角度で)に交わっていることで、グリースの発塵をより低く抑制することができる。
【0015】
前記シール溝の外側溝壁面は、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成され、前記シール部材は、前記主リップの先端部が、前記シール溝の前記外側溝壁面に法線方向に当たるR形状に形成され、軸方向に対する前記外側溝壁面の傾斜角度が53~68°であってもよい。
【0016】
この構成によると、軸方向に対する外側溝壁面の傾斜角度が53~68°とし、主リップの先端部をR形状とすることで、転がり軸受の回転時に発生する軸受内圧に対して、主リップの先端部が法線方向に当たる状態、いわゆる法線当たりを維持できるような主リップの面圧分布となる。したがって、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリースの流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる。
外側溝壁面の傾斜角度が53°より小さくなると、軸受内圧に対してシール部材がめくれやすくなるため適切でない。外側溝壁面の傾斜角度が68°より大きくなると、軸受内圧が発生したとき、主リップの先端部が前記傾斜面に強く当たり過ぎるため、トルクが大きくなるか、またはより発熱してしまうため適切でない。
【0017】
前記主リップの先端部は半径が0.03~0.09mmの円弧状であってもよい。この場合、転がり軸受の回転時に主リップの面圧分布の変化をより確実に抑えることができるうえ、トルクが大きくなること、発熱すること等を抑えることができる。
主リップの先端部の半径が0.03mmより小さいと、転がり軸受の回転時に軸受内圧が変化し主リップの接触位置に微妙なずれが生じたときに、法線当たりとならなくなることが考えられる。主リップの先端部の半径が0.09mmより大きいと、転がり軸受の回転時における軸受内圧の上昇時、主リップの先端部が傾斜面と強く当たった場合、接触面が増大し、トルクが大きくなるか、または発熱するため適切でない。
【0018】
前記シール部材は、前記芯金とゴム材とを有し、前記主リップおよび前記副リップは、前記ゴム材から成り、これら主リップおよび副リップの内側面を含む前記ゴム材の内側面におけるPCDよりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さがRa=0.4~2.5μmであってもよい。この場合、所望の発塵抑制効果を得ることができ、且つ、グリースに対する抵抗を低く抑えることができる。
算術平均粗さRaが0.4μmより小さいと、グリースの移動の抑制効果が小さくなり、発塵抑制効果が小さい。算術平均粗さRaが2.5μmより大きい、つまり粗くし過ぎるとグリースに対する抵抗が大きくなり過ぎ、回転に不利になるため適切でない。
【0019】
前記シール部材に内圧を逃がす空気出口が設けられていてもよい。この場合、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0020】
少なくとも片側の前記シール部材の外周側部分に対して前記空気出口が複数設けられ、これら空気出口は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口とを有し、これら径方向の空気出口と軸方向の空気出口とが異なる円周方向位置に設けられていてもよい。このように径方向の空気出口と軸方向の空気出口の円周方向位置(円周方向の位相)をずらすことで、グリースの流出をより確実に抑制し得る。
【0021】
前記シール部材の前記主リップに、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口が設けられていてもよい。この場合、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0022】
前記シール部材に設けられた前記空気出口は、軸方向一方側または両側のシール部材にあってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の転がり軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持され、これら内輪および外輪間の軸受空間を塞ぐシール部材が前記外輪に取付られ、前記内輪の外周面にシール溝が周方向に形成され、前記シール部材は、芯金と、前記シール溝における外側溝壁面に接触する主リップと、前記シール溝に非接触の副リップと、を備える転がり軸受であって、前記副リップは、基端部から軸方向内側に突出し、この副リップの先端部と前記シール溝の内側溝壁面との間でラビリンスシールが形成され、前記芯金の軸受内部側位置から前記副リップの先端部までの軸方向における最大の距離をDとし、前記芯金の板厚をdとしたとき、1.90≦D/d≦2.50である。このため、転がり軸受の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からの発塵量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図2】同転がり軸受のシール部材のリップ等の拡大断面図である。
