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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】剤の特性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20240904BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20240904BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240904BHJP
【FI】
G01N33/15 Z
A61B5/107 800
A61B5/00 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020217556
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102684
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
(72)【発明者】
【氏名】花田 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 志洋
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-219257(JP,A)
【文献】特開2020-034462(JP,A)
【文献】特開2019-052858(JP,A)
【文献】特開2017-203676(JP,A)
【文献】特開2011-206513(JP,A)
【文献】特開2020-169830(JP,A)
【文献】特開2018-115913(JP,A)
【文献】抗老化機能評価専門委員会,新規効能取得のための抗シワ製品評価ガイドライン,日本香粧品学会誌,Vol.30、No.4,2006年,pp.316-332,<URL:https://www.jcss.jp/journal/contents_guideline1.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/107
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態において、前記皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性を求める第一特性算出工程と、
前記母集団から、前記所定の剤を前記皮膚の表面に塗布した後の第二状態において前記皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性をそれぞれ求める第二特性算出工程と、
前記第一特性算出工程の算出結果と前記第二特性算出工程の算出結果とから、前記皮膚の力学的特性に関する指標値を複数種類算出し、当該算出結果に基づき、前記第二状態で前記所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定するパターン推定工程と、
を含むことを特徴とする剤の特性評価方法。
【請求項2】
前記パターン推定工程において、
前記複数種類の力学的特性に関する指標値として、前記第一特性算出工程の算出結果の大小と前記第二特性算出工程の算出結果の大小との第一比較結果と、前記第一特性算出工程の算出結果のばらつきと前記第二特性算出工程の算出結果のばらつきとの第二比較結果と、を算出し、当該算出結果を用いて前記力学的負荷のパターンを推定する請求項1に記載の剤の特性評価方法。
【請求項3】
前記パターン推定工程において、
前記第一比較結果を示す第一軸と、前記第二比較結果を示す第二軸と、を含む座標系に前記第一特性算出工程の算出結果および前記第二特性算出工程の算出結果をプロットすることにより、前記力学的負荷のパターンを推定する請求項2に記載の剤の特性評価方法。
【請求項4】
前記パターン推定工程において、
前記第一特性算出工程および前記第二特性算出工程の算出結果が、前記座標の原点に対し前記第一軸が正値であり、かつ、前記第二軸が負値である座標にプロットされるときは、前記力学的負荷が小さいと推定し、
前記第一特性算出工程および前記第二特性算出工程の算出結果が、前記座標系の原点付近にプロットされるときは、前記第一軸が負値であり、または、前記第二軸が正値であっても前記力学的負荷が小さいと推定することを特徴とする請求項3に記載の剤の特性評価方法。
【請求項5】
前記パターン推定工程において、
前記被験者の皮膚の表面に対して、前記第一特性算出工程によって算出された力学的特性のうち所定閾値以上の力学的特性を含む割合と、前記第二特性算出工程によって算出された力学的特性のうち所定閾値以上の力学的特性を含む割合と、の関係に基づき前記力学的負荷のパターンを推定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の剤の特性評価方法。
【請求項6】
前記第一特性算出工程は、前記被験者の皮膚の力学的特性として前記第一状態での当該被験者の皮膚の最大変位値である第一最大変位値を算出する工程を含み、
前記第二特性算出工程は、前記被験者の皮膚の力学的特性として前記第二状態での当該被験者の皮膚の最大変位値である第二最大変位値を算出する工程を含み、
前記パターン推定工程では、前記第一最大変位値および前記第二最大変位値に基づき前記力学的負荷のパターンを推定することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の剤の特性評価方法。
【請求項7】
前記第一特性算出工程は、前記被験者の皮膚の表面の力学的特性として前記第一状態での当該被験者の皮膚の最大変位値の変位方向と直交し、かつ、最大変位点に向かう内向きの変位の最大値である第一直交最大変位値を算出する工程を含み、
前記第二特性算出工程は、前記被験者の皮膚の表面の力学的特性として前記第二状態での当該被験者の皮膚の前記最大変位値の変位方向と直交し、かつ、最大変位点に向かう内向きの変位の最大値である第二直交最大変位値を算出する工程を含み、
前記パターン推定工程では、前記第一直交最大変位値および前記第二直交最大変位値に基づき前記力学的負荷のパターンを推定することを特徴とする請求項1から6いずれか一項に記載の剤の特性評価方法。
【請求項8】
前記第一特性算出工程および前記第二特性算出工程において、前記被験者が表情筋を動かすことにより前記皮膚に前記力を負荷することを特徴とする請求項1から7いずれか一項に記載の剤の特性評価方法。
【請求項9】
前記力学的負荷が、つっぱり感、乾燥感、または、閉塞感であることを特徴とする請求項1から8いずれか一項に記載の剤の特性評価方法。
【請求項10】
複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、
前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、互いに物性の異なる複数種類の前記所定の剤を顔の皮膚の表面に個別に塗布した後の第二状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、に基づき、前記複数種類の前記所定の剤を前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンによって評価する剤評価工程を含むことを特徴とする剤の特定方法。
【請求項11】
前記剤評価工程では、
前記力学的負荷のパターンと、前記力学的特性とは異なる他の特性と、に基づき、前記複数種類の前記所定の剤より一または複数の剤を選定することを特徴とする請求項10に記載の剤の特定方法。
【請求項12】
複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、基礎化粧剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の塗布前状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、
前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、前記基礎化粧剤を前記顔の皮膚の表面に塗布した第一状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、
前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、前記第一状態にメークアップ化粧剤の塗布後の第二状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、の関係を示す関係情報と、対象被験者の前記塗布前状態の力学的特性と、前記第一状態の力学的特性と、を比較することで、前記第二状態で前記メークアップ化粧剤が前記対象被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する剤推定工程を特徴とする剤の推定方法。
【請求項13】
被験者の顔の皮膚の力学的特性を求める特性算出手段と、所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定するパターン推定手段と、を備え、
前記特性算出手段は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態および前記所定の剤を前記皮膚の表面に塗布した後の第二状態において、前記皮膚に力を負荷した状態の当該皮膚の力学的特性をそれぞれ求め、
