(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-03
(45)【発行日】2024-09-11
(54)【発明の名称】ガラス容器に封入された凍結乾燥製剤
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240904BHJP
A61K 9/19 20060101ALI20240904BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240904BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240904BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240904BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240904BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61K9/19
A61K45/00
A61K38/02
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/34
(21)【出願番号】P 2020521234
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020014
(87)【国際公開番号】W WO2019225568
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2018096902
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 正悟
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 雄太
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520098(JP,A)
【文献】国際公開第03/102928(WO,A1)
【文献】特開平04-349143(JP,A)
【文献】特開平11-130470(JP,A)
【文献】特開平08-092102(JP,A)
【文献】特開2017-141307(JP,A)
【文献】特開昭63-146826(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021510(WO,A1)
【文献】特開2016-056176(JP,A)
【文献】特開平08-325037(JP,A)
【文献】特開平09-048639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
A61K 9/19
A61K 45/00
A61K 38/02
A61K 39/395
A61K 47/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス容器に封入された、治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥製剤であって、当該ガラス容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されており、それにより凍結乾燥後のガラス容器内面の曇りが防止又は低減されており、治療薬が
、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体および抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体のいずれか1つである、製剤。
【請求項2】
再溶解液中の前記治療薬の濃度が0.01~300mg/mLとなるように溶媒に再溶解されるための、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
界面活性剤が非イオン型界面活性剤である、請求項1又は2に記載の製剤。
【請求項4】
非イオン型界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体である、請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
再溶解液中の前記非イオン型界面活性剤の濃度が0.001~1%(w/v)となるように溶媒に再溶解されるための、請求項3又は4に記載の製剤。
【請求項6】
再溶解液が:
0.01~300mg/mLの治療薬;
0~100mMの緩衝剤;
0.001~1%(w/v)の界面活性剤;並びに
1~500mMの安定化剤及び/又は5~500mMの張性調節剤
を含むように再溶解される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項7】
凍結乾燥前溶液が:
0.01~300mg/mLの治療薬;
0~100mMの緩衝剤;
0.001~1%(w/v)の界面活性剤;並びに
1~500mMの安定化剤及び/又は5~500mMの張性調節剤
を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
ガラス容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製剤と、再溶解するための溶媒と、を含むキット。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の製剤と、溶媒に再溶解するための指示書及び/又は添付文書と、を含むキット。
【請求項11】
凍結乾燥製剤を製造する方法であって、
(a)容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器を提供すること;
(b)治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液を前記ガラス容器に導入すること;並びに
(c)凍結乾燥を行うこと
を含み、
凍結乾燥後のガラス容器内面の曇りが防止又は低減されており、
治療薬が
、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体および抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体のいずれか1つである、方法。
【請求項12】
凍結乾燥製剤のガラス容器の曇りを防止又は低減するための方法であって、
(a)容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器を提供すること;
(b)治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液を前記ガラス容器に導入すること;並びに
(c)凍結乾燥を行うこと
を含み、
治療薬が
、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体および抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体のいずれか1つである、方法。
【請求項13】
凍結乾燥製剤を製造する際の凍結乾燥におけるガラスの曇りを防止又は低減するための、容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器の使用であって、
凍結乾燥製剤が治療薬及び界面活性剤を含み、
治療薬が
、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体および抗IL-31レセプターAヒト化モノクローナル抗体のいずれか1つである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥製剤用ガラス容器の曇り(Fogging)を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製剤の中には、薬学的組成物を液体形態で使用するものが多く存在する。液体製剤は通常低温で貯蔵しなければならず、また、医薬品の中には液体形態で貯蔵中に劣化するものもある。これらの問題を克服する一つの可能性は、その薬学的組成物を凍結乾燥することである。薬学的組成物は乾燥形態で輸送及び貯蔵され、次いで使用前に再溶解される。
【0003】
特に活性薬剤がタンパク質である場合、凍結乾燥工程自体が、薬学的組成物の性質の劣化を招くおそれがある。薬学的組成物の活性低下を防ぐために、ある種の糖などの凍結保護剤に加えて、界面活性剤が一般に薬学的組成物に添加される。
【0004】