【
図4A】同シール部材を径方向の空気出口で切断して見た部分拡大断面図である。
【
図4B】同シール部材を軸方向の空気出口で切断して見た部分拡大断面図である。
【
図5】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受におけるシール部材のリップ等の拡大断面図である。
【
図6】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図7】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図9】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図10】サーボモータ用の転がり軸受等を概略示す図である。
【
図11】従来例の転がり軸受のシール構造を部分的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1の実施形態]
この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受を
図1ないし
図4と共に説明する。
<転がり軸受の概略構成>
図1は、この転がり軸受1を軸方向つまり軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面(縦断面)である。他の実施形態における断面図についても同様である。同
図1に示すように、この転がり軸受1は、内外輪2,3と、玉4と、保持器5と、シール部材6とを備える深溝玉軸受である。内外輪2,3の軌道面間2a,3aに介在する複数の玉4が保持器5により周方向一定間隔おきに保持され、これら内輪2および外輪3間の軸受空間を塞ぐシール部材6が外輪3に取付られている。この例では、外輪内周面における軸方向両側にシール部材6,6が取付られている。内外輪2,3間の軸受空間には、後述するグリースが封入されている。保持器5は、内部に玉4を保持するポケットPtを、環状体の円周方向の複数箇所に有し、ポケットPtの軸方向一方側を開口した形状のいわゆる冠型保持器である。
【0026】
<シール構造について>
各シール部材6は、シール溝7に主リップ15が接触する接触シールである。内輪2の外周面にシール溝7が周方向に形成され、各シール溝7に対向する外輪3の内周面にシール部材固定溝9が設けられる。
図1~
図3に示すように、シール部材6は、芯金10にゴム材11をモールドしたものであり、このシール部材6の外周縁が、外輪3のシール部材固定溝9に嵌め込まれて固定される。
図3,
図4Aおよび
図4Bに示すように、シール部材6の外周側部分には、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口12が設けられている。
【0027】
なお
図1、
図4Aおよび
図4Bでは、シール部材6の外周側部分の一部分が外輪3のシール部材固定溝9に埋め込まれているように示されているが、この一部分は締め代であり、実際には弾性変形された状態でシール部材固定溝9に嵌め込まれている。またシール部材6の主リップ15の一部分についても内輪
2のシール溝7に埋め込まれているように示されているが、この一部分は締め代であり、実際には弾性変形された状態でシール溝7に接触している。他の実施形態のシール構造についても同様である。
【0028】
図3,
図4Aおよび
図4Bに示すように、シール部材6に対して空気出口12が複数設けられている。これら空気出口12は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口12a(
図4A)と、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口12b(
図4B)とを有する。空気出口12a,12bは、それぞれシール部材6の外周側部分に設けられた溝から成る。これら径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bとが異なる円周方向位置に設けられている。