前記パターン推定手段は、前記第一状態の前記被験者の母集団から求められた前記力学的特性と前記第二状態の前記被験者の母集団から求められた前記力学的特性とに基づき、前記第二状態で前記所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することを特徴とする剤の特性評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剤の特性評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肌状態を解析する方法として、表情の変化やファンデーション等を塗布する際に肌に指が接触することなどにより生じたシワから解析するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-193197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の場合、表情の変化やファンデーション等を塗布する際に肌に指が接触することなどにより生じたしわを解析することによって、肌の柔軟性や張り状態などを定量的に解析している。しかしながら、ファンデーションを塗布したことにより、当該ファンデーションが被験者の肌に与える特性を評価することはいまだできていなかった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、所定の剤を被験者の皮膚の表面に塗布したことにより、当該所定の剤が被験者の肌に与える特性を評価することを可能とする
技術に関する。本明細書において「剤の特性評価」とは、非医療目的で、被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定することにより剤の特性を評価することを意味し、専門家以外の評価者であっても可能な評価を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態において、前記皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性を求める第一特性算出工程と、前記母集団から、前記所定の剤を前記皮膚の表面に塗布した後の第二状態において前記皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性をそれぞれ求める第二特性算出工程と、前記第一特性算出工程の算出結果と前記第二特性算出工程の算出結果とから、前記皮膚の力学的特性に関する指標値を複数種類算出し、当該算出結果に基づき、前記第二状態で前記所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定するパターン推定工程と、を含むことを特徴とする剤の特性評価方法に関する。
【0007】
また、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、互いに物性の異なる複数種類の前記所定の剤を顔の皮膚の表面に個別に塗布した後の第二状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、に基づき、前記複数種類の前記所定の剤を前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンによって評価する剤評価工程を含むことを特徴とする剤の特定方法に関する。
【0008】
また、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、基礎化粧剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の塗布前状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、
前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、前記基礎化粧剤を前記顔の皮膚の表面に塗布した第一状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、前記複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、前記第一状態にメークアップ化粧剤の塗布後の第二状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、の関係を示す関係情報と、対象被験者の前記塗布前状態の力学的特性と、前記第一状態の力学的特性と、を比較することで、前記第二状態で前記メークアップ化粧剤が前記対象被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する剤推定工程を特徴とする剤の推定方法に関する。
【0009】
また、被験者の顔の皮膚の力学的特性を求める特性算出手段と、所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定するパターン推定手段と、を備え、前記特性算出手段は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態および前記所定の剤を前記皮膚の表面に塗布した後の第二状態において、前記皮膚に力を負荷した状態の当該皮膚の力学的特性をそれぞれ求め、前記パターン推定手段は、前記第一状態の前記被験者の母集団から求められた前記力学的特性と前記第二状態の前記被験者の母集団から求められた前記力学的特性とに基づき、前記第二状態で前記所定の剤が前記被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することを特徴とする剤の特性評価装置に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により提供される技術によれば、所定の剤が被験者の皮膚に与えるひずみ等の状態である力学的負荷のパターンを推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】被験者の各皮膚状態における皮膚の力学的特性の1つであるひずみ分布を示した画像である。
図2】被験者の各皮膚状態における皮膚の力学的特性の1つであるひずみ分布を示した画像である。
図3】第一状態および第二状態において取得する被験者の肌画像の位置を示した概念図である。
図4】本実施形態の剤の特性評価方法(本方法)を示すフローチャートである。
図5】ステップS100およびステップS110の力学的特性の算出内容を示すフローチャートである。
図6】ε1およびε2を説明する概念図である。
図7】力学的特性の平均値の差と変動係数の差とをプロットする座標である。
図8】第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値との差と、第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差をプロットしたグラフである。
図9】第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値との差と、第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差をプロットしたグラフである。
図10】剤の特定方法を示すフローチャートである。
図11】剤の推定方法を示すフローチャートである。
図12】(a)は最大ひずみ(ε1)の所定の閾値以上の点の分布図であり、(b)は最小ひずみ(ε2)の所定の閾値以下の点の分布図である。
図13】剤の特性評価装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
はじめに、本実施形態の概要について説明する。
本実施形態の剤の特性評価方法(以下、本方法と表示する場合がある)は、第一特性算出工程、第二特性算出工程および推定工程を含む。第一特性算出工程は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態において、皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性を求める工程である。第二特性算出工程は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布した後の第二状態において、皮膚に力を負荷して当該皮膚の力学的特性を求める工程である。そして、推定工程は、第一特性算出工程と第二特性算出工程との算出結果から皮膚の力学的特性に関する指標値を複数種類算出し、当該算出結果に基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する工程である。
【0013】
本発明者らは、所定の剤を顔の皮膚に塗布したことによる、被験者が、皮膚表面や表層において生じる力学的物性も一因として生じるつっぱり感、閉塞感、うるおい感、乾燥感などの皮膚感覚(力学的感覚とよぶ)は、これまで被験者の主観に基づき評価しかできておらず、所定の剤が被験者の肌にどのような力学的負担を与えているか定量的かつ安定的な評価が求められているとの見識に至った。すなわち、特許文献1の発明によれば、肌の柔軟性やハリ状態などを定量的に解析することができても、所定の剤が被験者の肌にどのような力学的負担を与えているかを評価することはできない。
ここで、図1および図2は、被験者の各皮膚状態における皮膚の力学的特性の1つであるひずみ分布を示した画像である。図1および図2は、被験者の右目下の所定領域の画像である。
図1はファンデーションを塗布した際に、つっぱり感や乾燥感などの力学的感覚を感じた被験者の画像であり、図2はファンデーションを塗布した際に、つっぱり感や乾燥感などの力学的感覚を感じなかった被験者の画像である。
図1(a)-1は、洗顔後の肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図1(a)-2は、洗顔後の肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。図1(b)-1は洗顔後、化粧水を塗布した肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図1(b)-2は、洗顔後、化粧水を塗布した肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。図1(c)-1は化粧水塗布後、ファンデーションを塗布した肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図1(c)-2は化粧水塗布後、ファンデーションを塗布した肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。