界面活性剤を含有する液体組成物が、充填後のバイアル内壁の液面より上の部分にまで付着する場合があり、そのまま凍結乾燥すると、液体組成物の成分がバイアル内壁の広範囲に付着して残留し、バイアルに「曇った」外観を与えるおそれがあることが知られている(特許文献1)。すなわちガラスバイアル内面の「曇った」領域は、凍結乾燥前薬液が充填レベルを超えて這い上がり、続いてバイアルが凍結乾燥工程を経たとき、薬学的組成物が乾燥し、バイアルの内面に白色残渣が残ったことを示す。そのような残渣が見かけ上の欠陥とみなされるだけでなく、それがバイアルの目視あるいは自動装置による品質検査に影響するおそれがある。また、バイアルの悪い外観が患者又は医師によって問題にされるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、界面活性剤を含有する薬学的組成物の凍結乾燥製剤を製造するにあたって、凍乾前薬液をバイアルなどのガラス容器に充填後、凍結乾燥により生じる容器内面の「曇り(Fogging)」を抑制する方法を検討した。その過程において、特表2012-520098号で開示されている、ガラス容器内面にシリコーンを塗布する方法では、凍結乾燥時のケーキ形成において、シュリンクの程度が強くなり、容器壁面とケーキの間に空隙ができて、ケーキが容易に動くという問題を見出した。ケーキが動きやすいと、輸送などの際の物理的ストレスでケーキ崩壊が起こり、品質の低下を招くおそれがある。例えば、ケーキ崩壊によってバイアル内壁に粉が付着し、視認性が悪化すると、品質検査に影響する可能性がある。またたとえそのようなケーキ崩壊が見かけ上の欠陥とみなされるだけであっても、バイアルの悪い外観が患者又は医師によって問題にされるおそれがあることから望ましくない。
したがって、本発明は、ガラス容器内面の曇りが防止され、さらには良好なケーキ形成がなされている凍結乾燥製剤、その製造方法などを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、凍結乾燥製剤のガラス容器の壁面(内面)をサルファ処理またはVIST処理することにより、凍結乾燥時の薬液のガラス容器壁面上りが抑制され、凍結乾燥後のガラス容器壁面の「曇り」が防止されること、また凍結乾燥後に良好なケーキ形成がなされることを見出し、さらに研究を重ねることにより、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下〔1〕~〔15〕を提供する。
〔1〕ガラス容器に封入された、治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥製剤であって、当該ガラス容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されている、製剤。
〔2〕治療薬がタンパク質である、〔1〕記載の製剤。
〔3〕タンパク質が抗体である、〔2〕記載の製剤。
〔4〕再溶解液中の前記治療薬の濃度が0.01~300mg/mLとなるように溶媒に再溶解されるための、〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の製剤。
〔5〕界面活性剤が非イオン型界面活性剤である、〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の製剤。
〔6〕非イオン型界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体である、〔5〕に記載の製剤。
〔7〕再溶解液中の前記非イオン型界面活性剤の濃度が0.001~1%(w/v)となるように溶媒に再溶解されるための、〔5〕又は〔6〕に記載の製剤。
〔8〕再溶解液が:
0.01~300mg/mLの治療薬;
0~100mMの緩衝剤;
0.001~1%(w/v)の界面活性剤;並びに
1~500mMの安定化剤及び/又は5~500mMの張性調節剤
を含むように再溶解される、〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の製剤。
〔9〕凍結乾燥前溶液が:
0.01~300mg/mLの治療薬;
0~100mMの緩衝剤;
0.001~1%(w/v)の界面活性剤;並びに
1~500mMの安定化剤及び/又は5~500mMの張性調節剤
を含む、〔1〕乃至〔7〕のいずれかに記載の製剤。
〔10〕ガラス容器が、バイアル又はプレフィルドシリンジである、〔1〕乃至〔9〕のいずれかに記載の製剤。
〔11〕〔1〕乃至〔10〕のいずれかに記載の製剤と、再溶解するための溶媒と、を含むキット。
〔12〕〔1〕乃至〔10〕のいずれかに記載の製剤と、溶媒に再溶解するための指示書及び/又は添付文書と、を含むキット。
〔13〕凍結乾燥製剤を製造する方法であって、
(a)容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器を提供すること;
(b)治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液を前記ガラス容器に導入すること;並びに
(c)凍結乾燥を行うこと
を含む方法。
〔14〕凍結乾燥製剤のガラス容器の曇りを防止又は低減するための方法であって、
(a)容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器を提供すること;
(b)治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液を前記ガラス容器に導入すること;並びに
(c)凍結乾燥を行うこと
を含む方法。
〔15〕凍結乾燥製剤を製造する際の凍結乾燥におけるガラスの曇りを防止又は低減するための、容器の内面がサルファ処理又はVIST処理されているガラス容器の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、凍結乾燥時の薬液のガラス容器壁面上りが抑制されることにより凍結乾燥後のガラス容器内面の曇りが防止されるとともに、ケーキ崩壊が防止されるため、高品質及び優れた外観を有する凍結乾燥製剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、表面をサルファ処理またはVIST処理したバイアルで、凍結乾燥後に曇りが生じないことを示す。
【
図2】
図2は、表面をサルファ処理またはVIST処理したバイアルではケーキのシュリンクが抑制されることを示す。
【
図3】
図3は、未処理バイアルおよびサルファ処理バイアルに各種薬液を封入した凍結乾燥品の曇り度スコアを示す。サンプル名は、[医薬品有効成分(API) ID]-[濃度]-[バイアルサイズ]を示す。
【
図4】
図4は、未処理10 mLバイアルおよび各種表面処理10 mLバイアルに抗体薬液を封入した凍結乾燥品の曇り度スコアを示す。サンプル名は、[医薬品有効成分(API) ID]-[濃度]-[バイアルサイズ]を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ガラス容器に封入された、治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥製剤であって、当該ガラス容器の内面がサルファ処理またはVIST処理されている、製剤を提供する。本発明の凍結乾燥製剤は、凍結乾燥時の薬液のガラス容器壁面上りの抑制によりガラス容器内面の曇りが抑制されており、かつ良好なケーキ形成がなされている。
【0012】
本発明において、ガラス容器内面の「曇り」とは、ガラス容器内壁の凍結乾燥製剤のケーキの接触地点最上部から上に薬液中の薬学的組成物の残渣が付着した状態をいう。残渣の付着は、通常、目視により確認することができる。ガラス容器内面の曇りは、ガラス容器に導入した液体形態の薬学的組成物が内壁を這い上がり、その状態で凍結乾燥に供されることにより生じると考えられる。曇りが抑制されるとは、サルファ処理前またはVIST処理前のガラス容器を用いた場合と比較して、曇り度スコア(Fogging score)が低下することをいう。曇り度スコアは、二つのパラメータ(評価項目)、すなわち曇り面積(Area)および曇り高さ(Height)、の評価スコアを乗じて算出される。
曇り度スコア = 曇り面積スコア(1) x 曇り高さスコア(2)
(1) 曇り面積(Area)は、ガラス容器内の凍乾ケーキ接触地点最上部から薬液中の薬学的組成物の残渣が付着し得る上端(バイアルであれば通常はゴム栓打栓部)までの壁面における、薬液中の薬学的組成物の残渣が付着している部分の面積を指す。凍乾ケーキ接触地点最上部から薬液中の薬学的組成物の残渣が付着し得る上端までの壁面の面積を100%として、曇り面積の割合(%)を算出し、以下の基準に従い評価スコアを記録する。