【0029】
具体的には、シール部材6の外周側部分のうち、シール部材固定溝9の内側溝壁面9aに臨む内側面に、二つの径方向の空気出口12a,12aが円周方向に180度位相を隔てて設けられている。径方向の空気出口12aと内側溝壁面9aとで孔が形成される。またシール部材6の外周側部分のうち、シール部材固定溝9の外周溝壁面9cおよび外側溝壁面9bに臨む外周面に、一つの軸方向の空気出口12bが設けられている。軸方向の空気出口12bと外周溝壁面9cと外側溝壁面9bとで孔が形成される。この軸方向の空気出口12bは、径方向の空気出口12aに対し90度位相がずれた円周方向位置に設けられている。これら径方向の空気出口12a,12aと軸方向の空気出口12bは、シール部材固定溝9の外周溝壁面9cを介して連通する。よって、転がり軸受1の回転時に軸受内圧を、二つの径方向の空気出口12a,12aから軸方向の空気出口12bを経由して逃がし得る。なお軸方向および径方向の空気出口12a,12bの円周方向位置は前述の位相に限定されるものではない。
【0030】
図1,
図2に示すように、内輪2のシール溝7は、軸方向外側に向かって順次、内側溝壁面7a、溝底面7bおよび外側溝壁面7cを有する。内側溝壁面7aは、軌道面2aの軸方向両側に設けられた内輪肩部である内輪2の外周面2bに繋がり、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜する傾斜面に形成されている。この内側溝壁面7aに滑らかに繋がる溝底面7bは、軸方向に略平行に延びる。外側溝壁面7cは、溝底面7bに滑らかに繋がり、軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する傾斜面に形成されている。軸方向に対する外側溝壁面7cの傾斜角度Iは53度以上68度以下に設定されている。
【0031】
図2に示すように、シール部材6のうち、芯金10の内径よりも径方向内方に延びる内周側部分13は、前記ゴム材11から成る。前記ゴム材11の材質は、ニトリルゴムを標準的に使用するが、使用温度に応じてアクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等の他の材質を適用してもよい。
【0032】
シール部材6の前記内周側部分13は、内径側に向かうに従って肉厚が小さくなるくびれ部14と、このくびれ部14にそれぞれ繋がる主リップ15と、シール溝7に非接触の副リップ16とを有する。これらくびれ部14、主リップ15および副リップ16は一体成形されている。くびれ部14の内径側端部に主リップ15が繋がり、この主リップ15の基端部15aの内側面部分から副リップ16が軸方向内側に突出する。
図1に示すように、副リップ16の先端部とシール溝7の内側溝壁面7aとの間でラビリンスシールRsが形成されている。
【0033】
図2に示すように、主リップ15は、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜する基端部15aと、この基端部15aから内径方向に延びるリップ本体部15bと、このリップ本体部15bにおける先端側の外側面部分に設けられる先端部15cとを有する。この主リップ15の先端部15cが、シール溝7の外側溝壁面7cに法線方向に当たるR形状に形成されている。主リップ15の先端部15cの外径面15caは、軸方向外側に向かうに従って内径側に傾斜し且つ前記R形状に滑らかに繋がる。前記シール溝7の外側溝壁面7cの傾斜角度Iが53度以上68度以下の場合、主リップ15の先端部15cは半径が0.03mm以上0.09mm以下の円弧状である。
【0034】
主リップ15の先端部15cの半径Rが0.03mmより小さいと、転がり軸受の回転時に軸受内圧が変化し主リップ15の接触位置に微妙なずれが生じたときに、法線当たりとならなくなることが考えられる。主リップ15の先端部15cの半径Rが0.09mmより大きいと、転がり軸受の回転時における軸受内圧の上昇時、主リップ15の先端部15cが傾斜面と強く当たった場合、接触面が増大し、トルクが大きくなるか、または発熱するため適切でない。
【0035】
副リップ16の基端部の外径寸法Jは、内輪2の外周面2bよりも外径側に位置する。副リップ16の外径部16aは、前記縦断面において、直線形状に延びる部分を有し、且つ軸方向外側に向かうに従って外径側に傾斜する断面直線形状部16aaを有する。この場合の断面直線形状部16aaと、前記直線形状に延びる部分とは、同一部分である。軸方向に対して、断面直線形状部16aaの傾斜角度Gが5°以上25°以下である。副リップ16の内径部16bは、軸方向に平行に延びる。