図2(a)-1は、洗顔後の肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図2(a)-2は、洗顔後の肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。図2(b)-1は洗顔後、化粧水を塗布した肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図2(b)-2は、洗顔後、化粧水を塗布した肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。図2(c)-1は化粧水塗布後、ファンデーションを塗布した肌における皮膚の最大ひずみの分布画像であり、図2(c)-2は化粧水塗布後、ファンデーションを塗布した肌における皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみの分布画像である。
図1図2とを比較すると、図1(ファンデーションを塗布した際に、つっぱり感や乾燥感などの力学的感覚を感じた被験者)は、ひずみが目の中心に近い部分で大きいのに対し、図2(ファンデーションを塗布した際に、つっぱり感や乾燥感などの力学的感覚を感じなかった被験者)は、ひずみが全体的に生じており、被験者が感じる力学的感覚と皮膚のひずみには、一定の関係性があることが明らかとなった。
このため、本方法においては、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状状態において皮膚に力を負荷して算出した当該皮膚の力学的特性と、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布した後の第二状状態において皮膚に力を負荷して算出した当該皮膚の力学的特性とから皮膚の力学的特性に関する指標値を複数種類算出し、当該算出結果に基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する。
【0014】
以下、本方法について更に詳細に説明する。
【0015】
第一状態の肌状態とは、所定の剤を塗布する前の状態であり、第二状態の肌状態とは、所定の剤を塗布した後の状態である。本実施形態では、特段の記載がない限り、所定の剤はファンデーションとし、第一状態の肌状態はファンデーションを塗布する前の肌であり、化粧水や乳液により肌状態を整えた状態(いわゆる、スキンケア後の肌)とし、第二状態の肌状態はファンデーションを塗布した後の肌とすることを例示する。したがって、被験者の肌にファンデーションを塗布したことにより、当該ファンデーションが被験者の皮膚に与える力学的負荷のパターンを評価している。しかし、本発明における所定の剤は、ファンデーションに限らず、皮膚外用剤、化粧料が挙げられ、たとえば、ローション、乳液、クリーム、美容液、マッサージ、パック、リップクリーム等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、液状ファンデーション、油性ファンデーション、パウダーファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、アイシャドウ、頬紅、口紅、リップグロス、リップライナー、ボディのデコルテ用等のメイクアップ化粧料;日やけ止め乳液、日やけ止めジェル、日焼け止めクリームなどの紫外線防御化粧料;石鹸、洗顔料、メイク落とし、ボディシャンプー、シャワー剤等の洗浄用又は入浴用化粧料が挙げられ、特にこれらに限定されるものではない。
そして、例えば、所定の剤をローションとした場合、第一状態の肌状態はローションを塗布する前の状態とし、第二状態の肌状態はローションを塗布した後の肌となる。この場合、被験者の肌にローションを塗布したことにより、当該ローションが被験者の皮膚に与える力学的負荷のパターンを評価している。また、所定の剤を日焼け止めクリームとした場合、第一状態の肌状態は日焼け止めクリームを塗布する前の状態とし、第二状態の肌状態は日焼け止めクリームを塗布した後の肌となる。この場合、被験者の肌に日焼け止めクリームを塗布したことにより、当該日焼け止めクリームが被験者の皮膚に与える力学的負荷のパターンを評価している。このように、塗布する剤は乳液、クリーム、紫外線防御剤、化粧下地、各種のベースメイクアップやポイントメイクアップなど、肌に塗布されるものであれば限定を受けない。
ここで、皮膚に力を負荷し、第一特性算出工程および第二特性算出工程によって力学的特性を求めるが、皮膚に負荷する力は、第一状態および第二状態で同一であることが好ましい。これは、同じ条件でそれぞれの力学的特性を求めたほうが、所定の剤が被験者の皮膚に与える力学的負荷のパターンを正確に評価できるためである。また、本実施形態では、皮膚に負荷する力は、表情筋を動かすことによる力、例えば、瞬きによる力とする。これは、平常時に生じる力に基づき力学的特性を求める方が、平常時に所定の剤が被験者の皮膚に与える力学的負荷のパターンを正確に評価できるためである。なお、皮膚に負荷する力は瞬きに限らず、例えば、強く目を瞑ったり、微笑む、口を開けるなどの表情変化でもよいし、指や冶具等の押圧手段で肌を押したり、こすったり、せん断をかけることによって生じた力を皮膚に負荷する力としてもよい。また、例えば、第一状態では皮膚に負荷する力が瞬き、第二状態では皮膚に負荷する力が指で肌を押すことによって生じた力のように、第一状態と第二状態とで皮膚に負荷する力が異なっていても評価は可能である。
【0016】
ここで、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出する「皮膚の力学的特性」とは、皮膚の剛直さや伸びやすさなど皮膚の変位しやすさを示す客観的な指標である。たとえば、皮膚表面または肌内部に力を負荷したことにより皮膚に生じる所定方向のひずみ(以下、εと表示する場合もある)、皮膚表面が所定方向に変位する変位量(以下、Uと表示する場合もある)、皮膚の粘弾性など負荷した力に抗する性質などを総称して皮膚の力学的特性と呼称する。
また、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出した皮膚の力学的特性から算出する「皮膚の力学的特性に関する指標値」とは、所定の剤の塗布前と塗布後の力学的特性の相関関係を統計的に取得して算出した指標値である。例えば、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出した皮膚の力学的特性の大小の差分、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出した皮膚の力学的特性のばらつきの差分、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出した皮膚の力学的特性の割合などを総称して皮膚の力学的特性に関する指標値と呼称する。
さらに、所定の剤が「被験者の肌に与える力学的負荷のパターン」とは、被験者が皮膚で感じる力学的感覚をどのように感じるかのパターンである。例えば、多くの被験者が力学的感覚を大きく感じる、一部の被験者が力学的感覚を大きく感じる、多くの被験者が力学的感覚を感じないなどを総称して被験者の肌に与える力学的負荷のパターンと呼称する。
加えて、「皮膚で感じる力学的感覚」とは、被験者が皮膚表面において力学的に感じる主観的な指標であり、つっぱり感、乾燥感、閉塞感、負担感、違和感、心地よさ、うるおい感、軟らかい感じなどが例示される。すなわち、皮膚で感じる力学的感覚とは、冷たさや温かさなどの熱的な感覚や、皮膚表面を触ったことによるカサカサ感やつるつる感などの感覚(いわゆる、触覚)は含まず、皮膚の剛直さや伸びやすさ等の力学的特性に基づいて被験者が体性感覚野で感知する感覚をいう。ここで、「つっぱり感」とは、肌表面がぴんとはった肌感覚を指している。また、「乾燥感」とは、肌表面の水分が不足している肌感覚のことを指している。また、「閉塞感」とは、肌表面がふさがった肌感覚のことを指している。また、「負担感」とは、肌表面に負担がかかった肌感覚のことを指している。また、「違和感」とは、いつもとは異なる肌感覚や、所定の剤が肌表面になじんでいないことを知覚する肌感覚のことを指している。また、「心地よさ」とは、肌表面が快適な感じのことを指している。また、「うるおい感」とは、肌表面がしっとりしている感じのことを指している。また、「やわらかい感じ」とは、肌表面の柔軟性がある感じを指している。
【0017】
本実施形態では、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出する力学的特性は皮膚の最大ひずみ(ε1)とし、算出結果から皮膚の力学的特性に関する指標を複数種類算出し、当該算出結果に基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する場合について説明する。
なお、第一特性算出工程および第二特性算出工程で算出する力学的特性は皮膚の最大ひずみ(ε1)に限らず、例えば、皮膚の最大ひずみの変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみ(ε2)から皮膚の力学的特性に関する指標を複数種類算出し、当該算出結果に基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することもできる。この点については後述する。なお、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2)についても後述する。