(ア) 曇り面積が0%の場合は、曇り面積の評価スコアを『0』とする。
(イ) 曇り面積が0%より大きく5%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『1』とする。
(ウ) 曇り面積が5%より大きく25%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『2』とする。
(エ) 曇り面積が25%より大きく50%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『3』とする。
(オ) 曇り面積が50%より大きく75%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『4』とする。
(カ) 曇り面積が75%より大きく100%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『5』とする。
(2) 曇り高さ(Height)は、ガラス容器内壁の凍乾ケーキ接触地点最上部から薬液中の薬学的組成物の残渣が付着した最高(最長)地点までの高さ(距離)を指す。凍乾ケーキ接触地点最上部から薬液中の薬学的組成物の残渣が付着し得る上端(バイアルであれば通常はゴム栓打栓部)までの高さを100%として、曇り高さの割合(%)を算出し、以下の基準に従い評価スコアを記録する。
(ア) 曇りが認められない場合は、曇り高さの評価スコアを『0』とする。
(イ) 曇り高さが0%より大きく5%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『1』とする。
(ウ) 曇り高さが5%より大きく25%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『2』とする。
(エ) 曇り高さが25%より大きく50%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『3』とする。
(オ) 曇り高さが50%より大きく75%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『4』とする。
(カ) 曇り高さが75%より大きく100%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『5』とする。
【0013】
また、曇り度スコアが『2未満』の場合に、曇り(Fogging)が認められないと判断することができる。一実施形態において、本発明の凍結乾燥製剤は、曇り度スコアが2未満、1.5未満、1未満、0.5未満、または0であり得る。
【0014】
本発明において、ガラス容器は、液体形態の薬学的組成物を充填して凍結乾燥することに適した材料および形状であれば特に限定されない。ガラス容器の材料としては、例えばホウケイ酸ガラス又はソーダ石灰ガラスが挙げられ、ホウケイ酸ガラスが好ましい。より具体的にはたとえば、日本薬局方(一般試験法 容器・包装材料試験法 注射剤用ガラス容器試験法(3)アルカリ溶出試験(i)第1法)、欧州薬局方(3.2.1 GLASS CONTAINERS FOR PHARMACEUTICAL USE)および米国薬局方(660. CONTAINERS)に則った材質が挙げられるがこれには限定されない。またガラス容器の形状としては、例えばバイアル、プレフィルドシリンジおよびカートリッジが挙げられる。プレフィルドシリンジは、凍結乾燥製剤の溶解を簡便にするため、ダブルチャンバープレフィルドシリンジであってもよい。カートリッジの形状は特に限定されないが、例えばシングルチャンバー、ダブルチャンバー形状など、さらには自己注射に適した形状であればより望ましい。
【0015】
本発明において、サルファ処理とは、通常、ガラスからのアルカリ成分の溶出抑制を目的とする化学処理であり、ガラス表面の溶離性成分を高温下でイオウ化合物、例えば硫酸アンモニウム水溶液と反応させ、水溶性成分として除去することにより行われる。例えば、硫酸アンモニウム水溶液を容器中に添加し、550~650℃で加熱することにより、ガラス容器の内面をサルファ処理することができる。
本発明におけるサルファ処理されたガラス容器は、市販されているものであってもよく、例えば、村瀬硝子株式会社、塩谷硝子株式会社などによって提供されるものが挙げられる。
【0016】
本発明において、VIST処理とは、大和特殊硝子株式会社により開発された、ガラス容器のアルカリ溶出低減処理であり、ガラス容器の内表面を、水、酸の水溶液、界面活性剤水溶液、または界面活性剤を添加した酸の水溶液を用いて洗浄することにより行われる。酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、フタル酸、クエン酸などの有機酸、および塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸を用いることができ、好ましくはクエン酸が用いられる。また界面活性剤は、特に限定されないが、例えば非イオン系界面活性剤を用いることができる。VIST処理は公知の方法により行うことができ、その場合WO 2009/116300を参考にすることができる。
本発明におけるVIST処理されたガラス容器は、市販されているものであってもよく、例えば、大和特殊硝子株式会社によって提供されるものが挙げられる。
【0017】
ガラス表面を改質する処理として、ガラス容器にジメチルシリコーンを塗布し、高温で焼き付ける、シリコーン処理が知られている。しかしながら、シリコーン処理されたガラス容器では、凍結乾燥製剤のケーキのシュリンクが起こりやすく、ケーキがガラス容器内で動き、輸送等でのケーキの破砕が起こりやすくなる。それに対してサルファ処理またはVIST処理されたガラス容器では、凍結乾燥製剤のケーキのシュリンクが起こりにくいため、このような問題が生じない。特にサルファ処理されたガラス容器は、ケーキのシュリンクの抑制効果が高い。したがって、本発明の好ましい態様において、内面がサルファ処理されているガラス容器が用いられ得る。また、ガラス容器へのサルファ処理は、シリコーン処理と比較して安価で行うことができるという利点もある。
ここでケーキとは、凍結乾燥前溶液がガラス容器に充填された後凍結乾燥された状態のものをいう。
ここでケーキのシュリンクが生じるとは、ケーキがガラス容器の内面に固定されていない状態となることをいう。このような状態は、ガラス容器を動かす(例えば、ガラス容器を反転させる)際にケーキがガラス容器内で動くか否かを目視することにより、容易に確認することができる。
【0018】
本発明においてガラス容器内の表面処理は内面全体に施されていても、一部に施されていてもよい。好ましい態様として、内面全体が表面処理されているガラス容器を用いることができる。本発明の一態様において、表面処理が凍結乾燥後のケーキの接触地点最上部より上の容器内面に施されているガラス容器を用いることができる。
【0019】
本発明の凍結乾燥製剤は、
(a)容器の内面がサルファ処理またはVIST処理されているガラス容器を提供すること;
(b)治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液を前記ガラス容器に導入すること;並びに
(c)凍結乾燥を行うこと
を含む方法により、液体形態の薬学的組成物(すなわち治療薬及び界面活性剤を含む凍結乾燥前溶液)を凍結乾燥することにより製造される。したがって、上記工程を含む凍結乾燥製剤を製造する方法、および上記工程を含む凍結乾燥製剤のガラス容器の曇りを防止又は低減するための方法も、本発明に包含される。このような本発明の方法によれば、凍結乾燥前溶液のガラス容器壁面上りが抑制されることにより、凍結乾燥後のガラス容器内面の曇りが防止又は低減されるとともに、凍結乾燥後に良好なケーキ形成がなされる。
【0020】
凍結乾燥は、製剤分野において一般的に用いられている条件で行うことができる。凍結乾燥は、通常は3段階、すなわち凍結、一次乾燥及び二次乾燥で行われる。
【0021】
凍結段階において、液体形態の薬学的組成物は、通常、共融点未満である温度まで冷却される。凍結乾燥前溶液は、通常、大気圧下で、-10℃~-80℃(例えば-20℃~-60℃)に冷却され、凍結される。
【0022】
一次乾燥段階では、溶媒を昇華させるために、圧力を低下させるとともに温度を上昇させる。温度は、-40℃~50℃(例えば-30℃~40℃)であり得る。圧力は、3Pa~80Pa(例えば5Pa~60Pa)であり得る。一次乾燥段階は、通常は、溶媒の少なくとも約90%が除去されるまで行われる。