【0036】
各部の寸法等は以下のように設定されている。
・初期接触角時の内輪2の外周面2bと内側溝壁面7aとの交点と、前記副リップの先端部との間の軸方向隙間A:0.2mm以上0.5mm以下
前記初期接触角時とは、外輪を固定し内輪を軸方向に移動した際に、アキシアルすきまがゼロとなった状態である。
内輪2の外周面2bと内側溝壁面7aとの交点が角部(いわゆるエッジ)である場合、その位置を基準として軸方向隙間Aを規定する。前記内輪2の外周面2bと前記内側溝壁面7aとの交点がエッジではなく、滑らかに繋がっていてもよく、この場合は、前記内輪2の外周面2bと前記内側溝壁面7aとが滑らかに繋がっている部分の略中央位置を基準として軸方向隙間Aを規定する。
【0037】
・副リップ16の先端部の径方向寸法B:0.3mm±0.1mm
・内輪2の外周面2bから副リップ16の内径部16bまでの径方向寸法C:0.2mm±0.15mm
・芯金10の軸受内部側位置10aから副リップ16の先端部までの軸方向における最大の距離をDとし、芯金の板厚をdとしたときのD寸法の芯金板厚比(D/d):
1.90≦D/d≦2.50(好ましくは2.05≦D/d≦2.35)
【0038】
・D寸法に対する軸方向隙間Aの比(A/D):0.2≦A/D≦0.5
・副リップ16の内径部16bからリップ本体部15bの内径側端部までの径方向寸法E:ゴム部断面の径方向長さFの60%±10%
・シール部材6の内周側部分(ゴム部断面)の径方向長さFの芯金板厚比((F/d)×100):400%±50%
・副リップ16の傾斜角度G:15°±10°
【0039】
また
図4Aに示すように、シール部材6のうち、主リップ15の内側面、副リップ16の内側面、内径面および外径面、くびれ部14の内側面、このくびれ部14の内側面に繋がるゴム材11の内側面(
図4Aの点線L1で表記した部分)に渡る部分における表面粗さが算術平均粗さRaで0.4μm以上2.5μm以下である。算術平均粗さRaが0.4μmより小さいと、グリースの移動の抑制効果が小さくなり、発塵抑制効果が小さい。算術平均粗さRaが2.5μmより大きい、つまり粗くし過ぎるとグリースに対する抵抗が大きくなり過ぎ、回転に不利になるため適切でない。
【0040】
この例では、主リップ15の内側面だけでなく、副リップ16およびくびれ部14の内側面等に渡って表面粗さを規定しているが、少なくとも、主リップ15の内側面を含むゴム材11の内側面における、ピッチ円直径(PCD)よりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さが算術平均粗さRaで0.4μm以上2.5μm以下となるように規定してもよい。
【0041】
<グリースについて>
図1に示すように、軸受空間に封入されるグリースは、軸受内部空間容積の10%以上60%以下である。前記「軸受内部空間容積」は、内外輪2,3間の軸受空間における、玉4および保持器5を除く空間の容積であり、本実施形態のように軸方向両側にシール部材6,6が取り付けられている場合、内外輪2,3間の軸受空間のうち、軸方向両側のシール部材6,6の間の空間の容積である。
【0042】
このグリースは、基油と増ちょう剤とを含むグリース組成物であって、前記基油が、合成炭化水素油とエーテル油を含み、40℃における動粘度が120mm2/s以上の混合油である。この動粘度は、混合油の動粘度であり、40℃において120mm2/s~160mm2/sが好ましく、125mm2/s~140mm2/sがより好ましい。なおグリース組成物は添加剤を含んでもよい。
【0043】
前記合成炭化水素油としてはポリ-α-オレフィン油(PAO油)がより好ましい。PAO油は、α-オレフィンまたは異性化されたα-オレフィンのオリゴマーまたはポリマーの混合物である。α-オレフィンの具体例としては、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、1-ドコセン、1-テトラドコセンなどが挙げられ、通常はこれらの混合物が使用される。
【0044】
前記エーテル油としては、例えば、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油などが挙げられる。
【0045】
前記増ちょう剤は、ウレア化合物であり、前記増ちょう剤量が10wt%~15wt%含まれる。前記グリース組成物は、JIS K 2220に準拠して測定される混和ちょう度が200~240である。発塵量を抑制する観点では、混和ちょう度は200~220の範囲にあることが好ましい。
【0046】
<作用効果>