また、本実施形態では、第一特性算出工程および第二算出工程で算出した皮膚の力学的特性から所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する指標値を、力学的特性の平均値の差と変動係数の差から算出するが、これに限らない。例えば、第一特性算出工程および第二算出工程で算出した皮膚の力学的特性である最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)が所定の計測領域にどの程度含まれるか面積分率を算出し、その差から指標値を算出してもよい。また、第一特性算出工程および第二算出工程で算出した皮膚の力学的特性である最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)が所定の計測領域にどのように分布しているかを算出し、その分布の違いから指標値を算出してもよい。
【0018】
<剤の特性評価方法>
以下に、本実施形態の剤の特性評価方法について図3から図6を用いて説明する。
図3は、第一状態および第二状態において取得する被験者の肌画像の位置を示した概念図である。
図4は、本実施形態の剤の特性評価方法(本方法)を示すフローチャートである。
図5は、ステップS100およびステップS110の力学的特性の算出内容を示すフローチャートである。
図6は、ε1およびε2を説明する概念図である。
【0019】
図3は、第一状態および第二状態において取得する被験者の肌画像の位置を示している。本実施形態においては、右目尻下の肌画像を取得し、縦10mm横15mmの範囲を計測対象領域としている。なお、計測対象領域は一例であって、他の場所でもよい。本実施形態では、後述するが、瞬きによる力を皮膚表面に負荷する力とするため、目の付近である目尻下の肌画像を計測領域とした。
【0020】
図4は、本実施形態の剤の特性評価方法(本方法)を示すフローチャートである。ここで、算出内容を説明する前に、本実施形態における第一状態と第二状態の力学的特性の相関関係を取得する際の環境を説明する。
被験者は9名とした。
皮膚に負荷する力は、被験者が表情筋を動かすことにより生じる力とし、本実施形態では、所定時間内に生じた自然な瞬きを用いた。
図3に示した領域を計測領域とした。
第一状態は、洗顔後、化粧水と乳液を塗布した後の肌状態、いわゆるスキンケア後の肌状態とした。
第二状態は、第一状態の肌にリキッドタイプファンデーションAを塗布した後、一定期間経過後、再度、リキッドタイプファンデーションAを塗布した後の肌状態とした。
【0021】
工程(ステップS100)と工程(ステップS110)は、複数人の被験者1人ずつに対して行う工程である。
工程(ステップS100)は、所定の剤(ファンデーションA)を塗布する前の第一状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。本実施形態では、ファンデーションAを塗布する前のスキンケア後の状態での被験者の力学的特性を算出する。算出内容については、図5のフローチャートを用いて説明する。
なお、工程(ステップS100)が本方法の「第一特性算出工程」に相当する。
【0022】
工程(ステップS101)は、第一状態において目を開けた状態での画像を取得する。取得する肌画像の位置は、図3に示した通りである。
ここで、取得する画像は、撮像装置(カメラ)により撮影された画像であり、撮像装置は、一般的なRGBカメラであってもよいし、モノクロカメラ又はスペクトルカメラであってもよく、静止画像としての撮影でも動画としての撮影でもよく、撮像装置の性能や仕様は制限されない。照明数、照明角度、照度、撮影角度などの撮影環境条件についても制限はない。本実施形態では、モノクロ画像を取得することとする。
【0023】
工程(ステップS102)は、第一状態において目を閉じた状態での画像を取得する。取得する画像は、ステップS101で撮像した際と同じ撮影環境条件であることが望ましい。なお、工程(ステップS101)と工程(ステップS102)は、所定時間内の自然な瞬きと同程度の瞑り具合の瞬きの画像を取得することが好ましい。
【0024】
工程(ステップS103)は、ステップS101およびステップS102で取得した画像を用いて、第一状態での力学的特性を算出する。本実施形態では、取得した画像から皮膚の最大ひずみ(以下、ε1と表示する場合もある)を算出する。
ここで、最大ひずみ(ε1)について、図6に基づき説明する。
本実施形態では、第一状態および第二状態で取得する肌画像の位置は、図3に示した通りである。
図6は、図3に示した取得した肌画像のうち、瞬きの間(閉眼時)のものである。
皮膚表面には、瞬きによる力が負荷されることにより、水平から斜め方向の伸び(引っ張り)のひずみが生じ、当該伸びのひずみは負荷される力により変化する。最大ひずみ(ε1)は、この水平から斜め方向の伸びひずみの大きさの最大値である。
そして、本実施形態では、力学的特性として、最大ひずみ(ε1)を算出し、皮膚の力学的特性に関する指標値を算出することとしている。
【0025】
図4に戻り、工程(ステップS110)は、所定の剤を塗布した後の第二状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。本実施形態では、ファンデーションAを塗布した後の状態での被験者の力学的特性を算出する。算出内容については、図5のフローチャートと同様である。
なお、工程(ステップS110)が本方法の「第二特性算出工程」に相当する。
【0026】
工程(ステップS120)は、工程(ステップS100)および工程(ステップS110)で複数人の被験者1人ずつから算出した力学的特性(最大ひずみ(ε1))から複数の指標値を算出する工程である。
工程(ステップS130)は、工程(ステップS120)で算出した複数の指標値に基づき、第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定する工程である。本実施形態では、工程(ステップS120)で算出した複数の指標値を所定の座標にプロットすることすることで、何れの力学的負荷パターンであるかを視覚的に推定し易くしている。
なお、工程(ステップS120)および工程(ステップS130)が本方法の「パターン推定工程」に相当する。
【0027】
次に、本実施形態において、工程(ステップS120)で算出する複数の指標値と、工程(ステップS130)で推定する力学的負荷パターンについて説明する。
算出した第一状態における力学的特性の1つである最大ひずみ(ε1)の平均値と変動係数を算出する。同様に、第二状態における力学的特性の1つである最大ひずみ(ε1)の平均値と変動係数を算出する。
そして、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値との差を算出し、また、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差を算出し、算出結果に基づき第二状態で所定の剤(ファンデーションA)が被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定する。力学的負荷パターンの推定方法について、図7および図8を用いて説明する。
【0028】
図7は、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値との差と、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差をプロットするグラフであり、各象限にプロットされた場合の剤の力学的負荷パターンを説明する図である。
グラフの横軸は、第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差である。また、グラフの縦軸は、第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差である。また、破線は以下に示す判定条件に関わる数値を示している。
ここで、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差から推定される力学的負荷パターンについて説明する。
算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差が何れにプロットされるかにより、力学的負荷パターンが異なると判定することとした。
まず、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差による判定条件について説明する。
第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値の差がほとんど変わらない場合は、所定の剤を塗布したことによる肌への力学的負担がほとんど変わっていないと考えられるため、所定の剤を塗布したことによる負担感はないと判定する。また、第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値の差が増えている場合(図7の横軸で正値の場合)は、所定の剤を塗布したことにより最大ひずみが大きくなったすなわち、肌が動きやすくなったと考えられるため、所定の剤を塗布したことによる負担感はないと判定する。さらに、第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値の差が減っている場合(図7の横軸で負値の場合)は、所定の剤を塗布したことにより最大ひずみ(ε1)が小さくなったすなわち、肌が動きにくくなったと考えられるため、所定の剤を塗布したことによる負担感があると判定する。
【0029】
次に、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差による判定条件について説明する。
第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の変動係数がほとんど変わらない場合は、被験者によるばらつきがないため、所定の剤を塗布したことによる負担感は何れの被験者でも変わらないと判定する。また、第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の変動係数の差が増えている場合(図7の縦軸で正値の場合)は、被験者によるばらつきがあるため、所定の剤を塗布したことによる負担感は人によってばらつきがあると判定する。さらに、第一状態と第二状態とで、最大ひずみ(ε1)の変動係数の差が減っている場合(図7の縦軸で負値の場合)は、被験者によるばらつきが少なく、所定の剤を塗布したことによる負担感は人による差はないと判定する。