【0023】
二次乾燥段階では、温度を上昇させることにより、より多くの溶媒を除去する。温度は、10℃~50℃(例えば20℃~40℃)であり得る。圧力は、3Pa~40Pa(例えば5Pa~30Pa)であり得る。二次乾燥段階が完了すると、凍結乾燥物の水分含量は、通常は最大約5%である。
【0024】
凍結段階の前に、温度を例えば2℃~10℃に低下させる予冷段階を含めてもよい。
【0025】
本発明の凍結乾燥製剤は、少なくとも一種類の治療薬を含む。凍結乾燥することのできる任意の治療薬を本発明に適用することができる。治療薬には、タンパク質、ペプチド、又は核酸も含まれる。
【0026】
凍結乾燥前溶液中の治療薬の濃度は、その治療薬の種類、その用途などに依存する。治療薬の濃度は、例えば、0.01~300mg/mLの範囲、0.01~250mg/mLの範囲、0.01~200mg/mLの範囲である。
【0027】
凍結乾燥時の容器の曇りの問題は、凍結乾燥前溶液が、界面活性作用の強い溶液である場合に生じやすい。あるいは、凍結乾燥時の容器の曇りの問題は、凍結乾燥前溶液が、高濃度でタンパク質を含む溶液などの場合に生じやすい。したがって、好ましい態様において、本発明は、タンパク質溶液製剤、特に皮下注用などの高濃度のタンパク質溶液製剤に適用される。例えば、タンパク質溶液製剤をサルファ処理またはVIST処理されたガラス容器に入れて凍結乾燥することにより、本発明の凍結乾燥製剤を得ることができる。
【0028】
本発明において、タンパク質溶液製剤は、有効成分として生理活性タンパク質を含む溶液製剤である。凍結乾燥前溶液がタンパク質溶液製剤である場合、当該タンパク質溶液製剤中のタンパク質の濃度は、例えば、0.01mg/mL以上、1mg/mL以上、10mg/mL以上、50mg/mL以上、80mg/mL以上、100mg/mL以上、120mg/mL以上、150mg/mL以上であり、300mg/mL未満、250mg/mL未満、200mg/mL未満である。一態様において、本発明における凍結乾燥前溶液中のタンパク質の濃度は、0.01mg/mL~300mg/mL、例えば1~300mg/mL、50~300mg/mLなどである。
【0029】
生理活性タンパク質としては抗体が好ましい。特に好ましい態様において、本発明は、抗体を含有する抗体含有溶液製剤に適用される。したがって、本発明の好ましい態様において、治療薬はタンパク質であり、より好ましくは抗体である。また、好ましい態様において、本発明における凍結乾燥前溶液はタンパク質溶液製剤又は抗体含有溶液製剤であり、より好ましくは高濃度のタンパク質を含有するタンパク質溶液製剤又は抗体を含有する抗体含有溶液製剤である。
【0030】
本発明において、抗体含有溶液製剤は、抗体濃度が50mg/mL以上であるものをいい、80mg/mL以上であるものが好ましく、さらには100mg/mL以上であるものが好ましく、120mg/mL以上であるものがさらに好ましく、150mg/mLがさらに好ましい。
【0031】
また、抗体含有溶液製剤中の抗体濃度の上限は、製造の観点から、一般的に300mg/mLであり、好ましくは250mg/mLであり、さらに好ましくは200mg/mLである。よって、抗体溶液の抗体濃度は50~300mg/mLが好ましく、さらに100~300mg/mLが好ましく、さらに120~250mg/mLが好ましく、特に150~200mg/mLが好ましい。
【0032】
本発明に使用される抗体は、所望の抗原と結合する限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。
【0033】
本発明で使用されるモノクローナル抗体としては、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、キメラ抗体、ヒト化抗体、bispecific抗体など人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。さらに、血中滞留性や体内動態の改善を目的とした抗体分子の物性の改変(具体的には、等電点(pI)改変、Fc受容体の親和性改変等)を行うために抗体の可変領域および/または定常領域等を人為的に改変した遺伝子組み換え型抗体も含まれる。
【0034】
また、本発明で使用される抗体の免疫グロブリンクラスは特に限定されるものではなく、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4などのIgG、IgA、IgD、IgE、IgMなどいずれのクラスでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。
【0035】
さらに本発明で使用される抗体には、定常領域と可変領域を有する抗体(wholeの抗体)だけでなく、Fv、Fab、F(ab)2などの抗体断片や、抗体の可変領域をペプチドリンカー等のリンカーで結合させた1価または2価以上の一本鎖Fv(scFv、sc(Fv)2)やscFvダイマーなどのDiabody等などの低分子化抗体なども含まれるが、wholeの抗体が好ましい。
【0036】
上述した本発明で使用される抗体は、当業者に周知の方法により作製することができる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。
【0037】
また、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carl, A. K. Borrebaeck, James, W. Larrick, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAを得たら、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0038】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。
【0039】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementarity determining region)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウス抗体のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400、WO 96/02576 参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
【0040】
抗体の活性、物性、薬物動態、安全性等を改善するために抗体のアミノ酸を置換する技術としては、例えば以下に述べる技術も知られており、本発明で使用される抗体には、このようなアミノ酸の置換(欠損や付加も含む)を施された抗体も含まれる。
【0041】
IgG抗体の可変領域にアミノ酸置換を施す技術は、ヒト化(Tsurushita N, Hinton PR, Kumar S., Design of humanized antibodies: from anti-Tac to Zenapax., Methods. 2005 May;36(1):69-83.)をはじめとして、結合活性を増強させるための相補性決定領域(CDR)のアミノ酸置換によるaffinity maturation(Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R., A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8466-71.)、フレームワーク(FR)のアミノ酸置換による物理化学的安定性の向上(Ewert S, Honegger A, Pluckthun A., Stability improvement of antibodies for extracellular and intracellular applications: CDR grafting to stable frameworks and structure-based framework engineering., Methods. 2004 Oct;34(2):184-99. Review)が報告されている。また、IgG抗体のFc領域のアミノ酸置換を施す技術として、抗体依存性細胞障害活性(ADCC活性)や補体依存性細胞障害活性(CDC活性)を増強させる技術が知られている(Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.)。さらに、このようなエフェクター機能を増強させるだけではなく、抗体の血中半減期を向上させるFcのアミノ酸置換の技術が報告されている(Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life., J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56.、Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40.)。さらには抗体の物性改善を目的とした定常領域の種々のアミノ酸置換技術も知られている(WO 09/41613)。