以上説明した転がり軸受1によれば、芯金10の板厚dに対する、芯金10の軸受内部側位置10aから副リップ16の先端部までの軸方向における最大の距離Dの比、D/dを1.90以上2.50以下としたため、軸受空間に封入するグリースとして比較的硬いものを採用した場合でも、グリースの動きに対して副リップ16が耐え発塵を抑制することが可能となるうえ、芯金10が厚くなりすぎることを防止し得る。芯金10が厚くなりすぎることを防止し得るため、保持器5の強度を確保でき軸受空間へのグリースの充填量を十分に満たすことができる。
したがって、軸受空間に封入されたグリースが、塊となって内輪2のシール溝7の内部へ侵入することを抑制することができる。転がり軸受1の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からの発塵量を低減することができる。
【0047】
内輪2の外周面2bと内側溝壁面7aとの交点と、副リップ16の先端部との間の軸方向隙間Aを0.2mm以上0.5mm以下とした。特に、0.2≦A/D≦0.5としたため、軸受空間に封入されたグリースが、塊となって内輪2のシール溝7の内部へ侵入することをより確実に抑制することができる。A/Dが0.5より大きくなるとラビリンスの効果が十分でなく、A/Dが0.2未満になると副リップ16の先端部がシール溝7に接触する可能性が高まる。
【0048】
グリースの充填量の下限値を軸受内部空間容積の10%と少なくすることで、発塵のリスクを低減することができる。例えば、グリースの充填量の上限値を軸受内部空間容積の60%と多くすると、発塵のリスクは高まるが、前述の定められた硬さのグリース、副リップ16の軸方向隙間A、主リップ15の当たり具合等を規定することで、グリースの発塵を抑制することができる。
【0049】
グリースとして、混和ちょう度が200~240の硬いグリースを適用することで、グリースの流動を抑えることができる。混和ちょう度を200~240とするために、増ちょう剤量を10wt%~15wt%とすることにより、グリースを硬くすることができ、グリースの移動を鈍感にしてグリースの流出を抑制し得る。このようなグリース組成物を適用することで、耐摩耗性および寿命の低下を抑えつつ、低発塵性を実現できる。グリースの充填量の上限値を高めた場合であっても、このグリース組成物を適用することで、グリースの発塵を抑制し得る。
【0050】
副リップ16の傾斜角度Gが大きすぎると、内輪2のシール溝7にグリースが侵入し、発塵してしまう可能性が高まる。前記傾斜角度Gが小さすぎる、換言すれば、副リップ16の外径部16aが軸方向に平行に近づくと、副リップ16の先端部の外径側端が内輪2外周面2bよりも外径側に位置する。このため、回転時のグリース攪拌と同時にグリースがシール溝7の溝底面7b側に流れていくことを助長する可能性がある。
この構成によると、副リップ16の外径部16aにおける断面直線形状部16aaの傾斜角度Gを5°以上25°以下として、断面直線形状部16aaの延長線と、内輪2の外周面2bの延長線とが滑らか(程よい角度で)に交わっていることで、グリースの発塵をより低く抑制することができる。
【0051】
軸方向に対する外側溝壁面7cの傾斜角度Iが53~68°とし、主リップ15の先端部15cをR形状とすることで、転がり軸受1の回転時に発生する軸受内圧に対して、主リップ15の先端部15cが法線方向に当たる状態、いわゆる法線当たりを維持できるような主リップ15の面圧分布となる。したがって、転がり軸受1の回転時に軸受内圧が上昇した場合においても、軸受内部からのグリースの流出および大気側からの異物の侵入を同時に抑制することができる。
外側溝壁面7cの傾斜角度Iが53°より小さくなると、軸受内圧に対してシール部材6がめくれやすくなるため適切でない。外側溝壁面7cの傾斜角度Iが68°より大きくなると、軸受内圧が発生したとき、主リップ15の先端部15cが傾斜面に強く当たり過ぎるため、トルクが大きくなるか、またはより発熱してしまうため適切でない。
【0052】
主リップ15の先端部15cは半径が0.03~0.09mmの円弧状であるため、転がり軸受1の回転時に主リップ15の面圧分布の変化をより確実に抑えることができるうえ、トルクが大きくなること、発熱すること等を抑えることができる。
主リップ15の先端部15cの半径が0.03mmより小さいと、転がり軸受の回転時に軸受内圧が変化し主リップ15の接触位置に微妙なずれが生じたときに、法線当たりとならなくなることが考えられる。主リップ15の先端部15cの半径が0.09mmより大きいと、転がり軸受の回転時における軸受内圧の上昇時、主リップ15の先端部15cが傾斜面と強く当たった場合、接触面が増大し、トルクが大きくなるか、または発熱するため適切でない。