これらのことより、本実施形態では、所定の剤の力学的特性の平均値の絶対値の差と変動係数の差の値が、原点に対し第一軸(図7では、横軸)の値が正値であり、かつ、第二軸(図7では、縦軸)の値が負値である座標にプロットされるときは、当該剤が被験者の肌に与える力学的負荷は小さいと推定する。また、所定の剤の力学的特性の平均値の絶対値の差と変動係数の差の値が、原点に対し第一軸の値が負値であり、かつ、第二軸の値が正値である座標にプロットされるときは、当該剤が被験者の肌に与える力学的負荷があり、人によっては大きな負荷となると推定する。さらに、所定の剤の力学的特性の平均値の絶対値の差と変動係数の差の値が原点付近にプロットされるときは、第一軸が負値であり、または第二軸が正値であっても当該剤が被験者の肌に与える力学的負荷は小さいと推定されることとしてもよい。
【0030】
上述した内容を含め、定めた判定条件を以下に示す。
(a)平均の変化≧-0.002、かつ、変動係数の変化≦0.1の場合は、人によらず負担感がない。
(b)平均の変化<-0.002、かつ、変動係数の変化≦0.1の場合は、人によらず負担感がある。
(c)平均の変化≧-0.002、かつ、変動係数の変化>0.1の場合は、多くの人で負担感はないが、負担感のある人もいる。
(d)平均の変化<-0.002、かつ、変動係数の変化>0.1の場合は、多くの人に負担感があり、人によっては負担感が大きい。
【0031】
図8は、図7の座標に、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差(平均値の変化)と、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差(変動係数の変化)をプロットしたグラフである。
ここで、本実施形態の理解を深めるために、所定の剤(ファンデーションA)とは異なる剤(ファンデーションB)を塗布した場合についても、第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差を図8のグラフにプロットした。図8の○がファンデーションAの値をプロットした座標であり、□がファンデーションBの値をプロットした座標である。
ここで、ファンデーションAとファンデーションBについて説明する。
ファンデーションAとファンデーションBは、どちらもリキッドタイプのファンデーションではあるが、剤の膜の弾性率が異なるファンデーションである。そして、ファンデーションAとファンデーションBは、何れも同様の第一状態の肌に同量のファンデーションを同期間おいて2回塗布した状態を第二状態としている。また、本実施形態では、ファンデーションAを被験者の右側(右頬)に、ファンデーションBを被験者の左側(左頬)に塗布して第二状態における力学的特性を求めたがこれに限らない。例えば、ファンデーションAについて第二状態における力学的特性を算出後、洗顔等を行い、第一状態の肌にファンデーションBを塗布した第二状態をおける力学的特性を算出してもよい。ファンデーションAとファンデーションBとを塗布する第一状態の肌が同様であるほうが理解を容易にできるため、本実施形態では、ファンデーションAを被験者の右側(右頬)に、ファンデーションBを被験者の左側(左頬)に塗布するようにした。
【0032】
図8から明らかなように、ファンデーションAの値をプロットした座標(○)は、図7に示した判定結果から、ファンデーションAが被験者の肌に与える力学的負荷のパターンは、多くの人で負担感はないが、負担感のある人もいると推定される。また、ファンデーションBの値をプロットした座標(□)は、図7に示した判定結果から、ファンデーションBが被験者の肌に与える力学的負荷のパターンは、多くの人に負担感があり、人によっては負担感が大きいと推定される。
このようにして、第一状態および第二状態における力学的特性から算出した指標値を座標に基づいて分類することにより、第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することが可能となる。また、被験者の肌にファンデーションを塗布する前と塗布した後の力学的特性を算出して力学的負荷パターンを推定するため、被験者の肌に形成されたファンデーションを形成する膜の力学的特性を指標とすることができ、推定される力学的負荷パターンは実際に被験者が感じる力学的負荷パターンに相当したものにすることができる。さらに、所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを定量的に算出する指標値に基づき評価でき、剤を開発する際の評価方法とすることが可能となる。
【0033】
次に、第一状態および第二状態において力学的特性として、最大ひずみ(ε1)とは異なる力学的特性である、最大ひずみ(ε1)の変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみ(以下、ε2と表示する場合もある)を算出し、当該最小ひずみ(ε2)の相関関係を統計的に取得して複数の指標値を算出して第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することについて説明する。最大ひずみ(ε1)の変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう内向きのひずみの最大値である最小ひずみ(ε2)は、図6に基づき説明する。皮膚表面には、瞬きによる力が負荷されることにより、最大ひずみ(ε1)の変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう圧縮ひずみが生じ、当該圧縮ひずみは負荷される力により変化する。最小ひずみ(ε2)は、この最大ひずみ(ε1)の変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう圧縮ひずみの大きさの最大値である。
そして、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε2)の平均値との差を算出し、また、算出した第一状態における最大ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε2)の変動係数との差を算出し、算出結果に基づき第二状態で所定の剤(ファンデーションA)が被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定する。ここで、本実施形態では、最小ひずみ(ε2)の絶対値をとって、第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε2)の平均値との差と、第一状態における最大ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε2)の変動係数との差を算出することとした。したがって、最大ひずみ(ε1)の変位方向と直交し、かつ、最大ひずみ点に向かう圧縮ひずみの値が小さいほど、最小ひずみ(ε2)の値は大きくなる。力学的特性の1つである最小ひずみ(ε2)を用いた力学的負荷パターンの推定方法について、図7および図9を用いて説明する。
【0034】
算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差が、何れにプロットされるかにより、力学的負荷パターンが異なる。以下に、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差の判定条件を示す。
算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差が何れの象限にプロットされるかにより、力学的負荷パターンが異なる。
算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差の判定条件は、上述した通りである。
【0035】
図9は、図7の座標に、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差をプロットしたグラフである。
ここで、本実施形態の理解を深めるために、所定の剤(ファンデーションA)とは異なる剤(ファンデーションB)を塗布した場合についても、第一状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値と第二状態における最小ひずみ(ε2)の平均値の絶対値との差と、算出した第一状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数と第二状態における最小ひずみ(ε2)の変動係数との差を図9のグラフにプロットした。図9の○がファンデーションAの値をプロットした座標であり、□がファンデーションBの値をプロットした座標である。
【0036】
図9から明らかなように、ファンデーションAの値をプロットした座標(○)は、図7に示した判定結果から、ファンデーションAが被験者の肌に与える力学的負荷のパターンは、人によらず負担感がないと推定される。また、ファンデーションBの値をプロットした座標(□)は、図7に示した判定結果から、ファンデーションBが人によらず負担感があると推定される。
このようにして、第一状態および第二状態における力学的特性から算出した指標値を座標に基づいて分類することにより、第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定することが可能となる。また、被験者の肌にファンデーションを塗布する前と塗布した後の力学的特性を算出して力学的負荷パターンを推定するため、被験者の肌に形成されたファンデーションを形成する膜の力学的特性を指標とすることができ、推定される力学的負荷パターンは実際に被験者が感じる力学的負荷パターンに相当したものにすることができる。さらに、所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを定量的に算出する指標値に基づき評価でき、剤を開発する際の評価方法とすることが可能となる。