【0042】
また、ヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878 参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO 93/12227, WO 92/03918、WO 94/02602, WO 94/25585、WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を含む適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。本発明で使用される抗体には、このようなヒト抗体も含まれる。
【0043】
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO, COS、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney)、HeLa、Vero、(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3) 昆虫細胞、例えば、sf9, sf21, Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。
【0044】
さらに、本発明で使用される抗体には、抗体修飾物が含まれる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)や細胞障害性薬剤等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる(Farmaco. 1999 Aug 30;54(8):497-516.、Cancer J. 2008 May-Jun;14(3):154-69.)。本発明で使用される抗体にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0045】
本発明で使用される抗体としては、抗組織因子抗体、抗IL-6レセプター抗体、抗IL-6抗体、抗グリピカン-3抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗GPIIb/IIIa抗体、抗TNF抗体、抗CD25抗体、抗EGFR抗体、抗Her2/neu抗体、抗RSV抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗IgE抗体、抗CD11a抗体、抗VEGF抗体、抗VLA4抗体、抗HM1.24抗体、抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)、抗ガングリオシドGM3抗体、抗TPO受容体アゴニスト抗体、凝固第VIII因子代替抗体、抗IL31レセプター抗体、抗HLA抗体、抗AXL抗体、抗CXCR4抗体、抗NR10抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specific抗体などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明で使用する好ましい再構成ヒト化抗体としては、ヒト化抗インターロイキン6(IL-6)レセプター抗体(トシリズマブ、hPM-1あるいはMRA、WO92/19759参照)、ヒト化抗HM1.24モノクローナル抗体(WO98/14580参照)、ヒト化抗副甲状腺ホルモン関連ペプチド抗体(抗PTHrP抗体)(WO98/13388を参照)、ヒト化抗組織因子抗体(WO99/51743参照)、抗グリピカン-3 ヒト化IgG1κ抗体(codrituzumab、GC33、WO2006/006693参照)、抗NR10ヒト化抗体(WO2009/072604参照)、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体(ACE910、WO2012/067176を参照)、抗IL-31レセプターA ヒト化モノクローナル抗体nemolizumab(CIM331)抗体などが挙げられる。本発明で使用するヒト化抗体として特に好ましいのは、ヒト化抗IL-6レセプター抗体、抗NR10ヒト化抗体、ファクターIXとファクターXとのBi-specificヒト化抗体、及び抗IL-31レセプターA ヒト化モノクローナル抗体nemolizumab(CIM331)抗体である。
【0047】
ヒトIgM抗体としては、抗ガングリオシドGM3組み換え型ヒトIgM抗体(WO05/05636参照)などが好ましい。
低分子化抗体としては、抗TPO受容体アゴニストDiabody(WO02/33072参照)、抗CD47アゴニストDiabody(WO01/66737参照)などが好ましい。
【0048】
本発明において等電点の低い抗体(低pI抗体)とは、特に天然では存在し難い、低い等電点を有する抗体をいう。このような抗体の等電点としては例えば3.0~8.0、好ましくは5.0~7.5、さらに好ましくは5.0~7.0、特に好ましくは5.0~6.5が挙げられるがこれらに限定されない。なお、天然の(または通常の)抗体は、通常7.5~9.5の範囲の等電点を有すると考えられる。
【0049】
さらに本発明で使用される抗体としては、抗体の表面に露出しているアミノ酸残基を改変することにより抗体のpIを低下させた、pI改変抗体が好ましい。このようなpI改変抗体とは、改変前の抗体のpIよりも1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、pIを低下させた抗体をいう。このようなpI改変抗体としては、例えば、WO2009/041621に記載された抗IL-6レセプター抗体であるSA237(MAb1、H鎖/配列番号:1、L鎖/配列番号:2)、抗NR10ヒト化抗体であり、WO2009/072604の実施例12に記載の方法で作製した、完全ヒト化NS22抗体などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0050】
抗体の表面に露出しているアミノ酸残基としては、H鎖可変領域の場合、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるH1, H3, H5, H8, H10, H12, H13, H15, H16, H19, H23, H25, H26, H31, H39, H42, H43, H44, H46, H61, H62, H64, H65, H68, H71, H72, H73, H75, H76, H81, H82b, H83, H85, H86, H105, H108, H110, H112の中から選択されるアミノ酸残基が挙げられるがこれらに限定されない。またL鎖可変領域の場合、Kabatナンバリングに基づくアミノ酸残基であるL1, L3, L7, L8, L9, L11, L12, L16, L17, L18, L20, L22, L24, L27, L38, L39, L41, L42, L43, L45, L46, L49, L53, L54, L55, L57, L60, L63, L65, L66, L68, L69, L70, L74, L76, L77, L79, L80, L81, L85, L100, L103, L105, L106, L107の中から選択されるアミノ酸残基が挙げられるがこれらに限定されない。
【0051】
本発明において「改変」とは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等をいうが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを指す。
【0052】
アミノ酸の中には、電荷を帯びたアミノ酸が存在することが知られている。一般的に、正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。これら以外のアミノ酸は電荷を有さないアミノ酸として知られている。
【0053】
本発明において改変後のアミノ酸残基としては、好ましくは、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から適宜選択されるが、特にこれらのアミノ酸に制限されない。