【0053】
主リップ15および副リップ16の内側面、内径面および外径面、くびれ部14の内側面、くびれ部14の内側面に繋がるゴム材11の内側面(
図4Aの点線L1で表記した部分)に渡る部分におけるPCDよりも内径側に位置する一部分または全部分の表面粗さがRa=0.4~2.5μmであるため、所望の発塵抑制効果を得ることができ、且つ、グリースに対する抵抗を低く抑えることができる。
算術平均粗さRaが0.4μmより小さいと、グリースの移動の抑制効果が小さくなり、発塵抑制効果が小さい。算術平均粗さRaが2.5μmより大きい、つまり粗くし過ぎるとグリースに対する抵抗が大きくなり過ぎ、回転に不利になるため適切でない。
【0054】
シール部材6の外周側部分に対して空気出口12が複数設けられ、これら空気出口12は、径方向に沿って形成される径方向の空気出口12aと、軸方向に沿って形成される軸方向の空気出口12bとを有し、これら径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bとが異なる円周方向位置に設けられている。このように径方向の空気出口12aと軸方向の空気出口12bの円周方向位置(円周方向の位相)をずらすことで、グリースの流出をより確実に抑制し得る。
【0055】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施の形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している形態と同様とする。同一の構成から同一の作用効果を奏する。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0056】
図5に示すように、主リップ15に、この転がり軸受の内圧を逃がす空気出口18が設けられていてもよい。主リップ15の先端部15cにおいて、例えば、複数の径方向の空気出口18が円周等配に設けられている。各空気出口18は溝から成る。空気出口18と、この空気出口18に臨む外側溝壁面7cとで孔が形成される。なお主リップ15の先端部15cにおける径方向の空気出口18は一つであってもよい。また複数の径方向の空気出口18は円周方向に不等配に設けられていてもよい。
図5の構成によると、転がり軸受の回転時に軸受内圧を空気出口18から逃がすことで、シール締め代の過度な変化、および軸受内圧の上昇に起因するグリースの流出を抑制し得る。
【0057】
図6に示すように、シール部材6は、外輪内周面における軸方向一方側のみに取付られていてもよい。この場合、転がり軸受1の回転時に軸受内圧が過度に上昇することを未然に防止できるうえ、部品点数の低減を図りコスト低減を図れる。なお内外輪2,3のいずれか一方または両方にシール溝、シール部材固定溝が設けられていてもよい。
【0058】
図7および
図8に示すように、保持器5Aは、合成樹脂製であり、二枚の同形状の環状体5a,5aを係合させた二枚合わせ保持器であってもよい。この保持器5Aは、軸方向のポケット形状が円筒形状となるポケットPtに玉4を保持する。各環状体5aは、複数の半円筒形状のポケット壁部5cと、複数の連結板部5bとを有する。二つのポケット壁部5c,5cが軸方向に互いに組み合わされることで、ポケットPtが形成される。前記ポケットPtは円周等配に設けられている。保持器5は、ポケットPt間の連結板部5bに互いに係合する係合孔Kaと係合爪Kbとを有する。係合孔Kaに係合爪Kbを係合し二枚の同形状の環状体5a,5aが係合されることにより保持器5が組立てられる。なお保持器5のポケット形状は球面形状であってもよい。
【0059】
図9に示すように、前記二枚合わせ保持器5Aを備えた転がり軸受1において、シール部材6が、外輪内周面における軸方向一方側のみに取付られていてもよい。この場合、転がり軸受1の回転時に軸受内圧が過度に上昇することを未然に防止できるうえ、部品点数の低減を図りコスト低減を図れる。なお内外輪2,3のいずれか一方または両方にシール溝、シール部材固定溝が設けられていてもよい。
【0060】
図7~
図9の実施形態では、保持器5Aとして樹脂製波形保持器が適用されているが、一般的ないわゆる鉄板波形保持器であってもよい。
【0061】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0062】
1…転がり軸受、2…内輪、3…外輪、4…玉、5,5A…保持器、6…シール部材、7…シール溝、7c…外側溝壁面、10…芯金、12…空気出口、12a…径方向の空気出口、12b…軸方向の空気出口、15…主リップ、16…副リップ、16a…外径部、16aa…断面直線形状部、18…空気出口