【0037】
<剤の特定方法>
以下に説明する剤の特定方法は、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した、互いに物性の異なる複数種類の所定の剤を顔の皮膚の表面に個別に塗布した後の第二状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、に基づき、複数種類の所定の剤を被験者の肌に与える力学的負荷パターンによって評価する。ここで、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した第一状態および第二状態の力学的特性は、例えば、最大ひずみ(ε1)を用いる。また、互いに物性の異なる複数種類の所定の剤とは、ここでは、ファンデーションAとファンデーションBとする。ファンデーションAとファンデーションBは、上述したようにどちらもリキッドタイプのファンデーションではあるが、剤の乾燥塗膜の弾性率が異なるファンデーションである。本実施形態では、「互いに物性の異なる」は、剤の膜の弾性率が異なることを指しているがこれに限らず、剤の油剤の違いなど剤の物性が異なるものであればよい。ただし、本実施形態では、肌に与える力学的負荷に関して剤を特定するため、肌に与える力学的負荷に影響をおよぼす物性が異なることが好ましい。
【0038】
図10は、剤の特定方法を示すフローチャートである。
ここで、本実施形態における第一状態と第二状態の力学的特性の相関関係を取得する際の環境を説明する。
被験者は9名とした。
皮膚に負荷する力は、被験者が表情筋を動かすことにより生じる力とし、本実施形態では、所定間隔で自然な瞬きを行うようにした。
図3に示した領域(右頬)と鼻を中心にほぼ線対称となる領域(左頬)の2箇所を計測領域とした。
第一状態は、洗顔後、化粧水と乳液を塗布した後の肌状態、いわゆるスキンケア後の肌状態とした。
第二状態は、第一状態の右側(右頬)にリキッドファンデーションAを塗布した後、一定期間経過後、再度、リキッドタイプファンデーションAを塗布した後の肌状態と第一状態の左側(左頬)にリキッドファンデーションBを塗布した後、一定期間経過後、再度、リキッドタイプファンデーションBを塗布した後の肌状態とした。
【0039】
工程(ステップS200)、工程(ステップS210)および工程(ステップS220)は、複数人の被験者、1人ずつに対して行う工程である。
工程(ステップS200)は、所定の剤(ファンデーションAまたはファンデーションB)を塗布する前の第一状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。本実施形態では、ファンデーションAまたはファンデーションBを塗布する前のスキンケア後の状態での被験者の力学的特性を算出する。算出内容については、工程(ステップS100)と同じである。
【0040】
工程(ステップS210)は、所定の剤(ファンデーションA)を塗布した後の第二状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS110)と同じである。
工程(ステップS220)は、所定の剤(ファンデーションB)を塗布した後の第二状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS110)と同じである。
【0041】
工程(ステップS230)は、工程(ステップS200)、工程(ステップS210)および工程(ステップS220)で複数人の被験者1人ずつから算出した力学的特性から複数種類の指標値を算出する工程である。
工程(ステップS240)は、工程(ステップS230)で算出した複数種類の指標値に基づき、所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定し、剤を特定する工程である。本実施形態では、工程(ステップS230)で算出した複数種類の指標値を所定の座標にプロットすることすることで、何れの力学的負荷パターンであるかを視覚的に推定し易くしている。
なお、工程(ステップS230)および工程(ステップS240)が本方法の「剤評価工程」に相当する。
【0042】
図8を用いて、被験者の肌に与える力学的負荷のパターンによって、複数種類の所定の剤を評価する方法について説明する。
上述したように、図8は、第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値とファンデーションAを塗布した後の第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差と、第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数とファンデーションAを塗布した後の第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差をプロットしたグラフであり、かつ、第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値とファンデーションBを塗布した後の第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値の絶対値との差と、第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数とファンデーションBを塗布した後の第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差をプロットしたグラフである。
【0043】
上述したように、図8から、ファンデーションAが被験者の肌に与える力学的負荷のパターンは、多くの人で負担感はないが、負担感のある人もいると推定される。また、ファンデーションBが被験者の肌に与える力学的負荷のパターンは、多くの人に負担感があり、人によっては負担感が大きいと推定される。本実施形態におけるファンデーションAとファンデーションBとでは剤の乾燥塗膜の弾性率が異なっており、ファンデーションAの方がファンデーションBに比べ乾燥塗膜の弾性率が小さいため、ファンデーションBより柔らかいファンデーションである。そして、このように剤の膜の性質(本実施形態においては、乾燥塗膜の弾性率)が異なる剤の指標値を比較することで、例えば、負担感の小さいファンデーションを求めているユーザには、多くの人で負担感がないと判定されるファンデーションAを特定することができる。
【0044】
本実施形態では、第一状態における力学的特性と、互いに物性の異なる複数種類の所定の剤を塗布した第二状態におけるそれぞれの力学的特性と、から算出した指標値に基づき所定の剤を特定したが、これに限らない。力学的特性とは異なる他の特性、例えば、カバー力がある剤、持続力のある剤など、異なる剤の性質を示した指標と複合的に評価し、所定の剤を特定してもよい。これは、力学的負担感の小さい所定の剤を求めているユーザもいれば、力学的負担感は小さい方がよいが、カバー力もある所定の剤を求めるユーザもいることが考えられる。この場合、力学的負担感の大小だけでなく、他の特性も含めて評価することができるため、ユーザが求める所定の剤により近い剤を特定することができる。
【0045】
<剤の推定方法>
ここで説明する剤の推定方法は、まず、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した基礎化粧剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の塗布前状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した基礎化粧剤を顔の皮膚の表面に塗布した第一状態の前記皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、複数人の被験者の母集団からそれぞれ取得した第一状態にメークアップ化粧剤の塗布後の第二状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、の関係情報を算出する。本実施形態での「関係情報」とは、塗布前状態、第一状態、および、第二状態の力学的特性の相関を示す情報である。そして、当該関係情報に基づき、被験者の肌タイプを分類し、分類された肌タイプによって剤を推定する。具体的には、所定の計測領域に対し、塗布前状態での力学的特性(例えば、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2))のそれぞれの分布状態と第一状態での力学的特性(例えば、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2))のそれぞれの分布状態とを比較する。さらに、第一状態での力学的特性の分布状態と第二状態での力学的特性(例えば、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2))のそれぞれの分布状態とを比較する。ここで、力学的特性として最大ひずみ(ε1)を用いる場合、当該最大ひずみ(ε1)の最大値の所定割合を閾値とし、閾値以上の値の点が分布する面積分率を求める。また、力学的特性として最小ひずみ(ε2)を用いる場合、当該最小ひずみ(ε2)の最小値の所定割合を閾値とし、閾値以下の値の点が分布する面積分率を求める。
ここで、第一状態での力学的特性の分布状態と第二状態での力学的特性の分布状態がほぼかわらない、または、第二状態の方がひずみの大きい領域が増えている場合は、ファンデーションを塗布したことによる肌への負担がかわらない、または、肌が動きやすくなったと判定できる。一方、第一状態での力学的特性の分布状態と第二状態での力学的特性の分布状態のひずみが大きい領域が第二状態の方が減っている場合は、ファンデーションを塗布したことにより肌が動きにくくなったと判定できる。そして、第一状態での力学的特性の分布状態と第二状態での力学的特性の分布状態がほぼかわらないまたは第二状態の方がひずみの大きい領域が増えている被験者は、塗布前状態の力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態とがどのような関係であるかを算出する。同様に、第一状態での力学的特性の分布状態と第二状態での力学的特性の分布状態のひずみが大きい領域が第二状態の方が減っている被験者は、塗布前状態の力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態とがどのような関係であるかを算出する。このようにして、塗布前状態、第一状態、および、第二状態の力学的特性の相関を示す情報である関係情報を算出する。