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
また、改変前のアミノ酸残基が既に電荷を有する場合、電荷を有さないアミノ酸残基となるように改変することも好ましい態様の一つである。
【0054】
すなわち、本発明における改変としては、(1)電荷を有するアミノ酸から電荷を有さないアミノ酸への置換、(2)電荷を有するアミノ酸から当該アミノ酸とは反対の電荷を有するアミノ酸への置換、(3)電荷を有さないアミノ酸から電荷を有するアミノ酸への置換が挙げられる。
【0055】
等電点の値は、当業者公知の等電点電気泳動により測定することが可能である。また、理論等電点の値は、遺伝子およびアミノ酸配列解析ソフトウェア(Genetyx等)を用いて計算することができる。
【0056】
アミノ酸残基の電荷が改変された抗体は、抗体をコードする核酸を改変し、当該核酸を宿主細胞で培養し、宿主細胞培養物から抗体を精製することによって取得することができる。本発明において「核酸を改変する」とは、改変によって導入されるアミノ酸残基に対応するコドンとなるよう核酸配列を改変することをいう。より具体的には、改変前のアミノ酸残基のコドンが改変によって導入されるアミノ酸残基のコドンになるように、核酸の塩基配列を改変することを言う。即ち、改変されるアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜行うことが可能である。
【0057】
本発明において使用されるタンパク質は、抗体以外の、医薬品として使用され得る生理活性タンパク質であってもよい。そのような生理活性タンパク質としては、例えば顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン等の造血因子、インターフェロン、IL-1やIL-6等のサイトカイン、モノクローナル抗体、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固第VIII因子、レプチン、インシュリン、幹細胞成長因子(SCF)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
生理活性タンパク質とは、哺乳動物、特にヒトの生理活性タンパク質と実質的に同じ生物学的活性を有するものであり、天然由来のもの、および遺伝子組換え法により得られたものを含むが、好ましいのは遺伝子組換え法により得られたものである。遺伝子組換え法による生理活性タンパク質は、大腸菌などの細菌類;イースト菌;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、C127細胞、COS細胞などの動物由来の培養細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。遺伝子組換え法によって得られるタンパク質には天然タンパク質とアミノ酸配列が同じであるもの、あるいは該アミノ酸配列の1又は複数を欠失、置換、付加したもので前記生物学的活性を有するものを含む。さらには、生理活性タンパク質はPEG等により化学修飾されたものも含む。
【0059】
生理活性タンパク質としては、例えば糖鎖を有するタンパク質が挙げられる。糖鎖の由来としては、特に制限はないが、哺乳動物細胞に付加される糖鎖が好ましい。哺乳動物細胞には、例えば、CHO細胞、BHK細胞、COS細胞、ヒト由来の細胞等があるが、この中でも、CHO細胞が最も好ましい。
【0060】
例えば、生理活性タンパク質がG-CSFである場合には、G-CSFは高純度に精製されたG-CSFであれば全て使用できる。本発明におけるG-CSFは、いかなる方法で製造されたものでもよく、ヒト腫瘍細胞の細胞株を培養し、これから種々の方法で抽出し分離精製したもの、あるいは遺伝子工学的手法により大腸菌などの細菌類;イースト菌;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、C127細胞、COS細胞などの動物由来の培養細胞などに産生せしめ、種々の方法で抽出し分離精製したものが用いられる。好ましくは大腸菌、イースト菌又はCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。最も好ましくはCHO細胞によって遺伝子組換え法を用いて生産されたものである。さらには、PEG等により化学修飾されたG-CSFも含む(国際特許出願公開番号WO90/12874参照)。
【0061】
タンパク質含有溶液製剤において使用される緩衝液は、溶液のpHを維持するための物質である緩衝剤を使用して調製される。抗体含有溶液製剤においては、溶液のpHが4~8であることが好ましく、5.0~7.5であることがより好ましく、5.5~7.2であることがさらに好ましく、6.0~6.5であることがなおさらに好ましい。本発明で使用可能な緩衝剤は、この範囲のpHを調整でき、且つ薬学的に許容可能なものである。このような緩衝剤は溶液製剤の分野で当業者に公知であり、例えば、リン酸塩(ナトリウムまたはカリウム)、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩;クエン酸塩(ナトリウムまたはカリウム)、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムなどの有機酸塩;または、リン酸、炭酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、グルコン酸などの酸類を使用できる。さらに、Tris類及びMES、MOPS、HEPESのようなグッド緩衝剤、ヒスチジン(例えばヒスチジン塩酸塩)、グリシンなどを使用してもよい。
【0062】
抗体含有溶液製剤においては、緩衝液がヒスチジン緩衝液またはグリシン緩衝液であることが好ましく、特にヒスチジン緩衝液が好ましい。緩衝液の濃度は、一般には1~500mMであり、好ましくは5~100mMであり、さらに好ましくは10~20mMである。ヒスチジン緩衝液を使用する場合、緩衝液は好ましくは5~25mMのヒスチジン、さらに好ましくは10~20mMのヒスチジンを含有する。
【0063】
抗体含有溶液製剤は、有効成分である抗体にとって適切な安定化剤を添加することによって、安定化されることが好ましい。「安定な」抗体含有溶液製剤は、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも12ヶ月、好ましくは2年間、さらに好ましくは3年間;または室温(22~28℃)で少なくとも3ヶ月、好ましくは6ヶ月、さらに好ましくは1年間、有意な変化が観察されない。例えば、5℃で2年間保存後の二量体量及び分解物量の合計が5.0%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下、あるいは25℃で6ヶ月保存後の二量体量及び分解物量の合計が5.0%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。
【0064】
本発明の凍結乾燥製剤は、少なくとも一種類の界面活性剤を含む。
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6~18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数10~18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2~4でアルキル基の炭素原子数が10~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8~18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数12~18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の凍結乾燥製剤は、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0065】
好ましい界面活性剤は非イオン系界面活性剤であり、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体であり、特に好ましいのはポリソルベート20、21、40、60、65、80、81、85並びにプルロニック型界面活性剤であり、最も好ましいのはポリソルベート20、80及びプルロニックF-68(ポロキサマー188)である。
【0066】