次に、対象被験者の塗布前状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性と、対象被験者の第一状態の皮膚に力を負荷した際の当該皮膚の力学的特性とから、塗布前状態での力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態との関係を算出する。そして、算出した塗布前状態での力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態との関係と、複数人の被験者の母集団から算出した関係情報とを比較して、剤の推定を行う。
なお、算出された関係情報を例えばパーソナルコンピュータに予め入力しておき、算出した対象被験者の塗布前状態での力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態から算出した情報を入力し剤を推定してもよいし、算出された関係情報を示したスケールに算出した対象被験者の塗布前状態での力学的特性の分布状態と第一状態での力学的特性の分布状態から算出した情報を照らし合わせて剤を推定してもよい。何れの場合も、店頭などの美容スタッフが推定しやすい状態であることか好ましい。
【0046】
以下に、剤の推定方法について具体的に説明する。
図11は、剤の推定方法を示すフローチャートである。
ここで、剤の推定方法の環境を説明する。
被験者は9名とした。
皮膚に負荷する力は、被験者が表情筋を動かすことにより生じる力とし、本実施形態では、所定間隔で自然な瞬きを行うようにした。
図3に示した領域(右頬)と鼻を中心にほぼ線対称となる領域(左頬)の2箇所を計測領域とした。
塗布前状態は、洗顔後の肌状態、いわゆる素肌とした。
第一状態は、塗布前状態の肌に基礎化粧剤(例えば、化粧水と乳液)を塗布した後の肌状態、いわゆるスキンケア後の肌状態とした。
第二状態は、第一状態の右側(右頬)にリキッドファンデーションAを塗布した後、一定期間経過後、再度、リキッドタイプファンデーションAを塗布した後の肌状態と第一状態の左側(左頬)にリキッドファンデーションBを塗布した後、一定期間経過後、再度、リキッドタイプファンデーションBを塗布した後の肌状態とした。なお、第二状態は、一種類のファンデーションでもよいが、ここでは、同一条件下、同一タイミングの瞬きで評価(比較)するために、二種類のファンデーションを右側(右頬)または左側(左頬)に塗布するようにした。また、ファンデーションAおよびファンデーションBは、上述したファンデーションAおよびファンデーションBと同様の性質のファンデーションとした。
【0047】
工程(ステップS300)、工程(ステップS310)および工程(ステップS320)は、複数人の被験者、1人ずつに対して行う工程である。
工程(ステップS300)は、洗顔後の肌状態である塗布前状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS100)と同様に、図5のフローチャートに基づき算出する。
【0048】
工程(ステップS310)は、塗布前状態に基礎化粧剤を塗布した第一状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。本実施形態では、ファンデーションAを塗布する前のスキンケア後の状態での被験者の力学的特性を算出する。算出内容については、工程(ステップS100)と同じである。
【0049】
工程(ステップS320)は、メークアップ化粧剤(ファンデーション)を塗布した後の第二状態での被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS110)と同じである。
【0050】
工程(ステップS330)は、洗顔後の肌状態である塗布前状態での対象被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS100)と同様に、図5のフローチャートに基づき算出する。
【0051】
工程(ステップS340)は、塗布前状態に基礎化粧剤を塗布した第一状態での対象被験者の力学的特性を算出する工程である。算出内容については、工程(ステップS100)と同じである。
【0052】
工程(ステップS350)は、工程(ステップS300)、工程(ステップS310)および工程(ステップS320)で複数人の被験者1人ずつから算出した力学的特性から関係情報を算出する工程である。
【0053】
工程(ステップS360)は、工程(ステップS350)で算出した関係情報と、工程(ステップS330)および工程(ステップS340)で算出した対象被験者の力学的特性とを比較することで、対象被験者の第一状態の肌にメークアップ化粧剤を塗布した場合の肌に与える力学的負荷パターンを推定する。
なお、工程(ステップS300)、工程(ステップS310)、工程(ステップS320)および工程(ステップS350)と、工程(ステップS330)および工程(ステップS340)とは、図11に示した順番に算出しなくてもよい。また、工程(ステップS300)、工程(ステップS310)、工程(ステップS320)および工程(ステップS350)と、工程(ステップS330)および工程(ステップS340)とが連続したタイミングで行われなくてもよい。工程(ステップS330)および工程(ステップS340)で算出した対象被験者の力学的特性を比較する際に、工程(ステップS350)で算出する関係情報があれば足りる。
【0054】
図12(a)および図12(b)は、工程(ステップS350)で算出した力学的特性について説明する図である。
図12(a)は、所定状態において、算出した最大ひずみ(ε1)の所定の閾値(本実施形態では40%)以上の点を数え、面積分率を(%)算出した分布図である。また、図12(b)は、所定状態において、算出した最小ひずみ(ε2)の所定の閾値(本実施形態では40%)以下の点を数え、面積分率を(%)算出した分布図である。
このような分布図を被験者毎、肌の状態毎、ファンデーション毎、および、力学性特性毎に算出し、それに基づき関係情報を出した。
なお、剤の推定方法としては、図12(a)および図12(b)に示した分布図を必ずしも算出する必要はなく、面積分率を算出すれば足りるが、図12(a)および図12(b)に示した分布図がある方が、剤の違いを視覚的にとらえることが可能となる。
1)タイプS
塗布前状態よりも第一状態のほうが、最大ひずみ(ε1)のひずみの大きい領域が減少している場合。このタイプの被験者は、ファンデーションBを塗布した場合に最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2)のひずみが大きい領域が減っている。したがって、乾燥塗膜の弾性率が大きい硬いファンデーションではつっぱり感を感じるため、乾燥塗膜の弾性率が小さい軟らかいファンデーションを推奨する。
2)タイプW
塗布前状態よりも第一状態のほうが、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2)のひずみの大きい領域が増加している場合。このタイプの被験者は、ファンデーションAを塗布した場合でもファンデーションBを塗布した場合でも最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2)のひずみが大きい領域がほとんど減っていない。したがって、乾燥塗膜の弾性率が大きい硬いファンデーションでも負担感を感じにくいため、ユーザの好みのファンデーションを推奨する。
3)タイプS2
タイプSおよびタイプW以外場合。このタイプの被験者は、ファンデーションBを塗布した場合に最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2)のひずみが大きい領域が減っている被験者もいた。したがって、乾燥塗膜の弾性率が大きい硬いファンデーションではつっぱり感を感じる可能性があるため、乾燥塗膜の弾性率が小さい軟らかいファンデーションを推奨する。
【0055】
そして、工程(ステップS330)および工程(ステップS340)で算出した対象被験者の塗布前状態と第一状態における力学的特性である最大ひずみ(ε1)と最小ひずみ(ε2)の値を算出した関係情報と比較し、当該対象被験者の肌で負担感を感じにくいメークアップ化粧剤を推定する。
このように、対象被験者の肌にメークアップ化粧剤を塗布しなくても、塗布した際に力学的負担感を感じにくいメークアップ化粧剤を推定することが可能となる。
【0056】
<剤の特性評価装置100>
以下、本方法を実現する剤の特性評価装置100について説明する。
図13は、本実施形態における剤の特性評価装置100のブロック図である。
本実施形態における剤の特性評価装置100は、各種の処理を実行可能な情報処理端末である。なお、図示はしていないが、剤の特性評価装置100は、キーボード、ポインティングデバイスなどの入力装置、演算処理装置、記憶部等を備えている。
剤の特性評価装置100は、特性算出手段110およびパターン推定手段120を備えている。また、本実施形態では、剤の特性評価装置100と制御信号の授受を行う入力手段130、表示制御手段140および表示手段150は、剤の特性評価システム200を構成する手段である。なお、入力手段130、表示制御手段140および表示手段150は、剤の特性評価装置100の外部に設けられ、ネットワークで接続されていてもよいし、剤の特性評価装置100と一体に設けられていてもよい。
【0057】
特性算出手段110は、複数人の被験者の母集団から、所定の剤を顔の皮膚の表面に塗布する前の第一状態および所定の剤を皮膚の表面に塗布した後の第二状態において、皮膚に力を負荷した状態の当該皮膚の力学的特性を求める。具体的には、特性算出手段110は、所定の剤(本実施形態ではファンデーション)を塗布する前の第一状態において、皮膚に力(本実施形態では、瞬きによる力)を負荷し、力学的特性(本実施形態においては、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2))を求める。また、特性算出手段110は、所定の剤(本実施形態においては、ファンデーション)を塗布した後の第二状態において、皮膚に力(本実施形態では、瞬きによる力)を負荷し、力学的特性(本実施形態においては、最大ひずみ(ε1)および最小ひずみ(ε2))を求める。
【0058】
パターン推定手段120は、特性算出手段110によって算出された第一状態の被験者の母集団から求められた力学的特性と第二状態の被験者の母集団から求められた力学的特性とに基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定する。具体的には、複数の被験者に基づき算出された力学的特性から、力学的特性に関する指標値を複数種類算出し、当該指標値から第二状態で所定の剤が被験者に与える力学的負荷パターンを推定する。本実施形態では、第一状態および第二状態における力学的特性として最大ひずみ(ε1)を算出し、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の平均値と第二状態における最大ひずみ(ε1)の平均値との差を算出し、また、算出した第一状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数と第二状態における最大ひずみ(ε1)の変動係数との差を算出し、算出結果に基づき第二状態で所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷パターンを推定する。力学的負荷パターンの推定方法について、指標値については、図7および図8に示した内容と同様である。また、第一状態および第二状態における力学的特性として最小ひずみ(ε2)を算出し、最大ひずみ(ε1)と同様に指標値を算出してもよい。
そして、これらの指標値を表示制御手段140によって制御される表示手段150に表示することが好ましい。このように表示手段150に表示することにより、より、推定結果を把握しやすくできる。
【0059】
<変形例>
本発明の実施は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形、改良等が可能である。
【0060】
上述した剤の特性評価方法では、指標値を第一状態における力学的特性の平均値と第二状態における力学的特性の平均値の差と、第一状態における力学的特性の変動係数と第二状態における力学的特性の変動係数の差を用いて算出したが、他の指標を用いてもよい。例えば、剤の推定方法で説明したように、第一状態および第二状態において算出した力学的特性の1つである最大ひずみ(ε1)の所定の閾値以上の点を数え、面積分率を算出し、第一状態からどの程度変化したかを指標値としてもよい。同様に、剤の推定方法で説明したように、第一状態および第二状態において算出した力学的特性の1つである最小ひずみ(ε2)の所定の閾値以下の点を数え、面積分率を算出し、第一状態からどの程度変化したかを指標値としてもよい。このような指標値を用いても、所定の剤が被験者に与える力学的負荷のパターンを推定することができる。
また、最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)の値そのものを用いて指標値を算出する場合、力学的特性を求める際に負荷する力、すなわち、本実施形態の場合、瞬きの強さも同等の方か好ましい。このようにすることで、評価結果に、瞬きの違いによる力学的特性の変化を含まないようにすることができ、取得した力学的特性の変化は、所定の剤によるものとなるからである。
しかし、最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)が計測領域にどの程度含まれるか面積分率を算出して指標値を求める場合、最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)の値そのものを用いるよりも、力学的特性を求める際の負荷される力の違いによる計測誤差の影響を受けにくい評価結果とすることが可能となる。なお、領域の大小関係ではなく、計測領域に対し、最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)がどのように、どのような位置に分布しているかに基づき指標値を求めてもよい。
同様に、上述した剤の特定方法では、指標値を第一状態における力学的特性の平均値と第二状態における力学的特性の平均値の差と、第一状態における力学的特性の変動係数と第二状態における力学的特性の変動係数の差を用いて算出したが、他の指標を用いてもよい。
同様に、上述した剤の推定方法では、第一状態および第二状態において算出した力学的特性の1つである最大ひずみ(ε1)の所定の閾値以上の点を数え、面積分率を算出し、第一状態からどの程度変化したかにより関係情報を算出したが他の指標を用いてもよい。例えば、第一状態における力学的特性の平均値と第二状態における力学的特性の平均値の差と、第一状態における力学的特性の変動係数と第二状態における力学的特性の変動係数の差を用いて関係情報を算出してもよい。
【0061】
上述した剤の特性評価方法では、被験者(本実施形態では9名)1人ずつの第一状態および第二状態の力学的特性の平均値と第二状態における力学的特性の平均値の差と、第一状態における力学的特性の変動係数と第二状態における力学的特性の変動係数の差を用いて算出し、判定基準に基づき所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを推定した。これに加え、被験者1人ずつに第一状態および第二状態それぞれでの皮膚感覚のアンケートを行い、当該アンケート結果を判定基準に考慮することが好ましい。ここで、皮膚感覚のアンケートとは、被験者にそれぞれの肌状態において、所定の力学的感覚(例えば、瞬きなど皮膚に力を負荷した状態でのつっぱり感)をどのように感じるか、例えば、つっぱり感を感じない場合は0、つっぱり感を感じる度合いが増えるにつれて10に近づく値を答えてもらうものである。
このように、判定基準に被験者の皮膚感覚のアンケート結果を考慮することにより、より有用な力学的負荷のパターンを推定することが可能となる。なお、被験者の皮膚感覚のアンケート結果を判定基準に含めることは、他の指標値または関係情報を算出する場合でも同様である。
【0062】
上述では、力学的特性は、図5に示した画像相関法によって算出した。これは、被験者の皮膚に接触することなく、また、被験者の皮膚に所定の剤以外の物質を付着させることなく皮膚の力学的特性を求めることができるため、平常時に所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを評価することができる。しかし、図5に示した画像相関法とは異なる方法でもよく、また、3D画像を取得し、当該3D画像に基づき力学的特性を求めてもよい。本方法は、力学的特性の算出方法には影響されず、所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを評価することができる。
【0063】
また、図5に示した画像相関法によって力学的特性を求める際に、取得した撮像データには、それぞれ被験者の皮膚表面に現れる肌理の幾何学的パターンが含まれるものとする。そして、第一特性算出工程および第二特性算出工程では、撮像データが表す幾何学的パターンを比較することで力学的特性を求めるようにしてもよい。これは、肌理はほぼ均一に肌表面に分布しており、この肌理を用いて力学的特性を求めることで、平常時に所定の剤が被験者の肌に与える力学的負荷のパターンを評価することができる。
なお、それぞれの撮像データは、同一領域を撮像したものではあるが、完全に同一である必要はなく、計測対象領域が含まれていればよい。
さらに、本実施形態では、被験者の肌表面が撮像できれば撮像する機器の種類は問わない。例えば、店頭などでスタッフにより、高速度カメラを用いて撮像してもよく、また、被験者自身で被験者のスマートフォンのカメラなどにより撮像し、撮像したデータを店頭スタッフなどに提供し、店頭スタッフが所定の剤をリコメンドしてもよい。さらに、被験者自身がスマートフォンのカメラで撮像し、指標値と、塗布前状態および第一状態の力学的特性を算出する機能を備えたアプリケーションを用いて被験者自身で好みの所定の剤を推定することも可能である。
【0064】
上述した本実施形態では、母集団とする複数の被験者はランダムに特定した被験者であった。しかし、例えば、所定範囲の年齢の被験者、セブメーター等で計測した皮脂分泌量が所定範囲の被験者など、所定の条件を満たした被験者で母集団を構成し、所定の剤が被験者に与える力学的負担のパターンを推定するようにしてもよい。このように所定の条件を満たした被験者で母集団を構成することで、肌状態のばらつきが少なくなるため、所定の剤が被験者に与える力学的負担のパターンを推定する際の精度を向上できる。
【0065】
上述したように、本実施形態では力学的特性として、最大ひずみ(ε1)または最小ひずみ(ε2)を算出し、力学的感覚との相関関係を算出して評価を行った。しかし、力学的特性としては、所定方向にした変位量(U)を用いてもよい。
【0066】
上述したように、本実施形態では、所定の剤を2回塗布した状態を第二状態とした。しかし、これに限らず、所定の剤を1回塗布した状態を第二状態としてもよい。
【符号の説明】
【0067】
100 剤の特性評価装置
110 特性算出手段
120 評価手段
130 入力手段
140 表示制御手段
150 表示手段
200 剤の特性評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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