凍結乾燥前溶液に添加する界面活性剤の添加量は、一般には0.0001~10%(w/v)である。一態様において、本発明における凍結乾燥前溶液中の非イオン型界面活性剤の濃度は、0.001~1%(w/v)、例えば0.001~5%(w/v)、0.005~3%(w/v)である。
【0067】
本発明の凍結乾燥製剤は、必要に応じて、薬学的に許容されうる成分を適宜含むことができる。例えば、懸濁剤、溶解補助剤、保存剤、吸着防止剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0068】
懸濁剤の例としては、メチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができる。
【0069】
溶液補助剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができる。
【0070】
等張化剤としては例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等を挙げることができる。
【0071】
保存剤としては例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができる。
【0072】
吸着防止剤としては例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
【0073】
含硫還元剤としては例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するもの等が挙げられる。
【0074】
酸化防止剤としては例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0075】
また本発明の凍結乾燥製剤は、必要に応じて、安定化剤及び/又は張性調節剤を適宜含むことができる。
【0076】
本明細書中、安定化剤は、製造、貯蔵及び適用の間に化学及び/又は物理分解から治療薬及び/又は製剤を保護する、薬学的に許容されうる添加剤を意味する。医薬品の化学及び物理分解経路は、Cleland et al. (1993), Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 10(4):307-77、Wang (1999) Int. J. Pharm. 185(2):129-88、Wang (2000) Int. J. Pharm. 203(1-2):1-60、及びChi et al. (2003) Pharm. Res. 20(9):1325-36によって総説されている。安定化剤としては例えば、糖、アミノ酸、ポリオール、シクロデキストリン(例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、スルホブチルエチル-β-シクロデキストリン、及びβ-シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール(例えばPEG3000、PEG3350、PEG4000、及びPEG6000)、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、及びウシ血清アルブミン(BSA))、塩(例えば塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、及び塩化カルシウム)、及びキレート剤(例えばEDTA)が挙げられる。安定化剤は、凍結乾燥前溶液又は再溶解液中に、約1~約500mMの量で、好ましくは約10~約300mMの量で、さらに好ましくは約100~約300mMの量で存在しうる。
【0077】
本明細書中、張性調節剤は、凍結乾燥前溶液又は再溶解液の張性(浸透圧性)を調節するために使用される、薬学的に許容されうる添加剤を意味する。張性調節剤としては例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、及びアミノ酸又は糖の群からの任意の成分が挙げられる。張性調節剤は、凍結乾燥前溶液又は再溶解液中に、約5~約500mMの量で、好ましくは約50~約300mMの量で存在しうる。
【0078】
好ましい態様において、本発明における凍結乾燥前溶液は:
約0.01~約200mg/mLの治療薬;
0~約100mMの緩衝剤;
約0.001~約1%(w/v)の界面活性剤;並びに
約1~約500mMの安定化剤及び/又は約5~約500mMの張性調節剤
を含む。
【0079】
好ましい態様において、治療薬がタンパク質である場合、本発明における凍結乾燥前溶液は:
約50~約300mg/mLのタンパク質;
0~約100mMの緩衝剤;
約0.001~約1%(w/v)の界面活性剤;並びに
約1~約500mMの安定化剤及び/又は約5~約500mMの張性調節剤
を含む。
【0080】
本発明の凍結乾燥製剤は、使用前に注射用水などの薬学的に許容可能な溶媒に溶解され、再溶解液として対象に投与される。再溶解液の組成は、凍結乾燥前溶液の組成と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0081】
再溶解液中の治療薬の濃度は、その治療薬の種類、その用途などに依存する。治療薬の濃度は、例えば、0.01~300mg/mLの範囲、0.01~250mg/mLの範囲、0.01~200mg/mLの範囲である。
【0082】
一態様において、本発明における治療薬がタンパク質である場合、本発明の凍結乾燥製剤は、再溶解液中のタンパク質の濃度が、例えば、0.01mg以上、1mg/mL以上、10mg/mL以上、50mg/mL以上、80mg/mL以上、100mg/mL以上、120mg/mL以上、150mg/mL以上、300mg/mL未満、250mg/mL未満、200mg/mL未満となるように、溶媒に再溶解される。一態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、再溶解液中のタンパク質の濃度が、0.01mg/mL~300mg/mL、例えば1~300mg/mL、50~300mg/mLなどとなるように、溶媒に再溶解される。
【0083】
一態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、再溶解液中の非イオン型界面活性剤の濃度が、0.001~1%(w/v)、例えば0.001~5%(w/v)、0.005~3%(w/v)となるように、溶媒に再懸濁される。
【0084】
好ましい態様において、本発明の凍結乾燥製剤は、再溶解液が:
約0.01~約200mg/mLの治療薬;
0~約100mMの緩衝剤;
約0.001~約1%(w/v)の界面活性剤;並びに
約1~約500mMの安定化剤及び/又は約5~約500mMの張性調節剤
を含むように再溶解される。
【0085】
好ましい態様において、治療薬がタンパク質である場合、本発明の凍結乾燥製剤は、再溶解液が:
約50~約300mg/mLのタンパク質;
0~約100mMの緩衝剤;
約0.001~約1%(w/v)の界面活性剤;並びに
約1~約500mMの安定化剤及び/又は約5~約500mMの張性調節剤
を含むように再溶解される。
【0086】
本発明の凍結乾燥製剤から調製された再溶解液の浸透圧比は、約0.5~4、より好ましくは、約0.7~2、さらに好ましくは、約1である。
【0087】
本発明の凍結乾燥製剤は、薬学的に許容可能な溶媒に溶解されたのち、皮下注、静注、筋注などで投与される。皮下注射用製剤では、1回あたりの投与量が大量となる一方で(例えば治療薬が抗体である場合、80~200mg程度)、注射液量の制限がある。本発明の凍結乾燥製剤は、高濃度の治療薬を含有する再溶解液を調製することができることから、皮下注射用として特に有用である。
【0088】
本発明においてバイアルを使用する場合、バイアルの容量は2mL~100mL、例えば3~20mLである。
一態様において、凍結乾燥前溶液の量は、バイアルの容量の10~90%、例えば20~80%である。例えばバイアルの容量が10mLである場合、凍結乾燥前溶液の量は、1mL~9mL、例えば2~8mLである。
一態様において、再溶解後の薬液の量は、バイアルの容量の10~90%、例えば20~80%である。例えばバイアルの容量が10mLである場合、再溶解後の薬液の量は、1mL~9mL、例えば2~8mLである。
【0089】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0090】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
実施例1 サルファ処理またはVIST処理によるガラスバイアルの曇り抑制効果
タンパク質含有薬液をサルファ処理済、VIST処理済、シリコーン処理済又は未処理のガラスバイアルに入れて凍結乾燥した際の、ガラス容器内面の曇りの程度を評価した。
【0092】
バイアルは、バイアル10mL白バルク(材質:ホウケイ酸ガラス;いずれの処理もなし;村瀬硝子株式会社製)、バイアル10mL白サルファーバルク(材質:ホウケイ酸ガラス;サルファ処理済;村瀬硝子株式会社製)、10mL VIST バイアル(材質:ホウケイ酸ガラス;VIST処理済;大和特殊硝子株式会社製)、および10mL TopLyo(登録商標)バイアル(材質:ホウケイ酸ガラス;シリコーン処理済;SCHOTT AG社製)を用いた。バイアルは、250℃で120分間、乾熱滅菌してから用いた。
【0093】
タンパク質含有薬液として、抗体(CIM331)30mg/mL、Tris緩衝液 6 mmol/L、スクロース 75 mmol/L、アルギニン 45 mmol/L、ポロクサマー188 0.15 mg/mLの溶液を調製した。CIM331は、WO 2010/064697 A1およびWO 2016/167263 A1に記載されている抗ヒトIL-31RA抗体であり、前記特許文献の記載に従って、当業者に公知の方法で作製した。
【0094】
タンパク質含有薬液5mLをバイアルに入れ、共和真空社製トリオマスターを用いて、-45℃で凍結後、コラプス温度付近の温度および真空条件下で一次乾燥、30℃および真空条件下で二次乾燥を実施した。
【0095】
凍結乾燥後、曇り度スコア(Fogging score)によりガラス容器内面の曇りの程度を評価した。曇り度スコアは、二つのパラメータ(評価項目)、すなわち曇り面積(Area)および曇り高さ(Height)、の評価スコアを乗じて算出した(下記表1参照)。
曇り度スコア = 曇り面積スコア(1) x 曇り高さスコア(2)
(1) 曇り面積(Area)は、凍乾ケーキ接触地点最上部からゴム栓打栓部までのガラス壁面における、薬液中の薬学的組成物の残渣が付着した部分の面積を指す。凍乾ケーキ接触地点最上部からゴム栓打栓部までのガラス壁面の面積を100%として、曇り面積の割合(%)を算出し、以下の基準に従い評価スコアを記録した。
(ア) 曇り面積が0%の場合は、曇り面積の評価スコアを『0』とする。
(イ) 曇り面積が0%より大きく5%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『1』とする。
(ウ) 曇り面積が5%より大きく25%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『2』とする。
(エ) 曇り面積が25%より大きく50%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『3』とする。
(オ) 曇り面積が50%より大きく75%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『4』とする。
(カ) 曇り面積が75%より大きく100%以下の場合は、曇り面積の評価スコアを『5』とする。
(2) 曇り高さ(Height)は、凍乾ケーキ接触地点最上部から薬液中の薬学的組成物の残渣が付着した最高(最長)地点までの高さ(距離)を指す。凍乾ケーキ接触地点最上部からゴム栓打栓部までの高さを100%として、曇り高さの割合(%)を算出し、以下の基準に従い評価スコアを記録した。
(ア) 曇りが認められない場合は、曇り高さの評価スコアを『0』とする。
(イ) 曇り高さが0%より大きく5%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『1』とする。
(ウ) 曇り高さが5%より大きく25%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『2』とする。
(エ) 曇り高さが25%より大きく50%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『3』とする。
(オ) 曇り高さが50%より大きく75%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『4』とする。
(カ) 曇り高さが75%より大きく100%以下の場合は、曇り高さの評価スコアを『5』とする。
【0096】
上記曇り度スコア(Fogging score)が『2未満』の場合に、曇り(Fogging)が認められないと判断した。
【0097】
【0098】
結果を
図1に示す。サルファ処理済バイアル、VIST処理済バイアルおよびシリコーン処理済バイアルでは、曇り度スコアが0であり、曇りは認められなかった。一方、未処理のバイアルでは、曇り度スコアが16であり、曇りが認められた。これらの処理により、ガラスバイアル表面の粗さが緩和されることで、濡れ性が低下し、曇りが生じにくくなった可能性が考えられる。
【0099】
実施例2 サルファ処理済バイアルおよびVIST処理済バイアルではケーキのシュリンクが起こらない
各種表面処理を施したバイアルについて、実施例1と同様にして凍結乾燥製剤を調製し、ケーキの状態を評価した。
【0100】
結果を
図2に示す。シリコーン処理バイアルでは、凍結乾燥時にケーキのシュリンクが起こり、容器壁面とケーキの間に空隙ができており、ケーキがバイアル内で動きやすいことが判明した。一方、サルファ処理済バイアルおよびVIST処理済バイアルでは、ケーキのシュリンクは起こらず、良好なケーキ形成がなされていた(データは示さない)。ケーキが動きやすいと、輸送などの際の物理的ストレスでケーキ崩壊が起こり、品質の低下を招くおそれがある。したがって、サルファ処理済バイアルおよびVIST処理済バイアルは、凍結乾燥時に曇りが抑制されることに加えて、良好なケーキ形成がなされる点で、シリコーン処理バイアルよりも優れていることが示された。
【0101】
実施例3 各種表面処理バイアルに各種薬液を封入した凍結乾燥品の曇り度スコアおよびケーキ移動割合の評価
<方法>
試験サンプル:表2に記載のタンパク質溶液を調製した。
【0102】
【0103】
バイアル:実施例1と同様に、表3に示すバイアルを使用した。ただし、未処理のバイアル(Normal)およびサルファ処理済バイアル(Sulfur)については、3 mLのバイアルも使用した。バイアルは、250℃で120分間、乾熱滅菌してから用いた。
【0104】
【0105】
評価方法:10 mLバイアルには約3 mLの試験サンプルを、3 mLバイアルには約1 mLの試験サンプルを入れた。-45℃で凍結したのち、Triomaster II-A04(共和真空社製)を用いてコラプス温度付近の温度および真空条件下で一次乾燥し、30℃および真空条件下で二次乾燥を実施した。その後、ガラスバイアルの曇り抑制効果を実施例1と同様に評価した。また、バイアルを倒置させた際のケーキの移動を観察することによりケーキ移動割合を算出し、ケーキ縮み(バイアルからの脱離)を評価した。
ケーキ移動割合(%)= ケーキ移動したサンプル数 ÷ 観察したサンプル数 x 100
【0106】
<結果>
ガラスバイアルの曇り抑制効果
結果を、表4ならびに
図3および4に示す。
【0107】
【0108】
表4および
図3に示すように、サルファ処理済バイアルでは、いずれの試験サンプルについても曇り度スコアは2未満であり、曇りは認められなかった。一方、未処理のバイアルでは、いずれの試験サンプルについても曇り度スコアは2以上であり、曇りが認められた。
【0109】
また表4および
図4に示すように、VIST処理済バイアルおよびシリコーン処理済バイアルでも、各種抗体溶液を封入した凍結乾燥品の曇り度スコアは2未満であり、曇りは認められなかった。
【0110】
ケーキ縮み(表4および5)
結果を表4および5に示す。
【0111】
【0112】
シリコーン処理済バイアルでは、いずれの試験サンプルについても全てのバイアルでケーキの移動が起こった(ケーキ移動割合100%)。一方、VIST処理済バイアルは、シリコーン処理済バイアルと比較して、いずれの試験サンプルでもより低いケーキ移動割合を示し、サルファ処理済バイアルは、さらに低いケーキ移動割合を示した。したがって、サルファ処理済バイアルおよびVIST処理済バイアルは、ケーキ縮みがシリコーン処理バイアルよりも少ないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、凍結乾燥製剤においてガラス容器内面の曇り及びケーキ崩壊が防止されるため、優れた外観及び品質を有する製品の提供が可能となる。また、ガラス容器内面の曇りが防止されることにより、自動検査器による誤検知が減り、凍結乾燥製剤の品質管理プロセスが効率化される。